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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B30B
管理番号 1358261
審判番号 不服2018-8046  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-12 
確定日 2019-12-26 
事件の表示 特願2017-8645「プレス装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年4月6日出願公開、特開2017-64796〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成25年8月27日に出願した特願2013-175831号の一部を平成29年1月20日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成29年 1月20日 :審査請求
同年 1月20日 :手続補正書及び上申書の提出
同年11月15日付け:拒絶理由通知
平成30年 1月22日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 3月 5日付け:拒絶査定
同年 6月12日 :審判請求と同時に手続補正書の提出
同年 6月20日付け:手続補正指令(方式)
同年 7月26日 :手続補正書(方式)の提出
同年 8月28日付け:前置報告書
同年 9月 5日 :上申書の提出
同年11月 7日 :上申書の提出
令和 元年 6月12日付け:当審による拒絶理由通知
同年 8月19日 :意見書の提出

第2.本願発明
平成30年1月22日の手続補正書により補正がなされた特許請求の範囲の請求項1(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
第1の金型が取り付けられるベッドと、
第2の金型が取り付けられ、前記ベッドに対して近接及び離間するように移動可能なスライドと、
前記スライドを移動させる駆動機構と、
前記スライドがスティック状態となっているか否かを判定するスティック状態検出部と、を備え、
前記駆動機構は、サーボモータを有し、
前記スティック状態検出部は、前記スライドの変位と前記サーボモータのトルクを検出し、前記サーボモータが所定値以上のトルクを出力していながらも前記スライドが移動しない場合に、前記スティック状態が発生したと判定する、プレス装置。」

第3.拒絶の理由
令和元年6月12日付けの当審が示した拒絶の理由は、次のとおりのものである。
1.(進歩性)この出願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された以下の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2011-245515号公報
引用文献2:特開平11-58100号公報

第4.引用文献の記載、及び引用発明等
1.引用文献1
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、図面(特に【図1】ないし【図5】、【図11】及び【図12】を参照。)と共に、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
ア.「【0001】
本発明は、プレス機械およびプレス機械の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動モータからのトルクによりスライドを上下に駆動するプレス機械が知られている。このようなプレス機械にはクランク機構が設けられ、クランク機構のシャフトを電動モータで回転させることにより、クランク機構がスライドを上下動させる。
【0003】
ところで、プレス機械では、下死点近傍にて上金型と下金型とが係合した状態、または上金型と下金型との間にワークを噛み込んだ状態で、プレス機械の本体フレームが荷重に抗して伸び(つっぱり)、かつスライド駆動機構が本体フレームの弾性変位に抗して、つっかい棒をした状態となる。この状態で所定時間プレス機械を停止させると、クランク機構のシャフトがブッシュ等の軸受部に押し付けられて、シャフトと軸受部との間の潤滑油膜が減少するため、シャフトの摩擦抵抗が大きくなる。このため、スライドが下死点でロックし、スライドの荷重が公称荷重以下であったとしても、そのロック状態からの脱出が困難となる、いわゆるスティックが発生する。」

イ.「【0007】
本発明の目的は、電動モータを大型化することなく下死点からの脱出能力を向上できるプレス機械およびプレス機械の制御方法を提供することにある。」

ウ.「【0027】
以上の本発明のプレス機械およびプレス機械の制御方法によれば、スライドが下死点近傍で停止したときに電動モータの正転および逆転を繰り返す振動成分を電動モータの制御指令に付与する。従って、電動モータが正逆回転を繰り返し、これに伴ってエキセンシャフトが振動するため、下死点からの脱出能力を向上させることができる。」

