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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A24F
管理番号 1359239
審判番号 不服2019-339  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-11 
確定日 2020-02-17 
事件の表示 特願2017-510887「電子エアロゾル供給装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月 3日国際公開、WO2016/030661、平成29年11月 2日国内公表、特表2017-532011、請求項の数(21)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年8月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年8月26日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成29年3月23日に手続補正書が提出され、平成30年2月21日付けで拒絶の理由が通知され、平成30年5月22日に意見書が提出されたところ、平成30年9月3日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、平成31年1月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?21に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明21」という。)は、平成29年3月23日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲1?21に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1?本願発明21は以下のとおりである。

「【請求項1】
液体源からエアロゾルを発生させるための加熱エレメントと
給電部から加熱エレメントへの電力の供給を制御するための制御回路とを含む電子エアロゾル供給装置であって、この制御回路は、
時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標を定め、電子エアロゾル供給装置の障害状態が生じているか否かを該定められた時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標に基づいて判断するようにさらに構成されている電子エアロゾル供給装置。
【請求項2】
時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標は時間に対する加熱エレメントの電気的特性の一次導関数の指標を含むことを特徴とする請求項1記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項3】
時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標は時間に対する加熱エレメントの電気的特性の二次導関数の指標を含むことを特徴とする請求項1または2記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項4】
加熱エレメントは抵抗加熱エレメントを含むことを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項5】
抵抗加熱エレメントはステンレススチールを含むことを特徴とする請求項4記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項6】
加熱エレメントの電気的特性は、加熱エレメントに関連する電気抵抗、加熱エレメントに関連する電気伝導度、加熱エレメントに関連する電流引き込み、加熱エレメントに関連する電力引き込み、加熱エレメントに関連する電圧降下および加熱エレメントに電気的に結合された別の抵抗性部材に関連する電圧降下を含む群から選択される1つ以上の特性に基づいていることを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項7】
制御回路は電気的特性の測定から加熱エレメントの温度の表示を決定することを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項8】
障害状態は加熱エレメントの少なくとも一部の突然の温度上昇に関連することを特徴とする請求項1乃至7いずれか1項記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項9】
障害状態は加熱エレメントの少なくとも一部に起こる無炎燃焼に関連することを特徴とする請求項1乃至8いずれか1項記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項10】
制御回路は時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標を予め定義された閾値と比較することによって電子エアロゾル供給装置に障害状態が生じているか否かを定めるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至9いずれか1項記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項11】
制御回路は時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標の大きさが予め定義された閾値を超えている場合に障害状態が生じていると判断するように構成されていることを特徴とする請求項10記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項12】
制御回路は加熱エレメントの温度が一時的に安定していると考えられる間に時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標を定めるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至11いずれか1項記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項13】
制御回路はエアロゾルを加熱エレメントによって発生させている間に時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標を定めるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至12いずれか1項記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項14】
制御回路は電力が加熱エレメントに供給されている間に時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標を定めるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至13いずれか1項記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項15】
制御回路は障害状態が生じたと判断されると加熱エレメントへの電力の供給を減少させるようにさらに構成されていることを特徴とする請求項1乃至14いずれか1項記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項16】
制御回路は障害状態が生じたと判断されると加熱エレメントへの電力の供給を停止するようにさらに構成されていることを特徴とする請求項15記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項17】
制御回路は障害状態が生じたと判断されると警告インジケーターを作動させるようにさらに構成されていることを特徴とする請求項1乃至16いずれか1項記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項18】
液体源はニコチンを含むことを特徴とする請求項1乃至17いずれか1項記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項19】
液体源の容器と加熱してエアロゾルを発生させる加熱エレメントの近傍に液体源の一部を移送するように配置された液体移送部材とをさらに含むことを特徴とする請求項1乃至18いずれか1項記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項20】
バッテリーまたは電池の形体の電源をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至19いずれか1項記載の電子エアロゾル供給装置。
【請求項21】
液体源からエアロゾルを発生させるための加熱エレメントと給電部から加熱エレメントへの電力の供給を制御するための制御回路とを含む電子エアロゾル供給装置の操作方法であって、この方法は、
この制御回路はさらに時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標を定めることと、
電子エアロゾル供給装置の障害状態が生じているか否かを定められた時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標に基づいて判断することとを含む方法。」

第3 原査定の概要
平成30年9月3日付けの拒絶査定(以下「原査定」という)の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1?21に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1、2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2014-501106号公報
2.米国特許第6080973号明細書

第4 引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特表2014-501106号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1-a)「【0019】
制御回路は、温度又は抵抗測定に応答して無効化信号を送出するように構成されることが好ましい。制御回路は、加熱要素の温度又は抵抗が所定の閾値を超えたという判定に応答して無効化信号を送出するように構成されることがより好ましい。」

