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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1359449
審判番号 不服2019-1401  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-01 
確定日 2020-02-06 
事件の表示 特願2014-241629「インナーロータ型モータおよびそれを備えた電動工具」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月 2日出願公開、特開2016-103929〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成26年11月28日の出願であって、平成30年4月11日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年6月12日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年10月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成31年2月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項1?5に係る発明は、平成30年6月12日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「ハウジング内に固定子が固設され、前記固定子内に回転子が同軸に配され、前記固定子の軸心方向の一端にセンサ基板が配されているインナーロータ型モータであって、
前記ハウジングの内周面には凸部が形成され、前記固定子の外周面には凹部が形成され、この凹部と凸部の嵌合により、前記固定子は前記ハウジングに対して位置決めされ、
前記固定子は、固定子鉄心の軸心方向の一端の鉄心端面に、取付面を有する円環状のインシュレータが密着されて構成され、
前記インシュレータには、前記センサ基板が、前記回転子の回転角を検出可能な状態で取り付けられており、
前記固定子の凹部は、前記インシュレータの外周面一部であって前記鉄心端面との密着部分を含む部位に切欠き部が形成されることで構成され、
前記ハウジングが、前記切り欠き部に挿入する位置決め凸部を備えている
ことを特徴とするインナーロータ型モータ。」

第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1?5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2007-330065号公報
引用文献2:特開2013-094062号公報
引用文献3:特開2007-295773号公報
引用文献4:特開2008-312393号公報
引用文献5:特開2011-041359号公報

第4 引用文献に記載された事項
1.引用文献1
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下、同様。)。

ア.「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来のDCブラシレスモータ51の主としてセンサ基板54の位置決め構造では、次のような問題があった。
すなわち、従来は、センサ基板54の周縁一部から放射方向に張り出す位置決め用の突起部54aを本体ハウジング55の位置決め溝部55aに挿入することにより、当該センサ基板54を本体ハウジング55に対して機長方向に位置決めし、ひいては当該センサ基板54を回転子52に対して機長方向に位置決めする構成となっていた。このため、固定子53の振動等によりセンサ基板54の位置決め用突起部54aに曲げ応力等が集中して付加され、その結果センサ基板54の主として位置決め用突起部54aが損傷等して当該センサ基板54の耐久性が損なわれるおそれがあった。
本発明は、センサ基板の本体ハウジングひいては回転子に対する機長方向の位置決め精度を損なうことなく、その耐久性を高めることを目的とする。」

イ.「【0005】
次に、本発明の実施形態を図1?図9に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るDCブラシレスモータ10を駆動源とする電動工具1を示している。本例では、この電動工具1の一例として、いわゆるインパクト式のねじ締め機(インパクトドライバ)が示されている。以下の説明において、電動工具1の前後方向については、図1において右側が前側であり、左側が後側として説明する。・・・」

ウ.「【0007】
駆動源としてのDCブラシレスモータ10は、4極構造のモータであり、マグネット(永久磁石)を備える回転子(ロータ)11と、本体ハウジング4の内側に固定されてその内周側に回転子11を位置させる固定子(ステータ)20と、回転子11の磁極の位置を検出するためのホール素子31?31を備えたセンサ基板30と、駆動回路を有する電気制御基板を備えている。電気制御基板は、前記グリップ部3の先端側に配置されており、その図示は省略されている。
回転子11は、円形の薄鋼板を多数枚積層した回転子鉄心12を備えている。この回転子鉄心12の周囲には、4極のリングマグネット13?13が固定されている。回転子鉄心12の中心には回転軸14が固定されている。
回転軸14は回転子鉄心12の両側から突き出されている。図1に示すように回転軸14の前側(減速ギヤ列6側)は前側軸受け15を介して、後側は後部ハウジング5に保持した後側軸受け16を介してそれぞれ回転自在かつ軸方向(機長方向)へは移動しない状態に支持されている。前側軸受け15は、本体ハウジング4内を前後に区画する中間区画壁4bに保持されている。この中間区画壁4bによって当該本体ハウジング4内がDCブラシレスモータ10側(後側)と回転打撃機構8側(前側)に区画されている。
回転軸14の後側であって回転子鉄心12と後側軸受け16との間には、冷却ファン17が取り付けられている。この冷却ファン17は回転子11と一体で回転する。」