エ.「【0029】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。なお、後述する第2実施形態以降で、以下に説明する第1実施形態での構成部品と同じ部品および同様な機能を有する部品には同一符号を付し、説明を簡単にあるいは省略する。
【0030】
図1において、プレス機械1は、複数の板状のフレーム部材から構成された本体フレーム2と、本体フレーム2の下部側前面に設置されたボルスタ3と、本体フレーム2の上部に設けられたクランク機構4と、クランク機構4に上下動自在に連結されたスライド5と、メインギヤ6を介してクランク機構4を駆動する電動モータとしてのサーボモータ7と、スライド5を下死点から脱出させる下死点脱出装置10(図2参照)とを備えている。」

オ.「【0032】
本体フレーム2の下部側では、各板状フレーム21(スライド支持フレーム22)同士がプレート23,24で連結されている。これらのプレート23,24および各フレーム21,22の下部側にてボルスタ3が支持され、スライド支持フレーム22の上部にてスライド5が上下動自在に支持されている。
本体フレーム2の上部側には、内部にクランク機構4およびサーボモータ7が収容されている。ただし、本体フレーム2の具体的な構造は、本実施形態のものに限定されず、その実施にあたって任意に決められてよい。
【0033】
クランク機構4は、サーボモータ7によって駆動されるエキセンシャフト41と、エキセンシャフト41に接続されるコンロッド42とを備えている。
エキセンシャフト41には、エキセンドラム43が一体に形成されており、エキセンシャフト41は、エキセンドラム43の前後において、本体フレーム2に設けられたブッシュ等の軸受部25,26によって支持されている。エキセンシャフト41の後端側の後端側には、メインギヤ6が設けられ、メインギヤ6の外周部分にサーボモータ7の出力軸が噛み合うことで、エキセンシャフト41がサーボモータ7により回転可能となっている。」

カ.「【0037】
図2は、下死点脱出装置10の構成図である。
下死点脱出装置10は、サーボモータ7、サーボアンプ71、電流検出器72、回転角度検出器73、荷重検出器56、制御装置8、および入力装置9を備えている。
【0038】
サーボモータ7は、サーボアンプ71を介して制御装置8と接続されており、サーボモータ7の駆動は、制御装置8により制御される。
サーボアンプ71は、制御装置8からの制御指令と電流検出器72で検出されたサーボモータ7の電流値との偏差に基づいて、サーボモータ7の駆動電流を生成し、サーボモータ7に出力する。これにより、サーボモータ7が制御装置8の制御指令に沿うように駆動される。
【0039】
サーボモータ7の駆動力は、メインギヤ6を介してクランク機構4に伝達され、クランク機構4がスライド5を上下動させる。サーボモータ7の回転角度θmは、エンコーダ等の回転角度検出器73により検出され、制御装置8に送られる。また、スライド5に作用する荷重Lは、荷重検出器56により検出され、制御装置8に送られる。
【0040】
制御装置8には入力装置9が接続されており、入力装置9の操作によって、スライド5のスライドモーションが自由に設定できるようになっている。制御装置8は、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置を備え、設定されたスライドモーションに従って、サーボアンプ71に出力する制御指令を生成する。
【0041】
図3に示すように、制御装置8は、記憶装置8A、スライド位置出力装置としてのスライド位置演算部81、スライド速度演算部82、位置目標値設定部83、指令生成部84、下死点到達判定部85、スライド停止判定部86、振動要否判定部87、下死点脱出判定部88、および振動成分付与部89を備えている。
【0042】
記憶装置8Aは、サーボモータ7の駆動制御に必要なプログラムや各種データを記憶している。具体的に、記憶装置8Aは、入力装置9の操作により設定されたスライドモーション、許容停止時間テーブル、および振動成分設定値を記憶している。
【0043】
許容停止時間テーブルは、スライド5に作用する荷重Lとスライド5の許容停止時間TLとが関係付けられたテーブルである。
振動成分設定値は、サーボアンプ71への制御指令に付与する振動成分に関して予め設定された値であり、振動の周波数や振幅等が記憶されている。
【0044】
スライド位置演算部81は、回転角度検出器73から出力されるサーボモータ7の回転角度信号に基づいて、スライド5の位置を演算する。ここで、スライド5の位置は、エキセンシャフト41の偏心量やコンロッド42の長さ寸法等の値を用いてエキセンシャフト41の回転角度θsから一義的に定まるため、本実施形態では、エキセンシャフト41の回転角度θsをスライド5の位置として用いている。なお、エキセンシャフト41の回転角度θsは、スライド5が上死点にある位置を0°(または360°)とし、スライド5が下死点にある位置を180°とする。
【0045】
スライド速度演算部82は、スライド位置演算部81で演算されたスライド5の位置の変化量を求め、この変化量からスライド5の速度を演算する。本実施形態では、エキセンシャフト41の回転角度θsをスライド5の位置として用いているため、スライド速度演算部82は、エキセンシャフト41の回転角度θsの変化量を演算する。
【0046】
位置目標値設定部83は、記憶装置8Aに記憶されているスライドモーションに従って、スライド5の位置目標値を設定する。本実施形態において、位置目標値設定部83は、スライド5の位置目標値としてエキセンシャフト41の回転角度θsの目標値を設定している。
【0047】
指令生成部84は、サーボアンプ71への制御指令を生成する。具体的に、指令生成部84は、スライド5の位置目標値とスライド5の位置との偏差に位置ゲインを掛けてスライド5の速度目標値を設定し、この速度目標値とスライド5の速度との偏差に速度ゲインを掛けてサーボアンプ71への制御指令を生成する。
【0048】
下死点到達判定部85は、スライド5の位置に基づいて、スライド5が下死点近傍に到達したか否かを判定する。
スライド停止判定部86は、スライド5の位置変化量に基づいて、スライド5が停止したか否かを判定する。
【0049】
振動要否判定部87は、指令生成部84で生成されたサーボアンプ71への制御指令に対し振動成分を付与するか要否か判定する。具体的に、振動要否判定部87は、スライド5の停止時間Tが、スライド5の荷重Lに対応する許容停止時間TL以上となったか否かを判定する。
【0050】
下死点脱出判定部88は、スライド5の位置に基づいて、スライド5が下死点近傍での停止状態から脱出したか否かを判定する。
振動成分付与部89は、振動要否判定部87および下死点脱出判定部88の判定結果に応じて、サーボアンプ71への制御指令に対して、記憶装置8Aに記憶されている振動成分設定値で規定される振動成分を付与する。」

