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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1359442
審判番号 不服2018-15971  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-30 
確定日 2020-02-06 
事件の表示 特願2015-557724「皮膚上層部への薬液注入用注射器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月23日国際公開、WO2015/107774〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年11月21日(優先権主張 平成26年1月16日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年8月16日付けの拒絶理由通知に対し、同年10月20日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年3月16日付けの拒絶理由通知に対し、同年5月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月30日付けで拒絶査定がされ、その後、同年11月30日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成30年5月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
針先から針基端に連通する針穴が設けられ前記針先に刃面を有する注射針と、
先端部と基端部とを有し、前記先端部に前記注射針を保持する針ハブとからなり、
前記針ハブには針先側端面を有し、前記針先は前記針先側端面から突出する、皮膚上層部への薬液注入用注射器であって、
前記皮膚上層部がヒトの真皮層であり、前記針先側での前記針穴の開口が前記真皮層の表皮寄りの注入すべき標的部位に到るように、
前記針先側端面からの前記針先の突出針長を1.15mm±0.1mm、前記注射針の軸心に沿った前記刃面の刃面長を0.60mm±0.15mmに調整されていることを特徴とする皮膚上層部への薬液注入用注射器。」


第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由(平成30年3月16日付け拒絶理由通知に記載した理由)の概要は、本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


引用文献1:国際公開第2012/153563号


第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の記載がある(下線は理解のため当審で付した。以下同じ。)。
「技術分野
[0001] 本発明は、針ハブから突出している針管の長さが3.0mm以下の注射針組立体及び薬剤注射装置に関する。
[0002] 近年、鳥インフルエンザのヒトへの感染が報告されており、ヒトからヒトへの鳥インフルエンザの感染の大流行(パンデミック)による多くの被害が懸念されている。そこで、鳥インフルエンザに有効と考えられるプレパンデミックワクチン(インフルエンザワクチン)の備蓄が世界中で行われている。また、プレパンデミックワクチンを多くのヒトに投与するために、ワクチンの製造量を拡大させる検討が行われている。
[0003] ところで、インフルエンザワクチンは、一般的には、皮下投与もしくは筋肉内投与であるため、皮膚の下層部もしくはそれよりも深い部分に投与されている。また、免疫担当細胞が多く存在する皮膚上層部を標的部位として、インフルエンザワクチンを投与することにより、インフルエンザワクチンの投与量を少なしても、皮下投与や筋肉投与と同等の免疫獲得能が得られることが報告されている(非特許文献1)。したがって、インフルエンザワクチンを皮膚上層部に投与することによって、その投与量を減らすことができるので、インフルエンザワクチンをより多くのヒトに投与できる可能性がある。
[0004] ここで、皮膚は、表皮と、真皮と、皮下組織の一部との3部分から構成される。表皮は、皮膚表面から50?200μm程度の層であり、真皮は、表皮から続く1.5?3.5mm程度の層である。なお、皮膚上層部とは、皮膚のうちの表皮及び真皮を指す。」

「[0020]図1に示すように、注射針組立体2は、針孔を有する中空の針管5と、針管5が固定される針ハブ6と、針ハブ6内に配置される弾性部材7とを備える。また、針ハブ6は、針管5を保持する第1部材11(保持部)と、シリンジ3が接続される第2部材12(コネクタ部)とで構成される。
・・・
[0022][注射針組立体]
注射針組立体2の針管5は、ISOの医療用針管の基準(ISO9626:1991/Amd.1:2001(E))で22?33ゲージのサイズ(外径0.2?0.7mm)のものが使用できる。なお、注射針組立体2を皮膚上層部への投与に用いる場合には、26?33ゲージの針管5を使用することができ、好ましくは30?33ゲージのものが使用できる。
[0023] 針管5の軸方向の一端には、刃面5aを有する針先5Aが設けられる。この針先5Aとは反対側に位置する針管5の軸方向の他端が基端5B(図4参照)に相当する。針管5の軸方向における刃面5aの長さ(以下、「ベベル長B」という)は、後述する皮膚上層部の最薄の厚さである1.4mm(成人)以下であればよく、また、33ゲージの針管に短ベベルを形成したときのベベル長Bである約0.5mm以上であればよい。つまり、ベベル長Bは、0.5?1.4mmの範囲に設定されるのが好ましい。更に、ベベル長Bは、皮膚上層部の最薄の厚さが0.9mm(小児)以下、すなわち、ベベル長Bが0.5?0.9mmの範囲であればなおよい。なお、短ベベルとは、一般的な注射用針で用いられる刃面、すなわち針の長手方向に対して18?25°をなす刃面を指す。」

