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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B
管理番号 1358138
審判番号 不服2018-4728  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-06 
確定日 2019-12-12 
事件の表示 特願2016-162615「導電性基板を製造するための銅ナノ粒子分散体、及び導電性基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月26日出願公開、特開2017- 22125〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成26年4月28日に出願した特願2014-92473号の一部を平成28年8月23日に新たに特許出願したものであって、平成29年8月31日付け拒絶理由通知に対して同年10月16日付けで手続補正がなされたが、平成30年1月16日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年4月6日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされ、平成31年4月2日付け当審の拒絶理由通知に対して令和1年6月5日付けで手続補正がなされたものである。


2 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、令和1年6月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項9に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項9】
ノナン酸及びデカン酸よりなる群から選ばれるカルボン酸と、ヘキシルアミン、3-メトキシプロピルアミン及び3-エトキシプロピルアミンよりなる群から選ばれる一級又は二級アミノ基を有しヒドロキシ基を含まないアルキルアミンで被覆された銅ナノ粒子が、高分子分散剤と、溶剤に分散されており、前記高分子分散剤は、酸価が47?129mgKOH/g、アミン価が0mgKOH/gであり、動的光散乱法による体積平均粒径が500nm以下である、導電性基板を製造するための銅ナノ粒子分散体。」


3 平成31年4月2日付け当審の拒絶理由通知の概要
この出願の請求項1ないし4、7ないし10、13ないし16に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記の引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、この出願の請求項1ないし16に係る発明は、その出願前日本国において頒布された下記引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献:特開2010-229544号公報


4 引用文献
平成31年4月2日付け当審の拒絶理由通知で引用された上記引用文献には、「金属コロイド粒子及びそのペースト並びにその製造方法」について、以下の事項が記載されている。なお、下線部は当審で付与した。

ア.「【0016】
[金属コロイド粒子]
本発明の金属コロイド粒子は、金属ナノ粒子(A)と、分散剤(B)とで構成されている。
【0017】
(金属ナノ粒子(A)
金属ナノ粒子(A)を構成する金属(金属原子)としては、例えば、遷移金属(例えば、チタン、ジルコニウムなどの周期表第4A族金属;バナジウム、ニオブなどの周期表第5A族金属;モリブデン、タングステンなどの周期表第6A族金属;マンガンなどの周期表第7A族金属;鉄、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、イリジウム、白金などの周期表第8族金属;銅、銀、金などの周期表第1B族金属など)、周期表第2B族金属(例えば、亜鉛、カドミウムなど)、周期表第3B族金属(例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウムなど)、周期表第4B族金属(例えば、ゲルマニウム、スズ、鉛など)、周期表第5B族金属(例えば、アンチモン、ビスマスなど)などが挙げられる。金属は、周期表第8族金属(鉄、ニッケル、ロジウム、パラジウム、白金など)、周期表第1B族金属(銅、銀、金など)、周期表第3B族金属(アルミニウムなど)及び周期表第4B族金属(スズなど)などであってもよい。なお、金属(金属原子)は、分散剤(B)に対する配位性の高い金属、例えば、周期表第8族金属、周期表第1B族金属などである場合が多い。
【0018】
金属ナノ粒子(A)は、前記金属単体、前記金属の合金、金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物、金属炭化物、金属窒化物、金属ホウ化物などであってもよい。これらの金属ナノ粒子(A)は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。金属ナノ粒子(A)は、通常、金属単体粒子、又は金属合金粒子である場合が多い。なかでも、金属ナノ粒子(A)を構成する金属は、少なくとも銀などの貴金属(特に周期表第1B族金属)を含む金属(金属単体及び金属合金)、特に貴金属単体(例えば、銀単体など)であるのが好ましい。」

