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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A23B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23B |
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管理番号 | 1358644 |
異議申立番号 | 異議2019-700849 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-10-24 |
確定日 | 2020-01-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6508775号発明「削り魚節の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6508775号の請求項1?2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6508775号の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成27年7月6日を出願日とするものであり、平成31年4月12日にその特許権の設定登録がされ、令和1年5月8日に特許掲載公報が発行された。 その後、当該特許に対し、令和1年10月24日に特許異議申立人 野口夕子により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許請求の範囲の記載及び本件特許発明の認定 (1) 本件特許請求の範囲の記載 特許第6508775号(以下、「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1?2には下記のとおり記載されている。 「【請求項1】 魚節を95℃?125℃の温度範囲で1分?15分の間加熱する蒸煮工程と、 魚節の繊維方向に対して魚節を略垂直に切削して削り魚節の肉厚を0.20mm?0.30mmの範囲とする切削工程と、 を備え、 前記切削工程における魚節の温度が45℃?90℃の範囲であり、 前記切削工程が、前記削り魚節のうち100重量パーセント中80重量パーセント以上を4.0cm^(2)を超えて225.0cm^(2)の範囲の大きさに魚節を切削する工程を含むことを特徴とする、削り魚節の製造方法。 【請求項2】 前記魚節が、かつお、さば、まぐろ、いわしおよびあじからなる群から選ばれる少なくとも一つを原料とする、請求項1に記載の削り魚節の製造方法。」 (2)本件特許発明の認定 本件特許の請求項1?2に係る発明(以下、請求項順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」といい、これらをまとめて「本件特許発明」ということもある。)は、(1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。 第3 申立理由の概要 (1)申立理由1(特許法第36条第6項第1号、同法113条第4号) 本件特許発明1?2は、「前記切削工程が、前記削り魚節のうち100重量パーセント中80重量パーセント以上を4.0cm^(2)を超えて225.0cm^(2)の範囲の大きさに魚節を切削する工程」が限定されているものの、発明の詳細な説明には、削り魚節の大きさ及びその重量パーセントについての記載が全くなく、魚節の大きさに対応する加熱温度及び加熱時間についての実施例、削り節の大きさに応じた官能試験の結果、厚さ0.30mmで4cm^(2)の大きさの削り節との比較実験、及び、4.0cm^(2)を超えて225.0cm^(2)の範囲の大きさの削り節の含有量が79重量パーセントである場合との比較についての記載もない。 したがって、本件特許発明1?2は、発明の詳細な説明においてサポートされているものではなく、明らかに、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、同法第113条第4号の規定に基いて取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(特許法第29条第2項、同法113条第2号) 本件特許発明1?2は、その出願前に日本国内において頒布された、以下に記載の甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、本件特許発明1?2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号の規定に基いて取り消されるべきものである。 