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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G08B
管理番号 1358664
異議申立番号 異議2019-700818  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-10 
確定日 2020-01-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第6498917号発明「トンネル防災システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6498917号の請求項6、8に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6498917号の請求項6,8に係る特許についての出願は,平成26年11月27日に出願され,平成31年3月22日にその特許権の設定登録がされ,平成31年4月10日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,令和元年10月10日に特許異議申立人 相川和信より特許異議の申立てがされた。

2 本件特許発明
特許第6498917号の請求項6,8に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」,「本件特許発明2」という。)は,特許請求の範囲の請求項6,8に記載された次の事項により特定される,次のとおりのものである。
(1)本件特許発明1
「防災受信盤に,トンネル内に設置した火災検出器及び前記火災検出器以外の端末機器を接続して監視するトンネル防災システムに於いて,
前記防災受信盤に,
トンネル内に引き出した伝送回線に前記複数の火災検出器を接続し,前記火災検出器との間で所定の伝送制御に基づき,前記火災検出器による火災発報を個別に検出するR型伝送部と,
前記複数の端末機器を種別毎に1又は複数の区画に分け,トンネル内に前記区画単位に引き出した信号回線に同一区画に属する前記複数の端末機器を接続し,前記複数の端末機器の何れかの火災関連操作を区画単位に検出するP型伝送部と,
前記P型伝送部による火災関連操作の検出を判別した場合に,所定の警報制御又は設備制御を行い,前記R型伝送部による1台目の火災検出器の火災発報の検出を判別した場合に,所定の予備警報制御を行い,前記R型伝送部による2台目の火災検出器の火災発報の検出を判別した場合に,所定の火災警報制御を行う制御部と,
を設け,
前記制御部は,前記予備警報制御として,複数の連動設備の中のCCTV監視設備及び照明設備を所定の状態に連動制御し,前記火災警報制御として,前記CCTV監視設備,前記照明設備,換気設備,警報表示板設備及びラジオ再生放送設備を含む前記複数の連動設備の全てを所定の状態に連動制御することを特徴とするトンネル防災システム。」

(2)本件特許発明2
「請求項1,2又は6の何れかに記載のトンネル防災システムに於いて,
前記火災検出器以外の端末機器は,作動用電動弁を備えた水噴霧設備の自動弁装置を含み,
前記P型伝送部は,前記複数の自動弁装置を1又は複数の区画に分け,トンネル内に前記区画単位に引き出した信号回線に同一区画に属する前記自動弁装置の作動用電動弁を接続し,
前記制御部は,前記水噴霧設備に対する所定の起動条件成立に基づき,前記信号回線により所定の区画の自動弁装置に設けた作動用電動弁に開制御信号を送信し,前記作動用電動弁の開制御による自動弁装置の開動作で消火用水を散水させることを特徴とするトンネル防災システム。」

ここで,請求項8が引用する請求項1,2の記載は,次のとおりである。
(請求項1)
「防災受信盤に,トンネル内に設置した火災検出器及び前記火災検出器以外の端末機器を接続して監視するトンネル防災システムに於いて,
前記防災受信盤に,
トンネル内に引き出した伝送回線に前記複数の火災検出器を接続し,前記火災検出器との間で所定の伝送制御に基づき,前記火災検出器による火災発報を個別に検出するR型伝送部と,
前記複数の端末機器を種別毎に1又は複数の区画に分け,トンネル内に前記区画単位に引き出した信号回線に同一区画に属する前記複数の端末機器を接続し,前記複数の端末機器の何れかの火災関連操作を区画単位に検出するP型伝送部と,
前記P型伝送部による1区画の火災関連操作の検出を判別した場合に,所定の予備警報制御を行い,前記R型伝送部による1台目の火災検出器の火災発報の検出と前記P型伝送部による1区画の火災関連操作の検出の両方を判別した場合に,所定の火災警報制御を行う制御部と,
を設けたことを特徴とするトンネル防災システム。」

(請求項2)
「請求項1記載のトンネル防災システムに於いて,
前記制御部は,前記R型伝送部による1台目の火災検出器の火災発報の検出を判別した場合に,所定の予備警報制御を行い,前記R型伝送部による2台目の火災検出器の火災発報の検出を判別した場合に,所定の火災警報制御を行うことを特徴とするトンネル防災システム。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人 相川和信は,主たる証拠として特開2005-122495号公報(以下「甲1」という。),並びに,従たる証拠として特開平6-4784号公報(以下「甲2」という。),「平成22年度 温海トンネル火災検知設備設置工事 特記仕様書」(以下「甲3」という。)及び特開2001-243578号公報(以下「甲4」という。)を提出し,請求項6,8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項6,8に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

4 文献の記載
(1)甲1について
ア 甲1には,図面とともに,以下の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。
(ア)「【0030】
実施形態1
図1はこの発明の第1の実施形態にかかるトンネル防災設備の信号変換装置の概略的なシステム構成図である。
【0031】
図1において,11は検知器制御部,12は消火用制御部,13はP型検知器接続部,14は消火栓P信号接続部,15は水噴霧P信号接続部であり,これらによって信号変換装置1が構成されている。この信号変換装置1内において,検知器制御部11はP型検知器接続部13と,消火用制御部12は消火栓P信号接続部14および水噴霧P信号接続部15のそれぞれと,図示しないが盤内伝送によって情報を送受信する。そして,P型検知器接続部13,消火栓P信号制御部14および水噴霧P信号制御部15は,それぞれ十分な長さのリード線17を介して端子台18が自由な位置に設けられるようになっている。
【0032】
このような信号変換装置1に対する配線として,検知器制御部11には,R型システムにおける複数の火災検知器を監視制御するための伝送信号の送受信に用いられる検知器用伝送線21が,消火用制御部12には,R型システムにおける複数の消火栓装置および水噴霧装置を監視制御するための伝送信号の送受信に用いられる消火用伝送線22が,それぞれ接続され,また,P型検知器接続部13には,P型システムにおける複数の火災検知器を監視制御するための多数の信号線による接点信号の入出力に用いられるP型検知器信号線群31が,消火栓P信号接続部14には,P型システムにおける複数の消火栓装置を監視制御するための多数の信号線による接点信号の入出力に用いられる消火栓信号線群32が,水噴霧P信号接続部15には,P型システムにおける複数の水噴霧装置を監視制御するための多数の信号線による接点信号の入出力に用いられる水噴霧信号線群33が,それぞれ,リード線17を介した端子台18に結線されて接続されている。
【0033】
検知器用信号線21および消火用信号線22は,通常,R型防災受信盤から複数の火災検知器等の端末機器へ3線式(S+,S-,Sig)で分岐配線(マルチドロップ)されるものであって,この第1の実施形態としては,図示しないが,R型防災受信盤から検知器制御部11および消火用制御部12に配線されている。
【0034】
また,P型検知器信号線群31,消火栓信号線群32および水噴霧信号線群33は,通常,P型防災受信盤から複数の火災検知器,消火栓装置あるいは水噴霧装置へ必要な数の信号線が個別に(あるいは区画ごとや送り配線に)配線されるものであって,この実施形態では,図示しないが,トンネル内に設置される各機器に対して配線されている。」

