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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B
管理番号 1359942
審判番号 不服2018-10366  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-30 
確定日 2020-02-13 
事件の表示 特願2016-173279「通信ケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月15日出願公開、特開2018- 41568〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成28年9月6日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 3月 2日付け:拒絶理由通知
同 年 5月 1日 :意見書、手続補正書の提出
同 年 5月11日付け:拒絶査定
同 年 7月30日 :審判請求書の提出
令和 1年 8月16日付け:当審による拒絶理由通知
同 年10月10日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明

本願の請求項1ないし6に係る発明は、令和1年10月10付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
下撚線とその上層に位置する上撚線とを相互に異方向に撚り掛した異方向撚線導体上に絶縁層を形成した複数の絶縁線を2本撚り合わせて1対とした対撚線が1つ又は複数形成されるケーブル心を有し、
前記ケーブル心の外周を被覆する、ポリエチレン製の材料で構成された押出内被層と、
遮蔽層と、をさらに備え、
前記ポリエチレン製の材料は、ショアD硬度が32以上38以下である、
ことを特徴とする通信ケーブル。」

第3 当審における拒絶の理由

当審が通知した拒絶理由のうちの理由1は、次のとおりのものである。
本件出願の請求項1ないし6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1ないし5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開平11-306875号公報
引用文献2.登録実用新案第3014931号公報
引用文献3.特開2004-269780号公報
引用文献4.特開2014-191883号公報
引用文献5.特開2008-300305号公報

第4 引用文献の記載

1.引用文献1について
当審による拒絶理由通知で引用した上記引用文献1には、「LAN用シールド付ツイストペアケーブル」について、以下の事項が記載されている。ただし、下線は当審で付与したものである。

(1)「【0010】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために請求項1の発明は、複数対のツイストペアからなるツイストペアコアの外周に、金属シールドおよびシースを設けたLAN用シールド付ツイストペアケーブルにおいて、上記ツイストペアコアと上記金属シールドとの間に、誘電体からなる下引きシース材を配したものである。」
【0011】請求項2の発明は、上記誘電体がポリエチレン又はPVCである請求項1記載のLAN用シールド付ツイストペアケーブルである。」
・・・(中略)・・・
【0015】請求項6の発明は、上記金属シールドが、金属テープを巻回してなる金属テープ層の外周に、金属編組を被覆してなる請求項1記載のLAN用シールド付ツイストペアケーブルである。」

(2)「【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】本発明のLAN用シールド付ツイストペアケーブル10の横断面図を図1に示す。
・・・(中略)・・・
【0020】誘電体層13を構成する下引きシース材の材質としては、例えば、ポリエチレン、PVC等が挙げられる。」

(3)「【0029】次に、本発明の他の実施の形態を説明する。
【0030】他の実施の形態のLAN用シールド付ツイストペアケーブル20の横断面図を図2に示す。
【0031】図2に示すように、本実施の形態のLAN用シールド付ツイストペアケーブル20は、複数対(図1中では4対)のツイストペア21a,21b,21c,21dをそれぞれ異なるピッチで撚り合せると共に、その4対のツイストペア21を集合させてツイストペアコア22を形成し、そのツイストペアコア22の外周に、誘電体からなる下引きシース材を被覆して誘電体層23を形成し、その誘電体層23の外周に金属テープを巻き回して金属テープ層25aを形成し、その金属テープ層25aの外周に金属編組25bを被覆形成し、金属テープ層25aおよび金属編組25bからなる金属シールド25の外周にシース26を被覆したものである。」

・上記(3)によれば、引用文献1には、複数対のツイストペア21a,21b,21c,21dを集合させてツイストペアコア22を形成し、そのツイストペアコア22の外周に、誘電体からなる下引きシース材を被覆して誘電体層23を形成し、その誘電体層23の外周に金属テープを巻き回して金属テープ層25aを形成し、その金属テープ層25aの外周に金属編組25bを被覆形成し、金属テープ層25aおよび金属編組25bからなる金属シールド25の外周にシース26を被覆したものであるLAN用シールド付ツイストペアケーブルが記載されている。

