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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  F01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  F01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F01N
管理番号 1359528
異議申立番号 異議2019-700403  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-20 
確定日 2019-12-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6427103号発明「舶用排気ガス浄化装置及び船舶機関システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6427103号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3ないし7〕について訂正することを認める。 特許第6427103号の請求項1、2、4、6及び7に係る特許を維持する。 特許第6427103号の請求項3及び5に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6427103号の請求項1ないし7に係る特許(以下、「請求項1に係る特許」ないし「請求項7に係る特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、2014年(平成26年)10月17日(優先権主張2013年10月17日)を国際出願日としてされ、平成30年11月2日にその特許権の設定登録がされ、平成30年11月21日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年5月20日に特許異議申立人 笹井栄治(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和元年7月29日付け(発送日:令和元年8月2日)で取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和元年9月19日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、当審は、令和元年10月9日付け(発送日:令和元年10月15日)で申立人に通知書(訂正請求があった旨の通知)を送付したが、申立人からの応答はなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和元年9月19日の訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1乃至3のいずれかに記載の舶用排気ガス浄化装置」と記載されているのを、「請求項1又は2のいずれかに記載の舶用排気ガス浄化装置」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1乃至5のいずれかに記載の舶用排気ガス浄化装置」と記載されているのを、「請求項1、2及び4のいずれかに記載の舶用排気ガス浄化装置」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1乃至6のいずれかに記載の舶用排気ガス浄化装置」と記載されているのを、「請求項1、2、4及び6のいずれかに記載の舶用排気ガス浄化装置」に訂正する。

訂正前の請求項3ないし7について、請求項4ないし7は、請求項3を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔3ないし7〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1及び3について
訂正事項1及び3は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項3及び5を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項4が請求項1ないし3のいずれかを引用する記載であったものを、請求項3を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項2は、実質的に内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(3)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項6が請求項1ないし5のいずれかを引用する記載であったものを、請求項3及び5を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項4は、実質的に内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(4)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項7が請求項1ないし6のいずれかを引用する記載であったものを、請求項3及び5を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項5は、実質的に内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3ないし7〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項3ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明3」ないし「本件訂正発明7」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項3ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記排気ライン切換部は、前記エンジンから排出されて前記第1排気ラインに向かう排気ガスが前記第2排気ライン側に漏洩することを抑制するための漏洩抑制機能を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の舶用排気ガス浄化装置。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記第1排気ラインに設けられた排熱回収装置、及び、前記排気ラインの出口ラインに設けられたサイレンサの少なくとも一方を備えることを特徴とする請求項1、2及び4のいずれかに記載の舶用排気ガス浄化装置。
【請求項7】
請求項1、2、4及び6のいずれかに記載の舶用排気ガス浄化装置と、それを使用する二元燃料ディーゼルエンジンとを備えることを特徴とする船舶機関システム。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項3ないし7に係る特許に対して、当審が令和元年7月29日に特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
なお、以下、訂正前の請求項3ないし7に係る発明を「本件発明3」ないし「本件発明7」といい、訂正前の請求項3ないし7に係る特許を「本件発明3に係る特許」ないし「本件発明7に係る特許」という。
(1)取消理由1
本件発明3及び本件発明3を引用する本件発明4ないし7は、甲第1号証(特開2010-69999号公報)及び甲第3号証(特開平10-176526号公報)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明3及び本件発明3を引用する本件発明4ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明3及び本件発明3を引用する本件発明4ないし7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2
本件発明5及び本件発明5を引用する本件発明6及び7は明確でない。
よって、本件発明5及び本件発明5を引用する本件発明6及び7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
したがって、本件発明5及び本件発明5を引用する本件発明6及び7に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 当審の判断
取消理由1及び2の対象となった、本件発明3及び本件発明4ないし7のうち本件発明3を引用するもの並びに本件発明5及び本件発明6及び7のうち本件発明5を引用するものは、本件訂正請求により削除された。
したがって、取消理由1及び2は解消した。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
(1)申立理由1
本件出願の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、甲第1号証(特開2010-69999号公報)、甲第2号証(特開2013-184517号公報)及び甲第3号証(特開平10-176526号公報)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2
本件発明1及び2は、甲第4号証(特願2013-32794号(特開2014-163242号))の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 本件発明1及び2
本件発明1及び2は、以下のとおりである。
「【請求項1】
燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと燃料油を燃料として駆動するディーゼルモードの2つの動作モードを切換えて運転することができる二元燃料ディーゼルエンジンに使用する舶用排気ガス浄化装置において、
前記エンジンから排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、ガスモードで運転するときに排気ガスを通す第1排気ライン、及びディーゼルモードで運転するときに排気ガスを通す第2排気ラインを有する排気ラインと、
前記第2排気ラインに設けられ、当該第2排気ラインを通る排気ガス中の窒素酸化物を低減するための排気ガス浄化部と、
排気ガスを前記第1排気ラインに通す第1切換状態、及び排気ガスを前記第2排気ラインに通す第2切換状態に切換え可能な排気ライン切換部とを備え、
前記エンジンをガスモードで運転中に、排気ガスが前記第1排気ラインを通って大気に排出されているときに、送風機による送風、船内の空気圧縮機からの加圧空気、又は前記エンジン用の給気を前記第2排気ライン内に流入させて、当該第2排気ライン内の空気を前記排気ライン切換部を介して前記第1排気ライン側に流出させることを特徴とする、舶用排気ガス浄化装置。
【請求項2】
燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと燃料油を燃料として駆動するディーゼルモードの2つの動作モードを切換えて運転することができる二元燃料ディーゼルエンジンに使用する舶用排気ガス浄化装置において、
前記エンジンから排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、ガスモードで運転するときに排気ガスを通す第1排気ライン、及びディーゼルモードで運転するときに排気ガスを通す第2排気ラインを有する排気ラインと、
前記第2排気ラインに設けられ、当該第2排気ラインを通る排気ガス中の窒素酸化物を低減するための排気ガス浄化部と、
排気ガスを前記第1排気ラインに通す第1切換状態、及び排気ガスを前記第2排気ラインに通す第2切換状態に切換え可能な排気ライン切換部とを備え、
前記エンジンをガスモードで運転中に、前記第2排気ライン内の圧力を、船内の空気圧縮機又はエンジン用の給気管からの加圧空気によって前記第1排気ライン内よりも高圧にしたことを特徴とする、舶用排気ガス浄化装置。」

