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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G06Q
管理番号 1357712
異議申立番号 異議2019-700822  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-15 
確定日 2019-12-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6500962号発明「調剤情報管理システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6500962号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6500962号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成25年7月3日(優先権主張 平成24年7月6日)を国際出願日として出願した特願2014-523773号の一部を平成27年4月1日に特願2015-74766号として新たに出願し、さらにその一部を平成29年10月17日に出願したものであって、平成31年3月29日にその特許権の設定登録がされ、平成31年4月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年10月15日に特許異議申立人が特許異議の申立てを行ったものである。


2 本件発明
特許第6500962号の請求項1ないし4の特許に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明2」、・・・という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数のクライアント端末と、前記クライアント端末各々に通信可能に接続されるサーバ装置とを備えてなる調剤情報管理システムであって、
前記クライアント端末各々から送信される医薬品の調剤に関するインシデントの情報を蓄積記憶するインシデント情報記憶手段と、
入力された統計表示条件に従って前記インシデント情報記憶手段に記憶された前記インシデントの統計情報を出力する統計情報出力手段と、
を備え、
前記統計情報出力手段は、前記クライアント端末各々に接続された調剤機器の稼働状況を出力可能である調剤情報管理システム。

【請求項2】
前記調剤機器の稼働状況には、調剤作業のうち前記調剤機器で実行される工程の所要時間が含まれる、
請求項1に記載の調剤情報管理システム。

【請求項3】
前記統計表示条件は、前記インシデントが発生した調剤機器を含む、
請求項1又は2に記載の調剤情報管理システム。

【請求項4】
前記統計表示条件は、前記インシデントの内容、前記インシデントのレベル、前記インシデントの発生日時、前記インシデントが発生したときの薬剤師、及び前記インシデントが発生した店舗のいずれか一又は複数を含む、
請求項1?3のいずれかに記載の調剤情報管理システム。」


3 申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として特開2005-40214号公報(以下「甲1」という。)、並びに、従たる証拠として特開2004-30554号公報(以下「甲2」という。)、特開2003-104510号公報(以下「甲3」という。)、特開2004-157579号公報(以下「甲4」という。)、特開2009-187414号公報(以下「甲5」という。)、特開2009-48617号公報(以下「甲6」という。)及び特開2008-269354号公報(以下「甲7」という。)を提出し、請求項1ないし4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。


