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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08B
管理番号 1359951
審判番号 不服2018-16766  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-17 
確定日 2020-02-13 
事件の表示 特願2018- 67649「微細繊維状セルロースおよびその樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月17日出願公開、特開2019-178216〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年3月30日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下の通りである。

平成30年 5月30日付け :拒絶理由通知書
同年 7月27日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月14日付け :拒絶査定
同年12月17日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和元年 7月 1日付け :拒絶理由通知書、補正の却下の決定
同年 8月14日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1?8に係る発明は、令和元年8月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、

「【請求項1】
下記条件(A)ないし(D)を満たすことを特徴とする微細繊維状セルロース。
(A)数平均繊維径が2nm以上500nm以下
(B)平均アスペクト比が10以上1000以下
(C)セルロースI型結晶構造を有する
(D)下記一般式(1)で示される構造を有する
【化1】

一般式(1)中、R^(1)はヒドロキシメチル基、下記一般式(2)、(3)、および(4)から選択された1種または2種以上、ならびに下記一般式(7)、(8)、および(9)から選択された1種または2種以上を示し、R^(2)はヒドロキシ基、下記一般式(5)、および(6)から選択された1種または2種以上、ならびに下記一般式(10)、(11)、および(12)から選択された1種または2種以上を示す。
【化2】

一般式(2)ないし(6)のM^(+)は、トリオクチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルベンジルアミン、アミノメタンポリオキシアルキレン誘導体、およびアミノエタンポリオキシアルキレン誘導体から選択された1種または2種以上を示す。
【化3】

」というものである(以下、「本願発明」という。)。


第3 当審で通知した拒絶の理由
当審で令和1年7月1日付けで通知した拒絶の理由は、概略、以下のとおりの理由(理由2:(進歩性))を含むものである。

この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物6に記載された発明、刊行物7?9に記載された技術常識、及び刊行物10に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物6 :特開2017-082202号公報
刊行物7 :国際公開第2011/071156号
刊行物8 :特開2013-166818号公報
刊行物9 :特開2016-216605号公報
刊行物10:特開2016-176052号公報

なお、刊行物7?9は、本願出願時の技術常識を示すための文献である。


第4 当審の判断
当審は、当審で通知した拒絶の理由のとおり、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された上記の刊行物6に記載された発明、刊行物7?9に記載された技術常識、及び刊行物10に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。
理由は以下のとおりである。


1.引用刊行物の記載
(1)刊行物6:特開2017-082202号公報
当審の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である上記刊行物6には、以下の記載がある。

(6a)「【請求項1】
下記条件を満たすセルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする親水性樹脂組成物。
(A)平均繊維径が4nm以上500nm以下
(B)平均アスペクト比が10以上1000以下
(C)セルロースI型結晶構造を有する
(D)アニオン性官能基を有する
【請求項2】
前記アニオン性官能基がカルボキシル基であることを特徴とする請求項1に記載の親水性樹脂組成物。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーのカルボキシル基にモノアミン、ジアミン、トリアミン及び第四級オニウムから選択された1種又は2種以上がイオン結合で結合している事を特徴とする請求項2に記載の親水性樹脂組成物。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーのカルボキシル基に下記式(1)に示されるポリエーテルアミンがイオン結合で結合している事を特徴とする請求項2又は3に記載の親水性樹脂組成物。
【化1】


R^(1)-(AO)_(n)-R^(2)-NH_(2) …(1)
〔上記式(1)中、R^(1)は炭素数1以上20以下の直鎖あるいは分岐のアルキレン基、および/またはアリーレン基を示し、R^(2)は炭素数2以上4以下の直鎖あるいは分岐のアルキレン基を示し、nは30以上の整数を示し、AOは炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を示す。〕
【請求項5】
前記セルロースナノファイバーのカルボキシル基量が0.5mmol/g以上2.5mmol/g以下であることを特徴とする請求項2ないし4に記載の親水性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、及びメタクリル樹脂から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1ないし5に記載の親水性樹脂組成物。
【請求項7】
前記セルロースナノファイバーの含有量が、0.1質量%以上50質量%以下である請求項1ないし6記載の親水性樹脂組成物。
【請求項8】
前記親水化樹脂組成物の接触角が、前記熱可塑性樹脂の接触角の80%以下であることを特徴とする請求項1ないし7記載の親水性樹脂組成物。」 (下線は、当審にて追加した。以下同様。)