(イ)「【0036】
そして,消火栓信号線群32には,通常,各消火栓装置に具備されている機器に関し,手動通報装置が起動されたときの手動通報信号を接点信号として検出する個別の手動通報信号線と,消火栓が使用されるときの元弁の開放とともに入力される消火栓起動信号を接点信号として検出する個別の消火栓起動信号線と,区画ごとに電源供給の形で手動通報装置の操作に対する応答としての応答信号を接点信号として出力して応答ランプを点灯させる応答信号線とが備えられている。
【0037】
そして,水噴霧信号線群33には,通常,各水噴霧装置に具備されている機器に関し,水噴霧を開始させる自動弁を開閉制御するため電源供給の形で自動弁開閉信号を接点信号として出力する個別の自動弁開閉信号線と,自動弁の開放時の流水を検知する圧力スイッチの作動によって入力される放水信号を接点信号として検出する個別の放水信号線とが備えられる。
【0038】
また,消火栓信号線群32の応答信号線に供給される応答ランプの電源供給を受けるため,消火栓P信号接続部14には,図示しないR型防災受信盤からの応答ランプ用電源線41が接続されているとともに,水噴霧信号線群33の自動弁開閉信号線に供給される自動弁の電源供給を受けるため,水噴霧P信号接続部15には,図示しないR型防災受信盤からの水噴霧用電源線42が接続されている。」

(ウ)「【0041】
このような,信号変換装置1は,図示しないR型防災受信盤の盤内2に設けられ,信号変換装置1のための別盤は不要であり,余分なスペースを必要としない。」

(エ)「【0044】
まず,トンネル内で火災が発生したとすると,その火災の炎を図示しないP型の火災検知器が検出し,火災信号を出力する。この火災信号はP型検知器信号線群31を介してP型検知器接続部13が接点信号として受信し,そのオンとなった信号線から火災信号を出力した火災検知器を特定する。その火災信号の情報を,P型検知器接続部13は盤内伝送を介して出力し,検知器制御部11は,火災を検出した火災検知器をアドレス等で特定し火災信号であることをコードで示した伝送信号として,検知器用伝送線21を用いて送信する。この検知器用伝送線21からの伝送信号を受信して,図示しないR型防災受信盤は火災を検出した火災検知器を把握し,図示しない表示部への表示およびブザー等の主音響の鳴動等,必要な動作を行う。ここで,通常の道路トンネルの場合,トンネル近辺の管理用の建家に防災受信盤が設けられ,そこからインター等の関係者が常駐するセンタに,情報を移報するとともに,水噴霧の起動についても遠隔制御が可能とされている。防災受信盤では,このような遠制の設定により,ブザー鳴動等は省略し,盤面での操作を無効とする状態になっている。以降,この実施形態では,遠制が解除されている状態として,防災受信盤で必要な警報および起動入力等が可能なものとして説明する。
【0045】
そして,トンネル内で火災が発生して自動車火災の場合のドライバが自分で消火を試みようとするときには,トンネル内に設けられた図示しない消火栓装置を操作し,扉を開放して内部から消火用ホースを引き出し,元弁の開閉レバーを操作してその元弁を開放させ,火災発生位置に駆けつけて火炎に向けて放水を行う。このとき,開閉レバーの操作等に連動して接点を閉じ,消火栓起動信号を出力する。この消火栓起動信号は消火栓信号線群32を介して消火栓P信号接続部14が接点信号として受信し,そのオンとなった信号線から起動信号を出力した消火栓装置を特定する。その消火栓起動信号の情報を,消火栓P信号接続部14は盤内伝送を介して出力し,消火用制御部12は,起動された消火栓装置をアドレス等で特定し起動信号であることをコードで示した伝送信号として,消火用伝送線22を用いて送信する。この消火用伝送線22からの伝送信号を受信して,図示しないR型防災受信盤は起動した消火栓装置を把握し,図示しない表示部への表示およびブザー等による警報を行い,監視センタ内に消火栓起動を報知する。
【0046】
そして,ドライバが自分で消火をできないと当初からあるいは放水してから判断した場合,図示しない消火栓装置に設けられている手動通報装置を操作する。このとき,手動通報装置の接点を閉じ,手動通報信号を出力する。この手動通報信号は消火栓信号線群32を介して消火栓P信号接続部14が接点信号として受信し,そのオンとなった信号線から手動通報信号を出力した消火栓装置を特定する。その手動通報信号の情報を,消火栓P信号接続部14は盤内伝送を介して出力し,消火用制御部12は,手動通報があった位置を消火栓装置のアドレス等で特定し手動通報信号であることをコードで示した伝送信号として,消火用伝送線22を用いて送信する。この消火用伝送線22からの伝送信号を受信して,図示しないR型防災受信盤は手動通報のあった消火栓装置を把握し,図示しない表示部への表示およびブザー等の主音響の鳴動等を行う。
【0047】
この手動通報信号に対して,図示しないR型防災受信盤は,応答信号を送信する。すなわち,図示しないR型防災受信盤は,手動通報のあった消火栓装置に対して応答信号を示す伝送信号を,消火用伝送線22を用いて送信する。この消火用伝送線22からの伝送信号を受信して,消火用制御部12は盤内伝送を介してその情報を消火栓P信号接続部14へ出力し,消火栓P信号接続部14は,応答する位置の消火栓装置がある区画に対する応答信号に該当する信号線をオンする接点信号として,消火栓信号線群32に出力する。この消火栓信号線群32の接点信号によって,図示しないトンネル内に設置された消火栓装置に応答信号が入力され,備えられている手動通報の応答ランプが点灯する。ここで,この応答信号は,消火栓P信号接続部14から応答ランプ用電源線41の電源が印加されていて,所定の区画ごとの信号線とされている。そして,手動通報装置が起動された消火栓装置は決まっていて手動通報装置の起動に連動して,ハード的に該当する消火栓装置の応答ランプのみに電源供給が行われるようになっている。
【0048】
また,トンネル内で火災が発生し,火災検知器の火災信号または手動通報信号による監視センタ内に火災の報知が行われたときに,監視員が監視カメラ等で火災および放水の安全を確認できると,トンネル内に設置されている必要な水噴霧装置を起動して散水を開始させる。このとき,図示しないR型防災受信盤への監視員の操作入力により,R型防災受信盤は自動弁開閉信号を送信する。すなわち,図示しないR型防災受信盤は,必要な水噴霧装置に対して自動弁開閉信号を示す伝送信号を,消火用伝送線22を用いて送信する。この消火用伝送線22からの伝送信号を受信して,消火用制御部12は盤内伝送を介してその情報を水噴霧P信号接続部15へ出力し,水噴霧P信号接続部15は,応答する位置の水噴霧装置がある区画に対する自動弁開閉信号に該当する信号線をオンする接点信号として,水噴霧信号線群33に出力する。この水噴霧信号線群33の接点信号によって,図示しないトンネル内に設置された水噴霧装置の自動弁に起動する信号が入力され,この自動弁が開放動作することによって,火災の発生した区画に対して水噴霧ヘッドから散水が行われる。ここで,この自動弁開閉信号は,水噴霧P信号接続部15から水噴霧用電源線42の電源が印加されていて,該当する水噴霧装置に供給される。そして,詳細に示さないが,水噴霧装置の起動を司る自動弁において,その開閉を制御するパイロット的な起動弁として電動弁が用いられており,この電動弁の開放動作に必要な時間だけの電源供給を行うように該当信号線をオンすればよく,その後信号線はオフされる。すなわち,一旦開いた自動弁に電源供給の必要はないことからオフされる。」

