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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J 審判 一部申し立て 2項進歩性 C08J |
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管理番号 | 1358650 |
異議申立番号 | 異議2019-700751 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-09-20 |
確定日 | 2020-01-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6485043号発明「耐熱性樹脂膜およびその製造方法、加熱炉ならびに画像表示装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6485043号の請求項1、2、8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6485043号(設定登録時の請求項の数は11。以下「本件特許」という。)は、国際出願日である平成26年9月22日(優先権主張 平成25年9月27日)にされたとみなされる特許出願に係るものであって、平成31年3月1日にその特許権が設定登録された。 そして、本件特許に係る特許掲載公報は平成31年3月20日に発行されたところ、特許異議申立人落合憲一郎(以下、単に「異議申立人」という。)は、令和1年9月20日、請求項1、2及び8に係る特許に対して特許異議の申立てを行った。 第2 本件発明 本件特許の請求項1、2及び8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、2及び8に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に応じて各発明を「本件発明1」などといい、これらを併せて「本件発明」という場合がある。)。 「【請求項1】 ヘリウム気流下、450℃で30分加熱する間に発生するアウトガスが0.01?4μg/cm^(2)であり、化学式(1)で表される構造を有する耐熱性樹脂膜。 【化1】 (化学式(1)中、Xは、化学式(2)または(3)で表される4価のテトラカルボン酸残基を主成分とする、炭素数2以上の4価のテトラカルボン酸残基を示し、Yは、化学式(4)で表される2価のジアミン残基を主成分とする、炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。mは正の整数を示す。) 【化2】 【請求項2】 最大引張応力が200MPa以上である請求項1記載の耐熱性樹脂膜。 【請求項8】 請求項1または2に記載の耐熱性樹脂膜を含む画像表示装置。」 第3 申立理由の概要 異議申立人の主張は、概略、次のとおりである。 1 本件発明1?2は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない発明である。すなわち、本件発明1?2は、後記する甲1に記載された発明である(以下「取消理由1」という。)。 2 本件発明8は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。すなわち、本件発明8は、甲1に記載された発明を主たる引用発明とし、それと、後記する甲2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(以下「取消理由2」という。)。 3 そして、上記取消理由1?2には、いずれも理由があるから、本件発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 4 また、証拠として、以下の刊行物(甲1?2)を提出する。 ・甲1: 特開2008-37043号公報 ・甲2: 特開2010-202729号公報 第4 刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明 (1)甲1に記載された事項 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が記した。 ・「【請求項1】 基材フィルムが芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類とを反応させて得られるポリイミドフィルムの少なくとも片面に乾式製膜方法による金属層が形成されてなる金属層積層ポリイミドフィルムであって、該金属層積層ポリイミドフィルム中ポリマー由来の分解物量が0.01ppm以上1ppm以下であることを特徴とする金属層積層ポリイミドフィルム。」 ・「【0035】 本発明における、基材フィルムとして使用するポリイミドフィルムのポリマー由来の分解物量は、0.01ppm以上10ppm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01ppm以上8ppm以下、さらに好ましくは0.01ppm以上5ppm以下であり、少なければ少ないほど好ましいが、製造の容易性、コスト等を考慮すれば、実質的に不具合が生じない程度にすればよく、その下限としては、具体的には0.01ppmである。 本発明における、「ポリマー由来の分解物量」の測定は、下記のようにして実施した。 キューリーポイント型熱分解装置を用いて、GCMS法より、ポリマー分解物量を求めた。あらかじめ加熱乾燥処理した日本分析工業製500℃用パイロホイルに、試料(目安4mg)を精秤し(秤量値をA(mg)とする。)、熱分解装置内保温温度を170℃にセットして、試料ホイルを導入、3分間ヘリウムパージした。その後、直ちに発振操作により500℃で10秒間加熱した。その500℃での10秒間の加熱中にフィルムから揮発するポリマー分解物を、GCMSで検出した。この全イオン(TIC)ピーク面積を求め、アニリン換算による絶対検量線法によりポリマー分解物量B(μg)を求めた。ポリイミドフィルムに対するポリマー分解物量は次式により算出した。 ポリマー分解物量(ppm)=B(μg)/A(mg)×1000 (熱分解GCMS条件) 装置 : HP5973N(HP社製GCMS) JHS-3(日本分析工業社製熱分解装置) カラム : HP-1(アジレントテクノロジー社製)、 0.25mmφ×25m、膜厚1μm カラム温度 : 40℃/2分保持→10℃/分で260℃まで昇温 →260℃で5分保持 流量 : He 0.7ml/分、スプリット導入 質量操作範囲 : m/z=30?550 【0036】 本発明におけるポリマー由来の分解物は、上記測定条件に即して、主としてかかる雰囲気下でポリイミドフィルムから分解・揮発するものと考えられ、分子量が90以上200以下、かつ分子骨格に1個以上の窒素原子を有する、ポリマー由来の分解物である。(中略) ポリイミドフィルムに対するポリマー由来の分解物量が所定の範囲であるポリイミドフィルムを得るための方法は特に限定されないが、ポリイミドフィルムの前駆体であるグリーンフィルムの乾燥条件と高温イミド化の条件を選定して実施することが好ましい方法であり(中略) 【0037】 得られたグリーンフィルムを所定の条件でイミド化することでポリマー由来の分解物量が0.01ppm以上10ppm以下であるポリイミドフィルムを得ることができる。(中略) 【0038】 本発明において基材となるポリイミドフィルムに含まれるポリマー分解物の量を所定の範囲内に納めるには、さらにポリイミドフィルムの熱処理後に、熱処理炉から出てきたフィルムを直ちに巻き取らず、フィルム両面をフリーの状態にして5分以上、好ましくは7分以上、さらに好ましくは10分以上、なお好ましくは16分以上、大気中ないし不活性気体中に保持した後に巻き取ることが好ましい。両面フリーの状態とは大気ないし不活性気体にフィルムが直接触れている状態を意味する。もちろん、その間には、複数のロール等を用いてフィルムを搬送することができる。フィルムに含まれる低分子量物質が拡散によりフィルム外に排出されるに十分な時間を確保する意味合いである保持時間が短いとポリマー由来の分解物、溶媒、反応副生成物などの低分子量物質の残存量が多くなる場合がある。また時間が長すぎる場合には、フィルムハンドリンが困難となり生産性が低下する場合がある。」 ・「【0051】 <フィルム1?フィルム6の作製)(中略) 得られた各GFを、芳香族ポリアミド製モノフィラメントストランドからなるブラシをフィルム両端部に接するように設け、ピンテンターのピンにフィルム両端が均一に突き刺さるようにして両端を把持した状態で窒素置換された連続式の熱処理炉に通し、第1段が180℃で5分、昇温速度4℃/秒で昇温して第2段として500℃で5分の条件で2段階の加熱を施して、イミド化反応を進行させた。熱処理炉から出たフィルムは約3分間かけてほぼ室温まで冷却され、さらにクリーン度1000以下に調整された大気中を5分間搬送された。さらにその後に、フィルム幅方向はフィルム幅+40mm、フィルム進行方向には50mmの区間にて30kHz?150kHzの広帯域超音波を照射し、同エリアの境界において流速30m/秒となるように気流制御してフィルム表面近傍の大気を更新した。フィルムはさらに2分間の搬送の後に、イオン式除電器にて表面電位が0.3kV以下となるように除電され、静電気除去能を有する6インチのプラスチック製コアにロール状に巻き取り、褐色を呈する各IF(ポリイミドフィルム)であるフィルム1?フィルム6を得た。