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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H05B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H05B
審判 全部申し立て 特39条先願  H05B
管理番号 1359604
異議申立番号 異議2019-700959  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-28 
確定日 2020-02-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6519617号発明「電荷輸送性ワニス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6519617号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6519617号の請求項1?13に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)2月22日(先の出願に基づく優先権主張 平成24年3月2日)を国際出願日とする特願2014-502174号の一部を、平成29年9月6日に新たな特許出願としたものであって、令和元年5月10日にその特許権の設定登録がされ、同年5月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年11月28日に、メルク パテント ゲーエムベーハー(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがされた。

2 本件特許
特許第6519617号の請求項1?13の特許に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明13」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものであって、本件特許発明1及び本件特許発明12は、それぞれ、次のとおりの発明である。
また、本件特許発明2?11は、本件特許発明1にさらに限定を付した発明であり、本件特許発明13は、本件特許発明12にさらに限定を付した発明である。

(1)本件特許発明1
「 電荷輸送性モノマーまたは数平均分子量200?50万の電荷輸送性オリゴマーもしくはポリマーからなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質およびドーパント物質からなる電荷輸送性材料と、少なくとも1種の良溶媒および少なくとも1種の貧溶媒を含んで構成される混合溶媒と、を含有し、
前記良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)を満たし、
25℃での粘度が6.9mPa・s以下、かつ、23℃での表面張力が30.0?40.0mN/mであり、
前記電荷輸送性材料が、前記混合溶媒中に溶解または均一に分散していることを特徴とする電荷輸送性ワニス(ただし、前記混合溶媒が、前記良溶媒および貧溶媒の組み合わせとして、N,N-ジメチルアセトアミドおよびシクロヘキサノールを含むものを除く。)。」

(2)本件特許発明12
「 電荷輸送性モノマーまたは数平均分子量200?50万の電荷輸送性オリゴマーもしくはポリマーからなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質および電荷受容性ドーパント物質からなる電荷輸送性材料と、溶媒とを含む電荷輸送性ワニスを用いて作製される電荷輸送性薄膜の平坦性向上方法であって、
前記溶媒として、少なくとも1種の良溶媒および少なくとも1種の貧溶媒を含んで構成される混合溶媒を用いるとともに、これら良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値を|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)とし、
前記電荷輸送性ワニスの25℃での粘度を6.9mPa・s以下とし、かつ、前記電荷輸送性ワニスの23℃での表面張力を30.0?40.0mN/mとすることを特徴とする電荷輸送性薄膜の平坦性向上方法(ただし、前記混合溶媒が、前記良溶媒および貧溶媒の組み合わせとして、N,N-ジメチルアセトアミドおよびシクロヘキサノールを含むものを除く。)。」

3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が提示した証拠方法及び特許異議申立人がした申立ての理由の概要は、以下のとおりである。

(1)証拠方法
甲第1号証 特表2007-527624号公報
甲第2号証 独国特許出願公開第10337077号明細書
甲第3号証 国際公開第02/077060号
甲第4号証 特表2004-536896号公報
甲第5号証 A New Equation Relating the Viscosity Arrhenius Temperature and the Activation Energy for Some Newtonian Classical Solvents, Mesaadi et al., Journal of Chemistry, vol.2015,http://dx.doi.org/10.1155/2015/163262
甲第6号証 LIQUID VISCOSITY AND CHEMICAL CONSTITUTION OF ORGANIC COMPOUNDS :A NEW CORRELATION AND A COMPILATION OF LITERATURE DATA (EUR 4735e), D. van Velzen et al., 1972, Joint Nuclear research center, Official publication by the Commission of the European Communities(Italy), 表紙(6頁)及び APPENDIX I COMPILATION OF LITERATUREDATA の A115
甲第7号証 アニソールの粘度の温度依存性を示すグラフ
甲第8号証 Landolt-Bornstein Numerical data and functional relationships in science and technology, Group IV, volume 16: Surface tension of pure liquids and binary liquid mixtures, Springer Heidelberg, 表紙(3頁)、前書及び Entry 1168: “methoxy benzene”
甲第9号証 アニソールの表面張力の温度依存性を示すグラフ
甲第10号証 Surface tension values of some common test liquids for surface energy analysis (表面エネルギー分析のための一般的な試験液体の表面張力値の表)(http://www.dataphysics-instruments.com/Downloads/Surface-Tensions-Energies.pdf)
甲第11号証 国際公開第2010/058777号の再公表公報
甲第12号証 特許第6426468号公報

(2)申立ての理由
新規性(特許法第29条第1項)
本件特許発明1、2、6?11は、甲第1号証に記載された発明である。
したがって、本件特許発明1、2、6?11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

進歩性(特許法第29条第2項)
本件特許発明1?13は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。また、本件特許発明6及び本件特許発明7は、甲第1号証に記載された発明に甲第11号証の記載を適用することにより当業者が容易に発明することができたものである。
したがって、本件特許発明1?13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

ウ ダブルパテント(特許法第39条第2項)
本件特許発明1及び本件特許発明2は、甲第12号証の請求項1に記載された発明と同一であり、本件特許発明3は、甲第12号証の請求項2に記載された発明と同一であり、本件特許発明4は、甲第12号証の請求項3に記載された発明と同一であり、本件特許発明5は、甲第12号証の請求項4に記載された発明と同一であり、本件特許発明6は、甲第12号証の請求項5に記載された発明と同一であり、本件特許発明7は、甲第12号証の請求項6に記載された発明と同一であり、本件特許発明8は、甲第12号証の請求項7に記載された発明と同一であり、本件特許発明9は、甲第12号証の請求項8に記載された発明と同一であり、本件特許発明10は、甲第12号証の請求項9に記載された発明と同一であり、本件特許発明11は、甲第12号証の請求項10に記載された発明と同一であり、本件特許発明12及び本件特許発明13は、甲第12号証の請求項11に記載された発明と同一である。
したがって、本件特許発明1?13に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

4 甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許の優先権主張の日前の平成19年9月27日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証(特表2007-527624号公報)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
・少なくとも1種の高分子量成分を含む少なくとも1種の有機半導体、および
・少なくとも1種の有機溶媒A、および
・少なくとも1種の有機溶媒B、および
・少なくとも1種の有機溶媒C
を含み、
・溶媒Aが、前記有機半導体の良溶媒であり、
・溶媒Bが、前記有機半導体の良溶媒であり、
・溶媒Cが、前記有機半導体の貧溶媒であり、および
・溶媒A、BおよびCの沸点(b.p.)について、b.p.(A)<b.p.(C)<b.p.(B)が当てはまり、および/または溶媒A、BおよびCのコーティング法の温度におけるそれぞれの部分蒸気圧(p)について、p(A)>p(C)>p(B)が当てはまる
ことを特徴とする単一相の液体組成物(溶液)。

(中略)

【請求項21】
基板上に前記有機半導体の層を生成するための請求項1?20の一項以上に記載の溶液の使用。」

イ 「【発明の開示】
【0001】
本発明は、有機半導体の溶液、および電子産業におけるその使用に関する。
【0002】
機能性材料としての有機半導体の使用は、最も広い意味において電子産業とされ得る数多くの様々なアプリケーションにおいて、かねてから実現しており、または近い将来に予想される。中でも、有機電荷輸送材料(一般的にトリアリールアミンに基づく正孔輸送体)は、既に、コピー機において何年にも渡って用いられている。有機トランジスタ(O-TFT、O-FET)、有機集積回路(O-IC)、有機太陽電池(O-SC)の開発は、既に、研究段階において確実に前進しており、従って、市場への導入が、ここ数年内に期待され得る。有機エレクトロルミネセンスデバイス(OLED)の場合においては、例えば、「有機ディスプレイ」を有する、パイオニア社製のカーラジオまたはコダック社製のデジタルカメラにより確認されるように、市場への導入が既に行われている。ポリマー発光ダイオード(PLED)の場合においては、フィリップスN.V.社製のシェーバーの小さなディスプレイの形態で、第1の製品を市場で入手することができる。このようなPLEDの一般的な構造は、WO 90/13148 に示されている。あらゆる進歩にも関わらず、これらのディスプレイを、現在市場を支配する液晶ディスプレイ(LCD)の真の競合物とするために、またはこれらを凌ぐためには、かなりの改善が未だに必要である。
【0003】
フルカラーディスプレイデバイスを得るためには、空間的に分離された様式で、三原色(赤、緑、青)を適用することができるコーティング方法を開発することが必要である。ポリマーは溶液から一般的に塗布されるため、印刷方法が一般に好まれる手段である。良好な制御性、達成可能な解像度、および大きな可変性のために、現在のところ取り組まれているのは、主に、インクジェット印刷(IJP)法である。しかしながら、原則としては、例えば、オフセット印刷法、転写法、またはグラビア印刷法のような他の印刷方法も適している。

