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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01F
管理番号 1359400
審判番号 不服2018-14879  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-07 
確定日 2020-01-29 
事件の表示 特願2016-548043号「振動型流量計ならびにメータ検証のための方法及び診断」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月30日国際公開、WO2015/112296、平成29年2月2日国内公表、特表2017-504031号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月19日(優先権主張 平成26年1月24日 米国)を国際出願日とする外国語特許出願であって、平成29年5月18日付けの拒絶理由通知に対し、同年8月21日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年1月30日付けの拒絶理由通知に対し、同年4月23日に意見書が提出されたところ、同年7月2日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ(査定の謄本の送達日:同年7月10日)、これに対して、同年11月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1?48に係る発明は、平成29年8月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?48に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
(A?Eは本願発明の構成を分説するため当審で付した。)
[本願発明]
「【請求項1】
A メータ検証を備えた振動型流量計(5)であって、
B 1つまたは複数の流れチューブ(130、130')と第1及び第2のピックオフセンサ(170L、170R)とを含む流量計アセンブリ(10)と、
C 1つまたは複数の流れチューブ(130、130')を振動させるように構成されたドライバ(180)と、
D 第1及び第2のピックオフセンサ(170L、170R)に結合され、ドライバ(180)に結合されたメータ電子機器(20)であって、
D-1 流量計アセンブリ(10)をドライバ(180)を用いて単一モードで振動させ、ドライバ(180)の単一モード電流(230)を決定し、第1及び第2それぞれのピックオフセンサ(170L、170R)によって生成された第1及び第2の応答電圧(231)を決定し、決定された第1及び第2の応答電圧(231)に対する周波数応答関数を決定された単一モード電流(230)から算出し、
D-2 生成された周波数応答関数を極-留数モデルに当てはめてメータ剛性(216)を算出し、
D-3 メータ剛性値(216)を用いて振動型流量計(5)の適正な動作を検証するように構成される、
メータ電子機器とを備える、
E 振動型流量計。」


第3 原査定の拒絶の理由
原査定の本願発明に対する拒絶理由の概要は次のとおりである。

理由1(新規性)
本願発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由2(進歩性)
本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特表2009-509163号公報
(以下、「引用文献」という。)


第4 引用文献
1 引用文献の記載
引用文献には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

ア 「【0001】
本発明は、流量計の検証診断のための流量計電子装置と方法に関する。」

イ 「【0061】
図1は、流量計組立体10と流量計電子装置20とを備える流量計5を示している。流量計組立体10は処理物質の質量流量及び密度に応答する。流量計電子装置20はリード線100を介して流量計組立体10と接続されて、経路26上に密度、質量流量及び温度の情報を提供するばかりでなく、本発明に無関係の他の情報を提供する。コリオリ質量流量計について説明するが、当業者には明らかなとおり、本発明は、コリオリ質量流量計によって提供される追加の測定能力なしに、振動管密度計としても実施可能である。
【0062】
流量計組立体10は、一対のマニホールド150、150’、フランジネック100、100’を有するフランジ103、103’、一対の平行な流管130、130’、駆動機構180、温度センサ190及び一対の速度センサ170L、170Rを備えている。流管130、130’は、保湿的に直線状の入力レグ131、131’と、流管取り付けブロック120、120’において互いの方へ向かって収束する出力レグ134、134’とを備える。流管130、130’は、その長さに沿う2つの対称な位置において曲げられ、その長さ全体を通して本質的に平行である。ブレース・バー140、140’は、各流管が振動する軸W、W’を規定するように動作する。
【0063】?【0065】
(省略)
【0066】
流管130、130’は、それぞれの曲げ軸W、W’に関して、いわゆる流管の第1位相外れ曲げモードで反対方向に駆動装置180によって駆動される。この駆動機構180は、流管130’に取り付けられた磁石や、両方の流管を振動させるために交流電流が通過し且つ流管130に取り付けられた対向コイルのような、多くの周知の装置のうちの任意の1つを備える。流量計電子装置20によって、適宜の駆動信号がリード線185を介して駆動機構180に印加される。
【0067】
流量計電子装置20は、リード線195上でRTD温度信号を受け取り、また、リード線165Lに現れる左速度信号とリード線165Rに現れる右速度信号とを受け取る。流量計電子装置20は、要素180を駆動して流管130、130’を振動させるために、リード線185上に現れる駆動信号を生成する。流量計電子装置20は左右の速度信号及びRTD信号を処理し、流量計組立体10を通過する物質の質量流量と密度を計算する。この情報及び他の情報は流量計電子装置20によって経路26を介して利用手段29に印加される。
【0068】
図2は、本発明の実施の形態に係る流量計電子装置20を示している。流量計電子装置20はインタフェース201と処理システム203を備える。流量計電子装置20は例えば流量計組立体10から振動応答210を受け取る。流量計電子装置20は振動応答210を処理して、流量計組立体10を流れる流れ物質の流れ特性を取得する。更に、本発明に係る流量計電子装置20において、振動応答210は流量計組立体10の合成パラメータKを決定するために処理される。また、流量計電子装置20は、流量計組立体10の剛性変化(ΔK)を検出するために、2つ以上の振動応答を時間に関して処理することができる。剛性の決定は流れ条件又は流れ無しの条件の下で行われ得る。流れ無しでの決定は、結果としての振動応答におけるノイズ・レベルの低減という利点を提供する。
【0069】
先に検討したとおり、流量校正係数(FCF)は流管の物質特性と断面特性とを反映する。流量計を流れる流れ物質の質量流量は、測定された時間遅延(又は位相差/周波数)にFCFを乗じることによって決定される。FCFは流量計組立体の剛性と関係付けられる。流量計組立体の剛性特性が変化すると、FCFも変化する。したがって、流量計の剛性の変化は、流量計によって生成される流量測定に精度に影響を与える。
【0070】
本発明が重要なのは、流量計電子装置20が、実際の流量校正試験を行うことなく、現場で剛性決定を実行することを可能にするからである。本発明は、校正試験台や他の特別な機器又は特別の流体を用いることなく、剛性決定を可能にする。これが望ましいのは、現場での流れ校正は高価且つ困難であり、時間がかかるからである。しかし、流量計組立体10の剛性は使用しているうちに時間とともに変化するので、容易で優れた校正チェックが望ましい。こうした変化は、例えば流管の腐食、流管の浸食、流量計組立体10の損傷等のファクタに起因し得る。」

