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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23D
管理番号 1358659
異議申立番号 異議2019-700596  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-29 
確定日 2020-01-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6504814号発明「油脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6504814号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6504814号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成26年12月26日の出願であって、平成31年4月5日に特許権の設定登録がされ、同年同月24日にその特許公報が発行され、その後、令和1年7月29日に、特許異議申立人 上杉さゆり(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
本件特許請求の範囲の記載は以下のとおりであり、請求項1ないし6に係る特許発明をそれぞれ、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。
【請求項1】
次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)エイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸、
(B)酢酸濃度が5ppm以上であるゴマ油が26質量%以上であるか、又は 酢酸濃度が7ppm以上であるゴマ油が15質量%以上、
(C)レシチン0.005?0.2質量%
を含有する油脂組成物。
【請求項2】
(A)エイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸の含有量が0.1?10質量%である請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
(C)レシチンの含有量に対する前記成分(B)の含有量の質量比[(B)/(C)]が200?7000である請求項1又は2記載の油脂組成物。
【請求項4】
魚油及び藻油から選ばれる1種又は2種以上の油脂を含有する請求項1?3のいずれか1項記載の油脂組成物。
【請求項5】
加熱調理用である請求項1?4のいずれか1項記載の油脂組成物。
【請求項6】
次の成分(A)、(B)及び(C):
(A)エイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸、
(B)酢酸濃度が5ppm以上であるゴマ油が26質量%以上であるか、又は 酢酸濃度が7ppm以上であるゴマ油が15質量%以上、
(C)レシチン配合原料中に0.005?0.2質量%
を配合する工程を含む、油脂組成物の製造方法。


第3 特許異議申立人が申し立てた理由
特許異議申立人が申し立てた申立理由の概要は以下のとおりである。

理由1:(進歩性)請求項1ないし6に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:特開2014-3974号公報
甲第2号証:ドレッシングの日本農林規格 農林水産省告示第1503号、最終改正 平成20年10月16日
甲第3号証:食用植物油脂の日本農林規格 農林水産省告示第1683号、最終改正 平成24年7月17日
甲第4号証:五訂増補 食品成分表2007 香川芳子監修 女子栄養大学出版部発行 2006年12月 初版第1刷発行 第256頁?第267頁
甲第5号証:特開2006-187277号公報
甲第6号証:【マツコの知らない世界】あまったドレッシング活用術、ウェブページ
https://matome.naver.jp/odai/2141699522270802501
更新日:2014年1月26日、2019年7月12日検索
以下、甲第1号証、甲第2号証等を単に甲1、甲2等ともいう。

第4 当審の判断
当審は、請求項1ないし請求項6に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた申立理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 理由1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)甲号証の記載
(1-1)甲第1号証
(1a)「【請求項1】
水相と、油相と、平均粒子径8nm?500nmであり、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体、又は糖ポリマー微粒子と、を含むドレッシング。」

(1b)「【0006】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、乳化状態の耐酸性又は耐塩性に優れ、乳化状態の経時的安定性に優れるドレッシング及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、平均粒子径8nm?500nmである閉鎖小胞体又は糖ポリマー微粒子が、耐酸性及び耐塩性に優れ、乳化状態を長時間に亘って維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下を提供する。」

(1c)「【0035】
両親媒性物質としては、リン脂質である卵黄レシチン、大豆レシチン、菜種レシチン、また、これらから得られるリゾレシチンや分別レシチン等を採用してもよい。ただし、卵黄レシチン(及びそれを含む卵黄)は、アレルギー対応及び官能性の点で含まれないことが好ましい。
【0036】
両親媒性物質としては、脂肪酸エステルを採用してもよい。脂肪酸エステルとしては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等の食品用途に適したものを使用することが好ましい。脂肪酸エステルは、上記リン脂質と併用することが好ましい。脂肪酸エステルと併用するリン脂質としては、大豆レシチン等の大豆リン脂質が好ましい。
【0037】
両親媒性物質の閉鎖小胞体は、例えば、両親媒性物質を水に分散させ、撹拌し続けることで調製される。閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質は1種又は複数種を含有してもよく、含有量は、特に限定されないが、ドレッシングに対し0.02?1.5質量%程度でよい。」

