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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04H
管理番号 1357695
異議申立番号 異議2019-700729  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-12 
確定日 2019-12-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6491557号発明「機械式駐車設備の安全確認装置及び安全確認方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6491557号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6491557号(以下「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成27年7月13日に出願され、平成31年3月8日にその特許権の設定登録がされ、平成31年3月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和1年9月12日に特許異議申立人川俣くみ子(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。


第2 本件発明
本件特許の請求項1?9の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)。

「【請求項1】
利用者が入出庫部において車両の入出庫を行う機械式駐車設備の安全確認装置であって、
前記機械式駐車設備の利用者を登録者として記憶する制御装置と、
前記機械式駐車設備の入出庫扉を開放する前に認証する第1認証装置と、
前記入出庫部の安全確認を行った後に認証する第2認証装置と、
前記入出庫扉を閉鎖する前に照合データを入力する照合装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記入出庫扉の開放前に前記第1認証装置で前記利用者が入力する第1認証データを前記登録者の登録データと照合し、該第1認証データが前記登録データに含まれる場合には前記入出庫扉を開放するとともに、機械式駐車設備の運転操作をロックし、
前記安全確認後に前記第2認証装置で入力する第2認証データを前記登録者の登録データと照合し、該第2認証データが前記登録データに含まれる場合には、前記入出庫扉の閉鎖前に前記照合装置で入力する照合データと照合し、照合結果が一致する場合には機械式駐車設備の運転操作のロックを解除するように構成されている、ことを特徴とする機械式駐車設備の安全確認装置。
【請求項2】
前記第2認証装置は、該第2認証装置による第2認証データの入力後に操作する認証確認部を有している、請求項1に記載の機械式駐車設備の安全確認装置。
【請求項3】
前記第2認証装置は、前記入出庫部を見渡せる位置に配置されている、請求項1又は2に記載の機械式駐車設備の安全確認装置。
【請求項4】
前記第2認証装置は、前記入出庫部で入出庫する車両の少なくとも左位置と右位置とにそれぞれ配置されている、請求項1?3のいずれか1項に記載の機械式駐車設備の安全確認装置。
【請求項5】
前記第2認証装置は、前記入出庫部に配置され、
前記制御装置は、前記利用者が前記第2認証装置による第2認証データの入力後、該第2認証装置の位置から前記入出庫扉の位置の物体検知センサに向けて順に検知して利用者の退出を検知することで、前記照合装置による照合データの入力が可能となるように構成されている、請求項1?4のいずれか1項に記載の機械式駐車設備の安全確認装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記利用者による前記第2認証装置での第2認証データの入力後、前記入出庫扉の位置の物体検知センサが検知した後、前記入出庫部の物体検知センサが検知することで、侵入と判定して前記第2認証装置を第2認証データの入力前の状態にするように構成されている、請求項1?5のいずれか1項に記載の機械式駐車設備の安全確認装置。
【請求項7】
前記第2認証装置は、前記入出庫部に配置され、
前記制御装置は、前記第2認証装置で第2認証データの入力後、所定時間を経過するまで前記入出庫部の物体検知センサを無効とするように構成されている、請求項1?5のいずれか1項に記載の機械式駐車設備の安全確認装置。
【請求項8】
前記第2認証装置は、該第2認証装置で認証する前の状態を有効状態、認証後の状態を無効状態としたとき、該第2認証装置の有効状態又は無効状態を示す明示機能を有している、請求項1?7のいずれか1項に記載の機械式駐車設備の安全確認装置。
【請求項9】
機械式駐車設備の運転操作を利用者が行い、入出庫部において車両の入出庫を行う機械式駐車設備の安全確認方法であって、
前記機械式駐車設備の利用者を登録者として制御装置に記憶し、
前記利用者が前記機械式駐車設備の入出庫扉を開放する前に前記入出庫部の外で入力する第1認証データを前記登録者の登録データと照合し、該第1認証データが前記登録データに含まれる場合には前記入出庫扉を開放するとともに、機械式駐車設備の運転操作をロックし、
前記入出庫部の安全確認後に第2認証装置で入力する第2認証データを前記登録者の登録データと照合し、該第2認証データが前記登録データに含まれる場合には、前記入出庫扉の閉鎖前に前記入出庫部の外で入力する照合データと照合し、照合結果が一致する場合には機械式駐車設備の運転操作のロックを解除するように構成されている、ことを特徴とする機械式駐車設備の安全確認方法。」


第3 申立理由の概要
本件特許発明1?6及び8は、甲第1号証及び技術常識(甲第2号証の2?甲第7号証)に基づいて当業者が容易になし得た発明であり、進歩性が否定されるべきものである(特許異議申立書の第24ページ6?8行。)。
本件特許発明7は、甲第1号証及び周知技術(甲第2号証の2?甲第6号証)に基づいて当業者が容易に想到できたものである(特許異議申立書の第27ページ9?10行。なお、本件特許の請求項7は請求項1を引用するものであるところ、請求項1に係る申立理由は、上記のとおり、甲第1号証及び甲第2号証の2ないし甲第7号証に基づくものであるから、「(甲2の2から甲6)は「(甲第2号証の2?甲第7号証)」の誤記と認められる。)。
本件特許発明1と同じ具体的理由により、本件特許発明9は、甲第1号証及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得たものである(特許異議申立書の第27ページ下から5行?下から4行。)。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2015-48595号公報
甲第2号証の1:公益社団法人立体駐車場工業会のウェブサイト「新着情報一覧」の「新駐車場施行規則に規定される登録認証機関となりました」(平成27年1月6日掲載)(URLはhttp://www.ritchu.or.jp/news/)
甲第2号証の2:「機械式駐車装置の安全機能に関する認証基準 平成26年12月5日 公益社団法人立体駐車場工業会」
甲第3号証:特開2014-139401号公報
甲第4号証:特開2009-91799号公報
甲第5号証:特開2013-30038号公報
甲第6号証:特開平8-93255号公報
甲第7号証:特開2014-80735号公報


第4 各甲号証の内容
1 甲第1号証について
(1)甲第1号証の記載(下線は決定で付した。以下同様。)
ア 「【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、より確実に乗降室から人が退出した後に動作を行い、乗降室内の安全性が確保される、機械式駐車装置及び機械式駐車装置の制御方法を提供することを目的とする。」

