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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1359196
審判番号 不服2018-16799  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-17 
確定日 2020-01-23 
事件の表示 特願2016-522225「物理ランダムアクセスチャネルの送信および受信方法,並びに基地局およびユーザ機器」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月31日国際公開,WO2014/206311,平成28年 9月 5日国内公表,特表2016-526836〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2014年(平成26年)6月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年6月27日 中国)を国際出願日とする出願であって,平成29年4月25日に手続補正書が提出され,平成30年2月7日付けで拒絶理由が通知され,同年4月23日に意見書及び手続補正書が提出され,同年9月14日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年12月17日に拒絶査定不服審判が請求され,同時に手続補正がされたものである。その後,審査官が平成31年3月5日付けで作成した前置報告書に対して,同年4月17日に上申書が提出された。


第2 平成30年12月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年12月17日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の概要
本件補正は,平成30年4月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された
「基地局により実行される方法であって,
物理ランダムアクセスチャネルの設定を含む第1の情報を生成するステップと,
前記第1の情報を送信するステップと,を含み,
前記第1の情報は,参照信号の受信パワーに基づいてカバレッジ拡張レベルを決定するために使用される第2の情報を含んでおり,
前記カバレッジ拡張レベルに基づいて選択された,前記物理ランダムアクセスチャネルのリソースを通じて,前記物理ランダムアクセスチャネルのシーケンスをユーザ機器から受信するステップと,
前記カバレッジ拡張レベルに基づいてランダムアクセスレスポンスを生成するステップと,
前記ランダムアクセスレスポンスを前記ユーザ機器に送信するステップと,を更に含んでいる,ことを特徴とする方法。」
との発明(以下,「本願発明」という。)を
「基地局により実行される方法であって,
物理ランダムアクセスチャネルの設定を含む第1の情報を生成するステップと,
前記第1の情報を送信するステップと,を含み,
前記第1の情報は,参照信号の受信パワーに基づいてカバレッジ拡張レベルを決定するために使用される第2の情報を含んでおり,
前記カバレッジ拡張レベルに基づいて選択された,前記物理ランダムアクセスチャネルのリソースを通じて,前記物理ランダムアクセスチャネルのシーケンスをユーザ機器から受信するステップと,
前記カバレッジ拡張レベルに基づいてランダムアクセスレスポンスを生成するステップと,
前記ユーザ機器のタイプに応じたタイムウィンドウにおいて前記ランダムアクセスレスポンスを前記ユーザ機器に送信するステップと,を更に含んでいる,ことを特徴とする方法。」(下線は,補正箇所を示す。)
との発明(以下,「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。


2 補正の適否
(1)新規事項の有無について
補正後の発明の「前記ユーザ機器のタイプに応じたタイムウィンドウにおいて前記ランダムアクセスレスポンスを前記ユーザ機器に送信するステップ」との発明特定事項によれば,「タイムウィンドウ」は,(i) 基地局においてランダムアクセスレスポンスを送信する際に用いられるものであり,(ii) ユーザ機器のタイプに応じたものであるといえる。

