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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A42B |
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管理番号 | 1357948 |
審判番号 | 不服2019-4526 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-04-05 |
確定日 | 2020-01-09 |
事件の表示 | 特願2017-97419「滑動促進部がエネルギー吸収層に配置されたヘルメット」拒絶査定不服審判事件〔平成29年9月14日出願公開、特開2017-160589、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成23年5月3日(パリ条約による優先権主張2010年5月7日 スウェーデン、2010年5月12日 米国)を国際出願日とする特願2013-509029号の一部を平成29年8月29日に新たな出願とした特願2016-167357号の一部を、さらに平成29年5月16日に新たな出願としたものであって、平成30年4月27日付けで拒絶理由が通知され、平成30年7月24日(受付日)で意見書及び手続補正書が提出され、平成30年8月29日付けで拒絶理由(最後)が通知され、平成30年11月29日(受付日)で意見書が提出されたが、平成30年12月13日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、平成31年4月5日(受付日)に本件拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。 2.原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。 平成30年8月29日付け拒絶理由(最後)で通知した理由、すなわち、本願請求項1?6に係る発明は、以下の引用文献1?3に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1:特開2001-295129号公報 2:登録実用新案第3131987号公報 3:登録実用新案第3106274号公報 3.審判請求時に補正された請求項1?5に係る発明 審判請求時の手続補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 そして、以下に示すように、補正後の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、いわゆる独立特許要件を満たすものである。 本願発明1?5は、審判請求時、すなわち平成30年4月5日(受付日)の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 エネルギー吸収層(2)と、 着用者の頭部の上に装着するために設けられた布又は網の帽子(3)であって、前記帽子(3)は、少なくとも1つの固定部材(4)によって、前記エネルギー吸収層(2)に固定されている、布又は網の帽子(3)と、 滑動促進部(5)であって、前記滑動促進部(5)は、前記帽子(3)に固定されているか、又は、前記帽子(3)は、前記滑動促進部(5)として作用するように適合されており、前記滑動促進部(5)は、衝撃の間に、前記エネルギー吸収層(2)と前記帽子(3)との間の滑動を可能にするように構成されている、滑動促進部(5)と を含むヘルメット。 【請求項2】 前記ヘルメットが、前記エネルギー吸収層(2)の外側に配置されている外側シェル(1)をさらに含む、請求項1に記載のヘルメット。 【請求項3】 前記帽子(3)が、前記固定部材(4)によって、前記外側シェル(1)に固定されている、請求項2に記載のヘルメット。 【請求項4】 前記固定部材(4)が、弾性的に、半弾性的に、又は塑性的に変形することによって、エネルギー及び力を吸収することができる、請求項3に記載のヘルメット。 【請求項5】 前記固定部材(4)が、第1の部分(8)及び第2の部分(9)を有する少なくとも1つのサスペンション部材(4)を含み、前記サスペンション部材(4)の前記第1の部分(8)は、前記帽子(3)に固定されるように適合されており、前記サスペンション部材(4)の前記第2の部分(9)は、前記エネルギー吸収層(2)に固定されるように適合されている、請求項3又は4に記載のヘルメット。」 4.引用文献、引用発明等 (1)引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2001-295129号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「【請求項2】シェルの内側に衝撃吸収ライナが嵌装されたヘルメットにおいて、上記衝撃吸収ライナが外側ライナと内側ライナとに分割され、それら外側ライナと内側ライナの間に、シェルの外表面に沿う方向の成分を有する衝撃力を吸収する弾性体の層が設けられたことを特徴とするヘルメット。」 イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、自動二輪車、競技用自動車等の車両の乗員が使用するヘルメットに関するものである。 【0002】 【従来の技術】従来のヘルメットとして、たとえば特開平6-240508号公報に示されたものがある。これはシェルとその内部に嵌装された衝撃吸収ライナとの間、または二層に分割された衝撃吸収ライナの間に、強化用繊維からなる補強布を介在、固着したヘルメットであって、シェルの肉厚を増加させることなく、衝撃吸収性能の改善を図ったものである。