(中略)

【0007】
しかしながら、IJPによる有機フィルムまたは画素の製造は、未だに満足に解決されておらず、上記の出願においても考慮されないままである多くの問題を示す。
【0008】
問題1:過度に高い蒸気圧、すなわち、かなりの低沸点を有する溶媒は、IJ溶液が、ノズル上の、またはノズルプレート上のプリントヘッド中で乾燥するという結果をもたらす。このことは、ノズルが詰まり始め、および印刷プロセスが再生されることが困難となるという結果をもたらす。このタイプのシステムは、工業的製造に不適切である。
【0009】
問題2:IJ溶液が種々の原料を含む(配合物)である場合に、溶液の乾燥の間に、これらの物質のうちの1種が最初に析出するということが起こり得る。このことは、形成された画素における種々の材料の不均一な分布をもたらす。このように不均一である画素は、OLEDにおけるデバイス性質のかなりの障害を示す。
【0010】
問題3:基板上のIJ溶液の個々の液滴の乾燥の間、形成された画素の層の厚さが、大いに変化するということが起こり得る。概して、画素の端は、画素の中央よりもかなり高い。このことは、PLEDにおける画素内の不均一な光度、および画素の種々の領域の異なる劣化をもたらす。
【0011】
問題4:溶液が、印刷された画素において非常にゆっくりと乾燥する場合、または乾燥工程中、粘度が比較的に殆ど変化しない場合には、基板の移動中(工業IJPにおいて、基板は、一般的に一方向に運ばれ、プリントヘッドは、これに垂直に動く)、溶液が、画素の境界(画素は、一般的に、フォトリソグラフィー法により生成された壁により境界を定められる)を越えて流れるということが起こり得る。とりわけ、異なる色の溶液が混ざることを引き起こす場合に、インクの混合は有害である。望ましくない層の厚さのばらつきと、これに伴う不均一性は、常に、再生できない発光挙動をもたらす。
【0012】
問題5:最適なデバイス性質を得るために、堆積したフィルムから出来る限り完全に溶媒を除去することが必要である。溶媒が、過度に低い蒸気圧(すなわち、かなり高い沸点)を有する場合に、このことは、仮に可能であるとしても、かなりの技術的な複雑さをもってのみ可能である。
【0013】
問題6:印刷された画素における溶液が非常に速く乾燥する場合に、有機半導体が、溶液から析出し得るという危険が存在する。このことは、形成されたフィルムの不均一性をもたらし、従って、エレクトロルミネセンスにおける不均一性をもたらす。

(中略)

【0022】
上記の問題1?6は、これまで、満足に解決されていないということが、これらの記載から明らかである。従って、本発明の目的は、これについての技術的な改善を提供することである。
【0023】
本発明は、
・少なくとも1種の高分子量成分を含む少なくとも1種の有機半導体、および
・少なくとも1種の有機溶媒A、および
・少なくとも1種の有機溶媒B、および
・少なくとも1種の有機溶媒C
を含む単一相の液体組成物(溶液)であって、
・溶媒Aは、有機半導体の良溶媒であり、
・溶媒Bは、有機半導体の良溶媒であり、
・溶媒Cは、有機半導体の貧溶媒であり、および
・溶媒A、BおよびCの沸点(b.p.)について、b.p.(A)<b.p.(C)<b.p.(B)が当てはまり、および/または溶媒A、BおよびCのコーティング法の温度におけるそれぞれの部分蒸気圧(p)について、p(A)>p(C)>p(B)が当てはまる
ことを特徴とする単一相の液体組成物に関する。
【0024】
工業的なプロセスにおけるコーティング法の温度は、一般的に、10?80℃、好ましくは15?50℃、特には20?40℃の範囲にある。
【0025】
本明細書の目的のために、溶液は、液体溶媒中の固体物質の、液体の、均一な混合物であり、ここで、固体は分子的に分散した溶解形態にあり、すなわち、固体の分子の大部分は実際に溶解しており、凝集またはナノ粒子若しくはミクロ粒子の形態にはない。
【0026】
本発明の目的のために、有機溶媒とは、物理的な手段により他の物質を溶液中に導入することができ、ここで、溶解するまたは溶解される物質が、溶解工程中化学的に変化することのない有機物質を意味するものと意図する。
【0027】
本発明の目的のために、良溶媒とは、有機半導体が、透明な、流動性を有する溶液の形成を伴って、室温および大気圧において、少なくとも5g/lの濃度で可溶である有機溶媒を意味するものと意図する。
【0028】
本発明の目的のために、貧溶媒とは、有機半導体が、透明な溶液を与えない、すなわち、室温および大気圧で、上記した濃度において凝集するかゲルを形成する有機溶媒を意味するものと意図する。室温および大気圧での貧溶媒における有機半導体の溶解度は、好ましくは3g/l未満、特に好ましくは1g/l未満、とりわけ0.3g/l未満である。
【0029】
本発明の目的のために、室温は20℃であり、および大気圧は、1013mbarを意味する。
【0030】
本発明は、さらに、基板上に有機半導体の層を生成するための、本発明による溶液の使用に関する。
【0031】
ここでの好ましい態様は、有機半導体の層の生成のために印刷法を用いることである。インクジェット印刷(IJP)法を用いることが、ここでは特に好ましい。
【0032】
本発明は、さらに、本発明による溶液を用いて製造された有機半導体の層に関する。
【0033】
それ自体知られる有機半導体の層は、文献に既に記載されている。本発明による溶液から製造される層は、今日まで記載されたものと比べて、改善された形態的な性質を示す(このことは、とりわけ、例1.4において確認される)。とりわけ、コーティング領域(例えば、個々の画素)に渡る層の厚さの不変さ、有機半導体の配合物または混合物の使用においても、層および表面の均一性、並びにいわゆるピンホール(致命的なデバイス損傷をもたらし得る、半導体層における微視的に小さい穴)が存在しないことは、本発明による溶液の改善された塗布性質により、かなりより一層高まる。」

ウ 「【0034】
本明細書の目的のために、有機半導体とは、固体若しくは層として、半導体性質を有する、すなわち、伝導帯と価電子帯との間のエネルギーギャップが、0.1?4eVである低分子量、オリゴマー、樹枝状またはポリマーの有機化合物若しくは有機金属化合物、または化合物の混合物を意味するものと解釈される。

(中略)

【0036】
オリゴマー、ポリマーまたは樹枝状であり得る高分子量成分は、3000g/モルを超える、好ましくは10,000g/モルを超える、特に好ましくは50,000g/モルを超える分子量Mwを有する。

(中略)

【0038】
ポリマーの有機半導体(これは、さらなる混合物質を含み得る)の溶液が好ましい。本記載の目的のために、ポリマーの有機半導体とは、とりわけ、

(中略)

(x)例えば、WO 02/077060 に記載される、クラス(i)?(ix)の2以上からの構造単位を含む、置換された可溶なコポリマー、

(中略)

