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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1358591
異議申立番号 異議2018-700960  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-29 
確定日 2019-11-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6334035号発明「カバーフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6334035号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-5]について訂正することを認める。 特許第6334035号の請求項1、2及び4に係る特許を維持する。 特許第6334035号の請求項3及び5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6334035号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成29年6月19日に特許出願され、平成30年5月11日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成30年5月30日)がされた。
その後、請求項1?5に係る特許について、平成30年11月29日に特許異議申立人増山美紀(以下、「申立人1」という。)により、同30年同月30日に特許異議申立人鈴木佐知子(以下、「申立人2」という。)により、それぞれ、特許異議の申立てがなされ、平成31年3月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和1年5月17日に特許権者による意見書及び訂正請求書が提出され、同年同月24日付けで前記意見書及び訂正請求書について補正をすべきことを命じる手続補正指令がなされ、その指定期間内である同年同月31日に意見書についての手続補正がなされ、また、同年6月27日に当該訂正請求書についての手続補正及び上申書の提出(以下、当該手続補正により補正された訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」という。)がなされ、同年7月11日付けで申立人1及び2に対し訂正の請求があった旨の通知がされ、その指定期間内である同年8月13日に申立人1より、同年同月14日に申立人2より、それぞれ、意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付す。)
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「透明の基材フィルム」とあるのを、
「ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルム」に訂正し、
「前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層と、を備え、
前記ハードコート層は、」とあるのを、
「前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層と、を備え、
前記基材フィルムの厚みは、25μm以上300μm以下であり、
前記ハードコート層は、」に訂正し、
「表面鉛筆硬度が、3H以上である、」とあるのを
「表面鉛筆硬度が、3H以上であり、
前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成され、
前記(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)及び前記ウレタン系樹脂を含む混合物の合計100重量部に対して、前記ウレタン系樹脂が5?20重量部である、」に訂正する。
請求項1を引用する請求項3?5も同様に訂正する。
イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「透明の基材フィルム」とあるのを、
「ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルム」に訂正し、
「前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層と、を備え、
前記ハードコート層は、」とあるのを、
「前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層と、を備え、
前記基材フィルムの厚みは、25μm以上300μm以下であり、
前記ハードコート層は、」に訂正し、
「前記基材フィルムのマルテンス硬さに対する、前記ハードコートのマルテンス硬さが、0.8?3.8である、」とあるのを、
「前記基材フィルムのマルテンス硬さに対する、前記ハードコートのマルテンス硬さが、0.8?3.0であり、
前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成され、
円筒形マンドレル法(JISK5600-5-1)に基づき、直径が6mm以上の円筒で屈曲させた後、前記ハードコート層にクラックが生じない、」に訂正する。
請求項2を引用する請求項3?5も同様に訂正する。
ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「前記(メタ)アクリレート化合物及び前記ウレタン系樹脂を含む混合物の合計100重量部に対して、前記ウレタン系樹脂が5?20重量部である、請求項3に記載のカバーフィルム。」とあるのを、
「前記(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)及び前記ウレタン系樹脂を含む混合物の合計100重量部に対して、前記ウレタン系樹脂が5?10重量部である、請求項1または2に記載のカバーフィルム」に訂正する。
オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(2)訂正の適否
ア.一群の請求項について
訂正前の請求項1?5について、請求項3?5は直接的又は間接的に請求項1を引用するから、請求項1及び3?5は、「一群の請求項」を構成し、また、同請求項3?5は直接的又は間接的に請求項2を引用するから、請求項2及び3?5は、「一群の請求項」を構成する。
そして、共通の請求項3?5を有するこれらの「一群の請求項」は組み合わされて一群の請求項を構成するから、訂正前の請求項1?5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であって、訂正事項1?5による訂正は、当該一群の請求項について請求されたものである。

イ.訂正の目的について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における「透明の基材フィルム」が、「ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルム」であって、その「厚みは、25μm以上300μm以下であ」ることを限定し、また、ハードコート層が、「(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成され、前記(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)及び前記ウレタン系樹脂を含む混合物の合計100重量部に対して、前記ウレタン系樹脂が5?20重量部である」ことを限定するものであり、同請求項1を引用する請求項3?5についても同様である。
そして、訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2における「透明の基材フィルム」が、「ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルム」であって、その「厚みは、25μm以上300μm以下であ」ることを限定し、また、ハードコート層が「(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成されている」ことを限定し、「基材フィルムのマルテンス硬さに対する、ハードコートのマルテンス硬さが、0.8?3.8」という数値範囲であったもの「0.8?3.0」に限定し、さらに、「カバーフィルム」が、「円筒形マンドレル法(JISK5600-5-1)に基づき、直径が6mm以上の円筒で屈曲させた後、前記ハードコート層にクラックが生じない」ことを限定するものであり、同請求項2を引用する請求項3?5についても同様である。
したがって、訂正事項1及び2による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3及び5による訂正は、それぞれ、請求項3及び5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項4における「(メタ)アクリレート化合物」が「ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く」ものであることを限定し、また、「(メタ)アクリレート化合物及び前記ウレタン系樹脂を含む混合物の合計100重量部に対して、前記ウレタン系樹脂が5?20重量部である」という数値範囲であったもの「5?10重量部」に限定し、さらに、訂正事項3による請求項3の削除に伴い、引用する請求項を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び同ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

ウ.新規事項の有無について
訂正事項1及び2による訂正は、願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0011】の「・・・本発明に係る基材フィルムは、透明の種々の材料で形成することができ、例えば、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、ポリイミドなどで形成することができる。・・・」との記載、段落【0038】の「まず、基材フィルムとして、50μm厚のPETフィルム(東レ株式会社製U483)を準備した。・・・」との記載、段落【0012】の「基材フィルムの厚みは、例えば、25μm以上300μm以下であることが好ましく・・・」との記載、
段落【0016】の「・・・電離放射線硬化型樹脂とは、電離放射線(紫外線または電子線)により高分子化または架橋反応するラジカル重合性を有する化合物を含み、例えば、構造単位中にエチレン性の不飽和結合を少なくとも1個以上含む化合物、またはこれらの混合物とすることができる。」、段落【0017】の「不飽和結合を1個含む単官能の化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。」、段落【0018】の「また、不飽和結合を2個含む二官能の化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。」、段落【0019】の「また、不飽和結合を3個以上含む多官能化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等の(メタ)アクリレート化合物を挙げることができる。」、段落【0020】の「また、上記(メタ)アクリレート化合物には、ウレタン系樹脂を混合することもできる。ウレタン系樹脂としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を用いることができる。具体的には、ウレタン(メタ)アクリレート化合物としては、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、トルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマーなどを用いることができる。」との記載、訂正前の【請求項4】の記載及び段落【0022】の「・・・、(メタ)アクリレート化合物とウレタン系樹脂とを含む混合物100重量部に対し、ウレタン系樹脂は5?20重量部であることが好ましい。・・・」との記載、段落【0030】の「また、上記のようなフィルム基材及びハードコート層によって形成されたカバーフィルムは、円筒形マンドレル法(JISK5600-5-1)に基づき屈曲させた後、直径が6mm以上の円筒でハードコート層にクラックが生じないことが好ましい。」との記載に基づくものであって、さらに、訂正事項2による訂正のうち、「基材フィルムのマルテンス硬さに対する、ハードコートのマルテンス硬さが、0.8?3.8」という数値範囲であったもの「0.8?3.0」に限定する訂正は、前記数値範囲を元々記載されていた数値範囲の一部に限定するものであるから、訂正事項1及び2による訂正は、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
訂正事項3及び5による訂正は、請求項3及び5を削除するものであるから、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
訂正事項4による訂正のうち、「前記(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)」とする訂正は、本件特許明細書の段落【0017】?【0020】の記載に基づき、(メタ)アクリレート化合物が、ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除くものであることを限定し、また、「(メタ)アクリレート化合物及び前記ウレタン系樹脂を含む混合物の合計100重量部に対して、前記ウレタン系樹脂が5?20重量部である」という数値範囲であったもの「5?10重量部」に限定する訂正は、前記数値範囲を元々記載されていた数値範囲の一部に限定するものであり、さらに、「請求項1または2に記載の」とする訂正は、訂正事項3による請求項3の削除に伴い、引用する請求項を明瞭化するものであるから、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項1?5による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

エ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1?5による訂正は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、明らかに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1?5による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1-5]について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求が認められることにより、本件特許の請求項1、2及び4に係る発明(以下、「本件発明1、2及び4」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1、2及び4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、
ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、
前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層と、を備え、
前記基材フィルムの厚みは、25μm以上300μm以下であり、
前記ハードコート層は、
厚みが6?17μmであり、
押し込み深さ0.25μmの条件で測定したマルテンス硬さが、521?750N/m^(2)であり、
表面鉛筆硬度が、3H以上であり、
前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成され、
前記(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)及び前記ウレタン系樹脂を含む混合物の合計100重量部に対して、前記ウレタン系樹脂が5?20重量部である、カバーフィルム。
【請求項2】
屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、
ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、
前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層と、を備え、
前記基材フィルムの厚みは、25μm以上300μm以下であり、
前記ハードコート層は、
厚みが6?23μmであり、
押し込み深さ0.25μmの条件で測定したマルテンス硬さが、521?750N/mm^(2)であり、
表面鉛筆硬度が、3H以上であり、
前記基材フィルムのマルテンス硬さに対する、前記ハードコートのマルテンス硬さが、0.8?3.0であり、
前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成され、
円筒形マンドレル法(JISK5600-5-1)に基づき、直径が6mm以上の円筒で屈曲させた後、前記ハードコート層にクラックが生じない、カバーフィルム。
【請求項4】
前記(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)及び前記ウレタン系樹脂を含む混合物の合計100重量部に対して、前記ウレタン系樹脂が5?10重量部である、請求項1または2に記載のカバーフィルム。」

(2)取消理由の概要
上記取消理由通知書に記載した本件発明1、2及び4に係る特許に対する取消理由の概要は、以下のとおりである。

《理由1》
本件特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号並びに同条第6項第1号及び第2号に規定する要件(実施可能要件、サポート要件、明確性要件)を満たしていない。

