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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1359430
審判番号 不服2018-10891  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-08 
確定日 2020-02-06 
事件の表示 特願2016- 99388「プログラム、コンピュータ装置、プログラム実行方法、及び、コンピュータシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月24日出願公開、特開2017-208688〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年5月18日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 7月25日付け:拒絶理由通知書
同年11月29日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 4月26日付け:拒絶査定
同年 8月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 本願発明
平成30年8月8日に提出された手続補正書による手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項4に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
なお、各構成の符号(A)?(G)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成A?構成Gと称する。

〔本願発明〕
【請求項4】
(A)一の投影面と、所定の角度を有して設置された他の投影面とに対して、投影画像を投影する複数の投影装置と通信又は接続が可能なコンピュータ装置であって、
(B)投影面に投影する投影画像を特定するための特定点の位置を変更する特定点位置変更手段と、
(C)特定点の位置に応じた画像を、投影画像として投影装置に送信する送信手段と、
(D)特定点の位置の変更に伴って仮想カメラの位置を変更する仮想カメラ位置変更手段と、
(E)仮想3次元空間を、仮想カメラから仮想スクリーン上に透視変換をして画像を生成する画像生成手段とを備え、
(E)画像生成手段が、
(E1)一の投影面に対応する第一仮想カメラから第一仮想スクリーン上に透視変換して画像を生成する第一画像生成手段と、
(E2)他の投影面に対応する第二仮想カメラから第二仮想スクリーン上に透視変換して画像を生成する第二画像生成手段とを含み、
(C)送信手段が、
(C1)生成された画像を投影画像として投影装置に送信するものであり、
(F)第一仮想カメラに対する第一仮想スクリーンの相対的な位置関係と、第二仮想カメラに対する第二仮想スクリーンの相対的な位置関係とが同一であり、
(G)第一仮想スクリーンと、第二仮想スクリーンとが前記所定の角度と同一の角度を有する、
(A)コンピュータ装置。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開平4-204842号公報
引用文献2:特開平9-138637号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明、文献2技術
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、次の事項が記載されている。
なお、記載事項の下線は、当審で付したものである。

ア 第1頁右下欄第14?18行
「<産業上の利用分野>
本発明は、映写ルームの映像表示装置に映像を映写することにより、観賞者がある空間に実際にいるような体験を味わうことができる映像シミュレーション・システムに関する。」

イ 第2頁右下欄第19行?第3頁左上欄第12行
「 本シミュレーション・システムでは、仮想の空間を作り出すための映写ルームを取り巻く全ての面、つまり、観賞者aに対して前後、左右の4周側面(壁面)、天井面及び床面の6面にリア・プロジェクション・タイプの投影スクリーン11?16を配置する。
該6面の投影スクリーンには、各々に対して1個ずつ、合計6個のプロジェクタ21?26が投影スクリーン11?16の外側に配置される。プロジェクタ21?26は、コントローラ41(図示せず)にて制御されており、図示しない画像信号の再生装置から送られてくる、異なる方向の画像を、各スクリーンに時間的に同期して映写するようになっている。」

ウ 第3頁右上欄16行?左下欄第16行
「 次に、映像としてコンピューターグラフィックスを利用する場合の実施例について説明する。
第2図は本実施例における映像シミュレーションシステムの構成を示すブロック図である。各投影スクリーン11?16に映写される映像は、4周面、天井面及び床面のそれぞれの面専用の画像生成装置31?36により生成される。画像生成装置31?36には予めシミュレーション画像の生成に必要な基本的な形状データ、即ち、形、色、反射率等が入力されており、これらのデータからコンピューターグラフィックスの手法により、部屋の内部に視点を置いた場合の、6面方向の映像が生成されるものである。こうして生成された全6画像をコントローラ41によって時間的なずれが生じないように同期させ、プロジェクタ21?26により投影スクリーン11?16へ投影する。つまり、観賞者aの右側に展開されるべき景観をシミュレーションするために設けられた右面シミュレーション生成装置34により生成された映像が、観賞者の右側の投影スクリーン14に投影されるといった具合である。」

