ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H05K 審判 全部申し立て 2項進歩性 H05K |
---|---|
管理番号 | 1358608 |
異議申立番号 | 異議2018-700556 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-07-10 |
確定日 | 2019-11-25 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6255816号発明「電磁波シールドシートおよびプリント配線板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6255816号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-3について訂正することを認める。 特許第6255816号の請求項2ないし3に係る特許を維持する。 特許第6255816号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6255816号の請求項1-3に係る発明についての出願は、平成25年9月9日に出願され、平成29年12月15日にその特許権が設定登録され、平成30年1月10日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立での経緯は、次の通りである。 平成30年 7月10日:特許異議申立人岡林茂により請求項1?3に係る特許に対する特許異議の申立て 平成30年 9月28日付け:取消理由通知 平成30年12月 3日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 平成31年 1月 4日付け:訂正拒絶理由通知 平成31年 2月 1日 :特許権者による意見書及び手続補正書の提出 平成31年 3月25日 :特許異議申立人岡林茂による意見書の提出 令和 1年 6月 5日付け:訂正拒絶理由通知 令和 1年 7月 8日 :特許権者による意見書の提出 令和 1年 7月29日付け:取消理由通知(決定の予告) 令和 1年 8月27日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和 1年10月11日 :特許異議申立人岡林茂による意見書の提出 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和1年8月27日付けの訂正請求の趣旨は、特許第6255816号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項2に「請求項1記載の電磁波シールドシートを備えたプリント配線板。」とあるのを、「絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備え、前記絶縁層と、前記導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板であって、 前記導電層は、導電性微粒子、熱硬化性樹脂およびシリカ粒子を含み、 前記導電性微粒子の形状は、フレーク状、葉状、または樹枝状であり、 前記シリカ粒子のBET比表面積は、90?380m^(2)/gであり、 前記シリカ粒子を熱硬化性樹脂100重量部に対して10?95重量部含み、 前記導電層の厚みは、1?100μmであることを特徴とするプリント配線板。」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備えたプリント配線板の製造方法」とあるのを、「絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備え、前記絶縁層と、前記導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板の製造方法」に訂正する。 (4)一群の請求項 上記訂正事項1、2に係る本件訂正前の請求項1、2について、請求項2は請求項1を引用しているものであるから、本件訂正前の請求項1、2に対応する本件訂正の請求項1、2は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。 (5)引用関係の解消の求め 訂正後の請求項2については、引用関係の解消を目的とする訂正であるから、当該請求項についての訂正が認められる場合には、請求項2は、請求項1とは別途訂正することを求めている。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項2を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。 さらに前記目的に加え、この訂正は、訂正前の請求項2に記載されていた「電磁波シールドシートを備えたプリント配線板」を、「電磁波シールドシートを備え、前記絶縁層と、前記導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正でもある。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について 明細書の段落【0011】には「本発明の電磁波シールドシートは、絶縁層と、導電層とを備えている。そして前記導電層は、導電性微粒子、熱硬化性樹脂およびシリカ粒子を含むことが必要である。本発明の電磁波シールドシートは、絶縁層の下地層といえる導電層にシリカ粒子を配合することで、導電層を硬くすることができる。本発明の電磁波シールドフィルムを備えたプリント配線板を電子機器の内部に組み込むと、導電層の硬さ故、絶縁層は、例えば電磁波シールド層が電子機器内の周辺部材と接触した場合、絶縁層に傷が付きにくくいため・・・」と、「絶縁層と、導電層とを備えている」「電磁波シールドフィルムを備えたプリント配線板」において、「導電層」が「絶縁層」の下地層になり、「絶縁層」が周辺部材と接触する最外層になることが記載されている。 