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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1359431
審判番号 不服2018-11455  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-23 
確定日 2020-02-06 
事件の表示 特願2016-213140「VR酔いを抑制するための方法、当該方法をコンピュータに実行させるためのプログラムおよび、情報処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月10日出願公開、特開2018- 72604〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年10月31日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 8月28日付け:拒絶理由通知書
同年12月14日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 2月15日付け:拒絶理由通知書
同年 4月23日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月24日付け:拒絶査定
同年 8月23日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成31年 2月 6日 :上申書の提出

第2 平成30年8月23日にされた手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成30年8月23日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成30年4月23日にされた手続補正により補正された請求項1(以下、「補正前の請求項1」という。)を、以下の請求項1(以下、「補正後の請求項1」という。)とする補正事項を含むものである。(下線は、補正箇所である。)

(補正前の請求項1)
「【請求項1】
ヘッドマウントデバイスに仮想空間を提供するためにコンピュータで実行される方法であって、
仮想空間を定義するステップと、
前記ヘッドマウントデバイスに画像を表示して、前記ヘッドマウントデバイスのユーザに前記仮想空間における視点からの視界を提供するステップと、
前記ヘッドマウントデバイスの動きを検出するステップと、
前記検出されたヘッドマウントデバイスの動きに連動して、前記視点の向きを制御するステップと、
前記ユーザの操作を受け付けるコントローラの入力に基づいて、前記視点の位置を前記仮想空間上で自由移動させるステップと、を含み、
前記視点の位置を移動させるステップにおいて、前記コンピュータは、前記コントローラによる一の入力に応答して、前記視点の位置を第1の速度で移動させる処理と、前記視点の位置を前記第1の速度よりも遅い第2の速度で移動させるか、あるいは停止させる処理の両方を実行する、方法。」

(補正後の請求項1)
「【請求項1】
ヘッドマウントデバイスに仮想空間を提供するためにコンピュータで実行される方法であって、
仮想空間を定義するステップと、
前記ヘッドマウントデバイスに画像を表示して、前記ヘッドマウントデバイスのユーザに前記仮想空間における視点からの視界を提供するステップと、
前記ヘッドマウントデバイスの動きを検出するステップと、
前記検出されたヘッドマウントデバイスの動きに連動して、前記視点の向きを制御するステップと、
前記ユーザの操作を受け付けるコントローラの入力に基づいて、前記視点の位置を前記仮想空間上で自由移動させるステップと、を含み、
前記視点の位置を移動させるステップにおいて、前記コンピュータは、前記コントローラによる一の入力に応答して、第1の期間の間、前記視点の位置を第1の速度で移動させる処理と、第2の期間の間、前記視点の位置を前記第1の速度よりも遅い第2の速度で移動させるか、あるいは停止させる処理との両方を実行する、方法。」

2 補正の適否
上記請求項1に係る補正事項は、コントローラによる一の入力に応答したコンピュータの実行内容である「前記視点の位置を第1の速度で移動させる処理と、前記視点の位置を前記第1の速度よりも遅い第2の速度で移動させるか、あるいは停止させる処理の両方を実行する」について、「第1の期間の間、前記視点の位置を第1の速度で移動させる処理と、第2の期間の間、前記視点の位置を前記第1の速度よりも遅い第2の速度で移動させるか、あるいは停止させる処理との両方を実行する」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1に記載したとおりであり、以下に再掲する。
なお、各構成の符号(A)?(F5)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成A?構成F5と称する。

(本件補正発明)
(A)ヘッドマウントデバイスに仮想空間を提供するためにコンピュータで実行される方法であって、
(B)仮想空間を定義するステップと、
(C)前記ヘッドマウントデバイスに画像を表示して、前記ヘッドマウントデバイスのユーザに前記仮想空間における視点からの視界を提供するステップと、
(D)前記ヘッドマウントデバイスの動きを検出するステップと、
(E)前記検出されたヘッドマウントデバイスの動きに連動して、前記視点の向きを制御するステップと、
(F)(F1)前記ユーザの操作を受け付けるコントローラの入力に基づいて、前記視点の位置を前記仮想空間上で自由移動させるステップと、を含み、
(F)前記視点の位置を移動させるステップにおいて、(F2)前記コンピュータは、前記コントローラによる一の入力に応答して、(F3)第1の期間の間、前記視点の位置を第1の速度で移動させる処理と、(F4)第2の期間の間、前記視点の位置を前記第1の速度よりも遅い第2の速度で移動させるか、あるいは停止させる処理と(F5)の両方を実行する、
(A)方法。

