ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08G |
---|---|
管理番号 | 1359551 |
異議申立番号 | 異議2018-700747 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-09-14 |
確定日 | 2019-12-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6291978号発明「リン含有エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂組成物、硬化物及び電気・電子回路用積層板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6291978号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正することを認める。 特許第6291978号の請求項1ないし12に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨 本件特許第6291978号(請求項の数12。以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2014-74117号、以下「本願」という。)は、平成26年3月31日に出願人三菱ケミカル株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成30年2月23日に特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、平成30年3月14日に特許公報の発行がされ、その後、請求項1?12に係る特許に対して、平成30年9月14日付けで特許異議申立人川島克之(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。 平成30年 12月18日付け:取消理由の通知 平成31年 2月13日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者) 平成31年 2月21日付け:通知書(申立人あて) 平成31年 3月18日 :意見書の提出(申立人) 平成31年 4月19日付け:訂正拒絶理由の通知 令和元年 6月 4日 :手続補正書及び意見書の提出(特許権者) 令和元年 7月30日付け:取消理由の通知(決定の予告) なお、上記取消理由の通知(決定の予告)に対して、特許権者は応答しなかった。 第2 平成31年2月13日付け訂正請求書による訂正の可否 1 訂正請求に係る補正の適否 上記平成31年2月13日付けの訂正請求書については、上記令和元年6月4日付けの手続補正書で補正されているから、まず、当該補正の適否につき検討する。 (1)平成31年4月19日付け訂正拒絶理由の概要 上記訂正拒絶理由は、要するに、請求項1の「リン含有エポキシ樹脂」について、吸水率として「下記吸水率の測定方法で測定された吸水率が1.2質量%未満である」点、及び吸水率の測定方法として「<吸水率の測定方法> 当該リン含有エポキシ樹脂よりなるフィルムの試験片を、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に168時間放置した後の吸水率を下記式で算出する。 (吸水率)=[{(85℃、85%RHに168時間放置後の試験片の質量) -(処理前の試験片の質量)}/(処理前の試験片の質量)×100」 の点を追加する訂正(訂正事項1)について、訂正事項1は、訂正前の本件特許明細書及び特許請求の範囲の記載から導かれる技術的事項に対して、新たな技術的事項を導入するものというべきものであるから、本件特許明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものとはいうことができず、不適法である、というものである。請求項2についての訂正事項2についても同様である。 (2)特許権者の応答 上記訂正拒絶理由に対して、特許権者は、令和元年6月4日付け手続補正書によって、概要以下のとおりの補正を行った。 訂正事項1の吸水率の測定方法として、「リン含有エポキシ樹脂よりなるフィルムの試験片」とあるのを、「リン含有エポキシ樹脂よりなる、厚さ約50μmのエポキシ樹脂フィルムを4cm×4cmに切り出した試験片」と補正した。 訂正事項2についても同様である。(以下「補正事項」とする。) (3)上記応答に係る検討 上記補正事項は、吸水率の測定方法として、「リン含有エポキシ樹脂よりなるフィルムの試験片」とあるのを、本件特許明細書に記載した事項の範囲内(【0154】、【0157】)であり、かつフィルムの特定について不明な部分を明らかにする「リン含有エポキシ樹脂よりなる、厚さ約50μmのエポキシ樹脂フィルムを4cm×4cmに切り出した試験片」とする、軽微な瑕疵の補正をするための特許請求の範囲の訂正事項の補正であり、訂正請求書の要旨を変更するものではないといえる(審判便覧54-05.1 P「審判請求書の要旨の変更」2.(1)参照。)。 (4)まとめ したがって、上記補正は、特許法第17条の5第1項の規定に基いてされたものであって、同法第120条の5第9項で準用する同法第131条の2第1項の規定に適合するものであるから、上記手続補正書における訂正請求書及びそれに添付された訂正特許請求の範囲に係る補正は、適法なものである。 2 訂正の内容 上記1で示したとおり、令和元年6月4日付けの手続補正書による補正は適法であるから、補正された平成31年2月13日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の適否につき検討する。 本件訂正の内容は次のとおりである。