• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1358481
審判番号 不服2018-13079  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-01 
確定日 2020-01-09 
事件の表示 特願2018- 24137「電子機器、移動体、プログラムおよび制御方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月22日出願公開、特開2019-139633〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年2月14日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 4月 6日付け:拒絶理由通知書
平成30年 6月18日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 6月26日付け:拒絶査定
平成30年10月 1日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成30年10月 1日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年10月 1日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所を示す。)
「自機器に触れずにジェスチャを検出するセンサと、
運転席の位置に応じてユーザが操作する手を決定し、前記ユーザが操作する手に応じて、前記センサからの出力を取得すると、前記センサからの出力に基づいてジェスチャした方向を決定するコントローラと、
を備え、
前記センサは、近接センサと測距センサとを含む電子機器。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年 6月18日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「自機器に触れずにジェスチャを検出するセンサと、
運転席の位置に応じてユーザが操作する手を決定し、前記ユーザが操作する手に応じて、前記センサからの出力を取得すると、前記センサからの出力に基づいてジェスチャする方向を決定するコントローラと、
を備える電子機器。」

2 補正の適否

2-1 本件補正にかかる補正事項

補正前後の請求項1の記載を対比すると、本件補正は、以下の補正事項を含むものである。

(a)補正前の「前記センサからの出力に基づいてジェスチャする方向を決定する」を、補正後の「前記センサからの出力に基づいてジェスチャした方向を決定する」とする補正事項。

(b)補正前の「自機器に触れずにジェスチャを検出するセンサ」について、さらに、補正後の「前記センサは、近接センサと測距センサとを含む」とする補正事項。

2-2 本件補正の適否について

補正事項(b)は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「センサ」の内容について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用例、引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2014/073403号(以下、「引用例」と呼ぶ。)には、次の記載がある。

ア 段落【0034】-【0035】
「【0034】
図1に示すようにセンターコンソール13には、運転席14と助手席15との間の位置に配置された中央操作部17や、操作パネル18が配置されている。
【0035】
中央操作部17は、例えばタッチパッドである。タッチパッドは、例えば静電容量式であり、中央操作部17の表面に位置する入力操作面17a上を指等(操作体)で入力操作したとき、その操作位置を静電容量変化により求めることができる。また中央操作部17と操作パネル18とは連動しており、中央操作部17への入力が、操作パネル18に反映されようにしてもよい。また中央操作部17の入力操作面17aが表示面も兼ねたタッチパネル(ここではタッチパッドに表示装置を兼ね備えたものがタッチパネルであると定義する)を構成していてもよい。例えば、中央操作部17の入力操作面17aに車室状態の操作・制御、音楽や動画操作、携帯機器の操作等に関する表示がされており、表示体を必要に応じて指(操作体)等で選択して所定機能を起動させ、また必要な情報を得ることができる。」

イ 段落【0037】-【0039】
「【0037】
図2を用いて、中央操作部17の操作基準方向に対する制御について説明する。
図2に示す符号50の人物は、運転席14(図1参照)に着座した運転者であり、符号51の人物は、助手席15(図1参照)に着座した乗員51である。図2では中央操作部17を誇張して図示した。なお図2は、中央操作部17及び運転者50、助手席の乗員51を真上から見た平面図である。図2では左ハンドルで示したが当然のことながら右ハンドルにも適用できる。
【0038】
図2に示すX1-X2方向は、運転者50(運転席14)と助手席の乗員51(助手席15)との並び方向である左右方向(横方向)である。また、Y1-Y2方向は、左右方向に対して平面内にて直交する前後方向である。よってY1方向が車両の前進方向であり、Y2方向が後進方向である。
【0039】
中央操作部17には操作基準方向が定められている。ここで「操作基準方向」とは中央操作部17に対して操作をする際の基準となる方向である。例えば、操作基準方向は、中央操作部17を手や指で操作する際の縦方向とされる。」

