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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01D
管理番号 1359385
審判番号 不服2017-18518  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-13 
確定日 2020-01-29 
事件の表示 特願2015-511635号「生物起源の活性炭ならびにそれを作製および使用する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月14日国際公開、WO2013/169811、平成27年7月23日国内公表、特表2015-520671号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、2013年(平成25年)5月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年5月7日(US)アメリカ合衆国、2012年11月2日(US)アメリカ合衆国、2012年12月14日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成31年2月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ガス相排出流から少なくとも1つの汚染物を減少させるか、または除去する方法であって、
(a)少なくとも1つの汚染物を含むガス相排出流を提供することと、
(b)前記ガス相排出流を、活性炭粒子組成物および添加物と接触させて、汚染物吸着炭素粒子を発生させることと、
(c)前記ガス相排出流から前記汚染物吸着炭素粒子の少なくとも一部を分離して、汚染物が減少したガス相排出流を生成することと、
(d)前記汚染物吸着炭素粒子を処理して、前記活性炭粒子組成物の活性炭粒子を再生すること、または(d’)前記汚染物吸着炭素粒子を燃焼させて、エネルギーを発生させることと、を含み、
前記添加物が、酸、塩基、塩、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属ハロゲン化物、ヨウ素、ヨウ素化合物、およびこれらの組み合わせからなる群から選択され、かつ
前記活性炭粒子組成物が、乾燥ベースで、約55重量%以上の全炭素を含む、前記方法。」(以下、「本願発明」という。)

2 当審の拒絶理由
当審において平成30年10月22日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本願発明は、本願の優先日前の平成23年5月26日に頒布された引用文献1(特表2011-516263号公報)に記載された発明及び本願の優先日前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ことを理由の一つにするものである。

3 引用文献1(特表2011-516263号公報)に記載された発明
引用文献1には、以下の記載がある。
(a) 「【0002】
本発明は、燃焼ガス流からの水銀の除去に関し、より具体的には、高温側電気集塵装置(ESP)を使用して、微粒子の排出を制御する、石炭火力発電所からの水銀の排出を減少するための化学的処理された炭素質材料の使用に関する。」

(b) 「【0013】
炭素質水銀吸収剤
本発明に従う方法に使用する、好適な炭素質水銀吸着剤粒子は、水銀および水銀含有化合物を吸収することが可能な1つ以上の炭素質の基質を含む。好適な炭素質の基質は、無煙炭、瀝青炭、褐炭、ヤシ殻、木または木くず等から産生される活性炭を含むことができる。」

(c)「【0014】
本発明に従う方法に使用する、炭素質水銀吸着剤粒子は、炭素質の基質を少なくとも化学物質で処理することによって形成することができる。好適な化学物質としては、臭素、塩素またはヨウ素等のハロゲン、臭素含有化合物等のハロゲン含有化合物、硫黄もしくは硫黄含有化合物、または炭素質の基質の水銀を吸収する能力を増加させるのに有用な他の化学物質が挙げられる。・・・(中略)・・・炭素質水銀吸着剤粒子が燃焼ガス流中に注入され、本明細書に記載する化学物質も燃焼ガス流を生成するために燃焼される燃料に添加される、および/または燃料の担持燃焼空気に添加される、および/または燃焼ガス流中に注入される方法も本発明によって見込まれる。」

(d) 「【0017】
本発明の態様は、吸収剤材料、例えば、炭素質水銀吸着剤粒子を使用する方法を提供することであり、吸収剤材料は、水銀の一部分が吸収剤上に吸収され、高温側ESP内において燃焼飛散灰を有する燃焼ガスから除去されるように、高温の水銀含有燃焼ガス中に注入される。」

(e)「【0032】
実施例4
臭素化水銀吸収剤の製造上の向上を行い、試験を以前の発電所で再度実施した。瀝青炭および無煙炭等のより高品位の炭素形状(図8)は、温度に影響されにくいと見られるPACを生成した。この試験中、臭素化吸収剤の温度範囲を拡張し、性能が向上した。図9を参照されたい。ここでは、吸収剤注入を12:30に開始し、15:30に停止し、次いで、17:00に再度開始し、18:30に再度停止した。」