甲第1号証:特開2001-170888号公報 甲第2号証:特開平8-205765号公報 なお、以下、申立人が提出した甲第1号証、甲第2号証を、それぞれ甲1、甲2のように省略して記載する。 第4 当合議体の判断 当合議体は、特許異議申立人の主張する申立理由のいずれによっても、本件特許発明1?2に係る特許は取り消すことはできないと判断した。以下、その理由を説示する。 1 申立理由1(特許法第36条第6項第1号)について (1)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるとされる。 (2)特許請求の範囲の記載 本件特許請求の範囲の請求項1?2の記載は、第2(1)に記載したとおりである。 (3)本件特許発明の課題 本件特許明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明(特に、【0007】、【0013】?【0016】等)の記載から、本件特許発明が解決しようとする課題は以下のとおりと認められる。 だしをとった後、削り魚節に十分な旨味成分が残っていて、そのまま食べることができ(課題1)、柔らかく優れた食感を有する(課題2)、比較的安定した形状の(課題3)、 削り魚節の製造方法を提供すること。 (4)当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲 ア 発明の詳細な説明には以下の内容が記載されている。 (A)「【0004】 厚削りの削り魚節の製造方法に関連する技術として、だしをとった削り魚節を廃棄せず食用に供することに言及した先行技術が存在する。 具体的には、魚節を0.15?0.30mmのチップ形状の肉厚に削成して、チップ形状の最長寸法と最短寸法の和を4cm以下の大きさに調整する工程を備えた厚削りの削り魚節の製造方法が提案されている。 この製造方法によれば、得られる削り魚節は計量スプーンで計量することができ、火が通りやすいとされる(特許文献1)。 しかし、この製造方法により得られた削り魚節は計量スプーンで計量することができるチップ状に成形されているため、表面積が大きく液体と接触させた際に旨味成分が流出しやすい。このためだしをとった後に醤油、味噌、マヨネーズなどで味付けする必要があり、削り魚節に十分な旨味成分が残っているといえない問題があった。また、だしをとった上述の削り魚節は、内部に堅い芯こそないものの、それだけでは優れた食感を有するものとはいえない。」 (B)「【0013】 本発明によれば、魚節の繊維方向に対して魚節を略垂直に切削して製造するため、削り魚節の繊維を輪切りに断ち切ることができる。 このため、本発明により得られる削り魚節は、柔らかく優れた食感を有するようになる。 魚節の繊維方向に対して魚節を略垂直に削成する製造方法は、従来薄削りに用いられるものである。魚節の繊維方向に対して魚節を略垂直に削成する製造方法に適用した場合、一定品質の削り魚節がえられにくいとの問題がある。 本発明の場合は、魚節の繊維方向に対して魚節を略垂直に切削する工程を採用することにより、得られた厚削りの削り魚節を食感向上のために破砕する工程が必要なくなり、火の通りやすいチップ形状ではないにもかかわらず、柔らかく優れた食感を実現し、食べやすいものを提供することが可能となる。」 (C)「【0014】 魚節を95℃?125℃の温度範囲で1分?15分の間加熱する蒸煮工程と、魚節の温度を45℃?90℃の範囲とする切削工程とを採用することにより、先の製造上の問題を解決して比較的安定した形状の魚節を製造することができる。」 (D)「【0015】 また、本発明により得られる削り魚節の厚さは、0.20mm?0.30mmの範囲である。 本発明により得られる削り魚節は、肉厚が厚い厚削りであるため、だしを取る用途に使用した場合でも旨味成分が流出し尽くすことはなく、美味しい食感を実現することができる。」 (E)「【0016】 また、本発明により得られる削り魚節の大きさは100重量パーセント中80重量パーセント以上が4.0cm^(2)を超えて225.0cm^(2)の範囲である。 本発明により得られる削り魚節は、破砕する工程を必要としないためチップ形状ではない。チップ形状の削り魚節と比較すると、だしをとる際、水に接する面積を小さくすることができる。このため、旨味成分の必要以上の流出を抑えることができ、本発明の削り魚節に十分な旨味成分が残すことができる。」 (F)「【0029】 前記切削工程は、削り魚節の肉厚が0.20mm?0.30mmの範囲内で実施される。 また前記魚節を切削する際には、魚節の繊維方向に対して魚節を略垂直に切削する。 ここで魚節を略垂直に切削する、とは、魚節の繊維方向に略垂直に切断することを意味する。 通常、魚節中では長手方向に繊維が概略一方向に沿って配列している。