ア.実施可能要件違反及びサポート要件違反について
本件発明1?5の解決すべき課題は、「耐屈曲性及び適度な表面硬度の両方を充足する屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムを提供する」(本件特許明細書の段落【0004】を参照)ことであるが、一般に、物の屈曲性、剛性、柔軟性は、当該物の材料の材質や厚みに依存すると解されるところ、本件発明1及び2は、基材フィルムの材質や厚み及びハードコート層の材質を発明特定事項としておらず、本件発明3?5は、ハードコート層が「(メタ)アクリレート化合物と、ウレタン系樹脂とを含有する」ことを発明特定事項としているものの、基材フィルムの材質や厚みが発明特定事項とはされておらず、前記ハードコート層は「(メタ)アクリレート化合物と、ウレタン系樹脂」以外のものをも含み得るものである。
そして、本件特許明細書には、本件発明1?5が、基材フィルムの材質や厚み及びハードコート層の材質に依存することなく、前記課題を解決し得る理由が説明されていないところ、段落【0036】?【0045】には、本件発明1?5の実施例として、段落【0038】に記載された「基材フィルム」が「50μm厚のPETフィルム(東レ株式会社製U483)」であって、「ハードコート層形成用樹脂組成物」が、「(メタ)アクリレート化合物を含有するハードコート塗料(荒川化学株式会社製ビームセット907)及びウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を含有するR-1302XT(第一工業製薬株式会社製)を合計100重量部(表1参照)と、フッ素系添加剤(エボニック・インダストリーズ株式会社製TEGOrad2300)を1重量部と、を混合した」ものについて、上記課題を解決した例が記載されているのみである。
したがって、本件特許明細書は、上記段落【0036】?【0045】に記載された実施例以外のもので、かつ、本件発明1?5に含まれるものの全てが上記課題を解決し得るものと当業者が理解でき、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
また、本件発明1?5は、上記課題を解決し得ないものをも含み得るものであるから、本件特許明細書に記載された発明であるとはいえない。

イ.明確性要件違反について
(ア)本件発明3?5について
本件発明3?5の発明特定事項である「前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成される」に関して、本件特許明細書の段落[0020]には「・・・ウレタン系樹脂としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を用いることができる。・・・」と記載されており、上記発明特定事項における「ウレタン系樹脂」には、「(メタ)アクリレート化合物」も含まれると解するのが自然である。
したがって、本件発明3?5は、「(メタ)アクリレート化合物」と「ウレタン系樹脂」との区別が付かない場合がある点で、明確であるとはいえない。
(イ)本件発明5について
本件発明5の発明特定事項である「前記ウレタン系樹脂の分子量は、2000?5000である」に関して、本件特許明細書には、段落【0021】に「ウレタン系樹脂の分子量は、1000?10000が好ましく、2000?5000がさらに好ましい。また、分子量の測定方法としては、GPC法を用いることができる。」とのみ記載されている。
しかしながら、甲3の記載事項からも明らかなように、GPC法による分子量の測定では、標準ポリマーとして何を用いるか、また、分子量として、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)のいずれを求めるのかといった条件によって、その値が大きく異なることが技術常識であるところ、本件発明5は、上記条件に該当する事項を発明特定事項としておらず、本件特許明細書ににも、前記条件が説明されていない。
したがって、本件発明5は、上記イ.(ア)で指摘した事項に加え、「前記ウレタン系樹脂の分子量は、2000?5000である」なる不明確な事項を含むという点においても、明確であるとはいえない。

《理由2》
本件発明1?3及び5は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

《理由3》
本件発明1?5は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


《引用例一覧》
甲1.特開2017-33031号公報
甲2.(株)ミツバ環境ソリューション,「成績証明書」,平成30年11月23日
甲3.”【技術資料】GPC法(SEC法)入門講座”,[online],株式会社東ソー分析センター,[2018年11月29日検索],インターネット
<URL:http://www.tosoh-arc.co.jp/techrepo/files/tarc00297/t1001y.html>
甲4.”高耐熱性透明ポリイミド樹脂ネオプリム”,[online],リード エグジビジョン ジャパン(株),[2018年11月29日検索],インターネット
<URL:https://d.material-expo.jp/ja/Expo/2523637/Products/1109787>
甲5.特許第5683734号公報
甲6.特開2011-175040号公報
甲7.特開2015-184410号公報
甲8.国際公開第2015/087792号
なお、甲1?甲8は、申立人2による特許異議申立書に添付された甲第1号証?甲第8号証である。
(3)当審の判断
ア.理由1について
(ア)実施可能要件違反及びサポート要件違反について
本件発明1、2及び4の解決すべき課題は、本件特許明細書の段落【0004】に記載された「耐屈曲性及び耐擦傷性の両方を充足する屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムを提供する」ことであって、特定の評価指標に基づく耐屈曲性及び表面硬度を満足することまでを解決すべき課題としているわけではない。
ここで、本件特許明細書には、本件発明1、2及び4が、基材フィルムの材質やハードコート層の材質に依存することなく、前記課題を解決し得る理由は直接的には説明されていない。
しかし、本件特許明細書には、前記課題の解決に関し、以下の記載がある(下線は当審にて付与。)。
「【0012】
基材フィルムの厚みは、例えば、25μm以上300μm以下であることが好ましく、75μm以上250μm以下であることがさらに好ましい。厚さが25μm未満であると、ハードコート層の表面において十分な耐擦傷性が得られず、300μmより大きいと十分な屈曲耐久性を得ることが困難となるからである。
【0013】
基材フィルムは、マルテンス硬さ試験で、200?600N/mm^(2)の硬さを有するものであることが好ましく、250?500N/mm^(2)の硬さであることがより好ましく、300?450N/mm^(2)の硬さであることがより好ましい。これにより、耐擦傷性が向上する。
【0014】
マルテンス硬さは、ダイナミック超微小硬度計DUH-211(株式会社島津製作所)にて測定することができる。圧子として、稜間角115度の三角すい圧子を用い、押し込み深さ0.25μm 負荷速度0.15mN/secの条件で測定することができる。そして、具体的なマルテンス硬さは、以下の式により算出される値である。
マルテンス硬さ[N/mm^(2)]=荷重[μN]/(24.5×(深さ最大値hmax(μm)^(2))」
「【0026】
<3.ハードコート層の物性>
ハードコート層の厚みは、6μm以上23μm以下であり、8μm以上14μm以下であることがさらに好ましい。これは、6μm未満であると、十分な表面鉛筆硬度が得られず、また、23μmを超えると屈曲性の点で好ましくないからである。
【0027】
ハードコート層は、マルテンス硬さ試験で、480?750N/mm^(2)の硬さを有するものであることが好ましく、500?650N/mm^(2)以上の硬さであることがさらに好ましい。これは、480N/mm^(2)より小さいと次に説明する鉛筆硬度が低下し、750N/mm^(2)より大きいと屈曲性が低下するからである。マルテンス硬さは、上述した方法で測定することができる。
【0028】
ハードコート層の膜厚が薄い場合でも高い表面硬度を発現するためには、ハードコート層は、基材フィルムのマルテンス硬さと同等である必要がある。この観点から、マルテンス硬さの比(ハードコートのマルテンス硬さ/基材フィルムのマルテンス硬さ)は、0.8?3.8であることが好ましく、0.9?3.0であることがより好ましく、1.0?2.5であることがさらに好ましい。
【0029】
また、ハードコート層は、JIS5600-5-4(1999)で規定する表面鉛筆硬度試験で、3H以上であることが好ましい。
【0030】
また、上記のようなフィルム基材及びハードコート層によって形成されたカバーフィルムは、円筒形マンドレル法(JISK5600-5-1)に基づき屈曲させた後、直径が6mm以上の円筒でハードコート層にクラックが生じないことが好ましい。」

また、本件特許明細書には、本件発明1の実施に関し、ハードコート層を形成する「(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂」について、段落【0015】?【0024】に、どのような樹脂を用いれば良いかが具体的に説明されている。

ゆえに、本件発明1は、「基材フィルムの厚さが、25?300μm」である基材フィルムの一方の面に、「厚みが6?17μmであり」、上記段落【0014】で説明されている「マルテンス硬さ」で、「521?750N/m^(2)」であって、「表面鉛筆硬度が、3H以上であ」る「ハードコート層」を形成するという事項により、また、本件発明2は、「基材フィルムの厚さが、25?300μm」である基材フィルムの一方の面に、「厚みが6?23μmであり」、上記段落【0014】で説明されている「マルテンス硬さ」で、「521?750N/m^(2)」であって、「表面鉛筆硬度が、3H以上であ」る「ハードコート層」を形成するという事項により、それぞれ、「耐屈曲性及び耐擦傷性の両方を充足する」ものであることが、定性的に理解されるものといえるから、上記事項を発明特定事項に含む本件発明1、2及び本件発明1または2を引用する本件発明4は、上記課題を解決し得るものと当業者が理解できるというべきであるし、また、本件特許明細書は、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるというべきである。

したがって、本件特許明細書及び特許請求の範囲の記載は、本件発明1、2及び本件発明1または2を引用する本件発明4について、実施可能要件及びサポート要件を満たしている。

(イ)明確性要件違反について
上記2.で示したように、本件訂正請求による訂正が認められ、本件特許の請求項3及び5は削除されたため、本件発明3及び5についての明確性要件違反の取消理由は、その対象が存在しないものとなった。
また、本件発明4は、上記訂正が認められたことにより、「(メタ)アクリレート化合物」は「(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)」ものとなったため、明確性要件を満たすものとなった。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1、2及び4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び第2号の規定に違反してされたものではないから、それらに係る特許は、同法第113条第4号の規定に該当することを理由として取り消すことはできない。

