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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C12Q |
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管理番号 | 1358673 |
異議申立番号 | 異議2019-700801 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-10-03 |
確定日 | 2020-01-27 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6493209号発明「核酸増幅法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6493209号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6493209号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年8月1日(優先権主張 平成25年8月6日、平成26年3月25日)を国際出願日とする出願であって、平成31年3月15日にその特許権の設定登録がされ、同年4月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1?5に係る特許について、同年10月3日に特許異議申立人 谷口真魚により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 特許第6493209号の請求項1?5の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1?5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】精製工程を経ていない、動植物組織、体液、排泄物、細胞、細菌、及びウイルスからなる群から選択される生体試料を核酸増幅反応液に添加し、該生体試料中の標的核酸を増幅する方法であって、パイロコッカス(Pyrococcus)属またはサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌から単離されるファミリーBに属するDNAポリメラーゼと、配列番号21または配列番号22で示されるアミノ酸配列において、下記(a)および(b)で示される群の位置に存在するアミノ酸残基のうち少なくとも一つの改変を有し、かつ、増幅増強活性を示すポリペプチドからなるProliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA)を反応液中に含んでいることを特徴とする核酸増幅法。 (a)82、84および109番目のアミノ酸残基群 (b)139、143および147番目のアミノ酸残基群 【請求項2】生体試料が、血液、唾液、白血球、植物ライセート、糞便、爪、髪、及び口腔粘膜からなる群から選択されるいずれかである請求項1に記載の核酸増幅法。 【請求項3】PCNAが単独でDNAにロードする変異体である、請求項1または2に記載の核酸増幅法。 【請求項4】PCNAが、配列番号21または配列番号22で示されるアミノ酸配列において、以下の(b1)から(b4)のいずれかの変異体である、請求項1?3のいずれかに記載の核酸増幅方法。 (b1)143番目に相当するアミノ酸を塩基性アミノ酸に改変したもの (b2)82番目と143番目に相当するアミノ酸を共に中性アミノ酸に改変したもの (b3)147番目に相当するアミノ酸を中性アミノ酸に改変したもの (b4)109番目と143番目に相当するアミノ酸を共に中性アミノ酸に改変したもの 【請求項5】PCNA変異体が、配列番号21または配列番号22で示されるアミノ酸配列において、以下の(b1)または(b2)のいずれかのアミノ酸に置換された変異体である請求項1?4のいずれかに記載の核酸増幅方法。 (b1)143番目のアミノ酸がアラニンまたはアルギニンに置換された変異体 (b2)147番目のアミノ酸がアラニンまたはアルギニンに置換された変異体」 第3 申立理由の概要及び証拠方法 特許異議申立人が請求項1?5に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び証拠方法は、次のとおりである。 1.申立理由の概要 本件特許発明1?5は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明及び甲第3?4号証に記載された事項並びに甲第5?8号証に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?5は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 2.