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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F28D
管理番号 1359305
審判番号 不服2019-4924  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-12 
確定日 2020-02-25 
事件の表示 特願2017-511876号「一体構成要素を備えたサーモサイホン」拒絶査定不服審判事件〔2016年 3月 3日国際公開、WO2016/032482、平成29年 9月 7日国内公表、特表2017-525929号、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)8月28日を国際出願日とする出願であって、その後の手続きは以下のとおりである。
平成29年 8月 2日 :手続補正書の提出
平成30年 6月 6日付け :拒絶理由通知
平成30年10月15日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年12月18日付け :拒絶査定(以下、「原査定」という。)
平成31年 4月12日 :拒絶査定不服審判の請求

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1?3、7、8、12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1、2に記載された発明に基いて、本願の請求項13?15に係る発明は、同じく引用文献1?3に基いて、それぞれ、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献一覧>
引用文献1:特開平9-167818号公報
引用文献2:特開2013-211297号公報
引用文献3:特開2001-148453号公報

第3 本願発明
本願の請求項1?15に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明15」という。)は、平成30年10月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
サーモサイホン冷却装置であって、
熱を受けて内部の液体を蒸発させるように配置された少なくとも1つの蒸発経路、及び、前記少なくとも1つの蒸発経路に凝縮液体を送達する液体返却路を含む少なくとも1つの蒸発器部と、
蒸発液体からの熱を周辺環境に伝達することにより前記蒸発液体を凝縮するように配置された少なくとも1つの凝縮経路、及び、前記少なくとも1つの凝縮経路に蒸発液体を送達する蒸気供給路を含む少なくとも1つの凝縮器部と、
前記少なくとも1つの蒸発経路を前記蒸気供給路に流体接続する蒸気チャンバ、及び、前記少なくとも1つの凝縮経路を前記液体返却路に流体接続する液体チャンバを有する1つのマニホルドと、を備え、
前記蒸気チャンバから前記蒸気供給路へ、前記少なくとも1つの凝縮経路へ、前記液体チャンバへ、前記液体返却路へ、前記少なくとも1つの蒸発経路へ、そして前記蒸気チャンバへと戻る前記サーモサイホン冷却装置内の循環流動を可能とするために、前記蒸気チャンバ及び前記液体チャンバは、前記マニホルドにおいて分離壁によって流体分離され、
各蒸発器部は、前記1つのマニホルドに接続される管を含むとともに、前記少なくとも1つの蒸発経路と液体返却路とを規定する複数の経路を含み、又は、
各凝縮器部は、前記1つのマニホルドに接続される管を含むとともに、前記少なくとも1つの凝縮経路と前記蒸気供給路とを規定する複数の経路を含む、装置。
【請求項2】
前記1つのマニホルドは、内部空洞を規定する外壁を含み、
前記分離壁は、前記内部空洞内に配置されて前記内部空洞を前記蒸気チャンバ及び前記液体チャンバに分離する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記外壁は、対応する蒸発器部又は凝縮器部を各々受容する複数の開口を含む、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
各蒸発器部は、前記複数の開口のうちの対応する1つに受容され、前記少なくとも1つの蒸発経路が前記蒸気チャンバと流体連通し、前記液体返却路が前記液体チャンバと流体連通するように前記分離壁に係合する、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
各凝縮器部は、前記複数の開口のうちの対応する1つに受容され、前記少なくとも1つの凝縮経路が前記液体チャンバと流体連通し、前記蒸気供給路が前記蒸気チャンバと流体連通するように前記分離壁に係合する、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
各蒸発器部は、複数の蒸発経路と前記液体返却路とを含む単一で一体の管として形成され、
各凝縮器部は、複数の凝縮経路と前記蒸気供給路とを含む単一で一体の管として形成され、
前記サーモサイホン装置は、2つ以上の蒸発器部と、2つ以上の凝縮器部と、を有し、各々は、前記複数の開口のうちの対応する1つに受容されるとともに前記分離壁に係合する、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記サーモサイホン装置は、複数の蒸発器部又は複数の凝縮器部を有し、
各蒸発器部は、複数の蒸発経路と前記液体返却路とを含む単一で一体の管として形成され、
各凝縮器部は、複数の凝縮経路と前記蒸気供給路とを含む単一で一体の管として形成される、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
各蒸発器部の前記複数の蒸発経路は、前記蒸発経路の側方に配置された前記液体返却路と平行に配置され、
各凝縮器部の前記複数の凝縮経路は、前記凝縮経路の側方に配置された前記蒸気供給路と平行に配置される、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記分離壁は、前記蒸気供給路を含む凝縮器部の対応部分を各々受容する複数の蒸気チャンバ開口と、前記液体返却路を含む蒸発器部の対応部分を各々受容する複数の液体チャンバ開口と、を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
各蒸発器部は、複数の蒸発経路及び前記液体返却路を含む単一で一体の管として形成され、
各凝縮器部は、複数の凝縮経路及び前記蒸気供給路を含む単一で一体の管として形成され、
前記分離壁は、前記蒸発経路が前記分離壁の第一の側にありかつ前記液体返却路が前記分離壁の第二の側にあるように各蒸発器部に係合し、
前記分離壁は、前記凝縮経路が前記分離壁の前記第二の側にありかつ前記蒸気供給路が前記分離壁の前記第一の側にあるように各凝縮器部に係合する、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記外壁及び前記分離壁は、1つの屈曲シートから形成される、請求項2に記載の装置。
【請求項12】
前記サーモサイホン装置は、複数の蒸発器部と、複数の凝縮器部と、を有し、
各蒸発器部は、複数の蒸発経路及び前記液体返却路を含む単一で一体の管として形成され、
各凝縮器部は、複数の凝縮経路及び前記蒸気供給路を含む単一で一体の管として形成される、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記蒸発器部の少なくとも一部と熱的に直接接触する蒸発器熱伝達構造と、
前記凝縮器部の少なくとも一部と熱的に直接接触する凝縮器熱伝達構造と、を備える、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記蒸発器部のうち前記液体返却路に隣接する部分は、前記蒸発器熱伝達構造と接触しない、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記凝縮器部のうち前記蒸気供給路に隣接する部分は、前記凝縮器熱伝達構造と接触しない、請求項13に記載の装置。

