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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1359445
審判番号 不服2018-16881  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-19 
確定日 2020-02-06 
事件の表示 特願2015-128022「光ファイバユニット、光ファイバケーブル、および光ファイバユニットの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年1月12日出願公開、特開2017-9925〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年6月25日の出願であって、その後の主な手続の経緯は、以下のとおりである。

平成29年 9月 8日:出願審査請求書の提出
平成30年 4月19日:拒絶理由通知(同年4月24日発送)
同年 6月13日:手続補正書・意見書の提出
同年10月 3日;拒絶査定(同年10月9日送達。
以下「原査定」という。)
同年12月19日:審判請求書・手続補正書の提出
令和元年 9月25日:審尋(同年10月1日発送)
同年11月11日:回答書の提出

第2 平成30年12月19日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年12月19日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[補正却下の決定の理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲及び明細書についてするものであり、特許請求の範囲については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成30年6月13日付け手続補正後のもの)に、
「【請求項1】
複数の光ファイバ心線と、
複数の前記光ファイバ心線の外周に配置される複数本のバンドル材と、
を具備し、
前記バンドル材は、いずれも前記光ファイバ心線の外周に螺旋巻きされず、少なくとも一本の前記バンドル材は、複数の前記光ファイバ心線の外周に、巻き付け方向を正逆反転させながら撚り返されて、前記バンドル材同士の交差部で、前記バンドル材同士が接合され、
前記バンドル材の接合部の長さが、5mm以上20mm以下であることを特徴とする光ファイバユニット。」とあったものを、

本件補正後の請求項1の
「【請求項1】
複数の光ファイバ心線と、
複数の前記光ファイバ心線の外周に配置される2本のバンドル材と、
を具備し、
前記バンドル材は、いずれも前記光ファイバ心線の外周に螺旋巻きされず、少なくとも一本の前記バンドル材は、複数の前記光ファイバ心線の外周に、巻き付け方向を正逆反転させながら撚り返されて、前記バンドル材同士の交差部で、前記バンドル材同士が接合され、
前記バンドル材の接合部の長さが、5mm以上20mm以下であることを特徴とする光ファイバユニット。」と補正する補正事項を含むものである(なお、下線は、当審で付したものである。以下同じ。)。

2 補正の目的
上記「1」の補正事項は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な「バンドル材」の数について、「複数本」を「2本」に限定するものであって、その補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、上記補正事項は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
よって、請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められる。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)を、以下に検討する。

3 独立特許要件
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「第2 1」に、本件補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(2)引用文献に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2015/053146号(以下「引用文献」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。

ア 「[0035] ===第1参考例===
<光ファイバユニットの構成>
第1参考例では、複数の光ファイバ心線によって構成される光ファイバユニット、及び、当該光ファイバユニットを有する光ファイバケーブルについて説明する。図1は、第1参考例における光ファイバケーブル1の断面図である。
[0036] 光ファイバケーブル1は、光ファイバユニット10(10A?10C)と、シース30と、テンションメンバ40とを備える。光ファイバユニット10は、複数の光ファイバ心線111をバンドル材12で束ねて結束することにより、各光ファイバ心線111がばらけないようにした構造となっている。図1では、光ファイバユニット10A、10B、10Cの3つの光ファイバユニット10によって光ファイバケーブル1が構成されているが、光ファイバケーブル1に含まれる光ファイバユニット10の数量は、ケーブルの用途等に応じて適宜変更される。光ファイバユニット10A?10Cの周囲は不織布等によって形成される押さえ巻き15によって覆われ、その外周部は光ファイバケーブル1の外被であるシース30によって被覆されている。また、シース30内にはテンションメンバ40が設けられる。 (光ファイバユニット10)
図2は、光ファイバユニット10の概略図である。図3は、間欠固定テープ心線11の概略図である。
[0037] 第1参考例の光ファイバユニット10は、複数の光ファイバ心線111によって構成される間欠固定テープ心線11を束状に密集させ、その周囲にバンドル材12を巻きつけることによって結束させたものである。
[0038] 間欠固定テープ心線11は、複数の光ファイバ心線111を並列に並べ、隣接する2つの光ファイバ心線111を連結部115で連結してまとめることにより、光ファイバ心線111をテープ状とした、所謂光ファイバテープ心線である。図3では4心の光ファイバ心線111によって間欠固定テープ心線11が形成されているが、間欠固定テープ心線11を形成する光ファイバ心線111の心数はこの限りではない。
[0039]
……
[0041] なお、光ファイバ心線111をテープ状にするのではなく、複数の光ファイバ心線111を単心で束状にまとめてバンドル材12によって結束させたものも第1参考例の光ファイバユニット10に含まれるものとする。
[0042] バンドル材12は、間欠固定テープ心線11(複数の光ファイバ心線111)を束ねるための部材であり、1つの光ファイバユニット10に対して複数のバンドル材12が設けられる。第1参考例の光ファイバユニット10では、図2に示されるように、バンドル材12A及び12Bの2本のバンドル材が設けられている。」

