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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N
管理番号 1358518
審判番号 不服2018-4660  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-05 
確定日 2020-01-06 
事件の表示 特願2015-547471「ペノキススラム及びメフェナセットの施用による相乗的な雑草防除」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月19日国際公開、WO2014/093346、平成28年 2月 8日国内公表、特表2016-503758〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年12月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年12月12日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、出願後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

平成29年 6月19日付け 拒絶理由通知
同年 9月26日 意見書・手続補正書の提出
同年11月27日付け 拒絶査定
平成30年 4月 5日 拒絶査定不服審判の請求・手続補正書の提

同年11月28日付け 当審における拒絶理由通知
令和 1年 6月11日 意見書・手続補正書の提出

第2 特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲の請求項1?14に係る発明は、令和1年6月11日付けの手続補正により補正された特許請求の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明は次のとおりである(以下「本願発明1」ということがある。)。

「 【請求項1】
除草組成物を、植生若しくは植生に隣接する領域に施用して又は土壌若しくは水に施用して、植生の発生又は成長を妨げることを含み、
前記除草組成物が、相乗的除草有効量の(a)ペノキススラム又は農業的に許容可能なその塩、及び(b)メフェナセット又は農業的に許容可能なその塩からなり、
(a)と(b)との重量比が1:56から1:30(ただし1:30である場合を除く)である、イネにおける望ましくない植生を防除する方法であり、
前記望ましくない植生が、アゼナ、ウリカワ、又はそれらの組合せを含む、方法。」

第3 当審が通知した拒絶理由
平成30年11月28日付けで当審が通知した拒絶理由は、理由1?3からなるところ、このうち、理由3は次のとおりである。

「[理由3]本願の請求項1?16に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

そして、拒絶理由通知書において以下の刊行物が挙げられている。
刊行物1:特開2001-233718号公報
刊行物2:特開2012-171928号公報(原審の引用文献4)
刊行物3:中国特許出願公開第101647450号公報(原審の引用文献1)

第4 当審の判断
当審は、当審が通知した拒絶理由に示したとおり、本願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。
その理由は次のとおりである。

1 刊行物及びその記載事項
刊行物1:特開2001-233718号公報

本願優先日前に日本国内において頒布された刊行物である刊行物1には、次の事項が記載されている。
1a)「【請求項1】 (A)一般式:
【化1】

式中QはCH又はNを示し、Rは1以上のハロゲン原子又は酸素原子を含んでいてもよい低級鎖状炭化水素基である、で示される化合物及び
(B)少なくとも一種の土壌及び茎葉処理除草剤を含有することを特徴とする除草剤組成物。
・・・
【請求項3】 RがCH_(2)CHF_(2)又はCH_(2)-CH=CH_(2)である請求項2記載の除草剤組成物。
・・・
【請求項5】 土壌及び茎葉処理除草剤が・・・メフェナセット・・・からなる群から選ばれる請求項1?4のいずれか1項記載の除草剤組成物。
【請求項6】 成分(A)と成分(B)が、1:0.1?100の重量比で配合されている請求項1?5のいずれかに記載の除草剤組成物。」

1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は除草剤組成物に関し、特に低施用量で、処理適期幅が広く、多くの問題雑草に対し優れた防除効果を示し、長期残効型の水田用除草剤等として有効な除草剤組成物に関する。」

1c)「【0007】本発明の除草剤組成物は相対的に少ない化合物の組合せで且つ相対的に少ない有効成分量の使用を可能とする。また処理適期幅が広くなり、特に処理日が少々遅れても十分な雑草防除が可能となる。さらに、幅広い雑草種の防除が可能となり、例えば、クログワイ、ミズガヤツリ、ウリカワ、オモダカ等の難防除雑草に関して、驚くほど防除効果がよくなる。また、残効期間が長くなり、かつ水稲等の作物に対して全く薬害を示さないという優れた特徴を持ち水田除草剤として特に有効である。」

1d)「【0009】一般式(I)に基き好ましい成分(A)を示すと次のとおりである:

【0010】成分(A)は通常単一化合物が用いられる。本発明の除草剤の他方の有効成分である土壌及び茎葉処理除草剤は公知の除草剤から選択しうる。具体例としては次のものがある。
・・・
10.一般名:メフェナセット(B8)
・・・」