イ 「【0041】
機械式駐車装置10は、車両12を乗入階14から入出庫させる。そして、機械式駐車装置10は、車両12を載置したパレット16を乗入階14と車両12を格納する格納庫18との間で昇降させる。なお、本第1実施形態に係る機械式駐車装置10の構成は、一例であり、乗入階14を格納庫18よりも上層とする等、他の構成であってもよい。
【0042】
乗入階14には、格納庫18へ搬送されるパレット16に車両12が載置され、車両12の運転者が車両12に乗降可能な乗降室20が設けられている。」

ウ 「【0046】
乗降室20内には、安全確認の実施位置の近辺に配置され、人による安全確認の実施状態が入力される入力手段である確認ボタン34A,34Bが備えられる。確認ボタン34A,34Bは、人によって押圧されるボタン(押ボタン)である。
本第1実施形態では、確認ボタン34A,34Bは、パレット16(車両12)を挟んだ位置、図2の例では左右の壁面35に備えられる。より具体的には、図2の例では、右奥(車両12右側前方)の壁面35に確認ボタン34Aが備えられ、左手前(車両12左側後方)の壁面35に確認ボタン34Bが備えられる。
なお、以下の説明において、各確認ボタン34を区別する場合は、符号の末尾にA,Bの何れかを付し、各確認ボタン34を区別しない場合は、A,Bを省略する。
【0047】
確認ボタン34は、入力が行われていない場合に入力を促す機能を有する。例えば、確認ボタン34は、入力が行われていない状態、すなわち押圧されていない状態で明滅する。具体的には、確認ボタン34の内部にLED(Light Emitting Diode)又は電球等の照明装置が設けられ、この照明装置が明滅する。なお、入力を促す機能は、明滅の他に、単に点灯するだけでもよい。
そして、確認ボタン34は、押圧されると消灯する。これにより、本第1実施形態に係る機械式駐車装置10は、確認ボタン34への押圧(入力)忘れや押圧(入力)ミスを防止できる。
【0048】
入出庫口30には、人の乗降室20への入退室を検知する入退室検知センサ36が設けられる。入退室検知センサ36は、一例として、センサ36Aが入出庫口30の内側に設けられ、センサ36Bが入出庫口30の外側に設けられる。
入退室検知センサ36は、センサ36Bからセンサ36Aの順で人を検知した場合、乗降室20へ人が入室したと検知し、センサ36Aからセンサ36Bの順で人を検知した場合、乗降室20から人が退室したと検知する。
・・・(中略)・・・
【0050】
乗降室20外の操作盤22には、人に操作されることでパレット16の搬送の許可が入力される最終確認ボタン40が備えられている。
・・・(中略)・・・
【0052】
制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)52、各種プログラムや各種パラメータ等が予め記憶されたROM(Read Only Memory)54、CPU52による各種プログラムの実行時のワークエリア等として用いられるRAM(Random Access Memory)56、各種プログラム及び各種情報を記憶する記憶手段としてのHDD(Hard Disk Drive)58を備えている。
【0053】
なお、HDD58の代わりに、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、フラッシュメモリ、バッテリバックアップ付きのSRAM(Static Random Access Memory)等の記憶素子を用いてもよく、プログラム、利用者情報、及び設定値等のデータの種類に応じて記憶素子を使い分けて記憶させてもよい。
【0054】
制御装置50は、パレット16等を駆動させるための各種モータ(不図示)を制御するモータ制御部60、入退室検知センサ36からの信号を受信するセンサ信号受信部62を備える。また、制御装置50は、確認ボタン34,40の押圧状態を判定し、確認ボタン34,40の明滅を制御するボタン制御部64を備えている。」

エ 「【0060】
そして、確認ボタン34への入力が行われ、かつ乗降室20から人が退室した後に、制御装置50によって、パレット16の搬送が実行される。このため、確認ボタン34への入力が行われ、乗降室20から人が退室することで安全が確保されない限り、パレット16の搬送は行われず、車両12も格納庫18へ搬送されることは無い。
・・・(中略)・・・
【0062】
また、本第1実施形態に係る機械式駐車装置10は、乗降室20から人が退室し、最終確認ボタン40への押圧(操作)が行われた後に、制御装置50によってパレット16の搬送が実行される。すなわち、安全確認の実施状態を確認ボタン34に入力した安全確認者が、乗降室20外の操作盤22に備えられる最終確認ボタン40を操作した後に、パレット16の搬送が実行されるので、より確実に乗降室20内の安全性が確保される。
【0063】 なお、上記説明した本第1実施形態に係る確認ボタン34,40を用いた安全確認を安全確認処理という。」