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1について
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、「沸騰冷却装置およびその製造方法」に関し、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。
「【請求項1】発熱体を冷却する沸騰冷却装置であって、
表面に前記発熱体が取り付けられて、内部に前記発熱体の発する熱で気化する冷媒が収容された冷媒室を形成する冷媒槽と、
前記冷媒室と連通して設けられ、前記冷媒室で気化した気相冷媒を凝縮液化する放熱器とを備え、
前記冷媒槽は、押し出し成形された押出材を使用して構成されていることを特徴とする沸騰冷却装置。」
「【請求項7】請求項1?6に記載した何れかの沸騰冷却装置において、
前記冷媒槽は、前記冷媒室の内部に、前記発熱体の熱により気化した冷媒が前記冷媒室内を上昇する蒸気通路と、前記放熱器で凝縮液化した冷媒が前記冷媒室内を流下する凝縮液通路とが設けられて、前記蒸気通路と前記凝縮液通路が前記冷媒室内の下部で連通していることを特徴とする沸騰冷却装置。
【請求項8】請求項7に記載した沸騰冷却装置において、
前記蒸気通路と前記凝縮液通路は、前記押出材と一体に設けられて前記冷媒室の内部を厚み方向に分割する隔壁によって構成されていることを特徴とする沸騰冷却装置。」
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体素子等の発熱体を冷却する沸騰冷却装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の沸騰冷却装置では、一般に高価なフロロカーボン系の冷媒が使用されるため、使用する冷媒量を少なくした方がコストを低く抑えることができる。そこで、例えば、プレス成形された2枚の薄肉部材を貼り合わせて厚み幅の薄い偏平な冷媒槽を構成することにより、使用する冷媒量を少なくした沸騰冷却装置が提案されている(特公昭55-51345号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、冷媒槽を薄肉部材で構成した場合、発熱体が取り付けられる取付け面の剛性不足により、発熱体との間の接触熱抵抗が増大して放熱性能が低下する。また、薄肉部材をプレス成形品とした場合、プレス用の金型に掛かる費用が高くつく。特に、発熱体の個数または発熱体の取付けピッチが異なる場合には、その発熱体の個数または取付けピッチに合わせたプレス型を新規設計する必要が生じるため、製造コストが大幅に高くなるという問題を生じる。
【0004】さらに、冷媒槽を偏平形状とした場合は、所謂フラッディング現象が問題となる。即ち、発熱体の熱により沸騰して冷媒槽内を上昇する沸騰冷媒と、放熱器で凝縮液化されて冷媒槽内を流下する凝縮冷媒とが互いに衝突して冷媒の自然循環が乱されるため、最大熱輸送量が低く抑えられて性能の低下を招く。なお、このフラッディングを軽減するために、凝縮部内の下部にガイド板を設けた沸騰冷却装置が提案されている(特開昭57-204156号公報)が、冷媒槽の構成上、使用する冷媒量が多くなり、コストが高くなるという問題は依然解決されていない。
【0005】本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、第1の目的は製造コストの低減を図ること、第2の目的はフラッディングによる性能低下を防止すること、第3の目的はその沸騰冷却装置の製造方法を提供することにある。」
「【0024】
【作用および発明の効果】
(請求項1)冷媒槽が押出材を使用して構成されることにより、プレス成形された薄肉部材を貼り合わせて構成した場合と比較して型費を安くできるため、製造コストの低減を図ることができる。また、発熱体の個数が増加する場合でも、各発熱体を直列(縦方向)に配置すれば、押出材を適宜な長さに切断して使用することができるため、プレス成形品の様に新規にプレス型を設ける必要がなく、型に掛かる費用を大幅に低減できる。さらに、押出材を使用して冷媒槽を構成することから、プレス成形品の様な薄肉部材で冷媒槽を構成した場合と比較して、発熱体が取り付けられる取付け面の剛性を十分に確保できる。これにより、取付け面(押出材の表面)と発熱体との間の接触熱抵抗を小さくできるため、放熱性能の低下を防止できる。」
「【0029】(請求項7)冷媒室の内部に蒸気通路と凝縮液通路とを設けたことにより、冷媒室内での沸騰冷媒と凝縮冷媒との流れを明確に分けることができる。これにより、沸騰冷媒と凝縮冷媒とが衝突するフラッディングを防止できる。特に、請求項2に記載した様に冷媒槽が偏平形状の場合ほど有効である。
【0030】(請求項8)請求項7に記載した蒸気通路と凝縮液通路は、冷媒室の内部を厚み方向に分割する隔壁によって構成することができる。この各壁は、押し出し成形により押出材と一体に容易に設けることができる。なお、各壁は、発熱体を冷媒槽の片面に取り付ける場合と、両面に取り付ける場合とに対応して設けることが可能である。即ち、発熱体を冷媒槽の片面に取り付ける場合は、冷媒室の内部を厚み方向に二分割するように設けて、両面に取り付ける場合には、冷媒室の内部を厚み方向に少なくとも三分割するように設けることができる。
【0031】(請求項9)また、冷媒室内に配された冷媒流制御板によって蒸気通路と凝縮液通路とを構成しても良い。この場合、フラッディング防止の効果とともに、冷媒流制御板が冷媒室の内壁面に当接した状態で配されることにより、冷媒室の剛性向上および冷媒室の放熱面積増大による放熱性能の向上が期待できる。」
「【0047】放熱器4は、放熱チューブ13、上部タンク14、下部タンク15、および放熱フィン16より構成されている。放熱チューブ13は、断面形状が長円形の偏平なアルミニウム管より成り、放熱フィン16と交互に積層されて、上部タンク14と下部タンク15とに支持されている。上部タンク14は、各放熱チューブ13の上端部が挿入されて、各放熱チューブ13と連通している。下部タンク15は、各放熱チューブ13の下端部が挿入されて、各放熱チューブ13と連通している。また、下部タンク15は、図1(b)に示すように、冷媒槽3の上端開口部(押出材7の他方の開放端部)が挿入されて、冷媒槽3と連通している。」