下線は、訂正箇所を示す。以下同様。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「エポキシ当量が1,000g/当量以上100,000g/当量以下であるリン含有エポキシ樹脂。」 と記載されているのを、 「エポキシ当量が1,000g/当量以上100,000g/当量以下であるリン含有エポキシ樹脂であり、 下記吸水率の測定方法で測定された吸水率が1.2質量%未満であるリン含有エポキシ樹脂」 と訂正すると共に、吸水率の測定方法として 「<吸水率の測定方法> 当該リン含有エポキシ樹脂よりなる、厚さ約50μmのエポキシ樹脂フィルムを4cm×4cmに切り出した試験片を、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に168時間放置した後の吸水率を下記式で算出する。 (吸水率)=[{(85℃、85%RHに168時間放置後の試験片の質量) -(処理前の試験片の質量)}/(処理前の試験片の質量)×100」の記載を加入する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に、 「エポキシ当量が1,000g/当量以上100,000g/当量以下であるリン含有エポキシ樹脂。」 と記載されているのを、 「エポキシ当量が1,000g/当量以上100,000g/当量以下であり、 下記吸水率の測定方法で測定された吸水率が1.2質量%未満であるリン含有エポキシ樹脂。」 と訂正すると共に、吸水率の測定方法として、 「<吸水率の測定方法> 当該リン含有エポキシ樹脂よりなる、厚さ約50μmのエポキシ樹脂フィルムを4cm×4cmに切り出した試験片を、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に168時間放置した後の吸水率を下記式で算出する。 (吸水率)=[{(85℃、85%RHに168時間放置後の試験片の質量) -(処理前の試験片の質量)}/(処理前の試験片の質量)×100」の記載を加入する。 本件訂正請求は一群の請求項1?12に対して請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更についての存否 本件特許明細書の第【0071】段落、第【0154】段落、第【0157】段落には、以下の記載がある。 ア 「【0071】 [吸水率] 本発明のリン含有エポキシ樹脂は、低吸水性に優れるものである。エポキシ樹脂の吸水率は、後掲の実施例の項に示すように、湿熱条件下に一定時間暴露する前後の重量変化により評価することができる。本発明のリン含有エポキシ樹脂の吸水率は、この吸水率の評価において、好ましくは1.2質量%未満であり、更に好ましくは1.0質量%未満であり、特に好ましくは0.9質量%未満である。また本発明のリン含有エポキシ樹脂硬化物の吸水率は、好ましくは1.5質量%未満であり、更に好ましくは1.2質量%未満であり、特に好ましくは1.0%未満である。」 イ 「【0154】 3)ガラス転移温度(Tg) リン含有エポキシ樹脂又はリン含有エポキシ樹脂組成物の溶液をセパレータ(シリコーン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム、厚み:100μm)にアプリケーターで塗布し、160℃で1.5時間、その後200℃で1.5時間乾燥及び/又は硬化させ、厚さ約50μmのエポキシ樹脂フィルムを得た。このフィルムを切り出し、SIIナノテクノロジー(株)製「DSC7020」を使用し、30?250℃まで10℃/minで昇温してガラス転移温度を測定した。なお、ここでいうガラス転移温度は、JIS K7121「プラスチックの転移温度測定法」に記載されているうち「中点ガラス転移温度:Tmg」に基づいて測定した。 エポキシ樹脂については、Tgが150℃以上を耐熱性良好「○」、150℃未満を耐熱性不良「×」とした。 またエポキシ樹脂硬化物については、Tgが155℃以上を耐熱性良好「○」、155℃未満を耐熱性不良「×」として評価した。」 ウ 「【0157】 6)吸水率 3)で作成したフィルムを4cm×4cmに切り出した試験片を、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に168時間放置した後の吸水率を下記式で算出した。吸水率が1.0%未満のものを低吸水性に優れる「○」、1.0%以上のものを低吸水性に劣る「×」として評価した。 (吸水率)=[{(85℃、85%RHに168時間放置後の試験片の質量) -(処理前の試験片の質量)}/(処理前の試験片の質量)]×100」 訂正事項1は、請求項1のリン含有樹脂について「下記吸水率の測定方法で測定された吸水率が1.2質量%未満である」とすると共に、吸水率の測定方法として「<吸水率の測定方法> 当該リン含有エポキシ樹脂よりなる、厚さ約50μmのエポキシ樹脂フィルムを4cm×4cmに切り出した試験片を、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に168時間放置した後の吸水率を下記式で算出する。 (吸水率)=[{(85℃、85%RHに168時間放置後の試験片の質量) -(処理前の試験片の質量)}/(処理前の試験片の質量)×100」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 次に、本件特許明細書には、摘記イ、ウからみて、リン含有エポキシ樹脂の吸水率として、厚さ約50μmのエポキシ樹脂フィルムを4cm×4cmに切り出した試験片の、訂正後の請求項1で特定される吸水率の測定方法で測定された吸水率が1.2質量%未満であることは記載されていたものと認められる。 してみると、訂正事項1は、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 訂正事項2の訂正についても訂正事項1と同様である。