オ 「【0064】
図4は、安全確認処理を行う場合に、制御装置50によって実行される安全確認プログラムの流れを示すフローチャートである。安全確認プログラムは、HDD58の所定領域に予め記憶されている。
なお、安全確認プログラムは、車両12がパレット16に載置された後に、開始される。また、安全確認プログラムの開始と共に、確認ボタン34の明滅が開始される。また、最終確認ボタン40に対する操作は、安全確認プログラムの開始時には無効とされている。
【0065】
まず、ステップ100では、一つめの確認ボタン34、例えば確認ボタン34Aが押圧されたか否かをボタン制御部64によって判定する。確認ボタン34Aへの押圧は、確認ボタン34A近辺での安全確認の実施終了の入力を確認ボタン34Aが受け付けたこととなる。肯定判定の場合はステップ101へ移行する。
確認ボタン34Aは、押圧されるまでは明滅しているが、押圧された後、消灯する。
【0066】
ステップ101では、入退室検知センサ36が乗降室20内への人の入室を検知したか否かを判定し、肯定判定の場合はステップ112へ移行し、否定判定の場合はステップ102へ移行する。
【0067】
ステップ102では、二つめの確認ボタン34、例えば確認ボタン34Bが押圧されたか否かをボタン制御部64によって判定する。確認ボタン34Bへの押圧は、確認ボタン34B近辺での安全確認の実施終了の入力を確認ボタン34Bが受け付けたこととなる。肯定判定の場合はステップ103へ移行する。
確認ボタン34Bは、押圧されるまでは明滅しているが、押圧された後、消灯する。
・・・(中略)・・・
【0069】
ステップ103では、入退室検知センサ36が乗降室20内への人の入室を検知したか否かを判定し、肯定判定の場合はステップ112へ移行し、否定判定の場合はステップ104へ移行する。
【0070】
ステップ104では、入退室検知センサ36の検知結果に基づいて、乗降室20から運転者が退室したか否かを判定し、肯定判定の場合はステップ106へ移行する。
【0071】
ステップ106では、操作盤22に備えられる最終確認ボタン40への操作を有効とする。
乗降室20へ入室した人の退室が検知された後に、最終確認ボタン40への操作が有効とされることで、例えば安全確認者が乗降室20から出る前に他者によって最終確認ボタン40が操作されても、パレット16の搬送が実行されることは無い。
従って、本第1実施形態に係る機械式駐車装置10は、より確実に乗降室20内の安全性が確保できる。
【0072】
次のステップ107では、入退室検知センサ36が乗降室20内への人の入室を検知したか否かを判定し、肯定判定の場合はステップ114へ移行し、否定判定の場合はステップ108へ移行する。
【0073】
ステップ108では、最終確認ボタン40が押圧されたか否かをボタン制御部64によって判定し、肯定判定の場合はステップ110へ移行する。
【0074】
ステップ110では、機械式駐車装置10の動作が開始され、本安全確認処理が終了する。具体的には、入出庫扉32が閉じられ、車両12が載置されたパレット16が格納庫18へ搬送される。
【0075】
なお、ステップ101及びステップ103で肯定判定となり、ステップ112へ移行すると、ステップ112において、確認ボタン34への入力が全て解除され、ステップ100へ戻る。確認ボタン34への入力の解除とは、それまでに行われた確認ボタン34への入力が取り消されることである。
【0076】
また、ステップ107で肯定判定となり、ステップ114へ移行すると、ステップ114において、確認ボタン34への入力が全て解除され、最終確認ボタン40への操作を無効とし、ステップ100へ戻る。
【0077】
ステップ112,114へ移行した場合、安全確認者は、再び確認ボタン34を押圧し、入退室検知センサ36によって退室を検知させ、最終確認ボタン40への操作を有効にしなければならない。このように、本第1実施形態に係る機械式駐車装置10は、新たに人が乗降室20内へ入室した場合に、再び乗降室20内の安全確認が必要とされるため、より確実に乗降室20内の安全性が確保される。」

カ 「【0108】
また、上記各実施形態では、確認ボタン34に対する一回の押圧によって安全確認の実施状態が入力される形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、確認ボタン34が複数回押圧されることで、安全確認の実施状態が入力される形態としてもよい。
例えば、確認ボタン34を2回押圧することで、安全確認の実施状態が入力される場合は、1回目の押圧で安全確認の実施開始が入力され、2回目の押圧で安全確認の実施終了が入力されることとなる。確認ボタン34は、2回の押圧が終了するまで明滅を続けるが、例えば1回目の押圧の後では、明滅の間隔をより早くしてもよい。
【0109】
また、上記各実施形態では、安全確認の実施状態が入力される入力手段を押ボタンとする形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、入力手段は押ボタンでなくてもよい。
例えば、入力手段を、機械式駐車装置10の契約者だけが使用し携帯が可能な、認証カード、認証タグ、リモコンといった専用の携帯認証媒体に記録されている認証情報を読み取る読取手段としてもよい。
【0110】
入力手段を携帯認証媒体とした場合、安全確認者が携帯認証媒体を読取手段にかざすことによって、読取手段が携帯認証媒体に記録されている認証情報を読み取る。この読み取りによって、安全確認の実施状態が入力されることとなる。なお、携帯認証媒体が、例えば、認証情報を電波として発信する場合は、安全確認者が携帯認証媒体を読取手段にかざすことなく、読取手段が上記電波を受信することによって、安全確認の実施状態が入力されてもよい。
このように、読取手段を入力手段とすることによって、携帯認証媒体を携帯している安全確認者以外は、安全確認の実施状態を入力できない。すなわち、不特定の人が入力手段を操作できないこととなり、乗降室20内の安全性がより確実に確保される。」

キ 上記アに摘記したように、「本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、より確実に乗降室から人が退出した後に動作を行い、乗降室内の安全性が確保される、機械式駐車装置及び機械式駐車装置の制御方法を提供することを目的とする」ものであって、上記「機械式駐車装置」が、「より確実に乗降室から人が退出した後に動作を行い、乗降室内の安全性が確保される」「機械式駐車装置の制御方法」を実際に行うための「装置」を有することは明らかである。

ク 上記オに摘記した事項を踏まえると、「ステップ100」で「一つめの確認ボタン34Aが押圧されたか否かをボタン制御部64によって判定」し、その後の「ステップ102」で「二つめの確認ボタン34Bが押圧されたか否かをボタン制御部64によって判定し、肯定判定の場合」、その後の「ステップ106」で、「操作盤22に備えられる最終確認ボタン40への操作を有効とし」、その後の「ステップ108」で、「最終確認ボタン40が押圧されたか否かをボタン制御部64によって判定」する時系列で、上記各ステップが順序づけられているということができる。

(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)を踏まえると、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「機械式駐車装置10の、車両12を入出庫させる乗入階14には、運転者が車両12に乗降可能な乗降室20が設けられ、
乗降室20内には、人による安全確認の実施状態が入力される入力手段である確認ボタン34A,34Bが備えられ、確認ボタン34A,34Bは、人によって押圧されるボタン(押ボタン)であり、右奥(車両12右側前方)の壁面35に確認ボタン34Aが備えられ、左手前(車両12左側後方)の壁面35に確認ボタン34Bが備えられ、
乗降室20外の操作盤22には、人に操作されることでパレット16の搬送の許可が入力される最終確認ボタン40が備えられ、
利用者情報を記憶する記憶手段としてのHDD58を備えた制御装置50が備えられ、
安全確認処理を行う場合に、HDD58の所定領域に予め記憶され、制御装置50によって実行される安全確認プログラムの流れとして、
ステップ100では、一つめの確認ボタン34Aが押圧されたか否かをボタン制御部64によって判定し、
その後のステップ102では、二つめの確認ボタン34Bが押圧されたか否かをボタン制御部64によって判定し、肯定判定の場合、
その後のステップ106では、操作盤22に備えられる最終確認ボタン40への操作を有効とし、
その後のステップ108では、最終確認ボタン40が押圧されたか否かをボタン制御部64によって判定し、肯定判定の場合はステップ110へ移行し、
ステップ110では、機械式駐車装置10の動作が開始され、入出庫扉32が閉じられ、車両12が載置されたパレット16が格納庫18へ搬送され、
安全確認の実施状態が入力される入力手段は押ボタンとする形態に限定されるものではなく、入力手段を、機械式駐車装置10の契約者だけが使用し携帯が可能な、認証カード、認証タグ、リモコンといった専用の携帯認証媒体に記録されている認証情報を読み取る読取手段としてもよく、入力手段を携帯認証媒体とした場合は、安全確認者が携帯認証媒体を読取手段にかざすことによって、読取手段が携帯認証媒体に記録されている認証情報を読み取り、この読み取りによって、安全確認の実施状態が入力され、携帯認証媒体を携帯している安全確認者以外は、安全確認の実施状態を入力できないようにしたものであり、
より確実に乗降室から人が退出した後に動作を行い、乗降室内の安全性が確保される、機械式駐車装置10の装置。」

