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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G11B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G11B
管理番号 1359563
異議申立番号 異議2019-700018  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-15 
確定日 2020-01-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6362385号発明「基板の製造方法および研磨用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6362385号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、4〕、〔2、5〕、〔3、6〕について訂正することを認める。 特許第6362385号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6362385号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成26年4月4日の出願であって、平成30年7月6日にその特許権の設定登録(特許公報発行日 平成30年7月25日)がされ、平成31年1月15日に特許異議申立人相見彩により請求項1?4に対して特許異議の申立てがされたものである。
そして、その後の経緯は次のとおりである。

平成31年 4月 8日付け 取消理由通知
令和 元年 6月10日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年 8月 5日 意見書の提出(特許異議申立人)
同年 8月20日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年10月28日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年12月 4日 意見書の提出(特許異議申立人)

第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨、訂正の内容
(1)請求の趣旨
令和元年10月28日に特許権者により行われた、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、特許第6362385号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを求める、というものである。

(2)訂正の内容
本件訂正の内容は、以下ア?ニのとおりである。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「研磨パッドをパッドドレッシングする工程(a)」と記載されているのを、「ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?4も同様に訂正する)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記パッドドレッシングされた研磨パッドおよび研磨液を用いてダミー研磨する工程(b)」と記載されているのを、「前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨する工程(b)」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?4も同様に訂正する)。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含み、」と記載されているのを、「研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法であって、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?4も同様に訂正する)。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「前記研磨液は、コロイダルシリカ砥粒とパッド表面調整剤とを含む」と記載されているのを、「前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?4も同様に訂正する)。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に「前記工程(c)において前記工程(b)の研磨液を用いる、請求項1に記載の製造方法。」と記載されているのを、「ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と、ここで該パッドドレッシングは、該研磨パッドの発泡部分(ポア)が2μm以上の平均開口径で表面に現れるまで削りとるように行われる工程である;前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨を行い、前記パッドドレッシング後の該研磨パッド表面に存在する毛羽立った部分を除去する工程(b)と;研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法であって、前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含み、前記工程(c)において前記工程(b)の研磨液を用いる、基板の製造方法。」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3?4も同様に訂正する)。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3に「前記基板は磁気ディスク基板である、請求項1または2に記載の製造方法。」と記載されているのを、「ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と、ここで該パッドドレッシング後の該研磨パッドの表面には、平坦に削りとられることによって、気泡が開口してできたポアが多数存在し、毛羽立った部分が存在している;前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨を行い、前記毛羽立った部分を除去する工程(b)と;研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法であって、前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む、基板の製造方法。」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4も同様に訂正する)。

キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4に「コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含む」と記載されているのを、「コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含み、前記パッド表面調整剤は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択される」に訂正する。

ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれか一項に記載の製造方法」と記載されているのを、「請求項1に記載の製造方法」に訂正する。

ケ 訂正事項9
特許請求の範囲に、「請求項2に記載の製造方法において前記工程(b)の研磨液として用いられる研磨用組成物であって、コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含み、前記パッド表面調整剤は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択される、研磨用組成物。」を記載される請求項5を追加する。

コ 訂正事項10
特許請求の範囲に、「請求項3に記載の製造方法において前記工程(b)の研磨液として用いられる研磨用組成物であって、コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含み、前記パッド表面調整剤は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択される、研磨用組成物。」を記載される請求項6を追加する。

サ 訂正事項11
発明の名称に「基板の製造方法および研磨用組成物」と記載されているのを、「基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法および研磨用組成物」に訂正する。

シ 訂正事項12
明細書の【0001】【0005】にそれぞれ「基板」と記載されているのを、「基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板」に訂正する。

ス 訂正事項13
明細書の【0006】に「本発明によると、基板の製造方法が提供される。この方法は、研磨パッドをパッドドレッシングする工程(a)と;前記パッドドレッシングされた研磨パッドおよび研磨液を用いてダミー研磨する工程(b)と;研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含む。そして、前記研磨液は、コロイダルシリカ砥粒とパッド表面調整剤とを含む。」と記載されているのを、「本発明によると、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法が提供される。ここに開示される技術は、微小うねりの低減がより強く求められている磁気ディスク基板の製造方法に適用される。この方法は、ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と;前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨する工程(b)と;研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法である。そして、前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む。」に訂正する。

セ 訂正事項14
明細書の【0007】に「ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記工程(c)において前記工程(b)の研磨液を用いる。」と記載されているのを、「ここに開示される技術の好ましい一態様では、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法は、ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と、ここで該パッドドレッシングは、該研磨パッドの発泡部分(ポア)が2μm以上の平均開口径で表面に現れるまで削りとるように行われる工程である;前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨を行い、前記パッドドレッシング後の該研磨パッド表面に存在する毛羽立った部分を除去する工程(b)と;研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含む。また、前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む。そして、前記工程(c)において前記工程(b)の研磨液を用いる。」に訂正する。

ソ 訂正事項15
明細書の【0008】に「ここに開示される技術は、微小うねりの低減がより強く求められている磁気ディスク基板の製造方法に好ましく適用される。したがって、上記基板は磁気ディスク基板であることが好ましい。」と記載されているのを、「ここに開示される技術は、ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と、ここで該パッドドレッシング後の該研磨パッドの表面には、平坦に削りとられることによって、気泡が開口してできたポアが多数存在し、毛羽立った部分が存在している;前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨を行い、前記毛羽立った部分を除去する工程(b)と;研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法に好ましく適用される。ここで、前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む。」に訂正する。

タ 訂正事項16
明細書の【0009】に「また、この明細書によると、研磨用組成物が提供される。この研磨用組成物は、ここに開示される基板の製造方法において前記工程(b)の研磨液として用いられる。また、この組成物は、コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含む。」と記載されているのを、「また、この明細書によると、研磨用組成物が提供される。この研磨用組成物は、上記基板の製造方法において前記工程(b)の研磨液として用いられる。また、この組成物は、コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含む。そして、前記パッド表面調整剤は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択される。」に訂正する。

チ 訂正事項17
明細書の【0011】に「<基板の製造方法> ここに開示される技術は、基板を製造する方法を包含する。」と記載されているのを、「<磁気ディスク基板の製造方法> ここに開示される技術は、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板を製造する方法を包含する。」に訂正する。

ツ 訂正事項18
明細書の【0012】に「(基板) ここに開示される研磨方法において、被研磨物となる基板は特に限定されない。例えば、磁気ディスク基板や、シリコンウエハ等の半導体基板のように、高精度な表面が要求される各種基板の製造に適用され得る。好ましい適用対象として、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板(Ni-P基板)が例示される。」と記載されているのを、「(磁気ディスク基板) 上記製造方法において、被研磨物となる磁気ディスク基板は、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板(Ni-P基板)である。」に訂正する。

テ 訂正事項19
明細書の【0013】に「ここに開示される方法に用いられる研磨パッドは、全体が発泡ポリウレタンにより構成されているパッド、発泡ポリウレタンの層が不織布等のパッド基材に支持されたパッド等のポリウレタン製研磨パッドであり得る。研磨パッドは、スウェードタイプのバフパッドであってもよいが、典型的には、表面をバフ加工していないノンバフ状態にある研磨パッド(いわゆるノンバフパッド)を用いることが好ましい。」と記載されているのを、「ここに開示される方法に用いられる研磨パッドは、発泡ポリウレタンの層が不織布等のパッド基材に支持されたポリウレタン製研磨パッドであり、表面をバフ加工していないノンバフ状態にある研磨パッド(いわゆるノンバフパッド)である。」に訂正する。

ト 訂正事項20
明細書の【0014】に「工程(a)において、上記研磨パッドはパッドドレッシング処理される。この工程(a)は、典型的には、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態で行われる。」と記載されているのを、「工程(a)において、上記研磨パッドはパッドドレッシング処理される。この工程(a)は、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態で行われる。」に訂正する。

ナ 訂正事項21
明細書の【0020】を削除する。

ニ 訂正事項22
明細書の【0034】に「パッド表面調整剤としては、研磨液中において上記の機能を発揮し得るものであればよく、その限りにおいて特に制限はない。パッド表面調整剤としては、例えばスルホン酸系化合物等の有機化合物から選択され得る。なお、ここでいうスルホン酸系化合物の概念には、スルホン酸系化合物およびその塩が包含される。具体的には、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ベンゼンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;その他、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸等のスルホン酸系化合物、その塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩)等から選択され得る。」と記載されているのを、「パッド表面調整剤は、研磨液中において上記の機能を発揮し得るものである。パッド表面調整剤としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ベンゼンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、およびその塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩)から選択される。」に訂正する。

2 請求項1?請求項6に係る訂正について
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項2?4は、それぞれ請求項1を引用し、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして、訂正事項1?22は、一群の請求項1?4についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項及び同条第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件について
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的の適否について
訂正前の請求項1の「研磨パッドをパッドドレッシングする工程(a)」と記載されているのを、「ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)」に訂正するものは、研磨パッド及びパッドドレッシングに限定を加えるものであるから、当該訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加の有無について
訂正事項1により訂正された事項は、明細書の段落0014、0066に記載されている。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項2、4について
(ア)訂正の目的の適否について
訂正前の請求項1の「前記パッドドレッシングされた研磨パッドおよび研磨液を用いてダミー研磨する工程(b)」及び「前記研磨液は、コロイダルシリカ砥粒とパッド表面調整剤とを含む」と記載されているのを、「前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨する工程(b)」及び「前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む」に訂正するものは、パッド表面調整剤に限定を加えるものであるから、当該訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加の有無について
訂正事項2及び4により訂正された事項は、明細書の段落0034に記載されている。
よって、訂正事項2及び4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項2及び4は、訂正前の請求項1に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項2及び4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項3は、訂正前の請求項1に係る発明である「基板の製造方法」における「基板」を、「基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板」に特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加の有無について
訂正事項3により訂正された事項は、明細書の段落0012に記載されている。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項3は、訂正前の請求項1に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

