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審決分類 |
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C04B 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C04B 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C04B 審判 一部申し立て 2項進歩性 C04B 審判 一部申し立て 特174条1項 C04B 審判 一部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 C04B 審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C04B |
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管理番号 | 1359529 |
異議申立番号 | 異議2018-700973 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-11-30 |
確定日 | 2019-12-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6335823号発明「ハニカム構造体、及びハニカム構造体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6335823号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、〔3?5〕について訂正することを認める。 特許第6335823号の請求項2、3に係る特許を維持する。 特許第6335823号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6335823号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成27年3月25日の出願であって、平成30年5月11日にその特許権の設定登録がされ、同年5月30日に特許掲載公報の発行がされたものであり、その後、その特許について、同年11月30日付けで特許異議申立人伊野口誠(以下、「申立人」という。)により下記甲第1?14号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、平成31年2月20日付けで取消理由が通知され、同年4月16日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(令和元年5月27日付けの手続補正あり)がされ(以下、「本件訂正請求」という。)、令和元年8月2日付けで申立人より意見書の提出がされたものである。 (証拠方法) 甲第1号証:特許第2613729号公報 甲第2号証:特開2002-326879号公報 甲第3号証:特開2006-255542号公報 甲第4号証:素木洋一編著「セラミックス手帳」技報堂出版株式会社 1982年1月25日1版2刷発行 1-3頁、64-65頁 甲第5号証:特開平1-268836号公報 甲第6号証:特開平6-41695号公報 甲第7号証:特開平3-60737号公報 甲第8号証:特開平11-151436号公報 甲第9号証:特開2004-16982号公報 甲第10号証:日産自動車株式会社 中央研究所 材料研究所編「新素材がクルマを変える」株式会社工業調査会(1992) 98-103頁 甲第11号証:Hiroaki Yamamoto他 "Reduction of Wall Thickness of Ceramic Substrates for Automotive Catalysts" SAE Technical Paper 900614、1990 及びその和訳 甲第12号証:宮入由紀夫「排気ガス浄化用セラミックス担体」セラミックス 45(2010)No.10 805-809頁 甲第13号証:Jun Kitagawa他 "Improvement of Pore Size Distribution of Wall Flow Type Diesel Particulate Filter" SAE Technical Paper 920144、1992 及びその和訳 甲第14号証:「平成15年度 排ガス浄化システムに係る技術開発動向に関する調査報告書」社団法人日本機械工業連合会 社団法人日本ファインセラミックス協会 平成16年3月 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下訂正事項1?9のとおりである(当審注:下線は当審が付与した。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に記載された 「原料にコロイダルシリカを含む接合材を使用して複数のハニカム焼成体を組み合わせて接合されたハニカム構造体であって、 前記接合材の乾燥後の前記ハニカム構造体は、 塩素濃度が60ppm以下であるハニカム構造体。」を、 「原料にコロイダルシリカを含み、乾燥後の塩素濃度が150ppm以下である接合材を使用して複数のハニカム焼成体を組み合わせて接合されたハニカム構造体であって、 前記接合材の乾燥後且つ600℃以上の加熱処理をしていない状態において、前記ハニカム構造体の塩素濃度が5ppm以上、60ppm以下であるハニカム構造体。」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に記載された 「ハニカム構造体の外周面に、コロイダルシリカを原料として含む外周コート材を塗布し、外部に開口した軸方向に延びる凹溝を充填するとともに外周面を覆い、前記外周面に外周壁を形成する外周壁形成工程、及び、四角柱状に形成された複数のハニカム焼成体を組み合わせ、コロイダルシリカを原料として含む接合材を用いて接合し、ブロック状のハニカム構造体を形成する接合工程の少なくともいずれか一方と、 前記外周壁形成工程、及び/または、前記接合工程を経て形成された前記ハニカム構造体を、600℃?675℃の範囲の加熱温度で加熱処理する加熱工程と を有し、 前記加熱工程を経た加熱処理後の前記ハニカム構造体は、 塩素濃度が60ppm以下であるハニカム構造体の製造方法。」を、 「四角柱状に形成された複数のハニカム焼成体を組み合わせ、コロイダルシリカを原料として含む接合材を用いて接合し、ブロック状のハニカム構造体を形成する接合工程と、 前記接合工程を経て形成された前記ハニカム構造体を、600℃?675℃の範囲の加熱温度で加熱処理する加熱工程と を有し、 前記加熱工程を経た加熱処理後の前記ハニカム構造体は、 塩素濃度が31ppm以上、60ppm以下であるハニカム構造体の製造方法。」に訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の段落【0014】を削除する。 (5)訂正事項5 明細書の段落【0015】に記載された 「[2] 原料にコロイダルシリカを含む接合材を使用して複数のハニカム焼成体を組み合わせて接合されたハニカム構造体であって、前記接合材の乾燥後の前記ハニカム構造体は、塩素濃度が60ppm以下であるハニカム構造体。」を、 「[2] 原料にコロイダルシリカを含み、乾燥後の塩素濃度が150ppm以下である接合材を使用して複数のハニカム焼成体を組み合わせて接合されたハニカム構造体であって、前記接合材の乾燥後且つ600℃以上の加熱処理をしていない状態において、前記ハニカム構造体の塩素濃度が5ppm以上、60ppm以下であるハニカム構造体。」に訂正する。 (6)訂正事項6 明細書の段落【0016】に記載された 「[3] ハニカム構造体の外周面に、コロイダルシリカを原料として含む外周コート材を塗布し、外部に開口した軸方向に延びる凹溝を充填するとともに外周面を覆い、前記外周面に外周壁を形成する外周壁形成工程、及び、四角柱状に形成された複数のハニカム焼成体を組み合わせ、コロイダルシリカを原料として含む接合材を用いて接合し、ブロック状のハニカム構造体を形成する接合工程の少なくともいずれか一方と、前記外周壁形成工程、及び/または、前記接合工程を経て形成された前記ハニカム構造体を、600℃?675℃の範囲の加熱温度で加熱処理する加熱工程とを有し、前記加熱工程を経た加熱処理後の前記ハニカム構造体は、塩素濃度が60ppm以下であるハニカム構造体の製造方法。」