を意味すると解釈する。
【0039】
これらのポリマー有機半導体を、本明細書の一部として本願に援用する。」

エ 「【0041】
本発明による溶液は、0.01?20重量%の、好ましくは0.1?15重量%の、特に好ましくは0.2?10重量%の、非常に特に好ましくは0.25?5重量%の有機半導体または対応する配合物を含む。
【0042】
本発明による溶液の粘度は可変である。しかしながら、ある種のコーティング技術は、ある粘度範囲の使用を必要とする。中でも、約4?25mPa・sの範囲が、IJPによるコーティングに必要に応じて与えられる必要がある。しかしながら、他の印刷法、例えば、グラビア印刷法については、例えば、20?500mPa・sの範囲におけるかなりより高い粘度が、利点を生じさせることがもっぱら見込まれる。粘度を、有機半導体またはマトリックスポリマーの適切な分子量範囲の選択を通じて、並びに適切な濃度範囲の選択および溶媒の選択を通じて調整することができる。
【0043】
本発明による溶液の表面張力は、初期は制限されない。しかしながら、対応する溶媒混合物の使用および塗布を通じて、これは、一般的に、20?60dyn/cmの範囲に、好ましくは25?50の範囲に、非常に特に好ましくは25?40dyn/cmの範囲にあるであろう。」

オ 「【0044】
本発明による溶液は、上記したように、少なくとも3つの異なる有機溶媒A、BおよびCを含み、この溶媒AおよびBは、有機半導体の良溶媒であり、溶媒Cは、有機半導体の貧溶媒であり、ここで、さらに、以下が溶媒の沸点(b.p)について適用され、すなわち、b.p(A)<b.p.(C)<b.p.(B)であり、また以下が、溶媒A、BおよびCのコーティング法の温度における個々の蒸気圧(p)について適用され、すなわち、p(A)>p(C)>p(B)である。

(中略)

【0048】
この明細書において、沸点とは、大気圧(1013mbar)下での沸点を言う。

(中略)

【0050】
溶媒Aと溶媒Cの沸点の差が、5Kよりも大きい、好ましくは10Kよりも大きい、特に好ましくは20Kよりも大きいことが、さらに、好ましい。さらに、溶媒Cと溶媒Bの沸点の差が、5Kよりも大きい、好ましくは10Kよりも大きいことが好ましい。

(中略)

【0052】
溶媒A、BおよびCに加えて、他の良溶媒および/または貧溶媒を用いることも、また、適切であろう。従って、それぞれのケースにおいて、タイプAおよび/またはタイプBおよび/またはタイプCの2以上の溶媒を用いることが、非常に適切であり且つ好ましく、何故なら、それによって、さらなる必須パラメータに対する最適化(例えば、表面張力、粘度等の適合)が、いくつかの場合には、各タイプのただ1種のみを用いる場合と比べて、達成されるのにより簡単であり得るためである。

(中略)

【0055】
幅広い範囲の有機半導体の良溶媒であることが判明した好ましい溶媒AおよびBは、一置換または多置換の芳香族溶媒、とりわけ、置換されたベンゼン、ナフタレン、ビフェニルおよびピリジンである。好ましい置換基は、アルキル基(これは、フッ素化されていてもよい)、ハロゲン原子(好ましくは、塩素およびフッ素)、シアノ基、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基(好ましくは4を超えないC原子を有するもの)、またはエステル基である。特に好ましい置換基は、フッ素、塩素、シアノ、メトキシ、エトキシ、メチル、トリフルオロメチル、炭酸メチル、炭酸エチルおよび/または炭酸プロピルであり、ここで、複数の異なる置換基が、存在していてもよい。しかしながら、例えば、ギ酸誘導体、N-アルキルピロリドン、または高沸点エーテルのような非芳香族溶媒もまた、良溶媒として適切である。
【0056】
特に好ましい溶媒Aおよび/またはBは、以下の表1に示される100?300℃の沸点を有する溶媒である。

(中略)

【0058】
表1:特に好ましい良溶媒AおよびB
【表1ー1】

【表1ー2】

表1に挙げた溶媒は、網羅性のいかなる主張をするものであってはならない。本発明による溶液の調製は、当業者には、さらなる発明を必要とせずに、ここに明示的に述べない他の溶媒を伴って容易に可能である。
【0059】
溶媒AおよびBとして、3-フルオロベンゾトリフルオリド、ベンゾトリフルオリド、ジオキサン、トリフルオロメトキシベンゼン、4-フルオロベンゾトリフルオリド、3-フルオロピリジン、トルエン、2-フルオロトルエン、2-フルオロベンゾトリフルオリド、3-フルオロトルエン、ピリジン、4-フルオロトルエン、2,5-ジフルオロトルエン、1-クロロ-2,4-ジフルオロベンゼン、2-フルオロピリジン、3-クロロフルオロベンゼン、1-クロロ-2,5-ジフルオロベンゼン、4-クロロフルオロベンゼン、クロロベンゼン、2-クロロフルオロベンゼン、p-キシレン、m-キシレン、o-キシレン、2,6-ルチジン、2-フルオロ-m-キシレン、3-フルオロ-o-キシレン、2-クロロベンゾトリフルオリド、ジメチルホルムアミド、2-クロロ-6-フルオロトルエン、2-フルオロアニソール、アニソール、2,3-ジメチルピラジン、ブロモベンゼン、4-フルオロアニソール、3-フルオロアニソール、3-トリフルオロメチルアニソール、2-メチルアニソール、フェネトール、ベンゾジオキソール、4-メチルアニソール、3-メチルアニソール、4-フルオロ-3-メチルアニソール、1,2-ジクロロベンゼン、2-フルオロベンゾニトリル、4-フルオロベラトロール、2,6-ジメチルアニソール、アニリン、3-フルオロベンゾニトリル、2,5-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、ベンゾニトリル、3,5-ジメチルアニソール、N,N-ジメチルアニリン、1-フルオロ-3,5-ジメトキシベンゼン、酢酸フェニル、n-メチルアニリン、安息香酸メチル、N-メチルピロリドン、3,4-ジメチルアニソール、o-トルニトリル、4-tert-ブチルアニソール、ベラトロール、安息香酸エチル、N,N-ジエチルアニリン、安息香酸プロピル、1-メチルナフタレン、3,5-ジメトキシトルエン、安息香酸ブチル、2-メチルビフェニル、ジメチルナフタレン、2-フェニルピリジン、または2,2’-ビトリルから選択される1種以上の溶媒を含む本発明による溶液が好ましい。
【0060】
幅広い範囲の有機または有機金属オリゴマー、ポリマーまたは樹枝状半導体の貧溶媒であることが判明した好ましい溶媒Cは、好ましくは7個以上のC原子を有する、直鎖の、分岐の若しくは環状の高級アルカンである。対応する工業的な蒸留分画もまた、ここでは選択され得る。テルペン、(シクロ)脂肪族アルコール、ケトン、カルボン酸エステル、または4個以上のC原子を有する長いアルキル置換基またはアルコキシ置換基により置換された一置換若しくは多置換の芳香族溶媒、とりわけ、置換されたベンゼン、ナフタレンおよびピリジンもまた、適している。4個を超えるC原子を有する高級アルコール、グリコールまたは、例えば、ジグリム若しくトリグリムのような、これらのエーテルも、さらに、適している。
【0061】
表2に挙げられる100?250℃の沸点を有する溶媒が特に好ましく、ここでも、各有機半導体に特に適切な溶媒を、個別に決定する必要があり、従って、この表は、一般的な評価の基準としてのみ解釈され得る。表1と同じように、コーティング法の特に好ましい温度範囲における蒸気圧が、挙げられるいくつかの溶媒について含まれる。
【0062】
表2:特に好ましい貧溶媒C
【表2】

【0063】
表2に挙げた溶媒は、網羅性に対するいかなる主張もしない。本発明による溶液の調製は、当業者には、発明を必要とせずに、ここに明示的に述べられない他の溶媒を伴って容易に可能である。
【0064】
溶媒Cとして、メチルシクロヘキサン、3-ペンタノール、1,4-ジメチルシクロへキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ジメチルシクロヘキサン、オクタン、2-ヘキサノール、1-ペンタノール、1,2,4-トリメチルシクロヘキサン、4-ヘプタノン、3-ヘプタノン、2-ヘプタノン、ノナン、シクロヘキサノン、3-ヘプタノール、1-ヘキサノール、2-ヘプタノール、ジグリム、酪酸ブチル、tert-ブチルベンゼン、デカン、1-ヘプタノール、2-オクタノール、ブチルシクロへキサン、2-エチル-1-ヘキサノール、デカリン、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン、グリコール、3,7-ジメチル-1-オクタノール、3,7-ジメチル-3-オクタノール、コハク酸ジメチル、tert-ブチル-m-キシレン、ベンジルアルコール、DBE、ドデカン、コハク酸ジエチル、トリグリム、ビシクロヘキシル、アジピン酸ジメチル、1-デカノール、または2-ピロリドンから選択される少なくとも1種の溶媒を含む、本発明による溶液が、中でも好ましい。
【0065】
本発明をより極めて詳細に説明するために、本発明によるいくつかの直ちに使用できる溶媒混合物を、表3に与える。これは、評価の基準を示すのみである。
【0066】
表3:本発明による溶媒混合物の例
【表3】