3 甲第1号証ないし甲第4号証に記載された事項等
(1)甲第1号証(特開2010-69999号公報)
甲第1号証には、図面(特に、図1及び2を参照。)とともに、次の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

ア 「【請求項4】
一般燃料用タンクと低硫黄燃料用タンクとを併設している一方、前記エンジンの排気系は、還元剤添加方式のNOx浄化装置が接続された主排気管と、排気ガスを前記NOx浄化装置に通過させることなく排出するパイパス排気管とを有しており、一般燃料を使用している状態ではパイパス排気管は閉じていてNOx浄化装置に還元剤が添加されており、低硫黄燃料を使用している状態では排気ガスはパイパス排気管を流れてNOx浄化装置に添加剤は添加されない、というように制御されている、請求項2又は3に記載した船舶におけるエンジンの排気ガス浄化システム。」

イ 「【0020】
(1).エンジン回りの基本構成
図1に示すように、船舶はディーゼル方式のエンジン1を備えており、エンジン1には発電機2が接続されている。エンジン1には、一般燃料タンク3と低硫黄燃料タンク4とのうち何れか一方から燃料が供給される。図1では、説明の単純化のため両燃料タンク3,4とエンジン1とを結ぶ燃料管路5には切り換え弁6を介在させた状態を描いているが、実際には、両カンク3,4にそれぞれ燃料噴射系配管を接続して、いずれかの燃料噴射系配管を選択的に使用するのが一般的であると言える。従来と同様に、一般燃料の例としてC重油が挙げられ、低硫黄燃料としてはA重油が挙げられる。
【0021】
なお、本実施形態の発電機は主として船舶の推進用モータを駆動するためのものであるが、エンジン1でスクリューを直接に駆動することも可能である。当然ながら、エンジン1を船内で使用する電力を得るための専用のエンジンとして、これに発電機2が接続されていてもよい。発電機2には出力センサ7を取付けている。この出力センサ7は直接には発電機の出力(或いは負荷)を検出するが、エンジン1の出力と発電機2の出力とは殆ど同じなので、出力センサ7はエンジン1の出力検知手段として機能している。
【0022】
エンジン1は排気マニホールドに接続された主排気管8を有しており、主排気管8にNOx用の排気処理装置8が接続される。NOx用排気処理装置9は、排気ガスの流れ方向から見て上流側から順に、既述したSCR還元触媒10、SCR還元触媒10を通過したNOxを処理するためのスリップ触媒11、及び消音器12を有している。消音器12には放出管13が接続されている。なお、放出管13も主排気管8の一部と観念することは可能であり、この場合は、主排気管8の途中に排気処理装置9が介在していることになるが、本実施形態では、便宜的に排気処理装置9の上流側の部分を主排気管8として定義している。
【0023】
主排気管8の中途部には、還元剤水溶液の一例としての尿素水を噴霧するための噴霧口15を設けている。また、排気処理装置9には、SCR還元触媒10に向けて空気を噴出させるブロワー14が接続されている。また、主排気管8のうち噴霧口15よりも上流側にはパイパス排気管16が接続されており、バイパス排気管16の終端は、排気処理装置8のうち消音器12の部分に接続されている。
【0024】
図では省略しているが、排気処理装置9の下流側に、粒子状物質を補修する洗浄集塵装置を接続することも可能である。或いは、アフターバーナーを接続するといったことも可能である。
【0025】
排気切り換え弁17とバイパス排気管16との接続部には排気ガスの流れ方向を変えるための切り替え弁17を設けている。切り替え弁17の具体的構造例を図2に挙げている。すなわちこの例では、切り換え弁17は平板方式になっていてその一端部に位置した支軸を中心に回動するようにっており、モータ等のアクチェータ18で回転すると、バイパス排気管16の入り口を閉じる姿勢と主排気管8を閉じる姿勢とに切り替わる。」

ウ 「【0043】
本実施形態では、燃料がA重油に切り替わると排気ガスはパイパス排気管16に流れて尿素水の噴霧は停止するようなっている。もとより、燃料のみを切り換えて、排気ガスは主排気管8を通過させてNOxの浄化を継続することも可能である。」

