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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1358550
審判番号 不服2018-16754  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-17 
確定日 2020-01-06 
事件の表示 特願2016-119788「ヒト血清コレステロール値低下作用を有する食品及びヒト高コレステロール血症予防又は治療剤」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月10日出願公開、特開2016-189785〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成12年8月29日に出願した特願2000-259621号の一部を平成20年6月6日に新たな特許出願(特願2008-148813号)とし、さらにその一部を平成23年9月2日に新たな特許出願(特願2011-191629号)とし、さらにその一部を平成26年6月25日に新たな特許出願(特願2014-130074号)とし、さらにその一部を平成28年6月16日に新たな特許出願(特願2016-119788号)としたものであって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。
平成29年 5月15日付け 拒絶理由通知
平成29年 9月28日 意見書提出・手続補正
平成30年 1月30日付け 拒絶理由通知
平成30年 6月 6日 意見書提出・手続補正
平成30年 9月12日付け 拒絶査定
平成30年12月17日 審判請求・手続補正
平成31年 2月 6日 手続補正(方式)
令和 1年 7月30日付け 拒絶理由通知
令和 1年10月 4日 意見書提出・手続補正

第2 特許請求の範囲の記載
この出願の請求項1?4に係る発明は、特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、令和1年10月4日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
S-メチルシステインスルフォキシドの摂取量が成人一日あたり20?60mgとなる摂取量となるよう用いられる、1缶(160g)に10?30mgのS-メチルシステインスルフォキシドを含有し、1日2缶ずつ3週間飲用されるための、血清コレステロール値の高い人又は血清コレステロール値が高めの人用の血清コレステロール値低下用食品組成物。」

第3 当審が通知した拒絶の理由の概要
令和1年7月30日付けで当審が通知した拒絶の理由の理由2(以下「当審拒絶理由」という。)は、概略、以下のとおりのものである。

「本件出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

引用文献1:必須アミノ酸研究,No.151,(1998),p.45-47(原査定の引用文献5)
引用文献2:動脈硬化,No.23,(1995),p.81-88
引用文献3:Experientia,Vol.28,(1972),p.254-255
引用文献4:Journal of Food Science,Vol.59,(1994),p.350-355
引用文献5:園学雑.(Journal of the Japanese Society for Horticultural Science),Vol.68,(1999),p.694?696
引用文献6:Phytochemistry of Fruit and Vegetables, CLARENDON PRESS・OXFORD,(1997),p.339
引用文献7:腸内細菌学雑誌,Vol.13,(2000年1月),p.67-74(原査定の引用文献1)

当審拒絶理由の対象となった請求項1に係る発明は、本願発明に対応するものである。

第4 当審の判断
当審は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1?7に記載された発明及び本願出願時の技術常識に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 刊行物に記載された事項

(1)引用文献1
1a「しかし,担癌ラットへのキャベツジュースの投与は,癌性悪液質としての高コレステロール血症を軽減化させることを見いだした。そこで本研究では,キャベツジュースによる担癌時高コレステロール血症低減化の確認,作用物質の同定および作用機構の解明を目的とした。」(45頁5?8行)

1b「[実験方法]
市販のキャベツを水洗後よく水切りしてジューサーにかけ,出てきた野菜汁を遠心し,その上清を濾過したものをキャベツ抽出物とした。
動物として,4週齢で購入したドンリュウ系雄ラットを固型飼料(CE-2)で2週間予備飼育したものを用いた。モデル癌細胞として腹水肝癌AH109Aを使用した。本癌細胞をラット1頭当たり5×10^(5)個となるよう背部皮下へ移植後,全ラットに標準食の20%カゼイン食を2週間接種させた。移植後はゾンデを用いて1ml/100g体重/日の用量で,(1)水(対照群,C群),(2)キャベツジュース(CJ群),(3)S-メチル-L-システインスルフォキシド^(3))(SMCS群)を1日1回計14回経口投与した。14日目の午前9時に最終投与後飼料を取り,午後1時から屠殺した。
血清と肝臓の脂質レベル,肝臓の脂質合成能,糞中へのステロイド排泄量,肝臓のコレステロール7α-ハイドロキシラーゼ(Ch7αH)活性等を測定した。」(45頁9?19行)

