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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H05B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H05B
管理番号 1358595
異議申立番号 異議2018-700763  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-20 
確定日 2019-10-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6304255号発明「有機エレクトロルミネッセンス素子、電子デバイス、発光装置及び発光材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6304255号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、〔7?8〕について訂正することを認める。 特許第6304255号の請求項1?8に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6304255号の請求項1?8に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)8月14日(優先権主張平成25年8月16日)に特許出願され、平成30年3月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年4月4日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成30年9月20日に特許異議申立人 神保良男(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年12月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成31年3月6日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)があり、本件訂正請求に対して異議申立人から平成31年4月17日に意見書が提出されたものである。
その後、令和元年6月17日付けで取消理由<決定の予告>が通知されたが、その指定期間内に特許権者からの意見書の提出はなされなかった。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第6304255号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求める。」というものである。

2 請求項1?6に係る訂正

(1)訂正の内容
請求項1?6に係る訂正の訂正内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、50%以上であり、
前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、100nm以下であり、
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、
前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」
と記載されているのを、
「 前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、下記測定条件(1)下で、50%以上であり、
前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、下記測定条件(2)下で、100nm以下であり、
前記蛍光発光性化合物が、(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物であって、熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物であり、
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、
前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」
に訂正し、かつ、
「(一般式(I)中、X_(101)は、NR_(101)、酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。R_(101)?R_(104)は、各々水素原子又は置換基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香環を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。)」
と記載されているのを、
「(一般式(I)中、X_(101)は、NR_(10)_(1、)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。R_(101)及びR_(104)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。)
測定条件(1):明細書に記載した有機EL素子1-1の作製方法と同じ方法で作製した有機EL素子を5Vで駆動し、外部量子効率測定装置を用いて積分球により、室温で外部取出し効率(EQE)を測定し、前記有機EL素子の膜厚情報と光学定数を用いて、解析ソフトにてモード解析を実施し、有機EL素子内部から素子外部に放出される光の割合から光取り出し効率(OC)を算出し、前記測定及び前記解析によって得られる前記EQE及び前記OCに基づき、内部量子効率を算出する。
測定条件(2):蛍光発光性化合物のジクロロメタン溶液を調製の上、分光蛍光光度計を用いて室温状態で測定する。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?6も同様に訂正する。)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「(一般式(II)中、X_(101)は、NR_(101)、酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)を表す。R_(101)?R_(103)は、各々水素原子又は置換基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香環を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n102は各々0?4の整数を表す。)」
と記載されているのを、
「(一般式(II)中、X_(101)は、NR_(10)_(1)を表す。R_(10)_(1)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n102は各々0?4の整数を表す。)」
に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3?6も同様に訂正する。)。

ウ 訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0011】に、
「前記有機層のうち少なくとも1層が、蛍光発光性化合物及びホスト化合物を含有し、
前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、50%以上であり、
前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、100nm以下であり、
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、
前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」
と記載されているのを、
「 前記有機層のうち少なくとも1層が、蛍光発光性化合物及びホスト化合物を含有し、
前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、下記測定条件(1)下で、50%以上であり、
前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、下記測定条件(2)下で、100nm以下であり、
前記蛍光発光性化合物が、(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物であって、熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物であり、
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、
前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」
に訂正し、かつ、
「(一般式(I)中、X_(101)は、NR_(101)、酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。R_(101)?R_(104)は、各々水素原子又は置換基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香環を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。)」
と記載されているのを
「(一般式(I)中、X_(101)は、NR_(10)_(1、)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。R_(101)及びR_(104)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。)
測定条件(1):明細書に記載した有機EL素子1-1の作製方法と同じ方法で作製した有機EL素子を5Vで駆動し、外部量子効率測定装置を用いて積分球により、室温で外部取出し効率(EQE)を測定し、前記有機EL素子の膜厚情報と光学定数を用いて、解析ソフトにてモード解析を実施し、有機EL素子内部から素子外部に放出される光の割合から光取り出し効率(OC)を算出し、前記測定及び前記解析によって得られる前記EQE及び前記OCに基づき、内部量子効率を算出する。
測定条件(2):蛍光発光性化合物のジクロロメタン溶液を調製の上、分光蛍光光度計を用いて室温状態で測定する。」
に訂正する。

エ 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0012】に、
「(一般式(II)中、X_(101)は、NR_(101)、酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)を表す。R_(101)?R_(103)は、各々水素原子又は置換基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香環を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n102は各々0?4の整数を表す。)」
と記載されているのを、
「(一般式(II)中、X_(101)は、NR_(10)_(1)を表す。R_(10)_(1)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n102は各々0?4の整数を表す。)」
に訂正する。

オ 訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0217】?【0221】の【表2-1】?【表2-5】の素子番号1-31、1-57、1-69、1-103、1-104、1-117、1-122、1-127、1-128、1-135、1-138、1-139、1-164、1-166、1-203、1-205?1-208、1-212、1-216について、備考欄に、
「本発明」
と記載されているのを、
「参考例」
に訂正する。

本件訂正請求は、一群の請求項〔1?6〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てである、請求項〔1?6〕について行われたものである。

(2)訂正の目的の適否
ア 訂正事項1による訂正は、(a)蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率について、明示されていなかった測定条件を明らかにする訂正と、(b)蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅について、明示されていなかった測定条件を明らかにする訂正と、(c)蛍光発光性化合物について、(c-1)「(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物であって」、(c-2)「熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物」とする限定を付加する訂正と、(d)ホスト化合物について、一般式(I)で表される構造から、(d-1)X_(101)が、「酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)」である場合を除き、(d-2)R_(101)及びR_(104)が表す置換基を、「直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定し、(d-3)Ar_(101)及びAr_(102)が表す芳香環を、各々「芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定する訂正からなるものである。
したがって、訂正事項1による訂正のうち、上記(a)及び(b)は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものといえる。また、上記(c)及び(d)は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものといえる。

イ 訂正事項2による訂正は、ホスト化合物について、一般式(II)で表される構造から、X_(101)が、「酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)」である場合を除き、R_(101)が表す置換基を、「直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定し、Ar_(101)及びAr_(102)が表す芳香環を、各々「芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定するものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものといえる。

ウ 訂正事項3?5による訂正は、上記訂正事項1及び訂正事項2に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、明細書の記載の整合を図るために訂正するものである。
したがって、訂正事項3?5による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものといえる。

エ 以上より、請求項1?6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものである。

(3)新規事項の有無
ア 訂正事項1
まず、訂正事項1による訂正のうち、(c)蛍光発光性化合物について、(c-1)「(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物」とする訂正と、(d)ホスト化合物について、一般式(I)で表される構造から、(d-1)X_(101)が、「酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)」である場合を除く訂正は、蛍光発光性化合物又はホスト化合物について、その一部を除くものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。
次に、訂正事項1による訂正のうち、その余のものについて検討すると、願書に添付した明細書の段落【0058】に、「蛍光発光性化合物の内部量子効率の算出は、蛍光発光性化合物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子を作製し、文献(A.Chutinan,K.Ishihara,T.Asano,M.Fujita,and S.Noda,″Theoretical Analysis on Light-Extraction Efficiency of Organic Light-Emitting Diodes using FDTD and Mode-Expansion Methods,″Organic Electronics,vol.6,pp.3-9(2005).)の記載を参考に以下の方法により実施することができる。」、「具体的には、有機EL素子を5Vで駆動した場合に、外部量子効率測定装置を用いて積分球により、室温で外部取り出し効率(以下EQE)を測定することができる。」、「そして、有機EL素子の膜厚情報と光学定数を用いて解析ソフトにてモード解析を実施し、有機EL素子内部から素子外部に放出される光の割合、すなわち光取り出し効率(以下OC)を算出することができる。」、「外部量子効率(EQE)は内部量子効率(以下IQE)と光取り出し効率(OC)の積で表現できる(式(A)参照)。」、「本発明では、測定及び解析によって得られるEQE及びOCを式(A)に適用し、有機EL素子の蛍光発光性化合物の内部量子効率を算出することができる。」と記載されている。そして、段落【0199】に「≪有機EL素子1-1の作製≫」として、「陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nm成膜した基板(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。」と記載され、段落【0200】に「この透明支持基板上に、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を用いて3000rpm、30秒の条件下、スピンコート法により薄膜を形成した後、200℃にて1時間乾燥し、層厚20nmの第1正孔輸送層を設けた。」と記載され、段落【0201】に、「この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方モリブデン製抵抗加熱ボートにα-NPD(4,4′-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル)を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにH-159を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに比較化合物(4CzIPN)を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにBCP(2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)を200mg入れ真空蒸着装置に取り付けた。」と記載され、段落【0203】に「次いで真空槽を4×10^(-4)Paまで減圧した後、α-NPDの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記正孔注入層上に蒸着し30nmの正孔輸送層を設けた。」と記載され、段落【0204】に「更にH-159の入った前記加熱ボートと比較化合物の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.1nm/秒、0.010nm/秒で、前記正孔輸送層上に共蒸着し40nmの発光層を設けた。」と記載され、段落【0205】に「更にBCPの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記正孔阻止層上に蒸着し30nmの電子輸送層を設けた。」と記載され、段落【0206】に「引き続き、陰極バッファー層としてフッ化リチウム0.5nmを蒸着し、更にアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子1-1を作製した。」と記載されているから、(a)蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率について、明示されていなかった測定条件を明らかにする訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるといえる。
さらに、願書に添付した明細書の段落【0057】に、「蛍光発光性化合物の発光スペクトルの測定は、蛍光発光性化合物のジクロロメタン溶液を調整の上、日立分光蛍光光度計F-4000を用いて室温で測定し、発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅を得ることができる。」と記載されているから、(b)蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅について、明示されていなかった測定条件を明らかにする訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるといえる。
また、願書に添付した明細書の段落【0044】には、「上記のような問題を解決するためには、TADF材料の発光スペクトル形状をシャープ化し、発光極大波長と発光スペクトルの立ち上がり波長の差を小さくすることが必要となる。そのためには、基本的には一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化を小さくすることにより達成することが可能である。」、「また、ホスト化合物への逆エネルギー移動を抑制するためには、TADF材料の三重項励起状態の存在時間(励起子寿命)を短くすることが効果的である。それを実現するには、基底状態と三重項励起状態との分子構造変化を小さくすること、及び、禁制遷移をほどくのに好適な置換基や元素を導入することなどの対策を講じることで、問題点を解決することが可能である。」と記載されているから、(c)蛍光発光性化合物について、(c-2)「熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物」であるとする限定を付加する訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるといえる。
そして、願書に添付した明細書の段落【0080】に、「R_(101)?R_(104)で各々表される置換基としては、例えば、直鎖又は分岐アルキル基(例えば、・・・等)、アルケニル基(例えば、・・・等)、アルキニル基(例えば、・・・等)、芳香族炭化水素環基(芳香族炭素環基、アリール基等ともいう。例えば、・・・)、芳香族複素環基(例えば、・・・)、・・・が挙げられる。」と記載されており、段落【0082】に、「一般式(I)において、Ar_(101)及びAr_(102)により表される芳香環としては、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環が挙げられる。」と記載されているから、(d)ホスト化合物について、一般式(I)で表される構造から、(d-2)R_(101)及びR_(104)が表す置換基を、「直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定し、(d-3)Ar_(101)及びAr_(102)が表す芳香環を、各々「芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定する訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるといえる。

イ 訂正事項2
訂正事項2による訂正のうち、(a)ホスト化合物について、一般式(II)で表される構造から、X_(101)が、「酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)」である場合を除く訂正は、ホスト化合物について、その選択肢の一部を除くものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。
また、願書に添付した明細書の段落【0080】には、「R_(101)?R_(104)で各々表される置換基としては、例えば、直鎖又は分岐アルキル基(例えば、・・・)、・・・、芳香族炭化水素環基(芳香族炭素環基、アリール基等ともいう。例えば、・・・)、芳香族複素環基(例えば、・・・)、・・・等が挙げられる。」と記載されている。さらに、段落【0082】には、「一般式(I)において、Ar_(101)及びAr_(102)により表される芳香環としては、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環が挙げられる。」と記載されている。そうすると、訂正事項2による訂正のうち、(b)一般式(II)で表される構造における、R_(101)が表す置換基を、「直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定し、Ar_(101)及びAr_(102)が表す芳香環を、各々「芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定する訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。

ウ 訂正事項3?5
訂正事項3?5による訂正は、明細書の記載について、訂正事項1及び訂正事項2と同様に訂正するものであるから、前記ア及びイで述べたのと同様の理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。

エ むすび
以上のとおりであるから、請求項1?6に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(4)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1
訂正事項1による訂正は、(a)蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率について、明示されていなかった測定条件を明らかにするにとどまる訂正と、(b)蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅について、明示されていなかった測定条件を明らかにするにとどまる訂正と、(c)蛍光発光性化合物について、「(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物であって、熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物」であるとする限定を付加する訂正と、(d)ホスト化合物について、一般式(I)で表される構造から、X_(101)が、「酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)」である場合を除き、R_(101)及びR_(104)が表す置換基を、「直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定し、Ar_(101)及びAr_(102)が表す芳香環を、各々「芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定する訂正からなるものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項2
訂正事項2による訂正は、ホスト化合物について、一般式(II)で表される構造から、X_(101)が、「酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)」である場合を除き、R_(101)が表す置換基を、「直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定し、Ar_(101)及びAr_(102)が表す芳香環を、各々「芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定するものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項3?5
訂正事項3?5による訂正は、上記訂正事項1及び訂正事項2に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、明細書の記載の整合を図るにとどまる訂正である。
したがって、訂正事項3?5による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ むすび
以上のとおりであるから、請求項1?6に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

3 請求項7?8に係る訂正

(1)訂正の内容
請求項7?8に係る訂正の訂正内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。

ア 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に
「 前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、50%以上であり、
前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、100nm以下であり、かつ、
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、
前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする発光材料。」
と記載されているのを、
「 前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、下記測定条件(1)下で、50%以上であり、
前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、下記測定条件(2)下で、100nm以下であり、
前記蛍光発光性化合物が、(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物であって、熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物であり、
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、
前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする発光材料。」
に訂正し、かつ、
「(一般式(I)中、X_(101)は、NR_(101)、酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。R_(101)?R_(104)は、各々水素原子又は置換基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香環を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。)」
と記載されているのを、
「(一般式(I)中、X_(101)は、NR_(10)_(1)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。R_(101)及びR_(104)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。)
測定条件(1):明細書に記載した有機EL素子1-1の作製方法と同じ方法で作製した有機EL素子を5Vで駆動し、外部量子効率測定装置を用いて積分球により、室温で外部取出し効率(EQE)を測定し、前記有機EL素子の膜厚情報と光学定数を用いて、解析ソフトにてモード解析を実施し、有機EL素子内部から素子外部に放出される光の割合から光取り出し効率(OC)を算出し、前記測定及び前記解析によって得られる前記EQE及び前記OCに基づき、内部量子効率を算出する。
測定条件(2):蛍光発光性化合物のジクロロメタン溶液を調製の上、分光蛍光光度計を用いて室温状態で測定する。」
に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。)。