エ.「【0008】
固定子20は、概ね円筒形状を有するもので、多数枚の薄鋼板を積層した積層鋼板構造を有する固定子鉄心(ステタコア)21と、これを電気的に絶縁するいわゆるインシュレータと呼ばれる電気絶縁部材22を備えている。図4には固定鉄心21が単独で示され、図5には電気絶縁部材22が被覆された固定子20が示されている。固定子鉄心21の内周側には6本の歯部21a?21aが設けられている。この固定子鉄心21の外周面と各歯部21aの先端面を除く範囲が電気絶縁部材22で覆われている。各歯部21aの、電気絶縁部材22で覆われた部分に駆動コイル23が巻き線されている。電気絶縁部材22で覆われない各歯部21aの先端面は、回転子11の周面との間に一定の隙間をおいた状態で位置している。
図1に示すようにこの固定子20は、本体ハウジング4の内側に一体に設けたモータハウジング部25の内周側に保持されている。このモータハウジング部25も、本体ハウジング4と同様左右に2分される二つ割り構造を有している。モータハウジング部25は、側壁部25aと後壁部25bと係合突部25cを備えている。
側壁部25aは固定子20の周囲全周に沿って設けられている。この側壁部25aにより固定子20がその径方向への変位を規制された状態に位置決めされている。
この側壁部25aの後方に、後壁部25bが内周側に張り出す状態に設けられている。この後壁部25bの内周側に回転子12の回転軸14および冷却ファン17が位置している。固定子20はその後面(電気絶縁部材22の後面)をこの後壁部25bに当接させた状態に保持され、これにより当該固定子20が後方への変位を規制された状態に位置決めされている。
係合突部25cは、側壁部25aの前方において内周側に張り出す状態に設けられている。この係合突部25cは、固定子20の全周に沿って設けられている。この係合突部25cの機能については後述する。」

オ.「【0009】
電気絶縁部材22の前面にセンサ基板30が取り付けられている。電気絶縁部材22の前面側には、その全周にわたるほぼ円形の段差部22aが設けられている。この段差部22a内にセンサ基板30が収容された状態で取り付けられている。図6にはセンサ基板30が単独で示されている。センサ基板30は、概ね円板形状をなすもので、その中心には前記前側軸受け15を位置させるための逃がし孔30aが設けられている。
図6に示すようにセンサ基板30の下部には、配線接続用の端子接続板部30bが放射方向へ張り出す状態に設けられている。図7に示すように端子接続板部30bは、上記段差部22aの一部を切り欠いた切り欠き部22bを経て電気絶縁部材22の外周側(図2および図7において下方)に張り出されている。
センサ基板30に取り付けた三つの磁気センサ31?31は、回転子11の磁極の位置が固定子20のいずれの歯部21aに対向する位置にあるのかを検出するためのセンサであり、本例ではホール素子が用いられている。図7に示すようにこのセンサ基板30が電気絶縁部材22の段差部22a内に3本のねじ32?32でねじ止めされており、これにより三つの磁気センサ31?31が、周方向に隣り合う3本の歯部21a?21aに対して相互に位相を合わされた状態で配置されている。この三つの磁気センサ31?31で回転子11の磁極の位置を検出しながら、電気制御基板から駆動コイル23?23に対して順番に電流を流すことで回転子11が回転する。これらDCブラシレスモータ10の基本的構成については従来公知の技術であり、本実施形態において特に変更を要しない。」

カ.「【0010】
図5に示すように上記3本のねじ32?32が締め込まれる三カ所のねじ孔22c?22cは、電気絶縁部材22の段差部22aの周方向三等分位置であって、固定子鉄心21の隣接する歯部21a,21a間に配置されている。各ねじ孔22aが隣接する歯部21a,21a間に位置することにより、当該ねじ孔22aを有する円筒体形状のボス部が邪魔になることなく、歯部21aの全長にわたって十分な長さの巻き線を施すことができ、これによりコンパクトかつ効率のよい駆動コイル23を設けることができる。
電気絶縁部材22の前面側の周縁には、係合溝部22dが全周にわたって形成されている。この係合溝部22d内に前記係合突部25cが全周にわたって挿入(凹凸係合)されている。これにより、固定子20のモータハウジング部25に対する機長方向(前後方向、図1において左右方向)の位置が位置決めされている。係合突部25cの幅は係合溝部22dに対してがたつきなく挿入可能な幅に設定されている。このため、係合溝部22d内に係合突部25cが挿入されることにより、固定子20が機長方向にがたつきなく位置決めされている。
固定子20がモータハウジング部25に対して機長方向に高精度で位置決めされる結果、当該固定子20の前面に取り付けたセンサ基板30のモータハウジング部25に対する機長方向の位置が正確に位置決めされる。センサ基板30の機長方向の位置が高精度で位置決めされる結果、各磁気センサ31?31の回転子11に対する機長方向の位置が高精度で位置決めされる。」

キ.「【0012】
位置決め突部35bは、基板部35aの前端から後端に至る全長にわたって設けられている。位置決め突部35bの幅は、上記固定子20の位置決め溝部21bとセンサ基板30の位置決め溝部30cに対してがたつきなく挿入可能な幅に設定されている。この位置決め突部35bは、基板部35aを固定子鉄心21の外周面に密着させた状態で、当該固定子20の中心軸線(回転子軸14の軸線)に正確に平行となる状態に設けられている。
この位置決め治具35を用いて、センサ基板30を固定子20の前面(電気絶縁部材22の段差部22a内)に組み付けるには、図7および図8に示すようにセンサ基板30を段差部22a内にセットし、次に固定子鉄心21の位置決め溝部21bとセンサ基板30の位置決め溝部30cとに跨って位置決め突部35bを挿入し、かつ基板部35aを固定子鉄心21の外周面に密着させた状態に当該位置決め治具35を装着する。
このように位置決め治具35をセットした状態とし、この状態を保持しつつ3本のねじ32?32をそれぞれねじ孔22cに締め付けて、当該センサ基板30を固定子20の段差部22a内に強固に固定する。これにより、センサ基板30は、固定子20に対してその周方向(回転子11の回転方向)の相対位置について正確に位置決めされた状態で固定され、ひいては各磁気センサ31を固定子鉄心21の各駆動コイル23に対して回転方向に高精度で位置決めすることができる。」

