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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E02D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E02D
管理番号 1358653
異議申立番号 異議2019-700136  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-20 
確定日 2019-12-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第6380790号発明「水硬性固化材液置換コラムの築造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6380790号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 
理由 1 手続の経緯
特許第6380790号(以下「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成26年7月16日に出願され、平成30年8月10日にその特許権の設定登録がされ、平成30年8月29日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成31年 2月20日 :特許異議申立人 太田裕美子
による特許異議の申立て
平成31年 4月25日付け:取消理由通知書
令和 1年 7月11日 :特許権者による意見書の提出
令和 1年 8月23日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 1年10月25日 :特許権者による意見書の提出


2 本件発明
本件特許の請求項1、2に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
水硬性固化材液の流路を有する掘削ロッドの下端部に、該流路に通ずる水硬性固化材液の吐出口を有する掘削ヘッドを接続し、該掘削ロッドの下方部側面に少なくとも1個の地盤切削翼を外方に向かって突設した水硬性固化材液置換コラム築造装置を用い、掘削ロッドを回転しつつ地盤の所定深度まで掘進し、その後掘削ロッドを回転しつつ引き上げ、少なくとも掘削ロッドの引き上げ時に、掘削ヘッドの吐出口より水硬性固化材液を吐出しつつ掘削ロッドを回転させながら引き上げ、該掘削孔および地盤切削翼での切削部分を水硬性固化材液で充填することを特徴とする水硬性固化材液置換コラム築造方法。
【請求項2】
前記掘削ロッドを回転しつつ地盤の所定深度までの掘進時に掘削ヘッドの吐出口より水硬性固化材液を吐出することを特徴とする請求項1に記載の水硬性固化材液置換コラム築造方法。」


3 取消理由の概要
請求項1、2に係る特許に対して、当審が平成31年8月23日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

請求項1に係る発明は、刊行物1、刊行物2または刊行物4に記載された発明であるか、または、刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項、または、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項2に係る発明は、刊行物4に記載された発明であるか、または、刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項、または、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1、2に係る特許は、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。


4 刊行物の記載
(1)刊行物1
取消理由通知(決定の予告)で通知した特開平11-100836号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は、異議の決定で付した。以下同様。)
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、軟弱地盤の改良に特に適した地盤改良工法及びそれに用いる杭造成用挿入体に関する。」

イ 「【0018】また、杭造成用挿入体の外周面に螺旋状突起を突設しておくと、該杭造成用挿入体の挿入の際、ねじ込み操作によって杭造成用挿入体を容易に挿入することができるのみならず、螺旋状突起によって押し拡げ作用がさらに促進されるとともに、かかる螺旋状突起の跡として形成される溝を介して固化材を軟弱地盤中に広く浸透させることができる。
【0019】・・・
【0020】また、杭造成用挿入体を引き抜きながらその先端から固化材を圧入するようにするならば、固化材の注入圧によって固化材を軟弱地盤中に広く浸透させることができる。」

ウ 「【0022】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る地盤改良工法及びそれに用いる杭造成用挿入体の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0023】図1は、本実施形態の地盤改良工法の手順を示したフローチャートである。本実施形態の地盤改良工法においては、同フローチャートにしたがって、まず、軟弱地盤内に該軟弱地盤を押し拡げるようにして図2に示す杭造成用挿入体1を挿入する(ステップ101)。杭造成用挿入体1の挿入に際しては、図示しないオーガマシンなどを使って回転させながら軟弱地盤にねじ込むようにすればよい。
【0024】杭造成用挿入体1は、円筒状に形成された例えば鋼製の中空本体2と、該中空本体の先端に形成された同じく鋼製の円錐状端部3とからなり、中空本体2の外周面には螺旋状突起4を突設するとともに該螺旋状突起の間には通水孔5を形成してある。
【0025】一方、円錐状端部3の先端には固化材吐出口6を形成し、該固化材吐出口に中空本体2内に配設した固化材圧送ホース7を接続してある。また、中空本体2の内面には加熱手段としての電熱ヒータ8を取り付け、図示しない電源に接続することによって中空本体2及びその周囲に拡がる軟弱地盤を加熱することができるようになっている。
【0026】杭造成用挿入体1を軟弱地盤内に押し拡げるようにして挿入すると、図3に示すように、杭造成用挿入体1の押し拡げ作用によって軟弱地盤11内から浸出してきた水が同図矢印に示すように通水孔5を介して中空本体2内に流入し、円錐状端部3の底に溜まる。そして、杭造成用挿入体1の周囲に拡がる軟弱地盤11は、脱水されたことと杭造成用挿入体1の押し拡げ作用によって締め固めが行われた状態となる。
【0027】次に、杭造成用挿入体1の押し拡げ作用による脱水が終了した頃を見計らって、電熱ヒータ8に通電し、中空本体2を加熱する(ステップ102)。
【0028】このようにすると、中空本体2に加えられた熱は、周囲の軟弱地盤11に伝導し、該地盤内の水が蒸発して軟弱地盤11が乾燥固化する。そして、軟弱地盤11は、上述した締め固めと相まってさらに強度が改善される。
【0029】杭造成用挿入体1の周囲に拡がる軟弱地盤11が十分に乾燥固化したならば、今度は、挿入したときと逆方向に杭造成用挿入体1を回転させて少しずつ引き抜きながら、図4に示すように、固化材圧送ホース7を介して固化材であるセメントモルタル21を固化材吐出口6から吐出し、該セメントモルタルを軟弱地盤11内に形成された空間22に充填して図5に示すような杭31を造成する(ステップ103)。
【0030】ここで、空間22の内面には、杭造成用挿入体1の螺旋状突起4の跡が溝23として残っており、かかる溝23は、軟弱地盤11の乾燥固化によっていたるところにクラック24が入っている。
【0031】したがって、固化材吐出口6から吐出されたセメントモルタル21は、空間22に充填されるとともに、その吐出圧力によってクラック24にも浸透し、図5に示すように、クラック24を介してセメントモルタル21が浸透した地盤領域32が地盤改良範囲となる。」

エ 「【0032】以上説明したように、本実施形態に係る地盤改良工法及びそれに用いる杭造成用挿入体1によれば、軟弱地盤11に杭造成用挿入体1を挿入することによって該地盤を押し拡げて脱水及び締め固めを行うとともに、それに引き続いて杭造成用挿入体1の周囲を加熱して乾燥固化させ、かかる状態で、杭造成用挿入体1を少しずつ引き抜きながらセメントモルタル21を軟弱地盤11に形成された空間22内に充填するようにしたので、杭造成用挿入体1が挿入されることによって形成された空間内に図5に示すように杭31を造成することができるとともに、その周りの地盤領域32を、十分に脱水及び乾燥固化させて強度を向上させることができる。また、領域32内では、クラック24を介してセメントモルタル21が広く浸透しているので、該領域内の地盤強度を大幅に増加させることができる。
【0033】すなわち、軟弱地盤11の沈下特性や強度あるいは安定性は、杭造成用挿入体1の挿入空間に造成された杭31によって改善されることはもちろんであるが、それに加えて該杭の周囲に拡がる地盤領域32自体の含水比の低下や締固め及びセメントモルタル21の浸透による強度増加によって、一層改善されることとなる。
【0034】したがって、従来のように多数の杭を造成せずとも、軟弱地盤の沈下特性や強度あるいは安定性を十二分に改善することが可能となる。なお、かかる方法においては、掘削土砂が一切発生しないで、従来のように発生土の処分に労力や手間がかかる懸念がなくなる。
【0035】また、本実施形態によれば、杭造成用挿入体1を引き抜きながらセメントモルタル21を圧入するようにしたので、該セメントモルタルを広い範囲にわたって周辺地盤に浸透させることが可能となり、地盤改良範囲を一層拡げることが可能となる。
【0036】また、本実施形態によれば、杭造成用挿入体1を挿入する際、軟弱地盤11の押し拡げ作用によって該地盤内から浸出した水を該杭造成用挿入体に形成された通水孔5を介して該杭造成用挿入体の中空内部に流入させるようにしたので、軟弱地盤からの浸出水をスムーズに排水して杭造成用挿入体1の周辺に拡がる軟弱地盤を確実に脱水することが可能となる。
【0037】また、本実施形態によれば、杭造成用挿入体1の外周面に螺旋状突起4を突設したので、ねじ込み操作によって杭造成用挿入体1を容易に軟弱地盤11内に挿入することができるのみならず、円筒本体2のみの場合よりも押し拡げ作用を高めて脱水及び締め固め効果を向上させるとともに、杭造成用挿入体1を引き抜いた後に螺旋状突起4の跡として形成される溝23を介してセメントモルタル21を周辺地盤に広く浸透させることが可能となる。」