(2)引用文献、引用発明
(2-1-1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2006-79174号公報には、図面とともに次の記載がある。
なお、以下の下線は、強調のために当審で付したものである。

「【0001】
本発明は、仮想3次元空間を体験するための仮想現実感提示装置および情報処理方法に関する。」

「【背景技術】
【0002】
従来より、仮想現実感(VR:Virtual Reality)提示装置が存在する。仮想現実感提示装置とは、たとえば、頭部装着型ディスプレイ(HMD:Head Mounted Display)のような映像表示装置と、観察者の視点の位置姿勢を検出するための位置姿勢検出手段(たとえば位置姿勢センサ)と、CG(コンピュータグラフィックス)映像生成手段を備えている。
【0003】
位置姿勢検出手段としては磁気方式による位置姿勢センサなどが用いられ、これを観察者が装着するHMDに取り付けることによって観察者頭部の位置姿勢の値を検出する。磁気方式の位置姿勢センサとは、磁気発生装置(発信機)と磁気センサ(受信機)との間の相対位置・姿勢を検出するものであり、米国ポヒマス(Polhemus)社の製品FASTRAKなどがあげられる。これは特定の領域内で、センサの3次元位置(X,Y,Z)と姿勢(Pitch,Yaw,Roll)をリアルタイムに検出する装置である。
【0004】
CG映像生成手段は、三次元モデリングされたCGを現実空間と同じスケールの仮想空間に配置し、その仮想空間を前記位置姿勢検出手段によって検出された観察者視線位置姿勢からレンダリングするものである。
【0005】
このようにして生成されたCG映像を映像表示装置(HMDなど)に表示することにより、観察者はあたかも仮想のCG空間の中に没入しているような感覚を得ることができる。
【0006】
また、上記のシステムにおいては仮想空間内で位置移動するためには観察者が実際に位置移動をする必要があるが、機材ごと移動する必要があることや、仮想空間と同じだけの実空間を必要とするといった問題があることから、位置移動を別途指定する位置移動指示手段を設けることも従来から行われている。たとえば上記位置姿勢センサによって方向を指定し、さらに別途備えられたボタンを押すことによってその方向への移動を指示したり、ジョイスティックのようなデバイスをもちいて位置移動を指示することが行われている。このように仮想3次元空間内を自由に位置移動して観察することをウォークスルーと呼ぶ。この場合でも観察者視点の位置姿勢によってCGのレンダリング視点は変わるので、移動した先において視点の位置移動・姿勢変化があればそのとおりの視点から仮想空間を観察することができる。」

(2-1-2)引用文献1に記載の技術的事項
上記(2-1-1)に摘記した記載から、引用文献1には、以下(ア)?(イ)の技術的事項が記載されているものと認められる。

(ア)段落0002?0005には、
「頭部装着型ディスプレイ(HMD)と観察者の視点の位置姿勢を検出するための位置姿勢検出手段とCG映像生成手段を備える仮想現実感提示装置において、
位置姿勢検出手段として位置姿勢センサを観察者が装着するHMDに取り付けることによって観察者頭部の位置姿勢の値を検出し、前記位置姿勢センサは特定の領域内で、3次元位置(X,Y,Z)と姿勢(Pitch,Yaw,Roll)をリアルタイムに検出するものであり、
CG映像生成手段は、三次元モデリングされたCGを現実空間と同じスケールの仮想空間に配置し、観察者視線位置姿勢からレンダリングし、
生成されたCG映像をHMDに表示すること」
が記載されている。
ここで、段落0004の「観察者視線位置姿勢」における「視線」との記載は、当該記載箇所以外に存在せず、当該記載箇所を除けば、段落0002に「観察者の視点の位置姿勢」、段落0006に「観察者視点の位置姿勢」、「視点の位置移動・姿勢変化」、「CGのレンダリング視点」及び「視点から仮想空間を観察」とあるように、明細書において「視点」の用語が一貫して用いられているから、前記「観察者視線位置姿勢」は、「観察者視点位置姿勢」の誤記と認められる。

