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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1358145 |
審判番号 | 不服2018-9702 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-07-13 |
確定日 | 2019-12-17 |
事件の表示 | 特願2016-524653「光アイソレーター」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月26日国際公開、WO2015/024162、平成28年 8月 8日国内公表、特表2016-523393〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年8月19日(外国庁受理、中国)を国際出願日とする出願であって、主な手続の経緯は以下のとおりである。 平成28年 1月 7日:出願審査請求書・手続補正書の提出 同年12月 1日:拒絶理由通知(同年12月13日発送) 平成29年 3月 7日:手続補正書・意見書の提出 同年 8月 9日:拒絶理由通知(同年8月22日発送) 同年 9月 6日:期間延長請求書の提出(2回) 同年11月 9日:手続補正書・意見書の提出 平成30年 3月 5日:拒絶査定(同年3月13日送達) 同年 7月13日:審判請求書・手続補正書の提出 平成31年 1月 7日:上申書 第2 平成30年7月13日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成30年7月13日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [補正却下の決定の理由] 1 補正内容 本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成29年11月9日付け手続補正後のもの)について、 「【請求項1】 平面光波回路と、磁気光学薄膜と、磁場を有する金属薄膜と、を備え、 前記平面光波回路は光信号を送信するためのチャネルを有して構成され、前記磁気光学薄膜は前記平面光波回路の上に配置され、前記磁気光学薄膜が位置する平面は光信号を送信するためのチャネルに平行であり、前記磁場を有する金属薄膜は前記磁気光学薄膜の上に配置され、 前記磁場を有する金属薄膜は金属薄膜および永久磁石薄膜を備え、前記金属薄膜は前記磁気光学薄膜の上に配置され、前記永久磁石薄膜は前記金属薄膜の上に配置される、光アイソレーター。」とあったものを、 本件補正後の請求項1の 「【請求項1】 平面光波回路と、磁気光学薄膜と、磁場を有する金属薄膜と、を備え、 前記平面光波回路は光信号を送信するためのチャネルを有して構成され、前記磁気光学薄膜は前記平面光波回路の上に配置され、前記磁気光学薄膜が位置する平面は光信号を送信するためのチャネルに平行であり、前記磁場を有する金属薄膜は前記磁気光学薄膜の上に配置され、 前記磁場を有する金属薄膜は金属薄膜および永久磁石薄膜を備え、前記金属薄膜は前記磁気光学薄膜の上に配置され、前記永久磁石薄膜は前記金属薄膜の上に配置され、かつ、前記金属薄膜と接している、光アイソレーター。」と補正する内容を含むものである(下線は、当審で付したものである。以下同じ。)。 2 補正目的 上記「1」の補正内容は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な「『金属薄膜の上に配置された』『永久磁石薄膜』」について、金属薄膜と接していることを特定するものであって、その補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 よって、本件補正後の請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められることから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)を、以下に検討する。 3 独立特許要件 (1)本願補正発明 本願補正発明は、上記「第2 1」に、本件補正後の請求項1として記載したとおりのものである。 (2)引用文献 ア 引用文献に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された「V. Zayets and K. Ando,Isolation effect in ferromagnetic-metal/semiconductor hybrid optical waveguide,Applied Physics Letters,2005年,Vol.86,pp. 261105-1 ? 261105-3」(以下「引用文献」という。)には、図とともに以下の記載がある> (ア)「 」(第1頁上段) (日本語訳: 強磁性金属/半導体ハイブリッド光導波路における遮断効果 V.ZayetsおよびK.Ando 産業技術総合研究所(AIST)、ナノエレクトロニクス研究所、 梅園1-1-4、つくば市、茨城県305-8568、日本 (2005年3月22日受理。2005年5月16日承認。2005年6月20日オンライン公表) 強磁性金属/半導体ハイブリッド光導波路における遮断効果に関して、実験的研究を行った。コバルト(Co)で被覆されたGa_(l-x)Al_(x)As導波路中の光伝送は、Coの磁化に依存していることが分かった。導波路のコア層とCo層との間で用いられている、SiO_(2)バッファ層を有する導波路とGa_(l-x)Al_(x)Asバッファ層を有する導波路とでは遮断方向が異なる。このアイソレータ構造における遮断の物理的な原理を特定した。 c(○にc)2005 American Institute of Physics[DOI:10.1063/1.1953878] 」 (イ)「 (第1頁左欄ないし同頁右欄) (日本語訳: 光アイソレータは、光通信システムの重要な構成要素である。この素子は不要な反射光からレーザダイオードや光増幅器を保護する。数種類の導波路光アイソレータは、酸化物基板上で成長した磁性ガーネット膜を用いて、効果的に実証されている。最も能動的な光学素子(レーザダイオード、光増幅器、変調器、光ゲートなど)はGaAsまたはInP基板上で生成されるため、これらの半導体基板上に全ての光学素子を一体的に集積することが望ましい。しかし、アイソレータを統合することは難しい課題である。ガーネット製のアイソレータは、半導体光電子デバイスに一体的に組み込まれたことはない。その理由は、これらの酸化物の結晶を、半導体基板上に成長させることができないためである。磁気光学(MO)導波路デバイスと半導体光電子デバイスを一体化する方法がいくつか提案されている。InP基板およびGaAs基板上にガーネット膜を直接接合する方法が提案された。Zayetsらは、GaAs上にエピタキシ成長させたCdl-xMnxTe希釈磁性半導体でできたMO膜を有する導波路光アイソレータを作製した。 Hammerらは、統合型光アイソレータを作製するために、強磁性金属のMO特性の研究を提案した。彼らは、Fe層で被覆された半導体導波路を用いることによって、非相互的で、横方向電界(TE)モードで、横方向磁界(TM)モードであるコンバータを作製できることを理論的に示した。半導体導波路で増幅される光は、金属膜によって消失した光を補足する。磁化方向は光伝搬方向と平行であると考えられた(ファラデー配置)。この構造において、TEモードとTMモードとの間で位相および利得を整合させることが重要である。彼らは、この目的のために、鉄の磁化を周期的に逆転させることを提案したが、実験では実現していない。Zaetsらは、強磁性金属/半導体ハイブリッドアイソレータの異なる構造を提案した。彼らが提案した構造では、強磁性金属の磁化方向は、光の伝搬方向に対して垂直であり、膜面内に沿っている(フォークト配置)。この構造の場合、(光が)逆方向に伝搬するため、TMモードでの消失/増加の差が大きいことを、彼らは理論的に示した。このように、強磁性金属で被覆された増幅器は、それ自体が光アイソレータとして機能する。この強磁性体/半導体ハイブリッドアイソレータは、構造が簡単であり作製プロセスもシンプルであることから、半導体光電子デバイスと光アイソレータとを一体化させることが可能である。 このハイブリッドアイソレータの遮断効果については、Co、Fe、FeCo、およびMnAsで被覆された光増幅器においても、理論的な研究が行われた。磁気的に制御可能な双安定なレーザダイオードを作製するために、ハイブリッドアイソレータ特有の非相互的な特性を研究することも提案された。Van wolleghemらは、FeCoで被覆された半導体光増幅器において非相互的に増幅される自発放射を実験的に観測した。