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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1358526
審判番号 不服2018-9896  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-19 
確定日 2020-01-06 
事件の表示 特願2016-197697「医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年2月23日出願公開、特開2017-39746〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年7月25日を国際出願日とする特願2013-533267号(パリ条約による優先権主張 2010年10月12日、2011年1月10日、同年1月12日、同年1月14日、同年1月17日、いずれも(IN)インド)の一部を、平成28年10月6日に新たな出願としたものであって、その手続の主な経緯は以下のとおりである。

平成28年10月31日 :上申書、手続補正書
平成29年 5月19日付け:拒絶理由通知書
同年11月29日 :意見書
平成30年 3月15日付け:拒絶査定
同年 7月19日 :審判請求書

第2 本願発明
本願の請求項1ないし17に係る発明は、平成28年10月31日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)及び請求項13に係る発明(以下「本願発明13」という。)は、それぞれ、次のとおりのものである。

「【請求項1】
a) 20?1200mcgの範囲の量のマレイン酸インダカテロール、及び0.5?40mcgの範囲の量のフマル酸ホルモテロールから選択されるβ_(2)-アゴニスト、
b) 0.5?800mcgの範囲の量のフランカルボン酸フルチカゾン、及び20?800mcgの範囲の量のシクレソニドから選択されるコルチコステロイド(フマル酸ホルモテロールとシクレソニドとの組合せを含まない);
c) エタノール、PEG、グリセロール、ポリビニルピロリドン、又はこれらの組合せから選択される可溶化剤;及び
d) 噴射剤
を含む医薬組成物を含む加圧された定量噴霧式吸入器であって、
該組成物が、1日1回投与用に適した形態である、前記加圧された定量噴霧式吸入器。」

「【請求項13】
a) 20?1200mcgの範囲の量のマレイン酸インダカテロール、及び0.5?40mcgの範囲の量のフマル酸ホルモテロールから選択されるβ_(2)-アゴニスト、
b) 0.5?800mcgの範囲の量のフランカルボン酸フルチカゾン、及び20?800mcgの範囲の量のシクレソニドから選択されるコルチコステロイド;
c) ラクトース;
及び、任意に、1以上の医薬として許容し得る賦形剤を含む、乾燥粉末吸入組成物であって、
1日1回投与用に適した形態である、前記乾燥粉末吸入組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由
本願発明1及び13についての原査定の拒絶の理由は、概略、次のとおりのものである。

1 理由1
本願発明1及び13は、引用文献6に記載された発明及び引用文献8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 理由2
本願発明1及び13は、引用文献5に記載された発明及び引用文献8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 理由3
本願発明1及び13は、引用文献4に記載された発明及び引用文献5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、

引用文献4:中国特許出願公開第101474191号明細書
引用文献5:特表2004-514739号公報
引用文献6:特表2002-537249号公報
引用文献8:特表2005-523268号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献6の記載及び引用発明6
(1)引用文献6には、以下の事項が記載されている(下線は、当合議体によるものを含む。)。

「【請求項1】 (A)ホルモテロールもしくは薬学的に許容できるその塩またはホルモテロールもしくは当該塩の溶媒和物および(B)プロピオン酸フルチカゾンを含む医薬組成物。
【請求項2】 請求項1の組成物であって有効量の(A)および(B)を薬学的に許容できる担体と共に含む組成物。
【請求項3】 (A)がフマル酸ホルモテロールである請求項1または2の組成物。
【請求項4】 請求項3の組成物であって、フマル酸ホルモテロールがその二水和物の形態である組成物。
【請求項5】 請求項1ないし4のいずれかの組成物であって吸入可能な形態である組成物。
【請求項6】 請求項5の組成物であって霧化可能な組成物。
【請求項7】 請求項6の組成物であって、当該組成物が(A)および(B)の混合物を溶液または分散物としてプロペラント中に含むエアロゾルである組成物。

【請求項9】 請求項5の組成物であって、当該組成物が微粉砕された(A)および(B)を、所望により、微粉砕された形態における薬学的に許容できる担体と共に含む乾燥粉末である組成物。

【請求項18】 請求項1ないし17のいずれかの組成物であって、炎症性または閉塞性気道疾患の処置における使用のための組成物。」

「【0001】
本発明は、ベータ-2アゴニストおよびステロイドの組み合わせ並びに炎症性または閉塞性気道疾患の処置のためのそれらの使用に関する。」

「【0002】
…特に、ホルモテロールおよびプロピオン酸フルチカゾンを含む組成物が、ホルモテロールまたはプロピオン酸フルチカゾン単独によって誘導されるものより有意に大きい抗炎症性活性を誘導し、ホルモテロールとの混合剤において使用のとき、所定の抗炎症性効果に必要なプロピオン酸フルチカゾンの量は、有意に減少し、それによって炎症性または閉塞性気道疾患の処置に必要なステロイドヘ繰り返しさらすことに由来する望ましくない副作用のリスクを減少させ得ることが見出された。」

「【0009】
本発明の組成物の吸入可能な形態としての使用のために適当なエアロゾル組成物は、プロペラント中に溶液または分散物として活性成分を含み得る。それを、当業界で既知の任意のプロペラントから選択し得る。適当なそのようなプロペラントは、炭化水素、例えば、n-プロパン、n-ブタン、またはイソブタンまたは2またはそれ以上のそのような炭化水素の混合物、およびハロゲン置換炭化水素、例えば、フッ素置換メタン、エタン、プロパン、ブタン、シクロプロパンまたはシクロブタン、特に1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFA134a)および1,1,1,2,3,3,3-へプタフルオロプロパン(HFA227)、または2またはそれ以上のそのようなハロゲン置換炭化水素の混合物を含む。・・・エアロゾル組成物は、共溶媒、例えば、エタノール等も、組成物の30重量%までの量で、特に、加圧式定量吸入装置からの投与のために含み得る。
【0010】
本発明のさらなる実施態様において、吸入可能な形態は乾燥粉末であり、すなわち(A)および(B)が、微粉砕された(A)および(B)を、所望により微粉砕された薬学的に許容可能な担体を好ましくは含み、乾燥粉末吸入組成物中の担体として既知の材料から選択される1またはそれ以上の材料(…)と共に含む乾燥粉末中に含有される。特に好ましい担体は、ラクトース、特に一水和物の形態である。」

「【0015】
ホルモテロール、その塩または溶媒和物の、特にフマル酸ホルモテロール二水和物として、本発明の組成物における吸入のために、適当な1日の用量は、1ないし72μg、例えば、1ないし60μg、一般に3ないし50μg、好ましくは6ないし48μg、例えば、6ないし24μgであってよい。本発明の組成物における吸入のためのプロピオン酸フルチカゾンの適当な1日の用量は、25ないし3000μg、例えば、25ないし2000μg、50ないし2000μg、好ましくは100ないし1000μg、例えば、200ないし1000μgまたは200ないし500μgであってよい。使用される正確な用量は、もちろん、処置される症状、患者および吸入装置の効率に依存する。本発明の組成物の製剤およびその投与頻度を、それにしたがって選択し得る。本発明の組成物におけるホルモテロール構成要素(A)の、特に、フマル酸ホルモテロール二水和物としての適当な単位用量は、1ないし72μg、例えば、1ないし60μg、一般に、3ないし48μg、好ましくは6ないし36μg、特に、12ないし24μgであってよい。本発明の組成物におけるプロピオン酸フルチカゾン(B)の適当な単位用量は、25μgないし500μg、例えば50μgないし400μg、好ましくは100μgないし300μg、特に150ないし250μgであってよい。これらの単位用量を、前記の適当な1日の用量に対応して1日に1回または2回適当に投与し得る。要求に応じた使用に関して、6μgまたは12μgの(A)および50μgまたは100μgのプロピオン酸フルチカゾン(B)を含む用量単位が好ましい。」