キ.「【0079】
〔第4実施形態〕
次に、図11および図12に基づき、本発明の第4実施形態について説明する。
前述した第1実施形態から第3実施形態では、スライド5の実際の停止時間Tまたは予定停止時間TBから、サーボアンプ71の制御指令に対する振動成分付与の要否を判定していた。
これに対し、第4実施形態では、スライド5に作用する荷重Lから振動成分付与の要否を判定する点が相違する。
【0080】
このため、記憶装置8Aには、図11に示すように、許容停止時間テーブルや最大荷重時の許容停止時間TAは記憶されておらず、かわりにスライド5が下死点でスティックする際の荷重であるスティック荷重LSが記憶されている。また、制御装置8の振動要否判定部87は、記憶装置8Aからスティック荷重LSを読み込み、荷重Lがスティック荷重LS以上となった場合に振動成分の付与が必要であると判定する。プレス機械1および下死点脱出装置10におけるその他の構成は第1実施形態と同様である。
【0081】
以下、本実施形態のプレス機械1の動作および下死点脱出装置10の作用について、図12のフローチャートを参照しつつ説明する。
先ず、制御装置8の振動要否判定部87は、スティック荷重LSを記憶装置8Aから読み込む(ステップS61)。
【0082】
入力装置9を介してプレス動作が開始されると(ステップS62)、下死点到達判定部85は、スライド5が下死点近傍に到達したか否かを判定し(ステップS63)、スライド停止判定部86は、スライド5の停止の有無を判定する(ステップS64)。ステップS63でスライド5が下死点近傍にないと判定された場合、およびステップS64でスライド5が停止していないと判定された場合は、サーボアンプ71への制御指令が通常通り生成されてサーボアンプ71に出力され、ステップS63に戻る。
【0083】
一方、ステップS64でスライド5が停止していると判定されると、制御装置8は、荷重検出器56が検出した荷重Lを取得し(ステップS65)、振動要否判定部87は、荷重Lがスティック荷重LS以上であるか否かを判定する(ステップS66)。
ステップS66において、スライド5の荷重Lがスティック荷重LS未満と判定されると、下死点脱出判定部88は、スライド5が下死点近傍の停止状態から脱出したか否かを判定する(ステップS68)。ステップS68でスライド5の停止状態が継続していると判定された場合は、ステップS65からステップS68までの処理が繰り返される。
【0084】
そして、ステップS66において、スライド5の荷重Lがスティック荷重LS以上であると判定された場合、振動成分付与部89は、既に生成されているサーボアンプ71への制御指令に対し振動成分を付与する(ステップS67)。なお、ステップS69以降の処理は、停止時間Tのカウント終了処理がないことを除き第1実施形態と同様であるため、ここでの記載を省略する。
以上のような本実施形態の下死点脱出装置10を備えたプレス機械1においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。」