1e)「【0011】これら成分(B)の除草剤はいずれも単独では、前記した難防除であるクログワイ、ミズガヤツリといった草種を防除できない。いずれの除草剤も水田に発生する多種の雑草のほんの一部を防除できるに過ぎず、一つの化合物で全ての主要雑草を完全に防除できるような広いスペクトラムを持つ除草剤はない。また雑草の生育が進むと効果が弱くなるなどの欠点がある。
【0012】これに対し、前記した成分(A)を組合せることにより、一般的な有効成分の組合せからは予測し得ない程度に上記の欠点を改良し、効力持続は長期におよび、生育の進んだ雑草をも枯殺することができるという、驚くべき相乗効果を発揮し、特に防除できる除草剤がなく有効な除草剤が望まれている水田難防除雑草に威力を示すのである。」(下線は当審にて付与。以下同様。)

1f)「【0014】本発明の除草剤組成物は、施用する場所の条件等に応じて、適宜上記有効成分の種類、配合量を選択して、調整される。例えば、本発明の除草剤組成物は、有効成分を総量で、0.1?85重量%、好ましくは0.2?50重量%、さらに好ましくは0.3?40重量%含有する。その有効成分の混合比率はかなり広い範囲内で選べるが、例えば成分(A)と成分(B)の配合比(成分(A):成分(B))は、一般的に重量比で、1:0.1?100、より好ましくは、1:0.1?50、さらに好ましくは、1:0.1?5とすることができる。
【0015】本発明の除草剤は、原体そのものを散布することもできるが、担体及び必要に応じて他の補助剤と混合して、除草剤として通常用いられる製剤形態、例えば粉剤、粗粉剤、微粒剤、粒剤、水和剤、顆粒水和剤、乳剤、水溶液剤、水溶剤、いわゆるジャンボ剤、フロアブル剤、マイクロカブセル剤、油懸濁剤等に製剤して使用される。この際、同時に複数の他の除草剤、殺虫剤、殺菌剤、植物生長調整剤及び肥料等と混合使用することも可能である。特に他の除草剤の1種以上を配合することにより、殺草スペクトラムを広げる、あるいは効力を長期に持続させることが可能となる。」

1g)「【0022】
【実施例】次に本発明を実施例によって例証する。化合物番号は前記に示した化合物番号を意味する。
製剤例1(粒剤)
本発明化合物A7:0.35重量部、化合物B8:10重量部、ネオペレックス(商品名、花王製、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム):2重量部、サンエキスP-252(日本製紙製、リグニンスルホン酸ナトリウム):3重量部、ゴーセノールGL-05S(日本合成化学製、PVA):2重量部、ベントナイト:30重量部およびクレー:52.65重量部をよく混合した後、適当量の水を加えて混練し、押し出し造粒機で1.2mmの大きさに造粒し、50-70度の温度にて乾燥させ粒剤を得た。」

1h)「【0025】本発明の混合物の除草剤としての有用性を以下の試験において具体的に説明する。
試験例1. 湛水条件における除草効果試験-初期
1/5,000アールのワグネールポットに沖積土壌を入れた後、水を入れて混和し、水深3cmの湛水条件とした。ヒエ、ホタルイ、コナギの種子を播種し、クログワイの塊茎を1cmの土壌深度に挿入した。ヒエが1葉期になった日に、前記処方に準じて調製した粒剤を用いて供試薬剤の所定量をポットに直接散布した。薬剤処理後3週間目に各雑草の地上部生体重を測定し、対無処理区比が0から10%を10、11?20%を9、21?30%を8、31?40%を7、41?50%を6、51?60%を5、61?70%を4、71?80%を3、81?90%を2、91?100%を1で表した。
【0026】
【表1】

【0027】試験例2. 湛水条件における除草効果試験-中期
1/5,000アールのワグネールポットに沖積土壌を入れた後、水を入れて混和し、水深3cmの湛水条件とした。ヒエ、ホタルイ、コナギの種子を播種し、クログワイの塊茎を1cmの土壌深度に挿入した。ヒエが3葉期になった日に、前記処方に準じて調製したフロアブル剤を用いて供試薬剤の所定量をメスピペットで処理した。薬剤処理後3週間目に各雑草の地上部生体重を測定し、対無処理区比が0から10%を10、11?20%を9、21?30%を8、31?40%を7、41?50%を6、51?60%を5、61?70%を4、71?80%を3、81?90%を2、91?100%を1で表した。
【0028】
【表2】