「[0037] ところで、調整部16の針突出面16aに形成されたコーティング層19bは、針管5を皮膚上層部に穿刺するときに、皮膚の表面に接触して針管5を穿刺する深さを規定する。つまり、針管5が皮膚上層部に穿刺される深さは、針突出面16aのコーティング層19bから突出する針管5の長さ(以下、「突出長L」という。)によって決定される。
[0038] 皮膚上層部の厚みは、皮膚の表面から真皮層までの深さに相当し、概ね、0.5?3.0mmの範囲内にある。そのため、針管5の突出長Lは、0.5?3.0mmの範囲に設定することができる。
[0039] ここで、ワクチンは一般的に上腕部に投与されるが、皮膚上層部への投与を考えた場合は皮膚が厚い肩周辺部、特に三角筋の部分がふさわしいと考えられる。そこで、小児19人と大人31人について、三角筋の皮膚上層部の厚みを測定した。この測定は、超音波測定装置(NP60R-UBM 小動物用高解像度用エコー、ネッパジーン(株))を用いて、超音波反射率の高い皮膚上層部を造影することで行った。なお、測定値が対数正規分布となっていたため、幾何平均によってMEAN±2SDの範囲を求めた。
[0040] その結果、小児の三角筋における皮膚上層部の厚みは、0.9?1.6mmであった。また、成人の三角筋における皮膚上層部の厚みは、遠位部で1.4?2.6mm、中央部で1.4?2.5mm、近位部で1.5?2.5mmであった。以上のことから、三角筋における皮膚上層部の厚みは、小児の場合で0.9mm以上、成人の場合で1.4mm以上であることが確認された。したがって、三角筋の皮膚上層部における注射において、針管5の突出長Lは、0.9?1.4mmの範囲に設定することが好ましい。
[0041] 突出長Lをこのように設定することで、針先5Aの刃面5aを皮膚上層部に確実に配置させることが可能となる。その結果、刃面5aに開口する針孔(薬剤排出口)は、刃面5a内のいかなる位置にあっても、皮膚上層部に配置させることが可能である。なお、薬剤排出口が皮膚上層部に位置しても、針先5Aが皮膚上層部に深く刺されば、針先5A端部の側面と切開された皮膚との間から薬剤が皮下に流れてしまうため、刃面5aが確実に皮膚上層部に位置することが重要である。
[0042] なお、薬剤注射装置1を皮膚上層部への薬剤の投与に用いる場合には、26ゲージよりも太い針管では、ベベル長Bを1.0mm以下にすることは難しい。したがって、針管5の突出長Lを好ましい範囲(0.9?1.4mm)に設定するには、26ゲージ以下の太さの針管5を使用することが好ましい。
[0043] 針突出面16aは、その周縁から針管5の周面までの距離Sが1.4mm以下となるように形成し、好ましくは0.3?1.4mmの範囲で形成する。この針突出面16aの周縁から針管5の周面までの距離Sは、皮膚上層部へ薬剤を投与することで形成される水疱に圧力が加わることを考慮して設定される。つまり、針突出面16aは、皮膚上層部に形成される水疱よりも十分に小さく、水疱の形成を妨げない大きさに設定される。その結果、針突出面16aが針管5の周囲の皮膚を押圧して、投与された薬剤が皮膚から漏れるということを防止することができる。」

「[請求項9] 薬剤を収納するシリンジと、
生体に穿刺可能な針先を有する針管と、
前記針管を保持する針ハブと、を含み、
前記針ハブは、
前記針管の周囲に配置され、前記針先が突出する針突出面を有する調整部を備え、
前記調整部は、
前記針突出面に付着した薬剤を除去する薬剤除去機構を有し
前記針管の前記針突出面から突出している部分の長さが3.0mm以下である
ことを特徴とする薬剤注射装置。」

