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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1358935
審判番号 不服2018-4157  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-27 
確定日 2020-01-15 
事件の表示 特願2016-541948「逸泥用途のための新規なセメント組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月28日国際公開、WO2015/076838、平成28年11月24日国内公表、特表2016-536432〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)11月25日を国際出願日とする出願であって、平成29年3月13日付けで拒絶理由が通知され、同年10月10日に意見書及び誤訳訂正書が提出され、同年11月21日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成30年3月27日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同時に手続補正がされ、同年10月4日付けで、当審により、拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成31年4月9日に意見書及び手続補正書が提出され、同年4月25日に上申書が提出されたものである。

第2 本願発明
1 本願の特許請求の範囲の請求項1?23に係る発明(以下、項番号に対応して、「本願発明1」などといい、これらをまとめて「本願発明」という。)は、平成31年4月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項により特定されるところ、その請求項1、12には、次の2、3のように記載されている。
2 本願発明1
「地下層をセメント固定する方法であって、
セメント状用材、水性ベース流体、ナノ粒子、合成粘土、及び珪酸ナトリウム、珪酸、及びその組み合わせから選択されるチキソトロピー調整剤を含むセメント組成物を供給する工程であって、固体材料含有量が、前記セメント組成物の総質量の0?40質量%であり、前記ナノ粒子が、ナノシリカ、ナノ炭酸塩、ナノアルミナ、及びその任意の組み合わせの少なくとも1つを含む工程、
前記セメント組成物を地下層に導入する工程、
前記セメント組成物を地下層において固まらせる工程、
を含むことを特徴とする方法。」
3 本願発明12
「坑井セメント組成物であって、
セメント状用材と、
水性ベース流体と、
ナノ粒子と、
合成粘土と、
珪酸ナトリウム、珪酸、及びその組み合わせから選択されるチキソトロピー調整剤と、
を含み、固体材料含有量が、前記セメント組成物の総質量の0?40質量%であり、前記ナノ粒子が、ナノシリカ、ナノ炭酸塩、ナノアルミナ、及びその任意の組み合わせの少なくとも1つを含むことを特徴とするセメント組成物。」

第3 当審拒絶理由
当審拒絶理由の要旨は、概ね次の理由1、2を含む。
「1 理由1(進歩性)この出願の請求項1?25に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の引用例1、2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例1:米国特許出願公開第2012/0192768号明細書
引用例2:特表2009-518276号公報