上記記載事項及び図面の図示内容から見て、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

〔甲1発明〕
「低硫黄燃料を使用する状態と一般燃料を使用する状態の2つの状態を切換えて運転することができるディーゼル方式のエンジン1に使用する船舶におけるエンジンの排気ガス浄化システムにおいて、
前記エンジン1から排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、低硫黄燃料を使用している状態のときに排気ガスを通すバイパス排気管16、及び一般燃料を使用している状態のときに排気ガスを通す主排気管8と、
前記主排気管8に設けられ、当該主排気管8を通る排気ガス中のNOxを低減するためのSCR還元触媒10及びスリップ触媒11と、
排気ガスを前記バイパス排気管16に通す状態、及び排気ガスを前記主排気管8に通す状態に切換え可能な排気切り換え弁17とを備えた、
船舶におけるエンジンの排気ガス浄化システム。」

(2)甲第2号証(特開2013-184517号公報)
甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0017】
以下、本発明に係る実施の形態の電気推進船について、図面を参照しながら説明する。
図1に、本発明に係る実施の形態の電気推進船1の構成の概略を示す。電気推進船1は、気体燃料及び液体燃料を選択的に使用することができるデュアルフューエル型のエンジン2と、エンジン2に連結した発電機3と、エンジン2の排気通路16に設置された選択還元型触媒(以下、SCRという)7と、発電機3と推進用電動機(以下、推進用モータという)5及び船内機器6の間に設置された二次電池4を有している。
【0018】
ここで、デュアルフューエル型のエンジン2とは、液体燃料を燃焼室に直接吹き込み燃焼させる運転と、吸気エアーに燃料ガスを混合して燃焼室に送り込み燃焼させる運転の両方を行うことのできるエンジンを示す。また、SCRとは、排気ガスG中に尿素水又はアンモニア水を供給してNOxを還元し、N_(2)(窒素)とH_(2)O(水蒸気)にして大気中に放出する機能を有するものである。更に、船内機器6とは、船舶内で使用され電気を動力とする機器であり、制御盤、コンピュータ、照明等を示す。なお、一点鎖線は電線14を示している。」

イ 「【0020】
次に、電気推進船1の動作について説明する。まず、排気ガス規制の厳しい海域で行う気体燃料運転(第1制御という)について説明する。第1バルブ21を開放し第2バルブ22を閉止し、エンジン2に天然ガス又はメタン等の気体燃料Fgを供給する。エンジン2から動力を受けた発電機3は、電気を発電し、電気を二次電池4に送る。推進用モータ5及び船内機器6は、二次電池4から電力の供給を受け、作動する。エンジン2から排出される排気ガスGは、SCR7でNOxを浄化され、DPF8でPMを捕集され、大気中に排出される。この構成により、電気推進船1は、厳しい排気ガス規制に対応することができる。」

〔甲2記載事項〕
「燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと液体燃料を燃料として駆動する液体燃料モードの2つの作動モードを切換えて運転することができるデュアルフューエル型のエンジン2に使用される船におけるエンジンの排気ガス浄化装置。」

(3)甲第3号証(特開平10-176526号公報)
甲第3号証には、図面(特に、図1及び5を参照。)とともに、次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、排気ガス中に含まれるHC(炭化水素)等を吸着する吸着剤を備えたエンジンの排気浄化装置の改良に関するものである。」

イ 「【0044】メイン排気管2からバイパス排気管4が分岐され、バイパス排気管4の途中に吸着剤5が設置される。吸着剤5はこれを通過する排気ガス中のHC等を吸着するものである。吸着剤5の材質としては、活性炭、ゼオライト、γ-アルミナ等が用いられる。吸着剤5の形状としては、ペレット、フォーム、ハニカム、メッシュ型等がある。
【0045】バイパス排気管4の吸着剤5より下流側には電熱触媒コンバータ6が設置される。電熱触媒コンバータ6は、通電により発熱するヒータ機能を有する。
【0046】メイン排気管2とバイパス排気管4の分岐部には排気切り換えバルブ8が介装される。コントロールユニット15は、排気切り換えバルブ8の上流側に設けられた排気ガス温度センサ14からの検出信号を入力して、排気切り換えバルブ8のポジションを制御する。
【0047】排気ガス温度が所定値より低い触媒不活性域に、排気切り換えバルブ8がメイン排気管2を閉塞するポジションに駆動される。これにより、排気ガスは吸着剤5に導かれ、排気ガス中のHC等が吸着剤5に吸着される。
【0048】排気ガス温度が所定値を超えて上昇した触媒活性域に入ると、排気切り換えバルブ8がバイパス排気管4を閉塞するポジションに駆動される。これにより、排気ガスは吸着剤5を迂回して排出される。」

ウ 「【0052】コントロールユニット15は、排気切り換えバルブ8がメイン排気管2を閉塞するポジションにあるときに、第一空気通路11が空気ポンプ10に連通するポジションに駆動され、空気ポンプ10から吐出する加圧空気がメイン排気管2に供給される。これにより、第一空気通路11から供給される加圧空気が、メイン排気管2と排気切り換えバルブ8の隙間から上流側へと噴出して、メイン排気管2と排気切り換えバルブ8の隙間から排気ガスが漏れることを防止する。」