「【0021】
実施例1-定量吸入器のためのエアロゾル組成物
成分 重量%
フマル酸ホルモテロール二水和物 0.012
プロピオン酸フルチカゾン 0.250
エタノール(無水) 2.500
HFA227 60.768
HFA134a 36.470
【0022】
実施例2-乾燥粉末
成分 重量%
フマル酸ホルモテロール二水和物 0.048
プロピオン酸フルチカゾン 1.000
ラクトース一水和物 98.952 」

(2)上記(1)の記載からみて、引用文献6には、フマル酸ホルモテロールと、プロピオン酸フルチカゾンを含む、炎症性または閉塞性気道疾患の処置のための医薬組成物が開示され(【請求項1】【請求項3】【請求項18】)、フマル酸ホルモテロール二水和物の1日の用量は1?72μg、プロピオン酸フルチカゾンの1日の用量は25?3000μgであり、また、フマル酸ホルモテロール二水和物の適当な単位用量は1?72μg、プロピオン酸フルチカゾンの適当な単位用量は25?500μgであり、これらの単位用量を、前記の1日の用量に対応して1日に1回または2回適当に投与し得るものであることが記載されている(【0015】)。
また、活性成分を、プロペラント中に溶解または分散物として含むエアロゾル組成物とすること、さらに、エアロゾル組成物は、加圧式定量吸入装置からの投与のために、共溶媒、例えば、エタノール等を含み得ることが記載されている(【0009】)。
他の実施形態として、活性成分をラクトース等の担体とともに、乾燥粉末吸入組成物とすることが記載されている(【0010】)。
そして、実施例1として、フマル酸ホルモテロール二水和物、プロピオン酸フルチカゾン、エタノール(無水)、HFA227、HFA134aを含む定量吸入器のためのエアロゾル組成物が、また、実施例2として、フマル酸ホルモテロール二水和物、プロピオン酸フルチカゾン、ラクトース一水和物を含む乾燥粉末が、それぞれ記載されている(【0021】【0022】)。
したがって、引用文献6には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。

「フマル酸ホルモテロール二水和物1?72μg、及び、プロピオン酸フルチカゾン25?500μgを、1日に1回投与する、炎症性または閉塞性気道疾患の処置のための医薬組成物を、プロペラント、及び、エタノール等の共溶媒とともにエアロゾル組成物としたものを含む、加圧式定量吸入装置。」(以下「引用発明6A」という。)

「フマル酸ホルモテロール二水和物1?72μg、及び、プロピオン酸フルチカゾン25?500μgを、1日に1回投与する、炎症性または閉塞性気道疾患の処置のための医薬組成物を、担体であるラクトースともに含む、乾燥粉末吸入組成物。」(以下「引用発明6B」という。)

2 引用文献5の記載及び引用発明5
(1)引用文献5には、以下の事項が記載されている(下線は当合議体による。)。

「【請求項1】
炎症性または閉塞性気道疾患の処置における、同時的、逐次的または個別的投与のための、(A)遊離または薬学的に許容される塩または溶媒和物の形態の、式
【化1】

で示される化合物および(B)コルチコステロイドを個別にまたは一緒に含み、(A)と(B)のモル比が100:1から1:300である、医薬。

【請求項3】
(A)がマレイン酸塩の形態の式Iの化合物である、請求項1または2に記載の医薬。

【請求項5】
コルチコステロイド(B)がベクロメタゾン ジプロピオネート、ブデソニド、フルチカゾン プロピオネート、モメタゾン フロエート、シクレソニド、トリアムシノロン アセトニド、フルニソリド、ロフレポニド パルミテート、ブチキソコート プロピオネートまたはイコメタゾン エンブテートである、請求項1?4のいずれかに記載の医薬。
【請求項6】
コルチコステロイド(B)がブデソニド、フルチカゾン プロピオネート、モメタゾン フロエートである、請求項5に記載の医薬。
【請求項7】
高圧ガス中の溶液または分散体中の(A)および(B)の混合物、あるいは高圧ガス中の溶液または分散体中の(A)を含むエアロゾルと高圧ガス中の溶液または分散体中の(B)を含むエアロゾルとの組合せ剤を含む、エアロゾルとして吸入可能な形態の請求項1?6のいずれかに記載の医薬。

【請求項9】
(A)および/または(B)が、所望により少なくとも1つの粒子状の薬学的に許容される担体とともに、細粒化された(A)および/または(B)を含むドライパウダーとして吸入可能な形態で存在する、請求項1?6のいずれかに記載の医薬。」

「【0018】
該医薬の吸入可能な形態としての使用に適したエアロゾル組成物は、高圧ガス(これは、当分野において既知の任意の高圧ガスから選択され得る。)中の溶液または分散体中の活性成分を含み得る。このような適当な高圧ガスは、n-プロパン、n-ブタンもしくはイソブタンのような炭化水素またはこのような炭化水素のうちの2以上の混合物、およびハロゲン-置換炭化水素、例えば塩素および/またはフッ素-置換メタン、エタン、プロパン、ブタン、シクロプロパンまたはシクロブタン、例えばジクロロジフルオロメタン(CFC 12)、トリクロロフルオロメタン(CFC 11)、1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラフルオロエタン(CFC 114)または、特に1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFA 134a)および1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFA 227)、またはこのようなハロゲン-置換炭化水素のうちの2以上の混合物を含む。…エアロゾル組成物は、また、組成物の重量の30%までの量で、特に加圧計量投与吸入デバイスからの投与のために、エタノールのような共溶媒を含み得る。」

「【0019】
本発明の別の実施態様において、吸入可能な形態はドライパウダーである、すなわち(A)および/または(B)は、所望により少なくとも1つの粒子状の薬学的に許容される担体とともに、細かく粉砕された(A)および/または(B)を含むドライパウダー中に存在する。これは、例えばモノサッカライド、ジサッカライド、ポリサッカライドを含むサッカライド、およびアラビノース、グルコース、フルクトース、リボース、マンノース、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトース、デンプン、デキストラン、マンニトールまたはソルビトールのような糖アルコールのような、ドライパウダー吸入用組成物中の担体として既知の物質から好ましくは選択される、薬学的に許容される担体として既知の1以上の物質であり得る。とりわけ好ましい担体はラクトースである。」

「【0022】
活性成分の吸入可能な形態がエアロゾル組成物である場合、吸入デバイスは、計量された投与量、例えば10-100μl、例えば25-50μlの組成物を送達するために適用されたバルブを備えたエアロゾル・バイアル、すなわち定量噴霧式吸入器として知られるデバイスであり得る。加圧下で内部にエアロゾル組成物を含むこのような適当なエアロゾル・バイアルおよび手順は、吸入治療の分野における当業者に周知である。」