証拠方法 (1)甲第1号証: Tks Gflex^(TM) DNA Polymeraseのパンフレット(2012) (2)甲第2号証:タカラバイオ PCR Enzymes Guide 2012-2013(2012)目次、p.5?7、巻末頁 (3)甲第3号証:生化学(2009)Vol.81,No.12,p.1056-1063 (4)甲第4号証:国際公開第2007/004654号 (5)甲第5号証:生物工学(2012)Vol.90,No.10,p.649-653 (6)甲第6号証:Anal.Sci.(2009)Vol.25,No.12,p.1487-1489 (7)甲第7号証:UPLOAD(2008)Vol.92,p.15-16 (8)甲第8号証:KOD FX 実験例集(2009)表紙、p.1?14、巻末頁 第4 甲号証の記載 甲第1号証?甲第8号証には、以下の事項が記載されている(英語または中国語で記載されている証拠は、日本語訳で摘記する。)。 1.甲第1号証:Tks Gflex^(TM) DNA Polymeraseのパンフレット(2012) (甲1-1)「クルードサンプル PCR阻害物質を吸収する成分&増幅増強成分のバッファー系への添加で対応力アップ!」(第1頁) (甲1-2)「改良型のα型酵素で鋳型への非特異的結合を抑制 鋳型DNAに対してDNAポリメラーゼそのものが非特異的に結合することによって、プライマーからの伸長反応が阻害される現象が見られることがあります。一般的にα型酵素はこの非特異的結合が起こりやすく、そのためにPCR増幅が困難になる面がありました。Tks Gflex^(TM) DNA Polymeraseは、Thermococcus属細菌由来のDNAポリメラーゼをベースに改良を加え、鋳型DNAへの過剰な結合を抑制することに成功しました。α型酵素特有の高い正確性に加えて優れた反応性を示します。」(第1頁) (甲1-3)「独自の伸長因子を採用 生体内で、DNAポリメラーゼは伸長因子と複合体を形成してDNA複製を行っています。 上記の改良型酵素とPrimeSTAR^((R))シリーズでも採用している弊社独自の改変型伸長因子を組み合わせることで、優れた伸長性と反応スピードを持つ酵素となりました。」(第1頁)(合議体注:上記(R)は白抜き丸の中にR。以下同じ。) (甲1-4)「 」(第1頁) (甲1-5)「クルードサンプルからも強力に増幅 マウス尾ライセートをはじめとする様々なクルードサンプルを鋳型とした場合でも、Tks Gflex^(TM)を用いることで高効率なPCRが可能です。 」(第3頁) (甲1-6)「 」(第4頁) 2.甲第2号証:タカラバイオ PCR Enzymes Guide 2012-2013(2012)目次、p.5?7、巻末頁 (甲2-1)「Tks Gflex^(TM) DNA Polymeraseは、Thermococcus属古細菌由来のDNA Polymeraseをベースに、反応阻害の要因となる酵素の鋳型DNAに対する非特異的結合を抑制した改良型PCR酵素です。」(第5頁) (甲2-2)「PrimeSTAR^((R))シリーズでも採用している弊社独自の改変型伸長因子を上記の改良型酵素と組み合わせることで、優れた伸長性と反応スピードを持つ酵素となりました。」(第5頁) (甲2-3)「クルードサンプル、GCリッチ・ATリッチ・長鎖などの難増幅配列からも特異的な増幅が可能となり、PCRの反応成功率が大幅にアップしました。」(第5頁) (甲2-4)「 」(第5頁) (甲2-5)「一般的に、α型酵素は反応に最適な鋳型濃度の範囲が狭く、特に鋳型DNAを多量に加えた場合にかえってPCR反応が阻害される傾向があります。Tks Gflex^(TM)はPCR増幅の阻害要因となる過剰な鋳型DNAへの非特異的結合を抑制した改良型酵素を採用している」(第6頁) (甲2-6)「 」(第6頁) (甲2-7)「クルードサンプルからの増幅 」(第7頁) 3.甲第3号証:生化学(2009)Vol.81,No.12,p.1056-1063 (甲3-1)「真核生物およびアーキアではPCNA(proliferating cell nuclear antigen)が三量体で環状構造を形成する。筆者らは、P.furiosus由来PCNA(PfuPCNA)の結晶構造から、分子間に働くイオン対が環状構造の安定性に重要であることを見出した。そして、環状構造の安定性を変えることによって、in vitroにおけるDNA合成反応の促進作用を制御できることを発見した。野生型では増幅反応にとってむしろ阻害的に働くPCNAが、環状構造の安定性を下げる変異の導入によって、劇的に促進作用を発揮することを見出した。このことを利用してPCNAをPCRに利用することに成功した。」(要約、第3行?第9行) (甲3-2)「DNAポリメラーゼが鋳型DNA鎖に対して、効率よく相補鎖を合成していく際に、DNAポリメラーゼがDNA鎖から滑り落ちないように留めておくためにクランプ(スライディングクランプ)分子が働き、そのクランプ分子をDNA鎖上に乗せる役割を担うクランプローダーが存在する(図1a)^(2))。」(第1056頁右欄第1行?第6行) (甲3-3)「 」(第1057頁、図1a) (甲3-4)「 」(第1057頁、表1) (甲3-5)「PCNAリングの外側でこのような水素結合が観察されるのに対して、リングの内側では、境界面においてN末端側ドメインには正に荷電するアミノ酸が(Arg82、Lys84、Arg109)、C末端側ドメインには負に荷電するアミノ酸(Glu139、Asp143、Asp147)が分布しており、これらがイオン対ネットワークを形成している(図3a)^(7))。