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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特174条1項  H01L
管理番号 1359593
異議申立番号 異議2019-700808  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-08 
確定日 2020-02-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6500138号発明「ボール配列用マスク」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6500138号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6500138号の請求項1及び2に係る特許についての出願は,平成27年6月8日に出願された特願2015-115779号の一部を平成30年2月22日に新たな特許出願としたものであって,平成31年2月21日に手続補正がされ,平成31年3月22日にその特許権の設定登録がされ,平成31年4月10日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,令和元年10月8日に特許異議申立人 渡辺 麻紀は,特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6500138号の請求項1及び2の特許に係る発明(以下,「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
メッキにより形成され,振り込まれた導電性ボールが挿通する複数の開口部が形成されたマスク本体と,メッキにより形成され,導電性ボールが振り込まれる側ではなく基板の電極と対向する側となる前記マスク本体裏面の前記開口部以外に部分的に突出され,互に分離独立した複数の突起とを備え,
前記分離独立した複数の突起は,第1のメッキ層により前記基板とは接触しない側に形成された内部突起と,この内部突起の表面に前記第1のメッキ層とは別の第2のメッキ層により前記内部突起の周側面及び基板側下面を覆うように形成され,基板の電極と対向する側となる外部突起とからなり,前記マスク本体は,前記第2のメッキ層により前記外部突起と一体的に形成されており,前記外部突起は,側面視においてその周縁エッジ部が丸味を持ったR形状に形成されていることを特徴とするボール配列用マスク。
【請求項2】
突起の形状は,円柱状,多角形状,連続した突条,間欠的な突条のいずれか一つであることを特徴とする請求項1記載のボール配列用マスク。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人 渡辺 麻紀は,本件特許の請求項1及び2に係る発明は,特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであるから,請求項1及び2に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
さらに,特許異議申立人 渡辺 麻紀は,本件特許の請求項1及び2に係る発明は,特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであるから,請求項1及び2に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
さらに,特許異議申立人 渡辺 麻紀は,本件特許の請求項1及び2に係る発明は,特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものであるから,請求項1及び2に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
さらに,特許異議申立人 渡辺 麻紀は,主たる証拠として,特開2006-287215号公報(以下「甲第1号証」という。)及び従たる証拠として,特開2010-247500号公報(以下「甲第2号証」という。)を提出し,請求項1及び2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1及び2に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

第4 特許法第36条第6項第2号について
特許異議申立人 渡辺 麻紀は,特許異議申立書において,本件特許公報の段落【0017】の記載を参酌すれば,本件発明1及び2の「ボール配列用マスク」とは,「印刷用マスク」を含むものであるか否かが不明であり,また,本件特許発明1及び2の「ボール配列用マスク」とは,一切の突起を具備しない印刷用マスクを含むボール配列用マスクを含むものであるか否かが不明であるから,本件特許発明1及び2は,明確性の要件を充足しないものであって,取り消されるべきものである旨を主張する。
しかしながら,「ボール配列用マスク」と「印刷用マスク」が異なるものであることは,技術常識に照らして明らかであり,さらに,請求項1及び2において,本件発明1及び2のボール配列用マスクが,突起を具備することが特定されている。
したがって,本件特許公報の請求項1及び2の記載によって特許を受けようとする本件発明1及び2が,「印刷用マスク」を含むものではなく,また,「一切の突起を具備しない」ボール配列用マスクを含まないことは明確であり,特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。
上記のとおりであるから,特許異議申立人 渡辺 麻紀のかかる主張は,採用することができない。

第5 特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項第1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載要件について,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」と規定しており,当業者が,明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて,請求項に係る発明を実施しようとした場合に,どのように実施するかを理解できない場合(例えば,どのように実施するかを見いだすために,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑な実験等をする必要がある場合)には,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていないことになる。
そして,上記における「実施」とは,「物の発明」においては,その物を製造できるように記載されていることである。
そこで,上記の観点に立って,本件明細書の発明の詳細な説明が実施可能要件に適合するか否か,すなわち,本件の請求項1及び2に係る発明について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されているか否かについて検討すると,本件明細書の発明の詳細な説明には,技術常識を参酌すれば,本件の請求項1及び2で特定する構造を備えたボール配列用マスクを生産する方法が具体的に記載されているものと認められる。
特許異議申立人 渡辺 麻紀は,特許異議申立書において,本件特許公報の段落【0013】には,円柱状のレジスト層2を形成したのち,一次メッキ層3を形成して,母材1上に円柱状の突起3aを形成することが記載されているが,円柱状のレジスト層2を使って,円柱状の突起3aを形成することは技術的に不可能であり,本件特許の発明の詳細な説明の記載は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものがその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは言えないから,本件特許発明1,2は実施可能要件を充足しないものであって,取り消されるべきものである旨を主張する。
しかしながら,中実の円柱状のレジスト層2を使って,円柱状の突起3aを形成することは技術的に不可能であることは自明であるから,技術常識を踏まえて,本件特許明細書の記載を解釈すれば,当業者が,明細書全体の記載及び図面の記載と出願時の技術常識とに基づいて,請求項に係る発明を実施することはできるものと認められる。
したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が請求項1及び2に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるから,特許法第36条第4項第1号の要件を満たす。
上記のとおりであるから,特許異議申立人 渡辺 麻紀のかかる主張は,採用することができない。

第6 特許法第17条の2第3項について
特許異議申立人 渡辺 麻紀は,特許異議申立書において,平成31年2月21日付の手続補正書による本件発明1に係る補正は,新規事項追加に該当するものであり,特許法第17条の2第3項補正要件に反する補正であるから,本件発明1,およびこれに従属する本件発明2は取り消されるべきものである旨を主張する。
しかしながら,本件特許に係る特許出願の願書に添付した明細書に,「【0008】また,突起の形状は,円柱状,多角形状,連続した突条,間欠的な突条のいずれか一つである。」との記載があることから,「互いに分離独立」した「突起」が,本件特許に係る特許出願の願書に添付した明細書に記載されていたものと認められる。
すなわち,平成31年2月21日付の手続補正書による本件発明1に係る補正は,当業者によって,当初明細書明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないから,当該補正は,新規事項を追加するものではなく,特許法第17条の2第3項補正要件に反しない。
上記のとおりであるから,特許異議申立人 渡辺 麻紀のかかる主張は,採用することができない。