(オ)「【0056】
そして,この信号変換装置1の場合には,R型防災受信盤に対してP型の火災検知器,消火栓装置および水噴霧装置を用いることが可能であり,既設のシステムがP型であって一度に全体を更新しなくとも,まず防災受信盤をR型にして,その後にトンネル内の各機器をブロック分けして更新していくことが可能である。また,現場の事情に応じて,R型システム内にP型の機器を組み合わせることが可能となる。
【0057】
なお,この第1の実施形態では,トンネル内に火災検知器,消火栓装置および水噴霧装置の全てが設けられる場合について説明したが,要望される機器はトンネルの長さ等で異なるので,個々のトンネルに合わせた必要な機器に関して,信号変換装置1内の検知器制御部11およびP型検知器接続部13,消火用制御部12および消火栓P信号接続部14あるいは水噴霧P信号接続部15,必要な組合せを選択して設置すればよい。
【0058】
このように,第1の実施形態では,R型防災受信盤からの検知器用伝送線が接続される検知器制御部と,該検知器制御部に接続されるとともに,トンネル内に設置される複数のP型の火災検知器へのP型検知器信号線群に接続されるP型検知器接続部と,を備えているので,防災受信盤および火災検知器の双方をR型システムまたはP型システムとして構成する必要がなく,P型の機器とR型の機器との混在を可能とし,システムをP型またはR型から他方へ更新する場合に,設備全体を一度に交換する必要はなく,また,新規に設置する際にも,一部をR型にして操作性の向上や高機能化が図れるという効果もある。」

イ 上記アの記載について,以下のことがいえる。
トンネル防災設備の信号変換装置1には,検知器制御部11と,P型検知器接続部13と,消火栓P信号接続部14とが設けられる。(段落【0030】,【0031】)
検知器制御部11には,R型システムにおける複数の火災検知器を監視制御するための伝送信号の送受信に用いられる検知器用伝送線21が接続されている。(段落【0032】)
P型検知器接続部13には,P型システムにおける複数の火災検知器を監視制御するための多数の信号線による接点信号の入出力に用いられるP型検知器信号線群31が接続されている。(段落【0032】)
消火栓P信号接続部14には,P型システムにおける複数の消火栓装置を監視制御するための多数の信号線による接点信号の入出力に用いられる消火栓信号線群32が接続されている。(段落【0032】)
検知器用信号線21は,R型防災受信盤から検知器制御部11に配線される。(段落【0033】)
P型検知器信号線群31および消火栓信号線群32は,トンネル内に設置される各機器に対して配線される。(段落【0034】)
消火栓信号線群32には,手動通報装置が起動されたときの手動通報信号を接点信号として検出する個別の手動通報信号線と,区画ごとに電源供給の形で手動通報装置の操作に対する応答としての応答信号を接点信号として出力して応答ランプを点灯させる応答信号線とが備えられる。(段落【0036】)
信号変換装置1は,R型防災受信盤の盤内2に設けられている。(段落【0041】)
トンネル内で火災が発生すると,P型の火災検知器が出力する火災信号をP型検知器信号線群31を介してP型検知器接続部13が接点信号として受信し,そのオンとなった信号線から火災信号を出力した火災検知器を特定する。このことに基づいて,R型防災受信盤が火災を検出した火災検知器を把握して表示部への表示およびブザー等の主音響の鳴動等を行う。(段落【0044】)
ドライバが消火栓装置に設けられている手動通報装置を操作すると,手動通報信号が出力され,これを消火栓P信号接続部14が接点信号として受信し,そのオンとなった信号線から手動通報信号を出力した消火栓装置を特定する。このことに基づいて,R型防災受信盤が手動通報のあった消火栓装置を把握して表示部への表示およびブザー等の主音響の鳴動等を行う。(段落【0046】)
この手動通報信号に対して,R型防災受信盤は応答信号を送信する。このことに基づいて,消火栓P信号接続部14が,応答する位置の消火栓装置がある区画に対する応答信号に該当する信号線をオンする接点信号として,消火栓信号線群32に出力することによって,消火栓信号線群32に出力するトンネル内に設置された消火栓装置に応答信号が入力され,備えられている手動通報の応答ランプが点灯する。(段落【0047】)
信号変換装置1では,R型防災受信盤に対してP型の火災検知器及び消火栓装置を用いることが可能であり,まず防災受信盤をR型にして,その後にトンネル内の各機器をブロック分けして更新していくことが可能であって,また,R型システム内にP型の機器を組み合わせることが可能となる。(段落【0056】)
また,P型の機器とR型の機器との混在も可能となる。(段落【0058】)

