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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B65D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D
管理番号 1359448
審判番号 不服2019-1374  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-01 
確定日 2020-02-06 
事件の表示 特願2015-17763「塗布容器および塗布容器における内容物の計量方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年8月8日出願公開、特開2016-141426〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年1月30日を出願日とする出願であって、以降の手続は次のとおりである。
平成30年5月21日付け :拒絶理由通知
平成30年7月26日 :意見書の提出
平成30年10月31日付け :拒絶査定
平成31年2月1日 :審判請求書の提出、同時に手続補正書の提出

第2 平成31年2月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年2月1日にされた補正を却下する。
[理由]
1.本件補正について
上記平成31年2月1日にされた補正(以下「本件補正」という。)は、本願出願当初の特許請求の範囲の請求項1についての補正を含むもので、本件補正前後の請求項1の記載は、補正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)本件補正前
「【請求項1】
被塗布部に塗布する内容物が収容される容器本体と、
前記容器本体の口部に装着され、前記容器本体内に連通する連通孔が形成された中栓部材と、
前記中栓部材との間に、前記連通孔を通して前記容器本体内に連通する計量室を形成するとともに、頂部に前記計量室に連通する吐出孔が形成された計量筒部材と、
前記計量室内に設けられ、先端が前記吐出孔から外部に突出可能な塗布栓と、
前記計量筒部材に着脱自在に装着されて前記吐出孔を閉塞し、前記計量筒部材からの離脱に伴って、前記塗布栓を、容器軸方向に沿う前記計量筒部材の頂部側である前側に移動させるオーバーキャップと、を備え、
前記塗布栓には、前記連通孔を通した前記容器本体内と前記計量室との連通およびその遮断を切り替える計量弁が設けられ、
前記塗布栓は、
前記オーバーキャップが前記計量筒部材に装着された状態で、前記計量弁により前記容器本体内と前記計量室とが連通された計量位置と、
前記オーバーキャップが前記計量筒部材から離脱されて前記計量位置よりも前側に位置した状態で、前記計量弁により前記容器本体内と前記計量室との連通が遮断された計量完了位置と、の間を容器軸方向に移動自在に配設され、
前記オーバーキャップには、前側を向く接地部が設けられていることを特徴とする塗布容器。」

(2)本件補正後
「【請求項1】
被塗布部に塗布する内容物が収容される容器本体と、
前記容器本体の口部に装着され、前記容器本体内に連通する連通孔が形成された中栓部材と、
前記中栓部材との間に、前記連通孔を通して前記容器本体内に連通する計量室を形成するとともに、頂部に前記計量室に連通する吐出孔が形成された計量筒部材と、
前記計量室内に設けられ、先端が前記吐出孔から外部に突出可能な塗布栓と、
前記計量筒部材に着脱自在に装着されて前記吐出孔を閉塞し、前記計量筒部材からの離脱に伴って、前記塗布栓を、容器軸方向に沿う前記計量筒部材の頂部側である前側に移動させるオーバーキャップと、を備え、
前記塗布栓には、前記連通孔を通した前記容器本体内と前記計量室との連通およびその遮断を切り替える計量弁が設けられ、
前記塗布栓は、
前記オーバーキャップが前記計量筒部材に装着された状態で、前記計量弁により前記容器本体内と前記計量室とが連通された計量位置と、
前記オーバーキャップが前記計量筒部材から離脱されて前記計量位置よりも前側に位置した状態で、前記計量弁により前記容器本体内と前記計量室との連通が遮断された計量完了位置と、の間を容器軸方向に移動自在に配設され、
前記オーバーキャップには、前側を向く接地部が設けられ、
前記接地部は、この塗布容器を倒立姿勢にした状態で接地し、この塗布容器を倒立姿勢に保持可能に形成されていることを特徴とする塗布容器。」

2.補正の適否
本件補正のうち、上記請求項1についてするものは、本件補正前の請求項1に記載された「接地部」を、「この塗布容器を倒立姿勢にした状態で接地し、この塗布容器を倒立姿勢に保持可能に形成されている」との構成を付加し、限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることは明らかであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。
(1)補正発明
補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるもので、上記1.(2)に示したとおりのものである。