(イ)段落0006には、
「位置移動を別途指定する位置移動指示手段を設け、前記位置姿勢センサによって方向を指定し、ジョイスティックのようなデバイスをもちいて位置移動を指示すること」、
「このように仮想3次元空間内を自由に位置移動して観察することをウォークスルーと呼ぶこと」及び
「観察者視点の位置姿勢によってCGのレンダリング視点は変わるので、移動した先において視点の位置移動・姿勢変化があればそのとおりの視点から仮想空間を観察することができること」
が記載されている。
ここで、段落0003、0004の、位置姿勢検出手段によって観察者視点の位置(X,Y,Z)と姿勢(Pitch,Yaw,Roll)を検出するとの記載から、段落0006の上記「方向」が「観察者視点の姿勢」に対応することは明らかである。

(2-1-3)引用発明
上記(2-1-2)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、引用発明の各構成の符号(a)?(f)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成a?構成fと称する。

(引用発明)
(a)頭部装着型ディスプレイ(HMD)と観察者の視点の位置姿勢を検出するための位置姿勢検出手段とCG映像生成手段を備える仮想現実感提示装置において、
(b)位置姿勢検出手段として位置姿勢センサを観察者が装着するHMDに取り付けることによって観察者頭部の位置姿勢の値を検出し、前記位置姿勢センサは特定の領域内で、3次元位置(X,Y,Z)と姿勢(Pitch,Yaw,Roll)をリアルタイムに検出するものであり、
(c)位置移動を別途指定する位置移動指示手段を設け、前記位置姿勢センサによって観察者視点の姿勢を指定し、ジョイスティックのようなデバイスをもちいて位置移動を指示し、
(d)CG映像生成手段は、三次元モデリングされたCGを現実空間と同じスケールの仮想空間に配置し、観察者視点位置姿勢からレンダリングし、
(e)生成されたCG映像をHMDに表示し、
(f)仮想3次元空間内を自由に位置移動して観察することであるウォークスルーを行い、観察者視点の位置姿勢によってCGのレンダリング視点は変わるので、移動した先において視点の位置移動・姿勢変化があればそのとおりの視点から仮想空間を観察することができる方法。

(2-2-1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開平11-316859号公報には、図面とともに次の記載がある。
なお、以下の下線は、強調のために当審で付したものである。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、家庭用のテレビジョンやヘッドマウントディスプレイ等の表示装置と連携させて使用される遊戯機(通称、ファミリーコンピュータ、テレビゲーム機等)を用いて、一般家庭内で建築物をCG画像(いわゆる、コンピュータグラフィックスによる画像)により静止画または動画として表示できるようにした、遊戯機を用いた建築物の表示方法、及びその遊戯機に関するものである。」

「【0016】コントローラ5の前部中央付近には、スタートボタン14及びセレクトボタン15が設けられ、コントローラ5の後部一側にはR1ボタン16及びR2ボタン17が設けられる一方、後部他側にはL1ボタン18及びL2ボタン19が設けられている。更に、コントローラ5の一側には、△ボタン21、○ボタン22、×ボタン23及び□ボタン24が同一円上に設けられると共に、コントローラ5の他側には、上下方向及び左右方向に各々対応した4つの方向キー25が同一円上に設けられている。また、本体2の後部中央には、接続端子部26が形成され、図2に示すように、接続コード27を介して、表示装置としてのテレビジョン28に接続されるようになっている。」

