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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特174条1項  H01M
管理番号 1358589
異議申立番号 異議2018-700949  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-26 
確定日 2019-11-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6335267号発明「燃料電池スタック」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6335267号の特許請求の範囲を令和1年9月27日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6335267号の請求項1、2、4ないし7に係る特許を維持する。 特許第6335267号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6335267号の請求項1?7に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成28年12月28日(優先権主張 平成28年2月17日 日本国)を出願日とする出願であって、平成30年2月16日に手続補正がなされた後、平成30年5月11日にその特許権の設定登録がなされ、同年5月30日にその特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、平成30年11月26日差出で特許異議申立人亀崎伸宏(以下、「申立人」という。)より請求項1?7(全請求項)に対して特許異議の申立てがなされ、平成31年2月15日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年4月22日に特許権者より意見書が提出され、その後、令和1年6月20日付けで取消理由(決定の予告:以下、「決定の予告1」という。)が通知され、これに対して、同年6月28日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求がなされ、さらに、同年8月29日付けで取消理由(決定の予告:以下、「決定の予告2」という。)が通知され、これに対して、同年9月27日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。
なお、令和1年6月28日付けでなされた訂正請求に係る訂正について、期間を指定して申立人に意見を求めたが、当該期間中に申立人からの意見はなかった。また、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、令和1年6月28日付けでなされた訂正請求に係る訂正と比較して、軽微な訂正を加えただけのものであり、本件事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても、特許を維持すべきとの結論となると当審が判断したため、本件訂正について、申立人に対して意見を求めなかった。

第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6335267号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、令和1年6月28日付けでなされた訂正請求は、本件訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、訂正箇所には、当審で下線を付した。

(1)訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合は、1.5?2.0である、燃料電池スタック」を「第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合は、1.5?2.0であり、前記第1接合材側の前記燃料電池セルは、前記集電部材に近づくように反り、前記第2接合材側の前記燃料電池セルは、前記集電部材から離れるように反り、前記第1及び第2接合材は、導電性セラミックスによって形成される、燃料電池スタック」と訂正する。
請求項1を引用する請求項4?7も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項2について、本件訂正前の「第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合は、1.5?2.0である、燃料電池スタック」を「第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合は、1.5?2.0であり、前記第1接合材側の前記セパレータまたは前記燃料電池セルの一方は、前記集電部材に近づくように反り、前記第2接合材側の前記セパレータまたは前記燃料電池セルの他方は、前記集電部材から離れるように反り、前記第1及び第2接合材は、導電性セラミックスによって形成される、燃料電池スタック」と訂正する。
請求項2を引用する請求項4?7も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
請求項4について、本件訂正前の「請求項1から3のいずれかに記載の燃料電池スタック」を「請求項1または2に記載の燃料電池スタック」と訂正する。
請求項4を引用する請求項5?7も同様に訂正する。

(5)訂正事項5
請求項5について、本件訂正前の「請求項1から4のいずれかに記載の燃料電池スタック」を「請求項1、2及び4のいずれかに記載の燃料電池スタック」と訂正する。
請求項5を引用する請求項6、7も同様に訂正する。

(6)訂正事項6
請求項6について、本件訂正前の「請求項1及び3から5のいずれかに記載の燃料電池スタック」を「請求項1、4及び5のいずれかに記載の燃料電池スタック」と訂正する。
請求項6を引用する請求項7も同様に訂正する。

(7)訂正事項7
請求項7について、本件訂正前の「請求項1から6のいずれかに記載の燃料電池スタック」を「請求項1、2及び4から6のいずれかに記載の燃料電池スタック」と訂正する。

2-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)【0006】、【0007】、【0009】を根拠として、本件訂正前の「第1接合材側の前記燃料電池セル」について、「集電部材に近づくように反」る事項を特定し、また、本件訂正前の「第2接合材側の前記燃料電池セル」について、「集電部材から離れるように反」る事項を特定し、さらに、本件訂正前の「第1及び第2接合材」について、「導電性セラミックスによって形成される」事項を特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、本件の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した範囲内の訂正である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件明細書【0006】、【0007】、【0009】を根拠として、本件訂正前の「第1接合材側の前記セパレータまたは前記燃料電池セルの一方」について、「集電部材に近づくように反」る事項を特定し、また、本件訂正前の「第2接合材側の前記セパレータまたは前記燃料電池セルの他方」について、「集電部材から離れるように反」る事項を特定し、さらに、本件訂正前の「第1及び第2接合材」について、「導電性セラミックスによって形成される」事項を特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、上記訂正事項3により、請求項3が削除されたことに伴い、本件訂正前の請求項4について、請求項3を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、上記訂正事項3により、請求項3が削除されたことに伴い、本件訂正前の請求項5について、請求項3を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、上記訂正事項3により、請求項3が削除されたことに伴い、本件訂正前の請求項6について、請求項3を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。

(7)訂正事項7について
訂正事項7は、上記訂正事項3により、請求項3が削除されたことに伴い、本件訂正前の請求項7について、請求項3を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、さらに、本件明細書等に記載した範囲内の訂正である。

2-2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項3?7は、直接的または間接的に請求項1及び2を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?7は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?7〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2-3 独立特許要件
本件は、訂正前の全請求項について特許異議申立がなされているので、訂正事項1?7について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項は適用されない。

3 本件訂正請求のむすび
以上のとおり、令和1年9月27日に特許権者が行った本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法第120条の5第4項の規定に適合し、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものであるから、特許請求の範囲の請求項〔1?7〕について、結論のとおり訂正することを認める。