前述のように、このイオン対ネットワークがPfuPCNAの特徴であるので、これがPfuPCNAの環状構造形性に果たす役割を調べるために、PfuPCNAのAsp143およびAsp147をAlaに置換した変異体(D143A、D143A/D147A)、Asp143を逆電荷のArgに置換した変異体(D143R)を作製し、構造および機能解析を行った。」(第1058頁右欄第29行?第1059頁左欄第9行) (甲3-6)「これらの結果は、D143、D147が関与するイオン対形成がPfuPCNAの正しい環状構造形成に大きく寄与していることを示している。」(第1059頁左欄第17行?第19行) (甲3-7)「変異型PfuPCNAの2種(D143A、D143A/D147A)を野生型PfuPCNAと比べてみたところ、変異型PfuPCNA(D143A/D147A)は予想通りであったが、驚いたことに、変異型PfuPCNA(D143A)は野生型PfuPCNAよりもより強くDNA鎖合成を促進した^(8))。」(第1059頁左欄第22行?第26行) (甲3-8)「PfuPCNAの環状構造の安定性がDNAポリメラーゼ活性にどのような影響を及ぼすかについてさらに詳しく調べるために、環状構造の安定性が異なる4種類の(野生型、変異型(D143A、D143A/D147A、D143R))を用いて、反応溶液中のイオン強度を変えながら、in vitroでDNAポリメラーゼ(PfuPolB)によるDNA鎖合成の促進作用を比較した。高次構造形成により特定の部位で停止する傾向のある鋳型DNAを用いて、PCNAによるDNA鎖合成促進活性を調べてみたところ、0?80mM塩化ナトリウムの範囲では環状構造の安定性が低い変異型PfuPCNA(D143A/D147A、D143R)がより強い促進活性を示し、」(第1061頁左欄第21行?第32行) (甲3-9)「PCNAをPCRにうまく利用するためには、セルフローディング/アンローディングが素早く起こるような環状構造の安定性を有するPCNAの変異体を利用すればいいのではないかと筆者らは考えた。すなわち環状構造をより不安定化させた変異体PfuPCNAの中には、それ自身でDNAへの解離と再結合を繰り返すことができる適度な安定性を有するものがあるのではないかと考え、実験してみた。」(第1061頁右欄第24行?第31行) (甲3-10)「PCRをモデルとして、PfuPCNAを加えない時には全く増幅産物が検出されない条件下でPfuPCNAの促進効果を見た。PfuPCNAは前述のDNA鎖伸長活性を比較した時と同様に、野生型PfuPCNAと3種類の変異型PfuPCNAを用いて比較した。その結果は、低塩濃度におけるDNA鎖伸長活性測定の時と同様に、環状構造が不安定化した変異型PfuPCNA(D143A/D147A、D143R)を用いた時に、顕著に目的の増幅産物が検出された。」(第1062頁左欄第1行?第9行) (甲3-11)「 」(第1062頁、図6) 4.甲第4号証:国際公開第2007/004654号 (甲4-1)「[1]PCNAの単量体であって、 単量体のN末端側領域と他の単量体のC末端側領域とが界面となって多量体を形成した場合に、各単量体の界面領域で単量体相互の分子間相互作用を形成する部位のアミノ酸残基が、電荷的に反発しあうアミノ酸残基で構成され、かつ、 単量体のまま又は多量体を形成して、DNA複製を促進する活性を備える、変異型PCNA単量体。 [2]前記PCNA単量体が、配列番号2又は32に記載のアミノ酸配列の場合における第82番目、第84番目、第109番目、第139番目、第143番目および第147番目からなる群より選ばれる少なくとも1つの位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に換えたアミノ酸配列を有し、 下記(i)群から選ばれる少なくとも1つ以上のアミノ酸残基と、下記(ii)群から選ばれる1つ以上のアミノ酸残基とが電荷的に反発しあうアミノ酸残基により構成される、請求項1に記載の変異型PCNA単量体。 (i)第82番目、第84番目および第109番目のアミノ酸残基群 (ii)第139番目、第143番目および第147番目のアミノ酸残基群 ・・・・・・・・・ [5]前記(i)群から選ばれる少なくとも1つ以上アミノ酸と(ii)群から選ばれる少なくとも1つ以上のアミノ酸とが、双方とも酸性アミノ酸、または双方とも塩基性アミノ酸である、請求項2から4のいずれか1項に記載の変異型PCNA単量体。 [6]配列番号2又は32に記載のアミノ酸配列において、第143番目のアミノ酸残基をアルギニンに換えた配列を有する、請求項2から5のいずれか1項に記載の変異型PCNA単量体。」(請求項1、2、5、6) (甲4-2)「その結果、一方の単量体のN末端側領域と他の単量体のC末端側領域とが界面となって多量体を形成した場合に、界面領域において単量体相互の分子間相互作用を形成する部位のアミノ酸残基が、他方の単量体の界面領域内のアミノ酸残基と相互に電荷的反発を生じるアミノ酸残基で構成されるように調製することにより、RFCの有無にほとんど依存せず、伸長性、忠実性のバランス良くDNAの伸長反応を促進し得る作用を備えたPCNAが得られるという知見を得、本発明を完成させるに至った。」