一方,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲(以下,「当初明細書等」という。)には,「タイムウィンドウ」,「ユーザ機器タイプ」に関して以下の記載(下線は当審が付与した。)がある。
「【0003】
将来の家庭用機器の通信に対する市場需要,および大規模な「物のインターネット(IOT)」のレイアウトを満たすために,3GGPは,LTEやそのアップバージョンに低コスト機器間の通信技術(MTC)を導入し,MTCサービスを現在のGSM(登録商標)ネットワークサポートからLTEネットワークサポートに移行することを決定し,それと共に,低コスト(Low-cost)MTC UEと称する新たなユーザ機器タイプを定義した。このようなユーザ機器は,現行LTEネットワークの全てのデュプレックスモードにおいて,MTCサービスの適用が可能であり,下記の特性(1)?(3)を有する。(1)受信アンテナが1つである。(2)下りおよび上りの最大伝送ブロック(TBS)が1000ビットである。(3)ダウンリンクデータチャネルのブロードバンド帯域が1.4MHzまで減らされ,ダウンリンク制御チャネルの帯域と,ネットワーク層のシステム帯域とが一致しており,アップリンクチャネルの帯域およびダウンリンクのRF部分が,現行LTEネットワークにおけるユーザ機器と一致している。MTCは,人的介入を必要としないデータ通信サービスである。MTCユーザ機器による大規模なレイアウトは,セキュリティ,追跡,料金支払い,測量や電子的消費などの分野に応用できる。具体的な応用としては,映像モニタリング,荷物供給チェーンの追跡,スマート電気メータ,遠隔操作等を含む。MTCは,要求されるパワー消費が低いため,低いデータ伝送レートおよび低いモバイル性に適用される。現在のLTEシステムは,主にヒューマン・トゥ・ヒューマン(H2H)通信サービス向けのものであるため,MTCサービスの規模競争の優勢および将来の応用性を実現するためには,低コストで動作可能な低コストMTC機器をサポートするLTEネットワークがそのキーポイントである。
【0004】
一部のMTC機器は,住宅ビルの地下室,または,絶縁箔,金属製格子若しくは従来建築物の分厚い壁に守られる場所に設置しなければならない。これらの機器の空間インターフェースは,LTEネットワークにおける一般の端末機器(例えば携帯電話,タブレットPC等)に比べ,著しく大きな透過損失が生じる。そこで,3GPPは,LTEネットワークにおいて,20dBを追加するカバレッジ拡張サービスをMTC機器に提供する設計案の研究および性能評価を決定した。なお,ネットワークカバーの悪い領域に位置するMTC機器は,極めて低いデータ伝送レート,極めて緩い時間遅延要求,および極めて有限なモバイル性といった特徴を有する。MTCのこれらの特徴に対し,LTEネットワークでは,MTCをサポートするために,一部のシグナリングおよび(または)チャネルを更に最適化することができる。また,3GPPは,新たに定義された低コストUE,および,MTCサービス(例えば遅延要求が極めて緩いサービス)を運用する他のUEに対し,ある程度のLTEネットワークのカバレッジ拡張を提供することを要求している。中でも,周波数分割復信(FDD)のLTEネットワークについて,15dBのネットワークカバレッジ拡張を提供する。但し,MTCサービスを運用する全てのユーザ機器に同様のネットワークカバレッジ拡張が必要であるというわけではない。」
「【0013】
好ましくは,前記PRACH設定パラメータには,PRACHリーディングシーケンスの基本パラメータと,ランダムアクセスの方式と,セル内におけるカバレッジ拡張レベルの分布と,異なるカバレッジ拡張レベルに位置するユーザ機器に必要なPRACHリソースセットの持続時間の周期と,PRACHリソースセット内に含まれるPRACH基本単位の配置と,ユーザ機器がランダムアクセスのレスポンス(RAR)を検出するためのタイムウィンドウとのうち,少なくとも1つが含まれる。」,
「【0032】
好ましくは,前記PRACH設定パラメータには,PRACHリーディングシーケンスの基本パラメータと,ランダムアクセスの方式と,セル内におけるカバレッジ拡張レベルの分布と,異なるカバレッジ拡張レベルに位置するユーザ機器に必要なPRACHリソースセットの持続時間の周期と,PRACHリソースセット内におけるPRACH基本単位の配置と,ユーザ機器がランダムアクセスのレスポンス(RAR)を検出するためのタイムウィンドウとのうち,少なくとも1つが含まれる。」,
「【0057】
ステップS920では,ユーザ機器に関する物理ランダムアクセスチャネル(PRACH)設定パラメータを生成し,送信する。MTCユーザ機器のPRACH設定パラメータは,LTEネットワークに基づき,例示する次の1?4に記載の方式に従って生成,送信されてもよい。
【0058】
<1>
基地局が,物理層ブロードキャストチャネルを介して,低コストMTCユーザ機器(別途でカバレッジ拡張を必要とするもの,および(または)必要としないもの)と,カバレッジ拡張を必要とし,且つ遅延を許容するMTCサービスを運用する他のユーザ機器とに必要なランダムアクセス設定情報を,1つのサービスセル内においてブロードキャスト送信する。例えば,MTCユーザ機器(別途でカバレッジ拡張を必要とするもの)のために,システム基本情報(例えばシステムフレーム番号など)や,MTCユーザ機器(別途でカバレッジ拡張を必要とするもの,および必要としないもの)の設定情報,および,カバレッジ拡張を必要とし,且つ遅延を許容するMTCサービスを運用する他のユーザ機器の設定情報を送信するためのPBCHチャネルを新たに設計する。これらの設定情報には,PRACHリーディングシーケンスのパラメータ,送信形式,周波数領域における位置およびタイムスロットの周期,および,RAR受信のタイムウィンドウなどが含まれる。」,
「【0089】
本発明において,ユーザ機器のランダムアクセス設定情報には,PRACHリーディングシーケンスの基本パラメータ(ルートシーケンスのシリアルナンバー,配置のシリアルナンバーおよび形式,循環シフト(end-around shift),ゼロ相関領域の配置など),ランダムアクセスの方式(競合に基づくランダムアクセスと,非競合に基づくランダムアクセスとを含む),セル全体において分けられたカバレッジ拡張レベルの分布,異なるカバレッジ拡張レベルのMTCユーザ機器に必要なPRACHリソースセットの持続時間の周期,PRACHリソースセット内におけるPRACH基本単位の配置,およびMTCユーザ機器がランダムアクセスのレスポンス(RAR)を検出するためのタイムウィンドウ等が,含まれてもよい。」,
「【0117】
パラメータ受信ユニット1210は,物理ランダムアクセスチャネル(PRACH)設定パラメータを受信することができる。該PRACH設定パラメータには,PRACHリーディングシーケンスの基本パラメータと,ランダムアクセスの方式と,セル内におけるカバレッジ拡張レベルの分布と,異なるカバレッジ拡張レベルに位置するユーザ機器に必要なPRACHリソースセットの持続時間の周期と,PRACHリソースセット内におけるPRACH基本単位の配置と,ユーザ機器がランダムアクセスのレスポンス(RAR)を検出するためのタイムウィンドウとのうち,少なくとも1つが含まれてもよい。」,
「【請求項5】
前記PRACH設定パラメータには,
PRACHリーディングシーケンスの基本パラメータと,ランダムアクセスの方式と,セル内におけるカバレッジ拡張レベルの分布と,異なるカバレッジ拡張レベルに位置するユーザ機器に必要なPRACHリソースセットの持続時間の周期と,PRACHリソースセット内におけるPRACH基本単位の配置と,ユーザ機器がランダムアクセスのレスポンス(RAR)を検出するためのタイムウィンドウとのうち,
少なくとも1つが含まれることを特徴とする請求項1に記載の方法。」,
「【請求項24】
前記PRACH設定パラメータには,
PRACHリーディングシーケンスの基本パラメータと,ランダムアクセスの方式と,セル内におけるカバレッジ拡張レベルの分布と,異なるカバレッジ拡張レベルに位置するユーザ機器に必要なPRACHリソースセットの持続時間の周期と,PRACHリソースセット内におけるPRACH基本単位の配置と,ユーザ機器がランダムアクセスのレスポンス(RAR)を検出するためのタイムウィンドウとのうち,
少なくとも1つが含まれることを特徴とする請求項20に記載の基地局。」