「【0050】次に、本実施例の沸騰冷却装置1の作用を説明する。IGBTモジュール2に内蔵された半導体素子が発熱すると、IGBTモジュール2の放熱板2aから冷媒槽3の外壁に熱伝導されて、冷媒槽3に封入された冷媒を沸騰気化させる。この時、冷媒槽3の内壁面(押出材7の内壁面)と冷媒との間で高効率な熱伝達(沸騰時で自然対流時の100?1000倍にも達する)が行なわれる。ここで、冷媒槽3は、その内部が厚み幅方向に仕切壁11によって二分割されているため、仕切壁11より一方側の各貫通路9(以下、蒸気通路9と言う)に収容された冷媒が主に沸騰することになる。沸騰した冷媒は、気泡となって蒸気通路9を上昇し、放熱器4の下部タンク15へ流入した後、下部タンク15から各放熱チューブ13へ分配されて、各放熱チューブ13内を上昇する。
【0051】放熱チューブ13内を流れる冷媒蒸気は、冷却ファン5の送風を受けて低温となっている放熱チューブ13の内壁面に凝縮して液化し、この際に凝縮潜熱を放出する。凝縮して液滴となった冷媒は、自重により放熱チューブ13内を流下して下部タンク15に一時溜まり、下部タンク15から主に冷媒槽3内の他方側の各貫通路10(以下、凝縮液通路10と言う)に流入する。この凝縮液通路10を流下した冷媒は、仕切壁11および通路壁12の下端と底板8との間に形成される連通口17を通って蒸気通路9へ流入し、再びIGBTモジュール2の冷却に使用される。」
「【0056】さらに、冷媒槽3の内部が仕切壁11によって蒸気通路9と凝縮液通路10に区画されているため、冷媒槽3内での沸騰冷媒と凝縮冷媒との流れを明確に分けることができる。これにより、沸騰冷媒と凝縮冷媒とが衝突する所謂フラッディングを防止して、高い放熱性能を得ることができる。また、仕切壁11によって蒸気通路9と凝縮液通路10とを区画したことにより、凝縮液通路10内の冷媒は、IGBTモジュール2から伝導する熱によって直接加熱されることがないため、蒸気通路9内の冷媒と比べて低温となっている。そして、この低温の冷媒が連通口17を通って順次凝縮液通路10から蒸気通路9へ供給されることにより、効率良くIGBTモジュール2の冷却を行なうことができる。
【0057】(第2実施例)図3は冷媒槽3の断面図である。本実施例では、冷媒槽3の下部タンク15との接合部、即ち、押出材7の他方の開口部が段付き状に加工されている。具体的には、図3に示すように、蒸気通路9の方が凝縮液通路10より少し長く設けられている。これにより、放熱器4の下部タンク15に溜まった液冷媒は、蒸気通路9へ流入することはなく、殆ど凝縮液通路10へ流入することができる。この結果、第1実施例の場合より、更にフラッディングを少なくして性能の向上を図ることができる。」
「【0058】(第3実施例)図4は沸騰冷却装置1の側面図である。本実施例は、冷媒槽3とともに放熱器4も同一の押出材70を使用して構成した場合の一例を示すものである。以下にその押出材70を使用した沸騰冷却装置1の製造方法を説明する。
a)まず、アルミニウム製のブロック材から装置全体の押出材70を形成する。この時、押出材70の内部は、図5(図4のB-B断面図)に示すように、冷媒槽3の蒸気通路9と凝縮液通路10、および放熱器4の冷媒通路4a(第1実施例の放熱チューブ13に相当する通路)と送風通路4bが各々格子状に設けられた隔壁18によって細かく区画された状態で押出材70の上端から下端まで貫通して設けられている。
【0059】b)続いて、図6に示すように、押出材70から不要な部位を削除する。但し、図6に示すL1 については全面的に削除し、L2 、L3 については、図7(図4のC-C断面図)に示すように、冷媒通路4aを区画している隔壁18を削除する。L4 については内部の隔壁18のみを削除する。
c)続いて、押出材70の開放面をそれぞれ端板19?21で気密に閉塞して、押出材70の内部空間を密閉する。なお、端板19の平面形状を図8に、端板20の平面形状を図9(a)、側面形状を図9(b)、および端板21の平面形状を図10に示す。
【0060】以上の各工程により、冷媒槽3と放熱器4とを同一の押出材70を使用して構成した沸騰冷却装置1が製造される。本実施例によれば、第1実施例と比較して放熱器4のコストを低減できるばかりでなく、放熱器4と冷媒槽3との組付け工程が不要となることから、装置全体のコストダウンを図ることができる。」
「【図面の簡単な説明】
【図1】(a)放熱器の一部正面図、(b)沸騰冷却装置の側面図(冷媒槽は断面図)である(第1実施例)。
【図2】冷媒槽の断面図(図1(b)のA-A断面図)である(第1実施例)。
【図3】冷媒槽の断面図である(第2実施例)。
【図4】沸騰冷却装置の側面図である(第3実施例)。
【図5】図4のB-B断面図である(第3実施例)。
【図6】押出材の削除部分を示す側面図である(第3実施例)。
【図7】図4のC-C断面図である(第3実施例)。
【図8】端板の平面図である(第3実施例)。
【図9】端板の平面図である(第3実施例)。・・・」
「【符号の説明】
1沸騰冷却装置
2IGBTモジュール(発熱体)
3冷媒槽
3a冷媒室
3b中空通路
4放熱器
6ボルト(締結部材)
7押出材
7a厚肉部(中密部)
8底板(閉塞部材)
9蒸気通路
10凝縮液通路
11仕切壁(隔壁)
22エンドキャップ(閉塞部材)
23冷媒流制御板
24隔壁
25ナット(締結部材)
26取付部材
26b雌ねじ
28取付孔
30?32支柱部
34接続プレート(連結部材)
35流出口(蒸気流出口)
38連通路
39放熱管
42冷媒通路
44流入側連通部
45流出側連通部
46一方の連通室(流入室)
47他方の連通室(流出室)
51連結管(連結部材)
70押出材(第3実施例)」