第3 特許異議申立について
1 本件発明
令和1年9月27日に特許権者が行った請求項1?7についての訂正は、上記第2で検討したとおり、適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
対応する一対の燃料電池セルと、
前記各燃料電池セル間に配置され、前記各燃料電池セルを互いに電気的に接続する集電部材と、
前記集電部材と前記各燃料電池セルとを接合する導電性の一対の接合材と、
を備え、
前記一対の接合材は、第1接合材と、前記第1接合材よりも厚い第2接合材とを有し、
前記第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合は、1.5?2.0であり、
前記第1接合材側の前記燃料電池セルは、前記集電部材に近づくように反り、
前記第2接合材側の前記燃料電池セルは、前記集電部材から離れるように反り、
前記第1及び第2接合材は、導電性セラミックスによって形成される、
燃料電池スタック。
【請求項2】
燃料電池セルと、
前記燃料電池セルと対向するように配置されるセパレータと、
前記燃料電池セルと前記セパレータとの間に配置され、前記燃料電池セルと前記セパレータとを電気的に接続する集電部材と、
前記集電部材と前記燃料電池セルとを接続するとともに、前記集電部材と前記セパレータとを接続する一対の接合材と、
を備え、
前記一対の接合材は、第1接合材と、前記第1接合材よりも厚い第2接合材とを有し、
前記第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合は、1.5?2.0であり、
前記第1接合材側の前記セパレータまたは前記燃料電池セルの一方は、前記集電部材に近づくように反り、
前記第2接合材側の前記セパレータまたは前記燃料電池セルの他方は、前記集電部材から離れるように反り、
前記第1及び第2接合材は、導電性セラミックスによって形成される、
燃料電池スタック。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記集電部材は、ブロック状である、
請求項1または2に記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記集電部材は、導電性酸化物セラミックスの焼成体で構成される、
請求項1、2及び4のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
前記各燃料電池セルにガスを供給するマニホールドをさらに備え、
前記各燃料電池セルは、前記マニホールドの天板から上方に延びる、
請求項1、4及び5のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項7】
前記第1接合材と前記第2接合材とは、互いに同じ材料によって構成される、
請求項1、2及び4から6のいずれかに記載の燃料電池スタック。」

2 取消理由及び特許異議申立ての理由の概要
2-1 平成31年2月15日付けの取消理由の概要
(1)特許法第36条第6項第1号について
本件訂正前の請求項1?7に係る発明について、本件明細書には、その解決しようとする課題を解決し得ることが記載されているとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

2-2 決定の予告1の概要
(1)特許法第36条第6項第1号について
上記2-1の(1)と同じ。

2-3 決定の予告2の概要
(1)特許法第36条第6項第2号について
令和1年6月28日付けでなされた訂正請求に係る訂正により、請求項3が削除されたところ、当該訂正により訂正された請求項4?7は請求項3を引用しており、請求項4?7に係る発明は明確とはいえないから、本件特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

2-4 上記2-1?2-3以外の特許異議申立理由
(1)特許法第17条の2第3項について
本件訂正前の請求項1,2に記載された「第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合は、1.5?2.0であ」る事項は、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内のものとはいえないから、平成30年2月16日付けでなされた手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているとはいえず、このような手続補正をした特許出願に対してなされた本件特許は、取り消されるべきものである。

(2)特許法第36条第4項第1号について
本件明細書に記載された実施例は、接合性の評価基準が不明であることにより、どのような課題を解決し得るかが不明であるから、本件訂正前の請求項1?7に係る発明の技術上の意義が不明であり、本件特許は、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)特許法第29条第2項について
本件特許の本件訂正前の請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記A?Cの刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(刊行物)
A 特開2014-72035号公報(申立人が提出した甲第1号証、以下「甲1」という。)
B 特開2007-123004号公報(申立人が提出した甲第2号証、以下「甲2」という。)
C 特開2007-123005号公報(申立人が提出した甲第3号証、以下「甲3」という。)

(4)特許法第36条第6項第1号について
本件明細書に記載された実施例において、接合性の評価基準が不明であることにより、どのような課題を解決し得るかが不明であるから、本件特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