エ 「【0054】メイン排気管2の第一空気通路11の出口より下流側には遮断バルブ9が介装される。遮断バルブ9はメイン排気管2とバイパス排気管4の接続部に配置され、メイン排気管2を閉塞するポジションと、開通するポジションを有する。
【0055】コントロールユニット15は、排気切り換えバルブ8をメイン排気管2を閉塞するポジションに駆動するのに連動して、遮断バルブ9をメイン排気管2を閉塞するポジションに駆動する。また、排気切り換えバルブ8をメイン排気管2を開通するポジションに駆動するのに連動して、遮断バルブ9をメイン排気管2を開通するポジションに駆動する。
【0056】第一空気通路11からメイン排気管2に加圧空気が供給される運転状態で、遮断バルブ9が第一空気通路11より下流側のメイン排気管2を閉塞することにより、排気切り換えバルブ8と遮断バルブ9間の圧力を高めて、メイン排気管2と排気切り換えバルブ8の隙間から排気ガスが漏れることを抑えられる。また、こうして圧力が高められるので圧送する空気量は少なくてよく、空気ポンプ10の小型化がはかれる。」

上記記載事項及び図1及び5の図示内容からみて、甲第3号証には、次の事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されている。

〔甲3記載事項〕
「エンジン1の排気浄化装置において、
前記エンジン1から排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、メイン排気管2から分岐するバイパス排気管4とメイン排気管2とを有する排気ラインと、
前記バイパス排気管4に設けられ、当該バイパス排気管4を通る排気ガス中のHC等を低減するための吸着剤5と、
排気ガスを前記バイパス排気管4に通す第1切換状態、及び排気ガスを前記メイン排気管2に通す第2切換状態に切換え可能な排気切り換えバルブ8とを備え、
前記エンジンを運転中に、前記メイン排気管2内の圧力を、空気ポンプ10の加圧空気によって前記バイパス排気管4内よりも高圧にした、
エンジンの排気浄化装置。」

(4)甲第4号証(特願2013-32794号(特開2014-163242号))
甲第4号証には、図面(特に、図1を参照。)とともに、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
エンジンから送出された排気ガスを外部に排出するラインであって、該排気ガスに含まれる窒素酸化物の還元を促進する脱硝触媒が内設された脱硝ラインと、
前記エンジンから送出された排気ガスを、脱硝触媒を介さずに外部に排出する非脱硝ラインと、
前記エンジンから送出された排気ガスを通過させる排出ラインを、前記脱硝ラインと前記非脱硝ラインとで切り換えるライン切換部と、
前記エンジンから送出された排気ガスを通過させる排出ラインが、前記脱硝ラインおよび前記非脱硝ラインのいずれか一方のラインであるとき、他方のラインの圧力を該一方のラインの圧力よりも高くする圧力制御部と、
を備えたことを特徴とする脱硝装置。
【請求項2】
前記圧力制御部は、前記エンジンから送出された排気ガスによって回転するタービン、および、該タービンの回転を利用して空気を圧縮し該エンジンに圧縮した空気を導入する圧縮機を有する過給機における、該圧縮機が圧縮した空気を前記他方のラインに導入することを特徴とする請求項1に記載の脱硝装置。」

イ 「【0001】
本発明は、エンジンの排気ガス中に含まれる窒素酸化物を、還元剤を用いて窒素に還元する脱硝装置および脱硝方法に関する。」

ウ 「【0020】
エンジンユニット110は、エンジン112と、排気集合管114とを含んで構成され、当該脱硝システム100が搭載される船舶(例えば、コンテナ船やタンカー)に推進力を供給する。エンジン112は、ユニフロー型の2サイクル(2ストローク)のディーゼルエンジンである。排気集合管114は、エンジン112を構成する複数のシリンダ(図示せず)と連通する複数の排気路を集約する。」

エ 「【0039】
ライン切換部272は、船員等による操作入力(切り換え指示)に応じて、第1切換弁250および第2切換弁252を切換制御し、エンジン112から送出された排気ガスX1を通過させる排出ライン(以下、単に排出ラインという)を、脱硝ライン220と非脱硝ライン230とで排他的に切り換える。なお、ここで、排出ラインは、排気ガスX1を流通させる具体的な配管を示すものではなく、排気ガスX1を流通させる概念的な経路を指し、上流側ライン202aと脱硝ライン220と下流側ライン202bとを流通する経路、または、上流側ライン202aと非脱硝ライン230と下流側ライン202bとを流通する経路を示す。
【0040】
具体的に説明すると、ライン切換部272は、第1切換弁250を制御して、上流側ライン202aと脱硝ライン220とを接続するとともに、上流側ライン202aと非脱硝ライン230との接続を遮断し、第2切換弁252を制御して、下流側ライン202bと脱硝ライン220とを接続するとともに、下流側ライン202bと非脱硝ライン230との接続を遮断することで、排出ラインを非脱硝ライン230から脱硝ライン220へ切り換える。同様に、ライン切換部272は、第1切換弁250を制御し、第2切換弁252を制御して、排出ラインを脱硝ライン220から非脱硝ライン230へ切り換える。」