第7 特許法第29条第2項について
1 本件発明1について
(1) 甲号証の記載
ア 甲第1号証の記載及び甲1発明
(ア)甲第1号証には,以下の事項が記載されている。(下線は,当審で付した。以下同じ。)
「【請求項1】
所定のパターンで導電性ボールを被配列体に配列するため,前記パターンに対応し前記導電性ボールが挿通可能な複数の開口部が形成された平板状のマスクであって,前記マスクの一面の非開口部から突起した柱状の突起部とを有し,前記突起部は,前記マスクの一面を前記被配列体の一面に位置合わせしたときに前記被配列体に当接可能に設けられている導電性ボールの配列用マスク。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は,導電性ボールを被配列体に配列する導電性ボールの配列用マスクおよびそれを用いた配列装置に関し,特に,被配列体として電子部品の接続バンプを形成するにあたり用いられる微小な半田ボールを電子部品に配列するのに好適な導電性ボールの配列用マスクおよびそれを用いた導電性ボール配列装置に係るものである。」

「【0015】
本発明について,その一実施様態に基づき図面を参照し説明する。なお,以下の態様のマスクは,直径が300μm以下の半田ボール,特にFCに採用されるような100μm?50μm程度の半田ボールを配列するのに極めて有効である。」

「【0017】
まず,本態様において導電性ボールである半田ボール2が配列される被配列体であるウエハーについて説明する。図3(a)に示すように,ウエハー3は,規則的に配置された複数の半導体チップ32から構成されている。各半導体チップ32の一面(以下電極面と称する。)には,その入出力端子であり半田ボールが載置される電極31が一定のパターンで領域34の中に形成されている。そのウエハー3は,図3(b)の2点鎖線で示す切断線33に沿い個片に切断され,個々の半導体チップ32とされる。このウエハー3の電極31の上面には,図2に示すように,例えばハンダペースト又はフラックスが所定の厚みで印刷されてなる粘着膜4が予め形成されている。」

「【0020】
[マスク]
マスク13は,図4及び図8(a),(b)に示す様に,ウエハー3の電極31の配列パターンに対応し形成され半田ボール2が挿通可能な貫通孔状の開口部131と,非開口部132と,非開口部132の底面に突起して配設された円柱状(柱状)の突起部133とで構成されている。なお,マスク13は,後述する磁石部12で吸引可能なようにNiやFeなど軟磁性材で構成されている。
【0021】
突起部133は,例えば図8に示すように,ウエハー3の電極31に対応し,平面視において一定のピッチで配置された複数の開口部131に包含された非開口部132に突起して設けられている。突起部133は,開口部132が形成された金属板をフォトリソプロセスに通し,非開口部132の所定な部分をエッチング加工で除去することにより形成することができる。また,突起部133は,開口部131が形成された薄い金属箔に電気鋳造(メッキ)で肉盛することで形成することができる。なお,突起部133の断面寸法は,非開口部132の面積や形によって適宜選定すればよく,また,突起部133の配列ピッチや個数は,非開口部132の撓みに対する剛性を考慮して選定すればよく,例えば,マスク13自体の剛性が比較的高い場合には,図8(b)における突起部133を間引いても良い。」

「【0023】
上記の形態のマスク13は,ウエハー3における半導体チップ32の面積が大きく,かつ電極31が非常に密に配設された場合においても有効である。それは,例えば半導体チップ32の大きさが15mm角程度で,80μm程度の直径を有する電極31の配設間隔が150μm程度で,チップ当りの電極31の個数が1万個程度のΦ300mmのウエハー3であって,その全ての電極31に80μmの直径を有する半田ボール2を搭載する場合である。図9に示すような従来の形態,即ち開口部131の周囲に凸部139を設ける形態においては,例えばΦ100μmの開口部131を有するマスクを使用する場合,隣接する開口部131とのスペースは50μm以下となるため,精度的な面でマスク13の製作が極めて困難である。このような場合においても,図8(a)に示すように,隣接した複数の開口部131で包含される非開口部132の中心(図心)Pに,40μm程度の突起部133を配設することは比較的容易である。」

「【0027】
この電極31aに半田ボール2を配列するマスク13aは,図7及び図11(a)に示すように,同一の半導体チップ32aの電極31に取り囲まれた中心領域134aには角柱状の突起部133aを,ウエハー3の外周に相当する領域には広範囲の突起部133Cを,隣接する半導体チップ32aの間には桟状の突起部133bを,全ての高さを合わせて形成したものになっている。
【0028】
図11(b)と(c)には,マスク13aの変形例を示す。図11(b)のマスク13aは,図11(a)における桟状の突起部133bを部分的に削除した形態であり,図11(c)は更に半導体チップ32aの中心領域134aに設けた角柱状の突起部133aを,工業的に製作し易い円柱状に形成したものである。なお,マスク13aの剛性に余裕があって撓みが生じ難い場合には,桟状の突起部133bを設けず,中央の突起部133aのみにしても良い。」

「【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施態様のマスクを用いた導電性ボール配列装置の概略構成図である。
【図2】図1の部分拡大断面図である。
【図3】図1のウエハーの斜視図である。
【図4】図1のマスクの斜視図である。
【図5】図1の導電性ボール配列装置の動作を説明する図である。
【図6】図7のマスクが対象とするウエハーの斜視図である。
【図7】図6のウエハーに半田ボールを配列するマスクの斜視図である。
【図8】図1のマスクを部分拡大した平面図と断面図である。
【図9】従来のマスクを部分拡大した平面図と断面図である。
【図10】図1のマスクの非開口部の図心位置を説明した図である。
【図11】図7のマスクを部分拡大した平面図である。
【図12】図1と図9のマスクの撓んだ状態を説明する図である。」

