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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1358554
審判番号 不服2019-4823  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-10 
確定日 2020-01-06 
事件の表示 特願2016- 27290「表面保護フィルム、及びそれが貼合された光学部品」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月24日出願公開、特開2017-144608〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年2月16日の出願であって、平成30年6月28日付けで拒絶理由が通知され、平成30年8月28日に意見書及び手続補正書が提出され、平成31年1月9日付けで拒絶査定がされた。これに対し、平成31年4月10日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明について
1 本願発明
平成31年4月10日の手続補正により補正された請求項1は、実質的に補正前(平成30年8月28日の手続補正により補正された)請求項2である。
そして、特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明は、平成31年4月10日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりであると認める。

「透明性を有する樹脂からなる基材フィルムの片面に、粘着剤層が形成され、該粘着剤層の上に、剥離剤層を有する剥離フィルムが貼合されてなる表面保護フィルムであって、
前記粘着剤層が、(メタ)アクリレート共重合体と、架橋剤と、を含有する粘着剤組成物を架橋させてなり、
該剥離フィルムが、樹脂フィルムの片面に、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤と、該剥離剤と反応しない帯電防止剤と、帯電防止補助剤とを含有する剥離剤層を積層してなり、
前記帯電防止剤の成分が、融点が30℃未満のイオン性化合物であり、前記帯電防止補助剤が、ポリエーテル変性シリコーンであり、
前記イオン性化合物が、カチオンとアニオンを有するイオン性化合物であり、
前記カチオンが、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、アンモニウムイオン、スルホニウムイオン、ホスホニウムイオンからなる群から選択された1種であり、
前記帯電防止剤の成分と前記帯電防止補助剤とが、前記剥離フィルムの前記剥離剤層から前記粘着剤層の表面に転写され、
前記粘着剤層を被着体から剥離するときの剥離帯電圧が低減されてなることを特徴とする表面保護フィルム。」

2 引用例
(1) 引用例1
平成30年6月28日付けで通知した拒絶理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2015-131414号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
帯電防止表面保護フィルムであって、次の工程(1)?(2)、
工程(1):透明性を有する樹脂からなる基材フィルムの片面に、(A)アルキル基の炭素数が、C4?C18の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの少なくとも一種と、共重合可能なモノマー群として、(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーと、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーと、(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(E)水酸基を含有しない窒素含有ビニルモノマーまたはアルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、からなる共重合可能なモノマー群の中から選択された少なくとも一種と、を含む共重合体のアクリル系ポリマーからなり、さらに、(F)2官能以上のイソシアネート化合物と、(G)架橋促進剤と、(H)ケトエノール互変異性体化合物と、を含有する粘着剤組成物からなる粘着剤層を形成する工程と、
工程(2):前記粘着剤層の表面に、樹脂フィルムの片面に帯電防止剤を含有する剥離剤層が積層された剥離フィルムを、前記剥離剤層を介して貼り合わせる工程と、
を順に経て作製されてなり、
前記剥離剤層が、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤と、20℃において液体のシリコーン系化合物と、前記帯電防止剤とを含む樹脂組成物により形成されてなり、前記粘着剤層の剥離帯電圧が±0.6kV以下であることを特徴とする帯電防止表面保護フィルム。」

(イ)「【請求項8】
前記剥離剤層中のシリコーン系化合物が、ポリエーテル変性シリコーンであることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の帯電防止表面保護フィルム。」

(ウ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板、位相差板、ディスプレイ用のレンズフィルムなどの光学部品(以下、光学用フィルムと称する場合もある。)の表面に貼合される、帯電防止表面保護フィルムに関する。さらに詳細には、被着体に対する汚染が少なく、且つ、経時劣化しないで優れた剥離帯電防止性能を有する帯電防止表面保護フィルムを提供するものである。」