エ 第3頁左下欄第17?20行
「 観賞者は部屋の中心に位置し、画像の内容によって適宜適当な方向の投影スクリーンを見入ることにより仮想空間の疑似体験を味わうことが出来る。」

オ 第3頁右下欄第7?16行
「 また、前記6面の投影スクリーン11?16に展開されるシミュレーション画像に三次元の立体画像を利用してもよい。こうすることにより、観賞者は例えば飛行機が立体画像の効果により前面の投影スクリーン11から近づいてくるのを感じ、目前に迫ったあと、すぐ後ろを振り返り後方の投影スクリーン12に見入れば、今度は遠くへ離れて行く感覚を味わうことができる。6面全てに三次元画像を組合せて写し出せば、その臨場感は想像を絶するものとなる。」

カ 第3頁右下欄第17行?第4頁右上欄第15行
「 次にコンピューターグラフィックスを利用して観賞者の視点が移動した場合の映像をリアルタイムに生成する場合について説明する。
各シミュレーション画像生成装置31?36には、予め運航シミュレーション画像の生成に必要な基本的な形状データ、即ち形、色、反射率等が入力されている。観賞者が操縦装置61の前に座った時点では、出発地点の景観がシミュレーション画像生成装置21?26により生成され、それぞれそ対応する投影プロジェクタ21?26によって投影スクリーン11?16上に写し出されている。観賞者が操縦装置61に設けられたハンドル、アクセル、ブレーキ等を操作すると、操縦情報が操縦情報分析装置51に送られる。操縦情報分析装置51では、送られてきた操縦情報を基に、モーション・データ(動き、視点と注視点、透視角等)を前後左右上下の6方向に展開・算出して各々対応するシミュレーション画像生成装置31?32へ受け渡す。シミュレーション画像生成装置31?36は、各々のモーション・データをパラメータ情報として、画像生成演算部311?361で各視点方向のシミュレーション画像を生成する。コントローラ41は、6つの独立した画像生成演算部311?361で生成された画像の再生同期をとる。各画像生成演算部311?361は画像の生成を完了するとコントローラ41に完了の信号を送る。コントローラ41は、6つのシミュレーション画像生成装置31?36に対し画像表示用のフレームメモリ312?362への画像データの書き込みを開始する指令を出す。各フレームメモリ312?362は、各々D/Aコンバータ313?363が接続されており、出力されたアナログの映像信号は、各プロジェクタ21?26へ入力され、投影スクリーン11?16へ映し出される。前記操縦装置61から送り出される操縦信号は、例えば1/30秒単位で送り出され、シミュレーション画像生成装置31?36でリアルタイムに画像が生成されるため、連続した、なめらかな動画像表示が可能となる。」

キ 第2図




ク 引用文献1に記載の技術的事項
上記ア?キに摘記した記載事項から、引用文献1には、以下(ア)?(ス)の技術的事項が記載されているものと認められる。

(ア)上記アによれば、引用文献1には、
「映写ルームの映像表示装置に映像を映写することにより、観賞者がある空間に実際にいるような体験を味わうことができる映像シミュレーション・システム」が記載されている。

(イ)上記イによれば、引用文献1に記載の映像シミュレーション・システムは、
「仮想の空間を作り出すための映写ルームを取り巻く全ての面、つまり、観賞者aに対して前後、左右の4周側面(壁面)、天井面及び床面の6面にリア・プロジェクション・タイプの投影スクリーン11?16を配置し、
該6面の投影スクリーンには、各々に対して1個ずつ、合計6個のプロジェクタ21?26が投影スクリーン11?16の外側に配置し、
プロジェクタ21?26は、コントローラ41にて制御されており、画像信号の再生装置から送られてくる、異なる方向の画像を、各スクリーンに時間的に同期して映写するようになって」いることが記載されている。

(ウ)上記ウ、カ及びキによれば、引用文献1に記載の映像シミュレーション・システムは、画像生成装置31?36、並びに、画像生成装置31?36に接続されたコントローラ41及び操縦情報分析装置51により構成されていることが記載されている。

(エ)上記(ア)及び(ウ)によれば、引用文献1には、
「映写ルームの映像表示装置に映像を映写することにより、観賞者がある空間に実際にいるような体験を味わうことができる映像シミュレーション・システムにおける画像生成装置31?36、並びに、画像生成装置31?36に接続されたコントローラ41及び操縦情報分析装置51」が記載されている。