図2




図7




図8




図11




(イ)上記記載から,甲第1号証には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 甲第1号証には,導電性ボール2を被配列体に配列する導電性ボールの配列用マスクが開示されていること。

b マスク13は,導電性ボール2(半田ボール)が挿通可能な貫通孔状の開口部131と,非開口部132と,非開口部132の底面の被配列体の側に突起して配列された突起部133とで構成されており,一つのマスク13には,多数個の突起部133が形成されていること。

c 甲第1号証には突起部133の形状の具体例として,円柱状,四角柱状,連続した突条,および間欠的な突条が挙げられており,円柱状の突起,四角柱状の突起,間欠的な突条の突起は,互いに分離独立して形成されていること。

d 突起部133は,電気鋳造(メッキ)により形成されていること。

(ウ)そうすると,甲第1号証には,以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「振り込まれた導電性ボールが挿通される複数の開口部を有する非開口部と,メッキにより形成され,導電性ボールが振り込まれる側ではなく,半導体チップの電極と対向する側となる開口部以外の非開口部に部分的に突出され,互いに分離独立した複数の突起部とを備える,導電性ボール配列用マスク。」

イ 甲第2号証の記載及び甲2発明
(ア)甲第2号証には,以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
パターン開口部周辺に凹部が形成されたマスクにおいて,マスクの凹部およびパターン開口部を1種類の電着層で形成したことで,凹部の縁部が下方に向かって略円弧状に形成されることにより凹部の縁部の突出を抑え,厚みを安定させたことを特徴とするマスク。
【請求項2】
電鋳母型を用意し,次いで前記電鋳母型上に1次パターンレジスト膜を形成し,次いで前記電鋳母型上の前記1次パターンレジスト膜が形成された領域を除いて1次電着層を形成し,次いで前記電鋳母型上の前記1次パターンレジスト膜と前記電鋳母型上の前記1次電着層で形成された捨て電着層を除去し,次いで前記1次電着層が形成された電鋳母型上に2次パターンレジスト膜を形成し,次いで前記1次電着層が形成された電鋳母型上の前記2次パターンレジスト膜が形成された領域を除いて2次電着層を形成し,次いで前記2次パターンレジスト膜を除去し,次いで前記電鋳母型から前記1次電着層と前記2次電着層を一体に剥離して作製したことを特徴とする,凹部の縁部の突出を抑え,厚みを安定させたマスクの製造方法。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は,スクリーン印刷用マスクや導電性ボール搭載用マスクといった各種マスクに用いられるマスクおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より,スクリーン印刷用マスクにおいては印刷時のペーストの塗布量の調整等を目的として,基板といった被印刷物と対向する面の反対面であるスキージ面側の開口パターン周辺部に凹部が形成されたマスクが使用されている。また,導電性ボール搭載用マスクにおいては,基板の導電性ボール搭載部の電極の上に形成されているフラックス等がマスクに付着するのを防止するための目的として,基板面側の開口パターン周辺部に凹部が形成されたマスクが使用されている。
<途中省略>
しかしながら,2次電着層12の厚みを含めたマスク15の厚みに関しては,2次電着層12の凹部14形成時に凹部14の縁部のめっきの厚みが厚くなって突出部13が発生するため,エッチング法よりも厚みのばらつきが大きい,すなわち厚みの安定性がないという問題があった。
電気めっき法では,めっきの析出速度は電流密度によって決まり,電流密度が大きいほど析出速度が増す。よって,絶縁物であるレジスト膜で覆われた部分の周辺部では,導電性の面の面積が小さくなってしまうために電流が集中して電流密度が高くなる。すなわち,レジスト膜で覆われている部分の周辺部はめっき膜が厚くなるため,開口パターンと比べると面積が大きいレジスト膜を形成する凹部パターンの周辺部分は,めっきの厚みが厚くなってしまう。
マスク全体の厚みのばらつきが大きいと,スクリーン印刷用マスクにおいては印刷ペーストの塗布量のばらつきが発生し易くなり,導電性ボール搭載用マスクにおいては導電性ボールの搭載不良が発生し易くなるといった問題が発生する。よって,マスクとしては凹部の底部の厚みの安定性と,マスクの厚みの安定性が要求されている。
そこで,上記の問題を解決する手段として,スクリーン印刷版の従来技術としては,メッシュ部が形成されている第1の金属膜と,該第1の金属膜上にある印刷パターンに相当する形状の印刷孔を有する第2の金属膜とが一体化しているスクリーン印刷版において,前記第1の金属膜の膜厚が30μm以下であり,前記第2の金属膜の膜厚を均一化するためのダミー孔が前記第2の金属膜上の前記印刷孔が配置されている領域の周囲に設けられていることを特徴とするスクリーン印刷版(例えば,特許文献1参照),またボール搭載型の印刷版の従来技術としては,印刷部開口を有する第1のマスク層と,印刷パターンに対応した印刷パターン開口を有する第2のマスク層とが積層されたマスクであり,上記第1のマスク層は,上記印刷パターン開口の略全面に重ねて形成された印刷部開口を有する印刷部と,印刷部開口を有さない非印刷部とを有し,上記第2のマスク層は,上記印刷パターン開口に加えて上記第1のマスク層の上記非印刷部と重なる部分にダミーの開口を有することを特徴とするマスク(例えば,特許文献2参照)が存在している。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来技術は,特許文献1,特許文献2共に印刷板の厚み精度を上げる技術であるが,共に印刷板を成形する中途段階で開口部パターンの周囲にダミーパターンを形成して,板厚のバラツキを減少させ,メッキ後の印刷版の板厚精度を上げる手法を採用しているが,本来必要のない部分にもダミーパターンを形成しなければならないため,ダミーパターンがないマスクと比較すると第1の金属のみの部分が多くなってしまう。
すると,例えば第1の金属膜の厚みが非常に薄いマスクの場合は金属膜厚の薄い部分が増えてしまい,マスクとしての耐久性が低下するという問題があった。
また,上記先行技術をペースト塗布量を調整するスクリーン印刷用マスクとして使用する場合,凹部をスキージ面側に形成するため,多数のダミーパターンもスキージ面に形成することになる。そのようなマスクを使用して実際にペーストを印刷すると,ペーストがダミーパターンの凹部に入り込んでしまい,ペーストの使用量が増えたり,マスクの洗浄が煩雑になるという問題があった。
さらに,プリント基板といった被印刷物に半田ペーストを印刷するためのスクリーン印刷用マスクの一部の開口部のペーストの塗布量を調整するために凹部を形成する場合において,ペーストの突出量を調整したい開口パターン近部に塗布量を調整しない開口パターンがある場合は,ダミーパターン自体を形成することができないという問題があった。
そこで,本発明は上記問題点を解決しつつ,ダミーパターンを形成することなしに,安定した厚みが得られるマスクを提供することを目的とするものである。」