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであるから、結論のとおり、本件訂正を認める。 第3 本件訂正後の請求項1?12に係る発明 本件訂正により訂正された訂正請求項1?12に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 下記式(1)で表され、重量平均分子量(Mw)が1,000?200,000であり、エポキシ当量が1,000g/当量以上100,000g/当量以下であり、下記吸水率の測定方法で測定された吸水率が1.2質量%未満であるリン含有エポキシ樹脂。 <吸水率の測定方法> 当該リン含有エポキシ樹脂よりなる、厚さ約50μmのエポキシ樹脂フィルムを4cm×4cmに切り出した試験片を、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に168時間放置した後の吸水率を下記式で算出する。 (吸水率)=[{(85℃、85%RHに168時間放置後の試験片の質量) -(処理前の試験片の質量)}/(処理前の試験片の質量)×100 【化1】 (上記式(1)中、Aは上記式(2)及び/又は(3)で表される化学構造と、上記式(4)で表される化学構造とを少なくとも含み、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立に、水素原子又は上記式(5)で表される基である。上記式(2)及び式(3)中、A^(1)及びA^(2)は、それぞれ独立に、上記式(6)で表される化学構造であり、R^(3)?R^(9)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(6)中、R^(18)?R^(27)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(4)中、R^(10)?R^(17)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。) 【請求項2】 前記式(1)中、前記式(2)及び/又は(3)で表される化学構造が、A全体のモル数に対して1?99モル%含まれる、請求項1に記載のリン含有エポキシ樹脂。 【請求項3】 下記式(7)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(8)で表されるビスフェノール系化合物とを反応させて得られ、重量平均分子量(Mw)が1,000?200,000であり、 エポキシ当量が1,000g/当量以上100,000g/当量以下であり、下記吸水率の測定方法で測定された吸水率が1.2質量%未満であるリン含有エポキシ樹脂。 <吸水率の測定方法> 当該リン含有エポキシ樹脂よりなる、厚さ約50μmのエポキシ樹脂フィルムを4cm×4cmに切り出した試験片を、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に168時間放置した後の吸水率を下記式で算出する。 (吸水率)=[{(85℃、85%RHに168時間放置後の試験片の質量) -(処理前の試験片の質量)}/(処理前の試験片の質量)×100 【化2】 (上記式(7)中のA’と式(8)中のA”とで、上記式(2)’及び/又は(3)’で表される化学構造と、上記式(4)’で表される化学構造とを少なくとも含み、mは繰り返し数の平均値であり0以上6以下である。上記式(2)’及び(3)’中、A’^(1)及びA’^(2)は、それぞれ独立に、上記式(6)’で表される化学構造であり、R’^(3)?R’^(9)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(6)’中、R’^(18)?R’^(27)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(4)’中、R’^(10)?R’^(17)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。) 【請求項4】 前記式(7)及び(8)中、前記式(2)’及び/又は(3)’で表される化学構造が、A’とA”の合計のモル数に対して1?99モル%含まれる、請求項3に記載のリン含有エポキシ樹脂。 【請求項5】 重量平均分子量(Mw)とエポキシ当量との比(Mw/(エポキシ当量))が1.0?10.0である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂。 【請求項6】 請求項1乃至5のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂と、硬化剤とを含むリン含有エポキシ樹脂組成物。 【請求項7】 前記リン含有エポキシ樹脂100質量部に対し、前記硬化剤を0.1?100質量部含む、請求項6に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。 【請求項8】 更に他のエポキシ樹脂を含み、固形分としてのリン含有エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂の合計100質量部中、他のエポキシ樹脂を1?99質量部含む、請求項6又は7に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。 【請求項9】 前記リン含有エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂の合計100質量部に対し、前記硬化剤を0.1?100質量部含む、請求項8に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。 