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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G06F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G06F 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G06F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G06F 審判 全部申し立て 特174条1項 G06F |
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管理番号 | 1358631 |
異議申立番号 | 異議2018-700665 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-08-09 |
確定日 | 2019-12-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6341491号発明「信号処理方法、および信号処理プログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6341491号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-4〕,〔5-8〕について訂正することを認める。 特許第6341491号の請求項1,2,5,6に係る特許を維持する。 特許第6341491号の請求項3-4,7-8に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6341491号の請求項1乃至8に係る特許についての出願は,平成29年2月21日に出願され,平成30年5月25日にその特許権の設定登録がされ,同年6月13日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許について,同年8月9日に特許異議申立人篠森重樹により特許異議の申立てがされ,当審は,平成31年2月15日付けで取消理由を通知した。特許権者は,その指定期間内である平成31年4月22日に意見書の提出及び訂正の請求を行ったところ,令和元年5月8日付けで訂正請求書について手続補正指令がなされたため,同月29日付けで訂正請求書の手続補正がなされ,その訂正の請求に対して,特許異議申立人篠森重樹は,令和元年8月16日に意見書を提出した。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は,以下の(1)ア乃至キ及び(2)ア乃至キのとおりである。(なお,下線は訂正箇所であり,この項において同様である。) (1)1群の請求項1乃至4に係る訂正 ア 訂正事項1 請求項1に係る「複数のノード」につき,「複数の通信端末」に訂正し,訂正前に「複数のノードにより構成されるグループ」とされていたものを,「互いにネットワークを介して接続される通信端末により構成されるグループ」に訂正するとともに,訂正前に「前記承認要求信号を受信した前記複数のノードのうちの一定割合に相当するノードより承認信号を受信する」とされていたものを,「前記承認要求信号を受信した前記複数の通信端末のうちの一定割合に相当する通信端末より承認信号を受信する」と訂正する。 イ 訂正事項2 請求項1に係る「承認要求信号」の送信先につき,訂正前に「トランザクションの実行に対する承認要求信号を前記複数のノードの少なくとも一つに送信する」とされていたものを,「トランザクションの実行に対する承認要求信号を、前記複数の通信端末の少なくとも一つに送信する」に訂正する。 ウ 訂正事項3 請求項1に係る「トランザクションを実行する手順」につき,訂正前に「受信した前記承認信号の承認に基づき」とされていたものを,「前記承認信号を受信した後」と訂正する。 エ 訂正事項4 請求項1に係る「ブロックチェーンネットワーク」につき,訂正前に「前記トランザクション、および前記トランザクションの電子署名をブロックチェーンネットワークにブロードキャストし」とされていたものを,「前記トランザクション、および前記トランザクションの電子署名を、複数のノードで構成され、前記ネットワークに接続されたブロックチェーンネットワークにブロードキャストし」と訂正する。 オ 訂正事項5 請求項1に係る「信号処理方法」につき,訂正前に「送信する手順」と,「受信する手順」と,「トランザクションを実行する手順」を含むとされていたものを,さらに「前記複数の通信端末のうち少なくとも一つが前記ブロックチェーンネットワークに接続され、前記ブロードキャストを実行する」と訂正する。 カ 訂正事項6 請求項2に係る「前記承認信号」につき,訂正前に「前記承認信号は前記ノードにおける電子署名の付加により生成される」とされていたものを,「前記承認信号は、前記承認要求信号を受信した前記通信端末において、前記トランザクションへ電子署名を付加することにより生成される」と訂正する。 キ 訂正事項7 訂正前の請求項3及び請求項4を削除するよう訂正する。 (2)一群の請求項5乃至8に係る訂正 ア 訂正事項8 請求項5に係る「複数のノード」につき,「複数の通信端末」に訂正し,訂正前に「複数のノードにより構成されるグループ」とされていたものを,「互いにネットワークを介して接続される複数の通信端末により構成されるグループ」に訂正するとともに,訂正前に「前記承認要求信号を受信した前記複数のノードのうちの一定割合に相当するノードより承認信号を受信する」とされていたものを,「前記承認要求信号を受信した前記複数の通信端末のうちの一定割合に相当する通信端末より承認信号を受信する」と訂正する。 イ 訂正事項9 請求項5に係る「承認要求信号」の送信先につき,訂正前に「トランザクションの実行に対する承認要求信号を、前記複数のノードの一つから前記複数のノードの他の少なくとも一つに送信する」とされていたものを,「トランザクションの実行に対する承認要求信号を、前記複数の通信端末の一つから前記複数の通信端末の他の少なくとも一つに送信する」に訂正する。 ウ 訂正事項10 請求項5に係る「トランザクションを実行する手順」につき,訂正前に「受信した前記承認信号の承認に基づき」とされていたものを,「前記承認信号を受信した後」と訂正する。 エ 訂正事項11 請求項5に係る「ブロックチェーンネットワーク」につき,訂正前に「前記トランザクション、および前記トランザクションの電子署名をブロックチェーンネットワークにブロードキャストし」とされていたものを,「前記トランザクション、および前記トランザクションの電子署名を、複数のノードで構成され、前記ネットワークに接続されたブロックチェーンネットワークにブロードキャストし」と訂正する。 オ 訂正事項12 請求項5に係る「信号処理プログラム」につき,訂正前に「送信する手順」と,「受信する手順」と,「トランザクションを実行する手順」を「前記複数のノードに実行させるように構成され」るとされていたものを,さらに「前記複数の通信端末のうち少なくとも一つが前記ブロックチェーンネットワークに接続され、前記ブロードキャストを実行する」と訂正する。 カ 訂正事項13 請求項6に係る「ノード」につき,訂正前に「前記複数のノードに実行させる」とされていたものを,「前記複数の通信端末に実行させる」と訂正するとともに,電子署名が付加される対象につき,訂正前に「電子署名を付加することにより前記承認信号を生成する」とされていたものを,「電子署名を前記トランザクションへ付加することにより前記承認信号を生成する」と訂正する。 キ 訂正事項14 訂正前の請求項7及び8を削除するよう訂正する。 2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は,訂正前の「複数のノード」について,「複数の通信端末」と訂正する事項を含むものである。 本件明細書の段落16乃至20には,次の記載が認められる。(下線は,本決定において説明のために付加したものであり,以下同様である。) 「【0016】 通信端末110はユーザの管理下に置かれ、通信機能を有する端末であり、据え付け型(デスクトップ型)コンピュータをはじめ、ノート型コンピュータや携帯電話(タブレット、スマートフォンを含む)などの携帯通信端末が例示される。通信端末110は、互いにネットワーク120を通じて通信することができる。ネットワーク120は、インターネットのような外部ネットワークでも良く、LAN(Local Area Network)などの内部ネットワークでもよい。内部ネットワークをネットワーク120として用いる場合、通信端末110のうち少なくとも一つが外部ネットワークと接続される。図示していないが、通信端末110は、その一部あるいは全てが電話回線によって互いに接続されていてもよい。通信端末110はノードとも呼ばれる。 【0017】 データ100はテキストデータ、画像データ、あるいはこれらの複合データであり、電子化されている。例えば文書、表、写真、絵、数値などである。データ100には暗号化を施さず、ユーザグループ内においてパスワードによる保護や閲覧制限に供さなくてもよい。この場合、ユーザグループの全員が通信端末110を介してデータ100を自由に閲覧することができる。 【0018】 データ100は、ネットワーク120に接続されたサーバ150に格納してもよい。サーバ150を直接、あるいは間接的に管理する管理者(以下、単に管理者)は、管理者のサービス内容に応じてデータ100のための様々なプラットフォームを提供する。例えばユーザグループのスケジュールデータを管理するためのプラットフォーム、ユーザの任意入力情報を時系列に表示するためのプラットフォーム、ユーザグループの共有財産に係るデータを表示するためのプラットフォームなどが提供される。ユーザは、扱うデータ100に最適なプラットフォームを選択し、プラットフォームの環境に従ってデータ100を扱う。 【0019】 ネットワーク120にはさらに、ブロックチェーンネットワーク130が接続される。ブロックチェーンネットワーク130は、ネットワーク120を介して互いに接続された複数の通信端末132_1から132_m(mは自然数)で構成される。これらの通信端末132は、スペックの差異は存在し得るものの、権限に関しては対等であり、互いに直接通信することができ、いわゆるP2P(Peer-to-Peer)ネットワークを形成する。通信端末132はノードとも呼ばれる。以下の記載では、通信端末110と区別するため、通信端末132をノードと呼ぶ。通信端末110の少なくとも一つは、ノード132の少なくとも一つとネットワーク120を介して接続される。通信端末110はノード132として機能することも可能であり、逆に、ノード132が通信端末110を兼ねてもよい。この場合、通信端末110の少なくとも一つがノード132として機能すればよい。 【0020】 ノード132は、データの送信処理または受信処理に基づく情報処理の単位であり、不特定の所有者がそれぞれ管理する通信端末であってもよく、この場合、ブロックチェーンネットワーク130はパブリックブロックチェーンネットワークとも呼ばれる。あるいはノード132のすべて、あるいは一部が管理者によって管理されるよう、ブロックチェーンネットワーク130を構成してもよい。例えば管理者と同じ業界内の複数の関係者によってブロックチェーンネットワーク130を構成する。この場合、ブロックチェーンネットワーク130はプライベートブロックチェーンネットワーク、あるいはコンソーシアムブロックチェーンネットワークとも呼ばれる。」 