(エ)「【0028】
本発明の帯電防止表面保護フィルムは、被着体に対する汚染が少なく、被着体に対する低汚染性が経時変化しない。また、本発明によれば、LR偏光板やAG-LR偏光板などの、被着体の表面が、シリコーン化合物やフッ素化合物などで防汚染処理してある光学用フィルムであっても、帯電防止表面保護フィルムを、被着体から剥離する時に発生する剥離帯電圧を低く抑えることができ、経時劣化しないで優れた剥離帯電防止性能を有する帯電防止表面保護フィルムを提供できる。
本発明の帯電防止表面保護フィルムによれば、光学用フィルムの表面を確実に保護することができることから、生産性の向上と歩留まりの向上を図ることができる。」

(オ)「【0074】
剥離剤層4を構成する20℃において液体のシリコーン系化合物としては、ポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、カルビノール高級脂肪酸エステル変性シリコーンなどが挙げられる。本発明では、粘着剤層の表面の帯電防止性を向上するために、ジメチルポリシロキサンを主成分とした剥離剤層の中に相溶している状態の20℃において液体のシリコーン系化合物が用いられる。本発明の用途には、変性シリコーン化合物の中でも、ポリエーテル変性シリコーンが好ましい。ポリエーテル変性シリコーンにおけるポリエーテル鎖は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどで構成され、例えば、側鎖に用いるポリエチレンオキサイドの分子量を選択することにより、シリコーン剥離剤との相溶性や帯電防止効果などの物性が調整される。
また、ポリエーテル変性シリコーンとして市販されている製品には、例えば、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-642(信越化学工業(株)製)、SH8400、SH8700、SF8410(東レダウコーニング(株)製)、TSF-4440、TSF-4441、TSF-4445、TSF-4446、TSF-4450(モメンティブパーフォーマンス・マテリアルズ社製)、BYK-300、BYK-306、BYK-307、BYK-320、BYK-325、BYK-330(ビックケミー社製)などが挙げられる。
ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤に対する20℃において液体のシリコーン系化合物の添加量は、シリコーン化合物の種類や剥離剤との相溶性の度合いにより異なるが、帯電防止表面保護フィルムを被着体から剥離する時の、望まれる剥離帯電圧、被着体に対する汚染性、粘着特性などを考慮して設定すればよい。
【0075】
剥離剤層4を構成する帯電防止剤としては、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤溶液に対して分散性の良いもので、かつ、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤の硬化を阻害しないものが好ましい。こうした帯電防止剤としてはアルカリ金属塩が好適である。」

(カ)「【0077】
ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤と、ポリエーテル変性シリコーンおよび帯電防止剤との混合方法には、特に限定はない。ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤に、ポリエーテル変性シリコーンおよび帯電防止剤を添加して、混合した後に剥離剤硬化用の触媒を添加・混合する方法、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤を、あらかじめ有機溶剤で希釈したのちにポリエーテル変性シリコーン及び帯電防止剤と剥離剤硬化用の触媒を添加、混合する方法、シロキサンを主成分とする剥離剤をあらかじめ有機溶剤に希釈後、触媒を添加・混合し、その後ポリエーテル変性シリコーンと帯電防止剤を添加、混合する方法など、いずれの方法でも良い。また、必要に応じて、シランカップリング剤などの密着向上剤やポリオキシアルキレン基を含有する化合物などの帯電防止効果を補助する材料、を添加しても良い。」

(キ)「【0082】
図2は、本発明の帯電防止表面保護フィルムから、剥離フィルムを剥がした状態を示す断面図である。
図1に示した帯電防止表面保護フィルム10から、剥離フィルム5を剥がすことにより、剥離フィルム5の剥離剤層4に含まれる、20℃において液体のシリコーン系化合物および帯電防止剤(符号7)の一部が、帯電防止表面保護フィルム10の粘着剤層2の表面に、転写される(付着する)。そのため、図2においては、帯電防止表面保護フィルムの粘着剤層2の表面に転写された、20℃において液体のシリコーン系化合物および帯電防止剤を、符号7の斑点で模式的に示している。
本発明に係わる帯電防止表面保護フィルムでは、図2に示した剥離フィルムを剥がした状態の帯電防止表面保護フィルム11を、被着体に貼合するに当たり、この粘着剤層2の表面に転写された、20℃において液体のシリコーン系化合物および帯電防止剤が、被着体の表面に接触する。そのことにより、再度、被着体から帯電防止表面保護フィルムを剥がす時の、剥離帯電圧を低く抑えることができる。」