イ 「[0048] 図5は、第1参考例のバンドル材12の巻き方について説明する断面図である。第1参考例で、バンドル材12Aは、間欠固定テープ心線11(複数の光ファイバ心線111)の束の外周上に巻きつくようにして、光ファイバ心線111の束の長手方向に沿って半周分の円弧を描くように(図2参照)配置されている。一方、バンドル材12Bは、バンドル材12Aと反対方向に半周分の円弧を描くように配置されている。そして、バンドル材12Aとバンドル材12Bとが接触する接触点において、バンドル材12Aとバンドル材12Bとが接合される。当該接触点において接合された後、光ファイバ心線111の束に対するバンドル材12A及びバンドル材12Bの巻きつき方向が反転する。
[0049]
……
[0050] バンドル材12A及び12Bの接合箇所の強度は、当該接合箇所が不意に解けず、外したいときには人の手で容易に外せる程度であることが好ましい。こうすることで、光ファイバケーブルに含まれる光ファイバ心線111の束の中から特定の光ファイバ心線111を取り出すような中間分岐作業において、バンドル材12A及び12Bを切断することなく接着部を手で外して取り出し部位を広げることが可能となる。さらに、接合強度が各バンドル材の破断強度以下であって、望ましくは降伏点強度以下であれば、バンドル材12が伸び切れることなく引き剥がすことが可能となる。」

ウ 「[0052] <中間分岐作業等の作業性について>
光ファイバケーブル1の長手方向の途中からシース30を剥ぎ取って特定の光ファイバ心線111を取り出す中間分岐作業の作業性と、光ファイバケーブル1の長手方向の端末部から特定の光ファイバ心線111を取り出すケーブル端末作業の作業性とについて、比較例を用いて検証を行なった。
[0053]
……
[0054] このような光ファイバユニットを有する比較例1の光ファイバケーブルと、第1参考例における光ファイバケーブル1について、それぞれバンドル材12の巻き付けピッチを変化させた場合の各作業の作業性について実験を行なった。なお、巻き付けピッチとは、光ファイバユニットの長手方向におけるバンドル材12同士の隣り合う2箇所の接合点間の距離のことを言う。
[0055]
……
[0057] 次に、図7Bの中間分岐作業において、バンドル材12の巻き付けピッチが250mm以上の場合、第1参考例、比較例1の場合とも、端末作業のときと同様に作業性は△となる。上述のように、巻き付けピッチが広くなることによってバンドル材12の視認性が悪くなるためである。一方、巻き付けピッチが60mm以下の場合に、第1参考例と比較例1との間で大きな差が表れた。
[0058]
比較例1では、巻き付けピッチが60mm以下の場合の作業性が×となった。バンドル材12の巻き付けピッチの間隔が60mm以下の場合、中間分岐作業において作業空間が狭すぎることにより、バンドル材12を巻きつけたままの状態でバンドル材同士の接合箇所の間から特定の光ファイバ心線111を抜き出すことは困難である。このような場合、作業箇所においてバンドル材12を引き剥がして、間欠固定テープ心線11(複数の光ファイバ心線111)の束を露出させる必要が生じる。比較例1の場合、バンドル材12C及び12Dがそれぞれ螺旋状に巻き付けられていることから(図6)、光ファイバ心線111を露出させる為には、バンドル材12C及び12Dの接合箇所を引き剥がした後に各バンドル材をそれぞれ螺旋状に手繰る必要が生じる。そのため、光ファイバケーブル1の長手方向中間部における光ファイバ心線111の取り出し作業に手間がかかり、また、手繰る作業において光ファイバ心線111に指が引っかかるなどにより光ファイバ心線の断線を生じさせるおそれが生じる。
[0059] これに対して、第1参考例の光ファイバケーブル1では、巻き付けピッチが60mm以下の場合でも作業性が○となった。これは、第1参考例におけるバンドル材12の巻き方が、比較例1におけるバンドル材12の巻き方よりも引き剥がしやすく、光ファイバ心線111を露出させやすいからである。図2及び図5で説明したように、光ファイバケーブル1のバンドル材12A及び12Bは、それぞれ半周の円弧を描くように巻き付けられている。したがって、バンドル材12A及び12Bを互いに逆方向に引っ張ることで、接合箇所を引き剥がしつつ、簡単に間欠固定テープ心線11(複数の光ファイバ心線111)の束を露出させることができる。例えば、図5においてバンドル材12Aを上側に、バンドル材12Bを下側に引っ張ることにより、簡単にバンドル材を引き剥がすことが可能である。すなわち、間欠固定テープ心線11の束に対してバンドル材12が巻き付く範囲が、間欠固定テープ心線11の束の外周の1周未満であるため、バンドル材を螺旋状に手繰る必要が無く、バンドル材(例えばバンドル材12A)を当該バンドル材が接合されている他のバンドル材(例えばバンドル材12B)から引き剥がす方向に引っ張るだけで簡単に取り除くことができる。これにより、巻き付けピッチが短い場合であっても中間分岐作業の作業効率は良好なものとなる。
[0060] なお、第1参考例の光ファイバケーブル1でも、巻き付けピッチが20mm以下の範囲では、作業性の評価が△若しくは×となる。これは、作業者の指の太さによっては、20mm程度の間隔ではバンドル材12を摘まみ上げることが困難な場合があるからである。
[0061] 以上の結果から、バンドル材12の巻き付けピッチが30mm?200mmの範囲であれば、中間分岐作業等を効率よく行なえることが分かる。
[0062] このように、第1参考例の光ファイバユニット10によれば、光ファイバ心線111を取り出す際の作業性を向上させることができる。」