「【発明の効果】
【0007】
本発明に係るマスク及びマスクの製造方法は,上記説明のような構成を有するので,以下に記載する効果を奏する。
(1)電鋳法で作製するため,凹部の底部の厚み制御がし易い。
(2)製造工程に捨て電着層を採用し,さらに2次電着層で開口パターンおよび凹部を形成しているので,マスク全体の厚みのばらつきが抑えられる。
(3)ダミーパターンを形成する必要がないので,ダミーパターンDATA作成作業を削減できる。
(4)マスクにダミーパターンがないので,ダミーパターンが形成してあるマスクと比較すると,マスクとしての耐久性が向上する。
(5)マスクにダミーパターンがないので,ダミーパターンが形成してあるマスクと比較すると,ペーストの使用量が少なくて済み,さらにマスクの洗浄もし易くなる。」

「【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の特徴であるマスクの製造方法の一実施例を示す概略製造工程説明図である。
【図2】従来のマスクの製造方法を示す製造工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
パターン開口部周辺に凹部が形成されたマスクにおいて,マスクの凹部およびパターン開口部を1種類の電着層で形成し,凹部の縁部を下方に向かった略円弧状に形成して凹部の縁部の突出を抑えたことで,厚みを安定させたマスクである。
【実施例】
【0010】
以下,図面を用いて本発明の一実施例に関して説明する。
図1に基づいて本発明のマスクの製造方法の一実施例について説明する。
先ず,図1(a)に示すように,導電性の電鋳母型1を用意する。
使用する導電性の電鋳母型1としてはSUS301やSUS304といったステンレス材が好適であるが,鉄,銅,ニッケル合金,アルミニウムといった金属材料も用いることもできる。さらに,ガラス板や樹脂フィルム等に例えばニッケル,クロム,ITO(Indium Tin Oxide)膜といった導電性被膜を付与したものを電鋳母型として用いることもできる。
また,必要に応じて導電性の電鋳母型に表面処理を行っても構わない。
ここでいう表面処理とは後に施すレジストの密着性を向上や,電鋳被膜の外観を向上させる等の目的で行うものであり,上述の目的を達成するのであればどのような処理を施しても構わないが,例えばバフ研磨といった物理的処理や,塩酸処理といった化学的な処理や,それらを複合した処理を行う。また,アルカリ電解脱脂等の脱脂処理を加えてもよい。
【0011】
図1(b)に示すように,電鋳母型1に感光性の1次レジスト膜2を形成する。
感光性の1次レジスト膜2を形成する方法としては,ドライフィルムレジストといったフィルム状の感光性レジストを既存のラミネータを使用してラミネートするといった方法や,液状の感光性レジストをロールコータやスピンコータ,バーコータやカーテンコータ,ディップコータといった既存の液状レジスト塗布装置を使用して電鋳母型1上に成膜するといった方法があるが,何れの方法を使用しても構わない。感光性レジストには大別してネガタイプとポジタイプが存在するが,どちらのタイプの感光性レジストを使用しても構わない。
ただし,感光性レジストの厚みに関しては,後の工程で行う1次電着層の厚みよりも厚くするのが好ましい。
ここでは,ネガタイプのドライフィルムレジストを既存のラミネータ装置を使用してステンレス材の電鋳母型1にラミネートする。
【0012】
図1(c)に示すように,1次レジスト膜2に1次パターン3を露光する。1次パターン3は本発明のマスクにおける凹部4を形成するためのパターンである。この1次パターン3は後の工程にて形成する1次電着層6の厚みを安定させるため,捨て電着層7を形成するようなパターンとする。ここで捨て電着層7を形成するパターンとは,例えばある大きさで凹部形状を形成する場合,その仕上がりに合わせてレジスト膜を形成するのではなく,例えば凹部4の仕上がりに合せた大きさの輪郭形状のみをレジスト膜で形成するといったものである。輪郭形状のみをレジスト膜で形成するため,レジスト膜で囲まれた内側部分には電着層,いわゆる捨て電着層7が形成されるが,凹部形状全体をレジスト膜で形成する場合と比較して,電気めっき時の電流密度の粗密さによる電着層の厚みのばらつきを抑えるという効果がある。
露光方法に関しては,ガラスやフィルムといった素材の1次パターン3が形成されたフォトマスクを1次レジスト膜2に密着させた後に超高圧水銀灯やメタルハライドランプといった紫外線を発生する光源を使用して1次レジスト膜2に紫外線を照射しても良いし,半導体レーザや超高圧水銀灯を光源に持つ直接描画装置を使用して,前記フォトマスクを使用せずに1次レジスト膜2に1次パターン3を直接描画しても構わない。
なお,密着露光用のフォトマスクや描画パターンはレジストのタイプに合わせてネガパターンかポジパターンかを選択して使用する。
ここでは,大日本スクリーン製造社製直接描画装置LI-8500を使用して,1次パターン3を直接1次レジスト膜2に描画する。
【0013】
図1(d)に示すように,1次パターン3を描画した1次レジスト膜2を現像,乾燥し,1次パターンレジスト膜5を形成した。
ここではネガタイプのレジストを使用しているため,前記直接描画装置で描画した部分のレジストが残り,1次パターンレジスト膜5を形成している。
【0014】
図1(e)に示すように,1次パターンレジスト膜5を形成した電鋳母型1を例えばスルファミン酸ニッケルめっき浴の電鋳層に移し,例えばニッケルあるいはニッケルを主成分とする合金などの電鋳を行って,電鋳母型1の1次パターンレジスト膜5で覆われていない表面に1次電着層6を形成する。1次電着層6の表面状態は光沢面でも半光沢面でも無光沢面でも構わない。また,表面硬度といった表面状態以外のめっき特性に関しても特に制限はないものとする。1次パターンレジスト膜5は捨て電着層7を形成しているため,厚みばらつきが抑えられた1次電着層6を形成することができる。なお,本製造方法では1次電着層6の厚みはすなわち図1(l)に示す凹部14の深さとなるため,凹部14の深さに合わせて1次電着層6の厚みを調整する。
【0015】
図1(f)(g)に示すように,1次パターンレジスト膜5および捨て電着層7を剥離する。工程図においては1次パターンレジスト膜5を剥離した後に,捨て電着層7を剥離しているが,先に捨て電着層7を剥離してから1次パターンレジスト層5を剥離しても構わないものとする。1次パターンレジスト膜5は既存のレジスト剥離処理等で剥離すればよく,捨て電着層7は,例えば手や治具を使用して電鋳母型1から剥離すればよいものである。
【0016】
次いで,図1(h)に示すように,1次電着層6が形成された電鋳母型1上に感光性の2次レジスト膜を成膜する。このときに使用するレジストは1次レジスト膜2の形成に使用するレジスト同様にどのようなレジスト及び形成方法を用いても構わないが,2次レジスト膜8は1次電着層6が形成された電鋳母型1の電鋳母型表面,すなわち1次パターンレジスト膜5および捨て電着層7を剥離した部分に形成することを目的とする。つまり,電鋳母型露出部4に2次レジスト膜8を形成しなければならないため,例えば,後の工程にて2次レジスト膜8に形成するパターンが電鋳母型露出部4の縁部付近にある場合においては,電鋳母型露出部4の縁部にまで2次レジスト膜8を形成できるように,液状レジストを使用したり,ドライフィルムレジストを使用する場合は真空ラミネータといった装置を使用したり2次レジスト膜8を形成するのが好ましい。
なお,2次レジスト膜8の厚みに関しては,後の工程で凹部14を形成する電着層の厚みよりも厚いレジストを使用するのが好ましい。
ここでは,ネガタイプのドライフィルムレジストを既存のラミネータ装置を使用して1次電着層6が形成された電鋳母型1上にラミネートする。
【0017】
次いで,図1(i)に示すように,2次レジスト膜8に開口部となる2次パターン10を露光する。このとき,2次パターン10の位置がズレないように,例えば1次電着層6が形成された電鋳母型1上にある図示しない位置合わせマーク等を使用して,1次電着層6が形成された電鋳母型1と2次パターン10の位置合わせを行ってから露光するのが好ましい。露光方法に関しては1次パターン3形成時に使用する露光方法同様にどのような方法を用いても構わないが,2次パターン10は電鋳母型露出部4に形成してある2次レジスト膜8に露光しなければならないため,1次電着層6が厚い場合はガラスやフィルムといった素材のフォトマスクを電鋳母型露出部4に形成してある2次レジスト膜8に密着させて露光するのは困難である。よって,2次パターン10の露光には半導体レーザや超高圧水銀灯を光源に持つ直接描画装置を使用し,2次パターン10を直接2次レジスト膜8に描画するのが好ましい。
ここでは,大日本スクリーン製造社製直接描画装置LI-8500にて,前記直接描画装置に付属しているアライメントマーク認識装置を用いて,1次電着層6が形成された電鋳母型1上にある図示しないアライメントマークを使用して位置合わせを行ってから,2次パターン10を2次レジスト膜8に直接描画する。
【0018】
次いで,図1(j)に示すように,2次パターン10を描画した2次レジスト膜8を現像,乾燥し,2次パターンレジスト膜11を形成した。
ここではネガタイプのフォトレジストを使用しているため,前記直接描画装置で描画した部分のレジストが残り,2次パターンレジスト膜11を形成している。
【0019】
次いで,図1(k)に示すように,2次パターンレジスト膜11を形成した1次電着層6が形成された電鋳母型1を例えばスルファミン酸ニッケルめっき浴の電鋳槽に移し,ニッケルあるいはニッケルを主成分とする合金等の電鋳を行って,1次電着層6が形成された電鋳母型1における2次パターンレジスト膜11で覆われていない部分に2次電着層12を形成する。得られる2次電着層12の表面状態は光沢面でも半光沢面でも無光沢面でも構わない。また,表面硬度といった表面状態以外のめっき特性に関しても特に制限はないものとする。さらに,1次電着層6と2次電着層12は異なるめっき特性,すなわち,表面状態,表面硬度,電鋳めっきの種類等が異なっていても構わない。なお,必要に応じて1次電着層6への2次電着層12の密着性を向上させる目的として,1次電着層6が形成された電鋳母型1に塩酸処理といった化学的な表面処理を行ってもよい。2次電着層12の厚みは凹部14の厚みとなるため,凹部14の厚さに合わせて2次電着層12の厚みを調整する。
【0020】
次いで,図1(l)乃至(m)に示すように,2次パターンレジスト膜11を既存のレジスト剥離処理等で剥離した後,一体化した1次電着層6と2次電着層12を電鋳母型1から引き剥がすことでマスク15が得られる。なお,工程図においては2次パターンレジスト膜11を剥離した後に一体化した1次電着層6と2次電着層12を電鋳母型1から引き剥がしているが,先に一体化した1次電着層6と2次電着層12を電鋳母型1から引き剥がしてから2次パターンレジスト層11を剥離してマスク15としても構わない。
【0021】
以上の工程により,本製造方法では凹部14およびパターン開口部9を2次電着層12で形成するため,凹部14の縁部が突出しないので,厚みが安定したマスク15を得ることができる。」