ク.上記エ.の段落【0030】の「プレス機械1は、複数の板状のフレーム部材から構成された本体フレーム2と、本体フレーム2の下部側前面に設置されたボルスタ3と、本体フレーム2の上部に設けられたクランク機構4と、クランク機構4に上下動自在に連結されたスライド5と、メインギヤ6を介してクランク機構4を駆動する電動モータとしてのサーボモータ7と、スライド5を下死点から脱出させる下死点脱出装置10(図2参照)とを備えている。」との記載によれば、プレス機械は、ボルスタ3と、前記ボルスタ3に対して近接及び離間するように移動可能なスライド5と、 前記スライド5を移動させるクランク機構4、サーボモータ7等からなる駆動機構とを備えることが分かる。

ケ.上記カの.段落【0048】の「スライド停止判定部86は、スライド5の位置変化量に基づいて、スライド5が停止したか否かを判定する」との記載、及び、上記キ.の段落【0082】の「スライド停止判定部86は、スライド5の停止の有無を判定する」との記載から、スライド5の停止の有無が、スライド5の位置の変位量、すなわち、スライド5の変位に基づいて、スライド停止判定部86により判定されることが分かる。

コ.上記カ.の段落【0039】の「スライド5に作用する荷重Lは、荷重検出器56により検出され、制御装置8に送られる」との記載から、スライド5の荷重Lが荷重検出器56により検出されることが分かる。

サ.上記キ.の段落【0080】の「スライド5が下死点でスティックする際の荷重であるスティック荷重LSが記憶されている。また、制御装置8の振動要否判定部87は、記憶装置8Aからスティック荷重LSを読み込み、荷重Lがスティック荷重LS以上となった場合に振動成分の付与が必要であると判定する」との記載、及び、同段落【0083】の「ステップS64でスライド5が停止していると判定されると、制御装置8は、荷重検出器56が検出した荷重Lを取得し(ステップS65)、振動要否判定部87は、荷重Lがスティック荷重LS以上であるか否かを判定する」との記載から、振動要否判定部87は、スライド5の荷重Lがスティック荷重LS以上であるか否かによって、振動成分の付与が必要か否かを判定することが分かり、また、振動要否判定部87は、スライド5が停止していると判定された場合に、荷重検出器により検出されたスライド5の荷重Lがスティック荷重LS以上ならば、スティック状態が生じていて、振動成分の付与が必要と判定することが分かる。

(2)引用発明
上記(1)ア.ないしキ.の記載事項、及び同ク.ないしサ.の認定事項からみて、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下、「引用発明」という。)。