(2)引用文献
ア.引用文献1
原査定の拒絶の理由、すなわち平成30年5月21日付け拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-225905号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の事項及び発明が記載されている。
(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は容器体の栓として使用され、かつ液体を計量可能で、計量した液体を塗布することができる液体計量塗布栓に関する。」

(イ) 「【0007】本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、ポイント的な塗布と正確な計量を可能にする液体計量塗布栓を提供することを目的とする。」

(ウ) 「【0008】
【課題を解決するための手段】第1の手段として、下方筒部11を容器体口頸部3への装着筒部分とすると共に、筒上端部を小径のノズル筒22とした筒部の内面から内向きフランジ14を突出して該内向きフランジで有底シリンダ15を吊下げ、内向きフランジ上方のシリンダ部分と筒部内面との間を内向きフランジ15を底面とする上面開口の計量室21に形成し、かつ内向きフランジよりも上方のシリンダ15部分内面に係合凹溝16を形成すると共に、内向きフランジ下方のシリンダ部分には液体流通縦孔18を穿設したキャップ主部材10と、上記シリンダ15内へ上下動可能に嵌合させた筒状ピストン30と、上記筒状ピストン30を、外面に設けた摺動凹溝41内へ嵌合させて一定ストローク上下動可能に設け、シリンダ15下部内から上記筒部の上部内まで起立させて上方付勢された栓棒40と、上記ノズル筒22へ嵌合させた口キャップ50とを有し、口キャップ嵌合状態では、該口キャップ頂壁52下面から垂設された押圧棒51が栓棒40を押下げし、又栓棒が内向きフランジ14下方まで筒状ピストン30を押下げることで、上記液体流通縦孔18の上部を介して内向きフランジ14上下の筒部内空間が連通可能とし、上記口キャップ50を外した状態では、栓棒40上部がノズル筒22上面から上方突出すると共に、このとき摺動凹溝41下面へ筒状ピストン30が接し、かつ該ピストン外周部が上記係合凹溝16内に係合し、このとき筒状ピストン30が内向きフランジ14下方と上方との筒部内空間を水密に遮断可能とし、更に栓棒40上端面をノズル筒22上面とほぼ同位置まで押込みしたとき、キャップ主部材10および筒状ピストン30に対して栓棒40だけが下降し、このとき栓棒上部外面に縦設した縦溝42が内向きフランジ14上方の筒部内空間と外気との連通路を形成可能に形成した。」