ウ 「【0081】
(中略)2つの応用可能な式は
【0082】
【数20】

【0083】
である。
式(4)のセンサ電圧V_(EMF)(ピックオフ・センサ170L、170Rにおける)は、運動のピックオフ速度
【0084】
【数21】

【0085】
とピックオフ感度係数BLPOとの積に等しい。一般に、ピックオフ感度係数BL_(PO)はピックオフ・センサ毎に既知であり又は測定される。式(5)の駆動装置180によって生成された力(f)は、駆動装置感度係数BL_(DR)と駆動装置180に供給される駆動電流(I)との積に等しい。一般に、駆動装置180の駆動装置感度係数BL_(DR)は既知であり又は測定される。両係数BL_(PO)、BL_(DR)は温度の函数であり、温度測定によって補正することができる。
【0086】?【0095】
(省略)
【0096】
本発明は、記憶された又は回収された校正密度値に依存しない剛性パラメータ(K)を提供する。これは従来技術とは対照的であり、従来技術では、既知の流れ物質を工場校正動作において用いて、全部の将来の校正動作に対して使用できる密度標準を取得する。本発明は、流量計の振動応答からのみ取得される剛性パラメータ(K)を提供する。本発明は、工場校正動作の必要の無い剛性検出/校正プロセスを提供する。
【0097】
インタフェース201は、図1のリード線100を介して速度センサ170L、170Rのうちの一方から振動応答210を受け取る。インタフェース201は、形成、増幅、バッファリングなどのような任意の必要な又は所望の信号条件付けを実行することができる。代わりに、処理システム203において、若干の又は全部の信号条件付けを実行することができる。更に、インタフェース201は流量計電子装置20と外部装置との間の通信を可能にする。インタフェース201は電子的通信、光通信又は無線通信のうちの任意のものを行うことができる。」

エ 「【0118】
本発明を数学的モデルについて説明する。流量計の振動応答は
【0119】
【数26】

【0120】
からなる開ループの二次駆動モデルによって表されることができる。ここで、fはシステムに印加される力、Mは系の質量パラメータ、Cは減衰パラメータ、Kは剛性パラメータである。項KはK=M(ω_(0))^(2)からなり、項CはC=M^(2)ζω_(0)からなる。ただし、ω_(0)=2πf_(0)であり、f_(0)は流量計組立体10の共振周波数(単位Hz)である。項ζは、前述のとおり、振動応答から取得される減衰特性測定からなる。更に、xは振動の物理的変位距離であり、
【0121】
【数27】

【0122】
は流管の変位速度であり、
【0123】
【数28】

【0124】
は加速度である。通常、これはMCKモデルと呼ばれる。この式は
【0125】
【数29】

【0126】
の形へ再構成することができる。初期状態を無視するならば、式(11)を伝達函数の形へ変形することができる。その結果は
【0127】
【数30】

【0128】
である。更に式(12)を操作すると、
【0129】
【数31】

【0130】
からなる一次の極-剰余周波数応答函数の形を得ることができる。ただし、λは極、Rは剰余、項jはマイナス1の平方根、ωは円形励振周波数(単位ラジアン/秒)である。
固有共振周波数(ω_(n))、減衰固有周波数(ω_(d))及び減衰特性(ζ)は、極によって
【0131】
【数32】

【0132】
のように定義される。系の剛性パラメータ(K)、減衰パラメータ(C)及び質量パラメータ(M)は、極及び剰余から
【0133】
【数33】

【0134】
として導出される。したがって、極(λ)及び剰余(R)の良好な推定値に基づいて、剛性パラメータ(K)、減衰パラメータ(C)及び質量パラメータ(M)を計算することができる。極及び剰余は、測定された周波数応答函数から推定されることができる。極(λ)及び剰余(R)の推定は、任意の方法の直接的又は反復的計算方法を用いて行うことができる。
【0135】
駆動周波数の近傍での応答は主に式(13)の第1項からなり、複素共役項は応答の小さな、ほぼ一定の「残留」部分にのみ寄与する。その結果、式(13)は簡単化されて
【0136】
【数34】

