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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
管理番号 1358665
異議申立番号 異議2019-700734  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-13 
確定日 2020-01-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6500868号発明「アルミニウム基材用グラビアインキおよび印刷物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6500868号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6500868号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成28年9月26日に出願され、平成31年3月29日にその特許権の設定登録がされ、同年4月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年9月13日に特許異議申立人坂田純子(以下、「申立人」という。)は特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6500868号の請求項1?6に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項に記載された発明を、請求項の番号に従って「本件発明1」、「本件発明2」などといい、これらを総称して「本件発明」という。)。
「【請求項1】
顔料、バインダー樹脂、および有機溶剤を含有するアルミニウム基材用グラビアインキであって、前記バインダー樹脂が、酸価が1?25mgKOH/gである塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(A)からなり、
有機溶剤が、ケトン系有機溶剤およびエステル系有機溶剤を含み、質量比(ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤)が85/15?50/50であることを特徴とする、アルミニウム基材用グラビアインキ。(ただし、磁性粉を含有する場合を除く。)
【請求項2】
25℃におけるB型粘度計での粘度が40?500cpsであることを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム基材用グラビアインキ。
【請求項3】
前記顔料は有機顔料からなることを特徴とする、請求項1または2に記載のアルミニウム基材用グラビアインキ。
【請求項4】
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(A)が、塩化ビニル由来の構造単位を65?95質量%含有することを特徴とする、請求項1?3いずれかに記載のアルミニウム基材用グラビアインキ。
【請求項5】
アルミニウム基材が、アルミニウム箔、アルミニウム蒸着プラスチック基材、およびアルミニウム蒸着紙からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1?4いずれかに記載のアルミニウム基材用グラビアインキ。
【請求項6】
アルミニウム基材上に、請求項1?5いずれかに記載のアルミニウム基材用グラビアインキから形成された印刷層を備えた印刷物。」

第3 申立理由の概要
1.申立人
申立人は、証拠として、次の甲第1?20号証(以下、その番号に従って、「甲1」などという。)を提出し、下記の(理由1)?(理由4)について主張している。
[証拠]
甲1:特開2016-55474号公報
甲2:特開2016-64611号公報
甲3:WACKER社のビンノールR(当審注:○の中にR。以下、単に「(R)」又は「(登録商標)」などと記載する。)の2010年9月版の製品カタログ、写し及びその抄訳文
甲4:WACKER社のビンノール(登録商標)の2000年3月版の製品カタログ、写し及びその抄訳文
甲5:特開昭47-9255号公報
甲6:特開昭57-125275号公報
甲7:特開平4-209672号公報
甲8:特開2013-216715号公報
甲9:特開昭62-36470号公報
甲10:特開2012-76353号公報
甲11:特開2011-93296号公報
甲12:特開平3-50253号公報
甲13:特開2002-60661号公報
甲14:特開2013-213109号公報
甲15:特開2014-5415号公報
甲16:特開平9-157557号公報
甲17:特開平11-189734号公報
甲18:特開平11-217516号公報
甲19:特開2006-257333号公報
甲20:特開2006-291047号公報

[理由]
(理由1)特許法第29条第2項
本件発明1、4?6は、甲1及び甲2のいずれか一方に記載された発明を主たる引用発明とし、甲3及び4のいずれか一方又は両方に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明2は、甲1及び甲2のいずれか一方に記載された発明を主たる引用発明とし、甲3及び4のいずれか一方又は両方に記載された発明に基いて、又は、甲1及び甲2のいずれか一方を主たる引用例とし、甲3及び4のいずれか一方又は両方に記載された発明並びに甲14に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明3は、甲1及び甲2のいずれか一方に記載された発明を主たる引用発明とし、甲3及び4のいずれか一方又は両方に記載された発明並びに甲5?7、14及び15に代表される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1?6に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。
(理由2)特許法第29条第2項
本件発明1、2、4?6は、甲1及び甲2のいずれか一方に記載された発明を主たる引用発明とし、甲7?12に代表される周知技術、甲5?7、14及び15に代表される周知技術、甲13に記載された発明、甲14に記載された発明、甲15に記載された発明、甲5及び6のいずれか一方又は両方に記載された発明(必要に応じて、さらに、甲5、6及び16?20に代表される周知技術)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明3は、甲1及び甲2のいずれか一方に記載された発明を主たる引用発明とし、甲7?12に代表される周知技術、甲5?7、14及び15に代表される周知技術、甲13に記載された発明、甲14に記載された発明、甲15に記載された発明、甲5及び6のいずれか一方又は両方に記載された発明、甲5?7、14及び15に代表される周知技術(必要に応じて、さらに、甲5、6及び16?20に代表される周知技術)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1?6に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。
(理由3)特許法第29条第2項
本件発明1、4?6は、甲3及び甲4のいずれか一方に記載された発明を主たる引用発明とし、甲1、2及び7に代表される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明2は、甲3及び甲4のいずれか一方に記載された発明を主たる引用発明とし、甲1、2及び7に代表される周知技術に基いて、又は、甲3及び甲4のいずれか一方に記載された発明を主たる引用発明とし、甲1、2及び7に代表される周知技術に基いて、並びに甲14に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明3は、甲3及び甲4のいずれか一方に記載された発明を主たる引用発明とし、甲1、2及び7に代表される周知技術、並びに、甲5?7、14及び15に代表される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1?6に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。
(理由4)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
本件特許の特許権者が平成31年1月28日付け意見書における参考比較例1-7(特に参考比較例2)で自ら述べているように、「質量比(ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤)が85/15?50/50」の範囲を少しでも超えてしまうと本件特許発明の効果が十分に奏されないことから、この上限値及び下限値は非常に重要となるところ、本件特許明細書の段落「0018」の酸価の説明では、「酸性官能基が金属アルミニウム上の水素原子と水素結合することで密着性が改善するものと考察され、特に、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂が酸価1?25mgKOH/gを有する場合にアルミニウムとの密着性が飛躍的に向上する」と密着性の向上効果に言及しているのみである。
一方、本件特許明細書の段落「0041」のケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤の質量比の説明では、「ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤が質量比で85/15?50/50の範囲が保存安定性により優れる」と保存安定性に言及しているのみである。また、本件特許明細書の段落「0071」(表3)によれば、確かに実施例に係る有機溶剤の特定の質量比の1点のみでは経時安定性、耐水性及び耐摩擦性の全てが良好である結果は示されているものの、実施例や、発明の詳細な説明からは、バインダーの酸価の範囲と、「質量比(ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤)が85/15?50/50」である混合溶剤の存在との間の相乗効果を確認することはできない。そして、参考実施例2及び参考実施例3は、本件特許明細書の段落「0041」の「ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤が質量比で85/15?50/50の範囲」の上限値及び下限値を追加したものであるが、本件特許明細書中に開示されている当該範囲を選択する効果は、上記のように「保存安定性により優れる」ことが開示されているのみであって、「ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤が質量比で85/15」の場合、及び「ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤が質量比で50/50」の場合についての「改善効果の程度」や、「バインダーの酸価の範囲と、混合溶剤の存在との間の相乗効果」についても何ら記載も示唆もない。
すなわち、本件特許明細書の実施例では、「質量比(ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤)が85/15」である場合や、「質量比(ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤)が50/50」である場合にまで、実施例に記載された質量比と同様に、本件特許明細書の段落「0012」に記載の「経時安定性が良好であり、アルミニウム基材への密着性および耐摩擦性が良好である、アルミニウム基材用グラビアインキを提供することができた」とする発明の効果が奏されることは何ら示されておらず、本件特許明細書の発明の詳細な説明からも「質量比(ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤)が85/15?50/50」の範囲全体でそのような効果が奏されることを読み取ることができない。
以上より、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2?6については、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないことから、特許法第36条第6項第1号のいわゆるサポート要件を満たしていない。
よって、本件発明1?6に係る特許は同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。