ク.図1には、以下の事項が図示されている。


ケ.図2には、以下の事項が図示されている。


コ.図4には、以下の事項が図示されている。


サ.図5には、以下の事項が図示されている。


シ.図8には、以下の事項が図示されている。


ス.前記記載事項ウ.エ.及びカ.によると、DCブラシレスモータ10は、本体ハウジング4の内側に一体に設けたモータハウジング部25の内周側に固定子20が保持され、固定子20の内周側に回転子11が位置し、固定子20の前面にセンサ基板30が取り付けられているといえる。

セ.前記記載事項エ.によると、モータハウジング部25は、側壁部25aと、後壁部25bと、側壁部25aの前方において内周側に張り出す状態に設けられている係合突部25cとを備えているといえる。

ソ.前記記載事項エ.及びカ.によると、固定子20が備える電気絶縁部材22の前面側の周縁には、係合溝部22dが全周にわたって形成されているといえる。

タ.前記記載事項カ.によると、係合溝部22d内に係合突部25cが全周にわたって挿入されることにより、固定子20のモータハウジング部25に対する前後方向の位置が位置決めされるといえる。

チ.前記記載事項エ.によると、固定子20は、固定子鉄心21と、電気絶縁部材22とを備え、固定子鉄心21の外周面と各歯部21aの先端面を除く範囲が電気絶縁部材22で覆われているといえる。

ツ.前記記載事項ウ.オ.カ.及びキ.によると、電気絶縁部材22の前面に、回転子11の磁極の位置を検出するためのホール素子31?31を備えたセンサ基板30が、モータハウジング部25に対する前後方向の位置が正確に位置決めされ、固定子20に対してその周方向の相対位置について正確に位置決めされた状態で取り付けられているといえる。

テ.前記記載事項エ.及びカ.によると、モータハウジング部25が、係合溝部22d内に全周にわたって挿入される係合突部25cを備えているといえる。

(2)引用文献1に記載された発明の認定
引用文献1には、前記(1)に記載した事項及び図面の図示内容を総合すると、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「本体ハウジング4の内側に一体に設けたモータハウジング部25の内周側に固定子20が保持され、前記固定子20の内周側に回転子11が位置し、前記固定子20の前面にセンサ基板30が取り付けられているDCブラシレスモータ10であって、
前記モータハウジング部25は、側壁部25aと、後壁部25bと、側壁部25aの前方において内周側に張り出す状態に設けられている係合突部25cとを備え、前記固定子20が備える電気絶縁部材22の前面側の周縁には、係合溝部22dが全周にわたって形成され、前記係合溝部22d内に前記係合突部25cが全周にわたって挿入されることにより、前記固定子20の前記モータハウジング部25に対する前後方向の位置が位置決めされ、
前記固定子20は、固定子鉄心21と、前記電気絶縁部材22とを備え、前記固定子鉄心21の外周面と各歯部21aの先端面を除く範囲が前記電気絶縁部材22で覆われ、
前記電気絶縁部材22の前面に、前記回転子11の磁極の位置を検出するためのホール素子31?31を備えた前記センサ基板30が、前記モータハウジング部25に対する前後方向の位置が正確に位置決めされ、前記固定子20に対してその周方向の相対位置について正確に位置決めされた状態で取り付けられており、
前記モータハウジング部25が、前記係合溝部22d内に全周にわたって挿入される前記係合突部25cを備えている
DCブラシレスモータ10」

2.引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、図面とともに、次の記載がある。

(1)「【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばインパクトドライバ等の電動工具の駆動源として好適なDCブラシレスモータに関する。」

(2)「【0010】
次に、図2に示すように固定子60は、多数枚の薄鋼板を積層した積層鋼板構造を有する固定子鉄心(ステタコア)61と、これを電気的に絶縁するいわゆるインシュレータと呼ばれる電気絶縁部材62を備えている。・・・」

(3)図2には、以下の事項が図示されている。


3.引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3には、図面とともに、次の記載がある。

(1)「【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばインパクトドライバ等の電動工具の駆動源として好適なDCブラシレスモータに関する。」

(2)「【0010】
次に、図2に示すように固定子60は、多数枚の薄鋼板を積層した積層鋼板構造を有する固定子鉄心(ステタコア)61と、これを電気的に絶縁するいわゆるインシュレータと呼ばれる電気絶縁部材62を備えている。・・・」

