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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1358579
審判番号 不服2018-10201  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-26 
確定日 2020-01-08 
事件の表示 特願2016-501851「一酸化窒素の送達を監視するための器具および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月 2日国際公開、WO2014/159912、平成28年 4月25日国内公表、特表2016-512112〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)年3月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年(平成25年)3月13日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年10月24日付けの拒絶理由通知に対し、平成30年2月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月22日付けで拒絶査定がされ、その後、同年7月26日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成30年2月14日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
患者に治療用ガスを送達する器具であって、
一酸化窒素を含む治療用ガス供給部と流体連通して配置される第1の入口;
前記患者に呼吸ガスをもたらす呼吸ガス送達システムと流体連通して配置される第2の入口;
前記第1の入口および前記第2の入口と流体連通して配置されて、呼吸ガスと治療用ガスとの複合流をもたらす治療用ガス注入モジュール;
前記治療用ガス注入モジュールと流体連通して、患者に前記呼吸ガスと治療用ガスとの複合流を供給する出口;
前記呼吸ガス送達システムからの呼吸ガスの流量を測定する第1の流量センサーと、治療用ガスの流量を測定する第2の流量センサーとを含む制御回路であって、前記呼吸ガスの測定された流量と、前記治療用ガスの測定された流量または治療用ガスの公知の流量のいずれかとに基づいて、一酸化窒素の計算された用量を決定する制御回路;および
前記制御回路と通信するディスプレイであって、患者に送達される一酸化窒素の、ユーザーによって設定される所望の送達濃度と比較された、一酸化窒素の計算された送達濃度の百分率として、前記一酸化窒素の計算された用量の可視的なおよび/または数字の表示をもたらすディスプレイ
を含む器具。」


第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記引用文献1に記載された発明及び下記引用文献2に記載された周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


引用文献1:米国特許出願公開第2005/0172966号明細書
引用文献2:特開2006-317243号公報


第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1
引用文献1には、次の記載がある(括弧内に付記した邦訳は当審による。)。
1a:「FIELD OF THE INVENTION
[0001] The present invention relates to an injection system for delivery of a gaseous substance. More specifically, the present invention relates to an injection system for delivery of a gaseous substance to a patient, where the concentration of the gaseous substance delivered to the patient may be modified during the patient inspiratory phase and may be gradually modified over a predetermined number of patient inspiratory phases. 」
(発明の分野
[0001] 本発明は、ガス状物質を送達するための注入システムに関する。より具体的には、本発明は、患者にガス状物質を送達するための注入システムであって、患者に送達されるガス状物質の濃度を患者の吸気相中に変更でき、かつ、患者の所定数の吸気相に渡って徐々に変更できる、注入システムに関する。)

1b:「[0049] FIG. 5 of the appended drawings illustrates an injection system 100 according to an embodiment of the present invention. The injection system 100 includes a user interface unit 101 , a control unit 102 , a temperature and humidity measuring unit 103 , a valve assembly 104 a backup unit 105 an inspiratory gas flowmeter 106 and a gaseous substance flowmeter 107 .
[0050] The injection system 100 is illustrated in FIG. 5 as being connected to a conventional ventilator 108 through a data cable 110 , to a source of a gaseous substance 112 through a conduit 114 and to a patient 116 through an inspiratory conduit 118 .
[0051] It is to be noted that the following description of the injection system 100 will be given with the particular example of nitric oxide (NO) injection, but that the system 100 could be used to inject other gaseous substance in the respiratory system of a patient. 」
([0049] 添付図面の図5は、本発明のー実施形態による注入システム100を示している。注入システム100は、ユーザインターフェース部101、制御部102、温湿度測定部103、バルブアセンブリ104、バックアップ部105、吸気ガス流量計106及びガス状物質流量計107を含む。
[0050] 注入システム100は、データケーブル110を介して標準的な人工呼吸器108に接続され、導管114を介してガス状物質の供給源112に接続され、吸気導管118を介して患者116に接続されるものとして、図5に示されている。
[0051] 注入システム100の以下の説明は、一酸化窒素(NO)という特定の例を挙げて説明するが、システム100は、患者の呼吸器系中へ他のガス状物質を注入するために使用することができることに留意されたい。)