第4 甲1?4の記載と甲1?4に記載された発明(甲1?4発明)
1.甲1?4の記載
(1)甲1
甲1には、「積層体」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔上に、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂とアルミナ・シリカ処理のルチル型酸化チタンを含有する白着色層を有する積層シート。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、主にPTP包装体の蓋材に用いられる積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤,カプセル剤などの医薬品の包装には、PTP包装体(プレススルーパック)が用いられることが多い。PTP包装体は、例えばポリ塩化ビニルやポリプロピレンなどからなる底材の収納凹部に医薬品を個別に収納し、アルミニウム箔などからなる蓋材で被覆されている。」
「【0004】
PTP包装体の蓋材には視認性や前記バーコードなどの読み取りを良好にするため、アルミニウム箔上に白着色層を設けて、その上にバーコードの印刷を施すことがよく行われている(例えば、特許文献1?4)。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PTP包装体は蓋材を貼り合わせた後で所定の大きさに打ち抜く必要があるが、その際、長時間の連続打ち抜きによって打抜刃の摩耗が徐々に進行する現象が発生している。本発明はこの打抜刃の摩耗を防ぎ、耐用時間の向上を図ろうとするものである。」
「【0011】
本発明における白着色層は、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂とアルミナ・シリカ処理されたルチル型酸化チタンを含む。
アルミナ・シリカ処理されたルチル型酸化チタンの白着色層における割合は、一般的にバーコードリーダーによるバーコードの読み取り適性を考慮すると20重量%?60重量%であり、好ましくは30重量%?50重量%である。また、平均粒径は0.1?0.4μmのものが好ましい。平均粒径は、電子顕微鏡法による。
塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂は、バインダーとして用いられる。塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂は、例えば日信化学 SOLBIN C、WACKER E15/40A TF 等として、販売されている。
また白着色層は乾燥時の塗布量で、一般に1.0g/m^(2)?4.0g/m^(2)でアルミニウム箔上に形成されていることが好ましい。
白着色層をアルミニウム箔上に形成するには、従来公知の方法で形成することができ、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、UV塗装などで形成することができる。
【0012】
PTP包装体の蓋材用包装シートは、アルミニウム箔の裏面側に、ヒートシール層を形成することができ、印刷層上に、オーバープリント(OP)層を形成することができる。
ヒートシール層は、包装シートを、底材に溶着させるための層である。ヒートシール層は従来公知のPTP包装体のヒートシール層に用いられるもので形成することができ、例えば、下記に示した底材と同一の樹脂を混合した同一の樹脂を混合したものを主剤とする樹脂コート剤を使用し、グラビアコートなどで塗布して形成することができる。ヒートシール層のコート量は、特に限定するものはないが、単位面積当たり2g/m^(2)?5g/m^(2)、好ましくは2.5g/m^(2)?4.0g/m^(2)で形成することができる。」
「【0019】
実施例1(インキの評価:バインダーが塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂)
バインダーが塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂の場合、アルミナ処理のものが当社の現行品として用いられている。
アルミナ処理とアルミナ・シリカ処理の各酸化チタン:20g、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂:15g、トルエン:15g、メチルエチルケトン(MEK):50gをそれぞれ130mlガラス瓶に配合し、1.8mmチタニアビーズを100g加えて試験用分散機にて各酸化チタンの分散を行い、白インキを作製した。
これらの白インキの経時安定性と硬質アルミニウム箔上での白さ(隠蔽性)の比較を行った結果、経時安定性はいずれも安定で、白さ(隠蔽性)はアルミナ・シリカ処理のほうが高かった。経時安定性は、40℃恒温槽で30日間保存してゲル化するか否かをみた。隠蔽性は目視による。」
「【0021】
現行のアルミナ処理とアルミナ・シリカ処理の酸化チタンで作製した白インキを175線/inのグラビアベタ版で硬質アルミ箔艶面への展色を行った。アルミナ・シリカ処理の酸化チタンで作製した白インキは、現行のアルミナ処理による酸化チタンの白インキと比較して白さ(隠蔽性)が高く、表2で示したように白着色層中の酸化チタン含有量を半減しても、現行品と同程度の白さ(隠蔽性)が得られた。・・・」