2 甲第2号証の2について
(1)甲第2号証の2の記載
当審が職権で調査したところによれば、甲第2号証の2は、甲第2号証の1の「資料-2 認証基準」のリンク先に掲載されたものであって、甲第2号証の1に「平成27年1月6日」と記載されるとともに、当該記載は甲2号証の2の「平成26年12月5日」との記載とも時系列が整合しているから、甲第2号証の2は、本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になったと認められる。
甲第2号証の2には、以下が記載されている。

ア 「1 適用範囲
この基準は,機械式駐車場に設置される機械式駐車装置について適用する。」(第1ページ15行?16行)

イ 「8.4.2 操作認証
a)同一利用者の要求動作であることを確実にするため,通常使用での制御装置は,次の要件をすべて満たさなければならない。
1) 駐車設備の起動前に,利用者,自動車又は搬機の認証登録を取扱者がしなければならない。
2) 自動車を入出庫した後に中断している動作を継続するには,利用者,自動車又は搬器の認証を取扱者が行い,入出庫前の認証登録と一致しなければ,駐車設備は起動できない。
3) 認証の不一致を解除した駐車設備の起動は,許可された人以外できない。
b) 入出庫する自動車とその利用者に対する駐車設備の一連の操作及び動作は,取扱者が操作盤で入出庫のための操作を開始するときから入出庫を終えた後の操作による動作が完了するまでとし,この間は予約制御(8.4.3 e)参照)を除き,他の利用者が要求する操作を受け付けできてはならない。
c) 一連の操作及び動作において,操作入力の待ち時間が10秒を超えたときには,入出庫前の認証登録と一致する再認証をしない限り,操作が継続できてはならない。」(第15ページ下から7行?第16ページ5行)

(2)甲第2号証の2に記載された技術事項
上記(1)の記載を踏まえると、甲第2号証の2には次の技術事項(以下「甲2技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「機械式駐車装置において、入出庫する自動車とその利用者に対する駐車設備の一連の操作及び動作は,取扱者が操作盤で入出庫のための操作を開始するときから入出庫を終えた後の操作による動作が完了するまでとし,この間は予約制御を除き,他の利用者が要求する操作を受け付けできてはならないとされた点。」

3 甲第3号証について
(1)甲第3号証の記載
ア 「【0028】
このように構成された機械式立体駐車場1は、図2に概略的に示す制御系統の下で、本発明に係る制御方法により制御される。この制御系統15は制御装置16を有し、制御装置16には主制御部17と、この主制御部17に統括制御される入出庫扉開閉制御部18およびパレット駆動制御部19が含まれている。また、主制御部17には認証照合部21が含まれている。
・・・(中略)・・・
【0030】
操作盤12は主制御部17に接続されている。この操作盤12には、表示画面31と、音声スピーカ32と、テンキー操作部33と、ICカードリーダー34と、起動ボタン35と、閉扉ボタン36等が設けられている。表示画面31と音声スピーカ32は、画面および音声によってユーザーに操作方法を指示するものであり、テンキー操作部33はユーザーに暗証番号によって認証を行わせるものであり、ICカードリーダー34はユーザーにICカードによって認証を行わせるものである。また、起動ボタン35は、認証操作を終えたユーザーがパレット5の呼び出しを行うスイッチであり、閉扉ボタン36はユーザーが入出庫扉11を閉じるためのスイッチである。
【0031】
このように構成された機械式立体駐車場1にユーザーが車両を入庫させる時の手順は次の通りである。
まず、図3に示すように、車両2を入出庫扉11の前(ターンテーブル9の上)に停車させ、同乗者を降車させ、ドアミラーを畳み、アンテナを下げる。次に、図4に示すように、ユーザー(車両のドライバー)は、操作盤12に向かい、第1の認証操作を行う。この第1の認証操作に基づき、主制御部17の認証照合部21において、ユーザーが機械式立体駐車場1の正式な契約者であるか否かの判定が行われる。仮に非契約者が認証操作を行っても、表示画面31と音声スピーカ32によりエラー表示がなされ、機械式立体駐車場1は動作しない。
・・・(中略)・・・
【0033】
第1の認証操作でユーザーが正式な契約者であると認証されると、表示画面31と音声スピーカ32によってユーザーに起動ボタン35を押すように指示がなされる。ユーザーは起動ボタン35を押して再び車両に乗り込む。主制御部17は、ユーザーの認証内容によって入庫か出庫かを見分け、起動ボタン35が押されると同時に図2に示すパレット駆動機構25を起動させて空のパレット5を入出庫口3の位置に搬送させる。空のパレット5が到着すると、入出庫扉開閉制御部18と入出庫扉開閉機構22が自動的に入出庫扉11を開扉させ、同時に入出庫口3の上方に設けられた入庫管制灯38が赤から青に変わる。」

(2)甲第3号証に記載された技術事項
上記(1)の記載を踏まえると、甲第3号証には次の技術事項(以下「甲3技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「機械式立体駐車場1において、制御装置16を有し、制御装置16には主制御部17が含まれ、主制御部17に接続された操作盤12には、テンキー操作部33と、ICカードリーダー34と、起動ボタン35とが設けられ、テンキー操作部33はユーザーに暗証番号によって認証を行わせるものであり、ICカードリーダー34はユーザーにICカードによって認証を行わせるものであり、起動ボタン35は、認証操作を終えたユーザーがパレット5の呼び出しを行うスイッチであり、
ユーザーは、操作盤12に向かい、第1の認証操作を行い、この第1の認証操作に基づき、主制御部17の認証照合部21において、ユーザーが機械式立体駐車場1の正式な契約者であるか否かの判定が行われ、第1の認証操作でユーザーが正式な契約者であると認証されると、表示画面31と音声スピーカ32によってユーザーに起動ボタン35を押すように指示がなされ、起動ボタン35が押されると同時にパレット駆動機構25を起動させて空のパレット5を入出庫口3の位置に搬送させ、空のパレット5が到着すると、入出庫扉開閉制御部18と入出庫扉開閉機構22が自動的に入出庫扉11を開扉させるようにした点。」

