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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D06N 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D06N 審判 全部申し立て 2項進歩性 D06N |
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管理番号 | 1358612 |
異議申立番号 | 異議2019-700115 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-02-13 |
確定日 | 2019-11-28 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6375450号発明「ヌバック調人工皮革、及びヌバック調人工皮革の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6375450号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-7〕、〔8-10〕について訂正することを認める。 特許第6375450号の請求項1ないし5、7ないし10に係る特許を維持する。 特許第6375450号の請求項6に係る特許についての申立てを却下する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許6375450号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成28年8月25日(優先権主張 平成27年9月7日)を国際出願日とする出願であって、平成30年7月27日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成30年8月15日)がされた。 本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。 平成31年2月13日 :特許異議申立人成田忍(以下「申立人」という。)による請求項1?10に係る特許に対する特許異議の申立て(以下本件の特許異議申立書を、「申立書」という。) 令和元年5月27日付け :取消理由通知書 令和元年7月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和元年8月29日 :申立人による意見書の提出 第2.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 上記令和元年7月25日提出の訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。 本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。 (1)訂正事項1 本件訂正前の請求項1の「前記可撓性シートの厚さ方向の断面視において、前記繊維の断面により取り囲まれる空隙が前記可撓性シートの内部に形成され、前記繊維の表面に前記樹脂が付着して前記繊維どうしが前記樹脂により結合された連続構造体が形成されることにより、前記空隙が保持されているヌバック調人工皮革。」という記載を、「前記可撓性シートの厚さ方向の断面視において、前記繊維の断面により取り囲まれる空隙が前記可撓性シートの内部に形成され、前記繊維の表面に前記樹脂が付着して前記繊維どうしが前記樹脂により結合された連続構造体が形成されることにより、前記空隙が保持され、前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、前記空隙は、前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域に形成されているヌバック調人工皮革。」と訂正する。(請求項1を引用する請求項2?7も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (3)訂正事項3 本件訂正前の請求項7に「表面粗さが、0.2?1.55μmである請求項1?6の何れか一項に記載のヌバック調人工皮革。」という記載を、「表面粗さが、0.2?1.55μmである請求項1?5の何れか一項に記載のヌバック調人工皮革。」 (4)訂正事項4 本件訂正前の請求項8の「150?1000g/m^(2)の目付を有する繊維を絡み合わせた基材に、」という記載を、「繊維を絡み合わせた基材に樹脂を付与してなる可撓性シートを備えるヌバック調人工皮革の製造方法であって、 150?1000g/m^(2)の目付を有する繊維を絡み合わせた基材に、」と訂正し、 また、同じく請求項8の「を包含するヌバック調人工皮革の製造方法。」という記載を、「を包含し、前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、前記空隙は、前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域に形成されているヌバック調人工皮革の製造方法。」と訂正する。(請求項8を引用する請求項9及び10も同様に訂正する。) 2.一群の請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)一群の請求項 本件訂正前の請求項2?7は、請求項1を引用するものであって、訂正事項1による請求項1の訂正によって、連動して訂正されるものである。 