(2)甲2
甲2には、「積層体」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔上に、アルミナ・ジルコニア処理のルチル型酸化チタンを含有する白着色層を有する積層シート」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、主にPTP包装体の蓋材に用いられる積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤,カプセル剤などの医薬品の包装には、PTP包装体(プレススルーパック)が用いられることが多い。PTP包装体は、例えばポリ塩化ビニルやポリプロピレンなどからなる底材の収納凹部に医薬品を個別に収納し、アルミニウム箔などからなる蓋材で被覆されている。」
「【0004】
PTP包装体の蓋材には視認性や前記バーコードなどの読み取りを良好にするため、アルミニウム箔上に白着色層を設けて、その上にバーコードの印刷を施すことがよく行われている(例えば、特許文献1?4)。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PTP包装体は蓋材を貼り合わせた後で所定の大きさに打ち抜く必要があるが、その際、長時間の連続打ち抜きによって打抜刃の摩耗が徐々に進行する現象が発生している。本発明はこの打抜刃の摩耗を防ぎ、耐用時間の向上を図ろうとするものである。」
「【0012】
PTP包装体の蓋材用包装シートは、アルミニウム箔の裏面側に、ヒートシール層を形成することができ、印刷層上に、オーバープリント(OP)層を形成することができる。
ヒートシール層は、包装シートを、底材に溶着させるための層である。ヒートシール層は従来公知のPTP包装体のヒートシール層に用いられるもので形成することができ、例えば、下記に示した底材と同一の樹脂を混合したものを主剤とする樹脂コート剤を使用し、グラビアコートなどで塗布して形成することができる。ヒートシール層のコート量は、特に限定するものはないが、単位面積当たり2g/m^(2)?5g/m^(2)、好ましくは2.5g/m^(2)?4.0g/m^(2)で形成することができる。」
「【0022】
実施例3(インキの評価:バインダーが塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂)
バインダーが塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂の場合、アルミナ処理のものが当社の現行品として用いられている。
アルミナ処理とアルミナ・ジルコニア処理の各酸化チタン:20g、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂:15g、トルエン:15g、メチルエチルケトン(MEK):50gをそれぞれ130mlガラス瓶に配合し、1.8mmチタニアビーズを100g加えて試験用分散機にて各酸化チタンの分散を行い、白インキを作製した。
これらの白インキの経時安定性と硬質アルミニウム箔上での白さ(隠蔽性)の比較を行った結果、経時安定性はいずれも良好で、白さ(隠蔽性)はアルミナ・ジルコニア処理のほうが高かった。」
「【0024】
現行のアルミナ処理とアルミナ・ジルコニア処理の酸化チタンで作製した白インキをザーンカップ#3で各15秒に溶剤希釈し、175線/inのグラビアベタ版で硬質アルミ箔艶面への展色を行った。アルミナ・ジルコニア処理の酸化チタンで作製した白インキは、現行のアルミナ処理による酸化チタンの白インキと比較して白さ(隠蔽性)が高く、表4で示した白着色層中の酸化チタン含有量を半減しても、現行品と同程度の白さ(隠蔽性)が得られた。・・・」