イ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に
「(一般式(II)中、X_(101)は、NR_(101)、酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)を表す。R_(101)?R_(103)は、各々水素原子又は置換基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香環を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n102は各々0?4の整数を表す。)」
と記載されているのを、
「(一般式(II)中、X_(101)は、NR_(10)_(1)を表す。R_(10)_(1)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n102は各々0?4の整数を表す。)」
に訂正する。

ウ 訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0017】に、
「 前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、50%以上であり、
前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、100nm以下であり、かつ、
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、
前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする発光材料。」
と記載されているのを、
「 前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、下記測定条件(1)下で、50%以上であり、
前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、下記測定条件(2)下で、100nm以下であり、
前記蛍光発光性化合物が、(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物であって、熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物であり、
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、
前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする発光材料。」
に訂正し、かつ、
「(一般式(I)中、X_(101)は、NR_(101)、酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。R_(101)?R_(104)は、各々水素原子又は置換基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香環を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。)」
と記載されているのを
「(一般式(I)中、X_(101)は、NR_(10)_(1)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。R_(101)及びR_(104)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。)
測定条件(1):明細書に記載した有機EL素子1-1の作製方法と同じ方法で作製した有機EL素子を5Vで駆動し、外部量子効率測定装置を用いて積分球により、室温で外部取出し効率(EQE)を測定し、前記有機EL素子の膜厚情報と光学定数を用いて、解析ソフトにてモード解析を実施し、有機EL素子内部から素子外部に放出される光の割合から光取り出し効率(OC)を算出し、前記測定及び前記解析によって得られる前記EQE及び前記OCに基づき、内部量子効率を算出する。
測定条件(2):蛍光発光性化合物のジクロロメタン溶液を調製の上、分光蛍光光度計を用いて室温状態で測定する。」
に訂正する。

エ 訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0018】に、
「(一般式(II)中、X_(101)は、NR_(101)、酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)を表す。R_(101)?R_(103)は、各々水素原子又は置換基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香環を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n102は各々0?4の整数を表す。)」
と記載されているのを、
「(一般式(II)中、X_(101)は、NR_(10)_(1)を表す。R_(10)_(1)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n102は各々0?4の整数を表す。)」
に訂正する。

本件訂正請求は、一群の請求項〔7?8〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てである、請求項〔7?8〕について行われたものである。

(2)訂正の目的の適否
ア 訂正事項6による訂正は、(a)蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率について、明示されていなかった測定条件を明らかにする訂正と、(b)蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅について、明示されていなかった測定条件を明らかにする訂正と、(c)蛍光発光性化合物について、(c-1)「(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物であって」、(c-2)「熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物」であるとする限定を付加する訂正と、(d)ホスト化合物について、一般式(I)で表される構造から、(d-1)X_(101)が、「酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)」である場合を除き、(d-2)R_(101)及びR_(104)が表す置換基を、「直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定し、(d-3)Ar_(101)及びAr_(102)が表す芳香環を、各々「芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定する訂正からなるものである。
したがって、訂正事項6による訂正のうち、上記(a)及び(b)は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものといえる。また、上記(c)及び(d)は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものといえる。

イ 訂正事項7による訂正は、ホスト化合物について、一般式(II)で表される構造から、X_(101)が、「酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)」である場合を除き、R_(101)が表す置換基を、「直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定し、Ar_(101)及びAr_(102)が表す芳香環を、各々「芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定するものである。
したがって、訂正事項7による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものといえる。

ウ 訂正事項8及び訂正事項9による訂正は、上記訂正事項6及び訂正事項7に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、明細書の記載の整合を図るために訂正するものである。
したがって、訂正事項8及び訂正事項9による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものといえる。

エ 以上より、請求項7?8に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものである。

(3)新規事項の有無
ア 訂正事項6
まず、訂正事項6による訂正のうち、(c)蛍光発光性化合物について、(c-1)「(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物」とする訂正と、(d)ホスト化合物について、一般式(I)で表される構造から、(d-1)X_(101)が、「酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)」である場合を除く訂正は、蛍光発光性化合物又はホスト化合物について、その一部を除くものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。
次に、訂正事項6による訂正のうち、その余のものについて検討すると、願書に添付した明細書の段落【0044】、【0057】、【0058】、【0080】、【0082】、【0199】?【0201】、【0203】?【0206】には、前記2(3)アにおいて指摘した事項が記載されているから、訂正事項6のうち、(a)蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率について、明示されていなかった測定条件を明らかにする訂正と、(b)蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅について、明示されていなかった測定条件を明らかにする訂正と、(c)蛍光発光性化合物について、(c-2)「熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物」であるとする限定を付加する訂正と、(d)ホスト化合物について、一般式(I)で表される構造から、(d-2)R_(101)及びR_(104)が表す置換基を、「直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定し、(d-3)Ar_(101)及びAr_(102)が表す芳香環を、各々「芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定する訂正は、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるといえる。

イ 訂正事項7
訂正事項7による訂正のうち、(a)ホスト化合物について、一般式(II)で表される構造から、X_(101)が、「酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)」である場合を除く訂正は、ホスト化合物について、その選択肢の一部を除くものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。
また、願書に添付した明細書の段落【0080】、【0082】には、前記2(3)アにおいて指摘した事項が記載されているから、訂正事項7のうち、(b)一般式(II)で表される構造における、R_(101)が表す置換基を、「直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定し、Ar_(101)及びAr_(102)が表す芳香環を、各々「芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定する訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。

ウ 訂正事項8及び訂正事項9
訂正事項8及び訂正事項9による訂正は、訂正事項6及び訂正事項7による訂正に伴い、明細書の記載の整合を図るにとどまる訂正であるから、訂正事項8及び訂正事項9による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであることは、明らかである。

エ むすび
以上のとおりであるから、請求項7?8に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(4)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項6
訂正事項6による訂正は、(a)蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率について、明示されていなかった測定条件を明らかにする訂正と、(b)蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅について、明示されていなかった測定条件を明らかにする訂正と、(c)蛍光発光性化合物について、「(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物であって、熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物」であるとする限定を付加する訂正と、(d)ホスト化合物について、一般式(I)で表される構造から、X_(101)が、「酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)」である場合を除き、R_(101)及びR_(104)が表す置換基を、「直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定し、Ar_(101)及びAr_(102)が表す芳香環を、各々「芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定する訂正からなるものである。
したがって、訂正事項6による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項7
訂正事項7による訂正は、ホスト化合物について、一般式(II)で表される構造から、X_(101)が、「酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)」である場合を除き、R_(101)が表す置換基を、「直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定し、Ar_(101)及びAr_(102)が表す芳香環を、各々「芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基」に限定するものである。
したがって、訂正事項7による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項8及び訂正事項9
訂正事項8及び訂正事項9による訂正は、上記訂正事項6及び訂正事項7に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、明細書の記載の整合を図るにとどまる訂正である。
したがって、訂正事項8及び訂正事項9による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ むすび
以上のとおりであるから、請求項7?8に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲及び明細書を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び明細書のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、〔7?8〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正は、前記第2のとおり、認められることになったので、本件特許の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明8」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
なお、請求項1には、「一般式(I)中、X_(101)は、NR_(101)_(、)を表す。」と下付の句読点を含む記載があるが、「一般式(I)中、X_(101)は、NR_(101)を表す。」の誤記と認められる。
「【請求項1】
陽極と陰極に挟まれた少なくとも1層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記有機層のうち少なくとも1層が、蛍光発光性化合物及びホスト化合物を含有し、
前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、下記測定条件(1)下で、50%以上であり、
前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、下記測定条件(2)下で、100nm以下であり、
前記蛍光発光性化合物が、(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物であって、熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物であり、
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、
前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

(一般式(I)中、X_(101)は、NR_(101)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。R_(101)及びR_(104)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。)
測定条件(1):明細書に記載した有機EL素子1-1の作製方法と同じ方法で作製した有機EL素子を5Vで駆動し、外部量子効率測定装置を用いて積分球により、室温で外部取出し効率(EQE)を測定し、前記有機EL素子の膜厚情報と光学定数を用いて、解析ソフトにてモード解析を実施し、有機EL素子内部から素子外部に放出される光の割合から光取り出し効率(OC)を算出し、前記測定及び前記解析によって得られる前記EQE及び前記OCに基づき、内部量子効率を算出する。
測定条件(2):蛍光発光性化合物のジクロロメタン溶液を調製の上、分光蛍光光度計を用いて室温状態で測定する。
【請求項2】
前記一般式(I)で表される構造を有するホスト化合物が、下記一般式(II)で表される構造を有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】

(一般式(II)中、X_(101)は、NR_(101)を表す。R_(101)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n102は各々0?4の整数を表す。)
【請求項3】
前記ホスト化合物が、カルバゾール骨格を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記有機層のうち少なくとも一つの層が、発光層であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子が具備されていることを特徴とする電子デバイス。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子が具備されていることを特徴とする発光装置。
【請求項7】
蛍光発光性化合物とホスト化合物を含有する発光材料であって、
前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、下記測定条件(1)下で、50%以上であり、
前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、下記測定条件(2)下で、100nm以下であり、
前記蛍光発光性化合物が、(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物であって、熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物であり、
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、
前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする発光材料。
【化3】

(一般式(I)中、X_(101)は、NR_(101)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。R_(101)及びR_(104)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。)
測定条件(1):明細書に記載した有機EL素子1-1の作製方法と同じ方法で作製した有機EL素子を5Vで駆動し、外部量子効率測定装置を用いて積分球により、室温で外部取出し効率(EQE)を測定し、前記有機EL素子の膜厚情報と光学定数を用いて、解析ソフトにてモード解析を実施し、有機EL素子内部から素子外部に放出される光の割合から光取り出し効率(OC)を算出し、前記測定及び前記解析によって得られる前記EQE及び前記OCに基づき、内部量子効率を算出する。
測定条件(2):蛍光発光性化合物のジクロロメタン溶液を調製の上、分光蛍光光度計を用いて室温状態で測定する。
【請求項8】
前記一般式(I)で表される構造を有するホスト化合物が、下記一般式(II)で表される構造を有することを特徴とする請求項7に記載の発光材料。
【化4】

(一般式(II)中、X_(101)は、NR_(101)を表す。R_(101)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n102は各々0?4の整数を表す。)」


第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要
令和元年6月17日付けで通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

1 実施可能要件
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が本件特許発明1?8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、これらの発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

2 サポート要件
本件特許は、本件特許発明1?8が、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえず、これらの発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

3 明確性
本件特許は、本件特許発明1?8の記載は、明確であるということができず、これらの発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

4 進歩性
本件特許発明1?8は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先権主張の日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

甲第1号証:Hiroki Uoyama et al., Highly efficient organic
light-emitting diodes from delayed fluorescence,
NATURE, vol.492, p.234-238, 2012/12/13
甲第2号証:特開2011-54931号公報
甲第3号証:特開2013-8806号公報
甲第4号証:国際公開第2013/081088号
甲第5号証:特開2013-77834号公報

(1)甲第1号証
ア 請求項1について/甲第1,5号証
イ 請求項7について/甲第1,5号証
ウ 請求項2,8について/甲1?5号証
エ 請求項3について/甲第1?5号証
オ 請求項4について/甲第1?5号証
カ 請求項5,6について/甲第1?5号証

(2)甲第3号証
ア 請求項1,3,4,7について/甲第3,5号証
イ 請求項2,8について/甲第3,5号証
ウ 請求項5,6について/甲第3,5号証

(3)甲第4号証
ア 請求項1,4,7について/甲第4,5号証
イ 請求項2,3,8について/甲第4,5号証
ウ 請求項5,6について/甲第4,5号証


第5 当審の判断
令和元年6月17日付けで通知した取消理由に対し、特許権者は指定期間内に応答をしなかった。
そして、前記第4に記載した取消理由は妥当なものと認められるので、本件請求項1?8に係る特許は、この取消理由によって取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
有機エレクトロルミネッセンス素子、電子デバイス、発光装置及び発光材料
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子及び発光材料に関する。また、当該有機エレクトロルミネッセンス素子が具備された電子デバイス及び発光装置に関する。より詳しくは、発光効率を改良した有機エレクトロルミネッセンス素子等に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料のエレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence:以下「EL」と略記する。)を利用した有機EL素子(「有機電界発光素子」ともいう。)は、平面発光を可能とする新しい発光システムとして既に実用化されている技術である。有機EL素子は、電子ディスプレイはもとより、最近では照明機器にも適用され、その発展が期待されている。
【0003】
有機ELの発光方式としては、三重項励起状態から基底状態に戻る際に光を発する「リン光発光」と、一重項励起状態から基底状態に戻る際に光を発する「蛍光発光」の二通りがある。
有機EL素子に電界をかけると、陽極と陰極からそれぞれ正孔と電子が注入され、発光層において再結合し励起子を生じる。このとき一重項励起子と三重項励起子とが25%:75%の割合で生成するため、三重項励起子を利用するリン光発光の方が、蛍光発光に比べ、理論的に高い内部量子効率が得られることが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
しかしながら、リン光発光方式において実際に高い量子効率を得るためには、中心金属にイリジウムや白金などの希少金属を用いた錯体を用いる必要があり、将来的に希少金属の埋蔵量や金属自体の値段が産業上大きな問題となることが懸念される。
【0004】
一方で、蛍光発光型においても発光効率を向上させるために様々な開発がなされており、近年新しい動きが出てきた。
例えば、特許文献1には、二つの三重項励起子の衝突により一重項励起子が生成する現象(以下、Triplet-Triplet Annihilation:以下、適宜「TTA」と略記する。また、Triplet-Triplet Fusion:「TTF」ともいう。)に着目し、TTAを効率的に起こして蛍光素子の高効率化を図る技術が開示されている。この技術により蛍光発光材料(以下、蛍光発光性材料、蛍光材料ともいう。)の電力効率は従来の蛍光発光材料の2?3倍まで向上しているが、TTAにおける理論的な一重項励起子生成効率は40%程度にとどまるため、依然としてリン光発光に比べ高発光効率化の課題を有している。
さらに、近年では、安達らにより、熱活性化型遅延蛍光(「熱励起型遅延蛍光」ともいう:Thermally Activated Delayed Fluorescence:以下、適宜「TADF」と略記する。)機構を利用した蛍光発光材料と、有機EL素子への利用の可能性が報告されている(例えば、非特許文献2?7及び特許文献2参照)。
【0005】
TADF機構は、図1に示すように、通常の蛍光発光材料に比べ、一重項励起エネルギー準位と三重項励起エネルギー準位の差(ΔEst)が小さい材料(図1では、ΔEst(TADF)がΔEst(F)よりも小さい)を用いた場合に、三重項励起子から一重項励起子への逆項間交差が生じる現象を利用した発光機構である。すなわち、ΔEstが小さいことによって、電界励起により75%の確率で発生する三重項励起子が、本来なら発光に寄与できないところ、有機EL素子駆動時の熱エネルギーなどで一重項励起状態に遷移し、その状態から基底状態へ輻射失活(「輻射遷移」又は「放射失活」ともいう。)し蛍光発光を起こすものである。このTADF機構による遅延蛍光を利用すると、蛍光発光においても、理論的には100%の内部量子効率が可能となると考えられている。
【0006】
しかしながら、TADF機構を利用した蛍光発光を起こす蛍光発光性化合物が、紫外領域に大きな発光領域を持つ場合、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光に寄与しない蛍光発光性化合物からホスト化合物へのエネルギー移動が発生してしまうと発光効率の低下につながるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/133188号
【特許文献2】国際公開第2013/081088号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「照明に向けた燐光有機EL技術の開発」応用物理 第80巻、第4号、2011年
【非特許文献2】H.Uoyama,et al.,Nature,2012,492,234-238
【非特許文献3】S.Y.Lee et al.,Applied Physics Letters,2012,101,093306-093309
【非特許文献4】Q.Zhang et al.,J.Am.Chem.Soc.,2012,134,14706-14709
【非特許文献5】T.Nakagawa et al.,Chem.Commun., 2012,48,9580-9582
【非特許文献6】A.Endo et al.,Adv.Mater.,2009,21,4802-4806
【非特許文献7】有機EL討論会 第10回例会予稿集 p11-12,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、高効率で長寿命の有機エレクトロルミネッセンス素子、当該有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた電子デバイス及び発光装置を提供することである。また、高効率で長寿命な発光材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、蛍光発光性化合物の発光極大波長の発光帯の半値幅に着目することで、ホスト化合物から蛍光発光性化合物へのエネルギー移動を効率的に制御できることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0011】
1.陽極と陰極に挟まれた少なくとも1層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記有機層のうち少なくとも1層が、蛍光発光性化合物及びホスト化合物を含有し、
前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、下記測定条件(1)下で、50%以上であり、
前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、下記測定条件(2)下で、100nm以下であり、
前記蛍光発光性化合物が、(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物であって、熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物であり、
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、
前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化5】