1c「[結果と考察]
SMCSは,キャベツ,カリフラワー,アブラナ等のアブラナ科植物に存在するS-アルキルシステインスルフォキシド類の一つで,高コレステロール食摂取時の外因性高コレステロール血症を抑制することが既に報告されている^(3))。そこで,担癌時の内因性高コレステロール血症に対し低下効果を示すキャベツ抽出物中の有効成分の一つがSMCSであると仮定し,キャベツ抽出物投与群とともにSMCS投与群も設けた。」(45頁20行?46頁1行)

1d「

」(46頁表1)

1e「

」(46頁表2)

1f「表1に示したように,・・血清総コレステロール(T-Ch)濃度は対照群に比べCJ群およびSMCS群で有意に低下し,それは超低密度+低密度リポ蛋白質(VLDL+LDL)-Ch濃度の低下に基づくことが確認できた。」(46頁2?4行)

1g「表2に示したように,肝の脂肪酸(FA)およびChの合成能は3群間で差は認められなかった。・・しかし,胆汁酸排泄量および胆汁酸合成の律速酵素である肝臓Ch7αH活性はともに対照群に比べCJおよびSMCS投与群で有意に上昇していた。」(47頁2?5行)

1h「以上の成績から,キャベツジュースによる担癌時高コレステロール血症軽減化作用が確認され,キャベツ中の有効成分の一つがSMCSであること,その作用機構として胆汁酸合成の律速酵素であるCh7αHの活性化によるChの胆汁酸への異化排泄促進が考えられることが明らかとなった。」(47頁6?8行)

(2)引用文献2
2a「III.チトクロームP450コレステロール7α水酸化
酵素(P-450Ch7α)の精製と遺伝子構造
1.P-450Ch7αの精製
P-450Ch7α系のうちチトクロームP450酵素であるP-450Ch7αの精製は古くから試みられた・・・1987年に奥田らによってラット肝臓からFig. 2に示すような6段階の方法で単一蛋白までに精製された^(9)).・・・
・・・・・
2.P-450Ch7αcDNAクローニング
精製P-450Ch7αの抗体を用いてラット肝臓から,次いでヒト肝臓からcDNAがクローニングされ塩基配列が決定された^(4,5,10,11)).」(81頁右欄下から7行?83頁右欄2行)

(3)引用文献3 (訳文にて示す。)
3a「例えば、我々の学部のTSUNOの研究によれば、SMCSの量はキャベツでは590mg/100g、カリフラワーでは650mg/100g、ラディッシュでは60mg/100gである。」(254頁左下欄3?6行)

(4)引用文献4 (訳文にて示す。)
4a「S-メチル-L-システインスルホキシド(SMCSO)(SMCSと同じ:当審注)はキャベツ(芽キャベツ)のいくつかの栽培品種において、690-1,120ppm存在していた。」(350頁 要約1?2行)

4b「報告されてきたキャベツ栽培品種中のSMCSO(SMCS)の含有量は、新鮮野菜重量を基準として185から2,218ppmであった(・・)。」(352頁右欄17?21行)

(5)引用文献5
5a「表1.嫌気性条件下でのブロッコリ、キャベツ及び白菜の花蕾、葉におけるS-メチル-L-システインスルホキシド含量、C-Sリアーゼ活性及びメタンチオール生産

値はn=3の平均値±SE
^(z) L,葉、F,花蕾
^(y) 試料を100%N2のガラス瓶に密封した。瓶を20℃で保持した。24時間保存後、密封された瓶のヘッドスペース中のメタンチオールを分析した。
^(x) 1単位の酵素活性により、30℃で1 μmol/minのピルビン酸を生成する」(695頁表1)

(6)引用文献6
6a「表17.2 アブラナ属植物中のS-メチルシステインスルホキシドの濃縮(mg/100g生体重)(Marks等,1992)

」(339頁 表17.2)

(7)引用文献7
7a「緑色野菜・果物混合飲料摂取が健常成人の便性および糞便菌叢に及ぼす影響」(標題)

7b「1.供試飲料
本試験に使用した飲料はサンスター(株)製「おいしい青汁」で、緑色野菜(ブロッコリー、セロリ、レタス、キャベツ、ほうれん草、パセリ、大根葉、小松菜)および果物(リンゴ、レモン)の搾汁からなる野菜・果物混合飲料の缶詰である。その1缶(内容量160g)あたりの栄養表示をTable1に示す。」(68頁左欄下から6行?右欄1行)