2 理由2(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」

第4 当審の判断
1 理由1(特許法第29条第2項に規定する要件(進歩性))についての検討
(1)引用例の記載
ア 引用例1(括弧内は、当審による仮訳。下線は当審が付与した。)
引用例1には、「LOST CIRCULATION COMPOSITIONS AND ASSOCIATED METHODS(逸泥組成物及び関連する方法)」(発明の名称)について、次の記載がある。
「SUMMARY
[0006] The present invention relates to servicing a well bore and, in certain embodiments, to the introduction of compositions into a well bore to reduce the loss of fluid into the formation.
(発明の概要
[0006] 本発明は、井孔を提供するように、特定の実施形態では、地層への流体の損失を減少させるために、井戸穴中への組成物の導入に関する。)」「[0007] An embodiment includes a method of servicing a well bore. The method may comprise introducing a lost circulation composition into a lost circulation zone, the lost circulation composition comprising hydraulic cement, nano-particles, amorphous silica, clay, and water. The method further may comprise allowing the lost circulation composition to set in the lost circulation zone.
([0007] ひとつの実施形態は、坑井を整備する方法を含む。この方法は、逸泥組成物を逸泥区域に導入することを含んでもよい。該逸泥組成物は、水硬性セメント、ナノ粒子、非晶質シリカ、粘土、及び水を含んでいる。)」「[0008] Another embodiment includes a method of servicing a well bore. The method may comprise introducing a lost circulation composition into a lost circulation zone. The lost circulation composition may comprise Portland cement in an amount of about 10% to about 20% by weight of the lost circulation composition, nano-silica in an amount of about 0.5% to about 4% by weight of the lost circulation composition, the nano-silica having a particle size of about 1 nanometer to about 100 nanometers, amorphous silica in an amount of about 5% to about 10% by weight of the lost circulation composition, synthetic clay in an amount of about 0.5% to about 2% by weight of the lost circulation composition, and water in an amount of about 60% to about 75% by weight of the lost circulation composition. The method further may comprise allowing the lost circulation composition to set in the lost circulation zone.
([0008] 別の実施形態は、坑井を整備する方法を含む。この方法は、逸泥部分への逸泥組成物を導入することを含んでもよい。該逸泥組成物は、逸泥組成物の重量に対し、約10重量%?約20重量%の量のポルトランドセメント、逸泥組成物の重量に対し、約0.5重量%?約4重量%の量の、約1ナノメートル?約100ナノメートルの粒径を有するナノ-シリカ、逸泥組成物の重量に対し、約5重量%?約10重量%の量の非晶質シリカ、逸泥組成物の重量に対し、約0.5重量%?約2重量%の量の合成粘土、及び、逸泥組成物の重量に対し、約60重量%?約75重量%の量の水を含むことができる。この方法は、さらに、逸泥区域で、逸泥組成物を固めることを可能とすることを含んでもよい。)」
「[0029] Other additives suitable for use in subterranean cementing operations also may be added to embodiments of the lost circulation compositions, in accordance with embodiments of the present invention. Examples of such additives include, but are not limited to, strength-retrogression additives, set accelerators, set retarders, weighting agents, lightweight additives, gas-generating additives, mechanical property enhancing additives, lost-circulation materials, filtration-control additives, dispersants, a fluid loss control additive, defoaming agents, foaming agents, thixotropic additives, and combinations thereof. An example of a suitable fluid loss control additive is HALAD R(当審注:○の中にR) 344 fluid loss additive, available from Halliburton Energy Services, Inc. Specific examples of these, and other, additives include crystalline silica, fumed silica, salts, fibers, hydratable clays, calcined shale, vitrified shale, microspheres, fly ash, slag, diatomaceous earth, metakaolin, rice husk ash, natural pozzolan, zeolite, cement kiln dust, lime, elastomers, resins, latex, combinations thereof, and the like. By way of example, retarders may be included for high temperatures and heavy weight additives may be incorporated for high density composition. A person having ordinary skill in the art, with the benefit of this disclosure, will readily be able to determine the type and amount of additive useful for a particular application and desired result.
(地下セメンチング作業に使用するのに適した他の添加剤を逸泥組成物に添加してもよく、本発明の実施例に合致する。そのような添加剤の例としては、限定されるものではないが、強度退行剤、添加剤、凝結促進剤、硬化遅延剤、増量剤、軽量添加剤、ガス発生添加剤、機械的特性向上添加剤、逸泥材料、濾過制御添加剤、分散剤、流体損失制御添加剤、消泡剤、発泡剤、チキソトロピー調整剤、及びこれらの組み合わせが挙げられる。好適な流体損失制御添加剤の例は、Halliburton Energy Services, Inc.から入手可能なHALAD 344(登録商標)である。他の添加剤の例として、結晶性シリカ、フュームドシリカ、塩、繊維、水和粘土、か焼頁岩、ガラス質の頁岩、微小球、フライアッシュ、スラグ、珪藻土、メタカオリン、もみ殻灰、天然ポゾラン、ゼオライト、セメントキルンダスト、石灰、エラストマー、樹脂、ラテックス、及び、これらの組み合わせなどが挙げられる。一例として、高温になる場合、重い添加剤を含有する場合には、遅延剤を含んでもよい。高濃度組成物に配合することができる。当該分野における通常の知識を有する者は、本開示に基づき、特定の用途及び所望の結果に有用な添加剤の種類及び量を容易に決定することができる。)」

イ 引用例2
引用例2には、「凝結性複合材料用の多機能組成物および該組成物の製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に凝結性複合材料中に配合する組成物に関し、特に、複合材料の密度の調整およびその材料の強度発現速度の増進を含む多機能性を発揮する組成物に関する。本発明は、この組成物およびこの組成物を配合している複合材料の製造方法にも関する。」
「【0051】【表3】

【0052】
表3に見られるように、この実施例において2段階方法により生成された好ましい実施形態のスラリー形態の多機能添加剤は、水ガラス(ケイ酸ナトリウム、SiO_(2)/Na_(2)O重量比=2.99)約22%、および低密度ケイ酸質粒子約78%(共に全固形分の%として計算した)を含有していた。大気圧および100℃で著しいケイ酸塩の溶解が行われた事実はかなり驚くべきことである。これは、水ガラスを生成させるのに高い圧力および温度が要求される現在の学説および実践に反することである。学説に捉われようとせずに、微粉砕前に既に露出していた表面よりも反応性に富む可能性のあるさらなる表面領域が、微粉砕工程により露出したと考えられる。原材料を配合し、液相の体積を最大としかつ固相を最少とするまたは無くするように工程を実行する従来のケイ酸ナトリウム製造方法に反して、本開示ではケイ酸質固体を増加させる方法を教示している。」
「【0054】
表4に示す処方および当技術分野で知られている方法を用い、2種の軽量繊維補強セメント系配合組成物を調製した。配合物(A)は、密度調整剤として市販等級の未改質LDAを、また凝結/硬化促進剤としてケイ酸ナトリウム(水ガラス)を含有する。配合物(B)は、水ガラスおよび未改質LDA市販添加剤を置換して実施例1で作製した多機能添加剤スラリーを含有している。配合物A&Bの他の成分は、シリカ量における小さな百分率の変動を除いて実質的に同じである。」
「【0057】【表4】


「【0092】
本発明の好ましい実施形態は、凝結性複合材料の硬化速度を速めかつ密度を調整する、低コストの水ガラス(ケイ酸ナトリウム)などのアルカリ性活性化化合物、および高品質、低密度の添加剤の同時生産方法を、比較的単純かつ費用効果的工程により提供する点が有利である。」