オ 「【0041】
圧力制御部274は、排出ラインが、脱硝ライン220および非脱硝ライン230のいずれか一方のラインであるとき、他方のラインの圧力を一方のラインの圧力よりも高くする。圧力制御部274は、他方のラインの圧力を一方のラインの圧力よりも、例えば、数十mmAq(1mmAq=9.807Pa)程度高くする。
【0042】
具体的に説明すると、例えば、ライン切換部272が排出ラインを脱硝ライン220から非脱硝ライン230に切り換えた場合、第1バルブ240および第2バルブ242がいずれも閉になっているところ、圧力制御部274は、第1バルブ240のみを開にして、圧縮空気を脱硝ライン220に導入する。これにより、脱硝ライン220の圧力を非脱硝ライン230の圧力よりも高くすることができる。
【0043】
そうすると、非脱硝ライン230を通過する排気ガスX1が脱硝ライン220に流出してしまう事態を回避することができる。したがって、排気ガスX1中のSOxや固形物による脱硝触媒222の短寿命化を防止することが可能となる。
【0044】
また、ライン切換部272が排出ラインを非脱硝ライン230から脱硝ライン220に切り換えた場合、第1バルブ240および第2バルブ242がいずれも閉になっているところ、圧力制御部274は、第2バルブ242のみを開にして、圧縮空気を非脱硝ライン230に導入する。これにより、非脱硝ライン230の圧力を脱硝ライン220の圧力よりも高くすることができる。
【0045】
したがって、排気ガスX1の非脱硝ライン230への流出を防止でき、排気ガスX1中のNOxが分解されずにそのまま外部に排出されてしまう事態を回避することが可能となる。」

上記記載事項及び図1の図示内容からみて、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明1」及び「甲4発明2」という。)が記載されている。

〔甲4発明1〕
「ディーゼルエンジン112に使用する船舶用の脱硝装置において、
前記エンジン112から排出される排気ガスX1を大気中に排出するためのものであり排気ガスX1を通過させる非脱硝ライン230、及び排気ガスX1を通過させる脱硝ライン220を有する排気ラインと、
前記脱硝ライン220に設けられ、当該脱硝ラインを通る排気ガス中のNOxを低減するための脱硝触媒222と、
排気ガスを前記非脱硝ライン230に通す第1切換状態、及び排気ガスを前記脱硝ライン220に通す第2切換状態に切換え可能な第1切換弁250とを備え、
前記エンジンを運転中に、排気ガスが前記非脱硝ライン230を通って大気に排出されているときに、船舶内の過給機120における圧縮機124が圧縮した空気を脱硝ライン220内に流入させて、当該の脱硝ライン220内の空気を第1切換弁250を介して前記非脱硝ライン230側に流出させ、エンジンを運転中に、脱硝ライン220内の圧力を、圧縮機124が圧縮した空気によって非脱硝ライン230内よりも高圧にした、船舶用の脱硝装置。」

〔甲4発明2〕
「ディーゼルエンジン112に使用する船舶用の脱硝装置において、
前記エンジン112から排出される排気ガスX1を大気中に排出するためのものであり排気ガスX1を通過させる非脱硝ライン230、及び排気ガスX1を通過させる脱硝ライン220を有する排気ラインと、
前記脱硝ライン220に設けられ、当該脱硝ラインを通る排気ガス中のNOxを低減するための脱硝触媒222と、
排気ガスを前記非脱硝ライン230に通す第1切換状態、及び排気ガスを前記脱硝ライン220に通す第2切換状態に切換え可能な第1切換弁250とを備え、
前記エンジンを運転中に、脱硝ライン220内の圧力を、船舶内の過給機120における圧縮機124が圧縮した空気によって非脱硝ライン230内よりも高圧にした、船舶用の脱硝装置。」

4 対比・判断
(1)申立理由1について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、引用発明の「一般燃料」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件発明1の「燃料油」に相当し、以下同様に、「船舶におけるエンジンの排気ガス浄化システム」は「舶用排気ガス浄化装置」に、「バイパス排気管16」は「第1排気ライン」に、「主排気管8」は「第2排気ライン」に、「NOx」は「窒素酸化物」に、「SCR還元触媒10及びスリップ触媒11」は「排気ガス浄化部」に、「排気ガスを前記バイパス排気管16に通す状態」は「排気ガスを前記第1排気ラインに通す第1切換状態」に、「排気ガスを前記主排気管8に通す状態」は「排気ガスを前記第2排気ラインに通す第2切換状態」に、それぞれ相当する。
そして、甲1発明の「低硫黄燃料」と本件発明1の「燃料ガス」とは「第1の燃料」という限りにおいて一致しており、以下同様に、「低硫黄燃料を使用している状態」と「燃料ガスを燃料として駆動するガスモード」とは「第1の燃料を燃料として駆動する第1の状態」という限りにおいて一致し、「一般燃料を使用している状態」と「燃料油を燃料として駆動するディーゼルモード」とは「燃料油を燃料として駆動する第2の状態」という限りにおいて一致し、「ディーゼル方式のエンジン1」と「二元燃料ディーゼルエンジン」とは「ディーゼルエンジン」という限りにおいて一致している。
また、甲1発明の「バイパス排気管16」及び「主排気管8」は、合わせて本件発明1の「排気ライン」に相当するといえるので、甲1発明の「低硫黄燃料を使用する状態のときに排気ガスを通すバイパス排気管16、及び一般燃料を使用する状態のときに排気ガスを通す主排気管8」と本件発明1の「ガスモードで運転するときに排気ガスを通す第1排気ライン、及びディーゼルモードで運転するときに排気ガスを通す第2排気ラインを有する排気ライン」とは「第1の状態で運転するときに排気ガスを通す第1排気ライン、及び第2の状態で運転するときに排気ガスを通す第2排気ラインを有する排気ライン」という限りにおいて一致している。
そうすると、本件発明1と甲1発明には、以下の一致点、相違点がある。