(エ) 「【0011】
【発明の実施の形態】図1ないし図4は本発明に係る液体計量塗布栓の第1の実施形態を示す。1は容器体で、胴部2上端から肩部を介して口頸部3を起立する。10はキャップ主部材で、口頸部3へ嵌合させたシリンダ付き装着筒11と該部材へ嵌合させた覆筒12とからなる。両者につき、以下順次説明する。
【0012】シリンダ付き装着筒11は、口頸部3外面へ図示する凹凸の係合手段ないし螺合手段を介して下方筒部を装着させた周壁13上端に内向きフランジ14を付設し、該フランジ内周へ有底シリンダ15を貫設させる。そして内向きフランジ14よりも上方のシリンダ15部分の下部内面に係合凹溝16を周設する。一方、内向きフランジ14よりも下方のシリンダ15部分の下端部を下方小径のテーパ状部を介して小外径部に形成すると共に、該小外径部と内向きフランジ14との間のシリンダ部分には複数の液体流通用の割溝18を縦設する。
【0013】覆筒12は、内向きフランジ14の外周部上面に周設した嵌合溝19内へ周壁20下端部を嵌着させて、該周壁内面と内向きフランジ14上方のシリンダ15部分との間を内向きフランジ14を底面とする上面開口の計量室21に形成すると共に、周壁20上端部を下方大外径のテーパ状筒部を介して小径のノズル筒22に形成する。該ノズル筒の上端部内面に、複数の縦溝23を縦設すると共に、これら縦溝下端を連ねるシール用突条24を周設する。
【0014】30は筒状ピストンで、外周部をシリンダ15内へ上下動可能に嵌合させると共に、内周部に摺動筒31を貫設させて、該筒を後述の栓棒40外面へ上下動自在に嵌合させている。なお、摺動筒31の下部内面は上向き段部を介して小内径部に形成する。
【0015】40は栓棒で、外面に形成した摺動凹溝41内へ摺動筒31の小内径部を上下動自在に嵌合させて筒状ピストン30を一定ストローク上下動可能に設けると共に、棒上端部外面に複数の縦溝42を縦設し、かつ棒下端部をシリンダ15の小外径部内へ位置させてノズル筒22内まで下記の手段により上方付勢状態で起立する。
【0016】摺動凹溝41よりも下方の棒部分を下向き段部を介して遊嵌用の小外径部に形成すると共に、シリンダ15の小外径部へ圧縮コイルバネ43の下端部を嵌合させ、かつ該バネ内へ上記遊嵌用の小外径部を遊嵌させて、バネ上端を小外径部の下向き段部へ圧接させることで栓棒40を上方付勢させる。
【0017】50は口キャップで、ノズル筒22内へ着脱自在に嵌合させた押圧棒51を中央部から垂設する頂壁52から内外2重筒を垂設して、内筒をノズル筒22外面へ嵌合させると共に、外筒下端を覆筒12のテーパ状筒部下端へ嵌合させている。なお、押圧棒51の下部外面にシール用の突条を周設して、該突条をノズル筒内面のシール用突条24下面へ着脱自在に係合させている。
【0018】口キャップ50を装着した状態では、図1に示すように、押圧棒51が栓棒40を押し下げし、かつ該栓棒が筒状ピストン30を内向きフランジ14下方まで押し下げることで、割溝18の上部を介して内向きフランジ14よりも上方空間と下方空間とを連通させている。
【0019】一方、口キャップ50を外した状態では、図3に示すように、栓棒40上端部がノズル筒22上面から上方突出すると共に、このとき摺動凹溝41下面へ筒状ピストンの摺動筒31下面が接し、かつ筒状ピストン外周部が係合凹溝16内に係合し、これによって筒状ピストン30が内向きフランジ14よりも上方空間と下方空間とを水密に遮断する。
【0020】さらに、図4に示すように、栓棒40を塗布面に押し付けることで、栓棒上端面をノズル筒22上面とほぼ同位置まで押し込みしたとき、キャップ状主部材10および筒状ピストン30に対して栓棒40だけが下降し、このとき栓棒40に形成した縦溝42が内向きフランジ14よりも上方空間と外気との連通路を形成する。」

(オ) 「【0021】次に本実施形態の作用について説明する。本実施形態による液体計量塗布栓を使用するには、まず口キャップ50をノズル筒22へ嵌合させた状態で、図2に示すように、容器体を倒立させることにより容器体内液体を割溝18を介して内向きフランジ14よりも上方空間へ流入させた後、容器体を正立させると、液体の一部は計量室21を満たし、残余の液体は容器体内へ流下する。
【0022】計量後、口キャップ50をノズル筒22から取り外すと、図3に示すように、栓棒40がコイルバネ43の付勢力で上昇して摺動凹溝41下面が摺動筒31下面に接触することで摺動筒を介して筒状ピストン30を、その外周部が係合凹溝16へ係合するまで上昇させる。筒状ピストン30が係合凹溝16へ係合して上昇を停止すると、栓棒40も同時に上昇を停止する。この時点で栓棒40の上端部はノズル筒22上面から突出し、かつ該ノズル筒内面のシール用突条24が縦溝42下端を閉塞して外気とキャップ主部材10内部との連通を遮断する。
【0023】液体を塗布するには、図4に示すように、容器体を倒立させ、かつコイルバネ43の付勢力に抗して栓棒40の先端部を塗布面に押し付ければよく、すると栓棒が下降してシール用突条24が縦溝42を開放するため、該溝を介して外気とキャップ主部材10内部とが連通して縦溝42から液体が塗布面に流出する。なお、上記のように栓棒40が下降しても筒状ピストン30は係合凹溝16に係合して静止状態を保持するため、容器体内液体が内向きフランジ14よりも上方空間内へ流入することがない。
【0024】塗布後、容器体を正立させて口キャップ50をノズル筒22へ嵌合させると、栓棒40が押し下げられて摺動凹溝41上面が摺動筒31に係合することで筒状ピストン30を押下げて係合凹溝16から下方へ離脱させる。」