7c「4.摂取方法
摂取期間中7名の被験者全員に、供試飲料を1日2缶、朝・夕各1缶ずつ、3週間通常の食事に加えて飲用させた。」(68頁右欄15?18行)

2 刊行物に記載された発明
引用文献1には、キャベツ等のアブラナ科植物に存在するS-メチル-L-システインスルフォキシド(SMCS)が、高コレステロール食摂取時の外因性高コレステロール血症を抑制することが既に報告されていること(1c)、キャベツジュースによる担癌時高コレステロール血症低減化の確認、作用物質の同定および作用機構の解明を目的として(1a)、担癌時の内因性高コレステロール血症に対し低下効果を示すキャベツ抽出物中の有効成分の一つがSMCSであると仮定し(1c)、癌細胞を移植したラットを用いて実験を行った結果、血清総コレステロール(T-Ch)濃度は対照群に比べCJ(キャベツジュース)群およびSMCS群で有意に低下し、キャベツジュースによる担癌時高コレステロール血症軽減化作用が確認され、キャベツ中の有効成分の一つがSMCSであることが明らかとなったこと(1b、1d?1h)が記載されている。

これらの引用文献1の記載事項からみて、引用文献1には、
「S-メチル-L-システインスルフォキシド(SMCS)を含有し、担癌ラットの血清コレステロール値低下作用を有するキャベツジュース。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「S-メチル-L-システインスルフォキシド(SMCS)」は、本願発明の「S-メチルシステインスルフォキシド」に相当する。(以下、「S-メチルシステインスルフォキシド」を「SMCS」という。)

(2)引用発明の「キャベツジュース」について、引用文献1には、「市販のキャベツを水洗後よく水切りしてジューサーにかけ,出てきた野菜汁を遠心し,その上清を濾過したものをキャベツ抽出物とした」(1b)と調製方法が記載され、かかる「キャベツ抽出物」を「キャベツジュース(CJ群)」として用いたことは明らかであるから、引用発明の「キャベツジュース」は「市販のキャベツを水洗後よく水切りしてジューサーにかけ,出てきた野菜汁を遠心し,その上清を濾過したもの」といえ、このようなキャベツジュースは野菜ジュースといえる。
一方、本願発明には「野菜ジュースである、請求項1?3のいずれかに記載の食品組成物」と記載されており、本願発明の「食品組成物」は、野菜ジュースも形態として包含しているといえる。
そうすると、引用発明の「キャベツジュース」は、本願発明の「食品組成物」に相当するといえ、前記(1)で述べたことも踏まえると、引用発明の「SMCSを含有」する「キャベツジュース」は、本願発明の「S-メチルシステインスルフォキシドを含有」する「食品組成物」に相当する。

(3)本願発明の「血清コレステロール値の高い人又は血清コレステロール値が高めの人用の血清コレステロール値低下用」と、引用発明の「担癌ラットの血清コレステロール値低下作用を有する」こととは、血清コレステロール値低下作用を有する点で共通する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「SMCSを含有し、血清コレステロール値低下作用を有する食品組成物」
の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:食品組成物の用途が、本願発明は「血清コレステロール値の高い人又は血清コレステロール値が高めの人用の血清コレステロール値低下用」であるのに対し、引用発明は「担癌ラット」用である点

相違点2:食品組成物が、本願発明では「SMCSの摂取量が成人一日当たり20?60mgとなる摂取量となるよう用いられる」ものであるのに対し、引用発明では明らかでない点

相違点3:食品組成物が、本願発明では「1缶(160g)に10?30mgのS-メチルシステインスルフォキシドを含有し、1日2缶ずつ3週間飲用されるための」ものであるのに対し、引用発明では明らかでない点