本件訂正前の請求項9及び10は、請求項8を引用するものであって、訂正事項4による請求項8の訂正によって、連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1?7に対応する訂正後の請求項〔1-7〕、及び、訂正前の請求項8?10に対応する訂正後の請求項〔8?10〕は、それぞれ、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (2)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「空隙」が形成される「可撓性シート」の「領域」を、「前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、前記空隙は、前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 さらに、本件特許明細書の段落【0039】には、「本発明のヌバック調人工皮革100において、可撓性シート100´内に空隙30が存在する領域は、可撓性シート100´の全体であることは必須ではなく、可撓性シート100´の表面から適切な深さまで空隙30が存在していれば構わない。・・・可撓性シート100´の表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、空隙30が存在する領域dは、可撓性シート100´の0?15%の領域ないし0?40%の領域、好ましくは可撓性シート100´の0?20%の領域ないし0?35%の領域に形成されていればよい。・・・」という記載があるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。 そして、訂正事項1が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。 (3)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項2が新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもないことは明らかである。 (4)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項7が請求項1?6を引用するものであったところ、訂正事項2によって訂正前の請求項6が削除されたことと整合させるために、引用する請求項を請求項1?5とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項3が新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもないことは明らかである。 (5)訂正事項4について 訂正事項4は、訂正前の請求項8に記載された「ヌバック調人工皮革の製造方法」を、「繊維を組み合わせた基材に樹脂を付与してなる可撓性シートを備えるヌバック調人工皮革の製造方法」と限定し、同請求項8に記載された「空隙」が形成される領域を、「前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、前記空隙は、前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域に形成されている」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 さらに、本件特許明細書の段落【0001】の「本発明は、繊維を絡み合わせた基材に樹脂を付与してなる可撓性シートを備えるヌバック調人工皮革、及びその製造方法に関する。」という記載、及び、上記(2)に摘記した本件特許明細書の段落【0039】の記載から、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。 そして、訂正事項4が、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないことは、明らかである。 3.訂正についての小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1-7〕、〔8-10〕について訂正することを認める。 第3 本件訂正後の本件発明 上記第2に示したとおり、本件訂正請求は認められたから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?5、7?10に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5、7?10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 繊維を絡み合わせた基材に樹脂を付与してなる可撓性シートを備えるヌバック調人工皮革であって、 前記可撓性シートの厚さ方向の断面視において、前記繊維の断面により取り囲まれる空隙が前記可撓性シートの内部に形成され、前記繊維の表面に前記樹脂が付着して前記繊維どうしが前記樹脂により結合された連続構造体が形成されることにより、前記空隙が保持され、前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、前記空隙は、前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域に形成されているヌバック調人工皮革。 【請求項2】 前記可撓性シートの断面の単位面積当たりの領域において、前記連続構造体の断面積(A)と前記空隙の断面積(B)との比率(A/B)は、15/85?90/10である請求項1に記載のヌバック調人工皮革。 【請求項3】 前記繊維の単繊度は、0.1?0.7dtexである請求項1又は2に記載のヌバック調人工皮革。 【請求項4】 前記繊維の長さ(a)と直径(b)との比率(a/b)は、2?1700である請求項1?3の何れか一項に記載のヌバック調人工皮革。 【請求項5】 前記樹脂は、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1?4の何れか一項に記載のヌバック調人工皮革。 【請求項7】 表面粗さが、0.2?1.55μmである請求項1?5の何れか一項に記載のヌバック調人工皮革。 