4 甲第4号証について
(1)甲第4号証の記載
ア 「【0022】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の機械式駐車設備の一実施の形態に係る立体駐車設備の入出庫口付近を示す正面図であり、図2は、リモコン送信機の一例を示す平面図、図3は、図1に示す立体駐車設備の入出庫口外側上方部に設置した外部リモコン受信機ボックスの正面図、図4は、図3に示す外部リモコン受信機ボックスに備えられた外部リモコン受信機の検知範囲の一例を示す図面であり、(a) は垂直方向検知範囲、(b) は水平方向検知範囲を示した図である。図5は、図1に示す立体駐車設備における入出庫部内の正面図、図6は、本発明の立体駐車設備における制御ブロック図である。この実施の形態では、機械式駐車設備として、地下に設置された円形循環式の立体駐車設備を例に説明する。また、この明細書及び特許請求の範囲の書類中では、駐車設備の正面に向った状態で、右側、左側、入口側を前側、奥側を後側という。」

イ 「【0044】
図9に示すように、入庫時、利用者は入出庫口5の手前に車両Mを停車させ、車内(一且降車してもよい)から外部リモコン受信機ボックス25のリモコン受信表示灯23と呼番号表示部22とを確認する。これらが消灯していれば、入出庫口5付近の安全を確認した上で、外部リモコン受信機21に向けてリモコン送信機31の安全確認釦34を押す。これによりリモコン受信表示灯23が「緑 点滅」する。その後、外部リモコン受信機21に向けてリモコン送信機31のスタート釦35を押す。これにより制御装置29は、外部リモコン受信機21の受信信号を照合し、契約利用者の入庫要求であると判断すれば、リモコン受信表示灯23が「緑 点灯」となり、呼番号表示部22に「呼番号」が表示されて、空パレット11が入出庫部7に呼び出される。空パレット11が入出庫部7の乗入れ部13に着床すると、入出庫口5の扉6が開かれて、呼番号表示部22の呼番号が消灯する。この扉6が開くと、外部リモコン受信機21は受信不可の状態となる。」

(2)甲第4号証に記載された技術事項
上記(1)の記載を踏まえると、甲第4号証には次の技術事項(以下「甲4技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「機械式駐車設備において、利用者は、入出庫口5付近の安全を確認した上で、外部リモコン受信機21に向けてリモコン送信機31の安全確認釦34を押し、その後、外部リモコン受信機21に向けてリモコン送信機31のスタート釦35を押すことより制御装置29は、外部リモコン受信機21の受信信号を照合し、契約利用者の入庫要求であると判断すれば、空パレット11が入出庫部7に呼び出される。空パレット11が入出庫部7の乗入れ部13に着床すると、入出庫口5の扉6が開かれるようにした点。」

5 甲第5号証について
(1)甲第5号証の記載
ア 「【0064】
このように構成された機械式駐車場1は、本発明に係る制御装置40および制御方法によって制御される。図5は、制御装置40を概略的に示した構成図であり、図6は、乗入室5の平面図である。制御装置40は、CPUである主制御部41(制御手段)を有している。また、主制御部41には、ユーザーデータベース42と、入出庫扉開閉制御部43と搬送台昇降制御部44とが接続されており、これらは主制御部41に統括制御される。また、主制御部41には認証照合部46が含まれている。ユーザーデータベース42には、契約しているユーザーのIDや所有車両の入出庫履歴等が記憶されている。」

イ 「【0079】
まず、ユーザー(電動車両2Eのドライバー)は、電動車両2Eを入出庫口3(入出庫扉12)の前に停車させ、同乗者が居る場合は降車させ、ドアミラーを畳み、アンテナを下げる(1)。次に、ユーザーは電動車両2Eから降車して外部操作盤14に向かう(2)。上記(1)、(2)では、ユーザーが所持している携帯認証媒体70が、所定の認証エリア、例えばここでは外部認証エリアA1に入ることにより外部認証エリアアンテナ61に認識され、外部認証エリアアンテナ61が外部認証信号SIG.1を発信し、この外部認証信号SIG.1を受信した主制御部41の認証照合部46(図5参照)においてユーザーのIDが照合され、ユーザーが機械式駐車場1の正式な契約者であればユーザー認証が行われる(第1の外部認証処理)。このユーザー認証は全て自動的に行われる。」

ウ 「【0084】
空車のパレット31が乗入室5に到着した後、主制御部41が、第1の外部認証処理で認証した外部認証信号SIG.1と同じ外部認証信号SIG.1を再度受信していること、即ち第1の外部認証処理で認証したユーザーと同じユーザーの携帯認証媒体70が再び外部認証エリアA1に入っていることが認識される(第2の外部認証処理)。ここで、携帯認証媒体70が外部認証エリアA1に入っていない場合には、操作表示画面56における文字表示と、音声スピーカ58からの音声によってエラー表示がなされるとともに、ユーザーに外部操作盤14の前に戻るよう指示がなされる。しかし、ユーザーが外部操作盤14の前に戻らず、主制御部41が外部認証信号SIG.1を再受信できない場合は、この状態が所定時間(例えば1分間)経過した後に、このユーザーの入庫操作はキャンセルされ、次のユーザーの入出庫操作が受け付けられる。
【0085】
ユーザーが外部操作盤14の前に居り、主制御部41が外部認証信号SIG.1を再受信できたなら、次に、第1の外部認証処理と第2の外部認証処理とでそれぞれ認識された携帯認証媒体70が同一であるか否かが判定される(第1の照合処理)。そして、この第1の照合処理が肯定判定であること、即ち第1の外部認証処理で認証したユーザーと同じユーザーが外部認証エリアA1に入っている(外部操作盤14に向かっている)ことを条件に、入出庫扉12が自動的に開扉されるか、もしくは操作表示画面56に開扉ボタン(非図示)が表示され、この開扉ボタンをユーザーが押すことにより、入出庫扉12が開扉される(開扉処理)。」