そうすると、訂正事項1の「電磁波シールドシートを備えたプリント配線板」を、「電磁波シールドシートを備え、前記絶縁層と、前記導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板」とする訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 また、訂正事項1は、「電磁波シールドシートを備えたプリント配線板」を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的 訂正事項3は、訂正前の請求項3に記載されていた「絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備えたプリント配線板の製造方法」を、「絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備え、前記絶縁層と、前記導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板の製造方法」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について 明細書の段落【0011】には「本発明の電磁波シールドシートは、絶縁層と、導電層とを備えている。そして前記導電層は、導電性微粒子、熱硬化性樹脂およびシリカ粒子を含むことが必要である。本発明の電磁波シールドシートは、絶縁層の下地層といえる導電層にシリカ粒子を配合することで、導電層を硬くすることができる。本発明の電磁波シールドフィルムを備えたプリント配線板を電子機器の内部に組み込むと、導電層の硬さ故、絶縁層は、例えば電磁波シールド層が電子機器内の周辺部材と接触した場合、絶縁層に傷が付きにくくいため・・・」と、「絶縁層と、導電層とを備えている」「電磁波シールドフィルムを備えたプリント配線板」において、「導電層」が「絶縁層」の下地層になり、「絶縁層」が周辺部材と接触する最外層になることが記載されている。 そうすると、訂正事項3の「絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備えたプリント配線板の製造方法」を、「絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備え、前記絶縁層と、前記導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板の製造方法」とする訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 また、訂正事項3は、「絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備えたプリント配線板の製造方法」を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 3 小括 本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-3について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項2、3に係る発明(以下「本件発明2」、「本件発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項2、3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項2】 絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備え、前記絶縁層と、前記導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板であって、 前記導電層は、導電性微粒子、熱硬化性樹脂およびシリカ粒子を含み、 前記導電性微粒子の形状は、フレーク状、葉状、または樹枝状であり、 前記シリカ粒子のBET比表面積は、90?380m^(2)/gであり、 前記シリカ粒子を熱硬化性樹脂100重量部に対して10?95重量部含み、 前記導電層の厚みは、1?100μmであることを特徴とするプリント配線板。 【請求項3】 絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備え、前記絶縁層と、前記導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板の製造方法であって、 プリント基板上に、電磁波シールドシートを重ね、または貼り付けた後に加熱圧着する工程を有し、 前記導電層は、導電性微粒子、熱硬化性樹脂およびシリカ粒子を含み、 前記導電性微粒子の形状は、フレーク状、葉状、または樹枝状であり、 前記シリカ粒子のBET比表面積は、90?380m^(2)/gであり、 前記シリカ粒子を熱硬化性樹脂100重量部に対して10?95重量部含み、 前記導電層の厚みは、1?100μmであることを特徴とするプリント配線板の製造方法。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1、2に係る特許に対して、当審が令和1年7月29日付けの取消理由通知(決定の予告)においてに特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (2)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 ・理由(1)について ・請求項1 ・引用文献等1 ・理由(2)について ・請求項2 ・引用文献等1、2 <引用文献等一覧> 1.国際公開第2012/050128号(甲第1号証) 2.特開2011-86930号公報(甲第2号証) 2 刊行物の記載事項、引用発明 (1)引用文献1 ア 取消理由通知において引用した引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。以下同様。)。 「[0010] 本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、誘電膜等の被着体への不純物の移動が少ない柔軟導電材料を提供することを課題とする。