これらの記載及び当業者の技術常識によれば,以下のことがいえる。
(i) 上記に摘記した当初明細書等の「タイムウィンドウ」に関する各記載によれば,「タイムウィンドウ」は,ユーザ機器が基地局から受信するランダムアクセス設定情報に含まれ,ユーザ機器が基地局から送信されるランダムアクセスのレスポンス(RAR)を検出するために用いるものといえる。そして,「タイムウィンドウ」を基地局がランダムアクセスのレスポンス(RAR)を送信のために用いることは記載も示唆もされていない。そして,ユーザ機器が検出のために用いることと,基地局が送信のために用いることとは,動作として技術的内容が全く異なる。

(ii) 当初明細書等には,タイムウィンドウが,低コストMTCユーザ機器及びMTCサービスを運用する他のユーザ機器に必要なランダムアクセス設定情報に含まれること,ユーザ機器がランダムアクセスのレスポンス(RAR)を検出するためのものであること,が記載されるのみであって,「ユーザ機器のタイプ」と「タイムウィンドウ」との関係については一切開示されておらず,その具体的関係が不明である。
そして,上記【0058】には,基地局は,物理層ブロードキャストチャネルを介して,「低コストMTCユーザ機器(別途でカバレッジ拡張を必要とするもの,および(または)必要としないもの)」と,「カバレッジ拡張を必要とし,且つ遅延を許容するMTCサービスを運用する他のユーザ機器」とに必要なランダムアクセス設定情報を,1つのサービスセル内においてブロードキャスト送信し,当該ランダムアクセス設定情報にはタイムウィンドウが含まれることが記載されている。したがって,「タイムウィンドウ」を含むランダムアクセス設定情報は,「低コストMTCユーザ機器」と「MTCサービスを運用する他のユーザ機器」とに送信されるものであるところ,これらのユーザ機器はいずれも「マシンタイプ通信(MTC)を行うタイプのユーザ機器」といえる。しかしながら,同じ「マシンタイプ通信(MTC)を行うタイプのユーザ機器」といえる「低コストMTCユーザ機器」と「MTCサービスを運用する他のユーザ機器」と対して異なるタイムウィンドウが用いられることは記載も示唆もされていない。
また,上記【0003】,【0004】の記載によれば,ネットワークカバーの悪い領域に位置する低コストMTC機器は,極めて低いデータ伝送レート,極めて緩い時間遅延要求,および極めて有限なモバイル性といった特徴を有するといえるから,「低コストMTCユーザ機器」及び「MTCサービスを運用する他のユーザ機器」は共に,カバレッジ拡張を必要とし,且つ遅延を許容するMTCサービスを運用するという共通の特徴を有し得るものであり,両者に異なるタイムウィンドウを用いる理由も見出せない。
したがって,タイムウィンドウがユーザ機器のタイプに応じたものであることが当初明細書等に記載されていると同然ということはできない

したがって,本件補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,「タイムウィンドウ」が,(i) 基地局においてランダムアクセスレスポンスを送信する際に用いられるものであり,(ii) ユーザ機器のタイプに応じたものであるという,新たな技術的事項を導入するものである。
よって,本件補正は,特許法第17条の2第3項の規定に違反する。


[請求人の主張について]
請求人は,平成31年4月17日に提出された上申書において,ステップS920にかかる「ユーザ機器」を「(第1のタイプのユーザ機器と第2のタイプのユーザ機器のうちのいずれかである特定のタイプのユーザ機器(MTCユーザ機器)」とし,「低コストMTCユーザ機器(別途でカバレッジ拡張を必要とするもの,および(または)必要としないもの)」を「(第1のタイプのユーザ機器)」とし,「カバレッジ拡張を必要とし,且つ遅延を許容するMTCサービスを運用する他のユーザ機器」を「(第2のタイプのユーザ機器)」としている。そして,【0058】の「MTCユーザ機器(別途でカバレッジ拡張を必要とするもの,および必要としないもの)の設定情報」,「カバレッジ拡張を必要とし,且つ遅延を許容するMTCサービスを運用する他のユーザ機器の設定情報」との記載を根拠に,これらの設定情報を「(第1のタイプのユーザ機器)の設定情報」,「(第2のタイプのユーザ機器)の設定情報」とし,【0058】の「これらの設定情報には,PRACHリーディングシーケンスのパラメータ,送信形式,周波数領域における位置およびタイムスロットの周期,および,RAR受信のタイムウィンドウなどが含まれる。」及び【0089】の「ユーザ機器のランダムアクセス設定情報には,(中略)MTCユーザ機器がランダムアクセスのレスポンス(RAR)を検出するためのタイムウィンドウ等が,含まれてもよい。」の記載を根拠に,「審判請求人は,上記各段落の下線部分の記載事項,並びに,図9及び図10からすると,「前記ユーザ機器のタイプ(第1のタイプのユーザ機器と第2のタイプのユーザ機器のうちのいずれかである特定のタイプのユーザ機器)に応じたタイムウィンドウにおいて前記ランダムアクセスレスポンスを前記ユーザ機器(前記特定のタイプのユーザ機器)に送信する」ことは発明の詳細な説明(とりわけ,段落〔0089〕,段落〔0058〕の下線部分)に記載されている,と考えます。」と主張している。

しかしながら,当初明細書等には,「MTCユーザ機器(別途でカバレッジ拡張を必要とするもの,および必要としないもの)の設定情報」に含まれるタイムウィンドウと,「カバレッジ拡張を必要とし,且つ遅延を許容するMTCサービスを運用する他のユーザ機器の設定情報」に含まれるタイムウィンドウとが異なることは,記載も示唆もされていない。
そして,上述のように,「(第1のタイプのユーザ機器)」とされる「低コストMTCユーザ機器(別途でカバレッジ拡張を必要とするもの,および(または)必要としないもの)」,「(第2のタイプのユーザ機器)」とされる「カバレッジ拡張を必要とし,且つ遅延を許容するMTCサービスを運用する他のユーザ機器」は,いずれも「マシンタイプ通信を行うタイプのユーザ機器」ということができ,また,両者は共に,カバレッジ拡張を必要とし,且つ遅延を許容するMTCサービスを運用するという共通の特徴を有し得るものであるから,これらのユーザ機器のタイムウィンドウを異なるものとする合理的理由を見出すことはできない。
したがって,請求人の主張は採用できない。


(2)独立特許要件
上記(1)のとおり本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるが,本件補正は,本願発明の「前記ランダムアクセスレスポンスを前記ユーザ機器に送信するステップ」に「前記ユーザ機器のタイプに応じたタイムウィンドウにおいて前記ランダムアクセスレスポンスを前記ユーザ機器に送信するステップ」との限定を付して特許請求の範囲を減縮するものであるから,更に進めて本件補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについても以下に検討する。

ア 補正後の発明
補正後の発明は,上記1の「補正後の発明」のとおりのものと認める。

イ 引用発明等
原査定の拒絶の理由に引用されたMediaTek Inc.,On Required System Functionalities for MTC UEs Operating in Enhanced Coverage Mode([当審仮訳]:拡張カバレッジモードにて動作するMTC UEsのために要求されるシステム機能について),3GPP TSG-RAN WG1#72 R1-130218,2013年1月19日アップロード,URL:http://www.3gpp.org/ftp/ tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_72/Docs/R1-130218.zip(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「2.3. Random Access
(中略)
UE transmits a PRACH preamble in the first step. For FDD system, the coverage gap for PRACH is 19dB [3]. A longer PRACH preamble format can improve the coverage of PRACH. Repetition of the legacy PRACH preamble format is another solution. Both of them improve the coverage by accumulation more energy and have specification impact (RAN 1 and/or RAN 2).

Note that not all the MTC UEs require coverage enhancement, or even if needed, the amount of enhancement requirement will be different. A 20dB gap requires 100 times of more resources/power, while 10dB only requires 10 times more. Since much more resources will be used to enhance coverage, it is important for eNB to know whether a MTC UE should operate in an “enhanced coverage mode”. Since after UE acquires synchronization and essential system information, UE can estimate the pathloss from CRS (or reduced CRS). UE can indicate to eNB that it is in an extreme coverage scenario, via the use of a new PRACH waveform as discussed here.

Proposal # 4: It is important for eNB to know if a MTC UE needs to be served in an “enhanced coverage mode” via the use of a coverage- enhanced PRACH waveform.

Different PRACH configurations can be chosen by UEs based on the estimated pathloss according to some predefined or broadcasted rule. For example, different physical resources or different preamble sequence can indicate different ranges of pathloss. Based on the physical resources or preamble sequence chosen by the UE, eNB can schedule appropriate uplink resource to the UE for transmitting message 3. A different PRACH/RACH configuration from that for legacy UEs needs to be signaled. This information may include in the dedicated SIB for MTC UEs.
In the second step, eNB transmits a random access response (RAR) in PDSCH, which conveys RA-preamble identifier, Timing Alignment information, initial UL grant and assignment of Temporary C-RNTI. RAR transmission is similar to PDSCH transmission, so the enhancements of PDSCH discussed in [4] are applicable.」(3葉9行,14?36行)
([当審仮訳]:
2.3. ランダムアクセス
(中略)
最初のステップで,UEはPRACHプリアンブルを送信する。FDDシステムの場合,PRACHのカバレッジギャップは19dBである[3]。より長いPRACHプリアンブルフォーマットは,PRACHのカバレッジを改善できる。レガシーPRACHプリアンブルフォーマットの繰り返しは別の解決策である。どちらもより多くのエネルギーを蓄積することでカバレッジを改善し,仕様(RAN1及び/又はRAN2)に影響を与える。
全てのUEがカバレッジ拡張を必要とするわけではなく,必要な場合でも,拡張要求の量は異なることに注意する。20dBのギャップには100倍のリソース/電力が必要であるが,10dBの場合は10倍しか必要ない。カバレッジを拡張するためにはるかに多くのリソースが使用されるため,MTC UEが「拡張カバレッジモード」で動作すべきかどうかをeNBに知らせることが重要である。同期と基本的なシステム情報を獲得した後,UEはCRS(又は減少されたCRS)から経路損失を推定することができる。UEは,ここで説明する新しいPRACH波形を使用して,極端なカバレッジシナリオにあることをeNBに示すことができる。

提案#4:eNBにとって,MTC UEが「拡張カバレッジモード」でサービスを受ける必要があるかどうかをカバレッジ拡張されたPRACH波形を通じて知ることが重要である。

予め定義されたルール又はブロードキャストされたルールに従って,推定された経路損失に基づいて異なるPRACH構成がUEにより選択されることができる。例えば,異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスが,経路損失の異なる範囲を示すことができる。UEにより選択された物理リソース又はプリアンブルシーケンスに基づいて,eNBはメッセージ3を送信するための適切なアップリンクリソースをUEにスケジュールすることができる。レガシーUEの構成とは異なるPRACH/RACH構成がシグナリングされる必要がある。この情報は,MTC UE用の専用SIBに含まれ得る。

2番目のステップでは,eNBは,RAプリアンブル識別子,タイミング調整情報,初期UL許可,及び一時的C-RNTIの割り当てを運ぶ,ランダムアクセス応答(RAR)をPDSCHで送信する。RAR送信はPDSCH送信に類似しているため,[4]で説明されているPDSCHの拡張が適用可能である。)

(イ)「9.3. Required system functionality
(中略)
Random Access
RACH is required for MTC UEs in extreme coverage scenarios. A separated resource for PRACH/RACH can be dedicated to MTC UEs in enhanced coverage mode where the PRACH resource indication can be included in the dedicated SIB for MTC UEs. Further optimization may be worthwhile, such as different PRACH configurations and further study the RRC connection (re-)establishment message. It is also important for eNB to know if a MTC UE needs to be served in an “enhanced coverage mode” via the use of a coverage- enhanced PRACH waveform.」(5葉9行,19?25行)
([当審仮訳]:
9.3. 要求されるシステム機能
(中略)
ランダムアクセス
RACHは極端なカバレッジシナリオにおいてMTC UEに必要とされる。PRACH/RACHの分離されたリソースは,PRACHリソース表示をMTC UE用の専用SIBに含めることができる拡張カバレッジモードにおいて,MTC UE専用とすることができる。異なるPRACH構成など,更に最適化する価値がある場合があり,RRC接続(再)確立メッセージをさらに調査する。eNBにとって,MTC UEが「拡張カバレッジモード」でサービスされる必要があるかどうかをカバレッジが強化されたPRACH波形を通じて知ることも重要である。)

上記(ア),(イ)の記載及び当業者の技術常識を考慮すれば,以下のことがいえる。
(i) 上記(ア)の「レガシーUEの構成とは異なるPRACH/RACH構成がシグナリングされる必要がある。この情報は,MTC UE用の専用SIBに含まれ得る。」との記載,及びPRACH/RACH構成はeNBからUEにシグナリングされることがLTE/LTE-Aにおける技術常識であることに鑑みれば,eNBがPRACH/RACH構成を含むMTC UE用の専用SIBを送信しているといえる。そして,送信する情報が生成されていることは自明である。
したがって,引用例1には,eNBが「PRACH/RACH構成を含むMTC UE用の専用SIBを生成し,送信する」ことが記載されていると認められる。

(ii) 上記(ア)の「予め定義されたルール又はブロードキャストされたルールに従って,推定された経路損失に基づいて異なるPRACH構成がUEにより選択されることができる。例えば,異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスが,経路損失の異なる範囲を示すことができる。」及び「同期と基本的なシステム情報を獲得した後,UEはCRS(又は減少されたCRS)から経路損失を推定することができる。」との記載によれば,eNBは,UEに,CRSから推定された経路損失に基づいて異なるPRACH構成である異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスを選択するためのルールをブロードキャストしており,当該ルールは異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスが経路損失の異なる範囲を示し得るようにするものといえる。
ここで,上記(ア)の第1段落,第2段落及び提案#4の記載を考慮すれば,UEにより拡張要求の量(カバレッジギャップ)が異なることから,UEが新しいPRACH波形を使用して極端なカバレッジシナリオにあることをeNBに知らせるのであるから,UEにより選択される異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスにより示される「経路損失の異なる範囲」は,カバレッジ拡張にかかる拡張要求の量(カバレッジギャップ)と対応関係を有するものと認められる。
したがって,引用例1には,eNBが「CRSから推定された経路損失に基づいて異なるPRACH構成である異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスを選択するためのルールをブロードキャストする,ここで,当該ルールにより選択される物理リソース又はプリアンブルシーケンスが示す経路損失の異なる範囲は,カバレッジ拡張にかかる拡張要求の量(カバレッジギャップ)と対応関係を有する」ことが記載されていると認められる。

(iii) 上記(ア)の「UEは,ここで説明する新しいPRACH波形を使用して,極端なカバレッジシナリオにあることをeNBに示すことができる。」,「提案#4:eNBにとって,カバレッジが拡張化されたPRACH波形を使用して,MTC UEが「拡張カバレッジモード」でサービスを受ける必要があるかどうかを知ることが重要である。」,「例えば,異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスが,経路損失の異なる範囲を示すことができる。」及び「UEにより選択された物理リソース又はプリアンブルシーケンスに基づいて,eNBはメッセージ3を送信するための適切なアップリンクリソースをUEにスケジュールすることができる。」との記載によれば,eNBは,UEにより選択された,経路損失の異なる範囲を示すことができる異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスによるPRACH波形を,UEから受信するといえる。
したがって,引用例1には,eNBが「UEにより選択された,経路損失の異なる範囲を示すことができる異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスによるPRACH波形を,UEから受信する」ことが記載されていると認められる。

(iv) 上記(ア)の「UEにより選択された物理リソース又はプリアンブルシーケンスに基づいて,eNBはメッセージ3を送信するための適切なアップリンクリソースをUEにスケジュールすることができる。」及び「2番目のステップでは,eNBは,RAプリアンブル識別子,タイミング調整情報,初期UL許可,及び一時的C-RNTIの割り当てを運ぶ,ランダムアクセス応答(RAR)をPDSCHで送信する。」との記載によれば,メッセージ3を送信するためのアップリンクリソースのスケジュールがRARの初期UL許可であり,ランダムアクセス応答(RAR)がeNBで生成されることは自明であるから,eNBは,UEにより選択された物理リソース又はプリアンブルシーケンスに基づいて,ランダムアクセス応答(RAR)を生成し,PDSCHで送信するといえる。
したがって,引用例1には,eNBが「UEにより選択された物理リソース又はプリアンブルシーケンスに基づいて,ランダムアクセス応答(RAR)を生成し,PDSCHで送信する」ことが記載されていると認められる。

(v) 上記(i)?(iv)の動作は,eNBにより実行される方法といえる。

以上を総合すると,引用例1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「eNBにより実行される方法であって,
PRACH/RACH構成を含むMTC UE用の専用SIBを生成し,送信し,
CRSから推定された経路損失に基づいて異なるPRACH構成である異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスを選択するためのルールをブロードキャストし,ここで,当該ルールにより選択される物理リソース又はプリアンブルシーケンスが示す経路損失の異なる範囲は,カバレッジ拡張にかかる拡張要求の量(カバレッジギャップ)と対応関係を有する,
UEにより選択された,経路損失の異なる範囲を示すことができる異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスによるPRACH波形を,UEから受信し,
UEにより選択された物理リソース又はプリアンブルシーケンスに基づいて,ランダムアクセス応答(RAR)を生成し,PDSCHで送信する,方法。」


同じく原査定の拒絶の理由に引用されたNTT DOCOMO,Path loss measurements in carrier aggregation([当審仮訳]:キャリアアグリゲーションにおける経路損失測定),3GPP TSG-RAN WG4♯55 R4-102214,2010年5月14日,URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG4_Radio/TSGR4_55/Documents/R4-102214.zip(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(ウ)「-The pathloss could be defined in the following:
Pathloss in dB = DL RS Tx power - RSRP」(2葉末行?3葉1行)
([当審仮訳]:
-経路損失は,次の式により定義され得る。
(式は省略。))

上記(ウ)には,経路損失(dB)はダウンリンク基準信号の送信電力とその受信電力の差分で定義されることが記載されているといえる。

ウ 対比・判断
(i) 引用発明の「eNB」は基地局であるから,引用発明は「基地局により実行される方法」といえる点で補正後の発明と差違はない。

(ii) 引用発明の「PRACH/RACH構成」は補正後の発明の「物理ランダムアクセスチャネルの設定」に相当し,引用発明の「MTC UE用の専用SIB」を「第1の情報」と称することは任意である。したがって,引用発明の「PRACH/RACH構成を含むMTC UE用の専用SIBを生成し,送信し,」は,補正後の発明の「物理ランダムアクセスチャネルの設定を含む第1の情報を生成するステップと,前記第1の情報を送信するステップと,を含み,」に相当する。