イ.理由2及び3について
(ア)本件発明1について
甲1には、「タッチパネル用ハードコートフィルム、及び、折り畳み式画像表示装置」に関して、以下の事項が記載されている。
a.「【請求項1】
タッチパネルの表面材として用いられ、基材フィルムとハードコート層とを有するタッチパネル用ハードコートフィルムであって、
下記(条件1)及び(条件2)を充足することを特徴とするタッチパネル用ハードコートフィルム。
(条件1)3mmの間隔で前記タッチパネル用ハードコートフィルムの前記ハードコート層側の面を180°折り畳む試験を10万回繰り返し行った場合に割れ又は破断が生じない
(条件2)前記ハードコート層のJIS K5600-5-4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(1kg荷重)の硬度が、7H以上である」
b.「【請求項5】
基材フィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレナフタレートフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリアミドフィルム、又は、アラミドフィルムである請求項1、2、3又は4記載のタッチパネル用ハードコートフィルム。」
c.「【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載のタッチパネル用ハードコートフィルムを用いてなることを特徴とする折り畳み式画像表示装置。」
d.「【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネル用ハードコートフィルム、及び、折り畳み式画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置、とりわけ近年急速に普及してきているタッチパネルを搭載した画像幼児装置における画像表示面は、取り扱い時に傷がつかないように、優れた硬度が付与することが要求される。これに対し、例えば、基材フィルムにハードコート(HC)層を形成させたハードコートフィルムを利用することにより、画像表示装置の画像表示面の硬度を向上させることが一般になされている。
・・・
【0004】
ところで、近年、ハードコートフィルムには、優れた硬度とともに、ハードコートフィルムを繰り返し折り畳んでもクラックの生じることのない優れた耐久折り畳み性能が求められることがある。
しかしながら、硬度と折り畳み性能とは、通常、トレードオフの関係にあるため、従来のハードコートフィルムでは、硬度の向上を図ると耐久折り畳み性能は低下し、耐久折り畳み性能の向上を図ると硬度が低下してしまい、これらの性能を同時に優れたものとすることができなかった。
また、近年、タッチパネルを搭載した画像表示装置が急速に普及してきているが、該タッチパネルを搭載した画像表示装置は、表示画面にガラスが用いられている場合が多い。ところが、ガラスは、硬度は高いが折り畳むと割れてしまい折り畳み性能を付与することはできず、また、ガラスは、比重の大きい材料であるため、軽量化を図るには薄くする必要があるが、ガラスを薄くすると強度が低下して割れやすくなる問題があった。」
e.「【0007】
本発明は、上記現状に鑑みて、極めて優れた硬度及び耐久折り畳み性能を有するタッチパネル用ハードコートフィルム、該タッチパネル用ハードコートフィルムを用いてなる折り畳み式画像表示装置を提供することを目的とするものである。」
f.「【0011】
本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、基材フィルムとハードコート層とを有する。
上記基材フィルムとしては特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレナフタレートフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリアミドフィルム、又は、アラミドフィルムが好適に用いられる。これらの材料からなる基材フィルムは、後述する耐久折り畳み試験において割れが発生せず、透明性等の光学的性質にも優れたものが用いられることが好ましい。なかでも、上記基材フィルムとしては、優れた硬度を有することからポリイミドフィルムが好ましい。
・・・
【0012】
上記基材フィルムは、厚さが10?100μmであることが好ましい。上記基材フィルムの厚さが10μm未満であると、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムのカールが大きくなり、また、硬度も不充分となって後述する鉛筆硬度が7H以上にできないことがあり、更に、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムをRoll to Rollで製造する場合、シワが発生しやすくなるため外観の悪化を招く恐れがある。一方、上記基材フィルムの厚さが100μmを超えると、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムの折り畳み性能が不充分となり、後述する耐久折り畳み試験の要件を満たせないことがあり、また、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムが重くなり、軽量化の面で好ましくない。」
g.「【0016】
上記(条件2)は、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムが優れた強度を有することを示す条件であり、上記ハードコート層のJIS K5600-5-4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(1kg荷重)の硬度が、7H以上である。7H未満であると、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムの強度が不充分となる。なお、上記ハードコート層は、上記鉛筆硬度が8H以上であることが好ましい。
【0017】
上述した(条件1)及び(条件2)を満たす本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、基材フィルムの材料の選択及び基材フィルムの厚さの制御、並びに、ハードコート層の強度及び該ハードコート層の強度に応じた基材フィルムへの積層方法を制御することで得ることができる。
このような本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムにおいて、上記ハードコート層は、基材フィルム側に設けられた第一ハードコート層と、上記第一ハードコート層の上記基材フィルム側と反対側の面上に設けられた第二ハードコート層とを有することが好ましい。
【0018】
上記第一ハードコート層とは、上述した(条件2)を充足させるための層であり、断面中央におけるマルテンス硬さが550MPa以上1500MPa以下であることが好ましい。550MPa未満であると、上記ハードコート層の鉛筆硬度が不充分となって上述した(条件2)を充足できないことがあり、1500MPa以上であると、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムの耐久折り畳み性能が不充分となることがある。上記第一ハードコート層の断面中央におけるマルテンス硬さのより好ましい下限は600MPa、より好ましい上限は950MPaである。
【0019】
また、上記第二ハードコート層とは、上述した(条件1)を充足させるための層であり、断面中央におけるマルテンス硬さが450MPa以上1500MPa以下であることが好ましい。450MPa未満であると、上記ハードコート層の耐擦傷性が不充分となることがあり、1500MPaを超えると、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムの耐折り畳み性能が不充分となって上述した(条件1)を充足できないことがある。上記第二ハードコート層の断面中央におけるマルテンス硬さのより好ましい下限は375MPa、より好ましい上限は575MPaである。
本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムにおいて、上記第一ハードコート層のマルテンス硬さは、上記第二ハードコート層のマルテンス硬さよりも大きいことが好ましい。このようなマルテンス硬さの関係を有することで、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、鉛筆硬度が特に良好となる。これは、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムに鉛筆硬度試験を施して鉛筆に荷重をかけて押しこんだときに、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムの変形が抑制されて、傷や凹み変形が少なくなるためである。
上記第一ハードコート層のマルテンス硬さが上記第二ハードコート層のマルテンス硬さよりも大きくする方法としては、例えば、後述するシリカ微粒子の含有量を第一ハードコート層側により多く含有するよう制御する方法等が挙げられる。
・・・
なお、本明細書において、「マルテンス硬さ」とは、ナノインデンテーション法による硬度測定により、圧子を500nm押込んだときの硬度である。
なお、本明細書において、上記ナノインデンテーション法によるマルテンス硬さの測定は、HYSITRON(ハイジトロン)社製の「TI950 TriboIndenter」を用いて行った。すなわち、上記圧子としてBerkovich圧子(三角錐)を、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムのハードコート層表面から500nm押し込み、一定保持して残留応力の緩和を行った後、除荷させて、緩和後のmax荷重を計測し、該max荷重(P_(max)(μN)と深さ500nmのくぼみ面積(A(nm^(2))とを用い、P_(max)/Aにより、マルテンス硬さを算出する。」
h.「【0027】
また、上記第二ハードコート層は、樹脂成分として多官能(メタ)アクリレートモノマーの硬化物を含有することが好ましい。
上記多官能(メタ)アクリレートとしては、上述したものと同様のものが挙げられる。
また、上記第二のハードコート層は、樹脂成分として上記多官能(メタ)アクリレートに加えて、多官能ウレタン(メタ)アクリレート及び/又は多官能エポキシ(メタ)アクリレート等が含まれてもよい。
・・・
【0028】
上記ハードコート層は、上記第一ハードコート層及び第二ハードコート層のいずれの場合であっても、上述したマルテンス硬さを充足する範囲で、上述した材料以外の材料を含んでいてもよく、例えば、樹脂成分の材料として、電離放射線の照射により硬化物を形成する重合性モノマーや重合性オリゴマー等を含んでいてもよい。
上記重合性モノマー又は重合性オリゴマーとしては、例えば、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリレートモノマー、又は、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。
上記分子中にラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリレートモノマー、又は、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、ポリフルオロアルキル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等のモノマー又はオリゴマーが挙げられる。これら重合性モノマー又は重合性オリゴマーは、1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、多官能(6官能以上)で重量平均分子量が1000?1万のウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。」
i.「【0038】
上記ハードコート層の層厚さとしては、上記第一ハードコート層である場合、10.0?40.0μmであることが好ましく、上記第二ハードコート層である場合、0.5?15.0μmであることが好ましい。上記各層厚さの下限未満であると、上記ハードコート層の硬度が著しく低下することがあり、上記各層厚さの上限を超えると、上記ハードコート層を形成するための塗液のコーティングが困難となり、また、厚さが厚すぎることに起因した加工性(特に、耐チッピング性)が悪化することがある。
上記第一ハードコート層の層厚さのより好ましい下限は15.0μm、より好ましい上限は35.0μmであり、上記第二ハードコート層の層厚さのより好ましい下限は1.0μm、より好ましい上限は10.0μmである。
なお、上記ハードコート層の層厚さは、断面の電子顕微鏡(SEM、TEM、STEM)観察により測定して得られた任意の10カ所の厚さの平均値である。」
j.「【0069】
本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、上述した構成を有し、上記(条件1)を満たす、すなわち、耐久折り畳み試験で割れないものであるため、極めて優れた折り畳み性を有し、上記(条件2)を満たし、すなわち、鉛筆硬度試験(1kg荷重)の硬度が、7H以上である。
このような本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、従来公知のハードコート層を備えたハードコートフィルムと同様に、液晶表示装置等の画像表示装置の表面保護フィルムとして使用できるだけでなく、曲面ディスプレイや、曲面を有する製品の表面保護フィルム、折り畳み式の部材の表面保護フィルムとして使用できる。
なかでも、本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、極めて優れた折り畳み性を有するため、折り畳み式の部材の表面保護フィルムとして好適に用いられる。
・・・」
k.「【発明の効果】
【0071】
本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、上述した構成からなるものであるため、極めて優れた硬度及び耐久折り畳み性能を有するものとなる。
このため、本発明のハードコートフィルムは、従来のハードコート層を備えたハードコートフィルムと同様の表面保護フィルムのほか、曲面を有する製品の表面保護フィルムや、折り畳み式画像表示装置といった折り畳み式の部材の表面材として好適に使用することができる。」
l.「【0075】
(実施例1)
基材フィルムとして、厚さ30μmのポリイミドフィルム(ポリイミド1、ネオプリムL-3450、三菱ガス化学社製)を準備し、該基材フィルムの一方の面上に、下記組成のハードコート層用組成物1を塗布し、塗膜を形成した。
次いで、形成した塗膜に対して、70℃1分間加熱させることにより塗膜中の溶剤を蒸発させ、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン社製、光源Hバルブ)を用いて、紫外線を空気中にて積算光量が100mJ/cm^(2)になるように照射して塗膜をハーフキュアーさせて厚さ15μmの第一ハードコート層を形成した。
次いで、第一ハードコート層上に、下記組成のハードコート層用組成物Aを塗布し、塗膜を形成した。次いで、形成した塗膜に対して、70℃1分間加熱させることにより塗膜中の溶剤を蒸発させ、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン社製、光源Hバルブ)を用いて、紫外線を酸素濃度が200ppm以下の条件下にて積算光量が200mJ/cm^(2)になるように照射して塗膜を完全硬化させることにより、厚さ5μmの第二ハードコート層を形成し、タッチパネル用ハードコートフィルムを製造した。
【0076】
(ハードコート層用組成物1)
ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(M403、東亜合成社製) 25質量部
ジペンタエリスリトールEO変性ヘキサアクリレート(A-DPH-6E、新中村化学社製) 25質量部
異型シリカ微粒子(平均粒子径25nm、日揮触媒化成社製) 50質量部(固形換算)
光重合開始剤(Irg184) 4質量部
フッ素系レベリング剤(F568、DIC社製) 0.2重量部(固形換算)
溶剤(MIBK) 150質量部
なお、得られた第一ハードコート層のマルテンス硬さは、830MPaであった。
【0077】
(ハードコート層用組成物A)
ウレタンアクリレート(UX5000、日本化薬社製) 25質量部
ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(M403、東亜合成社製) 50質量部
多官能アクリレートポリマー(アクリット8KX-012C、大成ファインケミカル社製) 25質量部(固形換算)
防汚剤(BYKUV3500、ビックケミー社製) 1.5質量部(固形換算)
光重合開始剤(Irg184) 4質量部
溶剤(MIBK) 150質量部
なお、得られた第二ハードコート層のマルテンス硬さは、500MPaであった。
【0078】
(実施例2)
第二ハードコート層の厚さを12μmとした以外は、実施例1と同様にしてタッチパネル用ハードコートフィルムを製造した。」
m.「【0092】
(実施例10)
基材フィルムとして、厚さ30μmのポリイミドフィルム(ポリイミド1、ネオプリムL-3450、三菱ガス化学社製)に代えて、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、東レ社製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてタッチパネル用ハードコートフィルムを製造した。」
n.「【0121】
(耐久折り畳み試験)
実施例及び比較例に係るタッチパネル用ハードコートフィルムを、30mm×100mmの長方形にカットして作製したサンプルを、耐久試験機(DLDMLH-FU、ユアサシステム機器社製)に曲げR半径が1.5mm(直径3.0mm)となるようにして取り付け、サンプルのハードコート層が形成された側の面が内側となるように全面を180°折り畳む試験を10万回行い、以下の基準にて評価した。
○:サンプルに割れが生じていない
×:サンプルに割れが生じた」
o.「【0126】
表2に示したように、実施例に係るタッチパネル用ハードコートフィルムは、耐久折り畳み性能、耐擦傷性及び防汚性に優れ、また、鉛筆硬度も7H以上と優れていた。・・・
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、折り畳み式画像表示装置の表面材として好適に使用することができる。」