カ 「【0073】
ここに記載される溶液は、上記の問題点における驚くべき改善を示す。
【0074】
つまり、好ましい沸点範囲における溶媒の使用は、溶液が、プリントヘッド中で、またはノズル上であまりに速く乾燥しないという結果をもたらす(問題1)。さらにより高い沸点溶媒は、ここでのさらなる改善を提供するが、これらは、とりわけ問題3?5の場合における、不釣合いに大きな不都合を有する。述べた沸点範囲における溶媒を使用することが、ここでは、非常に有利であると判明した。
【0075】
また、かなりの改善が、問題2の場合においても達成される。つまり、本発明による溶液から形成されるフィルムまたは画素における配合材料は、エレクトロルミネセンスにおける不均一さを全く示さない。特定の理論に拘束されることを望まないが、本発明者等は、乾燥中の溶液の迅速な濃化は、配合物の分離を実質的に防止し、フィルムにおける、より均一な材料分布を促進すると推測する。
【0076】
記載した溶解度性質および関連する沸点または蒸気圧を有する、三成分溶媒混合物を用いることにより、問題3について、かなりの進展が達成された。上記したように、非常に高い粘度が、蒸発中、画素またはフィルムにおいて非常に迅速に獲得され、不均一な材料分布の形成に対抗する。
【0077】
問題4および問題5は、より高沸点の溶媒よりも有意により良く解決される。特に問題4の場合において、溶液の非常に迅速な濃化は、特に明瞭な効果を達成することを可能にした。
【0078】
本発明による溶液の乾燥中、有機半導体は溶液から析出せず、従って、これにより問題6もまた、解決されたものとみなすことができる。特定の理論の正確さに拘束されることを望まないが、本発明者等は、貧溶媒Cよりも高沸点または(塗布温度における)低い蒸気圧を有する、わずかな割合の良溶媒Bの添加が、乾燥工程中の有機半導体の析出を抑制すると推測する。このことは、これまで、文献においてこのように記載されたことはなく、および有機半導体または他の配合成分が、最も高い沸点溶媒における最も低い溶解度を有するところの二成分溶媒または三成分溶媒の場合よりも、有意により均一なフィルムを驚くべきことにもたらす。
【0079】
問題2?5は、原則として、実際に低沸点溶媒(または溶媒混合物)の使用により解決されるはずである。しかしながら、これらは、問題1および問題6を技術的に解決できないという問題を引き起こす。つまり、特に、異なる溶解度性質および異なる沸点を有する溶媒混合物は、これらの問題点の最適な解決策である。組み合さった問題1?6を、単一の溶媒を用いる場合には、適切に解決することができない。かなりの低沸点溶媒を用いる場合には、問題1および6を解決できず、一方で、かなりの高沸点溶媒を用いる場合には、問題3?5が、常に解決することがより難しい。」

キ 「【0083】

例1:アニソール、4-メチルアニソール(それぞれ溶媒A)、ベラトロール(溶媒B)、およびデカリン(溶媒C)の混合物中のポリマーPOLY1の溶液
1.1用いた材料
・ポリマーPOLY1は、DE 10337077.3 からの例1に従う規則正しい変形例に従う WO 02/077060 に従う例P17に従うポリマー。ここで用いられるバッチPOLY1-B6は、200kg/モルのM_(w)、70kg/モルのM_(n)、180kg/モルのM_(p)を有する。アニソール/o-キシレン中14g/lを含む溶液は、(500s^(-1)において)約6.6mPasの粘度を有する。
【0084】
・溶媒
・アニソール;沸点154℃;POLY1-B6の溶解度>30g/l
・4-メチルアニソール;沸点174℃;POLY1-B6の溶解度>30g/l
・ベラトロール;沸点207℃;POLY1-B6の溶解度>30g/l
・デカリン(異性体混合物);沸点187℃;POLY1-B6の溶解度<0.05g/l。
【0085】
1.2溶液調製および基本性質
・種々の混合物を、上記した溶媒および上記ポリマーを用いて調製した。全ての溶液は、約11g/lのポリマーを含んだ。溶液を、より詳細に表4に明記する。
【0086】
表4:種々の溶液の組成
【表4】

【0087】
・続いて、溶液をゆっくりと蒸発させ、濃度/粘度曲線または他の性質に関する溶液の挙動を追った。これらの結果を、表5にまとめる。
【0088】
表5:濃縮中の溶液の挙動
【表5】

【0089】
・従来技術に従う溶液(溶液1と溶液3;いずれの場合にも、最高沸点溶媒は、用いるポリマーの最も低い溶解度を有する)は、塗布について使用に適さない挙動を示す。ポリマーは析出する。従って、適切なフィルム形成を達成できない。」

(2)甲第1号証に記載された発明
ア 引用発明a
前記(1)の記載事項キにおける段落【0085】及び表4の記載に基づけば、「溶液3」は、アニソール、Me-アニソール、デカリンが、それそれ、体積%で40、10、50の割合とされた混合物を、溶媒とし、段落【0083】に記載された「ポリマーPOLY1」を約11g/l含んだ溶液であるといえる。また、表5の記載に基づけば、11g/lの濃度における溶液3の粘度は、6.5mPa・sであるといえる。
そうすると、甲第1号証には、溶液3として、次の発明(以下、「引用発明a」という。)が記載されていると認められる。
「下記の混合物からなる溶媒およびポリマーPOLY1を用いて調製した、約11g/lのポリマーを含んだ、粘度6.5mPa・sである、溶液3。
アニソール ;沸点154℃ 40体積%
Me-アニソール(4-メチルアニソール);沸点174℃ 10体積%
デカリン ;沸点187℃ 50体積%」

イ 引用発明b
前記(1)の記載事項アに基づけば、甲第1号証には、請求項1に係る発明として、次の発明(以下、「引用発明b」という。)が記載されていると認められる。
「 ・少なくとも1種の高分子量成分を含む少なくとも1種の有機半導体、および
・少なくとも1種の有機溶媒A、および
・少なくとも1種の有機溶媒B、および
・少なくとも1種の有機溶媒C
を含み、
・溶媒Aが、前記有機半導体の良溶媒であり、
・溶媒Bが、前記有機半導体の良溶媒であり、
・溶媒Cが、前記有機半導体の貧溶媒であり、および
・溶媒A、BおよびCの沸点(b.p.)について、b.p.(A)<b.p.(C)<b.p.(B)が当てはまり、および/または溶媒A、BおよびCのコーティング法の温度におけるそれぞれの部分蒸気圧(p)について、p(A)>p(C)>p(B)が当てはまる
単一相の液体組成物(溶液)。」

ウ 引用発明c
前記(1)の記載事項アに基づけば、甲第1号証には、前記引用発明bの記載を引用する請求項21に係る発明として、次の発明(以下、「引用発明c」という。)が記載されていると認められる。
「基板上に有機半導体の層を生成するための引用発明bの溶液の使用方法。」