(ク)「図1



(ケ)「図2



(2) 引用例1に記載された発明
引用例1の【0082】の記載に着目すると、請求項1を引用する請求項8には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「帯電防止表面保護フィルムであって、次の工程(1)?(2)、
工程(1):透明性を有する樹脂からなる基材フィルムの片面に、(A)アルキル基の炭素数が、C4?C18の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの少なくとも一種と、共重合可能なモノマー群として、(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーと、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーと、(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(E)水酸基を含有しない窒素含有ビニルモノマーまたはアルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、からなる共重合可能なモノマー群の中から選択された少なくとも一種と、を含む共重合体のアクリル系ポリマーからなり、さらに、(F)2官能以上のイソシアネート化合物と、(G)架橋促進剤と、(H)ケトエノール互変異性体化合物と、を含有する粘着剤組成物からなる粘着剤層を形成する工程と、
工程(2):前記粘着剤層の表面に、樹脂フィルムの片面に帯電防止剤を含有する剥離剤層が積層された剥離フィルムを、前記剥離剤層を介して貼り合わせる工程と、
を順に経て作製されてなり、
前記剥離剤層が、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤と、20℃において液体のシリコーン系化合物と、前記帯電防止剤とを含む樹脂組成物により形成されてなり、前記粘着剤層の剥離帯電圧が±0.6kV以下であり、
前記剥離剤層中のシリコーン系化合物が、ポリエーテル変性シリコーンであり、
剥離フィルムを剥がした状態の帯電防止表面保護フィルムを、被着体に貼合するに当たり、20℃において液体のシリコーン系化合物および帯電防止剤が、この粘着剤層の表面に転写される帯電防止表面保護フィルム。」

(3) 引用例2
平成30年6月28日付けで通知した拒絶理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2015-39788号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
透明性を有する樹脂からなる基材フィルムの片面に、粘着剤層が形成され、該粘着剤層の上に、剥離剤層を有する剥離フィルムが貼合されてなる表面保護フィルムであって、該剥離フィルムが、樹脂フィルムの片面に、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤と、該剥離剤と反応しない帯電防止剤とを含有する剥離剤層を積層してなり、前記帯電防止剤の成分が、融点が30℃未満のイオン性化合物であり、前記帯電防止剤の成分が前記剥離フィルムから前記粘着剤層の表面に転写され、前記粘着剤層を被着体から剥離するときの剥離帯電圧が低減されてなることを特徴とする表面保護フィルム。
【請求項2】
前記粘着剤層が、(メタ)アクリレート共重合体を架橋させてなることを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルム。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板、位相差板、ディスプレイ用のレンズフィルムなどの光学部品(以下、光学用フィルムと称する場合もある。)の表面に貼合される、表面保護フィルムに関する。さらに詳細には、被着体に対する汚染が少ない表面保護フィルム、さらには、経時劣化しないで優れた剥離帯電防止性能を有する表面保護フィルム、及びそれを用いた光学部品を提供するものである。」