ここで、ポリエチレンテレフタレートフィルムは、無色透明のものであることが技術常識であり、上記i.に摘記した段落【0075】に記載の「厚さ30μmのポリイミドフィルム(ポリイミド1、ネオプリムL-3450、三菱ガス化学社製)」は、甲4の「高耐熱性透明ポリイミド樹脂ネオプリム・・・高い耐熱性を有する無色透明ポリイミド樹脂です。・・・[製品形態]ワニス(フィルム) [用途]フレキシブルディスプレイ材料、光学部材」との記載からみて、無色透明のものであると解される。
これらの記載事項等を整理すると、甲1には、以下の甲1発明が記載されている。

《甲1発明》
折り畳み式タッチパネル等用ハードコートフィルムであって、
ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムが好適に用いられる、透明基材フィルムと、
上記基材フィルムの光学部材と反対側面上に設けられた第一ハードコート層と、該第一ハードコート層の上記基材フィルム側と反対側面上に設けられた、樹脂成分として多官能(メタ)アクリレートモノマーの硬化物に加えて、重量平均分子量が1000?1万の多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含有し、電離放射線の照射により硬化物を形成する、第二ハードコート層とを有し、
上記基材フィルムは、厚さが10?100μmであり、
前記第一ハードコート層の層厚みは10.0?40.0μmであることが好ましく、前記第二ハードコート層の層厚みは0.5?15.0μmであることが好ましく、
前記第一ハードコート層は、圧子としてBerkovich圧子(三角錐)を、ハードコート層表面から500nm押し込み、一定保持して残留応力の緩和を行った後、除荷させて、緩和後のmax荷重を計測し、該max荷重(P_(max)(μN)と深さ500nmのくぼみ面積(A(nm^(2)))とを用い、P_(max)/Aによる方式で算出したマルテンス硬さが550MPa以上1500MPa以下であることが好ましく、前記第二ハードコート層は、上記方式で算出したマルテンス硬さが450MPa以上1500MPa以下であることが好ましく、
上記ハードコート層のJIS K5600-5-4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(1kg荷重)の硬度が、7H以上である、タッチパネル用ハードコートフィルム。

ここで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムが好適に用いられる、透明基材フィルム」、「折り畳み表示装置のタッチパネル用ハードコートフィルム」は、各々、本件発明1の「ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルム」、「屈曲ディスプレイ用のカバーフィルム」に相当する。
また、甲1発明の「基材フィルムの光学部材と反対側面上に設けられた第一ハードコート層と、該第一ハードコート層の上記基材フィルム側と反対側面上に設けられた、樹脂成分として多官能(メタ)アクリレートモノマーの硬化物に加えて、重量平均分子量が1000?1万の多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含有し、電離放射線の照射により硬化物を形成する、第二ハードコート層」と本件発明1の「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層」とは、「透明基材フィルムの少なくとも一方の面側に形成されたハードコート層」という限りにおいて一致する。
以上を踏まえると、両者の一致点および相違点は以下のとおりである。

《一致点》
屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、
ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、
前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面側に形成されたハードコート層と、
を備え、
前記基材フィルムの厚さが、25μm以上300μm以下であり、
前記ハードコート層は、
表面鉛筆硬度が、3H以上であり、
前記ハードコート層は、電離放射性硬化型樹脂で形成される、カバーフィルム。

《相違点1》
ハードコート層について、本件発明1のハードコート層は、「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたものであって、厚みが6?17μmであり、そのマルテンス硬さが、521?750N/mm^(2)であり、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成され、前記(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)及び前記ウレタン系樹脂を含む混合物の合計100重量部に対して、前記ウレタン系樹脂が5?20重量部である」のに対し、甲1発明の第二ハードコート層は、「第一ハードコート層の上記基材フィルム側と反対側面上に設けられた、樹脂成分として多官能(メタ)アクリレートモノマーの硬化物に加えて、重量平均分子量が1000?1万の多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含有し、電離放射線の照射により硬化物を形成する」ものであって、「厚みが0.5?15.0μmであることが好ましく、圧子としてBerkovich圧子(三角錐)を、ハードコート層表面から500nm押し込み、一定保持して残留応力の緩和を行った後、除荷させて、緩和後のmax荷重を計測し、該max荷重(P_(max)(μN)と深さ500nmのくぼみ面積(A(nm^(2)))とを用い、P_(max)/Aによる方式で算出したマルテンス硬さが450MPa以上1500MPa以下であることが好ましい」ものである点。

相違点1について検討する。
本件発明1における「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層」なる事項について、「透明基材フィルム」と「ハードコート層」との間に、他のハードコート層を含む何らかの層を介在させ得るものと解すべきとする理由は、本件発明1の発明特定事項からは見いだせないし、本件特許明細書にも、そのような事項は記載されておらず、これを示唆する記載もない。
一方、甲1発明は、基材フィルムの一方の面上に、第一ハードコート層、第二ハードコート層を順に積層したものであって、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させることを前提とした発明であるところ、甲1発明において、その前提に係る構成を備えることのない、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させない積層構造に変更することには、阻害事由があるというべきであるし、当然のことながら、甲1には、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させない積層構造に変更することは記載されておらず、これを示唆する記載もない。
また、甲2?8や、申立人1の特許異議申立書に添付された、甲第1号証(国際公開第2017/014198号)、甲第2号証(特開2017-13492号公報)、甲第3号証(特開2016-132187号公報)、甲第4号証(特開2010-228314号公報)、甲第5号証(国際公開第2012/018009号)、甲第6号証(特開2007-293324号公報)にも、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させることを前提とした発明である甲1発明において、その前提に係る構成を備えることのない、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させない積層構造に変更することを動機付けるような記載やこれを示唆する記載はない。
以上のとおりであるから、甲1発明における第二ハードコート層を、本件発明1のハードコート層の如くその構成を変更することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲2?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(イ)本件発明2について
甲1発明は、上記(ア)に示したとおりである。
本件発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムが好適に用いられる、透明基材フィルム」、「折り畳み表示装置のタッチパネル用ハードコートフィルム」は、各々、本件発明2の「ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルム」、「屈曲ディスプレイ用のカバーフィルム」に相当する。
また、甲1発明の「基材フィルムの光学部材と反対側面上に設けられた第一ハードコート層と、該第一ハードコート層の上記基材フィルム側と反対側面上に設けられた、樹脂成分として多官能(メタ)アクリレートモノマーの硬化物に加えて、重量平均分子量が1000?1万の多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含有し、電離放射線の照射により硬化物を形成する、第二ハードコート層」と本件発明2の「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層」とは、「透明基材フィルムの少なくとも一方の面側に形成されたハードコート層」という限りにおいて一致する。
以上を踏まえると、両者の一致点および相違点は以下のとおりである。

《一致点》
屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、
ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、
前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面側に形成されたハードコート層と、
を備え、
前記基材フィルムの厚さが、25μm以上300μm以下であり、
前記ハードコート層は、
表面鉛筆硬度が、3H以上であり、
前記ハードコート層は、電離放射性硬化型樹脂で形成される、カバーフィルム。