(イ)上記記載から,甲第2号証には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 甲第2号証に記載された技術は,導電性ボール搭載用マスクに用いられるマスクの製造方法に関するものであること。(【0001】)

b 導電性ボール搭載用マスクにおいては,基板の導電性ボール搭載部の電極の上に形成されているフラックス等がマスクに付着するのを防止することを目的として,基板面側の開口パターン周辺部に凹部が形成されたマスクが使用されていること。(【0002】)

c マスク全体の厚みのばらつきが大きいと,導電性ボール搭載用マスクにおいては導電性ボールの搭載不良が発生し易くなるといった問題が発生するので,マスクとしては凹部の底部の厚みの安定性と,マスクの厚みの安定性が要求されていること。(【0002】)

d ボール搭載型の印刷版の従来技術としては,印刷部開口を有する第1のマスク層と,印刷パターンに対応した印刷パターン開口を有する第2のマスク層とが積層されたマスクであり,上記第1のマスク層は,上記印刷パターン開口の略全面に重ねて形成された印刷部開口を有する印刷部と,印刷部開口を有さない非印刷部とを有し,上記第2のマスク層は,上記印刷パターン開口に加えて上記第1のマスク層の上記非印刷部と重なる部分にダミーの開口を有することを特徴とするマスクが存在していること。(【0002】)