エ 第1参考例に関する図2及び図5は、以下のものである。
図2


図5


オ 図7は、以下のものである。


(3)引用文献に記載された発明
ア 上記(2)アの記載から、引用文献には、「第1参考例の光ファイバユニット」として、
「複数の光ファイバ心線と、前記複数の光ファイバ心線を束ねる2本のバンドル材とを備えた、光ファイバユニット」が記載されているものと認められる。

イ 上記(2)イ及びウの「第1参考例の光ファイバユニット」に関する記載を踏まえて、図2及び図5を見ると、以下のことが理解できる。
(ア)2本のバンドル材は、「バンドル材12A」と「バンドル材12B」であること。

(イ)各バンドル材は、複数の光ファイバ心線の束の外周上に巻きつくように、「バンドル材12A」は、光ファイバ心線の束の長手方向に沿って半周分の上側円弧を描くように配置され、「バンドル材12B」は、半周分の下側円弧を描くように配置されていること。

(ウ)各バンドル材は、接触する接触点(以下「接合点」という。)において接合され、当該接合点において接合された後、光ファイバ心線の束に対する巻きつき方向が反転すること。

(エ)接合点の接合強度は、当該接合点が不意に解けず、外したいときには人の手で容易に外せる程度であること。

(オ)バンドル材12A及びバンドル材12Bを互いに逆方向に引っ張ることで、接合点を引き剥がすことができること。

ウ また、図7からして、バンドル材同士の隣り合う2箇所の接合点間の距離は、例えば、80?100mmであってもよいことが理解できる。

エ 上記アないしウからして、引用文献には、(2本のバンドル材を備えた)第1参考例の光ファイバユニットに関する次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「複数の光ファイバ心線と、前記複数の光ファイバ心線を束ねる2本のバンドル材とを備えた、光ファイバユニットであって、
前記2本のバンドル材は、バンドル材12A及びバンドル材12Bであり、
前記バンドル材12Aは、
前記複数の光ファイバ心線の束の外周上に巻きつくように、前記光ファイバ心線の束の長手方向に沿って半周分の上側円弧を描くように配置され、
前記バンドル材12Bは、
前記複数の光ファイバ心線の束の外周上に巻きつくように、前記光ファイバ心線の束の長手方向に沿って前記バンドル材12Aとは反対方向に半周分の下側円弧を描くように配置され、
前記2本のバンドル材は、接合点において接合された後、前記光ファイバ心線の束に対する巻きつき方向が反転し、
前記接合点の接合強度は、当該接合点が不意に解けず、外したいときには人の手で容易に外せる程度であり、
前記バンドル材12A及びバンドル材12Bを互いに逆方向に引っ張ることで、接合点を引き剥がすことができ、
前記バンドル材同士の隣り合う2箇所の接合点間の距離は、例えば、80?100mmである、光ファイバユニット。」