《相違点2-1》
ハードコート層について、本件発明2のハードコート層は、「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたものであって、厚みが6?23μmであり、そのマルテンス硬さが、521?750N/mm^(2)であり、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成され」るものであるのに対し、甲1発明の第二ハードコート層は、「第一ハードコート層の上記基材フィルム側と反対側面上に設けられた、樹脂成分として多官能(メタ)アクリレートモノマーの硬化物に加えて、重量平均分子量が1000?1万の多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含有し、電離放射線の照射により硬化物を形成する」ものであって、「厚みが0.5?15.0μmであることが好ましく、圧子としてBerkovich圧子(三角錐)を、ハードコート層表面から500nm押し込み、一定保持して残留応力の緩和を行った後、除荷させて、緩和後のmax荷重を計測し、該max荷重(P_(max)(μN)と深さ500nmのくぼみ面積(A(nm^(2)))とを用い、P_(max)/Aによる方式で算出したマルテンス硬さが450MPa以上1500MPa以下であることが好ましい」ものである点。

《相違点2-2》
本件発明2では、「前記基材フィルムのマルテンス硬さに対する、前記ハードコートのマルテンス硬さが、0.8?3.0であ」るのに対し、甲1発明では、透明基材フィルムのマルテンス硬さに対する第二ハードコート層のマルテンス硬さを特定していない点。

《相違点2-3》
本件発明2のカバーフィルムは、「円筒形マンドレル法(JISK5600-5-1)に基づき、直径が6mm以上の円筒で屈曲させた後、前記ハードコート層にクラックが生じない」ものであるのに対し、甲2発明のタッチパネル用ハードコートフィルムは、このようなことを特定していない点。

まず、相違点2-1について検討する。
上記(ア)で示したように、本件発明2における「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層」なる事項について、「透明基材フィルム」と「ハードコート層」との間に、他のハードコート層を含む何らかの層を介在させ得るものと解すべき理由は、本件発明2の発明特定事項からは見いだせないし、本件特許明細書にも、そのような事項は記載されておらず、これを示唆する記載もない。
一方、甲1発明は、基材フィルムの一方の面上に、第一ハードコート層、第二ハードコート層を順に積層したものであって、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させることを前提とした発明であるところ、甲1発明において、その前提に係る構成を備えることのない、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させない積層構造に変更することには、阻害事由があるというべきであるし、当然のことながら、甲1には、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させない積層構造に変更することは記載されておらず、これを示唆する記載もなく、また、甲2?8や、申立人1の特許異議申立書に添付された、甲第1号証?甲第6号証にも、甲1発明において、上記前提を無視し、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させない積層構造に変更することを動機付けるような記載やこれを示唆する記載はない。
そして、甲1発明の「第二ハードコート層」が含有する「樹脂成分として多官能(メタ)アクリレートモノマーの硬化物に加えて、重量平均分子量が1000?1万の多官能ウレタン(メタ)アクリレート」を、「(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する」ものに変更することを動機付ける記載は、甲1にはなく、また、甲1発明は、第一ハードコート層と第二ハードコート層とを組み合わせて、ハードコート層全体としての格別な効果を奏するのであるから、第二ハードコート層のみについて上記変更をすることには、阻害事由があるというべきである。
以上のとおりであるから、甲1発明における第二ハードコート層を、本件発明2のハードコート層の如くその構成を変更することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、上記相違点2-2及び2-3について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲2?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ウ)本件発明4について
本件発明1または本件発明2の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明4についても、上記と同様の理由により、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲2?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(エ)小括
以上のとおり、本件発明1、2及び4は、特許法第29条第1項3号に該当せず、また、本件発明1、2及び4に係る特許は、同条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号の規定に該当することを理由として取り消すことはできない。

(5)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人1は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1?5に記載の発明は、甲第2号証に実質的に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、訂正前の請求項1?5に記載の発明に係る特許は、甲第1号証?甲第6号証の記載からみて、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである旨を主張する。
この主張について、本件発明1、2及び4に対する当否を、以下、検討する。

ア.甲第2号証を主たる引用例とした場合について
(ア)本件発明1について
申立人1の特許異議申立書に添付された、甲第2号証である特開2017-13492号公報(以下、「甲B」という。)には、「積層フィルム及びそれを含む画像表示装置」に関して、以下の事項が記載されている。
a.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基材フィルム、前記第1の基材フィルムの一方の面に位置するハードコート層及び他方の面に位置する第2の基材フィルムを含む、積層フィルム。
・・・
【請求項3】
前記ハードコート層は、マルテンス硬度が350N/mm^(2)以上である、請求項1または2に記載の積層フィルム。
・・・
【請求項7】
前記ハードコート層側の1kg荷重下における鉛筆硬度は、5H以上であり、
曲率半径3mmで前記積層フィルムを屈曲したときの前記積層フィルムが切断されるまでの屈曲回数は、10万回以上である、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の積層フィルム。
・・・
【請求項10】
画像表示装置のカバーウィンドウ基板である、請求項9に記載の積層フィルム。」
b.「【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム及びそれを含む画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、建材、自動車の外装部品、紙、木材、家具、防音壁、光学材料、化粧品の容器および各種ディスプレイ素子などで用いられている。このようなプラスチックを保護するために、機能性ハードコートが広範に適用されている。
【0003】
特に、近年ではLCD、PDPまたはプロジェクションTVなどの各種ディスプレイ装置が大きく発展している。このような傾向により、ディスプレイ装置を含む各種の家電製品または携帯電話のウィンドウなどのプラスチックシートの表面を保護し、スクラッチなどを防止するための機能性ハードコートの需要が大幅に増加している。
【0004】
外部に露出するフラットパネルディスプレイ素子のウィンドウは、日常生活での耐スクラッチ性、フレキシブル(flexible)などの加工による特性を有していなければならない。ところが、通常のハードコートフィルムは、架橋密度の増加により耐摩耗性は増加するが、コート層の収縮によりクラックが発生し、屈曲性が低下することがある。
【0005】
そこで、高硬度及び優れた柔軟性を同時に満足するフィルムの開発が求められているのが実情である。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高硬度及び高柔軟性を同時に示す積層フィルムを提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、前記積層フィルムをカバーウィンドウ基板として備えた画像表示装置を提供することを目的とする。」
c.「【0027】
本発明の積層フィルムは、第1の基材フィルム、前記第1の基材フィルムの一方の面に位置するハードコート層及び他方の面に位置する第2の基材フィルムを含む。
【0028】
第1の基材フィルムは、ハードコート層を支持する役割を果たすものである。
【0029】
第1の基材フィルムは、引張弾性率が2GPa以上であることが好ましい。引張弾性率が2GPa以上であると、優れた硬度を示すことができる。高硬度及び優れた柔軟性を同時に示す観点から、より好ましくは引張弾性率が3GPa?6GPaであってもよい。引張弾性率が2GPa未満であると、硬度の評価時、フィルムが変形して十分な硬度を発揮しにくく、引張弾性率が6GPaを超えると、柔軟性が低下することがある。前記範囲の引張弾性率は、第1の基材フィルムを構成する高分子の重合時に、官能基の種類、モル%などを調整することにより得ることができる。
【0030】
第1の基材フィルムは、透明性のあるプラスチックフィルムである。例えば・・・ポリエステル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリアクリル、ポリイミド・・・ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート・・・の中から選択されるものを用いることができる。
【0031】
第1の基材フィルムの厚さは、特に限定されず、例えば10?200μm、好ましくは20?100μm、より好ましくは20?80μmであってもよい。」
d.「【0032】
ハードコート層は、積層フィルムに優れた硬度を付与する。
【0033】
ハードコート層は、マルテンス硬度が350N/mm^(2)以上であることが好ましい。マルテンス硬度が350N/mm^(2)以上であると、5H以上の高い鉛筆硬度を実現できる。通常、マルテンス硬度が350N/mm^(2)以上であると、硬くなって屈曲時にクラックが発生し得るが、前述した第1の基材フィルム及び後述する第2の基材フィルムと共に使用すると、高硬度を示すとともに、優れた柔軟性も示すことができる。
【0034】
高硬度を実現し、かつ繰り返される曲げ疲労によるクラックの発生を抑制する観点から、マルテンス硬度は、好ましくは350N/mm^(2)?500N/mm^(2)、より好ましくは350N/mm^(2)?450N/mm^(2)であってもよい。・・・
【0035】
ハードコート層は、当分野で公知の透光性樹脂、光開始剤、溶剤を含むハードコート層形成用組成物を第1の基材フィルム上に塗布し、硬化して形成したものであってもよい。
【0036】
透光性樹脂としては、光硬化型の(メタ)アクリレートオリゴマー、光硬化型のモノマー等を用いることができる。これらは、単独で又は2以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
光硬化型の(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、及びポリエステル(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上を用いることができる。具体的には、ウレタン(メタ)アクリレートとポリエステル(メタ)アクリレートとを混合して用いるか、または2種のポリエステル(メタ)アクリレートを混合して用いることができる。
【0038】
ウレタン(メタ)アクリレートは、分子内にヒドロキシ基を有する多官能(メタ)アクリレートとイソシアネート基を有する化合物とを、当業界で公知の方法により、触媒の存在下で反応して製造できる。
・・・
【0043】
光硬化型のモノマーは、通常使用される光硬化型の官能基であり、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基などの不飽和基を分子内に有する、当該技術分野で使用されるモノマーを制限なく使用できる。具体的には(メタ)アクリロイル基を有するモノマーを使用できる。
【0044】
(メタ)アクリロイル基を有するモノマーとしては、例えば・・・トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、・・・およびイソボルネオール(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
・・・
【0057】
ハードコート層の厚さは、特に限定されず、例えば5?100μm、好ましくは5?80μm、より好ましくは10?60μmであってもよい。」
e.「【0058】
本発明の積層フィルムは、前記第1の基材フィルムの他方の面に位置する第2の基材フィルムをさらに含む。
【0059】
第2の基材フィルムをさらに含むことにより、積層フィルム全体の靭性を向上させ、柔軟性を改善できる。」
f.「【0063】
図1に、複数の高分子素材フィルムの応力-歪み曲線を例示しているが、各曲線の端の丸で囲まれた部分が破壊点(fracture point)に相当する。前記数式1の修正靭性は、破壊点におけるxの値(歪み)とyの値(応力)の積であり、図1には、複数の高分子素材フィルムのいずれかのフィルムにおける修正靭性が、四角で囲まれた部分に例示されている。
【0064】
本発明者らは、前記範囲の修正靭性を有する基材フィルムが優れた柔軟性を有することから、高硬度のハードコート層と共に使用時に柔軟性を補完することにより、高硬度を実現し、且つ繰り返される曲げ疲労によるクラックの発生を抑制することを確認した。具体的には、修正靭性が10,000MPa%未満であると、柔軟性の改善効果が不十分なことがある。好ましくは、修正靭性は15,000MPa%以上であってもよい。修正靭性が高いほど柔軟性の改善効果が優れるので上限は特に限定されないが、経済的な観点から50,000MPa%以下、好ましくは40,000MPa%以下であってもよい。
【0065】
第2の基材フィルムも、透明性のあるプラスチックフィルムであり、第1の基材フィルムとして例示した素材を用いることができる。好ましくは、前述した修正靭性を満足するものを用いることができる。
【0066】
第2の基材フィルムの厚さは、特に限定されず、例えば10?200μm、好ましくは20?100μm、より好ましくは20?80μmであってもよい。」
g.「【0073】
前述した構成及びパラメータを有する本発明の積層フィルムは、硬度及び柔軟性が非常に優れている。例えば、ハードコート層側の1kg荷重下にける鉛筆硬度が5H以上、好ましくは6H以上、より好ましくは8H以上である。また、曲率半径(半径)3mmで屈曲したときの切断されるまでの屈曲回数が10万回以上、好ましくは20万回以上であり、また、好ましくは曲率半径1.5mmで屈曲したときの切断されるまでの屈曲回数が10万回以上、より好ましくは20万回以上であってもよい。
【0074】
これにより、本発明の積層フィルムは、画像表示装置のカバーウィンドウ基板に適用されて表面の擦傷を防止でき、フレキシブル画像表示装置にも優れた柔軟性を有するカバーウィンドウ基板として用いることができる。」
h.「【0096】
3.柔軟性の評価
直径3mmの棒を、実施例及び比較例による積層フィルムの幅の中心上(ハードコート側)に配置した。その後、ハードコート側の長さ方向の両端部が当接するまで曲げて、元の状態に戻すことを繰り返し、フィルムが破断する前までの回数を評価した。
S:20万回まで破断が発生しない
A:10万回以上20万回未満で破断が発生する
B:5万回以上10万回未満で破断が発生する
C:5万回未満で破断が発生する
・・・
【0098】
前記表1から、実施例の積層フィルムは、高い鉛筆硬度及び優れた柔軟性を同時に示すことが確認できた。これに対して、比較例の積層フィルムは、硬度が低いか、または柔軟性が低かった。」