上記の記載(特に下線部)から,次の技術的事項1を読み取ることができる。 “通信端末110は通信機能を有する端末であって,互いにネットワーク120を通じて通信することができ, 前記通信端末110はノードとも呼ばれ, ユーザグループの全員が前記通信端末110を介してデータ100を自由に閲覧することができ, ネットワーク120にはさらに,ブロックチェーンネットワーク130が接続され, 前記ブロックチェーンネットワーク130は,前記ネットワーク120を介して互いに接続された複数の通信端末132_1から132_m(mは自然数)で構成され, 前記通信端末110と区別するため,前記通信端末132をノードと呼び,前記通信端末110の少なくとも一つは,前記ノード132の少なくとも一つと前記ネットワーク120を介して接続され,前記通信端末110は前記ノード132として機能することも可能であり, 前記ノード132が前記通信端末110を兼ねてもよく,この場合,前記通信端末110の少なくとも一つが前記ノード132として機能すればよく, 前記ノード132は,データの送信処理または受信処理に基づく情報処理の単位であり,不特定の所有者がそれぞれ管理する通信端末であってもよいこと。” 上記技術的事項1から,「ノード」と呼ばれる単位には,「通信端末110」がその中に含まれることを読み取ることができ,当該「ノード」には,「通信端末110」のほか,「通信端末132」と呼ばれるものも含まれることも読み取ることができることから,「複数のノード」を「複数の通信端末」に訂正することは,ノードを構成する複数ある通信端末のうちの一方に限定する事項を含むものである。 さらに,「ユーザグループの全員が前記通信端末110を介してデータ100を自由に閲覧することができ」るとともに,「通信端末110は通信機能を有する端末であって,互いにネットワーク120を通じて通信することができ」るものであることから,「複数のノードにより構成されるグループ」とされていたものを,「互いにネットワークを介して接続される通信端末により構成されるグループ」に訂正することは,ノードを構成する通信端末のうち,一方に限定する事項を含むものである。 さらに本件明細書段落26乃至28には,次の記載が認められる。 「【0026】 2.3 承認要求(S102) トランズアクションが作成されたのち、トランズアクションの承認段階へ移行する。具体的には図4に示すように、第1の通信端末110_1は、承認要求信号をユーザグループ内の他のユーザが保有する通信端末110へ送信する(S120)。承認要求信号には、暗号化される前(すなわち、オリジナル)のトランズアクションTA、および第1の電子署名ES1が含まれる。さらに第1の通信端末110_1は、承認要求信号を送信する際、あるいは承認要求信号の送信前か送信後に公開鍵112_1を、承認要求信号の送信先である通信端末110へ送信する。図4では、第1の通信端末110_1を除く通信端末110のすべてに承認要求信号が送信される例が示されているが、後述するように、通信端末110のうちの一部に承認要求信号を選択的に送信してもよい。また、第1の通信端末110_1に対して自己送信してもよい。 【0027】 承認要求信号を受け取ったユーザは、通信端末110において公開鍵112_1を用いて電子署名ES1を復号化し、暗号化される前のトランズアクションと電子署名を復号化して生成したトランズアクションとを照合することで検証を行う。照合の結果、これらが同一であれば、トランズアクションが偽造、改ざんされておらず、トランズアクションの正当性が証明される。逆に、オリジナルのトランズアクションと電子署名を復号化して生成されたトランズアクションとが同一でなければ、トランズアクションが偽造、改ざんされていると判断することができる。図示していないが、正当性が証明されない場合、トランズアクションは承認されず、破棄される。 【0028】 2.4 承認(S104) トランズアクションを受信した通信端末110のユーザは、トランズアクションを承認する、あるいは承認しないという行為のいずれかを選択する(S104)。承認が選択された場合、承認するユーザ(ここでは便宜上、第2のユーザとする)の保有する通信端末(ここでは便宜上、第2の通信端末とする)110_2内で生成される秘密鍵114_2によってトランズアクションが暗号化され、電子署名ES2が生成される(図3(B))。第2の通信端末110_2は、第1のユーザから送信された承認要求信号に含まれるオリジナルのトランズアクションTAと電子署名ES1、および第2の通信端末110_2によって生成された電子署名ES2を含む承認信号を送信する(S122)。承認要求信号の送信と同様、承認信号の送信前、送信後、あるいは送信と同時に、秘密鍵114_2に対応する公開鍵112_2も送信される。図4では、第2の通信端末110_1を除く通信端末110のすべてに承認信号が送信される例が示されているが、通信端末110のうちの一部に選択的に承認信号を送信してもよい。また、第2の通信端末110_2に対して承認信号を自己送信してもよい。ここまでのプロセスにより、一つのトランズアクションに対応する二つの電子署名(ES1とES2)が生成される。」 上記の記載(特に下線部)から,次の技術的事項2を読み取ることができる。 “第1の通信端末110_1は,承認要求信号をユーザグループ内の他のユーザが保有する通信端末110へ送信し, トランズアクションを受信した通信端末110のユーザは,トランズアクションを承認する,あるいは承認しないという行為のいずれかを選択し,承認が選択された場合,承認するユーザの保有する第2の通信端末110_2内で生成される秘密鍵114_2によってトランズアクションが暗号化され,電子署名ES2が生成され, 前記第2の通信端末110_2は,第1のユーザから送信された承認要求信号に含まれるオリジナルのトランズアクションTAと電子署名ES1,および前記第2の通信端末110_2によって生成された電子署名ES2を含む承認信号を送信すること。” 上記技術的事項2より,「第1の通信端末110_1」から「承認要求信号」を,「ユーザグループ」の「ユーザが保有する通信端末110へ送信」し,「トランズアクションを受信した通信端末110のユーザ」が,「トランズアクションを承認する」ことを「選択」した場合,「第2の通信端末110_2によって生成された電子署名ES2を含む承認信号を送信」することを読み取ることができるから,「前記承認要求信号を受信した前記複数のノードのうちの一定割合に相当するノードより承認信号を受信する」とされていたものを,「前記承認要求信号を受信した前記複数の通信端末のうちの一定割合に相当する通信端末より承認信号を受信する」と訂正することは,承認信号が送信される対象を限定する事項を含むものである。 したがって,訂正事項1は,特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。 上記技術的事項1及び2から,訂正事項1は新規事項の追加に該当せず,また,実質的に特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2の「承認要求信号」の送信先につき,「前記複数の通信端末の少なくとも一つに送信」する点は,上記(1)の技術的事項2の「第1の通信端末110_1は,承認要求信号をユーザグループ内の他のユーザが保有する通信端末110へ送信」することから読み取ることができ,また,上記(1)で判断したとおり,「ノード」を「通信端末」に訂正することは,ノードを構成する複数ある通信端末のうちの一方に限定する事項を含むものである。 したがって,訂正事項2は,特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。 また上記技術的事項2から,訂正事項2は新規事項の追加に該当せず,また,実質的に特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3によって,訂正前に「受信した前記承認信号の承認に基づき」とされていたものを,「前記承認信号を受信した後」と訂正することは,平成31年2月15日付け取消理由通知の理由1(特許法36条6項2号)の(1)において,「請求項1の「受信した前記承認信号の承認」との記載は,何を表しているのかが明確でない」旨の取消理由を解消するためになされたものであり,明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。 また本件明細書段落28乃至29及び段落39乃至41には,次の記載が認められる。 「【0028】 2.4 承認(S104) トランズアクションを受信した通信端末110のユーザは、トランズアクションを承認する、あるいは承認しないという行為のいずれかを選択する(S104)。承認が選択された場合、承認するユーザ(ここでは便宜上、第2のユーザとする)の保有する通信端末(ここでは便宜上、第2の通信端末とする)110_2内で生成される秘密鍵114_2によってトランズアクションが暗号化され、電子署名ES2が生成される(図3(B))。第2の通信端末110_2は、第1のユーザから送信された承認要求信号に含まれるオリジナルのトランズアクションTAと電子署名ES1、および第2の通信端末110_2によって生成された電子署名ES2を含む承認信号を送信する(S122)。承認要求信号の送信と同様、承認信号の送信前、送信後、あるいは送信と同時に、秘密鍵114_2に対応する公開鍵112_2も送信される。図4では、第2の通信端末110_1を除く通信端末110のすべてに承認信号が送信される例が示されているが、通信端末110のうちの一部に選択的に承認信号を送信してもよい。また、第2の通信端末110_2に対して承認信号を自己送信してもよい。ここまでのプロセスにより、一つのトランズアクションに対応する二つの電子署名(ES1とES2)が生成される。 【0029】 承認信号を受け取った通信端末110では、二つの電子署名を対応する公開鍵112_1、112_2を用いて復号化し、トランズアクションの検証を行うことができる(図3(B)参照)。これにより、どのユーザが承認したかを把握することができる。」 「【0039】 2.6 ブロードキャスト(S110) トランズアクションが承認されると、トランズアクションの実行が開始される。具体的には、最初にトランズアクションはネットワーク120を介してブロックチェーンネットワーク130へブロードキャストされる(S110)。 【0040】 例えば第1の通信端末110_1は、受信した承認信号に含まれる電子署名の数が承認条件を満たすか否かを判断する。承認条件が満たされたと判断された場合、トランズアクション、電子署名ES1、および受けとった電子署名をブロックチェーンネットワーク130へブロードキャストする(S128)。なお、ブロードキャストを行う通信端末110は第1の通信端末110_1に限られず、任意に設定することができる。例えば、あらかじめ決められた通信端末110からブロードキャストしても良く、承認条件を満たすために必要な電子署名を最後に生成した通信端末110がブロードキャストを行ってもよい。 2.7 ブロックチェーンの更新 【0041】 ブロードキャストが行われたのち、トランズアクションの検証が行われる。図5(A)に示すように、ブロックチェーンネットワーク130の各ノード132の記憶装置には、これまでにブロードキャストされた過去のトランズアクションをまとめたブロック140が格納されている。これらのブロック140は生成順に連結されて時系列を作る。新たなトランズアクションはブロックチェーンネットワーク130内で検証され、トランズアクションの正当性が確認されると、このトランズアクションを含む新たなブロック140が生成される。