(3)図2には、以下の事項が図示されている。


4.引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献4には、図面とともに、次の記載がある。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータに備えられる複数のコイルの対応する端部同士を短絡するためのバスターを有するバスバー装置、及び該バスバー装置を備えたブラシレスモータに関するものである。」

(2)「【0030】
図1に示すように、ホルダ本体41の外径は、前記ステータコア11の外径と略等しく形成されているとともに、同ホルダ本体41の内径は、エンドフレーム6において軸受収容凹部6aが形成された部位の外径よりも大きく、且つ前記ステータコア11の内径と略等しく形成されている。このホルダ本体41の外周縁の複数個所(本実施形態では3箇所)には、バスバーホルダ22を固定子3に取着するためのスナップフィット係合部43が一体に形成されている。図5(a)に示すように、スナップフィット係合部43は、ホルダ本体41の外周縁において周方向に等角度間隔(本実施形態では120°間隔)となる位置に形成されている。そして、図3(c)に示すように、スナップフィット係合部43は、軸方向に沿って固定子3側に延び弾性を有する延長部43aと、該延長部43aの先端部からホルダ本体41の径方向内側に突出する係止部43bとが一体に形成されてなる。そして、延長部43aは、インシュレータ13の外周面(最も径方向外側に突出した部分の外周面)よりも径方向外側で軸方向に沿って延びるとともに、係止部43bは、インシュレータ13の外周面よりも径方向内側となる位置まで突出している。また、係止部43bにおける延長部43aの基端側の面は、軸方向と直交する平坦な係止面43cとなっている。」

(3)「【0031】
また、図5(a)に示すように、ホルダ本体41の外周縁の複数個所(本実施形態では3箇所)には、当接部44が形成されている。これら当接部44は、ホルダ本体41の外周縁において周方向に隣り合う前記スナップフィット係合部43間の周方向の中央部となる3箇所に形成されている。そして、図3(b)に示すように、各当接部44は、ホルダ本体41の外周縁から軸方向に沿って固定子3側に延びる軸方向当接部44aと、該軸方向当接部44aの先端部から軸方向に沿って固定子3側に延びる径方向当接部44bとから構成されている。軸方向当接部44aは、略四角形の板状をなすとともに、ホルダ本体41の外周面に沿って湾曲している。また、図8(a)に示すように、軸方向当接部44aの先端部における周方向の中央部には、軸方向に凹設された非当接凹部44cが形成されるとともに、軸方向当接部44aにおける非当接凹部44cの周方向の両側の先端面は、軸方向と直行する平坦な当接面44dとなっている。
【0032】
径方向当接部44bは、非当接凹部44cの周方向の中央部から軸方向に沿って延びるとともに、その周方向の幅は、前記各分割コア12に形成された係合溝12cの周方向の幅と略等しく形成されている。(図8(c)参照)。また、図8(b)に示すように、径方向当接部44bの内周面44e(ホルダ本体41の内周側の面)は、軸方向当接部44aの内周面44fよりホルダ本体41の外周側に設定されており、該径方向当接部44bの径方向の厚さは、軸方向当接部44aの径方向の厚さよりも薄く形成されている。
【0033】
そして、バスバーホルダ22は、図1に示すように、ホルダ本体41の軸方向と固定子3の軸方向とを一致させた状態で、ハウジングケース2の開口部側の固定子3の軸方向の端部に配置されるとともに、スナップフィット係合部43が固定子3に係合されることにより固定子3に対して固定されている。詳述すると、図3(a)乃至図3(c)に示すように、スナップフィット係合部43の係止部43bは、インシュレータ13に設けられた係合凹部13e内に配置されるとともに、インシュレータ13の係止面13fと該係止面13fに軸方向に対向するステータコア11の軸方向の端面の双方に当接される。これにより、スナップフィット係合部43が固定子3に対して軸方向に係合され、バスバーホルダ22が固定子3に固定されている。
【0034】
また、バスバーホルダ22が固定子3の軸方向の端部に固定された状態においては、図8(c)に示すように、当接部44の径方向当接部44bが、ステータコア11に設けられた係合溝12c内に挿入されるとともに、該径方向当接部44bは、ステータコア11の外周面(本実施形態では係合溝12cの底面)に当接する。また、当接部44の軸方向当接部44aの当接面44dが、ステータコア11の軸方向の端面に当接する。」

(4)「【0056】
(6)スナップフィット係合部43はインシュレータ13に係合されるため、スナップフィット係合部43を係合させるべくステータコア11が複雑な形状となることが防止される。また、ステータコア11は金属製であることから、合成樹脂よりなる部材(例えばインシュレータ13)よりも剛性が高い。従って、剛性の高いステータコア11の外周面に当接部44の径方向当接部44bが当接することにより、ステータコア11に対するバスバーホルダ22の径方向の位置決めを高精度に行うことができる。その結果、ステータコア11に巻装されたコイルU1?U4,V1?V4,W1?W4の接続端部16を、バスバーホルダ22に組付けられたバスバー30?39の接続部52に更に容易に電気的に接続することができる。
【0057】
(7)合成樹脂製のインシュレータ13よりも剛性の高い金属製のステータコア11の軸方向の端面に当接部44の軸方向当接部44aが当接することにより、バスバーホルダ22の固定子3に対するぐらつきを抑制することができる。その結果、接続部52とコイルU1?U4,V1?V4,W1?W4の接続端部16との電気的な接続を一層容易に行うことができる。」