「【0022】このウォークスルーとは、前述のように、予め作成したユーザの建築予定の住宅に関する画像データに対して、仮想的な視点を設定し、ユーザがコントローラ5の操作によって前記視点を移動させるかまたは停止させることにより、前記画面29上で前記建築物を動画または静止画として表示し、前記建築物の内部(または外部)を実際に歩き回っているのと同様の視覚効果を画面29上で得られるようにするものである。この際、前記視点の移動に伴って、前記演算処理部30で前記画像データに対してリアルタイムの演算を行い、時々刻々変化する演算データにより前記動画の表示を可能とする。
【0023】図5に、ユーザの建築予定の住宅内の洋室Yを前記画面29上に表示した状態を示す。この実施の形態では、画面29の中央に、前記視点位置に対応するカーソルXが表示され、該カーソルXを前記建築物を表す画像に対して相対的に移動させると共に、注視点、つまり、視線の向きを上下、左右に変更することにより、前記ウォークスルーが実行される。
【0024】前記注視点は、コントローラ5上の4つの方向キー25を操作することにより上下方向及び左右方向へ回転され、これに応じて画面29上の画像の向きが転換される。一方、前記視点位置は、R1ボタン16、L1ボタン18及び○ボタン22、×ボタン23を操作することにより、画面29の奥行き方向または手前方向へ移動される。
【0025】より詳細には、R1ボタン16を押圧すると、前記視点の移動の加速度が減少し、L1ボタン18を押圧すると、前記加速度が増加する。また、○ボタン22を押圧すると、視点位置が画面29の奥行き方向へ一歩(一定距離)前進し、×ボタン23を押圧すると、視点位置が画面29の手前方向へ一歩(一定距離)後退し、これに伴って、画面29上の画像が変化することにより、実際に上記住宅内で歩き回っているのと同等の視覚効果が得られる。」

「【0048】上記各実施の形態では、表示装置としてテレビジョン28を用いたが、これに代えて、図16に示すHMD42(ヘッドマウントディスプレイ) を使用しても良い。このHMD42は、周知のように、装着者の目の前方に位置し、CG画像表示用の液晶ディスプレイ等を内蔵した画像表示部43と、装着者の両耳を覆い、効果音等を発生するヘッドホン44と、装着者の頭頂に位置する検出センサ45等とを備え、CG画像を立体像として表示できるものである。この場合、前記方向キー25に代えて、検出センサ45を用いて装着者の頭部の動きを検出することにより、前記注視点の変更等を行うことも可能である。」

「【図1】




(2-2-2)引用文献2に記載された技術
上記(2-2-1)に摘記した記載から、引用文献2には、以下の技術が記載されているものと認められる。
なお、引用文献2に記載の技術における各構成の符号(a2)?(e2)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成a2?構成e2と称する。

(a2)ヘッドマウントディスプレイの表示装置と連携させて使用される遊戯機を用いて、建築物をCG画像により静止画または動画として表示できるようにした、遊戯機を用いた建築物の表示方法において、
(b2)ウォークスルーとは、予め作成したユーザの建築予定の住宅に関する画像データに対して、仮想的な視点を設定し、ユーザがコントローラ5の操作によって前記視点を移動させるかまたは停止させることにより、画面29上で前記建築物を動画または静止画として表示し、前記建築物の内部を実際に歩き回っているのと同様の視覚効果を画面29上で得られるようにするものであって、前記視点の移動に伴って、演算処理部30で前記画像データに対してリアルタイムの演算を行い、時々刻々変化する演算データにより前記動画の表示を可能とするものであり、
(c2)画面29の中央に、前記視点位置に対応するカーソルXが表示され、該カーソルXを前記建築物を表す画像に対して相対的に移動させると共に、注視点、つまり、視線の向きを上下、左右に変更することにより、前記ウォークスルーが実行されるものであり、
(d21)コントローラ5の一側には、○ボタン22、×ボタン23が同一円上に設けられており、
(d22)前記視点位置は、○ボタン22、×ボタン23を操作することにより、画面29の奥行き方向または手前方向へ移動されるものであり、
(d23)○ボタン22を押圧すると、視点位置が画面29の奥行き方向へ一歩(一定距離)前進し、×ボタン23を押圧すると、視点位置が画面29の手前方向へ一歩(一定距離)後退し、これに伴って、画面29上の画像が変化することにより、実際に上記住宅内で歩き回っているのと同等の視覚効果が得られるものであり、
(e2)HMD42は、装着者の頭頂に位置する検出センサ45を備え、検出センサ45を用いて装着者の頭部の動きを検出することにより、前記注視点の変更等を行うものである
(a2)建築物の表示方法。」