(2)引用発明の認定
上記(1)アの下線部から、引用例1には、「ポルトランドセメント、ナノ-シリカ、非晶質シリカ、合成粘土、及び、水を含む逸泥組成物」が記載されており、[0008]には、該逸泥組成物が、約10重量%?約20重量%の量のポルトランドセメント、逸泥組成物の重量に対し、約0.5重量%?約4重量%の量の、約1ナノメートル?約100ナノメートルの粒径を有するナノ-シリカ、約5重量%?約10重量%の量の非晶質シリカ、約0.5%?約2%の量の合成粘土、及び、約60%?約75%の量の水を含むことが記載されている。
そして、[0008]に記載された当該組成物を用いた坑井を整備する方法に着目すると、引用例1には、
「ポルトランドセメント、ナノ-シリカ、非晶質シリカ、合成粘土、及び、水を含む逸泥組成物を供給する工程であって、
該逸泥組成物が、約10重量%?約20重量%の量のポルトランドセメント、逸泥組成物の重量に対し、約0.5重量%?約4重量%の量の、約1ナノメートル?約100ナノメートルの粒径を有するナノ-シリカ、約5重量%?約10重量%の量の非晶質シリカ、約0.5重量%?約2重量%の量の合成粘土、及び、約60重量%?約75重量%の量の水を含む工程、
該逸泥組成物を逸泥部分へ導入する工程、
逸泥区域で該逸泥組成物を固める工程、を含む坑井を整備する方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

また、引用例1には、「坑井を整備する方法」に用いられる「ポルトランドセメント、ナノ-シリカ、非晶質シリカ、合成粘土、及び、水を含む逸泥組成物」に着目すれば、
「坑井を整備する方法に用いられるポルトランドセメント、ナノ-シリカ、非晶質シリカ、合成粘土、及び、水を含む逸泥組成物であって、
該逸泥組成物が、約10重量%?約20重量%の量のポルトランドセメント、逸泥組成物の重量に対し、約0.5重量%?約4重量%の量の、約1ナノメートル?約100ナノメートルの粒径を有するナノ-シリカ、約5重量%?約10重量%の量の非晶質シリカ、約0.5重量%?約2重量%の量の合成粘土、及び、約60重量%?約75重量%の量の水を含む逸泥組成物。」(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比・判断
ア 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「逸泥組成物」、「ポルトランドセメント」、「ナノ-シリカ」、「合成粘土」及び「水」は、本願発明1の「セメント組成物」、「セメント状用材」、「ナノ粒子」、「合成粘土」及び「水性ベース流体」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「坑井を整備する方法」は、地下層を含む「坑井」において、「セメント状用材」を「固める」ことを含むから、本願発明1の「地下層をセメント固定する方法」に相当し、引用発明の「逸泥組成物を供給する工程」、「逸泥組成物を逸泥部分へ導入する工程」及び「逸泥区域で該逸泥組成物を固める工程」は、本願発明1の「セメント組成物を供給する工程」、「セメント組成物を地下層に導入する工程」及び「セメント組成物を地下層において固まらせる工程」にそれぞれ相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「地下層をセメント固定する方法であって、
セメント状用材、水性ベース流体、ナノ粒子、及び、合成粘土を含むセメント組成物を供給する工程、
前記セメント組成物を地下層に導入する工程、
前記セメント組成物を地下層において固まらせる工程、
を含む方法。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点1)
セメント組成物において、本願発明1は、「珪酸ナトリウム、珪酸、及びその組み合わせから選択されるチキソトロピー調整剤」を含むのに対し、引用発明は、そのような成分は含まない点。
(相違点2)
セメント組成物において、セメント組成物の総質量に対する固体材料含有量が、本願発明は、「0?40質量%」であるのに対し、引用発明は、不明な点。

ここで、相違点について検討する。
(相違点1について)
引用例1の[0029]には、セメント組成物に対して、凝結促進剤やチキソトロピー調整剤などの添加剤を添加することが記載されている。
そして、引用例2には、セメント系配合組成物に、凝結/硬化促進剤として「ケイ酸ナトリウム(水ガラス)」を含有させることが記載されており、「ケイ酸ナトリウム(水ガラス)」は、チキソトロピー調整剤としての作用効果があることは周知である。
(たとえば、特開平8-67875号公報には、次の記載がある。
「【0009】一方、高モル比の水ガラスとスラグの混合は一般にチキソトロピックな現象が起こりやすくてゲル化時間が不明瞭で混合初期から比較的高粘性で強度も弱体化しているものが多い。」
「【0012】水ガラス-スラグの系では、水ガラスのモル比が2.8近辺を境として、これ以下でしかも微粒子スラグを使用して、浸透性の向上および固結強度の増強が図られ、モル比がこれ以上になると、チキソトロピックな現象が起こりやすく、ゲル化時間が非常に長びいて不明瞭になり、かつ高粘性で浸透性が悪く、したがって、固結強度も弱体化するの一般的であった。」
そうすると、上記文献には、水ガラス-スラグの系において、水ガラスのモル比が2.8を超えるものを混合した場合には、水ガラス-スラグの系チキソトロピックな現象が起こりやすくなることが記載されていると認められ、引用例2に用いられている「ケイ酸ナトリウム(水ガラス)」のモル比は、表3によれば、2.99と高く、高モル比の水ガラスということができ、引用例2に記載された水ガラスがチキソトロピー調整剤としての作用効果を有することは周知であるといえる。)

