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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1358475
審判番号 不服2018-4831  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-09 
確定日 2020-01-09 
事件の表示 特願2016-164055「ゲームプログラムおよびゲーム装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月28日出願公開、特開2016-221328〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年6月28日に出願した特願2011-143489号の一部を平成26年5月1日に新たな特許出願とした特願2014-94803号の一部を平成28年8月24日に新たな特許出願としたものであって、平成29年2月3日に手続補正がされ、同年7月20日付けで拒絶の理由が通知され、同年10月2日に意見書が提出され、同年12月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成30年4月9日付けで拒絶査定に対する不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、令和1年5月31日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、同年8月2日に意見書が提出されるとともに、手続補正がされたものである。

第2 当審拒絶理由通知の概要
令和1年5月31日付けの当審拒絶理由通知の概要は以下のとおりである。

理由1.平成30年4月9日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

理由2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由3.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
理由1.について
(1)請求項1の「プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係が所定の条件を満たす場合」との記載について、当初明細書等には、「所定の条件」を、「プレイヤキャラクタのステータス情報、ゲームプレイの難易度情報、ゲームプレイ時間、およびゲームプレイ回数のうち少なくとも1つを用いて」判定することは、記載も示唆もされていない。
請求項3も同様。
(2)請求項2の「前記所定の条件が満たされている場合、前記プレイヤキャラクタと前記所定のオブジェクトとの相対位置を監視し、前記所定の条件が満たされていない場合、前記プレイヤキャラクタと前記所定のオブジェクトとの相対位置を監視しない手順を実行させ」との記載について、当初明細書等には、「所定の関係」を満たすことをプレイヤキャラクタと所定のオブジェクトとの相対位置の監視を行うか否かの条件とすることは、記載も示唆もされていない。

理由2.について
請求項1において、「所定の条件」が満たされるか否かを、一方では、「プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係」により判定すると特定し、他方では、「プレイヤキャラクタのステータス情報、ゲームプレイの難易度情報、ゲームプレイ時間、およびゲームプレイ回数のうち少なくとも1つを用いて」判定すると特定されており、請求項1全体からみると、整合性の取れていない記載となっている。
請求項3も同様。

理由3.について
・請求項 1、3
・引用文献等 1?4
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2001-137537号公報
2.特開2007-195826号公報
3.星原 昭典、スニークアクションのうまみを味わえる作品 ゴーキーゼロ、4Gamer.ntReview、[online]、2004.04.16掲載、[2019.05.29検索]、インターネット<https://www.4gamer.net/store/review/gorky/gorky.html>
4.松本隆一、スプリンターセル パンドラトゥモロー 完全日本語版 サムおじさんのスパイ教室 MISSION3、4Gamer.net、[online]、2005.04.07掲載、[2019.05.29検索]、インターネット<www.4gamer.net/weekly/sc_pandora/003/sc_pandora003.shtml>(引用例4の掲載日は、https://www.4gamer.netにて記事検索を行うことにより(https://www.4gamer.net/script/search/index.php?mode=articleG001059)確認できる。)


