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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12N 審判 全部申し立て 2項進歩性 C12N |
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管理番号 | 1359598 |
異議申立番号 | 異議2019-700804 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-10-03 |
確定日 | 2020-02-05 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6495395号発明「配列操作のための系、方法および最適化ガイド組成物のエンジニアリング」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6495395号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6495395号の請求項1?18に係る特許についての出願は、平成25年12月12日(パリ条約による優先権主張 2012年12月12日 米国、2013年1月2日 米国、2013年1月30日 米国、2013年2月25日 米国、2013年3月15日 米国、2013年3月15日 米国、2013年3月28日 米国、2013年4月20日 米国、2013年5月6日米国、2013年5月28日米国、2013年6月17日 米国、2013年6月17日 米国)を国際出願日とする特願2015-547573号の一部を新たな特許出願とした特願2016-25710号の一部を、さらに新たな特許出願として平成29年8月30日に出願されたものであって、平成31年3月15日に特許の設定登録がされ、同年4月3日に特許掲載公報が発行された。その特許に対し、令和1年10月3日に特許異議申立人岡ヤエ子により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6495395号の請求項1?18に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)ベクター系であって、 I. CRISPR-Cas系キメラRNA(chiRNA)ポリヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって、 前記ポリヌクレオチド配列が、 (a)真核細胞中の標的配列にハイブリダイズする、10?30ヌクレオチドの長さを有するガイド配列、 (b)トランス活性化CRISPR RNA(tracr)メイト配列、及び (c)tracr配列 を含み、 (a)、(b)及び(c)が、5’から3’配向で配置されており、 前記tracr配列が、40以上のヌクレオチドの長さを有する、 第1の調節エレメントと、 II. 真核細胞の核中の検出可能な量のII型Cas9タンパク質の蓄積をドライブするために十分な強度の、1つ以上の核局在化配列を含む前記Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメントと を含む1つ以上のベクターを含み; 成分I及びIIは、前記系の同じ又は異なるベクター上に位置し; 前記ヌクレオチド配列が転写されると: 前記chiRNAは、前記II型Cas9タンパク質と複合体を形成し、 前記tracrメイト配列は、前記tracr配列にハイブリダイズし、 前記ガイド配列は、前記真核細胞中の前記標的配列への配列特異的結合を指向し、 tracrメイト配列及び/又はtracr配列をコードするヌクレオチド配列が、対応する野生型配列のポリT領域中に存在する1つ以上のチミン(T)を1つ以上の非Tヌクレオチドと置換することによって改変されている、CRISPR-Casベクター系。 【請求項2】 前記Cas9タンパク質が、前記真核細胞中の前記標的配列の両方の鎖の開裂を指向するヌクレアーゼである、請求項1に記載のベクター系。 【請求項3】 前記Cas9タンパク質が、触媒ドメイン中の1つ以上の突然変異を含み、前記真核細胞中の前記標的配列の一本鎖のみを開裂するニッカーゼである、請求項1に記載のベクター系。 【請求項4】 前記Cas9タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列が、真核細胞中の発現のためにコドン最適化されている、請求項1?3のいずれか一項に記載のベクター系。 【請求項5】 前記ベクターが、ウイルスベクターである、請求項1?4のいずれか一項に記載のベクター系。 【請求項6】 前記ウイルスベクターが、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴又は単純ヘルペスウイルスベクターである、請求項5に記載のベクター系。 【請求項7】 前記ベクター系が、前記Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列とともに発現される2つ以上の核局在化シグナル(NLS)をコードする1つ以上のヌクレオチド配列を含む、請求項1?6のいずれか一項に記載のベクター系。 【請求項8】 発現されると、少なくとも1つのNLSが、前記Cas9タンパク質のアミノ末端に若しくはその付近に存在し、及び/又は、少なくとも1つのNLSが、前記Cas9タンパク質のカルボキシ末端に若しくはその付近に存在する、請求項7に記載のベクター系。 【請求項9】 少なくとも1つのNLSが、前記Cas9タンパク質のアミノ末端に又はその付近に存在し、少なくとも1つのNLSが、前記Cas9タンパク質のカルボキシ末端に又はその付近に存在する、請求項7又は8に記載のベクター系。 【請求項10】 前記系が、ゲノムエンジニアリングのためのものである、請求項1?9のいずれか一項に記載のベクター系。 