ウ 上記ア,イによれば,甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「R型防災受信盤の盤内2に信号変換装置1が設けられているトンネル防災設備において,
信号変換装置1に,
R型システムにおける複数の火災検知器を監視制御するための伝送信号の送受信に用いられる検知器用伝送線21が接続されている検知器制御部11と,
P型システムにおける複数の火災検知器を監視制御するための多数の信号線による接点信号の入出力に用いられるP型検知器信号線群31が接続されているP型検知器接続部13と,
P型システムにおける複数の消火栓装置を監視制御するための多数の信号線による接点信号の入出力に用いられる消火栓信号線群32が接続されている消火栓P信号接続部14と,
を設け,
検知器用信号線21は,R型防災受信盤から検知器制御部11に配線され,
P型検知器信号線群31および消火栓信号線群32は,トンネル内に設置される各機器に対して配線され,
消火栓信号線群32には,手動通報装置が起動されたときの手動通報信号を接点信号として検出する個別の手動通報信号線と,区画ごとに電源供給の形で手動通報装置の操作に対する応答としての応答信号を接点信号として出力して応答ランプを点灯させる応答信号線とが備えられ,
P型の火災検知器が出力する火災信号をP型検知器信号線群31を介してP型検知器接続部13が接点信号として受信し,そのオンとなった信号線から火災信号を出力した火災検知器を特定することに基づいて,R型防災受信盤が火災を検出した火災検知器を把握して表示部への表示およびブザー等の主音響の鳴動等を行い,
消火栓装置に設けられている手動通報装置が操作された場合に出力される手動通報信号を,消火栓信号線群32を介して消火栓P信号接続部14が接点信号として受信し,そのオンとなった信号線から手動通報信号を出力した消火栓装置を特定することに基づいて,R型防災受信盤が手動通報のあった消火栓装置を把握して表示部への表示およびブザー等の主音響の鳴動等を行い,手動通報信号に対してR型防災受信盤が応答信号を送信することに基づいて,消火栓P信号接続部14が,応答する位置の消火栓装置がある区画に対する応答信号に該当する信号線をオンする接点信号として,消火栓信号線群32に出力することによって,トンネル内に設置された消火栓装置に備えられている手動通報の応答ランプが点灯し,
R型防災受信盤に対してP型の火災検知器及び消火栓装置を用いることが可能であり,まず防災受信盤をR型にして,その後にトンネル内の各機器をブロック分けして更新していくことが可能であって,また,R型システム内にP型の機器を組み合わせること,及び,P型の機器とR型の機器との混在が可能となる,トンネル防災設備。」

(2)甲2について
ア 甲2には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
(ア)「【0002】
【従来の技術】例えばトンネル内での火災を監視する防災盤の検出方式は,一般に予備警報なし方式と予備警報あり方式とがある。予備警報なし方式は,トンネル内の所定の区画の検知器から所定の条件を満足した検知パルスが所定回,所定の間隔で入力すると,その区画が火災と判定する方式である。
【0003】予備警報あり方式は,タイマーユニットを備え,トンネル内のいずれかの区画の検知器からの所定の条件を満足した検知パルスが所定回,所定の間隔で入力すると,タイマーユニットがその区画が予備警報状態と判定し,再び同様な条件で検知パルスが入力して上記の条件を満足すると火災と判定する方式である。
【0004】このような予備警報なし方式又は予備警報あり方式のいずれかがユーザによって一般に決められる。
【0005】また,システムの構成としては,防災盤で集中監視する集中型とトンネル内に防災盤の機能と同様な機能を有したいくつかの中継器を配置して防災盤の機能を分担させる分散型がある。さらに回線の方式には区画毎に専用の回線を使用したP型と,複数の区画で共通の回線を使用したR型がある。このような複雑な方式があるが本説明では集中型で回線がP型とした防災盤を例にして説明する。」

(イ)「【0034】
【実施例】図1は本発明のトンネルの防災盤の概念図である。図において,18は操作されることによって,予備警報あり方式又は予備警報なし方式に切換える方式切換スイッチ18aを備え,その方式切換信号を所定ビットの方式データにして出力するA/D等を備えた方式切換スイッチ基板である。
【0035】15は方式切換スイッチ18aの切換状態に基づいて,予備警報なし方式又は予備警報あり方式のいずれをか選択する方式選択手段,16は第1の火災判定手段であり,予備警報なし方式が選択されたときは,予備警報なし方式のプログラムに基づいて,所定区画毎に,それぞれ配置された検知器から所定の条件を満たした検知パルスが入力したとき,その区画を火災発生と判定するものである。
【0036】17は第2の火災判定手段であり,予備警報あり方式が選択されたときは,予備警報ありプログラムに基づいて,区画内の検知器から所定の条件を満足した検知パルスが入力したときに予備警報状態と判定し,その後に同一区画又は他の区画からの検知器から所定の条件を満足した検知パルスが入力したときに,その検知器と先に検出パルスを出力した検知器との位置関係が同一区画又は隣接区画であるかどうかを判定し,同一区画又は隣接区画であると判定したときは火災と判定するものである。
【0037】また,所定の区画が火災と判定した後に,その所定の区画の隣接区画が予備警報状態となったときは,その区画を火災と判定するものである。
【0038】上記のような発明の概念に基づいて,構成された防災盤の具体例を以下に説明する。
【0039】図2は集中型に適用した本発明の一実施例を示す概略構成図である。図において,1?18は上記と同様なものである。25は方式切換スイッチ基板18用のI/F,26a?26mは例えば10区画毎に備えられた火災判定部である。27は方式を解釈し,1区画毎に第1の火災判定手段又は第2の火災判定手段を実施するMPUである。28は少なくとも選択信号を解釈して所定のメモリ領域のプログラム番号を指定するプログラムと,予備警報なし方式のプログラムと,予備警報あり方式のプログラムが格納されたROMである。また,ROM28にはトンネル内の区画を判断するための対応表が格納されている。」