(6b)「【0012】
上記セルロースナノファイバーの数平均繊維径は4nm以上500nm以下であるが、好ましくは4nm以上150nm以下であり、より好ましくは4nm以上100nm以下であり、特に好ましくは4nm以上80nm以下である。上記数平均繊維径が4nm未満であると、セルロースナノファイバーが溶解することにより、樹脂組成物の耐久力及び弾性率が向上しないおそれがあり、上記数平均繊維径が500nmを超える場合、樹脂中でセルロースナノファイバーが局在化することにより、安定した親水性が得られないおそれがある。
・・・
【0015】
上記セルロースナノファイバーのアスペクト比は10以上1000以下であるが、好ましくは100以上1000以下より好ましくは200以上1000以下である。アスペクト比が10未満であると樹脂組成物の耐久力及び弾性率が向上しないという問題が生じる。
・・・
【0017】
・・・
上記セルロースナノファイバーは、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース原料を微細化した繊維である。すなわち、天然セルロースの生合成の過程においては、ほぼ例外なくミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構成する。」

(6c)「【0019】
上記セルロースナノファイバーはアニオン性官能基を有する。
【0020】
本発明のアニオン性官能基としては特に制限されないが具体的には、カルボキシル基、ホスホニウム基、スルホニウム基等が挙げられるが、これらの内、セルロースへのアニオン性官能基の導入の容易さという理由からカルボキシル基が好ましい。
【0021】
セルロースにカルボキシルを導入する方法としては、セルロースの水酸基にカルボキシル基を有する化合物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物およびそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法、セルロースの水酸基を酸化する事によりカルボキル基に変換する方法が挙げられる。
上記カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、具体的にはハロゲン化酢酸が挙げられ、ハロゲン化酢酸としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸等が挙げられる。
・・・
【0026】
上記セルロースの水酸基を酸化する方法としては特に制限されないが具体的には、N-オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させる方法が挙げられる。
本発明において、セルロースにカルボキシル基を導入する方法としては、繊維表面の水酸基の選択性に優れており、反応条件も穏やかであることから、セルロースの水酸基を酸化する方法が好ましい。以下、水酸基の酸化によりカルボキシル基が導入されたセルロースを酸化セルロースという。
・・・
【0028】
本発明のセルロースナノファイバーのセルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化変性されてアルデヒド基、またはカルボキシル基のいずれかとなっていることが好ましい。カルボキシル基の含量(カルボキシル基量)は水への分散性の点から0.5mmol/g以上2.5mmol/g以下の範囲が好ましく、より好ましくは1.5mmol/g以上2.0mmol/g以下の範囲である。」

(6d)「【0036】
上記酸化セルロースを解繊したセルロースナノファイバーは、(1)酸化反応工程、(2)還元工程、(3)精製工程、(4)分散媒置換工程(5)分散工程(微細化処理工程)等により製造することが好ましく、具体的には以下の各工程により製造することが好ましい。
【0037】
(1)酸化反応工程
天然セルロースとN-オキシル化合物とを水(分散媒体)に分散させた後、共酸化剤を添加して、反応を開始する。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10?11に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なす。ここで、共酸化剤とは、直接的にセルロース水酸基を酸化する物質ではなく、酸化触媒として用いられるN-オキシル化合物を酸化する物質のことである。
・・・
【0040】
また、上記N-オキシル化合物としては、例えば、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物があげられる。上記N-オキシル化合物は、水溶性の化合物が好ましく、なかでもピペリジンニトロキシオキシラジカルが好ましく、特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。上記N-オキシル化合物の添加は、触媒量で充分であり、好ましくは0.1?4mmol/l、さらに好ましくは0.2?2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
【0041】
上記共酸化剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、過有機酸等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。そして、上記次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、反応速度の点から、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが好ましい。上記臭化アルカリ金属の添加量は、上記N-オキシル化合物に対して約1?40倍モル量、好ましくは約10?20倍モル量である。
・・・
【0050】
(5)分散工程(微細化処理工程)
上記精製工程にて得られる水を含浸した反応物繊維(水分散体)を、分散媒体中に分散させ分散処理を行う。処理に伴って粘度が上昇し、微細化処理されたセルロースナノファイバーの分散体を得ることができる。その後、必要に応じて上記セルロースナノファイバーを乾燥してもよく、上記セルロースナノファイバーの分散体の乾燥法としては、例えば、分散媒体が水である場合は、スプレードライ、凍結乾燥法、真空乾燥法等が用いられ、分散媒体が水と有機溶媒の混合溶液である場合は、ドラムドライヤーによる乾燥法、スプレードライヤーによる噴霧乾燥法等が用いられる。なお、上記セルロースナノファイバーの分散体を乾燥することなく、分散体の状態で用いても差し支えない。
【0051】
上記分散工程で使用する分散機としては、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等の強力で叩解能力のある装置を使用することにより、より効率的かつ高度なダウンサイジングが可能となり、経済的に有利に含水潤滑剤組成物を得ることができる点で好ましい。
・・・」