これらの記載事項等を整理すると、甲Bには、以下の甲B発明が記載されている。

《甲B発明》
透明の第1の基材フィルム、前記第1の基材フィルムの一方の面に位置するハードコート層及び他方の面に位置する透明の第2の基材フィルムを含み、
前記第1の基材フィルムの厚さは、10?200μmであり、
前記第2の基材フィルムの厚さは、10?200μmであり、
前記ハードコート層は、マルテンス硬度が350N/mm^(2)?500N/mm^(2)であり、
前記ハードコート層側の1kg荷重下における鉛筆硬度は、5H以上であり、
前記ハードコート層の厚さは、5?100μmであり、
前記ハードコート層は、ウレタン(メタ)アクリレートとポリエステル(メタ)アクリレートとを混合して用いた、光硬化型の樹脂で形成され、
曲率半径3mmで前記積層フィルムを屈曲したときの前記積層フィルムが切断されるまでの屈曲回数は、10万回以上であり、
画像表示装置のカバーウィンドウ基板である、積層フィルム。

ここで、本件発明1と甲B発明とを対比すると、甲B発明の「透明の基材フィルム」、「ハードコート層」、「ウレタン(メタ)アクリレートとポリエステル(メタ)アクリレートとを混合して用いた」、「画像表示装置のカバーウィンドウ基板である、積層フィルム」は、各々、本件発明1の「透明基材フィルム」、「ハードコート層」、「(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する」、「屈曲ディスプレイ用のカバーフィルム」に対応するところ、両者の一致点は以下のとおりである。

《一致点》
屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、
ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、
前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層と、
を備え、
前記ハードコート層は、
厚みが6?17μmであり、
前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成される、カバーフィルム。

そして、両者は少なくとも以下の点で相違する。
《相違点B》
透明基材フィルムについて、本件発明1の「透明基材フィルム」は、複数の基材フィルムからなるとの特定がなく、その「厚さが、25μm以上300μm以下であ」るのに対し、甲B発明は、「透明の第1の基材フィルム」と、「前記第1の基材フィルムの」「他方の面に位置する透明の第2の基材フィルム」とからなり、「前記第1の基材フィルムの厚さは、10?200μmであり」、「前記第2の基材フィルムの厚さは、10?200μmであ」る点。

相違点Bについて検討する。
本件発明1における「透明基材フィルム」を複数のフィルムからなる積層構造とする理由は、本件発明1の発明特定事項からは見いだせないし、本件特許明細書にも、そのような事項は記載されておらず、これを示唆する記載もない。
一方、甲B発明は、上記摘記事項c.及びe.?g.を踏まえると、「透明の第1の基材フィルム」と、「前記第1の基材フィルムの」「他方の面に位置する透明の第2の基材フィルム」とで透明の基材フィルムが構成されることを前提とした発明であるところ、甲B発明において、その前提に係る構成を備えることのない、第一の基材フィルムまたは第二の基材フィルムのいずれかとする等、基材フィルムを単一のフィルムとするようにその構成を変更することには、阻害事由があるというべきであるし、当然のことながら、甲Bには、このように変更することは記載されておらず、これを示唆する記載もない。
また、甲2?8や、申立人1の特許異議申立書に添付された、甲第1号証?甲第6号証にも、甲1発明において、その前提に係る構成を備えることのない、基材フィルムを単一のフィルムとするようにその構成を変更することを動機付けるような記載やこれを示唆する記載はない。
以上のとおりであるから、甲B発明における「透明の第1の基材フィルム」と、「前記第1の基材フィルムの」「他方の面に位置する透明の第2の基材フィルム」とからなる基材フィルムを、単一のフィルムとするようにその構成を変更することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明1は、甲B発明であるとはいえず、また、甲B発明及び甲第1号証?甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(イ)本件発明2について
甲B発明は、上記(ア)に示したとおりである。
本件発明2と甲B発明とを対比すると、甲B発明の「透明の基材フィルム」、「ハードコート層」、「ウレタン(メタ)アクリレートとポリエステル(メタ)アクリレートとを混合して用いた」、「画像表示装置のカバーウィンドウ基板である、積層フィルム」は、各々、本件発明2の「透明基材フィルム」、「ハードコート層」、「(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する」、「屈曲ディスプレイ用のカバーフィルム」に対応するところ、両者の一致点は以下のとおりである。
《一致点》
屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、
ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、
前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層と、
を備え、
前記ハードコート層は、
厚みが6?23μmであり、
前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成される、カバーフィルム。