4 判断

(1)相違点について

ア 相違点1について
引用文献1には、担癌ラットにおいて、血清総コレステロール(T-Ch)濃度は対照群に比べキャベツジュース(CJ)群およびSMCS群で有意に低下したこと、及び、胆汁酸排泄量および胆汁酸合成の律速酵素である肝臓Ch7αH活性はともに対照群に比べCJおよびSMCS投与群で有意に上昇していたことを実験的に確認したことが記載されている(1f、1g)。そして、SMCSを含有するキャベツジュース並びにSMCSが血清コレステロールを低下させる作用機構として、胆汁酸合成の律速酵素であるコレステロール7α-ハイドロキシラーゼ(Ch7αH)の活性化によるCh(コレステロール:当審注)の胆汁酸への異化排泄促進が考えられる(1h)ことが記載されている。
かかるコレステロール7α-ハイドロキシラーゼ(Ch7αH)は、ラットにもヒトにも共通に存在する酵素であることが、引用文献2の記載より理解されるように周知事項であるから、引用文献1の開示に基づき、引用発明のキャベツジュースについて、人に摂取させた場合についても、同様のCh7αHの活性化によるChの胆汁酸への異化排泄促進により血清コレステロール値が低下することは期待し得る。
そして、引用文献1に記載された研究内容が、担癌時の内因性高コレステロール血症の人へ血清コレステロール値低下用として適用することを前提としたものであることは、当業者にとって明らかである。
したがって、引用発明に係るキャベツジュースの用途を、担癌ラット用に代えて、血清コレステロール値の高い人又は血清コレステロール値が高めの人用の血清コレステロール値低下用とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

イ 相違点2について
当該技術分野において、有効成分の作用効果の程度を考慮して、当業者が1日当たりの有効成分の摂取量の好ましい範囲を適宜調整することは一般的に行われていることである。
そうすると、引用発明において、キャベツジュースに含まれるSMCSの血清コレステール低下作用に着目し、その作用は前記(1)でも述べたとおり、人についても同様の作用があると期待されることから、当該作用効果が得られる必要最小限のSMCSの摂取量を種々実験検討することにより、成人1日あたりの摂取量として導き出すことは、当業者の通常の創作活動の範囲内のことである。

また、引用文献3?6より、生のキャベツにおけるSMCSの含有量は、100g当たり18?590mg程度の量であるから、本願発明の1日当たりのSMCSの摂取量は、生のキャベツならば100g程度の量で、キャベツジュースであっても成人が1日で十分摂取可能な量である。
野菜ジュースは、生のままの野菜は摂取しにくいところを野菜の栄養素を手軽に摂取したいとの要請に応じた商品として市販されているものであるが、このようなジュースの形態である引用発明のキャベツジュースであれば、なおさら、生のキャベツ100g程度に相当するキャベツジュースの量は成人が1日で摂取可能である。
そして、野菜ジュースといった食品は、医薬品と異なり、誰でも手軽に摂取し易く、様々な量で飲食可能なものであるから、容易に大量摂取し易いものである。それ故、引用文献1に記載されているように、キャベツジュースの含有するSMCSが血清コレステロール低下作用という薬効を有することは既に公知であるから、SMCSの成人1日当たりの摂取量としては、医薬品と同様、薬効の作用強度が適切な程度となる範囲を設定することが望まれ、過剰摂取量とならぬようにすることが望まれると理解される。
そうすると、引用発明は、担癌ラットの血清コレステロール値低下作用を有するキャベツジュースであるが、前記アで述べたように、血清コレステロール値の高い人又は血清コレステロール値が高めの人用の血清コレステロール値低下用のキャベツジュースとし得るものであって、野菜ジュースとして誰でも手軽に摂取し易く、様々な量で飲食可能なものであるから、野菜ジュースとして手軽に様々な量で摂取してもSMCSの成人1日当たりの摂取量が過剰摂取量とならぬよう、SMCSの成人1日当たりの摂取量として、成人が1日で摂取可能な生のキャベツ100g程度に相当するキャベツジュース中のSMCS含有量18?590mのうち、少ない量の範囲を設定することは、当業者が容易になし得ることであり、その具体的な量の範囲として、20?60mgと設定することに、格別の困難性はない。

ウ 相違点3について
引用例7に記載のように、缶の内容量が160gである野菜・果物混合飲料の缶詰を、被験者に1日2缶ずつ3週間にわたって飲用させることは、当技術分野では普通に行われていることである(7b、7c)。
そして、所定の摂取量に関し、飲用スケジュールをどのように設定するかは、当業者が適宜に決定すべきことであり、特に、血清コレステロール値の高い人、高めの人にとって、抑制効果が期待できるとされた飲料であれば、1日2缶(例えば,朝夕)を3週間継続することが格別困難な飲用スケジュールとは認められない。