(ウ)「【0079】さらに,上記実施例では,集中型の場合について説明したが図9に示すようなR型の分散型に適用させてもよい。この場合は,上記のような火災判定部の機能を中継器40?中継器40mに備えて,上記説明の第1の予備警報なしプログラム又は第1の予備警報ありプログラムを実施し,メインMPU31が上記と同様に方式切換スイッチ基板18の方式切換スイッチ18aの切換状態を知らせ,第2の予備警報なしプログラム又は第2の予備警報ありプログラムを実施するようにしてもよい。」

イ 上記アの記載について,以下のことがいえる。
トンネルの防災盤は,回線をP型とした集中型のものであり得る。(段落【0005】,【0039】)
集中型の防災盤において,所定区画毎にそれぞれ検知器を配置し,区画内の検知器から所定の条件を満足した検知パルスが入力したときに予備警報状態と判定し,その後に同一区画又は他の区画からの検知器から所定の条件を満足した検知パルスが入力したときに,その検知器と先に検出パルスを出力した検知器との位置関係が同一区画又は隣接区画であるかどうかを判定し,同一区画又は隣接区画であると判定したときは火災と判定する。(段落【0035】,【0036】,【0039】)
上記集中型の防災盤は,回線をR型とした分散型のものにも適用し得る。(段落【0079】)

ウ 上記ア,イによれば,甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「回線をP型とした集中型の防災盤,又は,回線をR型とした分散型の防災盤であって,所定区画毎にそれぞれ検知器を配置し,区画内の検知器から所定の条件を満足した検知パルスが入力したときに予備警報状態と判定し,その後に同一区画又は他の区画からの検知器から所定の条件を満足した検知パルスが入力したときに,その検知器と先に検出パルスを出力した検知器との位置関係が同一区画又は隣接区画であると判定したときは火災と判定する,トンネルの防災盤。」

(3)甲3について
ア 甲3には,以下の事項が記載されている。
(ア)「2 防災受信盤
(1) 概要
防災受信盤は,防災中継盤からトンネル内の火災検知器,信号変換器(押ボタン式通報装置及び消火栓等)からの信号を受信し,火災等の発生を表示すると共に,消火栓設備,水噴霧設備の起動及び遠方監視制御設備,換気設備,警報表示板設備,照明設備,CCTV設備等に対して信号の供給を行うものである。」(第5編第14章5-2の2(1))

(イ)「イ その他特記事項
(ア) 火災検知器が1台のみ動作した場合は,「予備警報」とし,換気設備及び警報表示板設備を除く設備に予備警報信号を出力し,注意喚起を促すこと。
(イ) 火災検知器が2台以上動作した場合は,「火災」とし,全設備に火災信号を出力すること。」(第5編第14章5-2の2(6)イ)

イ 上記アの記載について,以下のことがいえる。
上記ア(ア)の記載によれば,上記ア(イ)の「予備警報信号を出力」する対象である「換気設備及び警報表示板設備を除く設備」には,「照明設備」及び「CCTV設備」が含まれる。また,上記ア(イ)の「火災信号を出力する」対象である「全設備」には,「換気設備」,「警報表示板設備」,「照明設備」及び「CCTV設備」が含まれる。

ウ 上記ア,イによれば,甲3には次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「防災受信盤が,火災検知器が1台のみ動作した場合,CCTV設備及び照明設備に予備警報信号を出力し,火災検知器が2台以上動作した場合,CCTV設備,照明設備,換気設備,及び警報表示板設を含む全設備に火災信号を出力すること。」

(3)甲4について
ア 甲4には,以下の事項が記載されている。
(ア)「【0012】図1は本発明の第1実施例を示すドライバへのトンネル内画像通知システムの概略模式図,図2はそこを運行する車載端末装置を有する車両の模式図,図3はその車載端末装置の模式図,図4はそのトンネル内画像通知システムの全体ブロック構成図である。
【0013】ここで,トンネル1は,トンネル等級区分AA級のトンネルとする。トンネル1には,以下のようなトンネルの設備を有している。
【0014】トンネルの入口付近には,例えば,ガントリー2Aに路側送受信装置2,トンネル坑口情報板11(詳述は第2実施例で説明する)が設置されている。また,トンネル1の入口付近には,交通流計測装置(トラフィックカウンタ)4が設置されている。更に,トンネル1内には,複数のITVカメラ(カメラ0,カメラ1,カメラ2,カメラ3,…)5,緊急放送設備6,トンネル非常用設備(火災検知器/押釦通知器等)7が設置され,それらの機器の監視/制御/計測処理を行うトンネル防災装置8を有している。このトンネル防災装置8としては,防災受信盤8A,ITV監視制御装置8B,交通量計測制御装置8C,報知情報伝送処理装置8D,ラジオ再放送設備8Eなどが設けられている。なお,報知情報伝送処理装置8Dは路側送受信装置2に接続されるとともに,通信ネットワーク21を介して施設中央局22等にも報知情報を伝送することができる。」