(オ)上記ウによれば、引用文献1に記載の画像生成装置31?36は、
「4周面、天井面及び床面のそれぞれの面専用の前記画像生成装置31?36であって、
各投影スクリーン11?16に映写される映像は、前記それぞれの面専用の画像生成装置31?36により生成され、
画像生成装置31?36には予めシミュレーション画像の生成に必要な基本的な形状データ、即ち、形、色、反射率等が入力されており、これらのデータからコンピューターグラフィックスの手法により、部屋の内部に視点を置いた場合の、6面方向の映像が生成されるものである」ことが記載されている。

(カ)上記ウによれば、引用文献1に記載のコントローラ41は、
「生成された全6画像を時間的なずれが生じないように同期させ、プロジェクタ21?26により投影スクリーン11?16へ投影する」ことが記載されている。

(キ)上記エによれば、引用文献1に記載の映像シミュレーション・システムは、
「観賞者は部屋の中心に位置し、画像の内容によって適宜適当な方向の投影スクリーンを見入ることにより仮想空間の疑似体験を味わうことが出来る」ことが記載されている。

(ク)上記オによれば、引用文献1に記載の映像シミュレーション・システムは、
「前記6面の投影スクリーン11?16に展開されるシミュレーション画像に三次元の立体画像を利用してもよい」ことが記載されている。

(ケ)上記カによれば、引用文献1に記載の画像生成装置31?36は、
「コンピューターグラフィックスを利用して観賞者の視点が移動した場合の映像をリアルタイムに生成する場合には、
前記画像生成装置31?36には、予め運航シミュレーション画像の生成に必要な基本的な形状データ、即ち形、色、反射率等が入力されており、
観賞者が操縦装置61の前に座った時点では、出発地点の景観が前記画像生成装置31?36により生成され、それぞれ対応する投影プロジェクタ21?26によって投影スクリーン11?16上に写し出されている」ことが記載されている。
なお、上記カにおける「シミュレーション画像生成装置21?26」及び「それぞれそ対応する」との記載は、それぞれ「シミュレーション画像生成装置31?36」及び「それぞれ対応する」との誤記であると認められる。

(コ)上記カによれば、引用文献1に記載の操縦情報分析装置51は、
「観賞者が操縦装置61に設けられたハンドル、アクセル、ブレーキ等を操作すると、操縦情報が操縦情報分析装置51に送られ、
操縦情報分析装置51では、送られてきた操縦情報を基に、モーション・データ(動き、視点と注視点、透視角等)を前後左右上下の6方向に展開・算出して各々対応する前記画像生成装置31?32へ受け渡す」ことが記載されている。

(サ)上記カによれば、引用文献1に記載の画像生成装置31?36は、
「各々のモーション・データをパラメータ情報として、画像生成演算部311?361で各視点方向のシミュレーション画像を生成する」ことが記載されている。

(シ)上記カによれば、引用文献1に記載のコントローラ41は、
「6つの独立した画像生成演算部311?361で生成された画像の再生同期をとり、
6つの画像生成装置31?36に対し画像表示用のフレームメモリ312?362への画像データの書き込みを開始する指令を出す」ことが記載されている。

(ス)上記カによれば、引用文献1に記載の画像生成装置31?36は、
「各フレームメモリ312?362は、各々D/Aコンバータ313?363が接続されており、出力されたアナログの映像信号は、各プロジェクタ21?26へ入力され、投影スクリーン11?16へ映し出され、
前記操縦装置61から送り出される操縦信号は、例えば1/30秒単位で送り出され、生成装置31?36でリアルタイムに画像が生成されるため、連続した、なめらかな動画像表示が可能となる」ことが記載されている。

(2)引用発明
上記(1)クから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、引用発明の各構成の符号(a)?(e2)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成a?構成e2と称する。

〔引用発明〕
(a)映写ルームの映像表示装置に映像を映写することにより、観賞者がある空間に実際にいるような体験を味わうことができる映像シミュレーション・システムにおける画像生成装置31?36、並びに、画像生成装置31?36に接続されたコントローラ41及び操縦情報分析装置51であって、