【請求項8】 繊維を組み合わせた基材に樹脂を付与してなる可撓性シートを備えるヌバック調人工皮革の製造方法であって、 150?1000g/m^(2)の目付を有する繊維を絡み合わせた基材に、前記基材の目付に対して固形分換算で15?40重量%の付与量で樹脂を含浸させて、前記繊維の表面に前記樹脂が付着することにより前記繊維どうしが前記樹脂により結合された連続構造体を形成する含浸工程と、 前記樹脂を含浸させた基材を、80?150℃で、50?1200秒間乾燥させて、前記繊維の断面により取り囲まれて形成される空隙を保持する乾燥工程と、 を包含し、前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、前記空隙は、前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域に形成されているヌバック調人工皮革の製造方法。 【請求項9】 前記乾燥工程の後、前記樹脂が付与された基材を仕上げる仕上工程を実行する請求項8に記載のヌバック調人工皮革の製造方法。 【請求項10】 前記乾燥工程は、乾熱乾燥又は湿熱乾燥によって実施される請求項8又は9に記載のヌバック調人工皮革の製造方法。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1.取消理由の概要 本件発明1?5、7?10に対して、当審が令和元年5月27日付けで特許権者に通知した取消理由は、引用刊行物も含めて、次のとおりである。 なお、申立人が本件特許異議申立書に添付して提出した甲第1号証等を、以下「甲1」等という。 (1)理由1(特許法第29条第1項第3号、同条第2項;甲2に記載された発明を主とする新規性・進歩性) ア.甲2に記載された発明を主とする新規性 本件発明1、3及び4は、甲2に記載された発明である。 イ.甲2に記載された発明を主とする進歩性 本件発明1?5、7?10は、甲2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)理由2(特許法第29条第1項第3号、同条第2項;甲5に記載された発明を主とする新規性・進歩性) ア.甲5に記載された発明を主とする新規性 本件発明1及び3は、甲5に記載された発明である。 イ.甲5に記載された発明を主とする進歩性 本件発明1?5、7?10は、甲5に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。 <引 用 刊 行 物 一 覧> 甲2:特開平11-222780号公報 甲5:特開2010-31443号公報 甲6:特開2001-172881号公報 2.引用刊行物 (1)甲2に記載された事項及び発明 甲2の段落【0032】?【0034】に記載された【実施例1】に着目すると、甲2には、物の発明である次の「甲2-1発明」が記載されている。 「単繊維繊度が0.10デニールのポリトリメチレンテレフタレート極細繊維を長さ5mmに切断した後、水中に分散させ、表層用と裏層用の抄造用スラリーを作り、表層目付100g/m^(2)、裏層目付50g/m^(2)とし、その中間に100d/48fのPET繊維からなるガーゼ状の織物を挿入して積層構造繊維シートとし、次いで高速水流の噴射により三次元交絡不織布とした後、ピンテンターで乾燥して得られた目付200g/m^(2)、厚さ0.8mmの不織シート状物に、#400のエメリペーパーで表層をバフィングした後、日華化学社製「エバファノールAP-12」(強制乳化型非イオン系ポリエーテル無黄変タイプのポリウレタン弾性体;商品名)のエマルジョン7%濃度で感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを加えて調合した含浸液により含浸率が160%になるようにマングルで絞り付着率を合わせ、前記含浸液を含浸させ、連続的にピンテンター乾燥機で130℃、3分で加熱乾燥させて得られた人工皮革原反を備える柔軟な風合い、高級感のあるソフトな手触り感と優れたライティング効果の表面品位を有し、かつ従来に無い高度の耐摩耗性、耐候性を有する起毛人工皮革。」 また、甲2の上記【実施例1】に着目すると、甲2には、物の製造方法の発明である次の「甲2-2発明」が記載されている。 「単繊維繊度が0.10デニールのポリトリメチレンテレフタレート極細繊維を長さ5mmに切断した後、水中に分散させ、表層用と裏層用の抄造用スラリーを作り、表層目付100g/m^(2)、裏層目付50g/m^(2)とし、その中間に100d/48fのPET繊維からなるガーゼ状の織物を挿入して積層構造繊維シートとして、次いで高速水流の噴射により三次元交絡不織布とした後、ピンテンターで乾燥して得られた目付200g/m^(2)、厚さ0.8mmの不織シート状物に、#400のエメリペーパーで表層をバフィングした後、日華化学社製「エバファノールAP-12」(強制乳化型非イオン系ポリエーテル無黄変タイプのポリウレタン弾性体;商品名)のエマルジョン7%濃度で感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを加えて調合した含浸液により含浸率が160%になるようにマングルで絞り付着率を合わせ、前記含浸液を含浸させ、連続的にピンテンター乾燥機で130℃、3分で加熱乾燥させて得られた人工皮革原反を備える柔軟な風合い、高級感のあるソフトな手触り感と優れたライティング効果の表面品位を有し、かつ従来に無い高度の耐摩耗性、耐候性を有する起毛人工皮革の製造方法。」 (2)甲5に記載された事項及び発明 甲5の段落【0094】?【0096】に記載された「比較例1」に着目すると、甲5には、物の発明である次の「甲5-1発明」が記載されている。 「単繊維繊度0.15dtexと0.1dtexの極細ポリエチレンテレフタレートをそれぞれ5mmに切断して、水中に分散させ、表層と裏層用の抄造用スラリーを作り、表層目付110g/m^(2)、裏層目付60g/m^(2)とし、その中間にポリエチレンテレフタレート165dtex/48fの糸からなるガーゼ状の織物を封入し、三層積層構造の不織布とし、得られた不織布に高速水流を噴射して、三次元交絡不織布とした後、ヒートセットにより乾燥させ、表層をサンドペーパーを備えるバフ機により起毛して得られた起毛パイル不織布に、水系ポリカーボネート系ポリウレタンエマルジョンとしてエバファノールAPC-55(日華化学株式会社製)を固形分付着率17重量%になるように含浸し、130℃で3分間熱処理して乾燥して得た、厚さ1.0mmのヌバック調シート状物。」 