(一般式(I)中、X_(101)は、NR_(10)_(1、)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。R_(101)及びR_(104)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。)
測定条件(1):明細書に記載した有機EL素子1-1の作製方法と同じ方法で作製した有機EL素子を5Vで駆動し、外部量子効率測定装置を用いて積分球により、室温で外部取出し効率(EQE)を測定し、前記有機EL素子の膜厚情報と光学定数を用いて、解析ソフトにてモード解析を実施し、有機EL素子内部から素子外部に放出される光の割合から光取り出し効率(OC)を算出し、前記測定及び前記解析によって得られる前記EQE及び前記OCに基づき、内部量子効率を算出する。
測定条件(2):蛍光発光性化合物のジクロロメタン溶液を調製の上、分光蛍光光度計を用いて室温状態で測定する。
【0012】
2.前記一般式(I)で表される構造を有するホスト化合物が、下記一般式(II)で表される構造を有することを特徴とする第1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】

(一般式(II)中、X_(101)は、NR_(10)_(1)を表す。R_(10)_(1)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n102は各々0?4の整数を表す。)
【0013】
3.前記ホスト化合物が、カルバゾール骨格を有することを特徴とする第1項又は第2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0014】
4.前記有機層のうち少なくとも一つの層が、発光層であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
5.第1項から第4項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子が具備されていることを特徴とする電子デバイス。
【0016】
6.第1項から第4項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子が具備されていることを特徴とする発光装置。
【0017】
7.蛍光発光性化合物とホスト化合物を含有する発光材料であって、
前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、下記測定条件(1)下で、50%以上であり、
前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、下記測定条件(2)下で、100nm以下であり、
前記蛍光発光性化合物が、(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物であって、熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物であり、
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、
前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする発光材料。
【化6】

(一般式(I)中、X_(101)は、NR_(10)_(1)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。R_(101)及びR_(104)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。)
測定条件(1):明細書に記載した有機EL素子1-1の作製方法と同じ方法で作製した有機EL素子を5Vで駆動し、外部量子効率測定装置を用いて積分球により、室温で外部取出し効率(EQE)を測定し、前記有機EL素子の膜厚情報と光学定数を用いて、解析ソフトにてモード解析を実施し、有機EL素子内部から素子外部に放出される光の割合から光取り出し効率(OC)を算出し、前記測定及び前記解析によって得られる前記EQE及び前記OCに基づき、内部量子効率を算出する。
測定条件(2):蛍光発光性化合物のジクロロメタン溶液を調製の上、分光蛍光光度計を用いて室温状態で測定する。
【0018】
8.前記一般式(I)で表される構造を有するホスト化合物が、下記一般式(II)で表される構造を有することを特徴とする第7項に記載の発光材料。
【化4】