「【図1】


「【図2】


「【図3】


「【図4】


「【図5】


「【図6】


「【図7】


「【図11】


(2) 引用発明
上記(1)の請求項8に係る発明について着目し、上記(1)の記載事項を総合すると、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「発熱体を冷却する沸騰冷却装置であって、
表面に前記発熱体が取り付けられて、内部に前記発熱体の発する熱で気化する冷媒が収容された冷媒室を形成する冷媒槽と、
前記冷媒室と連通して設けられ、前記冷媒室で気化した気相冷媒を凝縮液化する放熱器とを備え、
前記冷媒槽は、押し出し成形された押出材を使用して構成されて、
前記冷媒槽は、前記冷媒室の内部に、前記発熱体の熱により気化した冷媒が前記冷媒室内を上昇する蒸気通路と、前記放熱器で凝縮液化した冷媒が前記冷媒室内を流下する凝縮液通路とが設けられて、前記蒸気通路と前記凝縮液通路が前記冷媒室内の下部で連通し、
前記蒸気通路と前記凝縮液通路は、前記押出材と一体に設けられて前記冷媒室の内部を厚み方向に分割する隔壁によって構成され、
前記放熱器は、放熱チューブ、上部タンク、下部タンク、および放熱フィンより構成され、前記放熱チューブは、断面形状が長円形の偏平なアルミニウム管より成り、前記放熱フィンと交互に積層されて、前記上部タンクと前記下部タンクとに支持され、
前記上部タンクは、各放熱チューブの上端部が挿入されて、各放熱チューブと連通し、前記下部タンクは、各放熱チューブの下端部が挿入されて、各放熱チューブと連通し、前記下部タンクは、前記冷媒槽の上端開口部が挿入されて、冷媒槽と連通している、
沸騰冷却装置。」
2 引用文献2について
(1) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、「沸騰冷却装置」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却対象物で発生する熱により熱媒体を沸騰させて冷却対象物から吸熱して冷却する沸騰冷却装置に関するものである。」
「【0004】
ところで、上記特許文献1に記載の沸騰冷却装置では、放熱器の内部において、熱媒体層で沸騰気化した熱媒体が通過する蒸気上昇通路と、空気と熱交換することで凝縮した熱媒体が通過する凝縮液下降通路との明確な区分けがされていない。このため、空気と熱交換することで凝縮して下方側に向かって流れる液状の熱媒体が、熱媒体層で沸騰気化した熱媒体が上昇することを妨げ、良好な熱媒体循環性が得られず、必要な冷却性能が確保できない可能性がある。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、冷却性能を向上させることができる沸騰冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、冷却対象物(100)と熱媒体との熱交換により熱媒体を沸騰気化させることで冷却対象物(100)を冷却する蒸発部(1)と、熱媒体と外部流体との熱交換により熱媒体を凝縮させることで熱媒体の熱を外部流体に放熱する凝縮部(2)と、蒸発部(1)で沸騰した熱媒体を凝縮部(2)に導く蒸気通路(5)とを備える沸騰冷却装置において、凝縮部(2)は、凝縮部(2)で凝縮した熱媒体を蒸発部(1)に導くように構成されており、凝縮部(2)および蒸気通路(5)は、外部流体の流れ方向から見たときに、互いに重合配置されており、凝縮部(2)は、蒸気通路(5)に対して、外部流体の流れ方向上流側に配置されており、外部流体の流れ方向から見たときに互いに重合配置された凝縮部(2)および蒸気通路(5)において、蒸気通路(5)の流路断面積が、凝縮部(2)の流路断面積より大きいことを特徴とする。」
「【0018】
図2に示すように、流路プレート31の内部には、凝縮部2と、蒸発部1で沸騰気化した熱媒体を凝縮部2に導く蒸気通路5と、蒸気通路5と凝縮部2とを連通させる連通路6とが形成されている。凝縮部2および蒸気通路5は、それぞれ、長手方向が重力方向と一致するように形成されている。アウターフィン32は、流路プレート31における凝縮部2の外側にのみ設けられており、流路プレート31における蒸気通路5の外側には配置されていない。
【0019】
連通路6は、流路プレート31における鉛直方向上端部に配置されている。また、連通路6は、凝縮部2および蒸気通路5の上端部同士を接続するように形成されている。
【0020】
具体的には、流路プレート31の内部には、当該内部空間を送風空気の流れ方向に2つに仕切る仕切部材311が設けられている。流路プレート31の仕切部材311の下端部は、蒸発部1の仕切部材11の上端部と接続されている。また、流路プレート31の仕切部材311の上端部は、連通路6に接続されている。
【0021】
仕切部材311によって仕切られた流路プレート31の内部空間のうち、送風空気流れ下流側に配置される空間は、蒸発部1の第1空間1aと連通しており、蒸気通路5を構成している。一方、仕切部材311によって仕切られた流路プレート31の内部空間のうち、送風空気流れ上流側に配置される空間は、蒸発部1の第2空間1bと連通しており、凝縮部2を構成している。したがって、1つの流路プレート31において、空気流れ方向から見たときに、蒸気通路5と凝縮部2とが互いに重合しているとともに、凝縮部2が蒸気通路5に対して空気流れ方向上流側に配置されている。