3 本件明細書の記載
本件明細書には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックに関するものである。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、燃料電池スタックによって出力性能がばらつき、長期信頼性に問題があった。この原因を本発明者らが鋭意検討した結果、セルとセルとの間の電気接続を行う集電接合部の信頼性が低いという問題があった。本願は集電接合部の信頼性を向上させる燃料電池スタックを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1側面に係る燃料電池スタックは、一対の燃料電池セルと、集電部材と、一対の接合材とを備えている。一対の燃料電池セルは、対向している。集電部材は、各燃料電池セル間に配置されている。集電部材は、各燃料電池セルを互いに電気的に接続する。各接合材は、導電性であり、集電部材と各燃料電池セルとを接合する。一対の接合材は、第1接合材と、第1接合材よりも厚い第2接合材とを有している。
【0006】
この構成によれば、集電接合部の信頼性を向上させることができる。詳細には、従来の燃料電池スタックにおいて、第1接合材の厚さと第2接合材の厚さとは概ね同じであった。しかしながら、このような構成では、集電接合部の信頼性が低下するおそれがあることを発明者は見出した。すなわち、燃料電池セルは、焼成処理などによって高温に曝されると反りが発生することがある。この燃料電池セルの反りによって、集電部材と一方の燃料電池セルとの間の距離が拡大し、集電部材と他方の燃料電池セルとの距離が縮小したりする。このため、従来の燃料電池スタックのように、第1接合材の厚さと第2接合材の厚さとが同じであると、各接合材が集電部材と燃料電池セルとを十分に接合できないおそれがある。
【0007】
これに対して、本発明に係る燃料電池スタックは、第1接合材の厚さと第2接合材の厚さとが異なっている。具体的には第2接合材は第1接合材よりも厚い。このため、燃料電池セルが反ることによって集電部材と燃料電池セルとの距離が拡大しても、その集電部材と燃料電池セルとを第2接合材によって接合することによって、集電部材と燃料電池セルとを十分に接合させることができる。この結果、集電接合部の信頼性を向上させることができる。」
「【0037】
[接合材]
一対の接合材が、一対の燃料電池セル301と集電部材302とを接合している。一対の接合材は、第1接合材101aと第2接合材101bとを有している。なお、一対の接合材のうち、薄い方の接合材を第1接合材101aと称し、厚い方の接合材を第2接合材101bと称する。すなわち、第2接合材101bの厚さ(t2)は、第1接合材101aの厚さ(t1)よりも大きい。
【0038】
第1接合材101aの厚さt1は、0.05?1mm程度とすることが好ましい。また、第2接合材101bの厚さt2は、0.1?2mm程度とすることが好ましい。ここで、第1接合材101aの厚さt1、及び第2接合材101bの厚さt2とは、厚さ方向(z軸方向)の寸法を言う。また、各接合材101a、101bの厚さは、集電部材302と燃料電池セル301との間の距離を言う。すなわち、各接合材101a、101bのうち、集電部材302の外周側にはみ出した部分の厚さは考慮しない。
【0039】
第1接合材101aの厚さt1に対する、第2接合材101bの厚さt2の割合(t2/t1)は、例えば、1.5?20程度とすることが好ましい。」
「【実施例】
【0058】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されない。
【0059】
実施例1?10、及び比較例1?2に係る燃料電池スタックを以下のように作製した。
【0060】
まず、上述したように構成された一対の燃料電池セル301の間に集電部材302を配置した。そして、第1接合材101a及び第2接合材101bによって各燃料電池セル301と集電部材302を接合した。そして、この第1接合材101a、第2接合材101b、及び集電部材302によって接合された一対の燃料電池セル301をマニホールド200の各貫通孔202に挿入し、第3接合材102で接合した。そして、熱処理によって、第1接合材101a、第2接合材101b、及び第3接合材102を固化した。
【0061】
以上のようにして作製した各サンプルにおける集電部材302、第1接合材101a、及び第2接合材101bを構成する各材料は、表1に示す通りである。また、第1接合材101aの厚さt1、及び第2接合材101bの厚さt2は、表1に示す通りである。なお、第1接合材101aの厚さt1、及び第2接合材101bの厚さt2は、塗布する接合材ペーストの有機成分率、粘度、塗布量を制御すると共に、集電部材302を設置した後の押圧を制御して調整した。
【0062】
各接合材101a、101bの厚さt1、t2は、後述する評価後に次の要領で測定した。まず、第1接合材101a、第2接合材101b、及び集電部材302を通る水平面で、燃料電池スタック100を切断した。この切断面において、任意の5点で、顕微鏡付きの寸法測定器によって、第1接合材101aの厚さt1、及び第2接合材101bの厚さt2を測定した。表1に示した各厚さは、それぞれの平均値である。
【0063】
(評価方法)
以上のようにして作製した各サンプルに対して、接合性の評価を以下のように行った結果、表1に示す通りの結果となった。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示すように、比較例1に係る燃料電池スタックでは、第1又は第2接合材101a、101bによる接合性不良が発生した。すなわち、第1又は第2接合材101a、101bが、燃料電池セル301の反りに追従できずに、集電部材302と燃料電池セル301の間で剥離が観察された。
【0066】
また、比較例2に係る燃料電池スタックは、第2接合材101bにクラックが発生した。これは、比較例2に係る燃料電池スタックの割合(t2/t1)が20より大きいことによって、第2接合材101b用のペーストの乾燥に伴う収縮が大きくなるためであると考えられる。これらに対して、実施例1?10に係る燃料電池スタックでは、割合(t2/t1)を1.5?20としたため、上述したような問題は発生せず、良好な結果となった。」