また、甲5の上記「比較例1」に着目すると、甲5には、物の製造方法の発明である次の「甲5-2発明」が記載されている。 「単繊維繊度0.15dtexと0.1dtexの極細ポリエチレンテレフタレートをそれぞれ5mmに切断して、水中に分散させ、表層と裏層用の抄造用スラリーを作り、表層目付110g/m^(2)、裏層目付60g/m^(2)とし、その中間にポリエチレンテレフタレート165dtex/48fの糸からなるガーゼ状の織物を封入し、三層積層構造の不織布とし、得られた不織布に高速水流を噴射して、三次元交絡不織布とした後、ヒートセットにより乾燥させ、表層をサンドペーパーを備えるバフ機により起毛して得られた起毛パイル不織布に、水系ポリカーボネート系ポリウレタンエマルジョンとしてエバファノールAPC-55(日華化学株式会社製)を固形分付着率17重量%になるように含浸し、130℃で3分間熱処理して乾燥して、厚さ1.0mmのシート状物を得る、 ヌバック調シート状物の製造方法。」 第5 当審の判断 1.理由1(甲2に記載された発明を主とする新規性・進歩性) (1)本件発明1について ア.対比 本件発明1と甲2-1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1のヌバック調人工皮革は、「繊維の断面により取り囲まれる空隙」が、「前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、前記空隙は、前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域に形成され」たものであるのに対し、甲2-1発明の、「起毛人工皮革」は、そのように特定されていない点。 イ.新規性についての検討 上記<相違点1>について検討する。 <相違点1>は、人工皮革が備える「可撓性シート」の内部に形成される「空隙」が形成される領域についての相違点であるから、実質的な相違点である。 よって、本件発明1は、甲2-1発明であるとはいえない。 したがって、本件発明1は特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、その特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由として、取り消すことはできない。 ウ.進歩性についての検討 甲2の記載からみて、甲2-1発明の「起毛人工皮革」は、三次元交絡不織布の繊維により取り囲まれた空隙が形成され得るとしても、その空隙が形成される領域を、「起毛人工皮革」の表面から一部の厚さに設けようと意図するものではないし、ましてや当該空隙を設ける領域を、「前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、」「前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域」とすることの記載はなく、示唆する記載もない。 さらに、申立人が提出した甲1、甲3?6にも記載されていないし、示唆する記載もない。 本件発明1は、上記<相違点1>に係る空隙を備えることにより、「・・・可撓性シート100´の表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、空隙30が存在する領域dは、可撓性シート100´の0?15%の領域ないし0?40%の領域、・・・に形成されていればよい。この場合、ヌバック調人工皮革100は、天然皮革のようなぬめり感や毛並みを実現しながら、良好な耐摩耗性を維持することができる。空隙30の存在領域が可撓性シート100´の表面(0%)?15%未満である場合、空隙が不足するため、弾力性が無くなってぬめり感や毛並みを十分に付与することが困難となる。空隙30の存在領域が可撓性シート100´の表面(0%)?40%を超える場合、空隙が過剰になるため、強度が低下して摩耗し易くなる。」(本件特許明細書 段落【0039】)との格別な作用効果を奏する。 よって、甲2-1発明において、上記<相違点1>に係る本件発明1の特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 エ.したがって、本件発明1は、甲2-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、その特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由として、取り消すことはできない。 (2)本件発明2?5、7について 本件発明2?5、7は、本件発明1を引用し、さらに限定を付加した発明であるところ、上記(1)に示したように、本件発明1は、甲2-1発明ではなく、かつ、甲2-1発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものでもないから、本件発明1の全ての発明特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明3及び4は、甲2-1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号の規定に該当しないから、その特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消すことはできない。 また、本件発明1の全ての発明特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明2?5、7は、甲2-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、その特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消すことはできない。 (3)本件発明8について ア.対比 本件発明8と甲2-2発明とを対比する。 そうすると、両者は少なくとも以下の点で相違する。 <相違点2> 本件特許発明8の「ヌバック調人工皮革の製造方法」は、「前記繊維の断面により取り囲まれて形成される空隙」が「前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、前記空隙は、前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域に形成されている」「ヌバック調人工皮革」を製造する方法であるのに対し、甲2-2発明の「起毛人工皮革の製造方法」は、そのように特定されていない点。 イ.進歩性についての検討 甲2の記載からみて、甲2-2発明の「起毛人工皮革の製造方法」は、三次元交絡不織布の繊維により取り囲まれた空隙が形成され得るとしても、その空隙が形成される領域を、「起毛人工皮革」の表面から一部の厚さに設けようとするものではないし、ましてや、当該空隙を設ける領域を、「前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、」「前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域」とすることの記載はなく、示唆する記載もない。 さらに、申立人が提出した甲1、甲3?6にも記載されていないし、示唆する記載もない。 本件発明8は、上記<相違点2>に係る空隙を備えることにより、上記1.(1)ウ.に示した格別な作用効果を奏する。 よって、甲2-2発明において、上記<相違点2>に係る本件発明8の特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 ウ.したがって、本件発明8は、甲2-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないないものであるとはいえず、その特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消すことはできない。 (4)本件発明9及び10について 本件発明9及び10は、本件発明8を引用し、さらに限定を付加した発明であるところ、上記(3)に示したように、本件発明8は、甲2-2発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものではないから、本件発明8の全ての発明特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明9及び10も、甲2-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることがでできないものであるとはいえず、それらの特許は特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消すことはできない。 2.理由2について (1)本件発明1について ア.対比 本件発明1と甲5-1発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。 <相違点3> 本件発明1のヌバック調人工皮革は、「繊維の断面により取り囲まれる空隙」が「前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、前記空隙は、前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域に形成され」たものであるのに対し、甲5-1発明の「ヌバック調シート状物」は、そのように特定されていない点。 イ.新規性についての検討 上記<相違点3>について検討する。 <相違点3>は、人工皮革が備える「可撓性シート」の内部に形成される「空隙」の形成される領域についての相違点であるから、実質的な相違点である。 よって、本件発明1は、甲5-1発明であるとはいえない。 したがって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当することを理由として、その特許は特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきであるとはいえない。 ウ.進歩性についての検討 甲5の記載からみて、甲5-1発明の「ヌバック調シート状物」は、三次元交絡不織布の繊維により取り囲まれた空隙が形成され得るとしても、その空隙が形成される領域を、「ヌバック調シート状物」の表面から一部の厚さに設けようとするものではないし、ましてや、当該空隙を設ける領域を、「前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、」「前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域」とすることの記載はなく、示唆する記載もない。 さらに、申立人が提出した甲1?4、6にも記載されていないし、示唆する記載もない。 本件発明1は、上記<相違点3>に係る空隙を備えることにより、上記1.(1)ウ.に示した格別な作用を奏する。 よって、甲5-1発明において、上記<相違点3>に係る本件発明1の特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 エ.したがって、本件発明1は、甲5-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことを理由として、その特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきであるとはいえない。 (2)本件発明2?5、7について 本件発明2?5、7は、本件発明1を引用し、さらに限定を付加した発明であるところ、上記(1)に示したように、本件発明1は、甲5-1発明ではなく、かつ、甲5-1発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものでもないから、本件発明1の全ての発明特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明3は、甲5-1発明であるとはいえず、それらの特許は特許法第29条第1項第3号の規定に該当することを理由として、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものであるとはいえない。また、本件発明1の全ての発明特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本本件発明2?5、7は、甲5-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることがでできないものであることを理由として、それらの特許は特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものであるとはいえない。 (3)本件発明8について ア.対比 本件発明8を甲5-2発明と対比する。 そうすると、両者は少なくとも以下の点で相違する。 <相違点4> 本件特許発明8の「ヌバック調人工皮革の製造方法」は、「前記繊維の断面に寄り取り囲まれて形成される空隙」が「前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、前記空隙は、前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域に形成されている」「ヌバック調人工皮革」を製造する方法であるのに対し、甲5-2発明の「ヌバック調シート状物の製造方法」は、そのように特定されていない点。 イ.進歩性についての検討 甲5の記載からみて、甲5-2発明の「ヌバック調シート状物の製造方法」は、三次元交絡不織布の繊維により取り囲まれた空隙が形成され得るとしても、その空隙が形成される領域を、「ヌバック調シート状物」の表面から一部の厚さに設けようとするものではないし、ましてや、当該空隙を設ける領域を、「前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、」「前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域」とすることの記載はなく、示唆する記載もない。 さらに、申立人が提出した甲1?4、6にも記載されていないし、示唆する記載もない。 本件発明8は、上記<相違点4>に係る空隙を備えることにより、上記1.(1)ウ.に示した格別な作用効果を奏する。 よって、甲5-2発明において、上記<相違点4>に係る本件発明8の特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 ウ.したがって、本件発明8は、甲5-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないないものであるとはいえず、その特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消すことはできない。 (4)本件発明9及び10について 本件発明9及び10は、本件発明8を引用し、さらに限定を付加した発明であるところ、上記(3)に示したように、本件発明8は、甲5-2発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものではないから、本件発明8の全ての発明特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明9及び10は、甲5-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。よって、本件発明9及び10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることがでできないものであるとはいえず、それらの特許は特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消すことはできない。 3.申立人が提出した意見書での主張について 申立人は、令和元年8月29日に提出した意見書4ページの「3(6)」において、大要、次のとおり主張している。 甲2の「例えば、特開平5-78986号公報にはメルトブロー法で得られた平均繊維径0.1?6μmの極細繊維が相互に絡み合って構成された不織布に高分子弾性体を含浸付与する際に、裏面層側よりも表面層側に多く分布するようにすることで、極細繊維の把持力を強化して耐摩耗性に優れたヌバック調人工皮革が開示されている。しかし、この場合極細繊維が高分子弾性体に強固に接着されてることになり、天然皮革様の柔軟な風合いを得にくい。」(段落【0003】)という記載から、甲2は、極細繊維が相互に絡み合って構成された不織布に高分子弾性体を含浸付与する際に、空隙の形成する領域を裏面層側よりも表面相側に多く分布させることにより、極細繊維の把持力を強化して耐摩耗性に優れたヌバック調人工皮革が得られることを示唆している。したがって、甲2には「0?15%の領域ないし0?40%の領域」と具体的な割合は開示されていないものの、空隙の形成する領域を表面から一部の位置までのものに限定することによって耐摩耗性が向上することを示唆している。 そこで検討する。申立人が言及した甲2の段落【0003】の上記記載は、甲2における従来技術の記載であり、甲2発明の起毛人工皮革の高分子弾性体が存在する領域についてではない。そして、甲2には、甲2発明の起毛人工皮革の高分子弾性体を厚さ方向の一部に設けることについて、記載も示唆もない。よって、申立人の上記主張は採用できない。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立て理由について 申立人は、本件特許異議申立書において、証拠とともに、当審が通知した取消理由に採用しなかった次の取消理由を主張しているから、検討する。 