([0021]) (甲4-3)「本発明は、DNA複製反応をより促進し得るように、PCNA単量体の界面領域のアミノ酸配列を特定したものである。本発明のPCNAは、菌主の異なる多数のDNAポリメラーゼにも適用性があり、汎用性が高い。また、本発明のPCNAは、RFCを併用しない場合でも優れたDNA伸長促進活性を発揮する点において、従来に比し極めて特異な性能を発揮し得るものである。」([0023]) (甲4-4)「図2に、Pyrococcus・furiosus PCNAの分子間相互作用のモデル図を示す。図2では、配列番号2に記載のアミノ酸配列(野生型Pfu-PCNAのアミノ酸配列)を有するPCNAについて説明する。一方の単量体10aのN末端側領域内に含まれるアミノ酸残基と、他方の単量体10cのC末端側領域内とに含まれるアミノ酸残基とが分子間対を形成する。図2に示すように、配列番号2に記載のアミノ酸配列における、139番目、第143番目および第147番目のアミノ酸残基群と、第82番目、第84番目、第109番目のアミノ酸残基群とが、相互に影響しあうネットワークを形成すると考えられる。」([0030]) (甲4-5)「 」(図2) (甲4-6)「本発明のDNA複製方法は、PCNA単量体および/または前記単量体で構成された多量体およびDNAポリメラーゼの存在下でDNAの合成反応を行うことを特徴とする。DNAの合成方法としては、PCR、プライマーエクステンション、ニックトランスレーション、逆転写酵素によるFirst strand cDNA合成、などが挙げられる。」([0055]) (甲4-7)「本発明のPCNAは、様々なDNAポリメラーゼと相性がよく、汎用性が高い。DNAポリメラーゼは、通常、伸長性または忠実性のいずれか一方に優れ、一長一短があるのが一般的である。しかし、本発明のPCNAと組み合わせることにより、忠実性を低下させずに、伸長性を向上し得るため、DNAポリメラーゼの短所を補強しつつDNA複製活性が増強され得る。本発明のDNA複製方法において用いるDNAポリメラーゼとして好ましくは、例えば、Pyrobest DNA Polymerase(タカラバイオ社)、TaKaRa EX Taq(タカラバイオ社)、Vent DNA Polymerase(NEW ENGLAND Bio Labs社)、Deep VentR DNA Polymerase(New England Biolabs社)、Pfu Turbo DNA Polymerase(ストラタジーン社)、KOD DNA Polymerase(東洋紡社)、およびPwo DNA Polymerase(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)など、現在主要に用いられているDNAポリメラーゼのほとんどに適用し得る。また、本発明のPCNAは特に伸長性向上に有効であり、忠実性には優れるが、伸長性に劣るタイプのα型ポリメラーゼとの組み合わせにおいて特に有用である。 本発明のDNA複製方法においては,本発明のPCNAがRFCを必要としないことから,反応系にRFCを添加しなくてよい。」([0057]?[0058]) (甲4-8)「 」([0088]、表2) (甲4-9)「 」([0288]、表18) 5.甲第5号証:生物工学(2012)Vol.90,No.10,p.649-653 (甲5-1)「超好熱アーキア由来の酵素は、真核生物の複製酵素と共にファミリーB(前述のPolα様酵素)に属する。」(第651頁左欄第17行?第19行) 6.甲第6号証:Anal.Sci.(2009)Vol.25,No.12,p.1487-1489 (甲6-1)「鋳型としてヒト毛根を直接使用する、単純で、労力のいらない、安価かつ迅速なSNPジェノタイピング法を開発した。該シングルチューブ・ジェノタイピング法は、毛根(DNA単離なしに)およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)酵素キットKOD FXを用いてADH1B及びALDH2多型を首尾よく、かつ、確実にジェノタイプするのに使用された。」(要約、第1行?第4行) (甲6-2)「PCR増幅酵素キットKOD FXは、Thermococcus kodakaraensis由来の新規なKOD DNAポリメラーゼ KOD1に基づいており、生物試料中に存在する阻害物質を効果的に中和する。さらに、該システムは、紙上で乾燥させた全血からのDNAを抽出することなく、試料の再現可能なハイスループット直接PCR増幅に寄与する。」(第1487頁左欄第26行?第32行) 7.甲第7号証:UPLOAD(2008)Vol.92,p.15-16 (甲7-1)「KOD FXを用いた植物ライセートからの直接PCR」(第15頁、表題) (甲7-2)「『KOD FX』は、様々な優れた特性を有するPCR酵素『KOD FX』をベースに開発された高性能PCR試薬です。