【0137】
となる。式(20)において、項H(ω)は、3つ以上の振動応答から取得される、測定された周波数応答函数(FRF)である。この導出において、Hは変位出力を力入力で割った値であるが、コリオリ流量計に典型的なボイスコイル型ピックオフの場合、測定されるFRF、即ち項
【0138】
【数35】

【0139】
は速度を力で割った値に関係する。したがって、式(20)を
【0140】
【数36】

【0141】
へ変形することができる。式(21)は、極(λ)及び剰余(R)に対して容易に解くことができる形、即ち
【0142】
【数37】

【0143】
へ再構成されることができる。式(22)は過剰決定された方程式系を形成する。式(22)を計算によって解くと、速度/力、即ち
【0144】
【数38】

【0145】
から極(λ)及び剰余(R)を決定することができる。項H、R及びλは複素数である。
1つの実施の形態においては、強制周波数ωは5つのトーンからなる。この実施の形態における5つのトーンは駆動周波数と、駆動周波数より高い2つのトーンと、駆動周波数より低い2つのトーンからなる。これらのトーンは0.5?2Hzだけ基本周波数から離れている。しかし、強制周波数ωは更に多くの又は少ないトーンからなることができ、駆動周波数とそれの上下の1つのトーンからなることができる。しかし、5つのトーンは、結果の精度と、結果を取得するのに必要な処理時間との良好な妥協点である。
【0146】
好ましいFRF測定において、特定の駆動周波数及び振動応答に対して2つのFRFが測定されることに留意されたい。1つのFRF測定は右のピックオフ(RPO)に対する駆動装置から取得され、他のFRF測定は左のピックオフ(LPO)に対する駆動装置から取得される。この手法は単一入力複数出力(SIMO)と呼ばれる。本発明の独特の新規の特徴においては、SIMO技術は極(λ)と剰余(R)との良好な推定を行うために用いられる。以前には、2つのFRFを別個に用いて、2つの個別の極(λ)と剰余(R)の推定値を求めていた。2つのFRFは共通の極(λ)と別個の剰余(R_(L))、(R_(R))とを共有することを認識するならば、2つの測定を有利なように組み合わせると、一層強固な極及び剰余の決定、即ち
【0147】
【数39】

【0148】
を生じることができる。式(23)は複数の方法で解くことができる。1つの実施の形態においては、この式は、再帰的最小二乗法によって解かれる。他の実施の形態においては、この式は疑似逆技術によって解かれる。更に別の実施の形態においては、全部の測定が同時に利用可能なので、標準のQ-R分解技術を用いることができる。Q-R分解技術は、ウィリアム・ブローガン著「現代制御理論」(著作権1991年)、プレンティス・ホール、pp.222-224、168-172において検討されている。
【0149】
使用に際しては、剛性パラメータ(K)は、減衰パラメータ(C)及び質量パラメータ(M)とともに時間的に追跡される。例えば、統計技術を用いて、剛性パラメータ(K)の時間的変化(即ち、剛性変化(ΔK))を決定することができる。剛性パラメータ(K)の時間的変化は、特定の流量計に対するFCFが変化したことを示すことができる。
【0150】
本発明は、記憶された又は回収された校正密度値に依存しない剛性パラメータ(K)を提供する。これは、工場校正動作において既知の流れ物質を用いて将来の全部の校正動作に対して用いることができる密度標準を得る従来技術とは対照的である。本発明は、流量計の振動応答からのみ取得される剛性パラメータ(K)を提供する。本発明は、工場校正動作を必要としない剛性検出/校正プロセスを提供する。
【0151】
図6は、本発明の実施の形態に係る流量計の剛性パラメータ(K)を決定する方法のフロー図600である。ステップ601において、3つ以上の振動応答を受信する。3つ以上の振動応答は流量計から受信される。3つ以上の振動応答は、実質的基本周波数の応答と2つ以上の非基本周波数応答とを含むことができる。1つの実施の形態においては、基本周波数応答よりも高い1つのトーンと基本周波数応答よりも低い1つのトーンとが受信される。他の実施の形態においては、基本周波数応答よりも高い2つのトーンと基本周波数応答よりも低い2つのトーンとが受信される。
【0152】
1つの実施の形態においては、トーンは基本周波数応答の上及び下に実質的に等間隔で配置される。代わりに、トーンは等間隔には配置されない。
ステップ602において、3つ以上の振動応答から、1次の極-剰余周波数応答が生成される。1次の極-剰余周波数応答は式(23)で与えられる形式を取る。ステップ603において、1次の極-剰余周波数応答から質量パラメータ(M)が決定される。質量パラメータ(M)は振動応答の一次極(λ)と一次剰余(R)とを決定することによって決定される。次いで、一次極(λ)及び一次剰余(R)から、固有周波数ω_(n)、減衰された固有周波数ω_(d)及び減衰特性ζが決定される。その後、減衰された固有周波数ω_(d)と剰余Rと虚数項(j)とを式(17)に代入して質量パラメータ(M)を取得する。
【0153】
ステップ604において、式(18)の解から剛性パラメータ(K)が決定される。解は固有周波数ω_(n)とステップ603で決定された質量パラメータ(M)とを用いており、これらを式(18)に代入することにより、剛性パラメータ(K)を得ることができる。ステップ605において、式(19)の解から、減衰パラメータ(C)が決定される。解は、減衰特性(ζ)、固有周波数ω_(n)及び決定された質量パラメータ(M)を用いる。
【0154】
図7は、本発明の実施の形態に係る極(λ)及び剰余(R)の解の実装を示している。実装は式(23)に従う。FRF入力は図の左側において行われる。これらのFRF入力は、この実施の形態においてFRF係数が計算される5つの周波数(4つの試験周波数と1つの駆動周波数)である。FRF_L及びFRF_R入力は、式(23)における
【0155】
【数40】