「ボルスタ3と、
前記ボルスタ3に対して近接及び離間するように移動可能なスライド5と、
前記スライド5を移動させる駆動機構と、
スティック状態が生じていて振動成分の付与が必要か否かを判定する振動要否判定部87とを備え、
前記駆動機構は、サーボモータ7を有し、
前記振動要否判定部87は、スライド停止判定部86によりスライド5の変位に基づきスライド5が停止していると判定された場合に、荷重検出器56によりスライド5の荷重Lを検出して、荷重検出器56により検出されたスライド5の荷重Lがスティック荷重LS以上となる場合に、スティック状態が生じていて振動成分の付与が必要と判定する、プレス機械1。」

2.引用文献2
(1)引用文献2の記載
引用文献2には、図面(特に【図1】を参照。)と共に、以下の事項が記載されている
ア.「【0008】本発明は、上記のような従来の不具合を改善するためになされたものであり、金型に応じた過負荷異常を検出して金型の破損を未然に防止できるサーボプレスの金型保護装置及びその方法を提供することを目的としている。」

イ.「【0030】また、制御器10は、加圧力制御モードのときには、モータ電流センサ25からの駆動電流値を入力して実作業トルクを算出し、この実作業トルクに基づいてスライド3の加圧力を求め、この加圧力とメモリ10a内に記憶されている加圧力とが等しくなるように、電動サーボモータ15の駆動電流(出力トルクに相当する)を制御するトルク指令をサーボアンプ14に出力している。なお、この実作業トルクは、被加工材をプレス加工するためのスライド3の実質的な加圧力に相当する。
【0031】上記の実作業トルクの演算は、例えば以下のようにして行うことができる。制御器10は予め、加速又は減速トルクを算出するための負荷イナーシャ定数、定速を維持するトルクを算出するための速度抵抗トルク比例定数、摩擦トルク定数、及び、モータ駆動電流と出力トルクとの関係を表すトルク定数等の各定数データを記憶しておく。そして、加速時又は減速時には、必要な加速度値又は減速度値と上記の各定数データとに基づいて必要なモータ出力トルクを求め、モータ電流センサ25で検出した駆動電流値に基づいて実際のモータ出力トルクを算出し、この実際のモータ出力トルクから前記求めた必要なモータ出力トルクを差し引いて、加減速時の実作業トルクを算出する。定速時も、同様にして、この時維持すべき速度値と上記各定数データとに基づいて必要なモータ出力トルクを求め、この時検出した駆動電流値に基づいて算出した実際のモータ出力トルクから前記求めた必要なモータ出力トルクを差し引いて、定速時の実作業トルクを算出する。そして、この実作業トルクとスライド3の加圧力との関係を予め求めて記憶しておき、加工時に検出された駆動電流値に基づいて実作業トルクを求め、この実作業トルクからスライド3の加圧力を演算することができる。
【0032】なお、スライド3にかかる荷重すなわち加圧力の検出は、上記のように駆動電流値から求めるモータ出力トルクによる方法に限定されずに、例えばサーボプレス1のフレーム2の歪みを歪みゲージセンサによって検出し、この歪みの大きさに基づいて加圧力を算出することも可能である。」

(2)引用文献2に記載された技術事項
上記(1)イ.の段落【0030】の「制御器10は、加圧力制御モードのときには、モータ電流センサ25からの駆動電流値を入力して実作業トルクを算出し、この実作業トルクに基づいてスライド3の加圧力を求め、この加圧力とメモリ10a内に記憶されている加圧力とが等しくなるように、電動サーボモータ15の駆動電流(出力トルクに相当する)を制御するトルク指令をサーボアンプ14に出力している。なお、この実作業トルクは、被加工材をプレス加工するためのスライド3の実質的な加圧力に相当する。」との記載によれば、「スライド3にかかる荷重すなわち加圧力の検出を、電動サーボモータ15の駆動電流(出力トルクに相当する)を検出することにより行うこと。」(以下、「引用文献2に記載された技術事項」という。)が分かる。