・上記(1)(2)によれば、誘電体にポリエチレン又はPVCを用いることが記載されていることから、本発明の他の実施の形態において誘電体がポリエチレン又はPVCであることは記載されているに等しい。

・上記(3)によれば、誘電体層23は、誘電体からなる下引きシース材を被覆して形成されるものであるから、誘電体からなる下引きシース材が誘電体層23を構成していると認められる。

上記摘示事項および図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「複数対のツイストペア21a,21b,21c,21dを集合させてツイストペアコア22を形成し、そのツイストペアコア22の外周に、ポリエチレン又はPVCからなる下引きシース材で構成された誘電体層23を被覆し、その誘電体層23の外周に金属テープを巻き回して金属テープ層25aを形成し、その金属テープ層25aの外周に金属編組25bを被覆形成し、金属テープ層25aおよび金属編組25bからなる金属シールド25の外周にシース26を被覆したものであるLAN用シールド付ツイストペアケーブル。」

2.引用文献2について

当審による拒絶理由通知で引用した上記引用文献2には以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(1)「【0017】
【実施例】
次に図1に示す本考案の実施例について説明する。
10は多数本の素線11を一方向Aに撚りを掛けて真円状に束ねて形成した多芯撚線(多芯数の撚線)の下撚線(下層線)で、その素線11の撚ピッチは大きく(荒く)設定されている。」

(2)「【提出日】平成7年3月15日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正内容】
【0018】
12は多数本の素線13を、上記の下撚線10の外周に、下撚線10を囲むように螺旋状に撚り掛けた上撚線(上層線)で、その各素線13は、上記下撚線10における素線11に対して撚り方向が反対方向Bで、かつ小さい(細かい)撚ピッチで撚り掛けられている。そして上記下撚線10と上撚線12とで撚線14が構成されている。」

上記(1)及び(2)によれば、引用文献2には、「撚線において、下撚線10と、下撚線10の外周に下撚線10を囲むように螺旋状に撚り掛けた上撚線12とを有し、上撚線12の素線13は、下撚線10における素線11に対して撚り方向を反対方向とする」技術事項が記載されている。

3.引用文献3について

当審による拒絶理由通知で引用した上記引用文献3には以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハロゲンを含まず機械的特性、難燃性、耐水性および着色特性に優れた高難燃性オレフィン系樹脂組成物、それを特に電線・ケーブルの被覆材料として用いた、高難燃性電線・ケーブルに関する。」

(2)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
よって本発明が解決しようとする課題は、リンをグラフトしたオレフィン系の重合体をベースポリマーとし、これにハロゲンを含まない難燃剤を添加して、引張り強度や伸び等の機械的特性並びに耐水性、着色性に優れたノンハロゲンの高難燃性樹脂組成物を提供すること、また、この高難燃性オレフィン系樹脂組成物を電線・ケーブルの被覆材料として用い、特に電気・電子機器類の内外配線用の高難燃性電線・ケーブルを、提供することにある。」

(3)「【0008】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。請求項1の発明は、リングラフトオレフィン系重合体100重量部に、ノンハロゲン系難燃剤を50?150重量部配合した、高難燃性オレフィン系樹脂組成物とすることによって、引張り強度や伸び等の機械的特性並びに耐水性、着色性にも優れたノンハロゲンの高難燃性樹脂組成物とするものである。
【0009】
前記リングラフトオレフィン系重合体としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)・・・(中略)・・・、等の単独重合体や・・・(中略)・・・エチレン系共重合体等に、有機化酸化物を用いて例えば、リン酸ポリオキシ・ポリオキシプロピレンビニル(PPPV)をグラフトさせたものである。これらの中でも最も好ましいものは、低密度ポリエチレンにグラフトしたものである。また前記リン酸ポリオキシ・ポリオキシプロピレンビニル(PPPV)は、通常0.1?2%程度グラフトされる。このようなリングラフトオレフィン系重合体は、自身難燃性を有するものであるから難燃化にあたり、添加する難燃剤の量を少量とすることができるので、このことによって、得られる難燃性樹脂組成物は、機械的特性や電気的特性を低下することがなく、好ましいものである。また、この高難燃性樹脂組成物には、前記のオレフィン系重合体を必要量混合した樹脂混合物を、ベースポリマーとして用いても良い。」