続いて、図面を参照しつつ、上記の各記載について検討する。
ア)[0023]の「針管5の軸方向の一端には、刃面5aを有する針先5Aが設けられる。この針先5Aとは反対側に位置する針管5の軸方向の他端が基端5B(図4参照)に相当する。」の記載から、針管5は針先5Aに刃面5aを有するものといえ、また、[0020]の「針孔を有する中空の針管5」なる記載及び図4の図示内容からみて、針管5には、針先5Aから基端5Bに連通する針孔が設けられているといえる。
イ)[0020]の「針ハブ6は、針管5を保持する第1部材11(保持部)と、シリンジ3が接続される第2部材12(コネクタ部)とで構成される。」の記載から、針ハブ6は、第1部材11と、第2部材12とを有し、第1部材11に針管5を保持するものといえる。
ウ)上記ア)、イ)の検討に加え、[請求項9]の「生体に穿刺可能な針先を有する針管と、前記針管を保持する針ハブと、を含み、・・・ことを特徴とする薬剤注射装置。」の記載を併せみれば、薬剤注射装置は、針管5と、針ハブ6とからなるものといえる。
エ)[請求項9]の「前記針ハブは、前記針管の周囲に配置され、前記針先が突出する針突出面を有する調整部を備え、」の記載から、針ハブ6には、針突出面を有し、針先5Aは前記針突出面から突出することが分かる。
また、[0003]の「免疫担当細胞が多く存在する皮膚上層部を標的部位として、インフルエンザワクチンを投与する」、[0004]の「皮膚上層部とは、皮膚のうちの表皮及び真皮を指す。」、[0040]の「小児の三角筋における皮膚上層部・・・成人の三角筋における皮膚上層部」、[0042]の「薬剤注射装置1を皮膚上層部への薬剤の投与に用いる」等の記載から、上記の薬剤注射装置は、皮膚上層部への薬剤注射装置であって、当該皮膚上層部がヒトの表皮及び真皮であるといえる。
オ)[0037]の「針突出面16aのコーティング層19bから突出する針管5の長さ(以下、「突出長L」という。)」、[0038]の「皮膚上層部の厚みは、皮膚の表面から真皮層までの深さに相当し、概ね、0.5?3.0mmの範囲内にある。そのため、針管5の突出長Lは、0.5?3.0mmの範囲に設定することができる。」、[0040]の「三角筋の皮膚上層部における注射において、針管5の突出長Lは、0.9?1.4mmの範囲に設定することが好ましい。」の各記載によれば、針突出面からの針管5の突出長は、0.9?1.4mmの範囲に設定されているものといえる。
また、[0023]の「針管5の軸方向における刃面5aの長さ(以下、「ベベル長B」という)は、後述する皮膚上層部の最薄の厚さである1.4mm(成人)以下であればよく、・・・ベベル長Bが0.5?0.9mmの範囲であればなおよい。」の記載によれば、針管5の軸方向における刃面5aの長さは、0.5?0.9mmに設定されているものといえる。
さらに、[0041]の「突出長Lをこのように設定することで、針先5Aの刃面5aを皮膚上層部に確実に配置させることが可能となる。その結果、刃面5aに開口する針孔(薬剤排出口)は、刃面5a内のいかなる位置にあっても、皮膚上層部に配置させることが可能である。」の記載から、当該突出長は、針先5Aの刃面5aに開口する薬剤排出口を皮膚上層部に配置させることが可能となるように設定されることも分かる。

よって、以上を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「針先5Aから基端5Bに連通する針孔が設けられ前記針先5Aに刃面5aを有する針管5と、
第1部材11と第2部材12とを有し、前記第1部材11に前記針管5を保持する針ハブ6とからなり、
前記針ハブ6には針突出面を有し、前記針先5Aは前記針突出面から突出する、皮膚上層部への薬剤注射装置であって、
前記皮膚上層部がヒトの真皮及び表皮であり、前記針先5Aの前記刃面5aに開口する薬剤排出口を前記皮膚上層部に配置させることが可能となるように、
前記針突出面からの前記針管5の突出長を0.9?1.4mm、前記針管5の軸方向における刃面5aの長さを0.5?0.9mmに設定されている薬剤注射装置。」