第3 令和1年8月2日に提出の手続補正書の概要
上記当審拒絶理由通知に対し、令和1年8月2日に請求人が提出した手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであり、その請求項1乃至3の記載は以下のとおりである。(以下、それぞれ「本願発明1」乃至「本願発明3」という。)
「【請求項1】
コンピュータに、
プレイヤキャラクタが移動可能なメインルートにおいて、プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係が移動条件を満たす場合であり、かつゲームプレイ時間またはゲームプレイ回数に関するハイライト表示条件が満たされている場合には、前記所定のオブジェクトの表示態様をハイライト表示にする手順と、
前記移動条件を満たす状態で前記プレイヤキャラクタが前記所定のオブジェクトにアクセスした場合に、該プレイヤキャラクタを、前記メインルートとは全部または一部が異なり、かつ前記プレイヤキャラクタが前記メインルートに復帰し得るサブルートに移動させる手順とを実行させ、
さらに、前記コンピュータに、
前記プレイヤキャラクタのステータス情報、ゲームプレイの難易度情報、ゲームプレイ時間、およびゲームプレイ回数のうち少なくとも1つを用いて、前記移動条件が満たされているか否か判定する手順
を実行させることを特徴とするゲームプログラム。
【請求項2】
コンピュータに、
プレイヤキャラクタが移動可能なメインルートにおいて、プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係が移動条件を満たす場合であり、かつゲームプレイ時間またはゲームプレイ回数に関するハイライト表示条件が満たされている場合には、前記所定のオブジェクトの表示態様をハイライト表示にする手順と、
前記移動条件を満たす状態で前記プレイヤキャラクタが前記所定のオブジェクトにアクセスした場合に、該プレイヤキャラクタを、前記メインルートとは全部または一部が異なり、かつ前記プレイヤキャラクタが前記メインルートに復帰し得るサブルートに移動させる手順とを実行させ、
さらに、前記コンピュータに、
前記移動条件が満たされている場合、前記プレイヤキャラクタと前記所定のオブジェクトとの相対位置を監視し、前記所定の条件が満たされていない場合、前記プレイヤキャラクタと前記所定のオブジェクトとの相対位置を監視しない手順を実行させ、
前記移動させる手順では、前記監視の結果に基づいて、前記プレイヤキャラクタによる前記所定のオブジェクトへのアクセスを判定する手順
を実行させることを特徴とするゲームプログラム。
【請求項3】
プレイヤキャラクタを制御するゲーム装置であって、
プレイヤキャラクタが移動可能なメインルートにおいて、プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係が移動条件を満たす場合であり、かつゲームプレイ時間またはゲームプレイ回数に関するハイライト表示条件が満たされている場合には、前記所定のオブジェクトの表示態様をハイライト表示にする制御手段と、
前記移動条件を満たす状態で前記プレイヤキャラクタが前記所定のオブジェクトにアクセスした場合に、該プレイヤキャラクタを、前記メインルートとは全部または一部が異なり、かつ前記プレイヤキャラクタが前記メインルートに復帰し得るサブルートに移動させる移動手段とを含み、
さらに、
前記プレイヤキャラクタのステータス情報、ゲームプレイの難易度情報、ゲームプレイ時間、およびゲームプレイ回数のうち少なくとも1つを用いて、前記移動条件が満たされているか否か判定する判定手段
を含むことを特徴とするゲーム装置。」


第4 当審の判断
1.特許法第17条の2第3項について
本件補正により、請求項1は、「プレイヤキャラクタが移動可能なメインルートにおいて、プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係が移動条件を満たす場合」と補正され(以下「補正事項」という。)、プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの相対位置関係が移動条件を満たす場合というな態様を含むものと解される。
これに対し、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、これらを「当初明細書等」という。)には、プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの相対位置関係を条件として判断することに関しては、【0020】に、「オブジェクト制御部54は、プレイヤキャラクタPCの位置とエアダクト22の入口22Aの位置との相対位置関係を監視しており、当該相対位置がゲーム世界中のスケールで半径3m以内(この3mという数字は一例に過ぎない)となれば、前記カバー25を光らせるあるいは黄色や赤など周囲の色と区別容易な目立つ色で表示することによるハイライト表示を実行する。プレイヤはこのハイライト表示を目視することで、当該オブジェクトがアクセス可能なものであるとのヒントを得るので、たとえばこのカバー25の近傍へ行き、コントローラ3の特定のボタンを押す(あるいは特定のレバー操作を行う)ことで、このカバー25を取り除いて該カバー25の先にあるエアダクト22に潜り込む動作を実行させる。」と記載があるのみであって、当該記載からは、プレイヤキャラクタPCの位置とエアダクト22の入口22Aの位置との相対位置がゲーム世界中のスケールで半径3m以内となれば、エアダクト22の入口22A付近のカバー25を光らせるあるいは黄色や赤など周囲の色と区別容易な目立つ色で表示することによるハイライト表示を実行するという条件が読み取れるが、ここでは、「半径3m以内」というプレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの相対位置関係はハイライト表示をするか否かを決定するための条件であるものの、メインルートからカバー25の先にあるエアダクト22に潜り込みことが可能か否かを決定することの移動条件であるとは解することはできない。
また、他に、プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの相対位置関係が移動条件を満たす場合について、記載も示唆もされていない。
そうすると、上記補正事項は、当初明細書等に記載されているとはいえない。
以上のことから、上記補正事項である「プレイヤキャラクタが移動可能なメインルートにおいて、プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係が移動条件を満たす場合」は、当初明細書等には記載がなく、当初明細書等から自明でもないから、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
また、請求項2及び請求項3の「プレイヤキャラクタが移動可能なメインルートにおいて、プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係が移動条件を満たす場合」も同様に、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2.特許法第36条第6項第2号について
請求項1に「プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係が移動条件を満たす場合」と記載されていることから、「移動条件」が満たされるか否かは、「プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係」により判定されるものと認められる。
これに対して、請求項1には、「プレイヤキャラクタのステータス情報、ゲームプレイの難易度情報、ゲームプレイ時間、およびゲームプレイ回数のうち少なくとも1つを用いて、前記移動条件が満たされているか否か判定する」とも記載され、「移動条件」が満たされているか否かは、「プレイヤキャラクタのステータス情報、ゲームプレイの難易度情報、ゲームプレイ時間、およびゲームプレイ回数のうち少なくとも1つ」を用いて判定されるものと認められる。
そうすると、「移動条件」が満たされるか否かを、一方では、「プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係」により判定すると特定し、他方では、「プレイヤキャラクタのステータス情報、ゲームプレイの難易度情報、ゲームプレイ時間、およびゲームプレイ回数のうち少なくとも1つを用いて」判定すると特定されており、請求項1全体からみると、整合性の取れていない記載となっている。
よって、請求項1に係る発明は明確でない。