(イ)「【0018】以下,図4を参照して,トンネル内画像通知システムを詳細に説明すると,以下のようである。
【0019】トンネル内非常用設備(火災報知器1?n,押釦通報機1?n)7からの発報情報はトンネル防災装置8の防災受信盤8Aに送信され,位置情報とともにITV監視制御装置8Bに送られる。また,その防災受信の状況情報は防災受信盤8Aから画像情報を含む報知情報伝送処理装置8D及びラジオ再放送設備(ITS用設備)8Eに送られる。
【0020】また,トンネル内の複数のITVカメラ5からの画像情報はITV監視制御装置8Bに送られ,そのITV監視制御装置8Bからの出力情報は報知情報伝送処理装置8D及びラジオ再放送設備(ITS用設備)8Eに送られる。
【0021】さらに,交通流計測装置4からの渋滞情報は,交通量計測制御装置8Cに送られ,位置情報を含みITV監視制御装置8Bに送られ,その情報も報知情報伝送処理装置8D及びラジオ再放送設備(ITS用設備)8Eに送られる。
【0022】そこで,報知情報伝送処理装置8Dからの出力情報は,緊急放送設備6,送受信装置2,トンネル坑口情報板11にも出力される。
【0023】そして,送受信装置2からの画像情報を含む情報が例えば,トンネルに入る前の車両3の車載端末装置9に送信される。また,緊急放送設備6により,トンネル1内の車両にも放送される。詳細は第2実施例でも説明するが,トンネル坑口情報板11に表示することもできる。
【0024】一方,ラジオ再放送設備8Eからは,例えば,漏洩導波管ケーブル23を介して,車両3の車載端末装置9に送信することができる。
【0025】このように,災害発生時は,トンネル防災装置8が動作するが,その情報から災害位置情報,ITVカメラ5が捉えた災害位置付近の静止画像,緊急放送の音声情報を,路側送受信装置2に取込み,そこから,無線受信部9Aを持つ車両3に通知する。通知された情報は,画像を含む表示部9Bおよび音声出力部9Cを有する車載端末装置9を通じてドライバに情報提供する。通知する情報は,ある一定時間間隔にて情報の更新を行う。」

イ 上記アの記載について,以下のことがいえる。
トンネル内画像通知システムにおいて,トンネル1内に設置された機器の監視/制御/計測処理を行うトンネル防災装置8に,防災受信盤8A,ITV監視制御装置8B及びラジオ再放送設備8Eが設けられる。(段落【0012】,【0014】)
トンネル内非常用設備(火災報知器1?n,押釦通報機1?n)7からの発報情報に関して,その防災受信の状況情報が防災受信盤8Aからラジオ再放送設備(ITS用設備)8Eに送られ,また,ITV監視制御装置8Bからの出力情報がラジオ再放送設備(ITS用設備)8Eに送られる。(段落【0019】?【0020】)
ラジオ再放送設備8Eから車両3の車載端末装置9に送信することにより,災害位置付近の静止画像及び緊急放送の音声情報を車両3に通知する。(段落【0024】?【0025】)

ウ 上記ア,イによれば,甲4には次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「トンネル1内に設置された機器の監視/制御/計測処理を行うトンネル防災装置8に,防災受信盤8A,ITV監視制御装置8B及びラジオ再放送設備8Eが設けられたトンネル内画像通知システムにおいて,トンネル内非常用設備(火災報知器1?n,押釦通報機1?n)7からの発報情報に関して,その防災受信の状況情報が防災受信盤8Aからラジオ再放送設備(ITS用設備)8Eに送られ,また,ITV監視制御装置8Bからの出力情報がラジオ再放送設備(ITS用設備)8Eに送られ,ラジオ再放送設備8Eから車両3の車載端末装置9に送信することにより,災害位置付近の静止画像及び緊急放送の音声情報を車両3に通知すること。」

5 当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「R型防災受信盤」は,本件特許発明1の「防災受信盤」に含まれる。また,甲1発明の「トンネル防災設備」は,換言すればトンネル防災システムである。

(イ)甲1発明は,「P型検知器信号線群31および消火栓信号線群32は,トンネル内に設置される各機器に対して配線され」ており,「P型の火災検知器が出力する火災信号をP型検知器信号線群31を介してP型検知器接続部13が接点信号として受信し,そのオンとなった信号線から火災信号を出力した火災検知器を特定することに基づいて,R型防災受信盤が火災を検出した火災検知器を把握して表示部への表示およびブザー等の主音響の鳴動等を行い」,かつ,「消火栓装置に設けられている手動通報装置が操作された場合に出力される手動通報信号を,消火栓信号線群32を介して消火栓P信号接続部14が接点信号として受信し,そのオンとなった信号線から手動通報信号を出力した消火栓装置を特定することに基づいて,R型防災受信盤が手動通報のあった消火栓装置を把握して表示部への表示およびブザー等の主音響の鳴動等を行」うから,「火災検知器」及び「手動通報装置」は,いずれもトンネル内に配置したものであり,「R型防災受信盤」と(間接的に)接続されて,監視されるものであるといえる。
また,甲1発明の「火災検知器」は本件特許発明1の「火災検出器」に相当し,甲1発明の「手動通報装置」は,本件特許発明1の「前記火災検出器以外の端末機器」に含まれる。

(ウ)甲1発明の「信号変換装置1」は,「R型防災受信盤の盤内2に設けられている」から,「信号変換装置1」に設けた「検知器制御部11」,「P型検知器接続部13」及び「消火栓P信号接続部14」は,換言すれば,「R型防災受信盤」に設けたものであるといえる。

(エ)甲1発明は,「P型検知器信号線群31および消火栓信号線群32は,トンネル内に設置される各機器に対して配線され」ており,「P型の火災検知器が出力する火災信号をP型検知器信号線群31を介してP型検知器接続部13が接点信号として受信し,そのオンとなった信号線から火災信号を出力した火災検知器を特定する」ものである。ここで,「火災検知器」が,「特定する」対象であることから複数であり得ること,「火災検知器」が「P型検知器信号線群31」に接続されていること,及び,「P型検知器接続部13」における「火災信号」の受信が,所定の伝送制御に基づいていることは明らかである。また,「火災信号を出力」することは,本件特許発明1の「火災発報」に相当する。
一方,本件特許明細書の段落【0004】の「防災受信盤と端末機器で構成するトンネル防災システムは,R型伝送方式とP型直送方式に大別される。R型伝送方式は,伝送回線にアドレスを設定した火災検出器等の端末機器を接続し,伝送制御により端末機器単位に検知と制御を行う個別管理を可能とする,P型直送方式は,端末機器の種別に応じて所定の区画単位に分け,区画単位に引き出した信号回線に同一区画に属する複数の端末機器を接続し,信号回線単位に検知と制御を行う。」との記載によれば,本件特許発明1の「伝送回線」はR型伝送方式のものであるから,本件特許発明1の「伝送回線」と甲1発明の「P型検知器信号線群31」とは伝送方式が異なるものの,両者は「回線」である点で一致している。
また,同様の理由により,本件特許発明1の「R型伝送部」と甲1発明の「P型検知器接続部13」とは,「伝送部」である点で一致している。
以上のことから,本件特許発明1と甲1発明とは,「前記防災受信盤」に,「トンネル内に引き出した回線に前記複数の火災検出器を接続し,前記火災検出器との間で所定の伝送制御に基づき,前記火災検出器による火災発報を個別に検出する伝送部」を設けたものである点で共通している。
なお,甲1発明は「R型システムにおける複数の火災検知器を監視制御するための伝送信号の送受信に用いられる検知器用伝送線21が接続されている検知器制御部11」を設けたものであり,「検知器用伝送線21」は伝送方式がR型であって,本件特許発明1の「伝送回線」に相当するものの,「検知器用信号線21」は,「R型防災受信盤から検知器制御部11に配線され」るものであるから,本件特許発明1と甲1発明とは,「トンネル内に引き出した伝送回線に前記複数の火災検出器を接続し」たものである点で共通しているとはいえない。