(2)甲第5号証に記載された技術事項
上記(1)の記載を踏まえると、甲第5号証には次の技術事項(以下「甲5技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「機械式駐車場1において、ユーザーは電動車両2Eから降車して外部操作盤14に向かい、ユーザーが所持している携帯認証媒体70が、所定の認証エリアに入ると、ユーザーのIDが照合され、ユーザーが機械式駐車場1の正式な契約者であればユーザー認証が行われ、その後、入出庫扉12が自動的に開扉されるようにした点。」

6 甲第6号証について
(1)甲第6号証の記載
ア 「【0029】
【実施例】以下、この発明に基づいた実施例について説明する。なお、この実施例における立体駐車装置の全体的な構造は、図11で説明した従来の構造と同一であるため、ここでの説明は省略し、車両入退室内の構造についてのみ説明する。」

イ 「【0031】さらに、本実施例においては、車両入退室110内の人の存在を検知するための前配置右側人検知センサ15、後配置右側人検知センサ16、前配置左側人検知センサ17、後配置左側人検知センサ18、右配置全体人検知センサ19および左配置全体人検知センサ20が設けられている。」

ウ 「【0044】次に、リモートコントロール操作を行なうため、送信器4を用いて、信号および暗証番号を送信する。この暗証番号が正しい場合は、パレットを車両入退室内に着床させ、車両入退室のドアを開く。」

(2)甲第6号証に記載された技術事項
上記(1)の記載を踏まえると、甲第6号証には次の技術事項(以下「甲6技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「立体駐車装置において、リモートコントロール操作を行なうため、送信器4を用いて、信号および暗証番号を送信し、この暗証番号が正しい場合は、パレットを車両入退室内に着床させ、車両入退室のドアを開くようにした点。」

7 甲第7号証について
(1)甲第7号証の記載
ア 「【0050】
また、2基の測域センサー36A,36B(検知手段)が、乗入室7内の定点、好ましくは対角位置に設置されている。これら2基の測域センサー36A,36Bと、複数の位置センサー34a?34jは、それぞれ制御装置30に接続されてエリア検知装置40を構成している。そして、位置センサー34a?34jおよび測域センサー36A,36Bの検知データが制御装置30に出力される。」

イ 「【0060】
まず、入出庫扉25の手前で車両2が停車し、車両2のドライバーが車両2から降車して操作盤28に向かい、認証操作を行うことから制御がスタートする。ドライバーが認証操作を終えると、例えば操作盤28の盤面(タッチパネル)に入出庫操作の画面が表示され(ステップS1)、ドライバーがこの入出庫操作の画面に表示されている開扉ボタンをタッチすると入出庫扉25が開かれる(ステップS2)。なお、認証操作が不要な場合は最初から操作盤28の盤面に入出庫操作の画面と開扉ボタンが表示されている。さらに、ドライバーの代わりに機械式駐車設備1の管理人が操作盤28を操作する場合もある。」

(2)甲第7号証に記載された技術事項
上記(1)の記載を踏まえると、甲第7号証には次の技術事項(以下「甲7技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「機械式駐車設備1において、入出庫扉25の手前で車両2が停車し、車両2のドライバーが車両2から降車して操作盤28に向かい、認証操作を行い、ドライバーが認証操作を終え、入出庫操作の画面に表示されている開扉ボタンをタッチすると入出庫扉25が開かれるようにした点。」


第5 判断
1 本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「機械式駐車装置10」、「車両12」、「入出庫扉32」は、それぞれ、本件発明1の「機械式駐車設備」、「車両」、「入出庫扉」に相当する。

イ 甲1発明における「運転者が車両12を入出庫させる乗入階14」に「設けられ」た「乗降室20」は、本件発明1の「利用者」が「車両の入出庫を行う」「入出庫部」に相当する。

ウ 甲1発明における「制御装置50」は、「利用者情報を記憶する記憶手段としてのHDD58を備え」たものであり、また、甲1発明は、「安全確認の実施状態が入力される入力手段は押ボタンとする形態に限定されるものではなく、入力手段を、機械式駐車装置10の契約者だけが使用し携帯が可能な、認証カード、認証タグ、リモコンといった専用の携帯認証媒体に記録されている認証情報を読み取る読取手段としてもよく、入力手段を携帯認証媒体とした場合は、安全確認者が携帯認証媒体を読取手段にかざすことによって、読取手段が携帯認証媒体に記録されている認証情報を読み取り、この読み取りによって、安全確認の実施状態が入力され、携帯認証媒体を携帯している安全確認者以外は、安全確認の実施状態を入力できない」ようにしたものである。
ここで、甲1発明の「機械式駐車装置10」(機械式駐車設備)の「装置」が、「安全確認者」を、「機械式駐車装置10の契約者」として認識するためには、その前提として、「機械式駐車装置10の契約者」の情報が、「制御装置50」のHDD58に「利用者情報」として記憶されていることが推認される。ここで、「契約者」は「利用者」と同等であり、「制御装置50」のHDD58に記憶されることにより、本件発明1の「登録者」になるといえるから、甲1発明の「機械式駐車装置10」(機械式駐車設備)の「装置」は、本件発明1と同様に、「機械式駐車設備に利用者を登録者として記憶する制御装置」を備えているということができる。

エ 甲1発明において、「乗降室20」(入出庫部)内に備えられた「人による安全確認の実施状態が入力される入力手段である確認ボタン34A,34B」については、上記ウで述べたように、「機械式駐車装置10の契約者だけが使用し携帯が可能な、認証カード、認証タグ、リモコンといった専用の携帯認証媒体に記録されている認証情報を読み取る読取手段としてもよ」いとされており、「人による安全確認の実施状態が入力される入力手段」としての「確認ボタン34A,34B」に置き換えて備えられた「認証情報を読み取る読取手段」は、本件発明1の「入出庫部の安全確認を行った後に認証する第2認証装置」に相当する。