したがって、引用例2において、凝結/硬化促進剤として「ケイ酸ナトリウム(水ガラス)」を含有させること、及び、該「ケイ酸ナトリウム(水ガラス)」は、チキソトロピー調整剤としての作用効果があることを、当業者が認識できるというべきである。

してみると、引用発明において、さらなる添加剤として、凝結促進剤あるいはチキソトロピー調整剤であるケイ酸ナトリウム(水ガラス)を含むようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点2について)
引用発明は、約60重量%?約75%の量の水を含むから、固体材料含有量は残部の約25重量%?約40重量%ということができ、引用発明において、「ケイ酸ナトリウム(水ガラス)」を含有させたとしても、引用例2の表4によれば、その配合量は15%程度であり、固体材料含有量は「0?40質量%」の範囲内のものとなるといえる。

(効果について)
下記2のとおり、本願発明は、その全般に渡って所望の作用効果を奏するものとはいえない。また、本願発明1における引用発明において、「ケイ酸ナトリウム(水ガラス)」を含有させたものは、凝結/硬化が促進するものであって、(相違点1について)で検討したとおり、チキソトロピー性が付与されることは自明であり、本願発明における「向上した流体力学的特性及び揺変性特性を有する」(本願明細書【0035】)という作用効果は、当業者が容易に予測し得るものである。
したがって、本願発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。

イ 本願発明12について
本願発明12と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「坑井を整備する方法に用いられる」「逸泥組成物」は、本願発明12の「坑井セメント組成物」に相当する。
引用発明2の「ポルトランドセメント」、「ナノ-シリカ」、「合成粘土」及び「水」は、本願発明12の「セメント状用材」、「ナノ粒子」、「合成粘土」及び「水性ベース流体」にそれぞれ相当する。

そうすると、本願発明12と引用発明2とは、
「坑井セメント組成物であって、
セメント状用材と、
水性ベース流体と、
ナノ粒子と、
合成粘土とを含み、
前記ナノ粒子が、ナノシリカ、ナノ炭酸塩、ナノアルミナ、及びその任意の組み合わせの少なくとも1つを含むセメント組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点3)
セメント組成物において、本願発明12は、「珪酸ナトリウム、珪酸、及びその組み合わせから選択されるチキソトロピー調整剤」を含むのに対し、引用発明2は、そのような成分は含まない点。
(相違点4)
セメント組成物において、セメント組成物の総質量に対する固体材料含有量が、本願発明12は、「0?40質量%」であるのに対し、引用発明2は、不明な点。

ここで、相違点について検討する。
上記相違点3及び4は、上記アの相違点1及び2と、それぞれ同じであり、上記アで検討したとおり、本願発明12は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。

2 理由2(特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件))についての検討
(1)本願発明1、12が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たすかどうかを、いわゆる大合議判決(平成17年(行ケ)10042号、知財高裁平成17年11月11日判決)の観点、すなわち、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲の記載に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」に照らして検討する。

(2)本願発明の課題(本願発明が解決しようとする課題)
ア 本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある(下線は当審が付与した。)
「【技術分野】
【0001】
セメンチングは、一般的な坑井作業(well operation)である。例えば、水硬セメント組成物は、ケーシング又はライナなど、一続きのパイプが坑井においてセメント固定されるセメンチング作業において使用することができる。セメント固定された一続きのパイプは、坑井の異なる領域を互いから及び表面から隔離する。水硬セメント組成物は、ケーシングのプライマリセメンチングにおいて、又は、仕上げ作業において使用することができる。水硬セメント組成物は、また、高透水性領域又は過多の水を生成する恐れがある領域内の断裂に栓をするなど、パイプストリングの割れ又は孔などに栓をする介入作業において利用することができる。」
「【0004】
従来のセメントは、特に海水又は汽水(brackish water)を使用することにより、全損失から成る地下層(subterranean formation)など厳しい環境において効果が劣る恐れがある。更に、シリカライトの品質は、また、セメントの有効性を低減する恐れがある。したがって、逸泥(lost circulation)用途において有用であり、簡単に混合することができ、かつ、厳しい環境に対応することができるセメントスラリを特定することが必要である。」

イ 本願発明の課題について
上記アの【0004】から、本願発明の課題は、「逸泥(lost circulation)用途において有用であり、簡単に混合することができ、かつ、厳しい環境に対応することができるセメントスラリを特定すること」と認められる。
そして、上記「厳しい環境」とは、同【0004】に示された「逸泥(lost circulation)用途」を指し、具体的には、同【0001】に記載された「高透水性領域又は過多の水を生成する恐れがある領域内の断裂に栓をするなど、パイプストリングの割れ又は孔などに栓をする介入作業」である、ということができる。