【0022】
本実施形態では、蒸発部1の第1空間1aと流路プレート31の蒸気通路5との接続部81の送風空気流れ方向寸法が、蒸発部1の第2空間1bと流路プレート31の凝縮部2との接続部82の送風空気流れ方向寸法よりも長くなっている。」
(2) 引用文献2に記載の技術事項
上記(1)によれば、引用文献2には次の技術事項(以下「技術事項2」という。)が記載されていると認められる。
「沸騰冷却装置において、流路プレート31の内部には、凝縮部2と、蒸発部1で沸騰気化した熱媒体を凝縮部2に導く蒸気通路5と、蒸気通路5と凝縮部2とを連通させる連通路6とが形成され、凝縮部2と蒸気通路5は、仕切部材311で仕切られ、流路プレート31の仕切部材311の下端部は、蒸発部1の仕切部材11の上端部と接続され、流路プレート31の仕切部材311の上端部は、連通路6に接続されること。」
3 引用文献3について
(1) 引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、「沸騰冷却装置」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0015】放熱器4は、図5に示すように、放熱フィン15を介して並設される複数本のチューブ16と、各チューブ16の上部に設けられる上部タンク17と、各チューブ16の下部に設けられる下部タンク18とで構成され、下部タンク18の内部に冷媒流制御板19(図4参照)が設置されている。放熱フィン15は、熱伝導性に優れる薄い金属板(例えばアルミニウム製の薄い板材)を交互に折り曲げて波状に成形したもので、チューブ16の表面に接合されている。チューブ16は、例えばアルミニウム製の偏平な管を所定の長さに切断して、上部タンク17と下部タンク18との間に複数本並設されている。
【0016】チューブ16の内部には、図9に示すように、インナフィン20が挿入される。このインナフィン20は、アルミニウム等の熱伝導性に優れる薄い金属板を所定のピッチP(図9(a)参照)で交互に折り曲げて波状に成形したもので、チューブ16内の凝縮面積を増大させるとともに、チューブ16内に冷媒循環路(後述する)を形成する目的で用いられる。このインナフィン20は、折り曲げ部(山と谷)の延設方向をチューブ16の通路方向(図9(b)の上下方向)に向けてチューブ16内に挿入され、且つチューブ16内の横幅方向(図9の左右方向)で右側に片寄って配置され、各折り曲げ部がチューブ16の内壁面に当接して、ろう付けされている。
【0017】これにより、チューブ16内には、図9においてインナフィン20の左側に確保される第1の通路(以後、蒸気通路21と呼ぶ)と、インナフィン20のピッチ間に形成される複数の第2の通路(以後、凝縮液通路22と呼ぶ)とを有し、その蒸気通路21と凝縮液通路22とで上記の冷媒循環路を構成している。なお、チューブ16は、放熱フィン15との接合面である両側面が、放熱器4に送風される冷却風の流れ方向に沿って配置されるが、この時、凝縮液通路22より蒸気通路21の方が冷却風の流れ方向下流側に位置するようにチューブ16の向きを特定している(図4参照)。
【0018】上部タンク17は、浅皿状のコアプレート17Aと深皿状のタンクプレート17Bとを組み合わせて構成され、コアプレート17Aに開けられている複数の長孔(図示しない)にそれぞれチューブ16の上端部が挿入されて各チューブ16を連通している。下部タンク18は、浅皿状のコアプレート18Aと深皿状のタンクプレート18B(図10参照)とを組み合わせて構成され、コアプレート18Aに開けられている複数の長孔(図示しない)にそれぞれチューブ16の下端部が挿入されて各チューブ16を連通している。また、下部タンク18は、タンクプレート18Bに開けられている開口部23に冷媒槽3(押出材6)の上端部が挿入されて(図4参照)、冷媒槽3と各チューブ16とを連通している。
【0019】なお、タンクプレート18Bは、図10(c)に示すように、その長手方向から見た側面形状において、最も低い底面(コアプレート18Aが被せられる上端開口部と対向する面)に対し傾斜角が大きい傾斜面18aを有し、この傾斜面18aに前記開口部23が開口している。従って、冷媒槽3は、図4に示すように、下部タンク18に対し大きく傾斜して組付けられている。但し、冷媒槽3は、下部タンク18内で蒸気流出口11が斜め上方を向くように、発熱体2の取付け面を下向きにして開口部23に挿入される(つまり、発熱体2は、冷媒槽3の下側表面に取り付けられる)。これにより、下部タンク18内では、蒸気流出口11の最下部の方が液流入口12の最下部より上方に位置し、全体的にも蒸気流出口11の方が液流入口12より高い位置に開口している(図5参照)。
【0020】冷媒流制御板19は、蒸気流出口11より流出した冷媒蒸気をチューブ16内の蒸気通路21へ優先的に流れ込むように導くとともに、チューブ16内で液化した凝縮液が蒸気流出口11へ落下することを防止するために設置される。この冷媒流制御板19は、図4に示すように、下部タンク18内に挿入される押出材6の上端部表面に螺子24等で取り付けられ、チューブ16内に形成される凝縮液通路22の下方に配置される。但し、冷媒流制御板19は、押出材6に取り付けた時に、図4に示す前後方向において、先端側が取付け部側より若干高くなるように、緩やかに傾斜した状態で取り付けられることが望ましい。この冷媒流制御板19の形状を図11に示す。」