【請求項11】 ゲノムエンジニアリングのための請求項1?10のいずれか一項に記載のベクター系の使用であって、人体における疾患の治療又は予防のための方法ではなく、人間の生殖系列の遺伝的同一性を改変するためのプロセスではなく、前記系を人体に投与する工程を含まない、使用。 【請求項12】 前記ゲノムエンジニアリングが、真核細胞中の標的ポリヌクレオチドを改変すること、真核細胞中のポリヌクレオチドの発現を改変すること、突然変異疾患遺伝子を含むモデル真核細胞を生成すること、又は、遺伝子をノックアウトすることを含む、請求項11に記載の使用。 【請求項13】 前記ゲノムエンジニアリングが、真核細胞中の標的ポリヌクレオチドを開裂すること、 及び、外因性テンプレートポリヌクレオチドを挿入することによって前記開裂標的ポリヌクレオチドを修復することを含み、前記修復が、前記標的ポリヌクレオチドの1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失又は置換を含む突然変異をもたらす、請求項11又は12に記載の使用。 【請求項14】 前記ゲノムエンジニアリングが、真核細胞中の標的ポリヌクレオチドを開裂すること、及び、外因性テンプレートポリヌクレオチドを挿入することによって前記開裂標的ポリヌクレオチドを編集することを含み、前記編集が、前記標的ポリヌクレオチドの1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失又は置換を含む突然変異をもたらす、請求項11?13のいずれか一項に記載の使用。 【請求項15】 前記挿入することが、相同組換えによる、請求項13又は14に記載の使用。 【請求項16】 非ヒトトランスジェニック動物又はトランスジェニック植物の製造における、請求項1?10のいずれか一項に記載のベクター系の使用。 【請求項17】 成分I及びIIが、同じベクター上に位置する、請求項1?10のいずれか一項に記載のベクター系、又は、請求項11?16のいずれか一項に記載の使用。 【請求項18】 (a)真核細胞中のPAMに近接する標的配列にハイブリダイズすることができる、10?30ヌクレオチドの長さを有するガイド配列、 (b)tracrメイト配列、及び (c)前記tracrメイト配列にハイブリダイズすることができる、40以上のヌクレオチドの長さを有するtracr配列 を含む、CRISPR-Cas系のchiRNA。」 (以下、「本件発明1」、「本件発明2」等という。) 第3 異議申立の理由 異議申立人が主張する申立の理由は、概略、次のとおりのものである。 1 異議申立理由1(本件発明1?17の甲第1号証に基づく新規性欠如、進歩性欠如) 本件発明1?17の構成要件「tracrメイト配列及び/又はtracr配列をコードするヌクレオチド配列が、対応する野生型配列のポリT領域中に存在する1つ以上のチミン(T)を1つ以上の非Tヌクレオチドと置換することによって改変されている」は、第1優先明細書(甲第2号証)及び第2優先明細書(甲第3号証)には記載されておらず、第3優先明細書(甲第4号証)に初めて記載されたものであるから、本件は本件発明1?17について第1及び第2優先権主張の利益は享受できず、それらの新規性、進歩性の判断基準日は第3優先日(2013年1月30日)である。 そして、本件発明1?17は、本件特許の第3優先日前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるか、又は当該発明に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条1項3号に該当し、又は同条2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法113条2号の規定により取り消されるべきものである。 2 異議申立理由2(本件発明18の甲第5号証に基づく新規性欠如、進歩性欠如) 本件発明18は、甲第5号証に記載された発明であるか、又は当該発明に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条1項3号に該当し、又は同条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は、同法113条2号の規定により取り消されるべきものである。 3 異議申立理由3(本件発明18の甲第6号証に基づく新規性欠如、進歩性欠如) 本件発明18は、甲第6号証に記載された発明であるか、又は当該発明に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条1項3号に該当し、又は同条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は、同法113条2号の規定により取り消されるべきものである。 [証拠方法] 甲第1号証: SCIENCE, vol.339,pp.819-823 (15 February 2013, published online 3 January 2013)及びそのSupplementaryMaterials(www.sciencemag.org/cgi/content/full/science.1231143/DC1) 甲第2号証: 米国特許仮出願第61/736,527号明細書 甲第3号証: 米国特許仮出願第61/748,427号明細書 甲第4号証: 米国特許仮出願第61/758,468号明細書 甲第5号証: SCIENCE, vol.337,pp.816-821 (17 August 2012, published online 28 June 2012)及びそのSupplementary Materials(www.sciencemag.org/cgi/content/full/science.1225829/DC1) 甲第6号証: 特表2015-523856号公報(国際公開第2013/176772号の対応日本出願の公表公報) (以下、「甲1」、「甲2」等という。) 第4 当合議体の判断 1 証拠の記載事項 (1)甲2の記載事項 甲2(米国特許仮出願第61/736,527号明細書)は、2012年12月12日に米国特許庁に提出された本件特許の第1優先明細書であって、次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。