(4)「【0012】
つぎに、請求項3に記載されるような、高難燃性オレフィン系樹脂組成物を用いた高難燃性電線・ケーブルについて述べる。この高難燃性電線・ケーブルは、種々の用途の電線・ケーブルに適用できるが、特に高難燃性で機械的特性の優れた柔軟性(可とう性)を要求される、電線・ケーブルに好適である。具体的には、電気・電子機器に使用される、内外配線用として好ましいものである。このような電線・ケーブルには、引張り強度が10MPa以上、伸び(%)が150%以上で、硬度(ショアD)が50以下の特性が要求されるが、本発明の難燃性電線・ケーブルは、十分に前記要求に対応できる。さらに前記高難燃性電線・ケーブルは、耐水性や着色性に優れたものである。これは、前記難燃剤の配合量が少なくて良いこと、また赤燐を使用しないためである。このような本発明の高難燃性電線・ケーブルは、通常銅線、銅合金線、銅被覆線、アルミニウム線等の導体上に、前記ノンハロゲンの高難燃性樹脂組成物を、押出し等によって被覆して製造される。前記被覆厚は、通常0.4?0.8mm程度被覆される。このような特性の高難燃性電線・ケーブルは、特に電気・電子機器類の内外配線用として有用である。」

(5)「【0013】
【実施例】
以下に具体的な実施例並びに比較例を示して、本発明の効果を明らかにする。表1に記載する各種高難燃性オレフィン系樹脂組成物を作製し、・・・(中略)・・・、硬度並びに伸び(%)を、また前記高難燃性オレフィン系樹脂組成物を、銅導体上に0.8mm厚さに押出し被覆して高難燃性電線とし、・・・(中略)・・・調べた。用いた材料について述べると、ベースポリマーとしては、化学式1並びに化学式2に示されるリングラフトポリエチレン、またノンハロゲン系の難燃剤として水酸化マグネシウム、メラミンシアヌレートを用いた。表中の数字は、重量部を示すものである。結果は、表1に記載されるとおりである。
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
【表1】



・上記(1)及び(2)によれば、引用文献3には、電線・ケーブルの被覆材料として高難燃性オレフェン系樹脂組成物を用いることが記載されている。

・上記(3)には、低密度ポリエチレン等にPPPVをグラフトさせたリングラフトオレフェン系重合体に難燃剤を配合した高難燃性オレフェン系樹脂組成物が記載され、上記(5)の段落【0013】には実施例として、高難燃性オレフィン系樹脂組成物のベースポリマーとしてリングラフトポリエチレンを用いることが記載されている。
したがって、引用文献1には、高難燃性オレフェン系樹脂組成物としてリングラフトポリエチレンに難燃剤を配合したものが記載されている。

・上記(5)によれば、表1に示された実施例の各種高難燃性オレフィン系樹脂組成物は、ベースポリマーとしてリングラフトポリエチレンが用いられ、【表1】の実施例1、3、5でショアD硬度が33又は35となっている。

・上記(4)によれば、高難燃性オレフェン系樹脂組成物を用いた高難燃性電線・ケーブルは、機械的特性の優れた柔軟性(可とう性)を要求される電線・ケーブルに好適であり、硬度(ショアD)が50以下とする要求にも対応できる。