4 甲号証及び引用発明
(1)甲1(特開2005-40214号公報)
ア 甲1には、以下の事項が記載されている(下線は特許異議申立人が付した。以下同様。)。
(ア)「【請求項1】
薬剤を分配及び/又は包装する調剤動作を行う調剤装置において、前記調剤動作に関する調剤動作情報を記録するログ記録手段と、前記ログ記録手段にて記録された前記調剤動作情報を出力する出力手段とを備えることを特徴とする調剤装置。」
(イ)「【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の調剤装置と、前記調剤装置に所定の通信手段を介して接続されるサポートセンターコンピュータとを具備し、前記サポートセンターコンピュータは、前記調剤装置から前記調剤動作情報を取得することを特徴とする調剤情報取得システム。」
(ウ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、調剤装置及びそれを備えた調剤情報取得システムに関する。」
(エ)「【0017】
本発明に係る調剤情報取得システムにおいて、前記サポートセンターコンピュータは、前記調剤装置の前記ログ記録手段にて記録された前記調剤動作情報を集計し、該集計された集計結果を出力してもよい。こうすることで、前記本発明の調剤装置と同様、過去の調剤情報を知得でき、これにより、適切な種類や性能等の調剤装置の導入をユーザーに提案することができる。
【0018】
前記の薬剤としては、散薬、錠剤等を例示できる。本発明に係る調剤装置としては、散薬や錠剤等の薬剤を分配及び/又は包装する調剤動作を行う機能を有するものであれば、いずれのもの含み、例えば、散薬を分配する散薬分配装置、散薬を包装する散薬包装装置、散薬を分配及び包装する散薬分包装置、錠剤を分配する錠剤分配装置、錠剤を包装する錠剤包装装置、錠剤を分配及び包装する錠剤分包装置、散薬及び錠剤のうち少なくとも一方を分配する薬剤分配装置、散薬及び錠剤のうち少なくとも一方を包装する薬剤包装装置、並びに散薬及び錠剤のうち少なくとも一方を分配及び包装する薬剤分包装置などを挙げることができる。
【0019】
本発明に係る調剤装置が散薬や錠剤などの薬剤を分配及び/又は包装する調剤動作を行う場合、散薬や錠剤を処方箋に対応して分配したり、分配された薬剤を1分包ずつ自動的に包装したりすることができる。この場合、処方箋によっては、各分包において、散薬と錠剤とを1分包内で同時的に分包する同時分包を行ったり、散薬と錠剤とを交互に分包する交互分包を行ったり、錠剤のみを分包する錠剤分包を行ったり、或いは散薬のみを分包する散薬分包を行ったりすることができる。また、標準の速度で分包を行う場合やそれより遅い低速度で分包を行う場合もある。
【0020】
このような調剤装置において、前記調剤動作情報としては、それには限定されないが、前記同時分包の回数、前記交互分包の回数、前記錠剤分包の回数及び前記散薬分包の回数や、前記標準速度分包の回数、前記低速度分包の回数等を例示できる。
【0021】
本発明の調剤装置における集計手段及び本発明の調剤情報取得システムが行う集計としては、前記調剤動作情報の合計、例えば、前記同時分包毎の回数の合計、前記交互分包毎の回数の合計、前記錠剤分包毎の回数の合計、前記散薬分包毎の回数の合計や、前記標準速度分包毎の回数の合計、前記低速度分包毎の回数の合計、或いはその全体の総計に対する合計の割合を集計してもよいし、これらを日付単位や曜日単位で集計してもよい。また、総処方数、1日平均の処方数や平均包数を集計してもよい。また、本発明の調剤装置における出力手段及び本発明の調剤情報取得システムが行う出力では、これらの集計結果を棒グラフや円グラフ或いはレーダーチャート等で表示することができる。こうすることで、前記調剤動作情報の集計結果において、その動向や傾向が把握し易くなる。
【0022】
本発明の調剤装置における出力手段及び本発明の調剤情報取得システムが行う出力としては、ディスプレイ等の表示装置による表示や、プリンタ等の印刷装置による印刷等を例示できる。
【0023】
また、前記調剤動作情報には、前記調剤装置のトラブルの内容に対応するエラーコードを含んでいてもよい。この場合、本発明に係る調剤情報取得システムにおいて、前記サポートセンターコンピュータは、トラブルの内容を取得するにあたって、前記調剤装置から前記エラーコードを取得してもよい。前記調剤装置のトラブルとしては、例えば、前記錠剤分包の際のトラブル、前記散薬分包の際のトラブル、前記同時分包の際のトラブル、前記交互分包の際のトラブル、前記標準速度分包の際のトラブルや前記低速度分包の際のトラブル等を挙げることができる。
【0024】
本発明に係る調剤装置及び調剤情報取得システムにおいて、このエラーコードを集計することで、例えば、調剤装置のトラブルの多い発生箇所を知得したり、装置の信頼性、例えば、平均故障間隔(MTBF(Mean Time Between Failure))、平均修復時間(MTTR(Mean Time To Repair))などを知得したりすることができ、ひいては、これらの情報を次期開発機種等に反映させることができる。」
(オ)「【0027】
図1に示す薬剤分包装置10は、調剤部11、CPU(中央処理装置)12、記憶装置13、入力装置14及び表示装置15を備えている。」
(カ)「【0032】
図2に示す調剤情報取得システム100は、前記の薬剤分包装置10と、この薬剤分包装置10にインターネット30(通信手段の一例)を介して接続されるサポートセンターコンピュータ20とを備えている。」
(キ)「【0034】
サポートセンターコンピュータ20は、図示を省略したRAMやROM等の記録手段に記録された処理プログラムが実行される。この処理プログラムは、コンピュータ20を、前記薬剤分包装置10から前記調剤動作情報を取得する取得手段を含む手段として機能させるとともに、薬剤分包装置10のログ記録手段にて記録された前記調剤動作情報を集計する集計手段と、この集計手段にて集計された集計結果を表示装置15及び印刷装置23に出力する出力手段とを含む手段としても機能させるものである。」
(ク)「【0038】
図3(A)に示すように、薬剤分包装置10には、各日の調剤動作の回数について、同時分包(図中「同時」と記載)と、交互分包(図中「交互」と記載)と、錠剤分包(図中「錠」と記載)と、散薬分包(図中「散」と記載)とに分けられ、それらの合計である処方数が記録されているとともに、標準速度分包の回数及び低速度分包の回数が記録されている。また、図3(B)には、月の総処方数、1日平均の処方数、処方数を包数で割った平均包数及び総処方数に対する各分包の割合が百分率で表されている。」
(ケ)「【0041】
図2に示す調剤情報取得システム100では、図1に示す薬剤分包装置10にインターネット30を介して接続されるサポートセンターコンピュータ20が、薬剤分包装置10から前記調剤動作情報としてエラーコードを取得する。また、薬剤分包装置10から前記ログ記録手段にて記録された前記調剤動作情報も取得する。
【0042】
サポートセンターコンピュータ20は、エラーコードを取得するときは、サポートセンターのオペレータにユーザーの薬剤分包装置10にトラブルが発生したこと表示装置22に表示したり、警報音を鳴らしたりすることで知らせる。そっして、薬剤分包装置10にトラブルが発生したことを知ったオペレータは、取得したエラーコードからトラブルの内容を知り、例えば、薬剤分包装置10のユーザーに連絡して、トラブルの対処方法の指導を行ったり、サービスマンの派遣を行ったりする。
【0043】
一方、薬剤分包装置10の前記ログ記録手段にて記録された前記調剤動作情報を取得するときは、必要に応じて図3に示すような調剤動作情報を表示装置22や印刷装置23に出力する。また、該取得された調剤動作情報を集計し、該集計された集計結果を必要に応じて表示装置22や印刷装置23に出力する。
【0044】
図4(A)は図3(A)に示す日別の処方数を棒グラフで示したものであり、図4(B)は図3(A)に示す処方数を曜日別のレーダーチャートで示したものである。また、図5(A)は図3(B)に示す各分包の割合を立体円グラフで示したものであり、図5(B)は図3(B)に示す標準速度分包と低速度分包との割合を立体円グラフで示したものである。なお、この集計は、図1に示す薬剤分包装置10においても同様に行い、表示装置15に必要に応じて表示するようにしてもよい。」
(コ)「【0052】
さらに本発明によると、過去の調剤情報を知得でき、これにより、適切な種類や性能等の調剤装置の導入をユーザーに提案することができる調剤情報取得システムを提供することができる。」
(サ)図2からは、インターネット30には複数の薬剤分包装置10が接続され、薬剤分包装置10が、インターネット30に接続されたCPU12を備えることを読み取ることができる。