(中略) 【0052】 <フィルム1b?フィルム6bの作製) フィルム1?フィルム6と同様にして、得られたポリアミド酸溶液(1)を厚さ188μm、幅800mmのポリエステルフィルム(コスモシャインA4100(東洋紡績株式会社製))の滑剤を含まない面に幅740mmとなるようにコーティングし(スキージ/ベルト間のギャップは得られるフィルム厚さに応じて変化させた)、4つの乾燥ゾーンを有する連続式乾燥炉に通して乾燥した。(中略) 【0062】 <ポリアミド酸溶液(5)の作製> 窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器を窒素置換した後、P-PDAを入れた。次いで、DMACを加えて完全に溶解させてから、BPDAを加えて、モノマーとしてのP-PDAとBPDAとが1/1のモル比でDMAC中重合し、モノマー仕込濃度が、15質量%となるようにし、25℃にて5時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液(5)が得られた。(中略) 【0064】 <フィルム16b?フィルム18bの作製) ポリアミド酸溶液(5)を使用し、フィルム1b?フィルム6bの作製条件と同様にして、フィルム16b?フィルム18bを作製した。 得られた各IFの厚さ、ポリマー由来の分解物量は、フィルム16bで7.5μmと23.5ppm、フィルム17bで12.5μmと11.4ppm、フィルム18bで25μmと10.7ppmであった。」 ・「【0078】 以上述べてきたように、本発明の特定物性のポリイミドフィルムを基材として使用した金属層積層ポリイミドフィルム及びプリント配線板は、金属層とポリイミドフィルムとの界面における剥がれや皺が見られない、平面性と製品収率の高さに優れたものであり、例えばプリント配線板などに加工した場合であっても反りや歪みのないものとなり平面維持性に優れるばかりでなく、平面性維持による金属層の密着性においても異常部の極めて少ない優れたものである。 また多層化した際にも均質な積層加工が行われるため、反り、変形の小さい、特に高密度な微細配線が要求されるディスプレイドライバー、高速の演算装置、グラフィックコントローラ、高容量のメモリー素子などに使用される基板として有用である。特にこれらが高温に曝されることの多いディスプレイドライバー、高速の演算装置、グラフィックコントローラ、高容量のメモリー素子などのプリント基板として有用である。」 (2)甲1発明 甲1には、特に、段落【0062】記載のモノマー組成、同【0064】記載のポリマー由来の分解物量の測定などの記載から見て、次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「芳香族ジアミン類としてp-フェニレンジアミン、芳香族テトラカルボン酸類としてビフェニルテトラカルボン酸とを1/1のモル比で反応させて得られるポリイミドフィルムであって、 キューリーポイント型熱分解装置を用い、3分間ヘリウムパージ後、500℃で10秒間加熱中にフィルムから揮発するポリマー分解物を、GCMS(ガスクロマトグラフ質量分析計)で検出した量が、フィルムの厚みごとに、7.5μm厚の時に23.5ppm、12.5μm厚の時に11.4ppm、25μm厚の時に10.7ppmであるポリイミドフィルム。」 (3)甲1装置発明 甲1の段落【0078】には、甲1記載の特定物性のポリイミドフィルムを基材として使用したプリント配線板の特に有用な用途として、ディスプレ イドライバーが記載されている。ディスプレイドライバーは、ディスプレイ素子等を駆動するものとして、通常ディスプレイ装置に組み込まれているものである。 そうすると、甲1には、次のとおりの発明(以下「甲1装置発明」という。)が記載されていると認める。 「芳香族ジアミン類としてp-フェニレンジアミン、芳香族テトラカルボン酸類としてビフェニルテトラカルボン酸とを1/1のモル比で反応させて得られるポリイミドフィルムを用いたプリント基板から製造されたディスプレイドライバーを備えるディスプレイ装置であって、 キューリーポイント型熱分解装置を用い、3分間ヘリウムパージ後、500℃で10秒間加熱中にフィルムから揮発するポリマー分解物を、GCMS(ガスクロマトグラフ質量分析計)で検出した量が、フィルムの厚みごとに、7.5μm厚の時に23.5ppm、12.5μm厚の時に11.4ppm、25μm厚の時に10.7ppmであるポリイミドフィルムを用いたディスプレイ装置。」 第5 当合議体の判断 当合議体は、以下述べるように、取消理由1?2には、いずれも理由はないと判断する。 