(6e)「【0053】
本発明のセルロースナノファイバーはアニオン性官能基にモノアミン、ジアミン、トリアミン及び第四級オニウムから選択された1種又は2種以上(以下、アミン類ということがある。)がイオン結合で結合している事が好ましい。
【0054】
上記モノアミンとしては、特に制限されないが具体的には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、1-n-ブチルアミン、イソブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン等が挙げられ、上記ジアミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン等が挙げられ、上記トリアミンとしてはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン等が挙げられる。
・・・
【0057】
本発明のアニオン性官能基にアミン類がイオン結合で結合したセルロースナノファイバーは、上記セルロースナノファイバーの製造工程において、中和工程を行うことにより得ることができる。」

(6f)「【0060】
本発明のセルロースナノファイバーはアニオン性官能基に下記式(1)に示されるポリエーテルアミンがイオン結合で結合している事が好ましい。
【0061】
【化2】

〔上記式(1)中、R^(1)は炭素数1以上20以下の直鎖あるいは分岐のアルキレン基、および/またはアリーレン基を示し、R^(2)は炭素数2以上4以下の直鎖あるいは分岐のアルキレン基を示し、nは30以上の整数を示し、AOは炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を示す。〕
【0062】
上記R^(1)は炭素数1以上10以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上3以下のアルキル基がより好ましい。またR^(2)は炭素数2のアルキル基が好ましい。nは10以上30以下が好ましい。
【0063】
これらのポリエーテルアミンは、市販品では、JEFFAMINE M シリーズ(HUNTSMAN社製)等が用いられる。」

(6g)「【実施例】
【0078】
つぎに、実施例について比較例とあわせて説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」とあるのは、特に限定のない限り質量基準を意味する。
【0079】
[セルロース繊維の製造]
〔製造例1:セルロース繊維A1(実施例用)の調製〕
針葉樹パルプ2gに、水150ml、臭化ナトリウム0.25g、TEMPO0.025gを加え、充分撹拌して分散させた後、13%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が3.2mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10?11に保持するように24%NaOH水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応を行った(反応時間:120分)。反応終了後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化されたセルロース繊維を得た。つぎに、上記セルロース繊維に純水を加えて固形分濃度2%に調整した。その後、24%NaOH水溶液にてスラリーのpHを10に調整した。スラリーの温度を30℃として、水素化ホウ素ナトリウムをセルロース繊維に対して0.2mmol/g加え、還元処理を行った(反応時間;2時間)。還元処理後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、セルロース繊維A1を得た。
【0080】
〔製造例2:セルロース繊維A2(実施例用)の調製〕
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、上記パルプ1.0gに対して6.5mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の調製法に準じて、セルロース繊維A2を調製した。
【0081】
〔製造例3:セルロース繊維A3(実施例用)の調製〕
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、上記パルプ1.0gに対して12.0mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の調製法に準じて、セルロース繊維A3を調製した。
・・・
【0083】
上記のようにして得られたセルロース繊維A1?A3,A’1について、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、下記の表1に示した。
・・・
【0090】
【表1】