「【0025】
吸入のための、特にマレイン酸塩としての、化合物(A)の適当な1日投与量は、20μg-2000μg、例えば20-1500μg、20-1000μg、好ましくは50-800μg、例えば100-600μg、または100-500μgであり得る。吸入のためのステロイド(B)の適当な1日投与量は、20μg-5000μg、例えば20-4000μg、50-3000μg、50-2000μg、50-1000μg、50-500μg、50-400μg、50-300μg、50-200μg、または50-100μgであり得る。
【0026】
・・・(B)がフルチカゾン プロピオネートである場合、適当な1日投与量は、25-2000μg、例えば25-1500μg、25-1000μg、25-500μg、25-250μg、50-1500μg、50-1000μg、50-500μg、50-250μg、100-1500μg、100-1000μg、100-500μg、100-250μg、200-1500μg、200-1000μg、または200-500μgであり得、100-1000μgが好適である。
【0027】
特にマレイン酸塩としての、化合物(A)の適当な単位投与量は、20-2000μg、例えば20-1500μg、20-1000μg、好ましくは50-800μg、50-600μg、または50-500μgであり得る。・・・吸入用のフルチカゾン プロピオネートの適当な単位投与量は、25-1000μg、例えば25-500μg、25-250μg、25-200μg、50-1000μg、50-500μg、50-250μg、50-200μg、100-1000μg、100-500μg、100-250μg、100-200μg、150-500μg、または150-250μgであり得、100-500μgが好適である。これらの単位投与量は、前記の1日投与量にしたがって、1日に1回または2回投与され得る。使用される正確な単位および1日投与量は、もちろん、処置される病状、患者および吸入デバイスの効力に依存して変動する。」

「【0032】
本発明の医薬は、炎症性または閉塞性気道疾患の処置において有利であり、極めて有効な気管支拡張および抗炎症特性を示す。例えば、本発明の併用治療を用いて、コルチコステロイド単独での処置に必要な投与量と比較して所定の治療効果のために必要とされるコルチコステロイドの投与量を減らすことが可能であり、それにより望ましくない副作用を可能な限り最小化することができる。特に、これらの組合せ剤(特に(A)および(B)が同一の組成物中にある場合)は、式Iの化合物と混合して使用される場合に、所定の抗炎症作用に必要とされるコルチコステロイドの量が減量され、高い抗炎症性効果の達成が促進され、その結果、炎症性または閉塞性気道疾患の処置に関係するステロイドへの反復的暴露に由来する望ましくない副作用のリスクが減少し得る。
【0033】
さらに、本発明の組合せ剤を用いて、特に(A)および(B)を含む組成物を用いて、作用の発現が早くそして作用の持続時間が長い医薬が製造され得る。さらに、このような併用治療を用いて、肺機能の有意な改善をもたらす医薬が製造され得る。別の観点において、本発明の併用治療を用いて、閉塞性または炎症性気道疾患の有効な制御、またはこれらの疾患の悪化の減少を提供する医薬が製造され得る。さらなる観点において、(A)および(B)を含む本発明の組成物を用いて、サルブタモールまたはテルブタリンのような即時型緩解薬での処置の必要性を減少またはなくす医薬が製造され得る;したがって、(A)および(B)を含む本発明の組成物は、単一の医薬での閉塞性または炎症性気道疾患の処置を促進する。」

「【0037】
本発明を下記の実施例により例示するが、特記しない限り、部(parts)は重量部である。実施例において、化合物Aはマレイン酸塩の形態の式Iの化合物であり、Budはブデソニドを示し、FPはフルチカゾン プロピオネートを示し、MFはモメタゾン フロエートを示し、そしてOAはオレイン酸(界面活性剤)を示す。」

「【0044】
製造6 化合物A:5-[(R)-2-(5,6-ジエチル-インダン-2-イルアミノ)-1-ヒドロキシ-エチル]-8-ヒドロキシ-1H-キノリン-2-オン マレイン酸塩
8-ベンジルオキシ-5-[(R)2-(5,6-ジエチル-インダン-2-イルアミノ)-1-ヒドロキシ-エチル]-1H-キノリン-2-オン(360mg)をメタノール(10mL)中に溶かし、そして触媒量の10%パラジウム-炭素を添加することおよび該溶液を水素雰囲気下に置くことにより、該化合物を脱保護する。4時間後に、TLCにより反応が完結していることがわかる。触媒を濾取し、そして真空中で溶媒を除去する。
生成物をイソプロパノール中に溶かし、そしてイソプロパノール中のマレイン酸の溶液を加える。エタノールからの再結晶後、標題の化合物を得る。TLC(シリカ、ジクロロメタン/メタノール 10:1 R_(f)=0.05)。ES+ MS m/e 393 (MH^(+))。」

「【0047】
実施例91?135
WO97/20589において記載された複数投与用インヘラーのリザーバーからの送達に適したドライパウダーを、1-5μmの平均粒子直径に粉砕した化合物Aおよびフルチカゾン プロピオネート、ならびに212μm以下の粒子直径を有するラクトース一水和物を混合することにより製造する。量を下記の表に示す。」

「【0048】
実施例136?163
エアロゾル製剤を、微粉化された活性成分および必要ならば、増量剤としてラクトースをバイアル中に分散させ、計量バルブで該バイアルを密閉し、前混合されたエタノール/高圧ガスおよび所望により界面活性剤を該バルブを通してバイアル中に注入し、そして該バイアルに超音波エネルギーを与えて固体粒子を分散させることにより製造する。使用した成分および量を、下記の表において示す:

【表9】



(2)上記(1)の記載によれば、引用文献5には、炎症性または閉塞性気道疾患の処置のための、(A)遊離または薬学的に許容される塩または溶媒和物の形態の、式Iで示される化合物(合議体注:「インダカテロール」に相当)および(B)コルチコステロイドを個別にまたは一緒に含み、(A)と(B)のモル比が100:1から1:300である医薬(【請求項1】)が開示され、吸入のための、特にマレイン酸としての化合物(A)の適当な1日投与量は20?2000μg、(B)がフルチカゾンプロピオネートである場合の適当な1日投与量は25?2000μgであること(【0025】【0026】)、特にマレイン酸塩としての化合物(A)の適当な単位投与量は20?2000μg、吸収用のフルチカゾンプロピオネートの適当な単位投与量が25?1000μgであり、これらの単位投与量は、前記の1日投与量にしたがって、1日に1回または2回投与され得ること(【0027】)が記載されている。
また、医薬の吸入可能な形態としての使用に適したエアロゾル組成物は、高圧ガス中の溶液または分散体中の活性成分を含み得るものであり、特に加圧計量投与吸収デバイスからの投与のために、エタノールのような共溶媒を含み得ることが記載されている(【0018】)。
別の実施形態として、吸入可能な形態はドライパウダーであり、好ましい担体はラクトースであることが記載されている(【0019】)。
そして、実施例91?135には、化合物A(5-[(R)-2-(5,6-ジエチル-インダン-2-イルアミノ)-1-ヒドロキシ-エチル]-8-ヒドロキシ-1H-キノリン-2-オン マレイン酸塩(合議体注:「マレイン酸インダカテロール」に相当)、フルチカゾンプロピオネート(FP)、及び、ラクトースを混合したドライパウダーが記載され(【0044】【0047】)、実施例154?163として、化合物A、FP、HFA134a、HFA227、及び、エタノールを含む組成物を、計量バルブを通してバイアル中に注入したエアロゾル製剤が記載されている(【0048】)。
したがって、引用文献5には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。

「マレイン酸インダカテロール20?2000μg、及び、フルチカゾンプロピオネート25?1000μgを、1日1回投与する、炎症性または閉塞性気道疾患の処置のための医薬組成物を、高圧ガス、及び、エタノールのような共溶媒とともに含む、加圧計量投与吸収デバイス。」(以下「引用発明5A」という。)