(一般式(II)中、X_(101)は、NR_(10)_(1)を表す。R_(10)_(1)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n102は各々0?4の整数を表す。)
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記手段により、高効率で長寿命の有機エレクトロルミネッセンス素子、当該有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた電子デバイス及び発光装置を提供することができる。また、高効率で長寿命な発光材料を提供することができる。
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0020】
有機EL素子を効率的に稼動させることを目的として、蛍光発光性化合物とホスト化合物を組み合わせて利用する場合、ホスト化合物から蛍光発光性化合物へエネルギーを移動させることを前提に使用する化合物を選定している。
しかしながら、紫外領域に大きな発光領域を持つ蛍光発光性化合物を用いた場合には、本来意図しない素子の発光に寄与しない蛍光発光性化合物からホスト化合物へのエネルギー移動の発生が見られるようになる。
この意図しないエネルギー移動の結果、素子の発光効率は低下するだけでなく、励起状態となったホスト化合物すなわち反応性の高い状態のホスト化合物が増加することとなる。更にこの励起状態となった反応性の高いホスト化合物は同種の分子同士の反応や、他のクエンチ剤と反応することで、発光層を構成する有機膜の物性を変化させてしまい、最終的には素子の寿命を劣化させるなどの悪影響に繋がることとなる。
本発明では、蛍光発光性化合物の中でも最大発光スペクトルの半値幅が特定の範囲内にあるものを用いることで紫外領域の発光成分を減らすことができることに着目し、蛍光発光性化合物からホスト化合物への意図しないエネルギー移動を抑え、高効率で長寿命の有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】通常の蛍光材料及びTADF化合物のエネルギーダイヤグラムを示した模式図
【図2】インピーダンス分光法による電子輸送層のM plotの一例を示したグラフ
【図3】有機EL素子のETL層厚と抵抗値の関係の一例を示したグラフ
【図4】有機EL素子の等価回路モデルの一例を示した模式図
【図5】インピーダンス分光法による駆動前の有機EL素子の各層の抵抗-電圧の関係を示す一例を示したグラフ
【図6】インピーダンス分光法による劣化後の有機EL素子の各層の抵抗-電圧の関係を示す一例を示したグラフ
【図7】有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図
【図8】アクティブマトリクス方式による表示装置の模式図
【図9】画素の回路を示した概略図
【図10】パッシブマトリクス方式による表示装置の模式図
【図11】照明装置の概略図
【図12】照明装置の模式図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極に挟まれた少なくとも1層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機層のうち少なくとも1層が、蛍光発光性化合物及びホスト化合物を含有し、前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、50%以上であり、前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、100nm以下であり、前記ホスト化合物が、前記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態に共通又は対応する技術的特徴である。
【0023】
本発明の実施態様としては、前記一般式(I)で表される構造を有するホスト化合物が、前記一般式(II)で表される構造を有することが好ましい。
【0024】
また、前記ホスト化合物が、カルバゾール骨格を有することが、本発明の効果をより顕著にすることができる点から好ましい。
【0025】
また、本発明においては、前記有機層のうち少なくとも一つの層が、発光層であることが好ましい。
発光層に用いる化合物の組合せが不適切な場合、すなわち半値幅の大きな蛍光発光性化合物と一般的なホスト化合物を用いた場合、蛍光発光性化合物からホスト化合物へのエネルギー移動などにより、本来不要な励起状態のホスト化合物が発生することとなる。すなわち、この不要な励起状態のホスト化合物から誘導された物質によって、発光層の膜状態の変化率が大きくなることが問題となる。この問題を解決する方法の一つとしては、本発明で用いる発光性化合物として、半値幅が一定の範囲に収まっているものを選択することが有効である。したがって、本発明の組合せを発光層に用いることで、膜物性の変化率の小さい発光層が得られることが期待できる。
【0026】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、電子デバイスに好適に具備され得る。
これにより、膜物性の変化率が小さい有機層を具備できることとなり、駆動前後のデバイスの状態変化を小さくする効果を期待でき、例えば、色ムラの少ないデバイスを得られることとなる。
【0027】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光装置に好適に具備され得る。
これにより、膜物性の変化率が小さい有機層を具備できることとなり、駆動前後の発光装置の状態変化を小さくする効果を期待でき、例えば、発光色の変化率の小さい発光装置を得られることとなる。
【0028】
本発明の発光材料は、蛍光発光性化合物とホスト化合物を含有する発光材料であって、前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、50%以上であり、前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、100nm以下であり、かつ、前記ホスト化合物が、前記一般式(I)で表される構造を有することを特徴とする。
これにより、高効率で長寿命の発光材料を得ることができる。
【0029】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記一般式(I)で表される構造を有するホスト化合物が、前記一般式(II)で表される構造を有することが、本発明の効果をより顕著にすることができる点から好ましい。
【0030】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「?」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
本論に入る前に、本発明の技術思想と関連する、有機ELの発光方式及び発光材料について述べる。
【0031】
<有機ELの発光方式>
有機ELの発光方式としては三重項励起状態から基底状態に戻る際に光を発する「リン光発光」と、一重項励起状態から基底状態に戻る際に光を発する「蛍光発光」の二通りがある。
有機ELのような電界で励起する場合には、三重項励起子が75%の確率で、一重項励起子が25%の確率で生成するため、リン光発光の方が蛍光発光に比べ発光効率を高くすることが可能で、低消費電力化を実現するには優れた方式である。
一方、蛍光発光においても、75%の確率で生成してしまう、通常では、励起子のエネルギーが、無輻射失活により、熱にしかならない三重項励起子を、高密度で存在させることによって、二つの三重項励起子から一つの一重項励起子を発生させて発光効率を向上させるTTA(Triplet-Triplet Annihilation、また、Triplet-Triplet Fusion:「TTF」と略記する。)機構を利用した方式が見つかっている。
さらに、近年では、安達らの発見により一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギーギャップを小さくすることで、発光中のジュール熱及び/又は発光素子が置かれる環境温度によりエネルギー準位の低い三重項励起状態から一重項励起状態に逆項間交差がおこり、結果としてほぼ100%に近い蛍光発光を可能とする現象(熱励起型遅延蛍光、又は熱励起型遅延蛍光ともいう:「TADF」)とそれを可能にする蛍光物質が見いだされている(例えば、非特許文献1等参照。)。
【0032】
<リン光発光材料>
前述のとおり、リン光発光は発光効率的には蛍光発光よりも理論的には3倍有利であるが、三重項励起状態から一重項基底状態へのエネルギー失活(=リン光発光)は禁制遷移であり、また同様に一重項励起状態から三重項励起状態への項間交差も禁制遷移であるため、通常その速度定数は小さい。すなわち、遷移が起こりにくいため、励起子寿命はミリ秒から秒オーダーと長くなり、所望の発光を得ることは困難である。
ただし、イリジウムや白金などの重金属を用いた錯体が発光する場合には、中心金属の重原子効果によって、前記の禁制遷移の速度定数が3桁以上増大し、配位子の選択によっては、100%のリン光量子収率を得ることも可能となる。
しかしながら、このような理想的な発光を得るためには、希少金属であるイリジウムやパラジウム、白金などのいわゆる白金属と呼ばれる貴金属を用いる必要があり、大量に使用されることになるとその埋蔵量や金属自体の値段が産業上大きな問題となってくる。
【0033】
<蛍光発光材料>
一般的な蛍光材料は、リン光材料のような重金属錯体である必要性は特になく、炭素、酸素、窒素、水素などの一般的な元素の組合せから構成される、いわゆる有機化合物が適用でき、さらに、リンや硫黄、ケイ素などその他の非金属元素を用いることも可能で、また、アルミニウムや亜鉛などの典型金属の錯体も活用できるなど、その多様性はほぼ無限と言える。
【0034】
蛍光発光材料として用いることができる、本発明に係る蛍光発光性化合物としては、電気的励起での内部量子効率が、50%以上であり、室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、100nm以下であることを特徴とする。
一般的な蛍光発光性化合物の場合、理論的な内部量子効率の上限は25%である。これに対し安達等により提唱された、これまでとは異なる発光過程を持った一部の蛍光発光性化合物では、内部量子効率の上限は理論上100%となる(非特許文献2参照。)。しかしながら、これまでに知られているこれらの新しい原理に基づく化合物については、合成難易度の高さなどに起因して十分な探索検討がなされているとは言えない。その結果、これまでの報告では半値幅の大きな化合物を用いた例が多く見受けられた。
【0035】
発光層等の有機層に用いる化合物の組合せが不適切な場合、すなわち半値幅の大きな蛍光発光性化合物と一般的なホスト化合物を用いた場合には、蛍光発光性化合物からホスト化合物へのエネルギー移動などが誘起され、本来不要な励起状態のホスト化合物が発生することとなる。すなわち、この不要な励起状態のホスト化合物から誘導された物質によって、発光層の膜状態の変化率が大きくなることが解決すべき問題となる。したがって、一般的な蛍光発光性化合物を用いた場合では、問題とならなかった蛍光発光性化合物の半値幅に着目した対応が必要となった。
蛍光発光性化合物の内部量子効率が25%を超えたものについては、新しい原理に基づく蛍光発光性化合物と分類され、内部量子効率が50%を超えたものでより顕著に発光層の膜状態の変化率が大きくなることがわかってきた。
【0036】
この問題を解決する方法の一つとしては、本発明で用いる蛍光発光性化合物として、半値幅が一定の範囲に収まっているものを選択することが有効である。この範囲について鋭意研究を重ねた結果、蛍光発光性化合物の、室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、100nm以下であれば、実用上好ましく、かつ、内部量子効率の値が50%以上の蛍光発光性化合物を用いた場合に課題を改善できることを確認した。蛍光発光性化合物の、室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅は、狭い方が理論上好ましいが、実用上の観点から30?100nmの範囲内であることがより好ましい。
このような蛍光発光性化合物を用いることで、高い内部量子効率を有効に有機エレクトロルミネッセンス素子等の発光に寄与させることができる。
【0037】
<遅延蛍光材料>
〈励起三重項-三重項消滅(TTA)遅延蛍光材料〉
蛍光発光材料の問題点を解決すべく登場したのが遅延蛍光を利用した発光方式である。三重項励起子同士の衝突を起源とするTTA方式は、下記のような一般式で記述できる。すなわち、従来、励起子のエネルギーが、無輻射失活により、熱にしか変換されなかった三重項励起子の一部が、発光に寄与しうる一重項励起子に逆項間交差できるメリットがあり、実際の有機EL素子においても従来の蛍光発光素子の約2倍の外部取りだし量子効率を得ることができている。
一般式: T^(*) + T^(*) → S^(*) + S
(式中、T^(*)は三重項励起子、S^(*)は一重項励起子、Sは基底状態分子を表す。)
しかしながら、上式からもわかるように、二つの三重項励起子から発光に利用できる一重項励起子は一つしか生成しないため、この方式で100%の内部量子効率を得ることは原理上できない。
【0038】
〈熱活性型遅延蛍光(TADF)材料〉
もう一つの高効率蛍光発光であるTADF方式は、TTAの問題点を解決できる方式である。
蛍光材料は前記のごとく無限に分子設計できる利点を持っている。すなわち、分子設計された化合物の中で、特異的に三重項励起状態と一重項励起状態のエネルギー準位差(以降、ΔEstと記載する。)が極めて近接する化合物が存在する(図1参照)。
このような化合物は、分子内に重原子を持っていないにもかかわらず、ΔEstが小さいために通常では起こりえない三重項励起状態から一重項励起状態への逆項間交差が起こる。さらに、一重項励起状態から基底状態への失活(=蛍光発光)の速度定数が極めて大きいことから、三重項励起子はそれ自体が基底状態に熱的に失活(無輻射失活)するよりも、一重項励起状態経由で蛍光を発しながら基底状態に戻る方が速度論的に有利である。そのため、TADFでは理想的には100%の蛍光発光が可能となる。
【0039】
<ΔEstに関する分子設計思想>
上記ΔEstを小さくするための分子設計について説明する。
ΔEstを小さくするためには、原理上分子内の最高被占軌道(Highest Occupied Molecular Orbital:HOMO)と最低空軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:LUMO)の空間的な重なりを小さくすることが最も効果的である。
一般に分子の電子軌道において、HOMOは電子供与性部位に、LUMOは電子吸引性部位に分布することが知られており、分子内に電子供与性と電子吸引性の骨格を導入することによって、HOMOとLUMOが存在する位置を遠ざけることが可能である。
例えば、前述の非特許文献2においては、シアノ基やスルホニル基、トリアジンなどの電子吸引性の骨格と、カルバゾールやジフェニルアミノ基等の電子供与性の骨格とを導入することで、LUMOとHOMOとをそれぞれ局在化させている。
また、化合物の基底状態と三重項励起状態との分子構造変化を小さくすることも効果的である。構造変化を小さくするための方法としては、例えば、化合物を剛直にすることなどが効果的である。ここで述べる剛直とは、例えば、分子内の環と環との結合における自由回転を抑制したり、またπ共役面の大きい縮合環を導入するなど、分子内において自由に動ける部位が少ないことを意味する。特に、発光に関与する部位を剛直にすることによって、励起状態における構造変化を小さくすることが可能である。
【0040】
<TADF材料が抱える一般的な問題>
TADF材料は、その発光機構及び分子構造の面から種々の問題を抱えている。
以下に、一般的にTADF材料が抱える問題の一部について記載する。
TADF材料においては、ΔEstを小さくするためにHOMOとLUMOの存在する部位をできるだけ離すことが必要であるが、このため、分子の電子状態はHOMO部位とLUMO部位が分離したドナー/アクセプター型の分子内CT(分子内電荷移動状態)に近い状態となってしまう。
このような分子は、複数存在する場合、一方の分子のドナー部分と他方の分子のアクセプター部分とを近接させると安定化が図られる。そのような安定化状態は2分子間での形成に限らず、3分子間又は5分子間であったりと、複数の分子間でも形成が可能であり、結果、広い分布を持った種々の安定化状態が存在することになり、吸収スペクトル及び発光スペクトルの形状はブロードとなる。また、2分子を超える多分子集合体を形成しない場合であっても、二つの分子の相互作用する方向や角度などの違いによって様々な存在状態を取り得るため、基本的にはやはり吸収スペクトル及び発光スペクトルの形状はブロードになる。
【0041】
発光スペクトルがブロードになることは二つの大きな問題を発生する。
一つは、発光色の色純度が低くなってしまう問題である。照明用途に適用する場合にはそれほど大きな問題にはならないが、電子ディスプレイ用途に用いる場合には色再現域が小さくなり、また、純色の色再現性が低くなることから、実際に商品として適用するのは困難になる。
【0042】
もう一つの問題は、発光スペクトルの短波長側の立ち上がり波長(「蛍光ゼロ-ゼロバンド」と呼ぶ。)が短波長化、すなわち高S_(1)化(励起一重項エネルギーの高エネルギー化)してしまうことである。
当然、蛍光ゼロ-ゼロバンドが短波長化すると、S_(1)よりもエネルギーの低いT_(1)に由来するリン光ゼロ-ゼロバンドも短波長化(高T_(1)化)してしまう。そのため、ホストに用いる化合物はドーパントからの逆エネルギー移動を起こさないようにするために、高S_(1)化かつ高T_(1)化する必要が生じてくる。
これは非常に大きな問題である。基本的に有機化合物からなるホスト化合物は、有機EL素子中で、カチオンラジカル状態、アニオンラジカル状態及び励起状態という、複数の活性かつ不安定な化学種の状態を取るが、それら化学種は分子内のπ共役系を拡大することで比較的安定に存在させることができる。
【0043】
しかしながら、高S_(1)化かつ高T_(1)化を達成するには、分子内のπ共役系を縮小するか又は断ち切ることが必要となり、安定性と両立させることが困難になって、結果的には発光素子の寿命を短くしてしまうことになる。
また、重金属を含まないTADF材料においては、三重項励起状態から基底状態に失活する遷移は禁制遷移であるため、三重項励起状態での存在時間(励起子寿命)は数百μ秒からミリ秒オーダーと極めて長い。そのため、仮にホスト化合物のT_(1)エネルギーが発光材料のそれよりも高いエネルギーレベルであったとしても、その存在時間の長さから発光材料の三重項励起状態からホスト化合物へと逆エネルギー移動を起こす確率が増大してしまう。その結果、本来意図するTADF材料の三重項励起状態から一重項励起状態への逆項間交差が十分におこらずに、ホスト化合物への好ましくない逆エネルギー移動が主流となって、十分な発光効率が得られないという不具合が生じてしまう。
【0044】
上記のような問題を解決するためには、TADF材料の発光スペクトル形状をシャープ化し、発光極大波長と発光スペクトルの立ち上がり波長の差を小さくすることが必要となる。そのためには、基本的には一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化を小さくすることにより達成することが可能である。
また、ホスト化合物への逆エネルギー移動を抑制するためには、TADF材料の三重項励起状態の存在時間(励起子寿命)を短くすることが効果的である。それを実現するには、基底状態と三重項励起状態との分子構造変化を小さくすること、及び、禁制遷移をほどくのに好適な置換基や元素を導入することなどの対策を講じることで、問題点を解決することが可能である。
【0045】
本発明は、上記のように励起状態の構造変化を抑えた発光材料、及び三重項励起状態の存在時間が短い発光材料も設計思想として含むものである。
以下に、本発明に係る蛍光発光性化合物、特にΔEstの小さい材料に関する種々の測定方法について記載する。
【0046】
<インピーダンス分光測定による薄膜抵抗値の測定例>
インピーダンス分光法は、有機ELの微妙な物性変化を電気信号に変換したり、増幅して解析できる手法であり、有機ELを破壊することなく高感度の抵抗値(R)及び静電容量(C)を計測できることが特徴である。
インピーダンス分光解析にはZ plot、M plot、ε plotを使って電気特性を計測するのが一般的であり、その解析方法は、『薄膜の評価ハンドブック』テクノシステム社刊423ページ?425ページ等に詳細に掲載されている。
【0047】
有機EL素子、例えば、素子構成「ITO/HIL(正孔注入層)/HTL(正孔輸送層)/EML(発光層)/ETL(電子輸送層)/EIL(電子注入層)/Al」に対してインピーダンス分光法を適用し、特定の層の抵抗値を求める手法を説明する。
例えば、電子輸送層(ETL)の抵抗値を計測する場合、ETLの厚みだけを変更した素子を作製し、それぞれのM plotを比較することで、当該プロットにより描き出される曲線のどの部分がETLに相当するかを確定することができる。
【0048】
図2は電子輸送層の層厚違いのM plotの一例である。層厚が各々30、45及び60nmの場合の例を示す。
【0049】
このプロットから求めた抵抗値(R)をETLの層厚に対してプロットしたのが図3であり、ほぼ直線上に乗ることから、各層厚での抵抗値を決定することができる。
【0050】
図3はETL層厚と抵抗値の関係を示す一例である。図3のETL層厚と抵抗値(Resistannce)との関係より、ほぼ直線上に乗ることから、各層厚での抵抗値を決定することができる。
【0051】
素子構成「ITO/HIL/HTL/EML/ETL/EIL/Al」の有機EL素子を等価回路モデル(図4)として各層を解析した結果が図5である。図5は各層の抵抗-電圧の関係を示す一例である。
【0052】
図4は素子構成「ITO/HIL/HTL/EML/ETL/EIL/Al」の有機EL素子の等価回路モデルを示している。
図5は素子構成「ITO/HIL/HTL/EML/ETL/EIL/Al」の有機EL素子の解析結果の一例である。
【0053】
これに対し、同じ有機EL素子を長時間発光させて劣化させた後に、同じ条件で測定し、それらを重ね合わせたのが図6であり、電圧1Vにおけるそれぞれの値を表1にまとめた。図6は劣化後の有機EL素子の解析結果を示す一例である。
【0054】
【表1】

【0055】
劣化後の有機EL素子においては、ETLのみが劣化により抵抗値が大きく上昇し、DC電圧1Vにおいて、約30倍の抵抗値になっていることがわかる。
【0056】
以上の手法を用いることで、本発明の実施例に記載した通電前後の抵抗変化の計測が可能となる。
【0057】
<蛍光発光性化合物の発光スペクトルの半値幅の測定>
蛍光発光性化合物の発光スペクトルの測定は、蛍光発光性化合物のジクロロメタン溶液を調整の上、日立分光蛍光光度計F-4000を用いて室温で測定し、発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅を得ることができる。
【0058】
<蛍光発光性化合物の内部量子効率(IQE)の算出>
蛍光発光性化合物の内部量子効率の算出は、蛍光発光性化合物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子を作製し、文献(A.Chutinan,K.Ishihara,T.Asano,M.Fujita,and S.Noda,″Theoretical Analysis on Light-Extraction Efficiency of Organic Light-Emitting Diodes using FDTD and Mode-Expansion Methods,″Organic Electronics,vol.6,pp.3-9(2005).)の記載を参考に以下の方法により実施することができる。
具体的には、有機EL素子を5Vで駆動した場合に、外部量子効率測定装置を用いて積分球により、室温で外部取り出し効率(以下EQE)を測定することができる。
そして、有機EL素子の膜厚情報と光学定数を用いて解析ソフトにてモード解析を実施し、有機EL素子内部から素子外部に放出される光の割合、すなわち光取り出し効率(以下OC)を算出することができる。
外部量子効率(EQE)は内部量子効率(以下IQE)と光取り出し効率(OC)の積で表現できる(式(A)参照)。
式(A): EQE=IQE×OC
本発明では、測定及び解析によって得られるEQE及びOCを式(A)に適用し、有機EL素子の蛍光発光性化合物の内部量子効率を算出することができる。
【0059】
《有機EL素子の構成層》
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極に挟まれた少なくとも1層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機層のうち少なくとも1層が、蛍光発光性化合物及びカルバゾール誘導体を含有し、前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、50%以上であり、前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、100nm以下であることを特徴とする。
各層及び層に含有される化合物について以下に詳細に説明する。
【0060】
本発明の有機EL素子における代表的な素子構成としては、以下の構成を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(1)陽極/発光層/陰極
(2)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(3)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(4)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(5)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(7)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/(電子阻止層/)発光層/(正孔阻止層/)電子輸送層/電子注入層/陰極
上記の中で(7)の構成が好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
本発明に係る発光層は、単層又は複数層で構成されており、発光層が複数の場合は各発光層の間に非発光性の中間層を設けてもよい。
【0061】
必要に応じて、発光層と陰極との間に正孔阻止層(正孔障壁層ともいう)や電子注入層(陰極バッファー層ともいう)を設けてもよく、また、発光層と陽極との間に電子阻止層(電子障壁層ともいう)や正孔注入層(陽極バッファー層ともいう)を設けてもよい。
本発明に係る電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する層であり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
本発明に係る正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する層であり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
上記の代表的な素子構成において、陽極と陰極を除いた層を「有機層」ともいう。
【0062】
(タンデム構造)
また、本発明に係る有機EL素子は、少なくとも1層の発光層を含む発光ユニットを複数積層した、いわゆるタンデム構造の素子であってもよい。
タンデム構造の代表的な素子構成としては、例えば以下の構成を挙げることができる。
陽極/第1発光ユニット/中間層/第2発光ユニット/中間層/第3発光ユニット/陰極
ここで、上記第1発光ユニット、第2発光ユニット及び第3発光ユニットは全て同じであっても、異なっていてもよい。また二つの発光ユニットが同じであり、残る一つが異なっていてもよい。
複数の発光ユニットは直接積層されていても、中間層を介して積層されていてもよく、中間層は、一般的に中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層とも呼ばれ、陽極側の隣接層に電子を、陰極側の隣接層に正孔を供給する機能を持った層であれば、公知の材料構成を用いることができる。
【0063】
中間層に用いられる材料としては、例えば、ITO(インジウム・スズ酸化物)、IZO(インジウム・亜鉛酸化物)、ZnO_(2)、TiN、ZrN、HfN、TiO_(x)、VO_(x)、CuI、InN、GaN、CuAlO_(2)、CuGaO_(2)、SrCu_(2)O_(2)、LaB_(6)、RuO_(2)、Al等の導電性無機化合物層や、Au/Bi_(2)O_(3)等の2層膜や、SnO_(2)/Ag/SnO_(2)、ZnO/Ag/ZnO、Bi_(2)O_(3)/Au/Bi_(2)O_(3)、TiO_(2)/TiN/TiO_(2)、TiO_(2)/ZrN/TiO_(2)等の多層膜、またC_(60)等のフラーレン類、オリゴチオフェン等の導電性有機物層、金属フタロシアニン類、無金属フタロシアニン類、金属ポルフィリン類、無金属ポルフィリン類等の導電性有機化合物層等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
発光ユニット内の好ましい構成としては、例えば上記の代表的な素子構成で挙げた(1)?(7)の構成から、陽極と陰極を除いたもの等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0064】
タンデム型有機EL素子の具体例としては、例えば、米国特許第6337492号明細書、米国特許第7420203号明細書、米国特許第7473923号明細書、米国特許第6872472号明細書、米国特許第6107734号明細書、米国特許第6337492号明細書、国際公開第2005/009087号、特開2006-228712号公報、特開2006-24791号公報、特開2006-49393号公報、特開2006-49394号公報、特開2006-49396号公報、特開2011-96679号公報、特開2005-340187号公報、特許第4711424号、特許第3496681号、特許第3884564号特許第4213169号、特開2010-192719号公報、特開2009-076929号公報、特開2008-078414号公報、特開2007-059848号公報、特開2003-272860号公報、特開2003-045676号公報、国際公開第2005/094130号等に記載の素子構成や構成材料等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0065】
以下、本発明の有機EL素子を構成する各層について説明する。
【0066】
《発光層》
本発明に係る発光層は、電極又は隣接層から注入されてくる電子及び正孔が再結合し、励起子を経由して発光する場を提供する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても、発光層と隣接層との界面であってもよい。本発明に係る発光層は、本発明で規定する要件を満たしていれば、その構成に特に制限はない。
発光層の層厚の総和は、特に制限はないが、形成する膜の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、かつ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、2nm?5μmの範囲に調整することが好ましく、より好ましくは2?500nmの範囲に調整され、更に好ましくは5?200nmの範囲に調整される。
また、本発明の個々の発光層の層厚としては、2nm?1μmの範囲に調整することが好ましく、より好ましくは2?200nmの範囲に調整され、更に好ましくは3?150nmの範囲に調整される。
本発明の発光層には、前述の蛍光発光材料を発光ドーパント(蛍光発光性化合物、発光性ドーパント化合物、ドーパント化合物、単にドーパントともいう。)として含有し、さらに前述のホスト化合物(マトリックス材料、発光ホスト化合物、単にホストともいう。)とを含有することが好ましい。
【0067】
(1)発光ドーパント
発光ドーパントとしては、蛍光発光性ドーパント(蛍光発光性化合物、蛍光ドーパント、蛍光性化合物ともいう。)と、リン光発光性ドーパント(リン光発光性化合物、リン光ドーパント、リン光性化合物ともいう。)が好ましく用いられる。本発明においては、少なくとも1層の発光層が前述の蛍光発光材料を含有することが好ましい。
発光層中の発光ドーパントの濃度については、使用される特定のドーパント及びデバイスの必要条件に基づいて、任意に決定することができ、発光層の層厚方向に対し、均一な濃度で含有されていてもよく、また任意の濃度分布を有していてもよい。
また、本発明に係る発光ドーパントは、複数種を併用して用いてもよく、構造の異なるドーパント同士の組み合わせや、蛍光発光性ドーパントとリン光発光性ドーパントとを組み合わせて用いてもよい。これにより、任意の発光色を得ることができる。
【0068】
本発明の有機EL素子や本発明に係る化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図9.16において、分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタ(株)製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
本発明においては、1層又は複数層の発光層が、発光色の異なる複数の発光ドーパントを含有し、白色発光を示すことも好ましい。
白色を示す発光ドーパントの組み合わせについては特に限定はないが、例えば青と橙や、青と緑と赤の組み合わせ等が挙げられる。
本発明の有機EL素子における白色とは、2度視野角正面輝度を前述の方法により測定した際に、1000cd/m^(2)でのCIE1931表色系における色度がx=0.39±0.09、y=0.38±0.08の領域内にあることが好ましい。
【0069】
(1.1)蛍光発光性ドーパント
本発明に係る蛍光発光性ドーパント(以下、「蛍光ドーパント」ともいう)として、以下に好ましい蛍光発光性化合物の具体例を示す。
【0070】
【化5】