新たにに生成されたブロック(図5(A)ではブロック140_3)は、これまでに生成されたブロック(ブロック140_1、ブロック140_2)に連結され、これによりブロックチェーンの更新が行われ、トランズアクションが実行される。」 上記の記載(特に下線部)から,次の技術的事項3を読み取ることができる。 “トランズアクションを受信した通信端末110のユーザは,トランズアクションを承認する,あるいは承認しないという行為のいずれかを選択し,承認が選択された場合,承認するユーザの保有する通信端末110_2内で生成される秘密鍵114_2によってトランズアクションが暗号化され,電子署名ES2が生成され, 前記通信端末110_2は,トランズアクションTAと電子署名ES1,および前記通信端末110_2によって生成された電子署名ES2を含む承認信号を送信し, 承認信号を受け取った通信端末110では,二つの電子署名を対応する公開鍵112_1,112_2を用いて復号化し,トランズアクションの検証を行うことができ, トランズアクションが承認されると,トランズアクションの実行が開始され, トランズアクションはブロックチェーンネットワーク130内で検証され,トランズアクションの正当性が確認されると,このトランズアクションを含む新たなブロック140が生成され,新たに生成されたブロックは,これまでに生成されたブロックに連結され,これによりブロックチェーンの更新が行われ,トランズアクションが実行されること。” 上記技術的事項3より,「トランズアクションTA」を含む「承認信号」が「通信端末110_2」によって「送信」された後に,「トランズアクションが実行される」ことを読み取ることができるから,訂正事項3は新規事項の追加に該当せず,また,実質的に特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。 (4)訂正事項4について 訂正事項4にかかる,「前記トランザクション、および前記トランザクションの電子署名をブロックチェーンネットワークにブロードキャストし」とされていたものを,「前記トランザクション、および前記トランザクションの電子署名を、複数のノードで構成され、前記ネットワークに接続されたブロックチェーンネットワークにブロードキャストし」と訂正することは,「ブロックチェーンネットワーク」につき,「複数のノードで構成され」ること,及び「前記ネットワークに接続され」ることを限定する事項を含むものである。 そして,訂正事項4に係る,「ブロックチェーンネットワーク」,及び「ブロードキャスト」につき,本件明細書の段落19及び39乃至40には,次の記載が認められる。 「【0019】 ネットワーク120にはさらに、ブロックチェーンネットワーク130が接続される。ブロックチェーンネットワーク130は、ネットワーク120を介して互いに接続された複数の通信端末132_1から132_m(mは自然数)で構成される。これらの通信端末132は、スペックの差異は存在し得るものの、権限に関しては対等であり、互いに直接通信することができ、いわゆるP2P(Peer-to-Peer)ネットワークを形成する。通信端末132はノードとも呼ばれる。以下の記載では、通信端末110と区別するため、通信端末132をノードと呼ぶ。通信端末110の少なくとも一つは、ノード132の少なくとも一つとネットワーク120を介して接続される。通信端末110はノード132として機能することも可能であり、逆に、ノード132が通信端末110を兼ねてもよい。この場合、通信端末110の少なくとも一つがノード132として機能すればよい。」 「【0039】 2.6 ブロードキャスト(S110) トランズアクションが承認されると、トランズアクションの実行が開始される。具体的には、最初にトランズアクションはネットワーク120を介してブロックチェーンネットワーク130へブロードキャストされる(S110)。 【0040】 例えば第1の通信端末110_1は、受信した承認信号に含まれる電子署名の数が承認条件を満たすか否かを判断する。承認条件が満たされたと判断された場合、トランズアクション、電子署名ES1、および受けとった電子署名をブロックチェーンネットワーク130へブロードキャストする(S128)。なお、ブロードキャストを行う通信端末110は第1の通信端末110_1に限られず、任意に設定することができる。例えば、あらかじめ決められた通信端末110からブロードキャストしても良く、承認条件を満たすために必要な電子署名を最後に生成した通信端末110がブロードキャストを行ってもよい。」 上記の記載(特に下線部)から,次の技術的事項4を読み取ることができる。 “ネットワーク120にはブロックチェーンネットワーク130が接続され,前記ブロックチェーンネットワーク130は,前記ネットワーク120を介して互いに接続された複数の通信端末132_1から132_m(mは自然数)で構成され,前記通信端末132はノードとも呼ばれ, トランズアクションは前記ネットワーク120を介して前記ブロックチェーンネットワーク130へブロードキャストされ, 前記トランズアクション,電子署名ES1,および受けとった電子署名は前記ブロックチェーンネットワーク130へブロードキャストされること。” 上記技術的事項4のうち,「ネットワーク120にはブロックチェーンネットワーク130が接続」されること,及び「前記ブロックチェーンネットワーク130は,前記ネットワーク120を介して互いに接続された複数の通信端末132_1から132_m(mは自然数)で構成され」ることから,「ブロックチェーンネットワーク」が「複数のノードで構成され」ることを読み取ることができる。また,「前記トランズアクション,電子署名ES1,および受けとった電子署名は前記ブロックチェーンネットワーク130へブロードキャストされること」から,“前記トランザクション、および前記トランザクションの電子署名を、複数のノードで構成され、前記ネットワークに接続されたブロックチェーンネットワークにブロードキャスト”することを読み取ることができる。 したがって,訂正事項4は,特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められ,上記技術的事項4から,訂正事項4は新規事項の追加に該当せず,また,実質的に特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。 (5)訂正事項5について 訂正事項5に係る,「前記複数の通信端末のうち少なくとも一つが前記ブロックチェーンネットワークに接続され、前記ブロードキャストを実行する」との事項は,訂正前の「受信した前記承認信号の承認に基づき、前記トランザクション、および前記トランザクションの電子署名をブロックチェーンネットワークにブロードキャストし、前記トランザクションに関する情報を含むブロックをブロックチェーンに追加することによって前記トランザクションを実行する手順」のうち,「前記トランザクション、および前記トランザクションの電子署名をブロックチェーンネットワークにブロードキャスト」する構成について,さらに限定するものと認められ,訂正事項5は,特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。 そして,上記(1)の技術的事項1から,「前記通信端末110の少なくとも一つは,前記ノード132の少なくとも一つと前記ネットワーク120を介して接続され,前記通信端末110は前記ノード132として機能することも可能」であること,及び「ネットワーク120を介して互いに接続された複数の通信端末132_1から132_m(mは自然数)で構成され」るところの,「ブロックチェーンネットワーク130」において,「前記ノード132が前記通信端末110を兼ねてもよく,この場合,前記通信端末110の少なくとも一つが前記ノード132として機能すればよ」いことを読み取ることができるから,訂正事項5は,新規事項の追加に該当せず,また,実質的に特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。 (6)訂正事項6について 訂正事項6は,訂正前の「前記承認信号は前記ノードにおける電子署名の付加により生成される」のうち,「前記承認信号」を,「前記承認要求信号を受信した前記通信端末」において,「前記トランザクションへ電子署名を付加することにより」生成されると限定するものであって,訂正事項6は特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。 そして上記(1)の技術的事項2より,「第2の通信端末110_2内で生成される秘密鍵114_2によってトランズアクションが暗号化され,電子署名ES2が生成」され,「前記第2の通信端末110_2」によって,「トランズアクションTAと電子署名ES1,および前記第2の通信端末110_2によって生成された電子署名ES2を含む承認信号を送信する」ことを読み取ることができるから,訂正事項6は新規事項の追加に該当せず,また,実質的に特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。 (7)訂正事項7について 訂正事項7は,訂正前の請求項3及び4を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項7は,新規事項の追加に該当せず,また,実質的に特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。 (8)訂正事項8について 訂正事項8は,訂正事項1と同じ訂正事項を含むものであり,上記(1)のとおり,特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。 また上記技術的事項1及び2から,訂正事項8は新規事項の追加に該当せず,また,実質的に特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。 (9)訂正事項9について 訂正事項9は,実質的に訂正事項2と同様な訂正事項を含むものであり,上記(2)のとおり,特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。 また上記技術的事項2から,訂正事項9は新規事項の追加に該当せず,また,実質的に特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。 (10)訂正事項10について 訂正事項10は,訂正事項3と同じ訂正事項を含むものであり,上記(3)のとおり,明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。 また上記技術的事項3より,訂正事項3は新規事項の追加に該当せず,また,実質的に特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。 (11)訂正事項11について 訂正事項11は,訂正事項4と同じ訂正事項を含むものであり,上記(4)のとおり,特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められ,上記技術的事項4から,訂正事項11は新規事項の追加に該当せず,また,実質的に特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。 (12)訂正事項12について 訂正事項12は,実質的に訂正事項5と同様な訂正を含むものであり,上記(5)のとおり,特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。 