(4)対比
ア 本願補正発明と引用発明とを対比すると、以下のことがいえる。
(ア)引用発明の「複数の光ファイバ心線」は、本願補正発明の「複数の光ファイバ心線」に相当する。
以下、同様に、
「バンドル材12A」及び「バンドル材12B」は、「2本のバンドル材」に、
「光ファイバユニット」は、「光ファイバユニット」に、それぞれ、相当する。

(イ)引用発明の「バンドル材12A」及び「バンドル材12B」は、「複数の光ファイバ心線の束の外周上に巻きつくように、前記光ファイバ心線の束の長手方向に沿って半周分の上側円弧(下側円弧)を描くように配置され」、「前記2本のバンドル材は、接合点において接合された後、前記光ファイバ心線の束に対する巻きつき方向が反転し」ているから、本願補正発明と引用発明とは、
「バンドル材は、いずれも光ファイバ心線の外周に螺旋巻きされず、少なくとも一本のバンドル材は、複数の前記光ファイバ心線の外周に、巻き付け方向を正逆反転させながら撚り返されて、前記バンドル材同士の交差部で、前記バンドル材同士が接合されている」点で一致する。

(ウ)引用発明の「接合点」は、長手方向に所定の長さを有していることは当業者にとって明らかであるから、本願補正発明と引用発明とは、「バンドル材の接合部が長さAである」点で一致する。

イ 以上のことから、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「複数の光ファイバ心線と、
複数の前記光ファイバ心線の外周に配置される2本のバンドル材と、
を具備し、
前記バンドル材は、いずれも前記光ファイバ心線の外周に螺旋巻きされず、少なくとも一本の前記バンドル材は、複数の前記光ファイバ心線の外周に、巻き付け方向を正逆反転させながら撚り返されて、前記バンドル材同士の交差部で、前記バンドル材同士が接合され、
前記バンドル材の接合部が長さAである、光ファイバユニット。」

ウ 一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1>
長さAに関して、
本願補正発明は、「5mm以上20mm以下」であるのに対して、
引用発明は、不明である点。

(5)判断
ア 上記<相違点1>について検討する。
(ア)本願補正発明において、上記<相違点1>に係る構成を採用する技術的意義について、本願明細書の記載を参酌して検討する。

a 本願明細書には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献のように、バンドル材を2本使用し、互いに逆向きに巻き付け、交差部を接合すると、分岐作業時に、接合部を外すことが困難であり、仮に交差部の接合部を切断したとしても、それぞれのバンドル材を逆方向に巻き解かなければならず、バンドル材の除去に時間を要するという問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、分岐作業が容易な光ファイバユニット等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達するために第1の発明は、複数の光ファイバ心線と、複数の前記光ファイバ心線の外周に配置される複数本のバンドル材と、を具備し、前記バンドル材は、いずれも前記光ファイバ心線の外周に螺旋巻きされず、少なくとも一本の前記バンドル材は、複数の前記光ファイバ心線の外周に、巻き付け方向を正逆反転させながら撚り返されて、前記バンドル材同士の交差部で、前記バンドル材同士が接合されることを特徴とする光ファイバユニットである。
【0010】
前記バンドル材の接合部の長さが、5mm以上20mm以下であることが望ましい。
【0011】
前記バンドル材の接合部の剥離強度が、0.01N以上2.0N以下であることが望ましい。
【0012】
前記バンドル材は樹脂テープであり、前記バンドル材の接合部は、加熱融着によって接合されてもよい。
【0013】
第1の発明によれば、複数のバンドル材がいずれも螺旋巻きされず、その内、少なくとも一本が、巻き付け方向を正逆反転させながら撚り返され、バンドル材同士の交差部で接合される。このため、撚り返されたバンドル材を引っ張ることで、容易に接合部の接合を外すことができる。また接合部を外すと、バンドル材を巻き戻すことなく、内部の光ファイバ心線を取り出すことができる。このため、分岐作業性が良好である。
【0014】
特に、バンドル材の接合部の長さが5mm以上であれば、製造中などにおいて接合部が外れることがなく、バンドル材の接合部の長さが20mm以下であれば、接合部である直線部が長くなりすぎることによる光ファイバ心線の飛び出しを抑制することができる。」