(3)判断
ア 発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【0003】
水硬セメントは、水と混合されたとき、水との化学反応のため、経時的に硬化するつまり固まる材料である。これは水との化学反応であるので、水硬セメントは、水中でさえ固まることができる。水硬セメント、水、及び任意の他の成分は、スラリの初期状態において水硬セメント組成物を形成するために混合され、該スラリは、組成物を坑井にポンプ送入するため、かつ、井戸内の所望の坑底場所での配置のための固化前の十分な時間にわたる流体であるべきである。」
「【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、一般に、地下作業におけるセメント組成物の使用に関し、更に詳しくは、厳しい状態における逸泥用途向けのセメント組成物、及び、これらの組成物を様々な地下作業において使用する方法に関する。
【0008】
合成粘土及びナノ材料の新奇な使用は、これらを逸泥用途向けのセメント組成物において利用することである。例示的な実施形態において、地下層をセメント固定する方法は、セメント状用材(cementitious material)、水性塩基流体、ナノ粒子、合成粘土、及びチキソトロピー調整剤を含むセメント組成物を供給することであって、固体材料は、セメント組成物の総重量の約0質量%?約40質量%である、供給することと、セメント組成物を地下層に導入することと、及び、セメント組成物が地下層において固まることを可能にすることとを含む。例示的な実施形態において、結果的に得られるセメントは、セメントの総重量の約10質量%?20質量%の固体材料含有量を有する。いくつかの実施形態において、セメント組成物の流動学的性質は、剪断速度に左右される。非ニュートン流体の粘度は、剪断速度の増加とともに減少する。様々な実施形態において、ナノ粒子は、ナノシリカ、ナノ炭酸塩、ナノアルミナ、及びその任意の組み合わせの少なくとも1つを含む。例示的な実施形態において、ナノ粒子は、約0.1?約5.0ガロン/袋の量で存在する。特定の実施形態において、ナノ粒子は、約2?約100ミクロンの直径を有する。いくつかの実施形態において、合成粘土は、水の約0.1%?約3質量%の量で存在する。さらに、実施形態において、セメント組成物に添加される自然粘土は、実質的にない。例示的な実施形態において、チキソトロピー調整剤は、高表面積シリカ、ヒュームドシリカ、珪酸ナトリウム、珪酸、及びその組み合わせから選択され得る。いくつかの実施形態において、チキソトロピー調整剤は、約1%?約150%bwcの量で存在する。多数の実施形態において、水性塩基流体は、淡水、汽水、塩水、及びその組み合わせの少なくとも1つを含み、かつ、セメント組成物の約20%?約80質量%の量でセメント組成物中に存在し得る。様々な実施形態において、セメント状用材は、ポートランドセメント、石膏セメント、高アルミナ含有量セメント、スラグセメント、高マグネシア含有量セメント、頁岩セメント、酸/塩基セメント、フライアッシュセメント、ゼオライトセメントシステム、キルンダストセメントシステム、超微粒セメント、メタカオリン、軽石、及びその組み合わせの少なくとも1つを含む。他の実施形態において、セメント組成物は、樹脂、ラテックス、安定剤、シリカ、ポゾラン、マイクロスフェア、水高吸収剤(aqueous superabsorber)、粘性化剤(viscosifying agent)、懸濁剤、分散剤、塩類、反応促進剤、表面活性物質(surfactant)、遅延剤、脱泡剤、定着防止剤、重み付け材料(weighting material)、流体損失制御剤(fluid loss control agent)、エラストマ、ビトリファイド頁岩、ガス移行制御添加剤、層調整剤(formation control additive)、及び、その組み合わせの少なくとも1つを更に含み得る。
【0009】
本発明は、また、セメント組成物に関する。例示的な実施形態において、坑井セメント組成物は、セメント状用材、塩基水溶液流体、ナノ粒子、合成粘土、及び、チキソトロピー調整剤を含み、固体材料は、セメント組成物の総重量の約0質量%?約40質量%である。例示的な実施形態において、結果的に得られるセメントは、セメントの総重量の約10質量%?20質量%の固体材料含有量を有する。いくつかの実施形態において、セメント組成物の流動学的性質は、剪断速度に左右される。非ニュートン流体の粘度は、剪断速度の増加とともに減少する。様々な実施形態において、ナノ粒子は、ナノシリカ、ナノ炭酸塩、ナノアルミナ、及びその任意の組み合わせの少なくとも1つを含む。例示的な実施形態において、ナノ粒子は、約0.1?約5.0ガロン/袋の量で存在する。特定の実施形態において、ナノ粒子は、約2?約100ミクロンの直径を有する。いくつかの実施形態において、合成粘土は、水の約0.1%?約3質量%の量で存在する。さらに、実施形態において、セメント組成物に添加される自然粘土は、実質的にない。例示的な実施形態において、チキソトロピー調整剤は、高表面積シリカ、ヒュームドシリカ、珪酸ナトリウム、珪酸、及びその組み合わせから選択され得る。いくつかの実施形態において、チキソトロピー調整剤は、約1%?約150%bwcの量で存在する。多数の実施形態において、水性塩基流体は、淡水、汽水、塩水、及びその組み合わせの少なくとも1つを含み、かつ、セメント組成物の約20%?