ウ 段落【0042】
「【0042】
例えば、中央操作部17の入力操作面17aに文字を入力できるとする。図3(a)に示すように第1の入力モードでは、操作基準方向52aが中央操作部17の前後方向(Y1-Y2)であるため、前後方向を文字の縦方向として、図3(a)に示すように例えば、アルファベットの「A」を入力する。すると中央操作部17では、「A」の文字を認識して車室内等で所定機能を起動させたり、あるいは、その入力情報を操作パネル18側に送信し、操作パネル18上で所定機能を起動させたりできる。」

エ 段落【0046】-【0048】
「【0046】
運転者50が手41を伸ばして、中央操作部17を操作しようとしていると判別したとき、運転者50が操作しやすいように、中央操作部17の平面視における操作基準方向52bを前後方向(Y1-Y2)から傾ける。例えば図2に示すように、中央操作部17の入力操作面17aの中心Oを回転中心として、前後方向(Y1-Y2)から操作基準方向52bを時計回りにθ1(90°以下)だけ回転させる。操作基準方向52bが角度θ1だけ傾いた状態を第2の入力モードとする。本実施形態では、操作基準方向を52aから52bに変更するための基準変更部27を制御部21内に含んでいるが、ブロック図については図11を用いて後で詳述する。平面視とは、X1-X2方向及びY1-Y2方向の双方に対して直交する高さ方向からの矢視である。
【0047】
このように運転者50の操作と判別したら、前後方向(操作基準方向52a)から、操作基準方向52bを運転者50が操作しやすい方向に傾けて第1の入力モードから第2の入力モードに変更する。すなわち運転者50の操作方向に略一致する方向に操作基準方向52bを傾けることができる。なお、角度θ1(0°より大きく90°以下)は、運転者50の操作と判別した際に予め決められた値としてもよい。
【0048】
第2の入力モードでは、図3(b)に示すように、前後方向(Y1-Y2)に対して斜めに傾いた操作基準方向52bを縦方向として、「A」の文字を入力すると、中央操作部17では、「A」の文字を認識して車室内等で所定機能を起動させたり、あるいは、その入力情報を操作パネル18側に送信し、操作パネル18上で所定機能を起動させたりできる。」

オ 段落【0050】-【0052】
「【0050】
また、図2に示すように、助手席の乗員51が手46を伸ばして、中央操作部17を操作しようとしていると判別したとき、乗員51が操作しやすいように、中央操作部17の平面視における操作基準方向52cを前後方向(Y1-Y2)から傾ける。例えば図2に示すように、中心Oを回転中心として、前後方向(Y1-Y2)から操作基準方向52cを反時計回りにθ2(0°より大きく90°以下)だけ回転させる。操作基準方向52cが角度θ2だけ傾いた状態(操作基準方向52bとは異なる方向に傾いている)を第3の入力モードとする。
【0051】
このように助手席の乗員51の操作と判別したら、前後方向(操作基準方向52a)から、操作基準方向52cを乗員51が操作しやすい方向に傾ける。すなわち乗員51の操作方向に略一致する方向に操作基準方向52cを傾けることができる。なお、角度θ2は、助手席の乗員51の操作と判別した際に予め決められた値としてもよい。このとき角度θ1と角度θ2とを同じ値とすることが好ましい。
【0052】
第3の入力モードでは、図3(c)に示すように、前後方向(Y1-Y2)に対して斜めに傾いた操作基準方向52c(操作基準方向52bとは異なる方向に傾いている)を縦方向として、「A」の文字を入力すると、中央操作部17では、「A」の文字を認識して車室内等で所定機能を起動させたり、あるいは、その入力情報を操作パネル18側に送信し、操作パネル18上で所定機能を起動させたりできる。」