(6h)「【0094】
〔実施例4〕
上記セルロース繊維A2に、水と、セルロース繊維A2のカルボキシル基量の中和量に相当する24%NaOH水溶液とを加えて、2%に希釈し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理し、セルロースナノファイバーゲルを得た。上記セルロースナノファイバーゲルに、水を加えて、0.2%に希釈し、さらに1N-HCl水溶液を加えて、水溶液のpHを2.0にしたセルロースナノファイバー分散液を作製した。上記分散液にDMFを加えて、ろ過し、水分を完全に除去するために、DMF洗浄を繰り返した後、セルロース繊維A2のカルボキシル基量の中和量に相当するトリエチルアミン(TEA)とDMFを加えて、0.5%セルロースナノファイバーが分散したDMF溶液を調製した。その後、上記DMF溶液50gにポリメタクリル酸メチル(PMMA)4.75gを添加し、30分間振とうすることでドープ溶液を作製した。上記ドープ溶液をガラス基板上に1mmバーコーターを用いて、フィルムを敷いた後、真空下、50℃で二日間乾燥し、親水性樹脂組成物を調整した。
【0095】
〔実施例5〕
上記セルロース繊維A2にエタノールを加えて、ろ過し、エタノール洗浄を繰り返して、上記セルロース繊維に含まれる水をエタノールに置換した。次に、塩化メチレンを加えて、ろ過し、塩化メチレン洗浄を繰り返して、エタノールを塩化メチレンに置換した。その後、塩化メチレンと、上記セルロース繊維A2のカルボキシル基量の中和量に相当するポリエーテルアミン(HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M-2070)とを加えて、2%に希釈し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理し、セルロースナノファイバーゲルを得た。次に、上記セルロースナノファイバーゲル0.5gに塩化メチレン50g、とPMMA4.95gとを加えて、30分間振とうすることでドープ溶液を作製した。上記ドープ溶液をガラス基板上に1mmバーコーターを用いて、フィルムを敷いた後、80℃のオーブンで一晩乾燥し、親水性樹脂組成物を調整した。
・・・
【0105】
【表2】

比較例1のPMMA単体より、実施例1ないし9の親水性樹脂組成物は、親水性と弾性率の点で良好な結果が得られた。しかし、比較例2の親水性樹脂組成物では、樹脂中でセルロースナノファイバー同士が凝集したため、親水性も弾性率も良好な結果は得られなかった。
・・・
【0117】
【表3】

比較例3のPS単体より、実施例10ないし13の親水性樹脂組成物は、親水性と弾性率の点で良好な結果が得られた。またPCの場合も同様に、比較例4のPC単体よりも、実施例14ないし17の親水性樹脂組成物は、親水性と弾性率の点で良好な結果が得られた。」


(2)刊行物7:国際公開第2011/071156号
当審の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である上記刊行物7には、以下の記載がある。

(7a)「[請求項1]カルボキシル基含有量0.1?3mmol/gの微細セルロース繊維と、バイオマス由来の高分子及び石油由来の高分子からなる群から選択される、成形可能な高分子材料とが混合された複合材料。」

(7b)「[0013] 特許文献6に記載の微細セルロース繊維は、このような要望に応え得る材料であると考えられるが、本来親水性の高い該微細セルロース繊維は、極性の異なる有機溶媒や樹脂中での分散安定性に乏しく、プラスチック材料との複合に適用し難いものであった。」


(3)刊行物8:特開2013-166818号公報
当審の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である上記刊行物8には、以下の記載がある。

(8a)「【請求項1】
セルロースナノファイバー(A)、熱可塑性樹脂(B)及びHLB値が8?13であるノニオン界面活性剤(C)を含む分散液。」

(8b)「【背景技術】
【0002】
従来、樹脂を用いた成形材料において、樹脂の補強性を高めるために、樹脂中に補強材料を添加する手法がとられており、当該補強材料としてセルロースナノファイバーが知られている。セルロースナノファイバーは、一般的なセルロース繊維と比較して、比表面積が大きく、補強効果に優れているが、一方でセルロースナノファイバーの表面には、水酸基が多く存在するため、疎水性の高い樹脂に対して混合すると、樹脂成分中で凝集が生じてしまい、補強効果がむしろ低減してしまうという問題があった。」


(4)刊行物9:特開2016-216605号公報
当審の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である上記刊行物9には、以下の記載がある。

(9a)「【請求項1】
セルロース繊維に疎水性基を有する炭素数が15以上の環状多塩基酸無水物(a)を付加してエステル化した変性セルロース繊維(A)と、分散用樹脂(B)とを含む変性セルロース繊維含有樹脂組成物であって、下記(i)、(ii)を満たすことを特徴とする、変性セルロース繊維含有樹脂組成物。 (i)前記分散用樹脂(B)が、135℃以下の軟化点を有する石油系樹脂及び石炭系樹脂の中から選ばれる少なくとも一種
(ii)前記変性セルロース繊維(A)と分散用樹脂(B)とを混練することで、(A)を微細化」

(9b)「【0004】
しかしながらセルロース繊維は、成形材料用樹脂や硬化剤との反応性や、成形材料用樹脂中での分散性が低いため、成形材料用樹脂にセルロース繊維を加えると、セルロース繊維と成形材料用樹脂との界面で接着強度が落ちるという問題がある。それにより、セルロース繊維の補強効果が発現せず、逆に曲げ強度等の機械的強度が低下する原因となる。」