〔一致点〕
「第1の燃料を燃料として駆動する第1の状態と燃料油を燃料として駆動する第2の状態を切換えて運転することができるディーゼルエンジンに使用する舶用排気ガス浄化装置において、
前記エンジンから排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、第1の状態のときに排気ガスを通す第1排気ライン、及び第2の状態のときに排気ガスを通す第2排気ラインを有する排気ラインと、
前記第2排気ラインに設けられ、当該第2排気ラインを通る排気ガス中の窒素酸化物を低減するための排気ガス浄化部と、
排気ガスを前記第1排気ラインに通す第1切換状態、及び排気ガスを前記第2排気ラインに通す第2切換状態に切換え可能な排気ライン切換部とを備えた、
舶用排気ガス浄化装置。」

〔相違点1〕
「第1の燃料を燃料として駆動する第1の状態」及び「燃料油を燃料として駆動する第2の状態」並びに「ディーゼルエンジン」に関して、本件発明1はそれぞれ「燃料ガスを燃料として駆動するガスモード」及び「燃料油を燃料として駆動するディーゼルモード」並びに「二元燃料ディーゼルエンジン」であるのに対して、甲1発明はそれぞれ、低硫黄燃料を使用する状態、及び、一般燃料を使用する状態、並びに、ディーゼル方式のエンジン1である点。

〔相違点2〕
本件発明1においては「エンジンをガスモードで運転中に、排気ガスが前記第1排気ラインを通って大気に排出されているときに、送風機による送風、船内の空気圧縮機からの加圧空気、又は前記エンジン用の給気を前記第2排気ライン内に流入させて、当該第2排気ライン内の空気を前記排気ライン切換部を介して前記第1排気ライン側に流出させる」のに対して、甲1発明においては、かかる事項を備えていない点。

事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
甲2記載事項は上記のとおり「燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと液体燃料を燃料として駆動する液体燃料モードの2つの作動モードを切換えて運転することができるデュアルフューエル型のエンジン2に使用される船におけるエンジンの排気ガス浄化装置。」というものである。
甲3記載事項は上記のとおり「エンジン1の排気浄化装置において、前記エンジン1から排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、メイン排気管2から分岐するバイパス排気管4とメイン排気管2とを有する排気ラインと、前記バイパス排気管4に設けられ、当該バイパス排気管4を通る排気ガス中のHC等を低減するための吸着剤5と、排気ガスを前記バイパス排気管4に通す第1切換状態、及び排気ガスを前記メイン排気管2に通す第2切換状態に切換え可能な排気切り換えバルブ8とを備え、 前記エンジンを運転中に、前記メイン排気管2内の圧力を、空気ポンプ10の加圧空気によって前記バイパス排気管4内よりも高圧にした、エンジンの排気浄化装置。」というものであって、排気ガス中のHC等を低減するための吸着剤5が設けられていないメイン排気管2内の圧力を、空気ポンプ10の加圧空気によって前記バイパス排気管4内よりも高圧にしたものである。
そうすると、両記載事項は、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項をすべて開示ないし示唆するものではない。
また、甲1発明において、甲2記載事項及び甲3記載事項を組み合わせたものを適用し上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、いわゆる二段階容易論に当たるから採用することはできない。
したがって、甲1発明に、甲2記載事項及び甲3記載事項を参酌しても、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることはできない。
また、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、周知の技術でもない。
よって、本件発明1は、甲1発明、甲2記載事項及び甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者の相当関係は上記アと同様であって、両者は、本件発明1と甲1発明との対比における一致点と同様の一致点及び相違点1を有するとともに、次の点で相違する。

〔相違点3〕
本件発明2においては「エンジンをガスモードで運転中に、前記第2排気ライン内の圧力を、船内の空気圧縮機又はエンジン用の給気管からの加圧空気によって前記第1排気ライン内よりも高圧にした」のに対して、甲1発明においては、かかる事項を備えていない点。