(オ)甲1発明は,「P型検知器信号線群31および消火栓信号線群32は,トンネル内に設置される各機器に対して配線され」ており,「消火栓装置に設けられている手動通報装置が操作された場合に出力される手動通報信号を,消火栓信号線群32を介して消火栓P信号接続部14が接点信号として受信し,そのオンとなった信号線から手動通報信号を出力した消火栓装置を特定する」ものである。ここで,「消火栓装置」が,「特定する」対象であることから複数であり得ること,及び,「消火栓装置に設けられている手動通報装置」が「消火栓信号線群32」に接続されていることは明らかである。また,「消火栓装置に設けられている手動通報装置が操作され」ることは,本件特許発明1の「火災関連操作」に含まれる。
そして,甲1発明の「消火栓信号線群32」は,伝送方式がP型であって,上記(エ)の本件特許明細書の記載を勘案すると,本件特許発明1の「信号回線」に相当する。
また,甲1発明の「手動通報装置」は「消火栓装置」に設けられるものであり,「応答する位置の消火栓装置がある区画に対する応答信号に該当する信号線をオンする」ことが行われるから,「消火栓装置」が複数である場合は,「手動通報装置」は複数に分けられた「区画」ごとに設けられるものであり,「消火栓信号線群32」は「区画」単位に引き出したものであり,「消火栓P信号接続部14」は「区画」単位に「手動通報信号を出力した消火栓装置を特定する」といえる。
そして,甲1発明の「消火栓P信号接続部14」は,本件特許発明1の「P型伝送部」に相当する。
以上のことから,本件特許発明1と甲1発明とは,「前記防災受信盤」に,「前記複数の端末機器を複数の区画に分け,トンネル内に前記区画単位に引き出した信号回線に前記端末機器を接続し,前記複数の端末機器の何れかの火災関連操作を区画単位に検出するP型伝送部」を設けたものである点で共通している。

(カ)甲1発明は,「消火栓装置に設けられている手動通報装置が操作された場合に出力される手動通報信号を,消火栓信号線群32を介して消火栓P信号接続部14が接点信号として受信し,そのオンとなった信号線から手動通報信号を出力した消火栓装置を特定することに基づいて,R型防災受信盤が手動通報のあった消火栓装置を把握して表示部への表示およびブザー等の主音響の鳴動等を行い,手動通報信号に対してR型防災受信盤が応答信号を送信することに基づいて,消火栓P信号接続部14が,応答する位置の消火栓装置がある区画に対する応答信号に該当する信号線をオンする接点信号として,消火栓信号線群32に出力することによって,トンネル内に設置された消火栓装置に備えられている手動通報の応答ランプが点灯する」ものである。
ここで,「応答ランプが点灯する」のは,「消火栓装置に設けられている手動通報装置が操作され」,「消火栓P信号接続部14」が「手動通報信号を出力した消火栓装置を特定」した場合であるといえる。
また,「応答ランプが点灯する」ことは,本件特許発明1の「設備制御を行」うことに含まれる。
したがって,本件特許発明1と甲1発明とは,「前記P型伝送部による火災関連操作の検出を判別した場合に,所定の設備制御を行」うものである点で共通している。

(キ)甲1発明は,「P型の火災検知器が出力する火災信号をP型検知器信号線群31を介してP型検知器接続部13が接点信号として受信し,そのオンとなった信号線から火災信号を出力した火災検知器を特定することに基づいて,R型防災受信盤が火災を検出した火災検知器を把握して表示部への表示およびブザー等の主音響の鳴動等を行」うものである。ここで,「表示部への表示およびブザー等の主音響の鳴動等」は,所定の警報制御であるといえる。
したがって,本件特許発明1と甲1発明とは,「前記伝送部による火災検出器の火災発報の検出を判別した場合に,所定の警報制御を行」うものである点で共通している。

(ク)甲1発明における,上記(カ)の「応答ランプが点灯する」ことの基となる「応答信号を送信すること」,及び,上記(キ)の「表示部への表示およびブザー等の主音響の鳴動等」を実行する主体は,いずれも「R型防災受信盤」である。したがって,「R型防災受信盤」に,それらを実行する手段が設けられていることが明らかであり,それを「制御部」と称することは任意である。

イ そうすると,本件特許発明1と甲1発明とは,以下の点で一致し,また,相違する。
(ア)一致点
「防災受信盤に,トンネル内に設置した火災検出器及び前記火災検出器以外の端末機器を接続して監視するトンネル防災システムに於いて,
前記防災受信盤に,
トンネル内に引き出した回線に前記複数の火災検出器を接続し,前記火災検出器との間で所定の伝送制御に基づき,前記火災検出器による火災発報を個別に検出する伝送部と,
前記複数の端末機器を複数の区画に分け,トンネル内に前記区画単位に引き出した信号回線に前記端末機器を接続し,前記複数の端末機器の何れかの火災関連操作を区画単位に検出するP型伝送部と,
前記P型伝送部による火災関連操作の検出を判別した場合に,所定の設備制御を行い,前記伝送部による火災検出器の火災発報の検出を判別した場合に,所定の警報制御を行う制御部と,
を設けた,
トンネル防災システム。」