約80質量%の量でセメント組成物中に存在し得る。様々な実施形態において、セメント状用材は、ポートランドセメント、石膏セメント、高アルミナ含有量セメント、スラグセメント、高マグネシア含有量セメント、頁岩セメント、酸/塩基セメント、フライアッシュセメント、ゼオライトセメントシステム、キルンダストセメントシステム、超微粒セメント、メタカオリン、軽石、及び、その組み合わせの少なくとも1つを含む。他の実施形態において、セメント組成物は、樹脂、ラテックス、安定剤、シリカ、ポゾラン、マイクロスフェア、水高吸収剤、粘性化剤、懸濁剤、分散剤、塩類、反応促進剤、表面活性物質、遅延剤、脱泡剤、定着防止剤、重み付け材料、流体損失制御剤、エラストマ、ビトリファイド頁岩、ガス移行制御添加剤、層調整剤、及び、その組み合わせの少なくとも1つを更に含み得る。」
「【0011】
ナノ材料
本発明において有用なナノ構造材料は、ナノシリカ、ナノ炭酸塩、ナノアルミナ、及びその任意の組み合わせを含む。セメント組成物の例示的な実施形態は、ナノシリカを含む。ナノシリカは、粒状ナノシリカとして記述され得る。すなわち、例えば、ナノシリカは、性質は、粒子状であり、コロイド状シリカ、又は、溶液中のシリカの懸濁ではない場合がある。実際、1つの実施形態において、粒状ナノシリカは、乾燥ナノシリカ粉体としてセメント組成物に添加され得る。一般的に、粒状ナノシリカは、100ナノメートル(「nm」)以下の粒度を有するナノシリカと定義され得る。例えば、粒状ナノシリカは、約1nm?約100nmの範囲の粒度を有し得る。特定の例示的な実施形態において、粒状ナノシリカは、約50nm以下の粒度を有し得る。例えば、粒状ナノシリカは、約5nm?約50nmの範囲の粒度を有し得る。更なる例示的な実施形態において、粒状ナノシリカは、約30nm以下の粒度を有し得る。例えば、粒状ナノシリカは、約5nm?約30nmの範囲の粒度を有し得る。しかしながら、粒状ナノシリカは、本発明の実施形態により大きさが異なるシリカ粒子と組み合わせて利用され得ることに注意されたい。例えば、100nmを上回る粒度を有するいくつかのシリカ粒子が、本発明の実施形態によりセメント組成物に含められ得る。」
「【0014】
水性塩基流体
本発明のセメント組成物中の水性塩基流体は、孔への導入に向けてポンプ送入可能なスラリを作製するのに十分な量で存在する。いくつかの実施形態において、水性塩基流体は、淡水、汽水、塩水、及びその組み合わせの少なくとも1つを含む。水は、淡水、汽水、塩水、又は、その任意の組み合わせであり得る。特定の実施形態において、水は、セメント組成物の約20%?約95質量%、セメント組成物の約28%?約90質量%、又は、セメント組成物の約36%?約80質量%の量でセメント組成物中に存在し得る。【0015】
合成粘土
合成粘土が、本発明のセメント組成物中に存在する。好適な合成粘土の実施例としては、英国Cheshire、WidnesのRockwood Additives Limitedから入手可能であるLaponite(商標)EPなどの層状珪酸塩が、これに制限しないが、含まれる。いくつかの実施形態において、本発明のセメントは、自然粘土の添加を含まない。特定の実施形態において、合成粘土は、約0.1?約3.0%wwの量で存在する。
【0016】
チキソトロピー調整剤
チキソトロピー調整剤が、本発明のセメント組成物中に存在する。好適なチキソトロピー調整剤の実施例としては、細かく分けられた高表面積シリカ、ヒュームドシリカ、珪酸ナトリウム、珪酸、及びその組み合わせが挙げられる。市販のバージョンは、TX、HoustonのHalliburton Energy Services.Inc.から入手可能であるMicroblock(商標)である。Econolite(商標)は、また、セメントスラリに揺変性を与えることができる、TX、HoustonのHalliburton Energy Services.Inc.から入手可能であるセメント添加剤である。チキソトロピー調整剤として有用な軽量セメント添加剤である、GasCon(商標)469が、TX、HoustonのHalliburton Energy Services.Inc.から入手可能であり、かつ、一般的に約20nm未満の粒度を有する懸濁珪酸粒子を含むコロイド状珪酸懸濁と定義され得る。特定の実施形態において、チキソトロピー調整剤は、約0.1%?約150%bwcの量で存在する。
【0017】
セメント状用材
水との反応によって固まって硬化するカルシウム、アルミニウム、シリコン、酸素及び/又は硫黄で構成されたセメントを含め、様々なセメントが、本発明において使用することができる。そのような水硬セメントとしては、ポートランドセメント、石膏セメント、高アルミナ含有量セメント、スラグセメント、高マグネシア含有量セメント、頁岩セメント、酸/塩基セメント、フライアッシュセメント、ゼオライトセメントシステム、キルンダストセメントシステム、超微粒セメント、メタカオリン、軽石、及びその組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、好適なAPIポートランドセメントは、クラスA、C、H、及びGである。」
「【0033】
次表6は、淡水及び塩水においてLaponite(商標)EPを含む異なるスラリ混合物の要約を示す。表7は、流動学的性質及びゲル強度を示す。
表6:淡水及び海水中のLaponite(商標)EPの異なるスラリ設計