(1d)「【0051】
油相を構成する油脂成分としては、一般的な食用油脂を、特に制限なく使用することができる。かかる食用油脂としては、液体、固体の動植物油脂、硬化した動植物油脂、動植物油脂のエステル交換油、分別した液体油又は固体脂等を例示することができる。具体的には、ナタネ油、コーン油、大豆油、綿実油、サフラワー油、パーム油、ヤシ油、米糠油、ごま油、カカオ脂、オリーブ油、パーム核油等の植物性油脂、魚油、豚脂、牛脂、鶏脂、乳脂等の動物性油脂及び、これらの油脂の硬化油又はエステル交換油、或いはこれらの油脂を分別して得られる液体油、固体脂等が挙げられる。これらの食用油脂は1種又は複数種で使用されてよい。油相の量は、風味の点から10?90質量%が好ましい。
【0052】
また、油脂成分としては、上記の他、生理機能性を有する油脂(以下、生理機能性油脂という場合がある)も使用可能である。生理機能性油脂としては、例えば、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸、αリノレン酸、γリノレン酸、共役酸等の脂肪酸を多く含むエゴマ油、アマニ油などの油脂や中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)が挙げられる。これらの生理機能性油脂は複数使用されてもよいし、上記食用油脂と併用されてもよい。」

(1e)「【0069】
乳化物、ドレッシングの作製:
実施例1?13に関しては、糖ポリマー、又は両親媒性物質を85℃にて水に30分間かけて水和、分散した後、表1の温度に冷却後微粒子水溶液、又は閉鎖小胞体水溶液を得た後、油脂と混合し、乳化物を得た。その後、実施例1、3?13は上記乳化物と酢、醤油を混合し、ドレッシングを得た。(実施例2は微粒子水溶液と酢、醤油を混合後、油脂と混合しドレッシングを得た。)
比較例1、2は乳化剤を60℃で溶解後、油脂と混合し、乳化物を得て、酢、醤油と混合し、ドレッシングを得た。」

(1f)【0080】の【表1】中の実施例13には、以下のとおり記載されている(文字がつぶれているため必要なところを抜粋して文章で記載する)。
「(乳化物)(組成)
両親媒物質又はポリマー(%):SLPSE-M1695:0.5
水(%):49.50
油脂(菜種油):50%
(ドレッシング)
上記乳化物(%):66.6
酢(%):11.6
醤油(%):21.7」

(1g)【0080】の【表1】の下には、下記のとおり記載されている。
「表中、「SLP」は大豆レシチン「SLPホワイト」(ツールレシチン工業株式会社)、「SEM1695」はショ糖脂肪酸エステル「M1695」(三菱化学フーズ社)であり、「SES1670」はショ糖脂肪酸エステル「S1670」(三菱化学フーズ社)、「SLP-SEM1695」は大豆レシチンとショ糖脂肪酸エステルからなるベシクル(閉鎖小胞体)であって、SLP:SE=4:6の比率で混合したものである。何れも両親媒性物質である。ドレッシングのpHは、3.46、塩濃度は3.47%とした。比較例1,2に関しては、ドレッシングの乳化が安定でないため、ドレッシングの評価を行わなかった。」

(1h)「【0082】【表2】



(1-2)甲第2号証
甲2の第2頁ないし第3頁には、第4条サラダクリーミードレッシングの規格について下記のとおり記載されている。
(2a)「




(1-3)甲第3号証
甲3の第8頁ないし第9頁には食用ごま油の規格について下記のとおり記載されている。
(3a)




(1-4)甲第4号証
(4a)(文字がつぶれているため必要なところを抜粋して文章で記載する。)
「食品名:穀物酢・・・水分(g)93.3、タンパク質(g)0.1、脂質(g)0、炭水化物(g)2.4・・・酢酸4.2g」

(1-5)甲第5号証
(5a)「【0131】
6.4. 実施例4(酸性水中油型乳化食品の製造方法)
実施例3の実験例6のうち、食用植物油脂7,500gを菜種油6,500gおよび精製魚油1,000gに置き換えたうえで、実験例5?8の酸性水中油型乳化食品の調製と同様の方法にて、実施例4の魚油入り酸性水中油型乳化食品を調製した。本実施例で用いられた精製魚油は、DHA25%およびEPA12%を含み、かつ、オメガ3(n-3)油脂として約40%含有油脂(例えば、マヨネーズ15g当たりオメガ3油脂を約600mg含む。)である。」