1c:「[0054] The inspiratory gas supplied to the patient goes through the flowmeter 106 , via conduit 130 , thereby enabling the flowmeter 106 to measure the inspiratory gas flow supplied to the patient 116 . Inspiratory gas flow data is supplied to the control unit 102 via a data cable 132 , interconnecting an inspiratory gas flow data output 134 of the flowmeter 106 and an inspiratory gas flow data input 136 of the control unit 102 . Of course, the inspiratory gas flow data is either in analog or in digital format, compatible with the control unit 102 .
・・・
[0056] The control unit 102 includes a control output 142 electrically connected to a control input 144 of the valve assembly 104 via a control cable 146 . The control unit 102 therefore controls the variable opening of the valve assembly 104 . The valve assembly 104 may be a normally closed valve assembly or a normally open valve assembly but is advantageously a normally closed valve assembly for safety reasons. Indeed, it is advantageous that the valve automatically closes upon loss of electrical power.
[0057] The valve assembly 104 also includes a fluid output 148 pneumatically connected a fluid input 149 of the gaseous substance flowmeter 107 through a conduit 150 . The flowmeter 107 includes a fluid output 151 connected to conduit 118 through a conduit 152 and a“Y”junction 153 . 」
([0054] 患者に供給される吸気ガスは、導管130を介して流量計106を通過し、流量計106により、患者116に供給される吸気ガス流を測定することが可能となる。吸気ガス流データは、データケーブル132を介して制御部102に送られ、データケーブル132は、流量計106の吸気ガス流量データ出力部134と、制御部102の吸気ガス流量データ入力部136とを相互に連結する。吸気ガス流量データはアナログ又はデジタル形式であって、当然のことながら、制御部102に適合するものである。
・・・
[0056] 制御ユニット102は、制御ケーブル146を介し、バルブアセンブリ104の制御入力部144と電気的に接続される制御出力部142を含む。したがって、制御部102は、バルブアセンブリ104の可変開口部を制御する。バルブアセンブリ104は、常時閉型バルブアセンブリであっても常時開型バルブアセンブリであってもよいが、安全上の理由から常時閉型バルブアセンブリが有利であり、実際に、電力の喪失時に弁が自動的に閉じるという利点がある。
[0057] バルブアセンブリ104はまた、導管150を介してガス状物質流量計107の流体入口149に、含気的に接続された流体出口148を含む。流量計107は、導管152およびY形合流部153を介して導管118に接続された流体出力151を含む。)

1d:「[0060] The user interface unit 101 is connected to the control unit 102 via a data cable 113 enabling the user interface unit 101 to supply data pertaining to user's inputs to the control unit 102 and enabling the control unit 102 to supply data pertaining to information to be displayed on a display portion (not shown) of the user interface unit 101 .
[0061] For example, the user interface unit 101 includes controls operable by the user to determine the desired concentration of NO to be injected, the type of injection (constant or according to a predetermined pattern) and the variation of the NO concentration over time. These two controls will be further described hereinafter.
[0062] The display portion (not shown) of the user interface unit 101 can be used to display the following information:
[0063] the total amount of NO injected to the patient (mole);
[0064] the concentration of inspiratory NO/NO_(2) (calculated) (ppm);
・・・
[0069] It is believed within the skills of one of ordinary skills in the art to design the control unit 102 as to calculate or to obtain the above-mentioned quantities and concentration from the flowmeters and some initial data, and to format them to be displayed on a conventional display device. ・・・」
([0060] ユーザインタフェース部101は、データケーブル113を介して制御部102に接続され、これにより、ユーザインタフェース部101は、操作部102へのユーザ入力に関連するデータを提供でき、また、制御部102は、ユーザインタフェース部101の表示部102(図示せず)に表示される情報に関連するデータを提供できる。
[0061] 例えば、ユーザインタフェース部101は、ユーザによって操作可能な操作手段であって、注入されるNOの所望の濃度を決定し、注入形態(?定か、所定のパターンによるか)を決定し、さらに、時間経過に伴うNO濃度の変化を決定するための操作手段を含む。これらの操作手段の二つの詳細については後述する。
[0062] ユーザインターフェース部101の表示部(図示せず)には、次の情報が表示できる。
[0063] 患者へのNOの総注入量(モル);
[0064] 吸気中のNO/NO_(2)濃度(計算値)(ppm);
・・・
[0069] 上述の量及び濃度を前記流量計及び幾つかの初期データから計算し、取得するように、また、通常の表示装置に表示可能な形式とするように、制御部102を設計することは、当業者の技術の範囲内のものと考えられる。・・・)