(5)刊行物10:特開2016-176052号公報
当審の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である上記刊行物10には、以下の記載がある。

(10a)「【請求項1】
(A)化学修飾セルロースナノファイバー及び(B)熱可塑性樹脂を含有する繊維強化樹脂組成物であって、
前記化学修飾セルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂が下記の条件:
(a)(B)熱可塑性樹脂の溶解パラメータ(SP_(pol))に対する(A)化学修飾セルロースナノファイバーの溶解パラメータ(SP_(cnf))の比率R (SP_(cnf)/SP_(pol))が0.87?1.88の範囲である、及び(b)(A)化学修飾セルロースナノファイバーの結晶化度が42.7%以上であるを満たす繊維強化樹脂組成物。」

(10b)「【0002】
植物繊維の重量は鋼鉄の1/5程度と軽く、植物繊維の強度は鋼鉄の5倍程度以上と強く、植物繊維の熱膨張はガラスの1/50と低線熱膨張係数を有する。また、植物繊維を機械的又は化学的に解繊処理することによりミクロフィブリル化植物繊維(MFC)を製造する技術がある。MFCは、繊維径100nm程度、繊維長5μm程度以上、比表面積250m^(2)/g程度の繊維である。MFCは、未解繊の植物繊維と比べて、高強度である。」

(10c)「【0012】
本発明の樹脂組成物に分散される化学修飾CNFは、セルロースを構成する糖鎖の水酸基の水素原子の代わりに、例えば、アセチル基等のアルカノイル基が導入されている(即ち水酸基が化学修飾されている)ことにより、セルロース分子の水酸基が封鎖され、セルロース分子の水素結合力が抑制されていることに加え、セルロース繊維が本来有していた結晶構造を特定の割合で保持していることが特徴である。」

(10d)「【0106】
本発明に使用する化学修飾CNFは、原料中のセルロース及びヘミセルロースの水酸基(糖鎖水酸基)が、原料セルロース又は/及びリグノセルロース繊維中に存在していたセルロースの結晶構造が出来る限り保持された状態で、アシル化されていることが好ましい。即ち、本発明に使用する化学修飾CNFは、元来、原料セルロース又は/及びリグノセルロース繊維中に存在するセルロース結晶構造を壊さないように原料繊維の表面に存在する水酸基、例えばセルロースの水酸基、ヘミセルロースの水酸基等をアシル化することが好ましい。その化学修飾処理により、CNF本来の優れた力学的特性を持つ化学修飾CNFを得ることができるとともに、樹脂中での化学修飾CNFの分散性が促進され、樹脂に対する化学修飾CNFの補強効果が向上する。」

(10e)「【0478】
(4)アセチル化NUKP含有、HDE組成物、PS組成物及びABS組成物の調製とその強度
前記と同様にして調製したアセチル化NUKP(AcNUKP、DS:0.41、結晶化度約75%)を使用し、前記と同様の方法でこれを含む、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂(旭化成(株)製、商品名サンテックHD)、汎用ポリスチレン(GPPS、東洋エンジニアリング(株)製、商品名PSJポリスチレン)又はアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS, 旭化成(株)製、商品名スタイラックABS)組成物を調製し、試験片を調製した。
【0479】
この試験片について、電気機械式万能試験機(インストロン社製)を用いて前記と同様の方法で引張り弾性率及び引張り強度を測定した。結果を表37に示す。
【0480】
【表37】

【0481】
(5)アセチル化NUKP含有樹脂の弾性率の増加とアセチル化NUKPのSPに対する樹脂SPの比との関係
表38に、NUKPとアセチル化NUKP(Ds:0.41)のSP値、それに対する樹脂(HDPE、PS及びABS)夫々のSP値の比、アセチル化NUKP含有各樹脂の弾性率の増加率を示す。樹脂単独の弾性率に対する各種繊維含有組成物の弾性率の増加率(a)、未修飾NUKP含有樹脂組成物の弾性率に対するアセチル化NUKP含有組成物の弾性率の増加率(b)である。
【0482】
いずれの樹脂組成物についても繊維(アセチル化NUKP)SP/樹脂SPの比が、1.31?1.84のときに、化学修飾しないNUKP含有樹脂組成物の弾性率に対し、アセチル化NUKP含有組成物の弾性率は1.1倍以上であった。
【0483】
【表38】