また、当該柔軟導電材料から電極や配線を形成することにより、漏れ電流が小さく、耐久性に優れたトランスデューサおよびフレキシブル配線板を提供することを課題とする。また、当該柔軟導電材料を用いて、漏れ電流が小さい電磁波シールドを提供することを課題とする。」 「[0026] 導電剤の種類は、特に限定されない。例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料、銀、金、銅、ニッケル、ロジウム、パラジウム、クロム、チタン、白金、鉄、およびこれらの合金等の金属材料、酸化インジウム錫(ITO)や、酸化チタン、酸化亜鉛にアルミニウム、アンチモン等の他金属をドーピングしたもの等の導電性酸化物の中から、適宜選択すればよい。導電剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。例えば、カーボンブラックは、母材のエラストマーとの密着性が高く、凝集して導通経路を形成しやすい、という点で好適である。なかでも、ケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラックや、活性炭、メソポーラスカーボン等のように細孔を有し不純物の吸着力の高いものが好適である。」 「[0057] カバーフィルム23aは、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム23aは、誘電膜20、電極21a、配線22aの上面を覆っている。同様に、カバーフィルム23bは、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム23bは、誘電膜20、電極21b、配線22bの下面を覆っている。」 「[0081] <電磁波シールド> 本発明の電磁波シールドは、本発明の柔軟導電材料からなる。電磁波シールドは、電子機器の内部で発生した電磁波が外部に漏れるのを抑制したり、外部からの電磁波を内部へ侵入させにくくする役割を果たす。例えば、電子機器の筐体の内周面に、電磁波シールドを配置する場合には、ゴムポリマー等の原料を所定の溶剤に溶解してなる本発明の柔軟導電材料の塗料を、電子機器の筐体の内周面に塗布し、架橋させればよい。また、上記トランスデューサの第二実施形態として示した静電容量型センサに、電磁波シールドを配置することもできる。例えば、カバーフィルム23aの上面と、カバーフィルム23bの下面と、を各々覆うように、電磁波シールドを配置すればよい(前出図2、図3参照)。この場合、本発明の柔軟導電材料の塗料を、カバーフィルム23aの上面およびカバーフィルム23bの下面に塗布し、架橋させればよい。さらに、電子機器の隙間にガスケットとして配置する場合には、本発明の柔軟導電材料を、所望の形状に成形して用いればよい。 実施例」 「[0083] <柔軟導電材料の製造> [実施例1?8] 下記の表1、表2に示す原料から、実施例1?8の柔軟導電材料を製造した。まず、エポキシ基含有アクリルゴムポリマー(日本ゼオン(株)製「Nipol(登録商標)AR42W」)と、加硫促進剤のジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学(株)製「ノクセラー(登録商標)PZ」)、およびジメチルジチオカルバミン酸第二鉄(大内新興化学(株)製「ノクセラーTTFE」)と、をロール練り機にて混合した。次に、得られた混合物を、メチルエチルケトン(MEK)に溶解した。そして、このMEK溶液に、導電剤(ライオン(株)製「ケッチェンブラック(登録商標)EC-600JD」)を添加して、ダイノミルにて攪拌した。続いて、攪拌後のMEK溶液に所定の吸着剤を添加して、超音波ホモジナイザーで5分間処理することにより、ゴム組成物を調製した。次に、調製したゴム組成物を、基材上にバーコート法により塗布し、厚さ約20μmの塗膜を形成した。そして、塗膜を乾燥させた後、170℃で30分間加熱して、架橋反応を進行させた。このようにして、実施例1?8の柔軟導電材料を製造した。 [0084] [実施例9] 導電剤を、銀粉末(DOWAエレクトロニクス(株)製、「FA-D-4」)に変更した点以外は、上記同様にして、実施例9の柔軟導電材料を製造した。」 「[0092] 表1、表2に、使用した原料の種類および配合量を示す。表1中、シリカとしては、日本アエロジル(株)製の乾式シリカ「Aerosil(登録商標)380」(pH3.7?4.7、比表面積380m^(2)/g)を使用した。また、H型陽イオン交換樹脂としては、ダウケミカル社製の「ダウエックス(登録商標)50Wx8 200-400」を使用した。表2中、活性炭としては、クラレケミカル(株)製の「YP-50F」を使用した。また、メソポーラスカーボンとしては、ALDRICH社製の「Carbon、mesoporous、graphitized、nanopowder」を使用した。」 イ 上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されていると認められる。 ・静電容量型センサのカバーフィルム23aの上面と、カバーフィルム23bの下面と、を各々覆うように配置した、電磁波シールドであって、電磁波シールドは、柔軟導電材料の塗料を、カバーフィルム23aの上面およびカバーフィルム23bの下面に塗布し、架橋させたものである([0081])。 ・カバーフィルム23aおよびカバーフィルム23bは、アクリルゴム製である([0057])。 ・柔軟導電材料は、エポキシ基含有アクリルゴムポリマーと、ケッチェンブラックとシリカを含み、シリカは、エポキシ基含有アクリルゴムポリマー100重量部に対して20重量部である([0083]、表1(実施例5))。 ・ケッチェンブラックは、高導電性カーボンブラックである([0026])。 ・柔軟導電材料の塗膜の厚さは約20μmである([0083])。 ・シリカは、比表面積380m^(2)/gである([0092])。 