「マレイン酸インダカテロール20?2000μg、及び、フルチカゾンプロピオネート25?1000μgを、1日1回投与する、炎症性または閉塞性気道疾患の処置のための医薬組成物を、担体であるラクトースとともに含む、吸入可能なドライパウダー。」(以下「引用発明5B」という。)

3 引用文献4の記載及び引用発明4
(1)引用文献4には、以下の事項が記載されている(以下、訳文を記載する。下線は当合議体による。)。

ア「【請求項1】
2種類の活性成分を含み、そのうち第1の活性成分がインダカテロール、又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物、若しくはこの塩の溶媒和物、から選択されたものであり、第2の活性成分がシクレソニドであることを特徴とする、喘息及び慢性閉塞性肺疾患を治療するための医薬組成物。
【請求項2】
前記第1の活性成分と前記第2の活性成分との重量比が、12?200:10?320μgであることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記第1の活性成分と前記第2の活性成分との重量比が、25?100:40?160μgであることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記第1の活性成分と前記第2の活性成分との重量比が、50:80μgであることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
医薬製剤に調製する時、薬学的に許容される適切な担体を選択的に加えることができ、担体は、メグルミン、マンニトール、ソルビトール、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、システイン塩酸塩、チオグリコール酸、メチオニン、ビタミンC、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(2水和物)、エデト酸カルシウムナトリウム水和物、1価アルカリ金属の炭酸塩、酢酸塩、リン酸塩又はその水溶液、塩酸、酢酸、硫酸、リン酸、アミノ酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、乳酸ナトリウム、キシリトール、マルトース、グルコース、フルクトース、デキストラン、グリシン、でんぷん、スクロース、ラクトース、マンニトール、エタノール、スクラロース、クエン酸、シリコン誘導体、セルロース及びその誘導体、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、グリセリン、ツイーン80(Tween80)、寒天、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、界面活性剤、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、リン脂質材料、カオリン、滑石粉、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エッセンス、ラクトース及びその一水和物、から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。

【請求項8】
調製方法が、室温条件下でシクレソニド、インダカテロールを均一に混合して粉砕し、乾燥させた後のラクトースを取り粉砕して上記粉末と均一に混合し、その後当該粉末を充填機の中に充填してパウダーエアロゾルにする、という調製方法であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。

【請求項10】
調製方法が、シクレソニドのマイクロパウダーとインダカテロールのマイクロパウダーとを取り、真空乾燥機の中で乾燥させ、室温に冷却して使用に備え、温度を15℃以下に制御し、乾燥材料をツイーン(Tween)に加えてステンレス鋼タンクの中に入れて推進剤を加えて均一に混合し、撹拌し、充填してエアロゾルにする、という調製方法であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。」(2頁1行?3頁4行)

イ「【発明の内容】
本発明の目的は、即効性があり使用しやすい、喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)を治療するための医薬組成物を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、本発明の医薬組成物の調製方法を提供することである。
本発明の医薬組成物は、以下の二種類の活性成分を含む。
(1)第1の活性成分はインダカテロール、又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物、若しくはこの塩の溶媒和物である。
(2)第2の活性成分は、シクレソニドである。
そのうち、第1の活性成分と前記第2の活性成分との重量比は、
12?200:10?320μgであり、
好ましい重量比は、
25?100:40?160μgである
本発明の最も好ましい重量比は、スクリーニングによって得られ、
50:80μgである。
上記の処方組成により調製できる医薬製剤は単回投与であり、投薬回数は最大1日2回である。」(5頁1?12行)

ウ「本発明において、第1の活性成分及び第2の活性成分の薬理学的分野に関する反復研究を行った結果、インダカテロールとシクレソニドの組成物は、より広い組合せ比の範囲を有し、喘息患者及びCOPD患者を治療するために使用する時、第1の活性成分と第2の活性成分を単独で使用した時と比較して、本発明の活性成分の組成物はより優れた効果を示したことが明らかになった。
本発明の投薬量は正確で、治療効果が長期間持続し、総合効果が高く、効果が現れるのが速く、安全性が高く、安定性が高く、品質管理が可能で、使用しやすく、安価で、大量生産に適している。」(6頁18?23行)

エ「実施例1.パウダーエアロゾル
室温条件下で、インダカテロール12kg、シクレソニド20kgを取り、均一に混合して、平均粒径1-5μmに粉砕する。乾燥させた後のラクトースを取り、平均粒径1-5μmに粉砕し、上記粉末と均一に混合し、その後当該粉末を充填機の中に充填してパウダーエアロゾルに調製する。」(6下から3行?7頁1行)

オ「実施例10.エアロゾル
インダカテロールのマイクロパウダー5kgを取り、シクレソニドのマイクロパウダー8kgを別に取り、真空乾燥機の中で乾燥させ、室温に冷却して使用に備える。温度を15℃以下に制御し、乾燥材料をツイーン(Tween)に加えてステンレス鋼タンクの中に入れて推進剤を加えて均一に混合し、撹拌し、充填してエアロゾルに調製する。」(7頁末行?8頁3行)

カ「実施例17.
試験1.一般情報:
1.1 安定期COPDの患者を選択し、その後ほぼ等しい数の3つの群(治療群、対照群1および対照群2)に無作為に分け、3つの群の患者の各項の指標は、治療前と比較すると、いずれも比較可能性があり、治療群には本発明の薬剤組成物、対照群1にはインダカテロールだけを投与し、対照群2にはシクレソニドだけを投与し、1回に付き1吸入で、1日2回、期間は6か月であった。
1.2 研究方法:3つの群にそれぞれ以下の方法を採用して治療を行った。治療群30例については、患者が群に割付けられた後、実施例に従って調製されたシクレソニド/インダカテロールのパウダーエアロゾル(1吸入に付き、80μg/50μg)を1回に付き1吸入、1日1回使用した。対照群1と対照群2、各30例については、それぞれインダカテロールのパウダーエアロゾル(1吸入に付き50μg)、シクレソニドのパウダーエアロゾル(1吸入に付き80μg)を、1回に付き1吸入、1日1回使用した。吸入30分前と吸入30分後の時点で、それぞれPEFを3回測定し、最大PEFを取り、PEFの改善率を計算した。

上記のデータと分析によって、インダカテロールとシクレソニドの併用は、喘息及びCOPDのさまざまな急性発作を急速に緩和させるための理想的な手段であり、重症の喘息については、気管支痙攣をより迅速に解決し、低酸素症を改善するための重要な治療手段であり、且つ操作が簡単で、安全で信頼性が高いことが分かった。」(8頁下から4行?10頁6行)

(2)上記(1)の記載によれば、引用文献4には、第1の活性成分がインダカテロール、又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物、若しくはこの塩の溶媒和物、から選択されたものであり、第2の活性成分がシクレソニドである、喘息及び慢性閉塞性肺疾患を治療するための医薬組成物が開示され(摘記ア)、第1の活性成分12?200μg、及び、第2の活性成分10?320μgを、単回投与し、投薬回数は最大1日2回であることが記載され(摘記イ)、実施例17においては、パウダーエアロゾル(インダカテロール50μgとシクレソニド80μg)を1回に付き1吸入、1日1回使用したことが記載されている(摘記カ)。
また、インダカテロールとシクレソニドを、ツイーン(tween)と推進剤とともに、充填してエアロゾルに調製すること(摘記オ)、また、インダカテロール及びシクレソニドに、乾燥させたラクトースを混合しパウダーエアロゾルに調製すること(摘記エ)が記載されている。