オ 図2及び図3をみると、中空本体2の外周面には全長に亘って螺旋状突起4が突設されていることが看取できる。

カ 上記アないしオからみて、刊行物1には次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認める。
「円筒状に形成され、外周面には全長に亘って螺旋状突起4を突設した鋼製の中空本体2と、
該中空本体の先端に形成され、中空本体2内に配設した固化材圧送ホース7を接続してある固化材吐出口6を先端に形成した鋼製の円錐状端部3とからなる杭造成用挿入体1を、回転させながらねじ込んで軟弱地盤内に押し拡げるようにして挿入し、
その後、挿入したときと逆方向に杭造成用挿入体1を回転させて少しずつ引き抜きながら、固化材圧送ホース7を介して固化材であるセメントモルタル21を固化材吐出口6から吐出し、該セメントモルタルを、内面に残った杭造成用挿入体1の螺旋状突起4の跡である溝23を含む軟弱地盤11内に形成された空間22に充填して杭31を造成する、
地盤改良工法。」

(2)刊行物2
取消理由通知(決定の予告)で通知した特開2013-234557号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性固化材液置換による小径の杭状補強材の築造に使用する水硬性固化材液置換コラム築造用掘削ロッドの掘削ヘッド及び該掘削ヘッドを接続した掘削ロッドを備える掘削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
戸建住宅や土間スラブの基礎工法として、一般的に深層混合処理工法によるコラム工法が採用されている。このコラム工法は原位置の地盤とセメントスラリーを攪拌混合するため、粘着力の高い粘性土を対象とする場合に共回り現象が発生して混合不良による品質不良が発生したり、有機質土などの地盤の種別によっては固化不良を発生したりするという問題があった。この問題を解決するために、出願人らは先に水硬性固化材液置換コラムの築造方法及び水硬性固化材液置換コラムの施工装置を提案している(特許文献1参照)。
【0003】
この先行技術は、図26に示すように、先端部に掘削ヘッド8を装着した掘削ロッド(掘削オーガともいう)1を、正逆方向への回転が可能なオーガモータ12に取り付け、このオーガモータ12をリーダ11に沿って上下方向に給進可能(進退可能)な施工装置10を用いて行うものである。リーダ11にはスライド板13がリーダ11に沿ってスライド可能に設けられ、オーガモータ12はスライド板13に固着されている。オーガモータ12に取り付けた掘削ロッド1には、オーガモータ12により回転力が付与され、さらにスライド板13をリーダ11に沿って進退(スライド)させることで、オーガモータ12を介し給進力が付与される。
【0004】
図27(a)、(b)、(c)は前記掘削ロッド1の例である。施工装置10のオーガモータ12に挿通可能な小径の取付け用ロッド1bは、図27(a)に示すように、掘削ロッド本体1aに対しアダプター2を介して連結されている。掘削ロッド1は、全長に亘って、標準的に使用される周面が滑らかな円筒体であり、掘削ロッド本体1aの下端部に着脱自在に掘削ヘッド8が装着されている。図27(b)は掘削ロッド本体1aの下方に、スパイラルスクリュー3を有する比較的短尺の径小ロッド1cを設けたものを示す。図27(c)は、掘削ロッド本体1a周面の略全長に亘ってスパイラルスクリュー3が固着された掘削ロッド1を示している。スパイラルスクリュー3は排土機能があれば、連続するものに限らず断続するものでもよい。なお、図27(a)、(b)、(c)に示す掘削ヘッド8は掘削爪18を有する。
【0005】
次に、この先行技術における水硬性固化材液置換コラム築造の具体的な施工手順を、図28について説明する。この施工手順は、図26に示す施工装置10を使用して実施される。
(1)杭心位置合わせ
施工装置10のオーガモータ12に取り付けた掘削ロッド1先端の中心を杭心位置に合わせてセットする(図28(a))。
(2)掘進
掘削ロッド1を回転させながら給進させ、所定深さまで掘削圧入する(図28(b))。
(3)保持または練り返し
掘削ロッド1の先端(掘削ヘッド)が所定深度に達したら、セメントミルク(水硬性固化材液)を掘削ロッド1の掘削ヘッド8の先端部から吐出しながら、一定時間保持若しくは練り返しを行なう(図28(c))。
(4)引き上げ
セメントミルクを吐出しながら掘削ロッド1を引き上げる(図28(d))。
(5)杭頭レベル合わせ
掘削ロッド1を引き上げ、セメントミルク補充等によりコラム天端レベル(杭頭レベル)を所定の位置に合わせる(図28(e))。なお、セメントミルクの補完は、施工終了後に行う場合もある。
(6)終了(図28(f))。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した従来の水硬性固化材液置換コラムの築造に使用する掘削ロッド1の掘削ヘッド8にあっては、図29(a)、(b)、(c)に示すように鋼板を角状や剣状に加工した掘削爪18としているため、次のような課題があることが判明した。
(1)図27(a)に示すような排土機構のない掘削ロッド1を用いて施工するとき、図30に示すように掘削対象地盤Jが砂質土の場合は、掘削爪18位置の掘削土砂を上方へ排除することができない状態で、矢印S方向の押込み力が作用すれば、掘削土砂の矢印R方向へのせん断抵抗力が増大するため、掘削ヘッド8の下方への掘進性が低下するか若しくは掘進不能に陥ることがある。このような事態に陥れば施工は所定深度まで実施することができず、いわゆる高止まりという施工トラブルとなる。
【0012】
(2)水硬性固化材液置換コラムの地盤Jにおける築造深度中に粘性土(層)がある場合は、粘性土が掘削爪18に付着し、図31(a)に示す矢印T方向への掘削ロッド1の引き上げ時に、先端に付着した粘性土Dは置換した水硬性固化材液M中を掘削爪18と一緒に引き上げられる。しかし、掘削ロッド1に施工装置10から衝撃や振動等が加わると、付着した粘性土Dが掘削爪18から剥離して、水硬性固化材液M中に落下して、図31(b)に示すように置換コラムとなる水硬性固化材液M中に残存することがある。このように置換コラム内に粘性土塊Dが残存すると、置換コラムの鉛直支持力が低下することが考えられる。図32は、前記掘削爪18の回転体積に相当する粘性土塊Dを置換コラム底部に故意に堆積させたものと、そうでないものを築造して、押込み載荷試験を実施した結果を示している。置換コラムの仕様は設計外径200mm、長さ6mである。杭頭沈下量が20mmに達したときの載荷重(第2限界抵抗力)は粘性土塊Dなしで193kNであり、底部に粘性土塊Dありで126kNとなり、底部に粘性土塊Dがあると第2限界抵抗力が略3分の2に低下した。
【0013】
本発明は、このような従来の施工深度の高止まりや粘性土の置換コラム底部への堆積による鉛直支持力の低下という課題を解決した水硬性固化材液置換コラム築造用掘削ロッドの掘削ヘッド及び該掘削ヘッドを設けた掘削ロッドを備える掘削装置の提供を第1の目的とする。
また、掘削ロッド下端から漏れる水硬性固化材液の垂れ受けを可能にする水硬性固化材液置換コラム築造用掘削ロッドの掘削ヘッド及び該掘削ヘッドを設けた掘削ロッドを備える掘削装置の提供を第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、従来技術が有する上記欠点を解消するためになされたものであり、請求項1の発明は、水硬性固化材液置換コラム築造用掘削ロッドの掘削ヘッドであって、水硬性固化材液の流路を有する前記掘削ロッド下端部に設けられる、下方に向かって円錐状に突出する円錐ヘッドであり、その円錐ヘッドの周面には、前記流路に通じる水硬性固化材液の吐出口を設けるとともに、掘削ロッド正転時に掘削土砂を上方に押し上げる方向にスパイラル翼を設けたことを特徴とする水硬性固化材液置換コラム築造用掘削ロッドの掘削ヘッドを提供するものである。
請求項2の発明は、請求項1において、前記掘削ヘッドの回転時の最大外径が掘削ロッドの回転径を超えないことを特徴とする水硬性固化材液置換コラム築造用掘削ロッドの掘削ヘッドを提供するものである。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を、図1乃至図25を参照して説明する。
【0034】
図1及び図2は、本実施形態による水硬性固化材液置換コラム築造用掘削ロッドの掘削ヘッドを示す。この水硬性固化材液置換コラム築造用掘削ロッドの掘削ヘッドは、図15に示したものと略同様の掘削ロッド1の掘削ロッド本体1a端に、円錐ヘッド21を連設したものからなる。具体的には、この円錐ヘッド21は、水硬性固化材液の流路22を有し掘削ロッド1の下端部に着脱自在に、または固定的に連結され、下方に向かって突出する円錐部21bの周面に水硬性固化材液の吐出口22aが設けられ、さらに掘削ロッド1の正転時(掘削回転時)に掘削土砂を押し上げるスパイラル翼25を有する構成である。
【0035】
この構成では、掘進施工時において、円錐ヘッド21先端の掘削土砂はスパイラル翼25によって掘削され、かつそのスパイラル翼25に沿って上方へスムースに押し上げられるので、砂質の掘削土砂に対して円錐ヘッド21の良好な掘進性を確保できる。従って、掘削ロッド1は排土機構が全くない周面が円滑な掘削ロッド1であっても比較的良好な掘進性を発揮する。そして前記のように掘削ロッド1自体の周面に図15(b)(c)に示すようなスパイラルスクリュー3を突設したものを使用すれば、さらに掘進性が向上する。
【0036】
また、円錐ヘッド21の主要部が円錐状である。このため、粘性地盤掘進時に円錐ヘッド21に付着する粘性土はスパイラル翼25部分のみであるので、鋼板の掘削爪を使用する従来技術の掘削ヘッドとは異なり、構造的に土塊を形成することはない。また、スパイラル翼25の高さと略同じ厚さの付着土層が形成されたとしても、スパイラル翼25がこれを下方から支えるため、粘性土の付着力と相俟って、その付着土の塊が掘削ヘッド21から剥落することは少ない。この結果、前記砂質地盤での掘進性の高止まりトラブルの解消と、水硬性固化材液中への土塊の落下に伴う置換コラムの支持力不足等を回避できるとともに、掘削土砂での作業現場の汚損、土塊混入によるコラム品質の低下を回避することができる。」