イ 上記アの記載からみて、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「複数の薬剤分包装置と、この薬剤分包装置にインターネットを介して接続されるサポートセンターコンピュータとを備え(摘記事項(カ)、(サ))、調剤分包装置のトラブル内容を示すエラーコードを集計することで、例えば、調剤装置のトラブルの多い発生箇所を知得したり、装置の信頼性、例えば、平均故障間隔(MTBF(Mean Time Between Failure))、平均修復時間(MTTR(Mean Time To Repair))などを知得したりすることができている調剤情報取得システムであって(摘記事項(エ))、
薬剤分包装置は、調剤部及びインターネットに接続されたCPUを備え(摘記事項(オ)(サ))、
サポートセンターコンピュータは、薬剤分包装置から調剤動作情報を取得する取得手段と、薬剤分包装置のログ記録手段にて記録された調剤動作情報を集計する集計手段と、この集計手段にて集計された集計結果を表示装置及び印刷装置に出力する出力手段とを含み(摘記事項(キ))、薬剤分包装置から調剤動作情報として、同時分包の回数、交互分包の回数、錠剤分包の回数及び散薬分包の回数、標準速度分包の回数、低速度分包の回数等、或いは、エラーコードを取得し(摘記事項(エ))、取得したエラーコードにより、サポートセンターのオペレータにユーザーの薬剤分包装置にトラブルが発生したことを表示装置に表示したり、警報音を鳴らしたりすることで知らせ、或いは、取得された調剤動作情報を集計し、該集計された集計結果を必要に応じて日別の処方数を棒グラフで示したものや処方数を曜日別のレーダーチャートで示したものを表示装置や印刷装置に出力する(摘記事項(ケ))
調剤情報取得システム」

(2)甲2(特開2004-30554号公報)
ア 甲2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の概要について説明する。本発明は、医療事故防止を目的とする分析・統計処理のため、病院、医療施設、介護施設内等の医療現場で発生した医療行為上の誤りに関する情報を、医療現場において携帯情報入力装置を用いて自動的に収集し、自動的に収集した情報を、別途収集されるインシデントレポート等の情報と統合して記録、管理するものである。」
(イ)「【0032】
次に、本発明の医療事故防止システムについて説明する。図4は、本発明の医療事故防止システムを応用した病院システムの一実施の形態の構成例を示している。同図に示すように、本実施の形態は、医療事故防止システム800と、各種検査の実施時のチェックおよびエラー情報の管理を行う検査システム801と、電子カルテの管理を行う電子カルテ管理システム802と、患者情報、患者数、看護度等の看護に関する事項を管理する入退院患者管理システム(看護支援システム)803と、各職員の勤務時間や勤務者数等の勤務状態を管理する勤務管理システム804と、検査予約、手術予約等のチェックを行い、エラー情報の管理を行うオーダリングシステム(オーダエントリシステム)805等により構成されている。
【0033】
本実施の形態は、病院内の医療事故防止システム800におけるインシデント情報(事故とならない未然情報)の収集の部分に、病院内で稼動している他のコンピュータシステム(例えば、オーダエントリシステム805、看護支援システム803、検査システム801等の院内コンピュータシステム)より、各コンピュータシステムに実装されている過誤防止機能によって検出されたエラー情報(インシデント情報)を、図示せぬ院内ネットワークを介して自動収集する機能、および、勤務管理システム804より医療従事者(職員)の勤務状態を自動収集する機能を設け、職員が医療行為を実施するときに発生した医療過誤に関するエラー情報(インシデント情報)を一元管理するとともに、インシデント発生時の勤務状態を定量的に管理するものである。」
(ウ)「【0036】
図5は、医療事故防止システム800が、オーダエントリシステム805からインシデント情報を収集する手順を示すフローチャートである。このオーダエントリシステム805は、医療行為防止機能を有している。この医療行為防止機能によって処理されたデータは、エラー管理機能に供給され、蓄積される。その出力はI/F機能で処理され、HL7形式に変換される。医療事故防止システム800に備えられたオーダエントリシステムI/F機能は、このHL7形式に変換されたエラー情報(インシデント情報)を後述するような手順で取り込み、医療事故防止システム800が管理する所定のデータ項目からなる内部フォーマットに変換する。」
(エ)「【0038】
一方、インシデント発生があったと判定された場合、ステップ11に戻り、ステップ11以降の処理が繰り返し実行されるとともに、ステップ14に進み、インシデント情報を出力し、ステップ15において、インシデント情報をHL7形式のデータに変換し、医療事故防止システム800に送信する。
【0039】
医療事故防止システム800においては、ステップ17において、医療事故防止システム800に備えられたオーダエントリシステムI/F機能により、オーダエントリシステム805から送信されてきたHL7形式のインシデント情報が取り込まれ、ステップ18において、HL7形式(HL7フォーマット)のインシデント情報が、内部フォーマットのデータに変換される。次に、ステップ19において、内部フォーマットに変換されたインシデント情報が、医療事故防止システム800が備えるインシデント情報登録機能に供給され、インシデント情報として、医療事故防止システム800が管理するインシデントデータベース(インシデントDB)810に登録される。次に、ステップ20において、職員により図示せぬ入力装置からインシデント情報に対して追加補足すべき詳細情報の入力が行われ、インシデントDB810に登録されたインシデント情報が更新される。」
(オ)「【0042】
以下、本実施の形態の具体的な動作について詳細に説明する。まず、オーダエントリシステム805の動作について、図6のフローチャートを参照して説明する。ここでは、オーダエントリシステム805において、与薬オーダエントリを実施する動作について説明する。
▲1▼患者Aに対してB薬剤の与薬指示入力を行う(ステップ21)。
▲2▼事前に患者Aに対して禁止薬剤として登録されている薬剤情報とのチェックを行う(ステップ22)。
▲3▼B薬剤が登録済禁止薬剤と合致したとき、オーダエントリシステム805では、与薬不可とされ、B薬剤の入力は実施できなくなる。また、このとき、インシデント発生と判断され、インシデント情報がファイル出力される(ステップ23)。
▲4▼インシデント情報として、患者ID、患者氏名、およびインシデント内容(本例では、与薬、指示、禁止薬剤、薬剤名、オーダミス、担当医名、日時)が標準フォーマットであるHL7準拠のフォーマットで出力される(ステップ23)。
オーダエントリシステム805から出力されたインシデント情報は、後述するように、医療事故防止システム800により定期的に取り込まれる。
【0043】
一方、医療事故防止システム800において行われるセーフティマネージメントシステム動作は、図6のフローチャートに従って実行される。
即ち、
▲1▼オーダインシデント情報の取り込み(ステップ24)
オーダエントリシステム805において作成されたインシデント情報を取り込む。
▲2▼インシデント情報の格納(ステップ25)
取り込んだインシデント情報を医療事故防止システム800内のインシデントDB810へ格納する。
▲3▼インシデント情報の詳細情報入力(ステップ26)
取り込んだインシデント情報に、インシデントの当事者が補足すべき項目(発生原因、発生要因、事象による影響等)を図示せぬ表示装置の専用画面から図示せぬ入力装置を用いて入力し、インシデントレポートを完成させ、インシデントDB810に登録する。」
(カ)「【0045】
しかも、各院内コンピュータシステムから取り込まれる情報には、オーダ情報、実施情報、勤務情報等があり、収集されたこれらの情報に対する総合的な分析が可能となる。これにより、分析結果に基づいてインシデント発生の防止に有効な対策を検討することができるという効果が得られる。
【0046】
また、院内コンピュータシステムでの事前防止情報(インシデント情報)を収集し、分析することにより、コンピュータシステムそのものの問題点が認識可能となることにより、コンピュータシステムの事故防止機能を充実させることが可能となる。」