【0034】
Econolite(商標)は、TX、HoustonのHalliburton Energy Services.Inc.から入手可能である体積及び減少密度を増大させるセメント添加剤である。GGBFスラグは、高炉スラグ微粉末である。Micro Matrix(商標)セメントは、TX、HoustonのHalliburton Energy Services.Inc.から入手可能、かつ、小さい割れの浸透が必要とされるセメンチングに有用である超微粒セメントである。SA-1015(商標)は、TX、HoustonのHalliburton Energy Services.Inc.から入手可能である懸濁剤の役目を果たすセメント添加剤である。Silicalite(商標)セメント添加剤は、細かく分けられた、高表面積シリカから作製され、かつ、TX、HoustonのHalliburton Energy Services.Inc.から入手可能であり、かつ、揺変性を一部のセメントスラリに与えることができる。」

イ(ア)本願発明12は、上記第2 3で示したとおりのものであり、本願発明12は、坑井セメント組成物に、セメント状用材、水性ベース流体、ナノ粒子、合成粘土、及びチキソトロピー調整剤を含んでいる。
そして、セメント状用材、水性ベース流体、ナノ粒子、合成粘土、及びチキソトロピー調整剤についての記載は、それぞれ、本願明細書の【0017】、【0014】、【0011】、【0015】及び【0016】に認められる。

(イ)しかしながら、本願明細書には、セメント状用材、水性ベース流体、ナノ粒子、合成粘土、及びチキソトロピー調整剤がどのように相互に作用することで、「高透水性領域又は過多の水を生成する恐れがある領域内の断裂に栓をするなど、パイプストリングの割れ又は孔などに栓をする介入作業」を含む「逸泥(lost circulation)用途において有用であり、簡単に混合することができ、かつ、厳しい環境に対応することができるセメントスラリを特定すること」が可能となったのかについての記載を見出すことができない。

(ウ)また、平成30年10月4日付けの当審による拒絶理由において、「本願発明の課題は、『逸泥(lost circulation)用途において有用であり、簡単に混合することができ、かつ、厳しい環境に対応することができるセメントスラリを特定すること』(【0004】)と解することができ、本願発明1?25は、いずれも、『セメント状用材、水性ベース流体、ナノ粒子、合成粘土、及び珪酸ナトリウム、珪酸、及びその組み合わせから選択されるチキソトロピー調整剤を含むセメント組成物』を発明特定事項に有するものであるところ、上記発明特定事項を備えた『セメント組成物』が、どのようなメカニズムによって、本願発明の上記課題を解決するものなのか、発明の詳細な説明には明確に記載されていない。」という指摘に対して、請求人は、平成31年4月9日付けの意見書において、次のように述べている。

「本願発明は、合成粘土と、本願発明で採用される特定のチキソトロピー調整剤との相乗効果に由来する発明です。合成粘土を使用しないで、本願発明で採用される特定のチキソトロピー調整剤を使用すると、不可逆的なチキソトロピー性を示し、このことは、セメント組成物が、ゲル化すると、更に剪断力を加えても、再び、チキソトロピー性を有する液体に戻ることはありません。一方、本願発明で採用される特定のチキソトロピー調整剤とともに、合成粘土を併用すると、セメント組成物は、可逆的なチキソトロピー性を示します。即ち、一旦、セメント組成物がゲル状となったとしても、剪断力を加えると、再び、チキソトロピー性を有する液体に戻ります。従って、本願発明では、チキソトロピー調整剤と合成粘土とを併用することにより、セメント組成物が一旦ゲル化しても、井戸内の所望の坑底場所の任意の場所で、再び、固定化(ゲル化)が可能となります(例えば、当初明細書段落0003)。」
「1.1 本願発明では、合成粘土が重要な働きをします。合成粘土は、ゲルネットワークを形成し、チキソトロピー調整剤と組み合わされて、上記で既に説明をしたように、セメント組成物に対するチキソトロピー性を改善します。
1.2 以上の通り、本願発明の課題を解決するための、メカニズムは、明瞭になったものと思料します。また、本件明細書が一旦開示されれば、その記載内容に基づいて、本願発明の作用効果について、当業者であれば、直ちに理解可能です。」

(エ)そこで、以下、本願の発明の詳細な説明において、「合成粘土」と、「本願発明で採用される特定のチキソトロピー調整剤」(珪酸ナトリウム、珪酸、及びその組み合わせから選択されるチキソトロピー調整剤)とを含む本願発明12に係る坑井セメント組成物によって、本願発明の課題が解決することを当業者が認識できるか否かについて検討することとする。