エ 訂正事項5について
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項5は、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、当該引用関係を解消し、独立形式請求項に改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項5は、訂正前に引用していた訂正前の請求項1に「研磨パッドをパッドドレッシングする工程(a)と;前記パッドドレッシングされた研磨パッドおよび研磨液を用いてダミー研磨する工程(b)と;研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含み、前記研磨液は、コロイダルシリカ砥粒とパッド表面調整剤とを含む」と記載されていたのを、「ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と、ここで該パッドドレッシングは、該研磨パッドの発泡部分(ポア)が2μm以上の平均開口径で表面に現れるまで削りとるように行われる工程である;前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨を行い、前記パッドドレッシング後の該研磨パッド表面に存在する毛羽立った部分を除去する工程(b)と;研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法であって、前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メランホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含み」に特定することにより、研磨パッド、パッドドレッシング、工程(b)、基板及びパッド表面調整剤に限定を加えるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加の有無について
訂正事項5により訂正された事項は、明細書の段落0012、0014、0016、0033、0034、0066に記載されている。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項5は、訂正前の請求項2に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

オ 訂正事項6について
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項6は、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、当該引用関係を解消し、独立形式請求項に改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項6は、訂正前に引用していた訂正前の請求項1に「研磨パッドをパッドドレッシングする工程(a)と;前記パッドドレッシングされた研磨パッドおよび研磨液を用いてダミー研磨する工程(b)と;研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含み、前記研磨液は、コロイダルシリカ砥粒とパッド表面調整剤とを含む」と記載され、かつ、訂正前の請求項3に「前記基板は磁気ディスク基板である」と記載されていたのを、「ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と、ここで該パッドドレッシング後の該研磨パッドの表面には、平坦に削りとられることによって、気泡が開口してできたポアが多数存在し、毛羽立った部分が存在している;前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨を行い、前記毛羽立った部分を除去する工程(b)と;研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法であって、前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む」に特定することにより、研磨パッド、パッドドレッシング、工程(b)、磁気ディスク基板及びパッド表面調整剤に限定を加えるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加の有無について
訂正事項6により訂正された事項は、明細書の段落00012、0014、0033、0034、0066に記載されている。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項6は、訂正前の請求項3に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

カ 訂正事項7について
(ア)訂正の目的の適否について
訂正前の請求項4に「コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含む」と記載されているのを、「コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含み、前記パッド表面調整剤は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択される」に訂正するものは、パッド表面調整剤に限定を加えるものであるから、当該訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加の有無について
訂正事項7により訂正された事項は、明細書の段落0034に記載されている。
よって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項7は、訂正前の請求項4に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

キ 訂正事項8について
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項8は、訂正前の請求項4の記載が訂正前の請求項1?3のいずれか一項の記載を引用する記載であったものを、請求項1のみの記載を引用するものとする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加の有無について
訂正事項8は、上記(ア)のとおり何ら実質的な内容の変更をともなうものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項8は、訂正前の請求項4に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

ク 訂正事項9、訂正事項10について
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項9及び10は、訂正前の請求項4の記載が訂正前の請求項1?3のいずれか一項の記載を引用する記載であったものを、一の請求項のみの記載を引用するものとする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加の有無について
訂正事項9及び10は、上記(ア)のとおり何ら実質的な内容の変更をともなうものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項9及び10は、訂正前の請求項4に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項9及び10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

ケ 訂正事項11、12、17、18について
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項11、12、17及び18は、上記訂正事項3に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加の有無について
訂正事項11、12、17及び18により訂正された事項は、上記ウ(イ)と同じく、明細書の段落0012に記載されている。
よって、訂正事項11、12、17及び18は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項11、12、17及び18は、上記ウ(ウ)と同じく、訂正前の請求項1に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項11、12、17及び18は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

コ 訂正事項13?16について
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項13?16は、上記訂正事項1?7に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加の有無について
訂正事項13?16により訂正された事項は、上記ア?カの各(イ)と同じく、明細書の段落0012、0014、0016、0033、0034、0066に記載されている。
よって、訂正事項13?16は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項13?16は、上記ア?カの各(ウ)と同じく、訂正前の請求項1?3に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項13?16は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

サ 訂正事項19?21について
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項19?21は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加の有無について
訂正事項19?21により訂正された事項は、上記ア(イ)と同じく、明細書の段落0014、0066に記載されている。
よって、訂正事項19?21は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項19?21は、上記ア(ウ)と同じく、訂正前の請求項1に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項19?21は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

シ 訂正事項22について
(ア)訂正の目的の適否について
訂正事項22は、上記訂正事項4に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加の有無について
訂正事項22により訂正された事項は、上記イ(イ)と同じく、明細書の段落0034に記載されている。
よって、訂正事項22は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項22は、上記イ(ウ)と同じく、訂正前の請求項1に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項22は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

ス 独立特許要件について
本件特許異議申立事件においては、全ての請求項について特許異議の申立てがされているから、訂正事項1?22に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 小括
上記2のとおり、訂正事項1?22に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項で準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
ここで、本件発明1?6の各構成には、(A)?(H)の符号を当審において付した。以下、構成A?構成Hと称する。

(本件発明1)
【請求項1】
(A)ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と;
(B)前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨する工程(b)と;
(C)研磨対象基板を研磨する工程(c)と;
(D)を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法であって、
(E)前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む、
(D)基板の製造方法。

(本件発明2)
【請求項2】
(A)ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と、
(A1)ここで該パッドドレッシングは、該研磨パッドの発泡部分(ポア)が2μm以上の平均開口径で表面に現れるまで削りとるように行われる工程である;
(B)前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨を行い、
(B1)前記パッドドレッシング後の該研磨パッド表面に存在する毛羽立った部分を除去する
(B)工程(b)と;
(C)研磨対象基板を研磨する工程(c)と;
(D)を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法であって、
(E)前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含み、
(F)前記工程(c)において前記工程(b)の研磨液を用いる、
(D)基板の製造方法。

(本件発明3)
【請求項3】
(A)ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と、
(A2)ここで該パッドドレッシング後の該研磨パッドの表面には、平坦に削りとられることによって、気泡が開口してできたポアが多数存在し、毛羽立った部分が存在している;
(B)前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨を行い、
(B2)前記毛羽立った部分を除去する
(B)工程(b)と;
(C)研磨対象基板を研磨する工程(c)と;
(D)を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法であって、
(E)前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む、
(D)基板の製造方法。

(本件発明4)
【請求項4】
(G1)請求項1に記載の製造方法において前記工程(b)の研磨液として用いられる研磨用組成物であって、
(H)コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含み、
(E1)前記パッド表面調整剤は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択される、
(G1)研磨用組成物。

(本件発明5)
【請求項5】
(G2)請求項2に記載の製造方法において前記工程(b)の研磨液として用いられる研磨用組成物であって、
(H)コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含み、
(E1)前記パッド表面調整剤は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択される、
(G2)研磨用組成物。

(本件発明6)
【請求項6】
(G3)請求項3に記載の製造方法において前記工程(b)の研磨液として用いられる研磨用組成物であって、
(H)コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含み、
(E1)前記パッド表面調整剤は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択される、
(G3)研磨用組成物。

2 取消理由(決定の予告)の概要
令和元年8月20日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

(進歩性(特許法第29条第2項))
令和元年6月10日付けの訂正の請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1、2、4に係る発明は、甲第5号証又は甲第6号証に記載の発明及び甲第1号証に記載の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1、2、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

甲第1号証:米国特許出願公開第2008/0146129号明細書
甲第5号証:特開2012-135863号公報
甲第6号証:特開2010-135052号公報

3 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由
上記取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由は、以下のとおりである。

(明確性(特許法第36条第6項第2号))
特許請求の範囲の請求項1?4における「パッド表面調整剤」がいかなる化学物質であるのか不明である。
よって、請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

4 甲号証について
(1)甲第6号証について
ア 甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、次の記載がある。なお、以下の下線は当審で付したものである。

「【0019】
本発明の研磨剤組成物は、シリカ、酸、界面活性剤、酸化剤、及び水を含有する研磨剤組成物であって、界面活性剤は、分子中に繰り返し単位と、スルホン酸(塩)基とを有し、さらに繰り返し単位の主鎖中に芳香族基を有する陰イオン界面活性剤である。ここでいう「スルホン酸(塩)基」は「スルホン酸基およびスルホン酸塩基」を表わし、以下同様の表現を用いる。シリカ粒子の安定性の観点から陰イオン界面活性剤を含むことが好ましく、発泡の問題から分子中に繰り返し単位を有する陰イオン界面活性剤であることが好ましい。分子中に繰り返し単位を有する界面活性剤は、優れた界面機能を示すため、シリカ粒子の分散性を向上させてスクラッチの原因となる凝集物の発生を抑えることにより、スクラッチを低減することができるのではないかと考えられる。また、著しい表面張力の低下が認められないため、泡立ちがなく、容器や研磨機の研磨剤供給タンクおよび研磨機に付着した泡が乾燥、固化することにより生じたシリカの固化成分によるスクラッチも低減し、効率よく研磨工程を行うことが可能となる。」