2 引用文献2
原査定において周知例として提示され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2005-537893号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の経皮送出方法および装置、より詳細には皮内または表皮へと流体を送出する側面ポート付き注射針に概ね関する。」
【背景技術】
・・・
【0004】
解剖学的に、身体の外側は2つの主たる組織層、つまり外皮とその下の真皮とから構成され、これらは相互に皮膚を形成する(検討用に非特許文献1を参照)。表皮は5つの層に細分化され、すなわち層厚の合計が75から150μmの間にある。表皮の下には真皮が位置しており、この真皮は2つの層、すなわち真皮乳頭層と呼称される最も外側の部分と、真皮網状層と呼称されるより深い層とを含む。真皮乳頭層は膨大な微小循環血液およびリンパ叢を含んでいる。これに対し、真皮網状層は相対的に非細胞かつ無血管であって、高密度コラーゲンと弾性結合組織とから構成されている。表皮および真皮の下は下皮組織とも呼称される皮下組織であり、これは接続組織と脂肪組織とからなる。筋肉組織が皮下組織の下に位置している。」

「【0033】
1つ以上の側面ポート19を持った注射針10を提供することは、注射針の設計および製造方法の自由度を従前の注射針よりも大きくすることができる。例えば、薬剤またはワクチンを表皮に送出する場合、この表皮が極めて薄いので、0.5mm未満の突き刺し長さを有する注射針が一般に用いられる。注射針の短い突き刺し深さのため、薬剤の漏れに関して重大な問題が存在する可能性がある。注射針の長さが短かすぎる(すなわち<1.5mm)と、組織内に注射針が不適切に位置するため、固有の漏洩問題を持つ可能性がある。・・・
【0034】
ここで用いられるように、皮内は、血管が豊富に新生する真皮乳頭層に物質が即座に達し、毛細血管および/またはリンパ管に速やかに吸収されて生物学的に全身で利用可能となるような方法にて、真皮への物質の投与を意味するように意図されている。このようなことは、真皮の上層、すなわち真皮乳頭層か、または相対的に少ない血管の真皮網状層の上層への物質の投与から結果として生じ、物質が真皮乳頭層に即座に拡散するようにできる。主として、少なくとも約0.3mm、より好ましくは少なくとも0.4mm、最も好ましくは少なくとも約0.5mmの深さから、せいぜい2.5mm、より好ましくは約2.0mm以下、最も好ましくは約1.7mm以下の深さまでの物質の投与は、巨大分子および/または疎水性の物質の素早い吸収を結果として生じよう。」


第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア)引用発明の「針先5A」は、用語の意味、機能等から見て、本願発明の「針先」に相当し、以下同様に、「基端5B」は「針基端」に、「針孔」は「針穴」に、「刃面5a」は「刃面」に、「針管5」は「注射針」に、「第1部材11」は「先端部」に、「第2部材12」は「基端部」に、「針ハブ6」は「針ハブ」に、「針突出面」は「針先側端面」に、「薬剤注射装置」は「薬液注入用注射器」に、「前記針先5Aの刃面5aに開口する薬剤排出口」は「前記針先側での前記針穴の開口」に、「針突出面からの前記針管5の突出長」は「針先側端面からの前記針先の突出針長」に、「針管5の軸方向における刃面5aの長さ」は「注射針の軸心に沿った前記刃面の刃面長」に、それぞれ相当する。
イ)「ヒトの真皮及び表皮であ」る引用発明の「皮膚上層部」は、「ヒトの真皮層であ」る本願発明の「皮膚上層部」と、“非皮下の皮膚層”である点で共通する。
ウ)引用発明が、「薬剤排出口を前記皮膚上層部に配置させ」た結果、皮膚上層部という目的の領域に薬剤が排出されることは明らかであるから、引用発明の「前記針先5Aの前記刃面5aに開口する薬剤排出口を前記皮膚上層部に配置させることが可能となるように」は、“前記針先側での前記針穴の開口が注入すべき標的部位に到るように”という点で、本願発明の「前記針先側での前記針穴の開口が前記真皮層の表皮寄りの注入すべき標的部位に到るように」と共通する。
エ)引用発明の「前記針突出面からの前記針管5の突出長を0.9?1.4mm、前記針管5の軸方向における刃面5aの長さを0.5?0.9mmに設定されている」は、本願発明の「前記針先側端面からの前記針先の突出針長を1.15mm±0.1mm、前記注射針の軸心に沿った前記刃面の刃面長を0.60mm±0.15mmに調整されている」と、“前記針先側端面からの前記針先の突出針長を所定長に、前記注射針の軸心に沿った前記刃面の刃面長を所定長に調整されている”点で共通する。