魚節を魚節の長手方向に切削した場合には、得られた削り魚節を顕微鏡で観察すると1mm以上の長さの繊維配列が存在することを観察することができる。 これに対して本発明により得られる削り魚節は魚節の繊維方向に対して魚節が略垂直に切削されているため、得られた削り魚節を顕微鏡で観察しても1mm以上の長さの繊維配列を観察することができない。 この通り1mm以上の長さの繊維配列を観察することができるかどうかにより魚節の繊維方向に魚節が略垂直に切断されているかどうかを確認することができる。」 (G)「【実施例1】 【0034】 本実施例においては魚節としてかつお節を使用した。 かつお節を水洗し、ブラッシングして、かつお節に付着しているかびや骨等を除去した。 次に前記かつお節を水蒸気に接触させて110℃の温度で3分?8分以下の時間加熱した。 加熱後のかつお節を70℃の温度に保って、回転する円盤状刃にかつお節を接触させて削りかつお節の肉厚が0.20mmとなるように削りかつお節を切削した。 得られた削りかつお節を容器に受けて扇風機の冷風により2時間以上冷却した。 次に窒素ガスを封入する機能を備えた自動計量充填装置を用いて、ポリエチレン製の包装袋に削りかつお節を一つの袋当たり10?11g入るように窒素と共に充填した。 次に包装された削りかつお節を金属探知器にかけて金属異物が混入していないことを確認して箱詰めして梱包し削りかつお節を得た。 実施例1により得られた削りかつお節を使用してだし汁を作成し、そのままだし汁と共に実施例1により得られた削りかつお節を14名の者により試食した。 その結果、14名中、11名がだし汁および削りかつお節が美味しいと回答した。結果を表1に示す。 【0035】 【表1】 【実施例2】 【0036】 実施例1の場合で、削りかつお節の肉厚が0.25mmとなるように削りかつお節を切削した他は実施例1の場合と全く同様に実験を実施した。 その結果、14名中、13名がだし汁および削りかつお節が美味しいと回答した。結果を表1に示す。 【実施例3】 【0037】 実施例1の場合で、削りかつお節の肉厚が0.30mmとなるように削りかつお節を切削した他は実施例1の場合と全く同様に実験を実施した。 その結果、14名中、12名がだし汁および削りかつお節が美味しいと回答した。 美味しいと思うとの回答が過半数を超えたのは、肉厚の厚さが0.20mm?0.30mmの範囲のみであった。肉厚の厚さが薄くなると、かさばるとの回答が多く、肉厚の厚さが厚くなると食感が気になるとの回答が多かった。結果を表1に示す。 【0038】 [比較例1] 実施例1の場合で、削りかつお節の肉厚が0.10mmとなるように削りかつお節を切削した他は実施例1の場合と全く同様に実験を実施した。 その結果、14名中、削りかつお節が美味しいと回答した者はいなかった。結果を表1に示す。 【0039】 [比較例2] 実施例1の場合で、削りかつお節の肉厚が0.15mmとなるように削りかつお節を切削した他は実施例1の場合と全く同様に実験を実施した。 その結果、14名中、4名がだし汁および削りかつお節が美味しいと回答したものの、美味しいと回答した者の総数は過半数に満たなかった。結果を表1に示す。 【0040】 [比較例3] 実施例1の場合で、削りかつお節の肉厚が0.35mmとなるように削りかつお節を切削した他は実施例1の場合と全く同様に実験を実施した。 その結果、14名中、5名がだし汁および削りかつお節が美味しいと回答したものの、美味しいと回答した者の総数は過半数に満たなかった。結果を表1に示す。 【0041】 [比較例4] 実施例1の場合で、削りかつお節の肉厚が0.40mmとなるように削りかつお節を切削した他は実施例1の場合と全く同様に実験を実施した。 その結果、14名中、1名がだし汁および削りかつお節が美味しいと回答したものの、美味しいと回答した者の総数は過半数に満たなかった。結果を表1に示す。」 (H)「【実施例4】 【0050】 かつお節を水蒸気に接触させて加熱する温度を100℃?130のそれぞれの温度で10℃刻みで3分?8分以下の時間加熱した以外は実施例1の場合と全く同様の実験を行った。 この際の結果を表3に示した。 かつお節を水蒸気に接触させて加熱する温度が90℃と130℃の場合には市場に提供するレベルにある製品を得ることができないことが判明した。 【0051】 【表3】 」 (I)「【実施例5】 【0052】 かつお節を切削する際のかつお節の温度を40?95℃の範囲で変化させて実験を行った他は実施例1の場合と全く同様の実験を行った。 この際の結果を表4に示した。 かつお節を切削する際の温度が40℃と95℃の場合には市場に提供するレベルにある製品を得ることができないことが判明した。 【0053】 【表4】 」 イ 上記(B)?