5.引用文献5の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献5には、図面とともに、次の記載がある。

(1)「【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態の駆動回路内蔵型モータは、車両のEPSに用いられ、ステアリングのコラム軸に設けられたギヤと噛合い、車速信号及び操舵トルク信号に基づいて正逆回転することで、操舵をアシストする。
図1に示すように、駆動回路内蔵型モータ1は、モータケース10、ステータ20、ロータ30、駆動素子としての半導体モジュール40、及びホルダ50等を備えている。
【0028】
モータケース10は、例えばアルミからなり、筒状の筒部11、筒部の軸方向の端部から径方向内側に延びる隔壁12、及び隔壁12から軸方向に突出するヒートシンク13を一体に有している。モータケース10の軸方向のヒートシンク13側には、有底筒状のカバー16がモータケース10と略同軸に設けられ、半導体モジュール40等を有する回路部を保護している。一方、モータケース10のヒートシンク13とは反対側の端部には、板状のフレームエンド14がボルト15によって固定されている。
本実施形態の駆動回路内蔵型モータ1は、隔壁12を挟み軸方向の一方に稼動部を配置し、他方に回路部を配置している。モータケース10の内側の領域が稼動部であり、カバー16の内側の領域が回路部である。
【0029】
稼動部には、ステータ20及びロータ30等が設けられている。
ステータ20は、筒部11の内壁としての周部111に固定され、径方向に突出する突極21、及びこの突極21にインシュレータ22を介在して巻回される巻線23を有している。突極21は、磁性材料の薄板を積層した積層鉄心から形成され、周部111の周方向に例えば12個配置されている。それぞれの突極21の外側に嵌合するインシュレータ22の外側に巻線23が巻回され、U相、V相、W相の三相を2組構成している。この巻線23の各相からそれぞれ引き出された給電線24は、隔壁12の周方向に6ヶ所設けられた配線孔17を通り、後述する6個の半導体モジュール40と電気的に接続される。半導体モジュール40から給電線24を経由して三相巻線23に供給される電流が順次切り替えられることで、ステータ20は回転磁界を発生する。」

(2)「【0033】
ホルダ50は、例えば樹脂から形成され、隔壁12の稼動部側に設けられている。ホルダ50は、図1?図4に示すように、円盤状の板状体51、この板状体51から軸方向の回路部側に突出する6本の柱状体52、並びに板状体51の径方向外側の端部から回路部とは反対側に突出する3本の案内体54及び3本の支持体57を有している。
【0034】
板状体51は、隔壁12の稼動部側の外壁に当接している。板状体51には、径方向内側の端部から軸方向に延びる環状の内側フランジ58と、径方向外側の端部から軸方向に延びる外側フランジ59とが設けられている。内側フランジ58は、隔壁12の段差部122に沿うように形成されている。外側フランジ59は、外周の仮想円591が各柱状体52の中心付近を通るように形成されている。
【0035】
柱状体52は、給電線24を軸方向に挿通する通路53を有している。この通路53は、柱状体52の径方向の外壁に開口している。柱状体52の通路53の内壁には、通路53の内側に突出するかえし531が設けられ、通路53を挿通する給電線24が抜け出ることを防いでいる。
【0036】
案内体54は、軸方向の端部から径方向内側に突出する爪部55と、軸方向の端部から径方向外側に突出する凸部とを有している。爪部55は、ステータ20のインシュレータ22の径方向外側の外壁に設けられた凹溝221に嵌合している。凸部56は、モータケース10の周部111と当接し、爪部55がインシュレータ22の凹溝221から外れることを防いでいる。また、案内体54の軸方向の端部は、突極21の軸方向の回路部側の外壁に当接し、柱状体52が配線孔17からステータ20側へ抜け出ることを防いでいる。
支持体57は、突極21の径方向の外壁に当接し、ステータ20とホルダ50とを同軸に案内している。
【0037】
次に、ホルダ50の組み付け手順を説明する。
先ず、ステータ20をモータケース10に挿入する前に、ホルダ50の爪部55をインシュレータ22の凹溝221に嵌合する。これと共に、柱状体52の通路53の径外側の開口から、通路53のかえし531よりも径内側へ給電線24を挿入する。
このようにして、ホルダ50と一体になったステータ20をモータケース10に挿入し、ステータ20を周部111に固定する。このとき、内側フランジ58は、隔壁12の段差部に沿うことで、ホルダ50とモータケース10とが同軸になるように案内する。また、外側フランジ59が板状体51及び柱状体52の剛性を高めているので、柱状体52は隔壁12の配線孔17に確実に挿入される。」