イ.「【0019】
金属ナノ粒子(A)はナノメーターサイズである。例えば、本発明の金属コロイド粒子における金属ナノ粒子(A)の数平均粒子径(数平均一次粒子径)は50nm以下(例えば、1?50nm)、好ましくは1.5?45nm、さらに好ましくは2?40nm(特に5?40nm)程度であってもよく、通常10?40nm(例えば、20?35nm)程度であってもよい。
【0020】
また、金属ナノ粒子(A)は、前記数平均粒子径を有するとともに、後述するように200nm以下の範囲で広い粒度分布を示すが、200nmを超える粗大粒子をほとんど含んでいなくてもよい。そのため、前記金属ナノ粒子(A)の最大一次粒子径は、例えば、200nm以下、好ましくは100?200nm、さらに好ましくは120?200nm(特に150?200nm)の範囲にあってもよい。」

ウ.「【0021】
(分散剤(B))
分散剤(B)は、金属ナノ粒子表面を被覆していてもよく、金属ナノ粒子表面に対して親和性の又は結合可能な官能基を有する凝集助剤(B1)と、高分子分散剤(B2)とで構成されている。
【0022】
(B1)凝集助剤(低分子凝集助剤)
凝集助剤(B1)は、金属ナノ粒子に作用して溶媒中で、後述する高分子分散剤によるコロイド粒子の分散性を制御する成分、例えば、低分子の有機化合物であり、かつ金属ナノ粒子に対して物理的又は化学的に親和性を有するか又は結合(水素結合、イオン結合、配位結合などの化学結合など)可能な部位を有する成分であればよい。特に、溶媒中で、金属ナノ粒子の成長(粒径の増大)を抑制しつつ、コロイド粒子の凝集を適度に促進するためには、低分子の凝集助剤が金属ナノ粒子の表面に配位して結合するのが好ましい。そのため、好ましい凝集助剤は金属ナノ粒子に配位する親和性化合物又は配位性化合物ということもできる。
・・・(中略)・・・
【0026】
このような官能基を有する凝集助剤のうち、金属ナノ粒子を被覆する凝集助剤としては、窒素原子を有する基、ヒドロキシル基及びカルボキシル基からなる群から選択された少なくとも一種の官能基を有する化合物が好ましい。このような化合物には、アミン類、アミド類、ヒドロキシ化合物、カルボン酸類などが含まれる。
【0027】
(アミン類)
アミン類は、モノアミン類、ポリアミン類を含み、さらに第1級?第3級アミンに分類される。
【0028】
モノアミン類のうち、第1級アミンとしては、例えば、モノアルキルアミン類[例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン(n-オクチルアミン、2-エチルへキシルアミンなど)、ノニルアミン、デシルアミンなどのC1-10アルキルアミンなど]、アルカノールアミン[例えば、モノエタノールアミン(2-アミノエチルアルコール)、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ブタノールアミン、ヘキサノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールなどのモノC2-6アルカノールアミン又はこれらのエチレンオキサイド付加体など]、シクロアルキルアミン類(例えば、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミンなどのC4-10シクロアルキルアミン)、アリールアミン類(例えば、アニリン、トルイジン、アニシジン、フェネチジン、アミノナフタレンなどのC6-10アリールアミン)、アラルキルアミン類(例えば、ベンジルアミンなど)などが挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0037】
(カルボン酸類)
カルボン酸類には、例えば、モノカルボン酸、ポリカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸(又はオキシカルボン酸)、フェノール性水酸基を有するカルボン酸、アミノカルボン酸などが含まれる。
・・・(中略)・・・
【0042】
アミノカルボン酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、アミノヘプタン酸、アミノノナン酸などのC_(2-10)アミノカルボン酸、N-メチルアミノ酢酸、N,N-ジメチルアミノ酢酸、N,N-ジメチルアミノプロピオン酸、N,N-ジメチルアミノ酪酸などのC_(1-4)アルキルC_(2-10)アミノカルボン酸などが挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0047】
凝集助剤(B1)は、同種の化合物だけでなく、異種の化合物の組み合わせであってもよいが、カルボン酸のカルボキシル基が金属ナノ粒子との親和性が高いため、少なくともカルボン酸類を含むのが好ましい。カルボン酸類は、単独であってもよく、他の凝集助剤、例えば、アミン類(例えば、ジメチルアミンやオクチルアミンなどのC_(1-10)アルキルアミン、N-メチルジエタノールアミンやN,N-ジメチルエタノールアミンなどのC_(1-3)アルキルC_(2-6)アルカノール第3級アミンなど)、アミド類(例えば、N,N-ジメチルホルムアミドなど)、ヒドロキシ化合物(例えば、エタノールなどのC_(1-4)アルカノールなど)などとの組み合わせであってもよい。
【0048】
さらに、凝集助剤(B1)は、コロイド粒子の製造工程において、生成するコロイド粒子が溶媒中で凝集し、かつ焼結膜の形成において、低温で分解して焼結サイトを形成できる点から、炭素数が1?18、好ましくは1?10、さらに好ましくは1?6(特に1?4)程度が好ましい。このような凝集助剤は、焼成温度で金属粒子から脱離又は消失し、焼結サイトを形成することにより金属膜の連続性及び導電性を向上できる。」

エ.「【0051】
(B2)高分子分散剤
本発明では、分散剤(B)を、前記凝集助剤(B1)と高分子分散剤(B2)とで組み合わせて構成する。このような組み合わせで分散剤(B)を構成することにより、粗大粒子が著しく少ない金属ナノ粒子を含む金属コロイド粒子が得られる。特に、前記特定の分散剤(B)の組み合わせにより、金属ナノ粒子の割合を大きくでき、還元反応工程において、金属コロイド粒子を安定して生成できるとともに、得られた金属コロイド粒子は、生成後は速やかに凝集して沈殿するため、容易に反応液から取り出すことができる。
・・・(中略)・・・
【0062】
高分子分散剤(B2)は、官能基を有していてもよい。このような官能基としては、例えば、酸基(又は酸性基、例えば、カルボキシル基(又は酸無水物基)、スルホ基(スルホン酸基)など)、塩基性基(例えば、アミノ基など)、ヒドロキシル基などが挙げられ
る。これらの官能基は、単独で又は2種以上組み合わせて高分子分散剤(B2)が有していてもよい。
【0063】
これらの官能基のうち、高分子分散剤(B2)は、酸基又は塩基性基、特に、遊離のカルボキシル基を有しているのが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0065】
酸基(特に遊離のカルボキシル基)を有する高分子分散剤(B2)において、酸価は、ナノ粒子を製造する際に生成したナノ粒子表面を保護可能である限り、下限の限定はないが、より低い方が好ましい。酸価が高すぎると、高分子由来の官能基がナノ粒子表面に多数吸着又は存在しているため、焼結ポイント(焼結サイト又は焼結点)が少なくなり、ナノ粒子間の焼結を阻害する虞がある。酸価は、例えば、1mgKOH/g以上(例えば、2?1500mgKOH/g程度)、特に10mgKOH/g以上(例えば、12?900mgKOH/g程度)の範囲から選択できる。特に、酸基(特にカルボキシル基)を有する高分子分散剤(B2)が、親水性ユニットおよび疎水性ユニットを有する化合物などである場合、酸価は、1mgKOH/g以上(例えば、2?100mgKOH/g程度)、好ましくは3mgKOH/g以上(例えば、4?90mgKOH/g程度)、さらに好ましくは5mgKOH/g以上(例えば、6?80mgKOH/g程度)、特に7mgKOH/g以上(例えば、8?70mgKOH/g程度)であってもよく、通常3?50mgKOH/g(例えば、5?30mgKOH/g)程度であってもよい。酸基を有する高分子分散剤(B2)において、アミン価は0(又はほぼ0)であってもよい。
・・・(中略)・・・
【0069】
また、高分子分散剤は、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。以下に、市販の高分子分散剤(又は少なくとも両親媒性の分散剤で構成された分散剤)を具体的に例示すると、ソルスパース13240、ソルスパース13940、ソルスパース32550、ソルスパース31845、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース41090などのソルスパースシリーズ[アビシア(株)製];ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック164、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック191、ディスパービック192、ディスパービック193、ディスパービック194、ディスパービック2001、ディスパービック2010、ディスパービック2050、ディスパービック2090、ディスパービック2091などのディスパービックシリーズ[ビックケミー(株)製];EFKA-46、EFKA-47、EFKA-48、EFKA-49、EFKA-1501、EFKA-1502、EFKA-4540、EFKA-4550、ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453[EFKAケミカル(株)製];アジスパーPB711、アジスパーPAl11、アジスパーPB811、アジスパーPB821、アジスパーPW911などのアジスパーシリーズ[味の素(株)製];フローレンDOPA-158、フローレンDOPA-22、フローレンDOPA-17、フローレンTG-700、フローレンTG-720W、フローレン-730W、フローレン-740W、フローレン-745Wなどのフローレンシリーズ[共栄社化学(株)製];ジョンクリル678、ジョンクリル679、ジョンクリル62などのジョンクリルシリーズ[ジョンソンポリマー(株)製]などが挙げられる。」

オ.「【0108】
[金属ナノ粒子ペースト]
本発明の金属コロイド粒子は、有機溶媒を配合してペーストを調製してもよい。前述したように、本発明の金属コロイド粒子は、凝集体として得られ、適度に凝集しているため、適度な柔軟性及び解こう性を有しており、特定の有機溶媒を配合すると、凝集体が再分散して均質で粘性なペーストを容易に調製できる。・・・(以下略)」

上記アによれば、金属コロイド粒子は、金属ナノ粒子(A)と、分散剤(B)とで構成されているものである。また、金属ナノ粒子(A)を構成する金属(金属原子)としては、分散剤(B)に対する配位性の高い金属である周期表第1B族金属を用いることができるものである。
上記イによれば、金属ナノ粒子(A)の数平均粒子径(数平均一次粒子径)は、50nm以下(通常10?40nm程度)である。
上記ウによれば、分散剤(B)は、金属ナノ粒子表面を被覆し、凝集助剤(B1)と高分子分散剤(B2)とで構成されるものである。
そして、上記ウによれば、凝集助剤(B1)は、低分子の有機化合物であり、カルボン酸のカルボキシル基が金属ナノ粒子との親和性が高いため、少なくともカルボン酸類を含むものであるところ、当該カルボン酸類は他の凝集助剤であるアミン類と組み合わせられるものである。さらに、凝集助剤(B1)は、炭素数が1?18(好ましくは1?10、さらに好ましくは1?6、特に1?4)程度のものを選択できるものである。
上記エによれば、高分子分散剤(B2)は、酸価が1mgKOH/g以上(特に10mgKOH/g以上、例えば12?900mgKOH/g程度)、アミン価は0であるものを選択できるものである。
上記オによれば、引用文献に記載されたペーストは、金属コロイド粒子と有機溶媒を配合してなるものである。

上記アないしオの記載事項を総合勘案すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「金属ナノ粒子(A)と分散剤(B)とで構成される金属コロイド粒子と、有機溶媒とを配合し、
金属ナノ粒子(A)は、周期表第1B族金属であって、数平均粒子径(数平均一次粒子径)が50nm以下(通常10?40nm程度)であり、
分散剤(B)は、金属ナノ粒子表面を被覆し、凝集助剤(B1)と高分子分散剤(B2)とで構成され、
凝集助剤(B1)は、低分子の有機化合物であってカルボン酸類とアミン類とを組み合わせたものであって、炭素数が1?18(好ましくは1?10、さらに好ましくは1?6、特に1?4)程度であり、
高分子分散剤(B2)は、酸価が1mgKOH/g以上(特に10mgKOH/g以上、例えば12?900mgKOH/g程度)、アミン価は0である、
金属コロイド粒子のペースト。」