また上記技術的事項1から,訂正事項12は新規事項の追加に該当せず,また,実質的に特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。 (13)訂正事項13について 訂正事項13は,実質的に訂正事項6と同様な訂正を含むものであり,上記(6)のとおり,特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。 また上記技術的事項2から,訂正事項13は新規事項の追加に該当せず,また,実質的に特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。 (14)訂正事項14について 訂正事項14は,訂正前の請求項7及び8を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項14は,新規事項の追加に該当せず,また,実質的に特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。 3 小括 以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-4〕,〔5-8〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1,2,5及び6に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」,「本件発明2」,「本件発明5」及び「本件発明6」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1,2,5及び6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 本件発明1: 「互いにネットワークを介して接続される複数の通信端末により構成されるグループにおいて共有されるデータに対するトランザクションの実行に対する承認要求信号を、前記複数の通信端末の少なくとも一つに送信する手順と、 前記承認要求信号を受信した前記複数の通信端末のうちの一定割合に相当する通信端末より承認信号を受信する手順と、 前記承認信号を受信した後、前記トランザクション、および前記トランザクションの電子署名を、複数のノードで構成され、前記ネットワークに接続されたブロックチェーンネットワークにブロードキャストし、前記トランザクションに関する情報を含むブロックをブロックチェーンに追加することによって前記トランザクションを実行する手順とを含み、 前記複数の通信端末のうち少なくとも一つが前記ブロックチェーンネットワークに接続され、前記ブロードキャストを実行する、信号処理方法。」 本件発明2: 「前記承認信号は、前記承認要求信号を受信した前記通信端末において、前記トランザクションへ電子署名を付加することにより生成される、請求項1に記載の信号処理方法。」 本件発明5: 「互いにネットワークを介して接続される複数の通信端末により構成されるグループにおいて共有されるデータに対するトランザクションの実行に対する承認要求信号を、前記複数の通信端末の一つから前記複数の通信端末の他の少なくとも一つに送信する手順と、 前記承認要求信号を受信した前記複数の通信端末のうちの一定割合に相当する通信端末より承認信号を受信する手順と、 前記承認信号を受信した後、前記トランザクション、および前記トランザクションの電子署名を、複数のノードで構成され、前記ネットワークに接続されたブロックチェーンネットワークにブロードキャストし、前記トランザクションに関する情報を含むブロックをブロックチェーンに追加することによって前記トランザクションを実行する手順を前記複数のノードに実行させるように構成され、 前記複数の通信端末のうち少なくとも一つが前記ブロックチェーンネットワークに接続され、前記ブロードキャストを実行する、信号処理プログラム。」 本件発明6: 「電子署名を前記トランザクションへ付加することにより前記承認信号を生成することを前記複数の通信端末に実行させるように構成される、請求項5に記載の信号処理プログラム。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1乃至8に係る特許に対して,当審が平成31年2月15日に特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。 ア.請求項1乃至8に係る特許は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,取り消されるべきものである。 イ.請求項1乃至8に係る発明は,甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に想到することができたものであって,請求項1乃至8に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。 2 甲号証の記載 (1)甲第1号証に記載された事項及び引用発明 甲第1号証(アンドレアス・M・アントノプロス,今井崇也,鳩貝淳一郎,「ビットコインとブロックチェーン 暗号通貨を支える技術」,初版,NTT出版株式会社,2016年7月21日,p.1-296頁)には,次の事項が記載されている。 A 「ビットコインとは ビットコインは,デジタルマネーのエコシステムの基礎となるコンセプトと技術の集合体です。ビットコインという名の通貨によって,ビットコインネットワークの参加者の間で,価値の保有と移転が行われます。ユーザ間のやり取りは,主にビットコインプロトコルに基づいてインターネットを通じて行われますが,他のネットワークを使うこともできます。ビットコインのプロトコルスタックはオープンソースソフトウェアとして利用可能であり,ノートパソコンからスマートフォンまでさまざまなデバイス上で動作し,この技術を簡単に使えるようにしています。」(1ページ1乃至8行) B 「 図2-1」(16ページ) C 「一言で言うと,トランザクションとはビットコインの所有者が他の人にビットコインを送ったと認めたことをビットコインネットワークに示すことです。このため,新しい所有者が受け取ったビットコインを使うには,新しい所有者が他の人にビットコインを送ったと認めたことを示す別のトランザクションを作らなければなりません。 …(中略)… トランザクションは,それぞれのインプットごとにビットコインの所有権の証明も含んでいます。この所有権の証明はデジタル署名の形になっており,この署名は所有者とは独立に他人によって検証されるようになっています。ビットコインの用語でビットコインを「使う」とは,トランザクションに署名することです。」(18ページ18乃至33行) D 「トランザクションはトランザクションインプットからトランザクションアウトプットに価値を移転します。インプットはどこからビットコインが来たかを示し,通常は前のトランザクションのアウトプットになります。トランザクションアウトプットは,このビットコインを鍵と紐づけることで新しい所有者にこのビットコインを割り当てます。この鍵は解除条件と呼ばれるものです。解除条件は,資金を将来トランザクションで使用するときに必要とされる署名に対する必要条件になります。1つのトランザクションからのアウトプットは新しいトランザクションの中でインプットとして使用され,これにより,アドレスからアドレスに価値が移転するときに所有の連鎖が作られるのです(図2-4参照)。」(19ページ1乃至8行) E 「 図2-4」(20ページ) F 「アリスがボブのカフェで支払いをするときは,ジョーからアリスヘのトランザクションを,このトランザクションのインプットとして用います。前の章で,アリスは現金と引き換えにジョーからビットコインを受け取りました。このトランザクションは,アリスの秘密鍵でロックされています。アリスからボブヘの新しいトランザクションは,ジョーからアリスヘのトランザクションの内容をインプットとして参照し,コーヒー代の支払いとおつりの受け取りのトランザクションアウトプットを作成します。トランザクションはチェーンの形を取っていて,最新のトランザクションのインプットは前のトランザクションのアウトプットに対応しています。アリスの秘密鍵は前のトランザクションのアウトプットを解錠し,それによってこのアウトプットにある資金がアリスのものであるとビットコインネットワークに示すのです。アリスは,コーヒー代の支払いをボブのビットコインアドレスに紐づけます。このことによって,このアウトプットを使うためには,ボブは署名を生成しなければならなくなります。このことは,この価値の移転かアリスとボブの間のものであるということを表しています。図2-4が,ジョー,アリス,ボブの一連のトランザクションの連鎖を説明しています。」(20ページ1乃至14行) G 「アウトプットの作成 トランザクションアウトプットはスクリプトの形で作成されます。このスクリプトは,資金を使用する際の解除条件であり,これに対する解を導入することでのみ解除されます。要するに,このスクリプトが意味しているのは,「ボブのパブリックアドレスに対応する秘密鍵から作られた署名を提示する人であれば誰でも,このアウトプットが支払われる」ということです。ボブのみが,対応する秘密鍵を含むウォレットを持っているため,このウォレットのみがこのアウトプットを復号する署名を示すことができます。従って,アリスがアウトプットを復号しようとしても,ボブの署名を要求され,邪魔されてしまいます。」(24ページ4乃至11行) H 「ビットコインネットワークヘのトランザクションの送信トランザクションはブロックチェーンに取り込まれるための情報をすべて持っているため,どこで,どのようにビットコインネットワークに送信されても構いません。ビットコインネットワークはpeer-to-peerネットワークであり,個々のビットコインクライアントは,いくつかの他のビットコインクライアントと繋がることで,ビットコインネットワークに参加しています。ビットコインネットワークの目的は,トランザクションとブロックをすべてのビットコインクライアントに伝えることです。」(25ページ10乃至16行) I 「ビットコイントランザクションに関するよくある誤解は,「承認」のために新しいブロックが生成されるまで10分間待たなければならないとか,完全な6回の承認のために60分間待たなければならないといったことです。承認は,トランザクションがビットコインネットワーク全体に受け入れられたことを保証しますが,このように待つことはコーヒー一杯のような少額の商品には必要ありません。店舗側は,承認がない場合でも,いつも彼らが受け入れている個人IDや署名がないクレジットカードよりリスクが大きくないなら,有効な少額のトランザクションを受け入れるでしょう。」(26ページ19乃至25行) J 「ビットコインマイニング トランザクションはビットコインネットワークに伝えられました。しかし,マイニングと呼ばれるプロセスを通して検証されブロックに取り込まれるまで,共有されている元帳であるブロックチェーンの一部になることはできません。詳細な説明は第8章を参照してください。 ビットコインにおける信用の仕組みは,計算によって成り立っています。トランザクションがブロックの中に取り込まれるためには膨大な計算を必要としますが,取り込まれていることを検証するにはわずかな計算しか必要ありません。このマイニングは,以下の2つの目的のために行うものです。 ・マイニングは,それぞれのブロックの中に新しいビットコインを作り出します。これは,あたかも中央銀行が新しいお金を印刷するようなものです。ブロックごとに作り出されるビットコインの量は決められており,時間とともに減少していきます。 ・マイニングは,信用を作り出します。マイニングは,「トランザクションを含むブロックに十分な計算量がつぎ込まれた場合にのみ,そのトランザクションが承認される」ことを保証することによって,信用を作り出します。より多くのブロックがあるということは,より多くの計算量を要したことを意味し,従って,より多くの信用を得ていることを意味するのです。」(26ページ26行乃至27ページ7行) K 「Pay-to-Script Hash (P2SH)とマルチシグネチャアドレス ご存知の通り,初期から使われているビットコインアドレスは「1」から始まり,秘密鍵から導出される公開鍵から作られます。誰もがビットコインを「1」から始まるビットコインアドレスに送れますが,このビットコインは,対応する秘密鍵署名と公開鍵ハッシュを示すことでのみ使用できます。 「3」から始まるビットコインアドレスはpay-to-script hash(P2SH)アドレスであり,ときどき誤ってマルチシグネチャアドレスまたはマルチシグアドレスと呼ばれます。これらではビットコイントランザクションの受取人を,公開鍵の所有者の代わりにscriptのハッシュを使って指定します。この特徴は,2012年にBitcoin Improvement Proposal 16(〔bip0016〕参照)で導入され,幅広く採用されています。というのは,この特徴により,アドレス自体に機能を追加することができるようになったためです。「1」から始まるビットコインアドレスに資金を「送る」トランザクション(pay-to-public-key-hash〔P2PKH〕とも呼ばれる)と違って,「3」で始まるビットコインアドレスに送った資金は,その所有権を示すために,1つの公開鍵ハッシュと1つの秘密鍵署名以上のものの提示が要求されます。要求されるものはビットコインアドレスを作ったときにscriptの中で指定され,このビットコインアドレスヘの入金にはすべて同じ要求が課されます。pay-to-script hash アドレスはトランザクションscriptから生成され,トランザクションアウトプットを誰が使えるかということを定義しています(詳細については,第5章「Pay-to-Script Hash(P2SH)」節参照)。pay-to-script hashアドレスのエンコードはビットコインアドレスを生成するときに使われる二重ハッシュ関数と同じ関数を使って行われ,公開鍵の代わりにscriptにのみ適用されます。 …(中略)… マルチシグネチャアドレスとP2SH 現在,P2SHの最も一般的な実装は,マルチシグネチャアドレスscriptです。この名前が示しているように,scriptは所有権を証明し資金を利用するために1つ以上の署名を要求します。ビットコインマルチシグネチャは,N個の鍵から作られるM個の署名(「threshold」とも呼ばれます)を要求し,これはM-of-N multi-sigと呼ばれています。ここで,MはNと等しいか小さい数です。例えば,第1章に出てきたカフェのオーナーのボブは,彼の鍵と彼の奥さんの鍵から作られる1-Of-2シグネチャを要求するマルチシグネチャアドレスを使うことができ,このアドレスに紐づいたトランザクションアウトプットを使うには彼または奥さんのどちらか一方の鍵で署名すればよいのです。ゴペッシュ(ボブのウェブサィトを作ったウェブデザイナー)がビジネス用に2-of-3マルチシグネチャアドレスを持っていたとすると,少なくともビジネスパートナーの2人がトランザクションに署名しなければ,このアドレスに紐づく資金を使うことができません。」(105ページ下から5行乃至107ページ上から8行) L 「トランザクションのライフサイクル トランザクションのライフサイクルは,まず組成(origination)とも呼ばれるトランザクションの生成過程から始まります。このとき,トランザクションには署名がされますが,これはトランザクションが参照する資金を使う許可がなされたことを意味します。署名の後で,トランザクションは,ビットコインネットワークにブロードキャストされ,個々のネットワークノード(ビットコインネットワークの参加者)によって検証されながらビットコインネットワーク内を伝搬し,(ほぼ)すべてのノードに行き渡ります。最後に,トランザクションはマイニングノードによって検証され,ブロックチェーンの中のブロックに記録されます。」(117ページ11乃至18行) M 「ビットコインネットワークヘのトランザクションのブロードキャスト ブロックチェーンに記録されるために,トランザクションはまず,ビットコインネットワークに届けられる必要があります。ビットコイントランザクションは300?400バイトのデータを持ち,数万ものビットコインノードのうち,どれか1つにたどり着かなければなりません。送信者は複数のビットコインノードにブロードキャストするので,ビットコインノードを信用する必要はありません。ノードも送信者を信用する必要がなく,また送信者が誰なのかを特定する必要もありません。トランザクションは署名されており,また一切の機密情報(秘密鍵や証明書)も含まれていないため,どのようなオープンな転送手段を使ってブロードキャストしても構いません。例えば,暗号化されたネットワークでしか送れない,機密情報が含まれるクレジットカードとは異なり,ビットコインでは,トランザクションをどのようなネットワークでも送れます。トランザクションが,どれか1つビットコインノードにたどり着ければ,送る方法は何でもよいのです。このためビットコイントランザクションは,WiFiやBluetooth,NFC,光通信,バーコード,ビットコインアドレスのウェブフォームヘのコピー&ペーストのような,安全でないネットワークを通してでも送ることかできます。」(118ページ18乃至32行) N 「トランザクションアウトプットとインプット ビットコイントランザクションの基本的な構成要素は,未使用トランザクションアウトプット(UTXO:unspent transaction output)です。UTXOは,特定の所有者にロックされた分割不可能なビットコインの固まりです。これはブロックチェーンに記録されており,ビットコインネットワーク全体により通貨の単位として認識されているものです。ビットコインネットワークは,すべての利用可能(未使用)なUTXOを把握しており,その数は現在数百万に達します。ユーザがビットコインを受け取るときはいつでも,UTXOとしてブロックチェーンに記録されます。このため,ユーザのビットコインは,数百のトランザクションとブロックの中に,UTXOとして散らばっています。ビットコインは,実際には,ビットコインアドレスまたは口座の残高として記録されているわけではないのです。あるのはただ,散らばって特定の所有者のみが利用できるよう設定されたUTXOだけです。ユーザのビットコイン残高という概念は,ウォレットによって作り上げられたものにすぎません。ウォレットは,ブロックチェーンをスキャンしてユーザに属しているすべてのUTXOを掻き集め,残高を計算しているのです。」(120ページ下から14行乃至末行) O 「マルチシグネチャ マルチシグネチャscriptは,N個の公開鍵と,解除条件を解放する少なくともM個の署名が入っている条件を設定しています。これはM-of-Nスキームとしても知られており,Nはキーの総数,Mは検証に必要な署名数です。例えば2-of-3マルチシグネチャでは,あらかじめ登録しておいた署名者の3つの公開鍵があり,これらのうち2つを使って有効なトランザクションに対する署名を作らなければなりません。このとき,標準的なマルチシグネチャscriptは最大でも15個の公開鍵だけが使用できるように制限されており,これは1-of-lから15-of-15までのマルチシグネチャ,またはそれぞれの組み合わせを使用できるということを示しています。この制限は本書が出版されるまでに引き上げられるかもしれません。ビットコインネットワークによって現在何が許可されているかを見るために,isStandard()関数をチェックしてみてください。」(138ページ下から5行乃至139ページ上から6行) P 「Pay-to-Script-Hash (P2SH) pay-to-script-hash(P2SH)は2012年に導入されたもので,複雑なトランザクションscriptをはるかに単純化した,新しい種類のトランザクションです。P2SHを説明するために,実用的な例を見てみましょう。第1章で,ドバイで電子機器の輸入業を営んでいるムハンマドを紹介しました。ムハンマドの会社は,口座管理のためにビットコインのマルチシグネチャ機能を利用しています。マルチシグネチャscriptは,ビットコインの先進的なScript言語の主要な使い方の1つで,とても強力な機能です。ムハンマドの会社は,すべての顧客からの支払い(会計用語で「売掛金」)にマルチシグネチャを使っています。マルチシグネチャスキームを使い,顧客によるすべての支払いは次のような方法で安全性を担保しています。支払いを実行するには少なくとも2つの署名が必要であり,登録されている人はムハンマド,彼のパートナーのうちの1人,バックアップキーを持っている彼の代理人です。このようなマルチシグネチャスキームはコーポレートガバナンスをサポートし,盗難,横領,または紛失を防ぐ役割があります。 …(中略)… pay-to-script-hash (P2SH)は,これらの実用的な難点を解決するために開発され,ビットコインアドレスでの支払いと同じくらい簡単に複雑なscriptを使えるようにしたのです。P2SHでの支払いで,複雑なlocking scriptは暗号学的なハッシュに置き換えられます。UTXOを使おうとするトランザクションがのちに作られたとき,このトランザクションはunlockingscriptだけでなくこのハッシュとマッチするscriptを含んでいなければなりません。簡単に言って,P2SHは「このハッシュとマッチするscriptに対して支払い,このscriptはのちほどこのアウトプットが使用されるときに与えられます」という意味です。」(141ページ下から9行乃至142ページ下から12行) 以上によれば,甲第1号証は,以下の発明(以下「引用発明」という。)を開示していると認められる。 