カ 段落【0054】-【0057】
「【0054】
従来、中央操作部17の操作基準方向は前後方向(Y1-Y2)に定められていた。すなわち操作基準方向52aにて固定されていた。このため、中央操作部17の操作基準方向52aの略延長線上に操作者がいる場合には、中央操作部17の入力操作面17aを操作しやすい。
【0055】
しかしながらセンターコンソール13に中央操作部17を配置した構成では、中央操作部17の左右両側に運転者50や助手席の乗員51が存在している。したがって従来のように操作基準方向52aが前後方向(Y1-Y2)に固定されていると、例えば運転者50が図3(a)に示すように、前後方向(Y1-Y2)の操作基準方向52aを縦方向として文字を入力しようとすると、手41の縦方向(指先から手首への方向)が前後方向(Y1-Y2)に向くように手41を回転させたり、腕を操作基準方向52a上に回して入力操作を行わないと、うまく文字入力ができない。すなわち、操作基準方向52aが前後方向(Y1-Y2)であるのに、図3(b)に示すように文字を斜めに書いてしまうと文字を認識できず、誤操作となり、再入力が必要となるため、上記のように運転者50は不自然な体勢で操作しなければならなかった。そして、走行中に、運転者50が中央操作部17上に手41(腕)を回して入力操作などすると、運転者50の体勢が崩れて危険であった。
【0056】
これに対して本実施形態では、操作者が運転者50か助手席の乗員51かの別を判別した後、運転者50からの操作であると判別された場合と助手席の乗員51からの操作であると判別された場合とで、図2に示すように、操作基準方向52b,52cを適宜変更できるようにした。
【0057】
これにより、従来に比べて操作性を向上させることができる。また、本実施形態では、運転者50が腕を回すなどの不自然な体勢で入力操作を行うことが必要でなくスムースな操作性を得ることができる。このため、良好な操作性とともに走行中の安全性を効果的に向上させることができる。」

キ 段落【0065】
「【0065】
また図8(b)に示すように、中央操作部17の近傍等に、運転者50からの操作か、助手席の乗員51からの操作かを切り換え可能なスイッチ73が設けられていてもよい。例えばスイッチ73の第1の押圧部73aを押圧したときは、運転者50からの操作であると判断して、操作基準方向を図2に示す操作基準方向52bに変更し、スイッチ73の第2の押圧部73bを押圧したときは、助手席の乗員51からの操作であると判断して、操作基準方向を図2に示す操作基準方向52cに変更する。またスイッチ73の第3の押圧部73cを押圧したときは、操作基準方向を図2に示す操作基準方向52aに変更する(あるいは操作基準方向52aに戻す)。」

ク 段落【0089】
「【0089】
また、図8(a)に示すセンサ71,72を設けた構成や図8(b)に示すスイッチ73を設けた構成では、図12(a)に示すステップST1はなく、ステップST2により、センサ71,72(判別部)や、スイッチ73(判別部)により、少なくとも中央操作部17の左側からの操作か、右側からの操作かを判別でき、その判別結果に基づいて図12(a)に示すステップST3にて、操作基準方向を適宜変更する。」

ケ 段落【0106】-【0108】
「【0106】
図9に示す矢印L1は、操作領域30内における手41の移動軌跡(以下、移動軌跡L1と称する)を示している。
【0107】
次に図12(b)に示すステップST8では、移動軌跡L1に基づいて手(操作体)41の動作予測を実行する。すなわち移動軌跡L1がこのまま維持されれば、手41が中央操作部17上をどのように移動するかを図11に示す動作予測部25にて予測する。この動作予測をもとに、中央操作部17への操作か、あるいは操作パネル18への操作かを判断することもできる。中央操作部17への操作と判別した場合には、普段は、消灯状態の中央操作部17の画面を照光させるなど、多様な対応が可能である。
【0108】
そして図12(a)のステップST2では、図9に示す手41の移動軌跡L1や動作予測に基づく手41の操作方向L2により、中央操作部17が左側から操作されると判別できる。また図2に示すように助手席の乗員51が中央操作部17上へ手46を伸ばした場合も、手46の移動軌跡や動作予測に基づく手46の操作方向により、中央操作部17が右側から操作されると判別できる。」