4 引用刊行物の記載及び刊行物に記載された発明
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。なお、下線は、当審で付した。以下、同じ。
ア 発明の詳細な説明の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、セルスタックおよび燃料電池モジュール並びに燃料電池装置に関する。」
「【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、セルスタック装置1を示すもので、セルスタック装置1はセルスタック2を有している。なお、図1?7において、理解を容易にするために、断面図では厚みを拡大縮小して示したり、側面図では長さ、幅を拡大縮小して示している。
【0013】
セルスタック装置1は、一対の対向する主面をもつ全体的に見て柱状の導電性支持体7の一方の主面上に内側電極層である燃料極層8と、固体電解質層9と、外側電極層である酸素極層10とをこの順に積層してなる発電部を備える固体酸化物形の燃料電池セル3を有している。導電性支持体7の内部には、複数のガス流路12を有している。
【0014】
そして燃料電池セル3は、他方の主面のうち酸素極層10が形成されていない部位にインターコネクタ層11を積層してなる柱状(中空平板状)であり、これらの燃料電池セル3の複数個を1列に配列し、隣接する燃料電池セル3間に集電部材4を配置することで、燃料電池セル3同士を電気的に直列に接続してなるセルスタック2が構成されている。
【0015】
燃料電池セル3と集電部材4とは詳しくは後述するが、導電性接合材13を介して接合されており、それにより、複数個の燃料電池セル3を集電部材4を介して電気的および機械的に接合して、セルスタック2を形成している。」
「【0031】
導電性接合材13は、具体的には、ランタンマンガン系、ランタンフェライト系、ランタンコバルト系等を用いることができる。これらの材料を単一の材料として用いて作製してもよく、2種以上組み合わせて導電性接合材13を作製してもよい。さらに、ランタンマンガン系、ランタンフェライト系、ランタンコバルト系等に、強度等を向上するため、他の無機酸化物を添加したものも使用できる。」
「【0033】
次に、集電部材4について図3を用いて説明する。集電部材4は、隣接する一方の燃料電池セル3と接合される複数の板状の第1セル対面部4a1と、燃料電池セルから離れるように第1セル対面部4a1の両側から延びた板状の第1離間部4a2と、隣接する他方の燃料電池セル3と接合される複数の板状の第2セル対面部4b1と、燃料電池セルから離れるように第2セル対面部4b1の両側から延びた板状の第2離間部4b2とを有している。
【0034】
さらに、複数の第1離間部4a2および複数の第2離間部4b2の一端同士を連結する第1連結部4cと、複数の第1離間部4a2および複数の第2離間部4b2の他端同士を連結する第2連結部4dとを一組のユニットとし、これらのユニットの複数組が、燃料電池セル3の長手方向に導電性連結片4eにより連結されて構成されている。第1セル対面部4a1および第2セル対面部4b1は、図4(a)に示すように、燃料電池セル3に接合される部位であり、これらの部位が燃料電池セル3の発電電流を出入する部分となっている。
【0035】
すなわち、燃料電池セル3と集電部材4の第1、第2セル対面部4a1、4b1とが導電性接合材13a、13bで接合されている。なお、図4(a)では、一対の燃料電池セル3を集電部材4で接合している状態を示している。
【0036】
導電性接合材13a、13bは、図4(c)に示すように、インターコネクタ層11の表面領域内に形成されており、酸素極層10に形成された導電性接合材13bの形成面積は、インターコネクタ層11に形成された導電性接合材13aの形成面積よりも広くなっている。また、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1とを接合する導電性接合材13aの厚みは、酸素極層10と集電部材4の第2セル対面部4b1とを接合する導電性接合材13bの厚みよりも厚くなっている。なお、図4(b)では、一つの集電部材4の第2セル対面部4b1が酸素極層10上の導電性接合材13bに接合している状態を、図4(c)では、一つの集電部材4の第1セル対面部4a1がインターコネクタ層11上の導電性接合材13aに接合している状態を示している。
【0037】
すなわち、燃料極層8および固体電解質層9は、導電性支持体7の一方の平坦面nから、導電性支持体7の両端の弧状面mを経由して他方の平坦面n(上面)まで形成されており、発電部をなるべく広くするため、固体電解質層9上に形成される酸素極層10は、図4(b)に示すように、導電性支持体7の一方の平坦面に、導電性支持体7の長さ方向Lの両端部を除いて全体に形成され、導電性接合材13bも酸素極層10上全体に形成されている。導電性接合材13bの形成面積が広いため、導電性接合材13bが酸素極層10に強固に接合し、酸素極層10と集電部材4との接合強度を向上できる。」
「【0043】
このようなセルスタックによれば、導電性接合材13a、13bが、酸素極層10を構成する材料と同一材料系から構成されているため、酸素極層10と集電部材4の第2セル対面部4b1との接合強度よりも、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1との接合強度が小さくなる傾向にあるが、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1とを接合する導電性接合材13aの層の厚みが、酸素極層10と集電部材4の第2セル対面部4b1とを接合する導電性接合材13bの層の厚みよりも厚いため、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1との接合強度が向上し、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1との接合強度を酸素極層10と集電部材4の第2セル対面部4b1との接合強度に近づけることができ、全体としてのセルスタック2の強度を向上でき、長期信頼性を向上できる。これにより、長期信頼性が向上した燃料電池モジュールおよび燃料電池装置を提供できる。
【0044】
また、酸素極層10に形成された導電性接合材13aの形成面積は、インターコネクタ層11に形成された導電性接合材13aの形成面積よりも広いため、酸素極層10と集電部材4との接合強度がさらに向上するが、これに対応するように、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1とを接合する導電性接合材13aの厚みを、酸素極層10と集電部材4の第2セル対面部4b1とを接合する導電性接合材13bの厚みよりも厚くして、インターコネクタ層11と集電部材4との接合強度を向上できる。」