請求人は、「補正後の請求項1では、「プレイヤキャラクタと所定のオブジェクト」が「移動条件」が満たすか否かを、「プレイヤキャラクタのステータス情報、ゲームプレイの難易度情報、ゲームプレイ時間、およびゲームプレイ回数のうち少なくとも1つを用いて」判定する構成であることがより明確になっています。 すなわち、補正後の請求項1に係る発明は、「移動条件」が「プレイヤキャラクタのステータス情報」等を用いて変動する構成を示すものであり、全体からみても整合性の取れている記載となっています。」旨主張する。
しかし、請求項1には、「プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係が移動条件を満たす場合」と記載されている。
そして、前記「プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係」と同請求項1の「プレイヤキャラクタのステータス情報、ゲームプレイの難易度情報、ゲームプレイ時間、およびゲームプレイ回数」とは、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例を参酌しても、何ら関連性のないものである。
そうすると、「プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係」と何ら関連性のない「プレイヤキャラクタのステータス情報、ゲームプレイの難易度情報、ゲームプレイ時間、およびゲームプレイ回数のうち少なくとも1つ」を用いて「移動条件」を判定する請求項1の記載は、明らかに整合性の取れていないものと言わざるを得ない。

3.特許法第29条第2項について
(1)本願発明1について
上記1.及び2.のとおり、本願発明1の「プレイヤキャラクタが移動可能なメインルートにおいて、プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの関係が移動条件を満たす場合」は、当初明細書等に記載されたものでなく、また、本願発明1は、「移動条件」に関連して、整合性の取れていないものであるところ、当初明細書等の【0020】及び【0022】を参酌して、以下のように解釈して、進歩性の有無について検討する。
「コンピュータに、
プレイヤキャラクタが移動可能なメインルートにおいて、プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの相対位置関係条件を満たす場合であり、かつゲームプレイ時間またはゲームプレイ回数に関するハイライト表示条件が満たされている場合には、前記所定のオブジェクトの表示態様をハイライト表示にする手順と、
前記相対位置関係条件を満たす状態で前記プレイヤキャラクタが前記所定のオブジェクトにアクセスした場合に、該プレイヤキャラクタを、前記メインルートとは全部または一部が異なり、かつ前記プレイヤキャラクタが前記メインルートに復帰し得るサブルートに移動させる手順とを実行させ、
さらに、前記コンピュータに、
前記プレイヤキャラクタのステータス情報、ゲームプレイの難易度情報、ゲームプレイ時間、およびゲームプレイ回数のうち少なくとも1つを用いて、サブルートへの移動条件が満たされているか否か判定する手順
を実行させることを特徴とするゲームプログラム」

