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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12Q
管理番号 1359195
審判番号 不服2018-16675  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-13 
確定日 2020-01-23 
事件の表示 特願2014- 30550「細胞解析方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月27日出願公開、特開2015-154729〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成26年2月20日の出願であって、平成29年11月24日付けの拒絶理由通知に対して平成30年4月3日に意見書及び補正書が提出され、同年9月13日付けで拒絶査定がなされ、同年12月13日に拒絶査定不服の審判請求がなされたものである。
本願の請求項1、2に係る発明は、平成30年4月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
細胞培養面に対物レンズを介さずに近接させたフォトセンサを用いて、透過照明下、当該培養細胞に基づいて得られる光学パターンを撮像し、培地中に形成される細胞コロニーの立体形状を推定する、細胞解析方法。」


第2 拒絶査定の概要
平成30年9月13日付け拒絶査定は、この出願の請求項1,2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものである。
(文献1)
Biosensors & Bioelectronics, 1996, Vol.11, No.1/2, pp.81-90


第3 当審の判断
1.文献1の記載事項
文献1(Biosensors & bioelectronics, 1996, 11(1/2):81-90)には以下の記載がある。なお、英文であるから翻訳文を記載する。また、下線は当審が付したものである。
(1)「要約:生体試料を直接観察するための装置が開発された。この装置は、電荷結合素子(CCD)ユニットとCCDの光感知表面の上部に配置された発光ダイオード(LED)を備えている。生体試料は、レンズシステムを介さずに、CCDの上に配置される。サイズが小さいため、この装置はインキュベーター内で操作でき、適切な温度、湿度、ガス濃度条件下で生体試料を継続的に観察できる。装置により生成される熱の影響を軽減し、一定の試料温度を維持するため、装置は5分間隔で定期的に動作する。大腸菌コロニーの形成は、観察中に悪影響が発生することなく、70時間継続的に観察される。肝細胞の形態変化と肝細胞パターンの形成も観察される。」(81頁、要約)

(2)「装置の構造
図1に示される、開発された装置の構造は、CCDと電子回路とを含むCCDユニットと、CCDの光感知表面の上に置かれた光源としての発光ダイオード(LED)からなる。生体試料は観察中、CCDの光感知表面に置かれ、試料とCCDの間にレンズシステムは挿入しない。LEDから発せられる光は試料を透過してCCDに照射された。」(82頁左欄下から6行?右欄6行)

(3)「

図1. 開発した観察装置.(a)全体写真;(b)断面図. 」

(4)「結果
図5は継続的な観察結果を示す。明らかな大腸菌のコロニーが観察された。6時間の培養で2つのコロニーが現れ、その後大きくなった。観察は70時間続けられ、それぞれのコロニーの直径はおよそ5mmに達した。個々のコロニーの像は、それぞれのコロニーの中央部の明るい部分と、境界の暗い輪が存在しており、それは、横断面が半円状であるため凸レンズのように機能するコロニーの中央部で光が集められるためであることを示した。」(85頁右欄2段落)

2.引用発明
上記1.より、文献1には、LED照明を透過光として用い、レンズシステムを介さずにCCDによって大腸菌のコロニー形成を経時的に撮像してコロニーを観察することについて記載されており、図1において大腸菌などの細胞試料はシャーレのような容器中で培養されていると認められる。
したがって、文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「細胞試料として容器中で培養されている大腸菌を用い、LED照明を透過光として用い、レンズシステムを介さずにCCDによって、大腸菌のコロニー形成を経時的に撮像してコロニーを観察する方法であって、
コロニーの像の中央部の明るい部分と、境界の暗い輪が存在する撮像された大腸菌のコロニーの像において、中央部の明るい部分は横断面が半円状であるため凸レンズのように機能してコロニーの中央部に光が集められることを示す、
上記方法。」

2.対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「CCD」は、本願発明の「フォトセンサ」に相当し、引用発明の「コロニーを観察する方法」は、本願発明の「細胞解析方法」と「細胞を観察する方法」である点で共通するから、両者は、
「細胞培養面に対物レンズを介さずに近接させたフォトセンサを用いて、透過照明下、当該培養細胞に基づいて得られる光学パターンを撮像する、細胞を観察する方法。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