以上によれば、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
針先から針基端に連通する針穴が設けられ前記針先に刃面を有する注射針と、
先端部と基端部とを有し、前記先端部に前記注射針を保持する針ハブとからなり、
前記針ハブには針先側端面を有し、前記針先は前記針先側端面から突出する、非皮下の皮膚層への薬液注入用注射器であって、
前記針先側での前記針穴の開口が注入すべき標的部位に到るように、
前記針先側端面からの前記針先の突出針長を所定長に、前記注射針の軸心に沿った前記刃面の刃面長を所定長に調整されている非皮下の皮膚層への薬液注入用注射器。

(相違点)
本願発明では、非皮下の皮膚層が、「ヒトの真皮層であ」る「皮膚上層部」であり、また、薬液を注入すべき標的部位が、「真皮層の表皮寄りの」部位であって、そのため、「突出針長を1.15mm±0.1mm、」「刃面長を0.60mm±0.15mmに調整されている」のに対し、引用発明では、非皮下の皮膚層が、ヒトの真皮及び表皮である皮膚上層部であり、また、当該皮膚上層部内のどの部位を標的部位とするかについては特定がなく、そのため、突出針長が0.9?1.4mmに、刃面長が0.5?0.9mmに設定されている点。


第6 判断
上記相違点について判断する。
例えば、引用文献2の段落【0034】に「皮内は、血管が豊富に新生する真皮乳頭層に物質が即座に達し、毛細血管および/またはリンパ管に速やかに吸収されて生物学的に全身で利用可能となるような方法にて、真皮への物質の投与を意味するように意図されている。このようなことは、真皮の上層、すなわち真皮乳頭層か、または相対的に少ない血管の真皮網状層の上層への物質の投与から結果として生じ、物質が真皮乳頭層に即座に拡散するようにできる。」と示されるように、医薬物質の投与に当たり、真皮の上層である真皮乳頭層又は真皮網状層の上層へ物質を投与することにより、物質の速やかな吸収が達成できることは、注射器に係る技術分野において、本願の優先日前より周知の技術事項であったものといえる。
引用発明では、ヒトの真皮及び表皮のうちのどの部位を標的部位とするかについてまでの特定はないが、引用発明にあっても、投与される薬液の吸収特性改善は、当然に要請されるところであるから、上記周知の技術事項を踏まえれば、引用発明において薬液が投与される部位として、上記のような「真皮の上層である真皮乳頭層又は真皮網状層の上層」、即ち、「真皮層の表皮寄りの注入すべき標的部位」を選択し、同時に、皮膚上層部についても、「皮膚上層部がヒトの真皮層であ」るとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、引用文献1に「その結果、針突出面16aが針管5の周囲の皮膚を押圧して、投与された薬剤が皮膚から漏れるということを防止することができる。」([0043])と、引用文献2に「注射針の短い突き刺し深さのため、薬剤の漏れに関して重大な問題が存在する可能性がある。」(段落【0033】)と記載されるように、注射器の設計において薬液の漏れ防止は、普通に配慮すべき事項である。
そうすると、突出針長が0.9?1.4mmの範囲に、また刃面長が0.5?0.9mmの範囲に設定される引用発明において、薬液を注入すべき標的部位として、皮膚上層部のうちから上記の選択をするに当たり、薬液の吸収特性や薬液の漏洩性等を考慮しつつ、突出針長及び刃面長の各数値を最適化して皮内に挿入された針先の刃面の位置を調整することは、当業者による通常の創作能力の発揮にすぎないことから、その際、突出針長及び刃面長の具体的な値を、上記相違点における本願発明の数値範囲とすることも、当業者であれば適宜になし得た程度のことであって、しかも、その数値範囲に臨界的な意義もない。
そして、本願発明の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別なものとはいえない。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-29 
結審通知日 2019-12-03 
審決日 2019-12-17 
出願番号 特願2015-557724(P2015-557724)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 崇文杉▲崎▼ 覚  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 関谷 一夫
和田 将彦
発明の名称 皮膚上層部への薬液注入用注射器  
代理人 特許業務法人眞久特許事務所  
代理人 大西 浩之  
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