(2)引用発明等
当審の拒絶の理由において引用され、本願の原出願の出願前である平成13年5月22日に頒布された刊行物である特開2001-137537号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】各種プログラムを実行するエンタテインメント装置と、
使用者による操作要求を前記エンタテインメント装置に入力する少なくとも1つの操作装置と、
前記エンタテインメント装置から出力された画像を表示する表示装置と、
前記使用者に対して視覚的な支援を行うための指標を前記表示装置に表示させる指標表示手段とを有することを特徴とするエンタテインメントシステム。
【請求項2】請求項1記載のエンタテインメントシステムにおいて、
前記指標表示手段は、前記表示装置に表示された少なくとも前記使用者の操作によって移動するキャラクタの位置を知らせるための指標を表示させることを特徴とするエンタテインメントシステム。
【請求項3】請求項2記載のエンタテインメントシステムにおいて、
前記指標表示手段は、前記キャラクタがイベントの発生地点に近づくにつれて、前記指標の表示色を変化させることを特徴とするエンタテインメントシステム。」
イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ゲーム等を行っている使用者に対して視覚的に支援を行うことができる指標を表示させるようにしたエンタテインメントシステムと、各種プログラムを実行するエンタテインメント装置と、前記エンタテインメントシステムにて使用されるプログラムやデータが記録された記録媒体と、プログラム自体に関する。」
ウ.「【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、例えばビデオゲーム機を使用して行うゲームとしては、ロールプレイングゲーム、シューティングゲーム、ドライビングゲーム、格闘ゲーム等、様々なものがある。
【0006】シューティングゲーム、ドライビングゲーム、格闘ゲームなどは、目的が単純であるため、入力操作に熟達していけば、様々な場面に遭遇しても迅速に対応できるが、ロールプレイングゲームは、1つの場面において、様々なイベントが行われ、しかも、迷路やダンジョンをさまよい歩くなど暗い場面などが多い。
【0007】このようなゲームにおいては、入力操作の熟達というよりは、その場面にどのような物が存在するかを視覚的に判断しなければならない。初めてロールプレイングゲームを行う場合は、場面が切り換わった段階で、主人公がその場面のどの位置にあり、どの部分から入ったのか、また、この場面を抜け出るにはどこに行けばよいのか、店や宿屋などはどこにあるのか、などを探さなくてはならない。
【0008】暗い場面などにおいては、このような位置を見分けることは困難であり、1つの場面において、イベントを終了するのに長時間かかってしまうという問題がある。
【0009】ユーザの中には、1つの場面をじっくりと探索することを好む人もいるが、通常は、ゲームを行う時間が限られているため、1つの場面をすべて探索するのに、何日もかかり、飽きられてしまうという問題が生じるおそれがある。
【0010】また、1つの場面において、あるイベントを起こすには、主人公が決められた箇所に移動して、所定の操作を行うなどの処理が必要な場合がある。しかも、そのイベントが発生しない限り、その場面を抜け出せないなどの仕掛けが施されている場合もある。
【0011】通常、このような処理は、取り扱い説明書には記載がなく、ユーザが探し当てるしかないのであるが、そのイベントが発生することすら知らないユーザは、1つの場面を長時間ながめるしかなく、そのうち、そのゲームに対する興味を失ってしまうことになる。
【0012】本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、1つの場面において、主要なものがどの位置にあるか、また、イベントの発生のタイミング等を使用者に対して視覚的に教示することができ、ゲームに適用した場合に、該ゲームに対する興味を持続させることができるエンタテインメントシステム、エンタテインメント装置、記録媒体及びプログラムを提供することを目的とする。」
エ.「【0107】この場合、例えばロールプレイングゲームにおいて、ユーザの入力操作に従って主人公200が1つの場面を移動している場合に、イベントが発生する箇所でイベント分岐指標240が表示されることになる。これにより、ユーザは、このイベント分岐指標240が表示された箇所で何らかのイベントが発生するのだな、という予測をたてることができ、そのイベント発生に向けて更に興味を持つことになる。
【0108】例えば、図12Aに示すように、1つの道250を主人公200が歩いている場合に、前方に数人の人間が入れるような大きな箱252が置いてある場面を想定する。そして、図12Bに示すように、主人公200がその箱252の前に差し掛かったときに、主人公200の頭の上に例えばエクスクラメーションマーク(感嘆符)を含むほぼ菱形のイベント分岐指標240が表示される。この段階で、ユーザは、何かイベントが発生するのだな、と予測することができる。
【0109】イベント分岐指標240が表示されている段階で、例えば決定キー112dを操作することによって、イベントが発生し、例えば図13Aに示すように、突然、箱252の扉254が開いて、主人公200がその箱252の中に入り、更に、図13Bに示すように、箱252の扉254が再び閉まり、その状態で上方に移動し、別の場面に切り換わることとなる。
【0110】他の場面として、図14Aに示すように、1つの浮遊する円盤260の上に主人公200が立っており、該円盤260に別の浮遊する円盤262が近づいている場面を想定する。そして、図14Bに示すように、主人公200が別の円盤260に向かって歩いたとき、主人公200の頭の上にイベント分岐指標240が表示される。
【0111】このイベント分岐指標240が表示されている状態で、例えば決定キー112dを操作することによって、イベントが発生し、例えば図15Aに示すように、主人公200が別の円盤262に飛び移って、図15Bに示すように、その円盤262と共に急速に遠くの方まで移動するなどである。」
オ.「【0217】また、本実施の形態では、ユーザによる決定操作によって別のイベントに分岐することを示すイベント分岐指標240を表示させるようにしている。この場合、例えばロールプレイングゲームにおいて、ユーザの入力操作に従って主人公200が1つの場面を移動している場合に、イベントが発生する箇所でイベント分岐指標240が表示されることになる。これにより、ユーザは、イベント分岐指標240が表示された箇所で何らかのイベントが発生するのだな、という予測をたてることができ、そのイベント発生に向けて更に興味を持つことになる。」