(相違点)
細胞を観察する方法について、本願発明では「培地中に形成される細胞コロニーの立体形状を推定する」「細胞解析方法」であることが特定されているのに対して、引用発明では「コロニーの像の中央部の明るい部分と、境界の暗い輪が存在する撮像された大腸菌のコロニーの像において、中央部の明るい部分は横断面が半円状であるため凸レンズのように機能してコロニーの中央部に光が集められることを示す」「コロニーを観察する方法」である点。

3.判断
引用発明にいう「コロニーの像の中央部の明るい部分と、境界の暗い輪が存在する撮像された大腸菌のコロニーの像において、中央部の明るい部分は横断面が半円状であるため凸レンズのように機能してコロニーの中央部に光が集められることを示す」とは、コロニーの像の“明るい部分”と“暗い輪"という輝度の違いにより、横断面が半円状であるというコロニーの立体形状を推定することであり、これは本願発明にいう「培地中に形成される細胞コロニーの立体形状を推定する」ことに該当するといえ、そうすると、引用発明の「コロニーを観察する方法」も、本願発明と同様に「培地中に形成される細胞コロニーの立体形状を推定する」「細胞解析方法」であるといえるから、上記の点は相違点とはいえない。
したがって、本願発明は引用発明と同一である。

4.審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において、次の点を主張している。
「本願発明では、顕微鏡観察によりコロニー中心の高さを測定し、大腸菌コロニーの積層構造を解析しており、同コロニーのフォトセンサ画像では、積層構造が明確に可視化されています(図3)。そして、実施例4において、菌を培養した場合に培養経過に伴って成長するコロニーの高さや積層状態のような立体形状が、フォトセンサ画像中の対応するコロニー像の光学的特徴と相関することを示しています。具体的には、コロニーのフォトセンサ画像において、菌体の単層ないし軽度の積層部分は高輝度部として、多層集積した中心部分は低輝度部として、さらに異なる積層状態の境界部では帯状の低輝度部として、それぞれ可視化されること(図6)を明らかにしています。 すなわち、本願発明では、フォトセンサ画像中のコロニー像の光学パターンから、微生物コロニーのマイクロメートルスケールの立体構造を正確に類推できることを論理的に示しています。」

そこで、上記主張について検討する。
審判請求人がいう『微生物コロニーのマイクロメートルスケールの立体構造を正確に類推できること』とは、コロニーの立体形状を具体的・定量的に推定できることを述べていると解されるところ、撮像された光学パターンに基づいて細胞コロニーの高さや形状のような立体形状を具体的・定量的に推定するためには、光学パターンから何らかのデータを取得し、そのデータを予め用意されたデータベースなどに基づいて処理することなどが必要であると考えられるが、本願発明にはそのようなことについて何ら特定されていない。
なお、本願明細書(特に段落【0017】、実施例4)には、顕微鏡を用いて細胞コロニーの高さを測定したところ、培養時間の経過に伴って細胞が積層してコロニーの高さが上昇したこと、細胞コロニーの高さがフォトセンサ画像中の対応するコロニー像の光学的特徴(細胞が多く積層すれば輝度が低く、細胞の積層が少なければ輝度が高い。)と相関したことが記載されており、これらの記載から撮像されたコロニー像の光学パターンのうち「高輝度部」を単層ないし軽度の積層部分とし、「低輝度部」を多層集積した中心部分とするというような、コロニーの立体形状の抽象的な推定については一応理解できるものの、本願明細書にコロニの立体形状を具体的・定量的に推定することについてまで記載されているとはいえない。
そして、そもそも上記3.で述べたとおり、文献1に記載された発明においても、輝度の違いによりコロニーの立体形状を推定することが行われているから、「培地中に形成される細胞コロニーの立体形状を推定する」ことは引用発明との相違点とはいえない。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。


第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
したがって、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-22 
結審通知日 2019-11-26 
審決日 2019-12-10 
出願番号 特願2014-30550(P2014-30550)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平林 由利子  
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 中島 庸子
松岡 徹
発明の名称 細胞解析方法及び装置  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  

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