【0156】
に対応する、それらの周波数で計算される駆動装置-ピックオフ複素FRF係数である。FRF係数はQRソルバ・ブロック701のB入力へ伝えられる。QRソルバ・ブロック701に対するA行列が、項毎にFRF係数をjωで割ることで形成されるが、この行列は式(23)に準拠する1と0の列を含む。この行列は適切な[10x3]複素次元へ再整形されて、QRソルバ・ブロック701のA入力へ伝えられる。QRソルバ・ブロック701のxベクトル出力は左の剰余RL、右の剰余RR及び極λを含む。これらの出力はQRソルバ・ブロック701から出力されて処理され、システム・パラメータを生成する。
【0157】
図8は、本発明の実施の形態に係るシステム・パラメータM、C、Kの計算を示すブロック図である。実現形態は式(14)?(16)及び式(17)?(19)によって極及び剰余からシステム・パラメータM、C、Kを決定する。剰余は実正常モード・モデルに対しては純粋に虚数である。しかし、測定データにおける雑音に起因して、及び、モデル当てはめ数値精度の問題に起因して、常に幾らかの実数部分が存在する。したがって、剰余の絶対値が用いられ、これは式(17)に関してjによる除算と同様の効果を有する。質量及び剛性は、式(17)、(18)に関して極と剰余を用いることによって計算される。留意されるように、「左」と「右」の質量及び剛性が、即ち、LPO/駆動装置のFRFとRPO/駆動装置のFRFとから計算される質量及び剛性が存在する。質量と剛性の推定値は、コイルと磁石との非対称及び構造自体の非対称に起因して左右で相違する。差の変化又は差の比は質量又は剛性の不均一な変化を示すので、流量計のFCF又は完全性の変化に関する追加の診断情報を与えるように利用することができる。」

オ 「【0181】
(中略)
共振周波数ω_(n)が与えられると、1つの特定の周波数ω_(1)における駆動装置-ピックオフFRFは、式を解いてパラメータM、C、Kを決定するのに十分であることに留意されたい。これは特に有用であり、FCFが複数の周波数で取られるとき、データに対する最小二乗当てはめは各係数の個々の推定値の単なる平均である。これは、典型的には実行されなければならない疑似逆よりもずっと簡単である。しかし、留意されるとおり、ω≠ω_(n)という制限は、K又はMについての解において共振駆動FRFの使用を除外する。これは特に驚くことではない。共振におけるピークの高さは減衰によってのみ決定されるからである。しかし、この手法の1つの潜在的な欠点は、左右のピックオフ・データから推定されるパラメータが必然的に互いに独立であることである。これは、左右のピックオフを制限して、振幅の差にもかかわらず、同一の極を推定することにより何らかの利点を得る極-剰余方法とは対照的である。」

カ 上記ア?オの記載事項から、以下の事項が認定できる。

(ア) 上記イの【0061】、【0062】、上記ウの【0083】より、「一対の平行な流管130、130’」、「駆動機構180」、「一対の速度センサ170L、170R」(ピックオフ・センサ170L、170R)を備えた「流量計組立体10」と、「流量計電子装置20」とを備える「流量計5」

(イ) 上記イの【0066】?【0068】、上記ウの【0083】、【0097】より、「流量計電子装置20」は、「駆動機構180」を「駆動して流管130、130’を振動させるため」の「駆動信号」を「リード線185を介して駆動機構180に印加」し、「ピックオフ・センサ170L、170R」からの「振動応答210」として、「リード線165Lに現れる左速度信号とリード線165Rに現れる右速度信号とを受け取る」こと

(ウ) 上記アの【0001】、上記イの【0069】及び【0070】、上記ウの【0096】、上記エの【0150】より、「流管の腐食、流管の浸食、流量計組立体10の損傷等のファクタに起因」する「流量計組立体10」の「剛性の変化」を「検出」するため、「流量計電子装置20」が、「流量計の振動応答からのみ取得される剛性パラメータ(K)」を求め、「流量計の検証診断」を行うこと