1.申立理由1(特許法第36条第6項第2号) (申立書3ページ19行?4ページ24行、17ページ2行18ページ末行) 申立書の上記箇所において、申立人は、大要、「本件発明1及び本件発明8においては、連続構造体が「繊維の表面に樹脂が付着することにより繊維どうしが樹脂により結合されている」形態であることが特定されているが、「連続」の用語の外延が明確でない。そのために「連続構造体」とそれ以外の「連続ではない構造体」とをどのように区別するのか理解できず、外延が不明確である、と主張している。 そこで検討する。本件特許明細書には、次の記載がある。 「【0036】 本発明のヌバック調人工皮革100は、多孔質素材である天然皮革と類似した構造を有するように構成される。具体的には、ヌバック調人工皮革100を構成する可撓性シート100´の内部に、樹脂20で結合された複数の繊維10によって取り囲まれた微視的な空間が多数形成される。この微視的な空間を、本発明では空隙30と規定する。可撓性シート100´は、繊維10どうしの交絡部が樹脂20によって固着され、さらに繊維10の表面に樹脂20が適度に付着することにより、複数の繊維10どうしが樹脂20で結合された連続構造体40が形成されている。このような連続構造体40が形成されることで、可撓性シート100´内での繊維10間の相対的な位置関係は実質的に固定される。その結果、繊維10によって取り囲まれた空隙30は、その形態が保持され、可撓性シート100´内で固定される。 【0037】 本発明のヌバック調人工皮革100では、図1に示すように、繊維10の長手方向に垂直な方向の多数の断面によって取り囲まれた空隙30が、可撓性シート100´の内部に適度に分散した状態で存在する。このような構造は、天然皮革の構造と類似しており、これにより、天然皮革に近い触感(ぬめり感)や風合い(毛並み)を実現することができる。また、可撓性シート100´は、繊維10が樹脂20によって補強されているため、天然皮革より強度が増しており、優れた耐摩耗性を示すものとなる。・・・」 そうすると、本件発明において、「構造体」が「連続」であるとは、「繊維10どうしの交絡部が樹脂20によって固着され、さらに繊維10の表面に樹脂20が適度に付着することにより、複数の繊維10どうしが樹脂20で結合」されることによって形成される構造であって、「天然皮革の構造と類似しており、これにより、天然皮革に近い触感(ぬめり感)や風合い(毛並み)を実現することができる。また、可撓性シート100´は、繊維10が樹脂20によって補強されているため、天然皮革より強度が増しており、優れた耐摩耗性を示すものとなる」ものである。そして、そのような構造の存否は、本件特許公報の段落【0048】以降に記載された「実施例」によって得られた人工皮革の性質を段落【0066】の【表1】に示されるように測定することで把握できる。 そうすると、本件特許請求の範囲の請求項1及び8にそれぞれ記載された「連続構造体」との記載は、第三者の利益が不当に害されることがあり得るほど明確ではないとまではいえず、本件特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号の規定に適合せず、本件発明1?5、7?10に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当することを理由として、取り消すことはできない。 2.申立理由2(特許法第36条第6項第1号) (申立書4ページ25行?6ページ末行、19ページ1行?22ページ3行) 申立書の上記箇所において、申立人は、大要、本家発明の発明の詳細な説明には、「連続構造体」を形成したとされる実施例1?5の強制乳化型ポリウレタンを含浸されたヌバック調人工皮革が、出願人が従来技術であって、「非連続構造体」を形成すると主張する自己乳化型ポリウレタンを含浸したヌバック調人工皮革に比べて、「ぬめり感や毛並みを十分に引き出す」という課題が解決されたとする実施例による裏付けが何ら示されていない。 そこで検討する。本件発明は、「・・・天然皮革に近いぬめり感や毛並みと、優れた耐摩耗性とを兼ね備えたヌバック調人工皮革、及びその製造方法を提供する・・・」(本件特許明細書段落【0009】)ことを課題とするものである。そして、上記1.に摘記した本件特許明細書の段落【0036】及び【0037】の記載から、本件発明は「複数の繊維10どうしが樹脂20で結合された連続構造体40が形成されている」との構成により、当該課題を解決するものであるところ、本件発明1は「・・・前記繊維の断面により取り囲まれる空隙が前記加藤シートの内部に形成され、前記繊維の表面に前記樹脂が付着して前記繊維どうしが前記樹脂により結合された連続構造体が形成される」との構成を備え、本件発明8は、「・・・前記背にの表面に前記樹脂が付着することにより前記繊維どうしが前記樹脂により結合された連続構造体を形成する含浸工程と、前記樹脂を含浸させた基材を、80?150℃で、50?1200秒間乾燥させて、前記繊維の断面により取り囲まれて形成される空隙を保持する乾燥工程」との構成を備えるものであるから、本件発明1、及び、本件発明1を引用する本件発明2?5、7、並びに、本件発明8、及び、本件発明8を引用する本件発明9、10は、上記課題を解決するものであることが理解できる。 そうすると、本件発明1?5、7?10は、いずれも、本件発明の詳細な説明に記載されたものでから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないとはいえず、本件発明1?5、7?10の特許は、特許法第113条第4号の規定に該当することを理由として、取り消すことはできない。 3.申立理由3(特許法第29条第2項) (申立書7ページ1行?10ページ14行) 申立書の上記箇所において、申立人は、大要、本件発明1?5、6、7は、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項、及び、甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?5、6、7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと主張している。 