上記相違点3について検討する。
甲2記載事項は上記のとおり「燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと液体燃料を燃料として駆動する液体燃料モードの2つの作動モードを切換えて運転することができるデュアルフューエル型のエンジン2に使用される船におけるエンジンの排気ガス浄化装置。」というものである。
甲3記載事項は上記のとおり「エンジン1の排気浄化装置において、前記エンジン1から排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、メイン排気管2から分岐するバイパス排気管4とメイン排気管2とを有する排気ラインと、前記バイパス排気管4に設けられ、当該バイパス排気管4を通る排気ガス中のHC等を低減するための吸着剤5と、排気ガスを前記バイパス排気管4に通す第1切換状態、及び排気ガスを前記メイン排気管2に通す第2切換状態に切換え可能な排気切り換えバルブ8とを備え、 前記エンジンを運転中に、前記メイン排気管2内の圧力を、空気ポンプ10の加圧空気によって前記バイパス排気管4内よりも高圧にした、エンジンの排気浄化装置。」というものであって、排気ガス中のHC等を低減するための吸着剤5が設けられていないメイン排気管2内の圧力を、空気ポンプ10の加圧空気によって前記バイパス排気管4内よりも高圧にしたものである。
そうすると、両記載事項は、上記相違点3に係る本件発明2の発明特定事項をすべて開示ないし示唆するものではない。
また、甲1発明において、甲2記載事項及び甲3記載事項を組み合わせたものを適用し上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、いわゆる二段階容易論に当たるから採用することはできない。
したがって、甲1発明に、甲2記載事項及び甲3記載事項を参酌しても、上記相違点3に係る本件発明2の発明特定事項とすることはできない。
また、上記相違点3に係る本件発明2の発明特定事項は、周知の技術でもない。
よって、本件発明2は、甲1発明、甲2記載事項及び甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)申立理由2について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲4発明1とを対比すると、甲4発明1の「船舶用の脱硝装置」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件発明1の「舶用排気ガス浄化装置」に相当し、以下同様に、「通過させる」は「通す」に、「非脱硝ライン230」は「第1排気ライン」に、「脱硝ライン220」は「第2排気ライン」に、「NOx」は「窒素酸化物」に、「脱硝触媒222」は「排気ガス浄化部」に、「船舶内の過給機120における圧縮機124が圧縮した空気を脱硝ライン220内に流入させて、当該の脱硝ライン220内の空気を第1切換弁250を介して前記非脱硝ライン230側に流出させ」は「送風機による送風、船内の空気圧縮機からの加圧空気、又は前記エンジン用の給気を前記第2排気ライン内に流入させて、当該第2排気ライン内の空気を前記排気ライン切換部を介して前記第1排気ライン側に流出させ」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲4発明1には、以下の一致点、相違点がある。

〔一致点〕
「ディーゼルエンジンに使用する舶用排気ガス浄化装置において、
前記エンジンから排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、排気ガスを通す第1排気ライン、及び排気ガスを通す第2排気ラインを有する排気ラインと、
前記第2排気ラインに設けられ、当該第2排気ラインを通る排気ガス中の窒素酸化物を低減するための排気ガス浄化部と、
排気ガスを前記第1排気ラインに通す第1切換状態、及び排気ガスを前記第2排気ラインに通す第2切換状態に切換え可能な排気ライン切換部とを備え、
前記エンジンを運転中に、排気ガスが前記第1排気ラインを通って大気に排出されているときに、送風機による送風、船内の空気圧縮機からの加圧空気、又は前記エンジン用の給気を前記第2排気ライン内に流入させて、当該第2排気ライン内の空気を前記排気ライン切換部を介して前記第1排気ライン側に流出させる、舶用排気ガス浄化装置。」

〔相違点4〕
ディーゼルエンジンに関して、本件発明1においては「燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと燃料油を燃料として駆動するディーゼルモードの2つの動作モードを切換えて運転することができる二元燃料」ディーゼルエンジンであるのに対して、甲4発明1においては、かかる事項を備えていない点。

〔相違点5〕
排気ラインに関して、本件発明1においては「ガスモードで運転するときに」排気ガスを通す第1排気ライン、及び「ディーゼルモードで運転するときに」排気ガスを通す第2排気ラインを有するものであるのに対して、甲4発明1においては、排気ガスを通過させる非脱硝ライン230、及び排気ガスを通過させる脱硝ライン220を有するものである点。

〔相違点6〕
「排気ガスが前記第1排気ラインを通って大気に排出されているときに、送風機による送風、船内の空気圧縮機からの加圧空気、又は前記エンジン用の給気を前記第2排気ライン内に流入させて、当該第2排気ライン内の空気を前記排気ライン切換部を介して前記第1排気ライン側に流出させる」に関して、本件発明1においては「ガスモードで運転中」であるのに対して、甲4発明1においては、かかる事項を備えていない点。

そして、上記相違点4ないし6に係る本件発明1の発明特定事項は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
そうすると、本件発明1は甲4発明1と同一とはいえない。

イ 本件発明2について
本件発明2と甲4発明2とを対比すると、甲4発明2の「船舶用の脱硝装置」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件発明2の「舶用排気ガス浄化装置」に相当し、以下同様に、「通過させる」は「通す」に、「非脱硝ライン230」は「第1排気ライン」に、「脱硝ライン220」は「第2排気ライン」に、「NOx」は「窒素酸化物」に、「脱硝触媒222」は「排気ガス浄化部」に、「脱硝ライン220内の圧力を、船舶内の過給機120における圧縮機124が圧縮した空気によって非脱硝ライン230内よりも高圧にした」は「第2排気ライン内の圧力を、船内の空気圧縮機又はエンジン用の給気管からの加圧空気によって前記第1排気ライン内よりも高圧にした」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明2と甲4発明2には、以下の一致点、相違点がある。