イ 上記アの記載からみて、甲2には以下の事項(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されている。
「医療事故防止を目的とする分析・統計処理のため、病院、医療施設、介護施設内等の医療現場で発生した医療行為上の誤りに関する情報を、医療現場において携帯情報入力装置を用いて自動的に収集し、自動的に収集した情報を、別途収集されるインシデントレポート等の情報と統合して記録、管理する医療事項防止システムを応用した病院システムであって(摘記事項(ア))、
医療事故防止システムと、各種検査の実施時のチェックおよびエラー情報の管理を行う検査システムと、電子カルテの管理を行う電子カルテ管理システムと、患者情報、患者数、看護度等の看護に関する事項を管理する入退院患者管理システム(看護支援システム)と、各職員の勤務時間や勤務者数等の勤務状態を管理する勤務管理システムと、検査予約、手術予約等のチェックを行い、エラー情報の管理を行うオーダリングシステム(オーダエントリシステム)等により構成され(摘記事項(イ))、
病院内の医療事故防止システムにおけるインシデント情報(事故とならない未然情報)の収集の部分に、病院内で稼動している他のコンピュータシステム(例えば、オーダエントリシステム、看護支援システム、検査システム等の院内コンピュータシステム)より、各コンピュータシステムに実装されている過誤防止機能によって検出されたエラー情報(インシデント情報)を、院内ネットワークを介して自動収集する機能、および、勤務管理システムより医療従事者(職員)の勤務状態を自動収集する機能を設け、職員が医療行為を実施するときに発生した医療過誤に関するエラー情報(インシデント情報)を一元管理するとともに、インシデント発生時の勤務状態を定量的に管理し(摘記事項(イ))、
オーダエントリシステムは、医療行為防止機能を有し、この医療行為防止機能によって処理されたデータは、エラー管理機能に供給され、蓄積され、インシデント発生があったと判定された場合、インシデント情報を出力し、インシデント情報を医療事故防止システムに送信し(摘記事項(ウ))、
医療事故防止システムにおいては、オーダエントリシステムから送信されてきたインシデント情報が取り込まれ、インシデント情報が、医療事故防止システムが備えるインシデント情報登録機能に供給され、インシデント情報として、医療事故防止システムが管理するインシデントデータベース(インシデントDB)に登録され(摘記事項(エ))、
オーダエントリシステムにおいて、インシデント発生と判断されると、患者ID、患者氏名、およびインシデント内容(本例では、与薬、指示、禁止薬剤、薬剤名、オーダミス、担当医名、日時)がインシデント情報としてファイル出力されて、オーダエントリシステムから出力されたインシデント情報は、医療事故防止システムにより定期的に取り込まれ(摘記事項(オ))、
医療事故防止システムでは、オーダエントリシステムにおいて作成されたインシデント情報を取り込み、取り込んだインシデント情報を医療事故防止システム内のインシデントDBへ格納し、取り込んだインシデント情報に、インシデントの当事者が補足すべき項目(発生原因、発生要因、事象による影響等)を図示せぬ表示装置の専用画面から図示せぬ入力装置を用いて入力し、インシデントレポートを完成させ、インシデントDBに登録する、セーフティマネージメントシステム動作が実行される(摘記事項(オ))
病院システム」、及び、
「各院内コンピュータシステムから取り込まれる情報には、オーダ情報、実施情報、勤務情報等があり、収集されたこれらの情報に対する総合的な分析が可能となることにより、分析結果に基づいてインシデント発生の防止に有効な対策を検討することができるという効果が得られ、院内コンピュータシステムでの事前防止情報(インシデント情報)を収集し、分析することにより、コンピュータシステムそのものの問題点が認識可能となることにより、コンピュータシステムの事故防止機能を充実させることが可能となること(摘記事項(カ))」