エ 「【0040】
また、前記流路22の上端は水硬性固化材液を掘削ロッド1の外部から供給する供給パイプ5(内管)が連設されている。なお、この供給パイプ5を省いて、掘削ロッド1の中空部内を通して水硬性固化材液を円錐へッド21の流路22に導くようにすることは任意である。さらに、円錐ヘッド21は外周に所定高さの1本のスパイラル翼25が突設されている。このスパイラル翼25は必要に応じて2本以上とすることもあるいは断続的にすることも任意である。このスパイラル翼25は、掘削ロッド1が図15(a)に示すように排土機能がない場合であっても円錐ヘッド21の回転によって、地盤掘削中に円錐面に沿って土砂を上方へ掬い上げ掘削ロッド1の周面で掘削土砂を側方に押し出すため、掘削土が砂質土であっても図30に示すような現象は発生しない。これにより、土砂が砂質土であっても、大きな(過大な)抵抗なく地盤中に推進させることができる。」

オ 「【0042】
ところで、円錐ヘッド21の回転時の最大外径は掘削ロッド1の回転径を超えないようにすることが肝要である。置換柱体であるコラムの外径を規定する孔壁は、掘削ロッド1の外径の回転摺り付け効果により形成される。円錐ヘッド21の回転時の最大外径が掘削ロッド1の回転径を超えると、円錐ヘッド21は掘削ロッド1の最下端にあるため、掘削ロッド1の引き上げ工程で形成した孔壁を削り取ることとなる。このため、削り取られた孔壁土が置換された水硬性固化材液中に残存することとなり、水硬性固化材液の硬化後は削りかすである小土塊がコラム中に含まれることになって、その量が許容値を越えるほどに多量になれば、水硬性固化材液置換コラムの品質不良になる。このため、円錐へッド21の回転時の最大外径は掘削ロッド1の回転径を超えないようにしている。また、後述する図19および図21に示すように円錐ヘッド21を掘削ロッド1の下端に溶接等で固着した場合でも、円錐ヘッド21の上端部21cの外径を掘削ロッド1の外径と略同一にすることにより、孔壁の削り取りを防止でき、以って壁土が水硬性固化材液中に残存することを防止できる。」

カ 「【0050】
以上のように、本実施形態では、水硬性固化材液の流路を有する掘削ロッド1下端部に下方に向かって円錐状に突出する円錐ヘッド21が着脱自在にまたは固定的に連結され、その円錐ヘッド21の周面に水硬性固化材液の吐出口22aを設けるとともに、掘削ロッド1正転時に掘削土砂を上方に押し上げる方向にスパイラル翼25を設けたことで、掘進施工時において掘削土砂はスパイラル翼25によって掘削され、かつそのスパイラル翼25に沿って上方へスムースに押し上げられるので、掘削土砂が砂質土であっても良好な掘進性を確保できる。従って、掘削ロッド1が排土機構が全くない、周面が円滑な掘削ロッド1であっても比較的良好な掘進性を発揮する。掘削ロッド1自体の周面にスパイラルスクリューを突設したものを使用すれば、さらに掘進性が向上する。」