(b)前記映像シミュレーション・システムは、
(b1)仮想の空間を作り出すための映写ルームを取り巻く全ての面、つまり、観賞者aに対して前後、左右の4周側面(壁面)、天井面及び床面の6面にリア・プロジェクション・タイプの投影スクリーン11?16を配置し、
(b2)該6面の投影スクリーンには、各々に対して1個ずつ、合計6個のプロジェクタ21?26が投影スクリーン11?16の外側に配置し、
(b3)プロジェクタ21?26は、コントローラ41にて制御されており、画像信号の再生装置から送られてくる、異なる方向の画像を、各スクリーンに時間的に同期して映写するようになっており、

(c)前記画像生成装置31?36は、
(c1)天井面及び床面のそれぞれの面専用の前記画像生成装置31?36であって、
(c2)各投影スクリーン11?16に映写される映像は、前記それぞれの面専用の画像生成装置31?36により生成され、
(c3)前記画像生成装置31?36には予めシミュレーション画像の生成に必要な基本的な形状データ、即ち、形、色、反射率等が入力されており、これらのデータからコンピューターグラフィックスの手法により、部屋の内部に視点を置いた場合の、6面方向の映像が生成されるものであり、

(d)前記コントローラ41は、
(d1)生成された全6画像を時間的なずれが生じないように同期させ、前記プロジェクタ21?26により前記投影スクリーン11?16へ投影し、

(b)前記映像シミュレーション・システムは、
(b4)観賞者は部屋の中心に位置し、画像の内容によって適宜適当な方向の投影スクリーンを見入ることにより仮想空間の疑似体験を味わうことが出来るものであり、
(b5)前記6面の投影スクリーン11?16に展開されるシミュレーション画像に三次元の立体画像を利用してもよく、

(c)前記画像生成装置31?36は、
(c4)コンピューターグラフィックスを利用して観賞者の視点が移動した場合の映像をリアルタイムに生成する場合には、
(c5)前記画像生成装置31?36には、予め運航シミュレーション画像の生成に必要な基本的な形状データ、即ち形、色、反射率等が入力されており、
(c6)観賞者が操縦装置61の前に座った時点では、出発地点の景観が前記画像生成装置31?36により生成され、それぞれ対応する投影プロジェクタ21?26によって前記投影スクリーン11?16上に写し出されており、

(e)前記操縦情報分析装置51は、
(e1)「観賞者が操縦装置61に設けられたハンドル、アクセル、ブレーキ等を操作すると、操縦情報が操縦情報分析装置51に送られ、
(e2)操縦情報分析装置51では、送られてきた操縦情報を基に、モーション・データ(動き、視点と注視点、透視角等)を前後左右上下の6方向に展開・算出して各々対応する前記画像生成装置31?32へ受け渡し、

(c)前記画像生成装置31?36は、
(c7)各々のモーション・データをパラメータ情報として、画像生成演算部311?361で各視点方向のシミュレーション画像を生成し、

(d)前記コントローラ41は、
(d2)6つの独立した画像生成演算部311?361で生成された画像の再生同期をとり、
(d3)6つの画像生成装置31?36に対し画像表示用のフレームメモリ312?362への画像データの書き込みを開始する指令を出し、

(c)前記画像生成装置31?36は、
(c8)各フレームメモリ312?362は、各々D/Aコンバータ313?363が接続されており、出力されたアナログの映像信号は、各プロジェクタ21?26へ入力され、投影スクリーン11?16へ映し出され、
(c9)前記操縦装置61から送り出される操縦信号は、例えば1/30秒単位で送り出され、生成装置31?36でリアルタイムに画像が生成されるため、連続した、なめらかな動画像表示が可能となるものである

(a)映像シミュレーション・システムにおける画像生成装置31?36、並びに、画像生成装置31?36に接続されたコントローラ41及び操縦情報分析装置51。

2 引用文献2について
(1)引用文献2の記載事項
引用文献2には、次の事項が記載されている。
なお、記載事項の下線は、当審で付したものである。

「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、例えば各種のシミュレータもしくは娯楽用の遊具に適用する模擬視界装置に関する。」