e 前記従来技術は,印刷板の厚み精度を上げる技術であるが,本来必要のない部分にもダミーパターンを形成しなければならないため,ダミーパターンがないマスクと比較すると第1の金属のみの部分が多くなり,第1の金属膜の厚みが非常に薄いマスクの場合は金属膜厚の薄い部分が増えてしまい,マスクとしての耐久性が低下するという問題があったこと。(【0004】)

f 電気めっき法では,めっきの析出速度は電流密度によって決まり,電流密度が大きいほど析出速度が増すので,絶縁物であるレジスト膜で覆われた部分の周辺部では,導電性の面の面積が小さくなってしまうために電流が集中して電流密度が高くなり,その結果,レジスト膜で覆われている部分の周辺部はめっき膜が厚くなるため,開口パターンと比べると面積が大きいレジスト膜を形成する凹部パターンの周辺部分は,めっきの厚みが厚くなってしまうが,マスク全体の厚みのばらつきが大きいと,導電性ボール搭載用マスクにおいては導電性ボールの搭載不良が発生し易くなるといった問題が発生するので,甲第1号証に記載された発明では,マスクにダミーパターンを設けることなく,凹部の仕上がりに合せた大きさの輪郭形状のみをレジスト膜で形成し,レジスト膜で囲まれた内側部分に捨て電着層を形成することで,凹部形状全体をレジスト膜で形成する場合と比較して,電気めっき時の電流密度の粗密さによる電着層の厚みのばらつきを抑えるとともに,ダミーパターンを形成したマスクと比較して,マスクとしての耐久性を向上させたこと。(【0002】,【0007】,【0012】)

g 上記アの記載を参酌すれば,甲第2号証の図1(m)から,甲第2号証に記載された発明である「マスクの製造方法」により作製されたマスクの以下の構造を見て取ることができる。
「電鋳母型1から引き剥がされた平坦な一方の面と,
前記一方の面を基準面として,1次電着層6と2次電着層12の合計の厚さを有する領域と,
1次電着層6と2次電着層12の合計の厚さを有する前記領域に隣接する領域であって,前記一方の面を基準面として,その厚さを,1次電着層6と2次電着層12の合計の厚さから,2次電着層12の厚さにまで減少させる,下方に向かって略円弧状に形成された凹部の縁部である領域と,
凹部の縁部である前記領域に隣接する,2個のパターン開口部9を含む領域であって,前記一方の面を基準面として2次電着層12の厚さを有する領域と
を備えたマスク15の構造。」

(ウ)上記ア及びイから,甲第2号証には,次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「パターン開口部周辺に凹部が形成されたマスクにおいて,マスクの凹部およびパターン開口部を1種類の電着層で形成したことで,凹部の縁部が下方に向かって略円弧状に形成されることにより凹部の縁部の突出を抑え,厚みを安定させた導電性ボール搭載用マスクの製造方法であって,
前記マスクは,
電鋳母型1から引き剥がされた平坦な一方の面と,
前記一方の面を基準面として,1次電着層6と2次電着層12の合計の厚さを有する凹部ではない領域と,
1次電着層6と2次電着層12の合計の厚さを有する前記凹部ではない領域に隣接する領域であって,前記一方の面を基準面として,その厚さを,1次電着層6と2次電着層12の合計の厚さから,2次電着層12の厚さにまで減少させる,下方に向かって略円弧状に形成された凹部の縁部である領域と,
前記凹部の縁部である領域に隣接する,2個のパターン開口部9を含む領域であって,前記一方の面を基準面として2次電着層12の厚さを有するパターン開口部周辺の領域と
を備えており,
前記凹部は,基板の導電性ボール搭載部の電極の上に形成されているフラックス等が前記マスクに付着するのを防止することを目的として,基板面側の開口パターン周辺部に形成されるものであり,
(a)SUS301やSUS304といったステンレス材が好適である導電性の電鋳母型1を用意する工程と,
(b)前記電鋳母型1に感光性の1次レジスト膜2を形成する工程と,
(c)1次レジスト膜2に1次パターン3を露光する工程であって,前記1次パターン3は,前記マスクにおける凹部4を形成するためのパターンであり,この1次パターン3は後の工程にて形成する1次電着層6の厚みを安定させるため,捨て電着層7を形成するようなパターンとするものであり,ここで捨て電着層7を形成するパターンとは,ある大きさで凹部形状を形成する場合,その仕上がりに合わせてレジスト膜を形成するのではなく,凹部4の仕上がりに合せた大きさの輪郭形状のみをレジスト膜で形成するといったものであり,輪郭形状のみをレジスト膜で形成するため,レジスト膜で囲まれた内側部分には電着層,いわゆる捨て電着層7が形成され,凹部形状全体をレジスト膜で形成する場合と比較して,電気めっき時の電流密度の粗密さによる電着層の厚みのばらつきを抑えるという効果がある工程と,
(d)1次パターン3を描画した1次レジスト膜2を現像,乾燥し,1次パターンレジスト膜5を形成する工程と,
(e)1次パターンレジスト膜5を形成した電鋳母型1の1次パターンレジスト膜5で覆われていない表面に厚みばらつきが抑えられた1次電着層6を形成する工程と,
(f)ないし(g)1次パターンレジスト膜5および捨て電着層7を剥離する工程であって,前記1次パターンレジスト膜5は既存のレジスト剥離処理等で剥離すればよく,前記捨て電着層7は,手や治具を使用して電鋳母型1から剥離すればよいものである工程と,
(h)1次電着層6が形成された電鋳母型1上に感光性の2次レジスト膜8を成膜する工程であって,前記2次レジスト膜8は1次電着層6が形成された電鋳母型1の電鋳母型表面,すなわち1次パターンレジスト膜5および捨て電着層7を剥離した部分に形成する工程と,
(i)2次レジスト膜8に開口部となる2次パターン10を露光する工程と,
(j)2次パターン10を描画した2次レジスト膜8を現像,乾燥し,2次パターンレジスト膜11を形成する工程と,
(k)2次パターンレジスト膜11を形成した1次電着層6が形成された電鋳母型1における2次パターンレジスト膜11で覆われていない部分に2次電着層12を形成する工程と,
(l)ないし(m)2次パターンレジスト膜11を既存のレジスト剥離処理等で剥離した後,一体化した1次電着層6と2次電着層12を電鋳母型1から引き剥がすことでマスク15を得る工程と,
を備えた,凹部14の縁部が突出しないので,厚みが安定したマスク15を得ることができる方法。」