(2)本願発明の効果について
本願明細書に記載の本願発明の効果は、引用文献1?7に記載された事項より予測できたものであり、SMCSの摂取量を成人1日当たり20?60mgとし、1缶(160g)に10?30mgのSMCSを含有させ、1日2缶ずつ3週間飲用させることによって、ヒト血清コレステロール値低下作用において臨界的な効果を奏したものであるとも認めることはできない。
したがって、本願発明の効果が、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得ない格別顕著な効果であると認めることはできない。

(3)請求人の主張について
ア 請求人は、令和1年10月4日付け意見書の「(III)理由(2)について」において、本願発明は、前記3に示した相違点2及び相違点3の技術的特徴を組み合わせて用いることにより、初めて格別顕著な血清コレステロール値低下効果が奏されるものであること、その根拠として、本願明細書に記載の試験例1及び2(【0035】?【0044】)の試験結果[【表1】(【0037】)及び【表3】(【0042】)]を用い、根拠は以下に示す(ア)及び(イ)であることを主張している。
(ア)試験例1と試験例2とは別途行われた実験であり、野菜ジュースにはSMCS以外にも様々な有効成分が含有するものであるとしても、試験例1の結果について、本願明細書に「【0039】SMCSを含有しないコントロール群では、総コレステロール値及びLDLコレステロール値ともに飲用前後でほとんど変化はみられなかった。一方、試験群は、いずれも飲用により総コレステロール値及びLDLコレステロール値が低下した」ことが記載されていることから、得られたコレステロール値低下効果は大部分がSMCSに起因することは明らかであり、従って、試験例1と試験例2とのコレステロール低下率の数値を比較することは十分可能である。
(イ)摂取SMCS量が増えれば、それに伴って総コレステロール値も減少するであろうことは当業者であれば当然に理解でき、その減少の程度が【表1】(【0037】)に記載され、表1の結果から作成したグラフ【図1】より、当該グラフのSMCS摂取量が20mg/dayの縦軸の値を読み取ることにより、「20mg/dayとなるよう」「1日1缶ずつ1ヶ月摂取した場合の総コレステロール変化率」は約-6弱%ということができ、20mg/dayとなるよう1日2缶ずつ3週間摂取した場合の総コレステロール変化率は、一日摂取量が20mgと同値であることから、最高でも『-6弱%』程度であり、通常は引用期間が短い分これよりも変化率は小さい蓋然性が極めて高いということができる。にもかかわらず、実際には、本願明細書の【表3】(【0042】)から分かるように、SMCS摂取量が20mg/dayとなるよう1日2缶ずつ3週間本発明に係る野菜ジュースを飲用した場合、引用期間は1ヶ月より短い3週間であるにもかかわらず、総コレステロール変化率は-8.0%と、予測できる値より更に低下率が大きくなっている。よって、1日2缶ずつ飲用させた場合には、1日1缶ずつ飲用させた場合に比べて、SMCSの1日摂取量が同等以下で且つ飲用期間も短い3週間において、同程度以上の総コレステロール低下効果が得られることが、本願明細書に示されていることを当業者は理解することができ、この効果は引用文献等には全く教示はなく、当該効果は上記相違点2及び相異点3として認定された構成要件を組み合わせているからこそ得られる効果である。

イ 請求人の主張である、本願発明は、前記3に示した相違点2及び相違点3の技術的特徴を組み合わせて用いることにより、初めて格別顕著な血清コレステロール値低下効果が奏されるものである、ということの上記根拠(ア)及び(イ)について、以下検討する。

(ア)の主張について
請求人は、本願明細書の段落【0039】の前記記載に基づき、得られたコレステロール値低下効果は大部分がSMCSに起因することは明らかであるから、試験例1と試験例2とのコレステロール低下率の数値を比較することは十分可能であると主張しているが、たとえ試験例1の結果よりコレステロール値低下効果は大部分がSMCSに起因することが理解されるとしても、試験例1及び2共に、使用した野菜ジュースの処方・配合割合といった前提条件が明らかではない上に、飲用期間も異なるため、前提条件が異なる可能性がある以上、試験例1及び2の試験結果を単純に比較して効果の差異を論ずることはできない。