(3)甲3(下線は、当審が付与した。)
甲3には、「VINNOL(R) SURFACE COATING RESINS VINYL CHLORIDE COPOLYMERS AND TERPOLYMERS(当審仮訳:ビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂塩化ビニル共重合体及び三元重合体。以下、英文の()内は当審仮訳)」について、次の記載がある。
「VINNOL(R) resins containing carboxyl groups, the VINNOL(R) M grades, are terpolymers of vinyl chloride, vinyl acetate and dicarboxylic acids
(カルボキシル基を含むビンノール(登録商標)樹脂、ビンノール(登録商標)Mグレードは、塩化ビニル、酢酸ビニル及びジカルボン酸の三元重合体である。)」(4頁中26?29行)
「These cross-linking systems show increased thermomechanical resistance and, depending on the extent of cross-linking, improved surface hardness and abrasion resistance.
(これらの架橋系は、増大した熱機械的耐性を示し、そして架橋の程度に応じて、増大した表面硬度および耐摩耗性を示す)」(5頁左下から5行?末行)
「with carboxyl groups (カルボキシル基を有するもの)
E15/45M:
Vinyl chloride % by wt (塩化ビニルの重量%):84.0±1.0
Vinyl acetate % by wt(酢酸ビニルの重量%):15.0±1.0
Other monomers% by wt(他のモノマーの重量%):約1.0
Acid value mg KOH/g polymer(酸価 mg KOH/g):7.5±1.5
H15/45M :
Vinyl chloride % by wt (塩化ビニルの重量%):84.0±1.0
Vinyl acetate % by wt(酢酸ビニルの重量%):15.0±1.0
Other monomers% by wt(他のモノマーの重量%):約1.0
Acid value mg KOH/g polymer(酸価 mg KOH/g):7.0±1.5
M15/45M Special:
Vinyl chloride % by wt (塩化ビニルの重量%):84.0±1.0
Vinyl acetate % by wt(酢酸ビニルの重量%):15.0±1.0
Other monomers% by wt(他のモノマーの重量%):約0.5
Acid value mg KOH/g polymer(酸価 mg KOH/g):4.5±1.5
H30/48 M:
Vinyl chloride % by wt (塩化ビニルの重量%):70.0±1.0
Vinyl acetate % by wt(酢酸ビニルの重量%):29.0±1.0
Other monomers% by wt(他のモノマーの重量%):約1.0
Acid value mg KOH/g polymer(酸価 mg KOH/g):7.0±1.5
with hydroxyl groups (ヒドロキシル基を有するもの)
E15/40 A:
Vinyl chloride % by wt (塩化ビニルの重量%):84.0±1.0
Vinyl acetate % by wt(酢酸ビニルの重量%):(空白)
Other monomers% by wt(他のモノマーの重量%):約16.0
Acid value mg KOH/g polymer(酸価 mg KOH/g):(空白)」(6頁(表))。
「ビンノール(登録商標)E15/45M」、「ビンノール(登録商標)H15/45M」、「ビンノール(登録商標)H15/45M special」、「ビンノール(登録商標)H30/48M」について、「Application(応用分野)」の欄において、「Metal coating(金属コーティング)」、「Protective coatings for metallized film (金属化されたフィルムの保護コーティング)」が、いずれも「●(Recommended(推奨))」であり、「Printing Inks, Gravure printing(グラビア印刷用の印刷インキ)」が、「●(Recommended(推奨))」又は「○(Suitable(適する))」が記載されている(10?11頁(表))。
「VNNOL(R) surface coating resins without functional groups adhere outstandingly to porous and absorbent substrates, such as paper and wood, but they only bond well to metal substrates if modified with VINNOL(R) resins containing carboxyl groups (VTNNOL(R) M grades)
(官能基を有さないビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂は、紙や木などの多孔質および吸収性基材に非常によく接着するが、カルボキシル基を含むビンノール(登録商標)樹脂で変性した場合にのみ金属基材によく接着する(ビンノール(登録商標)Mグレード))」(20頁右3?9行)
「VINNOL(R) surface coating resins with carboxyl groups(VINNOL(R) M grades)
VINNOL(R) surface coating resins with carboxyl groups (vinyl chloride/vinyl acetate/dicarboxylic acid-based terpolymers) adhere outstandingly to ferrous and non-ferrous metals.
(カルボキシル基を有するビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂(ビンノール(登録商標)Mグレード
カルボキシル基を有するビンノール(登録商標)表面被覆樹脂(塩化ビニル/酢酸ビニル/ジカルボン酸ベースのタ-ポリマー)は、鉄及び非鉄金属に著しく付着する。)」(21頁左1?7行)
「The brochure "VINNOL(R) SURFACE COATING RESINS - VINYL CHLORIDE CO- AND TERPOLYMERS" describes the properties, application areas and advantages that VINNOL(R) offers for the formulation of
- Industrial coatings,
- Printing inks and
- Heat-sealable and heat-seal-resistant
coatings for aluminum foil
(その特性、その適用分野及びビンノール(登録商標)が提供する以下の配合の利点について説明する:
-工業用コーティング、
-印刷インキ、
-アルミホイル用のヒートシール可能な及びヒートシール耐性コーティング)」(3頁)
「VINNOL(R) SURFACE COATING RESINS FOR PRINTING INKS (印刷インキ用ビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂)」(24頁上)
「This section details the uses of VINNOL(R) surface coating resins as binders for the formulation of printing inks (この項では、印刷インキを配合するためのバインダーとしてのビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂の使用法が詳説させる。)」(24頁左)
「Vinyl chloride copolymers generally offer:- High toughness and permanent flexibility,
- High abrasion resistance,
- High water and chemical resistance,
- Flame retardance,
- Good solubility and ease of processing
・・・
They are therefore the main binders for formulating:
- Screen-printing inks,
- Gravure inks,
- InkJet inks,
- Transfer printing inks, as well as
- Overprint varnishes
(塩化ビニル共重合体は一般に以下を提供する:
-高い靭性と恒久的な柔軟性、
-高い耐摩耗性、
-高い耐水性及び耐薬品性、
-難燃性、
-優れた溶解性及び加工の容易さ)
・・・
それ故、以下を形成するための主なバインダーである:
スクリーン印刷インキ、
グラビアインキ、
インクジェットインク、
印刷インキの転写、
オーバープリントワニス)」(24頁中1?18行)
「FORMULATION OF INKS BASED ON VINNOL(R) SURFACE COATING RESINS
VINNOL(R) E grades are produced by emulsion polymerization and are therefore particularly suitable for formulating pigmented systems for pigment concentrates and for milling pigments that are hard to disperse.
・・・
Printing inks based on VINNOL(R) surface coating resins may be pigmented by-Milling the pigments in the binder solution(varnish) and
-Blending with pigment preparations
・・・
Among the best solvents for VINNOL(R) surface coating resins are ketones and esters. Detailed information on solubility is contained in the solubility tables for VINNOL(R) surface coating resins on pages 12-15
(ビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂をベースにしたインクの調合
ビンノール(登録商標)Eグレードは乳化重合で製造されているため、顔料濃縮物や分散しにくい顔料を粉砕することによる顔料配合系に特に適している。
・・・
ビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂をベースにした印刷インキは、下記によって顔料が含有されてもよい:
-バインダー溶液(ニス)中の顔料を粉砕すること、及び、
-顔料配合物と混合すること
・・・
ビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂に最適な溶剤は、ケトンとエステルである。溶解性に関する詳細な情報は、12?15ページのビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂の溶解性表に記載されている。)」(25頁中1?26行)
「VINNOL(R) surface coating resins with carboxyl groups (VINNOL(R) M grades) VINNOL(R) surface coating resins with carboxyl groups (vinyl chloride/vinyl acetate/dicarboxylic acid-based terpolymers)adhere outstandingly to ferrous and non-ferrous metals. This property and the possibility of blending the VINNOL(R) M grades with VINNOL(R) surface coating resins without functional groups and low K value allows the formulation of screen-printing and gravure inks for metals.
(カルボキシル基を有するビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂(ビンノール(登録商標)Mグレード)
カルボキシル基を有するビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂(塩化ビニル/酢酸ビニル/ジカルボン酸ベースの三元重合体)は、鉄および非鉄金属に非常によく接着する。この特性、ビンノール(登録商標)Mグレードの、官能基を有さないビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂とのブレンドの可能性及び低いK値は、金属用のスクリーン印刷及びグラビアインキの配合を可能とする。)」(26頁中1?13行)
「VINNOL(R)-BASED HEAT-SEALABLE COATINGS FOR ALUMINUM FOIL
By virtue of its special properties,
・・・
- outstanding adhesion to aluminum
- ・・・the VINNOL(R) M range (VTNNOL(R) resins containing carboxyl groups), is an ideal binder for heat-sealable coatings for aluminum foil in the packaging sector.
(アルミホイル用のビンノール(登録商標)をベースとするヒートシール可能なコーティング
-アルミニウムへの優れた接着性を有する
-・・・ビンノール(登録商標)Mの種類(カルボキシル基を含むビンノール(登録商標)樹脂)は、包装分野のアルミ箔のヒートシール可能なコーティングに理想的なバインダーである。)」(27頁上、中)
「Solvents
In the application areas mentioned above, VINNOL(R) H15/45 M is usually applied as a 20 % solution in methylethyl ketone (MEK)or 1/1 mixtures of methyl ethyl ketone/ethyl acetate. Ethyl acetate alone or acetone may also serve as solvent. However, these solvents have slightly less solvent power than methyl ethyl ketone and yield solutions that are more viscous.
(溶剤
上記した応用において、ビンノール(登録商標)H15/45Mは、通常、メチルエチルケトン(MEK)又はメチルエチルケトン/酢酸エチルの1/1混合物中の20%溶液として適用される。酢酸エチル単独またはアセトンも溶媒として有用でありうる。しかしながら、これらの溶媒はメチルエチルケトンよりもわずかに低い溶解力を有し、より粘稠な溶液を生じる)」(30頁左3?13行)