Feで被覆されたInGaAsP光増幅器(文献17)、およびCoで被覆されたGaAlAs受動型導波路において、光遮断が実験的に確認された。 本研究の目的は、強磁性金属で被覆された導波路における遮断効果を示し、その特性を研究し、その物理的原理を説明することである。金属による(光)吸収が方向に依存していることが、本構造における遮断の原因である。光学的な増加は、光学的な消失を補足するためのみに用いられる。我々は、光増幅による副次的な影響を避けるために、強磁性金属で被覆された受動型導波路を研究した。) (ウ)「 」(第1頁右欄) (日本語訳: 図1は、Coで被覆されたGa_(l-x)Al_(x)As導波路の構造を示している。分子線エピタキシ法を用いて、GaAs(001)基板上にGal-xAlxAs導波路を成長させた。厚さ2500nmのGa_(0.55)Al_(0.45)Asの被覆層と厚さ900nmのGa_(0.7)Al_(0.3)Asのコア層を成長させた後に、厚さ12nmのSiO_(2)バッファ層または厚さ120nmのGa_(0.55)Al_(0.45)Asのバッファ層を成長させた。幅10μm、深さ600nmのリブ導波路を湿式エッチングで形成した。バッファ層の上に、厚さ100nmのCo層および厚さ100nmのAu層を蒸着させた。導波管の側面での光吸収を避けるために、幅8μmの窓を有する厚さ100nmのSiO_(2)の保護層を用いた(図1)。 図1.Coで被覆されたGa_(1-x)Al_(x)As光導波路。バッファ層としてSiO_(2)またはGa_(0.55)Al_(0.45)Asが用いられる。コア層において導波路の光が伝搬し、Co層内にわずかに入り込む。) (エ)「 」(第2頁左欄 ) (日本語訳: 図2.Coで被覆された、長さ1.1mmのGa_(1-x)Al_(x)As光導波管における、印加した磁場の関数としての光透過(波長λ=770nm)。 (a)バッファ層がSiO_(2)の場合、(b)バッファ層がGa_(0.55)Al_(0.45)Asの場合。 非相互的な(光の)消失を評価するために、偏波保持ファイバを用いて、レーザ光(波長λ=770nm)を導波路に適用した。出力光は、電荷結合素子(CCD)カメラで検出した。CCDカメラの前に偏光板を設置した。電磁石を用いて、光の伝搬方向に対して垂直に、かつ、膜面内に磁場を印加した。 図2は、TMモードの透過係数を、SiO_(2)バッファ層を有する導波路とGa_(0.55)Al_(0.45)Asバッファ層を有する導波路に印加された磁場の関数として示している。35Oeの保磁力を印加した際に、明確なヒステリシス曲線が透過係数に見られた。超電導量子界面素子を用いて、Co層に同じ大きさの保磁力を印加した場合の測定も行った。TEモードの透過係数は、理論的予測とは異なり、磁場に対して全く依存していなかった。TMモードの透過係数のヒステリシス曲線の測定から、TMモードの透過率はCoの磁化に依存することが示されている。時間反転対称性を考慮すると、光の伝搬方向が同じで磁場方向が反対である場合の透過率の差異は、磁場方向が同じで光の伝搬方向が反対である場合の透過率の差異と等しい。したがって、透過のヒステリシス曲線の振幅は、導波路による遮断に対応している。) イ 引用文献に記載された発明 (ア)上記ア(ア)の記載からして、引用文献には、 「強磁性金属/半導体ハイブリッドのアイソレータ構造を有する光導波路」が記載されているものと認められる。 イ 上記ア(イ)の記載からして、以下のことが理解できる。 (ア)「光アイソレータ」とは、光通信システムの重要な構成要素であって、不要な反射光からレーザダイオードや光増幅器を保護する素子であること。 (イ)強磁性金属の磁化方向は、光の伝搬方向に対して垂直であり、膜面内に沿っていること。 (ウ)強磁性体/半導体ハイブリッドのアイソレータ構造は、構造が簡単であり作製プロセスもシンプルであることから、半導体光電子デバイスと光アイソレータとを一体化させることが可能であること。 ウ 上記ア(ウ)の記載を踏まえて、図1を見ると、以下のことが理解できる。 上記アの「アイソレータ構造」は、具体的には、 「厚さ2500nmのGa_(0.55)Al_(0.45)Asの被覆層、厚さ900nmのGa_(0.7)Al_(0.3)Asのコア層及び厚さ120nmのGa_(0.55)Al_(0.45)のバッファ層を積層した半導体層と、前記バッファ層上に蒸着した厚さ100nmのCo層及び厚さ100nmのAu層とから構成される」こと。 