(3)「【0054】
(他の実施形態)
・・・
(ロ)上述した第1?第6実施形態では、ブラシレスモータを採用した電子回路内蔵型モータについて説明した。これに対し、本発明の電子回路内蔵型モータは、ブラシ及び整流子を備えた直流モータに適用してもよい。
・・・」

第5 対比
以下、本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「本体ハウジング4の内側に一体に設けたモータハウジング部25」における「モータハウジング部25」は、本願発明の「ハウジング」に相当し、引用発明の「固定子20」は、本願発明の「固定子」に相当する。すると、引用発明の「本体ハウジング4の内側に一体に設けたモータハウジング部25の内周側に固定子20が保持され」るという事項は、本願発明の「ハウジング内に固定子が固設され」るという事項に相当する。
引用発明の「回転子11」は、本願発明の「回転子」に相当し、引用発明の「前記固定子20の内周側に回転子11が位置」するという事項は、モータの技術分野における技術常識を勘案すると、回転子11が固定子20と同軸に位置しているといえるから、本願発明の「前記固定子内に回転子が同軸に配され」るという事項に相当する。
引用発明の「センサ基板30」は、本願発明の「センサ基板」に相当する。また、前記第4 1.(1)の記載事項イ.によると、引用発明における「前後方向」は、引用文献1の図1における左右方向を意味し、回転軸14が延びる方向を意味しているといえるから、本願発明の「軸心方向」に相当し、同様に、引用発明の「前記固定子20の前面」は、引用文献1の図1における固定子20の右側の端面、つまり回転軸14が延びる方向の一方側の端面を意味しているといえるから、本願発明の「固定子の軸心方向の一端」に相当する。すると、引用発明の「前記固定子20の前面にセンサ基板30が取り付けられている」という事項は、本願発明の「前記固定子の軸心方向の一端にセンサ基板が配されている」という事項に相当する。
引用発明の「DCブラシレスモータ10」は、「固定子20の内周側に回転子11が位置」するものであるから、本願発明の「インナーロータ型モータ」に相当する。
引用発明の「係合突部25c」は、本願発明の「凸部」に相当するから、引用発明の「前記モータハウジング部25は、側壁部25aと、後壁部25bと、側壁部25aの前方において内周側に張り出す状態に設けられている係合突部25cとを備え」るという事項は、本願発明の「前記ハウジングの内周面には凸部が形成され」るという事項に相当する。
引用発明の「係合溝部22d」は、本願発明の「凹部」に相当する。また、引用発明の「前記固定子20が備える電気絶縁部材22の前面側の周縁」は、固定子20の外周を規定する面といえるから、本願発明の「前記固定子の外周面」に相当する。すると、引用発明の「前記固定子20が備える電気絶縁部材22の前面側の周縁には、係合溝部22dが全周にわたって形成され」るという事項は、本願発明の「前記固定子の外周面には凹部が形成され」るという事項に相当する。
引用発明の「前記係合溝部22d内に前記係合突部25cが全周にわたって挿入されることにより、前記固定子20の前記モータハウジング部25に対する前後方向の位置が位置決めされ」るという事項は、本願発明の「この凹部と凸部の嵌合により、前記固定子は前記ハウジングに対して位置決めされ」るという事項に相当する。
引用発明の「固定子鉄心21」は、本願発明の「固定子鉄心」に相当する。また、引用発明の「電気絶縁部材22」は、本願発明の「インシュレータ」に相当するとともに、引用文献1の図2及び図5の図示内容をみると、円環状であるといえ、同じく図1、図2、図4及び図5の図示内容をみると、固定子鉄心21の回転軸14が延びる方向の一方側の端面と密着する取付面を備えていることは明らかであるから、引用発明の「前記固定子20は、固定子鉄心21と、前記電気絶縁部材22とを備え、前記固定子鉄心21の外周面と各歯部21aの先端面を除く範囲が前記電気絶縁部材22で覆われ」るという事項は、本願発明の「前記固定子は、固定子鉄心の軸心方向の一端の鉄心端面に、取付面を有する円環状のインシュレータが密着されて構成され」るという事項に相当する。
引用発明の「前記電気絶縁部材22の前面に、前記回転子11の磁極の位置を検出するためのホール素子31?31を備えた前記センサ基板30が、前記モータハウジング部25に対する前後方向の位置が正確に位置決めされ、前記固定子20に対してその周方向の相対位置について正確に位置決めされた状態で取り付けられており」という事項は、磁極の位置を検出するためのホール素子31?31を備えたセンサ基板30が、前後方向及び周方向において、正確に位置決めされた状態で電気絶縁部材22に取り付けられるのであるから、回転子11の回転角を検出可能な状態で取り付けられているといえ、本願発明の「前記インシュレータには、前記センサ基板が、前記回転子の回転角を検出可能な状態で取り付けられており」という事項に相当する。
また、引用発明の前記した「前記固定子20が備える電気絶縁部材22の前面側の周縁には、係合溝部22dが全周にわたって形成され」るという事項において、「前記固定子20が備える電気絶縁部材22の前面側の周縁」は、電気絶縁部材22の外周を規定する面ともいえ、係合溝部22dは、この面の一部に形成されるものといえるから、引用発明の「前記固定子20が備える電気絶縁部材22の前面側の周縁には、係合溝部22dが全周にわたって形成され」るという事項と、本願発明の「前記固定子の凹部は、前記インシュレータの外周面一部であって前記鉄心端面との密着部分を含む部位に切欠き部が形成されることで構成され」るという事項とは、「前記固定子の凹部は、前記インシュレータの外周面一部に形成されることで構成され」る点において共通する。
引用発明の「係合突部25c」は、係合溝部22d内に全周にわたって挿入されることにより、固定子20のモータハウジング部25に対する前後方向の位置を位置決めするものであって、本願発明の「位置決め凸部」にも相当するから、引用発明の「前記モータハウジング部25が、前記係合溝部22d内に全周にわたって挿入される前記係合突部25cを備えている」という事項と、本願発明の「前記ハウジングが、前記切り欠き部に挿入する位置決め凸部を備えている」という事項とは、「前記ハウジングが、前記凹部に挿入する位置決め凸部を備えている」点において共通する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「ハウジング内に固定子が固設され、前記固定子内に回転子が同軸に配され、前記固定子の軸心方向の一端にセンサ基板が配されているインナーロータ型モータであって、
前記ハウジングの内周面には凸部が形成され、前記固定子の外周面には凹部が形成され、この凹部と凸部の嵌合により、前記固定子は前記ハウジングに対して位置決めされ、
前記固定子は、固定子鉄心の軸心方向の一端の鉄心端面に、取付面を有する円環状のインシュレータが密着されて構成され、
前記インシュレータには、前記センサ基板が、前記回転子の回転角を検出可能な状態で取り付けられており、
前記固定子の凹部は、前記インシュレータの外周面一部に形成されることで構成され、
前記ハウジングが、前記凹部に挿入する位置決め凸部を備えている
インナーロータ型モータ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
インシュレータの外周面一部に形成される凹部について、本願発明は「前記鉄心端面との密着部分を含む部位に切欠き部が形成」されることで構成されるものであるのに対して、引用発明は、そのような部位に切欠き部が形成されることで構成されるものとはいえない点。