(カ)【図1】 【図2】


【図3】 【図4】

(キ)摘記事項(エ)の段落【0013】及び摘記事項(オ)の段落【0021】の記載、及び、【図4】に図示された液体を塗布する際の様子から、覆筒12のノズル筒22の上端部内面には、覆筒12の計量室21に連通し、液体を吐出するノズル筒22吐出孔が形成されているといえる。

(ク)「栓棒40」は、「外面に形成した摺動凹溝41内へ摺動筒31の小内径部を上下動自在に嵌合させて筒状ピストン30を一定ストローク上下動可能に設ける」(摘記事項(エ)段落【0015】)ものであって、「口キャップ50を装着した状態では」、「筒状ピストン30」が「該栓棒」によって、「内向きフランジ14下方まで押し下げることで、割溝18の上部を介して内向きフランジ14よりも上方空間と下方空間とを連通させ」(同段落【0018】)る一方、「口キャップ50を外した状態では」「筒状ピストン30が内向きフランジ14よりも上方空間と下方空間とを水密に遮断する」(同段落【0019】)ものである。そして「フランジ14」よりも上方空間は、「計量室21」につながり、下方空間は、「容器体1」内につながるから、「栓棒40」には、「割溝18」を通した「容器体1」内と「計量室21」との連通及びその遮断を切り替える「筒状ピストン30」が設けられているといえる。

(ケ)上記認定事項(ク)から、「栓棒40」は、
「口キャップ50」が「覆筒12」に装着された状態で、「筒状ピストン30」により「容器体1」内と「計量室21」とが連通された計量位置と呼べる位置と、
「口キャップ50」が「覆筒12」から離脱されて、上記計量位置よりも前側に位置した状態で、「筒状ピストン30」により「容器体1内」と「計量室21」との連通が遮断された計量完了位置と呼べる位置との間を、容器体1軸方向に移動自在に配設されたものであることが理解できる。

(コ)摘記事項(エ)の段落【0019】の「口キャップ50を外した状態では、図3に示すように、栓棒40上端部がノズル筒22上面から上方突出する」という記載、及び、摘記事項(オ)の段落【0022】の「この時点で栓棒40の上端部はノズル筒22上面から突出し、かつ該ノズル筒内面のシール用突条24が縦溝42下端を閉塞して外気とキャップ主部材10内部との連通を遮断する。」という記載、並びに、【図3】の図示から、「栓棒40」は、ノズル筒22吐出孔から外部に対して吐出可能であるといえる。

(サ)本件特許明細書の「・・・容器軸Oに沿って計量筒部材15の頂部15a側を前側といい」(段落【0015】)という記載から、同様に、引用文献1に記載された「前記栓棒40を、容器軸方向に沿う前記覆筒12の頂部側」を「前側」ということができる。

(シ)図1から、「頂壁52」は、「口キャップ50」に対して、「前側」向きに形成されていて、その径方向外側の端部は、「口キャップ50」から突出していることが看取できる。

そうすると、上記摘記事項(ア)?(オ)、(カ)の図示、及び、認定事項(キ)?(シ)を総合すると、引用文献1には、次の引用発明が記載されている。

「塗布面に塗布する液体が収容される容器体1と、
前記容器体1の口頸部3に装着され、前記容器体1内に連通する割溝18が形成されたシリンダ付き装着筒11と、
前記シリンダ付き装着筒11との間に、前記割溝を通して前記容器体1内に連通する計量室21を形成するとともに、頂部に前記計量室21に連通するノズル筒22吐出孔が形成された覆筒12と、
前記計量室21内に設けられ、先端が前記ノズル筒22吐出孔から外部に突出可能な栓棒44と、
前記覆筒12に着脱自在に装着されて前記ノズル筒22吐出孔を閉塞し、前記覆筒12からの離脱に伴って、前記栓棒40を、容器軸方向に沿う前記覆筒12の頂部側である前側に移動させる口キャップ50と、を備え、
前記栓棒40には、前記割溝18を通した前記容器体1内と前記計量室21との連通及びその遮断を切り替える筒状ピストン30が設けられ、
前記栓棒40は、
前記口キャップ50が前記覆筒12に到着された状態で、前記筒状ピストン30外周部により前記容器体1と前記計量室21とが連通された計量位置と、
前記口キャップ50が前記覆筒12から離脱されて前記計量位置よりも前記前側に位置した状態で、前記筒状ピストン30外周部により前記容器体1と前記計量室21との連通が遮断された計量完了位置と、の間を容器体1軸方向に移動自在に配設され、
前記口キャップ50には、前側を向いていて、径方向外側に向けて突出する部分を有する頂壁52が設けられている容器。」