「【0026】図2は、同実施形態における視点位置データ103、視野データ104、および視点姿勢データ105の例を示した図である。今、仮想空間において使用者11の視点12からCRTディスプレイ4の表示画面13を見ることを想定する。この場合、視点12の視点位置データ103が仮想空間の座標(x,y,z)によって示されている。また、視点12の位置から表示画面13を見たときの仮想空間の視野データ104が、視点12と表示画面13の中心14とを結んだ直線と、視点12と表示画面13の右上端15とを接続した直線との角度である視野角θによって示されている。さらに、視点12の視点姿勢データ105が、視点12に対する表示画面の中心14についてのベクトルα,β,γとして示されている。」

「【0030】一方、磁気センサ1における頭部の位置検出処理とは独立して、シミュレーション部8は所定の模擬計算処理を実行し、この処理結果である模擬計算結果データ101を出力する。この模擬計算結果データ101は、模擬視界生成部3に入力される。
【0031】さらに、シミュレーション部8は、模擬計算の処理結果に基づいて、仮想空間におけるCRTディスプレイ4の表示画面の三次元的な位置を算出し、この算出結果である仮想位置データ102を出力する。この仮想位置データ102は、視点位置算出部8、視野算出部9、および視点位置算出部10のそれぞれに入力される。
【0032】次に、視点位置算出部8は、頭部位置データ100および仮想位置データ102に基づいて、仮想空間における使用者11の視点の三次元的位置を算出し、この算出結果である視点位置データを103を出力する。この視点位置データ103は、模擬視界生成部3、視野算出部9、および視点姿勢算出部10のそれぞれに入力される。
【0033】次に、視野算出部9は、仮想位置データ101および視点位置データ103に基づいて、仮想空間における使用者の視点位置からCRTディスプレイ4の表示画面を見た場合の仮想空間の視野を算出し、この算出結果である視野データ104を出力する。この視野データ104は模擬視界生成部3に入力される。
【0034】一方、上述した視野算出部9とは別に、視点姿勢算出部10は、仮想位置データ101および視点位置データ103に基づいて、仮想空間における使用者11の視点の姿勢を算出し、この算出結果である視点姿勢データ105を出力する。この視点姿勢データ105は模擬視界生成部3に入力される。
【0035】次に、模擬視界生成部3は、視点位置データを103、視野データ104、および視点姿勢データ105のそれぞれに基づいて、模擬視界画像106を生成して出力する。この模擬視界画像106はCRTディスプレイ4に表示される。」

(2)引用文献2に記載された技術
上記(1)に摘記した記載から、引用文献2には、以下の技術(以下、「文献2技術」という。)が記載されているものと認められる。
なお、段落0032の「視点位置データを103を出力する」、段落0033の「仮想位置データ101」、0034の「仮想位置データ101」及び段落0034の「視点位置データを103」との記載は、それぞれ「視点位置データ103を出力する」「仮想位置データ102」「仮想位置データ102」「視点位置データ103」の誤記と認められる。
文献2技術の各構成の符号(2a)?(2j)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成2a?構成2jと称する。

〔文献2技術〕
(2a)シミュレータに適用する模擬視界装置において、
(2b)仮想空間において使用者11の視点12から表示画面13を見ることを想定した場合、
(2b1)視点の視点位置データ103が仮想空間の座標(x,y,z)によって示され、
(2b2)視点の位置から表示画面を見たときの仮想空間の視野データ104が、視点と表示画面の中心とを結んだ直線と、視点と表示画面の右上端とを接続した直線との角度である視野角θによって示され、
(2b3)視点の視点姿勢データ105が、視点に対する表示画面の中心についてのベクトルα,β,γとして示され、

(2c)シミュレーション部は、
(2c1)所定の模擬計算処理を実行した処理結果である模擬計算結果データ101を出力し、
(2c2)模擬計算の処理結果に基づいて、仮想空間における表示画面の三次元的な位置を算出した算出結果である仮想位置データ102を出力し、