第6 判断
1.相違点について
以下、前記相違点について検討する。
前記第4 4.の記載事項(1)、(2)及び(3)によると、引用文献4には、ブラシレスモータにおいて、バスバーホルダ22におけるスナップフィット係合部43の係止部43bが、インシュレータ13に設けられた係合凹部13e内に配置されるとともに、インシュレータ13の係止面13fとステータコア11の軸方向の端面との双方に当接されることにより、スナップフィット係合部43が固定子3に対して軸方向に係合され、バスバーホルダ22が固定子3に固定されることが記載されている。
また、前記第4 4.の記載事項(4)によると、バスバーホルダ22における当接部44の径方向当接部44b及び軸方向当接部44aを、インシュレータ13よりも剛性が高いステータコア11に当接させることにより、固定子3に対するバスバーホルダ22の位置決めを高精度に行えることが示唆されているから、前記のような係合凹部13e内にスナップフィット係合部43の係止部43bを配置することによっても、係止部43bがステータコア11の軸方向の端面に当接するため、固定子3に対するバスバーホルダ22の位置決めを高精度に行えるという効果を把握することができる。
これらを総合すると、引用文献4には、固定子3(本願発明の「固定子」に相当する。)の係合凹部13e(本願発明の「凹部」に相当する。)を、インシュレータ13(本願発明の「インシュレータ」に相当する。)の外周面の、ステータコア11の端面(本願発明の「鉄心端面」に相当する。)と密着する側の部分を切り欠いて形成し、この切り欠いた部分に、係止部43bを配置することにより、固定子3に対して高精度な位置決めができるという効果を奏する点が開示されているといえる。

また、前記第4 5.の記載事項(1)、(2)及び(3)によると、引用文献5には、ブラシレスモータにおいて、ホルダ50における案内体54の爪部55が、ステータ20のインシュレータ22の径方向外側の外壁に設けられた凹溝221に嵌合し、案内体54の軸方向の端部が、積層鉄心から形成される突極21の軸方向の外壁に当接した状態で、ホルダ50をステータ20と一体にすることが記載されている。
そうすると、引用文献5には、ステータ20(本願発明の「固定子」に相当する。)の凹溝221(本願発明の「凹部」に相当する。)を、インシュレータ22(本願発明の「インシュレータ」に相当する。)の径方向外側の外壁(本願発明の「外周面」に相当する。)の、突極21の軸方向の外壁(本願発明の「鉄心端面」に相当する。)と密着する側の部分を切り欠いて形成し、この切り欠いた部分に、案内体54の爪部55を嵌合することが開示されているといえる。