(1-6)甲第6号証
(6a)「



(2)甲1に記載された発明
ア 甲1発明-1
甲1には摘記(1a)のとおり、「水相と、油相と、平均粒子径8nm?500nmであり、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体、又は糖ポリマー微粒子と、を含むドレッシング」が記載されており、具体的には摘記(1e)の手順で乳化物及びドレッシングを作成したことが記載され、摘記(1f)には実施例13に、下記の乳化物及びこれを用いたドレッシングの組成が記載されている(下線は当審で追加。以下同様。)。
(乳化物)(組成)
両親媒物質又はポリマー(%):SLPSE-M1695:0.5
水(%):49.50
油脂(菜種油):50%
(ドレッシング)
上記乳化物(%)66.6
酢(%)11.6
醤油(%)21.7
ここで、各実施例の説明として摘記(1g)に、
「表中、「SLP」は大豆レシチン「SLPホワイト」(ツールレシチン工業株式会社)、「SEM1695」はショ糖脂肪酸エステル「M1695」(三菱化学フーズ社)であり、・・・「SLP-SEM1695」は大豆レシチンとショ糖脂肪酸エステルからなるベシクル(閉鎖小胞体)であって、SLP:SE=4:6の比率で混合したものである。・・・」
と記載されている(「SLPSE-M1695」は「SLP-SEM1695」の誤記と認められる。)。
したがって、SLP-SEM1695全体を100%とすると、その中には40%の大豆レシチンが含まれているから、ドレッシング全体に占める大豆レシチンの割合は、66.6×0.5/100×40/100=0.1332で、0.13%といえる。
そうすると、甲1には実施例13の発明として以下の発明が記載されているといえる。
「両親媒物質としてのSLP-SEM1695を0.5%、水を49.5%、油脂(菜種油)を50%を配合してなる乳化物を66.6%に、酢11.6%、醤油21.7%を混合した、大豆レシチンを0.13質量%含むドレッシング」(以下、「甲1発明-1」という。)

イ 甲1発明-2
さらに、甲1には、摘記(1d)において、油脂にごま油が用いられることが記載され、摘記(1h)の実施例15には、ごま油を12.5%含む乳化物を94.8%、塩を5.0%、うま味調味料0.2%を含むドレッシングが記載されている(乳化物には、糖ポリマーとして寒天が用いられている)。
上記ドレッシング中のごま油の量は、12.5×0.948=11.85から、11.85%である。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「両親媒物質としての糖ポリマーである寒天を0.05%、水を49.95%、菜種油を37.5%、ごま油を12.5%を配合してなる乳化物94.8%に、塩5.0%、うまみ調味料0.2%混合した、ごま油を11.85質量%含んだドレッシング」(以下、「甲1発明-2」という。)

(3)対比・判断
(3-1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明-1との対比
甲1発明-1の「大豆レシチン」は、本件特許発明1の「レシチン」に相当するから、甲1発明-1において、「大豆レシチン0.13質量%含む」ことは、本件特許発明1の「レシチン0.005?0.2質量%含有する」ことに該当する。また、甲1発明-1の「ドレッシング」は油脂及び他の成分を含んでいることから本件特許発明1における「油脂組成物」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明-1とは、「レシチンを0.005%?0.2質量%含む油脂組成物。」の点で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:本件特許発明1は、エイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸を含んでいるのに対し、甲1発明-1は、エイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸を含んでいるか否か特定されていない点。
相違点2:本件特許発明1は、酢酸濃度が5ppm以上であるゴマ油が26質量%以上であるか、又は酢酸濃度が7ppm以上であるゴマ油が15質量%以上含まれるのに対し、甲1発明-1は、油脂として菜種油を含んでおり、酢酸の濃度も不明である点。

イ 判断
事案に鑑みて、相違点2から先に検討する。
甲1には、摘記(1d)に、用いる油脂として制限はなく、ごま油も選択肢の一つであることは記載されているが、ごま油中にどの程度酢酸が含まれるかについては、記載も示唆もない。
また、甲3には「食用ごま油」について、水及びきよう雑物の含有量が記載されているものの(摘記(3a))、酢酸の含有量について記載されているとはいえない。
さらに、甲4には、穀物酢中の酢酸の含有量についての記載はされているが(摘記(4a))、一般的なごま油に含まれる酢酸の含有量について記載されているとはいえない。
そうすると、甲1発明-1に対して、甲1、甲3、甲4の技術的事項を考慮したとしても、ゴマ油中に特定量の酢酸が含まれていることは技術常識であるとはいえないし、また、ゴマ油中に特定量の酢酸が含まれるようにするという動機付けがあったともいえない。
さらに、特定量の酢酸が含まれるゴマ油を、ドレッシング中に、一定量以上含有させようとする(すなわち、本件特許発明1のとおり、酢酸濃度が5ppm以上であるゴマ油は26質量%以上、酢酸濃度が7ppm以上であるゴマ油は15質量%以上とする)ことについても動機付けがあったとはいえない。
効果について検討しても、甲1には、酢酸を所定量以上含むごま油を用いることで、加熱調理時の不快臭が少ない油脂組成物が得られるという効果は記載されておらず、一方で、本件特許発明1は、上記構成を採用することで、加熱時の不快臭や保存時の酸化安定性が向上したことが具体的に開示されている。
したがって、相違点1については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲1?甲6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件特許発明1と甲1発明-2との対比
甲1発明-2の「ごま油」は、本件特許発明1の「ゴマ油」に相当し、したがって、甲1発明-2は、「ゴマ油を11.85質量%」含むものである。また、甲1発明-2の「ドレッシング」は油脂及び他の成分を含んでいることから本件特許発明1における「油脂組成物」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明-2とは、「ゴマ油を含有する油脂組成物」の点で一致し、下記の点で相違する。