(イ)相違点1
「前記複数の火災検出器を接続」する「回線」,「前記火災検出器による火災発報を個別に検出する」「伝送部」が,本件特許発明1では,それぞれ「伝送回線」,「R型伝送部」であるのに対し,甲1発明では,それぞれ「P型検知器信号線群31」,「P型検知器接続部13」であって,伝送方式が異なる点。

(ウ)相違点2
本件特許発明1では,「前記複数の端末機器」を「複数の区画に分け」ることが,「種別毎に」行われるとともに,「トンネル内に前記区画単位に引き出した信号回線」に「端末機器を接続」することが,「同一区画に属する前記複数の端末機器を接続」するものとして行われるのに対し,甲1発明では,「手動通報装置」が設けられる「区画」を複数に分けることについて「種別毎に」行うとの特定がなく,「区画」単位に引き出した「消火栓信号線群32」に「手動通報装置」を接続することについて「同一区画に属する前記複数の」ものを接続するとの特定もない点。

(エ)相違点3
本件特許発明1は,「火災検出器の火災発報の検出」を,「1台目の火災検出器」を対象として行うのに対し,甲1発明では,「火災信号を出力」する「火災検知器」を特定することを,何台目の「火災検知器」を対象として行うかについての特定がない点。

(オ)相違点4
相違点3に伴い,本件特許発明1では,「1台目の火災検出器の火災発報の検出を判別した場合」に行う「所定の警報制御」が「所定の予備警報制御」であり,加えて,「前記R型伝送部による2台目の火災検出器の火災発報の検出を判別した場合に,所定の火災警報制御を行う」ものであって,さらに,「予備警報制御」及び「火災警報制御」に関して,「前記制御部は,前記予備警報制御として,複数の連動設備の中のCCTV監視設備及び照明設備を所定の状態に連動制御し,前記火災警報制御として,前記CCTV監視設備,前記照明設備,換気設備,警報表示板設備及びラジオ再生放送設備を含む前記複数の連動設備の全てを所定の状態に連動制御する」ものであると特定されているのに対し,甲1発明は,「所定の警報制御」として,単に「表示部への表示およびブザー等の主音響の鳴動等」を行うものである点。

ウ まず,相違点1について検討する。
甲1発明は,「R型防災受信盤に対してP型の火災検知器及び消火栓装置を用いることが可能であり,まず防災受信盤をR型にして,その後にトンネル内の各機器をブロック分けして更新していくことが可能であって,また,R型システム内にP型の機器を組み合わせること,及び,P型の機器とR型の機器との混在が可能となる」ものであるところ,「信号変換装置1」を用いることにより,「R型防災受信盤」に,いずれも伝送方式がP型である「P型検知器信号線群31」及び「消火栓信号線群32」を組み合わせて,P型の機器とR型の機器とを混在させたものであるといえる。
また,「まず防災受信盤をR型にして,その後にトンネル内の各機器をブロック分けして更新していく」ことに関し,甲1発明は,防災受信盤のみを,P型の防災受信盤から,R型の「R型防災受信盤」に更新し,「P型検知器信号線群31」及び「消火栓信号線群32」は更新しない状態で,トンネル防災設備の運用を行うようにしたものであって,その後,トンネル内の「P型検知器信号線群31」及び「消火栓信号線群32」についても,R型のものに「ブロック分けして更新していく」ことが可能であるといえる。
しかしながら,「ブロック分けして更新していく」とは,「防災受信盤」及び「トンネル内の各機器」を互いに異なるブロックとして,まず「防災受信盤」のみをR型に更新し,その後,「トンネル内の各機器」をR型に更新することを意図したものと理解することはできるとしても,甲1には,「P型検知器信号線群31」及び「消火栓信号線群32」のいずれか一方のみをR型のもので置き換えた状態でトンネル防災設備の運用を行うことについて,記載も示唆もされていないから,「P型検知器信号線群31」及び「消火栓信号線群32」を互いに異なるブロックとして,まず,それらのいずれか一方のみをR型に更新し,その後,他方をR型に更新することを意図したものと一義的に理解することはできない。
そうすると,甲1発明において,「P型検知器信号線群31」をR型のもので置き換えて,「トンネル内に引き出した伝送回線に前記複数の火災検出器を接続し」たものとすることは当業者が容易に想到し得る,ということはできない。
そして,甲2発明ないし甲4発明のそれぞれの構成が以下のとおりであることに鑑みると,上記の点が,甲1発明に甲2発明ないし甲4発明のいずれかを適用することで当業者が容易に想到し得るとはいえないことは明らかである。
まず,甲2発明は,「回線をP型とした集中型の防災盤,又は,回線をR型とした分散型の防災盤」を含むものであるが,P型の回線とR型の回線の両方を含むものではない。
次に,甲3発明及び甲4発明は,いずれも,回線の伝送方式について特定されるものではない。
なお,甲3には,当該文献が本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に該当することについて明記はないが,その該当性の如何によって甲3発明に基づく相違点1の判断が左右されるものではない。
また,他に,相違点1に係る構成が当業者が容易に想到し得るとする根拠は見出せない。

エ よって,その余の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明1は,甲1発明ないし甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明1は甲1発明ないし甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,請求項8は請求項6を引用しているから,本件特許発明2のうち,請求項6を引用する場合については,甲1発明ないし甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また,本件特許発明2のうち,請求項1又は2を引用する場合についても,「トンネル内に引き出した伝送回線に前記複数の火災検出器を接続し,前記火災検出器との間で所定の伝送制御に基づき,前記火災検出器による火災発報を個別に検出するR型伝送部」との発明特定事項を含むことから,甲1発明と相違点1において相違し,甲1発明ないし甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 むすび
以上のとおりであるから,特許異議の申立の理由及び証拠によっては,本件請求項6,8に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項6,8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-01-10 
出願番号 特願2014-239675(P2014-239675)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (G08B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松平 英  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 富澤 哲生
衣鳩 文彦
登録日 2019-03-22 
登録番号 特許第6498917号(P6498917)
権利者 ホーチキ株式会社
発明の名称 トンネル防災システム  
代理人 竹内 進  

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