(3)甲第12号証に記載された発明
本件特許に係る出願と同日に出願された特願2014-502174号(特許第6426468号:甲第12号証)の請求項1?11に係る発明(以下、それぞれ、「甲12発明1」?「甲12発明11」という。)は、その特許請求項の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
電荷輸送性モノマーまたは数平均分子量200?50万の電荷輸送性オリゴマーもしくはポリマーからなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質およびドーパント物質からなる電荷輸送性材料と、少なくとも1種の良溶媒および少なくとも1種の貧溶媒を含んで構成される混合溶媒と、を含有し、
前記良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃を満たし、
25℃での粘度が7.5mPa・s以下、かつ、23℃での表面張力が30.0?40.0mN/mであり、
前記電荷輸送性材料が、前記混合溶媒中に溶解または均一に分散していることを特徴とする電荷輸送性ワニス(但し、前記混合溶媒が、前記良溶媒および貧溶媒の組み合わせとして、N,N-ジメチルアセトアミドおよびシクロヘキサノールを含むものを除く。)。
【請求項2】
前記良溶媒が、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロピオンアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、りん酸トリメチル、りん酸トリエチル、ジエチレングリコール、およびトリエチレングリコールから選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項3】
前記貧溶媒が、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、オクチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールベンジルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、2-メトキシエタノール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、1-ブトキシエトキシプロパノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリメチレングリコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、1-テトラデカノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、グリシドール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジアセトンアルコール、2-エチルヘキサノール、2-フェノキシエタノール、α-テルピネオール、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジ-n-ヘキシルエーテル、アニソール、エチルフェニルエーテル、n-ブチルフェニルエーテル、ベンジルイソアミルエーテル、o-クレジルメチルエーテル、m-クレジルメチルエーテル、p-クレジルメチルエーテル、エチルベンジルエーテル、ジグリシジルエーテル、1,4-ジオキサン、トリオキサン、フルフラール、2-メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、シオネール、メチラール、ジエチルアセタール、ギ酸プロピル、ギ酸n-ブチル、ギ酸イソブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸第二ブチル、酢酸n-アミル、酢酸イソアミル、酢酸メチルイソアミル、n-ヘキシルアセテート、酢酸第二ヘキシル、酢酸2-エチルブチル、酢酸2-エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-ブチル、プロピオン酸イソアミル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸n-ブチル、酪酸イソアミル、オキシイソ酪酸エチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸アミル、アセト酪酸メチル、アセト酪酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル、乳酸イソブチル、乳酸n-アミル、乳酸イソアミル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸イソアミル、安息香酸ベンジル、サリチル酸メチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、シュウ酸ジアミル、マロン酸ジエチル、クエン酸トリブチル、セバチン酸ジオクチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ-n-ブチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-オクチル、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル-n-アミルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、ジエチルケトン、エチル-n-ブチルケトン、ジ-n-プロピルケトン、ジイソブチルケトン、2,6,8-トリメチルノナン-4-オン、アセトニルアセトン、メシチルオキシド、ホロン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、2-エチルヘキサン酸、オレイン酸、乳酸、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノール、ヘプタン、オクタン、2,2,3-トリメチルヘキサン、デカン、ドデカン、トルエン、キシレン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、クメン、メシチレン、テトラリン、p-シメン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ジペンチルベンゼン、ドデシルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、p-メンタン、ビシクロヘキセン、α-ピネン、およびジペンテンから選ばれる少なくとも1種である請求項1または2記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項4】
前記良溶媒および前記貧溶媒の組み合わせが、N,N-ジメチルアセトアミドと2,3-ブタンジオール、N,N-ジメチルアセトアミドとジエチレングリコールジメチルエーテル、N,N-ジメチルアセトアミドとn-ヘキシルアセテート、N,N-ジメチルアセトアミドとエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとジエチレングリコールモノブチルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとトリエチレングリコールジメチルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンと2-フェノキシエタノール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンと1,3-ブタンジオール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとトリプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとエチレングリコールモノヘキシルエーテル、N-メチルピロリドンとジエチレングリコールジエチルエーテル、N-メチルピロリドンとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、N-メチルピロリドンとトリエチレングリコールジメチルエーテル、N-メチルピロリドンと1,3-ブタンジオール、N-メチルピロリドンとエチレングリコールモノヘキシルエーテル、N-メチルピロリドンとジエチレングリコールモノエチルエーテル、N,N-ジメチルアセトアミドと2,3-ブタンジオールとエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、N,N-ジメチルアセトアミドと2,3-ブタンジオールとジエチレングリコールジメチルエーテル、N,N-ジメチルアセトアミドと2,3-ブタンジオールとn-ヘキシルアセテート、N,N-ジメチルアセトアミドとジエチレングリコールジメチルエーテルとn-ヘキシルアセテート、N,N-ジメチルアセトアミドとジエチレングリコールジメチルエーテルとエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、N,N-ジメチルアセトアミドとn-ヘキシルアセテートとエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートと2-フェノキシエタノール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとジエチレングリコールモノブチルエーテルとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとジエチレングリコールモノブチルエーテルとトリエチレングリコールジメチルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとジエチレングリコールモノブチルエーテルと2-フェノキシエタノール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとジエチレングリコールモノブチルエーテルと1,3-ブタンジオール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとジエチレングリコールモノブチルエーテルとトリプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとジエチレングリコールモノブチルエーテルとエチレングリコールモノヘキシルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートとトリエチレングリコールジメチルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートと1,3-ブタンジオール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートとトリプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートとエチレングリコールモノヘキシルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとトリエチレングリコールジメチルエーテルと2-フェノキシエタノール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとトリエチレングリコールジメチルエーテルと1,3-ブタンジオール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとトリエチレングリコールジメチルエーテルとトリプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとトリエチレングリコールジメチルエーテルとエチレングリコールモノヘキシルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンと2-フェノキシエタノールと1,3-ブタンジオール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンと2-フェノキシエタノールとトリプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンと2-フェノキシエタノールとエチレングリコールモノヘキシルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンと1,3-ブタンジオールとトリプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンと1,3-ブタンジオールとエチレングリコールモノヘキシルエーテル、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとトリプロピレングリコールモノメチルエーテルとエチレングリコールモノヘキシルエーテル、N-メチルピロリドンとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートとジエチレングリコールジエチルエーテル、N-メチルピロリドンとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートとトリエチレングリコールジメチルエーテル、N-メチルピロリドンとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートと1,3-ブタンジオール、N-メチルピロリドンとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートとエチレングリコールモノヘキシルエーテル、N-メチルピロリドンとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートとジエチレングリコールモノエチルエーテル、N-メチルピロリドンとジエチレングリコールジエチルエーテルとトリエチレングリコールジメチルエーテル、N-メチルピロリドンとジエチレングリコールジエチルエーテルと1,3-ブタンジオール、N-メチルピロリドンとジエチレングリコールジエチルエーテルとエチレングリコールモノヘキシルエーテル、N-メチルピロリドンとジエチレングリコールジエチルエーテルとジエチレングリコールモノエチルエーテル、N-メチルピロリドンとトリエチレングリコールジメチルエーテルと1,3-ブタンジオール、N-メチルピロリドンとトリエチレングリコールジメチルエーテルとエチレングリコールモノヘキシルエーテル、N-メチルピロリドンとトリエチレングリコールジメチルエーテルとジエチレングリコールモノエチルエーテル、N-メチルピロリドンと1,3-ブタンジオールとエチレングリコールモノヘキシルエーテル、N-メチルピロリドンと1,3-ブタンジオールとジエチレングリコールモノエチルエーテル、N-メチルピロリドンとエチレングリコールモノヘキシルエーテルとジエチレングリコールモノエチルエーテルである請求項1?3のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項5】
前記電荷輸送物質が、式(1)で表されるオリゴアニリン誘導体、または式(1)の酸化体であるキノンジイミン誘導体である請求項1?4のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【化3】

(式中、R^(1)、R^(2)およびR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、りん酸基、りん酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基またはスルホン酸基を示し、AおよびBは、それぞれ独立して下記式(2)または(3)
【化4】