イ.引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2013-230838号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「【0024】
キャップ3にはフランジ壁3gが一体に設けられている。フランジ壁3gは天壁3bの外周縁3cに連なり、側壁3aに対してその径方向外側に向けて突出している。このフランジ壁3gを設けることにより、キャップ3の径方向寸法を拡大して、キャップ付き容器1の倒立姿勢における安定性を高めることができる。」

(イ)「【0030】
このキャップ付き容器1では、キャップ3が容器本体2と同等の外径寸法に形成され、また、キャップ3にフランジ壁3gが設けられるので、不使用時等には、このキャップ付き容器1を、キャップ3(吐出部2b)を下側とした倒立姿勢でテーブル等の平坦面4に配置し、保管することができる。」

(ウ)【図4】


(3)対比
補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「塗布面」、「液体」及び「容器体1」は、補正発明の「被塗布部」、「内容物」及び「容器本体」にそれぞれ相当する。
引用発明の「口頸部3」、「割溝18」、「シリンダ付き装着筒11」、「計量室21」、「ノズル筒22吐出孔」及び「覆筒12」は、補正発明の「口部」、「連通孔」、「中栓部材」、「計量室」、「吐出孔」及び「計量筒部材」にそれぞれ相当する。
引用発明の「栓棒44」、「口キャップ50」及び「筒状ピストン30」は、補正発明の「塗布栓」、「オーバーキャップ」及び「計量弁」に相当する。

そうすると、補正発明と引用発明とは次の点で一致し、かつ、相違する。
<一致点>
「被塗布部に塗布する内容物が収容される容器本体と、
前記容器本体の口部に装着され、前記容器本体内に連通する連通孔が形成された中栓部材と、
前記中栓部材との間に、前記連通孔を通して前記容器本体内に連通する計量室を形成するとともに、頂部に前記計量室に連通する吐出孔が形成された計量筒部材と、
前記計量室内に設けられ、先端が前記吐出孔から外部に突出可能な塗布栓と、
前記計量筒部材に着脱自在に装着されて前記吐出孔を閉塞し、前記計量筒部材からの離脱に伴って、前記塗布栓を、容器軸方向に沿う前記計量筒部材の頂部側である前側に移動させるオーバーキャップと、を備え、
前記塗布栓には、前記連通孔を通した前記容器本体内と前記計量室との連通およびその遮断を切り替える計量弁が設けられ、
前記塗布栓は、
前記オーバーキャップが前記計量筒部材に装着された状態で、前記計量弁により前記容器本体内と前記計量室とが連通された計量位置と、
前記オーバーキャップが前記計量筒部材から離脱されて前記計量位置よりも前側に位置した状態で、前記計量弁により前記容器本体内と前記計量室との連通が遮断された計量完了位置と、の間を容器軸方向に移動自在に配設された塗布容器。」

<相違点>
補正発明の「オーバーキャップ」には、「前側を向く接地部が設けられ、前記接地部は、この塗布容器を倒立姿勢にした状態で接地し、この塗布容器を倒立姿勢に保持可能に形成されている」のに対し、引用発明の「口キャップ50」には、「前側を向いていて、径方向外側に向けて突出する部分を有する頂壁52」が設けられているものの、上記のような接地部が設けられていることは不明である点。