したがって、引用文献4には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。

「第1の活性成分はインダカテロール、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくはこの塩の溶媒和物であり、第2の活性成分は、シクレソニドであり、
第1の活性成分と第2の活性成分との重量比は、12?200:10?320μgであり、
1日1回投与する、喘息及び慢性閉塞性肺疾患を治療するための医薬組成物を、ツイーン(tween)及び推進剤とともに含む、エアロゾル吸入装置。」(以下「引用発明4A」という。)

「第1の活性成分はインダカテロール、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくはこの塩の溶媒和物であり、第2の活性成分は、シクレソニドであり、
第1の活性成分と第2の活性成分との重量比は、12?200:10?320μgであり、
1日1回投与する、喘息及び慢性閉塞性肺疾患を治療するための医薬組成物と、乾燥させたラクトースとを混合した、粉末吸入組成物。」(以下「引用発明4B」という。)

4 引用文献8の記載
引用文献8には、以下の事項が記載されている(下線は当合議体によるものを含む。)。

「【請求項1】
式(I):
【化1】


[式中、
R_(1)は、C_(1-6)アルキルまたはC_(1-6)ハロアルキルを表し;
R_(2)は、-C(=O)-アリールまたは-C(=O)-ヘテロアリールを表し;
R_(3)は、水素、メチル(α配置もしくはβ配置のいずれであってもよい)またはメチレンを表し;
R_(4)およびR_(5)は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれが水素またはハロゲンを表し;
=(合議体注:二重線の上は太い実線、下は細い実線。以下同様。)は、単結合または二重結合を表す]
で表される化合物、またはその塩もしくは溶媒和物と、長時間作用型β_(2)-アドレナリン受容体アゴニストと、を含む吸入投与用の医薬製剤であって、
製剤が24時間以上の期間にわたって呼吸器官の炎症性疾患の治療において治療上有用な効果を有するものである、前記製剤。

【請求項9】
請求項1?8のいずれか1項に記載の医薬製剤を投与することを含む、呼吸器官の炎症性疾患を1日1回治療する方法。」

「【0032】
式(I)で表される特に好ましい化合物としては、
6α,9α-ジフルオロ-17α-[(2-フラニルカルボニル)オキシ]-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-3-オキソ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17β-カルボチオ酸S-フルオロメチルエステル;
6α,9α-ジフルオロ-17α-[(3-フラニルカルボニル)オキシ]-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-3-オキソ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17β-カルボチオ酸S-フルオロメチルエステル;
6α,9α-ジフルオロ-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-3-オキソ-17α-[(2-チエニルカルボニル)オキシ]-アンドロスタ-1,4-ジエン-17β-カルボチオ酸S-フルオロメチルエステル;
6α,9α-ジフルオロ-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-3-オキソ-17α-[(3-チエニルカルボニル)オキシ]-アンドロスタ-1,4-ジエン-17β-カルボチオ酸S-フルオロメチルエステル;
6α,9α-ジフルオロ-17α-[(2-フラニルカルボニル)オキシ]-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-3-オキソ-アンドロスタ-4-エン-17β-カルボチオ酸S-フルオロメチルエステル、またはその塩もしくは溶媒和物が挙げられる。
【0033】
特に好ましい式(I)で表される化合物は、6α,9α-ジフルオロ-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-17α-[(4-メチル-1,3-チアゾール-5-カルボニル)オキシ]-3-オキソ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17β-カルボチオ酸S-フルオロメチルエステル、またはその塩もしくは溶媒和物である(実施例41)。」

「【0061】
式(I)で表される化合物は非常に効率的な肝代謝を受け、対応する17-βカルボン酸(X)(式中、R_(2)?R_(5)および=は上で定義されたとおりである)が、ラットおよびヒトのin vitro系で唯一の重要な代謝産物として生じるものと予想される。本発明者らは、これが実施例1の事例であることを確立し、実施例1の代謝産物(X)を合成し、活性が親化合物の1000分の1以下であることをin vitroでのグルココルチコイドアゴニスト機能アッセイにおいて実証した。また、(X)においてR_(2)が2-フラニルカルボニル以外の基を表す類似体も、非常に低い活性を有するものと予想される。

【0062】
この効率的な肝代謝は、いくつかの実施例におけるラットのin vivoデータに反映されている。そこでは、肝血流に近い速度の血漿クリアランス(実施例1、4、19、24、25および28)と高い初回通過代謝と一致している、1%未満の経口バイオアベイラビリティ(実施例1)が立証されている。
【0063】
ヒト肝細胞におけるin vitro代謝試験においては、実施例1はプロピオン酸フルチカゾンと同一の様式で代謝されるが、実施例1のその不活性な酸代謝産物への変換は、プロピオン酸フルチカゾンの場合よりも約5倍以上速やかに起こることが証明された。この非常に効率的な肝臓による不活性化によって、ヒトにおける全身性曝露が最小限となり、その結果、安全性プロファイルが改善されることが予想され得る。
【0064】
また、吸入ステロイドは肺を通って吸収されるが、吸収のこの経路が全身性曝露に重大な影響を及ぼす。したがって、肺吸収を低下させることにより安全性プロファイルを改善することができる。実施例1による試験では、麻酔したブタの肺へ乾燥粉末を送達すると、その後、実施例1に対する曝露がプロピオン酸フルチカゾンの場合よりも有意に低いことが示された。
【0065】
安全性プロファイルの改善により、1日1回投与した場合に、式(I)で表される化合物が所望の抗炎症作用を示すのを可能にするものと考えられる。1日1回投薬は、患者にとっては、プロピオン酸フルチカゾンで通常用いられる1日2回の用法に比べると非常に都合がよいものと考えられる。
【0066】
in vitroにおける肺組織親和性試験は、ヒト肺組織試料に対する6α,9α-ジフルオロ-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-17α-[(4-メチル-1,3-チアゾール-5-カルボニル)オキシ]-3-オキソ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17β-カルボチオ酸Sフルオロメチルエステルの親和性がプロピオン酸フルチカゾンで実施したものに比べて有意に高いことを示している。また、これは、ヒト気管支の上皮細胞を用いた細胞の輸送および蓄積試験によってもサポートされる。これらの研究によれば、6α,9α-ジフルオロ-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-17α-[(4-メチル-1,3-チアゾール-5-カルボニル)オキシ]-3-オキソ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17β-カルボチオ酸S-フルオロメチルエステルについての細胞層を通るフラックスはプロピオン酸フルチカゾンに比べて低減していることが示されている。また、これらの研究によれば、細胞層内での6α,9α-ジフルオロ-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-17α-[(4-メチル-1,3-チアゾール-5-カルボニル)オキシ]-3-オキソ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17β-カルボチオ酸S-フルオロメチルエステルの蓄積がプロピオン酸フルチカゾンに比べて多いことも示されている。」

「【0088】
吸入器の各定用量または操作は、10μg?100μgの長時間作用型β_(2)-アドレナリン受容体アゴニストと、25μg?500μgの式(I)で表される化合物とを含んでいるのが好ましい。」

「【0158】
実施例1: 6α,9α-ジフルオロ-17α-[(2-フラニルカルボニル)オキシ]-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-3-オキソ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17β-カルボチオ酸S-フルオロメチルエステル
中間体1の懸濁液(2.5g、4.94mmol)を無水N,N-ジメチルホルムアミド(25ml)中に溶解させ、炭酸水素ナトリウム(465mg、5.53mmol)を添加した。その混合物を-20℃にて撹拌し、ブロモフルオロメタン(0.77ml、6.37mmol)を添加し、混合物を2時間、-20℃にて撹拌した。ジエチルアミン(2.57ml、24.7mmole)を添加し、混合物を30分間、-20℃にて撹拌した。2Mの塩酸(93ml)にこの混合物を添加し、30分間撹拌した。水(300ml)を添加し、濾過により沈殿物を回収し、水で洗浄した後、50℃にて真空乾燥し、白色の固形物を得た。それをアセトン/水から再結晶させ、50℃にて真空乾燥し、表題の化合物(2.351g、88%)を得た:」