エ 上記(エ)の記載からして、以下のことが理解できる。 (ア)図1に示された「Coで被覆されたGa_(1-x)Al_(x)As光導波路」に対して、紙面奥側に配置した「偏波保持ファイバ」からレーザ光(波長λ=770nm)を入射させ、紙面手前側に配置した「CCDカメラ」により直線偏光を検出したこと。 (イ)図2(a)及び図2(b)は、図1の「Coで被覆されたGa_(1-x)Al_(x)As光導波路」に対して、矢印(⇒)で示された方向から「電磁石」を用いて磁場を印加した際の、TMモードの透過係数のヒステリシス曲線であること。 (ウ)図2(a)及び図2(b)の横軸は、磁場の強さ(Oe:エルステッド)であり、縦軸は、TMモードの透過係数(-dB:デシベル)であること。 (エ)図2(b)のヒステリシス曲線を見ると、磁場の強さを130(Oe)程度にして飽和状態にすると、両方向の光(出射光と戻り光)に対して減衰作用を示す、例えば、出射光は「-36.0dB」の減衰となり、戻り光は、磁場が逆向きになるから、「-37.2dB」の減衰となること。 (オ)TMモードの透過係数は磁化に依存するものの、TEモードの透過係数は磁化に依存しないこと。 オ 上記アないしエを総合すると、引用文献には、図1に示された構造に関する次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「光通信システムに用いられる、強磁性金属/半導体ハイブリッドのアイソレータ構造を有する光導波路であって、 前記アイソレータ構造は、 厚さ2500nmのGa_(0.55)Al_(0.45)Asの被覆層、厚さ900nmのGa_(0.7)Al_(0.3)Asのコア層及び厚さ120nmのGa_(0.55)Al_(0.45)のバッファ層を積層した半導体層と、前記バッファ層上に蒸着した厚さ100nmのCo層及び厚さ100nmのAu層とから構成される、 強磁性金属/半導体ハイブリッドのアイソレータ構造を有する光導波路。」 (3)対比 ア 本願補正発明と引用発明を対比する。 (ア)引用発明の「厚さ2500nmのGa_(0.55)Al_(0.45)Asの被覆層、厚さ900nmのGa_(0.7)Al_(0.3)Asのコア層及び厚さ120nmのGa_(0.55)Al_(0.45)のバッファ層を積層した半導体層」は、「光通信システム」における光信号を送信するためのチャネルを有していることは、明らかであるから、本願補正発明の「平面光波回路」に相当する。 (イ)引用発明の「厚さ100nmのCo層」は、引用文献の「コバルト(Co)で被覆されたGa_(l-x)Al_(x)As導波路中の光伝送は、Coの磁化に依存していることが分かった。」(摘記(ア))等の記載によれば、「磁気光学膜」であるといえ、本願補正発明の「磁気光学膜」に相当する。 (ウ)本願明細書の「金属薄膜302の組成材料は、金、銀、および銅のうちの1つまたはより多くであることが可能であり、もちろん、他の金属であることも可能である。」(【0026】)との記載によれば、 引用発明の「厚さ100nmのAu層」は、「金属薄膜」であるといえるから、本願補正発明と引用発明とは「金属薄膜を備える」点で一致する。 (エ)引用発明の「強磁性金属/半導体ハイブリッドのアイソレータ構造を有する光導波路」は、本願補正発明の「光アイソレーター」に相当する。 (オ)上記(ア)ないし(エ)からして、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致する。 <一致点> 「平面光波回路と、磁気光学薄膜と、金属薄膜と、を備え、 前記平面光波回路は光信号を送信するためのチャネルを有して構成され、 前記磁気光学薄膜は前記平面光波回路の上に配置され、前記磁気光学薄膜が位置する平面は光信号を送信するためのチャネルに平行であり、前記金属薄膜は前記磁気光学薄膜の上に配置されている、光アイソレーター。」 (カ)一方、両者は、以下の点で相違する。 <相違点> 金属薄膜に関して、 本願補正発明は、「磁場を有する金属薄膜」であって、「永久磁石薄膜を備え」、「永久磁石薄膜は金属薄膜の上に配置され、かつ、金属薄膜と接している」のに対して、 引用発明は、金属薄膜(Au層)を備えているものの、その上に「永久磁石薄膜」を備えてすらいない点。 イ 判断 上記<相違点>について検討する。 (ア)まず、本願補正発明において、永久磁石薄膜を金属薄膜の上に配置する技術的意義について、本願明細書の記載を参酌して検討する。 a 本願明細書には、以下の記載がある。 「【0024】 この実施例において、磁気光学薄膜20は、磁気光学効果を生じさせることができる媒質であることが可能であり、磁気光学薄膜20の組成材料はガーネット等であることが可能である。磁場を有する金属薄膜30は複数の実現形態を有し得る。一実現形態として、磁場を有する金属薄膜30は、強磁性金属薄膜であり得る。図3に表わされているように、強磁性金属薄膜301は、磁場を生じさせることができる金属薄膜として、磁気光学薄膜20の上に配置される。 【0025】 もう1つの実現形態として、磁場を有する金属薄膜30は、金属薄膜302と永久磁石薄膜304からなることも可能である。図4に表わされているように、金属薄膜302は磁気光学薄膜20の上に配置され、永久磁石薄膜304は金属薄膜302の上に配置される。 【0026】 金属薄膜302の組成材料は、金、銀、および銅のうちの1つまたはより多くであることが可能であり、もちろん、他の金属であることも可能である。」 b 上記記載からして、上記技術的意義は、 「磁場を生じさせることができる強磁性金属薄膜」と同様に、磁気光学効果を生じさせることにあるものと解される。 (イ)しかしながら、磁気光学薄膜の磁気光学効果は、外部磁場のある環境下で奏する作用であることは、当業者にとって明らかである。 必要ならば、例えば、以下の文献を参照。 特開2010-123688号公報(【0050】及び図3C) 特開2001-196686号公報(【請求項8】及び図6(a)) 特開平7-318876号公報(図1) ちなみに、特開2001-196686号公報の図6(a)は、以下のものである。 (ウ)一方、引用発明の「厚さ100nmのCo層」の磁化方向は、引用文献の図1の表記からして、光の伝搬方向に対して垂直であると認められる。 (エ)また、電磁石を用いて磁場を印加した際の、ヒステリシス曲線を示した引用文献の図2(a)及び図2(b)からして、磁場を印加して飽和状態とすれば、両方向の光に対して、TMモードの透過係数の値が大きな減衰を示すことから、引用発明において、「厚さ100nmのCo層」が飽和状態となるように、磁場を印加することは、当業者が容易に想到し得ることである。 (オ)そして、原査定において複数の文献を挙げて指摘したように、「磁気光学薄膜、平面光波回路を用いたデバイスにおいて磁場を印加する構成として永久磁石、永久磁石薄膜を用いる構成とし、当該永久磁石、永久磁石薄膜を、磁気光学薄膜の上方、最外部に設ける構成とすること」は、周知技術であると認められる(以下周知技術」という。)ことから、 引用発明の「厚さ100nmのAu層」の上に、「永久磁石薄膜」を設けることは、当業者が適宜なし得る設計事項である。 原査定で引用した文献 米国特許第5598492号明細書(図2) 国際公開第2009/107194号(図1及び図2) 特表平8-507160号公報(請求項1) 当審で追加する文献 特開2001-350039号公報(図1) 特開昭59-178415号公報(第1図) 特開昭59-101604号公報(第2図) ちなみに、特開昭59-101604号公報の第2図は、以下のものである。 1……ガーネット基板 2……磁性ガーネット結晶薄膜導波路 3……空気 4……金属膜 5……誘電体クラッド 6……磁界印加用磁石 6′…磁界印加用磁性膜 (カ)引用発明において、「厚さ100nmのAu層」の上に、「永久磁石薄膜」を設けることにより、該「厚さ100nmのAu層」は、「永久磁石薄膜」の磁場作用を受けて、「磁場を有する金属薄膜」となるから、引用発明は、「永久磁石薄膜を備え」、「永久磁石薄膜は金属薄膜の上に配置され、かつ、金属薄膜と接している」ことになる。 (キ)以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が上記周知技術に基づいて容易になし得たことである。 ウ 効果 本願補正発明の効果は、当業者が引用発明及び周知技術から予測し得る範囲内のものである。 (5)平成31年1月7日提出の上申書における主張 請求人は、上申書において、以下のように主張していることから、この点について検討する。 「この御指摘の前提として、前置報告書では、以下の点が指摘されています。 