また、段落番号の記載は省略する。) ア 「背景技術 ゲノムシーケンシング技術および分析法の近年の進歩により、多様な範囲の生物学的機能および疾患に関連する遺伝因子を分類およびマッピングする技能が顕著に加速されている。正確なゲノムターゲティング技術は、個々の遺伝子エレメントの選択的摂動を可能とすることにより因果的遺伝子変異の体系的なリバースエンジニアリングを可能とするため、ならびに合成生物学、バイオテクノロジーおよび医薬用途を進歩させるために必要とされる。ゲノム編集技術、例えば、デザイナー亜鉛フィンガー、転写アクチベーター様エフェクター(TALE)、またはホーミングメガヌクレアーゼがターゲティングされるゲノム摂動の産生に利用可能であるが、安価で、設定が容易で、拡張可能で、真核ゲノム内の複数位置をターゲティングしやすい新たなゲノムエンジニアリング技術が依然として必要とされている。」(2頁6?15行) イ 「発明の要約 多彩な用途の配列ターゲティングのための代替的で堅牢な系および技術が差し迫って必要とされている。本発明は、この必要性に対処し、関連する利点を提供する。一態様において、本発明は、1つ以上のベクターを含むベクター系を提供する。一部の実施形態において、系は、(a)tracrメイト配列および1つ以上のガイド配列をtracrメイト配列の上流に挿入するための1つ以上の挿入部位に作動可能に結合している第1の調節エレメント、ここで、ガイド配列は、発現された場合、真核細胞中の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、CRISPR複合体は、(1)標的配列にハイブリダイズするガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む;ならびに(b)核局在化配列を含む前記CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している第2の調節エレメントを含み;成分(a)および(b)は、系の同一または異なるベクター上にある。一部の実施形態において、成分(a)が、第1の調節エレメントの制御下でtracrメイト配列の下流にtracr配列をさらに含む。」(3頁7?19行) ウ 「一般に、用語“ベクター”は、それに連結した他の核酸を運搬する能力を有する核酸分子をいう。・・・他のタイプのベクターはウイルスベクターであり、ベクター中にウイルスにパッケージングされるためのウイルス由来のDNA又はRNA配列が存在する(例えば、レトロウイルス、複製不能レトロウイルス、アデノウイルス、複製不能アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)。」(12頁13?19行) エ 「一部の実施形態において、CRISPR酵素は、標的配列の局在における、例えば、標的配列内および/または標的配列の相補鎖内の一方または両方の鎖の開裂を指向する。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、標的配列の最初または最後のヌクレオチドからの約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、100、200、500、またはそれよりも多い塩基対内の一方または両方の鎖の開裂を指向する。一部の実施形態において、ベクターは、対応する野生型酵素に対して突然変異しているCRISPR酵素をコードし、その結果、突然変異CRISPR酵素は、標的配列を含有する標的ポリヌクレオチドの一方または両方の鎖を開裂する能力を欠く。例えば、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)からのCas9のRuvC I触媒ドメイン中のアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、Cas9を両方の鎖を開裂するヌクレアーゼからニッカーゼ(一本鎖を開裂する)に変換する。Cas9をニッカーゼに変える突然変異の他の例としては、限定されるものではないが、H840A、N854A、およびN863Aが挙げられる。」(17頁26?36行) オ 「一部の実施形態において、CRISPR酵素をコードする酵素コード配列は、真核細胞のような特定の細胞中での発現のためにコドンが最適化されている。」(18頁7?8行) カ 「一部の実施形態において、ベクターは、1つ以上の核局在化配列(NLS)、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれよりも多い数を超えるNLSを含むCRISPR酵素をコードする。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、アミノ末端またはその付近における約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれよりも多い数を超えるNLS、カルボキシ末端またはその付近における約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれよりも多い数を超えるNLS、またはそれらの組合せ(例えば、アミノ末端における1つ以上のNLSおよびカルボキシ末端における1つ以上のNLS)を含む。」