(3)対比
本件補正発明の構成A?構成Gと引用発明の構成a?構成fとを対比する。

(3-1)構成Aについて
構成aの「HMD」は、構成Aの「ヘッドマウントデバイス」に相当する。構成aの「仮想現実感提供装置」は、CG映像を生成するから、構成Aの「コンピュータ」に相当する。構成eの「CG映像」は、仮想空間のCG映像である(構成d)から、前記CG映像の生成は、「ヘッドマウントデバイスに仮想空間を提供するため」であるといえる。
よって、構成aと構成Aは一致する。

(3-2)構成Bについて
構成dは、仮想空間に三次元モデリングされたCGを配置するから、構成dは「仮想空間を定義するステップ」を実行するといえる。
よって、構成dは構成Bに相当する。

(3-3)構成Cについて
構成bの「観察者頭部の位置姿勢」は、3次元位置(X,Y,Z)と姿勢(Pitch,Yaw,Roll)であるから、構成Cの「視点」に相当する。構成eの「CG映像」は、観察者視点位置姿勢からレンダリングされた仮想空間のCG映像である(構成d)から、構成Cの「視点からの視界を提供する」「画像」に相当する。
よって、構成eは構成Cに相当する。

(3-4)構成Dについて
構成bは、観察者頭部の位置姿勢の値をリアルタイム検出するから、HMDの動きを検出するといえる。
よって、構成bは構成Dに相当する。

(3-5)構成Eについて
構成dの、前記位置姿勢センサによって検出された観察者視点の姿勢とは、ヘッドマウントディスプレイの動きといえるから、構成Eの「前記検出されたヘッドマウントデバイスの動き」に相当する。構成dの観察者視点の姿勢からレンダリングすることは、レンダリング視点を変えること(構成f)であるから、構成Eの「視点の向きを制御する」に相当する。
よって、構成dは構成Eに相当する。

(3-6)構成F1について
構成cの「ジョイスティックのようなデバイス」である「位置移動指示手段」は、構成F1の「コントローラ」に相当する。構成dの、位置移動指示手段によって入力された観察者視点の移動した位置からレンダリングすることは、移動した先において視点から仮想空間を制御すること(構成f)であるから、構成F1の「前記視点の位置を前記仮想空間上で自由移動させる」ことに相当する。
よって、構成dは構成F1に相当する。

(3-7)構成F2?F5について
引用発明は、視点の位置を移動させる具体的方法について特定されていないから、「視点の位置を移動させるステップ」について、構成F2?構成F5に係る構成、すなわち、「前記コンピュータは、前記コントローラによる一の入力に応答して、第1の期間の間、前記視点の位置を第1の速度で移動させる処理と、第2の期間の間、前記視点の位置を前記第1の速度よりも遅い第2の速度で移動させるか、あるいは停止させる処理との両方を実行する」を備えていない点で、本件補正発明と相違する。

(3-8)一致点、相違点について
以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
(A)ヘッドマウントデバイスに仮想空間を提供するためにコンピュータで実行される方法であって、
(B)仮想空間を定義するステップと、
(C)前記ヘッドマウントデバイスに画像を表示して、前記ヘッドマウントデバイスのユーザに前記仮想空間における視点からの視界を提供するステップと、
(D)前記ヘッドマウントデバイスの動きを検出するステップと、
(E)前記検出されたヘッドマウントデバイスの動きに連動して、前記視点の向きを制御するステップと、
(F)(F1)前記ユーザの操作を受け付けるコントローラの入力に基づいて、前記視点の位置を前記仮想空間上で自由移動させるステップと、を含む、
(A)方法。

(相違点)
視点の位置を移動させるステップについて、本件補正発明は「前記コンピュータは、前記コントローラによる一の入力に応答して、第1の期間の間、前記視点の位置を第1の速度で移動させる処理と、第2の期間の間、前記視点の位置を前記第1の速度よりも遅い第2の速度で移動させるか、あるいは停止させる処理との両方を実行する」構成を備えているのに対し、引用発明は当該構成を備えていない点。

