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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23F
管理番号 1359606
異議申立番号 異議2019-700945  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-22 
確定日 2020-02-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6518272号発明「緑茶飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6518272号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6518272号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成26年3月4日(優先権主張 平成25年3月4日 日本国(5件))を国際出願日とする特願2014-560974号の一部を、特許法第44条第1項の規定に基いて、平成27年11月4日に特願2015-216764号として新たに特許出願し、さらにその一部を、同規定に基いて新たな特許出願として平成29年2月13日に出願したものであって、平成31年4月26日にその特許権の設定登録がされ、令和1年5月22日に特許掲載公報が発行された。
その後、当該特許に対し、令和1年11月22日に特許異議申立人 渡辺陽子により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6518272号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る発明(以下、請求項順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、「本件特許発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
以下の成分;
(a)75?350ppmのカテキン類、
(b)1.0?90ppmのバリン、
(c)0.1?4.0ppmのメチオニン、および
(d)50ppm以下のテアニン、
を含有する、pH5.0?7.0の容器詰緑茶飲料。
【請求項2】
メチオニンとバリンの比率(重量比)[(c)/(b)]が5以下である、請求項1記載の飲料。
【請求項3】
容量が350mL?1000mLである、請求項1または2記載の飲料。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第2?3号証を提出し、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号の規定に基いて取り消されるべきものである旨主張する。

甲第1号証:Yong-Quan Xu 他3名,"Hydrolysis of green tea residue protein using proteolytic enzyme derived from Aspergillus oryzae",J Food Sci Technol, vol.50, No.1, p.171-175, 2013年2月発行
甲第2号証:中川沙織 他3名、「緑茶飲料中に含まれるポリフェノールの定量と茶葉の種類によるポリフェノール含量の違い」、分析化学、第62巻、第1号、51?55頁、2013年1月5日発行
甲第3号証:特開2011-155877号公報

なお、以下、特許異議申立人が提出した甲第1?3号証を、それぞれ甲1、甲2、甲3のように省略して記載する。

第4 当審の判断
1 甲号証の記載事項
(1)甲1の記載事項
原文は英文のため、翻訳文で示す。
(1a)「要約 遊離アミノ酸は、緑茶抽出液の風味に影響を及ぼす重要な化学成分である。緑茶残渣中の水不溶性のタンパク質の加水分解は、テアニンを除く遊離アミノ酸成分の含有量を増加させる一助となる。研究では、茶タンパク質の加水分解が、ポリフェノールとタンパク質との相互作用に起因して制限され得ることが示されている。本実験では、ポリフェノール濃度が5mg/mL未満である場合には、プロテアーゼによる茶タンパク質の加水分解が主要な傾向となるが、ポリフェノールの濃度が5mg/mLを超える場合には、タンパク質(茶タンパク質およびプロテアーゼを含む)は、加水分解の代わりにポリフェノールと相互作用するものとなることが示されている。濃度が10mg/mLに至ると、茶タンパク質の加水分解は完全に抑制される。」(171頁左欄1行?14行)

(1b)「しかし、どのようにプロテアーゼで茶タンパク質を加水分解することで、ポリフェノールの干渉を回避し、遊離アミノ酸の含有量を増加させて、茶抽出液の風味の質を向上させるのかについては、情報が殆どない。本研究の目的は、プロテアーゼによって触媒される緑茶残渣タンパク質の加水分解に及ぼされるポリフェノールの効果を検討することであり、このプロテアーゼは、Aspergillus oryzaeの選択株に由来するものである。」(172頁左欄3行?10行)

(1c)「材料 中国浙江省余杭区で蒸し加工されたYulu緑茶を市場から購入し、茶材料として使用した。緑茶から抽出されかつ約70%のカテキンを含むポリフェノール(純度98%)を、Taiyo Green Power Co., Ltd.(無錫市、中国)から購入した。」(172頁左欄12行?17行)

(1d)「緑茶の抽出液および残渣の調製 3gの茶試料(20?60メッシュ)を抽出に使用し、120mLの蒸留水(1:40、w/w)を90℃で10分間添加し、次いで、水道水(15℃)を用いたガラス冷却管によって、速やかに45℃に冷却した。緑茶抽出物を4層のモスリン布(200メッシュ)により分離した。清澄化した抽出物を抽出液Aと標示し、残渣を残渣Aと標示した。分離前の緑茶抽出物は、抽出液Aと残渣Aとの混合物であった。」(172頁左欄31行?39行)