1 取消理由1について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明のポリイミドフィルムに用いられるポリイミドは、芳香族ジアミン類としてp-フェニレンジアミン、芳香族テトラカルボン酸類としてビフェニルテトラカルボン酸を、1/1のモル比で反応させて得られるため、本件発明1の化学式(1)において、Xが化学式(3)で、Yが化学式(4)で表される構造を有する場合のものに相当する。 そして、本件特許明細書の段落【0002】には、「ポリイミド、(中略)等の耐熱性樹脂」との記載があることから、甲1発明のポリイミドフィルムは、本件発明1における、耐熱性を有する樹脂膜であることは明らかである。 また、本件発明1のアウトガスに関し、本件特許の段落【0098】には、「本発明におけるワニスに耐熱性樹脂の前駆体、溶剤以外の成分を含む場合や未反応のモノマー成分が存在する場合、耐熱性樹脂膜中にその成分またはその分解物が残り、(中略)耐熱性樹脂膜中に分解したオリゴマー成分やモノマー成分を残し、耐熱性樹脂膜のアウトガス特性を低下させる」ことの記載がある。 一方、甲1には、段落【0035】?【0036】に、「ポリマー由来の分解物量」として、3分間ヘリウムパージした熱分解装置で500℃で10秒間加熱中にフィルムから揮発するポリマー分解物であって分子量が90以上200以下、かつ分子骨格に1個以上の窒素原子を有するものとの記載がある。 そうすると、本件特許1、甲1発明は、いずれも、ポリイミドフィルムのヘリウム雰囲気下で加熱時の分解物であるガスを定量していることになる。 そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。 (ア)一致点 ヘリウム雰囲気下、加熱によってアウトガスが発生し、化学式(1)で表される構造を有する耐熱性樹脂膜である点。 【化1】 (化学式(1)中、Xは、化学式(3)で表される4価のテトラカルボン酸残基を主成分とする、炭素数2以上の4価のテトラカルボン酸残基を示し、Yは、化学式(4)で表される2価のジアミン残基を主成分とする、炭素数2以上の2価のジアミン残基を示す。mは正の整数を示す。) 【化2】 」 (イ)相違点1 ヘリウム雰囲気下、耐熱性樹脂膜から加熱によって発生するアウトガス量について、本件発明1は、「ヘリウム気流下、450℃で30分加熱する間に発生するアウトガスが0.01?4μg/cm^(2)」であるのに対し、甲1発明は、「キューリーポイント型熱分解装置を用い、3分間ヘリウムパージ後、500℃で10秒間加熱中にフィルムから揮発するポリマー分解物を、GCMS(ガスクロマトグラフ質量分析計)で検出した量が、フィルムの厚みごとに、7.5μm厚の時に23.5ppm、12.5μm厚の時に11.4ppm、25μm厚の時に10.7ppm」と特定する点。 イ 相違点1についての検討 (ア)まず、測定方法の相違について検討する。 アウトガスを定量する単位として、本件発明1は、ポリイミドフィルムの単位面積あたりのガスの重量として「μg/cm^(2)」を用いるのに対し、甲1発明は、ポリイミドフィルムの単位重量あたりのポリイミドフィルムのポリマー分解物量(ppm)を用いており、単位が相違する。 そうすると、ポリイミドの比重を1?2と仮定して、単位面積あたりのアウトガス量を換算できたとしても、本件発明では「450℃で30分間」に発生した量である一方、甲1発明は「500℃で10秒間」であり、温度プロファイルやサンプリング時間も大きく異なることに加えて、甲1発明では、ポリイミドフィルムの厚みが大きくなるほど発生するポリマー分解物の量が減少していることから、厚みが不定である本件発明1に対して、ポリイミドフィルムの単位重量あたりのポリマー分解物の量で単純に比較することは妥当ではない。 そうすると、これらの定量単位の違いから、ポリイミドフィルムの単位量あたりに発生するアウトガスの量がどのような差異が出るのか当業者であっても不明である。 (イ)また、本件発明1は、明細書の段落【0007】に記載されるように、「不活性雰囲気で加熱するとアウトガス成分が耐熱性樹脂膜中に残留しやすくなり、耐熱性樹脂膜のアウトガスを低減させることが難しかった」との知見から、(A)酸素濃度10体積%以上の雰囲気下、250℃以上で加熱する第1の加熱工程と、(B)酸素濃度3体積%以下の雰囲気下、第1の加熱工程よりも高い温度で加熱する第2の加熱工程とを上記順序で行って得られた耐熱性樹脂膜である。 一方、甲1発明のポリイミドフィルムは、「窒素置換された連続式の熱処理炉に通し、第1段が180℃で5分、昇温速度4℃/秒で昇温して第2段として500℃で5分の条件で2段階の加熱を施し」(甲1の段落【0051】)て得られたものであるが、このように窒素雰囲気のみで加熱工程を行うことは、本件特許明細書の【表1】及び【表2】に、比較例1?10及び12として、好ましくないものとして例示されている実施の態様にまさに相当するものといえる。 