(イ)の主張について
仮に、試験例1及び2における前提条件が同じであり、試験例1及び2の試験結果を比較し効果の差異を論ずることができるとした場合について、以下検討する。
請求人は、摂取SMCS量が増えれば、それに伴って総コレステロール値も減少するであろうことは当業者であれば当然に理解できるとし、試験例1の試験結果

より、SMCS摂取量15?30mg/day間の総コレステロール値の減少の程度を、投与量にほぼ‘比例して’総コレステロール変化率%が変化するものとして、

を作成し、SMCS摂取量20mg/dayの縦軸の値を読み取り、「20mg/dayとなるよう」「1日1缶ずつ1ヶ月摂取した場合の総コレステロール変化率」は約-6弱%と推定している。

しかしながら、一般に、薬物の用量とそれに伴う作用との関係は、多くの場合、S字状の曲線(用量-反応曲線)を示すものであり、単純な比例関係を示すものではないことは、本願出願当時、技術常識である[(齋藤秀哉外2名著、「新薬理学講義」(1987年1月20日)株式会社南山堂発行、13頁左欄10、11行、同頁右欄13?24行「1.作用点に到達する薬物の量 a.適用濃度と用量・・・一定度の作用が現れる薬物の量と,その作用が現れる動物の数(%)との関係を見るとき,多くの場合にS字形の曲線が得られる.これは用量と反応との関係を示す曲線(用量-反応曲線)である.すなわち,ある量以下では全然作用が現われない.あの量を超えると作用を現わす動物の数(%)が増してきて,50%のところで角度が大きくなる.すなわち,50%のところでは,わずかの量の増加で多くの動物の数に影響を与えるわけである.さらにそれを過ぎると再び水平になる.量を多くしても動物数にあまり影響を与えなくなる.」参照]。

試験例1の試験結果【表1】をみても、SMCS摂取量(特に、15?30mg/dayの範囲を含むもの)と総コレステロール変化率(%)の関係が、単純な比例関係を示すものではないことは明らかである。
すなわち、【表1】より、SMCS摂取量15mg/dayで1日1缶摂取した場合の総コレステロールの変化率は-3.2%、SMCS摂取量30mg/dayで1日1缶摂取した場合の総コレステロールの変化率は-8.7%及びSMCS摂取量60mg/dayで1日1缶摂取した場合の総コレステロールの変化率は-10.6%であり、SMCS摂取量15mg/dayの2倍摂取量(30mg/day)だからといって、上記変化率はその2倍量-6.4%(=-3.2%×2)とはなっておらず、SMCS摂取量15mg/dayの4倍摂取量(60mg/day)だからといっても、上記変化率はその4倍量-12.8%(=-3.2%×4)とはなっていない。
そうすると、SMCS摂取量15?30mg/dayの総コレステロール値の減少の程度は、投与量にほぼ‘比例して’総コレステロール変化率%が変化するとはいえないから、投与量にほぼ‘比例して’総コレステロール変化率%が変化するように請求人によって作成された【図1】から、SMCS摂取量が20mg/dayの縦軸の値を読み取り、「20mg/dayとなるよう」「1日1缶ずつ1ヶ月摂取した場合の総コレステロール変化率」は約-6弱%と推定することはできない。
したがって、請求人の主張するように、本願明細書の【表3】に示される、SMCS摂取量が20mg/dayとなるよう1日2缶ずつ3週間本発明に係る野菜ジュースを飲用した場合の総コレステロール変化率-8.0%は、SMCS摂取量が20mg/dayとなるよう1日1缶ずつ1ヶ月摂取した場合の総コレステロール変化率の予測値約-6弱%より更に低下率が大きくなっており、同程度以上の総コレステロール低下作用が得られる、ということはできず、さらに、その効果が相違点2及び相異点3として認定された構成要件を組み合わせているからこそ得られる効果であるということもできない。

以上のとおりであるから、前記請求人の主張を採用することはできない。

5 小括
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1?7に記載された発明及び本願出願時の技術常識に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明すなわち請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1?7に記載された発明及び本願出願時の技術常識に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-10-31 
結審通知日 2019-11-05 
審決日 2019-11-18 
出願番号 特願2016-119788(P2016-119788)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A23L)
P 1 8・ 121- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 良子  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 齊藤 真由美
中島 芳人
発明の名称 ヒト血清コレステロール値低下作用を有する食品及びヒト高コレステロール血症予防又は治療剤  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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