を、 「[3] 四角柱状に形成された複数のハニカム焼成体を組み合わせ、コロイダルシリカを原料として含む接合材を用いて接合し、ブロック状のハニカム構造体を形成する接合工程と、前記接合工程を経て形成された前記ハニカム構造体を、600℃?675℃の範囲の加熱温度で加熱処理する加熱工程とを有し、前記加熱工程を経た加熱処理後の前記ハニカム構造体は、塩素濃度が31ppm以上、60ppm以下であるハニカム構造体の製造方法。」に訂正する。 (7)訂正事項7 明細書の段落【0017】を削除する。 (8)訂正事項8 明細書の段落【0018】に記載された 「[7] 前記コロイダルシリカは、製造過程において使用される酸が、硫酸、燐酸、及び有機酸の少なくともいずれか一つである前記[6]に記載のハニカム構造体の製造方法。」を、 「[4] 前記コロイダルシリカは、製造過程において使用される酸が、硫酸、燐酸、及び有機酸の少なくともいずれか一つである前記[3]に記載のハニカム構造体の製造方法。」に訂正する。 (9)訂正事項9 明細書の段落【0019】に記載された 「[8] 前記有機酸は、酢酸である前記[7]に記載のハニカム構造体の製造方法。」を、 「[5] 前記有機酸は、酢酸である前記[4]に記載のハニカム構造体の製造方法。」に訂正する。 そして、訂正前の請求項4が請求項3を引用し、同じく請求項5が請求項4を引用するものであるから、本件訂正請求は、独立請求項1及び2並びに一群の請求項3?5について請求するものである。 2.訂正要件の判断 (1)訂正事項1、4について 訂正事項1は請求項を削除するものであり、訂正事項4はそれに伴い明細書の一部を削除して記載を整合させるものであるから、これらはそれぞれ特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2、5について 訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載された発明において、ハニカム構造体を構成する接合材の塩素濃度について限定を付し、ハニカム構造体の塩素濃度について上限値のみが特定されていたものをさらに下限値も特定すると共に、その測定がなされる時の状態について明確にして特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、訂正事項5は訂正事項2に伴い明細書の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、これらの訂正は、本件明細書の【0033】に「本実施形態の外周コート材は、使用原料の一部として使用するコロイダルシリカの塩素濃度を150ppm以下のものとする特徴を備える。・・・主として塩酸を使用して製造されていたコロイダルシリカに対し、製造過程において塩酸以外の硫酸、燐酸、酢酸、または有機酸を酸処理に使用する。これにより、コロイダルシリカの塩素濃度が、1000ppm程度から500ppm以下となる。このコロイダルシリカを用いて、外周コート材及び接合材を調製した場合、それぞれにおいて塩素濃度が150ppm以下となる」と記載され、ハニカム構造体の製造に際し、本件明細書の【0040】に「本実施形態のハニカム構造体の製造方法において、必要に応じて・・・ハニカム構造体1を加熱炉内に導入し、600℃以上の加熱温度で所定時間加熱処理をする加熱工程を行ってもよい。塩素成分は高温で加熱することにより、消散することが知られている。そのため、製造された最終製品のハニカム構造体1に対して加熱処理を施すことにより、外周コート材に含まれていた塩素成分を除去することができ、ハニカム構造体1に含まれる塩素濃度を低減することができる」と記載されていると共に実施例では【0045】【表1】に600℃以上の加熱処理をしていない状態における乾燥後の外周コート材の塩素濃度について記載されていること、さらに【0042】に「なお、接合材に関しては、使用するコロイダルシリカを同一のものとすることにより、外周コート材とほぼ同一の結果を示すと想定されるため、実施例の提示を省略している」と記載されていることに基づくものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。 また、これらの訂正は、発明の目的やカテゴリーの変更をするものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 申立人は、訂正事項2に関し、意見書において、本件明細書には「接合材の乾燥後且つ600℃以上の加熱処理をしていない状態」における「ハニカム構造体の塩素濃度が5ppm」であることは記載がない旨主張する。 しかし、本件の訂正前の特許請求の範囲には、その請求項2に、上記したとおり、ハニカム構造体の塩素濃度について「60ppm以下」として上限値のみが特定されていた記載があるから、その塩素濃度をできる限り低くするという技術思想が把握できていたものであり、少なくとも、この訂正により新たな技術的事項が導入されたとはいえない。 また、本件明細書には、接合材と並びで記載されている外周コート材を使用したハニカム構造体について、実施例1として、塩素濃度が5ppmであるものが記載されている。そして、ハニカム構造体の塩素濃度を600℃以上の加熱処理をしていない状態でも低いものとすることは、本件明細書の【0033】の記載から、使用原料の一部として使用するコロイダルシリカの塩素濃度を低くすることにより達成されることが把握でき、塩素の由来となる塩酸を使用しない製造方法も示唆されているのであるから、外周コート材から形成された外周壁のみを有するハニカム構造体と比較して接合材の塩素濃度も加わる接合されたハニカム構造体は、同じ大きさであればその塩素濃度が相対的に高くなるとしても、その濃度を5ppmとしたものが願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項から当業者により認識できないものであるとまではいえない。 よって、「接合材の乾燥後且つ600℃以上の加熱処理をしていない状態」における「ハニカム構造体の塩素濃度が5ppm」であることは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえるから、申立人の主張は採用できない。 (3)訂正事項3、6について 訂正事項3は、訂正前の請求項3に記載された発明において「外周壁形成工程」と「接合工程」の「少なくともいずれか一方」と記載されていた選択肢のうちの「外周壁形成工程」の方を削除して「接合工程」の方に限定し、「加熱工程を経た加熱処理後の」「ハニカム構造体」の塩素濃度について上限値のみが特定されていたものをさらに下限値も特定するものであり、訂正事項6は訂正事項3に伴い明細書の記載を整合させるものであるから、これらはそれぞれ特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項7?9について 訂正事項7?9は、何れも明細書の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるためのものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項7はすべての請求項について、訂正事項8、9は請求項3?5についてするものである。そして、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)独立特許要件について 請求項3?5が一群の請求項を構成するものであるから、訂正事項3は、特許異議の申立てがされていない請求項4、5について、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正をするものである。そこで、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に基づき、訂正後の請求項4、5に係る発明の独立特許要件について検討する。 本件訂正請求により訂正された請求項3?5に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項3?5に記載された次の事項により特定される。 