(18頁28?33行) キ 「ガイド配列、tracrメイト配列、およびtracr配列を含む単一ポリヌクレオチドのさらなる非限定的な例は、以下のとおりであり(5’から3’に列記)、「N」は、ガイド配列の塩基を表し、第1の小文字のブロックは、tracrメイト配列を表し、第2の小文字のブロックは、tracr配列を表し、最後のポリT配列は、転写ターミネーターを表す: (1) NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNgtttttgtactctcaagatttaGAAAtaaatcttgcagaagctacaaagataaggcttcatgccgaaatcaacaccctgtcattttatggcagggtgttttcgttatttaaTTTTTT; (2) NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNgtttttgtactctcaGAAAtgcagaagctacaaagataaggcttcatgccgaaatcaacaccctgtcattttatggcagggtgttttcgttatttaaTTTTTT; (3) NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNgtttttgtactctcaGAAAtgcagaagctacaaagataaggcttcatgccgaaatcaacaccctgtcattttatggcagggtgtTTTTTT; (4) NNNNNNNNNNNNNNNgttttagagctaGAAAtagcaagttaaaataaggctagtccgttatcaacttgaaaaagtggcaccgagtcggtgcTTTTTT; (5) NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNgttttagagctaGAAATAGcaagttaaaataaggctagtccgttatcaacttgaaaaagtgTTTTTTT;及び (6) NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNgttttagagctagAAATAGcaagttaaaataaggctagtccgttatcaTTTTTTTT」(21頁25行?22頁4行) ク 「一部の実施形態において、組換えテンプレートも提供される。組換えテンプレートは、本明細書に記載の別のベクターの成分であり、別個のベクター中で含有させ、または別個のポリヌクレオチドとして提供することができる。一部の実施形態において、組換えテンプレートは、例えば、CRISPR複合体の一部としてのCRISPR酵素によりニック形成または開裂される標的配列内またはその付近での相同組換えにおけるテンプレートとして機能するように設計される。」(22頁9?13行) ケ 「図2は、例示的発現ベクターを説明する。図2Aは、合成crRNA-tracrRNAキメラ(キメラRNA)およびSpCas9の発現をドライブするためのバイシストロニックベクターの模式図を提供する。キメラガイドRNAは、ゲノム標的部位中のプロトスペーサーに対応する20bpのガイド配列を含有する。」(266頁33?36行) コ 「エラープローンNHEJ機序を通した哺乳動物細胞中のCRISPR媒介遺伝子編集を達成するための成分のセットを樹立したため、相同組換え(HR)、ゲノム中の正確な編集を作製するための高フィデリティ遺伝子修復経路を刺激するCRISPRの能力を試験した。野生型SpCas9は、NHEJおよびHRの両方を通して修復され得る部位特異的DSBを媒介し得る。さらに、SpCas9のRuvC I触媒ドメイン中のアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)をエンジニアリングしてヌクレアーゼをニッカーゼに変換し(SpCas9n;図4Aに説明)(例えば、Sapranausaks et al.,2011,Cucleic Acis Research,39:9275;Gasiunas et al.,2012,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,109:E2579参照)、その結果、ニック形成されたゲノムDNAが高フィデリティ相同性組換え修復(HDR)を受ける。Surveyorアッセイにより、SpCas9nはEMX1プロトスペーサー標的におけるインデルを生成しないことを確認した。図4Bに説明されるとおり、EMX1ターゲティングキメラcrRNAとSpCas9との同時発現は標的部位中のインデルを生じさせた一方、SpCas9nとの同時発現は生じさせなかった(n=3)。さらに、327個のアンプリコンのシーケンシングは、SpCas9nにより誘導されるいかなるインデルも検出しなかった。同一の遺伝子座を選択し、HEK293FT細胞をEMX1をターゲティングするキメラRNA、hSpCas9またはhSpCas9n、およびプロトスペーサー付近に制限部位のペア(HindIIIおよびNheI)を導入するためのHRテンプレートにより同時形質移入することによりCRISPR媒介HRを試験した。図4Cは、HR方針の模式的説明を、組換え場所の相対局在およびプライマーアニーリング配列(矢印)とともに提供する。SpCas9およびSpCas9nは、実際、EMX1遺伝子中へのHRテンプレートのインテグレーションを触媒した。標的領域のPCR増幅とそれに続くHindIIIによる制限消化により、予測断片サイズ(図4Dに示される制限断片長多型ゲル分析中の矢印)に対応する開裂産物が明らかになり、SpCas9およびSpCas9nは類似レベルのHR効率を媒介した。本出願人らは、ゲノムアンプリコンのサンガーシーケンシングを使用してHRをさらに確認した(図4E)。これらの結果は、哺乳動物ゲノム中のターゲティングされる遺伝子挿入を促進するためのCRISPRの有用性を実証する。野生型SpCas9の14bp(スペーサーからの12bpおよびPAMからの2bp)の標的特異性を考慮すると、ニッカーゼの利用可能性は、一本鎖分解物がエラープローンNHEJ経路のための基質でないため、オフターゲット改変の可能性を顕著に低減させ得る。」(267頁25行?268頁12行) サ 「例えば、図11は、CRISPR媒介性ゲノム編集を達成するための哺乳類細胞における異種発現用のStreptococcus thermophilus LMD-9株のCRISPR遺伝子座2由来II型CRISPR系の適用を例示する。・・・図11Bは、S.thermophilus CRISPR系のための発現系の設計を示す。ヒトコドン最適化hStCas9は、構成的EF1αプロモーターを使用して発現される。