(4)判断
ア.<相違点>についての判断
引用文献1には、引用発明の容器体の使用について、上記(2)ア.(オ)に摘記した段落【0021】?【0023】の記載があり、当該記載によると、引用発明は、まず「図2に示すように、容器体を倒立させることにより容器体内液体を割溝18を介して内向きフランジ14よりも上方空間へ流入させた後、容器体を正立させると、液体の一部は計量室21を満たし、残余の液体は容器体内へ流下」させることによって、液体を計量し、次いで、「口キャップ50をノズル筒22から取り外」して、「図4に示すように、容器体を倒立させ、かつコイルバネ43の付勢力に抗して栓棒40の先端部を塗布面に押し付ければよく、すると栓棒が下降してシール用突条24が縦溝42を開放するため、該溝を介して外気とキャップ主部材10内部とが連通して縦溝42から液体が塗布面に流出する」ものである。
ここで、引用発明の容器体の使用にあたり、あらかじめ倒立させておけば、使用時に正立させて口キャップ50をノズル筒22から取り外すだけで、最初に容器体を倒立させて計量室21を液体で満たす必要がなく、より迅速に計量された液体が塗布でき、便利であることは、当業者にとって明らかである。このことからすると、引用発明には、容器体を倒立させておくことの動機付けが存在する。
一方、上記(2)イ.(ア)及び(イ)に摘記したように、引用文献2には、「キャップ付き容器1を、キャップ3(吐出部2b)を下側とした倒立姿勢でテーブル等の平坦面4に配置し、保管する」ものにおいて、「キャップ付き容器1の倒立姿勢における安定性を高める」ことができる「フランジ壁3g」を、「側壁3aに対してその径方向外側に向けて突出」するようにしたものが記載されている。また、容器を倒立させるためにキャップにおいて「接地部」を設けて、キャップにより容器を立てておくことは、従来周知(例えば特開2006-111281号公報(特に、段落【0006】及び図8に記載された「倒立保持可能な天面部52」、段落【0020】?【0023】及び【図2】に記載された「接地部6」に着目されたい。)、特開2006-224970号公報(特に段落【0028】及び【図2】に記載された「スタンド3」に着目されたい。))である。
そうすると、当業者であれば、引用発明の「容器体1」において、口キャップ50に形成された、径方向外側に向けて突出する部分を有する頂壁52の形状から、上記引用文献2に記載されたような形状を有する「接地部」を口キャップ50に形成すること、すなわち、引用発明において上記<相違点1>に係る補正発明の構成を適用することは、当業者が容易になし得た事項であるに過ぎない。

イ.作用効果について
請求人は、平成31年2月1日に提出した審判請求書において、「本願発明は、「前記接地部は、この塗布容器を倒立姿勢にした状態で接地し、この塗布容器を倒立姿勢に保持可能に形成されている」との構成を備え、塗布容器を倒立姿勢にした状態で設定部が接地することで、接地部が塗布容器を倒立姿勢に保持可能に形成されています。よって、接地部が接地されている塗布容器を倒立姿勢に保持しておくことが可能になり、操作性を一層向上させることができます。」(4.1.2(2))と主張している。
しかし、上記ア.に示したように、容器において、「接地部」を設けたならば、当該容器は「接地部」により支えられて、倒立姿勢が維持できることは明らかであるから、請求人の主張する作用効果は、格別なものではない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、本願出願当初に願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の[理由]の1.(1)に記載したとおりのものである。

2.原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由(平成30年5月21日付け拒絶理由)は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許受けることができない、というものである。

3.引用文献
引用文献1には、上記第2の2.(2)ア.に示した事項及び上記引用発明が記載されている。

4.対比・判断
上記第2の2.に示したように、本願発明は、「接地部」について、補正発明において特定された「前記接地部は、この塗布容器を倒立姿勢にした状態で接地し、この塗布容器を倒立姿勢に保持可能に形成されている」との限定事項を省いたものである。
そうすると、補正発明の全ての特定事項を包含し、さらに限定された発明である補正発明が、上記第2の2.(5)に示したように、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も、引用発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。

5.むすび
以上に示したとおり、本願発明は引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-19 
結審通知日 2019-11-26 
審決日 2019-12-13 
出願番号 特願2015-17763(P2015-17763)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B65D)
P 1 8・ 575- Z (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 基樹  
特許庁審判長 石井 孝明
特許庁審判官 井上 茂夫
久保 克彦
発明の名称 塗布容器および塗布容器における内容物の計量方法  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 鈴木 三義  
代理人 仁内 宏紀  

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