(4)判断
上記相違点について、以下、検討する。

引用文献2に記載された技術の、仮想的な視点を移動させることにより、実際に歩き回っているのと同様の視覚効果を画面29上で得られるようにする(構成b2)ことは、「仮想空間を定義」して、「仮想空間における視点からの視界を提供する」といえる。よって、引用文献2に記載された技術は、ヘッドマウントデバイスに仮想空間を提供するためにコンピュータで実行される方法という点で、本件補正発明と共通する。
そして、構成F2?構成F5と引用文献2に記載の技術とを対比すると、以下のとおりとなる。
構成d23の「コントローラ上の○ボタンを押圧する」と「×ボタンを押圧する」は、コントローラ5上の○ボタンあるいは×ボタンによる「一の入力」といえるから、構成F2の「コントローラによる一の入力」に相当する。
構成d23の「一歩(一定距離)前進」と「一歩(一定距離)後退」は、一定距離を移動させることであって、当該移動開始から移動終了までの期間は「第1の期間」と称することができ、一定距離を「第1の期間」で除して演算した速度を「第1の速度」と称することができる。そうすると、構成d23の視点位置の「一歩(一定距離)前進」と「一歩(一定距離)後退」は、「第1の期間」に視点の位置を「第1の速度」で一定距離移動させるといえるから、構成F3に相当する。
そして、構成d23の視点位置の「一歩(一定距離)前進」又は「一歩(一定距離)後退」が終了した後から、次の○ボタン又は×ボタンの押圧に基づく視点位置の「一歩(一定距離)前進」又は「一歩(一定距離)後退」までの期間は、視点の位置は変化していないと認められるから、構成d23は、「第2の期間の間、視点の位置を停止させる処理を実行する」といえる。そうすると、構成d23の「第2の期間の間、視点の位置を停止させる処理を実行する」ことは、構成F4の「第2の期間の間、前記視点の位置を停止させる処理」を実行することに相当する。
したがって、構成d22及び構成d23の「○ボタン22」の操作又は「×ボタン23」の操作による画面29の奥行き方向または手前方向への移動は、次の○ボタン又は×ボタンの押圧に応答するまでの期間において、一歩(一定距離)前進又は一歩(一定距離)後退と視点の位置を停止させる処理の両方を実行するものといえる。
以上から、引用文献2に記載された技術は、視点の位置を移動させるステップにおいて、構成F2、構成F3、構成F4の「第2の期間の間、前記視点の位置を停止させる処理」及び構成F5に相当する構成を備えているといえる。

次に、引用発明及び引用文献2に記載された技術について検討すると、引用発明の「HMD」、「位置姿勢センサ」、「位置移動指示手段」、「観察者視点の位置」及び「観察者視点の姿勢」と、引用文献2に記載された技術の「HMD」、「検出センサ」、「コントローラ」、「視点位置」及び「注視点」は、それぞれ共通するものであって、引用発明と引用文献2に記載された技術とは、位置移動指示手段に基づく観察者視点の位置及びHMDのセンサに基づく観察者視点の姿勢を用いてHMDによるウォークスルーを行う方法である点で、機能が共通し、かつ、共通の技術分野に属するといえる。よって、引用発明における位置移動指示手段として、引用文献2に記載の技術を適用して、視点の位置を移動させるステップにおいて、構成F2、構成F3、構成F4の「第2の期間の間、前記視点の位置を停止させる処理」及び構成F5に相当する構成を備えるようにすることは、当業者であれば容易に想到しうることである。

ここで、本件補正発明の構成F4は、「第2の速度で移動させる」処理と「停止させる」処理の選択肢を有する発明特定事項であるので、選択肢中の一の選択肢である「停止させる処理」を発明特定事項と仮定して対比すると、引用発明に引用文献2に記載の技術を適用した発明の「第2の期間の間、視点の位置を停止させる処理」は、本件補正発明の構成F4と一致する。

したがって、本件補正発明は、引用発明に引用文献2に記載された技術を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