【0029】
・・・
【0031】試験例4. 湛水条件におけるイネの薬害試験-初期
1/5,000アールのワグネールポットに沖積土壌を入れた後、水を入れて混和し、水深2cmの湛水条件とした。2.5葉期のイネ苗を2cmの深さに移植した。イネ移植翌日に、前記処方に準じて調製した粒剤を用いて供試薬剤の所定量をポットに直接散布した。薬剤処理後3週間目にイネの地上部生体重を測定し、対無処理区比が0から10%を10、11?20%を9、21?30%を8、31?40%を7、41?50%を6、51?60%を5、61?70%を4、71?80%を3、81?90%を2、91?100%を1で表した。
【0032】
【表4】

【0033】
【発明の効果】従来の除草剤に対して、本発明の除草剤組成物は2?3種類といった相対的に少ない有効成分と低い施用量で、処理適期幅が広くなり、特に処理日が少々遅れても雑草防除が十分となり、雑草スペクトラムが広くなり、例えば、クログワイ、ミズガヤツリ、ウリカワ、オモダカ等の難防除雑草に関して、驚くほど防除効果がよくなり、さらに、残効期間が長くなり、かつ、水稲等の作物に薬害が全くないという優れた特徴を示す。」

2 引用発明
刊行物1には、(A)一般式【化1】(式略)で示される化合物及び(B)少なくとも一種の土壌及び茎葉処理除草剤を含有する除草剤組成物が記載されており(摘示1a、請求項1)、土壌及び茎葉処理除草剤として、メフェナセットが記載されており(摘示1a、請求項5)、具体的な製剤例として、以下の本発明化合物A7とされる化合物を0.35重量部

式中、Q=C-H、R=CH_(2)CHF_(2)(以下、「化合物A7」という。)
とメフェナセット10重量部を含有する粒剤が記載され(摘示1g)、該除草剤組成物を水田除草剤として用いる(摘示1c)方法の発明が記載されているといえる。
したがって、刊行物1には、
「化合物A7を0.35重量部及び土壌及び茎葉処理除草剤であるメフェナセットを10重量部含有する除草剤組成物を水田除草剤として用いる方法」に係る発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。

3 対比・判断
(1)対比
本願発明1と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「除草剤組成物」は、本願発明1の「除草組成物」に相当する。
刊行物1発明の「化合物A7」、「メフェナセット」は、それぞれ、本願発明1の「ペノキススラム」、「メフェナセット」に相当する。
刊行物1発明の除草剤組成物は、前記した2つの化合物を含有するものであるところ、本願発明1の除草組成物も前記した2つの化合物を含有するものである点で共通する。
刊行物1発明は、土壌及び茎葉処理除草剤を含有する除草剤組成物を水田除草剤として用いる方法に関するものであるところ、該組成物は、土壌及び茎葉を処理するものであり、除草するものであるといえ、除草の対象が望ましくない植生であることは明らかであり、除草により、植生の発生又は成長が妨げられ、望ましくない植生が防除されることも明らかである。また、刊行物1発明は、水田除草剤に関する発明であるところ、刊行物1には、水稲などの作物に対して全く薬害を示さないとの記載がある(摘示1c、1h)ことから、刊行物1発明は、イネに対して用いられる方法であるといえる。したがって、刊行物1発明の方法は、本願発明1における「植生若しくは植生に隣接する領域に施用して又は土壌若しくは水に施用して、植生の発生又は成長を妨げることを含」むものであり、また、本願発明1における「イネにおける望ましくない植生を防除する方法であ」ることに相当する。
したがって、本願発明1と刊行物1発明とは、
「除草組成物を、植生若しくは植生に隣接する領域に施用して又は土壌若しくは水に施用して、植生の発生又は成長を妨げることを含み、前記除草組成物が、(a)ペノキススラム、及び(b)メフェナセットを含む、イネにおける望ましくない植生を防除する方法である、方法。」ことに関するものである点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本願発明1が、(a)と(b)について、「相乗的除草有効量」の「(a)と(b)との重量比が1:56から1:30(ただし1:30である場合を除く)」と特定しているのに対し、刊行物1発明では、相乗的除草有効量であるとは直接特定されておらず、(a)と(b)の重量比が0.35:10、すなわち、約1:28.6である点

<相違点2>
望ましくない植生に関して、本願発明1が、「前記望ましくない植生が、アゼナ、ウリカワ、又はそれらの組合せを含む」と特定しているのに対し、刊行物1発明は、望ましくない植生が特定がされていない点