(i)上記(a)(d)からして、引用文献1には、「燃焼ガス流からの水銀を除去するために炭素質水銀吸着剤粒子を使用する方法」および「水銀が炭素質水銀吸着剤粒子に吸収される」ことが記載されているということができる。

(ii)上記(b)からして、引用文献1には、「炭素質水銀吸着剤粒子は、水銀および水銀含有化合物を吸収することが可能な炭素質の基質(無煙炭、瀝青炭、褐炭、ヤシ殻、木または木くず等から産生される活性炭)を含む」ことが記載されているということができる。

(iii)上記(c)(e)からして、引用文献1には、「炭素質水銀吸着剤粒子が燃焼ガス流中に注入され」ること、および「炭素質水銀吸着剤粒子は、臭素、塩素またはヨウ素等のハロゲン、臭素含有化合物等のハロゲン含有化合物、または炭素質の基質の水銀を吸収する能力を増加させるのに有用な他の化学物質によって処理された炭素質の基質を含む」ことが記載されているということができる。

上記(i)ないし(iii)からして、引用文献1には、
「燃焼ガス流からの水銀を除去するために炭素質水銀吸着剤粒子を使用する方法であって、臭素、塩素またはヨウ素等のハロゲン、臭素含有化合物等のハロゲン含有化合物、または炭素質の基質の水銀を吸収する能力を増加させるのに有用な他の化学物質によって処理された炭素質の基質(無煙炭、瀝青炭、褐炭、ヤシ殻、木または木くず等から産生される活性炭)を含む炭素質水銀吸着剤粒子を燃焼ガス流中に注入することにより、水銀が炭素質水銀吸着剤粒子に吸収される、燃焼ガス流からの水銀を除去するために炭素質水銀吸着剤粒子を使用する方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

4 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
○引用発明の「燃焼ガス流」、「水銀」、「炭素質の基質(無煙炭、瀝青炭、褐炭、ヤシ殻、木または木くず等から産生される活性炭)を含む炭素質水銀吸着剤粒子」は、本願発明の「ガス相排出流」、「汚染物」、「活性炭粒子組成物」にそれぞれ相当する。

○引用発明の「臭素、塩素またはヨウ素等のハロゲン、臭素含有化合物等のハロゲン含有化合物、または炭素質の基質の水銀を吸収する能力を増加させるのに有用な他の化学物質」は、本願発明の「酸、塩基、塩、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属ハロゲン化物、ヨウ素、ヨウ素化合物、およびこれらの組み合わせからなる群から選択され」た「添加物」に相当する。

○引用発明の「燃焼ガス流からの水銀を除去するために炭素質水銀吸着剤粒子を使用する方法」は、本願発明の「ガス相排出流から少なくとも1つの汚染物を減少させるか、または除去する方法」に相当する。

○引用発明の「臭素、塩素またはヨウ素等のハロゲン、臭素含有化合物等のハロゲン含有化合物、または炭素質の基質の水銀を吸収する能力を増加させるのに有用な他の化学物質によって処理された炭素質水銀吸着剤粒子を燃焼ガス流中に注入することにより、水銀が炭素質水銀吸着剤粒子に吸収される」は、本願発明の「(a)少なくとも1つの汚染物を含むガス相排出流を提供することと、」「(b)ガス相排出流を、活性炭粒子組成物および添加物と接触させて、汚染物吸着炭素粒子を発生させることと、」「(c)」「汚染物が減少したガス相排出流を生成すること」に相当する。