1e:「[0073] A monitoring unit 161 may also be connected to a monitoring aperture 163 via a conduit 165 when monitoring is necessary. It is to be noted that continuous monitoring is not believed required for the injection system of the present invention. However, monitoring at the beginning of the injection of NO is advantageous since the user may verify that the concentration of NO injected, as determined by the monitoring unit 161 , is equal to the concentration of NO displayed on the user interface unit 101 . 」
([0073] モニタリングが必要であれば、モニタリング部161は、また、導管165を介してモニタ孔163に接続されてもよい。モニタリングを連続的に行うことが、本発明の注入システムにとって必要であるとは考えられないことに留意されたい。しかしながら、NOの注入開始時にモニタリングを行うと、ユーザは、モニタリング部161によって決定される注入NOの濃度が、ユーザインターフェース部101に表示されているNOの濃度に等しいことを検証することができるので有利である。)

上記の各記載及び図面の図示内容によれば、引用文献1には、次の事項が記載されている。
ア)注入システム100は、患者にガス状物質を送達するものであり([0001])、ユーザインターフェース部101、制御部102を含む([0049])。また、このガス状物質は、一酸化窒素を含むものである([0051])。
イ)注入システム100に含まれるY形合流部153は、導管114、152を介してガス状物質の供給源112と接続されており([0050]、[0057])、また、患者に吸気ガスを供給する人工呼吸器108は、導管130を介してY形合流部153に接続される([0054]、図5)。
さらに、Y形合流部153で合流した呼吸ガスとガス状物質との混合流を患者に供給する吸気導管118も、Y形合流部153に接続されている([0050]、[0057]、図5)。
ウ)人工呼吸器108からの吸気ガス流を測定する流量計106は、データケーブル132を介して制御部102と接続され([0054])、同様に、ガス状物質流量計107も制御部102とデータケーブルで接続される([0049]、図5)。
エ)ユーザインタフェース部101は、データケーブル113を介して制御部102に接続され([0060])、ユーザインタフェース部101の表示部には、患者に送達される一酸化窒素の濃度についての情報が表示される([0062]?[0064]、[0073])ところ、その濃度は計算値である([0064])。また、その計算は、前記流量計により測定された流量及び幾つかの初期データに基づいて制御部102が行う([0069])。

よって、以上を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「患者にガス状物質を送達する注入システムであって、
一酸化窒素を含むガス状物質の供給源と導管を介して接続され、前記患者に吸気ガスを供給する人工呼吸器と導管を介して接続され、吸気ガスとガス状物質との混合流を患者に供給する吸気導管と接続される、Y形合流部;
前記人工呼吸器からの吸気ガス流を測定する流量計と、ガス状物質流量計とにデータケーブルを介して接続される制御部であって、前記流量計により測定された流量及び初期データに基づいて患者に送達される一酸化窒素の濃度を計算する制御部;および
前記制御部とデータケーブルを介して接続されるユーザインタフェース部の表示部であって、患者に送達される一酸化窒素の計算値である濃度についての情報の表示がされる表示部
を含む注入システム。」

2 引用文献2
引用文献2には、次の記載がある(下線は理解のため当審で付した。以下同じ。)。
2a:「【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を採取することなく物資の混合度を判定する方法に関する。」

2b:「【0011】
図5は、実施例の混合度判定装置の制御駆動系のブロック図であり、従来の振動型粘度計の制御ブロックに加えて、物質ごとの濃度に対応した粘度を記憶させるメモリ70、及び混合する物質及び最終濃度を入力する入力キー71、更には、設定値と振動型粘度計の測定値を比較する比較器72及び比較結果を表示する混合度表示装置73が設けてある。
比較器による比較結果は種々の手法により混合度を表示装置に表示することができる。
例えば、設定した濃度に対する百分率で表示したり、単純に粘度が飽和値に到達したら混合完了ランプを点灯させるというものでもよく、目的に応じて、比較結果を処理して適宜の表示をおこなえばよい。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明によれば、混合状態の系を乱すことなく、振動型粘度計のセンサーを容器または管路に設置するだけで混合状態が把握できるのである。・・・」