そうすると、上記ア乃至オの記載事項から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「各種プログラムを実行するエンタテインメント装置と、使用者による操作要求を前記エンタテインメント装置に入力する少なくとも1つの操作装置と、前記エンタテインメント装置から出力された画像を表示する表示装置と、前記使用者に対して視覚的な支援を行うための指標を前記表示装置に表示させる指標表示手段とを有し、
前記指標表示手段は、前記表示装置に表示された少なくとも前記使用者の操作によって移動するキャラクタの位置を知らせるための指標を表示させ、
前記指標表示手段は、前記キャラクタが
1つの道をキャラクタが歩いている場合に、前方に数人の人間が入れるような大きな箱が置いてある場面において、キャラクタがその箱の前に差し掛かったときに、キャラクタの頭の上にエクスクラメーションマーク(感嘆符)を含むほぼ菱形のイベント分岐指標が表示され、ユーザがキー操作することによって、突然、箱の扉が開いて、キャラクタがその箱の中に入り、箱の扉が再び閉まり、その状態で上方に移動し、別の場面に切り換わることとなる、エンタテインメントシステム。」

(3)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、
後者の「エンタテインメント装置」は、各種プログラムを実行するものであるから、前者の「コンピュータ」に相当する。
後者の「キャラクタ」、「1つの道」及び「大きな箱」は、ぞれぞれ、前者の「プレイヤキャラクタ」、「移動可能なメインルート」及び「所定のオブジェクト」に相当する。
後者の「キャラクタがその箱の前に差し掛かったとき」とは、キャラクタと箱とが所定の相対位置関係を満たす場合といえるから、後者の「キャラクタがその箱の前に差し掛かったとき」は、前者の「プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの相対位置関係条件を満たす場合」に相当する。
そして、後者において、「キャラクタがその箱の前に差し掛かったときに」、キャラクタの頭の上にエクスクラメーションマーク(感嘆符)を含むほぼ菱形のイベント分岐指標が表示され、「ユーザがキー操作することによって、突然、箱の扉が開いて、キャラクタがその箱の中に入」ることができるのであるから、後者の「ユーザがキー操作することによって、突然、箱の扉が開いて、キャラクタがその箱の中に入」ることは、前者の「前記相対位置関係条件を満たす状態で前記プレイヤキャラクタが前記所定のオブジェクトにアクセスした場合」に相当する。
後者の「箱の扉が開いて、キャラクタがその箱の中に入り、箱の扉が再び閉まり、その状態で上方に移動し、別の場面に切り換わる」とは、1つの道とは全部が異なるルートに移動することであるから、後者の「箱の扉が開いて、キャラクタがその箱の中に入り、箱の扉が再び閉まり、その状態で上方に移動し、別の場面に切り換わる」は、前者の「メインルートとは全部が異なるサブルートに移動させる」に相当する。
後者の「エンタテインメントシステム」は、各種プログラムを実行するエンタテインメント装置を有するものであって、上記(2)ウを参酌すると、後者の「エンタテインメント」とは、「ゲーム」のことといえるから、前者の「ゲームプログラム」と後者の「エンタテインメントシステム」とは、「ゲームプログラム」との概念で一致する。