(4)甲4
甲4には、「Vinnol(R) Surface-Coating Resins Vinyl Chlorid Co- and Terpolymers (ビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂 塩化ビニル共-及び三元重合体)」(表紙)について、次の記載がある。
「It also provides details of their properties, scope of use and advantages that they offer in the formulation of
- Industrial coatings,
- Printing inks and
- Heat-sealable and heat-seal-resistant coatings for aluminum foil
(その特性、その使用範囲及びビンノール(登録商標)が提供する以下の配合の利点の詳細についても説明する:
-工業用コーティング
-印刷インキ
-アルミホイル用のヒートシール可能な、及び、ヒートシール耐性コーティング)」(1頁)
「Carboxylgroups containing Vinnol(R) resins, the Vinnol(R) M grades, are terpolymers of vinyl chloride, vinyl acetate and dicarboxylic acids.
(カルボキシル基を含むビンノール(登録商標)樹脂、ビンノール(登録商標)Mグレードは、塩化ビニル、酢酸ビニル及びジカルボン酸の三元重合体)」(3頁左23?25行)
「Polymer products that contains a dicarboxylic acid in addition to vinyl chloride and vinyl acetate exhibit excellent adhesion, particularly to metallic substrates.
(塩化ビニルおよび酢酸ビニルに加えてジカルボン酸を含有するポリマー製品は、特に金属基材に対して優れた接着性を示す)」(3頁右15?18行)」
「At any rate, crosslinking systems undergo an increase in thermo-mechanical
resistance and, depending on the extent of cross-linking, in surface
hardness and abrasion resistance.
(どのような比であれ、架橋系は、増大した熱機械的耐性を示し、そして架橋の程度に応じて、増大した表面硬度および耐摩耗性を示す」(3頁右下から4?末行)」
「with carboxyl groups (カルボキシル基を有するもの)
E15/45M:
Vinyl chloride % by wt (塩化ビニルの重量%):84.0±1.0
Vinyl acetate % by wt(酢酸ビニルの重量%):15.0±1.0
Other monomers% by wt(他のモノマーの重量%):約1.0
Acid value mg KOH/g polymer(酸価 mg KOH/g):7.5±1.5
E15/48M:
Vinyl chloride % by wt (塩化ビニルの重量%):85.6±1.0
Vinyl acetate % by wt(酢酸ビニルの重量%):13.7±1.0
Other monomers% by wt(他のモノマーの重量%):約0.7
Acid value mg KOH/g polymer(酸価 mg KOH/g):7.5±1.5
H15/45M :
Vinyl chloride % by wt (塩化ビニルの重量%):84.0±1.0
Vinyl acetate % by wt(酢酸ビニルの重量%):15.0±1.0
Other monomers% by wt(他のモノマーの重量%):約1.0
Acid value mg KOH/g polymer(酸価 mg KOH/g):7.0±1.5」
「Main fields of appliaction
Metal paints, ・・・, printing inks(gravure, silk-screen)
(主な用途 金属ペンキ・・・印刷インキ(グラビア、シルクスクリーン))」(6頁(表))。」
「E15/45M、E15/48M、H15/45M」について、
「Ketones、Ester」が「Soluble(可溶)又はPartially soluble(一部可溶)」(8、9頁表)
「Vinnol(R) surface-coating resins for printing inks
This section describes the usages of Vinnol(R) surface-coating resins as binders for the formulation of printing inks.
・・・
Vinyl chloride copolymers generally offer:
- High toughness and permanent flexibility
- High abrasion resistance
- High water and chemical resistance
- Flame retardance
- Good solubility and ease of processing
・・・
They are therefore the main binders for formulating:
- Screen-printing inks
- Gravure inks
- Transfer printing inks, as well as
- Overprint varnishes
(印刷インキ用ビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂
この項では、印刷インキを配合するためのバインダーとしてのビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂の使用法について記載する。
塩化ビニル共重合体は一般に以下を提供する:
-高い靭性と恒久的な柔軟性
-高い耐摩耗性
-高い耐水性及び耐薬品性
-難燃性
-優れた溶解性及び加工の容易さ
・・・
それ故、以下を形成するための主なバインダーである:
スクリーン印刷インキ
グラビアインキ
印刷インキの転写
オーバープリントワニス)」(16頁左)
「Formulation of inks based on Vinnol(R) surface-coating resins
・・・
Printing inks based on Vinnol(R) surface-coating resins may be pigmented by
- Milling the pigments in the binder solution (varnish) and
- Blending with pigment preparations
(ビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂をベースにしたインクの調合
・・・
ビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂をベースにした印刷インキは、下記によって顔料が含有されてもよい:
-バインダー溶液(ニス)中の顔料を粉砕すること、及び、
一顔料配合物と混合すること)」(17頁左)
「Vinnol(R) surface-coating resins with carboxyl groups (Vinnol(R) M grades)
Vinnol(R) surface-coating resins with carboxyl groups (vinyl chloride/vinyl acetate/dicarboxylic acid-based terpolymers) adhere outstandingly to ferrous and non-ferrous metals. This property and the possibility of blending the Vinnol(R) M grades with Vinnol(R) surface-coating resins without functional groups and low K-value allows the formulation of screen-printing and gravure inks for metals.
(カルボキシル基を有するビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂(ビンノール(登録商標)Mグレード)
カルボキシル基を有するビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂(塩化ビニル/酢酸ビニル/ジカルボン酸ベースの三元重合体)は、鉄および非鉄金属に非常によく接着する。この特性、ビンノール(登録商標)Mグレートの、官能基を有さないビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂とのブレンドの可能性及び低いK直は、金属用のスクリーン印刷及びグラビアインキの配合を可能とする。)」(18頁左1?10行)
「Vinnol(R)-based heat-sealable coatings for aluminum foil
By virtue of its special properties, namely:
Outstanding adhesion to aluminum
・・・
the Vinnol(R) M range (carboxyl groups containing Vinnol(R) resins), whether alone or in combination with the Vinnol? H range, is an ideal binder for heat- sealable coatings for aluminum foil in the packaging sector.
(アルミホイル用のビンノール(登録商標)をベースとするピートシール可能なコーティング
その特別な特性のために、
アルミニウムへの優れた接着性
・・・
ビンノール(登録商標)Mの種類(カルボキシル基を含むビンノール(登録商標)樹脂)は、単独で、又はビンノール(登録商標)Hの種類と組み合わせて、包装分野のアルミ箔のヒートシール可能なコーティングに理想的なバインダーである)」(19頁右1?15行)
「Solvents
In this application areas mentioned above, Vinnol(R) H 15/45 M is usually applied as a 20% solution in methyl ethyl ketone(MEK)or 1/1 mixtures of methyl ethyl ketone/ethyl acetate. Ethyl acetate or acetone may also serve as the sole solvent. However, these solvents have slightly less solvent power than methyl ethyl ketone and yield solutions that are more viscous.
(溶剤
上記した応用において、ビンノール(登録商標)H15/45Mは、通常、メチルエチルケトン(MEK)又はメチルエチルケトン/酢酸エチルの1/1混合物中の20%溶液として適用される。
酢酸エチル単独またはアセトンも溶媒として有用でありうる。しかしながら、これらの溶媒はメチルエチルケトンよりもわずかに低い溶解力を有し、より粘稠な溶液を生じる。」(21頁右3?10行)