「ビットコインは,デジタルマネーのエコシステムの基礎となるコンセプトと技術の集合体であり,ユーザ間のやり取りは,主にビットコインプロトコルに基づいてインターネットを通じて行われ,ノートパソコンからスマートフォンまでさまざまなデバイス上で動作し, トランザクションとは,ビットコインの所有者が他の人にビットコインを送ったと認めたことをビットコインネットワークに示すことであり,それぞれのインプットごとにビットコインの所有権の証明も含み,この所有権の証明はデジタル署名の形になっており,この署名は所有者とは独立に他人によって検証されるようになっていて,トランザクションインプットからトランザクションアウトプットに価値を移転し,トランザクションアウトプットは,このビットコインを鍵と紐づけることで新しい所有者にこのビットコインを割り当て,この鍵は解除条件と呼ばれ, アリスがボブのカフェで支払いをするときは,ジョーからアリスヘのトランザクションを,このトランザクションのインプットとして用い,アリスからボブヘの新しいトランザクションは,ジョーからアリスヘのトランザクションの内容をインプットとして参照し,コーヒー代の支払いとおつりの受け取りのトランザクションアウトプットを作成し, 最新のトランザクションのインプットは前のトランザクションのアウトプットに対応し,アリスの秘密鍵は前のトランザクションのアウトプットを解錠し,それによってこのアウトプットにある資金がアリスのものであるとビットコインネットワークに示し, トランザクションアウトプットはスクリプトの形で作成され,このスクリプトは,資金を使用する際の解除条件であり,「ボブのパブリックアドレスに対応する秘密鍵から作られた署名を提示する人であれば誰でも,このアウトプットが支払われる」という意味のスクリプトであり得, ビットコインネットワークはpeer-to-peerネットワークであり,個々のビットコインクライアントは,いくつかの他のビットコインクライアントと繋がることで,ビットコインネットワークに参加しており, 承認は,トランザクションがビットコインネットワーク全体に受け入れられたことを保証するものであり, トランザクションはビットコインネットワークに伝えられ,マイニングと呼ばれるプロセスを通して検証されブロックに取り込まれるまで,共有されている元帳であるブロックチェーンの一部になることはできず, 「3」から始まるビットコインアドレスはpay-to-script hash(P2SH)アドレスであり,ときどき誤ってマルチシグネチャアドレスまたはマルチシグアドレスと呼ばれ,これらではビットコイントランザクションの受取人を,公開鍵の所有者の代わりにscriptのハッシュを使って指定し, 「3」で始まるビットコインアドレスに送った資金は,その所有権を示すために,1つの公開鍵ハッシュと1つの秘密鍵署名以上のものの提示が要求され,要求されるものはビットコインアドレスを作ったときにscriptの中で指定され,このビットコインアドレスヘの入金にはすべて同じ要求が課され,pay-to-script hash アドレスはトランザクションscriptから生成され,トランザクションアウトプットを誰が使えるかということを定義しており, scriptは所有権を証明し資金を利用するために1つ以上の署名を要求し,ビットコインマルチシグネチャは,N個の鍵から作られるM個の署名(「threshold」とも呼ばれます)を要求し,これはM-of-N multi-sigと呼ばれ, 彼の鍵と彼の奥さんの鍵から作られる1-Of-2シグネチャを要求するマルチシグネチャアドレスを使うことができ,このアドレスに紐づいたトランザクションアウトプットを使うには彼または奥さんのどちらか一方の鍵で署名すればよく, 2-of-3マルチシグネチャアドレスを持っていたとすると,少なくともビジネスパートナーの2人がトランザクションに署名しなければ,このアドレスに紐づく資金を使うことができず, トランザクションのライフサイクルは,まず組成(origination)とも呼ばれるトランザクションの生成過程から始まり,このとき,トランザクションには署名がされ,これはトランザクションが参照する資金を使う許可がなされたことを意味し,署名の後で,トランザクションは,ビットコインネットワークにブロードキャストされ,個々のネットワークノード(ビットコインネットワークの参加者)によって検証されながらビットコインネットワーク内を伝搬し,(ほぼ)すべてのノードに行き渡り,最後に,トランザクションはマイニングノードによって検証され,ブロックチェーンの中のブロックに記録され, ブロックチェーンに記録されるために,トランザクションはまず,ビットコインネットワークに届けられる必要があり, トランザクションは署名されており,また一切の機密情報(秘密鍵や証明書)も含まれていないため,どのようなオープンな転送手段を使ってブロードキャストしても構わなく, ビットコイントランザクションの基本的な構成要素は,未使用トランザクションアウトプット(UTXO:unspent transaction output)であり,UTXOは,特定の所有者にロックされた分割不可能なビットコインの固まりであってブロックチェーンに記録され, マルチシグネチャscriptは,N個の公開鍵と,解除条件を解放する少なくともM個の署名が入っている条件を設定しており,これはM-of-Nスキームとしても知られており,Nはキーの総数,Mは検証に必要な署名数であり,例えば2-of-3マルチシグネチャでは,あらかじめ登録しておいた署名者の3つの公開鍵があり,これらのうち2つを使って有効なトランザクションに対する署名を作らなければならず, pay-to-script-hash(P2SH)は,複雑なトランザクションscriptをはるかに単純化した,新しい種類のトランザクションであり, すべての顧客からの支払い(会計用語で「売掛金」)にマルチシグネチャを使った,顧客によるすべての支払いは,支払いを実行するに少なくとも2つの署名が必要であり,登録されている人はムハンマド,彼のパートナーのうちの1人,バックアップキーを持っている彼の代理人とし,コーポレートガバナンスをサポートし,盗難,横領,または紛失を防ぐ役割があり, P2SHは「このハッシュとマッチするscriptに対して支払い,このscriptはのちほどこのアウトプットが使用されるときに与えられます」という意味をもつ, 信号処理方法。」 (2)甲第3号証に記載された事項 甲第3号証(「マルチシグ関連トランザクション」,[online],2017年1月12日,GitHub,[2018年7月26日検索],インターネット <https://github.com/NEMJPManual/NEM_Technical_reference_JA/blob/eccf8b1a6b3914f2cdf1e13416b174c5e63a66f5/Transactions/4.3.md>)には,次の事項が記載されている。 Q 「現時点で、NEMはn人の内m人(m of n)の署名が必要なマルチシグ(多重署名)アカウントをネイティブにサポートしています。 NEMのマルチシグトランザクションはフレキシビリティを念頭にデザインされています。 他のいかなるトランザクション(現時点では重要度委任トランザクション、送金トランザクション、マルチシグ変更トランザクション) であろうともマルチシグトランザクションに変更できます。」(1ページ目「マルチシグ関連トランザクション」の項) R 「前述のように、任意のトランザクションは、マルチシグトランザクションにラッピングすることができます。 マルチシグアカウントから別のアカウントにXEMを送信するには、送金トランザクションをラップする必要があります。 このラップによるマルチシグ化には追加で6XEMの手数料がかかります。 以下の例では、その際の更に詳細な手順を説明しています: 前提として、マルチシグアカウント$$(M)$$は1000XEMの残高と連署人$$(A,B,C)$$を持ち、そこから100XEMをアカウント$$X$$に送るとします。 どの連署人も、100XEMの送金を開始する権限を持ちます。Bが送金開始を提案し、A,Cがそれに連署するというケースを考えてみましょう。トランザクションが受理されるまでに以下の手順が発生します。 1.「署名者」がマルチシグアカウントになっている以外は通常と変わらない、100XEMの送金トランザクションをBが作成する。 2.Bが署名されていない送金トランザクションをマルチシグトランザクションにラップする 3.Bはこのマルチシグトランザクションに署名し、NEMネットワークに送る。 4.一時停止中のマルチシグトランザクションがあるという通知がA、Cに対して来る。 5.そのトランザクションに対して、Aはハッシュ値を計算し署名することで、マルチシグ署名トランザクションを作成し、ネットワークに送る。 6.Aと同様のことをCが行う。 7.全連署人が署名を完了したので、トランザクションはネットワークに受理されMからXへ100XEMが送られる。 もしAまたはCのいずれかがマルチシグ送金トランザクションの〆切の前にマルチシグ署名トランザクションを送信しなかった場合、その送金トランザクションは無効と判断されネットワークから拒否されます。 $$M$$から$$X$$へのXEMの送金は行われません。」(1ページ目最終行乃至2ページ目最終行「4.3.3マルチシグトランザクション」の項) 以上によれば,甲第3号証は,以下の技術的事項(以下,「甲3記載事項」という。)を開示していると認められる。 「n人の内m人(m of n)の署名が必要なマルチシグ(多重署名)アカウントをネイティブにサポートしているNEMにおいて, Bが送金開始を提案し,A,Cがそれに連署するケースの場合, 100XEMの送金トランザクションをBが作成し, Bが署名されていない送金トランザクションをマルチシグトランザクションにラップし, Bはこのマルチシグトランザクションに署名し,NEMネットワークに送り, そのトランザクションに対して,Aはハッシュ値を計算し署名することで,マルチシグ署名トランザクションを作成し,ネットワークに送り, 全連署人が署名を完了したので,トランザクションはネットワークに受理されMからXへ100XEMが送られ, もしAまたはCのいずれかがマルチシグ送金トランザクションの〆切の前にマルチシグ署名トランザクションを送信しなかった場合,その送金トランザクションは無効と判断されネットワークから拒否され, $$M$$から$$X$$へのXEMの送金が行われないこと。」 3 当審の判断 (1)特許法29条2項(理由2)について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と引用発明とを対比する。 1)引用発明の「トランザクション」,「peer-to-peerネットワーク」,「ビットコインネットワーク」,「ネットワークノード(ビットコインネットワークの参加者)」,「ブロードキャスト」及び「信号処理方法」はそれぞれ,本件発明1の「トランザクション」,「ネットワーク」,「ブロックチェーンネットワーク」,「ノード」,「ブロードキャスト」及び「信号処理方法」に相当する。 2)引用発明は,「デジタルマネーのエコシステムの基礎となるコンセプトと技術の集合体であ」るところの「ビットコイン」を,「ユーザ間のやり取り」を「主にビットコインプロトコルに基づいてインターネットを通じて行」い,「ノートパソコンからスマートフォンまでさまざまなデバイス上で動作」するものである。また,「ビットコインネットワークはpeer-to-peerネットワークであり,個々のビットコインクライアントは,いくつかの他のビットコインクライアントと繋がることで,ビットコインネットワークに参加して」いて,当該「ビットコインクライアント」を構成する上記「ノートパソコン」や「スマートフォン」などの「さまざまなデバイス」は,「互いにネットワークを介して接続される複数の通信端末」ということができる。 そして当該「デジタルマネーのエコシステムの基礎となるコンセプトと技術の集合体であ」るところの「ビットコイン」は,複数の「ビットコインクライアント」により「構成されるグループにおいて共有されるデータ」と言い得る。 さらに,「ビットコイン」に係る「トランザクション」についてみるに,「まず組成(origination)とも呼ばれるトランザクションの生成過程から始まり,このとき,トランザクションには署名がされ,これはトランザクションが参照する資金を使う許可がなされたことを意味し,署名の後で,トランザクションは,ビットコインネットワークにブロードキャストされ」ることから,所定の「ビットコインクライアント」からは,「ビットコイン」に対する「トランザクション」に対する信号,すなわち「データに対するトランザクションの実行に対する」信号が,「複数の通信端末の少なくとも一つに送信」されているといえる。 以上総合すると,引用発明と本件発明1とは,下記相違点1において異なるものの,“互いにネットワークを介して接続される複数の通信端末により構成されるグループにおいて共有されるデータに対するトランザクションの実行に対する信号を,前記複数の通信端末の少なくとも一つに送信する手順”を有する点で一致するといえる。 