【請求項10】 前記硬化剤がフェノール系硬化剤、アミド系硬化剤、イミダゾール類、及び活性エステル系硬化剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6乃至9のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。 【請求項11】 請求項6乃至10のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物を用いてなる電気・電子回路用積層板。 【請求項12】 請求項6乃至10のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。」 第4 取消理由通知について 1 取消理由通知の概要 当審が平成30年12月18日付け取消理由通知書(以下、「取消理由通知書」という。)で特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。 (理由1)(新規性)本件特許の請求項1、3、5?12に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。 (理由2)(進歩性)本件特許の請求項1?12に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 取消理由通知書における証拠方法 取消理由通知書における証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:特開2001-310939号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第1号証。) 甲第4号証:特開2002-3711号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第4号証。) 甲第5号証:特開2007-177054号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第5号証。) 第5 取消理由通知(決定の予告)について 1 取消理由通知(決定の予告)の概要 当審が令和元年7月30日付け取消理由通知書(以下、「取消理由通知書(決定の予告)」という。)で特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。 当審は、依然として、上記取消理由2及び当審が新たに発見した下記取消理由aにより、本件訂正発明1ないし12についての特許はいずれも取り消すべきもの、と判断する。 (理由2)(進歩性)本件特許の請求項1?12に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された甲第1号証、甲第4号証、甲第5号証、及び甲第6号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (理由a)(明確性)本件特許の請求項1?12に係る発明は、特許請求の範囲の記載に不備があるために、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 2 取消理由通知書(決定の予告)における証拠方法 取消理由通知書(決定の予告)における証拠方法は、第4の2で挙げられた甲第1号証、甲第4号証、甲第5号証に加えて、以下のとおりである。 甲第6号証:特開2001-151991号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第6号証。) 参考資料1:北興化学工業株式会社 ファインケミカル事業製品情報[令和元年7月11日検索]、インターネット <https://www.hokkochem.co.jp/wp-content/uploads/fine-chemical/PPQ_141211.pdf> 第6 当審の判断 当審は、上記第5で検討したとおり、令和元年7月30日付けの取消理由通知書(決定の予告)により取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。 そして、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、本件訂正発明1ないし12に係る特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記式(1)で表され、重量平均分子量(Mw)が1,000?200,000であり、 エポキシ当量が1,000g/当量以上100,000g/当量以下であり、 下記吸水率の測定方法で測定された吸水率が1.2質量%未満であるリン含有エポキシ樹脂。 <吸水率の測定方法> 当該リン含有エポキシ樹脂よりなる、厚さ約50μmのエポキシ樹脂フィルムを4cm×4cmに切り出した試験片を、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に168時間放置した後の吸水率を下記式で算出する。 (吸水率)=[{(85℃、85%RHに168時間放置後の試験片の質量) -(処理前の試験片の質量)}/(処理前の試験片の質量)]×100 【化1】 (上記式(1)中、Aは上記式(2)及び/又は(3)で表される化学構造と、上記式(4)で表される化学構造とを少なくとも含み、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立に、水素原子又は上記式(5)で表される基である。