コ 段落【0115】
「【0115】
本実施形態における入力装置20は、中央操作部17と、中央操作部17に対する入力操作を制御する制御部21と、を有し、制御部21は、少なくとも中央操作部17の左右両側のいずれかから操作部が操作されるかを判別する判別部26と、判別部26による判別結果に基づいて、操作部の平面視における操作基準方向を変更する基準変更部27と、を有するものである。」

サ 引用発明
したがって、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「センターコンソール13には、運転席14と助手席15との間の位置に配置された中央操作部17や、操作パネル18が配置されており、
中央操作部17は、例えばタッチパッドであり、タッチパッドは、例えば静電容量式であり、中央操作部17の表面に位置する入力操作面17a上を指等(操作体)で入力操作したとき、その操作位置を静電容量変化により求めることができ、
中央操作部17の操作基準方向に対する制御について、左ハンドルで示したが当然のことながら右ハンドルにも適用でき、ここで「操作基準方向」とは中央操作部17に対して操作をする際の基準となる方向であり、
中央操作部17の入力操作面17aに文字を入力でき、例えば、アルファベットの「A」を入力し、
運転者50が手41を伸ばして、中央操作部17を操作しようとしていると判別したとき、操作基準方向52bを運転者50が操作しやすい方向に傾け、
前後方向に対して、斜めに傾いた操作基準方向52bを縦方向として、「A」の文字を入力すると、中央操作部17では、「A」の文字を認識し、
助手席の乗員51が手46を伸ばして、中央操作部17を操作しようとしていると判別したとき、乗員51が操作しやすいように、中央操作部17の平面視における操作基準方向52cを前後方向から傾け、
前後方向に対して斜めに傾いた操作基準方向52c(操作基準方向52bとは異なる方向に傾いている)を縦方向として、「A」の文字を入力すると、中央操作部17では、「A」の文字を認識し、
文字を斜めに書いてしまうと文字を認識できず、誤操作となり、再入力が必要となるため、操作基準方向52b,52cを適宜変更できるようにし、これにより、良好な操作性とともに走行中の安全性を効果的に向上させることができ、
矢印L1は、操作領域30内における手41の移動軌跡(以下、移動軌跡L1と称する)を示し、移動軌跡L1に基づいて手(操作体)41の動作予測を実行し、手41の移動軌跡L1や動作予測に基づく手41の操作方向L2により、中央操作部17が左側から操作されると判別でき、また、助手席の乗員51が中央操作部17上へ手46を伸ばした場合も、手46の移動軌跡や動作予測に基づく手46の操作方向により、中央操作部17が右側から操作されると判別でき、
入力装置20は、中央操作部17と、中央操作部17に対する入力操作を制御する制御部21と、を有する、
入力装置。」


(3)[周知文献A]特開2017-119508号公報
[周知文献A]段落【0012】-【0013】には、以下の記載がある。
「【0012】
表示装置30は、表示部31及び入力部32を含む。表示装置30は、カーナビゲーションシステム、ディスプレイオーディオ等のヘッドユニットであってもよいし、スマートフォン、タブレット等の携帯端末機器であってもよいし、専用のコンソール端末装置であってもよい。
【0013】
表示部31は液晶ディスプレイや有機ELディスプレイやヘッドアップディスプレイ(HUD)である。入力部32はユーザの入力を受け付けるユーザインタフェースである。表示部31と入力部32は一体化したタッチパネルディスプレイであってもよい。なお、タッチパネルまたはタッチパッド上での手の近接検知やホバー操作による指の位置検知を可能な近接タッチパネルのように、表示部から所定距離を離れた場所でのジェスチャ入力を受け付けられるものであってもよい。更に、入力部32は、マウス、スタイラスペン、トラックボール等のジェスチャ入力を補助する入力デバイスを備えていてもよい。また可視光または赤外線を発光するペンを使用してもよい。」