第5.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「スライド5」は本願発明における「スライド」に相当し、以下同様に、「サーボモータ7」は「サーボモータ」に、「プレス機械1」は「プレス装置」に、それぞれ相当する。
また、プレス装置においてボルスタは、ベッドに下金型を取り付けるための部材を意味するところ、引用発明における「ボルスタ3」も同様のものと解されるから、引用発明も下金型(本願発明における「第1の金型」に相当する。)を取り付けるためのベッドを有することは明らかである。
そうすると、引用発明において「ボルスタ3」を備えることは、本願発明において「第1の金型が取り付けられるベッド」を備えることに相当する。
また、引用発明における「スライド5」には、上金型である第2の金型が取り付けられることは明らかである。
さらに、引用発明における「スティック状態が生じていて振動成分の付与が必要か否かを判定する振動要否判定部87」に関し、振動動分はスライド5に付与されるのであるから、引用発明における「スティック状態が生じていて振動成分の付与が必要か否かを判定する」ことは、本願発明における「スライドがスティック状態となっているか否かを判定する」ことに相当し、また、引用発明における「振動要否判定部87」は、本願発明における「スティック状態検出部」に相当する。
また、本願発明において、「サーボモータのトルク」は、スライドの駆動のために付与されるスライドの荷重に相当する量といえるところ、引用発明における「荷重検出器56によるスライド5の荷重Lを検出」することは、「スライドの荷重を検出」することを限度として、本願発明における「サーボモータのトルクを検出」することと一致する。
そして、引用発明における「スライド停止判定部によりスライドの変位に基づきスライド5が停止していると判定」することは、スライド5の停止の判定をスライドの変位に基づき行っているのであるから、本願発明における「スライドの変位」を「検出」することに相当し、また、引用発明における「スライド停止判定部86によりスライド5の変位に基づきスライド5が停止していると判定された場合に、荷重検出器56によるスライド5の荷重Lを検出して、荷重検出器56により検出されたスライド5の荷重Lがスティック荷重LS以上となる場合に、スティック状態が生じていて振動成分の付与が必要と判定する」ことは、「スライドの変位とスライドの荷重を検出し、スライドの荷重が所定値以上の荷重でいながらも前記スライドが移動しない場合に、前記スティック状態が発生したと判定する」ことを限度として、本願発明における「前記スライドの変位と前記サーボモータのトルクを検出し、前記サーボモータが所定値以上のトルクを出力していながらも前記スライドが移動しない場合に、前記スティック状態が発生したと判定する」ことと一致する。

よって、本願発明と引用発明とは、下記の点で一致する。
[一致点]
「第1の金型が取り付けられるベッドと、
第2の金型が取り付けられ、前記ベッドに対して近接及び離間するように移動可能なスライドと、
前記スライドを移動させる駆動機構と、
前記スライドがスティック状態となっているか否かを判定するスティック状態検出部と、を備え、
前記駆動機構は、サーボモータを有し、
前記スティック状態検出部は、前記スライドの変位と前記スライドの荷重を検出し、前記スライドの荷重が所定値以上の荷重でいながらも前記スライドが移動しない場合に、前記スティック状態が発生したと判定する、プレス装置。」

そして、両者は次の点で相違する。
[相違点]
本願発明においては、スライドの荷重を「サーボモータのトルク」により検出し、スティック状態を「判定する」際に「前記サーボモータ」の「トルク」を使用しているのに対し、引用発明においては、スライド5の荷重を荷重検出器56により検出し、スティックが生じており、振動成分の付与が必要と判定する際に荷重検出器56により検出されたスライド5の荷重を使用している点。