(2) 引用文献3に記載の技術事項
上記(1)によれば、引用文献3には次の技術事項(以下「技術事項3」という。)が記載されていると認められる。
「沸騰冷却装置において、下部タンク18は、チューブ16の下端部が挿入されてチューブ16を連通し、また、冷媒槽3の上端部が挿入されて、冷媒槽3とチューブ16とが連通し、
冷媒流制御板19は、蒸気流出口11より流出した冷媒蒸気をチューブ16内の蒸気通路21へ優先的に流れ込むように導くとともに、チューブ16内で液化した凝縮液が蒸気流出口11へ落下することを防止するために設置されること。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者の「沸騰冷却装置」は前者の「冷却装置」及び「装置」に相当し、以下同様に、「冷媒槽」及び「冷媒室」は「蒸発器部」に、「放熱器」は「凝縮器部」に、「蒸気通路」は「蒸発経路」に、「凝縮液通路」は「液体返却路」に、「気相冷媒」は「蒸発液体」に、「凝縮液化した冷媒」は「凝縮液体」に、「放熱チューブ」及び「アルミニウム管」は「(凝縮部の)管」に、それぞれ相当する。
・後者の「前記発熱体の熱により気化した冷媒が前記冷媒室内を上昇する蒸気通路」は、前者の「熱を受けて内部の液体を蒸発させるように配置された少なくとも1つの蒸発経路」に相当する。
・後者の「前記放熱器で凝縮液化した冷媒が前記冷媒室内を流下する凝縮液通路とが設けられて、前記蒸気通路と前記凝縮液通路が前記冷媒室内の下部で連通」している態様は、前者の「前記少なくとも1つの蒸発経路に凝縮液体を送達する液体返却路を含む」態様に相当する。
・後者の「前記冷媒室と連通して設けられ、前記冷媒室で気化した気相冷媒を凝縮液化する放熱器とを備え」、「前記放熱器は、放熱チューブ、上部タンク、下部タンク、および放熱フィンより構成され、前記放熱チューブは、断面形状が長円形の偏平なアルミニウム管より成り、前記放熱フィンと交互に積層されて、前記上部タンクと前記下部タンクとに支持され」る態様と、前者の「蒸発液体からの熱を周辺環境に伝達することにより前記蒸発液体を凝縮するように配置された少なくとも1つの凝縮経路、及び、前記少なくとも1つの凝縮経路に蒸発液体を送達する蒸気供給路を含む少なくとも1つの凝縮器部」の態様とは、「蒸発液体からの熱を周辺環境に伝達することにより前記蒸発液体を凝縮し、前記蒸発液体を送達する、少なくとも1つの凝縮器部」との限りで一致する。
・後者の「前記冷媒槽は、押し出し成形された押出材を使用して構成されて、前記冷媒槽は、前記冷媒室の内部に、前記発熱体の熱により気化した冷媒が前記冷媒室内を上昇する蒸気通路と、前記放熱器で凝縮液化した冷媒が前記冷媒室内を流下する凝縮液通路とが設けられて、前記蒸気通路と前記凝縮液通路が前記冷媒室内の下部で連通」するものであるから、冷媒槽は管を有するといえ、前者の「(蒸発器部の)管」に相当する。
・また、後者の「冷媒槽」は、その態様(引用文献1の図2)からみて、前者の「各蒸発器部」が「前記少なくとも1つの蒸発経路と液体返却路とを規定する複数の経路を含」む態様を備えることは明らかである。
・後者の「前記下部タンクは、各放熱チューブの下端部が挿入されて、各放熱チューブと連通し、前記下部タンクは、前記冷媒槽の上端開口部が挿入されて、冷媒槽と連通している」ことと、前者の「前記少なくとも1つの蒸発経路を前記蒸気供給路に流体接続する蒸気チャンバ、及び、前記少なくとも1つの凝縮経路を前記液体返却路に流体接続する液体チャンバを有する1つのマニホルドと、を備え、」ることとは、「前記少なくとも1つの蒸発経路を流体接続する、部材Aを、備え、」る限りで一致する。
・さらに、後者の「前記下部タンクは、各放熱チューブの下端部が挿入されて、各放熱チューブと連通し、前記下部タンクは、前記冷媒槽の上端開口部が挿入されて、冷媒槽と連通している」ことと、前者の「各蒸発器部は、前記1つのマニホルドに接続される管を含むとともに」「各凝縮器部は、前記1つのマニホルドに接続される管を含む」こととは、「各蒸発器部は、前記1つの部材Aに接続される管を含むとともに」「各凝縮器部は、前記1つの部材Aに接続される管を含む」限りで、一致する。
・後者の「前記冷媒槽は、前記冷媒室の内部に、前記発熱体の熱により気化した冷媒が前記冷媒室内を上昇する蒸気通路と、前記放熱器で凝縮液化した冷媒が前記冷媒室内を流下する凝縮液通路とが設けられて、前記蒸気通路と前記凝縮液通路が前記冷媒室内の下部で連通し」た態様は、寒暖差による対流で冷媒を循環させているので、前者の「サーモサイホン」をなす態様といえる。
・後者の「冷媒」が、「下部タンク」、「放熱器」、「下部タンク」、「凝縮液通路」、「蒸気通路」、「下部タンク」と循環する態様と、前者の「前記蒸気チャンバから前記蒸気供給路へ、前記少なくとも1つの凝縮経路へ、前記液体チャンバへ、前記液体返却路へ、前記少なくとも1つの蒸発経路へ、そして前記蒸気チャンバへと戻る前記サーモサイホン冷却装置内の循環流動を可能とするために、前記蒸気チャンバ及び前記液体チャンバは、前記マニホルドにおいて分離壁によって流体分離され」ることとは、「前記部材Aから前記サーモサイホン冷却装置内の循環流動を可能と」としている限りで一致する。