ウ 引用発明 上記イより、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「静電容量型センサのカバーフィルム23aの上面と、カバーフィルム23bの下面と、を各々覆うように配置した、電磁波シールドであって、 電磁波シールドは、柔軟導電材料の塗料を、アクリルゴム製のカバーフィルム23aの上面およびカバーフィルム23bの下面に塗布し、架橋させたものであり、 柔軟導電材料は、エポキシ基含有アクリルゴムポリマーと、高導電性カーボンブラックとシリカを含み、シリカは、エポキシ基含有アクリルゴムポリマー100重量部に対して20重量部であり、 柔軟導電材料の塗膜の厚さは約20μmであり、 シリカは、比表面積380m^(2)/gである電磁波シールド。」 (2)引用文献2 取消理由通知において引用した引用文献2には、図面とともに、次の事項が記載されている。 「【0032】 (実施例1) 表1の50%粒子径、かさ密度で、表面処理剤として脂肪酸を用いたフレーク状銀粉とウレタン樹脂(東洋インキ製造株式会社製:VA3020)とを用いて塗液を作製し、膜厚5μmの導電層を塗工・乾燥した。次いで絶縁層としてポリイミドフィルム12μmを、前記導電層を貼り合せて電磁波シールド性フィルムを作製した。得られた電磁波シールド性フィルムについて、電磁波シールド性、接着力、耐屈曲性を下記の方法で測定した。」 「【0036】 (3)耐屈曲性 幅6mm、長さ120mmの電磁波シールド性フィルムの導電層側を、別に作製したフレキシブルプリント配線板(厚み25μmのポリイミドフィルム上に、厚み12μmの銅箔からなる回路パターンが形成されており、さらに回路パターン上に、接着剤付きの、厚み40μmのカバーフィルムが積層されてなる配線板)のカバーフィルム面に150℃、1MPa、30minの条件で圧着させた。 次いで、曲率半径0.38mm、荷重500g、速度180回/minの条件でMIT屈曲試験機にかけ、回路パターンが断線するまでの回数により耐屈曲性を評価した。評価基準は以下の通りである。 ○:4000回以上 △:2000回以上4000回未満 ×:2000回未満」 上記記載より、引用文献2には次の技術が記載されている。 「絶縁層と導電層を貼り合せて電磁波シールド性フィルムを作製し、電磁波シールド性フィルムの導電層側を、別に作製したフレキシブルプリント配線板のカバーフィルム面に圧着させる」こと。 3 当審の判断 本件訂正により特許請求の範囲の請求項1は削除されたので、以下、本件発明2について検討する。 (1)対比 本件発明2と引用発明を対比する。 ア 引用発明の「カバーフィルム23a」及び「カバーフィルム23b」は、アクリルゴム製であるから絶縁体のフィルムであることは明らかであるので、絶縁層であるといえる。 また、引用発明の「柔軟導電材料の塗料を、」「塗布し、架橋させたもの」は、導電層である。 よって、引用発明の「静電容量型センサのカバーフィルム23aの上面と、カバーフィルム23bの下面と、を各々覆うように配置し」、「柔軟導電材料の塗料を、アクリルゴム製のカバーフィルム23aの上面およびカバーフィルム23bの下面に塗布し、架橋させた」「電磁波シールド」は、本件発明2の「絶縁層と、導電層とを備えた電磁波シールドシート」に相当する。 但し、本件発明2は、「絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備え、前記絶縁層と、前記導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板」であるのに対して、引用発明は、「電磁波シールド」で覆った「静電容量型センサ」である点で相違する。 イ 引用発明の「エポキシ基含有アクリルゴムポリマー」として示された日本ゼオン(株)製「Nipol(登録商標)AR42W」」([0083])は、熱硬化性樹脂であると認められるので、引用発明の「柔軟導電材料は、エポキシ基含有アクリルゴムポリマーと、高導電性カーボンブラックとシリカを含」むことは、本件発明2の「前記導電層は、導電性微粒子、熱硬化性樹脂およびシリカ粒子を含」むことに相当する。 但し、導電性微粒子について、本件発明2は、「前記導電性微粒子の形状は、フレーク状、葉状、または樹枝状」であるのに対して、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。 ウ 引用発明の「シリカは、比表面積380m^(2)/g」であることは、本件発明2の「前記シリカ粒子のBET比表面積は、90?380m^(2)/g」に含まれることである。 エ 引用発明の「シリカは、エポキシ基含有アクリルゴムポリマー100重量部に対して20重量部」であることは、本件発明2の「前記シリカ粒子を熱硬化性樹脂100重量部に対して10?95重量部含」まれることである。 オ 引用発明の「柔軟導電材料の塗膜の厚さは約20μm」であることは、本件発明2の「前記導電層の厚みは、1?100μmであること」に含まれる。 すると、本件発明2と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「絶縁層と、導電層とを備えた電磁波シールドシートであって、 前記導電層は、導電性微粒子、熱硬化性樹脂およびシリカ粒子を含み、 前記シリカ粒子のBET比表面積は、90?380m^(2)/gであり、 前記シリカ粒子を熱硬化性樹脂100重量部に対して10?95重量部含み、 前記導電層の厚みは、1?100μmである電磁波シールドシート。」 (相違点1) 本件発明2は、「絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備え、前記絶縁層と、前記導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板」であるのに対して、引用発明は、「電磁波シールド」で覆った「静電容量型センサ」である点。 (相違点2) 導電性微粒子について、本件発明2は、「前記導電性微粒子の形状は、フレーク状、葉状、または樹枝状」であるのに対して、引用発明は、そのような特定がない点。 (2)判断 上記相違点1について検討する。 引用文献2には、絶縁層と導電層を貼り合せて電磁波シールド性フィルムを作製し、電磁波シールド性フィルムの導電層側を、別に作製したフレキシブルプリント配線板のカバーフィルム面に圧着させる技術が記載されている(上記「2(2)」)。 