〔一致点〕
「ディーゼルエンジンに使用する舶用排気ガス浄化装置において、
前記エンジンから排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、排気ガスを通す第1排気ライン、及び排気ガスを通す第2排気ラインを有する排気ラインと、
前記第2排気ラインに設けられ、当該第2排気ラインを通る排気ガス中の窒素酸化物を低減するための排気ガス浄化部と、
排気ガスを前記第1排気ラインに通す第1切換状態、及び排気ガスを前記第2排気ラインに通す第2切換状態に切換え可能な排気ライン切換部とを備え、
前記エンジンを運転中に、前記第2排気ライン内の圧力を、船内の空気圧縮機又はエンジン用の給気管からの加圧空気によって前記第1排気ライン内よりも高圧にした、舶用排気ガス浄化装置。」

〔相違点7〕
ディーゼルエンジンに関して、本件発明2においては「燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと燃料油を燃料として駆動するディーゼルモードの2つの動作モードを切換えて運転することができる二元燃料」ディーゼルエンジンであるのに対して、甲4発明2においては、かかる事項を備えていない点。

〔相違点8〕
排気ラインに関して、本件発明2においては「ガスモードで運転するときに」排気ガスを通す第1排気ライン、及び「ディーゼルモードで運転するときに」排気ガスを通す第2排気ラインを有するものであるのに対して、甲4発明2においては、排気ガスを通過させる非脱硝ライン230、及び排気ガスを通過させる脱硝ライン220を有するものである点。

〔相違点9〕
「エンジンを運転中に、前記第2排気ライン内の圧力を、船内の空気圧縮機又はエンジン用の給気管からの加圧空気によって前記第1排気ライン内よりも高圧にした」に関して、本件発明2においては「ガスモードで運転中」であるのに対して、甲4発明2においては、かかる事項を備えていない点。

そして、上記相違点7ないし9に係る本件発明2の発明特定事項は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
そうすると、本件発明2は甲4発明2と同一とはいえない。

5 まとめ
したがって、申立理由1及び2はいずれも採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4、6及び7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4、6及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
なお、本件請求項3及び5に係る発明は、令和元年9月19日の訂正請求による訂正により削除されたため、本件請求項3及び5に係る特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと燃料油を燃料として駆動するディーゼルモードの2つの動作モードを切換えて運転することができる二元燃料ディーゼルエンジンに使用する舶用排気ガス浄化装置において、
前記エンジンから排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、ガスモードで運転するときに排気ガスを通す第1排気ライン、及びディーゼルモードで運転するときに排気ガスを通す第2排気ラインを有する排気ラインと、
前記第2排気ラインに設けられ、当該第2排気ラインを通る排気ガス中の窒素酸化物を低減するための排気ガス浄化部と、
排気ガスを前記第1排気ラインに通す第1切換状態、及び排気ガスを前記第2排気ラインに通す第2切換状態に切換え可能な排気ライン切換部とを備え、
前記エンジンをガスモードで運転中に、排気ガスが前記第1排気ラインを通って大気に排出されているときに、送風機による送風、船内の空気圧縮機からの加圧空気、又は前記エンジン用の給気を前記第2排気ライン内に流入させて、当該第2排気ライン内の空気を前記排気ライン切換部を介して前記第1排気ライン側に流出させることを特徴とする、舶用排気ガス浄化装置。
【請求項2】
燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと燃料油を燃料として駆動するディーゼルモードの2つの動作モードを切換えて運転することができる二元燃料ディーゼルエンジンに使用する舶用排気ガス浄化装置において、
前記エンジンから排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、ガスモードで運転するときに排気ガスを通す第1排気ライン、及びディーゼルモードで運転するときに排気ガスを通す第2排気ラインを有する排気ラインと、
前記第2排気ラインに設けられ、当該第2排気ラインを通る排気ガス中の窒素酸化物を低減するための排気ガス浄化部と、
排気ガスを前記第1排気ラインに通す第1切換状態、及び排気ガスを前記第2排気ラインに通す第2切換状態に切換え可能な排気ライン切換部とを備え、
前記エンジンをガスモードで運転中に、前記第2排気ライン内の圧力を、船内の空気圧縮機又はエンジン用の給気管からの加圧空気によって前記第1排気ライン内よりも高圧にしたことを特徴とする、舶用排気ガス浄化装置。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記排気ライン切換部は、前記エンジンから排出されて前記第1排気ラインに向かう排気ガスが前記第2排気ライン側に漏洩することを抑制するための漏洩抑制機能を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の舶用排気ガス浄化装置。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記第1排気ラインに設けられた排熱回収装置、及び、前記排気ラインの出口ラインに設けられたサイレンサの少なくとも一方を備えることを特徴とする請求項1、2及び4のいずれかに記載の舶用排気ガス浄化装置。
【請求項7】
請求項1、2、4及び6のいずれかに記載の舶用排気ガス浄化装置と、それを使用する二元燃料ディーゼルエンジンとを備えることを特徴とする船舶機関システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-12-03 
出願番号 特願2015-542524(P2015-542524)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (F01N)
P 1 651・ 121- YAA (F01N)
P 1 651・ 537- YAA (F01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 稲村 正義菅野 京一  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 金澤 俊郎
鈴木 充
登録日 2018-11-02 
登録番号 特許第6427103号(P6427103)
権利者 川崎重工業株式会社
発明の名称 舶用排気ガス浄化装置及び船舶機関システム  
代理人 特許業務法人有古特許事務所  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  

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