3 引用文献3
当審において周知例として新たに引用する、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2007-151757号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
3a:「【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象物であるセパレートシートや物を載せるパレット等の平面体に電磁波を照射して殺菌等を行う電磁波照射装置に関する。」

3b:「0048】
この紫外線検出サブセンサ34は、図3に示すように、紫外線照射ユニット30における任意の紫外線ランプ(本例では最上段と最下段及び中段の3本の紫外線ランプ)31の端部の近傍に設置される。なお、この紫外線検出サブセンサ34は、紫外線ランプ31の一部または全部に固定して設置してもよい。ここで使用される紫外線検出サブセンサ34は、紫外線を検出してその強さに応じた電圧を出力する安価なセンサであり、この紫外線検出サブセンサ34からの出力に基く紫外線の照射量が図1に示す表示パネル20に表示されるようになっている。この場合の照射量の表示は、後述するように、予め設定された基準値に対する百分率(%)表示とされている。」

3c:「【0055】
そしてこのトップ画面においては、シート表示部41とランプ表示部42との間の表示部分44に、上・中・下の3箇所の紫外線ランプ31に設置された紫外線検出サブセンサ34からの出力値が百分率(%)で表示され、さらにその上方の表示部分45には、上・中・下の3箇所の紫外線検出サブセンサ34からの平均出力値が表示されるようになっており、作業者はこの表示を見ることで、通常時に確実な紫外線照射が行われていることを確認することができる。特にここでは、出力値が百分率(%)で表示されるため、作業者にとって非常に判りやすいという特徴がある。」

4 引用文献4
当審において周知例として新たに引用する、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2003-334181号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
4a:「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、ランニングや競歩等の運動を行っている最中に、該運動の運動量を測定する運動量測定装置に関する。」

4b:「【0066】従って、本変形例にあっては、VO_(2max)が得られた場合に、図21に示すような運動目標画面が表示素子313に表示される。図示の例にあっては、週に3回、750[kpm/分]の運動を20分続ければよいことが解る。ここで使用者が所定の操作を行うと、表示素子313に図22に示す画面が表示される。
・・・
【0068】次に、603は円グラフ表示部であり、運動量目標値に対する運動量現在値の割合の百分率を円グラフで表示する。 604はフェースチャート表示部であり、運動量目標値に対する運動量現在値の割合に応じたフェースチャートを表示する。・・・」