(2d)模擬視界生成部は、
(2d1)使用者の頭部位置データ100および前記仮想位置データ102に基づいて算出された「仮想空間における使用者の視点の三次元的位置」である視点位置データ103と、
(2d2)前記仮想位置データ102および前記視点位置データ103に基づいて算出された「仮想空間における使用者の視点位置から表示画面を見た場合の仮想空間の視野」である視野データ104と、
(2d3)前記仮想位置データ102および前記視点位置データ103に基づいて算出された「仮想空間における使用者の視点の姿勢」である視点姿勢データ105が入力され、
(2d4)視点位置データ103、視野データ104、および視点姿勢データ105のそれぞれに基づいて、模擬視界画像106を生成して出力する技術。

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

1 構成Aについて
引用発明の「投影スクリーン11?16」は、映像及びシミュレーション画像が映写されるスクリーンであり、平面を有しているから、構成Aの「投影面」に相当する。また、引用発明の「投影プロジェクタ21?26」は、構成Aの「複数の投影装置」に相当する。そして、引用発明の投影スクリーン11?16に投影する「シミュレーション画像」は、本願発明の「投影画像」に相当する。投影スクリーン11?16のうちいずれか一の投影スクリーンを「一の投影スクリーン」とすると、他の投影スクリーンは、当該「一の投影スクリーン」に対して所定の角度を有して設置されているから、構成b1の「投影スクリーン11?16」における一の投影スクリーン及び他の投影スクリーンは、構成Aの「一の投影面と、所定の角度を有して設置された他の投影面」に相当する。
構成b2の「合計6個のプロジェクタ21?26」は、投影スクリーン11?16の各々に対して1個ずつ配置され、画像を各スクリーンに映写するから(構成b3)、構成Aの「一の投影面と、所定の角度を有して設置された他の投影面とに対して、投影画像を投影する複数の投影装置」に相当する。
また、構成aの「画像生成装置31?36、並びに、画像生成装置31?36に接続されたコントローラ41及び操縦情報分析装置51」は、「コンピュータ装置」に相当するといえる。
そして、シミュレーション画像を生成し、当該シミュレーション画像を基に出力されたアナログの映像信号が、各プロジェクタ21?26へ入力されて投影スクリーンに映し出されるから(構成c及び構成d)、前記「画像生成装置31?36、並びに、画像生成装置31?36に接続されたコントローラ41及び操縦情報分析装置51」は、「複数の投影装置と通信又は接続が可能なコンピュータ装置」に相当する。
以上から、本願発明と引用発明とは、構成Aである点で一致する。

2 構成Bについて
構成b4の「鑑賞者の位置」及び構成c3、c4、e2及びc7の「視点」は、投影スクリーンに映し出すコンピューターグラフィックスを利用して観賞者の視点が移動した場合の映像をリアルタイムに生成するために用いられる点であって、仮想空間内の位置であるから、構成b4の「鑑賞者の位置」及び構成c3、c4、e2及びc7の「視点」は、構成Bの「投影面に投影する投影画像を特定するための特定点」に相当する。
そして、構成eの「操縦情報分析装置51」が、鑑賞者の視点が移動したモーション・データを展開・算出する(構成e)ことは、鑑賞者の視点の位置を変更するといえるから、構成eの「操縦情報分析装置51」は、構成Bの「投影面に投影する投影画像を特定するための特定点の位置を変更する特定点位置変更手段」に相当する。
よって、本願発明と引用発明とは、構成Bを備える点で一致する。

3 構成C、構成C1について
構成c7の「シミュレーション画像」は、上記2のとおり「特定点の位置の変更に応じて生成される画像」であり、上記1のとおり各プロジェクタ21?26へ入力されるものであるから、引用発明の画像生成装置31?36に、画像を各プロジェクタ21?26に送信する手段が備わっていることは明らかである。
よって、本願発明と引用発明とは、構成C及び構成C1を備える点で一致する。

4 構成Dについて
引用発明の「シミュレーション画像」は、鑑賞者の視点から投影スクリーンを見入ることで仮想空間の三次元の立体画像を見ることができる(構成b4及び構成b5)ものであり、鑑賞者の視点の移動を基に生成されたもの(構成e)であるから、引用発明の鑑賞者の視点のモーション・データでシミュレーション画像を生成することは、「仮想カメラ」を備えているといえる。そして、引用発明は、特定点の位置の変更に伴って仮想カメラの位置が変更される構成を備えているといえる。
よって、本願発明と引用発明とは、構成Dを備える点で一致する。