そして、引用発明と引用文献4に記載された事項とは、ブラシレスモータに関するものである点で技術分野が共通する。また、引用発明の係合溝部22dと、引用文献4に記載された事項の係合凹部13eとは、ともにインシュレータの外周面に設けられるものであり、凸部が挿入されることにより、当該凸部を備えた部材と、固定子とを一体化するものであって、作用・機能が共通している他、引用文献4に記載された事項の係合凹部13eのように、インシュレータの外周面の鉄心端面と密着する側の部分に切り欠きが形成される構造自体、例えば、引用文献1の図8、引用文献2の図2、引用文献3の図2に図示されているように、ブラシレスモータにおいて、本願の出願前から周知の事項である。
さらに、引用発明は、前記第4 1.(1)の記載事項アによると、センサ基板の本体ハウジングひていは回転子に対する機長方向(軸心方向)の位置決め精度を損なうことなく、その耐久性を高めることを課題とするものであって、固定子20のモータハウジング部25に対する前後方向の位置を高精度に位置決めするという課題を前提とするものであるところ、引用文献4に記載された前記係合凹部13eに係止部43bを配置する構成によれば、前記したように高精度な位置決めができるという効果を把握できるのであるから、引用発明のモータハウジング部25に設けられている係合突部25cが挿入される係合溝部22dの構成として、引用文献4に記載されたインシュレータの外周面の、鉄心端面と密着する側の部分を切り欠いて形成した係合凹部13eの構成を採用することは、このような凹部が前記したように周知の事項であることも考慮すると、当業者が容易に想到し得たものである。

また、引用文献5に記載された凹溝221は、引用文献4に記載された係合凹部13eと、同様の構造であるから、引用文献5に記載された前記凹溝221に爪部55を嵌合する構成に接した当業者であれば、引用文献4に記載された事項と同様に、高精度な位置決めができるという効果を把握できるといえる。
そうすると、前記した引用文献4に記載された事項と、同様の理由により、引用文献5に記載された事項についても、引用発明に適用することができるといえるから、引用発明のモータハウジング部25に設けられている係合突部25cが挿入される係合溝部22dの構成として、引用文献5に記載されたインシュレータの外周面の、鉄心端面と密着する側の部分を切り欠いて形成した凹溝221の構成を採用することは、このような凹部が前記したように周知の事項であることも考慮すると、当業者が容易に想到し得たものである。

したがって、引用発明に、引用文献4に記載された事項又は引用文献5に記載された事項、並びに引用文献1、引用文献2及び引用文献3に記載されたような周知の事項を適用し、本願発明の前記相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

2.請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において「また、引用文献4のバスバーホルダ22は、固定子3を覆うものではなく、ハウジングには該当しません。また、引用文献4の係合凹部13eが固定子3の端面に接しているのは、係止部43bを剛性の高いステータコア11と当接させることで、バスバーホルダ22とステータコア11との位置決め精度を高めるためであって、DCブラシレスモータの軸方向の大きさを小さくするためではありません。すなわち、引用文献4の構成および目的は、固定子をハウジングに対して位置決めする本願の構成及び目的とは大きく異なります。」と主張している。
しかしながら、本願発明において、インシュレータの軸方向の長さは何ら特定されていないから、DCブラシレスモータの軸方向の大きさを小さくするという目的が、本願発明の発明特定事項に反映されているとはいえない。
また、前記したように、引用発明の係合溝部22dの構成として、引用文献4に記載された係合凹部13eの構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるところ、このような構成を採用することにより、インシュレータの外周面において、凹部の固定子鉄心側にインシュレータの壁部が存在しないことになるから、DCブラシレスモータの軸方向の大きさを小さくすることが可能になることは、当業者であれば、予測できるものである。

さらに、審判請求人は、審判請求書において「引用文献5の図1では、インシュレータ22に設けられた凹溝221と、ホルダ50の爪部55とが係合しているように見受けられます。しかしながら、引用文献5においても、爪部55がステータ20の端面に接しているか否かについて、明細書に何の説明もありません。従いまして、引用文献5においても、「凹溝221は、ステータ20の端面に接している」態様を開示しようとする意図があったとは考えられません。」と主張している。
しかしながら、前記第4 5.の記載事項(2)によると、引用文献5の段落【0036】には、案内体54の軸方向の端部が、突極21の軸方向の外壁に当接することが記載されているから、引用文献5に記載された凹溝221は、インシュレータ22の外周面の、突極21の軸方向の端面と密着する側の部分を切り欠いて形成されているといえる。

したがって、請求人の主張は採用できない。

3.本願発明の効果について
本願発明の作用効果については、前記2.において検討したように、引用発明、引用文献4に記載された事項又は引用文献5に記載された事項、並びに引用文献1、引用文献2及び引用文献3に記載されたような周知の事項から当業者が予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

4.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献4に記載された事項又は引用文献5に記載された事項、並びに引用文献1、引用文献2及び引用文献3に記載されたような周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、このような特許を受けることができない発明を包含するこの出願は、この出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-27 
結審通知日 2019-12-03 
審決日 2019-12-16 
出願番号 特願2014-241629(P2014-241629)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安池 一貴末續 礼子  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 窪田 治彦
柿崎 拓
発明の名称 インナーロータ型モータおよびそれを備えた電動工具  
代理人 特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所  

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