イ 図面の記載
「【図1】


「【図3】


【図4】



(2)甲1に記載された発明
ア 甲1には、「燃料電池セル」の「セルスタック装置」について記載されている。
イ 甲1には、「セルスタック装置」について、「一対の対向する主面をもつ全体的に見て柱状の導電性支持体7の一方の主面上に内側電極層である燃料極層8と、固体電解質層9と、外側電極層である酸素極層10とをこの順に積層してなる発電部を備える固体酸化物形の燃料電池セル3を有している」(【0013】)ことが記載されている。
ウ 甲1には、「セルスタック装置」について、「燃料電池セル3は、他方の主面のうち酸素極層10が形成されていない部位にインターコネクタ層11を積層してなる柱状(中空平板状)であり、これらの燃料電池セル3の複数個を1列に配列し、隣接する燃料電池セル3間に集電部材4を配置することで、燃料電池セル3同士を電気的に直列に接続してなるセルスタック2が構成されている」(【0014】)ことが記載されている。
エ 甲1には、「セルスタック装置」について、「燃料電池セル3と集電部材4とは」、「導電性接合材13を介して接合されており、それにより、複数個の燃料電池セル3を集電部材4を介して電気的および機械的に接合して、セルスタック2を形成している」(【0015】)ことが記載されている。
オ 甲1には、「導電性接合材13は、」「ランタンマンガン系、ランタンフェライト系、ランタンコバルト系等を用いる」(【0031】)ことが記載されている。
カ 甲1には、「セルスタック装置」について、「集電部材4は、隣接する一方の燃料電池セル3と接合される複数の板状の第1セル対面部4a1と、燃料電池セルから離れるように第1セル対面部4a1の両側から延びた板状の第1離間部4a2と、隣接する他方の燃料電池セル3と接合される複数の板状の第2セル対面部4b1と、燃料電池セルから離れるように第2セル対面部4b1の両側から延びた板状の第2離間部4b2とを有している」(【0033】)ことが記載されている。
キ 甲1には、「セルスタック装置」について、「燃料電池セル3と集電部材4の第1、第2セル対面部4a1、4b1とが導電性接合材13a、13bで接合されている」(【0035】)ことが記載されている。
ク 甲1には、「セルスタック装置」について、「導電性接合材13a、13bが、酸素極層10を構成する材料と同一材料系から構成されているため、酸素極層10と集電部材4の第2セル対面部4b1との接合強度よりも、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1との接合強度が小さくなる傾向にあるが、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1とを接合する導電性接合材13aの層の厚みが、酸素極層10と集電部材4の第2セル対面部4b1とを接合する導電性接合材13bの層の厚みよりも厚いため、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1との接合強度が向上し、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1との接合強度を酸素極層10と集電部材4の第2セル対面部4b1との接合強度に近づけることができ、全体としてのセルスタック2の強度を向上でき、長期信頼性を向上できる。これにより、長期信頼性が向上した燃料電池モジュールおよび燃料電池装置を提供できる」(【0043】)ことが記載されている。
ケ 上記ア?クより、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「一対の対向する主面をもつ全体的に見て柱状の導電性支持体7の一方の主面上に内側電極層である燃料極層8と、固体電解質層9と、外側電極層である酸素極層10とをこの順に積層してなる発電部を備える固体酸化物形の燃料電池セル3を有しており、
燃料電池セル3は、他方の主面のうち酸素極層10が形成されていない部位にインターコネクタ層11を積層してなる柱状(中空平板状)であり、これらの燃料電池セル3の複数個を1列に配列し、隣接する燃料電池セル3間に集電部材4を配置することで、燃料電池セル3同士を電気的に直列に接続してなるセルスタック2が構成されており、
燃料電池セル3と集電部材4とは、導電性接合材13を介して接合されており、それにより、複数個の燃料電池セル3を集電部材4を介して電気的および機械的に接合して、セルスタック2を形成しており、
導電性接合材13は、ランタンマンガン系、ランタンフェライト系、ランタンコバルト系等を用いており、
集電部材4は、隣接する一方の燃料電池セル3と接合される複数の板状の第1セル対面部4a1と、燃料電池セルから離れるように第1セル対面部4a1の両側から延びた板状の第1離間部4a2と、隣接する他方の燃料電池セル3と接合される複数の板状の第2セル対面部4b1と、燃料電池セルから離れるように第2セル対面部4b1の両側から延びた板状の第2離間部4b2とを有しており、
燃料電池セル3と集電部材4の第1、第2セル対面部4a1、4b1とが導電性接合材13a、13bで接合されており、
導電性接合材13a、13bが、酸素極層10を構成する材料と同一材料系から構成されているため、酸素極層10と集電部材4の第2セル対面部4b1との接合強度よりも、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1との接合強度が小さくなる傾向にあるが、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1とを接合する導電性接合材13aの層の厚みが、酸素極層10と集電部材4の第2セル対面部4b1とを接合する導電性接合材13bの層の厚みよりも厚いため、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1との接合強度が向上し、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1との接合強度を酸素極層10と集電部材4の第2セル対面部4b1との接合強度に近づけることができ、全体としてのセルスタック2の強度を向上でき、長期信頼性を向上でき、これにより、長期信頼性が向上した燃料電池モジュールおよび燃料電池装置を提供できる、
燃料電池セルのセルスタック装置。」

(3)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セル及びセルスタック並びに燃料電池に関し、特に固体電解質を内側電極及び外側電極で挟持してなる発電素子を支持体に設けてなる燃料電池セル及びセルスタック並びに燃料電池に関するものである。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記燃料電池セルでは、内側電極17は、ガス通路22からガスを固体電解質9まで供給する必要があるため多孔質とされており、強度が必然的に低いため、内側電極17の対向する両主面に異なる材料からなる層を形成した場合には、焼成後や発電時に反るという問題があった。特に、近年、小型で高出力の燃料電池セルを得るべく、支持体(内側電極17)が薄層化されつつあり、支持体を薄層化すればするほど、支持体の強度が低下し、反りが発生しやすいという問題があった。」
「【0010】
この燃料電池セルの反りは、図7(a-2)に示すように、長さ方向に弓なりに反る場合のみならず、図7(a-3)に示すように、幅方向においても発生し、特に、セル一本当たりの発電量を大きくするため、燃料電池セルの長さを長くすると長さ方向に弓なりに反り易く、燃料電池セルの幅を大きくすると、幅方向に反り易いという問題があった。
【0011】
また、セルスタックは、複数の燃料電池セルを集電部材により連結して作製されるが、上記したように燃料電池セルが反ると、複数の燃料電池セルの集電部材による電気的接続が解除され、複数の燃料電池セルから集電することができなくなるという問題があった。」