5 構成Eについて
引用発明は、構成b1において、仮想の空間を作り出すために投影スクリーン11?16を配置し、構成c2において、各投影スクリーン11?16に映写される映像を画像生成装置31?36により生成するものであるから、仮想3次元空間における画像を生成する画像生成手段を備える点で構成Eと共通する。
しかしながら、前記画像を生成する構成について、本願発明は「仮想3次元空間を、仮想カメラから仮想スクリーン上に透視変換をして」行うものであるのに対し、引用発明は、「仮想3次元空間を、仮想カメラから仮想スクリーン上に透視変換をして」行うことが特定されていない点で、両者は相違する。

6 構成E1、構成E2、構成F、構成Gについて
引用発明は、構成b1において、仮想の空間を作り出すために投影スクリーン11?16を配置し、構成c2において、各投影スクリーン11?16に映写される映像をそれぞれの面専用の画像生成装置31?36により生成するものであるから、画像生成手段が、一の投影面に対応する第一画像生成手段と、他の投影面に対応する第二画像生成手段とを含む点で、構成E1及び構成E2と共通する。
しかしながら、上記5のとおり、引用発明は画像生成時に透視変換を行うことが特定されていないから、第一画像生成手段及び第二画像生成手段の各々における画像を生成する構成について、本願発明は「一の投影面に対応する第一仮想カメラから第一仮想スクリーン上に透視変換して」及び「他の投影面に対応する第二仮想カメラから第二仮想スクリーン上に透視変換して」各々行うのに対し、引用発明は、「一の投影面に対応する第一仮想カメラから第一仮想スクリーン上に透視変換して」及び「他の投影面に対応する第二仮想カメラから第二仮想スクリーン上に透視変換して」各々行うことが特定されていない点で、両者は相違する。
さらに、上記5のとおり、引用発明は画像生成時に透視変換を行うことが特定されていないから、透視変換の構成要素である仮想スクリーンを用いることも特定されていない。したがって、本願発明は構成F及び構成Gを備えるのに対し、引用発明は構成F及び構成Gを備えることが特定されていない点で、両者は相違する。

7 一致点、相違点について
以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

〔一致点〕
(A)一の投影面と、所定の角度を有して設置された他の投影面とに対して、投影画像を投影する複数の投影装置と通信又は接続が可能なコンピュータ装置であって、
(B)投影面に投影する投影画像を特定するための特定点の位置を変更する特定点位置変更手段と、
(C)特定点の位置に応じた画像を、投影画像として投影装置に送信する送信手段と、
(D)特定点の位置の変更に伴って仮想カメラの位置を変更する仮想カメラ位置変更手段と、
(E)仮想3次元空間における画像を生成する画像生成手段とを備え、
(E)画像生成手段が、
(E1)一の投影面に対応する第一画像生成手段と、
(E2)他の投影面に対応する第二画像生成手段とを含み、
(C)送信手段が、
(C1)生成された画像を投影画像として投影装置に送信するものである、
(A)コンピュータ装置。

〔相違点〕
画像を生成する構成について、本願発明は「仮想3次元空間を、仮想カメラから仮想スクリーン上に透視変換をして」(構成E)行うものであり、「一の投影面に対応する第一仮想カメラから第一仮想スクリーン上に透視変換して」(構成E1)及び「他の投影面に対応する第二仮想カメラから第二仮想スクリーン上に透視変換して」(構成E2)各々行うものであり、さらに、構成F及び構成Gを備えるものであるのに対し、引用発明は、「仮想3次元空間を、仮想カメラから仮想スクリーン上に透視変換をして」行うこと、「一の投影面に対応する第一仮想カメラから第一仮想スクリーン上に透視変換して」及び「他の投影面に対応する第二仮想カメラから第二仮想スクリーン上に透視変換して」各々行うこと、並びに、構成F及び構成Gを備えることが特定されていない点。