「【請求項3】 四角柱状に形成された複数のハニカム焼成体を組み合わせ、コロイダルシリカを原料として含む接合材を用いて接合し、ブロック状のハニカム構造体を形成する接合工程と、 前記接合工程を経て形成された前記ハニカム構造体を、600℃?675℃の範囲の加熱温度で加熱処理する加熱工程と を有し、 前記加熱工程を経た加熱処理後の前記ハニカム構造体は、 塩素濃度が31ppm以上、60ppm以下であるハニカム構造体の製造方法。 【請求項4】 前記コロイダルシリカは、 製造過程において使用される酸が、硫酸、燐酸、及び有機酸の少なくともいずれか一つである請求項3に記載のハニカム構造体の製造方法。 【請求項5】 前記有機酸は、 酢酸である請求項4に記載のハニカム構造体の製造方法。」 まず、訂正後の請求項4、5に係る発明について、これら発明に係る特許請求の範囲又は明細書の記載に不備は見当たらない。次に、訂正後の請求項4、5が直接又は間接的に引用する訂正後の請求項3に係る発明は、第3及び第4で後述するようにその特許を取り消すべき理由がなく、そして、訂正後の請求項4、5に係る発明は、訂正後の請求項3に係る発明の特定事項をすべて有し、さらに限定を付されたものであるから、新規性や進歩性等を有しているのは明らかである。 よって、訂正後の請求項4、5に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項1、2、〔3?5〕について訂正を認める。 第3 特許異議申立について 1.本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項2、3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明2」、「本件発明3」、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項2、3に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める(当審注:下線は当審が付与した。)。 請求項1は訂正により削除された。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 原料にコロイダルシリカを含み、乾燥後の塩素濃度が150ppm以下である接合材を使用して複数のハニカム焼成体を組み合わせて接合されたハニカム構造体であって、 前記接合材の乾燥後且つ600℃以上の加熱処理をしていない状態において、前記ハニカム構造体の塩素濃度が5ppm以上、60ppm以下であるハニカム構造体。 【請求項3】 四角柱状に形成された複数のハニカム焼成体を組み合わせ、コロイダルシリカを原料として含む接合材を用いて接合し、ブロック状のハニカム構造体を形成する接合工程と、 前記接合工程を経て形成された前記ハニカム構造体を、600℃?675℃の範囲の加熱温度で加熱処理する加熱工程と を有し、 前記加熱工程を経た加熱処理後の前記ハニカム構造体は、 塩素濃度が31ppm以上、60ppm以下であるハニカム構造体の製造方法。」 2.取消理由の概要 訂正前の請求項1?3に係る特許に対して通知した取消理由の概要は以下のとおりである。 理由1(新規事項)本件特許は、平成29年11月9日付け手続補正書でした補正が、請求項1及び2において「乾燥後の前記ハニカム構造体」の「塩素濃度が60ppm以下である」ことのみを規定したものであるから、補正後に、乾燥後の塩素濃度が150ppmを超える外周コート材又は接合材を用いたハニカム構造体等を含むものとなって、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。 理由2(サポート要件) (ア)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、請求項1、2において、発明の詳細な説明に記載された課題解決手段である「外周コート材に使用するコロイダルシリカの塩素濃度を抑制することにより、外周コート材自体の塩素濃度を減少させること」(段落【0046】)、及び、「600℃以上の加熱温度で外周コート材(外周壁)を加熱処理することにより、外周コート材に含まれる塩素成分が外部に蒸散し、塩素濃度を低くすること」(段落【0048】)が反映されておらず、それ以外の明細書に記載されていない手段を含むものとなっていて不備があるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (イ)本件特許は、請求項1?3の記載が「塩素濃度が60ppm以下であるハニカム構造体」と塩素濃度の下限は特定されておらず塩素濃度が0ppmである(すなわち塩素を含まない)ハニカム構造体を含み得るものであるが、発明の詳細な説明には、ハニカム構造体の塩素濃度を0ppmとするための具体的手段は記載されていないから、特許請求の範囲の記載に不備があり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 理由3(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の請求項1、2の「乾燥後の前記ハニカム構造体は、塩素濃度が60ppm以下である」との記載によって、発明の「ハニカム構造体」が乾燥前のものを意味するのか、乾燥直後のものを意味するのか、乾燥後にさらなる加熱処理を行った後のものを意味するのかがが明確でなく、どの時点での塩素濃度が60ppm以下であるのかによっても解釈が変わってくるために「ハニカム構造体」なる物の発明が不明確であるから、特許請求の範囲の記載に不備があり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 理由4(新規性)請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 理由5(進歩性)請求項1、3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第9号証に記載された技術事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 3.取消理由についての当審の判断 (1)理由1(新規事項)について 訂正により、請求項1は削除された。 本件発明2について検討するに、乾燥後のハニカム構造体の塩素濃度が60ppm以下であることに加え、訂正により、「乾燥後の塩素濃度が150ppm以下である接合材を使用」することがさらに特定され、理由は解消した。 よって、理由1は理由がない。 申立人は、塩素濃度の「60ppm」という数値について出願当初の明細書に記載されていないから新規事項である旨主張しているが、本件明細書には【0052】【表2】として当初から塩素濃度5ppm(実施例1)?56ppm(実施例5)の実施例1?7とそれぞれ70ppm、102ppmの比較例1、2とが記載されており、本件発明が塩素濃度を抑えたハニカム構造体を提供することを目的とした技術思想であることは明らかであったのであるから、塩素濃度を実施例と比較例の間に上限値を設定して「60ppm」以下と特定する技術思想は当然に認識できるものである。そして、当初明細書に「60ppm」という直接的な記載がなかったとしても、この数値自体に新たな臨界的意義が存在するものではないから、「当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないもの」であることは明らかである。よって、主張は採用できない。 (2)理由2(サポート要件)について (ア)訂正により、請求項1は削除され、本件発明2は、「乾燥後の塩素濃度が150ppm以下である接合材を使用」することが特定され、発明の詳細な説明の【0046】の外周コート材は接合材に置き換えることができるものであるから、発明の詳細な説明の記載が反映されたものとなって、理由は解消した。 (イ)訂正により、本件発明2、3の何れにおいても、「塩素濃度が5ppm以上」であることがさらに特定され、理由は解消した。 よって、理由2は理由がない。 (3)理由3(明確性)について 訂正により、請求項1は削除され、本件発明2は、「乾燥後且つ600℃以上の加熱処理をしていない状態において、前記ハニカム構造体の塩素濃度が5ppm以上、60ppm以下であるハニカム構造体」と特定され、ハニカム構造体の塩素濃度は、塩素成分が高温加熱で消散するような処理前における測定値であることが明確となり、本件発明の「ハニカム構造体」は特定されたとおりの物性を有したものであることが明確となったから、理由は解消した。 よって、理由3は理由がない。 (4)理由4(新規性)及び理由5(進歩性)について 訂正により、請求項1は削除されたから、理由4及び請求項1を対象とした理由5については解消した。 また、請求項3を対象とした理由5については、訂正前の請求項3に記載された発明が「外周壁形成工程」と「接合工程」の「少なくともいずれか一方」と記載されていた選択肢を有する発明であったところ、訂正により、「外周壁形成工程」に係る選択肢は削除された。 そこで、訂正後の請求項3に係る本件発明3と甲第1号証に記載された発明とを以下に対比し検討する。 ア.甲第1号証に記載された発明 甲第1号証(特許第2613729号公報)には、以下の記載がある。 (ア)「【請求項1】 軸方向に延びる、隔壁で囲まれ且つ相互に仕切られた多数のセルのうち、外周部の最外側に位置するものが、外部との間の隔壁を有しないことによって、外部に開口して、軸方向に延びる凹溝を形成しているセラミックハニカム本体と、かかるセラミックハニカム本体の外周部の少なくとも凹溝を充填して外表面を形成する外殻層とを備え、且つ該外殻層を、コージェライト粒子及び/又はセラミックファイバーと、それらの間に存在する、コロイダルシリカまたはコロイダルアルミナにて形成された非晶質酸化物マトリックスとから構成してなることを特徴とするセラミックハニカム構造体。」 (イ)「【請求項4】 軸方向に延びる、隔壁で囲まれ且つ相互に仕切られた多数のセルのうち、外周部の最外側に位置するものが、外部との間の隔壁を有しないことによって、外部に開口して、軸方向に延びる凹溝を形成しているセラミックハニカム本体を準備する工程と、 コージェライト粒子及び/又はセラミックファイバーと、コロイダルシリカまたはコロイダルアルミナからなるコロイド状酸化物とを主成分として含み、且つ該コロイド状酸化物を、前記コージェライト粒子及び/又はセラミックファイバーの100重量部に対して、固形分換算で3?35重量部の割合で配合せしめてなるコート材を準備する工程と、 該コート材を前記セラミックハニカム本体の外周面に塗布し、該セラミックハニカム本体の外周面に存在する凹溝を充填して、所定厚さの外殻層を形成する工程と、 該セラミックハニカム本体の外周面に形成された外殻層を乾燥若しくは焼成せしめ、かかる外殻層を該セラミックハニカム体に固着させる工程とを、 含むことを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造法。」 (ウ)「【0028】かくして得られる本発明に従うセラミックハニカム構造体18は、図4及び図5に示される如く、セラミックハニカム本体14の外周面に設けた軸方向の凹溝12をコート材にて少なくとも充填して、外表面を与える外周壁としての外殻層(コート層)16を有するものであって、目的とする実用的な強度を充分に備えていると共に、耐熱性や耐熱衝撃特性にも優れたものであり、中でも、有利には、アイソスタティック強度が3kg/cm^(2)以上、耐熱衝撃性が700℃以上、クラックの発生温度が800℃以上である特性を有するものとして製造されるものであって、それは、排ガス浄化用触媒担体等として有利に用いられ得るものであるが、またハニカム構造体を用いるDPFや回転蓄熱式熱交換体等としても、好適に用いられることとなる。」 (エ)「【0030】実施例 1 試験に供するセラミックハニカム本体として、リブ厚さ:150μm、セル密度:62セル/cm^(2)、外径寸法:300mm、全長:300mmの、外周壁が一体的に成形されてなるコージェライト質ハニカム体の複数を準備した。なお、これらコージェライトハニカム体は、図1及び図2に示される如く、外周部にセルよれ部分(8)を有している。なお、このハニカム体中におけるセルよれ部(8)は、ハニカム体の外径寸法が300mmと大きくなることにより、その自重による潰れから、必然的に生じるものである。また、外壁が一体的に成形されてなる、リブ厚さ:150μm、セル密度62:セル/cm^(2)、外径寸法:310mm、全長:300mmの、外周部にセルよれ部分を有するコージェライト質ハニカム体の複数を用い、それぞれについて、その外周部のセルよれ部分を研削、除去し、外周部に凹溝(12)を有する外径:300mmのハニカム体(図3参照)を準備した。 【0031】一方、コート材は、下記表1に示される材料特性を有する原料を用い、下記表2に示される組成において調合し、更に水を加えて混練し、セラミックハニカム体に塗布可能なペースト状において、各種の組成のものとして、調製した。 【0032】 【表1】 【0033】 【表2】 」 (オ)「【0034】次いで、前記準備した外周部に凹溝のないハニカム体(外壁あり)と、凹溝を有するハニカム体(外壁なし)の外周部に、それぞれ、表2に示される各種のコート材のペーストを塗布した後、大気中に24時間放置し、更に90℃の温度で2時間の乾燥を行ない、目的とする外周コートを施してなる各種のコージェライト質ハニカム構造体を得た。なお、このようにして形成された外周コート層の厚みは、約0.1?1mm程度であった。・・・」 (カ)「【0037】また、熱衝撃試験は、得られたハニカム構造体を金網を敷いた枠に載せて700℃に保持された電気炉に入れて加熱せしめ、そして、1時間の経過の後に炉外に取り出し、目視にて外観を観察しながら、細い金属棒でハニカム構造体の外周壁を軽く打った。・・・」 そして、上記(エ)には、コート材No.4として、コージェライト粉末100重量部に対しコロイダルシリカ粉末を固形分換算で10重量部配合したコート材が記載されている。 したがって、上記(ア)?(オ)の記載から、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認める。 「排ガス浄化用触媒担体等として用いることができるセラミックハニカム構造体を製造する方法であって、コージェライト粉末100重量部に対しコロイダルシリカ粉末を固形分換算で10重量部配合したコート材を、外周部の最外側に位置するセルが外部に開口することにより形成された軸方向に延びる凹溝を有する、リブ厚さ150μm、セル密度62セル/cm^(2)、外形寸法300mm、全長300mmのセラミックハニカム本体の外周面に塗布し、90℃で乾燥することにより、前記凹溝を充填する厚さ0.1?1mmの外殻層を有するセラミックハニカム構造体を製造する方法。」(以下、「甲1発明」という。) イ.本件発明3と甲1発明との対比・判断 本件発明3と甲1発明とを対比すると、両者は「コロイダルシリカを原料として含む材料を用いる工程を有するハニカム構造体の製造方法。」である点で一致し、以下の相違点1、2で相違する。 相違点1:コロイダルシリカを原料として含む材料を用いる工程が、本件発明3は「四角柱状に形成された複数のハニカム焼成体を組み合わせ、コロイダルシリカを原料として含む接合材を用いて接合し、ブロック状のハニカム構造体を形成する接合工程」であるのに対し、甲1発明は「ハニカム構造体の外周面に、コロイダルシリカを原料として含む外周コート材を塗布し、外部に開口した軸方向に延びる凹溝を充填するとともに外周面を覆い、前記外周面に外周壁を形成する外周壁形成工程」である点 相違点2:本件発明3は、接合工程を経て形成されたハニカム構造体を、600℃?675℃の範囲の加熱温度で加熱処理する加熱工程を有し、前記加熱工程を経た加熱処理後の前記ハニカム構造体は、塩素濃度が31ppm以上、60ppm以下であるのに対し、甲1発明は、600℃?675℃の範囲の加熱温度で加熱処理する加熱工程を有さず、ハニカム構造体の塩素濃度についても明らかでない点 上記相違点1、2について検討するに、甲第9号証には、コージェライト等のセラミックスからなる基材に触媒層を形成するための極性溶媒溶液を塗布し、加熱処理を加えた後に、水溶性貴金属化合物の水溶液に含浸し、乾燥後に焼成することにより、貴金属担持の排ガス浄化触媒を製造する方法が記載されており、極性溶媒溶液の塗布後の加熱処理を700℃で、水溶性貴金属化合物水溶液の含浸後の焼成を600℃で焼成を行った例が記載されていて、相違点2に関連する技術事項が開示されているといえるものの、相違点2に係る「加熱工程を経た加熱処理後のハニカム構造体」が「塩素濃度」「31ppm以上、60ppm以下である」点及び相違点1に係る「接合工程」の点については記載も示唆もない。 そうすると、甲1発明において、「外周壁形成工程」を「接合工程」に換え、「加熱処理後のハニカム構造体」の「塩素濃度」を「31ppm以上、60ppm以下」として、相違点1、2をすべて解消することは、当業者といえども容易なことではない。 甲第2号証には、セラミックス原料としてコーディエライトを用いた技術が記載されており、甲第3号証には、セラミック粒子としてのコージェライト粒子をコロイダルシリカ、セラミックファイバー、水と混合してコート材を調製し、外周コート機を使用して、セル構造体の外周面を囲繞するようにコート材を塗布し、外周コート層を形成し、乾燥することにより外壁を形成し、セラミックハニカム構造体を製造する技術が記載されており、甲第4号証には、シリカ等の比重について記載されており、甲第11?14号証には、セラミックハニカム基材の気孔率等について記載されているが、何れも甲1発明において相違点1、2を解消することを記載又は示唆するものではない。 よって、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第9号証に記載された技術事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ.小括 以上のとおりであるから、理由4及び理由5は何れも理由がない。 4.取消理由通知で採用しなかった異議申立理由について (1)申立人の主張する申立理由について 申立人が特許異議申立書において主張する申立理由は、以下のとおりであると認められる。 申立理由1(取消理由通知で採用):訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許は、特許法第29条第1項に違反してされたものである。 申立理由2:訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証、甲第5?6号証、甲第7?10号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものである。 申立理由3:訂正前の請求項1?3に係る発明は、以下の(ア)?(エ)の点が発明の詳細な説明に記載されておらず、示唆もされていないから、訂正前の請求項1?3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (ア)「塩素濃度が60ppm以下」との数値の点 (イ)ハニカム構造体の「塩素濃度」の上限を「60ppm以下」とすることにより「腐食がほとんどない」とすることの裏付けを実証する結果の点 (ウ)外周コート材又は接合材の塩素濃度が150ppmを超えるものを発明に含む点 (エ)(取消理由通知で採用)塩素濃度が0ppmのものを発明に含む点 申立理由4:訂正前の請求項1?3に係る発明は、以下の(ア)?(ウ)の点で明確でないから、訂正前の請求項1?3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (ア)「塩素濃度が60ppm以下」が0ppmのものを含むのか不明である点 (イ)「乾燥後の前記ハニカム構造体は、塩素濃度が60ppm以下である」は、乾燥後の「ハニカム構造体」自体の塩素濃度の測定方法が不明である点 (ウ)(取消理由通知で採用)請求項1の「前記外周コート材の乾燥後の前記ハニカム構造体」及び請求項2の「前記接合材の乾燥後の前記ハニカム構造体」は、「乾燥後」の意味するところが不明である点 申立理由5:訂正前の請求項1、2に係る発明の「乾燥後の前記ハニカム構造体は、塩素濃度が60ppm以下である」が、加熱工程を経ない場合に、どのような乾燥条件であれば達成できるのかについて、当業者が発明の実施をすることができる程度に発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されていないから、訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)取消理由通知で採用しなかった異議申立理由についての当審の判断 ア.申立理由2について 請求項1が訂正により削除されているから、理由はない。 イ.申立理由3について (ア)上記3.(1)で述べたとおりであり、理由はない。 (イ)本件明細書の【0008】?【0010】に、塩素濃度を抑え、排気系配管等の腐食が発生する可能性を抑えたハニカム構造体、及びハニカム構造体の製造方法の提供がされていないことが課題であることと記載されているのだから、【0054】に記載されているとおり、ハニカム構造体の塩素濃度が100ppm以下であれば、排気系配管等に使用した場合であっても塩素成分を原因とする腐食の虞がほとんどないことは技術常識から明らかである。そうすると、塩素濃度が60ppm以下であれば、「腐食がほとんどない」とすることの裏付けを実証する結果を示すまでもなく、本件発明の課題は解決されていることが当業者により認識できるといえるから、理由はない。 (ウ)訂正により、請求項1が削除され、請求項2は「乾燥後の塩素濃度が150ppm以下である接合材を使用」することが特定されたから、理由はない。 ウ.申立理由4について (ア)訂正により、請求項1は削除され、請求項2は「塩素濃度が5ppm以上、60ppm以下である」と特定され、請求項3は「塩素濃度が31ppm以上、60ppm以下である」と特定されたから、理由はない。 (イ)本件明細書の【0044】に塩素濃度の測定方法についての記載があり、そこでの「測定対象の試料」を「ハニカム構造体」とすることにより、当業者の技術常識も考慮して測定が可能であるものと認められる。そして、明細書に明示されていない何らかの複数の測定条件が選択できて測定結果に有意な差が生じるという事情も認められない。よって、理由はない。 エ.申立理由5について 本件明細書の【0033】から、塩素の由来となる塩酸を使用しない製造方法により、使用原料の一部として使用するコロイダルシリカの塩素濃度を低くできることが理解でき、更に、【0046】には「外周コート材に使用するコロイダルシリカの塩素濃度を抑制することにより、外周コート材自体の塩素濃度を減少させること」が記載されていて、【0042】の記載によれば、外周コート材は接合材に置き換えてほぼ同一の結果になるとされているから、ハニカム構造体の塩素濃度を600℃以上の加熱処理をしていない状態でも、乾燥条件に依存することなく、乾燥後のハニカム構造体の塩素濃度を60ppm以下と低くできることは、当業者であれば十分に理解することができる。よって、理由はない。 第4 むすび 以上のとおり、本件請求項2、3に係る特許は、当審の通知した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項2、3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件請求項1は、訂正により削除されたため、同請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ハニカム構造体、及びハニカム構造体の製造方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、ハニカム構造体、及びハニカム構造体の製造方法に関する。更に詳しくは、排気系配管等の金属製品或いは金属部品を腐食させる虞のないハニカム構造体、及びハニカム構造体の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、セラミックス製ハニカム構造体は、自動車排ガス浄化用触媒担体、ディーゼル微粒子除去フィルタ、或いは燃焼装置用蓄熱体等の広範な用途に使用されている。セラミックス製ハニカム構造体(以下、単に「ハニカム構造体」と称す。)は、成形材料(坏土)を調製し、押出成形機を用いて所望のハニカム形状に押出成形し、生切断、乾燥、仕上げ加工したハニカム成形体を、高温で焼成することで製造されている。ハニカム構造体は、流体の流路を形成する一方の端面から他方の端面まで延びる多角形の複数のセルを区画形成する格子状の隔壁を有している。 【0003】 トラック等の大型自動車用の自動車排ガス浄化用触媒担体やディーゼル黒煙微粒子除去フィルタとして使用されるハニカム構造体は、直径の大きなものが必要となる。直径の大きなハニカム構造体でも、押出成形機を用いて所望の形状に一体成形することが可能であるが、押出成形直後に自重によりハニカム構造体全体が変形したり、セル構造の一部に変形やつぶれを生じたりする。これらの変形やつぶれを除去するために、焼成後に外周面を研削し、研削された外周面に外周コート材を塗布して外周壁を設け、所望の形状(例えば、円柱状等)のハニカム構造体を得ている。 【0004】 特に、自動車排ガス浄化性能を向上させるため、高気孔率にしたり、ハニカム構造体の隔壁を薄型化したりするなど、ハニカム構造体を低嵩密度化する傾向が強くなっている。ハニカム構造体の低嵩密度化は、押出成形直後のハニカム形状を維持することを困難にし、ハニカム構造体の機械的強度を低下させる。そのため、従来の嵩密度では一体成形が可能であったハニカム構造体が、低嵩密度化により外周研削及び外周コートが必要となり、外周研削及び外周コートの対象が小型のハニカム構造体にも拡大しつつある。 【0005】 ハニカム構造体の材料にSiC等の高耐熱材料を用いる場合は、材料の熱膨張が大きいため、一体成形すると使用中の温度勾配により亀裂を生じる。亀裂の発生を防止するために、予め複数の四角柱状のハニカム焼成体(ハニカムセグメント)を作製し、得られたハニカムセグメントの側面(接合面)に接合材を施与し、複数のハニカムセグメントを積層し、組み合わせて接合することで一つの大きなブロック状のハニカム構造体(ハニカムブロック体)を形成する。その後、ハニカムブロック体の外周面を研削し、所望の形状(例えば、円柱状等)のハニカム構造体に加工されている。 【0006】 上記研削によってハニカム構造体の外周面のセルは、外部との間の隔壁が全部または一部取り除かれている。そのため、外部に開口し、軸方向に延びる不完全な隔壁が露出する。不完全な隔壁は外力により容易に剥離する。そこで、ハニカム構造体の外周面を保護し、形状を維持するために、ハニカム構造体の外周面に外周コート材を塗布し、乾燥することによって外周壁が形成される(例えば、特許文献1参照。)。すなわち、ハニカム径の大きい大型のハニカム構造体を製造する際には外周コート材、複数のハニカムセグメントを組み合わせてハニカム構造体を構成する場合は接合材及び外周コート材を使用する必要がある。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 【特許文献1】特許第2613729号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 ハニカム構造体の外周壁を形成するために使用される外周コート材、及びハニカムセグメントの接合に使用される接合材は、それぞれの使用原料の一部としてコロイダルシリカが用いられている。ここで、コロイダルシリカは、通常の製造過程において塩酸などの塩素系化合物が使用される。そのため、これらのコロイダルシリカには、一般に、1000ppm程度の塩素成分が含有している。なお、係る塩素濃度は通常の使用においては特に問題のないものである。 【0009】 ステンレス鋼や鉄鋼等の金属製品或いは金属部品は、塩素成分(塩化物イオン)と接触することで、金属製品等の表面全体或いは局所的に、腐食が進行することが知られている。そのため、これらの金属製品等を用いる場合には、塩化物イオンとの接触を極力抑えるような対策が講じられている。上記ハニカム構造体を自動車排ガス浄化用触媒担体等として採用した場合、ハニカム構造体中のコロイダルシリカの影響によって、主に金属から構成される自動車の排気系配管の一部を腐食させる懸念があった。焼成されたハニカム構造体自体は塩素を含まないが、外周コート材や接合材は一般に塩素を含むため、塩素を含まない外周コート材や接合材が求められている。 【0010】 そこで、本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、塩素濃度を抑え、排気系配管等の腐食が発生する可能性を抑えたハニカム構造体、及びハニカム構造体の製造方法が提供される。 【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明によれば、上記課題を解決したハニカム構造体、及びハニカム構造体の製造方法が提供される。 【0012】 【0013】 【0014】 (削除) 【0015】 [2] 原料にコロイダルシリカを含み、乾燥後の塩素濃度が150ppm以下である接合材を使用して複数のハニカム焼成体を組み合わせて接合されたハニカム構造体であって、前記接合材の乾燥後且つ600℃以上の加熱処理をしていない状態において、前記ハニカム構造体の塩素濃度が5ppm以上、60ppm以下であるハニカム構造体。 【0016】 [3] 四角柱状に形成された複数のハニカム焼成体を組み合わせ、コロイダルシリカを原料として含む接合材を用いて接合し、ブロック状のハニカム構造体を形成する接合工程と、前記接合工程を経て形成された前記ハニカム構造体を、600℃?675℃の範囲の加熱温度で加熱処理する加熱工程とを有し、前記加熱工程を経た加熱処理後の前記ハニカム構造体は、塩素濃度が31ppm以上、60ppm以下であるハニカム構造体の製造方法。 【0017】 (削除) 【0018】 [4] 前記コロイダルシリカは、製造過程において使用される酸が、硫酸、燐酸、及び有機酸の少なくともいずれか一つである前記[3]に記載のハニカム構造体の製造方法。 【0019】 [5] 前記有機酸は、酢酸である前記[4]に記載のハニカム構造体の製造方法。 【発明の効果】 【0020】 本発明のハニカム構造体、及びハニカム構造体の製造方法によれば、ハニカム径の大きなサイズのハニカム構造体を製造するために使用される外周コート材及び/または接合材に使用されるコロイダルシリカ由来の塩素濃度を抑えることで、ハニカム構造体全体の塩素濃度を減少させることができる。特に、500ppmを超える塩素成分を含有する場合であっても、600℃以上の加熱温度でハニカム構造体を加熱することで、ハニカム構造体に含まれる塩素成分を除去することができる。その結果、ハニカム構造体において、塩素濃度をそれぞれ規定以下に抑えることができ、排気系配管等の金属製品或いは金属部品が腐食する可能性を低くすることができる。 【図面の簡単な説明】 【0021】 【図1】本発明の一実施形態のハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図である。 【図2】図1のハニカム構造体の一例を模式的に示す平面図である。 【図3】図2における二点鎖線領域の外周壁形成前のハニカム焼成体の研削面を示す拡大平面図である。 【図4】本発明の別例構成のハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図である。 【発明を実施するための形態】 【0022】 以下、図面を参照しつつ本発明のハニカム構造体、及びハニカム構造体の製造方法の実施の形態について詳述する。なお、本発明のハニカム構造体等は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、種々の設計の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。 【0023】 本実施形態のハニカム構造体1は、図1?図3に示すように、流体の流路を形成する一方の端面2aから他方の端面2bまで延びる四角形の複数のセル3を区画形成する格子状の隔壁4を備えるハニカム構造部5を有し、円柱状を呈している。ハニカム構造体1は、押出成形機を用いてハニカム成形体を一定成形した後、得られたハニカム成形体を所定の焼成温度で焼成することにより形成される。 【0024】 更に具体的に説明すると、本実施形態のハニカム構造体1は、ハニカム成形体を焼成したハニカム焼成体6を研削し、研削後のハニカム焼成体6の外周面7に外周コート材(図示しない)を塗布し、乾燥させた外周壁8を備えている。 【0025】 本実施形態のハニカム構造体1は、主としてトラック等の大型自動車用の自動車排ガス浄化用触媒担体としての使用を想定したものである。そのため、通常のハニカム構造体と比べてハニカム径が大きい特徴を備えている。成形材料を押出成形した直後のハニカム成形体は、まだ柔らかい状態にあり、自重等によってハニカム成形体の全体またはハニカム成形体のセルの一部が変形する可能性を有している。 【0026】 ハニカム焼成体6の外周面を研削することで、上記の変形部分を取り除くことができる。更に、研削した外周面7に外周コート材(図示しない)を塗布し、乾燥させた外周壁8をハニカム構造体1は備えている。この外周壁8を設けることにより、ハニカム構造体1の全体の機械的強度を向上させることができる。