(4)甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セル及びセルスタック並びに燃料電池に関するものである。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記燃料電池セルでは、内側電極17は、ガス通路22からガスを固体電解質層19まで供給する必要があるため多孔質とされており、強度が必然的に低いため、内側電極17の対向する両主面に異なる材料からなる層を形成した場合には、焼成後や発電時に反るという問題があった。特に、近年、小型で高出力の燃料電池セルを得るべく、支持体(内側電極17)が薄層化されつつあり、支持体を薄層化すればするほど、支持体の強度が低下し、反りが発生しやすいという問題があった。」
「【0010】
この燃料電池セルの反りは、図5(a-2)に示すように、長さ方向に弓なりに反る場合のみならず、図5(a-3)に示すように、幅方向においても発生し、特に、セル一本当たりの発電量を大きくするため、燃料電池セルの長さを長くすると長さ方向に弓なりに反り易く、燃料電池セルの幅を大きくすると、幅方向に反り易いという問題があった。
【0011】
また、セルスタックは、複数の燃料電池セルを集電部材により連結して作製されるが、上記したように燃料電池セルが反ると、複数の燃料電池セルの集電部材による電気的接続が解除され、複数の燃料電池セルから集電することができなくなるという問題があった。」

(5)乙第1号証
特許権者が、令和1年6月28日付けの意見書とともに提出した乙第1号証と、その記載内容は次のとおりである。
(乙第1号証)
R.W. ダヴィジ著、鈴木弘茂/井関孝善共訳「セラミックの強度と破壊」共立出版株式会社、昭和57年3月1日初版発行、第17頁
(記載内容)
「セラミックスが外力に応じる一般的な方法について,その状況を示すために概略を述べる。・・・(略)・・・そして主として引張力の効果を強調しておこう。なぜならば脆性材料に関しては,引張強度(tensile strength)は圧縮強度(compressive strength)よりも普通ほぼ1ケタ小さいからである。」(第17頁第9?13行)

5 当審の判断
(1)上記2の2-1の(1)、2-2の(1)について(特許法第36条第6項第1号)
ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「セルとセルとの間の電気接続を行う」「集電接合部の信頼性を向上させる燃料電池スタックを提供する」(【0004】)ことであると認められる。
イ 一方、本件発明1が上記課題を解決し得る機序について、本件明細書には、「燃料電池セルは、焼成処理などによって高温に曝されると反りが発生することがある。この燃料電池セルの反りによって、集電部材と一方の燃料電池セルとの間の距離が拡大し、集電部材と他方の燃料電池セルとの距離が縮小したりする。このため、従来の燃料電池スタックのように、第1接合材の厚さと第2接合材の厚さとが同じであると、各接合材が集電部材と燃料電池セルとを十分に接合できないおそれがある。これに対して、本発明に係る燃料電池スタックは、第1接合材の厚さと第2接合材の厚さとが異なっている。具体的には第2接合材は第1接合材よりも厚い。このため、燃料電池セルが反ることによって集電部材と燃料電池セルとの距離が拡大しても、その集電部材と燃料電池セルとを第2接合材によって接合することによって、集電部材と燃料電池セルとを十分に接合させることができる。この結果、集電接合部の信頼性を向上させることができる」(【0006】?【0007】)と記載されている。
ウ また、特許権者は、本件訂正により、請求項1及び2について、「第1接合材側の前記燃料電池セルは、前記集電部材に近づくように反り、前記第2接合材側の前記燃料電池セルは、前記集電部材から離れるように反り、前記第1及び第2接合材は、導電性セラミックスによって形成される」事項を付加するとともに、令和1年6月28日付けの意見書において、次のように述べている。
「a.・・・(略)・・・以下に説明しますように、本件発明1は課題を解決し得るものであります。以下、本件発明の課題、及びそれを解決し得る機序について、順を追って詳細に説明いたします。
b.まず、本件発明1は一対の燃料電池セルを有しておりますが、この各燃料電池セルは熱膨張係数の異なる複数の材料によって構成される積層体であり、また、この燃料電池セルを完全に対称な構造として形成することは製造上不可能でありますので、燃料電池セルは温度変化によって必然的に反りが発生します。この燃料電池セルの反りに関しましては、当業者であれば、燃料電池セルを構成する材料、各膜厚などに基づいてシミュレーションを行うことによって、燃料電池セルの反りの方向、反りの有無、及び反りの程度(反り量)を予測することができます。
c.・・・(略)・・・
d.ここで、訂正後の本件発明1では、燃料電池スタックが置かれた環境に温度変化が生じると、例えば参考図のように、第1接合材側の燃料電池セルが集電部材に近づくように円弧状に反り、第2接合材側の燃料電池セルが集電部材から離れるように円弧状に反ることを含みます。なお、参考図では、説明のため、燃料電池セルの反り等をデフォルメしています。
[参考図]