3)引用発明において,「トランザクション」は,「まず組成(origination)とも呼ばれるトランザクションの生成過程から始まり,このとき,トランザクションには署名がされ」ることから,本件発明1の「トランザクションの電子署名」に相当するものが生成されていることは明らかである。さらに引用発明は,「署名の後で,トランザクションは,ビットコインネットワークにブロードキャストされ」ることから,上記1)の認定を踏まえれば,トランザクション及びトランザクションの電子署名が「ブロックチェーンネットワークにブロードキャスト」されることも明らかである。 そして,引用発明の「ビットコインネットワーク」は,「トランザクション」が「個々のネットワークノード(ビットコインネットワークの参加者)によって検証されながら」当該「ビットコインネットワーク内を伝搬し,(ほぼ)すべてのノードに行き渡」るから,本件発明1の「複数のノードで構成され、前記ネットワークに接続されたブロックチェーンネットワーク」であるといえ,以上総合して引用発明と本件発明1とは,“トランザクション,および前記トランザクションの電子署名を,複数のノードで構成され,ネットワークに接続されたブロックチェーンネットワークにブロードキャスト”する点で一致するといえる。 4)引用発明は,「トランザクションは,ビットコインネットワークにブロードキャストされ,個々のネットワークノード(ビットコインネットワークの参加者)によって検証されながらビットコインネットワーク内を伝搬し,(ほぼ)すべてのノードに行き渡り,最後に,トランザクションはマイニングノードによって検証され,ブロックチェーンの中のブロックに記録され」ることから,上記3)の認定と併せ,引用発明と本件発明1とは,“前記トランザクション,および前記トランザクションの電子署名を,複数のノードで構成され,前記ネットワークに接続されたブロックチェーンネットワークにブロードキャストし,前記トランザクションに関する情報を含むブロックをブロックチェーンに追加することによって前記トランザクションを実行する手順”を含む点で一致する。 (なお,引用発明は,「「3」から始まるビットコインアドレスはpay-to-script hash(P2SH)アドレスであり,ときどき誤ってマルチシグネチャアドレスまたはマルチシグアドレスと呼ばれ,これらではビットコイントランザクションの受取人を,公開鍵の所有者の代わりにscriptのハッシュを使って指定し, 「3」で始まるビットコインアドレスに送った資金は,その所有権を示すために,1つの公開鍵ハッシュと1つの秘密鍵署名以上のものの提示が要求され,要求されるものはビットコインアドレスを作ったときにscriptの中で指定され,このビットコインアドレスヘの入金にはすべて同じ要求が課され,pay-to-script hash アドレスはトランザクションscriptから生成され,トランザクションアウトプットを誰が使えるかということを定義しており, scriptは所有権を証明し資金を利用するために1つ以上の署名を要求し,ビットコインマルチシグネチャは,N個の鍵から作られるM個の署名(「threshold」とも呼ばれます)を要求し,これはM-of-N multi-sigと呼ばれ」るものであって,「彼の鍵と彼の奥さんの鍵から作られる1-Of-2シグネチャを要求するマルチシグネチャアドレス」を使って,「このアドレスに紐づいたトランザクションアウトプットを使うには彼または奥さんのどちらか一方の鍵で署名すればよ」いようにしたり,「2-of-3マルチシグネチャアドレスを持っていたとすると,少なくともビジネスパートナーの2人がトランザクションに署名しなければ,このアドレスに紐づく資金を使うことができ」なくするようなものであるが,これらの「署名」は,「トランザクションに関する情報を含むブロックをブロックチェーンに追加する」ことによって「トランザクションを実行する」こととは直接関係しないものである。) 5)引用発明の「ビットコインクライアント」は,「いくつかの他のビットコインクライアントと繋がることで,ビットコインネットワークに参加して」いて,「トランザクションは,ビットコインネットワークにブロードキャストされ」るものであることから,当該「トランザクション」を「ビットコインネットワーク」に「ブロードキャスト」する,「ノートパソコンからスマートフォンまでさまざまなデバイス」などの通信端末が存在することは明らかであり,したがって引用発明と本件発明1とは,“前記複数の通信端末のうち少なくとも一つが前記ブロックチェーンネットワークに接続され,前記ブロードキャストを実行する”点で一致するといえる。 6)以上上記1)乃至5)で検討した内容を踏まえると,本件発明1と引用発明とは,次の点で一致し,また相違する。 〈一致点〉 互いにネットワークを介して接続される複数の通信端末により構成されるグループにおいて共有されるデータに対するトランザクションの実行に対する信号を,前記複数の通信端末の少なくとも一つに送信する手順と, 前記トランザクション,および前記トランザクションの電子署名を,複数のノードで構成され,前記ネットワークに接続されたブロックチェーンネットワークにブロードキャストし,前記トランザクションに関する情報を含むブロックをブロックチェーンに追加することによって前記トランザクションを実行する手順を含み, 前記複数の通信端末のうち少なくとも一つが前記ブロックチェーンネットワークに接続され,前記ブロードキャストを実行する,信号処理方法。 〈相違点1〉 「互いにネットワークを介して接続される複数の通信端末により構成されるグループにおいて共有されるデータに対するトランザクションの実行に対する」信号が,本件発明1は「承認要求信号」であるのに対し,引用発明は,「トランザクションには署名がされ」,さらに当該「トランザクションは,ビットコインネットワークにブロードキャストされ,個々のネットワークノード(ビットコインネットワークの参加者)によって検証されながらビットコインネットワーク内を伝搬し,(ほぼ)すべてのノードに行き渡」るものであるが,「承認要求信号」であることが特定されていない点。 〈相違点2〉 本件発明1は,「前記承認要求信号を受信した前記複数の通信端末のうちの一定割合に相当する通信端末より承認信号を受信する手順」を有し,「トランザクションを実行する」のは,「前記承認信号を受信した後」であるのに対し,引用発明は,「複数の通信端末のうちの一定割合に相当する通信端末より承認信号を受信する手順」を有することが特定されていない点。 (イ)判断 上記相違点1及び2をまとめて検討する。 まず本件発明1の「承認要求信号」についてみるに,本件明細書段落24乃至26によれば,第1のユーザによって,データ処理の内容とデータ処理の開始に必要な承認条件などが含まれるトランズアクションが作成され(段落24),当該トランズアクションは,該トランズアクションを送信する第1の通信端末110_1において秘密鍵114_1が生成され,該トランズアクションTAを当該秘密鍵114_1によって暗号化した第1の電子署名(ES1)が生成され(段落25),該第1の通信端末110_1によって暗号化される前(すなわち,オリジナル)のトランズアクションTAおよび第1の電子署名ES1が含まれる信号が「承認要求信号」である(段落26)。 次に,本件発明1の「承認信号」についてみるに,本件明細書段落28によれば,トランズアクションを受信した通信端末110のユーザによって,まずトランズアクションを承認する,あるいは承認しないという行為のいずれかが選択され,承認が選択された場合,承認する第2のユーザの保有する第2の通信端末110_2内で生成される秘密鍵114_2によってトランズアクションが暗号化され,電子署名ES2が生成され,該第2の通信端末110_2によって,第1のユーザから送信された承認要求信号に含まれるオリジナルのトランズアクションTAと電子署名ES1,および第2の通信端末110_2によって生成された電子署名ES2が含まれる信号が「承認信号」である。 以上から,「承認信号」は,暗号化される前(すなわち,オリジナル)のトランズアクションTAおよび第1の電子署名ES1が含まれる信号である「承認要求信号」が受信された通信端末において,トランズアクションの承認か非承認かの選択がなされた後生成される信号であることが読み取れる一方,引用発明においては,「トランザクション」に「署名がされ」ることや,「署名の後で,トランザクションは,ビットコインネットワークにブロードキャストされ,個々のネットワークノード(ビットコインネットワークの参加者)によって検証されながらビットコインネットワーク内を伝搬し,(ほぼ)すべてのノードに行き渡り,最後に,トランザクションはマイニングノードによって検証され」るものであるほか,「「3」で始まるビットコインアドレスに送った資金」が「その所有権を示すために,1つの公開鍵ハッシュと1つの秘密鍵署名以上のものの提示が要求され,要求されるものはビットコインアドレスを作ったときにscriptの中で指定され」,該「scriptは所有権を証明し資金を利用するために1つ以上の署名を要求し,ビットコインマルチシグネチャは,N個の鍵から作られるM個の署名(「threshold」とも呼ばれます)を要求」する,「M-of-N multi-sigと呼ばれ」ることや,「マルチシグネチャscript」が,「N個の公開鍵と,解除条件を解放する少なくともM個の署名が入っている条件を設定しており,これはM-of-Nスキームとしても知られており,Nはキーの総数,Mは検証に必要な署名数であり,例えば2-of-3マルチシグネチャでは,あらかじめ登録しておいた署名者の3つの公開鍵があり,これらのうち2つを使って有効なトランザクションに対する署名を作らなければなら」ないことなどが特定されているものの,上記に示したような承認要求信号を受信した通信端末のユーザによる,承認,非承認の選択及び当該選択に基づく承認信号の受信等については,なんら特定されておらず,また甲第1号証の上記第4 2(1)で引用した箇所以外にも,そのことを示す事項は記載されていない。さらに,このような「承認要求信号」及び「承認信号」の送受信手順は,その他甲3記載事項にも開示がなく,また本願出願前の周知技術とはいえず,本件発明1は,甲第1号証及び甲第3号証に基づいて当業者が容易になし得たものとすることはできない。 (ウ)小括 以上のとおり,本件発明1は,甲第1号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 イ 本件発明2について 本件発明2は,本件発明1を引用するものであるから,本件発明1と同じ理由により,甲第1号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 ウ 本件発明5について 本件発明5は,本件発明1と概ねそのカテゴリー表現のみ異なるものであって,本件発明1と同じ理由により,甲第1号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 エ 本件発明6について 本件発明6は,本件発明5を引用するものであって,本件発明5と同じ理由により,甲第1号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 オ 小括 以上判断したとおり,本件発明1,本件発明2,本件発明5及び本件発明6は,甲第1号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 (2)特許法36条6項2号(取消理由通知に係るもの)について 取消理由通知において,「請求項1の「受信した前記承認信号の承認」との記載」が明確でないとする点は,上記第2 1(1)ウに示す訂正事項3によって訂正された結果,明確となった。 