第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア)引用発明の「ガス状物質」、「吸気ガス」、「吸気ガスとガス状物質との混合流」は、文言の意味、機能等から見て、本願発明の「治療用ガス」、「呼吸ガス」、「呼吸ガスと治療用ガスとの複合流」に、それぞれ相当する。
また、これらの相当関係からして、引用発明の「患者にガス状物質を送達する注入システム」は、本願発明の「患者に治療用ガスを送達する器具」に相当し、以下同様に、「一酸化窒素を含むガス状物質の供給源」は「一酸化窒素を含む治療用ガス供給部」に、「患者に吸気ガスを供給する人工呼吸器」は「患者に呼吸ガスをもたらす呼吸ガス送達システム」に、それぞれ相当する。
イ)引用発明の「Y形合流部」は、「一酸化窒素を含むガス状物質の供給源と導管を介して接続され」ることから、当該「接続」箇所は、一酸化窒素を含むガス状物質の供給源と流体連通して配置される、合流部への適宜の入口を成すものといえるし、同様に、引用発明の「Y形合流部」は、「患者に吸気ガスを供給する人工呼吸器と導管を介して接続され」ることから、当該「接続」箇所は、患者に吸気ガスをもたらす人工呼吸器と流体連通して配置される、合流部への適宜の入口を成すものといえる。
よって、引用発明は、「一酸化窒素を含む治療用ガス供給部と流体連通して配置される第1の入口;前記患者に呼吸ガスをもたらす呼吸ガス送達システムと流体連通して配置される第2の入口;」を含む点で、本願発明と一致する。
ウ)引用発明の「Y形合流部」の「合流」とは、吸気ガスとガス状物質の合流であることは明らかであるから、引用発明の「吸気ガスとガス状物質との混合流を患者に供給する」「Y形合流部」は、その機能面からみて、本願発明の「呼吸ガスと治療用ガスとの複合流をもたらす治療用ガス注入モジュール」と、“呼吸ガスと治療用ガスとの複合流をもたらす合流部”である点で共通する。
また、イ)の相当関係から、引用発明の「Y形合流部」は、本願発明の「治療用ガス注入モジュール」と、“前記第1の入口および前記第2の入口と流体連通して配置される合流部”である点でも共通する。
エ)引用発明の「Y形合流部」は、「吸気ガスとガス状物質との混合流を患者に供給する吸気導管と接続される」ことから、当該「接続」箇所は、Y形合流部と流体連通して混合流を患者に供給するための、適宜の出口を成すものといえる。
よって、引用発明は、“前記合流部と流体連通して、患者に前記呼吸ガスと治療用ガスとの複合流を供給する出口”を含む点で、本願発明と共通する。
オ)引用発明の「人工呼吸器からの吸気ガス流を測定する流量計」、「ガス状物質流量計」は、それぞれ本願発明の「呼吸ガス送達システムからの呼吸ガスの流量を測定する第1の流量センサー」、「治療用ガスの流量を測定する第2の流量センサー」にそれぞれ相当するところ、これらの各「流量計」は、「制御部」に「データケーブルを介して接続される」というのであるから、制御部の一部を成すものといい得るものである。
よって、引用発明の「人工呼吸器からの吸気ガス流を測定する流量計と、ガス状物質流量計とにデータケーブルを介して接続される制御部」は、本願発明の「呼吸ガス送達システムからの呼吸ガスの流量を測定する第1の流量センサーと、治療用ガスの流量を測定する第2の流量センサーとを含む制御回路」に相当する
カ)引用発明の「患者に送達される一酸化窒素の濃度を計算する」は、本願発明の「一酸化窒素の計算された用量を決定する」に相当する。
そうすると、引用発明の「前記流量計により測定された流量及び初期データに基づいて患者に送達される一酸化窒素の濃度を計算する制御部」と本願発明の「前記呼吸ガスの測定された流量と、前記治療用ガスの測定された流量または治療用ガスの公知の流量のいずれかとに基づいて、一酸化窒素の計算された用量を決定する制御回路」とは、“前記流量センサーにより測定されたガスの流量に基づいて、一酸化窒素の計算された用量を決定する制御回路”である点で共通する。
キ)引用発明の「制御部とデータケーブルを介して接続されるユーザインタフェース部の表示部」は、本願発明の「制御回路と通信するディスプレイ」に相当する。
また、引用発明の「患者に送達される一酸化窒素の計算値である濃度についての情報」と本願発明の「患者に送達される一酸化窒素の、ユーザーによって設定される所望の送達濃度と比較された、一酸化窒素の計算された送達濃度の百分率として、前記一酸化窒素の計算された用量の可視的なおよび/または数字」とは、“前記一酸化窒素の計算された用量についての情報”である点で共通する。

以上によれば、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
患者に治療用ガスを送達する器具であって、
一酸化窒素を含む治療用ガス供給部と流体連通して配置される第1の入口;
前記患者に呼吸ガスをもたらす呼吸ガス送達システムと流体連通して配置される第2の入口;
前記第1の入口および前記第2の入口と流体連通して配置されて、呼吸ガスと治療用ガスとの複合流をもたらす合流部;
前記合流部と流体連通して、患者に前記呼吸ガスと治療用ガスとの複合流を供給する出口;
前記呼吸ガス送達システムからの呼吸ガスの流量を測定する第1の流量センサーと、治療用ガスの流量を測定する第2の流量センサーとを含む制御回路であって、前記流量センサーにより測定されたガスの流量に基づいて、一酸化窒素の計算された用量を決定する制御回路;および
前記制御回路と通信するディスプレイであって、前記一酸化窒素の計算された用量についての情報の表示をもたらすディスプレイ
を含む器具。」