この場合、参考図に示しますように、集電部材302に近づくように反る第1接合材101a側の燃料電池セル301と集電部材302との距離につきまして、x軸一端部及び他端部は中央部よりも縮小します。この結果、第1接合材101a側の燃料電池セル301と集電部材302との間に介在する第1接合材101aにおいて、x軸一端部及び他端部には、圧縮応力が発生します。一方、集電部材302から離れるように反る第2接合材101b側の燃料電池セルと集電部材302との距離につきまして、x軸一端部及び他端部は中央部よりも拡大します。この結果、第2接合材101b側の燃料電池セル301と集電部材302との間に介在する第2接合材101bにおいて、x軸一端部及び他端部には、引張応力が発生します。
このように、温度変化によって、第1接合材101aのx軸一端部及び他端部には圧縮応力が発生するとともに、第2接合材101bのx軸一端部及び他端部には引張応力が発生します。
e.ここで、第1及び第2接合材はセラミックス材料によって形成されていますが、乙第1号証に記載(当審注:乙第1号証及びその記載内容については、上記4の(5)参照。)されていますように、セラミックスは引張強度が圧縮強度よりも小さい(一般的に10分の1程度)ため、セラミックス材料を使いこなす上では引張強度に対する対応が非常に重要となってきます。
f.そこで、本件発明1では、引張応力が加えられる第2接合材の厚みを、圧縮応力が加えられる第1接合材の厚みよりも大きくしています。これにより、引張応力が発生する第2接合材側の集電接合部の信頼性を向上させることができます。この結果、燃料電池セルと燃料電池セルとの間の電気的接続を行う集電接合部の信頼性を向上させる燃料電池スタックを提供することができ、ひいては、本件発明の課題を解決することができます。」(第1頁下から8行?第4頁第4行)
エ そして、上記ウの意見書の主張は、本件明細書の上記イの記載と整合するものであるし、本件発明1が上記アの課題を解決し得ることを合理的に理解できるものである。
オ したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
カ また、本件発明2、4?7も同様の理由により発明の詳細な説明に記載されたものである。
キ よって、本件特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえない。

(2)上記2の2-3の(1)について(特許法第36条第6項第2号)
本件訂正により、請求項4?7は、削除された請求項3を引用しないものとなったため、本件発明4?7は明確となった。
よって、本件特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえない。

(3)上記2の2-4の(1)について(特許法第17条の2第3項)
ア 請求項1,2には、「第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合は、1.5?2.0であ」る事項が記載されており、当該事項は、平成30年2月16日付けでなされた手続補正により、新たに付加された事項である。
イ そして、本件の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「第1接合材101aの厚さt1に対する、第2接合材101bの厚さt2の割合(t2/t1)は、例えば、1.5?20程度とすることが好ましい」(【0039】)と、第2接合材101bの厚さt2の割合(t2/t1)が、1.5以上であることは記載されているものの、2.0以下であることは明記されていない。
ウ しかしながら、第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合について、本件発明1の「1.5?2.0」は、当初明細書に記載された「1.5?20」の範囲内のものであるし、当初明細書等には、「第1接合材101aの厚さt1は、0.05?1mm程度とすることが好ましい。また、第2接合材101bの厚さt2は、0.1?2mm程度とすることが好ましい」(【0038】)と記載されており、この記載は、t1及びt2の下限における割合(t2/t1)が0.1/0.05=2.0、上限における割合(t2/t1)も1/2=2.0である。
エ そうすると、上記イ、ウの検討からすれば、請求項1,2の「第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合は、1.5?2.0であ」る事項は、当初明細書等に記載された範囲内のものといえる。
オ よって、平成30年2月16日付けでなされた手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているといえる。

(4)上記2の2-4の(2)及び(4)について(特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号)
ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「セルとセルとの間の電気接続を行う」「集電接合部の信頼性を向上させる燃料電池スタックを提供する」(【0004】)ことであると認められる。
イ そして、本件明細書に記載された実施例1の燃料電池スタックは、本件明細書【0064】の【表1】によれば、t2/t1が1.5であるから、本件発明1、2の「第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合は、1.5?2.0であ」る事項を満たすものであり、比較例1及び比較例2の燃料電池スタックは、t2/t1がそれぞれ1.0及び23であるから、当該事項を満たさないものである。
ウ 一方、本件明細書の実施例(【0058】?【0066】)において、【表1】に記載された「接合材の剥離」の有無、「クラックの有無」について、どのような基準で「有」または「無」としたのか記載されていない。
エ しかしながら、当該実施例において、実施例1は、「接合材の剥離」及び「クラックの有無」がいずれも「無」であるのに対し、比較例1は、「接合材の剥離」が「有」で、比較例2は、「クラックの有無」が「有」である。
オ そうすると、上記ウのように、「接合材の剥離」の有無、「クラックの有無」について、どのような基準で「有」または「無」としたのか不明ではあるものの、上記イの事項を満たす実施例1は、上記イの事項を満たさない比較例1よりも、「接合材の剥離」についてより優れたものであり、また、上記イの事項を満たさない比較例2よりも、「クラックの有無」についてより優れたものであることが理解できる。
カ そして、実施例1は本件発明1に含まれ、比較例1及び比較例2は本件発明1に含まれないものであるから、上記オの検討からすれば、本件発明1は、「接合材の剥離」の有無、及び、「クラックの有無」において、技術上の意義があるものといえるし、上記アの課題を解決し得るものであるといえる。
キ また、本件発明2、4?7も同様の理由により、技術上の意義があるものといえるし、上記アの課題を解決し得るものであるといえる。
ク よって、本件特許は、その明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえないし、その特許請求の範囲の記載が、同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえない。