(2)対比
ア 本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「振り込まれた導電性ボールが挿通される複数の開口部を有する非開口部」は,本件発明1の「振り込まれた導電性ボールが挿通する複数の開口部が形成されたマスク本体」に相当する。

イ 以上のことから,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
<一致点>
「振り込まれた導電性ボールが挿通する複数の開口部が形成されたマスク本体と,メッキにより形成され,導電性ボールが振り込まれる側ではなく基板の電極と対峙する前記マスク本体裏面の前記開口部以外に部分的に突出され互いに分離独立した複数の突起を備えるボール配列用マスク。」

<相違点>
(相違点1)
本件発明1では,振り込まれた導電性ボールが挿通する複数の開囗部が形成されたマスク本体がメッキにより形成されているのに対して,甲1発明では,そのように構成されていない点。

(相違点2)
本件発明1では,突起が,第1のメッキ層により基板とは接触しない側に形成された内部突起と,この内部突起の表面に第1のメッキ層とは別の第2のメッキ層により内部突起の周側面及び基板側下面を覆うように形成され,基板の電極と対向する側となる外部突起とマスク本体が一体的に形成されているのに対して,甲1発明では,そのように構成されていない点。

(相違点3)
本件発明1では,外部突起が,側面視においてその周縁エッジ部が丸味を持ったR形状に形成されているのに対して,甲1発明では,そのように構成されていない点。

(3)当審の判断
以下,相違点について検討する。
ア 相違点2について
事案にかんがみ,相違点2について最初に検討する。

(ア)甲2発明の凹部は,基板の導電性ボール搭載部の電極の上に形成されているフラックス等が前記マスクに付着するのを防止することを目的として,基板面側の開口パターン周辺部に形成されるものであって,電鋳母型1に,凹部の仕上がりに合わせた大きさの輪郭形状のみを1次パターンレジスト膜5で形成し,1次電着層6を形成し,1次パターンレジスト膜5および1次パターンレジスト膜5で囲まれた内側部分に形成された捨て電着層7を剥離し,2次パターンレジスト膜11を形成し,2次パターンレジスト膜11で覆われていない電鋳母型1に2次電着層12を形成することで得るものである。
そうすると,甲2発明の凹部の輪郭の形状は,1次パターンレジスト膜5および1次パターンレジスト膜5で囲まれた内側部分に形成された捨て電着層7を囲む形状,すなわち,平面視において,円あるいは矩形等の輪郭の内側が窪んでいる凹の形状として理解することが,技術常識に照らして自然かつ合理的であるから,甲2発明は,平面視において,円あるいは矩形等の輪郭の内側が窪んでいる凹の形状を有するボール配列用マスクに係る発明であるといえる。
一方,甲1発明は,上記(1)ア(ウ)のとおり,半導体チップの電極と対向する側となる開口部以外の非開口部に部分的に突出され,互いに分離独立した複数の突起部とを備える,導電性ボール配列用マスクに係る発明,すなわち,平面視において,輪郭の内側が突出する凸の形状を有するボール配列用マスクに係る発明である。
そうすると,甲1発明と,甲2発明とは,平面視において,輪郭の内側が突出した凸の形状であるか,輪郭の内側が窪んでいる凹の形状であるかという点で真逆のものであり,凹部輪郭のレジスト膜に囲まれた捨て電着層を用いた凹部形成方法である甲2発明を,突起部等の形成方法に適用することの動機付けはない。

(イ)加えて,甲2発明が解決しようとする課題に照らしても,甲2発明を,半導体チップの電極と対向する側となる開口部以外の非開口部に部分的に突出され,互いに分離独立した複数の突起部とを備える,導電性ボール配列用マスクに係る発明である甲1発明に適用することの動機付けはない。
すなわち,上記(1)イ(イ)のとおり,甲2発明は,電気めっき法では,めっきの析出速度は電流密度によって決まり,電流密度が大きいほど析出速度が増すので,絶縁物であるレジスト膜で覆われた部分の周辺部では,導電性の面の面積が小さくなってしまうために電流が集中して電流密度が高くなり,その結果,レジスト膜で覆われている部分の周辺部はめっき膜が厚くなるため,開口パターンと比べると面積が大きいレジスト膜を形成する凹部パターンの周辺部分は,めっきの厚みが厚くなってしまうが,マスク全体の厚みのばらつきが大きいと,導電性ボール搭載用マスクにおいては導電性ボールの搭載不良が発生し易くなるといった問題を解決することを課題とした発明である。
ここで,「レジスト膜で覆われている部分の周辺部はめっき膜が厚くなる」との説明における「厚く」は,レジスト膜で覆われた部分の周辺部から十分に離れた位置におけるめっき膜の厚さを基準とした比較であって,レジスト膜で覆われた部分の周辺部から十分に離れることで,レジスト膜で覆われた部分の影響による電流の集中がなくなり,その結果,レジスト膜で覆われた部分の周辺部と,レジスト膜で覆われた部分の周辺部から十分に離れた位置とで,厚みのばらつきが大きくなるものと理解される。
そうすると,甲1発明の「半導体チップの電極と対向する側となる開口部以外の非開口部に部分的に突出され,互いに分離独立した複数の突起部」のような突起部においては,突起部の周縁部と,当該突起部の端面の中央部との間に十分な距離が存在しないことから,突起部の周縁部と,当該突起部の端面の中央部との間に厚みの大きなばらつきが生じることはなく,したがって,突起部形成に際して,甲2発明を適用して,突起部輪郭のレジスト膜の外側に捨て電着層を形成する突起部形成方法とする動機付けはない。
また,仮に,突起部の周縁部と,当該突起部の端面の中央部との間に厚みのばらつきが生じたとしても,突起部の周縁部における電流密度は,周縁部において概ね一様であることから,そのような電流分布によって析出された突起部の端面は,中央部が僅かに窪んだ形状となるにすぎず,他の突起部も同様の形状となることを鑑みれば,このような形状の突起部を複数有するマスクにおいて,導電性ボールの搭載不良が発生し易くなるといった問題が生じることは考えられない。したがって,突起部形成に際して,甲2発明を適用して,突起部輪郭のレジスト膜の外側に捨て電着層を形成する突起部形成方法とする動機付けはない。