キ 「【0052】
図15(a)(b)(c)は、掘削ヘッドとして前記したような円錐ヘッド21を接続した掘削ロッド1を示す正面図である。図15(a)に示す掘削ロッド1は、円柱状で側面(周面)が平坦(円滑)な掘削ロッド本体1aの上方部に、掘削装置に取り付ける取付け用ロッド1bがアダプター2を介して取り付けられて形成され、掘削ロッド本体1aの下端に掘削ヘッドとして円錐ヘッド21が接続されたものである。例えば、この円錐ヘッド21は、図2及び図3に示すと同様に継手40を介して掘削ロッド本体1aに接続されている。円錐ヘッド21の回転時の最大外径及び継手40の外径は、掘削ロッド本体1aの外径と等しいか、それ以下である。この掘削ロッド1は、掘削ロッド本体1aが円柱状で側面が平坦(円滑)であり、回転しても排土機構がないため、掘削土砂を排土することができず、側方へ移動させる機能を有するのみである。
【0053】
図15(b)に示す掘削ロッド1は、排土機構のない側面(周面)が平坦(円滑)な掘削ロッド本体1aの下方部に、外径が該掘削ロッド本体1aと同径か少し径小であり、かつ正転時に掘削土砂を上方に押し上げる方向のスパイラルスクリュー3を有する比較的短尺のスパイラルロッド1cが連結され、該スパイラルロッド1cの下端に、掘削ヘッドとしての円錐ヘッド21を着脱自在に接続したものである。スパイラルロッド1cは、継手を介し掘削ロッド本体1aと着脱自在に接続されている。このスパイラルロッド1cは比較的短尺であるため、円錐ヘッド21または掘削ロッド本体1aと一体的に結合し、着脱不可の構造としてもよい。この図15(b)に示す掘削ロッド本体1aも、円柱状で側面が平坦であり、回転しても排土機構がないため掘削土砂を排土することはできず、側方へ移動させる機能を有するのみである。また、スパイラルロッド1cと円錐へッド21とを一体に連結することは任意である。
【0054】
図15(c)に示す掘削ロッド1は、側面の略全長に亘って正転時に掘削土砂を上方に押し上げる方向のスパイラルスクリュー3が設けられた掘削ロッド本体1aの下端に、掘削ヘッドとして円錐ヘッド21を接続したものである。この掘削ロッド1は、掘削ロッド本体1aの略全長に亘りスパイラルスクリュー3が設けられているので、排土機能を有する。」

ク 「【図31】粘性土に対する掘削ヘッドの作用状態を示す説明図(a)(b)である。」(段落【0032】)ところ、図31(a)には、掘削ロッド1が回転していることが矢印により示されており、また、上記イの段落【0012】には、「図31(a)に示す矢印T方向への掘削ロッド1の引き上げ時に、」と記載されていることからみて、図31(a)から、掘削ロッド1は、回転しながら引き上げられることが看取できる。

ケ 上記イの段落【0011】?【0012】の記載によれば、従来の水硬性固化材液置換コラムの築造に使用する掘削ロッド1の掘削ヘッド8にあっては、鋼板を角状や剣状に加工した掘削爪18としていることによる課題が存在し、同じく段落【0013】?【0014】の記載によれば、該課題を解決するために、掘削ヘッドとして円錐ヘッドを採用することが理解できる。
してみると、刊行物2に記載された発明は、上記アの先行技術における水硬性固化材液置換コラム築造の具体的な施工手順において、掘削ヘッド8を円錐ヘッド21に替えたものといえる。

コ 上記アないしケからみて、刊行物2には次の発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されているものと認める。
「水硬性固化材液の流路22を有し、下方に向かって突出する円錐部21bの周面に水硬性固化材液の吐出口22aが設けられ、さらに正転時(掘削回転時)に掘削土砂を押し上げるスパイラル翼25を有する構成である円錐ヘッド21を、掘削ロッド本体1a端に連設した掘削ロッド1を、回転させながら給進させ、所定深さまで掘削圧入し、
掘削ロッド1の先端(掘削ヘッド)が所定深度に達したら、セメントミルク(水硬性固化材液)を掘削ロッド1の円錐ヘッド21の先端部から吐出しながら、一定時間保持若しくは練り返しを行ない、
セメントミルクを吐出しながら掘削ロッド1を回転しながら引き上げるものであって、
上記掘削ロッド1は、排土機構のない側面(周面)が平坦(円滑)な掘削ロッド本体1aの下方部に、外径が該掘削ロッド本体1aと同径か少し径小であり、かつ正転時に掘削土砂を上方に押し上げる方向のスパイラルスクリュー3を有する比較的短尺のスパイラルロッド1cが連結されたものである、
水硬性固化材液置換コラムの築造方法。」

(3)刊行物3
取消理由通知(決定の予告)で通知した特開平4-20613号公報(以下「刊行物3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「[産業上の利用分野]
この発明は、地上構造物の基礎をなす場所打ち杭の施工方法及びその装置に係わり、特に、同じ効果の場所打ち杭に比して、排土量及びコンクリート量が少なくてすみ、また、対地摩擦抵抗を大にすることの出来る場所打ち杭の施工方法及びその装置に関する。」(1頁左下欄16行?右下欄2行)

イ 「[問題点を解決するための手段]
この目的を達成するためにこの発明は、所定の長さを有するケーシングを地盤中に打設し、該ケーシングを除去した後の空間にコンクリートを打設してなす場所打ち杭の施工方法において、底部先端付近に突起体を有するケーシングを所定の深さに回転打設した後該ケーシングを除去しコンクリートを打設することを特徴としている。また、場所打ち杭の施工方法においては、地盤中に打設する所定の長さを有するケーシングの底部先端付近に突起体を設けたことを特徴としている。
[作用]
上記装置による施工方法によると、底部先端付近に突起体を有するケーシングを所定の深さで回転し、打設するようにしたので、該工法によって成型される場所打ち杭の形状が所定の形状を持つリング部を備えた円柱状に成型され、従って、単純な円柱状の杭に比して対地摩擦力が増大した。」(2頁左上欄8行?右上欄5行)

ウ 「[実施例]
以下本発明にかかる場所打ち杭の施工方法及びその装置を図面を参照して詳細に説明する。
第1図は本発明に基づくケーシングの一実施例図、第2図には第1図に示したケーシングに於ける矢示部AAの断面図を示している。また、第3図及至第4図は本発明に基づく施工方法によって成型された場所打ち杭の外形を示した外形形状例図である。
第1図において、(A)図はケーシングの上面図、(B)図は側面図である。図において、2はケーシング本体をなす円筒であって、4は円筒2の先端部に設けた突起体である。突起体4のAA断面における形状を第2図に示す。」(2頁右上欄6?19行)

エ 「次に、第1図、第2図で示したケーシングによる施工方法と施工された後の杭の形状を第3図、第4図によって説明する。
第1図で示したケーシングを所定の場所に垂直に保持し、所定の深さに打ち込んだ後、水平に360度旋回させ、再び所定の深さに打ち込んで水平に360度旋回させる。上述の工程を所定の回数繰返し、土砂を排除した後ケーシングを引き抜き、鉄筋を固定した後コンクリートを打ち込んで該工程を完了する。
上述の工程によって成型された杭の一例を第3図に示す。
第3図において、(A)図は上面図、(B)図は側面図である。図において、22は第1図で示した円筒2によって成型された円柱部であって、24は突起体4によって成型されたリング部である。図において、a部は突起体4を垂直に打ち込むときに成型される箇所である。また、b、c、d、e、f、g部は、それぞれ、該ケーシングを所定の深さに打ち込み旋回させることを繰り返した後に成型された上述した複数のリング部24である。」(2頁左下欄19行?右下欄末行)