2.刊行物6に記載された発明
刊行物6には、摘記(6a)の請求項3及び4では、特定の条件を有するセルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂組成物を含有する親水性樹脂組成物が記載されているものの、摘記(6b)?(6d)の記載からすると、刊行物6には、熱可塑性樹脂との組成物のみならず、以下のセルロースナノファイバー自体の発明も記載されていると認める。
「熱可塑性樹脂と混合し、親水性樹脂組成物を形成させるためのセルロースナノファイバーであって
(A)平均繊維径が4nm以上500nm以下
(B)平均アスペクト比が10以上1000以下
(C)セルロースI型結晶構造を有する
(D)アニオン性官能基としてカルボキシル基を有する
ものであり、かつ前記セルロースナノファイバーのカルボキシル基に、トリアミン、あるいは下記式(1)に示されるポリエーテルアミンがイオン結合で結合しているセルロースナノファイバー。

」(以下、「引用発明6」という。)


3.対比・判断
(1)本願発明について
本願発明の一般式(1)で示される構造について見るに、置換基R^(1)については、

「ヒドロキシメチル基、下記一般式(2)、(3)、および(4)」から選択された1種または2種以上、と
「下記一般式(7)、(8)、および(9)」から選択された1種または2種以上、

の両方を、n個ある繰り返し単位の中で有している必要がある。また置換基R^(2)については、

「ヒドロキシ基、下記一般式(5)、および(6)」から選択された1種または2種以上、と
「下記一般式(10)、(11)、および(12)」から選択された1種または2種以上、

の両方を、n個ある繰り返し単位の中で有している必要がある。

(2)対比
上記(1)を踏まえて、本願発明と引用発明6とを対比する。
引用発明6の「熱可塑性樹脂と混合し、親水性樹脂組成物を形成させるためのセルロースナノファイバー」は、本願発明と同様に、樹脂に添加するためのものであることに加えて、平均繊維径や平均アスペクト比の範囲も重複しているし、摘記(6d)の段落【0050】にも微細化処理を行うことが記載されているから、本願発明の「微細繊維状セルロース」に相当する。
また引用発明6の「平均繊維径」は、摘記(6b)からすると数平均繊維径を意味するといえるから、本願発明の「数平均繊維径」に相当する。
さらに引用発明6の「アニオン性官能基としてカルボキシル基を有する」ことは、本願発明において、微細繊維状セルロース上の置換基として「R^(1)に一般式(2)、(3)、および(4)から選択された基を有する、かつ/または、R^(2)に一般式(5)、および(6)から選択された基を有する」場合と、「カルボキシル基を有する」ことにおいて共通する。
そして引用発明6の「前記セルロースナノファイバーのカルボキシル基に、トリアミン、あるいは下記式(1)に示されるポリエーテルアミンがイオン結合で結合している」(ここでは式(1)は省略)は、本願発明において、式(2)ないし(6)のM^(+)が「トリオクチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルベンジルアミン、アミノメタンポリオキシアルキレン誘導体、およびアミノエタンポリオキシアルキレン誘導体から選択された1種または2種以上」であることと、「トリアミンあるいはポリエーテルアミンがイオン結合で結合している」ことにおいて共通する。
そうすると本願発明と引用発明6とは、
「以下の条件を満たすことを特徴とする微細繊維状セルロース。
(A)数平均繊維径が4nm以上500nm以下
(B)平均アスペクト比が10以上1000以下
(C)セルロースI型結晶構造を有する
(D)カルボキシル基を有する
(E)カルボキシル基にトリアミンあるいはポリエーテルアミンがイオン結合で結合している」である点において一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
カルボキシル基について、本願発明は、「R^(1)」あるいは「R^(2)」という特定の位置に、「一般式(2)?(6)」で表される特定の構造としてカルボキシル基が導入されていると特定されているのに対して、引用発明6では、カルボキシル基が、どの位置にどのような構造として導入されているのかが明確には特定されていない点

<相違点2>
カルボキシル基に結合しているアミンについて、本願発明は、「トリオクチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルベンジルアミン、アミノメタンポリオキシアルキレン誘導体、およびアミノエタンポリオキシアルキレン誘導体から選択された1種または2種以上」であると特定されているのに対して、引用発明6では、トリアミンあるいはポリエーテルアミンについて、具体的な化合物が特定されていない点

<相違点3>
微細繊維状セルロース上に、本願発明は、「R^(1)に一般式(7)、(8)、および(9)から選択された基を有する、かつ/または、R^(2)に一般式(10)、(11)および(12)から選択された基を有する」と特定されているのに対して、引用発明6では、これらの基について特定されていない点