(ウ)「【0031】
剥離剤層4を構成する帯電防止剤としては、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤溶液に対して分散性の良いもので、かつ、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤の硬化を阻害しないものが好ましい。また、剥離剤層4から粘着剤層2の表面に転写して、粘着剤層に帯電防止の機能を付与するため、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤と反応しない帯電防止剤が良い。こうした帯電防止剤としては、融点が30℃未満であるイオン性化合物が好適である。
【0032】
融点が30℃未満のイオン性化合物としては、カチオンとアニオンを有するイオン性化合物であって、カチオンが、イミダゾリウムイオンなどの環状アミジンイオン、ピリジニウムイオン、アンモニウムイオン、スルホニウムイオン、ホスホニウムイオン等が挙げられる。また、アニオンとしては、C_(n)H_(2n+1)COO^(-)、CnF_(2n+1)COO^(-)、NO_(3)^(-)、C_(n)F_(2n+1)SO_(3)^(-)、(C_(n)F_(2n+1)SO_(2))_(2)N^(-)、(C_(n)F_(2n+1)SO_(2))_(3)C^(-)、PO_(4)^(3-)、AlCl_(4)^(-)、Al_(2)Cl_(7)^(-)、ClO_(4)^(-)、BF_(4)^(-)、PF_(6)^(-)、AsF_(6)^(-)、SbF_(6)^(-)等が挙げられる。
ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤に対する帯電防止剤の添加量は、帯電防止剤の種類や剥離剤との親和性の度合いにより異なる。帯電防止剤の添加量は、表面保護フィルムを被着体から剥離する時の、望まれる剥離帯電圧、被着体に対する汚染性、粘着特性などを考慮して設定すればよい。
【0033】
剥離剤層4は、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤と、該剥離剤と反応しない帯電防止剤との混合物からなる剥離剤層4であってもよい。ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤と、帯電防止剤との混合方法には、特に限定はない。ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤に、帯電防止剤を添加して、混合した後に剥離剤硬化用の触媒を添加・混合する方法、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤を、あらかじめ有機溶剤で希釈したのちに帯電防止剤と剥離剤硬化用の触媒を添加、混合する方法、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤をあらかじめ有機溶剤に希釈後、触媒を添加・混合し、その後帯電防止剤を添加、混合する方法など、いずれの方法でも良い。また、必要に応じて、シランカップリング剤などの密着向上剤や、ポリオキシアルキレン基を含有する化合物などの帯電防止効果を補助する材料、を添加しても良い。」

3 本願発明と引用発明の対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「(F)2官能以上のイソシアネート化合物」は、引用例1の【0053】を参照すると、その機能から、本願発明の「架橋剤」に相当する。

(イ)引用発明の「透明性を有する樹脂からなる基材フィルムの片面に、(A)アルキル基の炭素数が、C4?C18の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの少なくとも一種と、共重合可能なモノマー群として、(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーと、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーと、(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(E)水酸基を含有しない窒素含有ビニルモノマーまたはアルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、からなる共重合可能なモノマー群の中から選択された少なくとも一種と、を含む共重合体のアクリル系ポリマーからなり、さらに、(F)2官能以上のイソシアネート化合物と、(G)架橋促進剤と、(H)ケトエノール互変異性体化合物と、を含有する粘着剤組成物からなる粘着剤層を形成する」態様は、本願発明の「透明性を有する樹脂からなる基材フィルムの片面に、粘着剤層が形成」される態様に相当する。

(ウ)引用発明の「前記粘着剤層の表面に、樹脂フィルムの片面に帯電防止剤を含有する剥離剤層が積層された剥離フィルムを、前記剥離剤層を介して貼り合わせる」態様は、本願発明の「該粘着剤層の上に、剥離剤層を有する剥離フィルムが貼合されてなる」態様に相当する。

(エ)引用発明の「粘着剤層」が「(A)アルキル基の炭素数が、C4?C18の(メタ)アクリル酸エステルモノマーの少なくとも一種と、共重合可能なモノマー群として、(B)水酸基を含有する共重合可能なモノマーと、(C)カルボキシル基を含有する共重合可能なモノマーと、(D)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、(E)水酸基を含有しない窒素含有ビニルモノマーまたはアルコキシ基含有アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、からなる共重合可能なモノマー群の中から選択された少なくとも一種と、を含む共重合体のアクリル系ポリマーからなり、さらに、(F)2官能以上のイソシアネート化合物と、(G)架橋促進剤と、(H)ケトエノール互変異性体化合物と、を含有する粘着剤組成物からなる」ことは、「共重合体のアクリル系ポリマー」がその組成から(メタ)アクリレート共重合体といえ、(F)2官能以上のイソシアネート化合物を含有すると当然に「共重合体のアクリル系ポリマー」が架橋するから、本願発明の「前記粘着剤層が、(メタ)アクリレート共重合体と、架橋剤と、を含有する粘着剤組成物を架橋させてな」ることに相当する。