第6.検討・判断
1.上記相違点について検討する。
本願発明と引用発明とは、スライドの荷重の検出手段が相違するものである。
そこで、この点について検討するに、引用文献2には、上記第4.2.で検討したように「スライド3にかかる荷重すなわち加圧力の検出を、電動サーボモータ15の駆動電流(出力トルクに相当する)を検出することにより行うこと。」という技術事項が記載されているところ、引用文献2に記載された技術事項の課題は、上記第4.2.引用文献2(1)ア.の段落【0008】の「過負荷異常を検出して金型の破損を未然に防止できるサーボプレスの金型保護装置及びその方法を提供すること」との記載のとおりである。
そうすると、引用発明と引用文献2に記載された技術事項はともにサーボプレスの技術分野に属するものであって、しかも、プレス装置の金型にかかる過負荷を防止するという同じ課題を有するものであるから、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用する動機付けは十分にあるといえる。
また、上記第4.2.引用文献2(1)イ.の段落【0032】には「スライド3にかかる荷重すなわち加圧力の検出は、上記のように駆動電流値から求めるモータ出力トルクによる方法に限定されずに、例えばサーボプレス1のフレーム2の歪みを歪みゲージセンサによって検出し、この歪みの大きさに基づいて加圧力を算出することも可能である」との記載があり、モータ出力トルクによる方法に代えて、フレーム2の歪みを検出することで、フレームの荷重に相当する応力を直接検出できることが示されている。
したがって、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用する動機付けがあるうえに、引用文献2には、スライドの荷重を、歪みゲージセンサのようなものにより直接検出する手段と、電動サーボモータ15の駆動電流(出力トルクに相当する)により検出する手段とが代替可能であるとの教示があるから、引用発明におけるスライドの荷重の検出方法として、引用文献2に記載された技術事項を適用して、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

3.本願発明の効果は、全体としてみても、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

4.したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第7.請求人の主張について
請求人は、令和元年8月19日提出の意見書1ページ下から13ないし5行において「(a)まず、引用文献1においてスライドの荷重を検出する荷重検出器は、プレス近くに設けられるものです。この場合、荷重検出器の周囲には様々な要因により、荷重検出器に影響を及ぼすものが存在する可能性があります。例えば、材料が飛び散ったり、熱を伴う成形においては酸化皮膜が飛び散ったりする場合があり、それらが荷重検出器に付着して悪影響を及ぼす可能性がありまる(当審注:「ありまる」は「あります」の誤記であると解される。)。また、金型には離型剤などが付与されるため、そのような離型剤が荷重検出器に影響を及ぼす可能性もあります。その一方、サーボモータのトルクを検出する場合には、上述の影響を考慮する必要がなくなりますので、荷重検出器を用いて制御を行う場合に比して、検出器の信頼性を高めた状態にて、制御を行うことが可能となります。」との主張をしている。
しかしながら、当該効果の主張は、本願明細書の記載に基づくものでなく、さらに、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を採用したことで生じる自明の効果であるから採用することはできない。
また、請求人は同意見書1ページ下から4行ないし2ページ4行において「(b)また、引用文献1のようにスライドの荷重を検出する場合は、実際にスライドの荷重が大きくなるという、結果が生じるまで、スティック状態が発生したことを検知できないという問題があります。これに対して、本願発明においては、サーボモータのトルクを判定パラメータとすることで、実際にスライドの荷重が大きくなってしまうよりも早い段階でスティック状態を検出することが可能となります。すなわち、本願発明は、サーボモータのトルクがある程度まで大きくなり、且つ、スライドが移動しなくなった場合にスティック状態が発生したことを判定することで、引用文献1の発明よりも早くスティック状態を検出することが可能となります。」との主張をしている。
この点について検討すると、上記第6.のとおり、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用することは当業者が容易に想到し得るところ、上記請求人の主張する点は、この適用に伴い当然に生じる効果であって格別のものではない。
よって、請求人の当該主張を採用することはできない。

第8.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-10-18 
結審通知日 2019-10-23 
審決日 2019-11-11 
出願番号 特願2017-8645(P2017-8645)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 豊島 唯  
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 刈間 宏信
中川 隆司
発明の名称 プレス装置  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 黒木 義樹  
代理人 柳 康樹  

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