(3)甲3(特開2003-104510号公報)
ア 甲3には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0038】メンテナンスシステム1は、具体的には、医療機関に配置された通信端末装置10と、サービス会社の各営業所に配置された通信端末装置20と、サービス会社の本拠地に配置された通信端末装置30と、サービス会社の本拠地に配置されたメンテナンスサーバ40と、を備えている。各通信端末装置10、20、30及びメンテナンスサーバ40は、インターネット50を介して、相互にデータの送受信を行うことができる。
【0039】通信端末装置10は、具体的には図2に示すように、インターネット50との間でデータの送受信を行うI/O(Input/Output)ポート11と、文章や記号等を入力するキーボード12と、ポインティングデバイスであるマウス13と、ワークエリアとしてデータを一時格納するRAM(Random Access Memory)14と、データの送受信や全体の動作を制御するCPU(Central Processing Unit)15と、CPU15の制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)16と、所定のアプリケーションプログラムや所定のデータ等を記憶したり読み出すハードディスクドライブ17と、送受信されるデータの内容等を表示するモニタ18と、を備えている。なお、通信端末装置20、30も、通信端末装置10と同様に構成されている。
【0040】ここで、医療機関に設置された通信端末装置10は、LAN(Local Area Network)80を介して、保管庫90や薬剤包装装置100等の医療用保管装置に接続されている。なお、薬剤包装装置100の詳細については後述する。」

イ 上記アの記載からみて、甲3には以下の事項(以下、「甲3記載事項」という。)が記載されている。
「医療機関に配置された通信端末装置とメンテナンスサーバとを備え、各通信端末装置及びメンテナンスサーバはインターネットを介して相互にデータの送受信を行い、通信端末装置はLANを介して薬剤包装装置等に接続されていることこと」及び
「通信端末装置10は、CPU(Central Processing Unit)がデータの送受信や全体の動作を制御すること」

(4)甲4(特開2004-157579号公報)
ア 甲4には、以下の事項が記載されている。
「【0101】
上述のように、調剤業務(ピッキング検品ソフトを含む)のプログラムソフトは、調剤過誤防止の観点からの作業追跡を可能とするように、各コンピュータ(ハンディターミナル)による入力時の各作業内容とその時刻データとを対にして記憶される時間軸添付型データとしての業務履歴データが記憶されているから、このプログラムソフトを利用すると、時間軸を1患者(1処方箋)毎について、(a).処方箋受付担当者の処方箋受付時刻とその所要時間
(b).処方箋入力担当者の処方箋入力開始時刻と所要時間及び入力データ
(c).処方箋入力鑑査担当者の鑑査開始時刻と所要時間及び入力データ
(d).ピッキング作業担当者のピッキング作業開始時刻と、ピッキング作業内容(薬剤毎のピッキング所要時間、調剤過誤の有無、内容を含む)
(e).ピッキング鑑査担当者の鑑査開始時刻とピッキング鑑査内容(ピッキングもれ、ピッキング数量ミスの発見等)と所要時間
(f).投薬・服薬指導担当者の指導開始時刻と所要時間
等のデータが得られる。」

イ 上記アの記載からみて、甲4には以下の事項(以下、「甲4記載事項」という。)が記載されている。
「1患者(1処方箋)毎に、ピッキング作業担当者のピッキング作業開始時刻と、ピッキング作業内容(薬剤毎のピッキング所要時間、調剤過誤の有無、内容を含む)等の時間軸でのデータが得られるように、入力時の各作業内容とその時刻データとを対に記憶される時間軸添付型データとして業務履歴データを記憶し、調剤過誤防止の観点からの作業追跡を可能とすること」

(5)甲5(特開2009-187414号公報)
ア 甲5には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0029】
たとえば、システム構成に関するマスタテーブルに、「装置名」を属性項目として「装置A」、「装置B」、「装置C」、「装置D」が登録されていたとする。ここで、「装置A」が指定キーワードに入力されると、マスタテーブル検索手段11aは、「装置A」が登録されているこのマスタテーブルと、このマスタテーブルにおいて「装置A」に対応する属性項目「装置名」と、を抽出する。検索キーワード抽出手段11bは、抽出されたマスタテーブルが1つであれば、属性項目「装置名」を分析用属性項目に設定し、このマスタテーブルにおいて属性項目「装置名」に含まれる「装置A」、「装置B」、「装置C」、「装置D」を検索キーワードとして抽出する。」
(イ)「【0111】
図20は、インシデント管理表示画面の一例を示した図である。インシデント管理表示画面701には、指定されたインシデントレコードが、情報項目ごとに表示されている。図の例では、インシデント番号欄7011、発生日時欄7012、受付日時欄7013、タイトル欄7014、内容欄7015、調査結果・原因欄7016、対処・回答欄7017、完了日時欄7018の情報項目表示欄に、それぞれの情報項目のテキストデータに基づく文字列が表示されている。図の例は、インシデントテーブル2100に格納されるインシデント番号が「THH000150」の情報である。
【0112】
利用者は、このインシデント管理表示画面701を確認し、各欄に表示された任意の語句をキーワードとして設定することができる。たとえば、コピー・アンド・ペースト機能により、語句を選択し、分析サーバ100が提供する分析用属性項目定義画面の該当箇所に設定する。ここでは、内容欄7015の「品川店」の文字列をコピー・アンド・ペーストによって指定キーワードに設定する場合について説明する。
【0113】
図21は、分析用属性項目定義画面の一例を示した図である。分析用属性項目定義画面702には、属性列番号欄7021、検索キーワード欄7022、属性列名称欄7023、及び検索対象範囲欄7024と、設定用ボタンである検索ボタン7025及びキャンセルボタン7026と、が表示される。
【0114】
属性列番号欄7021には、今回定義する属性項目を何番目の列に配置するかの設定が表示される。その時点で未使用の若い番号が自動的に設定されるとしてもよい。
検索キーワード欄7022には、設定された指定キーワードが表示される。ここでは、インシデント管理表示画面701からコピーした「品川店」が設定されたとする。検索キーワード欄7022が設定されると、「品川店」が登録されているマスタテーブルの属性項目(属性列)が検索される。」