オ 「また、上述の説明ではケーシングを打ち込む過程で旋回するように説明したが、引き抜く過程で旋回させても良い。つまり、ケーシングたる円筒2を杭の要求深さまで打ち込み、土砂を排除して鉄筋を入れた後、ケーシングを所定の深さだけ引き抜いて水平に360度旋回させ、ケーシングを引き抜いた所定深さだけコンクリートを打ち込み、再び、ケーシングを所定深さだけ引き抜いて水平に360度旋回させ、ケーシングを引き抜いた所定深さだけコンクリートを打ち込む、という工程を地表に達するまで繰返して杭を成型することもできる。」(3頁左上欄16行?右上欄7行)

(4)刊行物4
取消理由通知(決定の予告)で通知した特開2014-1545号公報(以下「刊行物4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は小規模建築物や戸建住宅等の建築物や土間スラブの基礎工法としてのソイルセメント柱状体と水硬性固化材液置換柱状体を合成した合成置換コラムとその築造装置および築造方法に関する。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年は環境問題が社会問題となり、建設工事における排土が環境に負荷を与えるとして、排土量(発生土量)の多い基礎工法は施工費が低コストであっても忌避されるようになってきた。特許文献1に示す従来技術では、側面が平坦な掘削ロッドを使用することにより、ほとんど無排土で置換コラムを築造することができるため、そのタイプが採用される例が増えてきた。
しかしながら、戸建住宅基礎用の小型施工機により、排土機能のない側面が平坦な掘削ロッドでは地盤の掘進抵抗が大きいため、置換コラムを築造できるコラム径は大きくとも20?30cm程度であり、大径化することは困難であった。そのため、従来の置換コラム技術では、置換コラムの材料強度から決まる支持力と、地盤から決まる置換コラムの鉛直支持力がアンバランスであった。つまり、外径が小さな置換コラムは地盤の支持力が相対的に小さく、一方、置換コラムは純粋な水硬性固化材液で構成されており、その強度は一般のソイルセメントより格段に大きいので材料強度から決まる鉛直支持力が相対的に大きくなり、結果的に地盤から決まる支持力と材料強度から決まる支持力が大きくかけ離れてアンバランスとなり、不経済な状態であった。言い換えると、置換コラムの優れた材料強度を有効に活用することができていなかった。
本発明は、地盤から決まる支持力と材料強度から決まる支持力のバランスを従来技術のそれよりも調和させることにより、具体的には従来技術による置換コラムの地盤支持力をより大きくするための、より合理的でかつ経済的な合成置換コラムとその築造装置および築造方法を提供するものである。」

ウ 「【0021】
ソイルセメント柱状体2aは、原位置地盤と水硬性固化材液を撹拌混合することにより造成されるが、その品質は、特に一軸圧縮強度は原位置地盤の土質に依存するため、深度方向に土質が変化する地盤や同一土質でも深度によって土質組成がばらつくような場合には、ソイルセメント柱状体2aの品質もばらつくという欠点がある。一方、水硬性固化材液柱状体3aは、原位置地盤との撹拌混合は行われないため、硬化後の品質が高品質で安定しているという特徴がある。しかし、ソイルセメント柱状体2aのように原地盤を撹拌混合しないので、水硬性固化材液置換柱状体3aは全て水硬性固化材液で構成されているため、コストに占める材料費が大きくなる。そのため、水硬性固化材液置換柱状体3aは経済的な理由もあって大径化が困難であった。それに起因して、水硬性固化材液置換柱状体3aは比較的小径であるために周面積もまた小さいので、地盤の周面支持力も小さくなる。そのため、地盤から決まる支持力と材料強度から決まる支持力がアンバランスとなり、材料強度を有効にすることができなかった。
然るに、本発明に係る前記合成置換コラム1は、水硬性固化材液置換柱状体3aの周囲に同心円状にソイルセメント柱状体2aを配置しているため、地盤の周面支持力は水硬性固化材液置換柱状体3aよりも外径の大きなソイルセメント柱状体2aの側面に生ずるので、面積効果で周面支持力が大きくなる。図2(a)は、水硬性固化材液置換コラム3aの正面図で、(b)は合成置換コラム1の正面図であり、地盤の周面摩擦力度tが同一であっても、小径の水硬性固化材液置換コラム3aが発揮する周面支持力Paより大径の合成置換コラム1のソイルセメント柱状体2aの周面支持力Pbの方が大きいことがよく理解できる。従って、ソイルセメント柱状体2aと水硬性固化材液置換柱状体3aとを同一軸心上で合成した合成置換コラム1にすることにより、大径のソイルセメント柱状体2aの周面積効果で周面支持力が増大する。ソイルセメント柱状体2aの外径を適宜選択することにより、合成置換コラム1の地盤から決まる支持力と材料強度から決まる支持力をバランスさせることが可能になり、高品質で安定した品質の合成置換コラムの性能を十二分に発揮させることができる合理的な基礎コラムを提供することができる。」

エ 「【0026】
図5(a)に示す合成置換コラム築造装置10Aは、内部に水硬性固化材液の流路を有する軸部11と、該軸部11の上端に掘削ロッド20を接続する継手部12と、軸部11の下端に連結する掘削ヘッド13と、軸部11の側面に固設した撹拌翼16とを備える。
軸部11は、連結する掘削ロッド20と同外径であり、その軸部11の下端には継手部(図示省略)を有し掘削ヘッド13が連結されている。該掘削ヘッド13は、下向きの円錐状(円錐形又は円錐台形)であり、側面には水硬性固化材液の吐出口14が設けられている。軸部11内には水硬性固化材液の流路が設けられ吐出口14に連通しており、掘削ロッド20内の流路により供給された水硬性固化材液は、軸部11の流路を介し吐出口14より吐出される。この吐出口14には掘削土砂の逆流入を防ぐ逆止弁(図示省略)が設置される。この逆止弁は、固定式でも着脱自在であってもよい。
また、円錐状の掘削ヘッド13の外周面には、掘削ロッド20が正回転時に掘削土砂を上方へ押し上げる向きのスパイラル翼15が固着されている。このスパイラル翼15の最大回転径は、軸部11の外径Dを超えない大きさである。」

オ 「【0030】
前記合成置換コラム築造装置10Aを用い、掘進時に吐出口14から水硬性固化材液を吐出しつつ回転すれば、軸部11側面に固設された撹拌翼16により原地盤土と攪拌混合され、掘進の進行と共に掘削ロッド20の周囲にソイルセメント部が形成される。所定深度に達してから、該吐出口14からの水硬性固化材液の吐出を継続しながら該築造装置10Aを引き上げれば、ソイルセメント部は撹拌翼16により再攪拌され混合度が向上するとともに、該築造装置10Aの最下段の撹拌翼16から下方に突出している軸部11の側面による練り付け効果によりソイルセメント中に軸部11の径Dと略同一径の孔を形成する、と同時に該孔は水硬性固化材液で満たされ、ソイルセメントと水硬性固化材液が硬化すれば合成置換コラムとなる。つまり、合成置換コラム築造装置10Aを使用することにより、掘進・引き上げの一工程でソイルセメント柱状体2aと水硬性固化材液置換柱状体3aを合成した合成置換コラム1を築造することができる。」