取消理由通知において,「請求項2の「前記承認信号は前記ノードにおける電子署名の付加により生成される」との特定事項について,「前記ノード」は,請求項2が引用する請求項1に記載された「複数のノード」のうちいずれを示すものであるのか」が明確でないとする点は,上記第2 1(1)ア,イ及びカに示す訂正事項1,2及び6によって訂正された結果,明確となった。 取消理由通知において,「請求項3の「前記承認信号を受信する手順において受信される前記承認信号が、前記複数のノードのうちの一定割合に満たない場合」との特定事項」及び「請求項4の「前記承認は,受信した前記承認信号に含まれる前記電子署名の総数によって判断される」との特定事項」について明確でないとする点は,上記第2 1(1)キに示す訂正事項7によって訂正された結果,明確となった。 取消理由通知において,訂正前の請求項5乃至8に関し明確でないとする点は,第2 1(2)に示す訂正事項8乃至10及び13乃至14によって訂正された結果,明確となった。 よって,特許請求の範囲の記載は明確である。 (3)特許異議申立人の意見について 特許異議申立人篠森重樹は,訂正の請求により,訂正前の「複数のノード」を「複数の通信端末」に訂正し,「訂正請求書と同日提出の意見書」の4ページ5行「(b)相違点の検討」の項において特許権者が主張する,「訂正発明1のようにトランザクションの承認をブロックチェーンネットワークに参加していない通信端末間で行うという構成により、通信端末には、ノードにかかる大きな負荷(段落[0041])やブロックチェーンネットワークによって規定される条件を満たすためのハッシュ値計算(段落[0045]など)が要求されない。このため、段落[0010]に記載されているように、データを共有する複数のユーザの利便性が確保され、かつ、共有されるデータを安全に管理・利用することが可能となる。」といった効果を奏することが,本件明細書に記載が無く,訂正事項1及び6は,「訂正前請求項1-8発明の技術的意義を実質上拡張し,又は変更するもの」であることを主張する。(令和元年8月16日提出の意見書(以下単に「異議申立人意見書」という。)1乃至9ページ) しかしながら,通信端末がブロックチェーンネットワークに参加していない通信端末間でトランザクションの承認を行うことによって,「通信端末には、ノードにかかる大きな負荷(段落[0041])やブロックチェーンネットワークによって規定される条件を満たすためのハッシュ値計算(段落[0045]など)が要求され」ないことは,本件明細書に記載が無く,また,訂正前の「複数のノード」を「複数の通信端末」に訂正することは,上記第2の2で示したとおり,訂正の要件に違反するものとはいえないので,上記主張は採用しない。 また,特許異議申立人篠森重樹は,異議申立人意見書において,「(理由2)」として,新たな証拠となる甲第9号証を示し,本件特許1,2,5及び6は,特許法29条の2の規定により,取り消されるべきものである旨主張するが,異議申立書における申立ての理由に新たな理由を付加するものであって,採用の限りで無い。 また,異議申立人篠森重樹は,異議申立人意見書において,「(理由3)」として,新たに甲第11号証を追加して本件特許1,2,5及び6が,特許法29条2項の規定により取り消されるべきものである旨主張するが,該甲第11号証にも,上記第4の3(1)ア(ア)に示す相違点1及び2に係る構成を開示するものではなく,採用の限りでは無い。 (4)小括 よって,本件発明1,2,5及び6は,甲第1号証及び甲第3号証が開示する発明から,当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許法29条1項3号(理由1)について 特許異議申立人篠森重樹は,特許異議申立書において,訂正前の特許請求の範囲の請求項1乃至8に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法29条1項3号の規定により特許を取り消されるべきものであると主張する。 しかしながら,上記第4の3(1)で示したとおり,本件発明1,2,5及び6は,甲第1号証に記載された発明とはいえず,特許異議申立人篠森重樹のかかる主張は,採用することができない。 2 特許法36条6項2号(理由3)について 特許異議申立人篠森重樹は,特許異議申立書において,訂正前の特許請求の範囲の請求項5乃至8に係る発明は不明確である旨を主張しているが,情報処理方法として特定される,請求項1及び2に記載の方法における各手順については,本件明細書の段落14乃至52に「第1実施形態」として説示される内容によって,当業者が把握することが可能であり,またこれを実施するためのプログラムに関しても,当業者であれば具体的なフローチャートやハードウェアとの関連について記載が無くても理解できるものであって,本件発明5及び6は明確であり,特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号の要件を満たす。 したがって,特許異議申立人篠森重樹のかかる主張は,採用することができない。 3 特許法36条4項1号(理由4)について 特許異議申立人篠森重樹は,特許異議申立書において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,訂正前の特許請求の範囲の請求項5乃至8に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨を主張しているが,上記2と同じく,明細書段落14乃至52の記載に接した当業者であれば,本件発明5及び6を容易に実施することができるといえ,本件明細書の記載は,特許法36条4項1号の要件を満たす。 したがって,特許異議申立人篠森重樹のかかる主張は,採用することができない。 4 特許法17条の2第3項(理由5)について 特許異議申立人篠森重樹は,特許異議申立書において,訂正前の特許請求の範囲の請求項5に記載された,「前記トランザクション、および前記トランザクションの電子署名をブロックチェーンネットワークにブロードキャストし、前記トランザクションに関する情報を含むブロックをブロックチェーンに追加することによって前記トランザクションを実行する」点は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(以下,「当初明細書等」という。)の記載からみて,新たな技術的事項を加えるものである旨を主張する。 しかしながら,その主張の主旨は,当該補正の根拠とされる,当初明細書等の段落39乃至51並びに図4及び5には,具体的なプログラムの構成が開示されていないことに依拠するものであるが,上記3及び4でも指摘したとおり,具体的なプログラムやその実装態様を示すまでもなく,当業者であれば当初明細書等の段落39乃至51並びに図4及び5に記載の事項をプログラムによって実現することは容易に実施し得るものであり,またプログラムの具体的内容の明示がなかったからといって,当初明細書等に新たな技術的事項を加えるものであるとすることはできない。 したがって,特許異議申立人篠森重樹のかかる主張は,採用することができない。 第6 むすび 以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1,2,5及び6に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に本件請求項1,2,5及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また,請求項3及び4並びに請求項7及び8に係る特許は,上記のとおり,訂正により削除された。これにより,特許異議申立人篠森重樹による特許異議の申立てについて,請求項3及び4並びに請求項7及び8に係る申立ては,申立ての対象が存在しないものとなったため,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 互いにネットワークを介して接続される複数の通信端末により構成されるグループにおいて共有されるデータに対するトランザクションの実行に対する承認要求信号を、前記複数の通信端末の少なくとも一つに送信する手順と、 前記承認要求信号を受信した前記複数の通信端末のうちの一定割合に相当する通信端末より承認信号を受信する手順と、 前記承認信号を受信した後、前記トランザクション、および前記トランザクションの電子署名を、複数のノードで構成され、前記ネットワークに接続されたブロックチェーンネットワークにブロードキャストし、前記トランザクションに関する情報を含むブロックをブロックチェーンに追加することによって前記トランザクションを実行する手順とを含み、 前記複数の通信端末のうち少なくとも一つが前記ブロックチェーンネットワークに接続され、前記ブロードキャストを実行する、信号処理方法。 【請求項2】 前記承認信号は、前記承認要求信号を受信した前記通信端末において、前記トランザクションへ電子署名を付加することにより生成される、請求項1に記載の信号処理方法。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 互いにネットワークを介して接続される複数の通信端末により構成されるグループにおいて共有されるデータに対するトランザクションの実行に対する承認要求信号を、前記複数の通信端末の一つから前記複数の通信端末の他の少なくとも一つに送信する手順と、 前記承認要求信号を受信した前記複数の通信端末のうちの一定割合に相当する通信端末より承認信号を受信する手順と、 前記承認信号を受信した後、前記トランザクション、および前記トランザクションの電子署名を、複数のノードで構成され、前記ネットワークに接続されたブロックチェーンネットワークにブロードキャストし、前記トランザクションに関する情報を含むブロックをブロックチェーンに追加することによって前記トランザクションを実行する手順を前記複数のノードに実行させるように構成され、 前記複数の通信端末のうち少なくとも一つが前記ブロックチェーンネットワークに接続され、前記ブロードキャストを実行する、信号処理プログラム。 【請求項6】 電子署名を前記トランザクションへ付加することにより前記承認信号を生成することを前記複数の通信端末に実行させるように構成される、請求項5に記載の信号処理プログラム。 【請求項7】 (削除) 【請求項8】 (削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-11-27 |
出願番号 | 特願2017-29730(P2017-29730) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(G06F)
P 1 651・ 113- YAA (G06F) P 1 651・ 536- YAA (G06F) P 1 651・ 55- YAA (G06F) P 1 651・ 537- YAA (G06F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 金沢 史明 |
特許庁審判長 |
仲間 晃 |
特許庁審判官 |
山崎 慎一 松平 英 |
登録日 | 2018-05-25 |
登録番号 | 特許第6341491号(P6341491) |
権利者 | 株式会社三菱UFJ銀行 |
発明の名称 | 信号処理方法、および信号処理プログラム |
代理人 | 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ |
代理人 | 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ |