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審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C04B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C04B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C04B 審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 C04B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C04B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B |
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管理番号 | 1359562 |
異議申立番号 | 異議2018-700493 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-06-18 |
確定日 | 2020-01-08 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6251626号発明「コンクリート組成物及びコンクリートの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6251626号の明細書、特許請求の範囲及び図面を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、7、8について訂正することを認める。 特許第6251626号の請求項1、3?7に係る特許を維持する。 特許第6251626号の請求項2及び8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6251626号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成26年4月11日を出願日とするものであって、平成29年12月1日にその特許権の設定登録がされ、平成29年12月20日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 平成30年 6月18日付け:特許異議申立人末吉直子(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立て(請求項1?8) 同年 8月24日付け:取消理由通知書 同年10月23日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年12月18日付け:申立人による意見書の提出 平成31年 1月28日付け:取消理由通知書(決定の予告) 同年 3月29日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和 元年 5月 8日付け:申立人による意見書の提出 同年 7月 8?9日:特許権者との応対記録(再々訂正案について計3回の応対) 同年 7月10日付け:取消理由通知書 同年 9月13日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 第2 訂正請求について 1.訂正請求の趣旨 令和元年9月13日付けの訂正請求は、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、7、8について訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求めるものである。 なお、本件訂正請求により、平成30年10月23日付け訂正請求、平成31年3月29日付け訂正請求は、何れも取り下げられたものとみなす。 2.訂正の適否の判断 (1)訂正の内容 以下の(ア)?(シ)に示す訂正事項1?12のとおりである(下線部は訂正箇所)。 (ア)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1における 「水結合材質量比が40%以下であることを特徴とするコンクリート組成物。」との記載を、 「水結合材質量比が40%以下であり、 前記コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とすることを特徴とするコンクリート組成物。」と訂正する。 (イ)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (ウ)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3における 「請求項1又は2に記載のコンクリート組成物であって、」との記載を、 「請求項1に記載のコンクリート組成物であって、」と訂正する。 (エ)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4における 「請求項1?3のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、」との記載を、 「請求項1又は3に記載のコンクリート組成物であって、」と訂正する。 (オ)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5における 「請求項1?4のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、」との記載を、 「請求項1、3?4のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、」と訂正する。 (カ)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6における 「請求項1?5のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、」との記載を、 「請求項1、3?5のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、」と訂正する。 (キ)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7における 「該コンクリート組成物を蒸気養生させて硬化させる工程と を含むことを特徴とするコンクリートの製造方法。」との記載を、 「該コンクリート組成物を蒸気養生させて硬化させる工程と を含み、 該コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とすることを特徴とするコンクリートの製造方法。」と訂正する。 (ク)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8を削除する。 (ケ)訂正事項9 明細書の段落【0007】における 「水結合材質量比を40%以下とすることができる。」との記載を、 「水結合材質量比を40%以下であり、前記コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とする。」と訂正する。 (コ)訂正事項10 明細書の段落【0015】における 「該コンクリート組成物を蒸気養生させて硬化させる工程とを含むことができる。」との記載を、 「該コンクリート組成物を蒸気養生させて硬化させる工程とを含み、該コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とすることができる。」と訂正する。 (サ)訂正事項11 明細書の段落【0028】の【表1】中の左端の欄における 「二酸化炭素換算量合計(t)」との記載(5箇所すべて)を 「二酸化炭素換算量合計(kg)」と訂正する。 (シ)訂正事項12 図面の【図8】の縦軸における 「Cl^(-)の実行拡散係数(cm^(2)/年)」との記載を 「Cl^(-)の実効拡散係数(cm^(2)/年)」と訂正する。 (ス)一群の請求項等について 訂正事項1?6は特許請求の範囲についての訂正であり、これらに係る訂正前の請求項1?6については、請求項2?6がそれぞれ請求項1を引用するものであったことから一群の請求項を構成していたものである。 訂正事項7は特許請求の範囲についての訂正であり、これに係る訂正前の請求項7については、他の請求項との引用関係はなく、他の請求項と一群の請求項を構成するものではない。 訂正事項8は特許請求の範囲についての訂正であり、これに係る訂正前の請求項8については、他の請求項との引用関係はなく、他の請求項と一群の請求項を構成するものではない。 そして、訂正事項9?11は明細書についての訂正であり、訂正事項12は図面についての訂正である。 (2)訂正の目的 (ア):訂正事項1は、訂正前のコンクリート組成物の発明について、特定の条件での養生を行うべきものであることを限定し、そのときの特性を発明特定事項として追加したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 (イ)及び(ク):訂正事項2及び8は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 (ウ)?(カ):訂正事項3?6は、訂正事項2の請求項2の削除に伴い、請求項3?6において、選択的に引用する請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 (キ):訂正事項7は、訂正前のコンクリートの製造方法の発明について、特定の条件で養生を行うことを限定し、そのときの特性を発明特定事項として追加したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 (ケ):訂正事項9は、請求項1についての訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。 (コ):訂正事項10は、請求項7についての訂正事項7に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。 (サ)及び(シ):訂正事項11、12は、誤記の訂正を目的としたものであることは明らかであり、訂正される図面の記載は全ての請求項に係る発明に関わるものである。 以上のことから、訂正事項1?12に係る訂正の目的は適法である。 (3)新規事項追加の有無 (ア)、(キ)、(ケ)及び(コ)について 訂正事項1における実効拡散係数の点については、本件明細書【0064】の「フライアッシュ、高炉スラグ微粉末を混和した調合はN調合(比較例1)に比べCl^(-)の実効拡散係数が大幅に小さくなり、良好な耐塩害性が得られるという結果となった」との記載、同じく【0075】の「さらにまたコンクリート中の塩化物イオンの拡散係数は、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を混和することで、N調合(比較例1)に比べ大幅に減少した。これは、塩化物イオンの固定化やコンクリート組織の緻密化、空隙構造の変化等の作用によるものと考えられ、高い耐塩害性を付与させることが可能である。」との記載に加え、本件図面【図8】より、実施例3?6においてCl^(-)の実効拡散係数が養生28日で何れも0.05(cm^(2)/年)未満であることが明らかに把握できることに基づく。ここで、「0.05cm^(2)/年未満」という数値範囲の上限を設けることについては、本件の明細書又は図面に明示されていたものではないが、この上限の数値により新たな技術的意義を持つものになったとはいえないから、新たな技術的事項は導入されておらず、新規事項の追加に該当するものではない。 また、訂正事項1における養生の条件の点については、これらの実施例3?6における養生の条件は、本件明細書【0030】の「ここで養生は、プレキャストコンクリートを想定した蒸気養生を行った。蒸気養生は、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却した。蒸気養生終了後は2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行った」ものであるとの記載に基づく。 よって、訂正事項1は、本件の明細書又は図面に記載されていた範囲内のものである。 訂正事項7、更に、訂正事項9及び訂正事項10も同様である。 (イ)?(カ)及び(ク)について 請求項の削除に係るものであり、明らかに新規事項の追加に該当するものではない。 (サ)について 訂正事項11については、本件明細書【表1】中の他の欄でCO_(2)が(kg)単位で記載されており、【表1】中の各成分の使用量(t)との比較からも、二酸化炭素(CO_(2))換算量合計が(t)単位となっていることが不自然であって(kg)の誤記であることは明らかであるから、新規事項の追加に該当するものではない。 (シ)について 訂正事項12については、本件図面【図8】中の「実行拡散係数」が技術的に意味を成していない一方、本件明細書【図面の簡単な説明】【0016】において「【図8】電気泳動試験から得られた結果をもとに算出した塩化物イオンの実効拡散係数を示すグラフである。」と記載されていることから、誤記であることは明らかであり、新規事項の追加に該当するものではない。 以上、訂正事項1?12は、いずれも新規事項の追加に該当しない。 (4)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1?12は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)独立特許要件 本件異議申立ては全ての請求項が対象となっており、異議申立てがされていない請求項についての訂正事項はないから、独立特許要件の検討は要しない。 3.小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号?第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1?6〕、7、8について訂正を認める。 第3 訂正後の本件特許に係る発明 令和元年9月13日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の記載は次のとおりであり、本件訂正後の請求項1、3?7に係る発明(それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」、まとめて「本件発明」という。)は、その請求項1、3?7に記載された事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 結合材と、 水と、 細骨材と、 粗骨材と、 高性能減水剤とを含むコンクリート用のコンクリート組成物であって、 前記結合材が、 普通ポルトランドセメントを45質量%?55質量%と、 高炉スラグ微粉末を35質量%?55質量%と、 フライアッシュを10質量%以下含み、 水結合材質量比が40%以下であり、 前記コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とすることを特徴とするコンクリート組成物。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 請求項1に記載のコンクリート組成物であって、 空気量が3.0?6.0%であることを特徴とするコンクリート組成物。 【請求項4】 請求項1又は3に記載のコンクリート組成物であって、 前記高炉スラグ微粉末が、ブレーン比表面積3000?6000cm^(2)/gであることを特徴としたコンクリート組成物。 【請求項5】 請求項1、3?4のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、 前記高炉スラグ微粉末が、JIS A 6206高炉スラグ微粉末4000の規定に該当するものを使用することを特徴としたコンクリート組成物。 【請求項6】 請求項1、3?5のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、 前記フライアッシュが、JIS A 6201フライアッシュII種に該当するものを使用することを特徴としたコンクリート組成物。 【請求項7】 コンクリートの製造方法であって、 普通ポルトランドセメントを45質量%?55質量%と、高炉スラグ微粉末を35質量%?55質量%と、フライアッシュを0質量%?10質量%とを含む結合材と、水と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤を含み、かつ水結合材質量比が40%以下、空気量が3.0?6.0%のコンクリート組成物を、混練する工程と、 該コンクリート組成物を蒸気養生させて硬化させる工程と を含み、 該コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とすることを特徴とするコンクリートの製造方法。 【請求項8】 (削除) 」 第4 取消理由通知書に記載した取消理由について 1.令和元年7月10日付け取消理由通知書について (1)取消理由の概要 当審が、令和元年7月10日付けの取消理由通知書で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 本件特許は、特許請求の範囲の記載に以下の(ア)及び(イ)の不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (ア)平成31年3月29日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2、7、8の「コンクリート組成物を養生させる際、・・・封緘養生を行った場合に」との記載では、養生条件の限定なのか、例示なのか明らかでない。 (イ)平成31年3月29日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2及び8の「中性化速度係数」について、発明の詳細な説明の記載を参酌してもどのように定められるものであるのかが明確でない。 (2)当審の判断 (ア)本件発明1及び7では、「コンクリート組成物を養生させる際、・・・封緘養生を行って」と特定されており、養生条件の限定であることが明確になっている。 (イ)本件訂正により、請求項2及び8は何れも削除された。 したがって、当該取消理由通知書で指摘した特許法第36条第6項第2号違反に係る取消理由は理由がない。 2.平成31年1月28日付け取消理由通知書(決定の予告)について (1)取消理由の概要 当審が、平成31年1月28日付けの取消理由通知書で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (ア)本件特許は、平成30年10月23日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2及び8の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(理由1)。 (イ)平成30年10月23日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3、6に係る発明は、甲第1号証又は甲第7号証に記載された発明であるから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(理由2)。 (ウ)平成30年10月23日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明は、甲第1?7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(理由3)。 (エ)本件特許は、平成30年10月23日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項7、8の記載に不備があり、「該コンクリート組成物を蒸気養生させて硬化させ、28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とする工程」あるいは「該コンクリート組成物を気中養生させて硬化させた状態で、中性化速度係数を0.8mm√週以下とする工程」との発明特定事項だけでは、当業者であっても、本件発明の課題が解決されることは認識できないものと認められるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(理由4)。 (2)当審の判断 ア.理由1は、本件訂正により、請求項2及び8が何れも削除されたので、理由はない。 イ.理由2及び理由3について (ア)各甲号証について(以下、甲第1?7号証について、それぞれ「甲1」・・・「甲7」などという。) 甲1:上田隆雄他,”フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を使用したプレキャストコンクリート部材の長期耐久性と微細構造”,2013,2012年度日本建築学会関東支部研究報告集I,p.125-128 甲2:”エンサイクロペディア[セメント・コンクリート化学の基礎解説]”,1996,第1版第1刷,p.94-95,社団法人セメント協会発行 甲3: 笠井芳夫他編,”改訂版 セメント・コンクリート用混和材料”,1993,改定版第1刷,p.39 甲4:JIS A 6206:2013,”コンクリート用高炉スラグ微粉末” 甲5:日本フライアッシュ協会編,”石炭灰ハンドブック第5版”,2010,p.I-18?I-19 甲6:JIS A 6201:1999,”コンクリート用フライアッシュ” 甲7:宮本欣明他,”高炉セメントB種にフライアッシュを用いた高流動コンクリートの流動特性およびコンクリートの品質に関する研究”,日本建築学会構造系論文集,2004年3月,第577号,p.1-7 (イ)甲1に記載された発明 甲1には、以下の(1a)?(1d)の記載がある。 (1a)「本研究ではコンクリートの物性および耐久性試験として,圧縮強度,中性化,塩害抑制効果について検討を行った。 2.1 供試体の作製 供試体は表-1に示す調合で作製した。本研究で対象とする供試体の調合は,普通ポルトランドセメントを水結合材比(W/B)42%で高性能AE減水剤を加えたもの(以下Nシリーズ),高炉スラグ微粉末をセメントの質量に対し内割で55%置換したもの(以下BFSシリーズ),また,セメントから10%および15%をフライアッシュ,45%および40%を高炉スラグ微粉末で置換したもの(以下FA10,FA15シリーズ)の4種類とした。」(p125左欄下から6行?同右欄7行) (1b)「養生方法は,気中養生と,プレキャストコンクリートを想定した蒸気養生の2種類を行った。気中養生は20±1℃,60±5%R.H.とし,蒸気養生は,打ち込み後20±1℃,60±5%R.H.で前養生したのち,昇温温度15℃/hで50℃まで昇温させ,50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続したのち20℃まで自然冷却した。蒸気養生終了後,試験材齢までは20±1℃,60±5%R.H.で気中養生とした。」(p125右欄8?15行) (1c)「 」(p125 表1 コンクリートの調合) (1d)「 」 (p127 図-8 空隙率とCl^(-)実行拡散係数の関係) 上記(1a)、(1c)より、甲1には、コンクリートに関し、中性化を含む物性及び耐久性試験の対象となった供試体として具体的に4種類のものが記載されており、その内のFA10シリーズは、普通ポルトランドセメントから10%をフライアッシュ、45%を高炉スラグ微粉末で置換したものであって、高性能AE減水剤が加えられており、水結合材比が37%であり、水、セメント、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、細骨材、粗骨材、減水剤が調合されたものであると認められる。 普通ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末とフライアッシュが結合材を構成し、硬化前のものがコンクリート組成物であることは明らかである。また、コンクリート組成物における(蒸気)養生の条件は、上記(1b)のとおりであり、その材齢3ヶ月のCl^(-)の実効拡散係数は、上記(1d)より、蒸気養生されたFA10のもので約0.05?0.06(cm^(2)/年)程度であるから、甲1には、 「結合材と、水と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とを含むコンクリート用のコンクリート組成物であって、前記結合材が、普通ポルトランドセメントから10%をフライアッシュ、45%を高炉スラグ微粉末で置換したものであり、水結合材比が37%であり、 前記コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後20±1℃、60±5%R.H.で前養生した後、昇温速度15℃/hで50℃まで昇温させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続したのち20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後、試験材齢までは20±1℃,60±5%R.H.で気中養生を行って、材齢3ヶ月のCl^(-)の実効拡散係数を約0.05?0.06(cm^(2)/年)程度としたものを一例としたコンクリート組成物。」 の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 (ウ)対比、判断(理由2:本件発明1について) 本件発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の一例となる結合材の成分割合は、表1に示されているFA10シリーズでのセメント、高炉スラグ微粉末、フライアッシュの単位量(kg/m^(3))が、それぞれ182、182、41であることから、普通ポルトランドセメント45質量%、高炉スラグ微粉末45質量%、フライアッシュ10質量%と換算されるので、本件特許発明1の普通ポルトランドセメント45質量%?55質量%、高炉スラグ微粉末35質量%?55質量%、フライアッシュ10質量%以下含むことに相当しており、養生前のコンクリートにおける組成は一致する。 また、両発明は、前養生から昇温し、蒸気養生終了までの養生条件についても、一致しているが、 本件発明1は、コンクリート組成物が「蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とする」ものであるのに対し、 引用発明1は、コンクリート組成物が「蒸気養生終了後、試験材齢までは20±1℃,60±5%R.H.で気中養生を行って、材齢3ヶ月のCl^(-)の実効拡散係数を約0.05?0.06cm^(2)/年程度とする」ものである点で相違する。 この相違点について検討するに、引用発明1の養生して28日後の実効拡散係数の数値は明示されていないものの、材齢3ヶ月のもので約0.05?0.06cm^(2)/年程度であれば、その2ヶ月程度前の実効拡散係数は更に数値が大きかったであろうことは自明であるから、この相違点は、蒸気養生終了後の養生条件に基づくものとして、実質的なものである。 してみれば、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。 次に、甲7には、高炉セメントB種、即ち普通ポルトランドセメントに高炉スラグを40?45%混入したものにフライアッシュを添加し置換した高流動コンクリートに関し、調合要因が流動特性および硬化コンクリートの品質に及ぼす効果について検討した実験結果に係る養生前のコンクリートについて、その組成が本件発明1と同様の発明が記載されている。 しかしながら、上記の引用発明1との対比と同様、甲7に記載された発明も、本件発明1と養生条件において相違しており、その28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とすることについては記載も示唆もない。 よって、本件発明1は甲7に記載された発明ではない。 (エ)対比、判断(理由2:本件発明3?6について) 本件発明3?6は、何れも本件発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定を付したものであるから、甲1に記載された発明ではなく、甲7に記載された発明でもない。 (オ)対比、判断(理由3:本件発明1、3?6について) 本件発明1と引用発明1との相違点については、上記(ウ)に示したとおりである。甲2?甲7には、引用発明1において、この相違点に係る養生条件を採択することについては記載も示唆もなく、養生を行って28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とすることについての記載も示唆もない。また、出願時の技術常識を考慮しても、甲2?甲7に記載された事項から、引用発明1において、相違点に係る養生条件とすることや養生を行って28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とすることを導き出すことはできない。 よって、本件発明1は、甲1?甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、本件発明3?6は、何れも本件発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定を付したものであるから、甲1?甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (カ)小括 以上のとおりであり、本件訂正により請求項2は削除されているから、理由2及び理由3は何れも理由がない。 ウ.本件発明7は、本件訂正により、本件明細書【0030】に記載された養生の条件がさらに特定され、本件発明の課題が解決できるものであることを当業者が認識できるものとなった。 また、本件訂正により、請求項8は削除された。 よって、理由4は理由がない。 3.平成30年8月24日付け取消理由通知書について (1)取消理由の概要 当審が、平成30年8月24日付けの取消理由通知書で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (ア)本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の請求項2の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(理由1)。 (イ)訂正前の特許請求の範囲の請求項1、3、6?8に係る発明は、甲第1号証又は甲第7号証に記載された発明であるから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(理由2)。 (ウ)訂正前の特許請求の範囲の請求項1、3?8に係る発明は、甲第1もしくは7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(理由3)。 (2)当審の判断 (ア)理由1は、本件訂正により、請求項2が削除されたので、理由はない(イ)理由2及び理由3について、本件発明1、3?6については、上記2.(2)で検討したと同様であり、何れも理由はない。 本件発明7は、本件訂正により「該コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とする」という本件発明1と同様の発明特定事項が更に追加されたコンクリートの製造方法の発明であり、甲1に記載された発明と対比した場合に、上記2.(2)イ.(ウ)で示したと同様の相違点を有するといえる。そうすると、本件発明7は、同様に、甲1に記載された発明ではなく、甲7に記載された発明でもないし、甲1もしくは甲7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 また、本件訂正により、請求項8は削除された。 よって、理由2及び理由3は何れも理由がない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 申立人は、訂正前の請求項2に係る発明について、明細書及び特許請求の範囲の記載に不備があり、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであることも主張しているが、請求項2は、本件訂正により削除された。 第6.むすび 以上のとおり、請求項1、3?7に係る特許については、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。また、他に請求項1、3?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項2、8は、訂正により削除されたため、これらの請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 コンクリート組成物及びコンクリートの製造方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、プレキャストコンクリートなどに使用するコンクリート組成物及びこれを用いたコンクリートの製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 近年の環境意識の高まりを受け、コンクリートの分野においても環境負荷を低減するため、二酸化炭素(CO_(2))排出量の削減が求められている。セメントは、その製造過程で多大な二酸化炭素を発生することが知られている。一般に利用されるポルトランドセメントの製造によって発生するCO_(2)は、セメント1t当り焼成エネルギーで約350kg/t、原料の石灰石から約450kg/t、合計約800kg/tであり、膨大な量となっている。セメント産業全体ではわが国全体の約3%に相当する。セメントの年間消費量が莫大であることからも、セメントの消費量を節約できれば、二酸化炭素排出量の削減効果は極めて大きく、社会的意義も大きいと考えられる。 【0003】 このような観点から、土木工事に用いるコンクリートについては、製鉄所の銑鉄製造工程である高炉から生成する副産物である高炉スラグの微粉末をポルトランドセメントに混合したコンクリート組成物が一部で用いられている。高炉スラグの混入量を多くすることで、ポルトランドセメントの使用量を低減し、もって二酸化炭素排出量も削減できる。高炉スラグ微粉末を用いたセメントとしては、既に日本工業規格JISR5211において、高炉セメントとして規格化されている。これによれば、高炉セメントA種では高炉スラグ微粉末の含有量が5?30質量%、B種では30?60質量%、C種では60?70質量%と定められている。ただし実際に流通し、使用されているのは、高炉スラグ微粉末の含有量が50質量%前後のB種セメントが大半を占める。なおセメント製造時のCO_(2)を削減する目的に鑑みれば、高炉セメントA種では不十分である。B種も十分ではないが、これとは別に高炉セメントB種は普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートに比べて中性化が速く、乾燥収縮が大きいといった課題があり、その利用拡大は必ずしも進んでいない。また高炉セメントC種ではCO_(2)削減効果はより大きくなるものの、上記のB種における中性化、乾燥収縮の問題がさらに強く発現するため、殆ど利用されていないのが実情である。 【0004】 このような高炉スラグ微粉末やフライアッシュを用いたコンクリート組成物の利用を促進するには、コンクリート組成物の品質向上が必須である。特に中性化の問題は、鉄筋コンクリートを劣化させる要因として知られている。中性化(Carbonation)とは、硬化したコンクリートが空気中の二酸化炭素の作用を受けて次第にアルカリ性を失っていく現象である。コンクリートは主成分がセメントであるため内部がアルカリ性であるが、外部からの二酸化炭素の侵入によって中性化が進むと、鋼材の不動態被膜が失われ、耐腐食性が低下する。したがって、コンクリート組成物の利用を普及させるには、中性化を抑制することが重要となる。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】特開2010-6662号公報 【特許文献2】特開2006-8442号公報 【特許文献3】特開2005-272260号公報 【特許文献4】特開2005-154213号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は、このような背景に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、ポルトランドセメントの使用量を抑制して二酸化炭素使用量を低減する一方で、中性化を抑制したコンクリート組成物及びコンクリートの製造方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段及び発明の効果】 【0007】 上記の目的を達成するために、本発明に係るコンクリート組成物によれば、結合材と、水と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とを含むコンクリート用のコンクリート組成物であって、前記結合材が、普通ポルトランドセメントを45質量%?55質量%と、高炉スラグ微粉末を35質量%?55質量%と、フライアッシュを10質量%以下含み、水結合材質量比を40%以下であり、前記コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とする。上記構成により、中性化速度を遅らせたコンクリートを実現できる。 【0008】 【0009】 また、中性化速度係数は、0.8mm√週以下とすることが望ましい。 【0010】 さらに、空気量は3.0?6.0%とすることが好ましい。 【0011】 一方高炉スラグ微粉末は、ブレーン比表面積3000?6000cm^(2)/gとすることができる。 【0012】 また高炉スラグ微粉末として、JISA6206高炉スラグ微粉末4000の規定に該当するものを使用することが好ましい。 【0013】 さらにフライアッシュは、JISA6201フライアッシュII種に該当するものを使用することが好ましい。 【0014】 上記のコンクリート組成物を混練した後、蒸気養生してコンクリートを製造できる。あるいは上記のコンクリート組成物を混練した後、気中養生してコンクリートを製造することもできる。 【0015】 またコンクリートの製造方法は、普通ポルトランドセメントを45質量%?55質量%と、高炉スラグ微粉末を35質量%?55質量%と、フライアッシュを0質量%?10質量%とを含む結合材と、水と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤を含み、かつ水結合材質量比が40%以下、空気量が3.0?6.0%のコンクリート組成物を、混練する工程と、該コンクリート組成物を蒸気養生させて硬化させる工程とを含み、該コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とすることができる。 【図面の簡単な説明】 【0016】 【図1】電気泳動試験の様子を示す模式図である。 【図2】図2Aは中性化深さの測定方向として割裂位置を示す斜視図、図2Bは測定後の試験体を示すイメージ図である。 【図3】参考例1?2、実施例3?6及び比較例1?4に係るコンクリートの空隙率の測定結果を示すグラフである。 【図4】示差熱重量分析から得られた結果より算出したコンクリート中のCa(OH)_(2)の量を示すグラフである。 【図5】養生期間に伴う圧縮強度の経時変化を示すグラフである。 【図6】養生期間28日における空隙率と圧縮強度の関係を示すグラフである。 【図7】陽極側セルの塩化物イオン濃度の経時変化を示すグラフである。 【図8】電気泳動試験から得られた結果をもとに算出した塩化物イオンの実効拡散係数を示すグラフである。 【図9】フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を混和した場合の、促進中性化試験期間中の中性化深さの経時変化を示すグラフである。 【図10】表面保護剤を塗布した場合の促進中性化試験期間中の中性化深さの経時変化を示すグラフである。 【図11】参考例1?2、実施例3?6及び比較例1?4に係るコンクリートの中性化速度係数を示すグラフである。 【図12】コンクリートの空隙率と中性化速度係数の関係を示すグラフである。 【図13】コンクリート中のCa(OH)_(2)量と中性化速度係数の関係を示すグラフである。 【発明を実施するための形態】 【0017】 以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するためのコンクリート組成物及びコンクリートの製造方法を例示するものであって、本発明はコンクリート組成物及びコンクリートの製造方法を以下のものに特定しない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。 【0018】 フライアッシュや高炉スラグ微粉末など、各種産業副産物のセメント材料の一部代替材料としての利用は、地球環境負荷低減効果が大きく、その利用が進められている。さらに、これら副産物の利用がコンクリート構造物を製造する上でいくつかのメリットを持つことがこれまでに報告されている。例えば、高炉スラグやフライアッシュのマイクロフィラー効果や、ポゾラン反応によるコンクリート組織の緻密化は、外部からの塩化物イオンなどの劣化因子の侵入を抑制し、構造物の耐久性向上効果を持つこととされている。その一方で、セメント量の減少やポゾラン反応によって、コンクリート中のpHは低下し、中性化抵抗性の低下が懸念されている。そこで、特に中性化抵抗性を改善すべく本願発明者らは鋭意研究の結果、コンクリートに混和する高炉スラグとフライアッシュの比率を調整することで、組織の緻密化による劣化因子の侵入抑制効果が得られることを確認し、本発明を為すに至った。 【0019】 本発明の実施の形態に係るコンクリート組成物は、普通ポルトランドセメントを45質量%?65質量%と、高炉スラグ微粉末を25質量%?55質量%と、フライアッシュ10質量%以下からなる結合材と、水と、細骨材と、粗骨材と高性能減水剤とを混練して製造されたコンクリート用のコンクリート組成物である。このようにすることで、中性化に対する抵抗性を発揮できることを本発明者らは見出した。その理由は、コンクリート組織が緻密となることで、外部からの二酸化炭素の侵入を抑制して、中性化の抑制効果が高められたものと思われる。また必要に応じて、コンクリート表面に保護材を塗布することもできる。特に保護材を重ね塗りすることで、中性化速度を遅らせる効果が期待できる。 【0020】 また、プレキャストコンクリートに用いる場合には、蒸気養生時間を最小限にしながら脱型強度を確保すると共に、製品の出荷時の強度、耐久性から必要とされる基準強度を満足するため、コンクリートの調合設計に用いられる設計基準強度は36N/mm^(2)とすることが一般的である。この設計基準強度を満足するためには、水結合材比は40%程度以下とする必要がある。また、空気量を3.0?6.0%にすることにより、耐凍害性に優れたコンクリートを得ることができる。なお空気量が3.0%未満となれば耐凍害性が低下し、6.0%を超えると強度が低下する。 【0021】 このコンクリート組成物は、結合材に用いる高炉スラグ微粉末を、ブレーン比表面積3000?6000cm^(2)/gとすることが好ましい。すなわち、このコンクリートでは高炉スラグ微粉末を使用することにより、普通ポルトランドセメントのみを使用するコンクリート組成物に比べ、二酸化炭素を低減しながら耐凍害性、耐塩害性、低収縮性を兼ね備え、十分な初期強度も得られると共に、製造コストも低減できる。なお、ブレーン比表面積が3000cm^(2)/g未満であると耐塩害性や低収縮性が低下し、逆に6000cm^(2)/gを超えるとひび割れが増加傾向となって、製造コストも増加する。よって上述の通り、3000?6000cm^(2)/gの範囲とすることで、好ましい特性を発揮できる。 【0022】 また、このコンクリート組成物の結合材には、フライアッシュII種を用いることが好ましい。フライアッシュは球状の微粒子であるため、15質量%以下程度で使用することで、そのボールベアリング作用により、特に水結合材比の小さいコンクリートにおいて、流動性が向上し単位水量が減じられる。また、普通ポルトランドセメントの置換により、二酸化炭素を低減することができると共に、コンクリートがより緻密になり、耐凍害性、耐塩害性、低収縮性を確保できる。 【0023】 コンクリートを製造するには、コンクリート組成物を混練して蒸気養生する。この製造方法によれば、上述した二酸化炭素削減効果を発揮するコンクリート組成物であるコンクリート組成物を用いているので、優れた耐凍害性、耐塩害性、低収縮性を兼ね備えたプレキャストコンクリートに適した二酸化炭素低減型のコンクリートを得ることができる。一般的には、高炉スラグ微粉末を用いたコンクリートは、普通ポルトランドセメントを単独で用いたコンクリートに比べて、乾燥収縮量が大きくなる。これに対して上述のコンクリート組成物を用いたコンクリート組成物を蒸気養生し、早期に水和反応させ強度発現させることにより、蒸気養生後の乾燥収縮量を、普通ポルトランドセメントを単独で用いた場合に比べて低減することができる。これにより、製品として供用している間に乾燥収縮のために発生するひび割れを抑制することができる。 【0024】 コンクリート組成物に使用する減水剤には、一般に市販されている「JISA6204コンクリート用化学混和剤」に適合する高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することが好ましい。これにより、コンクリートを練り混ぜたときのワーカビリティも良好となり、単位水量を大幅に低減することができる。また水結合材比のより小さいコンクリートを容易に得ることができるため、更に耐久性を向上させることができる。 【0025】 以上のようにして、耐凍害性、耐塩害性、低収縮性を備えたコンクリート組成物を実現できる。特に、普通ポルトランドセメントを45質量%?55質量%、高炉スラグ微粉末を35質量%?55質量%、フライアッシュを0質量%?10質量%用い、空気量を3.0?6.0%に設定し、蒸気養生を行うことで初期の強度発現性も確保されると共に、耐凍害性、耐塩害性、低収縮性に優れ、耐久性を向上させることができる。なおかつ、普通ポルトランドセメントの使用量を低減できる結果、二酸化炭素の発生量を低減できる。このように、本実施の形態によれば、耐久性に優れ、二酸化炭素を低減したプレキャストコンクリートを得ることが可能となる。 (実施例) 【0026】 次に、本発明の実施例としてフライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を混和材として利用したコンクリート性の試験体を作成し、中性化抵抗性について、組織の緻密化による劣化因子の侵入抑制効果と、pHの低下の関係から、最適な配合条件を調べた。 (試験体の作製) 【0027】 本参考例1?2、実施例3?6及び比較例1?4に用いたコンクリートの調合を表1に、使用材料を表2に示す。普通ポルトランドセメントのみを用いて水セメント比(W/C)42%のものをN調合(比較例1)、セメントから内割置換で20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%を高炉スラグ、さらに、5%、10%、15%をフライアッシュで置換したものをそれぞれB30F5(参考例1)、B25F10(参考例2)、B20F15(比較例2)、B40F5(実施例3)、B35F10(実施例4)、B30F15(比較例3)、B50F5(実施例5)、B45F10(実施例6)、B40F15(比較例4)とした。なお、N調合(比較例)とB30F5(参考例1)、B25F10(参考例2)、B20F15(比較例2)、B40F5(実施例3)、B35F10(実施例4)、B30F15(比較例3)、B50F5(実施例5)、B45F10(実施例6)、B40F15(比較例4)の水結合材比は、N調合(比較例)が42%、各参考例及び実施例が37%であり、材齢28日における圧縮強度が概ね同程度となるように調整されている。 【0028】 【表1】 【0029】 【表2】 【0030】 ここで養生は、プレキャストコンクリートを想定した蒸気養生を行った。蒸気養生は、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却した。蒸気養生終了後は2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行った。 【0031】 試験体には、圧縮強度試験用、塩害抵抗性試験用にそれぞれ、φ100×200mmの円柱供試体を各試験、各パラメータに3本ずつ、促進中性化試験用に100×100×200mmの角柱供試体を各パラメータに3本ずつ作製した。 (コンクリートの空隙率測定) 【0032】 得られた各実施例、比較例に係る試験体に対し、まずコンクリートの空隙率を測定した。空隙率は、飽水状態(相対含水率100%)のコンクリートでは、すべての空隙中が水で満たされていると考え、その水の量を測定することで、(1)式により算出した。なお、24時間水に浸漬させ飽水状態、105℃の乾燥炉にて24時間乾燥させ絶乾状態とした。測定は、養生期間28、91日において行った。 【0033】 【数1】 【0034】 上式において、W_(o)は飽水状態の供試体の質量、W_(d)は絶乾状態の供試体の質量を、それぞれ示している。 (示差熱重量分析によるコンクリート中のCa(OH)_(2)量の測定) 【0035】 次に、示差熱重量分析によるコンクリート中のCa(OH)_(2)量を測定した。ここでは、20±2℃で封緘養生した円柱供試体から養生期間28、91、180日後にΦ100×30mmの試験片を切り出し、ハンマーで砕いた後アセトンに侵漬させ水和停止処理を行った。水和停止処理終了後さらに電動乳鉢にて微粉に粉砕し、0.15mmの篩に全通させた試料を測定試料とした。熱分析の標準試料となるアルミナ(Al_(2)O_(3))と試料をそれぞれ試験皿に20mg程度量り採り、装置にセットし、温度プログラムを設定温度550℃、昇温温度10K/minとして、示差熱重量分析法(TG-DTA法)により測定を行った。なお、測定には差動型示差熱天秤(Thermo Plus 2 TG8120((株)リガク製))を用いた。 【0036】 Ca(OH)_(2)は450℃付近でCaOとH_(2)Oに分解する際にH_(2)Oが減少するため、ピーク温度に達する熱重量減量を式(2)によって有算出できる。 【0037】 【数2】 (コンクリートの圧縮強度試験) 【0038】 さらにコンクリートの圧縮強度試験を行った。ここでは、JIS A 1108「コンクリートの圧縮試験方法」に準拠してコンクリートの圧縮強度試験を行った。試験は、養生期間1、7、28日に実施した。コンクリートの最大荷重を測定し、圧縮強度は次式(3)によって算出した。 【0039】 【数3】 【0040】 ここで、F_(c)は破壊時の最大荷重(N)、Aは加圧した面の面積(mm^(2))を、それぞれ示している。 (コンクリートの耐久性試験) 【0041】 次に、コンクリートの耐久性試験として、塩害及び中性化に対する試験をそれぞれ行った。 (コンクリートの耐塩害試験) 【0042】 まず、電気泳動による耐塩害性評価試験を、「コンクリート中の塩化物イオンの実効拡散係数試験方法(案)(JSCE-G 571-2003)」に基づいて行った。電気泳動法では、塩化物イオンを含む溶液と接しているコンクリート供試体の両側に直流の定電圧を印加することで、負電荷をもつ陰極側の塩化物イオンがコンクリートの細孔中を通って陽極側へ強制的に泳動する。塩化物イオンは電気泳動試験開始時からコンクリート中へ移動するが、初期においては塩化物イオンがコンクリート中のセメント水和物による固定化と電気泳動を繰り返しながら移動すると考えられるため、非定常状態で電気泳動すると考えられる。そのため、この影響を除外するために陽極側の塩化物イオン濃度の増加割合が一定に達し、細孔中の塩化物イオンは定常状態にあると見なせるときの流速を用いることにする。なお、電気泳動法は強制的に塩化物イオンとコンクリート中に泳動させるため短期間で試験を行うことができ、塩化物イオンに対する抵抗が大きく浸漬試験により見かけの拡散係数を求めるには試験期間が著しく長くなるようなコンクリート供試体について有効である。しかし、一般に耐久性照査に用いられるのは見かけの拡散係数であるため、電気泳動法により得られる実行拡散係数からの換算が必要であるが、本実施例では実行拡散係数による比較で行った。 【0043】 各供試体は、Φ100×200mmの円柱供試体の中央部よりΦ100×50mmを切り出し、この側面部を防水テープとエポキシ樹脂でコーティングすることで外部との接触を完全に遮断し、円形の断面に図1に示すようにセルを取り付けた。電気泳動装置へ供試体をセットした後、陽極側セルには水酸化ナトリウム水溶液 0.3mol/L、陰極側セルに塩化ナトリウム水溶液0.5mol/Lを注入する。これは、コンクリート中の細孔の中にある間隙水のpHと海水を模したものである。通電は、一般的な電気泳動法で利用される直流定電圧15Vを直流安定化電源で電極間へ継続的に印加した。印加後、所定の期間ごとに陽極側のセルから溶液を採取し、塩化物イオン濃度を測定し、式(4)にて塩化物イオンの流速を算出した。 【0044】 【数4】 【0045】 ここで、J_(cl)は塩化物イオンの定常状態における流速(mol/(cm^(2)・年))、V^(H)は陽極側の溶液体積(L)、Aは供試体断面積(cm^(2))、 それぞれ示している。 【0046】 なお陽極の塩化物イオン濃度の経時変化が一定の傾きをもって変化していると見なされる状態を定常状態として判断した。式(4)にて得られた値より、コンクリートの塩化物イオンの実行拡散係数は式(5)によって算出した。 【0047】 【数5】 【0048】 ここで、D_(e)は実効拡散係数(cm^(2))、Rは気体定数(8.31J/(mol/K))、Tは絶対温度測定値(K)、Lは供試体厚さ(mm)、Z^(cl)は塩化物イオンの電荷(=^(-1))、Fはファラデー定数(96500C/mol)、C_(cl)は陰極側の塩化物イオン濃度測定値(mol/L)、ΔE-ΔE_(c)は供試体表面間の測定電位(V)を、それぞれ示している。 (コンクリートの促進中性化試験) 【0049】 次に、試験体として円柱供試体に代えて角柱供試体を用いて、コンクリートの促進中性化試験を行った。この促進中性化試験は、JIS A 1153「コンクリートの促進中性化試験方法」及びJIS A 1152「コンクリートの中性化深さの測定方法」に準拠して行った。 【0050】 供試体は100mm×100mm×200mmの角柱供試体を用い、温度20±2℃、湿度60±5%R.H.の恒温恒湿室に静置し前養生を行い、養生期間28、91日においてそれぞれ試験を開始した。また、供試体には試験開始3日前に、供試体の打ち込み面及び底面の2面に二酸化炭素を遮断するのに十分なよう、エポキシ樹脂にて5mm程度にピンホールができないようにシールした。また、表面保護剤の使用効果の確認も行うために、普通ポルトランドセメントの使用量が最も少なくフライアッシュの使用比率が最も多い配合B40F15において、保護剤A(1液型水系撥水剤)、保護剤B(1液型水系エフロ防止剤)をそれぞれ暴露面に1回塗り、2回塗りを行った。 【0051】 中性化の促進条件は、温度20±2℃、相対湿度60±5%R.H.、二酸化炭素濃度5±0.2%とした。供試体個々の促進環境条件が均等になるように供試体間隔は20mm以上開けて設置し、1週間ごとにチャンバー内の供試体の設置位置をランダムに移動させた。なお、供試体の暴露面は鉛直になるように設置した。 【0052】 中性化深さは、所定の促進期間に達した時点で図2Aに示すように測定面を供試体の長さ方向と直角に供試体を端部から約35mmずつ割裂後、測定面に付着したコンクリートの小片や粉をはけで除去した後、JIS K 8001に規定されるフェノールフタレイン溶液を墳霧器で滴らない程度に噴霧した。このとき、空気中に長時間放置しておくと測定面が中性化して中性化深さが測定できない恐れがあるので、測定面の処理が終了した後直ちにフェノールフタレイン溶液を墳霧する。なお、フェノールフタレイン溶液は95%エタノール90mLにフェノールフタレインの粉末1gを溶かし、水を10mL加えたものである。測定にはノギスを用いて、図2Bに示すように各供試体の2面、10か所の平均値と、3個の供試体の各2面、合計6面の30か所の平均値を各々計算し、四捨五入によって小数点以下2桁に丸めた。 【0053】 中性化深さは、促進開始時からの期間に比例するとされており、中性化速度を表す方法として式(6)に示すように表すことができる。なお、測定は促進期間が1、4、8、13、26週で行った。 【0054】 【数6】 【0055】 ここで、xは中性化深さ(mm)、aは中性化速度係数(mm/√週)、tは促進期間(週)を、それぞれ示している。 (コンクリートの空隙率の測定結果) 【0056】 次に、コンクリートの空隙率の測定結果を図3に示す。養生28日では、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末を混和した調合は、N調合(比較例1)に比べ空隙率が大きい。これは、養生28日では未反応のフライアッシュや高炉スラグ微粉末が多く存在するためであると考えられる。また、各セメント置換率で高炉スラグ微粉末割合が高いもの程空隙率が小さくなる傾向がみられた。これは、ポゾラン反応よりも潜在水硬性による硬化が早期に進行していると考えられる。さらに、フライアッシュと高炉スラグ微粉末の粉末度の違いによるものだと考えられ、フライアッシュよりも高炉スラグ微粉末の比表面積が大きいことから、セメントペーストの微小空隙を充鎮するマイクロフィラー効果が発揮されたものと推測される。 【0057】 養生91日になると、空隙率はフライアッシュ、高炉スラグ微粉末を混和した調合はN調合(比較例1)とほぼ同等か、これよりも小さくなった。これは、フライアッシュや高炉スラグ微粉末のポゾラン反応や潜在水硬性による硬化が進行し、コンクリートの緻密化が進行したものと考えられる。 (示差熱重量分析によるコンクリート中の量の測定結果) 【0058】 さらに、示差熱重量分析から得られた結果より算出したコンクリート中のCa(OH)_(2)の量を図4に示す。N調合(比較例1)においては、養生が進むにつれコンクリート中のCa(OH)_(2)の量は増加傾向にある。これは、水和反応の進行によりCa(OH)_(2)が生成されているためである。また、養生の進行に伴いCa(OH)_(2)の生成量が収束する傾向となったのは、水和反応によるCa(OH)_(2)の生成がある程度終結したためだと考えられる。 【0059】 フライアッシュ、高炉スラグ微粉末を混和した調合においては、セメント置換率が高くなる程コンクリート中のCa(OH)_(2)の量は減少傾向にある。また、養生が進むにつれコンクリート中のCa(OH)_(2)の量は減少し、フライアッシュ割合が高い程減少割合が大きくなる傾向が見られた。これは、セメント置換率が高くなれば単位セメント量が減少し、水和反応によるCa(OH)_(2)生成量が少なるためと考えられる。さらに、単位フライアッシュ量が増加するとポゾラン反応よるCa(OH)_(2)消費量が多くなり、減少割合が増大したものと考えられる。 (コンクリートの圧縮強度結果) 【0060】 養生期間に伴う圧縮強度の経時変化を図5に示す。N調合(比較例1)に比べフライアッシュ、高炉スラグ微粉末を混和したものは初期強度が低くなるが、養生28日ではN調合(比較例1)とほぼ同等かそれ以上となった。これは、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末を混和したものは、養生期間が経つことにポゾラン反応や潜在水硬性による硬化が進行したためだと考えられる。 【0061】 養生1と7日における圧縮強度は、セメント置換率が高いもの程低くなる傾向となった。これは、単位セメント量の減少によるものであると考えられる。 【0062】 養生期間28日における空隙率と圧縮強度の関係を図6に示す。コンクリートの空隙率と圧縮強度には高い相関関係が見られ、空隙率が高いもの程圧縮強度は低く、空隙率が低い程圧縮強度は高い傾向にある。また、フライアッシュ割合が高いもの程空隙率が高く圧縮強度が低くなる傾向が見られた。 (コンクリートの塩害試験結果) 【0063】 陽極側セルの塩化物イオン濃度の経時変化を図7に示す。先の試験概要で述べた通り、試験初期においては塩化物イオン濃度の増加がみられない。これは、コンクリート水和に伴い細孔に塩化物イオンが固定化してしまうため電気泳動を妨げていることを示している。また、フライアッシュや高炉スラグ微粉末を混和した場合、フリーデル氏塩やカルシウムシリケート水和物(C-S-H)による塩化物イオンの吸着により塩化物イオンの固定化量は増加するとされている。 【0064】 電気泳動試験から得られた結果をもとに算出した塩化物イオンの実効拡散係数を図8に示す。フライアッシュ、高炉スラグ微粉末を混和した調合はN調合(比較例1)に比べCl^(-)の実効拡散係数が大幅に小さくなり、良好な耐塩害性が得られるという結果となった。これは、フライアッシュや高炉スラグ微粉末を混和することで固定塩化物イオンの増加や、コンクリート組織の緻密化及び、空隙構造の変化が生じコンクリート内の塩化物イオンの浸透が抑制されていると考えられる。 (コンクリートの促進中性化試験) 【0065】 次に、コンクリートの促進中性化試験を行った。ここでは、養生期間28日、91日として、それぞれ促進中性化試験を開始した。フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を混和した場合の、促進中性化試験期間中の中性化深さの経時変化を図9に、あわせて表面保護剤を塗布した場合の試験結果を図10に示す。中性化深さの増加割合は、N調合(比較例1)では養生28、91日ともにほぼ同等であった。フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を混和した調合においては、養生28日に比べて91日では増加割合が小さくなった。これは、ポゾラン反応や潜在水硬性による硬化が進行し、コンクリート組織が緻密化されることでの侵入が抑制されたためだと考えられる。 【0066】 また、試験結果から算出した中性化速度係数を図11に示す。ここでは、上述した参考例1?2、実施例3?6、比較例1?4に加えて、参考例として普通コンクリートの中性化速度係数も掲載した。この普通コンクリートは、プレキャストコンクリートではなく、建築現場でコンクリートを打って建物を建設する場合に使用されるものである。ここでは、W/C=50%に該当するコンクリートの材齢28日における設計基準強度が27N/mm^(2)に相当するコンクリートで、普通ポルトランドセメントを使用したものである。なお一般的な建築用コンクリートには、設計基準強度が24?27N/mm^(2)のコンクリートが使用されている。このデータは、安部道彦「コンクリートの促進中性化試験法の評価に関する研究」日本建築学会構造系論文集No.409,pp.1-10,1990より引用した。 【0067】 養生28日において、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末を混和した調合は、N調合(比較例1)に比べ中性化速度が大きくなった。これは、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末をセメント代替として使用したことで、単位セメント量の減少によるCa(OH)_(2)生成量の低下や、ポゾラン反応によるCa(OH)_(2)の消費によるものだと考えられる。一方で、養生91日とすると28日に比べ中性化速度は抑制される結果となった。これは、コンクリート中の物質はコンクリートの空隙量に支配されることから、コンクリート組織が緻密化されることで空隙量が減少し、中性化進行の要因であるCO_(2)の侵入が抑制され、中性化速度が小さくなったと考えられる。 【0068】 また、参考例として、一般的な調合条件で作製されたW/C=50%(普通養生)における中性化の進行速度と比較すると、本発明の実施例に係る試験体の中性化進行速度係数は小さな値となっている。すなわち、セメントや、フライアッシュ、高炉セメントの水和や反応特性を考慮し、十分な養生を施すことで、炭酸化に対して必ずしもこれら混和材の利用は不利にならないことが確認できた。 (コンクリートの内部組織と中性化の進行速度の関係) 【0069】 コンクリートの空隙率と中性化速度係数の関係を図12に示す。この図に示すように、空隙率が低く密なコンクリート程中性化速度は小さくなる傾向がある。また、養生28日においてフライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を混和した調合ではセメント置換率が高く単位フライアッシュ量が多い程中性化速度は大きくなる傾向があるが、養生が進むと混和材量による中性化速度の差はほぼ同等となった。これは、コンクリートの空隙をCO_(2)が通るための屈曲した連続流路と考えると、疎なコンクリートは流路が広いと考えることができる。コンクリート中の物質はコンクリートの空隙量に支配されることから、ポゾラン反応や潜在水硬性の硬化によりコンクリート組織が緻密化され空隙量が減少し、CO_(2)の浸透が抑制され中性化速度が小さくなったと考えられる。 【0070】 コンクリート中のCa(OH)_(2)量と中性化速度係数の関係を図13に示す。コンクリート中のCa(OH)_(2)量が多い程中性化速度は小さくなる傾向がある。これは、CO_(2)とCa(OH)_(2)が反応しCaCO_(3)を生成することでコンクリートのphが低下し中性化が進行するため、中性化速度が小さいコンクリート程Ca(OH)_(2)が多く存在していると考えられる。しかし、養生91日ではコンクリート中のCa(OH)_(2)量は減少しているにもかかわらず、中性化速度はほぼ同等となった。 【0071】 これらの結果は、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を混和したコンクリートに十分な養生を施すことによって、空隙構造をより密なものとし、量による中性化抵抗性の低下を補うことが可能であると考えられる。 【0072】 以上の通り、コンクリートの空隙率は、短期養生ではフライアッシュや高炉スラグを用いたコンクリートの方がN調合(比較例1)と比べ粗となるが、長期養生とすることでポゾラン反応や潜在水硬性による硬化が進行し、N調合(比較例1)よりも密となる。 【0073】 またコンクリート中の量は、セメント置換率が高いもの程単位セメント量の減少による生成量の低下やポゾラン反応による消費量の増加によって減少する。 【0074】 さらにコンクリートの圧縮強度は、空隙率とよい比例関係にあり、空隙率が低いもの程高くなった。 【0075】 さらにまたコンクリート中の塩化物イオンの拡散係数は、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を混和することで、N調合(比較例1)に比べ大幅に減少した。これは、塩化物イオンの固定化やコンクリート組織の緻密化、空隙構造の変化等の作用によるものと考えられ、高い耐塩害性を付与させることが可能である。 【0076】 加えてコンクリートの中性化速度は、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を混和することで、N調合(比較例1)に比べセメント置換率が高いもの程大きくなった。ただし、91日養生(長期養生)を行うことで耐中性化抵抗性が改善された。すなわち、組織の緻密化が発揮されるよう十分な養生を施すことで、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を混和したコンクリートにおいても中性化抵抗性を持たせることが可能であると考えられる。 【0077】 さらに表面保護剤を塗布することで、中性化抵抗性の向上効果をさらに得ることもできる。 【産業上の利用可能性】 【0078】 本発明のコンクリート組成物及びコンクリートの製造方法は、結合材として普通ポルトランドセメントに高炉スラグ微粉末とフライアッシュを加えた三成分系セメントとして好適に利用でき、これをコンクリート建造物等に利用することで二酸化炭素削減効果を高められる。特に三種類を混合したセメント自体は、知られてはいるものの、現実には殆ど利用されていない。本発明によれば、実用可能な三成分系セメントとして、フライアッシュ混合型高炉セメントコンクリート等と同様に好適に利用できる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 結合材と、 水と、 細骨材と、 粗骨材と、 高性能減水剤とを含むコンクリート用のコンクリート組成物であって、 前記結合材が、 普通ポルトランドセメントを45質量%?55質量%と、 高炉スラグ微粉末を35質量%?55質量%と、 フライアッシュを10質量%以下含み、 水結合材質量比が40%以下であり、 前記コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とすることを特徴とするコンクリート組成物。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 請求項1に記載のコンクリート組成物であって、 空気量が3.0?6.0%であることを特徴とするコンクリート組成物。 【請求項4】 請求項1又は3に記載のコンクリート組成物であって、 前記高炉スラグ微粉末が、ブレーン比表面積3000?6000cm^(2)/gであることを特徴としたコンクリート組成物。 【請求項5】 請求項1、3?4のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、 前記高炉スラグ微粉末が、JIS A 6206高炉スラグ微粉末4000の規定に該当するものを使用することを特徴としたコンクリート組成物。 【請求項6】 請求項1、3?5のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、 前記フライアッシュが、JIS A 6201フライアッシュII種に該当するものを使用することを特徴としたコンクリート組成物。 【請求項7】 コンクリートの製造方法であって、 普通ポルトランドセメントを45質量%?55質量%と、高炉スラグ微粉末を35質量%?55質量%と、フライアッシュを0質量%?10質量%とを含む結合材と、水と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤を含み、かつ水結合材質量比が40%以下、空気量が3.0?6.0%のコンクリート組成物を、混練する工程と、 該コンクリート組成物を蒸気養生させて硬化させる工程と を含み、 該コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl^(-)の実効拡散係数を0.05cm^(2)/年未満とすることを特徴とするコンクリートの製造方法。 【請求項8】 (削除) 【図面】 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-12-20 |
出願番号 | 特願2014-82348(P2014-82348) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C04B)
P 1 651・ 536- YAA (C04B) P 1 651・ 121- YAA (C04B) P 1 651・ 113- YAA (C04B) P 1 651・ 851- YAA (C04B) P 1 651・ 852- YAA (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡田 隆介 |
特許庁審判長 |
服部 智 |
特許庁審判官 |
金 公彦 菊地 則義 |
登録日 | 2017-12-01 |
登録番号 | 特許第6251626号(P6251626) |
権利者 | 株式会社 北岡組 |
発明の名称 | コンクリート組成物及びコンクリートの製造方法 |
代理人 | 豊栖 康弘 |
代理人 | 藤原 尚恵 |
代理人 | 藤原 尚恵 |
代理人 | 豊栖 康弘 |
代理人 | 豊栖 康司 |
代理人 | 豊栖 康司 |