<相違点3>
除草剤組成物に関して、本願発明1が(a)ペノキススラム又は農業的に許容可能なその塩、及び(b)メフェナセット又は農業的に許容可能なその塩「からなり」と特定しているのに対し、刊行物1発明においては、化合物A7(ペノキススラム)及びメフェナセットを「含有する」と特定している点

(2)判断
上記各相違点について検討する。
ア <相違点1>について
(ア)刊行物1には、「特に低施用量で、処理適期幅が広く、多くの問題雑草に対し優れた防除効果を示し、長期残効型の水田用除草剤等として有効な除草剤組成物に関する」こと(摘示1b)、「本発明の除草剤組成物は相対的に少ない化合物の組合せで且つ相対的に少ない有効成分量の使用を可能とする。また処理適期幅が広くなり、特に処理日が少々遅れても十分な雑草防除が可能となる。さらに、幅広い雑草種の防除が可能となり、例えば、クログワイ、ミズガヤツリ、ウリカワ、オモダカ等の難防除雑草に関して、驚くほど防除効果がよくなる。また、残効期間が長くなり、かつ水稲等の作物に対して全く薬害を示さないという優れた特徴を持ち水田除草剤として特に有効である」こと(摘示1c)、「これら成分(B)の除草剤はいずれも単独では、前記した難防除であるクログワイ、ミズガヤツリといった草種を防除できない。いずれの除草剤も水田に発生する多種の雑草のほんの一部を防除できるに過ぎず、一つの化合物で全ての主要雑草を完全に防除できるような広いスペクトラムを持つ除草剤はない。また雑草の生育が進むと効果が弱くなるなどの欠点がある」こと(摘示1e)、「これに対し、前記した成分(A)を組合せることにより、一般的な有効成分の組合せからは予測し得ない程度に上記の欠点を改良し、効力持続は長期におよび、生育の進んだ雑草をも枯殺することができるという、驚くべき相乗効果を発揮し、特に防除できる除草剤がなく有効な除草剤が望まれている水田難防除雑草に威力を示すのである」こと(摘示1e)が記載され、成分(A)と成分(B)とを組み合わせることにより相乗効果を発揮することが記載されている。

(イ)また、例えば成分(A)と成分(B)の配合比(成分(A):成分(B))は、一般的に重量比で、1:0.1?100、より好ましくは、1:0.1?50の重量比とすることができること、除草剤組成物は、施用する場所の条件等に応じて、適宜上記有効成分の種類、配合量を選択して、調整されること、有効成分の混合比率はかなり広い範囲内で選べること、が記載され(摘示1a、1f)、広い範囲内で選べる具体例として、有効成分の処理量として、刊行物1に記載された成分(A)を10g/haとしたものに対して、同じく成分(B)を500、333g/ha(この場合の比は1:50、1:33.3)等の各種割合で配合した例が記載されており、刊行物1発明の化合物A7及びメフェナセット(B8)についても、成分(B)500、333g/haと組み合わせる際に、化合物A7を10g/ha配合した例、成分(A)10g/haと組み合わせる際に、メフェナセット(B8)を500、333g/ha配合した例(これらの場合の成分(A)と成分(B)との重量比は1:50、1:33.3)が記載されている(摘示1hの各表)。

(ウ)そして、これら刊行物1の記載からみて、刊行物1には、成分(A)と成分(B)との組合せによる相乗的な除草効果の記載や、単に成分(A)と成分(B)との配合比を変化させることができることが一般的に記載されているだけでなく、具体的な例を伴って、配合比を変化させることが記載されているから、上記した一般的な重量比の範囲の記載に従い、その範囲で重量比を変化させてみることには強い動機付けがあるといえる。
してみると、刊行物1発明において、成分(A)と成分(B)である、化合物A7とメフェナセットとが「相乗的除草有効量」であると特定し、たまたま記載された重量比である約1:28.6に代えて、刊行物1に記載された1:0.1?1:100の範囲に含まれる範囲であり、具体例も記載されている1:30?1:56に含まれる範囲のものと特定する程度のことは当業者が容易になし得る技術的事項であるといえる。