【0071】
【化6】

【0072】
【化7】

【0073】
(1.2)リン光発光性ドーパント
本発明に用いられるリン光発光性ドーパント(以下、「リン光ドーパント」ともいう。)について説明する。
本発明に用いられるリン光発光性ドーパントは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に係るリン光ドーパントは、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
リン光ドーパントは、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。本発明に使用できる公知のリン光ドーパントの具体例としては、以下の文献に記載されている化合物等が挙げられる。
Nature 395,151(1998)、Appl.Phys.Lett.78,1622(2001)、Adv.Mater.19,739(2007)、Chem.Mater.17,3532(2005)、Adv.Mater.17,1059(2005)、国際公開第2009/100991号、国際公開第2008/101842号、国際公開第2003/040257号、米国特許出願公開第2006/835469号明細書、米国特許出願公開第2006/0202194号明細書、米国特許出願公開第2007/0087321号明細書、米国特許出願公開第2005/0244673号明細書、Inorg.Chem.40,1704(2001)、Chem.Mater.16,2480(2004)、Adv.Mater.16,2003(2004)、Angew.Chem.lnt.Ed.2006,45,7800、Appl.Phys.Lett.86,153505(2005)、Chem.Lett.34,592(2005)、Chem.Commun.2906(2005)、Inorg.Chem.42,1248(2003)、国際公開第2009/050290号、国際公開第2002/015645号、国際公開第2009/000673号、米国特許出願公開第2002/0034656号明細書、米国特許第7332232号明細書、米国特許出願公開第2009/0108737号明細書、米国特許出願公開第2009/0039776号明細書、米国特許第6921915号明細書、米国特許第6687266号明細書、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書、米国特許出願公開第2006/0008670号明細書、米国特許出願公開第2009/0165846号明細書、米国特許出願公開第2008/0015355号明細書、米国特許第7250226号明細書、米国特許第7396598号明細書、米国特許出願公開第2006/0263635号明細書、米国特許出願公開第2003/0138657号明細書、米国特許出願公開第2003/0152802号明細書、米国特許第7090928号明細書、Angew.Chem.lnt.Ed.47,1(2008)、Chem.Mater.18,5119(2006)、Inorg.Chem.46,4308(2007)、Organometallics 23,3745(2004)、Appl.Phys.Lett.74,1361(1999)、国際公開第2002/002714号、国際公開第2006/009024号、国際公開第2006/056418号、国際公開第2005/019373号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2007/004380号、国際公開第2006/082742号、米国特許出願公開第2006/0251923号明細書、米国特許出願公開第2005/0260441号明細書、米国特許第7393599号明細書、米国特許第7534505号明細書、米国特許第7445855号明細書、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書、米国特許出願公開第2008/0297033号明細書、米国特許第7338722号明細書、米国特許出願公開第2002/0134984号明細書、米国特許第7279704号明細書、米国特許出願公開第2006/098120号明細書、米国特許出願公開第2006/103874号明細書、国際公開第2005/076380号、国際公開第2010/032663号、国際公開第2008/140115号、国際公開第2007/052431号、国際公開第2011/134013号、国際公開第2011/157339号、国際公開第2010/086089号、国際公開第2009/113646号、国際公開第2012/020327号、国際公開第2011/051404号、国際公開第2011/004639号、国際公開第2011/073149号、米国特許出願公開第2012/228583号明細書、米国特許出願公開第2012/212126号明細書、特開2012-069737号公報、特開2012-195554号公報、特開2009-114086号公報、特開2003-81988号公報、特開2002-302671号公報、特開2002-363552号公報等である。
中でも、好ましいリン光ドーパントとしてはIrを中心金属に有する有機金属錯体が挙げられる。さらに好ましくは、金属-炭素結合、金属-窒素結合、金属-酸素結合、金属-硫黄結合の少なくとも一つの配位様式を含む錯体が好ましい。
【0074】
(2)ホスト化合物
本発明に係るホスト化合物は、発光層において主に電荷の注入及び輸送を担う化合物であり、有機EL素子においてそれ自体の発光は実質的に観測されない。
ホスト化合物は、発光層に含有される化合物の内で、その層中での質量比が20%以上であることが好ましい。
ホスト化合物は、単独で用いてもよく、又は複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。
以下に、本発明において好ましく用いられるホスト化合物について述べる。
【0075】
本発明に係る蛍光発光性化合物とともに用いられるホスト化合物としては特に制限はないが、逆エネルギー移動の観点から、本発明に係る蛍光発光性化合物の励起一重項エネルギーより大きな励起エネルギーをもつものが好ましく、さらに本発明に係る蛍光発光性化合物の励起三重項エネルギーより大きな励起三重項エネルギーをもつものがより好ましい。
ホスト化合物は、発光層内においてキャリアの輸送及び励起子の生成を担う。そのため、カチオンラジカル状態、アニオンラジカル状態、及び励起状態の全ての活性種の状態において安定に存在でき、分解や付加反応などの化学変化を起こさないこと、さらに、層中において通電経時でホスト分子がオングストロームレベルで移動しないことが好ましい。
【0076】
また、特に併用する発光ドーパントがTADF発光を示す場合には、TADF材料の三重項励起状態の存在時間が長いことから、ホスト化合物自体のT_(1)エネルギーが高いこと、さらにホスト化合物同士が会合した状態で低T_(1)状態を作らないこと、TADF材料とホスト化合物とがエキサイプレックスを形成しないこと、ホスト化合物が電界によりエレクトロマーを形成しないことなど、ホスト化合物が低T_(1)化しないような分子構造の適切な設計が必要となる。
このような要件を満たすためには、ホスト化合物自体が電子のホッピング移動性が高いこと、かつ、正孔のホッピング移動が高いこと、三重項励起状態となったときの構造変化が小さいことが必要である。このような要件を満たすホスト化合物の代表格としてカルバゾール骨格、アザカルバゾール骨格、ジベンゾフラン骨格、ジベンゾチオフェン骨格又はアザジベンゾフラン骨格などの、高T_(1)エネルギーを有し、かつ14π電子系の拡張π共役骨格を部分構造として有するものが好ましく挙げられる。さらに、これらの環がビアリール及び/又はマルチアリール構造を取った化合物などが代表例として挙げられる。ここでいう「アリール」とは、芳香族炭化水素環だけでなく芳香族複素環も含む。
より好ましくは、カルバゾール骨格と、カルバゾール骨格とは異なる分子構造を持つ14π電子系の芳香族複素環化合物とが直接結合した化合物であり、さらに14π電子系の芳香族複素環化合物を分子内に二つ以上持つカルバゾール誘導体が好ましい。
【0077】
また、本発明に係るホスト化合物としては、下記一般式(I)で表される構造を有することを特徴とする。これは、下記一般式(I)で表される化合物は、縮環構造を有するためにπ電子雲が広がっておりキャリア輸送性が高く、高いガラス転移温度(Tg)を有するためである。さらに、一般に縮合芳香族環は三重項エネルギー(T_(1))が小さい傾向があるが、一般式(I)で表される化合物は高いT_(1)を有しており、発光波長の短い(すなわちT_(1)及びS_(1)の大きい)発光材料に対しても好適に用いることができる。
【0078】
【化8】

【0079】
上記一般式(I)において、X_(101)は、NR_(101)、酸素原子、硫黄原子、CR_(102)R_(103)又はSiR_(102)R_(103)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。
R_(101)?R_(104)は、各々水素原子又は置換基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。
Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香環を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。
n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。
【0080】
一般式(I)におけるR_(101)?R_(104)は水素又は置換基を表し、ここにいう置換基は本発明のホスト化合物の機能を阻害しない範囲で有しても良いものを指し、例えば、合成スキーム上置換基が導入されてしまう場合で、本発明の効果を奏する化合物は本発明に包含される旨を規定するものである。
R_(101)?R_(104)で各々表される置換基としては、例えば、直鎖又は分岐アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基等)、アルキニル基(例えば、エチニル基、プロパルギル基等)、芳香族炭化水素環基(芳香族炭素環基、アリール基等ともいう。例えば、ベンゼン環、ビフェニル、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o-ターフェニル環、m-ターフェニル環、p-ターフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、インデン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環、テトラリン等から導出される基)、芳香族複素環基(例えば、フラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ジベンゾチオフェン環、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノリン環、イソキノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭化水素環の炭素原子の一つが更に窒素原子で置換されている環等から導出される基。また、カルボリン環とジアザカルバゾール環を合わせて「アザカルバゾール環」と呼ぶ場合もある。)、非芳香族炭化水素環基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、非芳香族複素環基(例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2-ピリジルアミノスルホニル基等)、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2-エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2-エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2-エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2-ピリジルアミノカルボニル基等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基ナフチルウレイド基、2-ピリジルアミノウレイド基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2-エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2-ピリジルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2-エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等)、アリールスルホニル基又はヘテロアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2-ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2-エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2-ピリジルアミノ基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、フッ化炭化水素基(例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、チオール基、シリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等)、重水素原子等が挙げられる。
【0081】
これらの置換基は、上記の置換基によって更に置換されていてもよい。また、これらの置換基は複数が互いに結合して環を形成していてもよい。
一般式(I)におけるy_(1)?y_(8)としては、好ましくは、y_(1)?y_(4)の内の少なくとも三つ、又はy_(5)?y_(8)の内の少なくとも三つがCR_(102)で表され、より好ましくはy_(1)?y_(8)が全てCR_(102)である。このような骨格は、正孔輸送性又は電子輸送性に優れ、陽極・陰極から注入された正孔・電子を効率よく発光層内で再結合・発光させることができる。
中でも、LUMOのエネルギー準位が浅く、電子輸送性に優れる構造として、一般式(I)中でX_(101)が、NR_(101)、酸素原子又は硫黄原子である化合物が好ましい。より好ましくは、X_(101)及びy_(1)?y_(8)とともに形成される縮合環が、カルバゾール環、アザカルバゾール環、ジベンゾフラン環又はアザジベンゾフラン環である。
【0082】
さらに、ホスト化合物を剛直にすることが好ましいという目的から考え、X_(101)がNR_(101)の場合においては、R_(101)は前述で挙げられた置換基の内、π共役系骨格である芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基であることが好ましい。また、これらのR_(101)は更に前述のR_(101)?R_(104)で表される置換基で置換されていてもよい。
一般式(I)において、Ar_(101)及びAr_(102)により表される芳香環としては、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環が挙げられる。該芳香環は単環でも縮合環でもよく、更に未置換でも、前述のR_(101)?R_(104)で表される置換基と同様の置換基を有してもよい。
一般式(I)において、Ar_(101)及びAr_(102)により表される芳香族炭化水素環としては、例えば、前述のR_(101)?R_(104)で表される置換基の例として挙げられた芳香族炭化水素環基と同様の環が挙げられる。
一般式(I)で表される部分構造において、Ar_(101)及びAr_(102)により表される芳香族複素環としては、例えば、前述のR_(101)?R_(104)で表される置換基の例として挙げられた芳香族複素環基と同様の環が挙げられる。
【0083】
一般式(I)で表されるホスト化合物が大きなT_(1)を有するという目的を考えた場合には、Ar_(101)及びAr_(102)で表される芳香環自身のT_(1)が高いことが好ましく、ベンゼン環(ベンゼン環が複数連結したポリフェニレン骨格(ビフェニル、テルフェニル、クォーターフェニル等)も含む)、フルオレン環、トリフェニレン環、カルバゾール環、アザカルバゾール環、ジベンゾフラン環、アザジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ピリジン環、ピラジン環、インドロインドール環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、イミダゾール環又はトリアジン環等が好ましい。より好ましくはベンゼン環、カルバゾール環、アザカルバゾール環、ジベンゾフラン環である。
Ar_(101)及びAr_(102)がカルバゾール環又はアザカルバゾール環の場合は、N位(又は9位ともいう)又は3位で結合していることがより好ましい。
Ar_(101)及びAr_(102)がジベンゾフラン環の場合は、2位又は4位で結合していることがより好ましい。
また、上記の目的とは別に、有機EL素子を車内に積載して使用する用途などを考えた場合においては、車内の環境温度が高くなることが想定されるため、ホスト化合物のTgが高いことも好ましい。そこで、一般式(I)で表されるホスト化合物を高Tg化するという目的から、Ar_(101)及びAr_(102)により表される芳香環としては、各々3環以上の縮合環が好ましい一態様である。
【0084】
3環以上が縮合した芳香族炭化水素縮合環としては、具体的には、ナフタセン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、ヘキサセン環、フェナントレン環、ピレン環、ベンゾピレン環、ベンゾアズレン環、クリセン環、ベンゾクリセン環、アセナフテン環、アセナフチレン環、トリフェニレン環、コロネン環、ベンゾコロネン環、ヘキサベンゾコロネン環、フルオレン環、ベンゾフルオレン環、フルオランテン環、ペリレン環、ナフトペリレン環、ペンタベンゾペリレン環、ベンゾペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピラントレン環、コロネン環、ナフトコロネン環、オバレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。なお、これらの環は、更に上記の置換基を有していてもよい。
また、3環以上が縮合した芳香族複素環としては、具体的には、アクリジン環、ベンゾキノリン環、カルバゾール環、カルボリン環、フェナジン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、カルボリン環、サイクラジン環、キンドリン環、テペニジン環、キニンドリン環、トリフェノジチアジン環、トリフェノジオキサジン環、フェナントラジン環、アントラジン環、ペリミジン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭素原子の任意の一つが窒素原子で置き換わったものを表す)、フェナントロリン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ナフトフラン環、ナフトチオフェン環、ベンゾジフラン環、ベンゾジチオフェン環、ナフトジフラン環、ナフトジチオフェン環、アントラフラン環、アントラジフラン環、アントラチオフェン環、アントラジチオフェン環、チアントレン環、フェノキサチイン環、チオファントレン環(ナフトチオフェン環)等が挙げられる。なお、これらの環は更に置換基を有していてもよい。
【0085】
一般式(I)において、n101及びn102は各々0?2であることが好ましく、より好ましくはn101+n102が1?3である。また、R_(101)が水素原子の場合にn101及びn102が同時に0であると、一般式(I)で表されるホスト化合物の分子量が小さく低いTgしか達成できないため、R_(101)が水素原子の場合にはn101は1?4を表す。
本発明においては、特に、ジベンゾフラン環とカルバゾール環をともに有するホスト化合物が好ましい。
【0086】
本発明に係るホスト化合物として、カルバゾール誘導体が、一般式(II)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。このような化合物は、特にキャリア輸送性に優れる傾向があるためである。
【0087】
【化9】