上記より、本願発明と引用発明とは、「ガス相排出流から少なくとも1つの汚染物を減少させるか、または除去する方法であって、
(a)少なくとも1つの汚染物を含むガス相排出流を提供することと、
(b)ガス相排出流を、活性炭粒子組成物および添加物と接触させて、汚染物吸着炭素粒子を発生させることと、
(c)汚染物が減少したガス相排出流を生成することと、
添加物が、酸、塩基、塩、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属ハロゲン化物、ヨウ素、ヨウ素化合物、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されることと、を含む前記方法。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願発明は、「ガス相排出流から汚染物吸着炭素粒子の少なくとも一部を分離して、」「(d)汚染物吸着炭素粒子を処理して、前記活性炭粒子組成物の活性炭粒子を再生すること、または(d’)汚染物吸着炭素粒子を燃焼させて、エネルギーを発生させ」るのに対して、引用発明は、水銀吸収後の炭素質の基質を含む炭素質水銀吸着剤粒子の処理工程が不明である点。

<相違点2>
本願発明は、「活性炭粒子組成物が、乾燥ベースで、約55重量%以上の全炭素を含む」のに対して、引用発明は、炭素質の基質を含む炭素質水銀吸着剤粒子の炭素割合が不明である点。

上記両相違点について検討する。
<相違点1>について
一般に、排ガス(ガス相排出流)中の汚染物(例えば、水銀、有機化合物)を吸着(吸収)した活性炭を抜き出して再生することや、これを燃料として燃焼させる(エネルギーを発生させる)ことは、本願の優先日前の周知技術(例えば、当審拒理において引用した引用文献3である特開2009-202106号公報の【0001】【0024】【0029】、同文献5である特開2006-96615号公報の【0001】【0009】【0015】【0018】参照)(以下、「周知技術1」という。)である。
そして、引用発明において、燃焼ガス流(ガス相排出流)中の水銀(汚染物)を吸収した炭素質水銀吸着剤粒子(活性炭)の処理は当然に必要となることであるといえ、また、上記周知技術1は、上記のとおりであることからして、両者は、ガス相排出流中の汚染物を吸着(吸収)した活性炭を処理するという点で軌を一にするものであるということができる。
そうすると、引用発明において、燃焼ガス流(ガス相排出流)中の水銀(汚染物)を吸収した炭素質水銀吸着剤粒子(活性炭)の処理のために、上記の点で軌を一にする上記周知技術1を適用することで、水銀(汚染物)を吸収した炭素質水銀吸着剤粒子(活性炭)を抜き出して再生することや、これを燃料として燃焼させる(エネルギーを発生させる)ことに格別の困難性があるとはいえず、また、これにより格別の効果が奏されるともいえない。
したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の特定事項を導き出すことは、引用発明および上記周知技術1に基いて当業者であれば容易になし得たものである。

<相違点2>について、
一般に、乾燥ベースで55重量%を超える炭素を含む「木質材や石炭から生成される活性炭」を、排ガス中の汚染物の吸着(吸収)に用いることは、本願の優先日前の周知技術(例えば、特開2001-129357号公報の【0001】【0012】、米国特許第5187141号明細書の下記※で示す1欄14?20行、同49?51行、4欄58?60行、5欄63?68行、6欄20?25行、6欄TABLE5参照)(以下、「周知技術2」という。)である。
そして、引用発明は、炭素質の基質(無煙炭、瀝青炭、褐炭、ヤシ殻、木または木くず等から産生される活性炭)を含む炭素質水銀吸着剤粒子を、燃焼ガス流(ガス相排出流)中の汚染物(水銀)の吸収(吸着)のために用いるものであり、また、上記周知技術2は、上記のとおりであることからして、両者は、木質材や石炭から生成される活性炭を、ガス相排出流中の汚染物の吸収(吸着)のために用いるものであるという点で軌を一にするものである。
そうすると、引用発明の「炭素質の基質(無煙炭、瀝青炭、褐炭、ヤシ殻、木または木くず等から産生される活性炭)を含む炭素質水銀吸着剤粒子」についても、上記周知技術2と同じく、乾燥ベースで55重量%を超える炭素を含むものであるとみるのが妥当であり、仮に、そうでないとしても、引用発明において、「炭素質の基質(ヤシ殻、木または木くず等から産生される活性炭)を含む炭素質水銀吸着剤粒子」について、上記の点で軌を一にする上記周知技術2を適用することで、乾燥ベースで55重量%を超える炭素を含むものとすることに格別の困難性があるとはいえず、また、これにより格別の効果が奏されるともいえない。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点であるとはいえず、仮に、そうでないとしても、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の特定事項を導き出すことは、引用発明および上記周知技術2に基いて当業者であれば容易になし得たものである。