しかしながら、引用発明の「静電容量型センサのカバーフィルム23aの上面と、カバーフィルム23bの下面と、を各々覆うように配置した、電磁波シールド」に引用文献2に記載された技術を適用しても、「静電容量型センサ」を電磁波シールド性フィルムで覆ったものとなるから、上記相違点1に係る「絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備え、前記絶縁層と、前記導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板」を得ることはできない。 したがって、上記相違点1に係る本件発明2の構成は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、本件発明2は、上記相違点2について検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 以上のとおり、当該消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由により、本件発明2に係る特許を取り消すことはできない。 (3)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人岡林茂(以下、「特許異議申立人」という。)は、令和1年10月11日付けの意見書において、本件発明2について、概略、次のように主張をしている。 甲第1号証(引用文献1)には「例えば、電子機器の筐体の内周面に、電磁波シールドを配置する場合には、ゴムポリマー等の原料を所定の溶剤に溶解してなる本発明の柔軟導電材料の塗料を、電子機器の筐体の内周面に塗布し、架橋させればよい。」([0081])と記載されているように、筐体としての絶縁層の内側に導電層を形成することが記載されている。(第3頁第3-8行) 甲第2号証(引用文献2)の【0032】【0036】には、絶縁層と、導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板が記載されている。(第4頁第15、16行) 甲第4号証(特開2009-290194号公報)、甲第5号証(特開2004-273577号公報)及び甲第6号証(特開2007-294918号公報)に記載されているように、絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備え、絶縁層と、導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板は、周知技術である。(第8頁第15-18行) そうすると、甲第1号証(引用文献1)の[0081]の記載、甲第2号証(引用文献2)の【0032】及び【0036】の記載、甲第4号証?甲第6号証で示す周知技術からすれば、引用文献2のプリント配線板の配線順序を採用し、引用文献1に示される電磁波シールドシートを、プリント配線板に対して用い、電磁波シールドシートを絶縁層と導電層とを有するものとし、絶縁層と、導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層された状態となるように、プリント基板上に、電磁波シールドシートを重ね、加熱圧着することでプリント基板を製造することは、当業者が容易に想到しることである。(第8頁第19-26行) 上記主張について検討する。 引用文献1における上記摘記事項([0081])に記載された電磁波シールドは、電子機器の筐体の内周面に、柔軟導電材料の塗料を塗布したものであるから、たとえプリント配線板に用いたとしても、プリント基板上に柔軟導電材料の塗料を塗布したものとなり、絶縁層と、導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層された状態を得ることはできない。 したがって、上記主張を採用することができない。 なお、甲第4号証ないし甲第6号証に記載されているように、絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備え、絶縁層と、導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板が周知技術であったとしても、引用発明の「静電容量型センサのカバーフィルム23aの上面と、カバーフィルム23bの下面と、を各々覆うように配置した、電磁波シールド」に上記周知技術を適用したものは、絶縁層と導電層とを有する電磁波シールドシートで「静電容量型センサ」を覆ったものとなり、上記「(2)判断」における相違点1の結論に変更はない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許法第29条第1項第3号について 特許異議申立人は、訂正前の請求項2に係る特許発明は、甲第1号証に記載された発明である旨を主張している。 しかしながら、上記「第4 3」に記載したとおり、本件発明2と甲第1号証に記載された発明(引用発明)を対比すると、上記相違点1で実質的に相違するので、本件発明2は甲第1号証に記載された発明(引用発明)ではない。 したがって、特許異議申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件発明2を取り消すことはできない。 2 特許法第29条第2項について 特許異議申立人は、訂正前の請求項3に係る特許発明は、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証に記載の発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明できたものである旨を主張している。 