(相違点1)
合流部に関し、本願発明では、合流部が「治療用ガス注入モジュール」であるのに対し、引用発明では、合流部がY形合流部であって、当該Y形合流部は、個別の部品として一の「モジュール」を成しているのか否か明らかでない点。

(相違点2)
制御回路が一酸化窒素の計算された用量を決定するに当たり、本願発明では、「呼吸ガスの測定された流量と、前記治療用ガスの測定された流量または治療用ガスの公知の流量のいずれかとに基づいて、一酸化窒素の計算された用量を決定する」のに対し、引用発明では、用量の決定が、流量センサーにより測定された流量に基づくものの、その流量が、第1の流量センサーにより測定された流量なのか、第2の流量センサーにより測定された流量であるのかについてまでの具体的特定がない点。

(相違点3)
ディスプレイに表示される情報に関し、本願発明では、「患者に送達される一酸化窒素の、ユーザーによって設定される所望の送達濃度と比較された、一酸化窒素の計算された送達濃度の百分率として、前記一酸化窒素の計算された用量の可視的なおよび/または数字」が表示されるのに対し、引用発明では、一酸化窒素の計算された用量の情報が表示されるものの、その具体的な表示態様までは明らかでない点。


第6 判断
1 相違点1について
複数の導管を連結するに当たり、既存の技術のうちからどのような技術を用いて導管を連結するかは設計上の選択事項であるところ、コネクタ等の接続手段を用いた導管の連結は、例示するまでもなく本願の優先日前における周知の技術にすぎないことから、引用発明において、Y形合流部に繋がる3本の各導管とそれぞれ接続可能な一のコネクタ部品を用いて合流部を形成すること、即ち、合流部を「治療用ガス注入モジュール」とすることは当業者であれば容易になし得たことである。

2 相違点2について
引用文献1には、「上述の量及び濃度を前記流量計及び幾つかの初期データから計算し」([0069])との記載があるところ、当該「前記流量計」は、「吸気ガス流量計106」([0049])又は「ガス状物質流量計107」([0049])の少なくとも何れかを指すものといえる。
ここで、患者に供給される混合流における一酸化窒素の用量、即ち濃度(ppm)とは、(患者に供給される一酸化窒素の体積)/(患者に供給される混合流の体積)で表されることから、当該用量(濃度)を算出するためには、少なくとも当該混合流の流量の値が必要となることは、技術的に明らかである。
そして、当該混合流の流量とは、人工呼吸器からの吸気ガス流を測定する流量計106により測定される流量とガス状物質流量計107により測定される流量の総和に他ならない。
そうすると、引用発明においても、制御回路による一酸化窒素の計算された用量の決定のために、少なくとも上記流量計106からの流量とガス状物質流量計107からの流量とを計算に用いているものと解されることから、引用発明は、「前記呼吸ガスの測定された流量と、前記治療用ガスの測定された流量」「に基づいて、一酸化窒素の計算された用量を決定する制御回路」を実質的に具備するものである。
よって、相違点2は、実質的な相違点とはいえない。

3 相違点3について
測定等により取得したある物理量を、ユーザに対し視覚的に提供するに当たり、当該物理量を所望の目標量と比較した上で、百分率として可視的な又は数値の形態で表示することは、技術分野を問わず利用可能な表示技術として、本願の優先日前における周知の技術といえるものである(必要ならば、引用文献2の上記摘記事項2a?2b、引用文献3の上記摘記事項3a?3c、引用文献4の上記摘記事項4a?4b等の各記載を参照。)。
ディスプレイに表示される情報につき、ユーザによる情報認識の容易性等を考慮して、その表示形態を適宜に好適化することは当業者による通常の設計活動であるから、引用発明において、一酸化窒素の計算された用量の表示形態として上記の表示に関する周知技術を適用し、相違点3における本願発明の特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

4 効果について
本願発明の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別なものとはいえない。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-31 
結審通知日 2019-08-06 
審決日 2019-08-21 
出願番号 特願2016-501851(P2016-501851)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 芝井 隆  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 関谷 一夫
莊司 英史
発明の名称 一酸化窒素の送達を監視するための器具および方法  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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