2.甲1?4に記載された発明(甲1?4発明)
(1)甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の【0019】に記載された実施例1の白インキは、「アルミナ処理とアルミナ・シリカ処理の各酸化チタン:20g、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂:15g、トルエン:15g、メチルエチルケトン(MEK):50gをそれぞれ130mlガラス瓶に配合し、1.8mmチタニアビーズを100g加えて試験用分散機にて各酸化チタンの分散を行い、白インキを作製した。」ものである
また、「これらの白インキの経時安定性と硬質アルミニウム箔上での白さ(隠蔽性)の比較を行った」(【0019】)ことから、甲1の実施例1の白インキは、硬質アルミニウム箔用といえる。

そうすると、甲1の実施例1として次の白インキが記載されていると認められる。
「アルミナ処理又はアルミナ・シリカ処理の酸化チタン:20g、
塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂:15g、
トルエン:15g、及び、
メチルエチルケトン(MEK):50gを含む、
硬質アルミニウム箔用白インキ」(以下、「甲1発明」という。)

(2)甲2に記載された発明(甲2発明)
甲2の【0022】に記載された実施例3の白インキは、「アルミナ処理とアルミナ・ジルコニア処理の各酸化チタン:20g、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂:15g、トルエン:15g、メチルエチルケトン(MEK):50gをそれぞれ130mlガラス瓶に配合し、1.8mmチタニアビーズを100g加えて試験用分散機にて各酸化チタンの分散を行い、白インキを作製した。」ものであり、「これらの白インキの経時安定性と硬質アルミニウム箔上での白さ(隠蔽性)の比較を行った」(【0023】)るから、甲2の実施例3の白インキは、硬質アルミニウム箔用といえる。

そうすると、甲2には、実施例3として次の白インキが記載されていると認められる。
「アルミナ処理又はアルミナ・ジルコニア処理の酸化チタン:20g、
塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂:15g、
トルエン:15g、及び、
メチルエチルケトン(MEK):50gを含む、
硬質アルミニウム箔用白インキ」(以下、「甲2発明」という。)