(E)より、削り魚節の肉厚を0.20mm?0.30mmの範囲とし、削り魚節のうち100重量パーセント中80重量パーセント以上を4.0cm^(2)を超えて225.0cm^(2)の範囲の大きさに魚節を切削する切削工程を備えることは、前記課題1に対応し、魚節の繊維方向に対して魚節を略垂直に切削する切削工程を備えることは、前記課題2に対応し、魚節を95℃?125℃の温度範囲で1分?15分の間加熱する蒸煮工程と、魚節の温度が45℃?90℃の範囲で切削する切削工程とを備えることは、前記課題3に対応する、という、対応関係を、当業者は理解することができる。 そして、上記(G)に示された実施例1?3および比較例1?4についての記載をみると、かつお節を水蒸気に接触させて110℃の温度で3?8分以下の時間加熱し、加熱後のかつお節を70℃の温度に保って切削した削りかつお節の肉厚が0.20mm?0.30mmの範囲であると、美味しいとの回答が過半数を超えることがわかり、上記(H)に示された実施例4についての記載をみると、かつお節を水蒸気に接触させて加熱する温度が90℃と130℃の場合には市場に提供するレベルにないことがわかり、上記(I)に示された実施例5についての記載をみると、かつお節を切削する際の温度が40℃と95℃の場合には市場に提供するレベルにないことがわかる。上記(G)?(I)には、実施例におけるかつお節の切削の方向について具体的に記載されていないが、上記(F)等を参酌すると、当業者は、実施例1?5においても、かつお節を繊維方向に対して略垂直に切削していると理解するといえる。 また、上記(A)及び(E)より、「チップ形状」の削り魚節と比較して、「チップ形状」ではない本件特許発明により得られる削り魚節は、旨味成分の必要以上の流出が抑えられると当業者は理解するといえ、当該「チップ形状」の大きさは「最長寸法と最短寸法の和が4cm以下の大きさ」程度であって、本件特許発明により得られる削り魚節はそれより大きいものであると理解するといえる。 さらに、一般に魚節自体の大きさは様々であるし、両端付近の断面積は小さく、中央付近の断面積は大きいものであるから、魚節の繊維方向に対して略垂直に切削すると、得られる削り魚節は、その大きさが、両端付近の断面積程度の比較的小さいものから中央付近の断面積程度の比較的大きいものまで含まれる混合物となることは当然のことといえる。そして、「225.0cm^(2)以下」は魚節の断面積として常識的な範囲である。 ウ 以上から、本件特許発明の範囲で前記課題1?3を解決できると当業者は認識できるといえる。 (5)よって、本件特許請求の範囲の記載は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識より、当業者が当該発明の課題が解決できると認識できる範囲のものと認められる。 (6)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は特許異議申立書において、切削工程において切削した魚節の大きさ及びその重量パーセント、魚節の大きさ(即ち、切削した魚節の大きさ)に対応する加熱温度及び加熱時間、削り節の大きさに応じた官能試験の結果、厚さ0.30mmで4cm^(2)の大きさの従来技術(当審注:特許第3562573号)の削り節との比較、及び、4.0cm^(2)を超えて225.0cm^(2)の範囲の大きさの削り節の含有量が79重量パーセントである場合との比較が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないから、本件特許発明は発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものである旨主張する。 しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、実施例・比較例として、魚節の具体的な大きさやそれに応じた加熱条件及び官能試験が記載されておらず、大きさや含有量に関する比較実験が示されていないことが、直ちに、本件特許発明が、当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えている根拠になるものではない。そして、前記(4)に記載したとおり、本件特許発明は、当業者が本件特許発明の課題が解決できると認識できる範囲のものと認められる。 よって、特許異議申立人の上記主張は認められない。 (7)小括 以上から、本件特許発明1?2は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識より、当業者が当該発明の課題が解決できると認識できる範囲のものであるといえるので、特許法第36条第6項第1号に規定されるサポート要件を満たしている。 よって、申立理由1には理由がない。 