(1-b)「【0045】
図1に、液体貯蔵部を有する電気作動式エアロゾル生成システムの一例を示す。図1では、このシステムが喫煙システムである。図1の喫煙システム100は、マウスピース側端部103と本体側端部105とを有するハウジング101を含む。本体側端部には、バッテリ107の形の電力供給装置及び電気制御回路109が備わる。電気制御回路109と協働する吸煙検出システム111も備わる。マウスピース側端部には、液体115を収容するカートリッジ113の形の液体貯蔵部、毛細管芯117及びヒータ119が備わる。なお、図1では、ヒータを概略的にしか示していない。図1に示す例示的な実施形態では、毛細管芯117の一端がカートリッジ113内に延び、毛細管芯117の他端がヒータ119に取り巻かれる。ヒータは、カートリッジ113の外側に沿って通過できる(図1には図示せず)接続部121を介して電気制御回路に接続される。ハウジング101は、空気入口123、マウスピース側端部の空気出口125、及びエアロゾル形成チャンバ127も含む。
【0046】
使用時の動作は以下の通りである。液体115が、カートリッジ113からの毛細管作用により、カートリッジ内に延びる芯117の一端からヒータ119に取り巻かれた芯の他端に運ばれる。ユーザが、エアロゾル生成システムの空気出口125を吸引すると、空気入口123を通じて外気が吸い込まれる。図1に示す構成では、吸煙検出システム111が吸煙を感知してヒータ119を作動させる。バッテリ107がヒータ119に電気エネルギーを供給してヒータに取り巻かれた芯117の端部を加熱する。ヒータ119により、この芯117の端部内の液体が気化して過飽和蒸気が発生する。同時に、気化した液体が、毛細管作用により芯117に沿って移動してきた別の液体に置き換わる。(この作用は「ポンプ作用」と呼ばれることもある。)発生した過飽和蒸気が空気入口123からの空気流と混ざり、この空気流に含まれて運ばれる。エアロゾル形成チャンバ127内では、蒸気が凝縮して吸入可能なエアロゾルを形成し、これが出口125の方に運ばれてユーザの口に入る。」

(1-c)「【0050】
本発明のエアロゾル生成システムは、カートリッジ113を無効化する制御回路を含む。この無効化は、いくつかの理由によって行うことができる。好ましい実施形態では、制御回路が、貯蔵部内のエアロゾル形成基質の量を判定するように構成される。液体貯蔵部が空又はほぼ空であると判定されると、制御回路109がカートリッジ113を無効化する。この主な理由は、貯蔵部がほぼ空の場合、ヒータに供給される液体エアロゾル形成基質が不十分となる場合があるからである。つまり、生成されユーザにより吸入されるエアロゾルが、例えばエアロゾルの粒子サイズなどの所望の特性を有していないことがあり得る。この結果、ユーザの体験が不十分となる場合がある。また、液体貯蔵部が空又はほぼ空であることをユーザに通知できる機構を提供することも有利である。ユーザは、これを受けて、貯蔵部の交換準備を進めることができる。空のカートリッジを無効化することにより、ユーザに安全性ももたらされる。カートリッジには、粗悪な、場合によっては危険な物質が補充される恐れがある。しかしながら、カートリッジは、永久に無効化されることにより、補充して再使用することができなくなる。」

上記の記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。

「液体貯蔵部に収容された液体115を加熱してエアロゾルを発生させるためのヒータ119と、
バッテリ107の形の電力供給装置、及びヒータ119に接続部121を介して接続された電気制御回路109とを備えた電気作動式エアロゾル生成システムであって、該電気制御回路109は、
加熱要素の温度又は抵抗が所定の閾値を超えたという判定に応答して無効化信号を送信する電気作動式エアロゾル生成システム。」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された米国特許第6080973号明細書(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、()内は当審による翻訳である。)

(2-a)「The present invention generally relates to electric water heaters and, more particularly, to a flow-through water heater and control system therefor. Electric flow-through water heaters are commonly employed for use in heating circulating water for use in a spa/hot tub and other applications.」(第1欄第4?9行)
(本発明は電気水ヒーターに関し、特に、通水型水加熱器とその制御システムに関するものである。 電気的通水型水加熱器は、スパ、温水浴槽及び他の用途に使用するための循環水を加熱する用途に一般的に使用される。)

(2-b)「Accordingly, methodology 70 senses current, and calculates the first derivative and second derivative of current to determine if an abnormal condition is present. An abnormal condition may be present when abnormal flow rates occur, such as when a pump failure occurs, or if the heater is not completely submerged such that there is a lack of water flowing through the water heater 10. While methodology 70 have been described in connection with the use of sensed current, methodology 70 could likewise determine the resistance and first and second derivatives of resistance of the electrical heating element 22 to determine an abnormal condition. Once a certain abnormal condition is detected, the control the 40 responds to controller system as explained herein to take preemptive control action.」(第6欄第16?29行)
(したがって、方法70は、電流を検知して、異常状態が存在するかどうかを決定するために、電流の一次導関数及び二次導関数を計算する。異常な状態は、ポンプの故障が発生した場合のように異常な流量が生じた場合や、水ヒータ10を通って流れる水の欠如によりヒータが完全に水に沈んでいない場合である。方法70は、電流の検知に関連して説明してきたが、方法70は同様に異常を判定するために電気的加熱要素22の抵抗およびその抵抗の一次及び二次導関数を決定することができる。ある種の異常な状態が検出されると、制御部40は、ここで説明した制御システムに応答する割り込み制御対策を講じることができる。)

(2-c)「According to the above table, the detection of resistance exceeding a predetermined level of 10.56 ohms will result in the immediate removal of power to the heating element 22. In addition, when the measured resistance is in the range of 10.09 to 10.55 ohms and the first and second derivatives of resistance .ΔR/Δt and .ΔR^(2) /Δt^(2), respectively, are greater than zero, the controller 40 will likewise immediately remove power to the electrical heating element 22. For the same resistance value, if the first derivative is greater than or equal to zero and the second derivative is less than or equal to zero, the controller 40 will remove the power only after three consecutive samples show the present condition. In the event that the first derivative is less than zero, no action is taken as this is indicative of the resistance decreasing. When the resistance is in the range of 9.12 to 10.08 ohms, it is determined, according to this example, that no action is required as this is the desired resistance range of operation. When the resistance is within a lower range of 9.11 to 8.63 ohms and the first derivative is greater than zero, no action is likewise required. However, for the same range, when the first derivative is less than or equal to zero and the second derivative is greater than or equal to zero, the controller 40 will remove power only after three consecutive samples indicate this condition. Should the first and second derivatives both become less than zero for this range, the controller 40 will immediately remove power to the heating element 22. Likewise, should the resistance measured be less than 8.64 ohms, the controller 40 will immediately remove power to the electrical heating element 22, since this condition is indicative of a short circuit condition.」(第7欄第17?45行)
(上記の表によれば、所定のレベルの10.56オームを超える電気抵抗の検出は、加熱素子22への電力の即時除去をもたらすであろう。また、測定された抵抗が10.09オーム?10.55オームの範囲で、かつ、抵抗の一次導関数および二次導関数であるΔR/Δt、ΔR^(2)/Δt^(2)それぞれが0より大きければ、制御部40は、電気加熱素子22への電力を除去する。また、抵抗値が同じで、抵抗の一次導関数が0以上であり、二次導関数が0以下である場合、制御器40は、3個の連続したサンプルが同じ状態を示した後にのみ電力を除去する。そして、一次導関数が0未満である場合には、抵抗の低下を示しているから何の動作もしない。抵抗が9.12?10.08Ωの範囲にある場合には、本実施例によれば、これは、好ましい抵抗値の範囲であるから、その範囲で動作する必要がないと判定される。抵抗が9.11オーム?8.63オームの範囲内であり、一次導関数が0よりも大きい場合、動作は同様に必要ではない。しかし、同一の範囲に対して、一次導関数が0以下であり、二次導関数が0以上の場合、コントローラ40は、3個の連続的サンプルがこの状態を示した後にのみ電力を除去するであろう。一次導関数び二次導関数の両方について0より小さくなると、制御部40は、直ちに加熱素子22への電力を除去する。同様に、抵抗が8.64オームより小さい場合は、制御装置40は、直ちに電気的に加熱素子22への電力を除去することになるが、この状態は、短絡状態を示すからである。)

(2-d)「Accordingly, the present invention advantageously provides for the control of a flow-through water heater 10 by quickly detecting the presence of an abnormal condition including a low water condition caused by a low water level, or a low flow condition caused by pump failure or blockage in the water circulation path. The present invention is capable of quickly detecting the abnormal condition in time to prevent damage from occurring to the system. 」(第7欄第50?57行)
(従って、本発明は、低水位状態またはポンプの故障又は水循環経路の閉塞によって引き起こされる低水流状態によって生じる低い水レベルを含む異常状態の存在を速やかに検出することで有利に通水型水加熱器10の制御を提供する。本発明は、システムへの損傷が発生するのを防止するのに間に合うように異常状態を早期に検出することができる。)

上記の記載事項を総合すると、引用例2には、次の事項が記載されていると認められる(以下「引用例2記載の事項」という。)。
「スパ、温水浴槽などの循環水を加熱する通水型水加熱器であって、
異常な流量が生じた場合や、ポンプの故障が発生した場合などの異常を判定するために電気的加熱要素22の抵抗の一次導関数及び二次導関数を決定し、
検出された電気的加熱要素22の抵抗の範囲、抵抗の一次導関数及び二次導関数に応じて電気的加熱要素22への電力を除去する動作を行う、
異常状態を早期に検出する通水型水加熱器。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「液体貯蔵部」、「ヒータ119」は、それぞれ、本願発明1の「液体源」、「加熱エレメント」に相当する。
よって、引用発明の「液体貯蔵部に収容された液体115を加熱してエアロゾルを発生させるためのヒータ119」は、本願発明1の「液体源からエアロゾルを発生させるための加熱エレメント」に相当する。