・・・・・・本酵素では、クルードなサンプルを鋳型に用いた場合においても、高いPCR成功率を示し、確実な結果を期待することができます。」(第15頁、「はじめに」第1行?第3行) 8.甲第8号証:KOD FX 実験例集(2009)表紙、p.1?14、巻末頁 (甲8-1)「高成功率PCR酵素 KOD FX 実験例集」(表紙、表題) (甲8-2)「応用編 クルードサンプルのPCR 実験例1 全血サンプルの増幅例(血液を直接サンプルとして使用)」(第5頁、第1行?第2行) (甲8-3)「結果 結果のように、KOD FXを使用した場合のみ、異なる血液量でもすべてはっきりとした増幅ができます。さらに、KOD FXを使用すると最大8.5kbの目的断片の増幅ができます。」(第5頁、第22行?第24行) 上記記載事項(甲1-1)?(甲1-6)又は上記記載事項(甲2-1)?(甲2-7)から、甲第1号証又は甲第2号証には、「動植物組織から選択されるクルードサンプルを核酸増幅反応液に添加し、該サンプル中の標的核酸を増幅する方法であって、サーモコッカス(Thermococcus)属の細菌から単離されるα型DNAポリメラーゼと、改変型伸長因子を反応液中に含んでいる核酸増幅法。」の発明が記載されていると認められる。 第5 当審の判断 1.本件特許発明1について 甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明の「クルードサンプル」は、本件特許発明1の「精製工程を経ていない」「生体試料」に相当し、また、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明の「サーモコッカス(Thermococcus)属の細菌から単離されるα型DNAポリメラーゼ」が、ファミリーBに属することは技術常識である(例えば、甲第5号証の上記記載事項(甲5-1))から、本件特許発明1と甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明とを対比すると、両者は、「精製工程を経ていない、動植物組織、体液、排泄物、細胞、細菌、及びウイルスからなる群から選択される生体試料を核酸増幅反応液に添加し、該生体試料中の標的核酸を増幅する方法であって、パイロコッカス(Pyrococcus)属またはサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌から単離されるファミリーBに属するDNAポリメラーゼを反応液中に含んでいることを特徴とする核酸増幅法。」に係る発明である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点)本件特許発明1は、「配列番号21または配列番号22で示されるアミノ酸配列において、下記(a)および(b)で示される群の位置に存在するアミノ酸残基のうち少なくとも一つの改変を有し、かつ、増幅増強活性を示すポリペプチドからなるProliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA) (a)82、84および109番目のアミノ酸残基群 (b)139、143および147番目のアミノ酸残基群」を反応液中に含んでいるのに対し、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明は、「改変型伸長因子」を含んでいる点。 相違点について検討する。 甲第3号証、甲第4号証には、パイロコッカス(Pyrococcus)属またはサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌由来のPCNAのアミノ酸配列において、143番目、147番目、82番目及び109番目のアミノ酸残基のうち少なくとも一つの改変を有し、かつ、増幅増強活性を示すポリペプチドからなるPCNA変異体が記載されており、また、該PCNA変異体を、パイロコッカス(Pyrococcus)属またはサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌由来のファミリーBに属するDNAポリメラーゼと組み合わせて核酸増幅に用いることが記載されていると認められる(上記記載事項(甲3-1)?(甲3-6)、上記記載事項(甲4-1)?(甲4-7))が、甲第3号証、甲第4号証には、該PCNA変異体を、精製工程を経ていない、動植物組織等の生体試料から核酸を増幅する際に使用することなどは記載も示唆もされておらず、精製工程を経ていないクルードな生体試料という過酷な条件で使用し得るとは当業者は解することができない。 異議申立人は、甲第1号証、甲第2号証の図(上記記載事項(甲1-4)、(甲1-6)、(甲2-4)、(甲2-6))が、甲第3号証の図(上記記載事項(甲3-3)、(甲3-11))と類似していることに基づき、甲第3号証、甲第4号証のPCNA変異体を甲第1号証、甲第2号証の「改変型伸長因子」の代わりに用いることができる旨主張する。 しかしながら、いずれの甲号証にも、「改変型伸長因子」がPCNAの改変型であることを示す記載はなく、また、図が似ているというだけで、甲第1号証、甲第2号証に記載されている「改変型伸長因子」の代わりに、甲第3号証、甲第4号証に記載されているPCNA変異体を用いることの動機付けになるものとはいえない。 