(3)相違点の検討
ア.相違点1について
カルボキシル基の導入方法について本願明細書には、段落【0019】に、「セルロースにカルボキシルを導入する方法としては、セルロースの水酸基にカルボキシル基を有する化合物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物およびそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法、セルロースの水酸基を酸化する事によりカルボキル基に変換する方法が挙げられる。」と記載され、セルロースの水酸基の酸化方法については、段落【0024】に、「上記セルロースの水酸基を酸化する方法としては特に制限されないが、具体的には、N-オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させる方法が挙げられる。」と記載されている。そして、得られた酸化セルロースの構造については、段落【0037】に、「上記酸化セルロースは、繊維表面上のセルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化変性されてアルデヒド基、またはカルボキシル基のいずれかとなっている。」と記載され、C6位の水酸基が優先的にカルボキシル基となっていることが示唆されており、さらに対応する具体的実施態様として段落【0124】及び【0125】には、針葉樹パルプを原料として、TEMPOの存在下で所定量の次亜塩素酸ナトリウムを用いて酸化を行うことによって、セルロース繊維A1及びA2を得ることが記載されている。
一方、引用発明6のカルボキシル基の導入方法について刊行物6には、摘記(6c)の段落【0020】、【0021】、【0026】及び【0028】に、本願明細書と同様に、セルロースの水酸基を酸化することによりカルボキシル基を導入すること、その際に、N-オキシル化合物を酸化触媒として共酸化剤を作用させる方法を採ること、酸化の際には、セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的にカルボキシル基となっていることが記載されており、また摘記(6d)の段落【0040】及び【0041】には、N-オキシル化合物としてTEMPOを、強酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いるのが好ましいことが記載され、カルボキシル基を導入する具体的実施態様として、摘記(6g)の段落【0079】、【0080】、【0081】に、本願明細書記載の上記セルロースと同様に、針葉樹パルプを原料として、TEMPOの存在下で所定量の次亜塩素酸ナトリウムを用いて酸化を行うことによって、セルロース繊維A1?A3を得ることが記載されている。
そうすると、引用発明6のセルロースナノファイバーのカルボキシル基と本願発明の微細繊維状セルロースのカルボキシル基は、同一原料、同一N-オキシル化合物及び同一共酸化剤を用いる方法で導入されているから、具体的な構造が明示されてはいないものの、引用発明6のカルボキシル基は、本願発明のR^(1)に一般式(2)の構造を有する場合と同様に、C6位の水酸基が優先的に酸化されることにより、C6位に導入されているといえる。
また、引用発明6において、C6位以外のC2位、C3位の置換基の構造は明記はないが、C6位の水酸基が選択的にカルボキシル基となっていると記載されているうえに、上記のように、引用発明6のセルロース繊維は、本願発明のセルロース繊維とほぼ同一の方法で製造されているのであるから、C2位あるいはC3位の置換基も水酸基のまま残存している等、本願発明と同様の構造を有しているといえる。
よって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

イ.相違点2について
カルボキシル基にイオン結合するアミン化合物について本願明細書には、その具体的態様として【0161】の【表2】の「有機塩基種類」の行に示される化合物を使ったことが示されており、実施例9では、トリエチルアミンを実施例12、13では、JEFFAMINE M-1000あるいはM-2070をそれぞれ用いたことが示されている。
一方刊行物6には、摘記(6e)に、用いるトリアミンとして、トリメチルアミン、トリエチルアミンが挙げられ、摘記(6f)には、ポリエーテルアミンの具体例としてJEFFAMINE M シリーズ(HUNTSMAN社製)を用いることが好ましい旨が記載され、その具体的実施態様として、摘記(6h)の段落【0094】及び【0095】には、上記ア.にて述べたとおり、本願発明と同様の置換構造を有しているといえるセルロース繊維である、セルロース繊維A2のカルボキシル基を、トリエチルアミン、あるいは、本願明細書の実施例13で用いられたものと同じHUNTSNAN社製のJEFFAMINE M-2070(ポリエーテルアミン)によって中和することにより、セルロースナノファイバーが分散した溶液、あるいはセルロースナノファイバーゲルを得たことが記載されている。
したがって、本願発明と、引用発明6とは、具体的に用いるトリアミンあるいはポリエーテルアミンが同一であるから、相違点2は、実質的な相違点ではない。