カ 「【0042】
次に、本発明に使用する掘削ロッドの例を図8(a)(b)(c)に示す。掘削ロッド20は、図示しない施工機のオーガモータに接続可能な外径を有する施工機用ロッド部22と、水硬性固化材液置換部を形成する比較的大径(スパイラルスクリューの場合はその外径)で、下端に合成置換コラム築造装置を接続するロッド本体部21と、それらを接続するアダプター23からなる。
図8(a)は、側面が平坦な平坦ロッド20aで掘削ヘッド13により掘削した掘削土砂を地上に排出する働きがないため、本ロッド20aを使用して施工した場合は、発生残土が最も少ない。
図8(b)は、ロッド本体部21の側面に連続スパイラルスクリュー25を固設した掘削ロッド20bであり、掘削ヘッド13により掘削した掘削土砂を地上に排出する働きが大きいため、掘進性に最も優れているが、反面、本ロッド20bを使用して施工した場合は、発生残土が最も多い。
図8(c)は、ロッド本体部21の側面に断続スパイラルスクリュー25aを固設した掘削ロッド20cであり、掘削ヘッド13により掘削した掘削土砂を地上に排出する働きを、(b)の連続スパイラルスクリュー25を有する掘削ロッド20bよりも低下させ、掘進性と発生残土量とのバランスを改善しようとするもので、本ロッド20cを使用して施工した場合は、掘進性および発生残土がともに(a)と(b)の中間になる。」

キ 「【実施例1】
【0052】
図11(a)は、本発明に係る合成置換コラム築造装置の実施例1を示す正面図である。この実施例1の合成置換コラム築造装置10Bは、図5(b)に示す合成置換コラム築造装置10Bと同じ構成であり、外径216mmの軸部11には、軸部11の下端から上方500mmの位置より上方に2段4枚の回転外径400mmの撹拌翼16が突設され、その2段の撹拌翼16、16の中間に回転外径500mmの共回り防止翼17が回転自在に設けられており、軸部11の下端には掘削ヘッド13が連結されている。撹拌翼16は水平軸に対して30度の勾配を有し、幅(高さ)は80mm、2段の撹拌翼16と16の間隔240mm、共回り防止翼17の幅(高さ)70mm、撹拌翼16と共回り防止翼17の間隔は45mmである。この合成置換コラム築造装置10Bが、外径216mmの掘削ロッド20に連結されている。」

ク 上記アないしキからみて、刊行物4には、次の発明(以下「刊行物4発明」という。)が記載されているものと認める。
「内部に水硬性固化材液の流路を有する軸部11と、該軸部11の上端に掘削ロッド20を接続する継手部12と、軸部11の下端に連結され、側面には水硬性固化材液の吐出口14が設けられた掘削ヘッド13と、軸部11の側面に固設され、水平軸に対して30度の勾配を有し、幅(高さ)は80mmの2段4枚の撹拌翼16とを備え、掘削ロッド20内の流路により供給された水硬性固化材液は、軸部11の流路を介し吐出口14より吐出される、合成置換コラム築造装置10Aを用い、
掘進時に吐出口14から水硬性固化材液を吐出しつつ回転すれば、軸部11側面に固設された撹拌翼16により原地盤土と攪拌混合され、掘進の進行と共に掘削ロッド20の周囲にソイルセメント部が形成され、所定深度に達してから、該吐出口14からの水硬性固化材液の吐出を継続しながら該築造装置10Aを引き上げれば、ソイルセメント部は撹拌翼16により再攪拌され混合度が向上するとともに、軸部11の側面による練り付け効果によりソイルセメント中に軸部11の径Dと略同一径の孔を形成する、と同時に該孔は水硬性固化材液で満たされ、ソイルセメントと水硬性固化材液が硬化すれば合成置換コラムとなるものであって、
側面が平坦な平坦ロッド20aを使用して施工した場合は、掘削ヘッド13により掘削した掘削土砂を地上に排出する働きがないため、発生残土が最も少ない、
ソイルセメント柱状体と水硬性固化材液置換柱状体を合成した合成置換コラムの築造方法。」


5 対比・判断
(1)請求項1に係る発明について
ア 刊行物1を主引用例として検討
本件発明1と刊行物1発明を対比する。
(ア)刊行物1発明の「固化材であるセメントモルタル21」、「固化材圧送ホース7」、「中空本体2」、「固化材吐出口6」、「円錐状端部3」、「空間22」は、それぞれ本件発明1の「水硬性固化材液」、「水硬性固化材液の流路」、「掘削ロッド」、「水硬性固化材液の吐出口」、「掘削ヘッド」、「掘削孔」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「螺旋状突起4」は、中空本体2の外周面の全長に亘って突設されていることから、中空本体2の下方部側面に外方に向かって突設していることは明らかである。よって、刊行物1発明の「中空本体2」の「外周面には全長に亘って螺旋状突起4を突設」したことは、本件発明1の「掘削ロッドの下方部側面に少なくとも1個の地盤切削翼を外方に向かって突設した」ことに相当する。

(ウ)刊行物1発明は、「杭造成用挿入体1を、回転させながらねじ込んで軟弱地盤内に押し拡げるようにして挿入し、」「セメントモルタルを」「軟弱地盤11内に形成された空間22に充填して杭31を造成する」ものであるから、セメントモルタルを、原位置の地盤と混合するものではなく、該地盤と置換するものといえる。よって、刊行物1発明の「杭造成用挿入体1」は、本件発明1の「水硬性固化材液置換コラム築造装置」に相当する。
また、同様の理由により、刊行物1発明の「地盤改良工法」は、本件発明1の「水硬性固化材液置換コラム築造方法」に相当する。

(エ)刊行物1発明の「挿入したときと逆方向に杭造成用挿入体1を回転させて少しずつ引き抜きながら、固化材圧送ホース7を介して固化材であるセメントモルタル21を固化材吐出口6から吐出し、該セメントモルタルを、内面に残った杭造成用挿入体1の螺旋状突起4の跡である溝23を含む軟弱地盤11内に形成された空間22に充填して杭31を造成する」ことは、本件発明1の「少なくとも掘削ロッドの引き上げ時に、掘削ヘッドの吐出口より水硬性固化材液を吐出しつつ掘削ロッドを回転させながら引き上げ、該掘削孔および地盤切削翼での切削部分を水硬性固化材液で充填すること」に相当する。

(オ)上記(ア)ないし(エ)からみて、本件発明1と刊行物1発明とは、
「水硬性固化材液の流路を有する掘削ロッドの下端部に、該流路に通ずる水硬性固化材液の吐出口を有する掘削ヘッドを接続し、該掘削ロッドの下方部側面に少なくとも1個の地盤切削翼を外方に向かって突設した水硬性固化材液置換コラム築造装置を用い、掘削ロッドを回転しつつ地盤の所定深度まで掘進し、その後掘削ロッドを回転しつつ引き上げ、少なくとも掘削ロッドの引き上げ時に、掘削ヘッドの吐出口より水硬性固化材液を吐出しつつ掘削ロッドを回転させながら引き上げ、該掘削孔および地盤切削翼での切削部分を水硬性固化材液で充填することを特徴とする水硬性固化材液置換コラム築造方法。」で一致し、相違点は存在しない。