正確な転写開始を促進するためにU6プロモーターを使用して、tracrRNA及びcrRNAの成熟型が発現される。成熟型のtracrRNA及びcrRNAの配列が示される。crRNA配列中に小文字「a」で示される1塩基は、RNApolIII転写ターミネーターとして機能するポリU配列を除去するために用いられる。」(268頁31行?269頁4行) シ 「図2A ス 「図4A?E 」 セ 「図11B 」 (2)甲5の記載事項 甲5(SCIENCE, vol.337,pp.816-821 (17 August 2012, published online 28 June 2012)及びそのSupplementaryMaterials(www.sciencemag.org/cgi/content/full/science.1225829/DC1))は、本件第1優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、「細菌の獲得免疫におけるデュアルRNA誘導性のプログラム可能なDNAエンドヌクレアーゼ」と題する学術論文及びその補足資料であって、次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。) ア 「クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)系は、侵入する核酸の抑制を誘導するために、CRISPRRNA(crRNA)を利用するウイルスやプラスミドに対する獲得免疫を、細菌や古細菌に提供するものである。ここで私たちは、この系の一部分において、成熟crRNAが、トランス活性化crRNA(tracrRNA)と塩基対を組むことで、標的DNAに二本鎖切断を導入するようにCRISPR関連タンパク質Cas9を誘導する2つのRNAからなる構造を形成することを示す。・・・このデュアル-tracrRNA:crRNAは、一本鎖RNAキメラとして設計されたときも、配列特異的なCas9による二本鎖DNA切断を誘導する。私たちの研究は、部位特異的DNA切断のためにデュアル-RNAを使用するエンドヌクレアーゼのファミリーを明らかにし、RNAでプログラム可能なゲノム編集のためにこの系を利用する可能性を強調する。」(816頁要約) イ 「tracrRNAの全長が位置特異的なCas9に触媒されるDNA切断において必要かどうかを決定するために、全長の成熟(42ヌクレオチドの)crRNAと、5’あるいは3’末端を欠く様々な切断型のtracrRNAを用いて再構成されたCas9-tracrRNA:crRNA複合体を試験した。・・・野生型配列のヌクレオチド23から48を保持する大幅に切断された型のtracrRNAが、頑強なデュアルRNA誘導性のCas9に触媒されるDNA切断を支持することができた(図3A・・・)。」(818頁左欄下から5行?中欄8行) ウ 「図3 Cas9に触媒される標的DNAの切断は、tracrRNAの活性化ドメインを必要とし、crRNAのシード配列により制御される。(A)Cas9-tracrRNA:crRNA複合体は、42ヌクレオチド長のcrRNA-sp2と切断型のtracrRNA構成体を用いて再構築され、図1Bと同様に切断活性についてアッセイされた。・・・(C)Cas9仲介性DNA切断を誘導することができるtracrRNAとcrRNAの最小領域(青い陰が付された領域)・・・ ・・・ 」 (818頁図3) エ 「私たちは、標的認識配列を5’末端に含み、その下流にtracrRNAとcrRNAの間に生じる塩基対相互作用を保持するヘアピン構造を含む2つのバージョンのキメラRNAを設計した(図5B)。この単一転写物は、crRNAの3’末端をtracrRNAの5’末端に効率的に融合させ、それによりCas9による部位特異的DNA切断をガイドするのに必要なデュアルRNA構造を模倣した。プラスミドDNAを用いた切断アッセイにおいて、私たちはより長いキメラRNAが短縮型tracrRNA:crRNAデュプレックスについて観察されたのと同様の方法でCas9に触媒されるDNA切断をガイドできることを観察した(図5B及び図S14A及びC)。より短いキメラRNAは、このアッセイでは効率的には作用せず、tracrRNA:crRNA塩基対形成相互作用を超える5?12位にあるヌクレオチドが効率的Cas9結合及び/又は標的の認識に重要であることが確認された。私たちは、短いdsDNAを基質として用いた切断アッセイにおいて同様の結果を得ており、標的DNAの切断部位の位置が、ガイドとしてデュアルtracrRNA:crRNAを用いて観察されたものと同一であることを更に示した(図5C及び図S14B及びC)。最後に、キメラRNAの設計が普遍的に適用可能であるかどうかを確立するために、私たちは5つの異なるキメラガイドRNAを緑色蛍光タンパク質(GFP)を標的とするように設計し(図S15AからC)、GFPコード配列を有するプラスミドに対するインビトロでの有効性を試験した。5つの全ての場合において、これらのキメラRNAでプログラムされたCas9は正確な標的部位でプラスミドを切断し(図5D及び図S15D)、キメラRNAの合理的設計が強健で、原理上、標的配列に近接するGGジヌクレオチドの存在を超える制限がほとんどなく、所望のいかなるDNA配列でも標的化することができることが示された。」(820頁左欄5行?中欄14行) オ 「図5 Cas9は、tracrRNAとcrRNAの特徴を組み合わせた単一のエンジニアリングされたRNA分子を使用して、プログラムすることができる。(A)(上)II型CRISPR/Cas系において、Cas9は、活性化しているtracrRNA及び標的化crRNAにより形成される2つのRNA構造により誘導されて、部位特異的に標的となった二本鎖DNAを切断する。(下)crRNAの3’末端をtracrRNAの5’末端に融合することにより生成されたキメラRNA。(B)プロトスペーサー4標的配列と野生型PAMを備えるプラスミドが、tracrRNA(4-89):crRNA-sp4複合体によって、あるいは、crRNAの3’末端をGAAAテトラループとともにtracrRNAの5’末端に付加することで設計されインビトロ転写されたキメラRNAによってプログラムされたCas9による切断の標的となった。