b 上記記載からして、
本願補正発明の「光ファイバユニット」は、容易に接合部を外すことができ、かつ、バンドル材の除去に時間を要することのない、分岐作業が容易な光ファイバユニットであって、接合部の長さを「5mm以上20mm以下」とすることで、製造中などに接合部が外れてしまう恐れがなく、かつ、光ファイバ心線が飛び出さないものと解される。

(イ)しかし、上記「5mm以上20mm以下」とする技術的意義を評価する際に、ここで、本願明細書中の「製造中などに接合部が外れてしまう」の意味が不明瞭であったことから、令和元年9月25日付けで審尋したところ、同年11月11日に回答書が提出された。

当審で審尋した概要は、以下のとおりである。
本願明細書の[0030]に記載された「…接合部7の長さが5mm未満では、製造中などに接合部7が外れてしまう恐れがある。…」における「製造中」とは、どのような工程なのか。

a これに対して、請求人は、以下のように回答している。
「(1)この工程は、審判官殿が指摘する『熱融着工程』でもなく、『中間分岐工程』でもありません。明細書に記載はありませんが、
・バンドル材を巻き付けられた光ファイバユニットがボビンにまかれるパスラインの中、および、
・バンドル材を巻き付けられた光ファイバユニット同士を撚り合わせるパスラインの中 において、直径50mm程度のシーブ(sheave)を通過します。
この際、接合部がシーブの曲げの外側を通過すると引っ張られる力が働き、接合部の端部が剥がれる場合があります。5mmより短いと、接合部全体が剥がれてしまい形状を保持できなくなりますが、5mmより長いと、一部の接合部は残るため、形状を保持することができます。」(第3頁上段)

b 請求人の上記説明によれば、接合部の長さ「5mm以上」は、製造中、直径50mm程度のシーブ(sheave)を通過する際に働く「引っ張られる力」に対する接合部の端部の剥がれを考慮して決められたものである。
そして、上記数値に、臨界的な技術的意義は認められない。

(ウ)一方、引用発明の「(2本のバンドル材を巻き付けた)光ファイバユニット」も、引用文献の[0004]に従来技術を示すために例示された特許文献2(特開2012-88454号公報 の図7及び図8を参照。)に巻取りボビン25等に巻き取られることが示されているように、一般に、製造中などでは、光ファイバユニットには曲げが発生し、バンドル材にはその曲げに応じた力が作用するであろうことは当然に想定されることであって、その想定される力が作用したとしても、バンドル材が解けないように、その接合部の長さを設定することに何ら困難性は認められない。
ちなみに、上記特許文献2(特開2012-88454号公報 )の図8は、以下のものである。

11…光ファイバ心線
12、13…バンドル材
23…接着剤塗布装置
26、27…バンドル材繰り出し装置
28…揺動装置
24…接着剤硬化装置
25…巻取りボビン
10D…光ファイバユニット

(エ)そして、引用発明の「接合点」の接合強度は、外したいときには人の手で容易に外せる程に弱いものであるから、製造中などに、不意に解けることのないように、曲げの程度やバンドル材の接合強度等を考慮して、接合点(接合部)の長さを、5?20mm程度に設定することに何ら困難性は認められない。

(オ)以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点1>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

イ 効果
本願補正発明の効果は、引用発明の奏する効果から予測し得る範囲内のものである。

(6)審判請求書における主張
審判請求書において、以下のように主張していることから、この点について検討する。

「下の図(図1)は、横軸を引用文献1のバンドル材の巻き付けピッチとし、縦軸をバンドル材の接合部の長さとして、引用文献1のバンドル材の接合部が取り得る値の範囲を斜線領域で示したものである。そして、破線部で示す領域が本願発明の接合部の長さが取り得る値の範囲である。
見て頂くと分かる通り、巻き付けピッチが40mm以下の際は、引用文献1は本願の範囲を完全に含んでおらず、引用文献1で20mm以下という範囲が含まれる蓋然性が高いとは言えないと思料する。」(第6頁後段から第7頁上段)
当審注:上記「引用文献1」は、審決で引用する引用文献である。
ちなみに、審判請求書における図1は、以下のものである。