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】ここでヘルメットにかかる衝撃荷重について分析してみると、ヘルメットの中心方向の荷重と、中心からオフセットされた接続方向への荷重(回転成分)とに大別されるが、従来のものは、その双方をライナの変形等で衝撃吸収していた。 【0004】本発明は、衝撃の回転成分を効果的に吸収するヘルメットを提案するものである。」 ウ 「【0013】 【発明の実施の形態1】図1は本発明の一実施形態を示す縦断側面図である。ヘルメット10はFRP製のシェル11とこのシェル11の内側に嵌装された発泡スチレン製の衝撃吸収ライナ12を備えている。上記衝撃吸収ライナ12は発泡倍数の異なる外側ライナ13と内側ライナ14の2層に分割され、互いに接着されている。本実施形態では、シェル11と外側ライナ13との間に吸収性弾性体の層15が設けられて、外側のシェル11と内側の外側ライナ13に接着される。 【0014】本実施形態のヘルメットはこのように構成されていて、着用者の頭部とシェル11とが固定されないので、外部からヘルメット10に衝撃力が働いた時、併進加速度、すなわちシェル11の外表面に垂直な加速度成分だけでなく、回転加速度、すなわちシェル11の外表面に沿う方向の加速度成分も吸収される。 【0015】前記吸収性弾性体15としては、グリス状物質やゲル状物質、特にβゲル、NPゲル(いずれも株式会社シーゲルの登録商標)、発泡ゲル等を用いることができる。これは後述する他の実施形態でも同様である。」 エ 「【0016】 【発明の実施の形態2】図2は本発明の第2の実施形態を示す縦断側面図である。ヘルメット20はナイロンを射出成形して製作したシェル21とこのシェル21の内側に嵌装・接着された発泡スチレン製の衝撃吸収ライナ22を備えている。上記衝撃吸収ライナ22は、球面26に沿う分割面で外側ライナ23と内側ライナ24の2層に分割されている。本実施形態では、外側ライナ23と内側ライナ24の間に吸収性弾性体の層25が設けられ、両側の衝撃吸収ライナ23,24に接着される。 【0017】本実施形態においても、ヘルメット着用者の頭部とシェル21とが固定されないので、ヘルメットに外部から衝撃力が加わった時、その併進成分すなわちシェル21の外表面に垂直な成分だけでなく、回転成分すなわちシェル外表面に沿う方向の成分も吸収される。また本実施形態では、外側ライナ23と内側ライナ24の分割面が球面であり、その球面に沿って吸収性弾性体の層25が設けられているので、外側ライナ23と内側ライナ24とが互いに滑りやすく、回転方向の自由度が大きくなって、衝撃力の回転成分が吸収されやすくなっている。」 オ 「【0021】 【発明の実施の形態4】図4は本発明の第4の実施形態を示す縦断側面図である。ヘルメット40はシェル41と、このシェル41の内側に嵌装・接着された衝撃吸収ライナ42を備えている。上記衝撃吸収ライナ42は球面46に沿う分割面で外側ライナ43と内側ライナ44に分割されており、その間に吸収性弾性体の層45が配されて、外側ライナ43と内側ライナ44に接着されている。本実施形態では、外側ライナ43の一部に凹部43aが設けられ、同凹部43aと向き合う内側ライナ44の部分に設けられた凸部44bが同凹部43aに嵌入されている。 【0022】本実施形態はこのように構成されているので、平常時は内側ライナ44が外側ライナ43に固定されて、吸収性弾性体による不要な動きが規制されるが、シェル41の外表面に沿う方向の成分をもつ衝撃力が働いた時は、凸部44bが折れて可動となり、衝撃力成分が吸収される。その他、前記第2の実施形態の効果がすべて奏せられる。 【0023】上記例では外側ライナ43に凹部43a,内側ライナ44に凸部44aが設けられているが、これを逆にして、内側ライナ44に凹部、外側ライナ43に凸部を設けるようにしてもよい。また凸部と凹部の組合せを複数組設けることもできる。」 カ 「【図4】 」 キ 上記発明の実施の形態2は、「外側ライナ23と内側ライナ24の分割面が球面であり、その球面に沿って吸収性弾性体の層25が設けられているので、外側ライナ23と内側ライナ24とが互いに滑りやすく、回転方向の自由度が大きくなって、衝撃力の回転成分が吸収されやすくなっている。」(段落【0017】)ところ、発明の実施の形態4も、「衝撃吸収ライナ42は球面46に沿う分割面で外側ライナ43と内側ライナ44に分割されており、その間に吸収性弾性体の層45が配されて」(段落【0021】)いるものであるから、発明の実施の形態4のものにおいても、「外側ライナ」と「内側ライナ」とは、互いに滑りやすく、回転方向の自由度が大きくなって、衝撃力の回転成分が吸収されやすくなっているものといえる。 (2)引用文献1に記載された発明 引用文献1には、特に発明の実施の形態4について、次の「引用発明」が記載されている。 「ヘルメットは、シェルと、このシェルの内側に嵌装・接着された衝撃吸収ライナを備え、上記衝撃吸収ライナは球面に沿う分割面で外側ライナと内側ライナに分割されており、その間に吸収性弾性体の層が配されて、外側ライナと内側ライナに接着されており、 吸収性弾性体の層により、外側ライナと内側ライナとが互いに滑りやすく、回転方向の自由度が大きくなって、衝撃力の回転成分が吸収されやすくなっており、 外側ライナの一部に凹部が設けられ、同凹部と向き合う内側ライナの部分に設けられた凸部が同凹部に嵌入され、 シェルの外表面に沿う方向の成分をもつ衝撃力が働いた時は、凸部が折れて可動となり、衝撃力成分が吸収される、ヘルメット。」 5.