上記式(2)及び式(3)中、A^(1)及びA^(2)は、それぞれ独立に、上記式(6)で表される化学構造であり、R^(3)?R^(9)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(6)中、R^(18)?R^(27)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(4)中、R^(10)?R^(17)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。) 【請求項2】 前記式(1)中、前記式(2)及び/又は(3)で表される化学構造が、A全体のモル数に対して1?99モル%含まれる、請求項1に記載のリン含有エポキシ樹脂。 【請求項3】 下記式(7)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(8)で表されるビスフェノール系化合物とを反応させて得られ、重量平均分子量(Mw)が1,000?200,000であり、 エポキシ当量が1,000g/当量以上100,000g/当量以下であり、 下記吸水率の測定方法で測定された吸水率が1.2質量%未満であるリン含有エポキシ樹脂。 <吸水率の測定方法> 当該リン含有エポキシ樹脂よりなる、厚さ約50μmのエポキシ樹脂フィルムを4cm×4cmに切り出した試験片を、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に168時間放置した後の吸水率を下記式で算出する。 (吸水率)=[{(85℃、85%RHに168時間放置後の試験片の質量) -(処理前の試験片の質量)}/(処理前の試験片の質量)]×100 【化2】 (上記式(7)中のA’と式(8)中のA”とで、上記式(2)’及び/又は(3)’で表される化学構造と、上記式(4)’で表される化学構造とを少なくとも含み、mは繰り返し数の平均値であり0以上6以下である。上記式(2)’及び(3)’中、A’^(1)及びA’^(2)は、それぞれ独立に、上記式(6)’で表される化学構造であり、R’^(3)?R’^(9)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(6)’中、R’^(18)?R’^(27)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(4)’中、R’^(10)?R’^(17)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。) 【請求項4】 前記式(7)及び(8)中、前記式(2)’及び/又は(3)’で表される化学構造が、A’とA”の合計のモル数に対して1?99モル%含まれる、請求項3に記載のリン含有エポキシ樹脂。 【請求項5】 重量平均分子量(Mw)とエポキシ当量との比(Mw/(エポキシ当量))が1.0?10.0である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂。 【請求項6】 請求項1乃至5のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂と、硬化剤とを含むリン含有エポキシ樹脂組成物。 【請求項7】 前記リン含有エポキシ樹脂100質量部に対し、前記硬化剤を0.1?100質量部含む、請求項6に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。 【請求項8】 更に他のエポキシ樹脂を含み、固形分としてのリン含有エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂の合計100質量部中、他のエポキシ樹脂を1?99質量部含む、請求項6又は7に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。 【請求項9】 前記リン含有エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂の合計100質量部に対し、前記硬化剤を0.1?100質量部含む、請求項8に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。 【請求項10】 前記硬化剤がフェノール系硬化剤、アミド系硬化剤、イミダゾール類、及び活性エステル系硬化剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6乃至9のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。 【請求項11】 請求項6乃至10のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物を用いてなる電気・電子回路用積層板。 【請求項12】 請求項6乃至10のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-10-31 |
出願番号 | 特願2014-74117(P2014-74117) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
ZAA
(C08G)
P 1 651・ 537- ZAA (C08G) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 藤代 亮 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
大▲わき▼ 弘子 佐藤 健史 |
登録日 | 2018-02-23 |
登録番号 | 特許第6291978号(P6291978) |
権利者 | 三菱ケミカル株式会社 |
発明の名称 | リン含有エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂組成物、硬化物及び電気・電子回路用積層板 |
代理人 | 重野 剛 |
代理人 | 重野 剛 |