イ 刊行物2を主引用例として検討
本件発明1と刊行物2発明を対比する。
(ア)刊行物2発明の「セメントミルク(水硬性固化材液)」、「水硬性固化材液の流路22」、「掘削ロッド本体1a」と「スパイラルロッド1c」、「水硬性固化材液の吐出口22a」、「円錐ヘッド21」は、それぞれ本件発明1の「水硬性固化材液」、「水硬性固化材液の流路」、「掘削ロッド」、「水硬性固化材液の吐出口」、「掘削ヘッド」に相当する。

(イ)刊行物2発明の「スパイラルスクリュー3」は、掘削ロッド本体1aの下方部に連結されたスパイラルロッド1cに設けられていることから、刊行物2発明の「スパイラルスクリュー3」は、本件発明1の「地盤切削翼」に相当し、刊行物2発明の「掘削ロッド本体1a」と「スパイラルロッド1c」を合わせたものは、本件発明1の「掘削ロッドの下方部側面に少なくとも1個の地盤切削翼を外方に向かって突設した」ものに相当する。

(ウ)刊行物2発明の「掘削ロッド1」は、「スパイラルスクリュー3を有する比較的短尺のスパイラルロッド1c」が連結されているものの、「掘削ロッド1」の主体となる「掘削ロッド本体1a」は、「排土機構のない側面(周面)が平坦(平滑)な」ものである。
そして、「排土機構のない側面(周面)が平坦(平滑)」なものであれば、「回転しても排土機構がないため、掘削土砂を排土することができず、側方へ移動させる機能を有する」(上記4(2)キ【0052】参照。)ものといえるから、刊行物2発明は、セメントミルクを原位置の地盤と混合する機能よりも、該地盤と置換する機能を主体とするものといえる。よって、刊行物2発明の「掘削ロッド1」は、本件発明1の「水硬性固化材液置換コラム築造装置」に相当する。
また、同様の理由により、刊行物2発明の「水硬性固化材液置換コラムの築造方法」は、本件発明1の「水硬性固化材液置換コラム築造方法」に相当する。

(エ)刊行物2発明において、スパイラルロッド1cにはスパイラルスクリュー3が設けられていることから、スパイラルロッド1cのスパイラルスクリュー3以外の部分により掘削孔が形成され、スパイラルスクリュー3により掘削孔の周囲に切削部分が形成されることは明らかである。
よって、該掘削孔と切削部分との位置関係を参酌すれば、刊行物2発明の「掘削ロッド1の先端(掘削ヘッド)が所定深度に達したら、セメントミルク(水硬性固化材液)を掘削ロッド1の円錐ヘッド21の先端部から吐出しながら、一定時間保持若しくは練り返しを行ない、セメントミルクを吐出しながら掘削ロッド1を回転しながら引き上げる」ことは、本件発明1の「少なくとも掘削ロッドの引き上げ時に、掘削ヘッドの吐出口より水硬性固化材液を吐出しつつ掘削ロッドを回転させながら引き上げ、該掘削孔および地盤切削翼での切削部分を水硬性固化材液で充填すること」に相当する。

(オ)上記(ア)ないし(エ)からみて、本件発明1と刊行物2発明とは、
「水硬性固化材液の流路を有する掘削ロッドの下端部に、該流路に通ずる水硬性固化材液の吐出口を有する掘削ヘッドを接続し、該掘削ロッドの下方部側面に少なくとも1個の地盤切削翼を外方に向かって突設した水硬性固化材液置換コラム築造装置を用い、掘削ロッドを回転しつつ地盤の所定深度まで掘進し、その後掘削ロッドを回転しつつ引き上げ、少なくとも掘削ロッドの引き上げ時に、掘削ヘッドの吐出口より水硬性固化材液を吐出しつつ掘削ロッドを回転させながら引き上げ、該掘削孔および地盤切削翼での切削部分を水硬性固化材液で充填することを特徴とする水硬性固化材液置換コラム築造方法。」で一致し、相違点は存在しない。

ウ 刊行物4を主引用例として検討
本件発明1と刊行物4発明を対比する。
(ア)刊行物4発明の「水硬性固化材液」、「水硬性固化材液の流路」、「水硬性固化材液の吐出口14」、「軸部11」及び「掘削ロッド20」、「掘削ヘッド13」は、それぞれ本件発明1の「水硬性固化材液」、「水硬性固化材液の流路」、「水硬性固化材液の吐出口」、「掘削ロッド」、「掘削ヘッド」に相当する。

(イ)刊行物4発明の「撹拌翼16」は、「軸部11の側面に固設され、水平軸に対して30度の勾配を有し、幅(高さ)は80mmの2段4枚の」ものであって、「原地盤土と攪拌混合」するものであるから、刊行物4発明の「撹拌翼16」は、本件発明1の「地盤切削翼」に相当する。

(ウ)刊行物4発明において、「側面が平坦な平坦ロッド20aを使用して施工した場合は、掘削ヘッド13により掘削した掘削土砂を地上に排出する働きがないため、発生残土が最も少ない」ことから、該平坦なロッド20aを使用して施工した場合に使用された「合成置換コラム築造装置10A」と、該装置10Aを使用した方法である「合成置換コラムの築造方法」は、それぞれ、本件発明1の「水硬性固化材液置換コラム築造装置」、「水硬性固化材液置換コラム築造方法」にそれぞれ相当する。

(エ)刊行物4発明の「所定深度に達してから、該吐出口14からの水硬性固化材液の吐出を継続しながら該築造装置10Aを引き上げれば、ソイルセメント部は撹拌翼16により再撹拌され混合度が向上するとともに、軸部11の側面による塗り付け効果によりソイルセメント中に軸部11の径Dと略同一径の孔を形成する、と同時に該孔は水硬性固化材液で満たされ、ソイルセメントと水硬性固化材液が硬化すれば合成置換コラムとなる」ことは、本件発明1の「その後掘削ロッドを回転しつつ引き上げ、少なくとも掘削ロッドの引き上げ時に、掘削ヘッドの吐出口より水硬性固化材液を吐出しつつ掘削ロッドを回転させながら引き上げ、該掘削孔および地盤切削翼での切削部分を水硬性固化材液で充填すること」に相当する。

(オ)上記(ア)ないし(エ)からみて、本件発明1と刊行物4発明とは、
「水硬性固化材液の流路を有する掘削ロッドの下端部に、該流路に通ずる水硬性固化材液の吐出口を有する掘削ヘッドを接続し、該掘削ロッドの下方部側面に少なくとも1個の地盤切削翼を外方に向かって突設した水硬性固化材液置換コラム築造装置を用い、掘削ロッドを回転しつつ地盤の所定深度まで掘進し、その後掘削ロッドを回転しつつ引き上げ、少なくとも掘削ロッドの引き上げ時に、掘削ヘッドの吐出口より水硬性固化材液を吐出しつつ掘削ロッドを回転させながら引き上げ、該掘削孔および地盤切削翼での切削部分を水硬性固化材液で充填することを特徴とする水硬性固化材液置換コラム築造方法。」で一致し、相違点は存在しない。
したがって、本件発明1は、刊行物4に記載された発明である。

エ 特許権者の主張について
(ア)特許権者は、令和元年7月11日付け意見書において、甲第1号証及び甲第2号証(刊行物1及び2)に対して、以下のとおり主張している。

本件発明の「掘削ロッドの下方部側面に少なくとも1個の地盤掘削翼を外方に向かって突設」した構成と「外周面には全長に亘って螺旋状突起4を突設」した構成を同一視することは間接的で飛躍があります。
「外周面には全長に亘って螺旋状突起4を突設」したことと「掘削ロッドの下方部側面に少なくとも1個の地盤掘削翼を外方に向かって突設」したことは発明としての具体的な構成が全く異なります。
甲1発明から、本件発明1の構成の「掘削ロッドの下方部側面」「少なくとも1個」「地盤掘削翼」「外方に向かって突設」した具体的な構成を想起することはできません。
このことは、甲2発明の「スパイラルスクリュー」が本件発明の「掘削ロッドの下方部側面に少なくとも1個の地盤切削翼を外方に向かって突設」したことに相当する、とした認定も同様です。
さらに、「螺旋状突起4」及び「スパイラルスクリュー」と「地盤切削翼」は実際の作用効果も異なります。作用効果上は螺旋状突起4およびスパイラルスクリューは掘進性機能が優先されますが、地盤切削翼では原地盤と固化材との撹拌混合が有効に行われます。

(イ)また、令和元年10月25日付け意見書において、甲第1号証及び甲第2号証(刊行物1及び2)に対して、以下aのとおり、刊行物4に対して、以下bのとおり主張している。

a 本件発明1と刊行物1発明が同一であるとの認定には飛躍があると思料します。前回の意見書で述べた通り、刊行物1発明の「外周面には全長に亘って螺旋状突起4を突設」したことと本願発明1の「掘削ロッドの下方部側面に少なくとも1個の地盤切削翼を外方に向かって突設した」ことは方法の発明を構成する具体的な工程が全く異なります。同一の工程とは言えないと思料します。
さらに、仮に本件発明と刊行物1発明とに相違点が存在するとしても、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、との認定理由も定かではありません。進歩性の判断において、刊行物1に記載された「螺旋状突起4」から全く異なる本件発明1の「地盤切削翼」を当業者が容易に想起するでしょうか?
前記の事実は、本件発明1の「地盤切削翼」と刊行物2発明の「スパイラルスクリュー3」とが同一であるとする認定も同様です。さらに、本件発明1は刊行物2発明に基づいて当業者が容易に発明をできたものであるとの認定理由も定かではありません。進歩性の判断として、刊行物2に記載された「スパイラルスクリュー3」から全く異なる本件発明1の「地盤切削翼」を当業者が容易に想起するでしょうか?

b 該刊行物4には「少なくとも2枚の撹拌翼」、「撹拌翼は1段の2枚でもソイルセメント柱状体は形成されるが経験的に2段、4枚以上が好ましい。」などの記載があります。刊行物4では本件発明の「地盤切削翼」と異なる「撹拌翼」の語が用いられています。そして、「軸部には回動自在に装着された共回り防止翼を有し、該共回り防止翼の回転径は撹拌翼のそれよりも大きく、かつ該撹拌翼固設位置近傍に設置している」とされており、本件発明の「地盤切削翼」とは具体的な構成が異なります。

(ウ)上記(ア)及び(イ)aの主張について検討する。
本件発明1の「地盤切削翼」は、その形状について、本件明細書に記載されたような「板状や棒状の突出翼」(段落【0027】)との限定がない。そして、螺旋状突起やスパイラルスクリューとの語句についてみても、一般的にこれらの語句と「翼」とを組み合わせて部材名を構成することもあるから、本件発明1の「地盤切削翼」は、スクリュー形状のものも含んでいると認められる。
また、その個数及び位置についても、「少なくとも1個」及び「下方部」と特定する程度であるから、本件発明1の「地盤切削翼」は、下方部以外にも設けること、つまり全長に亘って連続的に設けている態様を排除するものではない。
さらに、刊行物1発明の「螺旋状突起4」や刊行物2発明の「スパイラルスクリュー」も、連続したものではあるが、本件発明1の「地盤切削翼」のように「側面に」「外方に向かって突設」していることに代わりはなく、また、少なくとも、地盤を切削し撹拌する機能を多少なりとも備えることは自明である。
よって、本件発明1の「地盤切削翼」と、刊行物1発明の「螺旋状突起4」や刊行物2発明の「スパイラルスクリュー」とは、その構造及び機能の違いは見いだせないから、上記意見書での主張は採用できない。
なお、請求人は、「地盤切削翼では原地盤と固化材との撹拌混合が有効に行われます。」とも主張しているが、掘削ロッドの引き上げ時に水硬性固化材液を吐出しても、吐出口と地盤切削翼の上下方向の位置関係からみて、撹拌混合が行われることはない。

(エ)また、上記(イ)bの主張について検討すると、刊行物4発明の「撹拌翼」は、「軸部11の側面に固設され、水平軸に対して30度の勾配を有し、幅(高さ)は80mmの2段4枚」との構成であって、「原地盤土と攪拌混合」する機能を有するものであるから、本件発明1の「地盤切削翼」と同様の構成及び機能を備えるものである。また、刊行物4発明が「共回り防止翼」を備えることによって、「撹拌翼」の構成や機能を変化させるものでもないから、特許権者の主張は採用できない。

オ 以上のとおり、本件発明1は、刊行物1発明、刊行物2発明または刊行物4発明と同一であるから、刊行物1、刊行物2または刊行物4に記載された発明である。

カ 仮に、本件発明1の「地盤切削翼」と、刊行物1発明の「螺旋状突起4」及び刊行物2発明の「スパイラルスクリュー3」とが相違するとしても、刊行物3の記載(「突起体4」参照。)からみて、本件発明1は、刊行物1発明または刊行物2発明、及び刊行物3に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)請求項2に係る発明について
ア 刊行物4発明の「掘進時に吐出口14から水硬性固化材液を吐出しつつ回転すれば、軸部11側面に固設された撹拌翼16により原地盤土と攪拌混合され、掘進の進行と共に掘削ロッド20の周囲にソイルセメント部が形成され」ることは、本件発明2の「前記掘削ロッドを回転しつつ地盤の所定深度までの掘進時に掘削ヘッドの吐出口より水硬性固化材液を吐出すること」に相当する。
よって、本件発明2は、刊行物4に記載された発明である。

イ 刊行物1発明または刊行物2発明に、上記アで挙げた刊行物4発明の構成を適用することにより(さらに、必要に応じて刊行物3に記載の発明も適用することにより)、本件発明2とすることは、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ なお、本件特許明細書の段落【0028】には「水硬性固化材液の吐出は、掘削ロッド1aの引き上げ時だけでなく、掘進時にも吐出する方が地盤強化のために好ましい。」と記載されているが、どのような作用で地盤強化されるのか不明であるから、本件発明2が各刊行物記載の発明から予測できない顕著な作用効果を有するとは認められない点を付言する。


6 むすび
以上のとおり、請求項1に係る発明は、刊行物1、刊行物2または刊行物3に記載された発明であるか、または、刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項、または、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
また、請求項2に係る発明は、刊行物4に記載された発明であるか、または、刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項、または、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1、2に係る特許は、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-11-13 
出願番号 特願2014-145652(P2014-145652)
審決分類 P 1 651・ 121- Z (E02D)
P 1 651・ 113- Z (E02D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 亀谷 英樹  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 住田 秀弘
大塚 裕一
登録日 2018-08-10 
登録番号 特許第6380790号(P6380790)
権利者 株式会社日本住宅保証検査機構 株式会社テノックス
発明の名称 水硬性固化材液置換コラムの築造方法  
代理人 清水 定信  
代理人 清水 定信  

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