請求人は、「本願の範囲を完全に含んでおらず」と主張しているが、巻き付けピッチ30mmにおいて、接合部の長さを20mmとすることは不合理であるから(この場合は、接合部の長さを5?10mm程度にするのが自然である。)、「斜線領域」と「破線部で示す領域」は、大部分において重複しているといえる。
また、本願補正発明は、「バンドル材同士の交差部」の間隔(ピッチ)が特定されるものではないことから、「破線部で示す領域が本願発明の接合部の長さが取り得る値の範囲である。」との主張は採用できない。
よって、請求人の上記主張は、上記「(5)判断」の判断を左右するものではない。

(7)独立特許要件についてのまとめ
引用発明において、上記<相違点1>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことであるから、本願補正発明は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

4 補正却下の決定の理由のむすび
上記「3」のとおり、本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 1」にて、本件補正前の請求項1に係る発明として記載したとおりのものである。
念のため、本願発明を再掲すると、以下のとおりのものである。

「複数の光ファイバ心線と、
複数の前記光ファイバ心線の外周に配置される複数本のバンドル材と、
を具備し、
前記バンドル材は、いずれも前記光ファイバ心線の外周に螺旋巻きされず、少なくとも一本の前記バンドル材は、複数の前記光ファイバ心線の外周に、巻き付け方向を正逆反転させながら撚り返されて、前記バンドル材同士の交差部で、前記バンドル材同士が接合され、
前記バンドル材の接合部の長さが、5mm以上20mm以下であることを特徴とする光ファイバユニット。」

2 引用文献
(1)引用文献に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(国際公開第2015/053146号)には、図面とともに、以下の記載がある。

ア 「[0075] ===第1実施形態===
第1実施形態では、光ファイバユニットのバンドル材の数を増やした例について説明する。光ファイバケーブルの基本的な構成は第1参考例と同様である。
[0076] 図11は、第1実施形態の光ファイバユニット10の概略図である。図12は、第1実施形態のバンドル材12の巻き方について説明する断面図である。第1実施形態の光ファイバユニット10は、バンドル材12G及び、バンドル材12H、バンドル材12I、及びバンドル材12Jの4つのバンドル材を有する。
[0077]
……
[0078] 図12の場合、バンドル材12Gは間欠固定テープ心線11の束の外周を時計回り方向に巻き付きついている。一方、バンドル材12Hは間欠固定テープ心線11の束の外周を反時計回り方向に巻き付いている。そして、接触点J31において両者が接合された後、バンドル材12G、バンドル材12Hともに巻き付き方向が反転する。バンドル材12Gは間欠固定テープ心線11の束の外周を反時計回り方向に巻き付き、バンドル材12Jとの接触点である接触点J32においてバンドル材12Jと接合され、再び巻き付き方向が反転する。一方、バンドル材12Hは、接触点J31において巻き付き方向が反転し、間欠固定テープ心線11の束の外周を時計回り方向に巻き付き、バンドル材Iとの接触点である接触点J33においてバンドル材Iと接合され、再び巻き付き方向が反転する。同様に、バンドル材12Iとバンドル材12Jとは、接触点J34において接合された後、それぞれ巻き付き方向が反転する。これを繰り返すことにより、図11に示されるような状態となる。
[0079] 第1実施形態の光ファイバユニット10でも、中間分岐作業や端末作業において良好な作業性を有する。例えば、中間分岐作業を行なう際に間欠固定テープ心線11の束からバンドル材12を引き剥がしたい場合、図12においてバンドル材12G?12Jのいずれかのバンドル材を光ファイバユニット10の半径方向外側に引っ張ることにより、各バンドル材を簡単に引き剥がすことが可能である。本実施形態の場合も、間欠固定テープ心線11の束に対するそれぞれのバンドル材の巻き付きが1周未満であるため、バンドル材を螺旋状に手繰る等の必要が無く、所定の方向に引っ張るだけで簡単に引き剥がすことができる。また、本実施形態では、4つのバンドル材12G?12Jのうち、所望のバンドル材を選択して引き剥がすことができるため、剥がす必要の無い位置のバンドル材はそのままの状態で作業を行なうことが可能であり、間欠固定テープ心線11の束がばらけにくく、より効率的に作業を行なうことができる。」