(1e)「2つの加水分解アプローチの比較 残渣中の茶タンパク質の加水分解について、茶抽出物のあるものとないものとの2つの異なる加水分解アプローチ(図1)を、本実験に使用した。第1に抽出液Aと残渣Aとの混合物を0.05%(w/v)プロテアーゼGを用いて45℃で5時間加水分解し、茶抽出物混合物の加水分解(HTEM)として定義した。第2に、120mLの蒸留水を添加した残渣Aもまた、0.05%(w/v)プロテアーゼGを用いて45℃で5時間加水分解し、抽出後の茶残渣の加水分解(HTRE)として定義した。加水分解後、プロテアーゼを加熱処理(90℃、10分)により不活化し、次いで、加水分解産物を4層ムスリン布(200メッシュ)により分離した。最初のアプローチの加水分解の産物を、抽出液Bおよび残渣Bと標示し、2回目の加水分解の産物を、抽出液Cおよび残渣Cと標示した。各処理には対応する対照があり、その処理では、加水分解前に、加熱処理(90℃、10分)によりプロテアーゼを不活化した。」(172頁左欄40行?右欄10行)

(1f)「

」(172頁右欄図1)

(1g)「ポリフェノール濃縮物が加水分解に及ぼす効果 異なるポリフェノール濃度の溶液(0、1、3、5、10、および20mg/mL)120mLを添加した緑茶残渣(残渣A)を、0.05%(w/v)プロテアーゼGを用いて45℃で5時間加水分解した。加水分解の後、プロテアーゼを加熱処理(90℃、10分)によって不活化し、次いで、加水分解産物を、4層のムスリン布(200メッシュ)により分離した。各処理には対応する対照があり、その処理では、加水分解前に、加熱処理(90℃、10分)によりプロテアーゼを不活化した。」(172頁右欄11行?21行)

(1h)「ポリフェノールの分析 茶抽出液中のポリフェノールの含有量を、FeSO_(4)、3.5×10^(-3)M酒石酸カリウムナトリウム、および緩衝液を用いた分光測光法(Liangら、2003年)により決定した。」(172頁右欄29行?32行)

(1i)「

」(173頁表1)

(1j)「遊離アミノ酸成分の分析 5mLの茶抽出液を蒸発させて、乾燥試料を0.02N HClに溶解した。アミノ酸分析機(日立835-50、日本)を用いて、遊離アミノ酸成分を決定した。」(173頁左欄8行?11行)

(1k)「

」(173頁表2)

(1l)「官能評価 9名の評価者を無作為に選択して、緑茶抽出液の口当たり、風味、および全体の許容性に絞った嗜好試験を行った。Hedonicの9点尺度を使用した(9=非常に好ましい、5=中間、1=非常に嫌悪感がある)。結果を統計的に解析して、試料評価の許容性を示した(Ibanogluら、2006年)。」(173頁右欄7行?13行)

(1m)「

」(174頁表3)

(1n)「ポリフェノール濃度が茶タンパク質の加水分解に及ぼす影響 ポリフェノール濃度が茶タンパク質の加水分解に及ぼす影響を表4に示す。」(174頁右欄24行?26行)

(1o)「

」(174頁表4)

(2)甲2の記載事項
(2a)「緑茶に含まれるポリフェノールの約8割がカテキン類であり,その化学種には(-)-エピカテキン(EC),(-)-エピガロカテキン(EGC),(-)-エピカテキンガレート(ECG)及び(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)と,その熱異性化体である(+)-カテキン(C),(-)-ガロカテキン(GC),(-)-カテキンガレート(CG)及び(-)-ガロカテキンガレート(GCG)の計8種類が含まれている^(1)).」(51頁左欄2行?8行)。

(3)甲3の記載事項
(3a)「【0001】
本発明は、緑茶から抽出された緑茶抽出液を主成分とする緑茶飲料であって、これをプラスチックボトルや缶などに充填した容器詰緑茶飲料に関する。」

(3b)「【0033】
(容器)
本容器詰緑茶飲料を充填する容器は、特に限定するものではなく、例えばプラスチック製ボトル(所謂ペットボトル)、スチール、アルミなどの金属缶、ビン、紙容器などを用いることができ、特に、ペットボトルなどの透明容器等を好ましく用いることができる。」