そして、本願発明は、「水銀が減少したガス相排出流を生成する」(【0017】)という効果を有するものであるところ、引用発明および上記周知技術1、2からして、この効果が格別顕著なものであるとはいえない。
よって、本願発明は、引用発明および上記周知技術1、2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


1欄14?20行
「Activated carbon is a microcrystalline form of carbon with a large internal surface area. This large surface area allows the physical adsorption of large quantities of impurities from gases and liquids. Activated carbons are used extensively in water and food purification, metals recovery, production of high purity gases, and flue gas cleanup.」「当審訳:活性炭は、大きな内部表面積を有する炭素の微結晶形態を有している。この大きな表面積は、ガスおよび液体から大量の不純物を物理的に吸着することを可能にする。活性炭は、水や食品の浄化、金属回収、高純度ガスの生成、及び煙道ガス浄化に広く使用されている。」

1欄49?51行
「It is well known in the art that activated carbons are produced from agricultural by-products, wood, peat, coal, or virtually any other carbonaceous material. 」「当審訳:活性炭が農業副産物、木材、泥炭、石炭、または事実上任意の他の炭素質材料から製造されることは、当該技術分野において周知である。」

4欄58?60行
「This material can be utilized as an activated carbon or can be further upgraded to remove ash at 19 to produce activated carbon 20. 」「当審訳:この材料は活性炭として利用することができ、又は、19(工程)で灰を除去することによりさらにグレードアップした活性炭20にすることができる。」

5欄63?68行
「The dry coal was then mild gasified in a second inclined fluid-bed reactor with carbon dioxide as the fluidizing gas. An average bed temperature of 500 degree℃. and a solids residence time of 5 minutes was used. The properties of the mild gasification char thus produced are listed in Table 5.」「当審訳:次に、乾燥石炭を、流動ガスとしての二酸化炭素を用いて第2の傾斜流動床反応器中で穏やかにガス化した。床の平均温度は500℃で、固体滞留時間は5分とした。この穏やかなガス化により製造されたチャーの特性(組成等)を表5に示す。」

6欄20?25行
「The mild gasification char was activated with hydrogen in a 5 cm diameter fixed-bed reactor. The conditions used were 800℃., 285 psig (300 psia) and 4.0 SLM of hydrogen flow. The activation time was 2 hours. The activated carbon thus produced had the properties listed in Table 5. 」「当審訳:穏やかなガス化により製造されたチャーは、直径5cmの固定床反応器中で水素による活性化がなされた。活性化の条件を、800℃、285psig(300psia)、水素の流量4.0SLMとした。また、活性化時間を2時間とした。これにより製造された活性炭の特性(組成等)を表5に示す。」

6欄TABLE5(表5)[抜粋]
「activated carbon(活性炭)」「Weight % Carbon(炭素の質量%)73.9%」「Weight % Ash(灰の質量%)22.8%」

5 請求人の主張
請求人は、平成31年2月13日付け意見書において、当審拒理で引用された文献のいずれにも、本願発明の「活性炭粒子組成物が、乾燥ベースで、約55重量%以上の全炭素を含む」ことの記載も示唆もない旨の主張をしているところ、上記「4」で示したように、乾燥ベースで55重量%を超える炭素を含む「木質材や石炭から生成される活性炭」を、排ガス中の汚染物の吸着(吸収)に用いることは、本願の優先日前の周知技術であることからして、請求人の上記主張を採用することはできない。

6 むすび
したがって、本願は、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-09-02 
結審通知日 2019-09-03 
審決日 2019-09-19 
出願番号 特願2015-511635(P2015-511635)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神田 和輝  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 後藤 政博
豊永 茂弘
発明の名称 生物起源の活性炭ならびにそれを作製および使用する方法  
代理人 石川 徹  

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