イ 第1実施形態に関する図11及び図12は、以下のものである。
図11


図12


(2)引用文献に記載された発明
ア 上記(1)アの記載から、引用文献には、「第1実施形態の光ファイバユニット」として、
「複数の光ファイバ心線と、前記複数の光ファイバ心線を束ねる4本のバンドル材とを備えた、光ファイバユニット」が記載されているものと認められる。

イ 「第1実施形態の光ファイバユニット」に関する記載を踏まえて、図11及び図12を見ると、以下のことが理解できる。
(ア)第1実施形態は、第1参考例と比較すると、バンドル材の数を4本に増やした点が異なるだけで、基本的な構成は第1参考例と同じであることから、バンドル材同士の隣り合う2箇所の接合点間の距離は、例えば、80?100mmであってもよいこと。

(イ)4本のバンドル材は、「バンドル材12G」、「バンドル材12H」、「バンドル材12I」及び「バンドル材12J」であること。

(ウ)各バンドル材は、複数の光ファイバ心線の束の外周上に巻きつくように、光ファイバ心線の束の長手方向に沿って1/4周分の円弧を描くように均等配置されていること。

(エ)各バンドル材は、接触箇所(以下「接合点」という。)において接合され、当該接合点において接合された後、光ファイバ心線の束に対する巻きつき方向が反転すること。

(オ)接合点の接接強度は、当該接合点が不意に解けず、外したいときには人の手で容易に外せる程度であること。

(カ)いずれかのバンドル材を半径方向外側に引っ張ることにより、各バンドル材を簡単に引き剥がすことが可能であること。

ウ 上記ア及びイからして、引用文献には、(4本のバンドル材を備えた)第1実施形態の光ファイバユニットに関する次の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されているものと認められる。

「複数の光ファイバ心線と、前記複数の光ファイバ心線を束ねる4本のバンドル材とを備えた、光ファイバユニットであって、
前記バンドル材は、バンドル材12G、バンドル材12H、バンドル材12I及びバンドル材12Jであり、
前記各バンドル材は、複数の光ファイバ心線の束の外周上に巻きつくように、光ファイバ心線の束の長手方向に沿って1/4周分の円弧を描くように均等配置され、
前記各バンドル材は接合点において接合された後、前記光ファイバ心線の束に対する巻きつき方向が反転し、
前記接合点の接合強度は、当該接合点が不意に解けず、外したいときには人の手で容易に外せる程度であり、
前記いずれかのバンドル材を半径方向外側に引っ張ることにより、各バンドル材を簡単に引き剥がすことが可能であり、
前記バンドル材同士の隣り合う2箇所の接合点間の距離は、例えば、80?100mmである、光ファイバユニット。」

3 対比・判断
(1)対比
ア 本願発明と引用発明Aとを対比すると、以下の点で一致する。
<一致点>
「複数の光ファイバ心線と、
複数の前記光ファイバ心線の外周に配置される複数本のバンドル材と、
を具備し、
前記バンドル材は、いずれも前記光ファイバ心線の外周に螺旋巻きされず、少なくとも一本の前記バンドル材は、複数の前記光ファイバ心線の外周に、巻き付け方向を正逆反転させながら撚り返されて、前記バンドル材同士の交差部で、前記バンドル材同士が接合され、
前記バンドル材の接合部が長さAである、光ファイバユニット。」

イ 一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点2>
長さAに関して、
本願発明は、「5mm以上20mm以下」であるのに対して、
引用発明Aは、不明である点。

(3)判断
上記<相違点2>は、上記<相違点1>と実質的に同じである。
そうすると、上記「第2 3(5)」で判断したとおり、本願発明も、同様の理由により、当業者が引用発明Aに基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 まとめ
よって、本願発明は、当業者が引用発明Aに基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-25 
結審通知日 2019-11-26 
審決日 2019-12-10 
出願番号 特願2015-128022(P2015-128022)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 貴一  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 星野 浩一
近藤 幸浩
発明の名称 光ファイバユニット、光ファイバケーブル、および光ファイバユニットの製造方法  
代理人 井上 誠一  
代理人 井上 誠一  

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