切断反応はXmnIによる制限マッピングにより分析された。キメラRNA AとBの配列は、DNA標的化配列(黄色)、crRNAリピート由来配列(オレンジ)、そしてtracrRNA由来配列(水色)とともに示される。・・・ 」(820頁図5) カ 「図S15 緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子配列を標的とするキメラRNAのde novo設計。図5を参照。(A)GFP発現プラスミドpCFJ127の概略図。GFPのオープンリーディングフレームの標的化部分が黒矢印で示される。(B)標的化領域の配列の拡大図。キメラRNAにより標的とされる配列が赤い線で示される。PAMジヌクレオチドは黄色でハイライトされている。特徴的なSall制限部位が標的遺伝子座の60bp上流に位置する。(C)左;標的DNA配列が隣接するPAMとともに示される。右;キメラガイドRNAの配列。(D)示されたとおり、pCFJ127がキメラRNA GFP1-5でプログラムされたCas9により切断された。プラスミドは、さらにSallで切断され、反応物が3%アガロースゲル電気泳動で解析され、SYBR Safeで染色することにより可視化された。 」(Supplementary Materialsの図S15) 2 優先権についての判断 第1優先明細書(甲2)は、その「発明の要約」欄の冒頭に記載されるとおり、「(a)tracrメイト配列および1つ以上のガイド配列をtracrメイト配列の上流に挿入するための1つ以上の挿入部位に作動可能に結合している第1の調節エレメント、ここで、ガイド配列は、発現された場合、真核細胞中の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、CRISPR複合体は、(1)標的配列にハイブリダイズするガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む;ならびに(b)核局在化配列を含む前記CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している第2の調節エレメントを含み;成分(a)および(b)は、系の同一または異なるベクター上にある」ベクター系の発明を開示するものである(上記1(1)イ)。 そして、その具体例として、図2Aには、5’から3’方向に、20ヌクレオチド長のガイド配列、tracrメイト配列及び27ヌクレオチド長のtracr配列からなるキメラRNAをコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合しているU6プロモーター、及び、N末端及びC末端に核局在化配列(NLS)を含むhSpCas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合しているEF1αプロモーターを含むバイシストロニックベクターが記載され、キメラRNAにおいてtracrメイト配列がtracr配列とハイブリダイズすることも記載されている(上記1(1)ケ、シ)。また、図4Aにも図2Aと同様のバイシストロニックベクターが記載され、当該バイシストロニックベクターを用いてHEK293FT細胞中でキメラRNAと野生型SpCas9を同時発現させることによりゲノム中の標的部位にインデルを生じさせたこと(図4Bの特に「indel(%)」の数値を参照)、及び、当該バイシストロニックベクターを用いてHEK293FT細胞中でキメラRNAとD10A変異型SpCas9n(ニッカーゼ)を同時発現させ、併せてHRテンプレートも発現させることによりゲノム中の標的部位にHRテンプレートが挿入されたこと(図4C?E)が、それぞれ記載されている(上記1(1)コ、ス)。 ここで、上記図4B?Eの結果は、図4に関する説明の記載事項(上記1(1)コ)や「発明の要約」の記載事項(上記1(1)イ)に照らすと、上記バイシストロニックベクター上の第1の調節エレメントであるU6プロモーターが作動可能に結合したヌクレオチド配列が転写されて生じたキメラRNAが、同ベクター上の第2の調節エレメントであるEF1αプロモーターが作動可能に結合したヌクレオチド配列が転写翻訳されて生じたhSpCas9タンパク質と複合体を形成して、キメラRNAに含まれるtracrメイト配列がtracr配列にハイブリダイズし、ガイド配列が真核細胞であるHEK293FT細胞中の標的配列への配列特異的結合を指向し、hSpCas9タンパク質又はhSpCas9nタンパク質が標的配列の両方又は一方の鎖を切断したことを示す。そうすると、上記バイシストロニックベクターは次のとおりのものであるといえる。 「クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)ベクター系であって、 I. CRISPR-Cas系キメラRNA(chiRNA)ポリヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって、 前記ポリヌクレオチド配列が、 (a)真核細胞中の標的配列にハイブリダイズする、10?30ヌクレオチドの長さを有するガイド配列、 (b)トランス活性化CRISPR RNA(tracr)メイト配列、及び (c)tracr配列 を含み、 (a)、(b)及び(c)が、5’から3’配向で配置されている第1の調節エレメントと、 II. 真核細胞の核中の検出可能な量のII型Cas9タンパク質の蓄積をドライブするために十分な強度の、1つ以上の核局在化配列を含む前記Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメントと を含む1つ以上のベクターを含み; 成分I及びIIは、前記系の同じベクター上に位置し; 前記ヌクレオチド配列が転写されると: 前記chiRNAは、前記II型Cas9タンパク質と複合体を形成し、 前記tracrメイト配列は、前記tracr配列にハイブリダイズし、 前記ガイド配列は、前記真核細胞中の前記標的配列への配列特異的結合を指向する、CRISPR-Casベクター系。」 