「【0030】
本研磨剤組成物に含まれる研磨材の砥粒であるシリカとしては、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等が挙げられる。研磨材としての砥粒は、これに限定されるものではなく、アルミナ、チタニア、ジルコニア等を使用することができる。ただし、砥粒は、シリカであることが好ましく、より好ましくは、コロイダルシリカである。コロイダルシリカを研磨材の砥粒として用いた場合には、磁気ディスク基板のスクラッチを低減することができる。」

「【0034】
本発明の研磨剤組成物は、磁気ディスク基板の研磨に用いることができる。研磨される磁気ディスク基板としては、例えば、アルミニウムのディスク(以下、アルミディスクという)が挙げられる。例えば、両面研磨機を用いて、上定盤及び下定盤の各々に研磨パッドを貼り付け、上定盤と下定盤の間にアルミディスクを挟み、アルミディスクの表裏両面を同時に研磨する。
【0035】
この場合に、この研磨パッドに本発明の研磨剤組成物を供給しながら、アルミディスクに所定の単位荷重で研磨パッドを押し付けて研磨を行う。研磨パッドは、ウレタンタイプ、スウェードタイプ、不織布タイプ、その他いずれのタイプも使用することができる。本発明の研磨剤組成物は、第1研磨(粗研磨、ポリシング)、第2研磨(仕上げ研磨、ポリシング)のいずれも使用することができる。本発明の研磨剤組成物を使用すれば、研磨レートを低下させることなく、被研磨面にスクラッチ、ピットが無く、被研磨面の表面粗度に優れた鏡面研磨をすることができる。」

「【0038】
(実施例1?39、比較例1?20)
シリカ、分子中に繰り返し単位と、スルホン酸基とを有し、さらに繰り返し単位の主鎖中に芳香族基を有する陰イオン界面活性剤、酸、過酸化水素、純水を混合、攪拌し、表1および表2に示す組成からなる研磨剤組成物を得た。分子中に繰り返し単位と、スルホン酸基とを有し、さらに繰り返し単位の主鎖中に芳香族基を有する陰イオン界面活性剤として、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルムアルデヒド縮合物(実施例1?12)、メチルナフタレンスルホン酸ナトリウムホルムアルデヒド縮合物(実施例13?15)、リグニンスルホン酸ナトリウム(実施例16?21)、ナフタレンスルホン酸系化合物(実施例22?33、混合物の割合は表4に示す。)、芳香族アミノスルホン酸系化合物(実施例34?39、混合物の割合は表4に示す。)を用いた。また、酸としては、HEDP、リン酸、硫酸を用いた。」

「【0042】
(研磨装置および研磨条件)
表1においては、基板としてNiP無電解メッキした外径95mmφのアルミディスクを粗研磨した基板を使用した。研磨試験機は、両面研磨機(9B型両面研磨機、スピードファム(株)製)、研磨パッドCF4301N(フジボウ製)を用いて、スラリー供給速度を5ml/min/pcsとして研磨剤組成物をアルミディスク上に供給した。定盤回転数は、下定盤を16rpm、上定盤を16/3rpm、加工圧力は100g/cm2とし、研磨時間は390秒とした。」

イ 甲6発明
以上より、甲第6号証には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されている。

(甲6発明)
研磨パッドに研磨材の砥粒であるコロイダルシリカと、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ナトリウムホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸系化合物又は芳香族アミノスルホン酸系化合物とを含有する研磨剤組成物を供給しながら、NiPメッキしたアルミニウムの磁気ディスク基板に研磨パッドを押し付けて研磨を行う方法であって、
前記研磨パッドは、ウレタンタイプ、スウェードタイプ、不織布タイプ、その他いずれのタイプも使用することができる方法。

(2)甲第5号証について
ア 甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、次の記載がある。

「【0008】
本発明は一態様において、研磨材、水溶性重合体、及び水を含有する研磨液組成物であって、前記水溶性重合体が、スルホン酸基を有し、かつ、主鎖及び側鎖のそれぞれに芳香族環を有する研磨液組成物に関する。
【0009】
本発明はその他の態様において、本発明の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記被研磨基板を動かして研磨する工程を含む、基板の製造方法に関する。」

「【0038】
[研磨材]
本発明の研磨液組成物に使用される研磨材としては、研磨用に一般的に使用されている研磨材を使用することができ、金属、金属若しくは半金属の炭化物、窒化物、酸化物、又はホウ化物、ダイヤモンド等が挙げられる。金属又は半金属元素は、周期律表(長周期型)の2A、2B、3A、3B、4A、4B、5A、6A、7A又は8族由来のものである。研磨材の具体例としては、酸化珪素(以下、シリカという)、酸化アルミニウム(以下、アルミナという)、炭化珪素、ダイヤモンド、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム(以下、セリアという)、酸化ジルコニウム等が挙げられ、これらの1種以上を使用することは研磨速度を向上させる観点から好ましい。中でも、シリカ、アルミナ、酸化チタン、セリア、酸化ジルコニウム等が、半導体素子用基板や磁気ディスク基板等の精密部品用基板の研磨に適している。表面粗さを低減する観点、スクラッチを低減する観点から、さらに、コロイダルシリカ、コロイダルセリア、コロイダルアルミナが好ましく、コロイダルシリカがより好ましい。」

「【0065】
[研磨パッド]
本発明で使用される研磨パッドとしては、特に制限はなく、スエードタイプ、不織布タイプ、ポリウレタン独立発泡タイプ、又はこれらを積層した二層タイプ等の研磨パッドを使用することができるが、研磨速度の観点から、スエードタイプの研磨パッドが好ましい。
【0066】
研磨パッドの表面部材の平均開孔径は、スクラッチ低減及びパッド寿命の観点から、50μm以下が好ましく、より好ましくは45μm以下、さらに好ましくは40μm以下、さらにより好ましくは35μm以下である。パッドの研磨液保持性の観点から、開孔で研磨液を保持し液切れを起こさないようにするために、平均開孔径は0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは1μm以上、さらにより好ましくは10μm以上である。また、研磨パッドの開孔径の最大値は、研磨速度維持の観点から、100μm以下が好ましく、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは60μm以下、特に好ましくは50μm以下である。」

「【0070】
[被研磨基板]
本発明において好適に使用される被研磨基板の材質としては、例えばシリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン等の金属若しくは半金属、又はこれらの合金や、ガラス、ガラス状カーボン、アモルファスカーボン等のガラス状物質や、アルミナ、二酸化珪素、窒化珪素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料や、ポリイミド樹脂等の樹脂等が挙げられる。中でも、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅等の金属や、これらの金属を主成分とする合金を含有する被研磨基板、ガラス基板が好適である。中でも、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板や、アルミノシリケートガラス基板に適しており、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板がさらに適している。アルミノシリケートガラス基板には、結晶構造を有しているもの、化学強化処理を施したものが含まれる。化学強化処理は研磨後に行ってもよい。
【0071】
また、本発明によれば、研磨後の基板表面のスクラッチに加えて、研磨後の基板表面のうねりが低減された基板を提供できるため、高度の表面平滑性が要求される磁気ディスク基板、とりわけ垂直磁気記録方式の磁気ディスク基板の研磨に好適に用いることができる。」

「【0082】
[比較対象化合物]
上記水溶性重合体の比較対象として以下の化合物を用いた。
・ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルムアルデヒド縮合物(表面張力:66.3 mN/m)
(商品名:バニオールHDP-100、日本製紙ケミカル社製)
・リグニンスルホン酸ナトリウム (表面張力:67.3 mN/m)
(商品名:パールレックスNP、日本製紙ケミカル社製)
・ナフタレンスルホン酸系化合物 (表面張力:66.3 mN/m)
(商品名:フローリックPSR110、フローリック社製)
・芳香族アミノスルホン酸系化合物 (表面張力:71.8 mN/m)
(商品名:フローリックSF200S、フローリック社製)
・アクリル酸/アクリルアミドー2-メチルプロパンスルホン酸共重合体ナトリウム塩(AA-AMPS)(表面張力:63.0 mN/m)(モル比90/10、重量平均分子量2000、東亜合成社製)
・ポリスチレン/ポリスチレンスルホン酸共重合体ナトリウム塩(St-SS)(表面張力:57.3 mN/m)(モル比80/20、重量平均分子量8000、花王社製)」

イ 甲第5号証に記載の技術的事項
上記アに摘記した記載から、甲第5号証には、以下(ア)、(イ)の技術的事項が記載されているものと認められる。

(ア)段落0008、0009、0038、0071、0082の記載によれば、「研磨材であるコロイダルシリカと、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸系化合物又は芳香族アミノスルホン酸系化合物を含有する研磨液組成物を、磁気ディスク基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記磁気ディスク基板を動かして研磨する工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法。」が記載されている。

(イ)Ni-Pメッキされたアルミニウム基板は、特開平7-240025号公報(特許異議申立人が令和元年8月5日付け意見書で提示した参考資料)の段落0021に記載されているように磁気ディスク基板として周知であることから、上記(1-2-1)の段落0070の「Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板」は、段落0071の磁気ディスク基板として用いられるものと認められる。