で表される2価の基であり、R^(4)?R^(11)はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、りん酸基、りん酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基またはスルホン酸基を示し、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数で、m+n≦20を満足する。)
【請求項6】
スリットコート塗布用である請求項1?5のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項7】
請求項1?5のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニスから作製された電荷輸送性薄膜。
【請求項8】
請求項7記載の電荷輸送性薄膜を備える有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記電荷輸送性薄膜が、正孔注入層または正孔輸送層である請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
請求項1?5のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニスを用いる電荷輸送性薄膜の作製方法。
【請求項11】
電荷輸送性モノマーまたは数平均分子量200?50万の電荷輸送性オリゴマーもしくはポリマーからなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質および電荷受容性ドーパント物質からなる電荷輸送性材料と、溶媒とを含む電荷輸送性ワニスを用いて作製される電荷輸送性薄膜の平坦性向上方法であって、
前記溶媒として、少なくとも1種の良溶媒および少なくとも1種の貧溶媒を含んで構成される混合溶媒を用いるとともに、これら良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値を|ΔT|<20℃とし、
前記電荷輸送性ワニスの25℃での粘度を7.5mPa・s以下とし、かつ、前記電荷輸送性ワニスの23℃での表面張力を30.0?40.0mN/mとすることを特徴とする電荷輸送性薄膜の平坦性向上方法(但し、前記混合溶媒が、前記良溶媒および貧溶媒の組み合わせとして、N,N-ジメチルアセトアミドおよびシクロヘキサノールを含むものを除く。)。」

5 新規性についての当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明aとを対比する。

(ア)電荷輸送性材料
引用発明aにおける「ポリマーPOLY1」と本件特許発明1の「電荷輸送性モノマーまたは数平均分子量200?50万の電荷輸送性オリゴマーもしくはポリマーからなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質およびドーパント物質からなる電荷輸送性材料」とは、「材料」である点で共通する。

(イ)混合溶媒
引用発明aにおける「アニソール」及び「Me-アニソール(4-メチルアニソール)」は、技術的にみて、本件特許発明1の「良溶媒」に相当する。また、引用発明aにおける「デカリン」は、技術的にみて、本件特許発明1の「貧溶媒」に相当する。そうすると、引用発明aの「混合物からなる溶媒」は、本件特許発明1の「少なくとも1種の良溶媒および少なくとも1種の貧溶媒を含んで構成される混合溶媒」に相当するといえる。
また、引用発明aの「混合物からなる溶媒」は、「アニソール」、「Me-アニソール(4-メチルアニソール)」及び「デカリン」からなるものである。そうすると、引用発明aの「混合物からなる溶媒」は、本件特許発明1の「ただし、前記混合溶媒が、前記良溶媒および貧溶媒の組み合わせとして、N,N-ジメチルアセトアミドおよびシクロヘキサノールを含むものを除く。」とする要件を満たしている。

(ウ)粘度
引用発明aの「粘度」は、「6.5mPa・s」である。そして、甲第1号証には、表5における「11g/L」の粘度計測時の温度を明らかにしていないものの、技術的にみて、室温(25℃)程度であると考えられる。
そうすると、引用発明aは、本件特許発明1の「25℃での粘度が6.9mPa・s以下」とする要件を満たしているといえる。

(エ)ワニス
引用発明aの「溶液」は、前記(ア)における「溶媒」及び「ポリマーPOLY1」を用いて調製したものである。そうすると、引用発明aの「溶液」は、本件特許発明1の「材料」と、上記「混合溶媒」と、を含有する「ワニス」に相当する。また、引用発明aの「溶液」は、本件特許発明1の「材料が、前記混合溶媒中に溶解または均一に分散している」とする要件を満たしている。

(オ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と引用発明aとは、
「材料と、少なくとも1種の良溶媒および少なくとも1種の貧溶媒を含んで構成される混合溶媒と、を含有し、
25℃での粘度が6.9mPa・s以下であり、
材料が、前記混合溶媒中に溶解または均一に分散しているワニス(ただし、前記混合溶媒が、前記良溶媒および貧溶媒の組み合わせとして、N,N-ジメチルアセトアミドおよびシクロヘキサノールを含むものを除く。)。」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

[相違点a-1]材料として、本件特許発明1は、「電荷輸送性モノマーまたは数平均分子量200?50万の電荷輸送性オリゴマーもしくはポリマーからなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質およびドーパント物質からなる電荷輸送性材料」を含有するのに対し、引用発明aは、「ポリマーPOLY1」を含有するものの、「ポリマーPOLY1」が「電荷輸送性モノマーまたは数平均分子量200?50万の電荷輸送性オリゴマーもしくはポリマーからなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質およびドーパント物質からなる電荷輸送性材料」であるかが、一応明らかでない点。
[相違点a-2]本件特許発明1は、「良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」を満たすのに対し、引用発明aは、そのような要件を満たすものとしていない点。
[相違点a-3]本件特許発明1は、「23℃での表面張力が30.0?40.0mN/m」であるのに対し、引用発明aは、表面張力が明らかでない点。

イ 判断
事案に鑑みて、上記[相違点a-2]について検討する。
引用発明aは、良溶媒として、「沸点154℃」の「アニソール」及び「沸点174℃」の「Me-アニソール(4-メチルアニソール)」を含み、貧溶媒として「沸点187℃」の「デカリン」を含んでいる。
そうすると、「Me-アニソール(4-メチルアニソール)」及び「デカリン」は、|ΔT|=13(=|187-174|)であって、本件特許発明1の「|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」とする要件を満たすものの、「アニソール」及び「デカリン」は、|ΔT|=33(=|187-154|)であって、本件特許発明1の「|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」とする要件を満たしていない。
したがって、引用発明aは、本件特許発明1の「良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」とする要件を満たしていないことは明らかである。
したがって、上記[相違点a-2]は実質的な相違点である。

特許異議申立人は、「良溶媒の定義(上記記載事項(1-4))及び貧溶媒の定義(上記記載事項(1-5))から、4Me-アニソールが良溶媒、デカリンが貧溶媒であると言える。・・・従って、甲第1号証には、溶液3の溶媒として、アニソール40体積%、4Me-アニソール10体積%及びデカリン50体積%からなる組成を有し、良溶媒である4Me-アニソールと貧溶媒であるデカリンとの沸点差ΔT℃の絶対値が13℃の溶媒が記載されている。」(特許異議申立書第70頁第2?9行)とし、「一致点b:甲1発明aでは良溶媒の4Me-アニソールと貧溶媒のデカリンとの沸点差ΔT℃の絶対値が13℃であるので、本件特許発明1と甲1発明aは、「前記良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)を満たし」の点で同じである。」(特許異議申立書第71頁第20?23行)と主張している。
しかし、溶液3の溶媒に40体積%含まれる「アニソール」も、甲第1号証の段落【0027】(特許異議申立人の指摘する記載事項(1-4))の定義に基づけば、「良溶媒」であることは明らかである。また、甲第1号証において「アニソール」は、「特に好ましい良溶媒AおよびB」(段落【0058】の【表1ー1】)として挙げられており、「溶媒AおよびBは、有機半導体の良溶媒」(段落【0044】)とされていることからも、溶液3の溶媒に含まれる「アニソール」が「良溶媒」であることが理解できる。
そして、本件特許発明1における「前記良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」との要件において、「前記良溶媒」が「少なくとも1種の良溶媒および少なくとも1種の貧溶媒を含んで構成される混合溶媒」に含まれる「良溶媒」の全体でなく、良溶媒の一部であると解釈すべき根拠を見いだすことができない。なお、本件特許の明細書段落【0016】の「なお、良溶媒および貧溶媒の少なくとも一方を2種以上用いる場合、良溶媒と貧溶媒との沸点差が最も大きくなる2種を選んだ場合の沸点差ΔT℃の絶対値が、上記範囲を満たす必要がある。」との記載からも、溶液3の溶媒に含まれる「アニソール」とデカリンとの沸点差ΔTの絶対値も、本件特許発明1における上記要件を満たす必要があることが理解できる。
そうすると、溶液3の溶媒に40体積%含まれる「アニソール」を考慮しない特許異議申立人の主張は採用することができない。

ウ むすび
以上のとおり、本件特許発明1と引用発明aとは、実質的に相違するものであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、同じ発明であるとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当しないものである。

(2)本件特許発明2、6?11について
本件特許発明2、6?11は、いずれも、本件特許発明1と同じ、「良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」を満たすとする要件を具備するものである。そうすると、本件特許発明2、6?11も、本件特許発明1と同じ理由により、特許法第29条第1項第3号の規定に該当しないものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1、2、6?11は特許法第29条第1項第3号の規定に該当しないものである。したがって、特許異議申立人がした新規性についての申立ての理由によっては、本件特許発明1、2、6?11に係る特許を取り消すことはできない。