イ 上記アの記載からみて、甲5には以下の事項(以下、「甲5記載事項」という。)が記載されている。
「検索キーワード欄に任意の語句(例えば、「装置A」や「装置B」などの装置名、或いは、「品川店」などの店舗名)を検索キーワードとして入力し、その語句を情報項目(例えば「内容欄」)に含むマスターテーブルのインシデントレコードを検索すること」

(6)甲6(特開2009-48617号公報)
ア 甲6には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0036】
具体的には、「指示者」は、指示を出した医療従事者であり、一般には医師であることが多い。指示者としては、医師を一意に識別するコードなどが登録される。「実施者」は、その指示を実施した医療従事者である。実施者としては、実施者を一意に識別するコードが登録される。例えば、処方指示であれば、実施者は薬剤師となり、その職員IDが登録される。「指示項目」は、指示者からの指示内容であって、ここにはその種別を識別するコードが登録されれば良い。「実施行為」は、指示項目に対する行為内容である。実施行為としては、大きな行為の分類を記憶すれば良い。この例では、処方指示に対して、調剤を行っているので、調剤が行為種別として記憶される。「実施詳細」は、実施行為の詳細な行為を記述したものである。例えば、薬剤師が調剤を行う為に、処方内容の確認、処方歴の確認、さらにカルテの確認を行った場合には、それらの行為種別を表す情報がすべて記憶される。「実施日時」は、実施者が、実施詳細を実施した日時である。「対象患者」は、行為の対象となった患者を一意に識別する情報が記録されれば良い。」
(イ)「【0042】
第1の実施形態によれば、行為登録部11は、医療行為の指示者、指示者の指示、指示項目に従って実施した実施者、実施者の行為に関する情報をそれぞれ含む複数のレコードを行為記憶部12に登録(入力)する。特異点抽出部13は、登録される複数のレコードのうち所定の指示者及び指示に関するレコードの数を、行為の種類別に計数する。特異点抽出部13は、計数されたレコードの数を統計的に分析し、所定の指示者及び指示に関する統計的に有意な情報を抽出する。レポート作成部14は、抽出された有意な情報に関するレポートを作成する。」

イ 上記アの記載からみて、甲6には以下の事項(以下、「甲6記載事項」という。)が記載されている。
「医師からの指示を実施する薬剤師等の実施者の職員IDが登録されること」及び
「医療行為の指示者、指示者の指示、指示項目に従って実施した実施者、実施者の行為に関する情報をそれぞれ含む複数のレコードの数を行為の種類別に計数し、計数されたレコードの数を統計的に分析し、所定の指示者及び指示に関する統計的に有意な情報を抽出すること」

(7)甲7(特開2008-269354号公報)
ア 甲7には、以下の事項が記載されている。
「【0011】
(手順1)インシデントを発見した発見者は、インシデント・アクシデントレポート入力装置S1を通じて、インシデントの発見情報の入力をする。この場合、図2に示すような発見情報の入力画面20が表示される。例えばこの発生情報の入力画面20上で発見者が、インシデントが発生したタスク22をプロセスマップ23上で選択し、患者への影響(インシデントレベル)を含む発見情報21を入力する。図3にインシデントレベルの定義例を示す。このインシデントレベルの定義例において、インシデントレベル0aは何らかの失敗(ここでは誤った医療行為)が実施される前に発見されたインシデントに相当し、レベル0b以降は、失敗が実際に起こってしまったインシデント・アクシデントに相当する。レベル0b以降のインシデントの内容は、後述する影響度と同じ情報である。」

イ 上記アの記載からみて、甲7には以下の事項(以下、「甲7記載事項」という。)が記載されている。
「入力画面上で患者への影響(インシデントレベル)を含む発見情報を発見者が入力すること」


5 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明と対比すると、次のことがいえる。
(ア)甲1発明は、複数の薬剤分包装置と、この薬剤分包装置にインターネットを介して接続されるサポートセンターコンピュータとを備える調剤情報取得システムである。
ここで、複数の薬剤分包装置とサポートセンターコンピュータとがインターネットを介して接続されているということは、サポートセンターコンピュータは薬剤分包装置個々に通信可能に接続されているといえる。
してみると、甲1発明の「複数の薬剤分包装置」、「サポートセンターコンピュータ」及び「調剤情報取得システム」は、本件発明1の「複数のクライアント端末」、「サーバ装置」及び「調剤情報管理システム」に対応し、本件発明1と甲1発明とは、「複数のクライアント端末と、前記クライアント端末各々に通信可能に接続されるサーバ装置とを備えてなる調剤情報管理システム」である点で一致する。
なお、甲1発明の薬剤分包装置が具備するCPUは薬剤分包装置を構成する一要素であって、CPU単体をもって端末とはなり得ないから、甲1発明の薬剤分包装置のCPUを本件発明のクライアント端末に対応するものと認めることはできない。