第1優先明細書(甲2)には、さらに、キメラRNAの例として、tracr配列がそれぞれ85、78、63、60及び42ヌクレオチド長のものが記載されている(上記1(1)キの(1)?(5))から、上記ベクター系において、tracr配列として40以上のヌクレオチド長のものを使用することが開示されているといえる。 また、第1優先明細書(甲2)には、U6プロモーターを用いてtracrRNA及びcrRNAを発現するに当たって、U6プロモーター等のPolIIIプロモーターに対して転写ターミネーターとして機能するポリU配列を除去するために、crRNA配列中のポリU中のUをa(アデニン)に置換することが記載されている(上記1(1)サ、セ)。RNA中のUはそれをコードするヌクレオチド配列においてはTであり、当該置換部位はcrRNAのtracrメイト配列に相当するから、上記ベクター系において、キメラRNAをコードするヌクレオチド配列中のtracrメイト配列を、対応する野生型配列のポリT領域中に存在する1つのTを非Tヌクレオチドに置換したものにすることにより、当該ヌクレオチド配列を転写するためのU6プロモーターに対する転写ターミネーターが除去されることも開示されているといえる。 以上によれば、本件発明1は第1優先明細書(甲2)に開示されたものであると認められる。 また、Cas9タンパク質が標的配列の両方の鎖を開裂すること(上記1(1)エ、コ)、Cas9タンパク質が触媒ドメイン中1つ以上の突然変異を含むことにより標的配列の一本鎖のみを開裂するニッカーゼとなること(上記1(1)エ、コ)、Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列が真核細胞中の発現のためにコドン最適化されること(上記1(1)オ)、ベクターとしてレトロウイルス等のウイルスベクターを用いること(上記1(1)ウ)、Cas9タンパク質のアミノ末端側やカルボキシ末端側に核局在化シグナルを存在させること(上記1(1)イ、カ、コ)、上記ベクター系を外因性テンプレートの相同組み換え的挿入といったゲノムエンジニアリングのために用いること(上記1(1)ア、ク、コ)、及び、上記ベクター系によりコードされるキメラRNAがハイブリダイズする標的配列はPAMに近接するものであること(上記1(1)コ)は、いずれも第1優先明細書に記載されているか、記載されているに等しい程度の技術常識であるから、本件発明2?18も、第1優先明細書に開示されたものであると認められる。 以上のとおりであるから、本件は第1優先権主張の利益を享受すべきものであり、本件発明1?18の新規性及び進歩性の判断基準日は、第1優先日である2012年12月12日である。 3 異議申立理由1(本件発明1?17の甲1に基づく新規性欠如、進歩性欠如)についての判断 上記2で判断したとおり、本件発明1?17の新規性及び進歩性の判断基準日は第1優先日である2012年12月12日であるところ、甲1はそれより後の2013年1月3日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるから、特許法29条1項3号及び同条2項の引用例として適格性を欠くものである。 したがって、異議申立理由1は理由がない。 4 異議申立理由2(本件発明18の甲5に基づく新規性欠如、進歩性欠如)についての判断 (1)引用発明 本件第1優先日より前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5は、その要約に記載されたとおり、tracrRNA及びcrRNAや、それらを連結してなる一本鎖キメラRNAを含むCRISPR-Cas9系により標的DNAの二本鎖を切断したことを報告する学術論文であって(上記1(2)ア)、図5Bには、DNA標的化配列(黄色)、crRNAリピート由来配列(オレンジ)及びtracrRNA由来配列(水色)を含み、crRNAリピート由来配列がtracrRNA由来配列にハイブリダイズしてなるキメラRNAの構造、及び、当該キメラRNAを含むCRISPR-Cas9系が標的であるプロトスペーサー4配列を含むプラスミドを配列特異的に切断した結果が記載されている(上記1(2)エ、オ)。また、図5Aの下図には、キメラRNAを含むCRISPR-Cas9系により標的配列が切断される機序、すなわち、図5Bに記載されたものと同様の構造のキメラRNA中のDNA標的化配列が標的DNAにハイブリダイズしてCas9酵素が標的に誘導され、DNAを切断することが記載されている(上記1(2)エ、オ)。さらに、図S15には、図5BのキメラRNAと同様の構造のキメラRNA(いずれも、DNA標的化配列は20ヌクレオチド、tracrRNA由来配列は26ヌクレオチドの長さである。)を含むCRISPR-Cas9系により緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子中のPAMに近接する5つの標的配列の全てが特異的に切断されたことが記載されている(上記1(2)エ、カ)。 したがって、図S15のCには、次のとおりのキメラRNAの発明が記載されているといえる。 「GFP遺伝子中のPAMに近接する標的配列にハイブリダイズすることができる20ヌクレオチドの長さを有するDNA標的化配列、crRNAリピート由来配列、及び前記crRNAリピート由来配列にハイブリダイズすることができる、26ヌクレオチドの長さを有するtracrRNA由来配列を含む、CRISPR-Cas9系のキメラRNA。」(以下、「引用発明」という。) (2)対比 本件発明18と引用発明とを対比すると、引用発明において「GFP遺伝子」はもともと真核細胞中に存在する遺伝子であるから、「GFP遺伝子中のPAMに近接する標的配列にハイブリダイズすることができる」ことは、「真核細胞中のPAMに近接する標的配列にハイブリダイズすることができる」ことである。