一方、本件発明2と甲B発明とは、少なくとも、上記相違点Bで相違するところ、上記相違点Bに付いての判断は、上記(ア)に示したとおりである。
したがって、本件発明2は、上記(ア)で示した理由と同様の理由により、甲B発明であるとはいえず、また、甲B発明及び甲第1号証?甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ウ)本件発明4について
本件発明1または本件発明2の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明4についても、上記(ア)及び(イ)と同様の理由により、甲B発明であるとはいえず、また、甲B発明及び甲第1号証?甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ.甲第1号証を主たる引用例とした場合について
(ア)本件発明1について
申立人1の特許異議申立書に添付された、甲第1号証である国際公開第2017/014198号(以下、「甲A」という。)には、「光学部材用積層体、及び、画像表示装置」に関して、以下の事項が記載されている。
a.「請求の範囲
[請求項1]光学部材の表面材として用いられ、基材フィルムと少なくとも1層の樹脂硬化層とを有する光学部材用積層体であって、
20mmの間隔で前記光学部材用積層体の全面を180°折り畳む試験を10万回繰り返し行った場合に割れ又は破断が生じない
ことを特徴とする光学部材用積層体。
・・・
[請求項4]樹脂硬化層のJIS K5600-5-4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(1kg荷重)の硬度が、4H以上である請求項1、2又は3記載の光学部材用積層体。
・・・
[請求項7]基材フィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレナフタレートフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリアミドフィルム、又は、アラミドフィルムである請求項1記載の光学部材用積層体。
[請求項8]基材フィルムの厚みが10?100μmである請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の光学部材用積層体。
・・・
[請求項11]樹脂硬化層は、基材フィルムの光学部材と反対側面上に設けられた第一ハードコート層と、前記第一ハードコート層の前記基材フィルム側と反対側面上に設けられた第二ハードコート層とを有する請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の光学部材用積層体。
・・・
[請求項15]請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14記載の光学部材用積層体を用いてなることを特徴とする折り畳み式画像表示装置。」
b.「技術分野
[0001]本発明は、光学部材用積層体、及び、画像表示装置に関する。
背景技術
[0002]近年、急速に普及してきているタッチパネルや有機エレクトロルミネッセンスに用いる光学フィルムは、優れた硬度を有するとともに、光学フィルムを繰り返し折り畳んでもクラックの生じることのない優れた耐久折り畳み性能が求められることがある。
[0003]しかしながら、硬度と折り畳み性能とは、通常、トレードオフの関係にあるため、従来の光学フィルムでは、硬度の向上を図ると耐久折り畳み性能は低下し、耐久折り畳み性能の向上を図ると硬度が低下してしまい、これらの性能を同時に優れたものとすることができなかった。
・・・
発明が解決しようとする課題
[0008]本発明は、上記現状に鑑みて、優れた硬度、透明性及び耐久折り畳み性能を有する光学部材用積層体、及び、折り畳み式画像表示装置を提供することを目的とするものである。」
c.「[0053]本発明の積層体は、少なくとも1層の樹脂硬化層を有する。
本発明の積層体は、耐屈曲性を備えた樹脂基材の材料の選択及び耐屈曲性を備えた樹脂基材の厚みの制御、並びに、樹脂硬化層の強度及び該樹脂硬化層の強度に応じた耐屈曲性を備えた樹脂基材への積層方法を制御することで得ることができる。
本発明の積層体において、上記樹脂硬化層は、上記基材フィルムの光学部材と反対側面上に設けられた第一ハードコート層と、該第一ハードコート層の上記基材フィルム側と反対側面上に設けられた第二ハードコート層とを有することが好ましい。
以下、上記第一ハードコート層及び上記第二ハードコート層の両者について、特に区別をする必要がない場合には、単に「ハードコート層」ともいう。」
d.「[0054]上記第一ハードコート層とは、硬度を付与するための層であり、断面中央におけるマルテンス硬さが500MPa以上1000MPa未満であることが好ましい。
上記第一ハードコート層のマルテンス硬さを上記範囲とすることにより、上記ハードコート層のJIS K5600-5-4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(1kg荷重)の硬度が、4H以上とすることができ、また、本発明の積層体に充分な耐久折り畳み性能を付与することができる。上記第一ハードコート層の断面中央におけるマルテンス硬さのより好ましい下限は600MPa、より好ましい上限は950MPaである。」
e.「[0055]また、上記第二ハードコート層とは、上述した耐久折り畳み性と耐擦傷性を付与するための層であり、断面中央におけるマルテンス硬さが350MPa以上600MPa以下であることが好ましい。上記第二ハードコート層のマルテンス硬さを上記範囲とすることにより、充分な耐久折り畳み性能を有するとともに、#0000番のスチールウールで1kg/cm^(2)の荷重をかけながら、上記ハードコート層の表面を3500回往復摩擦させる耐スチールウール試験において傷が生じないといった極めて優れた耐擦傷性を付与することができる。上記第二ハードコート層の断面中央におけるマルテンス硬さのより好ましい下限は375MPa、より好ましい上限は575MPaである。
本発明の積層体において、上記第一ハードコート層のマルテンス硬さは、上記第二ハードコート層のマルテンス硬さよりも大きいことが好ましい。このようなマルテンス硬さの関係を有することで、本発明の積層体の鉛筆硬度が特に良好となる。これは、本発明の積層体に鉛筆硬度試験を施して鉛筆に荷重をかけて押しこんだときに、本発明の積層体の変形が抑制されて、傷や凹み変形が少なくなるためである。また、充分な耐久折り畳み性能を有するとともに、#0000番のスチールウールで1kg/cm^(2)の荷重をかけながら、上記ハードコート層の表面を3500回往復摩擦させる耐スチールウール試験において傷が生じないといった極めて優れた耐擦傷性を付与することができる。
・・・
なお、本明細書において、「マルテンス硬さ」とは、ナノインデンテーション法による硬度測定により、圧子を500nm押込んだときの硬度である。
なお、本明細書において、上記ナノインデンテーション法によるマルテンス硬さの測定は、HYSITRON(ハイジトロン)社製の「TI950 TriboIndenter」を用いて行った。すなわち、上記圧子としてBerkovich圧子(三角錐)を、本発明の積層体のハードコート層表面から500nm押し込み、一定保持して残留応力の緩和を行った後、除荷させて、緩和後のmax荷重を計測し、該max荷重(P_(max)(μN)と深さ500nmのくぼみ面積(A(nm^(2))とを用い、P_(max)/Aにより、マルテンス硬さを算出する。」
f.「[0056]上記第一ハードコート層は、樹脂成分として多官能(メタ)アクリレートモノマーの硬化物を含有するとともに、該樹脂成分中に分散されたシリカ微粒子を含有することが好ましい。
・・・
これらの中でも上述したマルテンス硬さを好適に満たし得ることから、3?6官能のものが好ましく、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート等が好ましい。
なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートを意味する。」
g.「[0063]また、上記第二ハードコート層は、樹脂成分として多官能(メタ)アクリレートの硬化物を含有することが好ましい。
上記多官能(メタ)アクリレートとしては、上述したものと同様のものが挙げられる。
また、上記第二ハードコート層は、樹脂成分として上記多官能(メタ)アクリレートに加えて、多官能ウレタン(メタ)アクリレート及び/又は多官能エポキシ(メタ)アクリレート等が含まれてもよい。・・・」
h.「[0064]上記ハードコート層は、上記第一ハードコート層及び第二ハードコート層のいずれの場合であっても、上述したマルテンス硬さを充足する範囲で、上述した材料以外の材料を含んでいてもよく、例えば、樹脂成分の材料として、電離放射線の照射により硬化物を形成する重合性モノマーや重合性オリゴマー等を含んでいてもよい。
上記重合性モノマー又は重合性オリゴマーとしては、例えば、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリレートモノマー、又は、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。
上記分子中にラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリレートモノマー、又は、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、ポリフルオロアルキル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等のモノマー又はオリゴマーが挙げられる。これら重合性モノマー又は重合性オリゴマーは、1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、多官能(6官能以上)で重量平均分子量が1000?1万のウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。」
i.「[0074]上記ハードコート層の層厚みとしては、上記第一ハードコート層である場合、2.0?5.0μmであることが好ましく、上記第二ハードコート層である場合、0.5?4.0μmであることが好ましい。上記各層厚みの下限未満であると、上記ハードコート層の硬度が著しく低下することがあり、上記各層厚みの上限を超えると、上記ハードコート層を形成するための塗液のコーティングが困難となり、また、厚みが厚すぎることに起因した加工性(特に、耐チッピング性)が悪化することがある。
上記第一ハードコート層の層厚みのより好ましい下限は2.5μm、より好ましい上限は4.5μmであり、上記第二ハードコート層の層厚みのより好ましい下限は1.0μm、より好ましい上限は3.5μmである。 なお、上記ハードコート層の層厚みは、断面の電子顕微鏡(SEM、TEM、STEM)観察により測定して得られた任意の10カ所の厚みの平均値である。」
j.「[0119]本発明の積層体は、上述した構成を有し、耐久折り畳み試験で割れ又は破断を生じないものであるため、極めて優れた折り畳み性を有し、更に、優れた硬度及び透明性を有する。
このような本発明の積層体は、液晶表示装置等の画像表示装置の表面保護フィルムとして使用できるだけでなく、曲面ディスプレイや、曲面を有する製品の表面保護フィルム、折り畳み式の部材の表面保護フィルムとして使用できる。
なかでも、本発明の積層体は、極めて優れた折り畳み性を有するため、折り畳み式の部材の表面保護フィルムとして好適に用いられる。
また、本発明の積層体は、折り畳み式スマートフォンや折り畳み式タブレット等の用途として用いられる部材である・・・。
[0120]上記折り畳み式の部材としては、折り畳まれる構造を備えた部材であれば特に限定されず、例えば、折り畳み式スマートフォンや折り畳み式タッチパネル、タブレット、折り畳み式の(電子)アルバム等が挙げられる。
折り畳まれる構造を備えた部材での、折り畳み箇所は、1箇所であっても、複数個所であってもよい。折り畳みの方向も必要に応じて任意に決めることができる。」

ここで、ポリエチレンテレフタレートフィルムは、無色透明のものであることが技術常識であり、ポリイミドフィルムは、甲4の「高耐熱性透明ポリイミド樹脂ネオプリム・・・高い耐熱性を有する無色透明ポリイミド樹脂です。・・・[製品形態]ワニス(フィルム) [用途]フレキシブルディスプレイ材料、光学部材」との記載からみて、無色透明のものであると解される。
これらの記載事項等を整理すると、甲Aには、以下の甲A発明が記載されている。

《甲A発明》
折り畳み式タッチパネル等用ハードコートフィルムであって、
ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムである、透明基材フィルムと、
上記基材フィルムの光学部材と反対側面上に設けられた第一ハードコート層と、該第一ハードコート層の上記基材フィルム側と反対側面上に設けられた、樹脂成分として多官能(メタ)アクリレートモノマーの硬化物に加えて、重量平均分子量が1000?1万の多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含有し、電離放射線の照射により硬化物を形成する、第二ハードコート層とを有し、
上記基材フィルムは、厚さが10?100μmであり、
前記第一ハードコート層の層厚みは2.0?5.0μmであることが好ましく、前記第二ハードコート層の層厚みは0.5?4.0μmであることが好ましく、
前記第一ハードコート層は、圧子としてBerkovich圧子(三角錐)を、ハードコート層表面から500nm押し込み、一定保持して残留応力の緩和を行った後、除荷させて、緩和後のmax荷重を計測し、該max荷重(P_(max)(μN)と深さ500nmのくぼみ面積(A(nm^(2)))とを用い、P_(max)/Aによる方式で算出したマルテンス硬さが500MPa以上1000MPa未満であることが好ましく、前記第二ハードコート層は、上記方式で算出したマルテンス硬さが350MPa以上600MPa以下であることが好ましく、
上記ハードコート層のJIS K5600-5-4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(1kg荷重)の硬度が、4H以上である、タッチパネル用ハードコートフィルム。

ここで、本件発明1と甲A発明とを対比すると、甲1発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムである、透明基材フィルム」、「折り畳み表示装置のタッチパネル用ハードコートフィルム」は、各々、本件発明1の「ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルム」、「屈曲ディスプレイ用のカバーフィルム」に相当する。
また、甲A発明の「基材フィルムの光学部材と反対側面上に設けられた第一ハードコート層と、該第一ハードコート層の上記基材フィルム側と反対側面上に設けられた、樹脂成分として多官能(メタ)アクリレートモノマーの硬化物に加えて、重量平均分子量が1000?1万の多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含有し、電離放射線の照射により硬化物を形成する、第二ハードコート層」と本件発明1の「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層」とは、「透明基材フィルムの少なくとも一方の面側に形成されたハードコート層」という限りにおいて一致する。
ゆえに、本件発明1と甲A発明とは以下の点で一致点する。
《一致点》
屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、
ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、
前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面側に形成されたハードコート層と、
を備え、
前記基材フィルムの厚さが、25μm以上300μm以下であり、
前記ハードコート層は、
表面鉛筆硬度が、3H以上であり、
前記ハードコート層は、電離放射性硬化型樹脂で形成される、カバーフィルム。