したがって、両者は、
「コンピュータに、
プレイヤキャラクタが移動可能なメインルートにおいて、プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの相対位置関係条件を満たす場合であり、
前記相対位置関係条件を満たす状態で前記プレイヤキャラクタが前記所定のオブジェクトにアクセスした場合に、該プレイヤキャラクタを、前記メインルートとは全部が異なるサブルートに移動させる手順とを実行させるゲームプログラム。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明1が、コンピュータに、プレイヤキャラクタが移動可能なメインルートにおいて、プレイヤキャラクタと所定のオブジェクトの相対位置関係条件を満たす場合であり、「かつゲームプレイ時間またはゲームプレイ回数に関するハイライト表示条件が満たされている場合には、前記所定のオブジェクトの表示態様をハイライト表示にする手順」を実行させるものであるのに対し、引用発明1は、キャラクタがその箱の前に差し掛かったときに、キャラクタの頭の上にエクスクラメーションマーク(感嘆符)を含むほぼ菱形のイベント分岐指標が表示されるものである点。

[相違点2]
サブルートが、本願発明1では、「プレイヤキャラクタがメインルートに復帰し得る」ものであるのに対し、引用発明1は、箱の中に入ると、別の場面に切り換わるものの、元の道に戻れるのか否か定かでない点。

[相違点3]
本願発明1が、コンピュータに、「プレイヤキャラクタのステータス情報、ゲームプレイの難易度情報、ゲームプレイ時間、およびゲームプレイ回数のうち少なくとも1つを用いて、サブルートへの移動条件が満たされているか否か判定する手順」を実行させるものであるのに対し、引用発明1は、そのような手順を有していない点。

(4)相違点についての判断
以下、上記各相違点について検討する。
ア.[相違点1]について
引用発明1の「エクスクラメーションマーク(感嘆符)」は、ユーザの注意を引き付けるという作用を奏することからして、ハイライト表示といえるものであって、ハイライト表示させる対象をオブジェクト自体とするか、オブジェクト近傍の表示とするかは、ゲームプログラムの設計において、適宜選択し得る事項にすぎないところ、例えば、上記引用文献2に記載されているように(【0053】、【0055】、【0061】、【0072】参照。)、フィールド(エリア)間を移動するキャラクタを操作するゲームにおいて、フィールド(エリア)間を移動するためにユーザがクリアする条件(ドアの解錠条件)を、キャラクタの経験値とすることは周知の技術手段(以下「周知技術1」という。)であり、ゲームプレイ時間やゲームプレイ回数の少ないという経験の乏しいプレイヤに対して、アシスト表示を行うことは、一般に慣用されている手段(以下「慣用手段」という。)にすぎないことからすると、引用発明1において、上記周知技術1及び慣用手段を適用することにより、「ゲームプレイ時間またはゲームプレイ回数に関する条件が満たされている場合には、前記所定のオブジェクトの表示態様をハイライト表示にする手順」とすることで、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

イ.[相違点2]について
例えば、引用例3及び4に示されているように、空間内でキャラクタを操作するゲームにおいて、メインルートに復帰するサブルートを設けることは、周知の技術手段(以下「周知技術2」という。)である。
そうすると、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は、引用発明1の箱に、前記周知技術2を適用し、「プレイヤキャラクタがメインルートに復帰し得るサブルート」とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

ウ.[相違点3]について
また、上記ア.のとおり、フィールド(エリア)間を移動するキャラクタを操作するゲームにおいて、フィールド(エリア)間を移動するためにユーザがクリアする条件(ドアの解錠条件)を、キャラクタの経験値とすることが周知の技術手段であること、及び、上記イ.のとおり、空間内でキャラクタを操作するゲームにおいて、メインルートに復帰するサブルートを設けることが周知の技術手段であることから、引用発明1において、上記周知技術1及び周知技術2を適用し、「ゲームプレイ時間、およびゲームプレイ回数のうち少なくとも1つを用いて、サブルートへの移動条件が満たされれているか否かを判定する」ものとすることで、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願発明1の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明1、周知技術1、周知技術2、慣用手段から、当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって、本願発明1は、引用発明1、周知技術1、周知技術2、慣用手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ない。


第5 むすび
以上のとおり,本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、さらに、本願発明1は、特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができないものである。

したがって,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-11 
結審通知日 2019-11-12 
審決日 2019-11-26 
出願番号 特願2016-164055(P2016-164055)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63F)
P 1 8・ 537- WZ (A63F)
P 1 8・ 55- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 崇雅大山 栄成  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 清水 康司
藤本 義仁
発明の名称 ゲームプログラムおよびゲーム装置  
代理人 上田 侑士  
代理人 海田 浩明  
代理人 浅見 浩二  
代理人 須藤 浩  

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