イ 引用発明の「バッテリ107」、「電気作動式エアロゾル生成システム」は、それぞれ、本願発明1の「給電部」、「電子エアロゾル供給装置」に相当する。
また、引用発明の「電気制御回路109」は、「バッテリ107」から「ヒータ119」への電力供給を制御するものであることは自明の事項である。
よって、引用発明の「バッテリ107の形の電力供給装置、及びヒータ119に接続部121を介して接続された電気制御回路109とを備えた電気作動式エアロゾル生成システム」は、本願発明1の「給電部から加熱エレメントへの電力の供給を制御するための制御回路とを含む電子エアロゾル供給装置」に相当する。

ウ 引用発明の「加熱要素の温度又は抵抗が所定の閾値を超えたという判定に応答して無効化信号を送信する電気作動式エアロゾル生成システム。」と、本願発明1の「時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標を定め、電子エアロゾル供給装置の障害状態が生じているか否かを該定められた時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標に基づいて判断するようにさらに構成されている電子エアロゾル供給装置」とは、「電子エアロゾル供給装置の状態を」「判断するようにさらに構成されている電子エアロゾル供給装置」である点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明とは、
「液体源からエアロゾルを発生させるための加熱エレメントと
給電部から加熱エレメントへの電力の供給を制御するための制御回路とを
含む電子エアロゾル供給装置であって、この制御回路は、
電子エアロゾル供給装置の状態を判断するようにさらに構成されている電子エアロゾル供給装置。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
電子エアロゾル供給装置の状態の判断に関して、本願発明1では、「時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標を定め、電子エアロゾル供給装置の障害状態が生じているか否かを該定められた時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標に基づいて判断するようにさらに構成されている」のに対し、引用発明では、「加熱要素の温度又は抵抗が所定の閾値を超えたという判定」を行う点。

(2)原査定に対する判断
上記相違点について検討する。
引用発明は、「電気作動式エアロゾル生成システム」であるのに対し、引用例2記載の事項は、「スパ、温水浴槽などの循環水を加熱する通水型水加熱器」であるから、両者の技術分野は異なるものである。
また、引用発明は「加熱要素の温度又は抵抗」が所定の閾値を超えたかどうかを判定しており、抵抗は温度と対応しているから、結局のところ温度が閾値を超えたことを検出するものである。
これに対し、引用例2記載の事項は「検出された電気的加熱要素22の抵抗の範囲、抵抗の一次導関数及び二次導関数」に応じて電気的加熱要素22への電力を除去する動作を行うものであり、より具体的には、抵抗、抵抗の一次導関数及び二次導関数の組合わせにより流量等の異常の判定をするものであって、単に温度が閾値を超えたことを検出するものではない。
そして、抵抗の一次導関数及び二次導関数は、温度変化に対応するものとはいえるが、温度そのものを示すものではなく、検出した温度に基づく判定と、温度変化に基づく判定とは、技術的な意味が異なる。よって、引用発明における判定を、技術分野が異なり、さらに判定の対象も異なる引用例2記載の事項に、直ちに置き換えることはできず、引用発明に引用例2記載の事項を適用する動機付けがない。
本願発明1の「障害状態が生じているか否かを該定められた時間に対する加熱エレメントの電気的特性の微分係数の指標に基づいて判断する」点は、本願明細書の段落【0045】に記載されたとおり「加熱エレメントの抵抗は、急速な過熱、特に加熱エレメントに発現する局所的な加熱(ホットスポット)の場合には比較的不十分な指標である」が、「時間に対する抵抗の変化率は良好な指標であるという発明者の認識に基づ」いて採用された構成であり、当該構成を備えることにより、本願発明1は、段落【0053】に記載された「局所的な特性の時間導関数」により「障害状態の発生をより信頼性を持って示す」という格別な効果を奏するものである。
そして、上記の効果は、引用発明及び引用例2記載の事項から予測される程度のものとはいえない。

したがって、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用例2記載の事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?21について
本願発明2?20は、いずれも本願発明1を引用するものであり、本願発明21は、本願発明1を方法の発明としたものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者が引用発明及び引用例2記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-01-08 
出願番号 特願2017-510887(P2017-510887)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A24F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 土屋 正志  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 平城 俊雅
塚本 英隆
発明の名称 電子エアロゾル供給装置  
代理人 轟木 哲  
代理人 森田 順之  

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