対比・判断 (1)本願発明1について ア 本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「外側ライナ」は、「衝撃吸収ライナ42」を分割したもの(段落【0021】)であり、衝撃吸収するもの、すなわち衝撃エネルギーを吸収するものであるといえるから、本願発明1の「エネルギー吸収層(2)」に相当する。 また、引用発明の「吸収性弾性体の層」は、「内側ライナ」に接着され、「外側ライナと内側ライナとが互いに滑りやすく、回転方向の自由度が大きくなって、衝撃力の回転成分が吸収されやすく」するものであるから、本願発明1の、帽子(3)に固定される「滑動促進部(5)」に相当する。 さらに、引用発明の「内側ライナ」と本願発明1の「布又は網の帽子(3)」は、着用者の頭部の上に装着される部材という限りにおいて一致し、引用発明の「外側ライナの一部に凹部が設けられ、同凹部と向き合う内側ライナの部分に設けられた凸部」は、本願発明1の「固定部材(4)」に相当する。 したがって、本願発明1と引用発明とは、 「エネルギー吸収層と、 着用者の頭部の上に装着される部材は、少なくとも1つの固定部材によって、前記エネルギー吸収層に固定されており、 滑動促進部は、着用者の頭部の上に装着される部材に固定され、衝撃の間に、前記エネルギー吸収層と前記着用者の頭部の上に装着される部材との間の滑動を可能にするように構成されている、ヘルメット。」 で一致し、次の相違点で相違する。 (相違点)着用者の頭部の上に装着される部材について、本願発明1は「布又は網の帽子」であるのに対し、引用発明は「内側ライナ」である点。 イ そこで、上記相違点について検討する。 ヘルメットの内側に、着用者の頭部の上に装着される、布等からなる帽子を固定することは、引用文献2及び引用文献3に記載されている。 しかし、引用文献1には、「ヘルメット10はFRP製のシェル11とこのシェル11の内側に嵌装された発泡スチレン製の衝撃吸収ライナ12を備えている。上記衝撃吸収ライナ12は発泡倍数の異なる外側ライナ13と内側ライナ14の2層に分割され、互いに接着されている。」(段落【0013】)と記載され、この衝撃吸収ライナの機能について、「ヘルメットにかかる衝撃荷重について分析してみると、ヘルメットの中心方向の荷重と、中心からオフセットされた接続方向への荷重(回転成分)とに大別されるが、従来のものは、その双方をライナの変形等で衝撃吸収していた。」(段落【0003】)と記載されていることからすると、引用発明の「内側ライナ」は、特にヘルメットの中心方向の荷重について、「外側ライナ」とともに、変形等により衝撃吸収するものと理解できる。 そうすると、発泡スチレンのようなクッション性のある材料で形成することにより衝撃吸収する「内側ライナ」を、発泡スチレン程、クッション性を期待できるとはいえない、布や網からなる帽子に換える動機付けがあるとはいえず、仮に換えたとしても、クッション性のある材料で形成することで発揮できた衝撃吸収に係る上記機能が、発揮できなくなるという阻害事由が存在する。 よって、本願発明1の上記相違点に係る構成は、引用発明、並びに引用文献2及び引用文献3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 なお、原査定において示された引用文献4(特開2006-312798号公報)も、ヘルメットの内側に、着用者の頭部の上に装着される、布等からなる帽子を固定することを示すにすぎないものであり、引用発明の「内側ライナ」を布等の帽子に換える動機付けについては記載されておらず、この引用文献4の技術的事項を引用発明に適用する場合においても、上記阻害事由が存在する。 ウ 以上より、本願発明1は、引用発明、並びに引用文献2及び引用文献3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではないから、独立特許要件を満たすものである。 (2)本願発明2?5について 本願発明2?5は、いずれも、本願発明1の上記相違点に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、本願発明2?5は、引用発明、並びに引用文献2及び引用文献3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではないから、独立特許要件を満たすものである。 6.原査定について 上記のとおり、審判請求時の補正は認められるから、本願発明1?5は、「前記帽子(3)は、少なくとも1つの固定部材(4)によって、前記エネルギー吸収層(2)に固定されている、布又は網の帽子(3)と、」の事項を備えるものとなっており、原査定の理由により、本願発明1?5を容易に発明できたものとすることはできない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 7.むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-12-17 |
出願番号 | 特願2017-97419(P2017-97419) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A42B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 木原 裕二、西田 侑以、藤井 眞吾 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
佐々木 正章 井上 茂夫 |
発明の名称 | 滑動促進部がエネルギー吸収層に配置されたヘルメット |
代理人 | 特許業務法人浅村特許事務所 |