6 進歩性についての当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明bとを対比する。

(ア)電荷輸送性材料
引用発明bにおける「少なくとも1種の高分子量成分を含む少なくとも1種の有機半導体」と本件特許発明1の「電荷輸送性モノマーまたは数平均分子量200?50万の電荷輸送性オリゴマーもしくはポリマーからなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質およびドーパント物質からなる電荷輸送性材料」とは、技術的にみて、「電荷輸送性材料」である点で共通する。

(イ)混合溶媒
引用発明bは、少なくとも「有機溶媒A」、「有機溶媒B」及び「有機溶媒C」を含み、「有機溶媒A」及び「有機溶媒B」が「有機半導体の良溶媒」であり、「有機溶媒C」が「有機半導体の貧溶媒」である。そうすると、引用発明bは、本件特許発明1の「少なくとも1種の良溶媒および少なくとも1種の貧溶媒を含んで構成される混合溶媒」を含有しているといえる。

(ウ)ワニス
引用発明bの「液体組成物(溶液)」は、「有機半導体」、「有機溶媒A」、「有機溶媒B」及び「有機溶媒C」を含むものであって、「単一相」の液状組成物である。そうすると、引用発明bの「液体組成物(溶液)」は、本件特許発明1の「電荷輸送性材料」と、上記「混合溶媒」と、を含有する「電荷輸送性ワニス」に相当する。また、引用発明bの「液体組成物(溶液)」は、本件特許発明1の「電荷輸送性材料が、前記混合溶媒中に溶解または均一に分散している」とする要件を満たしている。

(エ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と引用発明bとは、
「電荷輸送性材料と、少なくとも1種の良溶媒および少なくとも1種の貧溶媒を含んで構成される混合溶媒と、を含有し、
前記電荷輸送性材料が、前記混合溶媒中に溶解または均一に分散している電荷輸送性ワニス。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点b-1]電荷輸送性材料が、本件特許発明1は、「電荷輸送性モノマーまたは数平均分子量200?50万の電荷輸送性オリゴマーもしくはポリマーからなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質およびドーパント物質からなる」であるのに対し、引用発明bは、「少なくとも1種の高分子量成分を含む少なくとも1種の有機半導体」である点。
[相違点b-2]本件特許発明1は、「良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」を満たすのに対し、引用発明bは、そのような要件を満たすものとしていない点。
[相違点b-3]本件特許発明1は、「25℃での粘度が6.9mPa・s以下」であるのに対し、引用発明bは、粘度を特定していない点。
[相違点b-4]本件特許発明1は、「23℃での表面張力が30.0?40.0mN/m」であるのに対し、引用発明bは、表面張力を特定していない点。
[相違点b-5]本件特許発明1は、「ただし、前記混合溶媒が、前記良溶媒および貧溶媒の組み合わせとして、N,N-ジメチルアセトアミドおよびシクロヘキサノールを含むものを除く。」とされているのに対し、引用発明bは、混合溶媒から、上記組み合わせが除かれていない点。

イ 判断
事案に鑑みて、上記[相違点b-2]について検討する。
甲第1号証には、「溶媒Aと溶媒Cの沸点の差が、5Kよりも大きい、好ましくは10Kよりも大きい、特に好ましくは20Kよりも大きいことが、さらに、好ましい。さらに、溶媒Cと溶媒Bの沸点の差が、5Kよりも大きい、好ましくは10Kよりも大きいことが好ましい。」(段落【0050】)と記載されており、ここで、「溶媒AおよびBは、有機半導体の良溶媒」、「溶媒Cは、有機半導体の貧溶媒」(段落【0044】)である。上記記載に基づけば、甲第1号証には、良溶媒と貧溶媒との沸点の差の絶対値について、5℃よりも大きくすることが記載されていたといえるものの、20℃より小さくすることについて記載されていたということができない。
また、甲第1号証には、「溶媒混合物の例」として様々な溶媒の組み合わせが挙げられており(段落【0065】?【0066】)、実験例として、溶液1?12が挙げられているが、何れの溶媒の組み合わせも、本件特許発明1の「良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」とする要件を満たしていない。
そうすると、甲第1号証には、溶媒の組み合わせとして、「良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」との要件を満たす溶媒の組み合わせとすることが、記載又は示唆されていたということはできない。
また、特許異議申立人が提示した甲第2号証?甲第11号証にも、「良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」との要件を満たすように溶媒を組み合わせることが記載されておらず、「良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」との要件を満たすように溶媒を組み合わせて用いることが周知技術であったということもできない。
したがって、当業者であったとしても、引用発明bの「有機溶媒A」、「有機溶媒B」及び「有機溶媒C」について、「良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」との要件を満たすように溶媒を組み合わせることが、容易になし得たということはできない。

特許異議申立人は、「甲第1号証には、良溶媒と貧溶媒の沸点差を5Kよりも大きくすることが記載されている。」(特許異議申立書第79頁第21?22行)、「一方で、甲第1号証には、以下の通り、良溶媒と貧溶媒の沸点差が5Kよりも大きくなくても良いことが示されている。」(特許異議申立書第79頁第23?24行)、「さらに、甲第1号証には、貧溶媒Cよりも高沸点な、わずかな割合の良溶媒Bの添加が、乾燥工程中の有機半導体の析出を抑制して均一なフィルムをもたらすことが記載されている(上記記載事項(1-16))。」(特許異議申立書第80頁第18?20行)とし、「以上の通り、甲第1号証には、良溶媒と貧溶媒の沸点差を設けることにより、溶液から製造される層が均一になることが記載されている。よって、甲1発明bにおいて、溶液から製造された層および表面の均一性を高めるために、良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値を20℃未満あるいは5℃よりも大きく20℃未満とすることは当業者が容易になし得るところである。」(特許異議申立書第80頁第21?24行)と主張している。
しかし、特許異議申立人は、溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値を20℃未満とすることが当業者が容易になし得るとする根拠について何等言及していない。そして、甲第1号証に記載された溶液10?12も、上記のとおり、「良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」との要件を満たすものではなく、仮に本件特許発明1と同様の効果を奏するものであったとしても、異なる構成により達成されたものである。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ むすび
以上のとおり、上記[相違点b-2]は、当業者であっても、容易になし得たということができないものであるから、他の相違点について言及するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件特許発明12について
ア 対比
本件特許発明12と引用発明cとを対比する。

(ア)電荷輸送性材料
引用発明cにおける「少なくとも1種の高分子量成分を含む少なくとも1種の有機半導体」と本件特許発明1の「電荷輸送性モノマーまたは数平均分子量200?50万の電荷輸送性オリゴマーもしくはポリマーからなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質および電荷受容性ドーパント物質からなる電荷輸送性材料」とは、技術的にみて、「電荷輸送性材料」である点で共通する。

(イ)溶媒
引用発明cの「有機溶媒A」、「有機溶媒B」及び「有機溶媒C」は、本件特許発明12の「溶媒」に相当する。
また、引用発明cの「有機溶媒A」及び「有機溶媒B」が「有機半導体の良溶媒」であり、「有機溶媒C」が「有機半導体の貧溶媒」である。そうすると、引用発明cは、本件特許発明12の「前記溶媒として、少なくとも1種の良溶媒および少なくとも1種の貧溶媒を含んで構成される混合溶媒を用いる」とする要件を満たしている。

(ウ)ワニス
引用発明cの「液体組成物(溶液)」は、「有機半導体」、「有機溶媒A」、「有機溶媒B」及び「有機溶媒C」を含むものであって、「単一相」の液状組成物である。そうすると、引用発明cの「液体組成物(溶液)」は、本件特許発明1の「電荷輸送性材料と、溶媒とを含む電荷輸送性ワニス」に相当する。