したがって、両者は、
「サーモサイホン冷却装置であって、
熱を受けて内部の液体を蒸発させるように配置された少なくとも1つの蒸発経路、及び、前記少なくとも1つの蒸発経路に凝縮液体を送達する液体返却路を含む少なくとも1つの蒸発器部と、
蒸発液体からの熱を周辺環境に伝達することにより前記蒸発液体を凝縮し、前記蒸発液体を送達する、少なくとも1つの凝縮器部と、
前記少なくとも1つの蒸発経路を流体接続する、部材Aを、備え、
前記部材Aから前記サーモサイホン冷却装置内の循環流動を可能とし、
各蒸発器部は、前記1つの部材Aに接続される管を含むとともに、前記少なくとも1つの蒸発経路と液体返却路とを規定する複数の経路を含み、又は、
各凝縮器部は、前記1つの部材Aに接続される管を含む、装置。」の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1]
凝縮器部について、本願発明1では、「前記蒸発液体を凝縮するように配置された少なくとも1つの凝縮経路、及び、前記少なくとも1つの凝縮経路に蒸発液体を送達する蒸気供給路を含む」ものであり、「各凝縮器部は、前記1つのマニホルドに接続される管を含むとともに、前記少なくとも1つの凝縮経路と前記蒸気供給路とを規定する複数の経路を含む」とされているのに対して、引用発明では、「放熱チューブ、上部タンク、下部タンク、および放熱フィンより構成され、前記放熱チューブは、断面形状が長円形の偏平なアルミニウム管より成り、前記放熱フィンと交互に積層されて、前記上部タンクと前記下部タンクとに支持され」、「前記下部タンクは、各放熱チューブの下端部が挿入されて、各放熱チューブと連通」しており、「放熱チューブ」に、蒸気を供給する経路と凝縮する経路とが分けて規定されていない点。

[相違点2]
部材Aについて、本願発明1では、「少なくとも1つの蒸発経路を前記蒸気供給路に流体接続する蒸気チャンバ、及び、前記少なくとも1つの凝縮経路を前記液体返却路に流体接続する液体チャンバを有する1つのマニホルド」であるのに対して、引用発明では、「各放熱チューブの下端部が挿入されて、各放熱チューブと連通し」、「前記冷媒槽の上端開口部が挿入されて、冷媒槽と連通している」「下部タンク」である点。