イ <相違点2>について
刊行物1には、水田除草剤などとして有効であること、ウリカワなどの雑草に対して防除効果がよくなること、幅広い雑草種の防除が可能となり、例えば、クログワイ、ミズガヤツリ、ウリカワ、オモダカ等の難防除雑草に関して、驚くほど防除効果がよくなることが記載されているところ(摘示1b、1c、1e、1h)、ウリカワは防除対象の雑草として挙げられている。また、アゼナ、ウリカワはいずれも周知の水田雑草である(高橋信孝著者代表、「新版 農薬の科学」、文永堂出版株式会社、2003年8月30日第3刷発行、263頁)。
したがって、刊行物1発明について、望ましくない植生として「アゼナ、ウリカワ、又はそれらの組合せを含む」を特定する程度のことは当業者が容易になし得る技術的事項である。

ウ <相違点3>について
本願発明1におけるこの特定は、(a)、(b)の成分のみからなることを特定したものではなく、(a)と(b)の成分に関して組成物の構成成分となっていることを特定し、他の成分に関しては特定しないこととしたものと解される。
このことは、請求項1に「除草組成物を、植生若しくは植生に隣接する領域に施用して又は土壌若しくは水に施用して、植生の発生又は成長を妨げることを含み、
前記除草組成物が、相乗的除草有効量の(a)ペノキススラム又は農業的に許容可能なその塩、及び(b)メフェナセット又は農業的に許容可能なその塩からなり、
・・・イネにおける望ましくない植生を防除する方法であり、
・・・
、方法。」と記載され、一般に、施用される除草組成物が担体等の有効成分以外の成分を含んでもよいことは技術常識であることとも一致し、本願明細書の、「【0005】したがって、本開示は、相乗的除草有効量の(a)ペノキススラム又は農業的に許容可能なその塩、及び(b)メフェナセット又は農業的に許容可能なその塩を含む除草組成物に関する。(a)と(b)との重量比は、1:400から1:30未満(例えば、1:80から1:30未満、又は1:56から1:30未満)であり得る。いくつかの実施形態において、組成物は、追加の殺有害生物剤(例えば、シハロホップ、ベンスルフロン、ベンタゾン、ベンゾビシクロン、ブロモブチド、フェノキサプロップ、ハロスルフロン、メタミホップ、メタゾスルフロン、メトスルフロン、プロホキシジム、ピラゾスルフロン、トリアファモン、農業的に許容可能なこれらの塩若しくはエステル、又はこれらの組合せ)をさらに含む。いくつかの実施形態において、組成物は、除草剤毒性緩和剤、農業的に許容可能なアジュバント若しくは担体、又はこれらの組合せをさらに含む。」として、除草組成物に、追加の殺有害生物剤や除草剤毒性緩和剤、農業的に許容可能なアジュバント若しくは担体、又はこれらの組合せをさらに含む実施形態もあるとの説明記載があることとも一致するものである。
したがって、(a)、(b)成分を含む刊行物1発明は、(a)、(b)以外の成分については存在の有無を特定していない本願発明1に相当し、相違点3は実質的な相違点ではないといえる。
仮に上記の点が相違点であったとしても、刊行物1発明において成分として着目しているのは、化合物A7やメフェナセットであることから、化合物A7とメフェナセットに関する除草組成物をその他の成分に関して存在の有無を特定しない「からなる」との表現で特定すること自体、当業者が容易になし得る技術的事項である。

エ <効果について>
(ア)本願明細書には、本願発明1に係る方法が相乗的な効果を奏する旨が一般的に記載されている(【0004】等)。また、具体的な試験結果として、イヌビエ、アゼナ、ウリカワ、クログワイ、ジャパニーズブルラッシュに対する防除試験の結果(表1?3)、イネの被害についての試験結果(表4)が記載されている。
ここで、イヌビエ(表1)、アゼナ(表2)、クログワイ(表3)、ジャパニーズブルラッシュ(表3)については、ペノキススラムとメフェナセットとの重量比が本願発明1の範囲内にあるときの一応の相乗効果が認められる。