(エ)電荷輸送性薄膜の平坦性向上方法
引用発明cの「溶液の使用方法」は、「基板上に有機半導体の層を生成するため」の方法である。ここで、引用発明cの基板上に生成される「有機半導体の層」は、技術的にみて、本件特許発明12の「電荷輸送性薄膜」に相当する。
そうすると、引用発明cの「溶液の使用方法」と本件特許発明12の「電荷輸送性ワニスを用いて作製される電荷輸送性薄膜の平坦性向上方法」とは、「電荷輸送性ワニスを用いた電荷輸送性薄膜の作製方法」である点で共通する。

(オ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明12と引用発明cとは、
「電荷輸送性材料と、溶媒とを含む電荷輸送性ワニスを用いた電荷輸送性薄膜の作製方法であって、
前記溶媒として、少なくとも1種の良溶媒および少なくとも1種の貧溶媒を含んで構成される混合溶媒を用いる電荷輸送性薄膜の作製方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点c-1]電荷輸送性材料が、本件特許発明12は、「電荷輸送性モノマーまたは数平均分子量200?50万の電荷輸送性オリゴマーもしくはポリマーからなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質およびドーパント物質からなる」であるのに対し、引用発明cは、「少なくとも1種の高分子量成分を含む少なくとも1種の有機半導体」である点。
[相違点c-2]本件特許発明12は、電荷輸送性ワニスを用いて作製される電荷輸送性薄膜の「平坦性向上方法」であるのに対し、引用発明cは基板上に有機半導体の層を生成するための「溶液の使用方法」である点。
[相違点c-3]本件特許発明12は、「良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」を満たすのに対し、引用発明cは、そのような要件を満たすものとしていない点。
[相違点c-4]本件特許発明12は、「25℃での粘度が6.9mPa・s以下」であるのに対し、引用発明cは、粘度を特定していない点。
[相違点c-5]本件特許発明12は、「23℃での表面張力が30.0?40.0mN/m」であるのに対し、引用発明bは、表面張力を特定していない点。
[相違点c-6]本件特許発明12は、「ただし、前記混合溶媒が、前記良溶媒および貧溶媒の組み合わせとして、N,N-ジメチルアセトアミドおよびシクロヘキサノールを含むものを除く。」とされているのに対し、引用発明cは、混合溶媒から、上記組み合わせが除かれていない点。

イ 判断
上記[相違点c-3]は、前記[相違点b-2]と同じ相違点である。そして、前記(1)イに記載したとおり、当業者であっても、容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおり、上記[相違点c-3]は、当業者であっても、容易になし得たということができないものであるから、他の相違点について言及するまでもなく、本件特許発明12は、当業者であっても、容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)本件特許発明2?11、13について
本件特許発明2?11、13は、いずれも、本件特許発明1及び本件特許発明12と同じ、「良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃(ただし、ΔT=0となる組み合わせは除く)」を満たすとする要件を具備するものである。そうすると、本件特許発明2?11、13も、本件特許発明1又は本件特許発明12と同じ理由により、容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1?13は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。したがって、特許異議申立人がした進歩性についての申立ての理由によっては、本件特許発明1?13に係る特許を取り消すことはできない。

7 ダブルパテントについての当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲12発明1とを対比すると、
「電荷輸送性モノマーまたは数平均分子量200?50万の電荷輸送性オリゴマーもしくはポリマーからなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質およびドーパント物質からなる電荷輸送性材料と、少なくとも1種の良溶媒および少なくとも1種の貧溶媒を含んで構成される混合溶媒と、を含有し、
前記良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃を満たし、
23℃での表面張力が30.0?40.0mN/mであり、
前記電荷輸送性材料が、前記混合溶媒中に溶解または均一に分散している電荷輸送性ワニス(ただし、前記混合溶媒が、前記良溶媒および貧溶媒の組み合わせとして、N,N-ジメチルアセトアミドおよびシクロヘキサノールを含むものを除く。)。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、本件特許発明1では「ΔT=0となる組み合わせは除く」とされているのに対し、甲12発明1ではΔT=0となる組み合わせを除いていない点。
[相違点2]25℃での粘度が、本件特許発明1では「6.9mPa・s以下」であるのに対し、甲12発明1では「7.5mPa・s以下」である点。

イ 判断
事案に鑑みて[相違点2]について検討すると、25℃での粘度の範囲が、本件特許発明1と甲12発明1とでは、重なる部分が存在するものの、その範囲が異なっている。そして、本件特許の明細書段落【0046】には、「本発明に係る電荷輸送性ワニスは、以上で説明した、良溶媒、貧溶媒、電荷輸送性物質および必要に応じて用いられる電荷受容性ドーパントを含んだ上で、25℃での粘度を7.5mPa・s以下、かつ、23℃での表面張力を30.0?40.0mN/mとする必要がある。」、「電荷輸送性薄膜の表面均一性をより高めるとともに、その再現性を良好にすることを考慮すると、ワニスの粘度は、25℃で7.0mPa・s以下がより好ましく、6.9mPa・s以下がより一層好ましい。」と記載されている。上記記載に基づけば、25℃での粘度の範囲を、6.9mPa・s以下としたことにより、電荷輸送性薄膜の表面均一性をより高める等の効果を付加するものであるから、上記[相違点2]を、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)ということはできない。
したがって、本件特許発明1と甲12発明1とが同一の発明であるとはいえない。

特許異議申立人は、「本件特許発明1は、甲12発明のうちの一応の相違点(あ)のΔT=0となる組み合わせ以外の範囲における、25℃での粘度が6.9mPa.s以下において甲12発明と同じである。そのため、本件特許発明1は、出願日が同日の甲12発明と重複するので、特許法第39条第2項の規定に違反してなされたものである。」(特許異議申立書第93頁第8?12行)と主張している。
しかしながら、数値範囲の一部が重複していたとしても、上記のとおり、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)ということはできない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(2)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と甲12発明1とを対比すると、前記[相違点2]に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点3]良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、本件特許発明2では「3.1℃≦|ΔT|<20℃」を満たすとされているのに対し、甲12発明1では「|ΔT|<20℃」を満たすとしている点。

イ 判断
上記[相違点2]は、前記(1)イにおいて検討したとおり、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)ということはできないから、本件特許発明2と甲12発明1とが同一の発明であるとはいえない。

(3)本件特許発明3?11について
本件特許発明3?11は、本件特許発明1の記載を引用し、さらに限定を付した発明である。一方、甲12発明2?甲12発明10も、甲12発明1の記載を引用し、本件特許発明3?11と同一の限定を付した発明である。
そうすると、本件特許発明3?11と甲12発明2?11とは、それぞれ、前記[相違点1]及び[相違点2]で相違し、その余の点で一致している。
そして、[相違点2]は、前記(1)イにおいて検討したとおり、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)ということはできないから、本件特許発明3?11と甲12発明2?10とが同一の発明であるとはいえない。

(4)本件特許発明12について
本件特許発明12と甲12発明11とを対比すると、前記[相違点1]及び[相違点2]で相違し、その余の点で一致している。
そして、[相違点2]は、前記(1)イにおいて検討したとおり、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)ということはできないから、本件特許発明12と甲12発明11とが同一の発明であるとはいえない。

(5)本件特許発明13について
本件特許発明13と甲第12発明11とを対比すると、前記[相違点2]及び[相違点3]で相違し、その余の点で一致している。
そして、[相違点2]は、前記(1)イにおいて検討したとおり、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)ということはできないから、本件特許発明13と甲12発明11とが同一の発明であるとはいえない。

(6)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1?13は特許法第39条第2項の規定に違反してされたものではない。したがって、特許異議申立人がしたダブルパテントについての申立ての理由によっては、本件特許発明1?13に係る特許を取り消すことはできない。

8 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-02-03 
出願番号 特願2017-170772(P2017-170772)
審決分類 P 1 651・ 4- Y (H05B)
P 1 651・ 113- Y (H05B)
P 1 651・ 121- Y (H05B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 辻本 寛司  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 井口 猶二
宮澤 浩
登録日 2019-05-10 
登録番号 特許第6519617号(P6519617)
権利者 日産化学株式会社
発明の名称 電荷輸送性ワニス  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  
代理人 河野 直樹  
代理人 重松 沙織  
代理人 小林 克成  
代理人 峰 隆司  
代理人 石川 武史  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 正木 克彦  
代理人 小島 隆司  

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