上記摘示事項および図面を総合勘案すると、引用文献3には、「電線・ケーブルの被覆材料に用いる高難燃性オレフィン系樹脂組成物を、リングラフトポリエチレンに難燃剤を配合したものとし、ショアD硬度を50以下(例えば33や35)として柔軟性(可とう性)の要求を満たす」技術事項が記載されている。

4.引用文献4について

当審による拒絶理由通知で引用した上記引用文献4には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。

「【0019】
ツイストペアケーブル11は、2本の絶縁電線17と、対撚りされた2本の絶縁電線17の周囲に形成された被覆層16と、を備える。
【0020】
絶縁電線17は、導体18と、導体18の周囲に形成された絶縁層19と、を備える。」

5.引用文献5について

当審による拒絶理由通知で引用した上記引用文献5には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。

「【0003】
図6(a)において、通信ケーブル1は、導体2をポリエチレンからなる絶縁体3で被覆して絶縁線心4を形成し、この絶縁線心4の2本を撚り合わせて(2線心を撚り合わせて)1本の対より線心5を形成し、そして、この対より線心5の4対を図6(a)中に示す如く集合させ、最後にチューブ状のシース6を被せることにより製造されている。尚、図6(a)中において、対より線心5が内接する円は、絶縁線心4の2本を撚り合わせていることを示す仮想円である。」

第5 対比

本願発明と引用発明を対比する。

(1)「ツイストペア」は、上記「第4 4.」で摘示した引用文献4に記載されているように、一般に、導体上に絶縁層を形成した絶縁線を2本撚り合わせて1対とした構造を有している。また、そのような構造は、上記「第4 5.」で摘示した引用文献5にも記載されているように広く採用されている。
したがって、引用発明の「ツイストペア21a,21b,21c,21d」は、導体上に絶縁層を形成した絶縁線を2本撚り合わせて1対とした構造を有していると認められ、本願発明1の「導体上に絶縁層を形成した複数の絶縁線を2本撚り合わせて1対とした対撚線」に相当する。
ただし、導体が、 本願発明では「下撚線とその上層に位置する上撚線とを相互に異方向に撚り掛した異方向撚線導体」であるのに対し、引用発明ではどのような導体であるのか特定されていない点で相違する。

(2)引用発明の「ツイストペアコア22」は、複数対のツイストペア21a,21b,21c,21dを集合させたものであるから、本願発明の「対撚線が1つ又は複数形成されるケーブル心」に含まれる。

(3)引用発明の「誘電体層23」は、ツイストペアコア22を被覆しており、下引きシース材で構成されているから、「内被層」であると認められる。
また、引用発明の「誘電体層23」はツイストペアコア22の外周に被覆されたものであるから、引用発明の「誘電体層23」と本願発明の「押出内被層」とは、「前記ケーブル心の外周を被覆する」誘電体から構成される「内被層」である点で一致する。
ただし、本願発明では、ショアD硬度が32以上38以下のポリエチレン製の材料で構成され、「押出」内被層であるのに対して、引用発明ではポリエチレン又はPVCで構成される内被層である点で相違する。

(4)引用発明の「金属シールド25」は、技術常識に照らして電磁波等を遮蔽する機能を有するものと認められ、本願発明の「遮蔽層」に相当する。

(5)引用発明の「LAN用シールド付きツイストペアケーブル」は、本願発明の「通信ケーブル」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、

「導体上に絶縁層を形成した複数の絶縁線を2本撚り合わせて1対とした対撚線が1つ又は複数形成されるケーブル心を有し、
前記ケーブル心の外周を被覆する、誘電体で構成された内被層と、
遮蔽層と、をさらに備える
通信ケーブル」

である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
対撚線を構成する絶縁線の導体について、本願発明1では、「下撚線とその上層に位置する上撚線とを相互に異方向に撚り掛した異方向撚線導体」である旨特定するのに対して、引用発明ではその旨特定されていない点。