(イ)甲1発明のサポートセンターコンピュータは、薬剤分包装置から調剤動作情報を取得する取得手段を含み、該調剤動作情報はログ記憶手段に記録されるとともに、該調剤動作情報には調剤分包装置のトラブル内容を示すエラーコードが含まれる。
本件明細書における「インシデントとは、医薬品の調剤に関して事故には至っていないが事故に至る可能性があった事態を意味する。また、インシデントには、調剤に用いる各種の調剤機器で発生するインシデント(以下「機械的インシデント」と称する)、及び調剤作業者の人的ミスによって発生するインシデント(以下「ヒューマンインシデント」と称する)が含まれる。」(段落【0002】)との記載を参酌すると、甲1発明の調剤分包装置のトラブル内容を示すエラーコードは、「医薬品の調剤に関するインシデントの情報」であるといえる。
してみると、甲1発明の「エラーコード」及び「ログ記録手段」は、本件特許発明1の「医薬品の調剤に関するインシデントの情報」及び「インシデント情報記録手段」に対応し、本件発明1と甲1発明は、「前記クライアント端末各々から送信される医薬品の調剤に関するインシデントの情報を蓄積記憶するインシデント情報記憶手段」を備えている点で一致する。

(ウ)甲1発明では、薬剤分包装置のログ記録手段にて記録された調剤動作情報を集計する集計手段と、この集計手段にて集計された集計結果を表示装置及び印刷装置に出力する出力手段とを含み、薬剤分包装置から調剤動作情報としてエラーコードを取得し、サポートセンターのオペレータにユーザーの薬剤分包装置にトラブルが発生したことを表示装置に表示している。
このため、甲1発明の「表示装置」或いは「印刷装置」は、集計した結果を出力するとの機能からみて、本件発明1の「統計情報出力手段」に対応する。
ただし、甲1発明には集計手段による集計が如何なる条件にしたがって集計されるのかについての記載はなく、この点で相違があるといえる。
してみると、本件発明1と甲1発明は、「入力された統計表示条件に従って」は除き、「前記インシデント情報記憶手段に記憶された前記インシデントの統計情報を出力する統計情報出力手段」を備えている点で共通する。

(エ)甲1発明の「調剤部」と本件発明1の「調剤機器」とは、調剤を行うという機能の点で対応する。
ただし、本件発明1の調剤機器はクライアント端末各々に接続された調剤機器であるのに対して、甲1発明の調剤部は調剤分包装置が備える調剤部である点で、構成上の相違があるといえる。

(オ)甲1発明において表示装置或いは印刷装置が出力可能な情報は、同時分包の回数、交互分包の回数、錠剤分包の回数及び散薬分包の回数、標準速度分包の回数、低速度分包の回数等、或いは、エラーコード等の調剤動作情報或いはそれを集計した結果であり、調剤装置のトラブルの多い発生箇所或いは平均故障間隔(MTBF(Mean Time Between Failure))や平均修復時間(MTTR(Mean Time To Repair))などの装置の信頼性が知得できる情報であって、必要に応じて日別の処方数を棒グラフで示したものや処方数を曜日別のレーダーチャートで示したものである。
これに対して、本件発明1の調剤機器の稼働状況について、本件明細書の【0093】ないし【0104】及び図16には、クライアント端末が設置された薬局などにおける調剤作業の各工程の所要時間、例えば、錠剤分包機、散薬分包機、ピッキング補助装置などの調剤機器各々のうち最初に調剤データが入力された時刻と最後に調剤が完了した調剤機器における調剤完了時刻とに基づいて算出された時間を調剤機器各々の稼働状況として取得・表示させ、薬局等に新たに調剤機器を設置することが望ましいこと等を把握することができるようにした実施例が開示されている。
本件明細書に開示された実施の態様はこの実施例のみであって、本件発明1の調剤機器の稼働状況が「薬局等に新たに調剤機器を設置することが望ましいこと等を把握する」ことを期待したものであることに鑑みれば、本件発明1の「調剤機器の稼働状況」は、調剤機器各々における調剤データが入力されてから調剤が完了するまでの時間などの薬局等に新たに調剤機器を設置することが望ましいこと等が把握可能なものであると解するのが妥当である。
そして、上記のとおり、甲1発明において表示装置或いは印刷装置が出力可能な情報は、時分包の回数、交互分包の回数、錠剤分包の回数及び散薬分包の回数、標準速度分包の回数、低速度分包の回数等、或いは、エラーコード等の調剤動作情報或いはそれを集計した結果であって、これらは調剤装置のトラブルの多い発生箇所或いは平均故障間隔(MTBF(Mean Time Between Failure))や平均修復時間(MTTR(Mean Time To Repair))などの装置の信頼性が知得できるものであって、薬局等に新たに調剤機器を設置することが望ましいこと等が把握可能なものとはいえない。
してみると、甲1発明の表示装置或いは印刷装置は、「調剤機器の稼働状況」を出力可能であるとはいえず、この点に相違がある。

イ 一致点及び相違点
以上を踏まえると、本件発明1と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。

(ア)一致点
複数のクライアント端末と、前記クライアント端末各々に通信可能に接続されるサーバ装置とを備えてなる調剤情報管理システムであって、
前記クライアント端末各々から送信される医薬品の調剤に関するインシデントの情報を蓄積記憶するインシデント情報記憶手段と、
前記インシデント情報記憶手段に記憶された前記インシデントの統計情報を出力する統計情報出力手段と、
を備える調剤情報管理システム。