5 対比・判断
(1)本願発明と引用発明の対比

ア.引用発明の「金属ナノ粒子(A)」は、周期表第1B族金属であり、引用文献には具体例として「銅」が示されているから(上記「4 ア.」を参照)、本願発明の「銅ナノ粒子」を含んでいる。
本願発明の「溶剤」とは、本願明細書の段落【0048】によれば「溶剤は、銅ナノ粒子分散体中の各成分とは反応せず、これらを溶解もしくは分散可能な有機溶剤であればよ」いものである。そうすると、引用発明の「有機溶媒」は、金属ナノ粒子と分散剤とで構成される金属コロイド粒子(凝集体)を分散させることができるものであるから(上記「4 オ.」を参照)、本願発明の「溶剤」に相当する。
また、引用発明の「分散剤(B)」は、金属ナノ粒子表面を被覆するものである。そして、当該「分散剤(B)」の成分である「凝集助剤(B1)」は、カルボン酸とアミン類を組み合わせたものからなり、当該アミン類は第1級アミンのヘキシルアミンを選択することができ(上記「4 ウ.」を参照)、また、炭素数が1?18(好ましくは1?10、さらに好ましくは1?6、特に1?4)程度であるから、ノナン酸(炭素数9)とデカン酸(炭素数10)のカルボン酸を選択できるものである。そうすると、引用発明の「凝集助剤(B1)」は、本願発明の「ノナン酸及びデカン酸よりなる群から選ばれるカルボン酸と、ヘキシルアミン、3-メトキシプロピルアミン及び3-エトキシプロピルアミンよりなる群から選ばれる一級又は二級アミノ基を有しヒドロキシ基を含まないアルキルアミン」の構成を含むものである。
以上により、引用発明の「金属ナノ粒子(A)と分散剤(B)とで構成される金属コロイド粒子と、有機溶媒とを配合し、」「分散剤(B)は、金属ナノ粒子表面を被覆し、凝集助剤(B1)と高分子分散剤(B2)とで構成され、凝集助剤(B1)は、低分子の有機化合物であってカルボン酸類とアミン類とを組み合わせたものであって、炭素数が1?18(好ましくは1?10、さらに好ましくは1?6、特に1?4)程度であ」ることは、本願発明の「ノナン酸及びデカン酸よりなる群から選ばれるカルボン酸と、ヘキシルアミン、3-メトキシプロピルアミン及び3-エトキシプロピルアミンよりなる群から選ばれる一級又は二級アミノ基を有しヒドロキシ基を含まないアルキルアミンで被覆された銅ナノ粒子が、高分子分散剤と、溶剤に分散されて」いる構成を含むものである。

この点について、審判請求人は令和1年6月5日付け意見書において、「引用文献1の段落0048には、凝集助剤(B1)の炭素数について、『炭素数が1?18、好ましくは1?10、さらに好ましくは1?6(特に1?4)程度が好ましい。』と記載されているから、コロイド粒子を適度に凝集させるために凝集助剤(B1)の炭素数は1に近いことが好ましいことを教示しているにすぎない。従って、ノナン酸及びデカン酸よりなる群から選ばれるカルボン酸という低分子量のカルボン酸のなかでは炭素数が1に近いとはいえないカルボン酸と、ヘキシルアミン、3-メトキシプロピルアミン及び3-エトキシプロピルアミンよりなる群から選ばれる一級又は二級アミノ基を有しヒドロキシ基を含まないアルキルアミンという低分子量のアルキルアミンのなかでは炭素数が1に近いとはいえないアルキルアミンを組み合わせて用いることが、引用文献1に示唆されているということもできない。」と主張している。
しなしながら、引用発明には「炭素数が1?18、好ましくは1?10」という数値範囲が開示されており、本願発明は当該数値範囲に含まれるものであるから、新規性の判断において相違点とすることはできない。なお、引用文献の段落【0042】(上記「4 ウ」を参照)には、「ノナン酸から選ばれるカルボン酸」も記載されており、決して炭素数が1に近いものしか選択していないわけではない。よって、審判請求人の主張を採用することはできない。

イ.引用発明の「高分子分散剤(B2)は、酸価が1mgKOH/g以上(特に10mgKOH/g以上、例えば12?900mgKOH/g程度)、アミン価は0であ」ることは、本願発明の「前記高分子分散剤は、酸価が47?129mgKOH/g、アミン価が0mgKOH/gであ」る構成を含むものである。