これにより、図1及び図2に示すような円柱状のハニカム構造体1の製造が完了する。なお、図1において、図示を簡略化するため、ハニカム構造体1の外周面9の外周壁8を示すハッチングを省略している。 【0027】 ハニカム焼成体6の外周面を研削することにより、研削した外周面7に位置する最外側のセル3aは、外部との間を仕切る隔壁4の少なくとも一部が除去されている。そのため、外部に開口し、かつハニカム構造体1(またはハニカム焼成体6)の中心軸方向(図2または図3において紙面手前から紙面奥行方向に相当)に延び、ハニカム構造体1(またはハニカム焼成体6)の中心に向かって窪んだ凹溝10が形成されている。外周面7に外周コート材を塗布することにより、この凹溝10が充填するとともに外周面を覆い、外周面7から所定厚さの外周壁8が形成される。 【0028】 外周壁8を形成するための外周コート材は、ハニカム成形体と同一成分のセラミックス原料を骨材として使用することができる。このセラミックス原料としては、例えば、炭化珪素、珪素-炭化珪素系複合材料、コージェライト、チタン酸アルミニウム等を挙げることができる。このセラミックス原料に対して、水、結合剤として機能するコロイダルシリカ、セラミックスファイバー、無機添加剤、有機添加剤、発泡粒子、及び界面活性剤等が添加される。 【0029】 外周壁8を形成するための外周コート材は、コロイダルシリカが使用される。コロイダルシリカは、水ガラスを原料として製造する「水ガラス法」と、アルコキシドを加水分解して製造する「アルコキシド法」の二つの手法が主に製造工程において用いられている。 【0030】 「水ガラス法」は、アルカリ珪酸塩の水溶液を、イオン交換樹脂と接触させて脱アルカリとした後で得られた珪酸塩溶液に酸を加えて酸処理した後、酸性珪酸コロイド液中の不純物を限外濾過膜を用いて除去し、オリゴ珪酸溶液を調製する。その後、オリゴ珪酸溶液の一部に、アンモニア等を加え、弱酸性から弱アルカリ性の間で加熱処理をすることで、「ヒールゾル」を形成する。その後、得られたヒールゾルにオリゴ珪酸塩の残りを徐々に滴下することで、コロイド粒子の成長を促進されるものである。 【0031】 「アルコキシド法」は、酸性の水性溶媒中に投入されたアルコキシシラン(更に、具体的にはテトラアルコキシシラン)の加水分解処理を行い、珪酸モノマーを得た後、該珪酸モノマーを塩基性の水性溶媒中に加え、重合処理を行うものである。これにより、加水分解処理と同時に、モノマーの縮合及びシリカ粒子の成長を行いながらシリカ粒子の製造を行うものである。 【0032】 上述のように、コロイダルシリカの製造の主流となる水ガラス法及びアルコキシド法のいずれの場合においても、コロイダルシリカの製造には酸を加えてpH調整を行う酸処理の工程が必須となる。このとき、製造コストや入手容易性、取扱性等の観点から、酸として塩酸が用いられることが一般的である。そのため、塩酸を使用して製造されたコロイダルシリカには、塩素成分(塩化物イオン)が微量ではあるが存在している。そのため、排気系配管等の金属製品等に対する腐食の可能性が一部において指摘されている。 【0033】 そこで、本実施形態の外周コート材は、使用原料の一部として使用するコロイダルシリカの塩素濃度を150ppm以下のものとする特徴を備える。すなわち、上述したように、主として塩酸を使用して製造されていたコロイダルシリカに対し、製造過程において塩酸以外の硫酸、燐酸、酢酸、または有機酸を酸処理に使用する。これにより、コロイダルシリカの塩素濃度が、1000ppm程度から500ppm以下となる。このコロイダルシリカを用いて、外周コート材及び接合材を調製した場合、それぞれにおいて塩素濃度が150ppm以下となる。そして、最終的にハニカム構造体1の塩素濃度が100ppm以下となる。 【0034】 図4に示すように、本発明の別例構成として、複数の四角柱状のハニカムセグメント11(ハニカム焼成体)を組み合わせ、互いの側面同士を接合材(図示しない)を用いて接合したブロック状のハニカムブロック体を形成し(接合工程)、当該ハニカムブロック体の外周面を研削し、所望形状のハニカム構造体12としたものであってもよい。このハニカム構造体12は、上記ハニカム構造体1と同様に、ハニカムブロック体の外周面13に、外周コート材を塗布し、外周壁14が形成される。更に、ハニカムセグメント11の間には、接合材から構成された接合層15を有している。なお、図4において、図示を簡略化するため、ハニカム構造体1と同様に、ハニカム構造体12の外周面16の外周壁14を示すハッチングを省略している。 【0035】 使用する接合材は、前述した外周コート材と同様に、ハニカム成形体の成形材料として使用されるセラミックス原料をベースに、水、無機バインダー、有機バインダー、及び分散剤等を含有している。ここで、無機バインダーの一種として少なくともコロイダルシリカを含んでいる。すなわち、上記外周コート材と同じく「水ガラス法」または「アルコキシド法」のいずれか一つの手法で生成されたコロイダルシリカが用いられる。そのため、接合材は、微量の塩素成分を含んでいる可能性がある。 【0036】 そこで、本実施形態の外周コート材は、使用原料の一部として使用するコロイダルシリカの塩素濃度を、それぞれ150ppm以下のものとする特徴を備える。すなわち、上述したように、主として塩酸を使用して製造されていたコロイダルシリカに対し、製造過程において塩酸以外の硫酸、燐酸、酢酸、または有機酸を酸処理に使用する。これにより、コロイダルシリカの塩素濃度が、1000ppm程度から500ppm以下となる。このコロイダルシリカを用いて、外周コート材及び接合材を調製した場合、それぞれにおいて塩素濃度が150ppm以下となる。そして、最終的にハニカム構造体1の塩素濃度が100ppm以下となる。 【0037】 次に、本実施形態の外周コート材を用いたハニカム構造体の製造方法について説明する。ここで、予め調製されたセラミックス原料をベースとする成形材料(坏土)からハニカム成形体を押出成形し、その後の焼成工程を経て円柱状のハニカム焼成体6を得るまでの工程は、ハニカム構造体の製造方法において既に周知のものである。したがって、これらの工程についての詳細な説明は省略する。なお、押出成形されたハニカム成形体は、高温で焼成されるため、仮に成形材料中に塩素成分を多く含む原料を使用していた場合であっても、当該塩素成分は加熱によって消散する。その結果、得られたハニカム焼成体6はほとんど塩素成分を含まない。 【0038】 (1)研削工程 焼成工程を経て形成された円柱状のハニカム焼成体6の外周面を周知の研削装置を用いて研削する。これにより、押出成形後に自重等で変形したハニカム成形体全体またはセルの一部に発生した変形が除去される。これにより、不完全な隔壁4a(図3参照)が研削済みの外周面7の表面に露出した状態のハニカム焼成体6が形成される。この状態では、外周面7の表面は非常に脆弱で、僅かな衝撃で外周面7に形成された不完全な隔壁4aが容易に剥離する。 【0039】 (2)外周壁形成工程 ハニカム焼成体6を研削すると、研削された外周面7に中心軸方向に沿って延びた上記の不完全な隔壁4aが露出する。不完全な隔壁4aが露出した外周面7に外周コート材を塗布する。このとき、使用する外周コート材は、前述のように、塩素濃度が150ppm以下のものである。その結果、外周面7に位置するセル3aの凹溝10に当該外周コート材が充填されるとともに、外周面7が外周コート材で被覆される。塗布された外周コート材を乾燥させることにより、外周壁8が形成される。外周壁8はハニカム焼成体6の内部構造を保護する。なお、図1及び図2において、外側のハッチング領域は、外周コート材によって形成された外周壁8の状態を示している。これにより、本実施形態の外周コート材を用いたハニカム構造体1の製造が完了する。 【0040】 (3)加熱工程 本実施形態のハニカム構造体の製造方法において、必要に応じて上記(2)で得られたハニカム構造体1を加熱炉内に導入し、600℃以上の加熱温度で所定時間加熱処理をする加熱工程を行ってもよい。塩素成分は高温で加熱することにより、消散することが知られている。そのため、製造された最終製品のハニカム構造体1に対して加熱処理を施すことにより、外周コート材に含まれていた塩素成分を除去することができ、ハニカム構造体1に含まれる塩素濃度を低減することができる。これにより、ハニカム構造体1の全体の塩素濃度を100ppm以下にすることができる。 