(イ)一方、刊行物1には、「【0007】本発明の除草剤組成物は相対的に少ない化合物の組合せで且つ相対的に少ない有効成分量の使用を可能とする。また処理適期幅が広くなり、特に処理日が少々遅れても十分な雑草防除が可能となる。さらに、幅広い雑草種の防除が可能となり、例えば、クログワイ、ミズガヤツリ、ウリカワ、オモダカ等の難防除雑草に関して、驚くほど防除効果がよくなる。また、残効期間が長くなり、かつ水稲等の作物に対して全く薬害を示さないという優れた特徴を持ち水田除草剤として特に有効である。」との記載(摘示1c)、「【0012】これに対し、前記した成分(A)を組合せることにより、一般的な有効成分の組合せからは予測し得ない程度に上記の欠点を改良し、効力持続は長期におよび、生育の進んだ雑草をも枯殺することができるという、驚くべき相乗効果を発揮し、特に防除できる除草剤がなく有効な除草剤が望まれている水田難防除雑草に威力を示すのである。」との記載(摘示1e)があり、刊行物1には、幅広い雑草種の防除が可能となること、ウリカワ等の難防除雑草に関して防除効果がよくなること、水田除草剤として有効であること、相乗効果を発揮すること、水稲等の作物に対して全く薬害を示さないことについての記載がある。
さらに、具体的な試験結果として、除草効果試験及び薬害試験についての記載があり、それらの試験においても相乗効果を確認することができる(摘示1h(例えば、表1では、A7+B1を有効成分の処理量10+75g/haでクログワイを処理した場合、それぞれを単独で処理した効果(7以下の効果(A7単独では処理量が20g/haであるから、処理量が10g/haの場合は7以下であると認められる。)と1の効果)を単純に足し合わせた効果よりも優れた効果(9の効果)を示しており、相乗効果を示しているといえる。))。

(ウ)そして、イヌビエ、アゼナ、ウリカワ、クログワイ、ジャパニーズブルラッシュ(イヌホタルイと同じと認める。)はいずれも周知の水田雑草である(高橋信孝著者代表、「新版 農薬の科学」、文永堂出版株式会社、2003年8月30日第3刷発行、263頁、農林水産省消費・安全局 農産安全管理課等監修、「農薬概説(2006)」、社団法人日本植物防疫協会、平成18年5月22日(2006)第1刷発行、179?183頁)。

(エ)してみると、刊行物1には、上記のとおり、相乗効果に関する記載や幅広い雑草種の防除が可能となったこと、水田除草剤として有効であること、水稲等の作物に対して全く薬害を示さないことについての記載があり、上記のとおり、イヌビエ、アゼナ、ウリカワ、クログワイ、ジャパニーズブルラッシュ(イヌホタルイと同じと認める。)はいずれも周知の水田雑草であるのだから、本願発明1の効果が当業者の予測を超える格別顕著な効果であるとまでいうことはできない。

(3)請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は、令和1年6月11日付けの意見書において以下の点を主張しているので、検討する。
(ア)引用文献1では、列挙された除草剤のいずれかが、ペノキススラムと組み合わせられたときに相乗効果を奏することは示唆されておらず、当業者が、ペノキススラムと組み合わせられたときにメフェナセットが相乗効果を示すと予期し得ない点
(イ)引用文献1は、「(a)ペノキススラム」と「(b)メフェナセット」の組み合わせが、イネに対して有効であることを示すものではない点

イ 主張の検討
以下検討する。
(ア)主張(ア)について
刊行物1には、ペノキススラムとメフェナセットを含有する除草剤組成物が具体的に記載されており(摘示1g)、当該2成分に相当する成分(A)と成分(B)とを組み合わせることで、相乗効果を発揮すること、水田難防除雑草に威力を示すこと、また、水田除草剤として有効であること、水稲等の作物に対して全く薬害を示さないことが記載されている(摘示1c、1e、1h)。
さらに、刊行物1には、A7(ペノキススラム)と刊行物1に記載された成分(B)に相当する物質(B1)とを組み合わせることで、相乗効果を奏することが具体的に確認できる(上記(2)エ(イ)参照)。
したがって、刊行物1には、刊行物1に記載された除草剤とペノキススラムとを組み合わせたときに相乗効果を奏することが示唆されているといえ、当業者が、ペノキススラムとメフェナセットを組み合わせた組成物が相乗効果を示すと予期し得るといえる。

(イ)主張(イ)について
上記(ア)で述べたとおりであるから、刊行物1には、「(a)ペノキススラム」と「(b)メフェナセット」の組み合わせが、イネに対して有効であることが示されているといえる。

したがって、上記請求人の主張を採用することはできない。

(3)まとめ
したがって、本願発明1は刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願については、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-29 
結審通知日 2019-07-30 
審決日 2019-08-19 
出願番号 特願2015-547471(P2015-547471)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 直子  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 佐藤 健史
冨永 保
発明の名称 ペノキススラム及びメフェナセットの施用による相乗的な雑草防除  
代理人 片山 英二  
代理人 小林 浩  
代理人 大森 規雄  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 潮 太朗  

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