この点について、審判請求人は令和1年6月5日付け意見書において、「引用文献1の段落0065に記載された高分子分散剤の酸価及びアミン価の範囲には、本願発明において除外された酸価47mgKOH/g未満の範囲も含まれている。本願発明においては、高分子分散剤のアミン価が0mgKOH/gのときに酸価が20mgKOH/g程度の低酸価では銅ナノ粒子の分散性が極めて悪いことが確認されている(本願明細書の比較例2)。従って、引用文献1の段落0065に記載された高分子分散剤の酸価及びアミン価の範囲は、本願発明において用いられる高分子分散剤の酸価とアミン価の範囲と全く同じではない。」と主張している。
しかしながら、引用発明には「酸価が12?900mgKOH/g程度」という数値範囲が開示されており、本願発明は当該範囲に完全に含まれるものであるから、上限下限が同一でなくても新規性の判断において相違点とすることはできない。よって、審判請求人の主張を採用することはできない。

ウ.引用発明の「金属コロイド粒子のペースト」は、金属ナノ粒子(銅も含まれる。)、低分子の凝集助剤、高分子分散剤、有機溶媒からなるのであるから、本願発明の「銅ナノ粒子分散体」に相当する。
しかしながら、銅ナノ粒子分散体について、本願発明は「動的光散乱法による体積平均粒径が500nm以下」であるのに対して、引用発明はその旨の特定がされていない点で相違する。

エ.また、銅ナノ粒子分散体について、本願発明は「導電性基板を製造するため」に用いられるのに対して、引用発明はその旨の特定がされていない点で相違する。

そうすると、上記アないしエによれば、本願発明と引用発明とは以下の点で一致ないし相違をする。
<一致点>
ノナン酸及びデカン酸よりなる群から選ばれるカルボン酸と、ヘキシルアミン、3-メトキシプロピルアミン及び3-エトキシプロピルアミンよりなる群から選ばれる一級又は二級アミノ基を有しヒドロキシ基を含まないアルキルアミンで被覆された銅ナノ粒子が、高分子分散剤と、溶剤に分散されており、前記高分子分散剤は、酸価が47?129mgKOH/g、アミン価が0mgKOH/gである、銅ナノ粒子分散体。

<相違点1>
銅ナノ粒子分散体について、本願発明は「動的光散乱法による体積平均粒径が500nm以下」であるのに対して、引用発明はその旨の特定がされていない。

<相違点2>
銅ナノ粒子分散体について、本願発明は「導電性基板を製造するため」に用いられるのに対して、引用発明はその旨の特定がされていない。

(2)相違点の判断
ア.<相違点1>について
本願の明細書には、銅ナノ粒子の平均一次粒径が「1nm?100nmの粒子であることが好ましく、更に10nm?100nmの粒子であることが好ましい」こと(段落【0025】)、実施例1は「39nm」であること(段落【0085】)、実施例9は「48nm」であること(段落【0103】)であることが記載されている。
そして、引用発明は「数平均粒子径(数平均一次粒子径)が50nm以下(通常10?40nm程度)」であるから、本願発明と引用発明とでは一次平均粒子径に格別な差異は認められない。
そうすると、引用発明は本願発明と同じ分散剤を使用し得るから、引用発明においても、銅ナノ粒子分散体は動的光散乱法による体積平均粒径が「500nm以下」である蓋然性が高い。
よって、相違点1は実質的な相違とはいえない。

イ.<相違点2>について
引用文献の段落【0002】の【背景技術】には「金属ナノ粒子(又は金属コロイド粒子)は、電気・通信分野などの多用な分野への応用が期待されている。」(段落【0002】)とあり、段落【0007】の【先行技術文献】として提示された特開2005-19028号公報は「特に樹脂基材に配線パターンを描画するのに適した金属コロイド液、導電インク」を発明の属する分野としているので(段落【0001】を参照)、引用発明の「金属コロイド粒子のペースト」も導電性基板用に使用されることを当然に意図しているものである。
よって、相違点2は実質的な相違とはいえない。

(3)小括
そうすると、本願発明と引用発明とは相違点がない。
したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明である。


6 むすび
以上のとおり、本願の請求項9に係る発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条1項3号に該当する。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-30 
結審通知日 2019-10-01 
審決日 2019-10-24 
出願番号 特願2016-162615(P2016-162615)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 酒井 朋広
山澤 宏
発明の名称 導電性基板を製造するための銅ナノ粒子分散体、及び導電性基板の製造方法  
代理人 岸本 達人  

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