【0041】 (4)接合材を用いたハニカム構造体 上述した本発明の別例構成のハニカム構造体12についても、外周コート材と同様に、接合材の使用原料の一部として使用するコロイダルシリカの塩素濃度を150ppm以下とする。これにより、最終的にハニカム構造体12の塩素濃度が100ppm以下となる。 【0042】 以下、本発明のハニカム構造体の実施例について説明するが、本発明のハニカム構造体は、これらの実施形態に限定されるものではない。なお、接合材に関しては、使用するコロイダルシリカを同一のものとすることにより、外周コート材とほぼ同一の結果を示すと想定されるため、実施例の提示を省略している。 【実施例】 【0043】 (1)コロイダルシリカ、乾燥前後の外周コート材の塩素濃度、及び加熱処理の影響 塩素濃度が異なるコロイダルシリカ(実施例1?7、比較例1)を使用して外周コート材を調製した。使用したコロイダルシリカの塩素濃度、乾燥前の外周コート材の塩素濃度、及び乾燥後の外周コート材の塩素濃度の測定結果を下記の表1に示す。なお、実施例6,7については、上述した加熱工程を実施した後の各加熱温度における外周コート材の塩素濃度を併せて示している。 【0044】 塩素濃度の測定は、熱加水分解-イオンクロマトグラフ分析方法を用いて行った。具体的に説明すると、不活性雰囲気下においた測定対象の試料を水蒸気気流中で加熱分解(熱加水分解)し、塩素をアルカリ溶液で捕集して試料溶液を調製する。得られた試料溶液をイオンクロマトグラフィー質量分析装置(IC-MS)を利用して分析し、試料溶液中の塩素イオン量を測定する。これにより、塩素濃度が測定される。 【0045】 【表1】 【0046】 表1に示すように、実施例1?5の500ppm以下のコロイダルシリカを用いた場合、乾燥前の外周コート材及び乾燥後の外周コート材(外周壁)においても、塩素成分が150ppm以下となることが確認された。すなわち、外周コート材に使用するコロイダルシリカの塩素濃度を抑制することにより、外周コート材自体の塩素濃度を減少させることができる。 【0047】 一方、実施例6,7及び比較例1は、コロイダルシリカの塩素濃度が943ppmであり、実施例1?5に比べて塩素濃度が高いものである。そのため、乾燥前及び乾燥後のいずれにおいても外周コート材(または外周壁)の塩素濃度が150ppm以上であり、本発明における塩素濃度の上限値を超える。したがって、外周コート材に用いるコロイダルシリカの塩素濃度は、少なくとも500ppm以下のものを用いる必要がある。 【0048】 しかしながら、実施例6または実施例7に示すように、乾燥後の外周コート材に対して加熱処理を行った場合の加熱後の外周コート材(外周壁)の塩素濃度は、それぞれ134ppmまたは80ppmである。したがって、600℃以上の加熱温度で外周コート材(外周壁)を加熱処理することにより、外周コート材に含まれる塩素成分が外部に蒸散し、塩素濃度を低くすることができる。 【0049】 特に、実施例6の600℃の加熱温度よりも高い実施例7の675℃の加熱温度で加熱処理をした場合、外周コート材の塩素濃度を100ppm以下の著しく低い値とすることができる。そのため、少なくとも、600℃以上、より好適には675℃以上の加熱温度で加熱することが望ましい。しかしながら、加熱温度が高すぎるとハニカム構造体や外周コート材にクラック等が生じるなどの不具合の発生の可能性が高くなるため、過剰な加熱温度による加熱は避ける必要がある。 【0050】 上記結果から、1000ppm程度の塩素濃度が高いコロイダルシリカを外周コート材に用いた場合であっても、加熱処理を行うことで本発明における塩素濃度の上限値内に抑えることができ、実用性を有することが確認された。なお、比較例1は、実施例6または実施例7と同じコロイダルシリカを用いて行い、比較対象のために、加熱処理を行わなかったものである。 【0051】 (2)ハニカム構造体の塩素濃度 実施例1?7、比較例1のコロイダルシリカを使用して調製された外周コート材を、押出成形により一体的に形成されたコージェライト製のハニカム構造体の外周面に塗布し、外周壁を形成した。得られたハニカム構造体(実施例1?7、比較例1,2)の塩素濃度の測定結果を下記の表2に示す。ここで、比較例2は、比較例1の外周コート材(表1参照)を異なる隔壁厚及び気孔率のハニカム構造体に塗布したものを示している。 【0052】 ハニカム構造体は、隔壁厚:0.15mm、セル密度:46.5個/cm^(2)、気孔率:60%、ハニカム構造体のハニカム径:144mm、ハニカム構造体の全長:152mm、全重量:770g、乾燥後の外周コート材(外周壁)の重量:293g、基材重量:477gのものである(比較例1を除く。)。比較例1は、隔壁厚:0.20mm、セル密度:46.5個/cm^(2)、気孔率:35%、ハニカム構造体のハニカム径:144mm、ハニカム構造体の全長:152mm、全重量:1130g、乾燥後の外周コート材(外周壁)の重量:293g、基材重量:837gのものである。 【0053】 【表2】 【0054】 表2に示すように、実施例1?7のいずれにおいても、ハニカム構造体の塩素濃度は、100ppm以下であることが確認された。なお、実施例6,7については、外周コート材の塗布後に加熱処理を行った結果を示している。ハニカム構造体の塩素濃度がいずれも100ppm以下であるため、排気系配管等に使用した場合であっても塩素成分を原因とする腐食の虞がほとんどないことが確認された。 【産業上の利用可能性】 【0055】 本発明のハニカム構造体、及びハニカム構造体の製造方法は、自動車排ガス浄化用触媒担体、ディーゼル微粒子除去フィルタ、あるいは燃焼装置用蓄熱体等に利用可能なハニカム構造体の製造に使用することができる。 【符号の説明】 【0056】 1,12:ハニカム構造体、2a:一方の端面、2b:他方の端面、3,3a:セル、4:隔壁、4a:不完全な隔壁、5:ハニカム構造部、6:ハニカム焼成体、7,9,13,16:外周面、8,14:外周壁、10:凹溝、11:ハニカムセグメント、15:接合層。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 原料にコロイダルシリカを含み、乾燥後の塩素濃度が150ppm以下である接合材を使用して複数のハニカム焼成体を組み合わせて接合されたハニカム構造体であって、 前記接合材の乾燥後且つ600℃以上の加熱処理をしていない状態において、前記ハニカム構造体の塩素濃度が5ppm以上、60ppm以下であるハニカム構造体。 【請求項3】 四角柱状に形成された複数のハニカム焼成体を組み合わせ、コロイダルシリカを原料として含む接合材を用いて接合し、ブロック状のハニカム構造体を形成する接合工程と、 前記接合工程を経て形成された前記ハニカム構造体を、600℃?675℃の範囲の加熱温度で加熱処理する加熱工程と を有し、 前記加熱工程を経た加熱処理後の前記ハニカム構造体は、 塩素濃度が31ppm以上、60ppm以下であるハニカム構造体の製造方法。 【請求項4】 前記コロイダルシリカは、 製造過程において使用される酸が、硫酸、燐酸、及び有機酸の少なくともいずれか一つである請求項3に記載のハニカム構造体の製造方法。 【請求項5】 前記有機酸は、 酢酸である請求項4に記載のハニカム構造体の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-11-29 |
出願番号 | 特願2015-62268(P2015-62268) |
審決分類 |
P
1
652・
853-
YAA
(C04B)
P 1 652・ 113- YAA (C04B) P 1 652・ 536- YAA (C04B) P 1 652・ 537- YAA (C04B) P 1 652・ 55- YAA (C04B) P 1 652・ 121- YAA (C04B) P 1 652・ 851- YAA (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小野 久子 |
特許庁審判長 |
服部 智 |
特許庁審判官 |
金 公彦 菊地 則義 |
登録日 | 2018-05-11 |
登録番号 | 特許第6335823号(P6335823) |
権利者 | 日本碍子株式会社 |
発明の名称 | ハニカム構造体、及びハニカム構造体の製造方法 |
代理人 | 小池 成 |
代理人 | 渡邉 一平 |
代理人 | 渡邉 一平 |
代理人 | 小池 成 |