(オ)引用発明の「ポリエーテル変性シリコーン」は、引用例1の【0074】を参照すると、帯電防止性を向上させる効果を有するものであるから、帯電防止補助剤といえるものである。
そして、引用発明の「剥離フィルム」が「樹脂フィルムの片面に帯電防止剤を含有する剥離剤層が積層された」ものであって、「前記剥離剤層が、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤と、20℃において液体のシリコーン系化合物と、前記帯電防止剤とを含む樹脂組成物により形成されてなり、」「前記剥離剤層中のシリコーン系化合物が、ポリエーテル変性シリコーンである」ことは、剥離フィルムが樹脂フィルムの片面にジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤とポリエーテル変性シリコーンを含有する剥離剤層が積層されたものであることであるから、本願発明の「該剥離フィルムが、樹脂フィルムの片面に、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤と、」「帯電防止剤と、帯電防止補助剤とを含有する剥離剤層を積層してなり、」「前記帯電防止補助剤が、ポリエーテル変性シリコーンであ」ることに相当する。

(カ)引用発明の「剥離フィルムを剥がした状態の帯電防止表面保護フィルムを、被着体に貼合するに当たり、20℃において液体のシリコーン系化合物および帯電防止剤が、この粘着剤層の表面に転写される」ことは、剥離フィルムを貼り合わせる工程において、20℃において液体のシリコーン系化合物および帯電防止剤が剥離材層に含有するものであるから、本願発明の「前記帯電防止剤の成分と前記帯電防止補助剤とが、前記剥離フィルムの前記剥離剤層から前記粘着剤層の表面に転写され」ることに相当する。

(キ)引用発明の「帯電防止表面保護フィルム」は、引用例1の【0028】を参照すると、「被着体から剥離する時に発生する剥離帯電圧を低く抑えることができ」るものであるから、本願発明の「前記粘着剤層を被着体から剥離するときの剥離帯電圧が低減されてなる」「表面保護フィルム」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「透明性を有する樹脂からなる基材フィルムの片面に、粘着剤層が形成され、該粘着剤層の上に、剥離剤層を有する剥離フィルムが貼合されてなる表面保護フィルムであって、
前記粘着剤層が、(メタ)アクリレート共重合体と、架橋剤と、を含有する粘着剤組成物を架橋させてなり、
該剥離フィルムが、樹脂フィルムの片面に、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤と、該剥離剤と反応しない帯電防止剤と、帯電防止補助剤とを含有する剥離剤層を積層してなり、
前記帯電防止補助剤が、ポリエーテル変性シリコーンであり、
前記帯電防止剤の成分と前記帯電防止補助剤とが、前記剥離フィルムの前記剥離剤層から前記粘着剤層の表面に転写され、
前記粘着剤層を被着体から剥離するときの剥離帯電圧が低減されてなることを特徴とする表面保護フィルム。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
本願発明では、「該剥離剤と反応しない」「前記帯電防止剤の成分が、融点が30℃未満のイオン性化合物であり、」「前記イオン性化合物が、カチオンとアニオンを有するイオン性化合物であり、前記カチオンが、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、アンモニウムイオン、スルホニウムイオン、ホスホニウムイオンからなる群から選択された1種であ」るのに対して、引用発明では、帯電防止剤が具体的に特定されていない点。

(2) 当審の判断
上記相違点について検討する。
引用例2には、【0032】に記載された帯電防止剤に着目して、請求項2の記載事項を整理すると、以下の事項が記載されているといえる。
「透明性を有する樹脂からなる基材フィルムの片面に、粘着剤層が形成され、該粘着剤層の上に、剥離剤層を有する剥離フィルムが貼合されてなる剥離帯電防止性能を有する表面保護フィルムであって、
前記粘着剤層が、(メタ)アクリレート共重合体を架橋させてなるものであり、
該剥離フィルムが、樹脂フィルムの片面に、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤と、帯電防止剤とを含有する剥離剤層を積層してなり、
前記帯電防止剤の成分が前記剥離フィルムから前記粘着剤層の表面に転写され、
前記粘着剤層を被着体から剥離するときの剥離帯電圧が低減されてなることを特徴とする表面保護フィルムにおいて、
前記帯電防止剤が、該剥離剤と反応しない帯電防止剤であり、
前記帯電防止剤の成分が、融点が30℃未満のイオン性化合物であり、
融点が30℃未満のイオン性化合物としては、カチオンとアニオンを有するイオン性化合物であって、カチオンが、イミダゾリウムイオンなどの環状アミジンイオン、ピリジニウムイオン、アンモニウムイオン、スルホニウムイオン、ホスホニウムイオンである点。」