(3)甲3に記載された発明(甲3発明)
甲3の上記1(3)の30頁左3?13行の当審仮訳の下線部の記載から、甲3には、ビンノール(登録商標)H15/45Mは、塩化ビニル/酢酸ビニル/ジカルボン酸ベースの三元重合体であって、酸価が7.0±1.5mg KOH/gであり、メチルエチルケトン(MEK)又はメチルエチルケトン/酢酸エチルの1/1混合物中の20%溶液として適用されることが記載されている。
なお、甲3の24頁中には、ビンノール(登録商標)表面コーティング樹脂は、グラビアインクの主なバインダーであることが記載され、同25頁中1?26行には、ビンノール(登録商標)表面コーティン樹脂をベースとした印刷インキは、顔料配合物と混合されることが記載され、同27頁上中には、アルミ箔のヒートシール可能なコーティングに理想的なバインダーであることが記載されている(上記1(3)の当審仮訳の下線部を参照されたい。)。

そうすると、甲3には、メチルエチルケトン/酢酸エチルの1/1混合物中の20%溶液として適用されるビンノール(登録商標)H15/45Mの溶液として、
「メチルエチルケトン/酢酸エチルの1/1混合物の20%溶液として適用される塩化ビニル/酢酸ビニル/ジカルボン酸ベースの三元重合体であり、酸価が7.0±1.5mg KOH/gであるビンノール(登録商標)H15/45Mの溶液」(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

(4)甲4に記載された発明(甲4発明)
甲4についても、甲3同様に、
「メチルエチルケトン/酢酸エチルの1/1混合物の20%溶液として適用される塩化ビニル/酢酸ビニル/ジカルボン酸ベースの三元重合体であり、酸価が7.0±1.5mg KOH/gであるビンノール(登録商標)H15/45Mの溶液」(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

第5 当審の判断
1.(理由1)?(理由3)について
(1)本件発明1について
ア 甲1発明を主引用発明とした場合
甲1発明の「アルミナ処理又はアルミナ・シリカ処理の酸化チタン」は、本件発明1の「顔料」に相当する。
また、甲1発明の「塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂」は、本件発明1の「バインダー樹脂」であって、「塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(A)」に相当する。
そして、甲1発明の「トルエン」及び「メチルエチルケトン(MEK)」は、本件発明1の「有機溶剤」に相当し、甲1発明の「メチルエチルケトン(MEK)」は、本件発明1の「ケトン系有機溶剤」に相当する。
また、本件発明1の「アルミニウム基材用グラビアインキ」と甲1発明の「白インキ」とは「インキ」である点で共通する。
なお、甲1発明は、磁性粉を含有していない。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「顔料、バインダー樹脂、および有機溶剤を含有するインキであって、前記バインダー樹脂が、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(A)からなり、
有機溶剤が、ケトン系有機溶剤を含む、インキ。(ただし、磁性粉を含有する場合を除く。)」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点1)
インキの用途について、本件発明1は、「アルミニウム基材用グラビアインキ」であるのに対し、甲1発明のインキは、「硬質アルミニウム箔用」である点。
(相違点2)
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(A)の酸価について、本件発明1は、「1?25mgKOH/g」であるのに対し、甲1発明の塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂の酸価は不明な点。
(相違点3)
有機溶剤について、本件発明1は、エステル系有機溶剤を含み、質量比(ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤)が85/15?50/50であるのに対し、甲1発明は、エステル系有機溶剤を含まない点。

ここで、事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
甲1の【0011】には、「塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂」として「日信化学 SOLBIN C、WACKER E15/40A TF」が唯一例示されているが、甲3の6頁の表には、「E15/40A」は、ヒドロキシル基を有するものに分類され、カルボキシル基を有するものではなく、酸価は示されていない。
よって、甲1発明の塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂の酸価は、本件発明1と相違するものであり、また、甲1には、本件発明1の塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合樹脂を用いることについて、示唆されていないと解するのが妥当である。
また、甲1には、「錠剤,カプセル剤などの医薬品の包装には、PTP包装体(プレススルーパック)が用いられることが多」(【0002】)く、「本発明は、主にPTP包装体の蓋材に用いられる積層シートに関する」(【0001】)ものであり、「PTP包装体は、」「アルミニウム箔などからなる蓋材で被覆されている」(【0002】)ことが記載されている。
また、甲1には、「PTP包装体の蓋材には視認性や前記バーコードなどの読み取りを良好にするため、アルミニウム箔上に白着色層を設けて、その上にバーコードの印刷を施すことがよく行われている」(【0004】)ことが記載されている。
そうすると、甲1発明は、PTP包装体のアルミニウム箔などからなる蓋材に対して設けられる白着色層の白インキであることが理解できる。
そして、PTP包装体は医薬品の錠剤やカプセル剤に対する包装体であるから、一般に、乱雑に扱われることはなく、PTP包装体の白色層に白色層を削ぐような摩擦が加えられることは想定されていないといえる。しかも、PTP包装体は錠剤やカプセルを取り出した後は、直ちに廃棄されるものである。そうすると、金属に対して密着性や耐摩擦性が求められる金属コーティングや金属化されたフィルムの保護コーティングといったものとは異なり、甲1発明によって形成される白着色層は、アルミニウム箔に対する密着性や耐摩擦性は求められていないというべきである。

これに対し、甲3には、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂である「ビンノール(登録商標)E15/45M」、「ビンノール(登録商標)H15/45M」、「ビンノール(登録商標)H15/45M special」及び「ビンノール(登録商標)H30/48M」について、それらの酸価が1?25mgKOH/gの範囲内のものであり、いずれも、金属コーティング、金属化されたフィルムの保護コーティング、グラビア印刷用の印刷インキに用いられるものであって、ビンノール(登録商標)Mグレードのようなカルボキシル基を含むものは金属基材によく接着することが記載されている。

しかしながら、上述したように、甲1発明においては、アルミニウム箔に対する密着性や耐摩擦性が良好なバインダー樹脂を用いることが望ましいという課題を見出すことができず、甲1発明において、甲3又は甲4に記載された酸価が1?25mgKOH/gの範囲内の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂をバインダー樹脂として採用する動機付けがあるとはいえない。