(エ) 上記エの【0137】?【0145】より、「測定される」「周波数応答関数」「FRF」は、「速度を力で割った値」すなわち「速度/力」であること

(オ) 上記ウの【0082】?【0085】より、「ピックオフ・センサ170L、170R」の「センサ電圧」は、式(4)で示されるように、「運動のピックオフ速度」に比例し、駆動装置180によって生成された「力」は、式(5)で示されるように、駆動装置180に供給される「駆動電流」に比例するから、「速度/力」である「測定されるFRF」は、センサ電圧/駆動電流に比例し、それにより算出されること

(カ) 上記エの【0146】?【0148】より、「FRF測定」では、「特定の駆動周波数及び振動応答に対して2つのFRFが測定され」、「1つのFRF測定は右のピックオフ(RPO)に対する駆動装置から取得され、他のFRF測定は左のピックオフ(LPO)に対する駆動装置から取得される」こと

(キ) 上記エの【0145】、【0151】?【0153】より、「駆動周波数と、駆動周波数より高い2つのトーンと、駆動周波数より低い2つのトーンからなる」「5つのトーン」を「強制周波数ω」として、「実質的基本周波数の応答」と、「基本周波数応答よりも高い2つのトーンと基本周波数応答よりも低い2つのトーン」の「非基本周波数応答」を「受信」し、これらの「振動応答」から、「式(23)で与えられる形式」の「1次の極-剰余周波数応答が生成され」、「振動応答の一次極(λ)と一次剰余(R)とを決定」し、「一次極(λ)及び一次剰余(R)から、固有周波数ω_(n)、減衰された固有周波数ω_(d)及び減衰特性ζが決定され」、「減衰された固有周波数ω_(d)と剰余Rと虚数項(j)とを式(17)に代入して質量パラメータ(M)を取得」し、「固有周波数ω_(n)」と「質量パラメータ(M)」を「式(18)に代入することにより」、「剛性パラメータ(K)が決定される」こと


2 引用発明
上記1の認定事項(ア)?(キ)を総合すれば、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「一対の平行な流管130、130’、駆動機構180、一対の速度センサ170L、170R(ピックオフ・センサ170L、170R)を備えた流量計組立体10と、流量計電子装置20とを備える流量計5であって、

上記流量計電子装置20が、上記流量計5の振動応答からのみ取得される剛性パラメータ(K)を求め、上記流量計5の検証診断を行うものであり、

上記流量計電子装置20は、上記駆動機構180を駆動して流管130、130’を振動させるための駆動信号をリード線185を介して駆動機構180に印加し、上記ピックオフ・センサ170L、170Rからの振動応答210として、リード線165Lに現れる左速度信号とリード線165Rに現れる右速度信号とを受け取り、

測定される周波数応答関数(FRF)は、速度/力であり、センサ電圧/駆動電流に比例し、それにより算出され、

FRF測定では、特定の駆動周波数及び振動応答に対して2つのFRFが測定され、1つのFRF測定は右のピックオフ(RPO)に対する駆動装置から取得され、他のFRF測定は左のピックオフ(LPO)に対する駆動装置から取得され、

駆動周波数と、駆動周波数より高い2つのトーンと、駆動周波数より低い2つのトーンからなる5つのトーンを強制周波数ωとして、実質的基本周波数(駆動周波数)の応答と、基本周波数応答よりも高い2つのトーンと基本周波数応答よりも低い2つのトーンの非基本周波数応答を受信し、
これらの振動応答から、1次の極-剰余周波数応答が生成され、
式(23)を解くことにより、振動応答の一次極(λ)と一次剰余(R)が決定され、


決定された上記一次極(λ)及び上記一次剰余(R)から、固有周波数ω_(n)、減衰された固有周波数ω_(d)及び減衰特性ζが決定され、

上記減衰された固有周波数ω_(d)と上記一次剰余Rと虚数項(j)とを式(17)に代入して質量パラメータ(M)を取得し、
上記固有周波数ω_(n)と上記質量パラメータ(M)を式(18)に代入することにより、上記剛性パラメータ(K)が決定され、


決定された上記剛性パラメータ(K)により、上記流量計電子装置20が、上記流管の腐食、浸食、上記流量計組立体10の損傷等のファクタに起因する上記流量計組立体10の剛性の変化を検出して、上記流量計5の検証診断を行う、

流量計5。」


第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1) 引用発明の「一対の平行な流管130、130’」は、本願発明の「1つまたは複数の流れチューブ(130、130')」に相当し、引用発明の「一対の速度センサ170L、170R(ピックオフ・センサ170L、170R」は、本願発明の「第1及び第2のピックオフセンサ(170L、170R)」に相当するから、引用発明の「流量計組立体10」は、本願発明の「1つまたは複数の流れチューブ(130、130')と第1及び第2のピックオフセンサ(170L、170R)とを含む流量計アセンブリ(10)」に相当する。