(ウ)上記(ア)及び(イ)のとおりであるから,甲1発明に甲2発明を適用して,上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることを,当業者が容易になし得たとはいえない。

イ よって,他の相違点については検討するまでもなく,本件発明1は,甲1発明と甲第2号証に記載された技術的事項から,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本件発明2について
請求項2に係る発明は,請求項1に係る発明に対して,技術的事項を追加したものである。
よって,上記1(3)アに示した理由と同様の理由により,上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

3 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人 渡辺 麻紀は,特許異議申立書において,
「(カ)甲1発明への甲第2号証に記載の技術事項の適用について
a 甲1発明は「導電性ボールの配列用マスク」であり,甲第2号証に記載の発明は,「導電性ボール搭載用マスク」であるから,両発明の技術分野は共通する。
b また,この種の導電性ボールの配列用マスクにおいて,半田ボールを正確に所定位置に投入するために突起の大きさや突出寸法を正確に制御することは,当業者にとって周知の技術的課題であるから,甲1発明において,甲第2号証に記載の上記技術事項を適用して,振り込まれた導電性ボールが挿通する複数の開口部が形成されたマスク本体をメッキにより形成すること(相違点1)や,基板の電極と対向する側に突出された部分(厚肉部)を,第1のメッキ層(1次電着層6)により基板とは接触しない側に形成された内部突起(内側部分)と,この内部突起(内側部分)の表面に1次電着層6とは別の2次電着層12により内部突起(内側部分)の周側面及び基板側面を覆うように形成され,基板の電極と対向する側となる外部突起(外側部分)とで構成すること,さらに,マスク本体を,第2のメッキ層(2次電着層12)により外部突起(外側部分)と一体的に構成すること(相違点2),および外部突起が側面視においてその周縁エッジ部が丸味を持ったR形状に形成されていること(相違点3)は,当業者が容易になし得ることである。
c したがって,本件特許発明1,2は,甲1発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。
d なお,甲第2号証において,本件特許発明の「突起」に対応する「厚肉部」の形状をどのようにするかは,メッキにより形成される同号証の1次電着層6をどのような形状にするかということに帰着するものであって,当業者にとっては単なる設計的事項にすぎない。すなわち,甲第1号証には,メッキにより形成される突起部の形状として円柱状,多角柱状(多角形状),連続した突条,間欠的な突条などが開示されており,甲第1号証において突起部の形状は,当業者が適宜に変更し得る設計的事項であるのと同様に,甲第2号証においても,厚肉部の形状をどのようにするかは,メッキにより形成される同号証の1次電着層6をどのような形状にするかというものにすぎず,当業者が適宜に変更し得る設計的事項にすぎない。したがって,甲第2号証の図1(m)には,厚肉部が左右に広がる形状が記載されていることのみをもって,厚肉部の形状は図1(m)の形状に限られると解することは妥当でなく,甲第1号証のように,厚肉部を柱状等にすることは当業者にとって容易なことである。」(第25ページ第5行ないし第26ページ第13行)と主張する。
しかしながら,「振り込まれた導電性ボールが挿通する複数の開口部が形成されたマスク本体をメッキにより形成すること(相違点1)や,基板の電極と対向する側に突出された部分(厚肉部)を,第1のメッキ層(1次電着層6)により基板とは接触しない側に形成された内部突起(内側部分)と,この内部突起(内側部分)の表面に1次電着層6とは別の2次電着層12により内部突起(内側部分)の周側面及び基板側面を覆うように形成され,基板の電極と対向する側となる外部突起(外側部分)とで構成すること,さらに,マスク本体を,第2のメッキ層(2次電着層12)により外部突起(外側部分)と一体的に構成すること(相違点2),および外部突起が側面視においてその周縁エッジ部が丸味を持ったR形状に形成されていること(相違点3)」が,「この種の導電性ボールの配列用マスクにおいて,半田ボールを正確に所定位置に投入するために突起の大きさや突出寸法を正確に制御する」という課題を解決するという記載は,甲第2号証には存在せず,また,甲第2号証の記載から自明であるとも認められない。
むしろ,上記1(3)アで検討したとおり,甲2発明は,平面視において,円あるいは矩形等の輪郭の内側が窪んでいる凹の形状を有するボール配列用マスクに係る発明であり,平面視において,輪郭の内側が突出する凸の形状を有するボール配列用マスクに係る発明である甲1発明とは,その形状において真逆の特徴を有するから,両者の形状の相違は,単なる設計事項の範囲を超えるものであり,
加えて,甲2発明が解決しようとする課題が,電気めっき法では,めっきの析出速度は電流密度によって決まり,電流密度が大きいほど析出速度が増すので,絶縁物であるレジスト膜で覆われた部分の周辺部では,導電性の面の面積が小さくなってしまうために電流が集中して電流密度が高くなり,その結果,レジスト膜で覆われている部分の周辺部はめっき膜が厚くなるため,開口パターンと比べると面積が大きいレジスト膜を形成する凹部パターンの周辺部分は,めっきの厚みが厚くなってしまうが,マスク全体の厚みのばらつきが大きいと,導電性ボール搭載用マスクにおいては導電性ボールの搭載不良が発生し易くなるといった問題を解決することであるところ,甲1発明が当該課題を有するとはいえないことから,
甲1発明に甲2発明を適用する動機付けはない。
すなわち,甲1発明は「導電性ボールの配列用マスク」であり,甲第2号証に記載の発明は,「導電性ボール搭載用マスク」であるから,両発明の技術分野は,「ボール配列用マスク」に関する発明であるという限りにおいては共通するものの,甲1発明に甲2発明を適用する動機付けはないから,本件発明1,2が,甲1発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
したがって,特許異議申立人 渡辺 麻紀の主張は採用することはできない。

4 小括
以上のとおり,請求項1及び2に係る発明は,甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第8 むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-01-30 
出願番号 特願2018-29342(P2018-29342)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 55- Y (H01L)
P 1 651・ 536- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 土谷 慎吾  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 加藤 浩一
西出 隆二
登録日 2019-03-22 
登録番号 特許第6500138号(P6500138)
権利者 株式会社ボンマーク
発明の名称 ボール配列用マスク  

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