オ 甲1発明は、ステップ108で「最終確認ボタン40が押圧され」た後、ステップ110で「機械式駐車装置10の動作が開始され、入出庫扉32が閉じられ」るのであるから、入出庫扉32(入出庫扉)が「閉鎖する前」に、最終確認ボタン40が押圧されるものであるといえる。また、甲1発明において、「人に操作されることでパレット16の搬送の許可が入力される最終確認ボタン40」は、上記第3の1(1)エに摘記した段落【0063】の記載を踏まえれば、上記エで採り上げた「確認ボタン34A,34B」と同様に、「機械式駐車装置10の契約者だけが使用し携帯が可能な、認証カード、認証タグ、リモコンといった専用の携帯認証媒体に記録されている認証情報を読み取る読取手段としてもよ」いものであると認められる。そうすると、「入力手段」としての上記「最終確認ボタン40」に置き換えて備えられた「認証情報を読み取る読取手段」により読み取られる「認証情報」は、本件発明1の「照合データ」に相当し、当該「認証情報」(照合データ)を読み取る「読取手段」は、「照合データを入力する照合装置」に相当するといえる。

カ 「機械式駐車装置10の契約者」の情報が、「制御装置50」のHDD58に「利用者情報」として記憶されていることが推認されること、及び、「契約者」は「利用者」と同等であり、「制御装置50」のHDD58に記憶されることにより、本件発明1の「登録者」になるといえることは、上記ウで述べたとおりであり、これを踏まえると、「制御装置50」のHDD58に記憶された「機械式駐車装置10の契約者」の情報である「利用者情報」は、本件発明1の「登録者」の「登録データ」に相当するといえる。

キ 甲1発明において、「人による安全確認の実施状態が入力される入力手段」としての「確認ボタン34A,34B」に置き換えて備えられた「認証情報を読み取る読取手段」が、本件発明1の「入出庫部の安全確認を行った後に認証する第2認証装置」に相当することは、上記エで述べたとおりであるところ、当該「読取手段」(第2認証装置)で読み取られた「認証情報」は、本件発明1の「第2認証装置で入力する第2認証データ」に相当する。

ク 甲1発明は、「入力手段を携帯認証媒体とした場合は、安全確認者が携帯認証媒体を読取手段にかざすことによって、読取手段が携帯認証媒体に記録されている認証情報を読み取り、この読み取りによって、安全確認の実施状態が入力され、携帯認証媒体を携帯している安全確認者以外は、安全確認の実施状態を入力できないようにし」たものであり、「読取手段」による「読み取り」が、「携帯認証媒体に記録されている認証情報」の「照合」を伴うことは、当業者にとって自明である。

ケ 甲1発明は、「ステップ100では、一つめの確認ボタン34Aが押圧されたか否かをボタン制御部64によって判定し、その後のステップ102では、二つめの確認ボタン34Bが押圧されたか否かをボタン制御部64によって判定し、肯定判定の場合、その後のステップ106では、操作盤22に備えられる最終確認ボタン40への操作を有効とし、その後のステップ108では、最終確認ボタン40が押圧されたか否かをボタン制御部64によって判定し、肯定判定の場合はステップ110へ移行し、ステップ110では、機械式駐車装置10の動作が開始され、入出庫扉32が閉じられ、車両12が載置されたパレット16が格納庫18へ搬送され」るものであり、上記カないしクを踏まえると、「入力手段」を、「認証情報を読み取る読取手段」に置き換えた場合に、上記ステップ100及び102は、「入出庫部の安全確認を行った後に認証する第2認証装置」で読み取られる「第2認証データ」を、「登録者の登録データ」と「照合」して、「肯定判定」、すなわち「登録者の登録データに含まれる」ことを判定するステップに置き換えることができ、また、上記オ、カ及びクを踏まえると、その後の上記ステップ108は、「入出庫扉を閉鎖する前」に「照合データを入力する照合装置」で入力する「照合データ」を「登録者の登録データ」と「照合」して、「肯定判定」、すなわち「照合結果が一致する」ことを判定するステップに置き換えることができる。
そして、上記ステップ110では、「機械式駐車装置10の動作が開始され、入出庫扉32が閉じられ、車両12が載置されたパレット16が格納庫18へ搬送され」ることから、ステップ110の前までは、動作がロックされており、ステップ110で、本件発明1と同様に、動作を開始するために、「運転操作のロックを解除」するようにしているということができる。

コ 上記ケを踏まえると、甲1発明は、「第2認証データ」が「登録者の登録データに含まれる」場合の、機械式駐車設備の「運転操作のロックを解除する」に当たっての条件を、「所定のデータ」を照合して、照合結果が一致することとしているといえる。

サ 甲1発明におけるステップ100からステップ110の流れは、「制御装置50」の「HDD58の所定領域に予め記憶され」た「安全確認プログラム」により実行されるものであり、入力手段としての押しボタン(確認ボタン34A、確認ボタン34B、最終確認ボタン40)を、上記ケで述べたように「認証情報を読み取る読取手段」に置き換えた場合にも、甲1発明の「機械式駐車装置10」(機械式駐車設備)の「装置」は、上記「制御装置50」により各ステップの流れが制御されるものであるといえる。また、上記「装置」は、「制御装置50」の「安全確認プログラム」により制御が行われるものであるから、本件発明1の「安全確認装置」に相当する。

シ 以上を整理すると、甲1発明の上記のカないしサの事項と、本件発明1における「前記制御装置は、前記入出庫扉の開放前に前記第1認証装置で前記利用者が入力する第1認証データを前記登録者の登録データと照合し、該第1認証データが前記登録データに含まれる場合には前記入出庫扉を開放するとともに、機械式駐車設備の運転操作をロックし、前記安全確認後に前記第2認証装置で入力する第2認証データを前記登録者の登録データと照合し、該第2認証データが前記登録データに含まれる場合には、前記入出庫扉の閉鎖前に前記照合装置で入力する照合データと照合し、照合結果が一致する場合には機械式駐車設備の運転操作のロックを解除する」とは、「前記制御装置は、前記安全確認後に前記第2認証装置で入力する第2認証データを前記登録者の登録データと照合し、該第2認証データが前記登録データに含まれる場合には、前記入出庫扉の閉鎖前に所定のデータを照合し、照合結果が一致する場合には機械式駐車設備の運転操作のロックを解除する」点で共通する。

ス そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点1ないし2で相違する。

(一致点)
「利用者が入出庫部において車両の入出庫を行う機械式駐車設備の安全確認装置であって、
前記機械式駐車設備の利用者を登録者として記憶する制御装置と、
前記入出庫部の安全確認を行った後に認証する第2認証装置と、
前記入出庫扉を閉鎖する前に照合データを入力する照合装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記安全確認後に前記第2認証装置で入力する第2認証データを前記登録者の登録データと照合し、該第2認証データが前記登録データに含まれる場合には、前記入出庫扉の閉鎖前に所定のデータを照合し、照合結果が一致する場合には機械式駐車設備の運転操作のロックを解除するように構成されている機械式駐車設備の安全確認装置。」