ウ 甲5発明
上記イより、甲第5号証には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。

(甲5発明)
研磨材であるコロイダルシリカと、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸系化合物又は芳香族アミノスルホン酸系化合物とを含有する研磨液組成物を、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板である磁気ディスク基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記磁気ディスク基板を動かして研磨する工程を含む、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板である磁気ディスク基板の製造方法であって、
研磨パッドとしては、特に制限はなく、スエードタイプ、不織布タイプ、ポリウレタン独立発泡タイプ、又はこれらを積層した二層タイプ等の研磨パッドを使用することができるが、研磨速度の観点から、スエードタイプの研磨パッドが好ましい方法。

(3)甲第1号証について
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、次の記載がある。

[0006] Currently,new polishing pads do not result in sufficiently flat wafers immediately after installing the pads on the polishing tool. Instead, the polishing pads are typically “broken-in” after first affixing them to the platens of a polishing tool. A typical break-in process often includes diamond dressing the pads and/or running “dummy” wafers in order to improve the stability of the polishing pad performance. Dummy wafers are often processed under the same conditions which polishing of actual production wafers takes place.This ensures that subsequent polished wafers are acceptably flat and uniform.」
(仮訳)
[0006]現状では、新しい研磨パッドは、研磨器具にパッドを取り付けた直後には、十分平坦なウェハをもたらさない。そのため、研磨パッドは、最初に研磨パッドを研磨機の取付盤に取り付けた後、通常は「調整」を行う。通常の調整プロセスは研磨パッドの性能の安定性を改善するために、パッドのダイヤモンドドレッシング及び/又は「ダミー」ウェハの動作を大抵含む。ダミーウェハは、大抵、実際の製品ウェハの研磨が行われるのと同じ条件で処理される。これにより、次に研磨されるウェハが十分に平坦で均一であることが保証される。

イ 甲第1号証に記載の周知技術
上記アの摘記部分は、「Currently,」(仮訳:「現状では、」)との記載からすれば、出願当時の従来技術を説明したものと認められるから、同摘記部分に記載された技術は、周知技術であると認められる。
ここで、同摘記部分の『「ダミー」ウェハの動作』がダミー研磨のことを意味していることは、当業者に明らかな事項である。
以上から、甲第1号証の同摘記部分に記載された次の技術は、周知技術(以下、「甲1周知技術」という。)であると認められる。

(甲1周知技術)
最初に研磨パッドを研磨機の取付盤に取り付けた後、研磨パッドのドレッシング、及び、実際の製品ウェハの研磨が行われるのと同じ条件で処理されるダミー研磨を含む調整プロセスを行う技術。

5 当審の判断
(1)甲6発明を主引例とした場合
(1-1)本件発明1について
(1-1-1)対比
本件発明1と甲6発明とを対比する。

甲6発明の「NiPメッキしたアルミニウムの磁気ディスク基板に研磨パッドを押し付けて研磨を行う方法」は、本件発明1の構成C及の「研磨対象基板を研磨する工程(c)」を含む構成Dの「基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法」に相当する。

すると、本件発明と甲6発明との間の一致点及び相違点は次のとおりである。

(一致点)
(C)研磨対象基板を研磨する工程(c)と;
(D)を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法。

(相違点1)
基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法について、本件発明1は、構成Aの「ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)」を備えるのに対し、甲6発明は、スウェードタイプの研磨パッドを用いるものではあるものの、パッドドレッシングに係る構成を備えることが特定されていない点。

(相違点2)
基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法について、本件発明1は、「パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨する工程(b)」(構成B)を備え、さらに前記ダミー研磨に用いられる研磨液が、「ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む」(構成E)ものであるのに対し、甲6発明は、「研磨パッドに研磨材の砥粒であるコロイダルシリカと、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ナトリウムホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸系化合物又は芳香族アミノスルホン酸系化合物とを含有する研磨剤組成物を供給しながら、研磨を行う」ものである点。

(1-1-2)判断
上記相違点のうち、まず相違点1について検討する。

上記4(3)イのとおり、最初に研磨パッドを研磨機の取付盤に取り付けた後、研磨パッドのドレッシングを含む調整プロセスを行うことは、周知技術である。前記「研磨パッドを研磨機の取付盤に取り付けた後」は、本件発明1の「研磨パッドが研磨装置に装着された状態」に相当する。
ここで、一般に、基板の研磨技術が各種基板を共通的に対象とするものであることは、甲第5号証の段落0070に「被研磨基板の材質としては、例えばシリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン等の金属若しくは半金属、又はこれらの合金や、ガラス、ガラス状カーボン、アモルファスカーボン等のガラス状物質や、アルミナ、二酸化珪素、窒化珪素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料や、ポリイミド樹脂等の樹脂等が挙げられる。」と記載され、また、特許異議申立人により甲第7号証として提示された特開2005-1019号公報の段落0056にも「研磨液組成物が対象とする基板の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン等の金属又は半金属およびこれらの合金、及びガラス、ガラス状カーボン、アモルファスカーボン等のガラス状物質、アルミナ、二酸化珪素、窒化珪素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料、ポリイミド樹脂等の樹脂等が挙げられる。」と記載されているように、当業者に周知の事項といえる。
すると、甲1周知技術についても各種基板が対象とされうるものとして、各種基板に適用を試みることは、当業者が容易に想到しうることである。よって、スウェードタイプの研磨パッドを用いた甲6発明において、当該周知技術を適用することにより、スウェードタイプの研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程を備えるようにすることは、当業者が容易に想到しうることである。

しかしながら、甲6発明の「NiPメッキしたアルミニウムの磁気ディスク基板」を研磨対象とする研磨パッドとして「ノンバフパッド」を使用することについては、上記甲第6号証、甲第5号証、甲第1号証、及び、特許異議申立人が提出したその他の証拠及び文献である甲第2号証:特開2008-87099号公報、甲第3号証:特開2005-199427号公報、甲第4号証:特開2007-81145号公報、甲第7号証:特開2005-1019号公報、甲第8号証:特開2005-153053号公報、甲第9号証:特開2010-179431号公報、参考文献:特開平7-240025号公報のいずれにも記載されていない。
よって、甲6発明のNiPメッキしたアルミニウムの磁気ディスク基板に用いる研磨パッドとしてノンバフパッドを使用することは、当業者であっても容易に想到しうるものとはいえない。

また、令和元年10月28日に提出された意見書に添付された実験成績証明書によれば、バフパッドを使用した場合には、本件特許明細書の実施例で示されているノンバフパッドを使用した場合と比べて有意な微小うねり低減効果は認められなかったことが示されている。よって、仮に、甲6発明のNiPメッキしたアルミニウムの磁気ディスク基板を研磨対象とする研磨パッドとしてノンバフパッドを使用することに想到し得たとしても、その結果として、バフパッドを使用した場合と比べて改善された微小うねり低減効果が得られるという格別顕著な効果を得られることを、当業者が予測し得たとは認められない。

したがって、本件発明1は、その他の相違点である相違点2について検討するまでもなく、当業者であっても甲6発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(1-2)本件発明2?6について
本件発明2?6も、上記相違点1に係る構成である構成Aを備えるものであるから、上記(1-1)と同じ理由により、甲6発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)甲5発明を主引例とした場合
(2-1)本件発明1について
(2-1-1)対比
本件発明1と甲5発明とを対比する。

甲5発明の、「研磨液組成物を、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板である磁気ディスク基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び/又は前記磁気ディスク基板を動かして研磨する工程」を含む「Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板である磁気ディスク基板の製造方法」は、本件特許発明1の、「研磨対象基板を研磨する工程(c)」を含む「基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法」に相当する。

すると、本件発明と甲5発明との間の一致点及び相違点は次のとおりである。

(一致点)
(C)研磨対象基板を研磨する工程(c)と;
(D)を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法。

(相違点3)
基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法について、本件発明1は、構成Aの「ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)」を備えるのに対し、甲5発明は、スウェードタイプの研磨パッドを用いるものではあるものの、パッドドレッシングに係る構成を備えることが特定されていない点。

(相違点4)
基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法について、本件発明1は、「パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨する工程(b)」(構成B)を備え、さらに前記ダミー研磨に用いられる研磨液が、「ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む」(構成E)ものであるのに対し、甲5発明は、「研磨材であるコロイダルシリカと、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸系化合物又は芳香族アミノスルホン酸系化合物とを含有する研磨液組成物」を「基板の研磨対象面に供給」して「研磨する」ものである点。

(2-1-2)判断
上記相違点のうち、まず相違点3について検討する。

上記(1-1-2)のとおり、甲1周知技術についても各種基板が対象とされうるものとして、各種基板に適用を試みることは、当業者が容易に想到しうることである。よって、スウェードタイプの研磨パッドを用いた甲5発明において、当該周知技術を適用することにより、スウェードタイプの研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程を備えるようにすることは、当業者が容易に想到しうることである。

しかしながら、甲5発明の「Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板である磁気ディスク基板」を研磨対象とする研磨パッドとして「ノンバフパッド」を使用することについては、上記甲第5号証、甲第6号証、甲第1号証、及び、特許異議申立人が提出したその他の証拠及び文献である甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第7号証、甲第8号証、甲第9号証、参考文献のいずれにも記載されていない。
よって、甲5発明のNi-Pメッキされたアルミニウム合金基板である磁気ディスク基板に用いる研磨パッドとしてノンバフパッドを使用することは、当業者であっても容易に想到しうるものとはいえない。