「合成粘土」について、本願明細書の【0015】には、「Laponite(商標)EPなどの層状珪酸塩」を用いることが記載されており、それ以外の「合成粘土」についての記載はない。
そして、実施例として、同【0029】?【0033】に記載された坑井セメント組成物は、本願発明の課題が解決されたことが確認されたものであるとしても、全て、「Laponite(商標)EP」が含まれていて、本願明細書には、「Laponite(商標)EP」以外の合成粘土を含む坑井セメント組成物についても、本願発明の課題が解決されたものとなることは示されていない。

一方、技術常識に照らして、「合成粘土」には、「Laponite(商標)EP」以外の、粒径や結晶構造が異なる層状珪酸塩が含まれることは明らかであって、「Laponite(商標)EP」以外の「合成粘土」を用いた場合においても、「セメント組成物に対するチキソトロピー性を改善」し、本願発明の課題を解決するものとなるかどうかは明らかではない。

たとえば、請求人が平成31年4月9日付けの意見書において提出した甲第3号証の「Laponite EP」の「製造物データ(当審による仮訳。原文:Product Data)」の「混合及び処理に対する指示(Incorporation and Processing Instructions)」には、「Laponite EPは、水中において、他のグレードのLaponiteよりも、素早くゲル構造を生成することに注意してください。(Note that LAPONITE EP will produce gel structure in water more quickly than other grades of LAPONITE.」と記載されており、当該「他のLaponite」は、層状珪酸塩であるのにもかかわらず、「Laponite EP」とは、水中での挙動が異なり、チキソトロピー性に対する作用が異なるものであることが示されているといえる。

また、チキソトロピーは、一般に、ゲル状の物質が示す性質であるから、「合成粘土」に、その平均粒径が数mmといった大きいものが用いられた場合には、「珪酸ナトリウム、珪酸、及びその組み合わせから選択されるチキソトロピー調整剤」と相乗効果が得られるとは認めることができない。

そうすると、「Laponite(商標)EP」以外の「合成粘土」を用いた場合に、常に、「セメント組成物に対するチキソトロピー性を改善」し、本願発明の課題を解決するものとなるとはいえず、本願発明12には、本願発明の課題を解決しない発明を含むといわざるを得ない。

(オ)また、本願発明12に対する本願明細書における実施例は、【0033】に記載されたスラリ13のみであるといえるところ、「スラリ13」には、本願発明12において規定されていない、「Micro Matrix(商標)Cement」、「Silicalite(商標)」、「SA-1015」が含まれており、商標又は記号で示されたものである。
そして、【0034】から、「Micro Matrix(商標)Cement」は、「小さい割れの浸透が必要とされるセメンチングに有用である超微粒セメント」、「Silicalite(商標)」は、「細かく分けられた、高表面積シリカから作製され、揺変性を一部のセメントスラリに与えることができる」もの、「SA-1015」は、「懸濁剤の役目を果たすセメント添加剤」であることが記載されているものの、それらの商標や記号によって表示された材料は、具体的に、どのような成分からなり、どのような形状で、粉末や微粒であればどのような粒径や表面積を有しているのか、さらに、どのような特性を有しているものなのかは、発明の詳細な説明の記載からは明らかではなく、それらの材料を含む「スラリ13」は、どのような成分からなるものなのか不明といわざるを得ない。

そして、この出願の出願時における技術常識を参酌しても、それらの材料が、本願発明12で規定される「セメント状用材、水性ベース流体、ナノ粒子、合成粘土、及び珪酸ナトリウム、珪酸、及びその組み合わせから選択されるチキソトロピー調整剤」のどれに対応するものなのか、あるいは、それらには含まれないものなのかが明らかではなく、いずれも、その粒径が小さいものであるから、チキソトロピー性に影響を与えるものといえることから、本願発明12にこれらの材料を含むことが規定されているのであればともかく、これらの材料について規定されているかどうか明らかではない本願発明12が、本願発明の課題を解決することを理解することができない。

ウ また、本件特許出願時において、本願発明12は、本願発明の課題を解決することができるものであるという技術常識も見当たらず、具体例の開示がなくとも、発明の詳細な説明に、本願発明12が、本願発明の課題を解決できることを当業者が理解できる程度に記載されているともいえない。

エ 以上のことから、本願の請求項12の記載は、特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていない。

オ 本願発明1は、本願発明12に係る「セメント組成物」を用いた「地下層をセメント固定する方法」に関する発明であり、本願の請求項12の記載と同様に、本願の請求項1の記載も、特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1及び12は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、特許請求の範囲の請求項1及び12の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-08-05 
結審通知日 2019-08-13 
審決日 2019-09-02 
出願番号 特願2016-541948(P2016-541948)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C09K)
P 1 8・ 121- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 恵理  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 川端 修
日比野 隆治
発明の名称 逸泥用途のための新規なセメント組成物  
代理人 箱田 篤  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 浅井 賢治  
代理人 市川 さつき  
代理人 弟子丸 健  
代理人 山崎 一夫  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 服部 博信  
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