(4)[周知文献B]特開2015-52982号公報
[周知文献B]段落【0030】-【0031】には、以下の記載がある。
「【0030】
検出部としての測距センサ55は、例えば、光センサや超音波センサ等から構成されている。測距センサ55は、操作部56の近傍に配置され、当該測距センサ55から出射した光や超音波等が物体に反射して戻るまでの時間から手指やタッチペン等の操作部56を操作するための物体の接近を検出する周知のセンサである。また、測距センサ55は、単なる接近に限らず、センサを複数配置して、接近した物体の動きを検出することでジェスチャを検出するようにしてもよい。
【0031】
入力受付部としての操作部56は、ボタンやタッチパネル等の入力手段やマイク等の音声入力手段で構成されている。操作部56は、ナビゲーション装置50の各種入力操作が行われ、入力操作を示す制御信号が制御部51に出力される。また、測距センサ55が検出したジェスチャに基づいて操作してもよい。つまり、測距センサ55によって接近を検出した後にジェスチャ等の非接触の操作方法によって操作されるようにしてもよい。」


(5)対比
ア 引用発明の「中央制御部17の入力操作面17a」は、「指等(操作体)で入力操作したとき、その操作位置を静電容量変化により求めることができ」、アルファベットの「A」のような入力を受け付けるものである。アルファベットの「A」のような入力を受け付ける際には、指等(操作体)が斜めや横に動く操作を検出する必要がある。指等(操作体)が斜めや横に動く操作は、本件補正発明のジェスチャの動きに相当するものである。
したがって、引用発明の「中央制御部17の表面に位置する入力操作面17a上を指等(操作体)で入力操作したとき、その操作位置を静電容量変化により求める」「中央操作部17」は、本件補正発明の「自機器に触れずにジェスチャを検出するセンサ」と、「ジェスチャを検出するセンサ」である点で共通するといえる。

イ 引用発明の「中央制御部17に対する入力操作を制御する制御部21」は、本願補正発明の「コントローラ」に対応する。
そして、引用発明において、「斜めに傾いた操作基準方向52bを縦方向として、「A」の文字を入力すると、中央操作部17では、「A」の文字を認識する」ことは、正しく取得した入力操作の内容を認識するものであり、本件補正発明の「ジェスチャした方向を決定」することに対応するものである。
したがって、引用発明の
「運転者50が手41を伸ばして、中央操作部17を操作しようとしていると判別したとき、操作基準方向52bを運転者50が操作しやすい方向に傾け、
前後方向に対して、斜めに傾いた操作基準方向52bを縦方向として、「A」の文字を入力すると、中央操作部17では、「A」の文字を認識し、
助手席の乗員51が手46を伸ばして、中央操作部17を操作しようとしていると判別したとき、乗員51が操作しやすいように、中央操作部17の平面視における操作基準方向52cを前後方向から傾け、
前後方向に対して斜めに傾いた操作基準方向52c(操作基準方向52bとは異なる方向に傾いている)を縦方向として、「A」の文字を入力すると、中央操作部17では、「A」の文字を認識する」
ことは、本件補正発明の
「運転席の位置に応じてユーザが操作する手を決定し、前記ユーザが操作する手に応じて、前記センサからの出力を取得すると、前記センサからの出力に基づいてジェスチャした方向を決定する」
ことと、
「ユーザが操作する手を決定し、前記ユーザが操作する手に応じて、前記センサからの出力を取得すると、前記センサからの出力に基づいてジェスチャした方向を決定する」
点で共通するといえる。

ウ 引用発明の「入力装置20」は、本件補正発明の「電子機器」に相当する。

したがって、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「ジェスチャを検出するセンサと、
ユーザが操作する手を決定し、前記ユーザが操作する手に応じて、前記センサからの出力を取得すると、前記センサからの出力に基づいてジェスチャした方向を決定するコントローラと、
を備える、
電子機器。」