「【0198】
実施例41: 6α,9α-ジフルオロ-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-17α-[(4-メチル-1,3-チアゾール-5-カルボニル)オキシ]-3-オキソ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17β-カルボチオ酸S-フルオロメチルエステル
実施例41は、実施例1に記載されている方法と同様の方法を用いて、中間体39から調製した。」

「【0212】
in vivo薬理活性
in vivoの薬理活性は、オボアルブミン感作Brown Norwayラット好酸球増多症モデルにおいて評価した。このモデルは、アレルゲン誘導肺好酸球増多症(喘息における肺炎症の主要素)を模倣するように作られている。
【0213】
実施例1をオボアルブミンによる感作の30分前に気管内(IT)生理食塩水懸濁液として投薬すると、その後、このモデルにおいて肺好酸球増多症の用量依存性阻害が生じた。有意な阻害は実施例1での30μgの単回投与の後に生じ、その応答は、同一の研究における等用量のプロピオン酸フルチカゾン投与で確認されたものよりも有意に大きかった(p=0.016)(実施例1では69%阻害であるのに対し、プロピオン酸フルチカゾンでは41%阻害であった)。
【0214】
胸腺退縮のラットモデルでは、実施例1の100μgをITで1日3回投与した場合、同一研究における等用量のプロピオン酸フルチカゾン投与よりも、胸腺重量の減少が有意に小さくなった(p=0.004)(実施例1の胸腺重量が67%減少したのに対し、プロピオン酸フルチカゾンでは78%の減少であった)。
【0215】
総合すれば、これらの結果は、実施例1がプロピオン酸フルチカゾンに比べて治療係数に優れていることを示している。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 引用発明6Aとの対比・判断
ア 対比
本願発明1のうち「フマル酸ホルモテロールとフランカルボン酸フルチカゾン」を含む発明と引用発明6Aとを対比する。
引用発明6Aの「プロピオン酸フルチカゾン」と本願発明1の「フランカルボン酸フルチカゾン」とは、「有機酸フルチカゾン」である限りにおいて一致する。また、引用発明6Aの「フマル酸ホルモテロール二水和物」は、フマル酸ホルモテロールの一形態である。
引用発明6Aにおける成分の組合せは、本願発明1の「フマル酸ホルモテロールとシクレソニドの組合せを含まない」ものに相当する。
引用発明6Aの「プロペラント」、「エアロゾル組成物としたものを含む、加圧式定量吸入装置」は、それぞれ本願発明1の「噴射剤」、「加圧された定量噴霧式吸入器」に相当する。
引用発明6Aの「エタノール等の共溶媒」は、本願発明1の「エタノール」「から選択される可溶化剤」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明6Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「a)フマル酸ホルモテロールから選択されるβ_(2)-アゴニスト、
b)有機酸フルチカゾンから選択されるコルチコステロイド(フマル酸ホルモテロールとシクレソニドとの組合せを含まない);
c) エタノールから選択される可溶化剤;及び
d) 噴射剤
を含む医薬組成物を含む加圧された定量噴霧式吸入器であって、
該組成物が、1日1回投与用に適した形態である、前記加圧された定量噴霧式吸入器。」
<相違点1-6ア>
有機酸フルチカゾンが、本願発明1においては、フランカルボン酸フルチカゾンであるのに対し、引用発明6Aにおいては、プロピオン酸フルチカゾンである点。
<相違点1-6イ>
本願発明1は、フマル酸ホルモテロールを「0.5?40mcg」、フランカルボン酸フルチカゾンを「0.5?800mcg」含むのに対して、引用発明6Aは、フマル酸ホルモテロール二水和物を「1?72μg」、プロピオン酸フルチカゾンを「25?500μg」含む点。

イ 判断
(ア)相違点1-6アについて
引用文献8には、式(I)で表される化合物と、長時間作用型β_(2)-アドレナリン受容体アゴニストとを含む、1日1回投与する、吸入投与用の医薬製剤であって、呼吸器官の炎症性疾患の治療において有用な効果を有するものである製剤が開示され(【請求項1】【請求項9】)、式(I)で表される特に好ましい化合物として記載された5つの化合物の中で一番最初に記載されているのが、「6α,9α-ジフルオロ-17α-[(2-フラニルカルボニル)オキシ]-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-3-オキソ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17β-カルボチオ酸S-フルオロメチルエステル」(「フランカルボン酸フルチカゾン」に相当)であり(【0032】)、当該化合物は実施例1において製造されている(【0158】)。
そして、in vitro実験あるいは動物を用いたin vivo実験の結果を総合すれば、実施例1の化合物は、プロピオン酸フルチカゾンに比べて治療係数に優れていることが記載されている(【0212】?【0215】)。
したがって、引用文献8の記載に接した当業者は、呼吸器官の炎症性疾患の治療においては、プロピオン酸フルチカゾンに代えて、実施例1の化合物であるフランカルボン酸フルチカゾンを用いる動機付けがあるといえる。

そうすると、引用発明6Aに係る炎症性または閉塞性気道疾患の処置のための医薬組成物において、プロピオン酸フルチカゾンに代えてフランカルボン酸フルチカゾンを用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点1-6イについて
引用文献6においては、二水和物に特定されていないフマル酸ホルモテロールについても記載されているから(【請求項3】)、引用発明6Aにおいて、フマル酸ホルモテロール二水和物をフマル酸ホルモテロールとし、その二水和物の含有量である「1?7μg」と同程度の量かあるいは若干少ない量とし、「0.5?40mcg(μg)」の範囲内の量とすることは、当業者が適宜なし得る。
また、引用文献8には、フランカルボン酸フルチカゾンを含む式(I)の化合物を25?500μg、長時間作用型β_(2)アドレナリン受容体アゴニストを10?100μgを1日1回投与することが記載されていることから(【0065】【0088】)、引用発明6Aにおいて、プロピオン酸フルチカゾンに代えてフランカルボン酸フルチカゾンを用いる際に、引用文献8に記載の量「25?500μg」を包含する「0.5?800mcg(μg)」とすることも、当業者が適宜なし得る。

(ウ)効果について
本願発明1が1日1回投与で呼吸器障害の治療が可能であるという効果を奏することは、引用文献6及び8の記載から当業者が予測可能であり、本願発明1の効果は格別顕著なものとはいえない。