(2) 引用発明の「駆動機構180」は、「流管130、130’を振動させるため」に「駆動」するものであるから、本願発明の「1つまたは複数の流れチューブ(130、130')を振動させるように構成されたドライバ(180)」に相当する。

(3) 引用発明の「流量計電子装置20」は、「上記駆動機構180を駆動して流管130、130’を振動させるための駆動信号をリード線185を介して駆動機構180に印加し」ているから、「駆動機構180」に「結合」されているといえる。
また、引用発明の「流量計電子装置20」は、「上記ピックオフ・センサ170L、170Rからの振動応答210として、リード線165Lに現れる左速度信号とリード線165Rに現れる右速度信号とを受け取」るから、「ピックオフ・センサ170L、170R」に「結合」されているといえる。
したがって、引用発明の「流量計電子装置20」は、本願発明の「第1及び第2のピックオフセンサ(170L、170R)に結合され、ドライバ(180)に結合されたメータ電子機器(20)」に相当する。

(4) 上記(1)乃至(3)において検討した事項を踏まえると、引用発明の「流量計5」は、本願発明の「振動型流量計(5)」に相当する。

(5) 引用発明では、「上記流管の腐食、浸食、上記流量計組立体10の損傷等のファクタに起因する上記流量計組立体10の剛性の変化を検出して、上記流量計5の検証診断を行う」ものであり、この「上記流量計5の検証診断」は、本願発明の「メータ検証」に相当する。
したがって、引用発明の「流量計5」は、本願発明の「メータ検証を備えた振動型流量計(5)」に相当する。

(6) 上記(1)乃至(5)において検討した事項を踏まえると、引用発明は、本願発明の構成A?D、Eに相当する構成を備えている。

(7) 引用発明では、「周波数応答関数(FRF)」の測定において、「特定の駆動周波数及び振動応答に対して2つのFRFが測定され、1つのFRF測定は右のピックオフ(RPO)に対する駆動装置から取得され、他のFRF測定は左のピックオフ(LPO)に対する駆動装置から取得され」、「測定される周波数応答関数(FRF)」は、「センサ電圧/駆動電流に比例し、それにより算出され」ることから、ある周波数で「駆動機構180を駆動して流管130、130’を振動させ」、FRF測定を行う際には、その「駆動電流」の値と、左のピックオフ・センサ170L及び右のピックオフ・センサ170Rから検出される「センサ電圧」の値が、特定されており、この特定された値を用いて、電圧と電流の比により、FRFが算出されるといえる。
ここで、引用発明の「駆動電流」は、本願発明の「流量計アセンブリ(10)をドライバ(180)を用いて」「振動させ」る「ドライバ(180)」の「電流(230)」に相当し、引用発明の左のピックオフ・センサ170L及び右のピックオフ・センサ170Rから検出される「センサ電圧」は、本願発明の「第1及び第2それぞれのピックオフセンサ(170L、170R)によって生成された第1及び第2の応答電圧(231)」に相当し、引用発明の測定される「2つのFRF」は、本願発明の「第1及び第2の応答電圧(231)に対する周波数応答関数」に相当する。
そうすると、本願発明の構成D-1に関し、本願発明と引用発明とは、「流量計アセンブリ(10)をドライバ(180)を用いて、ある周波数で振動させ、ドライバ(180)を駆動する電流(230)を決定し、第1及び第2それぞれのピックオフセンサ(170L、170R)によって生成された第1及び第2の応答電圧(231)を決定し、決定された第1及び第2の応答電圧(231)に対する周波数応答関数を決定された電流(230)から算出」するという点で共通する。

(8) 引用発明では、「駆動周波数と、駆動周波数より高い2つのトーンと、駆動周波数より低い2つのトーンからなる5つのトーンを強制周波数ωとして、実質的基本周波数(駆動周波数)の応答と、基本周波数応答よりも高い2つのトーンと基本周波数応答よりも低い2つのトーンの非基本周波数応答を受信し、これらの振動応答から、1次の極-剰余周波数応答が生成され、式(23)を解くことにより、振動応答の一次極(λ)と一次剰余(R)が決定され」るところ、上記「これらの振動応答」は、本願発明の「生成された周波数応答関数」に相当し、「1次の極-剰余周波数応答が生成され、式(23)を解くことにより、振動応答の一次極(λ)と一次剰余(R)」を「決定」することは、本願発明の「極-留数モデルに当てはめ」ることに相当する。
そして、引用発明の「剛性パラメータ(K)」は、本願発明の「メータ剛性値(216)」に相当するから、引用発明の「これらの振動応答から、1次の極-剰余周波数応答が生成され、式(23)を解くことにより、振動応答の一次極(λ)と一次剰余(R)が決定され」、「決定された上記一次極(λ)及び上記一次剰余(R)から、・・・、上記剛性パラメータ(K)が決定され」ることは、本願発明の構成D-2の「生成された周波数応答関数を極-留数モデルに当てはめてメータ剛性(216)を算出」することに相当する。