なお、審判請求人は、審判請求書及び上申書において、以下の主張を行っている。

(審判請求書における主張)
「引用文献2に開示されている○ボタンの押圧で視点の位置が一歩前進するという動作について、○ボタンの応答は、視点の位置が一歩前進するまでであり、前進した後の動作まで含んでいない。○ボタンを1回しか押圧しなければ、1歩前進して停止するが、その後も停止し続ける動作は、○ボタンの応答ではなく、単にユーザが移動のボタン(○、×、R1、L1)を押さないことによるものである。したがって例えば、ユーザが○ボタンの押下した後、他のボタンを押下すれば、視点の位置は一歩前進した後、停止し続けることなく、次の移動を行う。」「これに対して本願発明では、一の入力に応答して、第1の期間の間、仮想空間における視点の位置を第1の速度で移動させる処理と、第2の期間の間、停止させる処理(あるいは第1の速度よりも遅い第2の速度で移動させる処理)との両方が行われる。すなわち、当該「第2の期間の間、停止させる処理」が、一の入力の応答の一部として行われる。引用文献2には、○ボタンの押圧に応答して、第1の期間の間、1歩前進する処理と、第2の期間の間、停止させる処理との両方を行うことは開示も示唆もされていない。よって、一の入力に応答して、第1の期間の間、仮想空間における視点の位置を第1の速度で移動させる処理と、第2の期間の間、停止させる処理(あるいは第1の速度よりも遅い第2の速度で移動させる処理)との両方を行う本願発明の特徴は、引用文献2には開示も示唆もされていない。」(審判請求書6頁1?19行)

(上申書における主張)
「審査官は、○ボタンを1回のみ押圧して(つまり一の入力に応答して)視点が前進した後、次の入力があるまでの期間を、○ボタン(一の入力)の応答期間であると解釈している。しかしながら、○ボタンは視点を一歩前進させる命令であるところ、○ボタンの押下の応答期間とは、〇ボタンによる命令が実行されている期間、すなわち、○ボタンを押下してから視点が一歩前進する期間までのことである。○ボタンの押下により視点が一歩前進した後に停止している期間、すなわち視点の前進が終わった後の期間が、○ボタンの押下の応答期間であるとの審査官の解釈には無理がある。」「これに対して、本願発明では、一の入力の応答期間として、視点の位置を停止させる処理(あるいは視点の位置を第1の速度よりも遅い第2の速度で移動させる処理)を行う第2の期間を含んでいる。この構成は、引用文献2には一切開示されていない。」(上申書1頁下から3行?2頁7行)

しかしながら、上記構成F4と引用文献2に記載の技術との対比において示したとおり、構成d23の視点位置の「一歩(一定距離)前進」又は「一歩(一定距離)後退」が終了した後から、次の○ボタン又は×ボタンの押圧に基づく視点位置の「一歩(一定距離)前進」又は「一歩(一定距離)後退」までの期間は、視点の位置は変化していないと認められるから、構成d23は、「第2の期間の間、視点の位置を停止させる処理を実行する」といえる。そして、上記構成F5と引用文献2に記載の技術との対比において示したとおり、構成d22及び構成d23の「○ボタン22」の操作又は「×ボタン23」の操作による画面29の奥行き方向または手前方向への移動は、次の○ボタン又は×ボタンの押圧に応答するまでの期間において、一歩(一定距離)前進又は一歩(一定距離)後退と視点の位置を停止させる処理の両方を実行するものといえる。
よって、審判請求人の審判請求書及び上申書における主張は、いずれも採用することができない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年8月23日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年4月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1において「補正前の請求項1」として記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に係る原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献、引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2[理由]2において検討した本件補正発明の構成Gにおける限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、上記引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、上記引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-03 
結審通知日 2019-12-06 
審決日 2019-12-17 
出願番号 特願2016-213140(P2016-213140)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G09G)
P 1 8・ 121- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村松 貴士  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 樫本 剛
須田 勝巳
発明の名称 VR酔いを抑制するための方法、当該方法をコンピュータに実行させるためのプログラムおよび、情報処理装置  
代理人 永井 浩之  
代理人 鈴木 順生  
代理人 中村 行孝  
代理人 朝倉 悟  

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