また、令和元年10月28日に提出された意見書に添付された実験成績証明書については、上記(1-1-2)のとおりであるから、仮に、甲5発明のNi-Pメッキされたアルミニウム合金基板である磁気ディスク基板を研磨対象とする研磨パッドとしてノンバフパッドを使用することに想到し得たとしても、その結果として、バフパッドを使用した場合と比べて改善された微小うねり低減効果が得られるという格別顕著な効果を得られることを、当業者が予測し得たとは認められない。

したがって、本件発明1は、その他の相違点である相違点4について検討するまでもなく、当業者であっても甲5発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-2)本件発明2?6について
本件発明2?6も、上記相違点3に係る構成である構成Aを備えるものであるから、上記(2-1)と同じ理由により、甲5発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において上記3の主張を行っている。
しかしながら、いかなる化学物質であるのか不明であると主張されていた「パッド表面調整剤」は、本件訂正によって「ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択される」ものであることが特定されたことにより、化学物質が明確となった。
したがって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものであるから、特許異議申立人の当該主張は、採用することができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、令和元年8月20日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法および研磨用組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法および該製造方法に用いられる研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク基板や半導体基板など高精度な表面が要求される基板の製造プロセスには、一般に、研磨パッドを用いて被研磨物を研磨する工程が含まれる。このような研磨工程は、通常、例えばコロイダルシリカ等の砥粒を含む研磨用組成物(研磨スラリー)を被研磨物に供給して行われる。研磨パッドとしては、典型的には、パッドドレッシングにより所望の表面(研磨面)に調整したものが好ましく利用されている。この種の研磨パッドは、さらにダミー研磨により該表面を安定化した後、研磨対象である基板の研磨に利用される。コロイダルシリカ砥粒を含む研磨スラリーと研磨パッドの使用を開示する技術文献としては特許文献1?5が挙げられる。ダミー研磨に関連する技術文献としては特許文献6が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-29753号公報
【特許文献2】国際公開第2013/002281号
【特許文献3】特開2013-31914号公報
【特許文献4】国際公開第2010/053206号
【特許文献5】特開2010-135052号公報
【特許文献6】特開2004-358584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
研磨パッドの表面状態は基板表面に転写され得ることから、基板表面のさらなる高精度化のためには、パッド表面の平滑化が欠かせない。特に、微小うねりが低減した基板表面を実現するためには、パッド表面をより平滑化させることが重要である。しかし、例えば上述のパッドドレッシング処理等によって良好に調整されたパッド表面の状態(平滑性、毛羽立ち等)は通常、その後の研磨にともない経時的に変化してしまう。良好な表面状態を維持することは難しく、そのため、微小うねりのコントロールには限度があった。
【0005】
このような状況下、本発明者らは、微小うねりを低減し得る有用な手段を見つけるために、研磨パッドのパッドドレッシング工程、ダミー研磨工程、本研磨工程と分けて段階的に要因を解析した結果、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いる研磨において、研磨中にコロイダルシリカがパッド表面に吸着して、シリカコーティングともいうべき硬質薄膜となって、基板表面のうねり低減を阻害していることを知得した。この知見に基づき、さらに検討を進めた結果、コロイダルシリカのパッド表面への吸着を制限し得る手段を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、微小うねりを低減し得る、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、上記製造方法に用いられる研磨用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法が提供される。ここに開示される技術は、微小うねりの低減がより強く求められている磁気ディスク基板の製造方法に適用される。この方法は、ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と;前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨する工程(b)と;研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法である。そして、前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む。
かかる構成によると、ダミー研磨工程(b)において研磨液中のパッド表面調整剤がコロイダルシリカのパッド表面への吸着を阻止する。これにより、研磨対象基板を研磨する工程(c)においてもパッド表面は良好な状態に維持され、基板表面の微小うねりは低減する。
【0007】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法は、ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と、ここで該パッドドレッシングは、該研磨パッドの発泡部分(ポア)が2μm以上の平均開口径で表面に現れるまで削りとるように行われる工程である;前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨を行い、前記パッドドレッシング後の該研磨パッド表面に存在する毛羽立った部分を除去する工程(b)と;研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含む。また、前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む。そして、前記工程(c)において前記工程(b)の研磨液を用いる。これにより、基板表面の微小うねりはさらに低減する。
【0008】
ここに開示される技術は、ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と、ここで該パッドドレッシング後の該研磨パッドの表面には、平坦に削りとられることによって、気泡が開口してできたポアが多数存在し、毛羽立った部分が存在している;前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨を行い、前記毛羽立った部分を除去する工程(b)と;研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法に好ましく適用される。ここで、前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む。
【0009】
また、この明細書によると、研磨用組成物が提供される。この研磨用組成物は、上記基板の製造方法において前記工程(b)の研磨液として用いられる。また、この組成物は、コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含む。そして、前記パッド表面調整剤は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択される。この研磨用組成物を、ダミー研磨工程(b)で使用することにより、研磨液中のパッド表面調整剤が、コロイダルシリカのパッド表面への吸着を阻止する。これにより、後の研磨工程においてパッド表面は良好な状態に維持され、基板表面の微小うねりは低減する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0011】
<磁気ディスク基板の製造方法>
ここに開示される技術は、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板を製造する方法を包含する。この製造方法は、研磨パッドをパッドドレッシングする工程(a)と;前記パッドドレッシングされた研磨パッドおよび研磨液を用いてダミー研磨する工程(b)と;研磨対象基板を研磨する工程(c)と;を含む。
【0012】
(磁気ディスク基板)
上記製造方法において、被研磨物となる磁気ディスク基板は、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板(Ni-P基板)である。上記基材ディスクは、例えば、アルミニウム合金製、ガラス製等であり得る。このような基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層以外の金属層または金属化合物層を備えたディスク基板であってもよい。なかでも好ましい適用対象として、アルミニウム合金製の基材ディスク上にニッケルリンめっき層を有するNi-P基板が挙げられる。
【0013】
(研磨パッド)
ここに開示される方法に用いられる研磨パッドは、発泡ポリウレタンの層が不織布等のパッド基材に支持されたポリウレタン製研磨パッドであり、表面をバフ加工していないノンバフ状態にある研磨パッド(いわゆるノンバフパッド)である。バフ加工とは、砥石等を利用し、表面を荒削りする処理であって、典型的には研磨パッドの表層部分を除去してポアの開口径や開口率を調整する処理のことをいう。発泡ポリウレタンとしては、例えば特開2005-335028号公報に記載されているような、湿式成膜法で形成されたスウェードタイプと呼ばれるものが好ましく用いられる。
【0014】
(工程(a))
工程(a)において、上記研磨パッドはパッドドレッシング処理される。この工程(a)は、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態で行われる。研磨装置としては、研磨パッドを用いる研磨の分野において公知の各種片面研磨装置、両面研磨装置等を用いることができ、特に限定されない。工程(a)は、このような研磨装置の定盤に研磨パッドが、例えば粘着テープや接着剤等を用いて固定された状態で好ましく実施され得る。
【0015】
パッドドレッシングは、公知の材料や条件を適用して行うことができる。好ましい一態様では、パッドドレッシングは、研磨装置の定盤に固定されている研磨パッドに対し、ステンレススチール等の金属からなる基材の表面に電着または焼結によりダイヤモンド粉末を固定させたパッドコンディショナー(パッドドレッサーとも呼ぶ。)を用いて、研磨パッドの表層を削りとる処理(典型的にはダイヤモンドドレッシング処理)であり得る。パッドコンディショナーとしては、例えば特開2003-117823号公報に記載されているパッドコンディショナーが挙げられる。
【0016】
パッドドレッシングは、典型的には、上記研磨パッドの表層を、2μm以上削りとるか、あるいは研磨パッドの発泡部分(ポア)が2μm以上(通常は5μm以上40μm以下)の平均開口径で表面に現れるまで削りとるように行われる。平均開口径が例えば40μmより大きいと、研磨パッドと基板との接触部分に圧力集中が起こりやすくなり、研磨基板表面の微小うねりが増大してしまう場合がある。
なお、研磨パッド表面の平均開口径は、走査電子顕微鏡(SEM)写真の画像解析によって求められる。具体的には、写真1枚当たりポアが10?150個観察されるように倍率を調整し、50個以上のポアの開口径を測定し、その平均値を採用すればよい。上記平均開口径は、例えば150μm×250μmの区画内に存在するポアの平均開口径であり得る。
【0017】
パッドドレッシングは、例えば1?1.5L/分程度のレートで水を供給して行うとよい。水の供給量は、研磨パッド表面の単位面積(m^(2))当たり3.5?5.5L/分・m^(2)とすることが好ましい。パッドドレッシングの後、パッドの削り屑を除去するために、高圧ジェットまたはブラシドレス等で洗浄を行ってもよい。
【0018】
パッドドレッシングは、条件(a):平均開口径(μm)×ポア数(個)/写真面積(μm^(2))≦0.4;を満たすように行うことが好ましい。上記条件(a)を満たさない場合、研磨パッドの表面状態よりも、パッド形状の影響を受けやすくなり、微小うねり低減効果が十分発揮されない場合がある。
【0019】
また、パッドドレッシングは、条件(b):ポア密度が3.0×10^(-3)(個/μm^(2))以上である;を満たすように行うことが好ましい。上記条件(b)を満たさない場合、研磨パッドの表面状態よりも、パッド形状の影響を受けやすくなり、微小うねり低減効果が十分発揮されない場合がある。なお、ポア密度は、上述のSEM写真の画像解析によって求められる。特に好ましい一態様では、パッドドレッシングは、上記条件(a)および(b)を満たすように行われる。
【0020】(削除)
【0021】
(工程(b))
上記工程(a)を行った後、パッドドレッシングされた研磨パッドおよび研磨液を用いてダミー研磨を行う(工程(b))。具体的には、工程(b)は、研磨装置にダミー基板をセットして、該研磨装置に研磨液を供給して、上記工程(a)を経た研磨パッドによりダミー基板を研磨する工程である。上記研磨は常法により行えばよい。例えば、工程(a)を経た研磨パッドが装着された研磨装置にダミー基板をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記ダミー基板の表面(被研磨面)に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、ダミー基板の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。ダミー基板としては、被研磨物となる基板と同種のものを別途用意し、これをダミー基板として用いればよい。研磨液については後述する。研磨液の供給速度は特に限定されないが、ダミー基板1枚当たり毎分3?15mL供給されることが好ましい。
【0022】
工程(b)の時間は、特に限定されず、通常は所定の研磨レートが安定して得られるまで行われる。工程(b)は少なくとも20分以上(より好ましくは60分以上)行うことが好ましい。ダミー研磨は通常、5分以上20分以下程度の時間内で行われる研磨を5回以上(好ましくは10回以上)繰り返す工程であり得る。ダミー研磨時の温度は特に限定されないが、20?35℃とすることが好ましい。
【0023】
(工程(c))
ここに開示される方法は、研磨対象基板を研磨する工程(c)をさらに含む。具体的には、工程(b)が終了すると、必要に応じて洗浄を行う等した後、ダミー基板を取り外し、研磨対象である基板を研磨装置にセットする。そして、研磨装置に研磨液を供給して、上記研磨パッドにより基板を研磨する。上記研磨は常法により行えばよい。例えば、上記研磨パッドが装着された研磨装置に研磨対象(被研磨物)としての基板をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記被研磨物の表面(被研磨面)に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、被研磨物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て被研磨物の研磨が完了する。その後、必要に応じて洗浄、乾燥等を行うことで、基板は製造され得る。
【0024】
工程(c)に使用される研磨液としては、基板の研磨に使用され得る各種研磨液を使用すればよく特に制限はない。上記研磨液は、典型的には、少なくとも砥粒および水を含む。研磨装置に供給される研磨液は、当初の研磨用組成物に濃度調整(例えば希釈)やpH調整等の操作を加えて調製された研磨液であり得る。あるいは、当初の研磨用組成物をそのまま研磨液として用いてもよい。工程(c)に使用される研磨液として、工程(b)の研磨液と異なる組成の研磨液を用いてもよいが、微小うねり低減の観点から、工程(c)に使用される研磨液として、工程(b)の研磨液と同種の研磨液を用いることが好ましい。
【0025】
<研磨用組成物>
次に、工程(b)に使用される研磨液(以下、研磨用組成物ともいう。)について説明する。この研磨液は、好ましくはさらに工程(c)に使用されるものであり得る。
【0026】
ここに開示される技術において使用される研磨用組成物は、コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含む。この研磨液はまた、典型的には水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、蒸留水、純水等を用いることができる。
【0027】
(砥粒)
ここに開示される研磨用組成物は、コロイダルシリカ砥粒の1種または2種以上を含む。コロイダルシリカ砥粒の平均一次粒子径は、典型的には5nm以上、好ましくは10nm以上である。平均一次粒子径の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。上記砥粒の平均一次粒子径の上限は特に限定されない。より平滑性の高い表面を得る観点から、平均一次粒子径は、典型的には300nm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。例えば、一次研磨を終えたNi-P基板を研磨する用途向けの研磨用組成物において、上記の平均一次粒子径を有する砥粒を好ましく採用し得る。小径のコロイダルシリカ砥粒はよりパッド表面に堆積しやすいと考えられることから、小径(例えば平均一次粒子径30nm以下)のコロイダルシリカ砥粒を含む態様において、後述のパッド表面調整剤を使用することの効果はよりよく発揮され得る。
【0028】
なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法により測定される比表面積S(m^(2)/g)から平均一次粒子径(nm)=2727/Sの式により算出することができる。砥粒の比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0029】
研磨用組成物中におけるコロイダルシリカ砥粒の平均二次粒子径は、典型的には10nm以上であり、通常は20nm超、好ましくは30nm超、より好ましくは40nm超、さらに好ましくは50nm超である。平均二次粒子径の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。上記砥粒の平均二次粒子径の上限は特に限定されず、例えば1μm以下であり得る。分散安定性等の観点から、平均二次粒子径は、通常は500nm以下が適当であり、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、さらに好ましくは110nm以下、特に好ましくは70nm以下である。さらに高品位の表面を得る観点から、平均二次粒子径は、例えば55nm以下であってもよい。
【0030】
この明細書において、砥粒の平均二次粒子径とは、超音波方式で測定される粒度分布における体積基準の平均粒子径(mean particle diameter)をいう。平均二次粒子径は、例えば、日本ルフト社製の超音波方式粒度分布・ゼータ電位測定装置(商品名「DT-1200」)を用いて測定することができる。
【0031】
研磨用組成物中におけるコロイダルシリカ砥粒の含有量(すなわちコロイダルシリカ砥粒の濃度)は、特に制限されない。上記コロイダルシリカ砥粒の濃度は、例えば30重量%以下とすることができ、通常は20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。また、上記砥粒の濃度は、1重量%以上であることが好ましく、より好ましくは3重量%以上である。砥粒濃度が低すぎると、物理的な研磨作用が小さくなり、研磨速度が低下するため、実用上好ましくない場合がある。上記砥粒濃度は、被研磨物に供給される研磨液の砥粒濃度にも好ましく適用され得る。
【0032】
なお、ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、コロイダルシリカ砥粒以外の砥粒を含有してもよい。コロイダルシリカ砥粒以外の砥粒としては、例えばヒュームドシリカ砥粒、沈降性シリカ砥粒等のシリカ砥粒や、アルミナ砥粒、チタニア砥粒、ジルコニア砥粒、セリア砥粒等の金属酸化物砥粒、ポリアクリル酸等の樹脂砥粒等の非シリカ砥粒の1種または2種以上を使用することができる。これらコロイダルシリカ砥粒以外の砥粒の含有量は、コロイダルシリカ砥粒の含有量の100重量%(すなわち同量)未満であることが適当であり、好ましくは50重量%以下(例えば30重量%以下、典型的には10重量%以下)である。ここに開示される技術は、コロイダルシリカ砥粒以外の砥粒を実質的に含まない態様で実施することができる。
【0033】
(パッド表面調整剤)
ここに開示される研磨用組成物は、パッド表面調整剤を含むことによって特徴づけられる。研磨用組成物がパッド表面調整剤を含むことによって、基板の微小うねりは低減される。その理由を明らかにする必要はないが、例えば次のことが推察される。パッドドレッシング後の研磨パッドの表面は、平坦に削りとられることによって、気泡が開口してできたポアが多数存在し、毛羽立った部分(ナップ)も存在している状態となっている。このような表面状態の研磨パッドに対しダミー研磨を行うことで、毛羽立った部分(ナップ)は除去され、上記表面状態は整えられる。これにより、研磨パッド表面は、基板表面を均一にかつ好適なレートで研磨するうえで好ましい状態となり、微小うねりを低減するうえでも望ましい状態になると考えられる。上記のような表面状態を表面全体において均一に維持しながらパッド表面が摩耗し除去されていけば、微小うねりの低減は理想的に実現され得ると考えられる。しかし、コロイダルシリカ砥粒を用いる態様では、コロイダルシリカが研磨中にパッド表面に吸着して、シリカコーティングともいうべき硬質薄膜となり、これがパッド表面を微細なレベルで不均一な状態にしていることが判明した。より具体的には、通常であれば研磨において除去されていくべき部分が上記硬質被膜で覆われるために均一に除去されずポアを覆うように残存していると推察される。実際に、コロイダルシリカ砥粒を用いた従来の研磨後のパッド表面では、ポア開口の減少が認められており、上記推察を支持している。ここに開示されるパッド表面調整剤は、コロイダルシリカの吸着を阻止するようにパッド表面の状態を良好に調整するものである。具体的には、パッドドレッシングに続くダミー研磨工程において、コロイダルシリカのパッド表面への吸着を阻止し、シリカコーティングの発生を抑制することで、パッド表面の微細な不均一化を防止し、微小うねり低減の実現に寄与する。
【0034】
パッド表面調整剤は、研磨液中において上記の機能を発揮し得るものである。パッド表面調整剤としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ベンゼンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、およびその塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩)から選択される。なかでも、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のナフタレンスルホン酸系化合物およびその塩が好ましく、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩がより好ましい。
【0035】
パッド表面調整剤の分子量は特に限定されないが、コロイダルシリカのパッド表面への吸着を十分に阻止する観点から、凡そ400以上(例えば1000以上、典型的には1500以上)であることが好ましく、30万以下であることが適当であり、好ましくは5万以下(例えば9000以下、典型的には5000以下)である。なお、この明細書において分子量とは、構造式から求められる分子量または重量平均分子量(標準ポリスチレン基準)を指す。
【0036】
パッド表面調整剤の含有量は、コロイダルシリカのパッド表面への吸着を十分に阻止する観点から、0.001重量%以上とすることが適当であり、好ましくは0.005重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、さらに好ましくは0.02重量%以上である。また、上記と同様の理由から、上記含有量は10重量%以下とすることが適当であり、好ましくは5重量%以下、例えば1重量%以下である。
【0037】
(分散剤)
研磨用組成物は、分散安定性向上等の目的で、水溶性ポリマー(典型的にはアニオン性水溶性ポリマー)等の分散剤を含んでもよい。分散剤としては、例えばポリスチレンスルホン酸およびその塩等が挙げられる。上記ポリスチレンスルホン酸系化合物の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。分散剤の他の例として、ポリアクリル酸およびその塩(例えば、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩)等が挙げられる。分散剤を使用することで、パッド表面調整剤の効果がよりよく発揮され得る。
【0038】
上記水溶性ポリマーの分子量は、分散安定性向上効果を十分に発揮する観点から、凡そ1万以上(例えば5万超)であることが適当である。上記分子量の上限は特に限定されないが、凡そ80万以下(例えば60万以下、典型的には30万以下)程度であり得る。
【0039】
分散剤を含む態様の研磨用組成物では、分散剤の含有量を、例えば0.001重量%以上とすることが適当である。上記含有量は、研磨後の表面の平滑性等の観点から、好ましくは0.005重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、さらに好ましくは0.02重量%以上である。また、上記含有量は通常、10重量%以下とすることが適当であり、好ましくは5重量%以下、例えば1重量%以下である。
【0040】
(アニオン性界面活性剤)
ここに開示される研磨用組成物は、アニオン性界面活性剤を含んでもよい。上記アニオン性界面活性剤は、典型的には分散剤と比べて比較的低分子量の化合物である。アニオン性界面活性剤の具体例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
アニオン性界面活性剤を含む態様の研磨用組成物では、アニオン性界面活性剤の含有量を、例えば0.001重量%以上とすることが適当である。上記含有量は、研磨後の表面の平滑性等の観点から、好ましくは0.005重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、さらに好ましくは0.02重量%以上である。また、上記含有量は通常、10重量%以下とすることが適当であり、好ましくは5重量%以下、例えば1重量%以下である。
【0042】
(酸または塩)
研磨用組成物は、砥粒および水の他に、研磨促進剤として、酸または塩を含有することが好ましい。ここで、酸または塩を含むとは、酸および塩の少なくとも一方を含むことを指し、酸を含み塩を含まない態様、塩を含み酸を含まない態様、および酸と塩の両方を含む態様、のいずれをも包含する意味である。
【0043】
酸の例としては、無機酸や有機酸(例えば、炭素原子数が1?10程度の有機カルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸等)が挙げられるが、これらに限定されない。酸は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
無機酸の具体例としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ホウ酸等が挙げられる。
有機酸の具体例としては、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、マロン酸、イミノ二酢酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、クロトン酸、ニコチン酸、酢酸、アジピン酸、ギ酸、シュウ酸、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロトン酸、メタクリル酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グリコール酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、イソクエン酸、メチレンコハク酸、没食子酸、アスコルビン酸、ニトロ酢酸、オキサロ酢酸、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、ニコチン酸、ピコリン酸、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、アミノポリ(メチレンホスホン酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アミノエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。
【0044】
塩の例としては、上述した無機酸または有機酸の金属塩、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;上述した無機酸または有機酸のアンモニウム塩、例えばテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩;上述した無機酸または有機酸のアルカノールアミン塩、例えばモノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩;等が挙げられる。
上述した無機酸または有機酸の金属塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属リン酸水素塩;等が挙げられる。
その他、塩の例としては、グルタミン酸二酢酸のアルカリ金属塩(例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等。以下同じ。)、ジエチレントリアミン五酢酸のアルカリ金属塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸のアルカリ金属塩、トリエチレンテトラミン六酢酸のアルカリ金属塩;等が挙げられる。例えば、L-グルタミン酸二酢酸四ナトリウムを好ましく使用し得る。塩は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
ここに開示される技術は、リン酸を有する酸または塩を含む研磨液を用いる態様で好ましく実施され得る。パッド表面調整剤は、リン酸を介したコロイダルシリカの凝集を抑制し、パッド表面へのコロイダルシリカの吸着を好適に阻止し得る。なお、ここに開示される技術は、硫酸、有機ホスホン酸(例えば1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸)の少なくとも1種(例えば両方)を実質的に含まない態様でも好ましく実施することができる。
【0046】
このような酸または塩は、典型的には後述する酸化剤と合わせて用いられることにより、研磨促進剤として効果的に作用し得る。研磨効率の観点から好ましい酸として、メタンスルホン酸、硫酸、硝酸、リン酸、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸等が例示される。なかでも好ましい酸として、メタンスルホン酸、クエン酸およびリン酸が挙げられる。研磨効率の観点から好ましい塩として、リン酸塩やリン酸水素塩、グルタミン酸二酢酸のアルカリ金属塩、ジエチレントリアミン五酢酸のアルカリ金属塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸のアルカリ金属塩、トリエチレンテトラミン六酢酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0047】
研磨用組成物中に酸または塩を含む場合、その含有量は、0.1重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上である。酸または塩の含有量が少なすぎると、研磨速度が低下し、実用上好ましくない場合がある。また、研磨用組成物中に酸または塩を含む場合、その含有量は、10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以下である。酸または塩の含有量が多すぎると、研磨対象物の表面精度が悪くなり、実用上好ましくない場合がある。
【0048】
(酸化剤)
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒および水の他に、研磨促進剤として、酸化剤を含有することが好ましい。酸化剤の例としては、過酸化物、硝酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、酸素酸またはその塩、金属塩類、硫酸類等が挙げられるが、これらに限定されない。酸化剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、硝酸、硝酸鉄、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸金属塩、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸金属塩、重クロム酸金属塩、塩化鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄等が挙げられる。好ましい酸化剤として、過酸化水素、硝酸鉄、ペルオキソ二硫酸および硝酸が例示される。少なくとも過酸化水素を含むことが好ましく、過酸化水素からなることがより好ましい。
【0049】
研磨用組成物中に酸化剤を含む場合、その含有量は、0.1重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.3重量%以上である。酸化剤の含有量が少なすぎると、研磨対象物を酸化する速度が遅くなり、研磨速度が低下するため、実用上好ましくない場合がある。また、研磨用組成物中に酸化剤を含む場合、その含有量は、3重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5重量%以下である。酸化剤の含有量が多すぎると、研磨対象物の表面精度が悪くなったり、コストの点等から実用上好ましくない場合がある。
【0050】
(塩基性化合物)
研磨用組成物には、塩基性化合物を含有させることができる。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。例えば、アルカリ金属の水酸化物、第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン、リン酸塩やリン酸水素塩、有機酸塩等が挙げられる。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウムが挙げられる。
アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類、等が挙げられる。
リン酸塩やリン酸水素塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属塩、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等のアンモニウム塩が挙げられる。
【0052】
(イオン強度)
特に限定するものではないが、好ましい一態様に係る研磨用組成物は、砥粒含有量が6重量%となる濃度におけるイオン強度が0.150mol/L以下であり得る。イオン強度が0.150mol/L以下である研磨用組成物は、コロイダルシリカの分散安定性に優れる傾向がある。かかる観点から、イオン強度が0.110mol/L未満である研磨用組成物がさらに好ましい。イオン強度の下限は特に限定されず、研磨用組成物を所望のpHに調整できればよい。研磨速度の向上の観点から、通常は、イオン強度が0.01mol/L以上であることが好ましく、0.02mol/L以上であることがより好ましく、0.03mol/L以上であることがさらに好ましい。
【0053】
本明細書中においてイオン強度とは、研磨用組成物の砥粒含有量が6重量%となる濃度において、該研磨用組成物中の全てのイオンについて下記式(1)により算出される値をいう。目的とする研磨用組成物の砥粒含有量が6重量%とは異なる場合には、水の量を増減することにより砥粒含有量6重量%に濃度調整した場合における研磨用組成物についてイオン強度を算出する。
【0054】
【数1】