(iii) 補正後の発明の「第2の情報」は,ユーザ機器において「参照信号の受信パワーに基づいてカバレッジ拡張レベルを決定するために使用される」ものであり,本願明細書の【0096】によれば,「カバレッジ拡張レベルCE_(x)と,経路損失(Path-loss)PL_(x),または下り信号についてのユーザ側測定値との一対一の対応関係」を含むものである。そして,決定された「カバレッジ拡張レベル」は,ユーザ機器から「物理ランダムアクセスチャネルのシーケンス」を受信するための「物理ランダムアクセスチャネルのリソース」を選択するために用いられるものである。したがって,「第2の情報」は,「ユーザ機器が参照信号の受信パワーに基づいて物理ランダムアクセスチャネルのシーケンスを送信するために使用する物理ランダムアクセスチャネルのリソース」を選択するために用いられるものともいえる。そして,第2の情報を含んでいる第1の情報が「前記第1の情報を送信するステップ」により送信されるのであるから,補正後の発明の「前記第1の情報は,・・・第2の情報を含んでおり」との構成により,第2の情報が送信されることは明らかである。
一方,引用発明の「CRS」は基準信号であり,「ルール」は「CRSから推定された経路損失に基づいて異なるPRACH構成である異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスを選択するため」のものであり,「当該ルールにより選択される物理リソース又はプリアンブルシーケンスが示す経路損失の異なる範囲は,カバレッジ拡張にかかる拡張要求の量(カバレッジギャップ)と対応関係を有する」ものである。また,引用発明の「ブロードキャスト」することは,送信することに他ならない。
ここで,経路損失がダウンリンク基準信号の送信電力とその受信電力の差分で定義されることは,例えば引用例2にも記載されているように,当業者における技術常識であるから,引用発明の「CRSから推定された経路損失に基づいて」は,「参照信号の受信パワーに基づいて」と言い換えることができる。また,引用発明の「異なるPRACH構成である」「異なる物理リソース」,「異なるPRACH構成である」「異なるプリアンブルシーケンス」は,それぞれ補正後の発明の「物理ランダムアクセスチャネルのリソース」,「物理ランダムアクセスチャネルのシーケンス」に対応する。
してみると,補正後の発明の「前記第1の情報は,参照信号の受信パワーに基づいてカバレッジ拡張レベルを決定するために使用される第2の情報を含んでおり」と,引用発明の「CRSから推定された経路損失に基づいて異なるPRACH構成である異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスを選択するための,異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスが経路損失の異なる範囲を示し得るようするルールをブロードキャストし,」とは,「参照信号の受信パワーに基づいて物理ランダムアクセスチャネルのシーケンスを送信するために使用する物理ランダムアクセスチャネルのリソースを選択するために用いられる情報を送信する」点で共通する。

(iv) 補正後の発明の「前記カバレッジ拡張レベルに基づいて選択された」は,第2の情報を含む第1の情報を受信したユーザ機器により選択されることを含むと認められる。
また,引用発明は,ルールを受信したUEにより物理リソース又はプリアンブルシーケンスが選択されるところ,eNBは選択された物理リソースを通じてUEからPRACHプリアンブルを受信することは自明である。
したがって,補正後の発明の「前記カバレッジ拡張レベルに基づいて選択された,前記物理ランダムアクセスチャネルのリソースを通じて,前記物理ランダムアクセスチャネルのシーケンスをユーザ機器から受信するステップ」と,引用発明の「UEにより選択された,経路損失の異なる範囲を示すことができる異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスによるPRACH波形を,UEから受信し」とは,「選択された前記物理ランダムアクセスチャネルのリソースを通じて,前記物理ランダムアクセスチャネルのシーケンスをユーザ機器から受信するステップ」といえる点で共通する。

(v) 補正後の発明の「前記カバレッジ拡張レベルに基づいてランダムアクセスレスポンスを生成するステップ」は,基地局が,ユーザ機器からの物理ランダムアクセスチャネルのシーケンスを受信する,ユーザ機器により選択された物理ランダムアクセスチャネルのリソースに基づいて,ユーザ機器が決定したカバレッジ拡張レベルを特定し,当該特定したカバレッジ拡張レベルに基づいてランダムアクセスレスポンスを生成することを含むと認められる。
したがって,本願発明の「前記カバレッジ拡張レベルに基づいてランダムアクセスレスポンスを生成するステップと,前記ユーザ機器のタイプに応じたタイムウィンドウにおいて前記ランダムアクセスレスポンスを前記ユーザ機器に送信するステップ」と,引用発明の「UEにより選択された物理リソース又はプリアンブルシーケンスに基づいて,ランダムアクセス応答(RAR)を生成し,PDSCHで送信する」とは,「選択された前記物理ランダムアクセスチャネルのリソースに基づいてランダムアクセスレスポンスを生成するステップと,前記ランダムアクセスレスポンスを前記ユーザ機器に送信するステップ」といえる点で共通する。

以上を総合すると,補正後の発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。
(一致点)
「基地局により実行される方法であって,
物理ランダムアクセスチャネルの設定を含む第1の情報を生成するステップと,
前記第1の情報を送信するステップと,を含み,
参照信号の受信パワーに基づいて物理ランダムアクセスチャネルのシーケンスを送信するために使用する物理ランダムアクセスチャネルのリソースを選択するために用いられる情報を送信し,
選択された前記物理ランダムアクセスチャネルのリソースを通じて,前記物理ランダムアクセスチャネルのシーケンスをユーザ機器から受信するステップと,
選択された前記物理ランダムアクセスチャネルのリソースに基づいてランダムアクセスレスポンスを生成するステップと,
前記ランダムアクセスレスポンスを前記ユーザ機器に送信するステップと,を更に含んでいる,方法。」

(相違点1)
「参照信号の受信パワーに基づいて物理ランダムアクセスチャネルのシーケンスを送信するために使用する物理ランダムアクセスチャネルのリソースを選択するために用いられる情報」が,補正後の発明は「参照信号の受信パワーに基づいてカバレッジ拡張レベルを決定するために使用される第2の情報」であるのに対し,引用発明は「CRSから推定された経路損失に基づいて異なるPRACH構成である異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスを選択するためのルール」,「ここで,当該ルールにより選択される物理リソース又はプリアンブルシーケンスが示す経路損失の異なる範囲は,カバレッジ拡張にかかる拡張要求の量(カバレッジギャップ)と対応関係を有する」であって,カバレッジ拡張レベルの決定に関する特定がない点(以下,「相違点1-1」という。)。
そして,引用発明にはカバレッジ拡張レベルの決定に関する特定がないことに伴い,
「選択された前記物理ランダムアクセスチャネルのリソースを通じて,前記物理ランダムアクセスチャネルのシーケンスをユーザ機器から受信するステップ」の「選択された」が,補正後の発明は「前記カバレッジ拡張レベルに基づいて選択された」であるのに対し,引用発明は「CRSから推定された経路損失に基づいて」「選択」されるものであり(以下,「相違点1-2」という。),
また,「選択された前記物理ランダムアクセスチャネルのリソースに基づいてランダムアクセスレスポンスを生成するステップ」が,補正後の発明は「前記カバレッジ拡張レベルに基づいてランダムアクセスレスポンスを生成するステップ」であるのに対し,引用発明は「UEにより選択された物理リソース又はプリアンブルシーケンスに基づいて,ランダムアクセス応答(RAR)を生成」する点(以下,「相違点1-3」という。)。