[相違点2]
誘電体で構成された内被層が、本願発明1ではショアD硬度が32以上38以下のポリエチレン製の材料で構成された「押出」内被層であるのに対し、引用発明ではポリエチレン又はPVCから構成される内被層である点。

第6 当審の判断

1.相違点1について

上記「第4 2.」のとおり、引用文献2には、撚線において、下撚線10と、下撚線10の外周に下撚線10を囲むように螺旋状に撚り掛けた上撚線12とを有し、上撚線12の素線13は、下撚線10における素線11に対して撚り方向を反対方向とする技術事項が記載されている。
そして、引用文献2の段落【0009】及び【0011】にあるように、引用文献2に記載された技術事項は、撚線の真円性、可撓性、平滑な表面を得ようとするものであるところ、そのような課題はケーブルにおいて自明な課題であるから、引用発明において、絶縁線の導体として引用文献2に記載された撚線を用いて相違点1の構成にすることは当業者が容易になし得たことである。

2.相違点2について

上記「第4 3.」のとおり、引用文献3には、電線・ケーブルの被覆材料に用いる高難燃性オレフィン系樹脂組成物を、リングラフトポリエチレンに難燃剤を配合したものとし、ショアD硬度を50以下(例えば33や35)として柔軟性(可とう性)の要求を満たす技術事項が記載されている。
そして、必要な可撓性を得ることはケーブルにおいて自明な課題であること、引用発明の誘電体層23はポリエチレンが選択肢の一つとされていることから、リングラフトポリエチレンをベースポリマーとする引用文献3の高難燃性オレフィン系樹脂組成物を引用発明の誘電体層23として採用して、ショアD硬度が32以上38以下に含まれるポリエチレン製の材料とすることは当業者が容易になし得たことである。また、その形成方法として、当技術分野において広く行われている「押出」による形成を行うことは当業者が適宜なし得たことである。
よって、引用発明において、引用文献3に記載された技術事項及び周知の技術事項を採用することにより、相違点2の構成にすることは当業者が容易になし得たことである。

3.効果等について

審判請求人は、令和1年10月10日提出の意見書において、本願発明は押出内被層としてポリエチレンという誘電率が低くて電気的特性としての挿入損失が小さい材料を選択した点について、引用文献1、3に記載されていないことから、ポリエチレンを選択することが容易に想到できない旨主張する。
しかし、ポリエチレンやPVCは周知な材料であり、それらの誘電率も広く知られている。そして、審判請求書にも記載されているように、通信ケーブルの電気的特性の指標として挿入損失は技術常識であるから、ポリエチレンを選択することによって挿入損失の違いが小さくなることは当業者が予測できたことである。

また、審判請求人は上記意見書において、上記相違点2に関して、引用文献3の樹脂組成物を引用文献1の誘電体層23に適用した場合、本願の比較例3(実施例1の構成に対し、導体が一括集合撚り導体であるもの)に相当又は酷似するケーブルになり、本願発明に想到できない旨主張する。
しかしながら、比較例3は相違点1の構成について実施例と比較を行ったものであり、相違点1の構成は引用文献3ではなく引用文献2に記載された技術事項によって導かれるものである。
そして、引用文献2に記載された技術事項は絶縁線の内部の導体に関するものであるのに対し、引用文献3に記載された技術事項は複数の絶縁線からなるケーブル心の外周を被覆する材料に関するものであり、引用発明に対して両者はともに可撓性の向上等を図るために適用し得る技術事項である。

したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

そして、本願発明について、引用発明、引用文献2及び3に記載された技術事項、並びに技術常識から予測できる範囲を超えた作用効果は認められない。

第7 むすび

以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2及び3に記載された技術事項、並びに技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-05 
結審通知日 2019-12-10 
審決日 2019-12-25 
出願番号 特願2016-173279(P2016-173279)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 石坂 博明
五十嵐 努
発明の名称 通信ケーブル  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  

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