[相違点1]
本件補正発明は「自機器に触れずに」をジェスチャを検出するのに対し、引用発明は、自機器に触れずにジェスチャを検出する構成について特定されていない点。

[相違点2]
本件補正発明は、「運転席の位置に応じて」ユーザが操作する手を決定しているのに対し、引用発明は、「運転席の位置に応じて」ユーザが操作する手を決定していない点。

[相違点3]
本件補正発明は、センサに「近接センサ」と「測距センサ」とを含むのに対し、引用発明は、近接センサ、測距センサを含む構成について特定されていない点。


(6)判断
ア [相違点1]について
周知文献A、周知文献Bに記載されているように、タッチパッドのような車載機器等の操作部として、近接タッチパネルのように、表示部に触れない場所でのジェスチャ入力を受け付けられるものは周知の技術である。
したがって、引用発明に周知技術を適用することによって、自機器に触れずにジェスチャを検出する構成を備えることは当業者が容易になし得たものである。

イ [相違点2]について
上記(2)のキ及びクに示したように、引用例には、「運転者50が手41を伸ばして、中央操作部17を操作しようとしている」か、「助手席の乗員51が手46を伸ばして、中央操作部17を操作しようとしている」かを判断する手段の「変形例」として、「手41の移動軌跡L1」などを用いることに替えて、「スイッチ73」により、「運転者50からの操作か、助手席の乗員51からの操作かを切り換え」て、「中央操作部17の左側からの操作か、右側からの操作かを判別」する技術が記載されている。
ここで、引用発明及び「変形例」は、「左ハンドル」の場合であるから、通常、車内の中央に設置された中央操作部17を、左側から操作する際には運転者50の右手が、右側から操作する際には助手席の乗員51の左手が、各々操作することは明らかである。よって、「変形例」は、「スイッチ73」により、「ユーザが操作する手を決定する構成」に他ならないものである。
また、引用発明は、「当然のことながら右ハンドルにも適用でき」るから、運転手が右から操作する場合についても示唆があるといえる。
したがって、引用発明に上記変形例を適用し、この際、左ハンドル、右ハンドルに対応させることで、「運転席の位置に応じて」ユーザが操作する手を決定する構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

ウ [相違点3]について
上記「[相違点1]について」で述べたとおり、周知文献A、周知文献Bに記載されているように、タッチパッドのような車載機器等の操作部として、近接タッチパネルのように、表示部に触れない場所でのジェスチャ入力を受け付けられるものは周知の技術である。
また、周知文献Bに記載されているように、ジェスチャ等の入力手段として、測距センサを採用することは、周知技術である。
したがって、引用発明に上記各周知技術を適用することによって、センサに近接センサ、測距センサを含むように構成することは当業者が容易になし得たものである。

(7)まとめ
よって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


3 むすび
本件補正発明は、上記2で検討したとおり特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 本願について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」と呼ぶ。)は、平成30年 6月18日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、上記「第2」の[理由]1(2)に記載されたとおりである。
なお、「ジェスチャする方向を決定する」との記載について、出願当初の明細書(段落【0045】-【0054】)には、センサからの出力に基づいてジェスチャの方向、及びユーザがジェスチャをした方向を決定することは記載されているものの、センサからの出力に基づいてジェスチャする方向を決定することは記載されていないことから、「ジェスチャした方向を決定する」と同じ意味であるとして対比判断を行う。

2 引用例、引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、引用発明は、上記「第2」の[理由]2(2)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2」の[理由]1(1)で検討した本件補正発明から、「前記センサは、近接センサと測距センサとを含む」ことに係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]3(5)-(7)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、本願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本願は、他の請求項について論及するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-06 
結審通知日 2019-11-12 
審決日 2019-11-28 
出願番号 特願2018-24137(P2018-24137)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊池 伸郎  
特許庁審判長 稲葉 和生
特許庁審判官 岩田 玲彦
野崎 大進
発明の名称 電子機器、移動体、プログラムおよび制御方法  
代理人 河合 隆慶  
代理人 杉村 憲司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