(相違点2)
「参照信号の受信パワーに基づいて物理ランダムアクセスチャネルのシーケンスを送信するために使用する物理ランダムアクセスチャネルのリソースを選択するために用いられる情報」を送信することが,補正後の発明は「前記第1の情報は・・・第2の情報を含んでおり」との事項により「前記第1の情報を送信するステップ」にてなされるのに対し,引用発明は「ルールをブロードキャスト」するものの,「ルール」と「PRACH/RACH構成を含むMTC UE用の専用SIB」との関係が明らかにされていない点。

(相違点3)
「前記ランダムアクセスレスポンスを前記ユーザ機器に送信するステップ」における送信が,補正後の発明は「前記ユーザ機器のタイプに応じたタイムウィンドウにおいて前記ランダムアクセスレスポンスを前記ユーザ機器に送信する」のに対し,引用発明はタイムウィンドウに関する特定がない点。

以下,上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
引用発明は「ルールにより選択される物理リソース又はプリアンブルシーケンスが示す経路損失の異なる範囲は,カバレッジ拡張にかかる拡張要求の量(カバレッジギャップ)と対応関係を有する」のであるから,「CRSから推定された経路損失に基づいて異なるPRACH構成である異なる物理リソース又は異なるプリアンブルシーケンスを選択する」ことは,実質的に参照信号の受信パワーに基づいてカバレッジ拡張にかかる拡張要求の量(カバレッジギャップ)(すなわち,カバレッジ拡張レベル)を決定しているといえる。してみれば,経路損失に基づいて直接カバレッジギャップに対応する物理リソースを選択することに替え,経路損失に基づいてカバレッジギャップを決定し,カバレッジギャップに基づいて物理リソースを選択するようにすることは,単なる設計変更に過ぎない。したがって,相違点1-1は当業者が容易になし得ることである。
上記設計変更に伴い,相違点1-2,1-3も自ずと導出されることに過ぎない。

(相違点2について)
ルールを,ブロードキャストする情報とするか,SIBにて送信する情報とするかは,当業者における設計上の選択事項に過ぎない。したがって,引用発明においてルールをブロードキャストすることに替えてMTC UE用の専用SIBに含めるようにすること,すなわち,相違点2は,格別困難なことではなく,適宜なし得ることに過ぎない。

(相違点3について)
プリアンブルを送信した端末は一定の時間窓の間,ランダムアクセス応答用のL1/L2の制御チャネルをモニタすることがLTE/LTE-Aにおける当業者の技術常識であることに鑑みれば,UEがタイムウィンドウにてランダムアクセスレスポンスを検出できるように,eNBがタイムウィンドウにおいてランダムアクセスレスポンスをユーザ機器に送信するようにすることは格別困難なことではない。そして,引用発明のSIBが「PRACH/RACH構成を含むMTC UE用の専用SIB」であることに鑑みれば,ランダムアクセスにかかる当該タイムウィンドウをMTC UE専用のものとすることも格別困難なことではない。したがって,相違点3は当業者が容易になし得ることである。


3 結語
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,また,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。



第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年12月17日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2」の項の「1 本件補正の概要」の項の「本願発明」のとおりのものと認める。


2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,「この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり,請求項1に対して,Huawei, HiSilicon,Considerations on acquiring the amount of coverage improvement for Low-Cost MTC UEs[online],3GPP TSG-RAN WG1#73 R1-132410,2013年 5月24日,URL:http://www.3gpp.org/ftp/ tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_73/Docs/R1-132410.zip又は引用例1が主引用例として引用され,パスロス(経路損失)が参照信号の受信パワー(RSRP:Reference Signal Received Power)に基づいて定義されることが一般的であることを示す周知文献として引用例2が例示されている。


3 引用発明等
引用発明及び引用例2の記載事項は,上記「第2 平成30年7月31日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ 引用発明等」の項で認定したとおりである。


4 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比するに,本願発明は補正後の発明から当該補正に係る限定を省いたものである。そうすると,本願発明と引用発明との相違点は,「第2 平成30年7月31日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の中の「ウ 対比・判断」の項の相違点1及び相違点2と同じであるから,本願発明は,同様の理由により,容易に発明できたものである。


5 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-14 
結審通知日 2019-11-19 
審決日 2019-12-10 
出願番号 特願2016-522225(P2016-522225)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 浩兵  
特許庁審判長 岩間 直純
特許庁審判官 菅原 道晴
相澤 祐介
発明の名称 物理ランダムアクセスチャネルの送信および受信方法、並びに基地局およびユーザ機器  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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