2 申立理由2(特許法第29条第2項)について (1)甲1の記載事項 (1a)「【請求項1】 魚節の筋繊維と直交して切断する方向に削成してあり、厚みが100μm以上1500μm以下としてあることを特徴とする魚節削り。」 (1b)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、鰹節削りやまぐろ節削り(この明細書では魚節削りという)に関するものである。」 (1c)「【0007】 【発明が解決しようとする課題】そこで、この発明では、出し用、食用の両方に良好に使用できる魚節削りを提供することを課題とする。」 (1d)「【0012】鰹節削り2は、鰹節1を筋繊維Fと直交して切断する方向に削成して形成され、図2に示すように、血合20及び多数の筋繊維Fが密に存在している。また、この鰹節削り2では、厚みを100μm以上1500μm以下に設定してあり、幅及び長さを用途に合わせて設定してある。なお、このような鰹節削り2は、紡錘形の鰹節1を回転刃物に対して長手方向の一端を押し付けるようにして削成すればよく、厚みは回転刃物の刃の突出量を変えることにより設定すればよい。」 (1e)「【0013】ここで、この実施形態の鰹節削り2の比較例として鰹節を筋繊維に沿って削って形成した鰹節削り2(当合議体注:「2’」の誤記と認められる。)を図3に示す。両者を比較すると、この実施形態の鰹節削り2の筋繊維Fの数は、比較例の鰹節削り2(同、「2’」の誤記と認められる。)の筋繊維F(同、「F’」の誤記と認められる。)の数よりも非常に多いことが明らかであり、よって、鰹節削り2の全体の筋繊維Fの隙間は非常に多い。したがって、この実施形態の鰹節削り2を料理に使用した場合、だしの抽出が短時間で行え、また比較的容易に完全に抽出できる。」 (1f)「【0015】さらに、鰹節削り2を厚さ100μm?1500μm(好ましくは200μm?500μm)にすると、うどん等において、ラーメンにおけるチャーシューと同感覚で食することも可能であり、味を付けることにより「おつまみ」等として食することも可能である。これら場合、鰹節削り2は鰹節1を筋繊維Fと直交して切断する方向に削成して形成されているから、無理なく食する(噛み切りやすい)ことができる。」 (1g)「【0016】つまり、この鰹節削り2は、出し用、食用の両方に良好に使用できる。」 (1h)「【図2】 」 (1i)「【図3】 」 (2)甲2の記載事項 (2a)「【請求項1】 魚節類を加湿された熱風で加熱し、次いで約200?250℃で焙煎処理して中心温度が約70?100℃になるように加熱し、該加熱処理した魚節類を約60?30℃に冷却して切削することを特徴とする削り節の製造方法。」 (2b)「【0002】 【従来の技術】従来、鰹節等の魚節類は、乾燥によって肉質が非常に固くなっており、そのままでは水分も少なくて削りにくいために、切削の前処理として水浸や蒸煮等が行なれている。」 (2c)「【0012】そこで、前記のように構成された焙煎装置本体1の材料投入口2から原料として鰹荒本節を投入する。この鰹荒本節の水分とエキス分は何れも20.4%の原料を投入した。そして、前記第1セクション4で蒸気を吹き込みながら120℃で7分間加熱して鰹荒本節の中心温度を50℃に加熱し、次に第2セクション5で200℃の温度で5分間焙煎して鰹荒本節の中心温度を70℃に加熱し、製品出口3から連続的に取り出して放冷し、鰹荒本節の中心温度が50℃に下がった時点で切削した。」 (2d)「【0013】この場合、第1セクションでの湿式加熱によって魚節類の水分が均一化し、しかも水分の蒸発を抑制しながら目的とする中心温度近くまで温度を上げることができる。また、第2セクションの焙煎による水分の蒸散分を先に補うことにより、焙煎により短時間で魚節類を目的とする中心温度まで上昇させることができる。このときの魚節類の水分の低下は僅かであり、しかも第1セクションで魚節類の表層部が若干加水された状態になっていて、その部分の水分が優先的に蒸散される。このような処理により魚節内の水分は均一に保持され、魚節の軟化と殺菌を同時に行なうことができ、削り作業が容易になる。」 (2e)「【0014】このようにして製造された花鰹は水分が18.4%,エキス分は19.8%であった。そして色は淡いピンク色であり、縮れのない良好なものが得られた。」 (3)甲1に記載された発明 甲1には、出し用、食用の両方に良好に使用できる魚節削りとその製造方法が記載され、具体的な実施形態として、鰹節削りは鰹節を筋繊維と直交して切断する方向に削成すること、鰹節削りを好ましくは厚さ200μm?500μmにすると、うどん等において、ラーメンにおけるチャーシューと同感覚で食することも可能であることが記載されている(摘記(1a)、(1c)、(1e)、(1f)、(1g))。 