【0088】
一般式(II)において、X_(101)、Ar_(101)、Ar_(102)、n102は、前記一般式(I)におけるX_(101)、Ar_(101)、Ar_(102)、n102と同義である。
n102は好ましくは0?2であり、より好ましくは0又は1である。
一般式(II)において、X_(101)を含んで形成される縮合環は、Ar_(101)及びAr_(102)以外にも本発明のホスト化合物の機能を阻害しない範囲でさらに置換基を有しても良い。
さらに、一般式(II)で表される化合物が下記一般式(III-1)、(III-2)又は(III-3)で表されることが好ましい。
【0089】
【化10】

【0090】
一般式(III-1)?(III-3)において、X_(101)、Ar_(102)、n102は、前記一般式(II)におけるX_(101)、Ar_(102)、n102と同義である。
一般式(III-1)?(III-3)において、X_(101)を含んで形成される縮合環、カルバゾール環及びベンゼン環は、本発明のホスト化合物の機能を阻害しない範囲でさらに置換基を有しても良い。
以下に、本発明に係るホスト化合物として、一般式(I)、(II)、(III-1)?(III-3)で表される化合物及びその他の構造からなる化合物例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0091】
【化11】

【0092】
【化12】

【0093】
【化13】

【0094】
【化14】

【0095】
【化15】


【0096】
【化16】

【0097】
【化17】

【0098】
【化18】

【0099】
【化19】

【0100】
【化20】

【0101】
【化21】

【0102】
【化22】

【0103】
【化23】

【0104】
【化24】

【0105】
【化25】

【0106】
【化26】

【0107】
【化27】

【0108】
【化28】

【0109】
【化29】

【0110】
【化30】

【0111】
【化31】

【0112】
【化32】

【0113】
【化33】

【0114】
【化34】

【0115】
【化35】

【0116】
【化36】

【0117】
【化37】

【0118】
【化38】

【0119】
【化39】

【0120】
【化40】

【0121】
【化41】

【0122】
【化42】

【0123】
【化43】

【0124】
【化44】

【0125】
【化45】

【0126】
【化46】

【0127】
【化47】

【0128】
【化48】

【0129】
【化49】

【0130】
本発明に用いられる好ましいホスト化合物は、昇華精製が可能な程度の分子量をもった低分子化合物であっても、繰り返し単位を有するポリマーであってもよい。
低分子化合物の場合、昇華精製が可能であるため精製が容易で、高純度の材料を得やすいという利点がある。分子量としては、昇華精製が可能な程度であれば特に制限はないが、好ましい分子量としては3000以下、より好ましくは2000以下である。
繰り返し単位を有するポリマー又はオリゴマーの場合は、ウェットプロセスで成膜しやすいという利点があり、また一般にポリマーはTgが高いため耐熱性の点でも好ましい。本発明のホスト化合物として用いられるポリマーは、所望の素子性能が達成可能であれば特に制限はないが、好ましくは一般式(I)、(II)、(III-1)?(III-3)の構造を主鎖又は側鎖に有するものが好ましい。分子量としては特に制限はないが、分子量5000以上が好ましく、又は繰り返し単位数が10以上のものが好ましい。
また、ホスト化合物は、正孔輸送能又は電子輸送能を有しつつ、かつ、発光の長波長化を防ぎ、さらに、有機EL素子を高温駆動時や素子駆動中の発熱に対して安定して動作させる観点から、高いガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。好ましくはTgが90℃以上であり、より好ましくは120℃以上である。
ここで、ガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121-2012に準拠した方法により求められる値である。
【0131】
《電子輸送層》
本発明において電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する材料からなり、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。
本発明の電子輸送層の総層厚については特に制限はないが、通常は2nm?5μmの範囲であり、より好ましくは2?500nmであり、さらに好ましくは5?200nmである。
また、有機EL素子においては発光層で生じた光を電極から取り出す際、発光層から直接取り出される光と、光を取り出す電極と対極に位置する電極によって反射されてから取り出される光とが干渉を起こすことが知られている。光が陰極で反射される場合は、電子輸送層の総層厚を数nm?数μmの間で適宜調整することにより、この干渉効果を効率的に利用することが可能である。
一方で、電子輸送層の層厚を厚くすると電圧が上昇しやすくなるため、特に層厚が厚い場合においては、電子輸送層の電子移動度は10^(-5)cm^(2)/Vs以上であることが好ましい。
電子輸送層に用いられる材料(以下、電子輸送材料という)としては、電子の注入性又は輸送性、正孔の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
【0132】
例えば、含窒素芳香族複素環誘導体(カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体(カルバゾール環を構成する炭素原子の一つ以上が窒素原子に置換されたもの)、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリダジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、アザトリフェニレン誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体等)、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、シロール誘導体、芳香族炭化水素環誘導体(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、トリフェニレン誘導体等)等が挙げられる。
【0133】
また、配位子にキノリノール骨格やジベンゾキノリノール骨格を有する金属錯体、例えば、トリス(8-キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7-ジクロロ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7-ジブロモ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、ビス(8-キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。
その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様にn型-Si、n型-SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
また、これらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0134】
本発明に係る電子輸送層においては、電子輸送層にドープ材をゲスト材料としてドープして、n性の高い(電子リッチ)電子輸送層を形成してもよい。ドープ材としては、金属錯体やハロゲン化金属など金属化合物等のn型ドーパントが挙げられる。このような構成の電子輸送層の具体例としては、例えば、特開平4-297076号公報、同10-270172号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等の文献に記載されたものが挙げられる。
【0135】
本発明の有機EL素子に用いられる、公知の好ましい電子輸送材料の具体例としては、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
米国特許第6528187号明細書、米国特許第7230107号明細書、米国特許出願公開第2005/0025993号明細書、米国特許出願公開第2004/0036077号明細書、米国特許出願公開第2009/0115316号明細書、米国特許出願公開第2009/0101870号明細書、米国特許出願公開第2009/0179554号明細書、国際公開第2003/060956号、国際公開第2008/132085号、Appl.Phys.Lett.75,4(1999)、Appl.Phys.Lett.79,449(2001)、Appl.Phys.Lett.81,162(2002)、Appl.Phys.Lett.81,162(2002)、Appl.Phys.Lett.79,156(2001)、米国特許第7964293号明細書、米国特許出願公開第2009030202号、国際公開第2004/080975号、国際公開第2004/063159号、国際公開第2005/085387号、国際公開第2006/067931号、国際公開第2007/086552号、国際公開第2008/114690号、国際公開第2009/069442号、国際公開第2009/066779号、国際公開第2009/054253号、国際公開第2011/086935号、国際公開第2010/150593号、国際公開第2010/047707号、EP2311826号、特開2010-251675号公報、特開2009-209133号公報、特開2009-124114号公報、特開2008-277810号公報、特開2006-156445号公報、特開2005-340122号公報、特開2003-45662号公報、特開2003-31367号公報、特開2003-282270号公報、国際公開第2012/115034号等である。
【0136】
本発明におけるより好ましい電子輸送材料としては、少なくとも一つの窒素原子を含む芳香族複素環化合物が挙げられ、例えばピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、トリアジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、アザジベンゾフラン誘導体、アザジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体などが挙げられる。
電子輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0137】
《正孔阻止層》
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する層であり、好ましくは電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が小さい材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、前述する電子輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係る正孔阻止層として用いることができる。
本発明の有機EL素子に設ける正孔阻止層は、発光層の陰極側に隣接して設けられることが好ましい。
本発明に係る正孔阻止層の層厚としては、好ましくは3?100nmの範囲であり、更に好ましくは5?30nmの範囲である。
正孔阻止層に用いられる材料としては、前述の電子輸送層に用いられる材料が好ましく用いられ、また、前述のホスト化合物として用いられる材料も正孔阻止層に好ましく用いられる。
【0138】
《電子注入層》
本発明に係る電子注入層(「陰極バッファー層」ともいう)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陰極と発光層との間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123?166頁)に詳細に記載されている。
本発明において電子注入層は必要に応じて設け、上記のごとく陰極と発光層との間、又は陰極と電子輸送層との間に存在させてもよい。
電子注入層はごく薄い膜であることが好ましく、素材にもよるがその層厚は0.1?5nmの範囲が好ましい。また構成材料が断続的に存在する不均一な層(膜)であってもよい。
【0139】
電子注入層は、特開平6-325871号公報、同9-17574号公報、同10-74586号公報等にもその詳細が記載されており、電子注入層に好ましく用いられる材料の具体例としては、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等に代表されるアルカリ金属化合物、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等に代表されるアルカリ土類金属化合物、酸化アルミニウムに代表される金属酸化物、8-ヒドロキシキノリネートリチウム(Liq)等に代表される金属錯体等が挙げられる。また、前述の電子輸送材料を用いることも可能である。
また、上記の電子注入層に用いられる材料は単独で用いてもよく、複数種を併用して用いてもよい。
【0140】
《正孔輸送層》
本発明において正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する材料からなり、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有していればよい。
本発明の正孔輸送層の総層厚については特に制限はないが、通常は5nm?5μmの範囲であり、より好ましくは2?500nmであり、さらに好ましくは5?200nmである。
正孔輸送層に用いられる材料(以下、正孔輸送材料という)としては、正孔の注入性又は輸送性、電子の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
例えば、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、イソインドール誘導体、アントラセンやナフタレン等のアセン系誘導体、フルオレン誘導体、フルオレノン誘導体、及びポリビニルカルバゾール、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー、ポリシラン、導電性ポリマー又はオリゴマー(例えばPEDOT/PSS、アニリン系共重合体、ポリアニリン、ポリチオフェン等)等が挙げられる。
【0141】
トリアリールアミン誘導体としては、α-NPDに代表されるベンジジン型や、MTDATAに代表されるスターバースト型、トリアリールアミン連結コア部にフルオレンやアントラセンを有する化合物等が挙げられる。
また、特表2003-519432号公報や特開2006-135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体も同様に正孔輸送材料として用いることができる。
さらに不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4-297076号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報の各公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0142】
また、特開平11-251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような、いわゆるp型正孔輸送材料やp型-Si、p型-SiC等の無機化合物を用いることもできる。さらにIr(ppy)_(3)に代表されるような中心金属にIrやPtを有するオルトメタル化有機金属錯体も好ましく用いられる。
正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、アザトリフェニレン誘導体、有機金属錯体、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー等が好ましく用いられる。
【0143】
本発明の有機EL素子に用いられる、公知の好ましい正孔輸送材料の具体例としては、上記で挙げた文献の他、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
例えば、Appl.Phys.Lett.69,2160(1996)、J.Lumin.72-74,985(1997)、Appl.Phys.Lett.78,673(2001)、Appl.Phys.Lett.90,183503(2007)、Appl.Phys.Lett.90,183503(2007)、Appl.Phys.Lett.51,913(1987)、Synth.Met.87,171(1997)、Synth.Met.91,209(1997)、Synth.Met.111,421(2000)、SID Symposium Digest,37,923(2006)、J.Mater.Chem.3,319(1993)、Adv.Mater.6,677(1994)、Chem.Mater.15,3148(2003)、米国特許出願公開第2003/0162053号明細書、米国特許出願公開第2002/0158242号明細書、米国特許出願公開第2006/0240279号明細書、米国特許出願公開第2008/0220265号明細書、米国特許第5061569号明細書、国際公開第2007/002683号、国際公開第2009/018009号、EP650955、米国特許出願公開第2008/0124572号明細書、米国特許出願公開第2007/0278938号明細書、米国特許出願公開第2008/0106190号明細書、米国特許出願公開第2008/0018221号明細書、国際公開第2012/115034号、特表2003-519432号公報、特開2006-135145号公報、米国特許出願番号13/585981号等である。
正孔輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0144】
《電子阻止層》
電子阻止層とは、広い意味では正孔輸送層の機能を有する層であり、好ましくは正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、前述する正孔輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係る電子阻止層として用いることができる。
本発明の有機EL素子に設ける電子阻止層は、発光層の陽極側に隣接して設けられることが好ましい。
本発明に係る電子阻止層の層厚としては、好ましくは3?100nmの範囲であり、更に好ましくは5?30nmの範囲である。
電子阻止層に用いられる材料としては、前述の正孔輸送層に用いられる材料が好ましく用いられ、また、前述のホスト化合物として用いられる材料も電子阻止層に好ましく用いられる。
【0145】
《正孔注入層》
本発明に係る正孔注入層(「陽極バッファー層」ともいう)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陽極と発光層との間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123?166頁)に詳細に記載されている。
本発明において正孔注入層は必要に応じて設け、上記のごとく陽極と発光層又は陽極と正孔輸送層との間に存在させてもよい。
正孔注入層は、特開平9-45479号公報、同9-260062号公報、同8-288069号公報等にもその詳細が記載されており、正孔注入層に用いられる材料としては、例えば前述の正孔輸送層に用いられる材料等が挙げられる。
中でも銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニン誘導体、特表2003-519432号公報や特開2006-135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体、酸化バナジウムに代表される金属酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム錯体等に代表されるオルトメタル化錯体、トリアリールアミン誘導体等が好ましい。
前述の正孔注入層に用いられる材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0146】
《添加物》
前述した本発明における有機層は、更に他の添加物が含まれていてもよい。
添加物としては、例えば臭素、ヨウ素及び塩素等のハロゲン元素やハロゲン化化合物、Pd、Ca、Na等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属の化合物や錯体、塩等が挙げられる。
添加物の含有量は、任意に決定することができるが、含有される層の全質量%に対して1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは500ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以下である。
ただし、電子や正孔の輸送性を向上させる目的や、励起子のエネルギー移動を有利にするための目的などによってはこの範囲内ではない。
【0147】
《有機層の形成方法》
本発明の有機層(正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層等)の形成方法について説明する。
本発明の有機層の形成方法は、特に制限はなく、従来公知の例えば真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいう)等による形成方法を用いることができる。
湿式法としては、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア-ブロジェット法)等があるが、均質な薄膜が得られやすく、且つ高生産性の点から、ダイコート法、ロールコート法、インクジェット法、スプレーコート法などのロール・ツー・ロール方式適性の高い方法が好ましい。
【0148】
本発明に係る有機EL材料を溶解又は分散する液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF、DMSO等の有機溶媒を用いることができる。
【0149】
また、分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
更に層毎に異なる成膜法を適用してもよい。成膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50?450℃、真空度10^(-6)?10^(-2)Pa、蒸着速度0.01?50nm/秒、基板温度-50?300℃、層(膜)厚0.1nm?5μm、好ましくは5?200nmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
本発明の有機層の形成は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる成膜法を施しても構わない。その際は作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0150】
《陽極》
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上、好ましくは4.5eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO_(2)、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In_(2)O_(3)-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、又はパターン精度を余り必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
または、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等の湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。
陽極の膜厚は材料にもよるが、通常10nm?1μm、好ましくは10?200nmの範囲で選ばれる。
【0151】
《陰極》
陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
【0152】
陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させることで作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm?5μm、好ましくは50?200nmの範囲で選ばれる。
なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陰極に上記金属を1?20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げる導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0153】
[支持基板]