(イ)相違点
(相違点1)
本件発明1の「統計情報出力手段」は、「入力された統計表示条件に従って」「インシデントの統計情報を出力する」のに対して、甲1発明では、何に従って集計して出力しているのかが特定されていない点。
(相違点2)
本件発明1の「調剤機器」は、「前記クライアント端末各々に接続された調剤機器」であるのに対して、甲1発明はこのような構成とはなっていない点。
(相違点3)
本件発明1の「統計情報出力手段」は、「調剤機器の稼働状況」を出力可能である」にの対して、甲1発明はこのような構成とはなっていない点。

ウ 相違点についての判断
本件における事案に鑑み、相違点2及び3について検討する。

(ア)相違点2について
調剤機器をクライアント端末各々に接続することは、甲2ないし7記載事項を参酌しても、公知な事項であるとは認められない。
また、甲1発明において、調剤機器をクライアント端末各々に接続されたものとして、クライアント端末と調剤機器とを別構成とする動機づけも、甲1に記載も示唆もされていない。
このため、相違点2に関して、甲1発明の調剤機器を「クライアント端末各々に接続された調剤機器」とすることは、当業者が容易になし得る事項であるとは認められない。

(イ)相違点3について
上記ア(オ)に記載したとおり、本件発明1の調剤機器の稼働状況について、本件明細書の【0093】ないし【0104】及び図16には、クライアント端末が設置された薬局などにおける調剤作業の各工程の所要時間、例えば、錠剤分包機、散薬分包機、ピッキング補助装置などの調剤機器各々のうち最初に調剤データが入力された時刻と最後に調剤が完了した調剤機器における調剤完了時刻とに基づいて算出された時間を調剤機器各々の稼働状況として取得・表示させ、薬局等に新たに調剤機器を設置することが望ましいこと等を把握することができるようにした実施例が開示されている。
本件明細書に開示された実施の態様はこの実施例のみであって、本件発明1の調剤機器の稼働状況が「薬局等に新たに調剤機器を設置することが望ましいこと等を把握する」ことを期待したものであることに鑑みれば、本件発明1の「調剤機器の稼働状況」は、調剤機器各々における調剤データが入力されてから調剤が完了するまでの時間などの薬局等に新たに調剤機器を設置することが望ましいこと等が把握可能なものであると解するのが妥当である。
これに対して、甲1発明において表示装置或いは印刷装置が出力可能な情報は、時分包の回数、交互分包の回数、錠剤分包の回数及び散薬分包の回数、標準速度分包の回数、低速度分包の回数等、或いは、エラーコード等の調剤動作情報或いはそれを集計した結果であって、これらは調剤装置のトラブルの多い発生箇所或いは平均故障間隔(MTBF(Mean Time Between Failure))や平均修復時間(MTTR(Mean Time To Repair))などの装置の信頼性が知得できるものであり、薬局等に新たに調剤機器を設置することが望ましいこと等が把握可能なものとはいえない。
また、甲4には、1患者(1処方箋)毎に、ピッキング作業担当者のピッキング作業開始時刻と、ピッキング作業内容(薬剤毎のピッキング所要時間、調剤過誤の有無、内容を含む)等の時間軸でのデータが得られるように、入力時の各作業内容とその時刻データとを対に記憶される時間軸添付型データとして業務履歴データを記憶し、調剤過誤防止の観点からの作業追跡を可能とすることが記載されているものの、該データは1患者(1処方箋)毎のデータであって、調剤過誤を防止するためのものであって、薬局等に新たに調剤機器を設置することが望ましいこと等の把握が可能なものではない。
さらに、甲2、3、5及び6にも「調剤機器の稼働状況」を出力することについて、開示も示唆もされていない。
また、甲1発明では、薬局等に新たに調剤機器を設置することが望ましいこと等の把握を可能とするは想定していないことから、甲1発明において「調剤機器の稼働状況」を出力する構成を設ける動機付けが認められない。
してみると、相違点3に関して、甲1発明において、「調剤機器の稼働状況」を出力可能とすることは、当業者が容易になし得る事項であるとは認められない。

エ 小括
以上のとおり、相違点1について検討するまでもなく、相違点2及び3に係る本件発明1の構成は、甲1発明並びに甲2ないし7記載事項から容易になし得るものとは認められないことから、本件発明1は甲1発明及び甲2ないし7記載事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、請求項1に係る発明に対して、さらに、「前記調剤機器の稼働状況には、調剤作業のうち前記調剤機器で実行される工程の所要時間が含まれる」という技術的事項を追加したものである。
よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2は、甲1発明及び甲2ないし7記載事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2に対して、さらに、「前記統計表示条件は、前記インシデントが発生した調剤機器を含む」という技術的事項を追加したものである。
よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明3は、甲1発明及び甲2ないし7記載事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1?3のいずれかの発明に対して、さらに、「前記統計表示条件は、前記インシデントの内容、前記インシデントのレベル、前記インシデントの発生日時、前記インシデントが発生したときの薬剤師、及び前記インシデントが発生した店舗のいずれか一又は複数を含む」という技術的事項を追加したものである。
よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明4は、甲1発明及び甲2ないし7記載事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし4は、甲1発明及び甲2ないし7記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-12-11 
出願番号 特願2017-201086(P2017-201086)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G06Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 青柳 光代  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 松田 直也
佐藤 聡史
登録日 2019-03-29 
登録番号 特許第6500962号(P6500962)
権利者 株式会社湯山製作所
発明の名称 調剤情報管理システム  
代理人 種村 一幸  
代理人 華山 浩伸  

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