そこで検討する。甲1には、「厚さ方向の断面視において、繊維の断面により取り囲まれる空隙が、前記可撓性シートの内部に形成されたものであって、前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、前記空隙は、前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域に形成された」ものが記載されていないし、示唆する記載もない。また、甲2及び甲3にもそのような記載はないし、示唆する記載もない。さらに、第5の1.(1)ウ.に示したように、甲4?6にも記載されていないし示唆する記載もない。 そうすると、本件発明1及び本件発明1を引用して限定する本件発明2?5、7は、甲1発明、甲2事項、及び、甲3事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、それらの特許は、特許法第113条第4号に該当することを理由として、取り消すことはできない。 第7 まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1?5、7?10に係る特許は、令和元年5月27日付け取消理由通知に記載した取消理由及び申立書に記載した異議申立理由によっては、特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?5、7?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、請求項6に係る特許は、本件訂正請求により削除されたため、本件特許の請求項6についての特許異議の申立ては、その対象となる請求項が存在しないものとなった。よって、本件特許の請求項6に係る特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。 よって結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 繊維を絡み合わせた基材に樹脂を付与してなる可撓性シートを備えるヌバック調人工皮革であって、 前記可撓性シートの厚さ方向の断面視において、前記繊維の断面により取り囲まれる空隙が前記可撓性シートの内部に形成され、前記繊維の表面に前記樹脂が付着して前記繊維どうしが前記樹脂により結合された連続構造体が形成されることにより、前記空隙が保持され、前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、前記空隙は、前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域に形成されているヌバック調人工皮革。 【請求項2】 前記可撓性シートの断面の単位面積当たりの領域において、前記連続構造体の断面積(A)と前記空隙の断面積(B)との比率(A/B)は、15/85?90/10である請求項1に記載のヌバック調人工皮革。 【請求項3】 前記繊維の単繊度は、0.1?0.7dtexである請求項1又は2に記載のヌバック調人工皮革。 【請求項4】 前記繊維の長さ(a)と直径(b)との比率(a/b)は、2?1700である請求項1?3の何れか一項に記載のヌバック調人工皮革。 【請求項5】 前記樹脂は、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1?4の何れか一項に記載のヌバック調人工皮革。 【請求項6】(削除) 【請求項7】 表面粗さが、0.2?1.55μmである請求項1?5の何れか一項に記載のヌバック調人工皮革。 【請求項8】 繊維を絡み合わせた基材に樹脂を付与してなる可撓性シートを備えるヌバック調人工皮革の製造方法であって、 150?1000g/m^(2)の目付を有する繊維を絡み合わせた基材に、前記基材の目付に対して固形分換算で15?40重量%の付与量で樹脂を含浸させて、前記繊維の表面に前記樹脂が付着することにより前記繊維どうしが前記樹脂により結合された連続構造体を形成する含浸工程と、 前記樹脂を含浸させた基材を、80?150℃で、50?1200秒間乾燥させて、前記繊維の断面により取り囲まれて形成される空隙を保持する乾燥工程と、 を包含し、前記可撓性シートの表面の位置を0%とし、裏面の位置を100%とした場合、前記空隙は、前記可撓性シートの0?15%の領域ないし0?40%の領域に形成されているヌバック調人工皮革の製造方法。 【請求項9】 前記乾燥工程の後、前記樹脂が付与された基材を仕上げる仕上工程を実行する請求項8に記載のヌバック調人工皮革の製造方法。 【請求項10】 前記乾燥工程は、乾熱乾燥又は湿熱乾燥によって実施される請求項8又は9に記載のヌバック調人工皮革の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-11-20 |
出願番号 | 特願2017-539105(P2017-539105) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(D06N)
P 1 651・ 113- YAA (D06N) P 1 651・ 121- YAA (D06N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中川 裕文、岩田 行剛 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
久保 克彦 佐々木 正章 |
登録日 | 2018-07-27 |
登録番号 | 特許第6375450号(P6375450) |
権利者 | セーレン株式会社 |
発明の名称 | ヌバック調人工皮革、及びヌバック調人工皮革の製造方法 |
代理人 | 沖中 仁 |
代理人 | 沖中 仁 |