そして、本件発明1と甲A発明とは少なくとも以下の点で相違する。
《相違点A》
ハードコート層について、本件発明1のハードコート層は、「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたものであって、厚みが6?17μmであり、そのマルテンス硬さが、521?750N/mm^(2)であり、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成され」るのに対し、甲A発明の第二ハードコート層は、「第一ハードコート層の上記基材フィルム側と反対側面上に設けられた、樹脂成分として多官能(メタ)アクリレートモノマーの硬化物に加えて、重量平均分子量が1000?1万の多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含有し、電離放射線の照射により硬化物を形成する」ものであって、「厚みが0.5?4.0μmであることが好ましく、圧子としてBerkovich圧子(三角錐)を、ハードコート層表面から500nm押し込み、一定保持して残留応力の緩和を行った後、除荷させて、緩和後のmax荷重を計測し、該max荷重(P_(max)(μN)と深さ500nmのくぼみ面積(A(nm^(2)))とを用い、P_(max)/Aによる方式で算出したマルテンス硬さが350MPa以上600MPa以下であることが好ましい」ものである点。

相違点Aについて検討する。
本件発明1における「透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層」なる事項について、「透明基材フィルム」と「ハードコート層」との間に、他のハードコート層を含む何らかの層を介在させ得るものと解すべきとする理由は、本件発明1の発明特定事項からは見いだせないし、本件特許明細書にも、そのような事項は記載されておらず、これを示唆する記載もない。
一方、甲1発明は、基材フィルムの一方の面上に、第一ハードコート層、第二ハードコート層を順に積層したものであって、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させることを前提とした発明であるところ、甲1発明において、その前提に係る構成を備えることのない、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させない積層構造に変更することには、阻害事由があるというべきであるし、当然のことながら、甲1には、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させない積層構造に変更することは記載されておらず、これを示唆する記載もない。
また、申立人1の特許異議申立書に添付された、甲第1号証?甲第6号証や、甲2?8にも、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させることを前提とした発明である甲A発明において、その前提に係る構成を備えることのない、基材フィルムと第二ハードコート層との間に、第一ハードコート層を介在させない積層構造に変更することを動機付けるような記載やこれを示唆する記載はない。
以上のとおりであるから、甲A発明における第二ハードコート層を、本件発明1のハードコート層の如くその構成を変更することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明1は、甲A発明及び甲第1号証?甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明2について
甲A発明は、上記(ア)に示したとおりである。
本件発明2と甲A発明との一致点は以下のとおりである。
《一致点》
屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、
ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、
前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面側に形成されたハードコート層と、
を備え、
前記基材フィルムの厚さが、25μm以上300μm以下であり、
前記ハードコート層は、
表面鉛筆硬度が、3H以上であり、
前記ハードコート層は、電離放射性硬化型樹脂で形成される、カバーフィルム。

一方、本件発明2と甲A発明とは、少なくとも、上記相違点Aで相違するところ、上記相違点Aについての判断は、上記(ア)に示したとおりである。
したがって、本件発明2は、上記(ア)で示した理由と同様の理由により、甲A発明及び甲第1号証?甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)本件発明4について
本件発明1または本件発明2の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明4についても、上記(ア)及び(イ)と同様の理由により、甲A発明及び甲第1号証?甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、申立人1のかかる主張は、採用することができない。

(6)申立人1及び2の意見について
申立人1は、令和1年8月13日に意見書(以下、「意見書1」という。)を提出し、申立人2は、同年同月14日に意見書(以下、「意見書2」という。)を提出し、本件発明1、2及び4に係る特許は、依然として、取り消されるべき理由があると主張しているが、これらの主張は、以下イ.に示すように、いずれも採用できない。
ア.申立人1及び2の主張
(ア)本件発明2における「円筒形マンドレル法(JISK5600-5-1)に基づき、直径が6mm以上の円筒で屈曲させた後、前記ハードコート層にクラックが生じない」との発明特定事項において、上記「6mm以上」の技術上の意義が理解できないし、上記「直径が6mm以上の円筒」にはありとあらゆる直径の円筒が含まれ、また、クラックの有無はその具体的判別の仕方が不明確であるから、同発明特定事項を含む本件発明2及び4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号、同法第36条第6項1号及び2号の規定に違反するものである(意見書1の「3-1.」及び意見書2の「3(2)」)。
(イ)本件発明1、2及び4における「ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルム」及び「前記基材フィルムの厚さが、25μm以上300μm以下であり」との発明特定事項に関し、本件特許明細書には、実施例として、段落【0038】において「基材フィルム」が「50μm厚のPETフィルム(東レ株式会社製U483)」であることが記載されているのみであるし、基材フィルムの厚みが厚すぎるものは耐屈曲性が悪化することが周知の事項であり、前記発明特定事項を含む本件発明1、2及び4は、課題を解決し得ないものを含むものであるから、本件発明1、2及び4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号の規定に違反するものである(意見書1の「3-2.(1)」及び意見書2の「3(3)」)。
(ウ)甲1発明のハードコート層の樹脂成分として、ハードコート層の表面硬度及び柔軟性のバランスを考慮し、多官能(メタ)アクリレートと多官能ウレタン(メタ)アクリレートの配合量を調整することは、当業者が適宜なし得たことであるし、甲1発明との比較における作用効果の差異は格別なものではなく、相違点はいずれも設計的事項にすぎないから、本件発明1、2及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するものである(意見書1の「3-3.」及び意見書2の「3(4)?(6)」)。
イ.申立人1及び2の主張に対する判断
(ア)について
本件発明2における「円筒形マンドレル法(JISK5600-5-1)に基づき、直径が6mm以上の円筒で屈曲させた後、前記ハードコート層にクラックが生じない」との発明特定事項に関し、本件特許明細書の段落【0041】には、「<2.耐屈曲性評価試験>・・・円筒形マンドレル法(JISK5600-5-1)に基づき屈曲させた後、ハードコート層にクラックが生じているか否かを目視で観察した。用いた円筒の径は、2mm,3mm,4mm,5mm,6mm,10mmであり、以下の表3に示すように、ハードコート層にクラックが生じなかったものをA,生じたものをBとした。」と記載され、段落【0043】には「<4.考察>・・・耐屈曲性評価試験においては、実施例はいずれも直径が6mm以上の円筒を用いた試験でハードコート層にクラックが生じなかった。一方、比較例1,4は、直径が6mmの円筒を用いた試験でハードコート層にクラックが生じた。」と記載されていることから、上記発明特定事項は、「直径が6mm以上の円筒」にはありとあらゆる直径の円筒を対象としているわけではなく、「直径が6mm」の円筒でクラックが「目視」で確認できるかを評価することを技術的に意味していることが明らかであるから、申立人1及び2の主張(イ)は採用できない。

(イ)について
上記(3)ア.(ア)で示したとおり、本件発明1、2及び4の解決すべき課題は、本件特許明細書の段落【0004】に記載された「耐屈曲性及び耐擦傷性の両方を充足する屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムを提供する」ことであって、特定の評価指標に基づく耐屈曲性及び表面硬度を満足することまでを解決すべき課題としているわけではないところ、本件特許明細書の記載からみて、本件発明1及び2は、「基材フィルムの厚さが、25?300μm」である基材フィルムの一方の面に、「厚みが6?17μmであり」、上記段落【0014】で説明されている「マルテンス硬さ」で、「521?750N/m^(2)」であって、「表面鉛筆硬度が、3H以上であ」る「ハードコート層」を形成するという事項により、「耐屈曲性及び耐擦傷性の両方を充足する」ものであることが、定性的に理解されるものといえるから、申立人1及び2の主張(イ)は採用できない。

(ウ)について
上記(3)イ.(ア)及び(イ)で示したとおり、そもそも、甲1発明における第二ハードコート層を、本件発明2のハードコート層の如くその構成を変更することは、当業者が容易になし得たこととはいえず、その余の相違点については検討するまでもなく、本件発明1、2及び4は、甲1発明及び甲2?8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立人1及び2の主張(ウ)は採用できない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、2及び4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができず、また、他に本件発明1、2及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項3及び5は、本件訂正請求による訂正が認められることにより、削除されたため、本件特許の請求項3及び5についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。よって、本件特許の請求項3及び5についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
したがって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、
ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、
前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層と、
を備え、
前記基材フィルムの厚みは、25μm以上300μm以下であり、
前記ハードコート層は、
厚みが6?17μmであり、
押し込み深さ0.25μmの条件で測定したマルテンス硬さが、521?750N/mm^(2)であり、
表面鉛筆硬度が、3H以上であり、
前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成され、
前記(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)及び前記ウレタン系樹脂を含む混合物の合計100重量部に対して、前記ウレタン系樹脂が5?20重量部である、カバーフィルム。
【請求項2】
屈曲ディスプレイ用のカバーフィルムであって、
ポリエチレンテレフタレート、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリレート系ポリマー、ポリエステル、またはポリイミドにより形成されている、透明の基材フィルムと、
前記透明基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されたハードコート層と、
を備え、
前記基材フィルムの厚みは、25μm以上300μm以下であり、
前記ハードコート層は、
厚みが6?23μmであり、
押し込み深さ0.25μmの条件で測定したマルテンス硬さが、521?750N/mm^(2)であり、
表面鉛筆硬度が、3H以上であり、
前記基材フィルムのマルテンス硬さに対する、前記ハードコートのマルテンス硬さが、0.8?3.0であり、
前記ハードコート層は、(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)と、ウレタン系樹脂とを含有する、電離放射性硬化型樹脂で形成され、
円筒形マンドレル法(JISK5600-5?1)に基づき、直径が6mm以上の円筒で屈曲させた後、前記ハードコート層にクラックが生じない、カバーフィルム。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記(メタ)アクリレート化合物(ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を除く)及び前記ウレタン系樹脂を含む混合物の合計100重量部に対して、前記ウレタン系樹脂が5?10重量部である、請求項1または2に記載のカバーフィルム。
【請求項5】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-07 
出願番号 特願2017-120040(P2017-120040)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 113- YAA (B32B)
P 1 651・ 536- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 渡邊 豊英
石井 孝明
登録日 2018-05-11 
登録番号 特許第6334035号(P6334035)
権利者 グンゼ株式会社
発明の名称 カバーフィルム  
代理人 立花 顕治  
代理人 立花 顕治  
代理人 桝田 剛  
代理人 桝田 剛  
代理人 山下 未知子  
代理人 山下 未知子  
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