ウ.相違点3について
引用発明6は、熱可塑性樹脂と混合するためのセルロースナノファイバーに係る発明であるところ、刊行物6には、セルロースナノファイバーの樹脂への分散性が課題となっていることは明示的に記載されていないものの、刊行物7?9にはそれぞれ、
刊行物7には、微細セルロース繊維は本来親水性が高く、極性の異なる有機溶媒や樹脂中での分散安定性に乏しく、プラスチック材料との複合に適用し難いものであったこと、
刊行物8には、セルロースナノファイバーの表面には水酸基が多く存在するため、疎水性の高い樹脂に対して混合すると、樹脂成分中で凝集が生じてしまい、補強効果が低減してしまうという課題があったこと、
刊行物9には、セルロース繊維は、成形材料用樹脂中での分散性が低いため、セルロース繊維と成形材料樹脂との界面で接着強度が落ちる結果、セルロース繊維の補強効果が発現せず、逆に曲げ強度等の機械的強度が低下すること、
が記載されている。
これらの記載からすると、従来から、セルロース微細繊維は、水酸基の存在に起因する親水性の高さ等の要因により、樹脂に対する分散性に課題を有していることが、本願出願日前に当業者に広く知られていたことであったのが明らかであるから、刊行物6に明示的な記載はなくとも、引用発明6にも同様に、樹脂に対するセルロースナノファイバーの分散性を高める課題は、技術常識として存在していたといえる。
ここで、刊行物10の摘記(10c)及び(10d)には、セルロースナノファイバーを構成するセルロースの糖鎖上の水酸基をアセチル基等でアシル化することによって化学修飾セルロースナノファイバーとすると、セルロース分子の水素結合力が抑制される等する結果、樹脂への化学修飾セルロースナノファイバーの分散性が促進され、樹脂に対する化学修飾セルロースナノファイバーの補強効果が向上する旨記載されている。

したがって、引用発明6において、当業者にとって技術常識であるといえる微細セルロース繊維(セルロースナノファイバー)に関する課題である、樹脂への分散性を高めるために、セルロースナノファイバーの糖鎖上に残存している水酸基をアセチル基等でアシル化することは、当業者が容易になし得る技術的事項である。

(4)効果について
本願発明の効果について検討する。
本願発明の効果は、本願明細書の段落【0009】に記載されているように、樹脂に良好に分散し、配合した樹脂へ高い強度、低い熱膨張係数を付与できるというものであるが、上記(3)ウ.において指摘したとおり、刊行物10には、セルロースナノファイバーを構成するセルロースの糖鎖上の水酸基をアシル化することによって、樹脂への化学修飾セルロースナノファーバーの分散性が促進され、樹脂に対する補強効果が向上することが記載されているし、補強効果の例として、摘記(10e)には、ポリエチレン、ポリスチレン等の樹脂にアセチル化したセルロース繊維を含有させることによって、樹脂の引っ張り弾性率や引っ張り強度が向上することが具体的に示されているから、樹脂の強度が高くなる効果は当業者が予測可能である。また、摘記(10b)には、植物繊維は低熱膨張係数を有することが記載されているから、そのような繊維の樹脂への分散性が高まれば、樹脂が熱膨張しにくくなることも当業者であれば予測可能な効果であるといえる。

(5)請求人の主張について
請求人は、令和元年8月14日付けの意見書の第5頁において、本願発明は、セルロース微細繊維上に、「一般式(2)ないし(6)」に加え、「一般式(7)ないし(12)」の構造を有することにより、樹脂に良好に分散し、配合した樹脂へ高い強度及び熱膨張係数を向上させることができるという予想外の優れた効果を奏するから、刊行物6及び10に記載の発明並びに刊行物7ないし9に記載の周知技術に対して進歩性を有する旨主張する。
しかしながら、上記(4)において指摘したとおり、セルロースナノファイバー上にアセチル基等によって化学修飾を施したものは、樹脂に良好に分散し、配合した樹脂に高い強度及び低い熱膨張係数を付与することは、刊行物10から当業者が予測し得たものであるから、当該主張は採用することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物6に記載された発明と刊行物7?9に記載された技術常識、及び刊行物10に記載された技術的事項に基いて、本願出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-04 
結審通知日 2019-12-10 
審決日 2019-12-23 
出願番号 特願2018-67649(P2018-67649)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08B)
P 1 8・ 537- WZ (C08B)
P 1 8・ 113- WZ (C08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三木 寛  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 関 美祝
中島 芳人
発明の名称 微細繊維状セルロースおよびその樹脂組成物  

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