本発明の有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基体、基板、基材、支持体等ともいう。)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0154】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル、ポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)又はアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
【0155】
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜又はその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/m^(2)・24h以下のバリア性フィルムであることが好ましく、更には、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10^(-3)ml/m^(2)・24h・atm以下、水蒸気透過度が、1×10^(-5)g/m^(2)・24h以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
【0156】
バリア膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
バリア膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004-68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0157】
不透明な支持基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
本発明の有機EL素子の発光の室温(25℃)における外部取り出し量子効率は、1%以上であることが好ましく、5%以上であるとより好ましい。
ここで、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を、蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。
【0158】
[封止]
本発明の有機EL素子の封止に用いられる封止手段としては、例えば、封止部材と、電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されていればよく、凹板状でも、平板状でもよい。また、透明性、電気絶縁性は特に限定されない。
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる1種以上の金属又は合金からなるものが挙げられる。
【0159】
本発明においては、有機EL素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。さらには、ポリマーフィルムはJIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10^(-3)ml/m^(2)・24h以下、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度90±2%)が、1×10^(-3)g/m^(2)・24h以下のものであることが好ましい。
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
【0160】
接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2-シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
【0161】
また、有機層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に該電極と有機層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。
さらに該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
【0162】
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0163】
[保護膜、保護板]
有機層を挟み支持基板と対向する側の前記封止膜又は前記封止用フィルムの外側に、素子の機械的強度を高めるために、保護膜又は保護板を設けてもよい。特に、封止が前記封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0164】
[光取り出し向上技術]
有機エレクトロルミネッセンス素子は、空気よりも屈折率の高い(屈折率1.6?2.1程度の範囲内)層の内部で発光し、発光層で発生した光のうち15%から20%程度の光しか取り出せないことが一般的に言われている。これは、臨界角以上の角度θで界面(透明基板と空気との界面)に入射する光は、全反射を起こし素子外部に取り出すことができないことや、透明電極ないし発光層と透明基板との間で光が全反射を起こし、光が透明電極ないし発光層を導波し、結果として、光が素子側面方向に逃げるためである。
【0165】
この光の取り出しの効率を向上させる手法としては、例えば、透明基板表面に凹凸を形成し、透明基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(例えば、米国特許第4774435号明細書)、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(例えば、特開昭63-314795号公報)、素子の側面等に反射面を形成する方法(例えば、特開平1-220394号公報)、基板と発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(例えば、特開昭62-172691号公報)、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(例えば、特開2001-202827号公報)、基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法(特開平11-283751号公報)などが挙げられる。
【0166】
本発明においては、これらの方法を本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子と組み合わせて用いることができるが、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法、又は基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法を好適に用いることができる。
本発明は、これらの手段を組み合わせることにより、更に高輝度又は耐久性に優れた素子を得ることができる。
【0167】
透明電極と透明基板の間に低屈折率の媒質を光の波長よりも長い厚さで形成すると、透明電極から出てきた光は、媒質の屈折率が低いほど、外部への取り出し効率が高くなる。
低屈折率層としては、例えば、エアロゲル、多孔質シリカ、フッ化マグネシウム、フッ素系ポリマーなどが挙げられる。透明基板の屈折率は一般に1.5?1.7程度の範囲内であるので、低屈折率層は、屈折率がおよそ1.5以下であることが好ましい。またさらに1.35以下であることが好ましい。
また、低屈折率媒質の厚さは、媒質中の波長の2倍以上となるのが望ましい。これは、低屈折率媒質の厚さが、光の波長程度になってエバネッセントで染み出した電磁波が基板内に入り込む膜厚になると、低屈折率層の効果が薄れるからである。
【0168】
全反射を起こす界面又は、いずれかの媒質中に回折格子を導入する方法は、光取り出し効率の向上効果が高いという特徴がある。この方法は、回折格子が1次の回折や、2次の回折といった、いわゆるブラッグ回折により、光の向きを屈折とは異なる特定の向きに変えることができる性質を利用して、発光層から発生した光のうち、層間での全反射等により外に出ることができない光を、いずれかの層間又は媒質中(透明基板内や透明電極内)に回折格子を導入することで光を回折させ、光を外に取り出そうとするものである。
【0169】
導入する回折格子は、二次元的な周期屈折率を持っていることが望ましい。これは、発光層で発光する光はあらゆる方向にランダムに発生するので、ある方向にのみ周期的な屈折率分布を持っている一般的な一次元回折格子では、特定の方向に進む光しか回折されず、光の取り出し効率がさほど上がらない。
しかしながら、屈折率分布を二次元的な分布にすることにより、あらゆる方向に進む光が回折され、光の取り出し効率が上がる。
回折格子を導入する位置としては、いずれかの層間又は媒質中(透明基板内や透明電極内)でも良いが、光が発生する場所である有機発光層の近傍が望ましい。このとき、回折格子の周期は、媒質中の光の波長の約1/2?3倍程度の範囲内が好ましい。回折格子の配列は、正方形のラチス状、三角形のラチス状、ハニカムラチス状など、二次元的に配列が繰り返されることが好ましい。
【0170】
[集光シート]
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、支持基板(基板)の光取り出し側に、例えばマイクロレンズアレイ上の構造を設けるように加工したり、又は、いわゆる集光シートと組み合わせることにより、特定方向、例えば素子発光面に対し正面方向に集光することにより、特定方向上の輝度を高めることができる。
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を二次元に配列する。一辺は10?100μmの範囲内が好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付く、大きすぎると厚さが厚くなり好ましくない。
集光シートとしては、例えば液晶表示装置のLEDバックライトで実用化されているものを用いることが可能である。このようなシートとして例えば、住友スリーエム社製輝度上昇フィルム(BEF)などを用いることができる。プリズムシートの形状としては、例えば基材に頂角90度、ピッチ50μmの△状のストライプが形成されたものであってもよいし、頂角が丸みを帯びた形状、ピッチをランダムに変化させた形状、その他の形状であっても良い。
また、有機EL素子からの光放射角を制御するために光拡散板・フィルムを、集光シートと併用してもよい。例えば、(株)きもと製拡散フィルム(ライトアップ)などを用いることができる。
【0171】
[用途]
本発明の有機EL素子は、電子デバイス、例えば、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光装置として用いることができる。
発光装置として、例えば、照明装置(家庭用照明、車内照明)、時計や液晶用バックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではないが、特に液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
本発明の有機EL素子においては、必要に応じ成膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよいし、素子全層をパターニングしてもよく、素子の作製においては、従来公知の方法を用いることができる。
【0172】
本発明の有機EL素子や本発明に係る化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図9.16において、分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタ(株)製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
【0173】
また、本発明の有機EL素子が白色素子の場合には、白色とは、2度視野角正面輝度を上記方法により測定した際に、1000cd/m^(2)でのCIE1931表色系における色度がX=0.33±0.07、Y=0.33±0.1の領域内にあることをいう。
【0174】
<表示装置>
本発明の有機EL素子を具備する表示装置は単色でも多色でもよいが、ここでは多色表示装置について説明する。
【0175】
多色表示装置の場合は発光層形成時のみシャドーマスクを設け、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法又は印刷法等で膜を形成できる。
発光層のみパターニングを行う場合、その方法に限定はないが、好ましくは蒸着法、インクジェット法、スピンコート法及び印刷法である。
【0176】
表示装置に具備される有機EL素子の構成は、必要に応じて上記の有機EL素子の構成例の中から選択される。
【0177】
また、有機EL素子の製造方法は、上記の本発明の有機EL素子の製造の一態様に示したとおりである。
【0178】
このようにして得られた多色表示装置に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を-の極性として電圧2?40V程度を印加すると発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。更に交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が-の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0179】
多色表示装置は、表示デバイス、ディスプレイ又は各種発光光源として用いることができる。表示デバイス又はディスプレイにおいて、青、赤及び緑発光の3種の有機EL素子を用いることによりフルカラーの表示が可能となる。
【0180】
表示デバイス又はディスプレイとしては、テレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示及び自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。
【0181】
発光装置としては、家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0182】
以下、本発明の有機EL素子を有する表示装置の一例を図面に基づいて説明する。
図7は有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。有機EL素子の発光により画像情報の表示を行う、例えば、携帯電話等のディスプレイの模式図である。
【0183】
ディスプレイ1は複数の画素を有する表示部A、画像情報に基づいて表示部Aの画像走査を行う制御部B、表示部Aと制御部Bとを電気的に接続する配線部C等を有する。
制御部Bは表示部Aと配線部Cを介して電気的に接続され、複数の画素それぞれに外部からの画像情報に基づいて走査信号と画像データ信号を送り、走査信号により走査線ごとの画素が画像データ信号に応じて順次発光して画像走査を行って画像情報を表示部Aに表示する。
【0184】
図8はアクティブマトリクス方式による表示装置の模式図である。
表示部Aは基板上に、複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部Cと複数の画素3等とを有する。表示部Aの主要な部材の説明を以下に行う。
図8においては、画素3の発光した光が白矢印方向(下方向)へ取り出される場合を示している。
【0185】
配線部の走査線5及び複数のデータ線6はそれぞれ導電材料からなり、走査線5とデータ線6は格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示していない)。
画素3は走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。
発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素を適宜同一基板上に並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
【0186】
次に、画素の発光プロセスを説明する。図9は画素の回路を示した概略図である。
画素は、有機EL素子10、スイッチングトランジスタ11、駆動トランジスタ12、コンデンサー13等を備えている。複数の画素に有機EL素子10として、赤色、緑色及び青色発光の有機EL素子を用い、これらを同一基板上に並置することでフルカラー表示を行うことができる。
【0187】
図9において、制御部Bからデータ線6を介してスイッチングトランジスタ11のドレインに画像データ信号が印加される。そして、制御部Bから走査線5を介してスイッチングトランジスタ11のゲートに走査信号が印加されると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオンし、ドレインに印加された画像データ信号がコンデンサー13と駆動トランジスタ12のゲートに伝達される。
【0188】
画像データ信号の伝達により、コンデンサー13が画像データ信号の電位に応じて充電されるとともに、駆動トランジスタ12の駆動がオンする。駆動トランジスタ12は、ドレインが電源ライン7に接続され、ソースが有機EL素子10の電極に接続されており、ゲートに印加された画像データ信号の電位に応じて電源ライン7から有機EL素子10に電流が供給される。
【0189】
制御部Bの順次走査により走査信号が次の走査線5に移ると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフする。しかし、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフしてもコンデンサー13は充電された画像データ信号の電位を保持するので、駆動トランジスタ12の駆動はオン状態が保たれて、次の走査信号の印加が行われるまで有機EL素子10の発光が継続する。順次走査により次に走査信号が印加されたとき、走査信号に同期した次の画像データ信号の電位に応じて駆動トランジスタ12が駆動して有機EL素子10が発光する。
即ち、有機EL素子10の発光は、複数の画素それぞれの有機EL素子10に対して、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタ11と駆動トランジスタ12を設けて、複数の画素3それぞれの有機EL素子10の発光を行っている。このような発光方法をアクティブマトリクス方式と呼んでいる。
【0190】
ここで、有機EL素子10の発光は複数の階調電位を持つ多値の画像データ信号による複数の階調の発光でもよいし、2値の画像データ信号による所定の発光量のオン、オフでもよい。また、コンデンサー13の電位の保持は次の走査信号の印加まで継続して保持してもよいし、次の走査信号が印加される直前に放電させてもよい。
本発明においては、上述したアクティブマトリクス方式に限らず、走査信号が走査されたときのみデータ信号に応じて有機EL素子を発光させるパッシブマトリクス方式の発光駆動でもよい。
【0191】
図10は、パッシブマトリクス方式による表示装置の模式図である。図10において、複数の走査線5と複数の画像データ線6が画素3を挟んで対向して格子状に設けられている。
順次走査により走査線5の走査信号が印加されたとき、印加された走査線5に接続している画素3が画像データ信号に応じて発光する。
パッシブマトリクス方式では画素3にアクティブ素子が無く、製造コストの低減が計れる。
本発明の有機EL素子を用いることにより、発光効率が向上した表示装置が得られた。
【0192】
<照明装置>
本発明の有機EL素子は、照明装置に用いることもできる。
本発明の有機EL素子は、共振器構造を持たせた有機EL素子として用いてもよい。このような共振器構造を有した有機EL素子の使用目的としては、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これらに限定されない。また、レーザー発振をさせることにより上記用途に使用してもよい。
また、本発明の有機EL素子は、照明用や露光光源のような一種のランプとして使用してもよいし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。
動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は、パッシブマトリクス方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。または、異なる発光色を有する本発明の有機EL素子を2種以上使用することにより、フルカラー表示装置を作製することが可能である。
【0193】
また、本発明の蛍光発光性化合物は、照明装置として、実質的に白色の発光を生じる有機EL素子に適用できる。例えば、複数の発光材料を用いる場合、複数の発光色を同時に発光させて、混色することで白色発光を得ることができる。複数の発光色の組み合わせとしては、赤色、緑色及び青色の3原色の三つの発光極大波長を含有させたものでもよいし、青色と黄色、青緑と橙色等の補色の関係を利用した二つの発光極大波長を含有したものでもよい。
【0194】
また、本発明の有機EL素子の形成方法は、発光層、正孔輸送層又は電子輸送層等の形成時のみマスクを設け、マスクにより塗り分ける等単純に配置するだけでよい。他層は共通であるのでマスク等のパターニングは不要であり、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法及び印刷法等で、例えば、電極膜を形成でき、生産性も向上する。
この方法によれば、複数色の発光素子をアレー状に並列配置した白色有機EL装置と異なり、素子自体が発光白色である。
【0195】
[本発明の照明装置の一態様]
本発明の有機EL素子を具備した、本発明の照明装置の一態様について説明する。
本発明の有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、厚さ300μmのガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材として、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を適用し、これを陰極上に重ねて透明支持基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して、硬化させて、封止し、図11及び図12に示すような照明装置を形成することができる。
図11は、照明装置の概略図を示し、本発明の有機EL素子(照明装置内の有機EL素子101)はガラスカバー102で覆われている(なお、ガラスカバーでの封止作業は、照明装置内の有機EL素子101を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で行った。)。
図12は、照明装置の断面図を示し、図12において、105は陰極、106は有機EL層、107は透明電極付きガラス基板を示す。なお、ガラスカバー102内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
本発明の有機EL素子を用いることにより、発光効率が向上した照明装置が得られた。
【0196】
なお、本発明の有機EL素子に用いることができる蛍光発光性化合物とホスト化合物は、発光材料として使用することもできる。
すなわち、蛍光発光性化合物とホスト化合物を含有する発光材料であって、前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、50%以上であり、前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、100nm以下であり、かつ、前記ホスト化合物が、前記一般式(I)で表される構造を有することを特徴とする。
これにより、高効率で長寿命の発光材料を得ることができる。
【0197】
また、前記一般式(I)で表される構造を有するホスト化合物が、前記一般式(II)で表される構造を有することが、本発明の効果をより顕著にすることができる点から好ましい。
【実施例】
【0198】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
また、各実施例における化合物の体積%は、作製する層厚を水晶発振子マイクロバランス法により測定し、質量を算出することで、比重から求めている。
【0199】
≪有機EL素子1-1の作製≫
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nm成膜した基板(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0200】
この透明支持基板上に、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を用いて3000rpm、30秒の条件下、スピンコート法により薄膜を形成した後、200℃にて1時間乾燥し、層厚20nmの第1正孔輸送層を設けた。
【0201】
この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方モリブデン製抵抗加熱ボートにα-NPD(4,4′-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル)を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにH-159を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに比較化合物(4CzIPN)を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにBCP(2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)を200mg入れ真空蒸着装置に取り付けた。
【0202】
【化50】