したがって、不活性雰囲気下のみで加熱工程を実施する甲1発明で得られるポリイミドフィルムは、本件発明1と相違するものといえる。 (ウ)よって、本件発明1と甲1発明の耐熱性樹脂膜は、相違するものである。 ウ 本件発明1についての小括 そうすると、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえない。 (2)本件発明2について 本件特許の請求項2の記載は、請求項1を引用するものであるところ、請求項1に係る本件発明1が甲1に記載された発明であるといえないのは上述のとおりであるから,請求項2に係る本件発明2についても同様に、甲1に記載された発明であるとはいえない。 (3)異議申立人の主張について 異議申立人は、「上述した測定条件の違いを考慮すると、「フィルム16b」の本件特許発明1でいう「アウトガス」は、上記推定値より多くなると考えられる。したがって、甲1発明における「ポリマー由来の分解物量は、フィルム16bで・・・23.5ppm」は、本件特許発明1における「アウトガスが0.01?4μg/cm^(2)」に相当する。」(申立書第10ページ第10?15行)と主張している。 しかしながら、甲1発明におけるポリマー由来の分解物量の測定値から、本件特許発明におけるアウトガス量を推定するこの主張は定性的に推定値が多くなると述べるだけで、温度や測定時間が相違する本件特許発明1における「アウトガスが0.01?4μg/cm^(2)」の範囲に定量的に相当する根拠が不明である。 よって、異議申立人の上記主張には理由がない。 (3)まとめ よって、取消理由1には、理由がない。 2 取消理由2について (1)本件発明8について 本件発明8は、請求項1または2に記載の耐熱性樹脂膜を含む画像表示装置であることを更に特定するものである。 ア 対比 本件発明8と甲1装置発明とを対比する。 甲1装置発明の「ディスプレイ装置」は、「画像表示装置」といえるから、本件発明1と甲1装置発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。 (ア)一致点 上記「1(1)ア(ア)」で記した化学式(1)で表される構造を有する耐熱性樹脂膜を用いた画像表示装置である点。 (イ)相違点 相違点1と同じ(以後、「相違点2」という)。 イ 相違点についての検討 上記「1(1)イ(イ)」で述べたように、本件発明8で利用する耐熱性樹脂膜は、不活性雰囲気での加熱におけるアウトガス成分の耐熱性樹脂膜中への残留を課題として、酸素濃度と温度を変化させた2段階の加熱によって初めて本件発明8で特定する性能を有する耐熱性樹脂膜が得られるものである。このことは、本件特許明細書の【表1】及び【表2】に、第1及び第2の工程での加熱を共に窒素雰囲気で行った比較例が、第1の工程での加熱を大気雰囲気下で行う実施例に比べて、アウトガス発生量が大きくなっていることからも看取できる。したがって、窒素置換された(不活性雰囲気での)熱処理炉でイミド化を行う甲1装置発明で利用する耐熱性樹脂膜は、本件発明8と同じ測定条件としたとき、本件発明8よりも多くガスが発生する蓋然性が高いといえる。 そうすると、当業者であっても、不活性雰囲気下のみで加熱工程を実施することを前提に発明された甲1発明から、本件特許1の特定事項のうち、ヘリウム気流下、450℃で30分加熱する間に発生するアウトガスの上限値である4μg/cm^(2)以下の条件を達成することには、技術的な阻害事由がある。 また、相違点2による効果は、機械特性が高い耐熱性樹脂膜が提供できるという顕著なものと認められる。 (2)まとめ よって、取消理由2には、理由がない。 第6 むすび したがって、異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2及び8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1、2及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-12-27 |
出願番号 | 特願2014-548218(P2014-548218) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(C08J)
P 1 652・ 113- Y (C08J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 加賀 直人 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 大畑 通隆 |
登録日 | 2019-03-01 |
登録番号 | 特許第6485043号(P6485043) |
権利者 | 東レ株式会社 |
発明の名称 | 耐熱性樹脂膜およびその製造方法、加熱炉ならびに画像表示装置の製造方法 |