また、引用発明の「DNA標的化配列」、「crRNAリピート由来配列」、「tracrRNA由来配列」及び「キメラRNA」が、本件発明18の「ガイド配列」、「tracrメイト配列」、「tracr配列」及び「chiRNA」とそれぞれ同義であることは明らかである。 したがって、本件発明18と引用発明とは、 「(a)真核細胞中のPAMに近接する標的配列にハイブリダイズすることができる、10?30ヌクレオチドの長さを有するガイド配列、 (b)tracrメイト配列、及び (c’)前記tracrメイト配列にハイブリダイズすることができるtracr配列を含む、CRISPR-Cas系のchiRNA。」 である点で一致し、次の点で相違する。 相違点: tracr配列のヌクレオチドの長さが、本件発明18では40以上であるのに対して、引用発明では26である点。 (3)判断 甲5には、tracrRNAが26ヌクレオチド長であるキメラAはCas9によるDNA切断を誘導できたのに対して、それより短い18ヌクレオチド長であるキメラBでは効率的な切断を誘導できなかったことが示されている(上記1(2)エ、オ)。ここで、キメラAを構成する26ヌクレオチド長のtracrRNAは、図3の実験においてCas9によるDNA切断を誘導できる最小領域であることが示されたものである(上記1(2)イ、ウ)。そして、図3Aには、上記最小領域のほか、「15-53」、「23-89」、「15-89」の領域からなるさらに長いtracrRNAも、crRNAと共に用いることでCas9によるDNA切断を誘導できることが示されている(上記1(2)ウ)。そうすると、引用発明の「26ヌクレオチドの長さを有するtracr配列」を多少長くすることは、当業者が適宜なし得たことであるといえる。 一方、tracr配列の長さに依存する効果について検討すると、本件特許明細書の実施例4において、tracr配列の長さを4種類に変えたキメラRNAを用いて、EMX1遺伝子座中の3つの部位を標的とした場合(a)及びPVALB遺伝子座中の2つの部位を標的とした場合(b)、それぞれのDNA切断(インデル)の効率が下記図11に示されている。 「図11 」 ここで、「+48」、「+54」、「+67」及び「+85」は、tracr配列の長さがそれぞれ26、32、45及び63ヌクレオチドであることによれば(図10Aを参照)、5つの標的部位のうちの4つにおいて、tracr配列が45ヌクレオチド長より長い場合は、32ヌクレオチド長より短い場合と比較して切断効率が顕著に向上することが見て取れる。このような効果は、当業者といえども甲5の記載事項や本件優先日当時の技術常識から予測し得ない格別顕著なものである。 そうすると、本件発明18は、進歩性を有しており、引用発明から容易想到であったとはいうことのできないものである。 したがって、異議申立理由2は理由がない。 5 異議申立理由3(本件発明18の甲6に基づく新規性欠如、進歩性欠如)についての判断 上記2で判断したとおり、本件発明18の新規性及び進歩性の判断基準日は第1優先日である2012年12月12日であるところ、甲6(特表2015-523856号公報)はそれより後の2015年8月20日に頒布され、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであり、甲6に対応する国際公開(国際公開第2013/176772号)も第1優先日より後の2013年11月28日に頒布され、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるから、いずれも特許法29条1項3号及び同条2項の引用例として適格性を欠くものである。 したがって、異議申立理由3は理由がない。 第5 むすび 以上のとおり、異議申立人が主張する異議申立理由1?3によっては、請求項1?18に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1?18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-01-24 |
出願番号 | 特願2017-165304(P2017-165304) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C12N)
P 1 651・ 121- Y (C12N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 飯室 里美 |
特許庁審判長 |
田村 聖子 |
特許庁審判官 |
長井 啓子 小暮 道明 |
登録日 | 2019-03-15 |
登録番号 | 特許第6495395号(P6495395) |
権利者 | ザ・ブロード・インスティテュート・インコーポレイテッド マサチューセッツ・インスティトュート・オブ・テクノロジー プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ |
発明の名称 | 配列操作のための系、方法および最適化ガイド組成物のエンジニアリング |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 中岡 起代子 |
代理人 | 矢野 恵美子 |
代理人 | 堀内 一成 |
代理人 | 矢野 恵美子 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 鈴木 佑一郎 |
代理人 | 本阿弥 友子 |
代理人 | 乾 裕介 |
代理人 | 窪田 英一郎 |
代理人 | 鈴木 佑一郎 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 窪田 英一郎 |
代理人 | 今井 優仁 |
代理人 | 中岡 起代子 |
代理人 | 窪田 英一郎 |
代理人 | 堀内 一成 |
代理人 | 今井 優仁 |
代理人 | 今井 優仁 |
代理人 | 本阿弥 友子 |
代理人 | 乾 裕介 |
代理人 | 鈴木 佑一郎 |
代理人 | 乾 裕介 |
代理人 | 矢野 恵美子 |
代理人 | 中岡 起代子 |
代理人 | 本阿弥 友子 |
代理人 | 堀内 一成 |