(エ)したがって、本願発明1は、引用文献6に記載された発明及び引用文献8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(2)引用発明5Aとの対比・判断
ア 対比
本願発明1のうち「マレイン酸インダカテロールとフランカルボン酸フルチカゾン」を含む発明と引用発明5Aとを対比する。
引用発明5Aの「プロピオン酸フルチカゾン」と本願発明1の「フランカルボン酸フルチカゾン」とは、「有機酸フルチカゾン」である限りにおいて一致する。
引用発明5Aにおける成分の組合せは、本願発明1の「フマル酸ホルモテロールとシクレソニドの組合せを含まない」ものに相当する。
引用発明5Aの「高圧ガス」、「加圧計量投与吸収デバイス」は、それぞれ本願発明1の「噴射剤」、「加圧された定量噴霧式吸入器」に相当する。
また、引用発明5Aの「エタノールのような共溶媒」は、本願発明1の「エタノール」「から選択される可溶化剤」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明5Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「a)マレイン酸インダカテロールから選択されるβ_(2)-アゴニスト、
b)有機酸フルチカゾンから選択されるコルチコステロイド(フマル酸ホルモテロールとシクレソニドとの組合せを含まない);
c) エタノールから選択される可溶化剤;及び
d) 噴射剤
を含む医薬組成物を含む加圧された定量噴霧式吸入器であって、
該組成物が、1日1回投与用に適した形態である、前記加圧された定量噴霧式吸入器。」
<相違点1-5ア>
有機酸フルチカゾンが、本願発明1においては、フランカルボン酸フルチカゾンであるのに対し、引用発明5Aにおいては、プロピオン酸フルチカゾンである点。
<相違点1-5イ>
本願発明1は、マレイン酸インダカテロールを「20?1200mcg」、フランカルボン酸フルチカゾンを「0.5?800mcg」含むのに対して、引用発明5Aは、マレイン酸インダカテロールを「20?2000μg」、フルチカゾンプロピオネート(プロピオン酸フルチカゾン)を「25?1000μg」含む点。

イ 判断
(ア)相違点1-5アについて
上記相違点1-6アと同様の理由により、引用発明5Aにおいて、プロピオン酸フルチカゾンに代えてフランカルボン酸フルチカゾンを用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点1-5イについて
引用発明5Aのマレイン酸インダカテロールを、「20?2000μg」の数値範囲内の「20?1200mcg(μg)」とすることは、当業者が適宜なし得る。
また、引用文献8には、フランカルボン酸フルチカゾンを含む式(I)の化合物を25?500μg、長時間作用型β_(2)アドレナリン受容体アゴニストを10?100μgを1日1回投与することが記載されていることから(【0065】【0088】)、引用発明5Aにおいて、プロピオン酸フルチカゾンに代えてフランカルボン酸フルチカゾンを用いる際に、引用文献8に記載の量「25?500μg」を包含する「0.5?800mcg(μg)」とすることも、当業者が適宜なし得る。

(ウ)効果について
本願発明1が1日1回投与で呼吸器障害の治療が可能であるという効果を奏することは、引用文献5及び8の記載から当業者が予測可能であり、本願発明1の効果は格別顕著なものとはいえない。

(エ)したがって、本願発明1は、引用文献5に記載された発明及び引用文献8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(3)引用発明4Aとの対比・判断
ア 対比
本願発明1のうち「マレイン酸インダカテロールとシクレソニド」を含む発明と引用発明4Aとを対比する。
引用発明4Aの「インダカテロール」と本願発明1の「マレイン酸インダカテロール」とは、「インダカテロール又はマレイン酸インダカテロール」である限りにおいて一致する。
引用発明4Aにおける成分の組合せは、本願発明1の「フマル酸ホルモテロールとシクレソニドの組合せを含まない」ものに相当する。
引用発明4Aの「推進剤」は、本願発明1の「噴射剤」に相当する。
引用発明4Aの「エアロゾル吸入装置」は、推進剤を含むから「加圧された」ものであり、通常、エアロゾル吸入装置は、定量を噴霧するものであるから、本願発明1の「加圧された定量噴霧式吸入器」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明4Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「a)インダカテロール又はマレイン酸インダカテロールから選択されるβ_(2)-アゴニスト、
b)シクレソニドから選択されるコルチコステロイド(フマル酸ホルモテロールとシクレソニドとの組合せを含まない);及び
d) 噴射剤
を含む医薬組成物を含む加圧された定量噴霧式吸入器であって、
該組成物が、1日1回投与用に適した形態である、前記加圧された定量噴霧式吸入器。」
<相違点1-4ア>
インダカテロール又はマレイン酸インダカテロールから選択されるβ_(2)-アゴニストが、本願発明1においては、マレイン酸インダカテロールであるのに対し、引用発明4Aにおいては、インダカテロールである点。
<相違点1-4イ>
本願発明1は、マレイン酸インダカテロールを「20?1200mcg」、シクレソニドを「20?800mcg」含むのに対して、引用発明4Aは、インダカテロールを「12?200μg」、シクレソニドを「10?320μg」含む点。
<相違点1-4ウ>
本願発明1は、「c) エタノール、PEG、グリセロール、ポリビニルピロリドン、又はこれらの組合せから選択される可溶化剤」を含むのに対し、引用発明4Aは、ツイーン(tween)を含む点。

イ 判断
(ア)相違点1-4アについて
閉塞性肺疾患などの治療に用いられるインダカテロールを、マレイン酸塩として用いることも知られているから(引用文献5:【請求項1】【請求項3】等参照)、引用発明4Aにおいて、インダカテロールを、マレイン酸インダカテロールとして用いることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。

(イ)相違点1-4イについて
引用発明4Aのインダカテロール「12?200μg」の数値範囲を参考として、インダカテロールをマレイン酸インダカテロールとして用いる際に、「20?1200mcg(μg)」とすることは、当業者が適宜なし得る。
また、引用発明4Aのシクレソニドを、「10?320μg」の数値範囲と重複する「20?800mcg(μg)」の範囲内とすることは、当業者が適宜なし得る。

(ウ)相違点1-4ウについて
引用文献4には、医薬製剤に調製するときに用いられる担体として、ツイーン80の他に、エタノール、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセリン(グリセロール)、ポリビニルピロリドン等が例示されており(摘記ア)、また、噴射剤を含む吸入医薬製剤において、エタノール等の適当な共溶媒を用いることも周知であるから(引用文献5:実施例等参照)、引用発明4において例示された中から、必要に応じて、エタノール、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセリン(グリセロール)等の成分を可溶化剤として用いることは、当業者が必要に応じてなし得る事項にすぎない。

(エ)効果について
本願発明1が1日1回投与で呼吸器障害の治療が可能であるという効果を奏することは、引用文献4及び5の記載から当業者が予測可能であり、本願発明1の効果は格別顕著なものとはいえない。

(オ)したがって、本願発明1は、引用文献4に記載された発明及び引用文献5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

2 本願発明13について
(1)引用発明6Bとの対比・判断
ア 対比
本願発明13のうち「フマル酸ホルモテロールとフランカルボン酸フルチカゾン」を含む発明と引用発明6Bとを対比する。
本願発明13と引用発明6Bとの一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「a)フマル酸ホルモテロールから選択されるβ_(2)-アゴニスト、
b)有機酸フルチカゾンから選択されるコルチコステロイド;
c) ラクトース;
及び、任意に、1以上の医薬として許容し得る賦形剤を含む、乾燥粉末吸入組成物であって、
1日1回投与用に適した形態である、前記乾燥粉末吸入組成物。」
<相違点13-6ア>
有機酸フルチカゾンが、本願発明13においては、フランカルボン酸フルチカゾンであるのに対し、引用発明6Bにおいては、プロピオン酸フルチカゾンである点。
<相違点13-6イ>
本願発明13は、フマル酸ホルモテロールを「0.5?40mcg」、フランカルボン酸フルチカゾンを「0.5?800mcg」含むのに対して、引用発明6Bは、フマル酸ホルモテロール二水和物を「1?72μg」、プロピオン酸フルチカゾンを「25?500μg」含む点。