したがって、甲1には、 「魚節の筋繊維と直交して切断する方向に削成して、厚みを200μm?500μmとする、うどん等においてラーメンにおけるチャーシューと同感覚で食することも可能な魚節削りの製造方法」 の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 (4)本件特許発明1について ア 本件特許発明1と甲1発明との対比 甲1発明の「魚節の筋繊維と直交して切断する方向に削成」は、本件特許発明1の「魚節の繊維方向に対して魚節を略垂直に切削」に相当し、甲1発明の「厚みを200μm?500μm」は、本件特許発明1の「肉厚を0.20mm?0.30mmの範囲」と重複している。また、甲1発明の「うどん等においてラーメンにおけるチャーシューと同感覚で食することも可能」な大きさは、「4.0cm^(2)を超えて225.0cm^(2)の範囲の大きさ」に相当するといえる。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、 「魚節の繊維方向に対して魚節を略垂直に切削して削り魚節の肉厚を0.20mm?0.30mmの範囲とする切削工程を備え、 前記切削工程が、4.0cm^(2)を超えて225.0cm^(2)の範囲の大きさに魚節を切削する工程を含むことを特徴とする、削り魚節の製造方法。」 の発明である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) (相違点1)本件特許発明1は、魚節を95℃?125℃の温度範囲で1分?15分の間加熱する蒸煮工程を備えるのに対し、甲1発明は、そのような工程を備えることが特定されていない点。 (相違点2)本件特許発明1は、切削工程における魚節の温度が45℃?90℃の範囲であることを特定しているのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。 (相違点3)本件特許発明1は、4.0cm^(2)を超えて225.0cm^(2)の範囲の大きさの削り節が100重量パーセント中80重量パーセント以上であることを特定しているのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。 イ 相違点についての検討 (ア)相違点1について 甲1には、魚節を削成する前の前処理について記載がないが、甲2の記載事項(2b)によると、乾燥により固くなった魚節を水浸や蒸煮等の前処理により削りやすくすることは、当業者が広く行っていたことといえる。そして、甲2には、当該前処理の一例として、「蒸気を吹き込みながら120℃で7分間加熱」する方法が示されている(摘記(2c))。 一方、魚節の前処理方法として、甲2に示された方法以外にも、140℃で30分加熱する方法、遠赤外線を照射して加熱する方法、高周波処理を施す方法、恒温槽の中に入れる方法等、種々の方法が知られており、その中で甲2に示された方法が一般的であるという技術常識があるとはいえない。 また、甲2には、前記前処理した後に切削して得られた削り節は「花鰹」であった旨記載されており、魚節を筋繊維と直交して厚削りすることに関する記載はない。 そうすると、甲1発明において前処理を行う際に、数ある前処理方法の中から、薄削りの削り節を製造する際に行われた「蒸気を吹き込みながら120℃で7分間加熱」する方法を選択し適用することは、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。 よって、相違点1は、当業者が容易に想到し得たものではない。 (イ)相違点2について かつお節が「ガラス状態」から「ラバー状態」に変化する温度が、水分量が10%であるときは60℃程度であり、その温度以上において削りだしを行えば、小さな力、少ない仕事量で安全かつ簡単に均質な削り節を製造することができることは、当業者には既に広く知られていたことである(例えば、特開2007-252230号公報の【0017】等)。 そうすると、甲1発明の切削工程において、魚節の温度を60℃前後の温度範囲に設定することは、当業者が容易に想到し得たことである。 よって、相違点2は、当業者が容易に想到し得たものである。 (ウ)相違点3について 甲1発明において、目的の大きさ、すなわち、「うどん等においてラーメンにおけるチャーシューと同感覚で食することも可能」な大きさのものを、なるべく多く得られるようにすることは当然のことであるから、その割合を100重量パーセント中80重量パーセント以上と設定することは、当業者が容易に想到し得たことである。 よって、相違点3は、当業者が容易に想到し得たものである。 (エ)以上より、本件特許発明1は、甲1及び甲2の記載から当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 (5)本件特許発明2について 本件特許発明2は、本件特許発明1の魚節を、かつお、さば、まぐろ、いわしおよびあじからなる群から選ばれる少なくとも一つにさらに特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項をさらに限定するものであるから、本件特許発明1が甲1及び甲2の記載から当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない以上、本件特許発明2も、甲1及び甲2の記載から当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 (6)本件特許発明の効果について 本件特許明細書には、肉厚を0.20mm?0.30mmの範囲とした実施例1?3の削りかつお節は、だしをとった後でも美味しいとの回答が過半数を超えた(以下、「効果1」という。)のに対し、肉厚が当該範囲外である比較例1?4の削りかつお節は、美味しいとの回答が過半数を超えなかったことが記載され(摘示(G))、また、かつお節を水蒸気に接触させて加熱する温度が100℃?120℃では結果が良好であった(以下、「効果2」という。)のに対し、当該温度が90℃と130℃の場合には市場に提供するレベルになかったことが記載され(摘示(H))、さらに、かつお節を切削する際のかつお節の温度が50℃?90℃では結果が良好であった(「効果3」という。)のに対し、当該温度が40℃と95℃の場合には市場に提供するレベルになかったことが記載されている(摘示(I))。 本件特許発明による上記効果1及び効果2は、甲1または甲2に示されておらず、甲1及び甲2の記載から当業者が予測し得たともいえない。 本件特許発明による上記効果3は、60℃程度以上において削りだしを行えば、小さな力、少ない仕事量で安全かつ簡単に均質な削り節を製造することができるという公知の技術事項(上記(4)イ(イ)参照。)から、当業者が予測し得たことである。 (7)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は特許異議申立書において、本件特許の特許権者が平成31年2月21日に提出した意見書での、甲1の記載事項(1e)?(1f)から、甲1の魚節削りは、旨味成分が流出し尽くすものといえ、そのまま食べることができるものとはいえない、との主張に対し、甲1の鰹節削りと同じように繊維方向に対して略垂直に切削する本件特許発明でも、同条件で出しをとれば甲1の鰹節削りと同じ速さで出しが抽出する旨主張する。 しかしながら、甲1の魚節削りと本件特許発明の削り魚節は、魚節の前処理方法及び切削時の温度条件等において一致しているとはいえないから、同条件で出しをとったとしても、必ず同じ速さで出しが抽出するとはいえない。 また、甲1の魚節削りは、出しをとった後にそのまま食べることを目的としたものではなく、「出し用、食用の両方に良好に使用できる」ことを目的としたものであるから、甲1においては、出し用として使用した後の魚節削りについては何ら言及されておらず、「だしの抽出が短時間で行え、また比較的容易に完全に抽出できる。」(【0013】)との記載があることを根拠に、旨味成分が流出し尽くしたと解することはできない。 したがって、甲1の記載から、本件特許発明の効果を当業者が予測し得たとはいえない。 よって、特許異議申立人の上記主張は認められない。 (8)小括 以上から、本件特許発明1?2は、甲1及び甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 よって、申立理由2には理由がない。 第5 むすび したがって、特許異議申立人による特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1?2に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-12-24 |
出願番号 | 特願2015-135699(P2015-135699) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(A23B)
P 1 651・ 121- Y (A23B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 福澤 洋光 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
櫛引 智子 天野 宏樹 |
登録日 | 2019-04-12 |
登録番号 | 特許第6508775号(P6508775) |
権利者 | マルトモ株式会社 |
発明の名称 | 削り魚節の製造方法 |
代理人 | 平野 泰弘 |