相違点3:本件特許発明1は、エイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸を含んでいるのに対し、甲1発明-2は、エイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸を含んでいるか否か特定されていない点。
相違点4:本件特許発明1は、酢酸濃度が5ppm以上であるゴマ油が26質量%以上であるか、又は酢酸濃度が7ppm以上であるゴマ油が15質量%以上含まれるのに対し、甲1発明-2は、ゴマ油を11.85質量%含んでいるものの、ゴマ油中の酢酸の濃度は不明である点。
相違点5:本件特許発明1は、「レシチン0.005?0.2質量%」含んでいるのに対し、甲1発明-2は、両親媒性物質としての「糖ポリマーである寒天」を含んでいると特定され、レシチンが含まれていることは特定されていない点。

エ 判断
事案に鑑みて、相違点4から先に検討する。
相違点4について
甲1には、用いるゴマ油に含まれる酢酸の量についての一般的記載はされていないし、摘記(1e)のように、菜種油を用いたドレッシング中に酢酸が含まれる例についての記載はされているものの、ゴマ油中にどの程度酢酸が含まれるかは把握できない。
この点、甲3には「食用ごま油」について、水及びきよう雑物の含有量が記載されているものの(摘記(3a))、酢酸の含有量について記載されているとはいえない。
また、甲4には、穀物酢中の酢酸の含有量についての記載はされているが(摘記(4a))、一般的なごま油に含まれる酢酸の含有量について記載されているとはいえない。
そうすると、甲1発明-2に対して、甲1、甲3、甲4の技術事項を考慮したとしても、ゴマ油中に特定量の酢酸が含まれていることが技術常識であるとはいえないし、また、ゴマ油中に特定量の酢酸が含まれるようにするという動機付けがあったともいえない。
さらに、特定量の酢酸が含まれたゴマ油を、ドレッシング中に、一定量以上含有させようとする(すなわち、本件特許発明1のとおり、酢酸濃度が5ppm以上であるゴマ油は26質量%以上、酢酸濃度が7ppm以上であるゴマ油は15質量%以上とする)ことについても動機付けがあったとはいえない。
効果について検討しても、甲1には、酢酸を所定量以上含むごま油を用いることで、加熱調理時の不快臭が少ない油脂組成物が得られるという効果は記載されておらず、一方で、本件特許発明1は、上記構成を採用することで、加熱時の不快臭や保存時の酸化安定性が向上したことが具体的に開示されている。
上記のとおりであるから、ゴマ油を11.85%含む甲1発明-2において、酢酸濃度が5ppm以上であるゴマ油が26質量%以上又は酢酸濃度が7ppm以上であるゴマ油が15質量%以上含まれるとすることは、当業者であっても容易になし得たとはいえない。

相違点5について
甲1には、摘記(1c)で示したとおり、両親媒性物質として、リン脂質である卵黄レシチン、大豆レシチン、菜種レシチン等、又は脂肪酸エステルも使用できることが記載されている。
しかし、甲1発明-2の「糖ポリマーである寒天」に代えて両親媒性物質採用し、その中で、摘記(1c)に示された脂肪酸エステルではなく、レシチンを選択しようとする動機付けがあったとはいえないし、効果について検討しても、レシチンを採用することで加熱時の不快臭や酸化安定性を向上させようとすることが予測可能であったとはいえない。

したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲1?甲6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3-2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1において、エイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸の含有量を0.1?10質量%と限定するものである。
甲5には、精製魚油にはDHA25%、EPA12%が含まれることが記載されているが(摘記(5a))、上記(3-1)で検討したとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲1?甲6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、それを引用し、さらに技術的に限定した本件特許発明2についても、同様に、甲1に記載された発明及び甲1?甲6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3-3)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2において、レシチンの含有量に対するゴマ油の含有量の質量比を200?7000とするものである。
甲1発明-1には、大豆レシチンを含むこと、甲1発明-2には、ごま油を含むことは記載されているが、大豆レシチンとごま油の量比については甲1において何ら規定されておらず、また、上記(3-1)で検討したとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲1?甲6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、それを引用し、さらに技術的に限定した本件特許発明3についても、同様に、甲1に記載された発明及び甲1?甲6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3-4)本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1ないし本件特許発明3において、魚油及び藻油から選ばれる1種又は2種以上の油脂を含有するものである。
甲1には、摘記(1d)のとおり、使用可能な油脂として、魚油が挙げられている。
しかし、摘記(1d)には、一般的な食用油脂を、特に制限なく使用することができることが記載され、それぞれの例として液体、固体の動植物油脂、硬化した動植物油脂、動植物油脂のエステルエステル交換油等、種々の油脂が挙げられており、その中から魚油を採用するという動機付けはないといえる。
そして、本件特許発明4は、本件特許発明1を技術的に限定するものであるから、本件特許発明1に関して上記(3-1)で検討したのと同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3-5)本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明1ないし本件特許発明4の油脂組成物が、加熱調理用に特定するものである。
そして、甲6には、ドレッシングを加熱調理用に用いた例の記載がされている(摘記(6a))ものの、本件特許発明5は、そもそも本件特許発明1において、その用途を限定するものであるから、本件特許発明1に関して上記(3-1)で検討したのと同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3-6)本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明1の成分(A)、(B)及び(C)を配合する工程を含む油脂組成物の製造方法であるが、当該配合成分は本件特許発明1に記載されたものと同じであり、具体的製造方法の特定はなく、本件特許発明1の油脂組成物の発明を製造方法として記載したにすぎない。
したがって、上記(3-1)で検討したのと同様に、本件特許発明6は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 特許異議申立人の主張の検討
(1)特許異議申立人主張の甲1に記載された発明について
特許異議申立人は、摘記(1a)、(1c)、(1d)、(1e)から甲1には下記の発明が記載されていると主張している。
「エイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸を含む
ごま油、及び酢(酢酸)を含む
レシチンを0.02?0.2質量%含む
油脂組成物(ドレッシング)。」
(以下、「申立人甲1発明」という。)

(2)上記発明の認定についての検討
甲1には、摘記(1c)のとおり、両親媒性物質として、卵黄レシチン大豆レシチン等が用いられること、両親媒性物質は、ドレッシングに対し0.02?1.5質量%程度含まれることが記載されており、(1d)には、油脂成分として、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸を含んでも良いことが記載されており、(1e)には、ドレッシングを製造するときに酢を用いた例が記載されている。
しかし、それらは、摘記(1a)の記載との関係からみても技術思想としてまとまりをもったものとして記載されているわけではなく、それぞれの成分として採用することが可能である選択肢の一つとして記載されているにすぎない。
したがって、申立人甲1発明は、甲1に記載されているとはいえない。

(3)甲2ないし甲6についての検討
異議申立人は、申立人甲1発明と甲2ないし甲6との組合せによる異議申立理由を主張しているので検討する。

ア 甲2について
甲2には、サラダクリーミードレッシングの規格は、油脂含有量が10%以上50%未満であることが記載されている(摘記(2a))。
特許異議申立人は、当該記載に基いて、ドレッシング中に油脂(ごま油)が26質量%以上であるか、又は15質量%以上であることは公知であると主張をしている。
しかし、規格としてサラダクリーミードレッシングの油脂成分が10%以上50%未満であることが公知であるとしても、上記2のとおり、申立人甲1発明は甲1から認定できる発明ではなく、さらに、サラダクリーミードレッシングに特定されているわけではない申立人甲1発明において含まれる油脂成分の数値範囲として、15質量%以上又は26質量%以上という値にすることが容易であるとはいえない。
また、油脂についても、甲1には種々の油脂が採用できることが記載されているから、油脂成分を「ごま油」として15質量%以上又は26質量%以上と設定することが容易であるということはできない。

イ 甲3及び甲4について
上記(3-1)の相違点2について、で検討したとおり、甲3には「食用ごま油」について、水及びきよう雑物の含有量が記載されているものの(摘記(3a))、酢酸の含有量について記載されているわけではない。
また、甲4には、穀物酢中の酢酸の含有量についての記載はされているが(摘記(4a))、一般的なごま油に含まれる酢酸の含有量について記載されているわけではない。
したがって申立人甲1発明において、ごま油に含まれる酢酸の含有量を特定することが容易であるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし6に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた特許異議申立理由によっては、取り消されるべきものとはいえない。
また、他に本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2019-12-27 
出願番号 特願2014-265154(P2014-265154)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 千葉 直紀  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 冨永 みどり
神野 将志
登録日 2019-04-05 
登録番号 特許第6504814号(P6504814)
権利者 花王株式会社
発明の名称 油脂組成物  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
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