イ 判断
相違点1-6ア及びイと同様の理由により、引用発明6Bにおいて、相違点13-6ア及びイに係る本願発明13の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。
そして、本願発明13の効果は、引用文献6及び8の記載から当業者が予測可能であり、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明13は、引用文献6に記載された発明及び引用文献8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(2)引用発明5Bとの対比・判断
ア 対比
本願発明13のうち「マレイン酸インダカテロールとフランカルボン酸フルチカゾン」を含む発明と引用発明5Bとを対比する。
引用発明5Bの「吸入可能なドライパウダー」は、本願発明13の「乾燥粉末吸入組成物」に相当する。
そうすると、本願発明13と引用発明5Bとの一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「a)マレイン酸インダカテロールから選択されるβ_(2)-アゴニスト、
b)有機酸フルチカゾンから選択されるコルチコステロイド;
c) ラクトース;
及び、任意に、1以上の医薬として許容し得る賦形剤を含む、乾燥粉末吸入組成物であって、
1日1回投与用に適した形態である、前記乾燥粉末吸入組成物。」
<相違点13-5ア>
有機酸フルチカゾンが、本願発明13においては、フランカルボン酸フルチカゾンであるのに対し、引用発明5Bにおいては、プロピオン酸フルチカゾンである点。
<相違点13-5イ>
本願発明13は、マレイン酸インダカテロールを「20?1200mcg」、フランカルボン酸フルチカゾンを「0.5?800mcg」含むのに対して、引用発明5Bは、マレイン酸インダカテロールを「20?2000μg」、フルチカゾンプロピオネート(プロピオン酸フルチカゾン)を「25?1000μg」含む点。

イ 判断
相違点1-5ア及びイと同様の理由により、引用発明5Bにおいて、相違点13-5ア及びイに係る本願発明13の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。
そして、本願発明13の効果は、引用文献5及び8の記載から当業者が予測可能であり、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明13は、引用文献5に記載された発明及び引用文献8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(3)引用発明4Bとの対比・判断
ア 対比
本願発明13のうち「マレイン酸インダカテロールとシクレソニド」を含む発明と引用発明4Bとを対比する。
引用発明4Bの「粉末吸入組成物」は、実質的に乾燥していると認められることから、本願発明13の「乾燥粉末吸入組成物」に相当する。
そうすると、本願発明13と引用発明4Bとの一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「a)インダカテロール又はマレイン酸インダカテロールから選択されるβ_(2)-アゴニスト、
b)シクレソニドから選択されるコルチコステロイド;
c) ラクトース;
及び、任意に、1以上の医薬として許容し得る賦形剤を含む、乾燥粉末吸入組成物であって、
1日1回投与用に適した形態である、前記乾燥粉末吸入組成物。」
<相違点13-4ア>
インダカテロール又はマレイン酸インダカテロールが、本願発明13においては、マレイン酸インダカテロールであるのに対し、引用発明4Bにおいては、インダカテロールである点。
<相違点13-4イ>
本願発明13は、マレイン酸インダカテロールを「20?1200mcg」、シクレソニドを「20?800mcg」含むのに対して、引用発明4Bは、インダカテロールを「12?200μg」、シクレソニドを「10?320μg」含む点。

イ 判断
相違点1-4ア及びイと同様の理由により、引用発明4Bにおいて、相違点13-4ア及びイに係る本願発明13の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。
そして、本願発明13の効果は、引用文献4及び5の記載から当業者が予測可能であり、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明13は、引用文献4に記載された発明及び引用文献5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

3 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、「引用文献8は、膨大な数の異なる化合物に対応するマーカッシュ形式の化合物を開示する。引用文献8は、少なくとも47の異なる具体的実施例を開示しており、フランカルボン酸フルチカゾン(実施例1)は、それらのうちの1つにすぎない。
また、引用文献8は、第32段落において、特に好ましい(対応するWO2003/066033によると「Particularly preferred」)化合物としていくつかを挙げており、更に第33段落において、特に好ましい(対応するWO2003/066033によると「highly preferred」)化合物であるとして実施例41のみを記載している。この実施例41の化合物は、フランカルボン酸フルチカゾンではない。
更に、第66段落において、肺組織親和性試験について開示するが、ここでも、フランカルボン酸フルチカゾンではなく実施例41のその肺組織親和性について記載している。他の実験において、実施例1はプロピオン酸フルチカゾンに対し有利である旨記載されているが、実施例1が実施例41よりも良好であることを示すデータは存在しない。
一方、引用文献8の請求項8及び11には、請求に係る化合物として実施例41の化合物を具体的に記載しているが、フランカルボン酸フルチカゾンについては記載されていない。
これらの引用文献8の記載を考慮すると、引用文献8は、当業者に、プロピオン酸フルチカゾンに代替するものとして、フランカルボン酸フルチカゾンではなく実施例41の化合物を選択すべきことを教示している。したがって、当業者であれば、引用文献8の記載に基づいて、フランカルボン酸フルチカゾンではなく実施例41を採用するものと思料する。」(審判請求書7頁11行?下から2行)と主張する。

しかしながら、引用文献8には、式(I)で表される化合物のうち、実施例1の化合物が「特に好ましい化合物」として記載され(【0032】)、in vitro実験あるいは動物を用いたin vivo実験の結果を総合して、「実施例1がプロピオン酸フルチカゾンに比べて治療係数に優れていることを示している。」(【0215】)と記載されていることからみれば、プロピオン酸フルチカゾンに代替する化合物のうち特に好ましい化合物として、実施例1のフランカルボン酸フルチカゾンが記載されていることは明らかであるから、引用文献8の記載に接した当業者が、プロピオン酸フルチカゾンに代えて、フランカルボン酸フルチカゾンを用いる動機付けがあるといえる。
また、審判請求人は、引用文献8の請求項8及び11、【0033】、【0066】には、式(I)で表される化合物のうち、実施例41のみが記載されていることを指摘するが、これらの記載は、実施例1のフランカルボン酸フルチカゾンが、実施例41の化合物よりも劣ることを明示するものとはいえないから、これらの記載が直ちに、フランカルボン酸フルチカゾンを、プロピオン酸フルチカゾンに代替する化合物として用いる動機付けを否定するものではない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

(2)審判請求人は、「本願発明は、特定のβ_(2)-アゴニストと特定のコルチコステロイドとを組み合わせたときに、その有効性を改善する相乗的活性を示すという出願人の知見に基づくものである(本願明細書第76段落、第89段落、第101段落)。
一方、引用文献1、2、6及び8は、こうした特定のβ_(2)-アゴニストとコルチコステロイドとの組合せやその効果について何ら開示も示唆もしていない。
したがって、たとえ当業者であっても、引用文献1、2、6及び8に基づき、請求項1?3、6?8及び10?17の構成要件を想到することは容易ではないものと思料する。」と主張する。(審判請求書8頁10?17行)

しかしながら、β_(2)-アゴニストとコルチコステロイドとを組合せることは、引用文献4?6、8に記載されているように、従来から行われていることであり、本願発明1及び13の組合せを、他のβ_(2)-アゴニストとコルチコステロイドとの組合せと比較した効果が本願明細書において具体的に示されているわけでもない。そうすると、本願明細書に「相乗的活性を示す」と記載されているだけでは、本願発明1及び13の効果が、当業者が予測できない格別顕著なものとはいえない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない

第6 むすび
以上のとおり、本願請求項1及び13に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-22 
結審通知日 2019-07-23 
審決日 2019-08-22 
出願番号 特願2016-197697(P2016-197697)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中尾 忍  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 前田 佳与子
藤原 浩子
発明の名称 医薬組成物  
代理人 石川 徹  

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