(9) 引用発明の「決定された上記剛性パラメータ(K)により、上記流量計電子装置20が、上記流管の腐食、浸食、上記流量計組立体10の損傷等のファクタに起因する上記流量計組立体10の剛性の変化を検出して、上記流量計5の検証診断を行う」ことは、本願発明の構成D-3の「メータ剛性値(216)を用いて振動型流量計(5)の適正な動作を検証するように構成される、メータ電子機器とを備える」ことに相当する。

(10) 上記(1)乃至(9)において検討した事項を総合すると、本願発明と引用発明とは、以下の一致点において一致し、以下の相違点で相違する。

[一致点]
「メータ検証を備えた振動型流量計(5)であって、
1つまたは複数の流れチューブ(130、130')と第1及び第2のピックオフセンサ(170L、170R)とを含む流量計アセンブリ(10)と、
1つまたは複数の流れチューブ(130、130')を振動させるように構成されたドライバ(180)と、
第1及び第2のピックオフセンサ(170L、170R)に結合され、ドライバ(180)に結合されたメータ電子機器(20)であって、
流量計アセンブリ(10)をドライバ(180)を用いて、ある周波数で振動させ、ドライバ(180)を駆動する電流(230)を決定し、第1及び第2それぞれのピックオフセンサ(170L、170R)によって生成された第1及び第2の応答電圧(231)を決定し、決定された第1及び第2の応答電圧(231)に対する周波数応答関数を決定された電流(230)から算出し、
生成された周波数応答関数を極-留数モデルに当てはめてメータ剛性(216)を算出し、
メータ剛性値(216)を用いて振動型流量計(5)の適正な動作を検証するように構成される、
メータ電子機器とを備える、
振動型流量計。」

[相違点]
本願発明では、「流量計アセンブリ(10)をドライバ(180)を用いて振動させ」る「周波数」が「単一モード」であり、「ドライバ(180)を駆動する電流」が「単一モード電流」であるのに対して、引用発明では、「駆動周波数と、駆動周波数より高い2つのトーンと、駆動周波数より低い2つのトーンからなる5つのトーンを強制周波数ωとして」振動させており、「単一モードで振動させ」ているかどうか、ドライバを駆動する電流が「単一モード電流」であるかどうかは明らかではない点。

2 判断
(1) 上記相違点について検討する。
引用発明では、「駆動周波数と、駆動周波数より高い2つのトーンと、駆動周波数より低い2つのトーンからなる5つのトーンを強制周波数ωとして、実質的基本周波数(駆動周波数)の応答と、基本周波数応答よりも高い2つのトーンと基本周波数応答よりも低い2つのトーンの非基本周波数応答を受信し」ている。
ここで、上記「駆動周波数」をω_(0)とし、「駆動周波数より高い2つのトーン」の周波数をそれぞれω_(+)、ω_(++)とし、「駆動周波数より低い2つのトーン」の周波数をそれぞれω_(-)、ω_(--)とすると、引用発明における「FRF測定」のために、「駆動機構180を駆動して流管130、130’を振動させるための駆動信号」は、ω_(0)、ω_(+)、ω_(++)、ω_(-)、ω_(--)の5つの周波数を有する信号であるといえる。
そして、引用発明では、「実質的基本周波数(駆動周波数)の応答と、基本周波数応答よりも高い2つのトーンと基本周波数応答よりも低い2つのトーンの非基本周波数応答を受信し」ているのであるから、「実質的基本周波数(駆動周波数)の応答」を受信する場合の駆動信号の周波数はω_(0) であって、他の4つの周波数(ω_(+)、ω_(++)、ω_(-)、ω_(--))を有する信号を駆動信号としてはいないはずである。
なぜなら、「実質的基本周波数(駆動周波数)の応答」を受信したといえるためには、当該応答に対する入力信号の周波数はω_(0)であり、その波形は、例えば、a_(0) sin (ω_(0) t +φ_(0))のように記述されることが必要であるところ、上記他の4つの周波数(ω_(+)、ω_(++)、ω_(-)、ω_(--))を有する信号も当該入力信号の成分に混入してしまうと、その波形は、例えば、
a_(0) sin (ω_(0) t +φ_(0)) + a_(+) sin (ω_(+) t +φ_(+)) + a_(++) sin (ω_(++) t +φ_(++)) + a_(-) sin (ω_(-) t +φ_(-)) + a_(--) sin (ω_(--) t +φ_(--))
のように記述され(a_(0)は0ではなく、a_(+)、a_(++)、a_(-)、a_(--)のうち、少なくとも一つは0ではない。)、 応答に対する入力信号の周波数はω_(0)ではなくなり、もはや「実質的基本周波数(駆動周波数)の応答」を受信したとはいえなくなるからである。
すなわち、「実質的基本周波数(駆動周波数)の応答」を受信する場合、「基本周波数応答よりも高い2つのトーン」の「非基本周波数応答」を受信する場合、「基本周波数応答よりも低い2つのトーンの非基本周波数応答」を受信する場合のいずれの場合にしても、駆動信号の周波数は、ω_(0)、ω_(+)、ω_(++)、ω_(-)、ω_(--)の5つの周波数のうちから1つの周波数を選択し、他の4つの周波数成分が混入しないようにしているのであって、それぞれの周波数応答の受信の際には、その都度、駆動信号の周波数は1つに固定されているのであるから、引用発明においても、「単一モードで振動させ」ているといえる。
そして、ドライバを駆動する駆動信号の周波数が1つに固定されている場合には、ドライバを駆動する電流は「単一モード電流」であるといえる。
そうすると、上記相違点は、実質的には解消され、本願発明と引用発明との間に相違点はなく、両者は一致する。