【0203】
次いで真空槽を4×10^(-4)Paまで減圧した後、α-NPDの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記正孔注入層上に蒸着し30nmの正孔輸送層を設けた。
【0204】
更にH-159の入った前記加熱ボートと比較化合物の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.1nm/秒、0.010nm/秒で、前記正孔輸送層上に共蒸着し40nmの発光層を設けた。
【0205】
更にBCPの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記正孔阻止層上に蒸着し30nmの電子輸送層を設けた。
【0206】
引き続き、陰極バッファー層としてフッ化リチウム0.5nmを蒸着し、更にアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子1-1を作製した。
【0207】
≪有機EL素子1-2?1-217の作製≫
有機EL素子1-1の作製において、H-159及び比較化合物を表2-1?2-5に記載の化合物に変えた以外は同様にして有機EL素子1-2?1-217を作製した。
【0208】
≪有機EL素子1-1?1-217の評価≫
得られた有機EL素子を評価するに際しては、図11、図12に示すような照明装置を形成して、室温での有機EL素子の発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅の測定、内部量子効率の測定及びインピーダンス分光測定装置による発光層の抵抗値の変化率の測定を実施した。
【0209】
図11は、照明装置の概略図を示し、本発明の有機EL素子(照明装置内の有機EL素子101)はガラスカバー102で覆われている(なお、ガラスカバーでの封止作業は、照明装置内の有機EL素子101を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で行った。)。具体的には、ガラスカバーと有機EL素子が作製されたガラス基板とが接触するガラスカバー側の周囲にシール剤としてエポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラクストラックLC0629B)を適用し、これを上記陰極側に重ねて前記透明支持基板と密着させ、ガラス基板側から有機EL素子を除いた部分にUV光を照射して硬化させた。
【0210】
図12は、照明装置の断面図を示し、図12において、105は陰極、106は有機EL層、107は透明電極付きガラス基板を示す。なお、ガラスカバー102内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
【0211】
(1)蛍光発光性化合物の発光スペクトルの半値幅の測定
蛍光発光性化合物(ドーパント)の発光スペクトルの測定は、蛍光発光性化合物のジクロロメタン溶液を調整の上、日立分光蛍光光度計F-4000を用いて室温状態で測定し、最大発光スペクトルの半値幅を得た。
【0212】
(2)蛍光発光性化合物の内部量子効率(IQE)の算出
蛍光発光性化合物(ドーパント)の内部量子効率(%)の算出は、蛍光発光性化合物を含む素子を作製し、下記の方法に基づいて実施した。
【0213】
具体的には、有機EL素子1-1を5Vで駆動した場合に、外部量子効率測定装置C9920-12(浜松ホトニクス株式会社製)を用いて積分球により、室温で外部取出し効率(EQE)を測定した。
そして、有機EL素子1-1の膜厚情報と光学定数を用いて、「解析ソフトSetfos(サイバネットシステム株式会社製)」にてモード解析を実施し、有機EL素子内部から素子外部に放出される光の割合、すなわち光取り出し効率(OC)を算出した。
外部量子効率(EQE)は内部量子効率(IQE)と光取り出し効率(OC)の積で表現できる(式(A)参照)。
式(A): EQE=IQE×OC
本発明では、測定及び解析によって得られたEQE及びOCを式(A)に適用し、有機EL素子1-1の蛍光発光性化合物の内部量子効率を算出した。有機EL素子1-2?1-217についても同様にして内部量子効率を算出した。
【0214】
(3)有機EL素子駆動前後の抵抗値の変化率
『薄膜の評価ハンドブック』テクノシステム社刊423?425ページに記載の測定方法を参考に、Solartron社製1260型インピーダンスアナライザ及び1296型誘電体インターフェイスを使って、作製した有機EL素子の発光層のバイアス電圧1Vにおける抵抗値の測定を行った。
【0215】
有機EL素子を室温(25℃)、2.5mA/cm^(2)の定電流条件下により1000時間駆動した後の駆動前後の発光層の抵抗値を各々測定し、測定結果を下記に示した計算式により計算し抵抗値の変化率を求めた。表2-1?2-5には有機EL素子1-1の抵抗値の変化率を100としたときの相対比率を記載した。
【0216】
駆動前後の抵抗値の変化率=|(駆動後の抵抗値/駆動前の抵抗値)-1|×100
値が0に近い方が駆動前後の変化率が小さいことを示す。
【0217】
【表2-1】

【0218】
【表2-2】

【0219】
【表2-3】

【0220】
【表2-4】

【0221】
【表2-5】

【0222】
表2-1?2-5から、本発明の有機EL素子1-2?1-217は、比較例の有機EL素子1-1に対して、発光層の抵抗値の変化率が小さいことが示されたことにより、発光層の薄膜の物性の変化が小さく、安定した有機EL素子を得ることができたことがわかる。
すなわち、適切なホスト化合物の選択と、蛍光発光性化合物の発光スペクトルの半値幅が100nm以下であって、かつ蛍光発光性化合物の内部量子効率が、50%以上であることにより、膜物性の変化率の小さい、安定性の高い有機EL素子が得られたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0223】
本発明により、高効率で長寿命の有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができ、当該有機EL素子を備えた表示デバイス、ディスプレイや、家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源、さらには表示装置を必要とする一般の家庭用電気器具等の広い発光光源として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0224】
1 ディスプレイ
3 画素
5 走査線
6 データ線
7 電源ライン
10 有機EL素子
11 スイッチングトランジスタ
12 駆動トランジスタ
13 コンデンサー
101 照明装置内の有機EL素子
102 ガラスカバー
105 陰極
106 有機EL層
107 透明電極付きガラス基板
108 窒素ガス
109 捕水剤
A 表示部
B 制御部
C 配線部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極に挟まれた少なくとも1層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記有機層のうち少なくとも1層が、蛍光発光性化合物及びホスト化合物を含有し、
前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、下記測定条件(1)下で、50%以上であり、
前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、下記測定条件(2)下で、100nm以下であり、
前記蛍光発光性化合物が、(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物であって、熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物であり、
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、
前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

(一般式(I)中、X_(101)は、NR_(10)_(1、)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。R_(101)及びR_(104)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。)
測定条件(1):明細書に記載した有機EL素子1-1の作製方法と同じ方法で作製した有機EL素子を5Vで駆動し、外部量子効率測定装置を用いて積分球により、室温で外部取出し効率(EQE)を測定し、前記有機EL素子の膜厚情報と光学定数を用いて、解析ソフトにてモード解析を実施し、有機EL素子内部から素子外部に放出される光の割合から光取り出し効率(OC)を算出し、前記測定及び前記解析によって得られる前記EQE及び前記OCに基づき、内部量子効率を算出する。
測定条件(2):蛍光発光性化合物のジクロロメタン溶液を調製の上、分光蛍光光度計を用いて室温状態で測定する。
【請求項2】
前記一般式(I)で表される構造を有するホスト化合物が、下記一般式(II)で表される構造を有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】

(一般式(II)中、X_(101)は、NR_(10)_(1)を表す。R_(10)_(1)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n102は各々0?4の整数を表す。)
【請求項3】
前記ホスト化合物が、カルバゾール骨格を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記有機層のうち少なくとも一つの層が、発光層であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子が具備されていることを特徴とする電子デバイス。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子が具備されていることを特徴とする発光装置。
【請求項7】
蛍光発光性化合物とホスト化合物を含有する発光材料であって、
前記蛍光発光性化合物の電気的励起での内部量子効率が、下記測定条件(1)下で、50%以上であり、
前記蛍光発光性化合物の室温での発光スペクトルにおける発光極大波長の発光帯の半値幅が、下記測定条件(2)下で、100nm以下であり、
前記蛍光発光性化合物が、(4s,6s)-2,4,5,6-テトラ(9H-カルバゾール-9-イル)イソフタロニトリル(4CzIPN)以外の化合物であって、熱活性型遅延蛍光を発光しかつ前記4CzIPNより一重項励起状態及び三重項励起状態の分子構造の変化及び基底状態と三重項励起状態との分子構造変化が小さい化合物であり、
前記ホスト化合物が、下記一般式(I)で表される構造を有し、かつ、
前記蛍光発光性化合物から蛍光発光させることを特徴とする発光材料。
【化3】

(一般式(I)中、X_(101)は、NR_(10)_(1)を表す。y_(1)?y_(8)は、各々CR_(104)又は窒素原子を表す。R_(101)及びR_(104)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n101及びn102は各々0?4の整数を表すが、R_(101)が水素原子の場合は、n101は1?4を表す。)
測定条件(1):明細書に記載した有機EL素子1-1の作製方法と同じ方法で作製した有機EL素子を5Vで駆動し、外部量子効率測定装置を用いて積分球により、室温で外部取出し効率(EQE)を測定し、前記有機EL素子の膜厚情報と光学定数を用いて、解析ソフトにてモード解析を実施し、有機EL素子内部から素子外部に放出される光の割合から光取り出し効率(OC)を算出し、前記測定及び前記解析によって得られる前記EQE及び前記OCに基づき、内部量子効率を算出する。
測定条件(2):蛍光発光性化合物のジクロロメタン溶液を調製の上、分光蛍光光度計を用いて室温状態で測定する。
【請求項8】
前記一般式(I)で表される構造を有するホスト化合物が、下記一般式(II)で表される構造を有することを特徴とする請求項7に記載の発光材料。
【化4】

(一般式(II)中、X_(101)は、NR_(10)_(1)を表す。R_(10)_(1)は、各々水素原子又は直鎖又は分岐アルキル基、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、また互いに結合して環を形成してもよい。Ar_(101)及びAr_(102)は、各々芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。n102は各々0?4の整数を表す。)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-20 
出願番号 特願2015-531833(P2015-531833)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (H05B)
P 1 651・ 537- ZAA (H05B)
P 1 651・ 536- ZAA (H05B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 大竹 秀紀  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
高松 大
登録日 2018-03-16 
登録番号 特許第6304255号(P6304255)
権利者 コニカミノルタ株式会社
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子、電子デバイス、発光装置及び発光材料  
代理人 特許業務法人光陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人光陽国際特許事務所  

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