【0055】
ここで、式(1)中のIは、イオン強度[mol/L]を表す。m_(i)は、各イオンのモル濃度[mol/L]を表す。z_(i)は、各イオンの電荷(価数)を表す。各イオンのモル濃度は、イオン強度の算出に係る研磨用組成物のpH域において解離する(イオン化する)各物質のイオン量(割合)から算出される。例えば、砥粒含有量6重量%に調製された研磨用組成物中に1mol/Lの濃度で含まれる物質Aが、そのpH域において50%しかイオン化しない場合、イオン強度に反映させるモル濃度は0.5mol/Lとなる。
【0056】
イオン強度の算出に係る研磨用組成物(すなわち、砥粒含有量が6重量%となるように必要に応じて濃度調整を行った研磨用組成物)のpH域で解離している各物質のイオン量(割合)は、各物質の解離定数(電離定数、酸解離定数)によって求めることができる。
例えば、研磨用組成物中でA^(-)とH^(+)に解離する物質AHの酸解離定数がpKaであり、上記物質AHが研磨用組成物中に1.0mol/L含まれており、その研磨用組成物のpHが3である場合には、A^(-)の濃度m_(A)は、(10^(-pKa)×1.0[mol/L])/1.0×10^(-3)の式で求められる。
研磨用組成物に塩を添加する場合には、その塩のカウンターイオンのモル濃度によってイオン強度を算出する。例えば、研磨用組成物中でA^(-)とB^(+)に解離する物質ABについては、研磨用組成物中AHまたはBOHについては、分けてイオン強度を算出する。
また、研磨用組成物中で一段階以上の多段階の解離をする物質を含む研磨用組成物においては、それぞれの段階で解離しているイオンについてイオン強度を求める。
なお、イオン強度の算出は、研磨用組成物の温度が25℃である場合について行うものとする。
【0057】
研磨用組成物のイオン強度は、例えば、該組成物に含まれるイオン性化合物の種類および使用量(濃度)により調節することができる。上記イオン性化合物としては、上述した研磨促進剤や塩基性化合物として機能する化合物を利用し得る。これら以外のイオン性化合物を用いてイオン強度を調節してもよい。
【0058】
(その他の成分)
研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、キレート剤や防腐剤等の、研磨用組成物(典型的には、Ni-P基板等のような磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0059】
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましく、なかでも好ましいものとしてエチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0060】
上述のような研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で被研磨物(例えば磁気ディスク基板)に供給されて、該被研磨物の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、研磨用組成物を希釈して調製されたものであり得る。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、被研磨物に供給される研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液との双方が包含される。
【0061】
研磨用組成物は、被研磨物に供給される前には濃縮された形態(濃縮液の形態)であってもよい。かかる濃縮液の形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば1.5倍?50倍程度とすることができる。濃縮液の貯蔵安定性等の観点から、通常は、2倍?20倍(典型的には2倍?10倍)程度の濃縮倍率が適当である。
このように濃縮液の形態にある研磨用組成物は、所望のタイミングで希釈して研磨液を調製し、その研磨液を被研磨物に供給する態様で好適に使用することができる。
【0062】
研磨用組成物のpHは特に限定されない。例えば、研磨レートや表面平滑性等の観点から、pH4以下が好ましく、pH3以下がより好ましい。研磨液において上記pHが実現されるように、必要に応じて有機酸、無機酸等のpH調整剤を含有させることができる。上記pHは、例えば、Ni-Pの研磨に用いられる研磨液に好ましく適用され得る。
【0063】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0064】
<実施例および比較例>
(研磨液の調製)
砥粒、パッド表面調整剤、酸または塩、塩基性化合物、31%過酸化水素水およびイオン交換水を混合して、表1に示す組成および性質を有する研磨液1?8を調製した。酸または塩、塩基性化合物の使用量は、研磨液のイオン強度を見ながら適宜調整した。表1中、「-」は不使用を意味する。また、GLDA4NaはL-グルタミン酸二酢酸四ナトリウムの略称である。
【0065】
【表1】