(2) 仮に、本願発明の「単一モード」が、引用発明のような「5つのトーン」のうちの一つのトーンに着目したものを意味するのではなく、そもそも「ト-ン」が1つしか存在せず、他の「トーン」を選択する余地がないという意味であるとした場合、上記相違点は上記(1)において述べた理由で解消されるとはいえないから、以下では、本願発明の「単一モード」が、そのような意味であるとした場合の上記相違点についてさらに検討する。

この点に関して、引用文献には、以下の記載がある。

「強制周波数ωは更に多くの又は少ないトーンからなることができ、駆動周波数とそれの上下の1つのトーンからなることができる。しかし、5つのトーンは、結果の精度と、結果を取得するのに必要な処理時間との良好な妥協点である。」(上記第4の1のエの【0145】)

「式(23)は複数の方法で解くことができる。1つの実施の形態においては、この式は、再帰的最小二乗法によって解かれる。」(上記第4の1のエの【0148】)

「共振周波数ω_(n)が与えられると、1つの特定の周波数ω_(1)における駆動装置-ピックオフFRFは、式を解いてパラメータM、C、Kを決定するのに十分であることに留意されたい。これは特に有用であり、FCFが複数の周波数で取られるとき、データに対する最小二乗当てはめは各係数の個々の推定値の単なる平均である。」(上記第4の1のオの【0181】)

これらの記載を総合すると、引用発明において、「5つのトーンを強制周波数ωとし」たのは、最小二乗法によりデータの推定値を平均値として求める際に、限られた処理時間の範囲で精度よく結果を得るためであると解されるところ、「1つの特定の周波数ω_(1)における駆動装置-ピックオフFRFは、式を解いてパラメータM、C、Kを決定するのに十分である」のであるから、検証の簡略化のため「5つのトーン」を採用せず、たった一つのトーン(すなわち、「単一モード」)だけを用いて測定されたFRFから、式(23)を解いて剛性パラメータKを決定するように構成することは、当業者ならば容易に為し得たものである。
そうすると、引用発明において、「強制周波数ω」をたった一つのトーンに限り、単一モードで振動させるようにすることにより、上記相違点に係る本願発明の構成を得ることに当業者ならば格別の困難性はないというべきである。
そして、本願発明の奏する効果についても、引用発明から当業者が予測可能な範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(3) 上記(1)及び(2)より、本願発明は、引用発明であり、もしくは、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


3 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、
「即ち、引用文献1に開示されているのは、流管を第1位相外れ曲げモードで駆動させる測定条件を定めて、流管を通過する物質の質量流量と密度を計算する内容である。
これに対し、本願発明では流量計アセンブリを単一モードで振動させるのは、メータ検証の為であって、最終的にメータ剛性値を用いて振動型流量計の適正な動作を検証する為である。従って、拒絶査定で記載されているように、「1つの周波数で駆動しているということは、当業者にとって単一のモードで振動していることを想起させるもの」であったとしても、本願発明にて流量計アセンブリを単一モードで振動させるのは、引用文献1に開示されたものとは目的及び得られる結果が異なると思料する。
また、引用文献1では明細書[0067]に「物質の質量流量と密度を計算する。」と記載されている。即ち、流管を流れる物質の2つの特性を求めているので、流管を第1位相外れ曲げモードで振動させるだけでなく、更なるモードで振動させていると思料する。」
と主張している(下線は、当審で付した。)。

しかしながら、上記2の(2)において検討したとおり、引用発明において、「5つのトーンを強制周波数ωとし」たのは、最小二乗法によりデータの推定値を平均値として求める際に、限られた処理時間の範囲で精度よく結果を得るためであると解されるから、引用文献1では「流管を通過する物質の質量流量と密度」という「流管を流れる物質の2つの特性を求めているので、流管を第1位相外れ曲げモードで振動させるだけでなく、更なるモードで振動させている」という請求人の主張を採用することはできない。
また、引用発明は、「上記流管の腐食、浸食、上記流量計組立体10の損傷等のファクタに起因する上記流量計組立体10の剛性の変化を検出して、上記流量計5の検証診断を行う」ものであるから、本願発明が、「引用文献1に開示されたものとは目的及び得られる結果が異なる」という請求人の主張も採用することはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-08-30 
結審通知日 2019-09-03 
審決日 2019-09-17 
出願番号 特願2016-548043(P2016-548043)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G01F)
P 1 8・ 121- Z (G01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大森 努山下 雅人公文代 康祐  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 濱野 隆
櫻井 健太
発明の名称 振動型流量計ならびにメータ検証のための方法及び診断  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  

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