加えて、甲第1号証、甲第2号証には、「改変型伸長因子」が、どのような改変を有する伸長因子であるのか何ら具体的に記載されておらず、甲第3号証、甲第4号証には、改変型伸長因子とPCNA変異体が対応することの記載も示唆もなく、また、上述のとおり、PCNA変異体を、精製工程を経ていない、動植物組織等の生体試料から核酸を増幅する際に使用することの記載も示唆もないから、甲第3号証、甲第4号証に記載された事項が、甲第1号証、甲第2号証に記載されている「改変型伸長因子」の代わりに、甲第3号証、甲第4号証に記載されているPCNA変異体を用いることの動機付けになるものとはいえない。 また、甲第6?8号証に記載されているように、精製工程を経ていない生体試料から核酸を増幅する際に、サーモコッカス(Thermococcus)属の細菌由来のファミリーBに属するDNAポリメラーゼを使用することが本願優先日前周知技術であったとしても、甲第3号証、甲第4号証に記載のPCNA変異体がクルードな生体試料で核酸増幅に使用し得ると当業者が理解し得なければ、甲第1号証、甲第2号証に記載されている「改変型伸長因子」の代わりに、甲第3号証、甲第4号証に記載されているPCNA変異体を用いることの動機付けになるものとはいえない。 よって、甲第3?4号証に記載された事項及び甲第5?8号証に記載されている周知技術を参照しても、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明において、「改変型伸長因子」の代わりに、「配列番号21または配列番号22で示されるアミノ酸配列において、(a)82、84および109番目のアミノ酸残基群および(b)139、143および147番目のアミノ酸残基群で示される群の位置に存在するアミノ酸残基のうち少なくとも一つの改変を有し、かつ、増幅増強活性を示すポリペプチドからなるProliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA)」を用いることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。 そして、本件特許発明1は、パイロコッカス(Pyrococcus)属またはサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌から単離されるファミリーBに属するDNAポリメラーゼと、特定のアミノ酸残基に改変を有するPCNAを用いることにより、精製工程を経ていない、動植物組織等の生体試料から核酸増幅することができるという効果を奏するのに対し、甲第1号証には、クルードサンプルについて、「PCR阻害物質を吸収する成分&増幅増強成分のバッファー系への添加で対応力アップ!」(上記記載事項(甲1-1))と記載されているように、Tks Gflex^(TM) DNA Polymeraseにおいて、クルードサンプルを鋳型とした場合でも高効率なPCRが可能となったのは、「PCR阻害物質を吸収する成分」や「増幅増強成分」をバッファー系へ添加したことによる効果であると認められるから、本件特許発明1の効果は、甲第1号証又は甲第2号証の記載から当業者が予測し得ないものである。 したがって、本件特許発明1は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明及び甲第3?4号証に記載された事項並びに甲第5?8号証に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2.本件特許発明2?5について 本件特許発明2?5は、本件特許発明1に更なる限定を加えた発明であるから、上記1.で述べたように、本件特許発明1が、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明及び甲第3?4号証に記載された事項並びに甲第5?8号証に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2?5も、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明及び甲第3?4号証に記載された事項並びに甲第5?8号証に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由によっては、本件特許発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-01-16 |
出願番号 | 特願2015-530854(P2015-530854) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C12Q)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 竹内 祐樹 |
特許庁審判長 |
中島 庸子 |
特許庁審判官 |
高堀 栄二 常見 優 |
登録日 | 2019-03-15 |
登録番号 | 特許第6493209号(P6493209) |
権利者 | 東洋紡株式会社 |
発明の名称 | 核酸増幅法 |