そして、引用例1には、【0075】に「剥離剤層4を構成する帯電防止剤としては、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤溶液に対して分散性の良いもので、かつ、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤の硬化を阻害しないものが好ましい。」と記載されており、様々な帯電防止剤を用いることが示唆されているところ、引用例2には、【0031】に「剥離剤層4を構成する帯電防止剤としては、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤溶液に対して分散性の良いもので、かつ、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤の硬化を阻害しないものが好ましい。また、剥離剤層4から粘着剤層2の表面に転写して、粘着剤層に帯電防止の機能を付与するため、ジメチルポリシロキサンを主成分とする剥離剤と反応しない帯電防止剤が良い。こうした帯電防止剤としては、融点が30℃未満であるイオン性化合物が好適である。」と記載され、具体的に「前記帯電防止剤の成分が、融点が30℃未満のイオン性化合物であり、融点が30℃未満のイオン性化合物としては、カチオンとアニオンを有するイオン性化合物であって、カチオンが、イミダゾリウムイオンなどの環状アミジンイオン、ピリジニウムイオン、アンモニウムイオン、スルホニウムイオン、ホスホニウムイオンである点。」が記載されているのであるから、引用発明において、帯電防止剤を具体的に決定するに際して、引用例2の記載に触れた当業者であれば、引用例2に記載された具体的な帯電防止剤を適用し、本願発明の上記相違点に係る事項とすることは、容易に想到し得たことである。

<本願発明の効果について>
請求人は、審判請求書において、本願発明は、「表面に凹凸がある光学用フィルムに対しても使用でき、被着体に対する汚染が少なく、経時しても被着体に対する低汚染性が変わらない表面保護フィルム」(【0014】)を提供することであり、当該事項が、引用例1には記載されておらず、引用発明から予知できない格別な効果を有する旨主張する。
しかし、引用例1の【0028】には、「本発明の帯電防止表面保護フィルムは、被着体に対する汚染が少なく、被着体に対する低汚染性が経時変化しない。また、本発明によれば、LR偏光板やAG-LR偏光板などの、被着体の表面が、シリコーン化合物やフッ素化合物などで防汚染処理してある光学用フィルムであっても、帯電防止表面保護フィルムを、被着体から剥離する時に発生する剥離帯電圧を低く抑えることができ、経時劣化しないで優れた剥離帯電防止性能を有する帯電防止表面保護フィルムを提供できる。」と記載されており、帯電防止表面保護フィルムを表面に凹凸のあるAG-LR偏光板に用いること、及び被着体に対する汚染が少なく、被着体に対する低汚染性が経時変化しないことが記載されている。
また、本願明細書には、帯電防止剤として「融点が27.5℃のイオン性化合物であるトリ-n-ブチルメチルアンモニウム ビストリフルオロメタンスルホンイミド(スリーエム社製FC-4400)」を「付加反応型のシリコーン(東レダウコーニング(株)製、品名:SRX-345)5重量部」に対して0.75重量部含有するもの(実施例1?3、比較例3)しか記載されておらず、0.75重量部以外の含有量のものや本願発明に係る他の帯電防止剤を用いたものは記載されていない。さらに、本願発明に係る帯電防止剤を用いた表面保護フィルムが、本願発明に係る帯電防止剤以外の帯電防止剤を用いた表面保護フィルムと比べて、格別な顕著な効果を有することが記載されているわけでもない。
したがって、本願明細書の記載からは、本願発明に係る帯電防止剤を用いることで格別な効果を有するとは理解できないから、本願発明の奏する効果は、引用発明及び引用例2記載の事項から、予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

4 むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


第3 まとめ
以上のとおり、請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-10-23 
結審通知日 2019-10-29 
審決日 2019-11-20 
出願番号 特願2016-27290(P2016-27290)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 石井 孝明
特許庁審判官 武内 大志
佐々木 正章
発明の名称 表面保護フィルム、及びそれが貼合された光学部品  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 大浪 一徳  
代理人 貞廣 知行  

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