第6 判断
上記相違点について、以下に検討する。

文献2技術における構成2bの「仮想空間において使用者11の視点12から表示画面13を見ることを想定した場合」の、構成2d4の「模擬視界画像106を生成」する技術が、透視変換をして画像を生成する技術であることは、当業者に明らかな事項である。ここで、前記「仮想空間」、「仮想空間」における「使用者の視点」及び「仮想空間」における「表示画面」は、構成Eの「仮想3次元空間」、「仮想カメラ」及び「仮想スクリーン」にそれぞれ相当する。
よって、文献2技術の構成2d1の「仮想空間における使用者の視点の三次元的位置である視点位置データ103」と、構成2d2の「仮想空間における使用者の視点位置から表示画面を見た場合の仮想空間の視野である視野データ104」と、構成2d3の「仮想空間における使用者の視点の姿勢である視点姿勢データ105」とに基づいて、構成2d4で「模擬視界画像106を生成」することは、構成Eの「仮想3次元空間を、仮想カメラから仮想スクリーン上に透視変換をして画像を生成する」ことに相当する。
ここで、引用発明と文献2技術とは、仮想空間における鑑賞者の視点に基づく画像を生成するものである点で技術分野及び機能が共通する。さらに、引用発明は、構成b5において、前記6面の投影スクリーン11?16に展開されるシミュレーション画像に三次元の立体画像を利用してもよいとされているから、シミュレーション画像を生成する際に画像の遠近感を考慮することも、文献2技術と共通する。
よって、引用発明の仮想の空間のシミュレーション画像を生成するための具体的構成として、文献2技術の「仮想3次元空間を、仮想カメラから仮想スクリーン上に透視変換をして」行うものを適用すること、すなわち、構成Eを備えることは、当業者が容易に想到しうることである。

そして、上記のとおり引用発明に対し透視変換に係る文献2技術を適用した際の、仮想スクリーンに係る各構成は、次のア、イとおりである。

ア 構成c1の画像生成装置31?36は、天井面及び床面のそれぞれの面専用であって、構成c7において各視点方向のシミュレーション画像を生成するものであるから、上記のとおり引用発明に文献2技術を適用した際には、画像生成装置31?36の各々における仮想カメラ及び仮想スクリーンが、一の投影面及び他の投影面に対応したもの、すなわち、構成E1及び構成E2を備えたものとなる。

イ 引用発明は、構成b4において観賞者の位置は部屋の中心とされているから、一の投影面と他の投影面は視点との位置関係が同一であるといえる。また、引用発明が「一の投影面と、所定の角度を有して設置された他の投影面」を有することは、上記第5の1で示したとおりである。そして、文献2技術において、構成2bの仮想空間において使用者11の視点12から表示画面13を見ることを想定した場合の、構成2d4で生成される模擬視界画像は、使用者の視点と表示画面との関係が、実空間と仮想空間とで一致していることは、前記「模擬視界」の意味からして当業者に明らかな事項であるから、上記のとおり引用発明に文献2技術を適用したものは、一の投影面に対応する第一仮想カメラに対する第一仮想スクリーンの相対的な位置関係と、他の投影面に対応する第二仮想カメラに対する第二仮想スクリーンの相対的な位置関係とが同一、すなわち、構成Fを備えたものとなり、かつ、仮想空間の第一仮想スクリーンと第二仮想スクリーンとの角度が、前記所定の角度と同一、すなわち、構成Gを備えたものとなる。

そして、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び文献2技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

なお、請求人は、審判請求書において、「引用文献1と2とは、技術分野の関連性が低く、課題が異なるものですから、引用文献1において、引用文献2に記載された技術を採用する動機付けはありません。」と主張している。
しかしながら、引用発明に文献2技術を適用する動機付けが存在することは、本判断において前記したとおりであるから、請求人による上記主張は採用できない。

よって、本願発明は、引用発明及び文献2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-27 
結審通知日 2019-12-03 
審決日 2019-12-17 
出願番号 特願2016-99388(P2016-99388)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 益戸 宏  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 小池 正彦
樫本 剛
発明の名称 プログラム、コンピュータ装置、プログラム実行方法、及び、コンピュータシステム  
代理人 特許業務法人ライトハウス国際特許事務所  

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