『引用文献1に記載された発明の金属薄膜は、磁気光学薄膜の上に配置され、磁場を印加する構成とともに用いられているものの……』 しかしながら、引用文献1を見る限り、引用文献1は、上記下線箇所の特徴(則ち、金属薄膜が磁場を印加する構成とともに用いられること)を開示しません。」(第1頁後段) なお、引用文献1は、審決における引用文献である。 ア 引用文献には、電磁石を用いて磁場を印加することが記載されている。 このとき、「引用文献1に記載された発明の金属薄膜は、磁気光学薄膜の上に配置され」た状態にあるから、「磁場を印加する構成(電磁石)」とともに用いられているといえる。 イ 仮に、請求人の主張が、「引用文献1に記載された発明の金属薄膜」は、「磁場を印加する構成(電磁石)」とともに用いても、それ自体は「磁場を有する金属薄膜」にはならないというものであるとしても、上記(4)で検討したように、電磁石に代えて「永久磁石薄膜」を採用することにより、「厚さ100nmのAu層」は、「永久磁石薄膜」の磁場作用を受けて、「磁場を有する金属薄膜」となる。 ウ よって、請求人の上記主張は、上記(4)の判断を左右するものではない。 (6)審判請求書における主張 請求人は、審判請求書において、以下のように主張していることから、この点について検討する。 「2.補正の説明 前回の意見書におきまして、出願人は、「前記磁場を有する金属薄膜は金属薄膜および永久磁石薄膜を備え、前記金属薄膜は前記磁気光学薄膜の上に配置され、前記永久磁石薄膜は前記金属薄膜の上に配置される」という特徴は引用文献1?8に開示・示唆されていない、と主張しました。」 ア 引用文献4は、原査定で周知技術であることを示すために引用した「特表平8-507160号公報」であるところ、請求人は、「前回の意見書」において、引用文献4の磁石層4は「層」である旨指摘している。 イ これは、引用文献4の「磁石層」は、本願補正発明の「永久磁石薄膜」のように薄膜ではない旨を主張するものと解される。 ウ しかしながら、引用文献4の第8頁上段には、磁石層は、電子線蒸着などにより製造する旨記載されており、実質的に「薄膜」とよべるものである。 エ よって、請求人の上記主張は、上記(4)の判断を左右するものではない。 (7)独立特許要件についてのまとめ 以上のとおりであるから、引用発明において、上記<相違点1>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が周知技術に基づいて容易になし得たことである。 そして、本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から予測し得る範囲内のものである。 よって、本願補正発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。 4 補正却下の決定の理由のむすび 上記「3」のとおり、本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。 したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 1」にて、本件補正前の請求項1に係る発明として記載したとおりのものである。 2 引用文献 引用文献の記載事項は、上記「第2 3(2)及び(3)」に記載したとおりである。 3 対比・判断 (1)本願発明は、上記「第2 2」で検討した本願補正発明から「かつ、前記金属薄膜と接している」との限定を省いたものである。 (2)そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3(4)」で検討ししたとおり、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。 4 まとめ よって、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-07-18 |
結審通知日 | 2019-07-22 |
審決日 | 2019-08-02 |
出願番号 | 特願2016-524653(P2016-524653) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山本 貴一 |
特許庁審判長 |
瀬川 勝久 |
特許庁審判官 |
山村 浩 星野 浩一 |
発明の名称 | 光アイソレーター |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 木内 敬二 |