[相違点3]
部材Aからサーモサイホン冷却装置内の循環流動を可能とすることについて、本願発明1では、「前記蒸気チャンバから前記蒸気供給路へ、前記少なくとも1つの凝縮経路へ、前記液体チャンバへ、前記液体返却路へ、前記少なくとも1つの蒸発経路へ、そして前記蒸気チャンバへと戻る前記サーモサイホン冷却装置内の循環流動を可能とするために、前記蒸気チャンバ及び前記液体チャンバは、前記マニホルドにおいて分離壁によって流体分離され」ているのに対して、引用発明では、「循環流動を可能とし」ているものの、「前記下部タンクは、各放熱チューブの下端部が挿入されて、各放熱チューブと連通し、前記下部タンクは、前記冷媒槽の上端開口部が挿入されて、冷媒槽と連通している」とされているが、下部タンクにおいて、分離壁によって流体分離はなされておらず、したがって、「液体チャンバ」及び「気体チャンバ」といえるものを有していない点。

(2) 相違点についての判断
上記相違点1?3は、いずれも部材A(マニホルド、下部タンク)が関係するものであるので、まとめて検討する。
引用発明は、「下部タンクは、各放熱チューブの下端部が挿入されて、各放熱チューブと連通し、前記下部タンクは、前記冷媒槽の上端開口部が挿入されて、冷媒槽と連通している」が、「下部タンク」において、分離壁により流体分離しているものではない。
そして、引用発明において、「下部タンク」は、「沸騰した冷媒は、気泡となって蒸気通路9を上昇し、放熱器4の下部タンク15へ流入した後、下部タンク15から各放熱チューブ13へ分配されて、各放熱チューブ13内を上昇する」(引用文献1【0050】)、「凝縮して液滴となった冷媒は、自重により放熱チューブ13内を流下して下部タンク15に一時溜まり、下部タンク15から主に冷媒槽3内の他方側の各貫通路10(以下、凝縮液通路10と言う)に流入する」(引用文献1【0051】)との機能を有するものである。
そうすると、上記技術事項2の流路プレート31の内部が、凝縮部2と蒸気通路5とに、仕切部材311で仕切り、流路プレート31の仕切部材311の下端部を、蒸発部1の仕切部材11の上端部と接続すること、及び上記技術事項3の冷媒流制御板19が、蒸気流出口11より流出した冷媒蒸気をチューブ16内の蒸気通路21へ優先的に流れ込むように導くとともに、チューブ16内で液化した凝縮液が蒸気流出口11へ落下することを防止するために設置されることを示すとしても、技術事項2における沸騰冷却装置は、チャンバを有するものではなく、技術事項3における沸騰冷却装置は、分離壁により流体分離を行うものではなく、さらに、引用発明における凝縮液を貯留する下部タンクに、どのように分離壁を設けて、流体分離するかについても、技術事項2、3は示唆するものではないから、引用発明において、上記機能を有する下部タンクをマニホルドとして、分離壁により流体分離して、液体チャンバ及び気体チャンバの構成を採用することまでが、当業者が容易に想到し得たとすることができない。
さらに、本願発明1は、「各蒸発器部は、前記1つのマニホルドに接続される管を含むとともに、前記少なくとも1つの蒸発経路と液体返却路とを規定する複数の経路を含み、又は、
各凝縮器部は、前記1つのマニホルドに接続される管を含むとともに、前記少なくとも1つの凝縮経路と前記蒸気供給路とを規定する複数の経路を含む、」構成を備えるものであるから、引用発明において、冷媒槽(冷媒室)、放熱器及び下部タンクを、分離壁により流体分離した液体チャンバ及び気体チャンバを有するマニホルドの接続形態としても、どのように流体を循環させるかとの点について、引用文献1?3には、示唆するところがなく、その点でも、引用発明において、上記相違点3に係る本願発明1の構成を採用することに、動機付けがあるとすることができない。
したがって、相違点3に係る本願発明1の「前記蒸気チャンバ及び前記液体チャンバは、前記マニホルドにおいて分離壁によって流体分離され」た構成を、引用発明において採用することが当業者にとって容易に想到し得たものではなく、そのため相違点2に係る本願発明1の「少なくとも1つの蒸発経路を前記蒸気供給路に流体接続する蒸気チャンバ、及び、前記少なくとも1つの凝縮経路を前記液体返却路に流体接続する液体チャンバを有する1つのマニホルド」との構成を採用すること、及び相違点1に係る本願発明1の「各凝縮器部は、前記1つのマニホルドに接続される管を含むとともに、前記少なくとも1つの凝縮経路と前記蒸気供給路とを規定する複数の経路を含む」構成を採用することも、当業者が容易に想到し得たものではない。
(3) まとめ
そして、本願発明1は、本願明細書の段落【0005】に記載された、「1つのマニホルドを使用することにより、その装置を簡易化し、またその組み立てを簡易化することができる。」という効果を奏するものと認められる。
したがって、本願発明1は、引用発明並びに引用文献2及び3に記載された技術事項2及び3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 本願発明2?15について
本願の特許請求の範囲における請求項2?15は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく、直接又は間接的に引用して記載したものであるから、本願発明2?15は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2?15は、本願発明1と同様の理由で、引用発明並びに引用文献2及び3に記載された技術事項2及び3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-02-12 
出願番号 特願2017-511876(P2017-511876)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F28D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山田 裕介  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 塚本 英隆
山崎 勝司
発明の名称 一体構成要素を備えたサーモサイホン  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  

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