【0066】
(パッドドレッシング)
研磨パッドとして、ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドを用意した。上記研磨パッドのサイズは、外径640mm、内径232mmのドーナツ盤状であり、したがって研磨面の面積は2792cm^(2)である。上記研磨パッド2枚を、両面研磨装置(スピードファム社製「9B-5P」)の上定盤と下定盤に各1枚ずつ固定した。ダイヤモンドドレッサーを2枚/キャリア×5キャリア(計10枚)装填し、1?1.5L/分のレートでイオン交換水を供給しながら、研磨パッドの研磨面に対してパッドドレッシングを行った。
【0067】
(ダミー研磨)
次いで、上記研磨パッドが引き続き定盤に固定された状態で、該研磨パッドの研磨面に高圧ジェット水流を吹き付けて洗浄した。そして、上記両面研磨装置にダミー基板をセットし、表2に示す研磨液を用いて下記の条件でダミー研磨を行った。
ダミー基板としては、表面に無電解ニッケルリンめっき層を備えた直径3.5インチ(約95mm)、厚さ1.27mmのハードディスク用アルミニウム基板を用いた。
[ダミー研磨条件]
研磨荷重:120g/cm^(2)
基板装填枚数:2枚/キャリア×4キャリア(計8枚)
下定盤回転数:60rpm
研磨液の供給レート:83mL/分
研磨時間:5分
研磨回数:12回
【0068】
(研磨対象基板の研磨:本研磨)
ダミー研磨終了後、ダミー基板を取り外し、研磨対象基板をセットした。研磨対象基板としては、表面に無電解ニッケルリンめっき層を備えた直径3.5インチ(約95mm)、厚さ1.27mmのハードディスク用アルミニウム基板を、Schmitt Measurement System社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定される表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))の値が6Åとなるように予備研磨したものを使用した。表2に示す研磨液を用いて下記の条件で研磨対象基板を研磨した。
[研磨条件]
研磨荷重:120g/cm^(2)
基板装填枚数:2枚/キャリア×4キャリア(計8枚)
下定盤回転数:60rpm
研磨液の供給レート:83mL/分
研磨時間:5分
【0069】
<評価>
[毛羽立ち]
パッドドレッシングを終えた後の研磨パッド表面およびダミー研磨を終えた後の研磨パッド表面について、SEMで観察を行い、以下の2水準で評価した。結果を表2に示す。
○:パッドドレッシング後に存在していたパッド表面の毛羽立ちが、ダミー研磨後には除去されていた。
×:パッドドレッシング後に存在していたパッド表面の毛羽立ちが、ダミー研磨後にも除去されていなかった。
【0070】
[ポア開口率]
研磨対象基板の研磨を終えた後の研磨パッド表面につき、SEMで観察を行い、以下の2水準で評価した。結果を表2に示す。
○:パッド表面に十分数のポアが認められた。すなわち気泡が十分に開口していた。
×:パッド表面のポアが塞がれており、開口状態は十分でなく、表面がコロイダルシリカによって覆われていた。
【0071】
[微小うねり]
各実施例および各比較例に係る基板(研磨後の研磨対象基板)2枚の表裏、計4面につき、非接触表面形状測定機(商品名「NewView」、Zygo社製)を用いて、レンズ倍率2.5倍、ズーム倍率0.5倍、バンドパスフィルターを80?500μmの条件で微小うねりを測定した。研磨後の基板の中心から径方向外側に37mmの位置に対し、90°ずつ4ヵ所を測定し、その平均値を微小うねり値(Å)として求めた。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示されるように、ダミー研磨工程で用いるダミー研磨用組成物として、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液にパッド表面調整剤を含ませたものを用いた実施例1?5では、パッド表面は十分に開口し、基板表面の微小うねりを有意に低減することができた。一方、ダミー研磨工程で用いるダミー研磨用組成物として、パッド表面調整剤を含まない研磨液を用いた比較例1?4、パッド表面調整剤の機能を持たない分散剤を含む研磨液を用いた比較例5、6では、パッド表面の毛羽立ちは除去されず、パッド表面は十分に開口せず、実施例1?5と比べて微小うねりは高い値を示した。これらの結果から、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液にパッド表面調整剤を含ませた研磨液を、ダミー研磨工程で用いるダミー研磨用組成物として用いることで、微小うねりを低減し得ることがわかる。
【0074】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と;
前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨する工程(b)と;
研磨対象基板を研磨する工程(c)と;
を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法であって、
前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む、基板の製造方法。
【請求項2】
ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と、ここで該パッドドレッシングは、該研磨パッドの発泡部分(ポア)が2μm以上の平均開口径で表面に現れるまで削りとるように行われる工程である;
前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨を行い、前記パッドドレッシング後の該研磨パッド表面に存在する毛羽立った部分を除去する工程(b)と;
研磨対象基板を研磨する工程(c)と;
を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法であって、
前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含み、
前記工程(c)において前記工程(b)の研磨液を用いる、基板の製造方法。
【請求項3】
ポリウレタン製でスウェードタイプのノンバフパッドである研磨パッドを、該研磨パッドが研磨装置に装着された状態でパッドドレッシングする工程(a)と、ここで該パッドドレッシング後の該研磨パッドの表面には、平坦に削りとられることによって、気泡が開口してできたポアが多数存在し、毛羽立った部分が存在している;
前記パッドドレッシングされた研磨パッド、および、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用いてダミー研磨を行い、前記毛羽立った部分を除去する工程(b)と;
研磨対象基板を研磨する工程(c)と;
を含む、基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法であって、
前記研磨液は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択されるパッド表面調整剤を含む、基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の製造方法において前記工程(b)の研磨液として用いられる研磨用組成物であって、
コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含み、
前記パッド表面調整剤は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択される、研磨用組成物。
【請求項5】
請求項2に記載の製造方法において前記工程(b)の研磨液として用いられる研磨用組成物であって、
コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含み、
前記パッド表面調整剤は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択される、研磨用組成物。
【請求項6】
請求項3に記載の製造方法において前記工程(b)の研磨液として用いられる研磨用組成物であって、
コロイダルシリカ砥粒と、パッド表面調整剤と、を含み、
前記パッド表面調整剤は、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物、ポリイソプレンスルホン酸およびその塩、ポリビニルスルホン酸およびその塩、ポリアリルスルホン酸およびその塩、ならびに、ポリイソアミレンスルホン酸およびその塩から選択される、研磨用組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-12-27 
出願番号 特願2014-78150(P2014-78150)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G11B)
P 1 651・ 537- YAA (G11B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中野 和彦  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 小池 正彦
樫本 剛
登録日 2018-07-06 
登録番号 特許第6362385号(P6362385)
権利者 株式会社フジミインコーポレーテッド
発明の名称 基材ディスクの表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の製造方法および研磨用組成物  
代理人 安部 誠  
代理人 大井 道子  
代理人 谷 征史  
代理人 大井 道子  
代理人 谷 征史  
代理人 安部 誠  

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