(相違点1)
本件発明1が、「前記機械式駐車設備の入出庫扉を開放する前に認証する第1認証装置」を備え、「制御装置」が「前記入出庫扉の開放前に前記第1認証装置で前記利用者が入力する第1認証データを前記登録者の登録データと照合し、該第1認証データが前記登録データに含まれる場合には前記入出庫扉を開放するとともに、機械式駐車設備の運転操作をロック」するようにされているのに対し、甲1発明は、「第1認証装置」に当たる装置を備えていないとともに、「制御装置」がそのようなものでない点。

(相違点2)
第2認証データが登録データに含まれる場合の、機械式駐車設備の運転操作のロックを解除するに当たっての条件が、本件発明1では、「第2認証データ」を「照合装置で入力する照合データ」と照合した照合結果が一致することであるのに対し、甲1発明は、「登録者の登録データ」を「照合装置で入力する照合データ」と照合して照合結果が一致することである点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1ないし2のうち、相違点2について検討する。
甲第2号証の2には、上記第4の2(2)のとおり、「入出庫する自動車とその利用者に対する駐車設備の一連の操作及び動作は,取扱者が操作盤で入出庫のための操作を開始するときから入出庫を終えた後の操作による動作が完了するまでとし,この間は予約制御を除き,他の利用者が要求する操作を受け付けできてはならないとされた点。」が記載されている(甲2技術事項)。
しかしながら、甲第2号証の2には、上記相違点2に係る具体的な技術手段は記載されていない。そして、甲1発明において、仮に、上記甲2技術事項により、「他の利用者」による操作要求に、より厳格な制限となる手段を講じるという動機付けが存在したとしても、そのための具体的な技術手段として、相違点2に係る本件発明1の構成を想起することは、当業者といえども容易になしうるものではない。
そうすると、本件発明1は、甲1発明及び甲2技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。
また、甲第3号証ないし甲第7号証にも、相違点2に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。

(3)申立人の主張について
上記相違点2について、申立人は以下を主張する。
「甲第2号証の2には、『入出庫する自動車の利用者に対する駐車設備の一連の操作及び動作、すなわち、取扱者が操作盤で入出庫のための操作を開始するときから入出庫を終えた後の操作による動作が完了するまでの一連の操作及び動作は、予約制御を除き,同一利用者の要求動作でなければならない』(なお、下線は申立人が付加。)点が記載されている。
また、甲第1号証においても、段落0062に「すなわち、安全確認の実施状態を確認ボタン34に入力した安全確認者が、乗降室20外の操作盤22に備えられる最終確認ボタン40を操作した後に、パレット16の搬送が実行されるので、より確実に乗降室20内の安全性が確保される」(なお、下線は申立人が付加。)と記載されている通り、確認ボタン34を操作した安全確認者と、操作盤における最終確認ボタン40を操作する安全確認者とが同一であることを前提としている。
甲第2号証の2は、立体駐車場工業会が定める機械式駐車装置の規定要求事項であり、同工業会が一般に公表している刊行物である。機械式駐車場はこの規定要求事項に沿って建設されなければならないところ、当業者であれば、当然の如く知っていなければならない事項であるといえる。この意味から、甲第2号証の2に記載されている上記技術的事項は、業界に知れ渡っているものであるということができ、当業者に一般的に知られている技術、すなわち、「技術常識」ともいえる事項である。また、同一人物による操作であることを確認するために認証情報の照合処理を行うことは、様々な技術分野において採用される常套手段であるから、周知技術であることが明白である。そうすると甲1発明に対して甲第2号証の2に記載されている技術常識及び照合処理という周知技術を適用し、開扉を指示する最終確認ボタンを押す前において、その操作を行う人物が確認ボタン34を操作した人物と同一であるか否かを確認するために、認証情報を照合し、照合が一致した場合に最終確認ボタンを操作可能として扉を閉じるように構成することは当業者が容易になし得ることである。」(特許異議申立書の第23ページ9行?第24ページ5行)
しかしながら、甲第1号証に記載された、「すなわち、安全確認の実施状態を確認ボタン34に入力した安全確認者が、乗降室20外の操作盤22に備えられる最終確認ボタン40を操作した後に、パレット16の搬送が実行されるので、より確実に乗降室20内の安全性が確保される」(段落0062)点から、同一の安全確認者が、確認ボタン34の操作と、操作盤における最終確認ボタン40の操作を行う実施形態が想定されていることが仮に認められたとしても、入力手段としての各ボタンの操作を、認証情報の読み取りに置き換えたときに、甲1発明では、読み取られたそれぞれの認証情報(本件発明1における「第2認証データ」と「照合装置で入力する照合データ」に相当する。)は、いずれも「登録者の登録データ」と照合されるのであって、本件発明1のように、「第2認証データ」と「照合装置で入力する照合データ」とを照合するものではなく、また、甲第2号証の2に記載された技術的事項を参酌しても、甲1発明に基づいて、「第2認証データ」と「照合装置で入力する照合データ」とを照合する構成への変更に至らないことは、上記(2)で述べたとおりである。
そうすると、申立人の上記主張には理由がない。

(4)小括
相違点2については上記(2)及び(3)のとおりであって、本件発明1は、上記相違点2に係る本件発明1の構成を備えることにより、本件特許明細書に記載の「入出庫部3に人が居残っていることの見落としや第三者(次の利用者)による不用意な入出庫部5の閉鎖を未然に防止することが可能となる。その上、迅速な入出庫操作を行うことが可能となる」(段落【0086】という作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、その他の相違点を検討するまでもなく、甲1発明及び甲2技術事項ないし甲7技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに減縮した発明であるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲2ないし甲7技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本件発明9について
本件発明9は、方法の発明であるが、実質的には、本件発明1と同様の構成を有したものであり、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲2ないし甲7技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 まとめ
以上の通り、本件発明1ないし9は、甲1発明及び甲2ないし甲7技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反したものではない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-12-02 
出願番号 特願2015-139373(P2015-139373)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E04H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 土屋 保光  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 小林 俊久
大塚 裕一
登録日 2019-03-08 
登録番号 特許第6491557号(P6491557)
権利者 新明和工業株式会社
発明の名称 機械式駐車設備の安全確認装置及び安全確認方法  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  

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