しかしながら、本件発明3は、上記相違点1に係る本件発明2の「絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備え、前記絶縁層と、前記導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板」に対応する構成を備えるものであるから、本件発明2と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明(引用発明)及び甲第2号証(引用文献2)に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、特許異議申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件発明3を取り消すことはできない。 第6 特許異議申立人のその他の主張について(令和1年10月11日付けの意見書) 特許異議申立人は、本件特許の当初明細書に、絶縁層と、導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層することは記載されていないので、訂正事項2及び訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当し、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものでないと主張している。(第9頁下から第3行-第10頁第15行) また、訂正後の請求項2及び請求項3に係る発明は、「絶縁層と、導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板」を発明特定事項、又は「このプリント配線板を製造方法」を発明特定事項とするものであるが、本件特許の明細書には、上記発明特定事項を有するプリント配線板及びその製造方法について、実施例も含めて具体的開示されていないので、訂正後の請求項2及び請求項3に係る発明は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているため、特許法第36条第6項第1号を充足しないと主張している。(第10頁第16行-第11頁第3行) しかしながら、明細書の段落【0011】には「本発明の電磁波シールドシートは、絶縁層と、導電層とを備えている。そして前記導電層は、導電性微粒子、熱硬化性樹脂およびシリカ粒子を含むことが必要である。本発明の電磁波シールドシートは、絶縁層の下地層といえる導電層にシリカ粒子を配合することで、導電層を硬くすることができる。本発明の電磁波シールドフィルムを備えたプリント配線板を電子機器の内部に組み込むと、導電層の硬さ故、絶縁層は、例えば電磁波シールド層が電子機器内の周辺部材と接触した場合、絶縁層に傷が付きにくくいため・・・」と記載されている。つまり、「絶縁層と、導電層とを備えている」「電磁波シールドフィルムを備えたプリント配線板」において、「導電層」が「絶縁層」の下地層になり、「絶縁層」が周辺部材と接触する最外層になることが示されているので、絶縁層と、導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層していることが記載されているといえる。 したがって、上記主張を採用することができない。 第7 むすび 以上のとおり、本件発明2、3に係る特許については、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件発明2、3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項1に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人岡林茂による特許異議の申立てについて、請求項1に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】(削除) 【請求項2】 絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備え、前記絶縁層と、前記導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板であって、 前記導電層は、導電性微粒子、熱硬化性樹脂およびシリカ粒子を含み、 前記導電性微粒子の形状は、フレーク状、葉状、または樹枝状であり、 前記シリカ粒子のBET比表面積は、90?380m^(2)/gであり、 前記シリカ粒子を熱硬化性樹脂100重量部に対して10?95重量部含み、 前記導電層の厚みは、1?100μmであることを特徴とするプリント配線板。 【請求項3】 絶縁層と、導電層とを有する電磁波シールドシートを備え、前記絶縁層と、前記導電層と、フレキシブルプリント基板とが順に積層されたプリント配線板の製造方法であって、 プリント基板上に、電磁波シールドシートを重ね、または貼り付けた後に加熱圧着する工程を有し、 前記導電層は、導電性微粒子、熱硬化性樹脂およびシリカ粒子を含み、 前記導電性微粒子の形状は、フレーク状、葉状、または樹枝状であり、 前記シリカ粒子のBET比表面積は、90?380m^(2)/gであり、 前記シリカ粒子を熱硬化性樹脂100重量部に対して10?95重量部含み、 前記導電層の厚みは、1?100μmであることを特徴とするプリント配線板の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-11-14 |
出願番号 | 特願2013-185981(P2013-185981) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(H05K)
P 1 651・ 113- YAA (H05K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 久松 和之 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
須原 宏光 山澤 宏 |
登録日 | 2017-12-15 |
登録番号 | 特許第6255816号(P6255816) |
権利者 | 東洋インキSCホールディングス株式会社 トーヨーケム株式会社 |
発明の名称 | 電磁波シールドシートおよびプリント配線板 |
代理人 | 特許業務法人太陽国際特許事務所 |
代理人 | 家入 健 |
代理人 | 家入 健 |
代理人 | 家入 健 |