2 甲1に記載された発明
甲1の表1には、上記茶抽出液中に含まれる遊離アミノ酸とポリフェノールの含有量が記載され、「C対照」は、ポリフェノールを「0.32」含有することが記載されている(摘示(1i))。
甲1の表2には、茶抽出液中に含まれる遊離アミノ酸の種類別の含有量が記載され、「C対照」は、「Val」(以下、「バリン」という。)を1.4mg/L含有し、「Met」(以下、「メチオニン」という。)を3.3mg/L含有し、「Thea」(以下、「テアニン」という。)を0.57mg/L含有することが記載されている(摘示(1k))。
甲1の表1に記載されるポリフェノールの含有量「0.32」の単位は、同じポリフェノールの含有量に関する表4(摘記(1o))に単位がmg/mLとされていること等からみて「mg/mL」と認められる。
そうすると、甲1に記載された「C対照」は、
「以下の成分;
0.32mg/mLのポリフェノール、
1.4mg/Lのバリン、
3.3mg/Lのメチオニン、および
0.57mg/Lのテアニン、
を含有する、緑茶抽出液。」
であり、甲1にはこの緑茶抽出液の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

3 本件特許発明1と甲1発明との対比
甲1発明の単位「mg/L」は単位「ppm」に相当するから、甲1発明における「1.4mg/Lのバリン」、「3.3mg/Lのメチオニン」、および「0.57mg/Lのテアニン」は、それぞれ、本件特許発明1の「1.0?90ppmのバリン」、「0.1?4.0ppmのメチオニン」、および「50ppm以下のテアニン」と重複している。
そして、甲1発明の「緑茶抽出液」は、本件特許発明1の「容器詰緑茶飲料」と「緑茶抽出液」である点で共通すると認められる。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「以下の成分;
1.0?90ppmのバリン、
0.1?4.0ppmのメチオニン、および
50ppm以下のテアニン、
を含有する、緑茶抽出液。」
の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
(相違点1)
本件特許発明1は、75?350ppmのカテキン類を含有するのに対し、甲1発明は、0.32mg/mLのポリフェノールを含有する点。
(相違点2)
本件特許発明1は、pH5.0?7.0であるのに対し、甲1発明は、pHの特定がない点。
(相違点3)
本件特許発明1は、容器詰緑茶飲料であるのに対し、甲1発明は、緑茶抽出液である点。

4 判断
相違点3について検討する。
本件特許明細書の段落【0002】、段落【0007】の記載、及び技術常識から、本件特許発明1にいう「容器詰緑茶飲料」とは、缶やペットボトル等の容器に緑茶飲料を充填し、加熱殺菌などにより長期保存を可能とし、商品として流通・販売するものであると認められる。したがって、「容器詰緑茶飲料」とされる緑茶飲料は、商品とされ得るような風味が良好なものであるといえる。
甲1は技術論文であり、緑茶抽出液に含まれる遊離アミノ酸が緑茶抽出液の風味に影響を及ぼすことを前提とし、緑茶残渣中に含まれる水不溶性タンパク質をタンパク質分解性酵素で加水分解することで、緑茶抽出液中の遊離アミノ酸成分を増加させることを目的として行われた実験に関するものと認められる(摘示(1a)、(1b))。そして、図1の記載からみて、甲1発明である「C対照」の緑茶抽出液は、緑茶から「茶抽出液A」を抽出後に得られた「茶残渣A」に対してタンパク質分解性酵素を添加することで加水分解された「茶残渣A」から抽出された「茶抽出液C」と比較するための対照として、「茶残渣A」にタンパク質分解性酵素を添加したあと加水分解前に加熱処理して当該酵素を不活化したものからの抽出液である。
したがって、「C対照」の緑茶抽出液は、遊離アミノ酸成分が少なく、甲1において目的とされる遊離アミノ酸成分が増加した緑茶抽出液には該当しないものであるといえる。そして、甲1の表3に示される官能評価では、「C対照」はいずれの項目でも低い官能スコアとなっている。
そうすると、甲1発明(「C対照」の緑茶抽出液)は商品とされ得るような風味が良好なものではないから、甲1発明を「容器詰緑茶飲料」とすることを当業者が動機付けられるとはいえない。
また、甲2?3の記載を検討しても、甲1発明の茶抽出液を容器詰緑茶飲料とすることを容易に想到し得たものとは認められない。
以上のとおり、相違点3は当業者が容易に想到し得たものとは認められないので、相違点1及び相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2?3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

5 本件特許発明2?3について
本件特許発明2?3はいずれも、本件特許発明1の発明特定事項を、その発明特定事項とするものであるから、本件特許発明1と同様の理由により当業者が容易に発明することができたものではない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-02-06 
出願番号 特願2017-23848(P2017-23848)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 崇之  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 関 美祝
櫛引 智子
登録日 2019-04-26 
登録番号 特許第6518272号(P6518272)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 緑茶飲料  
代理人 小野 新次郎  
代理人 宮前 徹  
代理人 中西 基晴  
代理人 山本 修  

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