(5)上記2の2-4の(3)について(特許法第29条第2項)
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも、前者は、「第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合は、1.5?2.0であり、前記第1接合材側の前記燃料電池セルは、前記集電部材に近づくように反り、前記第2接合材側の前記燃料電池セルは、前記集電部材から離れるように反」るものであるのに対し、後者は、「導電性接合材13aの層の厚み」に対する「導電性接合材13bの層の厚み」の割合が不明あるし、「導電性接合材13aの層の厚み」及び「導電性接合材13bの層の厚み」は、「燃料電池セル3」の反りを考慮して規定されたものではない点で相違する。
イ 以下、上記アの相違点について検討する。
ウ 甲1発明が、「インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1とを接合する導電性接合材13aの層の厚みが、酸素極層10と集電部材4の第2セル対面部4b1とを接合する導電性接合材13bの層の厚みよりも厚い」のは、「導電性接合材13a、13bが、酸素極層10を構成する材料と同一材料系から構成されているため、酸素極層10と集電部材4の第2セル対面部4b1との接合強度よりも、インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1との接合強度が小さくなる傾向にある」ためであって、「燃料電池セル3」の反りを考慮したものではない。
エ そして、燃料電池セルが反ると、複数の燃料電池セルの集電部材による電気的接続が解除され、複数の燃料電池セルの集電することができなくなるという課題が周知であった(甲2の【0011】、甲3の【0011】参照。)としても、甲1発明の「インターコネクタ層11と集電部材4の第1セル対面部4a1とを接合する導電性接合材13aの層の厚みが、酸素極層10と集電部材4の第2セル対面部4b1とを接合する導電性接合材13bの層の厚みよりも厚い」事項と当該課題を結びつける動機付けがないから、甲1発明において、「燃料電池セル3」の反りを考慮して、上記アの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることが当業者にとって容易になし得たこととはいえない。
オ また、本件発明1は、「第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合は、1.5?2.0であり、前記第1接合材側の前記燃料電池セルは、前記集電部材に近づくように反り、前記第2接合材側の前記燃料電池セルは、前記集電部材から離れるように反り、前記第1及び第2接合材は、導電性セラミックスによって形成される」ことにより、本件明細書に記載された、「集電部材と燃料電池セルとを十分に接合させることができ」、「この結果、集電接合部の信頼性を向上させることができる」(【0007】)という効果を奏するものであり、甲1発明において、当該効果を予測することも困難であるといえる。
カ よって、本件発明1は、甲1発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
キ また、同様の理由により、本件発明2、4?7も、甲1発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6 むすび
以上のとおり、本件の請求項1、2、4?7に係る特許は、平成31年2月15日付けで通知された取消理由、令和1年6月20日付けで通知された取消理由(決定の予告)、令和1年8月29日付けで通知された取消理由(決定の予告)、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1、2、4?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件の請求項3は、本件訂正により削除されたから、本件特許の請求項3に対して、申立人がした特許異議申立については、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対応する一対の燃料電池セルと、
前記各燃料電池セル間に配置され、前記各燃料電池セルを互いに電気的に接続する集電部材と、
前記集電部材と前記各燃料電池セルとを接合する導電性の一対の接合材と、
を備え、
前記一対の接合材は、第1接合材と、前記第1接合材よりも厚い第2接合材とを有し、
前記第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合は、1.5?2.0であり、
前記第1接合材側の前記燃料電池セルは、前記集電部材に近づくように反り、
前記第2接合材側の前記燃料電池セルは、前記集電部材から離れるように反り、
前記第1及び第2接合材は、導電性セラミックスによって形成される、
燃料電池スタック。
【請求項2】
燃料電池セルと、
前記燃料電池セルと対向するように配置されるセパレータと、
前記燃料電池セルと前記セパレータとの間に配置され、前記燃料電池セルと前記セパレータとを電気的に接続する集電部材と、
前記集電部材と前記燃料電池セルとを接続するとともに、前記集電部材と前記セパレータとを接続する一対の接合材と、
を備え、
前記一対の接合材は、第1接合材と、前記第1接合材よりも厚い第2接合材とを有し、
前記第1接合材の厚さに対する、前記第2接合材の厚さの割合は、1.5?2.0であり、
前記第1接合材側の前記セパレータまたは前記燃料電池セルの一方は、前記集電部材に近づくように反り、
前記第2接合材側の前記セパレータまたは前記燃料電池セルの他方は、前記集電部材から離れるように反り、
前記第1及び第2接合材は、導電性セラミックスによって形成される、
燃料電池スタック。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記集電部材は、ブロック状である、
請求項1または2に記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記集電部材は、導電性酸化物セラミックスの焼成体で構成される、
請求項1、2及び4のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
前記各燃料電池セルにガスを供給するマニホールドをさらに備え、
前記各燃料電池セルは、前記マニホールドの天板から上方に延びる、
請求項1、4及び5のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項7】
前記第1接合材と前記第2接合材とは、互いに同じ材料によって構成される、
請求項1、2及び4から6のいずれかに記載の燃料電池スタック。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-06 
出願番号 特願2016-256282(P2016-256282)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 55- YAA (H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 前田 寛之菊地 リチャード平八郎▲辻▼ 弘輔  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
粟野 正明
登録日 2018-05-11 
登録番号 特許第6335267号(P6335267)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 燃料電池スタック  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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