そして、本件明細書【0018】には、「塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂が酸価1?25mgKOH/gを有する場合にアルミニウムとの密着性が飛躍的に向上する」ことが記載され、同【0071】の【表3】には、そのような塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂をバインダー樹脂として含むグラビアインキによる、アルミ箔、アルミ蒸着PET、及び、アルミ蒸着CPPに印刷されたインキ被膜について、密着性、耐水性、及び、耐摩擦性が良好なことが確認されており、本件発明1は、上記相違点2に係る発明特定事項を備えることで、格別顕著な作用効果を奏するものと認められる。

また、甲5?20には、本件発明1の上記相違点2に係る発明特定事項は開示されていない。

したがって、相違点1、3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲3、4に記載された発明、並びに、甲5?20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。

イ 甲2発明を主引用発明とした場合
甲2発明は、甲1発明において、「アルミナ処理又はアルミナ・シリカ処理の酸化チタン」を「アルミナ処理又はアルミナ・ジルコニア処理の酸化チタン」としたものであり、甲2発明の「アルミナ処理又はアルミナ・ジルコニア処理の酸化チタン」は、本件発明1の「顔料」に相当するものである。
また、甲2発明は、甲1発明と同様に、PTP包装体のアルミニウム箔などからなる蓋材に対して設けられる白着色層の白インキである。
なお、甲2には、「塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂」ついての例示はない。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、甲1発明と同様な一致点及び相違点を有するものであり、上記アで述べた理由と同様な理由から、本件発明1は、甲2発明及び甲3、4に記載された発明、並びに、甲5?20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。

ウ 甲3発明を主引用発明とした場合
甲3発明の「ビンノール(登録商標)H15/45M」及び「メチルエチルケトン/酢酸エチルの1/1混合物の20%溶液」は、本件発明1の「バインダー樹脂」及び「ケトン系有機溶剤およびエステル系有機溶剤を含み、質量比(ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤)が85/15?50/50である」「有機溶剤」にそれぞれ相当する。
そして、本件発明1の「アルミニウム基材用グラビアインキ」と甲3発明の「ビンノール(登録商標)H15/45Mの溶液」とは、溶液である点で共通する。
また、甲3発明の「ビンノール(登録商標)H15/45M」の酸価は、本件発明1の範囲に含まれる。
なお、甲3発明には、磁性粉は含まれない。

そうすると、本件発明1と甲3発明とは、
「バインダー樹脂、および有機溶剤を含有する溶液であって、前記バインダー樹脂が、酸価が1?25mgKOH/gである塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(A)からなり、
有機溶剤が、ケトン系有機溶剤およびエステル系有機溶剤を含み、質量比(ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤)が85/15?50/50である溶液。(ただし、磁性粉を含有する場合を除く。)」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点4)
溶液の成分について、本件発明1は「顔料」を含むのに対し、甲3発明は、含まない点。
(相違点5)
溶液の用途について、本件発明1は、「アルミニウム基材用グラビアインキ」であるのに対し、甲3発明の用途は規定されていない点。

ここで、事案に鑑み、まず、相違点5について検討する。
甲3には、ビンノール(登録商標)H15/45Mは、グラビア印刷用の印刷インキとして用いられること、及び、アルミ箔のヒートシール可能なコーティングに理想的なバインダーであることは記載されているものの、ビンノール(登録商標)H15/45Mの溶液について、「インキ」の「アルミニウム基材用」としての用途は例示されていない。
また、甲3発明について、「アルミニウム基材用」の「インキ」としての用途が当業者にとって自明なものとはいえない。

一方、甲1、2には、アルミニウム箔に対するインキが記載されているものの、上記アで述べたように、甲1、2に記載されたインキによる白着色層は、アルミニウム箔に対する密着性や耐摩擦性は求められているものとはいえず、甲3発明をアルミニウム基材に対するインキに適用する動機付けがあるとはいえない。

また、甲5?20には、甲3発明のような、酸価が1?25mgKOH/gである塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂をバインダーとするインキを「アルミニウム基材用」とすることは記載も示唆もされていない。

これに対し、上記アで述べたように、本件発明1は、アルミニウム基材のインキ被膜が、密着性、耐水性、及び、耐摩擦性が良好なものとなるという、「アルミニウム基材用」として、甲3発明からは予測し得ない格別顕著な作用効果を奏するものである。

したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲1、2に記載された発明、並びに、甲5?20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。

エ 甲4発明を主引用発明とした場合
甲3発明と甲4発明とに差異はなく、甲3発明と同様に、本件発明1は、甲4発明及び甲1、2に記載された発明、並びに、甲5?20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。

(2)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用しさらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明?甲4発明、及び、甲5?20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、申立人の理由1?理由3には、理由がない。

2.(理由4)について
「ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤が質量比」について、本件明細書には、「ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤が質量比で85/15?50/50の範囲が保存安定性により優れる」(【0041】)ことが記載され、実施例1?6では、「ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤が質量比で70/30」のものが保存安定性に優れることが確認されている。
そして、平成31年1月28日付け意見書において、当該質量比が85/15(参考実施例2)のもの、及び、当該質量比が50/50(参考実施例3)のものについて、保存安定性に優れることが示されている。

そうすると、当該「質量比(ケトン系有機溶剤/エステル系有機溶剤)が85/15?50/50」の範囲全体で保存安定性に優れたものとなることを認識することができるといえる。

したがって、申立人の上記理由4には理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-01-07 
出願番号 特願2016-186858(P2016-186858)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C09D)
P 1 651・ 121- Y (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 緒形 友美  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 川端 修
瀬下 浩一
登録日 2019-03-29 
登録番号 特許第6500868号(P6500868)
権利者 東洋インキSCホールディングス株式会社 東洋インキ株式会社
発明の名称 アルミニウム基材用グラビアインキおよび印刷物  

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